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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087242
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】乳アレルゲン活性低減用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
C09K3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201943
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 聡美
(57)【要約】
【課題】乳アレルゲンの活性を低減する組成物の提供。
【解決手段】ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む、乳アレルゲン活性低減用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む、乳アレルゲン活性低減用組成物。
【請求項2】
ヨウ化ポリビニルピロリドンを0.01質量%以上含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記乳アレルゲンが、カゼインである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記乳アレルゲンが、環境中の乳アレルゲンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乳アレルゲン活性低減用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎など多くのアレルギー疾患が問題となってきている。アレルギー疾患は、例えばアレルゲンを含有する食物を摂取することで生じるもの(食物アレルギー)の他、環境中(例えば大気中や住居)に存在するアレルゲンによって引き起こされる場合もある。より具体的には、例えば、大気中に存在するアレルゲンを吸入したり、あるいは住居空間に存在する物体(ドアや壁など)に存在するアレルゲンに触れるなどして、生じる場合もある。このため、環境中のアレルゲンの除去や活性低減化も重要であると考えられている。これまでに、環境中のアレルゲン活性を低減するために、例えば、ダニアレルゲンや花粉アレルゲンに対してその活性を低減する作用を有する製剤が開発されてきた(特許文献1~5)。しかしながら、食物アレルゲンについては、そもそも環境中に存在するという認識が薄く、特に食物アレルゲンの1つである乳アレルゲンの活性を低減する作用を有する成分についてはほとんど報告がなかった。このため、乳アレルゲン(特に環境中に存在する乳アレルゲン)の活性を低減する方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6533853号公報
【特許文献2】特許第5574409号公報
【特許文献3】特許第4157692号公報
【特許文献4】国際公開第2009/044648号
【特許文献5】特許第6721040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、乳アレルゲン(特に環境中に存在する乳アレルゲン)の活性を低減する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ヨウ化ポリビニルピロリドンが乳アレルゲンの活性を低減し得ることを見出し、さらに改良を重ねた。
【0006】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む、乳アレルゲン活性低減用組成物。
項2.
ヨウ化ポリビニルピロリドンを0.01質量%以上含有する、項1に記載の組成物。
項3.
前記乳アレルゲンが、カゼインである、項1又は2に記載の組成物。
項4.
前記乳アレルゲンが、環境中の乳アレルゲンである、項1又は2に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
乳アレルゲンの活性を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0009】
本開示に包含される組成物は、ヨウ化ポリビニルピロリドンを含む。本明細書において、当該組成物を「本開示の組成物」と表記することがある。
【0010】
ヨウ化ポリビニルピロリドン(povidone iodine;PVP-I)とは、1-ビニル-2-ピロリドンの重合物(ポリビニルピロリドン)とヨウ素の複合体であり、ポビドンヨードとも称される。ヨウ化ポリビニルピロリドンは、うがい薬や手指の殺菌、傷の消毒薬などに広く使われている代表的な消毒剤であり、よって安全性にも優れている。
【0011】
本開示の組成物に含まれるヨウ化ポリビニルピロリドンの含有量は、乳アレルゲンの活性を低減し得る限り特に限定されない。例えば、0.01質量%以上とすることができる。当該範囲の上限若しくは下限は、例えば、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、0.05、0.055、0.06、0.065、0.07、0.075、0.08、0.085、0.09、0.095、0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1質量%程度であってもよい。より具体的には、例えば、0.01~1質量%程度であってもよく、0.02~0.5質量%であることが好ましい。
【0012】
本開示の組成物は、後述する実施例に示すとおり、乳アレルゲンの活性を低減することができる。乳アレルゲンとしては、例えば、カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、血清アルブミン等が挙げられ、中でもカゼインが好ましい。本開示の乳アレルゲンは前記のいずれをも好ましく包含する。対象とする乳アレルゲンは、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0013】
また、近年、乳アレルゲンは、環境中に存在していることが報告されている。このため、本開示の組成物は、環境中の乳アレルゲンの活性低減用として好適に用いることができる。
【0014】
本開示の組成物は、ヨウ化ポリビニルピロリドンを含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、例えば、溶剤、担体、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤、防腐剤、除菌剤、コーティング剤、着色料、香料、pH調整剤、その他の抗アレルゲン成分等が例示される。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
溶剤としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール、n-ヘキサノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール200、ポリオキシエチレングリコール400、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル類等が挙げられる。中でも、水、又はアルコール類が好ましい。これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本開示の組成物は、ヨウ化ポリビニルピロリドンと、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0017】
本開示の組成物の形状は、特に限定されない。例えば、液体状(例えば、溶液状、懸濁液状等)、ペースト状、ゲル状、クリーム状又は固体状(例えば、粉末状、顆粒状等)等であってもよい。中でも、液体状であることが好ましい。
【0018】
近年、乳アレルゲンは、環境中に存在していることが報告されている。そのため、本開示の組成物は、例えば、乳アレルゲンが存在し得る対象物に、噴霧、塗布、浸漬等により付着させて使用することができる。
【0019】
乳アレルゲンが存在し得る対象物としては、特に限定されないが、例えば、衣料品、カーペット、ソファー、壁紙、カーテン等のインテリア類、布団側地、布団カバー、布団中綿、シーツ、枕カバー、マット等の寝具類、カーシート、カーマット、天井材及び床材等の自動車部品類、ぬいぐるみ、掃除用ウェットワイパー、マスク、フィルター材料、電気掃除機の集塵袋等の繊維や繊維製品等が挙げられる。
【0020】
また、本開示の組成物は、洗濯時に使用する洗剤や柔軟仕上げ剤等に添加することもできる。
【0021】
本開示の組成物による乳アレルゲン(より具体的には、環境中の乳アレルゲン)の活性低減効果は、後述する実施例に記載の評価方法(より具体的には、乳アレルゲンと、アレルギー患者血液より回収された乳アレルゲンに反応する血清中の抗乳アレルゲンIgE抗体とを反応させる方法)により、初めて確認されたものである。
【0022】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0023】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、数値、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0024】
本開示の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温(20~30℃程度)条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。また、各表に記載される各成分の配合量値も特に断らない限り「質量%」を示す。
【0025】
競合ELISA法により、乳アレルゲン不活化(活性低減)率を測定した。乳アレルゲン(カゼイン)を0.5μg/mLになるように調製し、ELISAプレートに添加し、一晩4℃で静置し固相化した(カゼイン固相プレート)。カゼインと薬剤を9:1でアレルゲン濃度(初期アレルゲン濃度)20μg/mL又は100μg/mLに調製し、一晩4℃で反応した(アレルゲン反応液)。薬剤の代わりに精製水を用いたものをコントロールとした。得られたアレルゲン反応液と、アレルギー患者血液より回収されたカゼインに反応する血清中の抗カゼイン IgE抗体とをカゼイン固相プレートに添加し、競合反応を行った。プレート上に固相化されたカゼインと結合した血清中の抗カゼイン IgE抗体と、酵素標識抗IgE抗体とを結合させ、基質の発光を検出した。
【0026】
血清中の抗カゼイン IgE抗体は、不活化されたカゼインとは結合しないことから、プレート上に固相化されたカゼインと結合する血清中の抗体が多い(発光強度が強い)ほど、不活化効果が高いと判断した。
【0027】
薬剤としては、ヨウ化ポリビニルピロリドン(PVP-I)0.02%水溶液、PVP-I 0.1%水溶液、PVP-I 0.5%水溶液、100%エタノール(EtOH)、及びタンニン酸 0.01%水溶液を用いた。なお、タンニン酸の配合量が多くなると薬剤の褐変が生じることから、タンニン酸の濃度としては褐変の生じない0.01%を選択した。
【0028】
コントロールの50%の蛍光強度を示すカゼインの濃度を50% inhibition濃度(IC50)とし、薬剤のIC50からIgE結合相対力価とアレルゲン不活化率を以下の式を用いて算出した。
【0029】
Inhibition(%)=(コントロール蛍光強度-薬剤蛍光強度)/(コントロール蛍光強度-ブランク蛍光強度)×100
IgE結合相対力価=コントロールIC50/薬剤IC50
不活化率(%)=(1-IgE結合相対力価)×100
結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
薬剤としてPVP-I 0.1%水溶液及びPVP-I 0.5%水溶液を用いた場合、初期アレルゲン濃度20μg/mLではIC50が算出されなかった。このため、表1中*を付したPVP-I 0.1%水溶液及びPVP-I 0.5%水溶液については、初期アレルゲン濃度を100μg/mLとして上記試験を行った。その他の薬剤については、初期アレルゲン濃度を20μg/mLとして上記試験を行った。▲はマイナスの値を示す。
【0032】
表1に示すように、ヨウ化ポリビニルピロリドンはカゼインに対して高い活性低減効果を有することが確認された。一方、ダニやスギ花粉等に対するアレルゲン活性低減作用が知られているタンニン酸は、カゼインに対する活性低減効果が確認されなかった。また、牛乳を凝集(変性)させる作用を有することが知られるエタノールも、カゼインに対する活性低減効果が確認されなかった。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
【表1】