(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008726
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】液化ガス容器の製造方法、及び液化ガス容器
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20240112BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16J12/00 B
F17C1/06
F16J12/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110834
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】518128883
【氏名又は名称】株式会社SPACE WALKER
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米本 浩一
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA06
3E172AB12
3E172BA01
3E172BB05
3E172BC03
3E172CA13
3E172CA14
3E172DA04
3E172DA36
3E172EA03
3E172EA43
3E172EB03
3E172EB13
3E172JA10
3J046AA01
3J046AA14
3J046BA02
3J046BA05
3J046CA04
3J046EA02
3J046EA03
(57)【要約】
【課題】軽量、かつ断熱性に優れ、強い酸化性を有する液体を貯蔵するに好適な液化ガス容器を得る。
【解決手段】液化ガス容器の製造方法は、繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる熱可塑性プリプレグ52を内側容器形成用マンドレル50の外面に貼り付けて内側容器14を形成する内側容器形成工程と、熱可塑性プリプレグ52を外側容器形成用マンドレル70の外面に貼り付けて、内側容器14よりも大きな外側容器12を構成するための筒部12A、及び一対の鏡部12Bを形成する外側容器構成片形成工程と、筒部12A、及び一対の鏡部12Bを内側容器14の外側に配置して筒部12Aと鏡部12Bとを連結すると共に、内側容器14と鏡部12Bとをボス16で連結し、内側容器14の外側に外側容器12を形成する外側容器形成工程と、内側容器14と外側容器12との間の空間を真空にする真空工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる中間部材を内側容器形成用マンドレルの外面に貼り付けて内側容器を形成する内側容器形成工程と、
前記中間部材を外側容器形成用マンドレルの外面に貼り付けて、前記内側容器よりも大きな外側容器を構成するための複数の外側容器構成片を形成する外側容器構成片形成工程と、
複数の前記外側容器構成片を前記内側容器の外側に配置して前記外側容器構成片同士を連結すると共に、前記内側容器と何れかの前記外側容器構成片とをボスで連結し、前記内側容器の外側に前記外側容器を形成する外側容器形成工程と、
前記内側容器と前記外側容器との間の空間を真空にする真空工程と、
を有する、
液化ガス容器の製造方法。
【請求項2】
前記内側容器形成工程では、内側容器形成用マンドレルの外面に、前記熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の前記中間部材を巻き付けて前記中間部材が積層された内側容器構成片を形成し、
前記外側容器構成片形成工程では、外側容器形成用マンドレルの外面に、前記熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の前記中間部材を巻き付けて前記中間部材が積層された前記外側容器構成片を形成する、
請求項1に記載の液化ガス容器の製造方法。
【請求項3】
前記内側容器形成工程では、複数のピースからなる分解型マンドレルの外面に、前記熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の前記中間部材を巻き付け、前記熱可塑性樹脂が固化した後に前記分解型マンドレルを分解して、前記巻き付けた前記中間部材の内部から前記ピースを取り出して前記内側容器を形成する、
請求項1に記載の液化ガス容器の製造方法。
【請求項4】
前記内側容器形成工程は、複数層に積層される前記中間部材の厚み方向中間部にガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程を含んでいる、
請求項2または請求項3に記載の液化ガス容器の製造方法。
【請求項5】
繊維強化熱可塑性樹脂製の外側容器と、
前記外側容器の内部に配置され、ガスバリア性を有した繊維強化熱可塑性樹脂で形成され、液化ガスを貯蔵する内側容器と、
前記内側容器と前記外側容器とを連結し、前記内側容器に前記液化ガスを出入りさせる口部が形成されたボスと、
を備え、
前記外側容器と前記内側容器との間が真空断熱空間とされている、
液化ガス容器。
【請求項6】
前記内側容器は、前記繊維強化熱可塑性樹脂の内部にガスバリア層が挟まれている、
請求項5に記載の液化ガス容器。
【請求項7】
前記ボスは、前記真空断熱空間に繋がる吸引口を備えている、
請求項5または請求項6に記載の液化ガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス容器の製造方法、及び液化ガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを貯蔵するガス容器が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のガス容器は、繊維強化樹脂で形成された容器本体を備え、容器本体の内面がガスバリア層を備えた樹脂被膜で覆われており、金属製の容器に比較して軽量化が図られている。
このような構造のガス容器では、断熱性が考慮されていないため、低温の液化ガスを貯蔵するには向いていない。
また、強い酸化性を有する液化ガス、例えば液化酸素を貯留する場合、衝撃による着火を抑制する必要がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、軽量、かつ断熱性に優れ、強い酸化性を有する液化ガスを貯蔵するのに好適な液化ガス容器を製造するための液化ガス容器の製造方法、及び液化ガス容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の液化ガス容器の製造方法は、繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる中間部材を内側容器形成用マンドレルの外面に貼り付けて内側容器を形成する内側容器形成工程と、前記中間部材を外側容器形成用マンドレルの外面に貼り付けて、前記内側容器よりも大きな外側容器を構成するための複数の外側容器構成片を形成する外側容器構成片形成工程と、複数の前記外側容器構成片を前記内側容器の外側に配置して前記外側容器構成片同士を連結すると共に、前記内側容器と何れかの前記外側容器構成片とをボスで連結し、前記内側容器の外側に前記外側容器を形成する外側容器形成工程と、前記内側容器と前記外側容器との間の空間を真空にする真空工程と、を有する。
【0007】
請求項1に記載の液化ガス容器の製造方法では、内側容器形成工程において、繊維で強化された熱可塑性樹脂を有する中間部材を内側容器形成用マンドレルの外面に貼り付けて内側容器が形成される。
外側容器構成片形成工程では、繊維で強化された熱可塑性樹脂を有する中間部材を外側容器形成用マンドレルの外面に貼り付けられ、内側容器よりも大きな外側容器を構成するための複数の外側容器構成片が形成される。
外側容器形成工程では、複数の外側容器構成片を内側容器の外側に配置して外側容器構成片同士が連結されると共に、内側容器と何れかの外側容器構成片とがボスで連結され、内側容器の外側に前記外側容器が形成される。
真空工程では、内側容器と外側容器との間の空間が真空にされる。これにより、内側容器と外側容器との間の空間を真空断熱空間とすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液化ガス容器の製造方法において、前記内側容器形成工程では、内側容器形成用マンドレルの外面に、前記熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の前記中間部材を巻き付けて前記中間部材が積層された内側容器構成片を形成し、前記外側容器構成片形成工程では、外側容器形成用マンドレルの外面に、前記熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の前記中間部材を巻き付けて前記中間部材が積層された前記外側容器構成片を形成している。
【0009】
請求項2に記載の液化ガス容器の製造方法では、内側容器形成工程において、内側容器形成用マンドレルの外面に、熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の中間部材が巻き付けられて中間部材が積層された内側容器構成片が形成される。
外側容器構成片形成工程では、外側容器形成用マンドレルの外面に、熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の中間部材が巻き付けられて中間部材が積層された外側容器構成片が形成される。熱可塑性樹脂を溶融した中間部材を巻き付けることで、先に巻き付けた中間部材の上に後から巻き付けた中間部材を溶着することができ、接着剤を用いずに中間部材同士を接合することができる。
【0010】
請求項3に記載の液化ガス容器の製造方法は、請求項1に記載の液化ガス容器の製造方法において、前記内側容器形成工程では、複数のピースからなる分解型マンドレルの外面に、前記熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の前記中間部材を巻き付け、前記熱可塑性樹脂が固化した後に前記分解型マンドレルを分解して、前記巻き付けた前記中間部材の内部から前記ピースを取り出して前記内側容器を形成する。
【0011】
請求項3に記載の液化ガス容器の製造方法では、内側容器形成工程において、分解型マンドレルの外面に熱可塑性樹脂を溶融したテープ状の中間部材が巻き付けられて中間部材が積層される。そして、熱可塑性樹脂が固化した後に分解型マンドレルを分解して、巻き付けた中間部材の内部からピースを取り出すことで、繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる内側容器が得られる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の液化ガス容器の製造方法において、前記内側容器形成工程は、複数層に積層される前記中間部材の厚み方向中間部にガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程を含んでいる。
【0013】
請求項4に記載の液化ガス容器の製造方法では、内側容器形成工程に、複数層に積層される中間部材の厚み方向中間部にガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程を含んでいるため、内部にガスバリア層が挟まれた繊維強化熱可塑性樹脂の層を形成することができる。ガスバリア層は、液化ガスが気化したガスの透過を抑制し、真空断熱空間にガスが進入して真空断熱空間の真空度が低下することを抑制できる。また、液化ガスがガスバリア層に直接的に接触しないので、液化ガスとの接触によるガスバリア層の劣化や損傷を抑制することができる。
【0014】
請求項5に記載の液化ガス容器は、繊維強化熱可塑性樹脂製の外側容器と、前記外側容器の内部に配置され、ガスバリア性を有した繊維強化熱可塑性樹脂で形成され、液化ガスを貯蔵する内側容器と、前記内側容器と前記外側容器とを連結し、前記内側容器に前記液化ガスを出入りさせる口部が形成されたボスと、を備え、前記外側容器と前記内側容器との間が真空断熱空間とされている。
【0015】
請求項5に記載の液化ガス容器では、内側容器に液化ガスを貯蔵することができる。内側容器に設けられたボスの口部を介して液化ガスを内側容器内に入れることができ、また、内側容器に入れた液化ガスは口部を介して取り出すことができる。
【0016】
内側容器と外側容器との間には、真空断熱空間が設けられているので、外側容器から内側容器に熱が伝わり難く、低温の液化ガスを貯蔵するのに好適な構造となっている。
また、内側容器と外側容器は、共に繊維強化熱可塑性樹脂で形成されており、内側容器と外側容器との間に断熱材等を設けていないので、内側容器と外側容器を金属で形成し、内側容器と外側容器との間に断熱材を設けた場合に比較して液化ガス容器を軽量化できる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の液化ガス容器において、前記内側容器は、前記繊維強化熱可塑性樹脂の内部にガスバリア層が挟まれている。
【0018】
請求項6に記載の液化ガス容器では、繊維強化熱可塑性樹脂の内部に挟まれたガスバリア層で、液化ガスが気化したガスの透過を抑制し、真空断熱空間にガスが進入して真空断熱空間の真空度が低下することを抑制できる。
また、液化ガスがガスバリア層に直接的に接触しないので、液化ガスとの接触によるガスバリア層の劣化や損傷を抑制することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の液化ガス容器において、前記ボスは、前記真空断熱空間に繋がる吸引口を備えている。
【0020】
請求項7に記載の液化ガス容器では、吸引口に、配管等を介して真空ポンプを接続し、内側容器と外側容器との間の空間に介在する空気を吸引し、内側容器と外側容器との間の空間を真空断熱空間とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明の液化ガス容器の製造方法によれば、軽量、かつ断熱性に優れ、強い酸化性を有する液化ガスを貯蔵するに好適な液化ガス容器を効率的に製造することができる、という優れた効果を有する。
【0022】
また、本発明の液化ガス容器は、軽量、かつ断熱性に優れており、強い酸化性を有する液化ガスを貯蔵するのに好適に使用することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(A)は本発明の第1実施形態に係る液化ガス容器を示す一部を断面にした側面図であり、(B)はバリア層が挟まれたCFRP層を示す断面図である。
【
図3】(A)はボスを示す正面図であり、(B)はボスを示す断面図(
図3(A)のB-B線断面図)である。
【
図4】(A)~(C)は、内側容器の鏡部、及び筒部を形成する工程を示す説明図である。
【
図5】(A)、(B)は、内側容器の鏡部と筒部とを接合する工程を示す説明図である。
【
図6】(A)~(C)は、外側容器の鏡部、及び筒部を形成する工程を示す説明図である。
【
図7】(A)~(C)は、内側容器の外側に外側容器を形成する工程を示す説明図である。
【
図8】外側容器の鏡部と筒部とを接合する工程を示す説明図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る液化ガス容器を示す軸線に沿った断面図である。
【
図10】第2実施形態に係る液化ガス容器の内側容器を示す断面図である。
【
図11】第2実施形態に係る液化ガス容器の内側ボスを示す断面図である。
【
図12】(A)は第2実施形態に係る液化ガス容器の外側ボスと蓋を示す断面図(
図12(B)の12A-12A線断面図であり、(B)は、
図12(A)に示す外側ボスを示す正面図である。
【
図13】(A),(B)は、内側容器を形成する工程を示す説明図である。
【
図14】(A),(B)は、
図13(B)に続く内側容器を形成する工程を示す説明図である。
【
図15】(A)~(D)は、外側容器の鏡部、及び筒部を形成する工程を示す説明図である。
【
図16】外側ボスとサポートリングが取り付けられた内側容器を示す断面図である。
【
図17】内側容器の一方側に外側容器を構成する鏡部を取り付ける様子を示す断面図である。
【
図18】内側容器の中央に外側容器を構成する筒部を取り付ける様子を示す断面図である。
【
図19】内側容器の他方側に外側容器を構成する鏡部を取り付ける様子を示す断面図である。
【
図20】他の実施形態に係る液化ガス容器の製造工程の要部を示す説明図である。
【
図21】他の実施形態係る液化ガス容器を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
図1~
図8を用いて、本発明の第1実施形態に係る液化ガス容器10、及びその製造法について説明する。
〔液化ガス容器の全体構成〕
図1(A)に示すように、本実施形態の液化ガス容器10は、繊維強化熱可塑性樹脂製の外側容器12と、外側容器12の内部に配置され、液化ガスを貯蔵可能とする繊維強化熱可塑性樹脂製の内側容器14と、内側容器14に設けられ液化ガスの出し入れを行う一対のボス16と、内側容器14を外側容器12に対して浮かせて支持するサポートリング18等を含んで構成されており、内側容器14と外側容器12との間に真空断熱空間20が形成されている。
【0025】
(内側容器)
図1(A)、及び
図4(B)、(C)に示すように、本実施形態の内側容器14は、一定径に形成された内側容器構成片の一例としての筒部14Aの両端部に、同じく内側容器構成片の一例としての半球殻状の鏡部14Bが一体的に形成されている。各々の鏡部14Bの中央にはボス16が設けられている。
【0026】
本実施形態の内側容器14は、一例として、CFRP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)で形成されており、
図1(B)に示すように、内側容器14のCFRP層22には厚み方向の中間部にガスバリア層24が挟まれている。
【0027】
本実施形態のCFRP層22は、一例として、テープ状の熱可塑性プリプレグを用いて形成することができる。なお、ガスバリア層24が埋設されたCFRP層22の形成方法は後述する。
【0028】
<ガスバリア層>
本実施形態のガスバリア層24は、主体が粘土層からなり、その基本構成は、厚さ約1nm、粒子径約1μm、アスペクト比約300程度の天然又は合成の膨潤性粘土の結晶、あるいは膨潤性粘土を有機化処理した有機化粘土の結晶が約70質量%以上と、分子の大きさ数nm以下の天然又は合成の低分子・高分子の有機添加物が約30質量%以下の構成からなる。ここで有機化処理とは、シリル化処理あるいは有機イオン交換処理を意味し、本実施形態においては、かくして得られたものも粘土鉱物に含むものとする。
【0029】
この粘土層は、層状結晶を、同じ向きに配向させて重ねて緻密に積層することで作製される。得られた粘土層は、粘土層の膜厚が3~100μmであり、ガスバリア性能は、粘土層の厚さ30μmで酸素透過度0.1cc/m2・24hr・atm未満、水素透過度0.1cc/m2・24hr・atm未満であり、面積は100×40cm以上に大面積化することが可能であり、粘土層に対して、垂直方向の直流電気抵抗は1メガΩ以上である。
【0030】
粘土としては、天然、あるいは合成物、好ましくは、天然スメクタイト及び合成スメクタイトの何れか、あるいは有機化粘土又はそれらの混合物を用い、これを、溶媒に加え、希薄で均一な分散液を調製する。粘土として、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトからなる群のうちの一種以上を用いることができる。粘土分散液の濃度は、好適には0.5~15質量%、より好ましくは、1~10質量%である。
【0031】
次に、固体状又は液体状の有機添加物を、粘土分散液に加え、均一な分散液を調製する。有機添加物としては、粘着粘土膜のフレキシビリティー、あるいは機械的強度を向上させる、粘土と均一に混合するものであれば、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、グリセリン等の低分子化合物、デキストリン、澱粉、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン等の天然物、後述のマトリックス樹脂として用いられる熱硬化性や熱可塑性樹脂を用いることができる。特に、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、シリコン樹脂が好ましい。有機添加物の添加の割合は、粘土鉱物に対して3~30質量%、好ましくは4~20質量%である。粘土分散液と有機添加物を混合する順序は、溶剤に粘土を加えた後に有機添加物を加えることも可能であり、その逆も可能である。また、粘土分散液と有機添加物溶液を別々に作製しておき、両者を混合することも可能である。
【0032】
粘土層の作製方法としては、例えば、分散液である液体を基材(本実施形態ではCFRP層22)の上でゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する。乾燥は、例えば、強制送風式オーブン中で、好ましくは30~50℃の温度条件下で、10分間~半日間程度、好ましくは10分間~5時間、乾燥して粘土層が得られる。
【0033】
(外側容器)
図1(A)に示すように、外側容器12は、内側容器14の外側に間隔を空けて配置されている。外側容器12は、内側容器14と同様に、一定径に形成された外側容器構成片の一例としての筒部12Aの両端部に、同じく外側容器構成片としての鏡部12Bが一体的に形成されている。外側容器12は、一例として、内側容器14と同様のCFRPで形成されているが外側容器12のCFRP層26にはガスバリア層24は設けられていない。
【0034】
(サポートリング)
本実施形態の液化ガス容器10では、外側容器12と内側容器14との間に、外側容器12の中に内側容器14を浮かせて支持するためのサポートリング18が設けられている。
【0035】
図2に示すように、サポートリング18は、円弧状に形成された複数のリング片18Aを円環状に繋げることで形成されている。各リング片18Aには、リング片18Aの軸方向に沿って貫通する孔18Bが形成されている。サポートリング18は、例えば、合成樹脂等の金属よりも熱伝導率が低い材料で形成されている。
【0036】
(ボス)
図1(A)に示すように、ボス16は、内側容器14の長手方向両端側に設けられている。なお、図面右側のボス16と図面左側のボス16とは同一構成である。
【0037】
図3(A),(B)に示すように、本実施形態のボス16は、内側ボス部材30と外側ボス部材32とを含んで構成されている。内側ボス部材30、及び外側ボス部材32は、金属材料、一例としてアルミニウム、またはアルミニウ合金で形成されているが、金属材料以外の材料、一例として合成樹脂(炭素繊維強化熱可塑性樹脂等)で形成することもできる。
【0038】
内側ボス部材30は、一定外径の軸部30Aを備え、軸部30Aの内側容器側の端部には、内側容器14の鏡部14Bの内面形状に沿って湾曲した外フランジ30Bが一体的に形成されている。
図4(B)に示すように、外フランジ30Bは、CFRP層22に埋設されている。
【0039】
図3(A),(B)に示すように、内側ボス部材30の軸心部には、内側ボス部材30を軸方向に貫通する流路34が形成されている。内側ボス部材30の軸部30Aには、外フランジ30Bとは反対側の端面に、ネジ孔36が4箇所形成されている。
【0040】
外側ボス部材32は、内側ボス部材30の軸部30Aと同一径の軸部32Aを備えており、軸部32Aの軸方向中間部には、外側容器12の鏡部12Bの内面形状に沿って湾曲した外フランジ32Bが一体的に形成されている。
図1(A)に示すように、軸部32Aは、一部が外側容器12の外側に突出しており、外フランジ32Bは、外側容器12のCFRP層26に埋設されている。
【0041】
図3(A),(B)に示すように、外側ボス部材32の軸心部には、外側ボス部材32を軸方向に貫通し、内側ボス部材30の流路34と接続される流路38が形成されている。
流路38の端部には、雌螺子38Aが形成されている。この雌螺子38Aには、内側容器14に対して流体を出し入れするための配管39に取り付けられた継手41が接続される。
【0042】
外側ボス部材32の軸部32Aには、軸方向に貫通するボルト挿入孔40と、外側容器12と内側容器14との間の空間内の空気を吸引して排気するために使用する空気吸引口42が形成されている。空気吸引口42は、本発明の吸引口の一例である。
【0043】
ボルト挿入孔40は、内側ボス部材30のネジ孔36と対向した位置に設けられており、ボルト挿入孔40から挿入したボルト44の螺子部44Aを内側ボス部材30のネジ孔36に捩じ込むことで外側ボス部材32を内側ボス部材30に固定し、外側ボス部材32と内側ボス部材30とを一体化することができる。
【0044】
空気吸引口42は、L字形状とされ、一端が外側ボス部材32の軸部32Aの端面に開口し、他端が、外フランジ32Bよりも内側ボス部材30側の軸部32Aの外周面に開口している。空気吸引口42には、外側ボス部材32の軸部32Aの端面側に雌螺子42Aが形成されている。
この雌螺子42Aには、継手46が取り付けられている。継手46は、真空ポンプ(図示せず)に接続された空気吸引用配管48が着脱可能とされており、内部には逆止弁(図示せず)が内蔵されている。逆止弁は、内側容器14と外側容器12との間の空間内の空気を容器外へ吸引する際には開状態となり、容器外から該空間内へ進入しようとする空気の流れは阻止するようになっている。なお、継手46には、逆止弁に代えて、開閉弁を設けてもよい。
【0045】
〔液化ガス容器の製造方法〕
本実施形態の内側容器14のCFRP層22、及び外側容器12のCFRP層26を形成するための熱可塑性プリプレグ52、及び液化ガス容器10の製造工程を以下に説明する。
(熱可塑性プリプレグ)
本実施形態で用いる熱可塑性プリプレグ52は、以下に説明する炭素繊維、及び熱可塑性樹脂を含んで構成されている。
<炭素繊維>
本実施形態で用いる炭素繊維は、引張弾性率が700GPa以上であり、750GPa以上であることが好ましい。引張弾性率がこの範囲にあると、液体酸素存在下における衝撃による着火確率が十分に低い。一方、引張弾性率の上限は特に制限されないが、形成性の点から、1200GPa以下であることが好ましく、1000GPa以下であることがより好ましく、900GPa以下であることがさらに好ましい。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R 7606(ISO 11566:1996)の測定法により測定した値をいう。
【0046】
このような炭素繊維は、ASTM(米国材料試験協会)の試験法規格「D2512‐95」に準拠したABMA型衝撃試験装置を用いた衝撃試験(液体酸素適合性試験)において、20回試験を行った場合の着火回数が2回以下のものが好ましく、1回以下のものがより好ましく、0回のものが特に好ましい。
【0047】
炭素繊維の種類としては、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、ピッチ系、レーヨン系等いずれの種類のものであってもよいが、引張弾性率が高い傾向にあることから、ピッチ系炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維は、出発原料の違いによって炭素の結晶構造に差が生じ、ピッチ系は、PAN系よりも繊維軸方向に黒鉛結晶が高度に配向した黒鉛質繊維を得られるのが特徴である。例えば、メソフェーズピッチを出発原料とした場合、900GPaを超える超高弾性炭素繊維が得られる。
【0048】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂は、難燃性樹脂であり、液体酸素の存在下で衝撃による着火確率が低い樹脂である。具体的には、ASTM(米国材料試験協会)の試験法規格「D2512‐95」に準拠したABMA型衝撃試験装置による衝撃試験において、20回試験を行った場合の着火回数が2回以下の樹脂であり、1回以下の樹脂が好ましく、0回の樹脂が特に好ましい。
【0049】
また、本実施形態では、難燃性の熱可塑性樹脂として、熱硬化性樹脂よりも着火性が低い熱可塑性樹脂が用いられている。難燃性の熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素系樹脂を挙げることができる。フッ素系樹脂としては、具体的に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを挙げることができる。これらの樹脂の中でも、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が好ましく、炭素繊維との複合化適性の点から、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。
【0050】
難燃性の熱可塑性樹脂としては、特にポリカーボネートが好ましい。即ち、本実施形態で用いる熱可塑性プリプレグ52としては、引張弾性率が700Gpa以上である炭素繊維と、ポリカーボネートとを含むことが特に好ましい。
【0051】
ポリカーボネートは、炭素繊維と組み合わせてプリプレグ、セミプレグ等の中間基材を形成することが容易であり、CFRP層22の形成も容易である。即ち、曲面の形成や、複雑な形状の形成を容易に行うことができる。
【0052】
また、ポリカーボネートは、-200℃程度の極低温における破断歪が大きく、これを複合化したCFRPは、極低温に起因したマトリックスクラックが発生しにくい。
【0053】
さらに、ポリカーボネートは、一例として、ボス16に使用されるアルミ合金との-200℃程度の極低温における接着性が良好であるため、この点からも、ポリカーボネートを複合化したCFRPは、液体酸素タンク等の低温の液体を貯留する容器の材料として好適である。
【0054】
(内側容器の形成)
次に、内側容器14の製造工程を説明する。
図4(A)には、内側容器14のCFRP層22を形成するための内側容器形成用マンドレル50、及び内側ボス部材30が示されている。
内側容器形成用マンドレル50は、軸方向中央部が一定径に形成された一定径部50Aとされ、両端部が略半球形状に形成されたドーム部50Bとされている。本実施形態の内側容器形成用マンドレル50は、金属材料等で形成されている。
CFRP層22を形成するにあたっては、内側容器形成用マンドレル50のドーム部50Bに、内側ボス部材30を接着力の弱い接着剤等を用いて仮止めする。
【0055】
次に、
図4(B)に示すように、ドーム部50B、及び内側ボス部材30の外フランジ30Bを覆うように、テープ状に形成された中間部材の一例としての熱可塑性プリプレグ52は貼付装置54を用いて巻回し、予め設定した厚みのCFRP層22を形成する。
【0056】
貼付装置54は、ロボット56を備えており、ロボットアーム56Aの先端には、熱可塑性プリプレグ52を巻回したリール58、リール58から引き出された熱可塑性プリプレグ52を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させるヒータ60、ヒータ60で加熱された熱可塑性プリプレグ52を押し付ける押し付け用ローラ62等が取り付けられている。
【0057】
本実施形態では、ガスバリア層24が埋設されたCFRP層22を形成するために、先ず、熱可塑性プリプレグ52を巻回して内側容器形成用マンドレル50のドーム部50Bの外周面、及び内側ボス部材30の外フランジ30B全体を熱可塑性プリプレグ52で覆う。なお、熱可塑性プリプレグ52は、所定の厚みになるように積層されている。そして、所定の厚みとされた熱可塑性プリプレグ52の層の上にガスバリア層24を形成し、その後、ガスバリア層24の外表面を覆うようにさらに熱可塑性プリプレグ52を巻回することで鏡部14Bが形成されている。
【0058】
液化ガス容器10に繋がる配管は金属製であるため、液化ガス容器10と配管の結合部には金属製のボス16が取り付けられる。ボス16を構成する金属材料は、CFRP層22よりも線膨張係数が高く、また、液化ガス容器10の内側容器14には内圧がかかるため、極低温中ではボス16とCFRP層22間で界面剥離が起きやすい。しかしながら、このボス16とCFRP層22との接着(溶着)にポリカーボネートを好適に用いることができ、これにより界面剥離を有効に防止することができる。また、着火のリスクのある接着剤を用いずに、難燃性のポリカーボネートを用いることにより、酸素着火のリスクを回避することができる。
【0059】
なお、CFRP層22とボス16との接着強度を増すために、ボス16の表面にレーザー加工、サンドブラスト、エッチングなどの公知の粗面化処理を行い、表面に微小な凹凸を形成して表面を粗面化することが好ましい。
【0060】
予め設定した厚みとなるように熱可塑性プリプレグ52を巻回して積層した後、前述した粘土を含んだ分散液を熱可塑性プリプレグ52の層の表面に塗布して乾燥させ、熱可塑性プリプレグ52の層の表面全体にガスバリア層24を形成する。
【0061】
このようにして熱可塑性プリプレグ52の層の表面全体にガスバリア層24を形成した後、ガスバリア層24を覆うようにさらに熱可塑性プリプレグ52を巻回し、所定の厚みの鏡部14Bを形成する。熱可塑性プリプレグ52の熱可塑性樹脂が冷却されて固化した後、鏡部14Bを内側容器形成用マンドレル50から取り外す。
【0062】
次に、
図4(C)に示すように、内側容器形成用マンドレル50の一定径部50Aの外周に、鏡部14Bと同様の工程を経て、筒部14Aを形成する。
【0063】
次に、
図5(A)に示すように、内側容器形成用マンドレル50から取り外した鏡部14Bの端部と、内側容器形成用マンドレル50から取り外した筒部14Aの端部とを、突き合わせ、一方の鏡部14Bの内側ボス部材30の流路34と他方の鏡部14Bの内側ボス部材30の流路34に軸64を挿通する。そして、筒部14Aがずれないように筒部14Aの下部に支持ローラ66を接触させ、一対の鏡部14Bと筒部14Aとを支持する。そして、鏡部14Bの端部と筒部14Aの端部とを突き合わせた突き合わせ部分78の外周に、貼付装置54を用いて、熱可塑性樹脂を溶融した熱可塑性プリプレグ52を巻回し、
図5(B)に示すように、鏡部14Bと筒部14Aとを熱可塑性プリプレグ52で接合する。これにより、内側ボス部材30が一体化した内側容器14が完成する。
【0064】
(外側容器の形成)
次に、外側容器12の製造工程を説明する。
図6(A)には、外側容器12のCFRP層26を形成するための外側容器形成用マンドレル70、及び外側ボス部材32が示されている。
外側容器形成用マンドレル70は、軸方向中央部が一定径に形成された一定径部70Aとされており、両端部が略半球形状に形成されたドーム部70Bとされている。ドーム部70Bの軸心部には、外側ボス部材32の軸部32Aを挿入する穴72が形成されている。なお、本実施形態の外側容器形成用マンドレル70は、内側容器形成用マンドレル50と同様に金属材料等で形成されている。
【0065】
外側容器の形成工程では、先ず、
図6(A)に示すように、外側容器形成用マンドレル70の穴72に外側ボス部材32の軸部32Aを挿入し、軸64で支持する。次に、
図6(B)に示すように、ドーム部70Bの外周面、及び外側ボス部材32の外フランジ32Bを覆うように、テープ状に形成された熱可塑性プリプレグ52は貼付装置54を用いて巻回し、外側容器12の鏡部12Bを形成する。
【0066】
次に、
図6(C)に示すように、外側容器形成用マンドレル70を軸82で支持し、一定径部70Aの外周に、鏡部12Bと同様の工程を経て筒部12Aを形成する。
【0067】
(内側容器と外側容器との接合)
次に、内側容器14と外側容器12との接合工程を説明する。
内側容器14と外側容器12とを接合する際には、先ず内側容器14を軸64で支持し、鏡部14Bと筒部14Aとの突き合わせ部分78の外周に、サポートリング18を接着剤等で固定する(
図7(A)参照)。
【0068】
サポートリング18を固定した後、
図7(A)~(C)に示すように、内側容器14の外側に、外側容器12を構成する一対の鏡部12Bと筒部12Aとを配置し、外側ボス部材32を内側ボス部材30にボルト44で固定し、鏡部12Bの端部と筒部12Aの端部とを突き合わせる。本実施形態では、外側容器12の鏡部12Bと筒部12Aとの継ぎ目が、サポートリング18の外周面上に位置するように内側容器14の鏡部14B、及び筒部14A、並びに外側容器12の鏡部12B、及び筒部12Aの長さが決められている。
【0069】
次に、
図8に示すように、内側容器14の外側に、鏡部12Bと筒部12Aとが仮組されたアッセンブリを軸64で回転可能に支持し、外側容器12の鏡部12Bの端部と筒部12Aの端部とを突き合わせた突き合わせ部分80の外周に、貼付装置54を用いて、熱可塑性樹脂を溶融した熱可塑性プリプレグ52を巻回して外側容器12の鏡部12Bと筒部12Aとを接合する。これにより、内側容器14と外側容器12とが一体化する。
【0070】
最後に、ボス16の空気吸引口42の雌螺子42Aに、継手46を介して及び空気吸引用配管48を接続し、内側容器14と外側容器12との間の空間の空気を真空ポンプで吸引する。内側容器14と外側容器12との間の空間の空気を抜いて空間内部を真空にすることで、該空間を真空断熱空間20とした液化ガス容器10が完成する。なお、本実施形態では、1×10-2 Pa以下を真空としている。
【0071】
(作用、効果)
本実施形態の液化ガス容器10では、一例として、一方のボス16の継手41を介して液体酸素等の液化ガスを内側容器14内に流入させ、他方のボス16の継手41を介して容器内の液化ガスを排出することができる。
【0072】
本実施形態の液化ガス容器10では、内側容器14と外側容器12との間に、真空断熱空間20が設けられているので、外側容器12から内側容器14に熱が伝わり難く、低温の液化ガスを貯蔵するのに好適な構造となっている。
【0073】
内側容器14と外側容器12は、共に炭素繊維強化熱可塑性樹脂であるCFRPで形成されており、内側容器14と外側容器12との間に断熱材等を設けていないので、内側容器14と外側容器12を金属で形成し、内側容器14と外側容器12との間に断熱材を設けた場合に比較して液化ガス容器10を軽量化できる。
【0074】
本実施形態の液化ガス容器10では、内側容器14を構成するCFRP層22の内部に挟まれたガスバリア層24で、ガスの透過を抑制するので、真空断熱空間20にガスが進入して真空断熱空間20の真空度が低下することを抑制できる。また、内側容器14に貯蔵した液化ガスがガスバリア層24に直接的に接触しないので、液化ガスとの接触によるガスバリア層24の劣化や損傷を抑制することができる。
【0075】
本実施形態のガスバリア層24は、板状の結晶構造を持つ粘土鉱物が一方向に配向し、かつ緻密に積層された構造とされているため、金属で形成した場合と同等のガスバリア性が得られると共に、軽量化を図ることができる。
【0076】
内側容器14を構成するCFRP層22に、難燃性の熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(PC)、及び引張弾性率の高い炭素繊維を用いることで、酸化性の強い液体酸素の存在下での衝撃による着火確率を金属材料と同様に低くすることができる。
【0077】
なお、空気吸引口42に逆止弁が取り付けられていてもよい。逆止弁が取り付けられていれば、真空ポンプに接続された配管を空気吸引口42から取り外した際に、真空断熱空間20に外気が流入することを阻止することができ、空気吸引口42は蓋等を用いて封止する必要がなくなる。なお、真空断熱空間20の真空度が低下した場合には、真空熱空間内に介在する気体を再度吸引し、真空断熱空間20の真空度を上げることができる。
【0078】
[第2実施形態]
図9~
図18を用いて、本発明の第2実施形態に係る液化ガス容器110、及びその製造法について説明する。なお、第1実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0079】
図9に示すように、本実施形態の液化ガス容器110は、繊維強化熱可塑性樹脂製の外側容器112と、外側容器112の内部に配置され、液化ガスを貯蔵可能とする繊維強化熱可塑性樹脂製の内側容器114と、内側容器114に設けられた一対の内側ボス116と、内側容器114と外側容器112とを軸方向の両端部で連結する外側ボス119と、内側容器114を外側容器112に対して浮かせて支持するサポートリング118、外側ボス119の開口を塞ぐ蓋138等を含んで構成されており、内側容器114と外側容器112との間に真空断熱空間120が形成されている。
【0080】
(内側容器)
図9、及び
図10に示すように、本実施形態の内側容器114は、軸方向中間部が一定径に形成された筒部114Aとされ、筒部114Aの軸方向両側が鏡部114Bとされている。
【0081】
本実施形態の内側容器114は、一例として、第1実施形態と同様のCFRP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)で形成されており、内側容器114のCFRP層122には第1実施形態と同様のガスバリア層24(図示省略)が挟まれている。
【0082】
内側容器14の鏡部114Bには、中央の内周面側に内側ボス116が接合されている。
図11に示すように、本実施形態の内側ボス116は、円環状に形成され、内周側は一定厚さに形成され、外周側は、径方向外側へ向けて厚さが漸減するテーパー形状とされている。なお、内側ボス116において、一定厚さに形成された部分を一定厚さ部116A、テーパー形状に形成された部分をテーパー部116Bと呼ぶ。
【0083】
内側ボス116は、金属材料、一例としてアルミニウム、またはアルミニウ合金で形成されているが、金属材料以外の材料、一例として合成樹脂(炭素繊維強化熱可塑性樹脂等)で形成することもできる。
【0084】
(外側容器)
図9に示すように、外側容器112は、内側容器114の外側に間隔を空けて配置されている。外側容器112は、一定径に形成された外側容器構成片の一例としての筒部112Aと、同じく外側容器構成片としての鏡部112Bとを接合することで形成されている。外側容器112は、一例として、内側容器114と同様のCFRPで形成されているが、外側容器112のCFRP層126にはガスバリア層24は設けられていない。
【0085】
(サポートリング)
本実施形態の液化ガス容器110も第1実施形態の液化ガス容器10と同様に、外側容器112と内側容器114との間に、外側容器112の中に内側容器114を浮かせて支持するためのサポートリング118が設けられている。
【0086】
(外側ボス)
図12(A),(B)に示すように、外側ボス119は、円環状に形成されている。外側ボス119は、内周側が一定厚さに形成され、外周側が、径方向外側へ向けて厚さが漸減するテーパー形状とされている。なお、外側ボス119において、一定厚さに形成された部分を一定厚さ部119A、テーパー形状に形成された部分をテーパー部119B、中央の開口を中央開口119Cと呼ぶ。
【0087】
一定厚さ部119Aには、円弧形状の開口130が周方向に沿って複数形成されている。なお、本実施形態の開口130は円弧形状であるが、円形、その他の形状であってもよい。
【0088】
また、外側ボス119は、一定厚さ部119Aの外面(
図12(A)の図面右側)であって、開口130の内周側に第1環状溝132が形成され、開口130の外周側に第2環状溝134が形成され、開口130と開口130との間に螺子孔136が形成されている。
第1環状溝132には第1Oリング132Aが嵌め込まれ、第2環状溝134には、第2Oリング134Aが嵌め込まれる。
【0089】
(蓋)
図9、及び
図12(A)に示すように、外側ボス119の外側には、円板状の蓋138が配置されている。蓋138は、金属材料、一例としてアルミニウム、またはアルミニウ合金で形成されているが、合成樹脂(炭素繊維強化熱可塑性樹脂等)で形成することもできる。
【0090】
蓋138には、外側ボス119の螺子孔136と対向する位置に、貫通孔140が形成されている。蓋138は、貫通孔140を貫通させたボルト142を螺子孔136に螺合して締め付けることで外側ボス119の一定厚さ部119Aに密着して固定される。これにより、外側ボス119の中央開口119C、及び開口130が蓋138で塞がれる。なお、蓋138の側面には、第1Oリング132A、及び第2Oリング134Aが密着し、これにより、外側ボス119と蓋138との間の隙間がシールされる。
【0091】
蓋138の中央には、流路144が形成されており、蓋138の外面には、流路144と連通する継手146が設けられている。この継手146には、第1実施形態(
図3参照)と同様に、流体を出し入れするための配管39が接続される。
【0092】
蓋138には、外側ボス119の何れか一つの開口130と対向する位置に、空気吸引口150が形成されている。空気吸引口150は、本発明の吸引口の一例である。また、蓋138の外面には、空気吸引口150と連通する継手152が設けられている。継手152には、第1実施形態の継手46と同様に、逆止弁(図示せず)が内蔵されている。なお、継手152には、逆止弁に代えて、開閉弁を設けてもよい。
【0093】
継手152には、第1実施形態と同様に、真空ポンプに接続された空気吸引用配管48が着脱可能とされている。
【0094】
(液化ガス容器の製造方法)
次に、本実施形態の液化ガス容器110の製造工程を図面にしたがって説明する。
【0095】
(内側容器の形成)
図13(A)には、内側容器14を形成する際に用いる分解型マンドレル154が断面図にて示されている。分解型マンドレル154は、金属材料等で形成された複数のピース154A,154Bによって円筒状に形成されている。
【0096】
先ず、分解型マンドレル154の軸方向両端部の一部を除いた外周面に、剥離フィルム156を貼り付ける。
【0097】
次に、
図13(B)に示すように、分解型マンドレル154の軸方向両端部に内側ボス116を仮止めする。
【0098】
次に、
図14(A)に示すように、分解型マンドレル154の外周面、及び内側ボス116を覆うように、テープ状に形成された熱可塑性プリプレグ52は貼付装置54を用いて巻回し、予め設定した厚みのCFRP層122を形成する。なお、CFRP層122には、第1実施形態のCFRP層22と同様に、ガスバリア層24(
図14(A)では図示せず)を形成する。
【0099】
熱可塑性プリプレグ52の熱可塑性樹脂が冷却されて固化した後、
図14(B)に示すように分解型マンドレル154を分解し、全てのピース154A,154Bを内側ボス116の開口から外部へ取り出し、剥離フィルム156を剥がす。
【0100】
次に、
図10に示すように、内側容器114の外周面の所定箇所に、輻射熱を反射する輻射熱抑制フィルム158を貼り付ける。輻射熱抑制フィルム158は、一例として、株式会社カネカのスーパー・インシュレーション(商品名)を用いることができる。
本実施形態では、サポートリング18を内側容器114のCFRP層122に直接取り付けるので、輻射熱抑制フィルム158は、内側容器114の外周面におけるサポートリング118の取り付け予定箇所160には貼り付けない。
【0101】
(外側容器の形成)
図15(A)には、外側容器112の筒部112A、及び鏡部112Bを形成するための外側容器形成用マンドレル162が示されている。
外側容器形成用マンドレル162は、略円柱状に形成され、一例として、分解型マンドレル154と同様に金属材料等で形成されている。
外側容器形成用マンドレル162は、軸方向中央部が一定径に形成された一定径部162Aとされており、両端部がドーム部162Bとされている。なお、外側容器形成用マンドレル162は、図示しない軸で回転可能に支持される。
【0102】
外側容器112の形成工程では、先ず、
図15(B)に示すように、一方のドーム部162Bの外周面を覆うように、熱可塑性プリプレグ52は貼付装置54を用いて巻回し、外側容器112の一方の鏡部112Bを形成し、その後、ドーム部162Bから一方の鏡部112Bを取り外す。
【0103】
次に、
図15(C)に示すように、外側容器形成用マンドレル162の一定径部162Aの外周に外側容器112の筒部112Aを形成し、その後、一定径部162Aから筒部112Aを取り外す。
【0104】
次に、
図15(D)に示すように、外側容器形成用マンドレル162の他方のドーム部162Bの外周面を覆うように、熱可塑性プリプレグ52を巻回し、外側容器112の他方の鏡部112Bを形成し、その後、ドーム部162Bから他方の鏡部112Bを取り外す。
【0105】
(内側容器と外側容器との接合)
内側容器114と外側容器112とを接合する際には、先ず、
図16に示すように、内側容器114の外周面にサポートリング118を接着剤、その他の手段で接合し、内側容器114の軸方向両端部に外側ボス119を接着剤、その他の手段で接合する。
【0106】
次に、
図17に示すように、一方の外側ボス119とサポートリング118とに跨るように鏡部112Bを配置し、加熱したローラ164で鏡部112Bを外側ボス119に押し付け、CFRP層126の樹脂を溶融させて、鏡部112Bを外側ボス119に溶着する。同様に、加熱したローラ164で鏡部112Bをサポートリング118に押し付け、CFRP層126の樹脂を溶融させて、鏡部112Bをサポートリング118に溶着する。
【0107】
次に、
図18に示すように、一方のサポートリング118と他方のサポートリング118とに跨るように筒部112Aを配置する。次に、加熱したローラ164(
図18では図示せず)で一方の鏡部112Bと筒部112Aとを一方のサポートリング118に押し付け、一方の鏡部112BのCFRP層126の樹脂を溶融させると共に、筒部112AのCFRP層126の樹脂を溶融させ、一方の鏡部112Bの端部と筒部112Aの端部とを一方のサポートリング118に溶着する。
【0108】
その後、鏡部112Bと筒部112Aとの繋ぎ目の外周部分に、貼付装置54を用いて熱可塑性プリプレグ52を巻回して溶着する。
【0109】
次に、
図19に示すように、他方のサポートリング118と他方の外側ボス119とに跨るように鏡部112Bを配置し、加熱したローラ164を用いて筒部112Aの端部と鏡部112Bの端部を他方のサポートリング118に溶着する。次に、鏡部112Bと筒部112Aとの繋ぎ目の外周部分に、貼付装置54(
図19では図示せず)を用いて熱可塑性プリプレグ52を巻回して溶着する。
その後、加熱したローラ164を用いて筒部112Aを外側ボス119に溶着する。
【0110】
次に、
図9に示すように、ボルト142を用いて外側ボス119に蓋138を取り付け、蓋138に継手146、及び継手152を取り付ける。
【0111】
最後に、蓋138の継手152に空気吸引用配管48を接続し、内側容器114と外側容器112との間の空間の空気を真空ポンプで吸引して該空間を真空にすることで、該空間を真空断熱空間120とした液化ガス容器110が完成する。
【0112】
なお、液化ガス容器110の蓋138は、必要に応じて、輻射熱抑制フィルム158を貼り付けたり、グラスウール、ロックウール等の無機繊維系や、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、発泡スチロール等の発泡樹脂系の断熱材166で覆ってもよい。なお、一例として、蓋138を二重構造とし、蓋138に真空断熱層を設けてもよい。
【0113】
(作用、効果)
本実施形態の液化ガス容器110では、内側容器114と外側容器112との間に、真空断熱空間20が設けられており、さらに、内側容器114の外周面に輻射熱を反射する輻射熱抑制フィルム158が貼り付けられている。このため、本実施形態の液化ガス容器110は、輻射熱抑制フィルム158が貼り付けられていない場合と比較して高い断熱性能を有している。本実施形態では、輻射熱抑制フィルム158を内側容器114に貼り付けたが、外側容器112に貼り付けてもよい。なお、輻射熱抑制フィルム158は、用途に応じて貼り付ければよく、無くてもよい。
【0114】
本実施形態の液化ガス容器110は、一例として、軸方向を上下方向に向けて使用され(即ち、
図9の状態から向きを90°変えて使用される。)、この場合、下側の配管39から内側容器114の内部の流体を排出することができる。
【0115】
なお、液化ガス容器110において、振動による液面の揺動、即ちスロッシングを抑制する場合には、一例として、
図9の二点鎖線で示すように、内側容器114の内周面にリング状のバッフル168を設けることが好ましい。バッフル168の外径は、内側ボス116の内径よりも大きいため、バッフル168を2分割(なお、3分割以上であってもよい)可能な構成とし、分割したバッフル168を内側ボス116の開口から内側容器114の内部に挿入し、容器内でリング状に組み付けることができる。
なお、バッフル168は、金属材料、一例としてアルミニウム、またはアルミニウ合金、金属材料以外の合成樹脂(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)等で形成することができる。
【0116】
本実施形態の液化ガス容器110が、内部に作業員が入れる程度の比較的大型のものであれば、分割したバッフル168を作業員が内側容器114の内部でリング状に組み付けることができる。
【0117】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0118】
上記第1実施形態では、外側容器12を形成する際に、2つの鏡部12Bと一つの筒部12Aを形成してこれら3つの部材を接合したが、一例として、
図20に示すように、鏡部12Bと筒部12Aとを一体化した部材と、鏡部12Bとの2つの部材を形成し、これら2つの部材を接合するようにしてもよい。なお、図示を省略するが、第2実施形態の外側容器112も同様にして形成することができる。
【0119】
また、第1実施形態において、複数の筒部12Aを繋げて外側容器12を形成し、複数の筒部14Aを繋げて内側容器14を形成することで、全長の長い液化ガス容器10を形成することができる。なお、図示を省略するが、上記第2実施形態の液化ガス容器110においては、全長の長い内側容器114を形成し、複数の筒部112Aを繋げて外側容器112を形成することで、全長の長い液化ガス容器110を形成することができる。
【0120】
上記第1実施形態の液化ガス容器10は、細長に形成されていたが、
図21に示すように、球形に形成されていてもよく、液化ガス容器10の形状は適宜変更可能である。
図21に示す液化ガス容器10は、一例として、鏡部同士を向い合せにして接合することで形成することができる。
【0121】
上記第2実施形態の液化ガス容器10の製造方法では、内側容器14と外側容器12とを接合する前に内側容器14から分解したピース154A,154Bを外部へ取り出したが、内側容器14と外側容器12とを接合した後に取り出してもよい。
【0122】
上記実施形態の液化ガス容器10、及び液化ガス容器110は、液化酸素に限らず、液化水素、液化ヘリウム、液化窒素、LNG(液化天然ガス)等の各種液化ガスを貯蔵することができる。
【0123】
上記実施形態では、繊維強化熱可塑性樹脂としてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いたが、必要に応じてGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)、AFRP(アラミド繊維強化プラスチック)等、CFRP以外の公知のものを用いてもよい。但し、液体酸素と接触する部位には、熱可塑性樹脂を用いる。
【0124】
上記第1実施形態では、ボス16をアルミニウム、またはアルミニウム合金で構成したが、液化ガスの貯蔵に適していれば、ボス16は、他の金属材料で構成してもよく、金属材料よりも熱伝導率の低いセラミックや合成樹脂等の非金属材料で構成してもよい。
【0125】
上記第1実施形態の液化ガス容器10では、軸方向両側にボス16が設けられていたが、ボス16は一端に1つ設けられていればよく、他端は、一例として、ボス16と同様の外形で、流路34、及び空気吸引口42の形成されていないプラグであってもよい。言い換えれば、他端のプラグは、液化ガスを出入りさせる機能を有さず、製造する際に用いる軸64で支持できればよい。
なお、上記第1実施形態では、液化ガス容器10を製造する際に、軸64を用いたが、液化ガス容器10を製造できれば軸64を用いなくてもよい。
【0126】
上記第2実施形態の液化ガス容器110では、軸方向両側に内側ボス116、及び外側ボス119が設けられていたが、内側ボス116、及び外側ボス119は、第1実施形態と同様に軸方向の一方の端部のみに設けられていればよい。
【符号の説明】
【0127】
10 液化ガス容器
12 外側容器
12A 筒部(外側容器構成片)
12B 鏡部(外側容器構成片)
14 内側容器
14A 筒部(内側容器構成片)
14B 鏡部(内側容器構成片)
16 ボス
20 真空断熱空間
22 CFRP層
24 ガスバリア層
26 CFRP層
42 空気吸引口(吸引口)
50 内側容器形成用マンドレル
52 熱可塑性プリプレグ(中間部材)
70 外側容器形成用マンドレル
110 液化ガス容器
112 外側容器
112A 筒部(外側容器構成片)
112B 鏡部(外側容器構成片)
114 内側容器
119 外側ボス
122 CFRP層
126 CFRP層
150 空気吸引口(吸引口)
154 分解型マンドレル
162 外側容器形成用マンドレル