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特開2024-87267光学積層体、光学積層体ロール、および偏光板の製造方法
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  • 特開-光学積層体、光学積層体ロール、および偏光板の製造方法 図1
  • 特開-光学積層体、光学積層体ロール、および偏光板の製造方法 図2
  • 特開-光学積層体、光学積層体ロール、および偏光板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087267
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】光学積層体、光学積層体ロール、および偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240624BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20240624BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20240624BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240624BHJP
   B32B 3/04 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G02B5/30
H10K50/00
H10K50/86
B32B7/023
B32B3/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201999
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南川 善則
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB11
2H149BA02
2H149BA12
2H149CA02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA04X
2H149FA12X
2H149FA12Z
2H149FA61
2H149FB05
2H149FC03
2H149FD01
2H149FD32
2H149FD47
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107EE26
3K107FF02
3K107FF15
4F100AJ06B
4F100AK42C
4F100BA03
4F100DB01A
4F100EC182
4F100EJ303
4F100GB41
4F100JK12A
4F100JL14C
4F100JN10A
(57)【要約】
【課題】配向度の高い偏光子を含むにもかかわらず、製造工程において表面保護フィルムを剥離する際の剥離不良が抑制された光学積層体を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による光学積層体は長尺状であり、偏光子と、偏光子の一方の側に設けられた保護層と、偏光子のもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を有する。偏光子の押し込み硬さは0.65GPa以上であり、偏光子の幅方向端部には50μm~5000μmのクラックが形成されており、クラックの延びる方向は長尺方向に対して30°~150°である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の光学積層体であって、
偏光子と、該偏光子の一方の側に設けられた保護層と、該偏光子のもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を有し、
該偏光子の押し込み硬さが0.65GPa以上であり、
該偏光子の幅方向端部に50μm~5000μmのクラックが形成されており、
該クラックの延びる方向が長尺方向に対して30°~150°である、
光学積層体。
【請求項2】
前記偏光子の押し込み弾性率が9.5GPa以下である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記偏光子の配向関数が0.30以上である、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の光学積層体が巻回されてなる、光学積層体ロール。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の光学積層体を、該光学積層体の長尺方向に搬送すること;および
該光学積層体を搬送しながら、前記表面保護フィルムを剥離すること;を含み、
前記クラックの延びる方向が搬送方向に対して30°以上180°未満の角度となる状態で、該表面保護フィルムを剥離する、
偏光板の製造方法。
【請求項6】
前記クラックの延びる方向が前記光学積層体の搬送方向に対して0°を超えて30°未満であり、
該光学積層体を巻き替えることにより、該クラックの延びる方向を搬送方向に対して30°以上180°未満の角度とすることを含む、
請求項5に記載の偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体、光学積層体ロール、および偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、量子ドット表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、表示パネルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。近年、画像表示装置の狭額縁化(場合によっては、いわゆるベゼルレス化)の要望が強まっており、偏光板の端部の色抜け(端部脱色)防止の必要性が高まっている。偏光板の端部脱色を抑制または防止するために、実質的に偏光板の光学特性を支配する偏光子の高温高湿環境下における耐久性を改善する技術が提案されている。このような技術として、例えば、配向度の高い偏光子が検討されている。
【0003】
ところで、偏光板(または偏光板を含む光学フィルム)は、代表的には、偏光子と目的に応じた各種の光学機能層とを積層することにより作製される。積層の少なくとも一部には、いわゆるロールトゥロールと称される操作が採用される場合が多い。また、多段階で積層を行う場合、所定の段階で積層体の幅方向端部をスリットする場合がある。さらに、多段階で積層を行う場合、工程SPVと称される表面保護フィルムを積層体に剥離可能に仮着して、偏光板(または偏光板を含む光学フィルム)の前駆体である積層体をキズや汚れから保護する場合が多い。
【0004】
上記のような配向度の高い偏光子を積層およびスリットに供する場合、スリットにより偏光子の幅方向端部にクラックが形成される場合がある。このようなクラックが形成された配向度の高い偏光子から表面保護フィルムを剥離すると、偏光子を含む積層体から偏光子の少なくとも一部がはがれてしまうという剥離不良が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-160231号公報
【特許文献2】特開2020-001382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、配向度の高い偏光子を含むにもかかわらず、製造工程において表面保護フィルムを剥離する際の剥離不良が抑制された光学積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明の実施形態による光学積層体は長尺状であり、偏光子と、該偏光子の一方の側に設けられた保護層と、該偏光子のもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を有する。該偏光子の押し込み硬さは0.65GPa以上であり、該偏光子の幅方向端部には50μm~5000μmのクラックが形成されており、該クラックの延びる方向は長尺方向に対して30°~150°である。
[2]上記[1]において、上記偏光子の押し込み弾性率は9.5GPa以下である。
[3]上記[1]または[2]において、上記偏光子の配向関数は0.30以上である。
[4]本発明の別の局面によれば、光学積層体ロールが提供される。この光学積層体ロールは、上記[1]から[3]のいずれかの光学積層体が巻回されてなる。
[5]本発明のさらに別の局面によれば、偏光板の製造方法が提供される。この製造方法は、上記[1]から[3]のいずれかの光学積層体または上記[4]の光学積層体ロールを、該光学積層体の長尺方向に搬送すること;および、該光学積層体を搬送しながら、上記表面保護フィルムを剥離すること;を含み、上記クラックの延びる方向が搬送方向に対して30°以上180°未満の角度となる状態で、該表面保護フィルムを剥離する。
[6]上記[5]において、上記クラックの延びる方向は上記光学積層体の搬送方向に対して0°を超えて30°未満であり、上記製造方法は、該光学積層体を巻き替えることにより、該クラックの延びる方向を搬送方向に対して30°以上180°未満の角度とすることを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、配向度の高い偏光子を含むにもかかわらず、製造工程において表面保護フィルムを剥離する際の剥離不良が抑制された光学積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、本発明の1つの実施形態による光学積層体の概略平面図であり;(b)は、(a)の光学積層体のB-B線による概略断面図である。
図2】(a)は、本発明の実施形態において偏光子の端部クラックが延びる方向と光学積層体の長尺方向および搬送方向との関係の一例を示す概略平面図であり;(b)は、当該関係の別の例を示す概略平面図である。
図3】(a)は、本発明の実施形態に用いられ得るスリット刃の切断刃および受け刃を横から見た図であり;(b)は、スリット刃による光学積層体の切断の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために図面は模式的に描かれており、実際の長さ、幅、厚み、角度、比率等を正確に反映したものではない。
【0011】
A.光学積層体の全体構成
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による光学積層体の概略平面図であり;図1(b)は、図1(a)の光学積層体のB-B線による概略断面図である。図2(a)は、本発明の実施形態において偏光子の端部クラックが延びる方向と光学積層体の長尺方向および搬送方向との関係の一例を示す概略平面図であり;図2(b)は、当該関係の別の例を示す概略平面図である。図示例の光学積層体100は、図面の上下方向に延びる長尺状である。このような長尺状の光学積層体は、ロール状に巻回可能である。したがって、光学積層体は、ロール状に巻回されて光学積層体ロールを構成し得る。光学積層体100は、偏光子11と、偏光子11の一方の側に設けられた保護層12と、偏光子11のもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルム20と、を有する。1つの実施形態においては図示例のように、光学積層体100は、上側から順に保護層12と偏光子11と表面保護フィルム20とを有する。別の実施形態においては、光学積層体は、上側から順に表面保護フィルムと偏光子と保護層とを有していてもよい。偏光子11の幅方向端部にはクラック50が形成されている。クラックは、代表的には、前工程におけるスリットに起因して形成され得る。言い換えれば、本発明の実施形態による光学積層体は、幅方向端部がスリットされている。クラックのサイズ(長さ)は50μm~5000μmであり、クラックの延びる方向は長尺方向に対して30°~150°である。本発明の実施形態によれば、後述するように配向度が高い偏光子の端部にクラックが形成されている場合であっても、クラックが延びる方向を制御することにより、剥離不良を顕著に抑制することができる。本明細書において「剥離不良」とは、光学積層体から表面保護フィルムを剥離する際に、表面保護フィルムのみならず偏光子の少なくとも一部がはがれてしまう現象をいう。本発明の実施形態におけるクラックは、上記のとおり前工程のスリットに起因して形成され得るので、クラックが延びる方向は所定範囲内に維持されている。例えば、クラックは、その90%以上が方向の中心値(すべてのクラックの延びる方向が長尺方向となす角度の平均値)から代表的には±20°以内、好ましくは±10°以内、より好ましくは±5°以内の範囲内の方向に延びている。したがって、スリット条件を調整することによりクラックが延びる方向を制御することができる。なお、クラックの延びる方向は長尺方向に対して30°~150°の範囲から外れなければよいので、本発明の実施形態においては、当該範囲内におけるばらつきは問題ではない。例えば、無作為に切り出した長さ10cmの光学積層体の端面を検査した際に、認識されるすべてのクラックの延びる方向が長尺方向に対して30°~150°の範囲内であれば、クラックの延びる方向が上記方向の中心値から大きく(例えば、±20°を超えて)外れていても剥離不良を抑制することができる。本明細書においては、特に明記しない限り、クラックが延びる方向は、光学積層体を上側から見たときの方向である。
【0012】
クラックのサイズ(長さ)は、好ましくは50μm~3500μmであり、より好ましくは50μm~2000μmである。クラックのサイズが小さい(例えば、50μm未満である)場合には、剥離不良の問題が生じない場合が多い。前工程のスリットで形成されるクラックのサイズの上限は、後工程で必要とされるマージン(最終的にスリットで除去される部分)よりも十分に小さいので、上限の特定に実質的に技術的な意味はない。クラックの延びる方向は、上記のような範囲(長尺方向に対して30°~150°)であれば、本発明の実施形態による効果を発現することができる。クラックの延びる方向は、例えば35°以上であってもよく、また例えば40°以上であってもよく、また例えば45°以上であってもよく、また例えば50°以上であってもよく、また例えば60°以上であってもよく、また例えば70°以上であってもよい。一方、クラックの延びる方向は、例えば145°以下であってもよく、また例えば140°以下であってもよく、また例えば135°以下であってもよく、また例えば130°以下であってもよく、また例えば120°以下であってもよく、また例えば110°以下であってもよい。
【0013】
図2(a)および図2(b)を参照して、クラックが延びる方向と光学積層体の長尺方向および搬送方向との関係を具体的に説明する。上記のとおり、クラック50の延びる方向(角度θ)は光学積層体の長尺方向に対して30°~150°である。光学積層体の長尺方向は、実質的には、光学積層体の搬送方向(図中の矢印30)に対応する。図2(a)に示すように角度θが鋭角である場合、クラック50が延びる方向は、搬送方向30に対して順方向であり;図2(b)に示すように角度θが鈍角である場合、クラック50が延びる方向は、搬送方向30に対して逆方向である。角度θが90°(直角)である場合、クラック50が延びる方向は搬送方向に対して直交する方向(幅方向)である。
【0014】
本発明の実施形態においては、偏光子11の押し込み硬さは0.65GPa以上である。さらに、偏光子11の押し込み弾性率は、代表的には9.5GPa以下であり、配向関数は代表的には0.30以上である。このような硬くかつ配向度の高い偏光子を用いる場合において、本発明の実施形態による効果が顕著である。具体的には、このような配向度の高い偏光子にクラックが形成されている場合であっても、光学積層体から表面保護フィルムを剥離する際の剥離不良を顕著に抑制することができる。
【0015】
以下、偏光子端部にクラックを形成する方法について説明する。上記のとおり、クラックは、前工程におけるスリット(切断による幅方向端部の除去)により形成され得る。上記のとおり、スリット条件を調整することによりクラックが延びる方向を制御することができる。スリット条件としては、例えば、スリット刃の切断刃のテーパ角、スリット時の搬送張力、スリットされたフィルム端部の引き取り張力、スリット刃の状態、スリット刃のオーバーラップ長が挙げられる。以下、スリットの具体的な手順の一例を説明する。
【0016】
図3(a)は、本発明の実施形態に用いられ得るスリット刃の切断刃および受け刃を横から見た図であり;図3(b)は、スリット刃による光学積層体の切断の様子を示す説明図である。図3(a)および図3(b)に示すように、光学積層体100は、切断刃1と、光学積層体100を支持するための受け刃2とを用いて切断される。切断刃1および受け刃2は、互いの刃先が部分的にオーバーラップするように支持されている。オーバーラップ長Lは、例えば、切断する光学積層体の厚みに応じて設定される。オーバーラップ長Lは、光学積層体の厚みd(mm)に対し、d≦L≦d+0.15mmの関係を満足することが好ましい。オーバーラップ長Lは、例えば0.2mm~2.0mmである。切断刃軸1aおよび受け刃軸2aは、光学積層体100に対して平行となるように配置されている。光学積層体100は、切断刃1と受け刃2との間を通過することによって、幅方向端部が帯状にスリット(切断)される。光学積層体100の搬送速度は、例えば10m/min~50m/minの範囲で設定され得る。
【0017】
受け刃2は、受け刃軸2aに固定されず、自由に回転(例えば、反時計方向に)する。切断刃1は、任意の適切な支持機構により、受け刃2と接するようにバネ付勢して切断刃軸1aに取り付けられ、切断刃軸1aと一体となって回転(例えば、時計方向に)する。切断刃と受け刃の接圧は、例えば、後述する刃の形状に応じて設定される。切断刃と受け刃の接圧は、例えば2.0N~10.0Nである。切断刃の回転速度は、光学積層体の搬送速度と同等程度、もしくは、光学積層体の搬送速度より速いことが好ましい。具体的には、切断刃の回転速度は、偏光フィルム積層体の搬送速度に対して、例えば90%~130%に設定され、好ましくは95%~130%、さらに好ましくは98%~130%である。
【0018】
切断刃および受け刃の外径は、例えば90.0mm~110.0mmである。受け刃2は、切断位置で光学積層体100を支持するため、図示するように、その刃先は幅広のものが用いられている。図示例では、切断刃1の一側面1bは垂直面とされ、もう一側面1cはテーパ面とされている。テーパ面のテーパ角は、例えば35°~85°であってもよく、また例えば40°~60°であってもよく、また例えば60°~85°であってもよい。テーパ角を調整することにより、クラックの延びる方向を制御することができる。なお、切断された切断片は、例えば、巻取りまたは吸引により除去される。
【0019】
図示例では、刃先に向かって徐々に狭まるテーパ形状の切断刃1の相対的に厚い部分が保護層12側となり、切断刃1の相対的に薄い部分が表面保護フィルム20側となるように位置させて、切断刃1の刃先を光学積層体100に当てているが、光学積層体の上下は逆転してもよい。すなわち、切断刃1の相対的に厚い部分が表面保護フィルム20側となり、切断刃1の相対的に薄い部分が保護層12側となるように位置させて、切断刃1の刃先を光学積層体100に当ててもよい。
【0020】
光学積層体のスリット時の搬送張力は、好ましくは220N以上であり、より好ましくは270N以上であり、さらに好ましくは300N以上であり、特に好ましくは320N以上である。搬送張力がこのような範囲であれば、スリット刃の切断刃のテーパ角を組み合わせて調整することにより、クラックの延びる方向を所望の方向とすることができる。なお、搬送張力の上限は、例えば400Nであり得る。
【0021】
B.偏光子
偏光子11は、上記のとおり、押し込み硬さが0.65GPa以上である。偏光子の押し込み硬さは、好ましくは0.65GPa~0.80GPaであり、より好ましくは0.66GPa~0.76GPaであり、さらに好ましくは0.67GPa~0.74GPaであり、特に好ましくは0.68GPa~0.72GPaである。すなわち、本発明の実施形態に用いられる偏光子は非常に硬い。このような偏光子は、高温高湿環境下における端部脱色を顕著に抑制することができる。その結果、このような偏光子は、額縁の狭い(場合によっては、いわゆるベゼルレスの)画像表示装置に好適に用いられ得る。上記のとおり、このような硬い偏光子を用いる場合に、本発明の実施形態による効果が顕著である。
【0022】
偏光子は、押し込み弾性率が代表的には9.5GPa以下であり、好ましくは7.5GPa~9.4GPaであり、より好ましくは8.0GPa~9.3GPaであり、さらに好ましくは8.2GPa~9.2GPaであり、特に好ましくは8.5GPa~9.2GPaである。本発明の実施形態に用いられる偏光子は、上記のように非常に硬いにもかかわらず、押し込み弾性率が比較的低い。このような偏光子は、硬いことによる利点(端部脱色の抑制)を維持しつつ、延伸しやすいので薄型化が容易である。
【0023】
押し込み硬さおよび押し込み弾性率は、代表的には、押し込み試験機(代表的には、ナノインデンター)を用いたナノインデンテーション法により測定され得る。より具体的には、押し込み硬さは、測定対象とされる偏光子の表面に探針(圧子)を押し当てて得られる変位-荷重ヒステリシス曲線から得られる最大荷重Pmax、および、圧子と偏光子との間の接触射影面積Aから、以下の式により算出される。
押し込み硬さ(GPa)=Pmax/A
また、押し込み弾性率は、上記接触射影面積A、変位-荷重ヒステリシス曲線の除荷曲線の接線の傾き(接触剛性)S、および、円周率πから、以下の式により算出される。
押し込み弾性率(GPa)=(√π/2)×(S/√A)
【0024】
偏光子の配向関数は、好ましくは0.30以上であり、より好ましくは0.35以上であり、さらに好ましくは0.37以上であり、特に好ましくは0.40以上である。偏光子の配向関数がこのような範囲であれば、押し込み弾性率および押し込み硬さを上記所望の範囲とすることが容易である。偏光子の配向関数の上限は、例えば0.50であり得る。配向関数(y)は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により求められる。具体的には、測定光の偏光方向に対し、偏光子の延伸方向を平行および垂直にした状態で測定を実施し、得られた吸光度スペクトルの2941cm-1の強度を用いて、下記式に従って算出される。ここで、強度Iは、3330cm-1を参照ピークとして、2941cm-1/3330cm-1の値である。なお、y=1のとき完全配向、y=0のときランダムとなる。また、2941cm-1のピークは、偏光子中のPVAの主鎖(-CH-)の振動に起因する吸収であると考えられている。
y=(3<cosθ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
=-2×(1-D)/(2D+1)
ただし、
c=(3cosβ-1)/2で、2941cm-1の振動の場合は、β=90°である。
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
D=(I)/(I//) (この場合、PVA分子が配向するほどDが大きくなる)
:測定光の偏光方向と偏光子の延伸方向が垂直の場合の吸収強度
// :測定光の偏光方向と偏光子の延伸方向が平行の場合の吸収強度
【0025】
偏光子としては、上記のような特性を有する限りにおいて、任意の適切な構成が採用され得る。代表的には、偏光子は、二色性物質(例えば、ヨウ素)を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成されている。PVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン―酢酸ビニル共重合体系部分ケン化物が挙げられる。
【0026】
PVA系樹脂は、好ましくはアセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。このような構成であれば、所望の機械的強度を有する偏光子が得られ得る。アセトアセチル変性されたPVA系樹脂の配合量は、PVA系樹脂全体を100重量%としたときに、好ましくは5重量%~20重量%であり、より好ましくは8重量%~12重量%である。配合量がこのような範囲であれば、より優れた機械的強度を有する偏光子が得られ得る。
【0027】
偏光子は、好ましくは、ヨウ化物または塩化ナトリウム(まとめてハロゲン化物と称する場合がある)を含む。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウムが挙げられる。偏光子におけるハロゲン化物の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部~20重量部であり、より好ましくは10重量部~15重量部である。ハロゲン化物は、後述の製造方法において、偏光子の前駆体であるPVA系樹脂層を形成する塗布液に配合され、最終的に偏光子に導入され得る。偏光子にハロゲン化物を導入することにより、偏光子におけるPVA分子の配向性を高めることができるので、所望の配向関数および押し込み硬さを実現することができる。さらに、優れた光学特性(代表的には、高い偏光度と高い単体透過率との両立)を有する偏光子を実現することができる。
【0028】
偏光子のヨウ素濃度は、好ましくは4重量%~10重量%であり、より好ましくは5.5重量%~8重量%である。本明細書において「ヨウ素濃度」とは、偏光子に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はI、I、I 、I 等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素濃度は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の濃度を意味する。ヨウ素濃度は、例えば、蛍光X線分析による蛍光X線強度とフィルム(偏光子)厚みとから算出され得る。
【0029】
偏光子の厚みは、好ましくは1μm~8μmであり、より好ましくは2μm~7μmであり、さらに好ましくは3μm~6μmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。
【0030】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.0%~45.0%であり、好ましくは41.5%~43.5%であり、より好ましくは42.0%~43.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。本発明の実施形態によれば、単体透過率が上記のような範囲であっても、偏光度をこのような範囲に維持することができる。
【0031】
偏光子は、代表的には、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を用いて得られ得る。積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。加えて、本実施形態においては、好ましくは、積層体は、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。代表的には、本実施形態の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性は向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離した剥離面に、もしくは、剥離面とは反対側の面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0032】
上記のような硬く配向度が高い偏光子は、空中補助延伸処理において、従来よりも高温かつ高延伸倍率で延伸することにより得られ得る。好ましくは、空中補助延伸処理における延伸温度は140℃以上であり、かつ、延伸倍率は2.5倍以上である。延伸温度は、より好ましくは145℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上であり、特に好ましくは155℃以上である。延伸温度の上限は、例えば170℃であり得る。延伸倍率は、より好ましくは2.5倍~3.2倍であり、さらに好ましくは2.6倍~3.1倍であり、特に好ましくは2.7倍~3.0倍である。従来の薄型偏光子の製造方法においては、代表的には、熱可塑性樹脂基材(代表的には、ポリエチレンテレフタレート(PET))のガラス転移温度(Tg)+15℃以上であり、かつ、PVA系樹脂の急速な結晶化を抑制し得る温度で空中補助延伸処理が行われている。このような延伸温度は、具体的には130℃近傍である。また、従来の薄型偏光子の製造方法における空中補助延伸処理の延伸倍率は、通常2.0倍~2.4倍に設定されている。空中補助延伸処理と水中延伸処理との延伸総倍率は一定(例えば、5.5倍~6.0倍)であることが好ましいことから、130℃近傍で延伸する場合、2.5倍を超える延伸倍率では、水中延伸処理の延伸倍率を下げる必要があり、ヨウ素の配向が低下することによって光学特性が低下する場合があるからである。また、130℃を超える温度では、上記のとおりPVA系樹脂の急速な結晶化の抑制が困難であり、さらに、延伸性の制御が困難である。本発明者らは、従来実施されていなかった高温かつ高延伸倍率で空中補助延伸処理を行うことにより、所望の光学特性(高い単体透過率と高い偏光度との両立)を維持しつつ、硬い薄型偏光子を実現できることを見出した。
【0033】
C.保護層
保護層12は、偏光子の保護フィルムとして用いられ得る任意の適切な樹脂フィルムで構成される。樹脂フィルムを構成する材料としては、代表的には、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂の代表例としては、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報に記載されている。これらの公報は、本明細書に参考として援用されている。異形加工の容易性等の観点から、セルロース系樹脂が好ましく、TACがより好ましい。透湿度が低く、耐久性に優れた偏光板が得られるという観点からは、シクロオレフィン系樹脂および(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0034】
保護層12には、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理が挙げられる。さらに/あるいは、保護層12には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、光学積層体は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0035】
保護層12の厚みは、好ましくは10μm~80μmであり、より好ましくは12μm~40μmであり、さらに好ましくは15μm~35μmである。なお、表面処理が施されている場合、保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0036】
D.表面保護フィルム
表面保護フィルム20は、代表的には基材と粘着剤層とを有し、粘着剤層を介して偏光子に剥離可能に仮着されている。基材は、任意の適切な材料で構成され得る。構成材料としては、検査性および管理性等の観点から、等方性を有するまたは等方性に近い材料が用いられ得る。構成材料の具体例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂のような透明なポリマーが挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。基材は、1種または2種以上の構成材料のラミネート体であってもよく、延伸フィルムであってもよい。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、オレフィンモノマーの単独重合体、オレフィンモノマーの共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン;エチレン成分を共重合成分とするブロック系、ランダム系、グラフト系等のプロピレン系共重合体;リアクターTPO;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン系共重合体等が挙げられ、これらの中でも、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0038】
基材の厚みは、目的に応じて適切に設定され得る。基材の厚みは、例えば200μm以下であり、好ましくは10~150μmである。
【0039】
粘着剤層を構成する粘着剤としては、任意の適切な粘着剤を用いることができる。粘着剤層の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは1μm~100μmであり、より好ましくは5μm~50μmである。厚みがこのような範囲であれば、偏光子に対して所望の剥離力を実現することができる。
【0040】
必要に応じて、基材の粘着剤層と反対側の面に剥離処理層を設けてもよい。剥離処理層は、例えば、シリコーン、長鎖アルキル、フッ素等の低接着性材料による表面処理層であり得る。
【0041】
表面保護フィルムとして市販品を用いてもよい。市販品としては、東レフィルム加工(株)製のトレテック 7832C #30が好適に用いられ得る。
【0042】
偏光子と表面保護フィルムとの剥離力は、好ましくは0.01N/10mm~5.0N/10mmであり、より好ましくは0.01~0.5N/10mmであり、さらに好ましくは0.035~0.1N/10mmである。剥離力は、例えば、JIS Z 0237に準じて測定され得る。
【0043】
表面保護フィルムを剥離する際のきっかけ剥離力は、例えば2.0N以下であってもよく、また例えば1.5N以下であってもよく、また例えば1.2N以下であってもよく、また例えば1.0N以下であってもよく、また例えば0.8N以下であってもよく、また例えば0.7N以下であってもよく、また例えば0.6N以下であってもよく、また例えば0.5N以下であってもよい。きっかけ剥離力の下限は、例えば0.05Nであり得る。きっかけ剥離力がこのような範囲であれば、表面保護フィルムを容易に剥離することができ、剥離不良を顕著に抑制することができる。きっかけ剥離力は、例えば、JIS Z 0237に準じて測定され得る。具体的には、試験サンプル(光学積層体)の表面保護フィルム表面に、剥離方向に沿ってピックアップテープを貼り付け、当該ピックアップテープを用いて引張方向90°で剥離したときの剥離力が、きっかけ剥離力として測定され得る。ピックアップテープの幅は例えば10mmであり得、引張速度は例えば300mm/分であり得る。
【0044】
E.偏光板の製造方法
上記A項~D項に記載の本発明の実施形態による光学積層体は、偏光板または偏光板を含む光学フィルムの中間体である。言い換えれば、偏光板または偏光板を含む光学フィルムは、本発明の実施形態による光学積層体を用いて製造され得る。したがって、本発明の実施形態による光学積層体を用いた偏光板の製造方法もまた、本発明の実施形態に包含される。
【0045】
本発明の実施形態による偏光板の製造方法は、上記A項~D項に記載の本発明の実施形態による光学積層体を、該光学積層体の長尺方向に搬送すること;および、該光学積層体を搬送しながら、偏光子に仮着されている表面保護フィルムを剥離すること;を含む。本発明の実施形態においては、表面保護フィルムは、偏光子のクラックの延びる方向が搬送方向に対して30°以上180°未満の角度となる状態で剥離される。
【0046】
例えば、光学積層体が保護層を上側にして搬送されており、上側(保護層側)から見たときのクラックの延びる方向が搬送方向に対して30°以上180°未満の角度となる場合には、この状態で光学積層体を搬送しながら表面保護フィルムを剥離すればよい。光学積層体が上記A項~D項に記載の光学積層体である場合には、いずれの側(保護層側または表面保護フィルム側)から見ても、クラックの延びる方向が搬送方向に対して30°~150°の角度となる。したがって、このような光学積層体は、搬送時の状態(積層順序)を問わず、表面保護フィルムを良好に剥離することができる。
【0047】
また例えば、光学積層体が保護層を上側にして搬送されており、上側(保護層側)から見たときのクラックの延びる方向が搬送方向に対して0°を超えて30°未満の角度となる場合には、この状態で光学積層体を搬送しながら表面保護フィルムを剥離すると、剥離不良が発生する場合が多い。この場合には、光学積層体を巻き替えることにより、剥離不良を抑制することができる。具体的には、光学積層体を一旦ロール状に巻き取った後、再度繰り出すことにより、逆方向に搬送すればよい。これにより、クラックの延びる方向を搬送方向に対して30°以上180°未満の角度となる状態で、表面保護フィルムを剥離することができる。例えば、上側(保護層側)から見たときのクラックの延びる方向が搬送方向に対して15°となる場合には、巻き替えにより上側(保護層側)から見たときのクラックの延びる方向が搬送方向に対して165°となる。すなわち、本発明の実施形態の要件を満たさない光学積層体であっても、巻き替えることにより、剥離不良を抑制することができる。
【0048】
なお、表面保護フィルムの剥離に際しては、クラックの延びる方向と搬送方向とが制御されていればよく、表面保護フィルムは上側に剥離してもよく(上側に位置する状態で光学積層体が搬送されてもよく)、下側に剥離してもよい(下側に位置する状態で光学積層体が搬送されてもよい)。
【0049】
表面保護フィルムが剥離された後、保護層/偏光子の積層体の偏光子表面および/または保護層表面に、目的に応じた各種の光学機能層が積層され、適切な時点で所定サイズ(代表的には、画像表示装置に対応するサイズ)に裁断されて、最終製品としての偏光板または偏光板を含む光学フィルムが得られ得る。光学機能層はロールトゥロールにより積層されてもよく、所定サイズに裁断後貼り合わせられてもよい。光学機能層を複数積層する場合には、一部をロールトゥロールにより積層し、残りを所定サイズに裁断後貼り合わせてもよい。
【実施例0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各種測定方法は以下のとおりである。また、特に明記しない限り、「部」および「%」は重量基準である。
【0051】
(1)押し込み硬さ
ナノインデンター(Hysitron Inc社製、「Triboindenter」)を用いて、以下の測定条件の下、ナノインデンテーション法により測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた偏光板の偏光子の面にナノインデンターの探針(圧子)を押し込み、変位-荷重ヒステリシス曲線から以下の式により算出した。
押し込み硬さ(GPa)=Pmax/A
ここで、Pmaxは変位-荷重ヒステリシス曲線から得られる最大荷重であり、Aは圧子と偏光子との間の接触射影面積である。
(測定条件)
・測定方法:単一押し込み法
・測定温度:25℃
・押し込み速度:約2nm/sec
・押し込み深さ:約300nm
・使用圧子:ダイヤモンド製、Berkovich型(三角錐型)
【0052】
(2)表面保護フィルムの剥離
実施例および比較例で得られたスリットされた長尺状の光学積層体を搬送しながら、光学積層体から表面保護フィルムを剥離した。その際の状態を目視により観察し、以下の基準で評価した。
○(良好):表面保護フィルムを不具合なく剥離できた
×(不良):偏光子の少なくとも一部が表面保護フィルムとともに剥離した
【0053】
(3)端部脱色
実施例および比較例で得られた光学積層体(偏光板)から、偏光子の延伸方向および当該延伸方向に直交する方向をそれぞれ対向する二辺とする試験片(50mm×50mm)を切り出し、粘着剤で試験片を無アルカリガラス板に貼り合わせて測定試料とした。この測定試料を65℃および95%RHのオーブン内で240時間放置して加熱・加湿した後、標準偏光板とクロスニコルの状態に配置した時の、偏光子の端部脱色の状態を顕微鏡により調べた。具体的には、偏光子端部からの脱色の大きさ(端部脱色量:μm)を測定した。顕微鏡としてOlympus社製、MX61Lを用い、倍率10倍で撮影した画像から端部脱色量を測定した。延伸方向の端部脱色量aおよび延伸方向と直交する方向の端部脱色量bの平均値を端部脱色量とした。端部脱色量の評価基準は以下のとおりである。評価結果を表1に示す。
○(良好):端部脱色量が400μm以下
×(不良):端部脱色量が400μmより大きい
【0054】
[製造例1]
1.偏光子の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、140℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に3.0倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が所望の値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温64℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
このようにして、樹脂基材上に厚み5.5μmの偏光子P1を形成し、樹脂基材/偏光子P1の構成を有する長尺状の偏光板を得た。偏光子P1の単体透過率Tsは43.0%であり、押し込み硬さは0.688GPaであった。
【0055】
[製造例2]
空中補助延伸処理における延伸温度を130℃としたこと、延伸倍率を2.4倍としたこと、および、水中延伸処理におけるホウ酸水溶液温度を70℃としたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材/偏光子P2の構成を有する長尺状の偏光板を得た。偏光子P2の単体透過率Tsは43.0%であり、押し込み硬さは0.646GPaであった。
【0056】
[実施例1]
1.光学積層体の作製
製造例1で得られた偏光板の偏光子P1の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、紫外線硬化型接着剤を介して、HC-TACフィルムをロールトゥロールにより貼り合わせた。なお、HC-TACフィルムは、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(厚み25μm)にHC層(厚み7μm)が形成されたフィルムであり、TACフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。次いで、樹脂基材を剥離してHC層/TACフィルム(保護層)/偏光子P1の構成を有する長尺状の偏光板を得た。得られた偏光板の偏光子P1の表面に、PET基材(50μm)/粘着剤層(10μm)の構成を有する表面保護フィルムをロールトゥロールにより貼り合わせ、HC層/TACフィルム(保護層)/偏光子P1/表面保護フィルムの構成を有する長尺状の光学積層体を得た。
【0057】
2.光学積層体のスリット
上記で得られた光学積層体をロール搬送しながら、図3に示すようなスリット刃を用いて、光学積層体の幅方向両端部を偏光子の端辺から30mmずつに設定してスリット(切断)した。スリット刃の切断刃のテーパ角は40°であり、光学積層体のスリット時の搬送張力は350Nであった。さらに、スリット時の切断刃と受け刃との接圧は5Nであり、切断刃と受け刃とのオーバーラップ長Lは0.24mmであり、切断刃の回転速度は光学積層体の搬送速度に対して102%であった。
【0058】
上記のようにして、スリットされた長尺状の光学積層体を得た。得られた光学積層体においては、偏光子端部にクラックが形成されていた。光学積層体を保護層(HC層)側から見たときのクラックが延びる方向は光学積層体の搬送方向に対して80°の方向であり、クラックの平均長さは825μmであった。得られた光学積層体を上記(2)および(3)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2~3および比較例1~3]
表1に示す偏光子を用いたこと、ならびに、スリット刃の切断刃のテーパ角および光学積層体のスリット時の搬送張力を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、スリットされた長尺状の光学積層体を得た。得られた光学積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。なお、表1の「表面保護フィルムの剥離」の項において、「そのまま」は光学積層体をそのままの状態で搬送しながら表面保護フィルムを剥離したことを表し、「巻替え」は光学積層体を巻き替えることにより搬送方向を逆方向としてから表面保護フィルムを剥離したことを表す。
【0060】
【表1】
【0061】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、光学積層体が配向度の高い偏光子を含む場合であっても、表面保護フィルムを剥離する際の剥離不良を抑制することができる。さらに、比較例1と比較例2とを比較すると明らかなように、光学積層体が配向度の低い偏光子を含む場合には、クラックが延びる方向に依存する剥離不良の問題は生じない。しかし、このような偏光子は、高温高湿環境下における端部脱色が大きいという不具合がある。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の実施形態による光学積層体は、偏光板または偏光板を含む光学フィルムの中間体として好適に用いられ得る。本発明の実施形態による光学積層体から得られる偏光板および光学フィルムは、画像表示装置(代表的には、液晶表示装置、有機EL表示装置)に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0063】
11 偏光子
12 保護層
20 表面保護フィルム
100 光学積層体
図1
図2
図3