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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087290
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】吸収性物品の表面材
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20240624BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20240624BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20240624BHJP
【FI】
A61F13/511 200
A61F13/15 142
A61F13/511 300
A61F13/511 100
D04H1/541
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202036
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 宏子
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA07
3B200BB03
3B200BB24
3B200DC02
3B200DC04
3B200EA07
4L047AA27
4L047AA29
4L047BA08
4L047BB09
4L047CA12
4L047CB02
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】効率的な抗菌効果の発現が可能な吸収性物品の表面材に関する。
【解決手段】吸収性物品の表面材は、構成繊維同士の交点が熱融着されて形成された融着部を複数有する。上記構成繊維は、表面に金属酸化物抗菌剤を有する。1本の上記構成繊維に着目したときに、該構成繊維は、2つの上記融着部の間に線状部位を有し、上記線状部位は、上記融着部から延出する第1部位を含む。上記融着部は、単位表面積あたりの上記金属酸化物抗菌剤の配合量が、上記第1部位よりも多い。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維同士の交点が熱融着されて形成された融着部を複数有する吸収性物品の表面材であって、
前記構成繊維は、表面に金属酸化物抗菌剤を有し、
1本の前記構成繊維に着目したときに、該構成繊維は、2つの前記融着部の間に線状部位を有し、前記線状部位は前記融着部から延出する第1部位を含み、
前記融着部は、単位表面積あたりの前記金属酸化物抗菌剤の配合量が、前記第1部位よりも多い
吸収性物品の表面材。
【請求項2】
前記表面材に配合される前記金属酸化物抗菌剤の割合は0.015質量%以上2.0質量%以下である
請求項1に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項3】
前記構成繊維には、前記金属酸化物抗菌剤が練りこまれている
請求項1又は2に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項4】
前記構成繊維は、芯部と鞘部とを有する芯鞘型繊維であり、前記鞘部に前記金属酸化物抗菌剤が配合され、前記構成繊維の表面に前記金属酸化物抗菌剤が露出している
請求項1から3のいずれか一項に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項5】
前記構成繊維の前記第1部位の鞘部の厚み寸法は、前記金属酸化物抗菌剤の直径寸法よりも大きい
請求項4に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項6】
前記融着部の親水性は、前記第1部位の親水性よりも高い
請求項1から5のいずれか1項に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項7】
前記線状部位は、
前記第1部位と、
前記第1部位よりも単位表面積あたりの前記金属酸化物抗菌剤の配合量が多い第2部位と
を有する
請求項1から6のいずれか一項に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項8】
前記融着部は、単位表面積あたりの前記金属酸化物抗菌剤の配合量が、前記第2部位よりも多い
請求項7に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項9】
凹凸構造の肌側面を有する
請求項1から8のいずれか一項に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項10】
前記金属酸化物抗菌剤は酸化亜鉛である
請求項1から9のいずれか1項に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項11】
肌側面を有し、
前記金属酸化物抗菌剤を有する前記構成繊維は、少なくとも前記肌側面に存在する
請求項1から10のいずれか1項に記載の吸収性物品の表面材。
【請求項12】
吸収体と、
前記吸収体の肌側面側に位置する、請求項1から11のいずれか一項に記載の吸収性物品の表面材と
を具備する吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面材に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナー(おりものシート)、失禁パッド等の吸収性物品を着用すると、蒸れ等によって皮膚にかぶれが生じることがある。そのため、かぶれの発生を抑制するべく、吸収性物品に抗菌剤を用いた吸収性物品が提案されている。
例えば特許文献1及び2には、着用者の肌に接する表面材を構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれた吸収性物品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-55187号公報
【特許文献2】特開2021-52938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗菌剤を用いる吸収性物品において、抗菌剤が水に溶けにくいことで、抗菌効果を十分に発揮する前に尿等の排泄液が表面シート(表面材)を透過してしまい、効率的に抗菌効果が発現しにくいという課題があった。
【0005】
本発明は、効率的な抗菌効果の発現が可能な吸収性物品の表面材に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る吸収性物品の表面材は、構成繊維同士の交点が熱融着されて形成された融着部を複数有する。
上記構成繊維は、表面に金属酸化物抗菌剤を有する。
1本の上記構成繊維に着目したときに、該構成繊維は、2つの上記融着部の間に線状部位を有し、上記線状部位は、上記融着部から延出する第1部位を含む。
上記融着部は、単位表面積あたりの上記金属酸化物抗菌剤の配合量が、上記第1部位よりも多い。
【0007】
本発明の一形態に係る吸収性物品は、吸収体と、該吸収体の肌側面側に位置する、上記吸収性物品の表面材とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸収性物品の表面材によれば、効率的な抗菌効果の発現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の吸収性物品の一実施形態としての使い捨ておむつの一例を示す図であり、各部の弾性部材を伸張させて平面状に広げた状態を示す肌側(表面材側)の模式平面図である。
図2図1のII-II線で切断した吸収性物品の模式断面図である。
図3】(A)は上記使い捨ておむつの一部である表面材を構成する不織布の第1例に係わる構成繊維の模式拡大図であり、(B)は図3(A)のIIIB-IIIB線で切断した構成繊維の融着部の模式断面図であり、(C)は図3(A)のIIIC-IIIC線で切断した構成繊維の第1部位の模式断面図である。
図4】(A)は上記使い捨ておむつの一部である表面材を構成する不織布の第2例に係わる構成繊維の模式拡大図であり、(B)は図4(A)のIVB-IVB線で切断した構成繊維の融着部の模式断面図であり、(C)は図4(A)のIVC-IVC線で切断した構成繊維の第1部位の模式断面図であり、(D)は図4(A)のIVD-IVD線で切断した構成繊維の第2部位の模式断面図である。
図5】上記構成繊維を含む表面材の一例であり、フラット構造を有する表面材の模式断面図である。
図6】上記構成繊維を含む表面材の一例であり、凹凸構造の肌側面を有する表面材の斜視図である。
図7】上記構成繊維を含む表面材の一例であり、2層構造からなり、凹凸構造の肌側面を有する表面材の模式断面図である。
図8】上記構成繊維を含む不織布の製造例を説明するための延伸装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<使い捨ておむつの全体構成>
以下、本発明の表面材を備える吸収性物品について、使い捨ておむつを例にあげ、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1に示す本実施形態の使い捨ておむつ1は、いわゆる展開型の使い捨ておむつである。尚、展開型の使い捨ておむつに限定されず、パンツ型の使い捨ておむつにも本発明の表面材を適用できる。
使い捨ておむつ1及び該使い捨ておむつ1を構成する各構成部材は、着用者の前後方向に対応する縦方向Xと、着用者の左右方向に対応し縦方向Xに直交する横方向Yとを有する。さらに、使い捨ておむつ1及び該使い捨ておむつ1を構成する各構成部材は、縦方向X及び横方向Yの双方に直交する厚み方向Zを有する。
本明細書において、各構成における肌側とは、使い捨ておむつ着用時の着用者の肌側に位置する側を示す。各構成における非肌側とは、使い捨ておむつ着用時の着用者の肌側とは反対側に位置する側を示す。また、厚み方向Zに関しては、着用時に着用者の肌に近い側を上、着衣に近い側を下ということがある。
使い捨ておむつ1は、以下、おむつ1と称する。
【0012】
図1に示すように、おむつ1は、縦方向X腹側に位置する腹側領域Aと、縦方向X背側に位置する背側領域Bと、腹側領域Aと背側領域Bとの間に位置する股下領域Cと、に区分される。
背側領域Bは、股下領域Cから左右の横方向Y外方に突出した側部を含む。当該側部の横方向Yにおける側縁部には、ファスニングテープ9が設けられている。同様に、腹側領域Aは、股下領域Cから左右の横方向Y外方に突出した側部を含む。
腹側領域Aの非肌側面には、ファスニングテープ9を接着させるためのランディングテープ(図示せず)が設けられている。該ランディングテープは、機械的面ファスナーの雌部材からなる。ファスニングテープ9は、機械的面ファスナーの雄部材からなる止着部91を有する。
股下領域Cは、腹側領域A及び背側領域Bよりも幅狭となるように、横方向Y内方に括れた脚繰りが形成され、着用時に着用者の排尿部及び肛門等を含む股間部に配置される。
なお、ここでいう「着用時」は、通常想定される適正な着用位置が維持された状態をいう。
【0013】
図1及び2に示すように、おむつ1は、表面材(トップシート)2と、裏面材(バックシート)3と、吸収体4と、サイドシート5と、一対のファスニングテープ9と、中間シート7と、防漏シート8と、を有する。おむつ1は、裏面材3、防漏シート8、吸収体4、中間シート7及び表面材2が厚み方向Zに積層された構成を有する。これらの構成は、例えば、ホットメルト接着剤等の公知の接合手段により互いに接合されている。
【0014】
吸収体4は、縦方向Xに沿って延び、表面材2と裏面材3との間に配置される。すなわち、吸収体4は、表面材2の非肌側に配される。吸収体4は、着用者の尿や便に含まれる水分等の液状排泄物(以下、単に「液」又は「排泄液」ということがある。)を表面材2側の面から吸収し、内部で拡散させて当該液を保持する。
吸収体4は、吸収性コア40と、コアラップシート41と、を有する。
吸収性コア40は、液を保持することが可能な吸収性材料を主体として構成される。具体的に、吸収性コア40は、親水性繊維の積繊体、当該積繊体に吸収性ポリマーを担持させた構成、又は吸水性ポリマーのみからなる構成等を有する。
コアラップシート41は、吸収性コア40を被覆し、例えば吸収性コア40の形状を保持する機能等を有する。コアラップシート41は、例えばティッシュペーパー状の薄く柔らかい紙や液透過性の不織布等で形成される。
【0015】
表面材2は、おむつ1の着用時、着用者の肌に接するように配置される。表面材2は、吸収体4の肌側面4a側(厚み方向Z上方側)に配置され、例えば、おむつ1の肌側面の横方向Y中央部を構成する。表面材2は、液透過性のシート材として構成され、合成繊維又は天然繊維からなる不織布等で形成される。
表面材2は、肌側面2aと、非肌側面2bと、を有する。
【0016】
表面材2と吸収体4との間に、中間シート7が設けられていてもよい。中間シート7には、各種製法によって得られる不織布を用いることができる。中間シート7は、表面材2から吸収体4への液の透過性の向上、吸収体4に吸収された液の表面材2への液戻りの防止等の観点から配置される。
【0017】
裏面材3は、吸収体4の非肌側(厚み方向Z下方)に配置され、例えば、おむつ1の非肌側面のほぼ全体を構成し、着用時のおむつ1の外装を構成する。裏面材3は、防漏性を有していることが好ましく、例えば、液難透過性、水蒸気透過性及び撥水性等の機能を有するシート材で形成される。
【0018】
一対のサイドシート5は、表面材2の横方向Y側部に配置され、例えば、おむつ1の肌側面の横方向Y側部を構成する。サイドシート5は、防漏性を備えていることが望ましく、例えば、液難透過性、水蒸気透過性及び撥水性等の機能を有するシート材で形成される。一対のサイドシート5では、横方向Y中央部側が表面材2に重なって配置され、横方向Y側部が表面材2の外側まで延出し、裏面材3と接合される。
おむつ1では、サイドシート5は、糸状又は帯状の弾性部材50が配されることで、立体ギャザー形成用シートを構成している。
【0019】
防漏シート8は、液不透過性又は液難透過性の樹脂フィルムからなり、裏面材3の肌側面を被覆する。
【0020】
<表面材を構成する構成繊維>
表面材2は、複数の構成繊維から構成される不織布である。表面材2の構成繊維について、図3を用いて第1例の構成繊維60Aを説明し、図4を用いて第2例の構成繊維60Bを説明する。
構成繊維60A及び60Bは、いずれも、1本の構成繊維に着目したときに、他の構成繊維と熱融着してなる融着部63に金属酸化物抗菌剤6が相対的に多く位置するように金属酸化物抗菌剤6が偏って分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維である。以下、構成繊維60Aを金属酸化物抗菌剤配合繊維60A、構成繊維60Bを金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bと言い換えて説明する。また、60A及び60Bというように特に区別する必要がない場合は、金属酸化物抗菌剤配合繊維60という。金属酸化物抗菌剤6については後述する。
【0021】
ここで、おむつ等の吸収性物品は漏れを防ぐ構造となっていることで、おむつ内は、汗や尿等の水分により高温多湿の環境となっている。このように、おむつ内は、皮膚が蒸れて浸軟(ふやけ)して肌のバリア機能が低下しやすい環境にあり、また、排尿後や排便後のおむつ内は細菌が増えやすい環境となっている。
また、便にはタンパク質分解酵素や脂肪分解酵素などの酵素、大腸菌や黄色ブドウ球菌などの腸内細菌が含まれる。黄色ブドウ球菌は、皮膚に対して悪影響を及ぼす悪玉菌である。おむつ内は、排尿により、尿に含まれる尿素が黄色ブドウ球菌によって分解されてアンモニアに変化してアルカリ環境になりやすい。おむつ内がアルカリ環境になると、黄色ブドウ球菌の働きが活発になり、黄色ブドウ球菌は毒素を作り出し、炎症、湿疹や肌かぶれ等の皮膚トラブルを引き起こす。また、おむつ内に便がある場合、おむつ内がアルカリ環境となることで、便中の酵素の作用が活性化され、浸軟して肌のバリア機能が低下している皮膚を刺激して、皮膚トラブルを引き起こしやすい。
【0022】
これに対し、本発明では、着用者の肌に接する表面材2に金属酸化物抗菌剤6が含まれる金属酸化物抗菌剤配合繊維60が用いられているため、排泄初期から抗菌効果が発揮され得る。
そのうえ、本発明では、表面材2に用いられる金属酸化物抗菌剤配合繊維60は、融着部63に金属酸化物抗菌剤6が相対的に多く位置するように分布されて構成されている。このため、より一層効率的かつ効果的に抗菌効果が得られ、排泄初期から着用者からの排泄物に起因する細菌の繁殖が抑制されるとともに、肌の常在菌バランスを良好に維持することができ、皮膚トラブルが生じにくい吸収性物品とすることができる。
以下、第1例及び第2例をあげて、より詳細に説明する。
【0023】
[第1例]
図3(A)に示すように、第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aは、金属酸化物抗菌剤6を含有し、より詳細には、図3(B)及び(C)に示すように、繊維に金属酸化物抗菌剤6が練りこまれて構成される。金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aは、金属酸化物抗菌剤配合繊維60A同士の交点が熱融着された融着部63を複数有する。1本の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aに着目したときに、該金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aは、他の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aとの交点で熱融着された複数の融着部63と、隣り合う2つの融着部63の間に位置する線状部位65と、を有する。図3(A)に示す例では、線状部位65は、第1部位61から構成される。
【0024】
図3(A)に示すように、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aでは、融着部63は、単位面積あたりの金属酸化物抗菌剤6の配合量が、第1部位61よりも多くなっている。
本明細書において、「単位表面積あたりの金属酸化物抗菌剤の配合量」とは、単位表面積あたりの繊維表面に位置する金属酸化物抗菌剤の量を示す。
【0025】
線状部位65間の繊維間距離は、融着部63近傍の繊維間距離よりも広くなっている。このため、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aを用いて構成される吸収性物品の表面材2では、尿や便等の排泄物が供給されると、融着部63に排泄物がより溜まりやすい。
上述のように、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aにおいて、融着部63では、第1部位61よりも金属酸化物抗菌剤6の配合量が多くなっているため、金属酸化物抗菌剤6と排泄物とを効率的に高頻度で接触させることができ、効率的な抗菌が可能となっている。一方、融着部63よりも排泄物がより溜まりにくい線状部位65では相対的に金属酸化物抗菌剤6の配合量が少なくなっているので、表面材2における全体の金属酸化物抗菌剤6の量を減らすことができ、肌の常在菌バランスを良好に維持することができる。
【0026】
このように、本発明の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aを用いた表面材2は、皮膚トラブル防止効果に優れたものとなっている。図3(A)に示す、融着部63に金属酸化物抗菌剤6が多く位置する金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aを製造する製造方法例については、後述する。
【0027】
着目する1本の金属酸化物抗菌剤配合繊維60A表面に位置する金属酸化物抗菌剤6の分布は、金属酸化物抗菌剤配合繊維60AをSEM-EDX分析し、元素マッピングすることにより確認することができる。すなわち、該分析によって、繊維表面の剤が酸化亜鉛(金属酸化物抗菌剤)であることを確認することができるとともに、繊維表面の各部位(第1部位、融着部)における単位表面積あたりの酸化亜鉛の配合量の多少を確認することができる。
【0028】
金属酸化物抗菌剤配合繊維は、例えば、1種類の合成樹脂(熱可塑性樹脂)又は2種類以上の合成樹脂を混合したブレンドポリマーからなる単一繊維でもよく、あるいは複合繊維でもよい。ここでいう複合繊維は、成分の異なる2種類以上の合成樹脂を紡糸口金で複合し、同時に紡糸して得られる合成繊維(熱可塑性繊維)で、複数の成分がそれぞれ繊維の長さ方向に連続した構造で、単繊維内で相互接着しているものをいう。複合繊維の形態には、芯鞘型、サイドバイサイド型等がある。
【0029】
抗菌効果の効率的な発現の観点から、金属酸化物抗菌剤配合繊維の表面に金属酸化物抗菌剤6が露出していることが好ましい。
金属酸化物抗菌剤6を繊維表面に効率的に露出させる観点から、図3(A)~(C)に示すように、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aは、芯鞘型繊維であることが特に好ましい。また、該芯鞘型繊維は、鞘部と芯部が同心円上に配置された同心芯鞘型であることが好ましい。
【0030】
図3(A)~(C)に示すように、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aは、芯部60Cと鞘部60Sとを有する。金属酸化物抗菌剤6は、鞘部60Sにのみ配合される。このように、鞘部60Sにのみ金属酸化物抗菌剤6が配合されることにより、少ない含有量の金属酸化物抗菌剤6で、繊維表面に金属酸化物抗菌剤6を露出させやすくすることができる。
【0031】
金属酸化物抗菌剤配合繊維として、鞘部に金属酸化物抗菌剤が練りこまれた芯鞘型繊維とする他、例えば次のような繊維構成としてもよい。すなわち、単一繊維又は複合繊維からなる構成繊維の表面を、金属酸化物抗菌剤6を含む親水性油剤によって処理することで繊維表面に金属酸化物抗菌剤6を付着させ、融着部の単位表面積あたりの金属酸化物抗菌剤の配合量が第1部位よりも多い金属酸化物抗菌剤配合繊維を構成してもよい。
尚、金属酸化物抗菌剤6の繊維からの脱落をより効果的に防止する観点からは、繊維に練りこまれていることがより好ましい。金属酸化物抗菌剤6が繊維に練り込まれていることで、金属酸化物抗菌剤6は、排泄液とともに他の層に移行し難く、表面材2に留まりやすくなり、効率的かつ効果的な抗菌効果がより得られやすい。
【0032】
図3(B)及び(C)に示すように、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aにおいて、融着部63の繊維径(直径d63)は第1部位61の繊維径(直径d61)よりも大きいことが好ましい。
より詳細には、融着部63における芯部60Cの直径dc63は、第1部位61における芯部60Cの直径dc61とほぼ同じ又はやや大きく、融着部63における鞘部60Sの厚みds63は、第1部位61における鞘部60Sの厚みds61よりも厚くなっている。
このような構成を有する金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aは、後述する延伸加工により製造することができる。
【0033】
第1部位61は融着部63に近接して位置しており、図3(A)に示す例では、融着部63の周囲には4つの第1部位61が位置し、各第1部位61は融着部63から延出している。融着部63は熱融着により比較的剛性の高い部位となるが、その周囲に相対的に繊維径が小さい第1部位61が位置することで、柔らかな風合いの肌触りが向上した不織布とすることができる。
【0034】
ここで、第1部位61は融着部63から突出して細長く延在する部分であり、第1部位61と融着部63の境界は、融着部63から延出する第1部位61の根元部分に対応する。融着部63は、平面視したときに、着目する1本の繊維と他の繊維のそれぞれの芯部が重なり合う領域とその他の領域とを有する。融着部63のその他の領域において、着目する1本の繊維の芯部が存在する部分を、該芯部の長手方向に対して垂直な断面で切断したときの繊維の直径及び鞘部の厚みを、それぞれ融着部63の繊維径d63及び融着部63の鞘部60Sの厚みds63とする。
尚、融着部63では、着目する1本の繊維の断面は芯部と鞘部とが同心円状には必ずしもなっていない。このため、芯部の長手方向に対して垂直な断面において、芯部の中心を通り断面の輪郭部分を通るように、芯部60Cの中心を中心にして回転方向に等間隔に4本の直線をひき、該4本の直線ぞれぞれと断面の輪郭部分との2つの交点の間の長さを測定し、その平均値を、着目する1本の繊維における融着部63の繊維径d63とする。また、断面において、芯部60Cの周囲にある鞘部60Sの厚みを芯部60Cの中心を中心にして回転方向に等間隔で4か所測定し、その平均値を、着目する1本の繊維における融着部63の鞘部60Sの厚みds63とする。
【0035】
また、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aにおいて、第1部位61の鞘部60Sの厚みds61寸法は、金属酸化物抗菌剤6の直径寸法よりも大きいことが好ましい。このような構成とすることで、第1部位61において、鞘部60Sの表面に過度に金属酸化物抗菌剤6が露出することがなく、単位表面積あたりの第1部位61の金属酸化物抗菌剤6の配合量を融着部63よりも確実に少なくすることができる。これにより、金属酸化物抗菌剤6による効率的かつ効果的な抗菌効果が得られるとともに、肌の常在菌バランスを良好に維持することが可能となり、皮膚トラブル防止効果に優れた表面材2とすることができる。
【0036】
良好な肌触りの観点及び効率的な抗菌効果の観点から、第1部位61の鞘部60Sの厚みds61寸法が金属酸化物抗菌剤6の直径よりも大きく、かつ、融着部63の繊維径d63に対する第1部位61の繊維径d61の比率(d61/d63)が、好ましくは0.63以上、更に好ましくは0.66以上、そして、好ましくは0.88以下、更に好ましくは0.85以下であり、具体的には、好ましくは0.63以上0.88以下、更に好ましくは0.66以上0.85以下である。
具体的に、融着部63の繊維径d63は、好ましくは13μm以上、更に好ましくは17μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、そして、好ましくは53μm以下、更に好ましくは49μm以下、特に好ましくは45μm以下であり、具体的には、好ましくは13μm以上53μm以下、更に好ましくは17μm以上49μm以下、特に好ましくは20μm以上45μm以下である。
具体的に、第1部位61の繊維径d61は、好ましくは10μm以上、更に好ましくは13μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは33μm以下、更に好ましくは31μm以下、特に好ましくは28μm以下であり、具体的には、好ましくは10μm以上33μm以下、更に好ましくは13μm以上31μm以下、特に好ましくは15μm以上28μm以下である。
【0037】
具体的に、融着部63の芯部60Cの直径dc63は、好ましくは6μm以上、更に好ましくは8μm以上、特に好ましくは11μm以上であり、そして、好ましくは41μm以下、更に好ましくは38μm以下、特に好ましくは35μm以下であり、具体的には、好ましくは6μm以上41μm以下、更に好ましくは8μm以上38μm以下、特に好ましくは11μm以上35μm以下である。
具体的に、第1部位61の芯部60Cの直径dc61は、好ましくは6μm以上、更に好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上であり、そして、好ましくは27μm以下、更に好ましくは25μm以下、特に好ましくは23μm以下であり、具体的には、好ましくは6μm以上27μm以下、更に好ましくは8μm以上25μm以下、特に好ましくは10μm以上23μm以下である。
具体的に、融着部63の鞘部60Sの厚みds63は、好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは1.4μm以上、特に好ましくは1.7μm以上であり、そして、好ましくは11.2μm以下、更に好ましくは8.8μm以下、特に好ましくは6.4μm以下であり、具体的には、好ましくは1.0μm以上11.2μm以下、更に好ましくは1.4μm以上8.8μm以下、特に好ましくは1.7μm以上6.4μm以下である。
具体的に、第1部位61の鞘部60Sの厚みds61は、好ましくは0.8μm以上、更に好ましくは1.1μm以上、特に好ましくは1.3μm以上であり、そして、好ましくは7.0μm以下、更に好ましくは5.5μm以下、特に好ましくは4.0μm以下であり、具体的には、好ましくは0.8μm以上7.0μm以下、更に好ましくは1.1μm以上5.5μm以下、特に好ましくは1.3μm以上4.0μm以下である。
繊維の繊維径等、各構成の寸法の測定方法については後述する。
【0038】
[第2例]
上述の第1例では、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aの線状部位65が、該線状部位65を間に介して位置する一対の融着部63の一方の融着部63から他方の融着部63までの間で繊維径がほぼ変化しない例(線状部位65が第1部位61から構成される例)をあげたが、第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bのように、線状部位65が、相対的に繊維径が異なる部位を有していてもよい。尚、「繊維径がほぼ変化しない」とは、線状部位65において、該線状部位65の長手方向に対する幅方向の最大寸法d1(最大繊維径)に対する最小寸法d2(最小繊維径)の比率(d2/d1)が0.9より大きく1以下である範囲を指すものとする。
【0039】
図4を用いて金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bについて説明する。以下では、第1例と異なる点について主に説明し、第1例と同様の構成については同様の符号を付し説明を省略する場合がある。金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bも第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aと同様に金属酸化物抗菌剤6を含有する金属酸化物抗菌剤配合繊維であり、鞘部にのみ金属酸化物抗菌剤が練りこまれた芯鞘型繊維である。
【0040】
図4(A)に示すように、1本の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bに着目したときに、該金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bは、複数の融着部63と、2つの融着部63の間に位置する線状部位65と、を有する。更に、線状部位65は、相対的に繊維径が異なる第1部位61Bと第2部位62Bとを有する。図4(A)、(B)及び(C)に示すように第1部位61Bは第2部位62Bよりも繊維径が小さく、第1部位61Bは小径部、第2部位62Bは大径部といえる。
図4(A)に示すように、相対的に繊維径が小さい第1部位61Bは、融着部63に近接して位置し、相対的に繊維径が大きい第2部位62Bは、2つの第1部位61B間に位置する。
【0041】
図4(A)に示すように、融着部63は、第1部位61B及び第2部位62Bよりも、単位表面積あたりの金属酸化物抗菌剤6の配合量が多くなっている。更に、第2部位62Bは、第1部位61Bよりも、単位表面積あたりの金属酸化物抗菌剤6の配合量が多くなっている。つまり、1本の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bに着目したときに、単位表面積あたりの金属酸化物抗菌剤6の配合量は、融着部63が最も多く、次に第2部位62Bが多く、第1部位61Bが最も少なくなっている。
第2例においても、第1例と同様に、着目する1本の金属酸化物抗菌剤配合繊維60B表面に位置する金属酸化物抗菌剤6の分布は、金属酸化物抗菌剤配合繊維60BをSEM-EDX分析し、元素マッピングすることにより確認することができる。
【0042】
図4(B)~(D)に示すように、融着部63の繊維径d63は、第1部位61Bの繊維径d61B及び第2部位62Bの繊維径(直径d62B)よりも大きい。更に、第2部位62Bの繊維径d62Bは、第1部位61Bの繊維径d61Bよりも大きい。
より詳細には、融着部63における芯部60Cの直径dc63と、第2部位62Bにおける芯部60Cの直径dc62Bとはほぼ同じであり、融着部63における芯部60Cの直径dc63及び第2部位62Bにおける芯部60Cの直径dc62Bは、第1部位61Bにおける芯部60Cの直径dc61Bよりも大きくなっている。また、融着部63における鞘部60Sの厚みds63は、第1部位61Bにおける鞘部60Sの厚みds61B及び第2部位62Bにおける鞘部60Sの厚みds62Bよりも厚くなっている。更に、第1部位61Bにおける鞘部60Sの厚みds61Bは、第2部位62Bにおける鞘部60Sの厚みds62Bよりも薄くなっている。
このような構成を有する金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bは、後述する延伸加工により製造することができる。
尚、第1部位61Bと第2部位62Bとの境界は、繊維径が急激に変化する部位とする。
【0043】
金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bにおいても、第1例と同様に、線状部位65間の繊維間距離は、融着部63近傍の繊維間距離よりも広くなっている。このため、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bを用いて構成される吸収性物品の表面材2に尿や便等の排泄物が供給されると、融着部63に排泄物がより溜まりやすい。
上述のように、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bでは、融着部63は、第1部位61B及び第2部位62Bよりも金属酸化物抗菌剤6の配合量が多くなっているため、金属酸化物抗菌剤6と排泄物とを効率的に高頻度で接触させることができ、効率的な抗菌が可能となっている。一方、融着部63よりも排泄物がより溜まりにくい線状部位65では相対的に金属酸化物抗菌剤6の配合量が少なくなっているので、表面材2における全体の金属酸化物抗菌剤6の量を減らすことができ、肌の常在菌バランスを良好に維持することができる。
そのうえ、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bでは、線状部位65において、第1部位61Bよりも金属酸化物抗菌剤6の配合量が多い第2部位62Bを有するので、第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bを用いた表面材2は、第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aを用いた表面材と比較して、表面材2の全面に金属酸化物抗菌剤6が分布した構成となる。これにより、表面材2に供給される排泄物の液量分布に拠らず、面内で均一に抗菌効果が発揮されやすくなっている。
【0044】
このように、本発明の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bを用いた表面材2は、皮膚トラブル防止効果に優れたものとなっている。図4(A)に示す、融着部63に金属酸化物抗菌剤6が多く位置する金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bを製造する製造方法例については、後述する。
【0045】
また、第1例と同様に、効率的な抗菌効果の観点及び肌の常在菌バランスの良好な維持の観点から、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bにおいて、第1部位61Bの鞘部60Sの厚みds61B寸法は、金属酸化物抗菌剤6の直径寸法よりも大きいことが好ましい。
【0046】
図4(B)~(D)を参照して、金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bにおいて、第2部位62Bの繊維径d62Bに対する第1部位61Bの繊維径d61Bの比率(d61B/d62B)は、好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.55以上、そして、好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下であり、具体的には、好ましくは0.5以上0.8以下、更に好ましくは0.55以上0.7以下である。
具体的には、第1部位61Bの繊維径d61Bは、肌触り向上の観点から、好ましくは5μm以上、更にこのましくは6.5μm以上、特に好ましくは7.5μm以上であり、そして、好ましくは26μm以下、更にこのましくは24μm以下、特に好ましくは22μm以下であり、具体的には、好ましくは5μm以上26μm以下、更に好ましくは6.5μm以上24μm以下、特に好ましくは7.5μm以上22μm以下である。
具体的には、第1部位61Bの鞘部60Sの厚みds61Bは、好ましくは0.4μm以上、更に好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは0.7μm以上であり、そして、好ましくは5.6μm以下、更にこのましくは4.4μm以下、特に好ましくは3.2μm以下であり、具体的には、好ましくは0.4μm以上5.6μm以下、更にこのましくは0.5μm以上4.4μm以下、特に好ましくは0.7μm以上3.2μm以下である。
具体的には、第1部位61Bの芯部60Cの直径dc61Bは、好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、そして、好ましくは22μm以下、更にこのましくは20μm以下、特に好ましくは18μm以下であり、具体的には、好ましくは3μm以上22μm以下、更にこのましくは4μm以上20μm以下、特に好ましくは5μm以上18μm以下である。
第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bの具体的な融着部63の繊維径d63、芯部60Cの直径dc63、鞘部60Sの厚みds63は、上述の第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aの融着部63と同様である。第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bの第2部位62Bの繊維径d62B、芯部60Cの直径dc62B、鞘部60Sの厚みds62Bは、上述の第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aの第1部位61の繊維径d61、芯部60Cの直径dc61、鞘部60Sの厚みds61と同様である。第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bの融着部63の繊維径d63に対する第2部位62Bの繊維径d62Bの比率(d62B/d63)は、上述の第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aの融着部63の繊維径d63に対する第1部位61の繊維径d61の比率(d61/d63)と同様である。
繊維の繊維径等、各構成の寸法の測定方法については後述する。
【0047】
[金属酸化物抗菌剤]
上記の金属酸化物抗菌剤6としては、酸化亜鉛、酸化銀、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化銅等を用いることができる。これらの金属酸化物抗菌剤は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも抗菌性、安全性、価格面より酸化亜鉛を含むことが好ましい。
【0048】
金属酸化物抗菌剤は、金属酸化物抗菌剤が他の層へ移動し難くする観点から水難溶性若しくは水不溶性であることが好ましい。
ここでは、金属酸化物抗菌剤として水難溶性の酸化亜鉛を用いる例をあげる。
尚、酸化亜鉛の抗菌メカニズムには諸説ある。例えば、亜鉛イオンが細菌の細胞膜を不安定化し、細胞死を誘導させる説、酸化亜鉛が水と反応し、発生する過酸化水素が菌の作用を抑制させる説等がある。
【0049】
酸化亜鉛は、水難溶性であることで表面材2を厚み方向Zに移動する排泄液とともに吸収体4等の他の層へ移動し難く、表面材2に残留しやすい。加えて、図3及び図4に示す例では、酸化亜鉛は、繊維に練り込まれて構成されているため、表面材2により残留しやすくなっている。
【0050】
金属酸化物抗菌剤6の粒径は、該金属酸化物抗菌剤が配合される繊維の太さや、該繊維への金属酸化物抗菌剤の練り込みやすさの観点から適宜設定される。一般に、金属酸化物抗菌剤の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して1.0μm以上7μm以下である。
【0051】
金属酸化物抗菌剤6は、便による肌かぶれ(皮膚トラブル)を長時間にわたって防止するという効果を一層顕著なものとする観点から、水への溶解性が低い難溶性であることが好ましい。水への溶解性は、後述する溶解度の測定方法により得られる溶解度で評価することができる。
金属酸化物抗菌剤の溶解度は、好ましくは0.01g/100ml以上0.5g/100ml以下、より好ましくは0.03g/100ml以上0.3g/100ml以下、更に好ましくは0.05g/100ml以上0.2g/100ml以下である。
【0052】
(金属酸化物抗菌剤の溶解度の測定方法)
金属酸化物抗菌剤5gを100mlの水に加えて、室温(25℃)にて300rpmで30分間攪拌する。これとは別に、ろ紙の質量を測定し、測定された質量をろ紙の初期質量とする。
質量測定したろ紙を用いて、攪拌後の溶液をろ過し、該ろ紙を乾燥機にて40℃、2時間乾燥させる。乾燥後のろ紙の質量を測定し、測定された質量をろ紙の乾燥後質量とする。そして、下記式により溶解度を算出する。
溶解度(g)=5(g)―{(ろ紙の乾燥後質量)(g)-(ろ紙の初期質量)(g)}
このようにして算出した溶解度が大きいほど、水に対する溶解性が大きいことを表し、該溶解度が小さいほど、水に対する溶解性が小さいことを表す。
【0053】
[金属酸化物抗菌剤配合繊維の繊維径等の測定方法]
測定対象の表面材を剃刀(例えばフェザー安全剃刀株式会社製片刃)で切断し、平面視四角形形状の測定片を得る。この測定対象の切断の際には、その切断によって形成される測定片の切断面の構造が、切断時の圧力などによって破壊されないように注意する。好ましい測定対象の切断方法として、測定対象の切断に先立って、測定対象を液体窒素中に入れて十分に凍結させ、しかる後切断する方法が挙げられる。
紙両面テープ(ニチバン株式会社製内スタックNW-15)を用いて、測定片を試料台に貼り付ける。次いで測定片を白金コーティングする。コーティングには日立那珂精器株式会社製イオンスパッタ装置E-1030型(商品名)を用い、スパッタ時間は30秒とする。
測定片の切断面を、日立製作所株式会社製S-4000型電界放射型操作電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察する。
電子顕微鏡像より、異なる構成繊維10本それぞれの各部位(融着部、第1部位及び第2部位)の繊維径について、繊維の長手方向に対する幅方向の長さを測定し、部位毎に構成繊維10本の測定値の平均値を求め、それをその部位の繊維径とする。
また、異なる構成繊維10本それぞれの各部位(融着部、第1部位及び第2部位)の、繊維の長手方向に直交する面で切断した断面の電子顕微鏡像を用いて、各部位における芯部の直径、鞘部の厚みを測定し、各部位の芯部、鞘部それぞれにおいて、構成繊維10本の測定値の平均値を求め、それを各部位における芯部の直径、鞘部の厚みとする。尚、上述したように、融着部63では、着目する1本の繊維の断面は芯部と鞘部とが同心円状には必ずしもなっていないので、10本の繊維それぞれの融着部の繊維径及び融着部の鞘部の厚みの算出は上述した方法で行う。
また、繊維の断面の電子顕微鏡像から、繊維の断面輪郭の他、例えば芯鞘型繊維であるか、単繊維構造であるかといった繊維構造を把握することができる。また、電子顕微鏡像から、鞘部に金属酸化物抗菌剤が配されていること、繊維表面に金属酸化物抗菌剤が露出していることを確認することができる。
【0054】
[融着部と第1部位の親水性の関係]
金属酸化物抗菌剤配合繊維60A及び60Bにおいて、融着部63は、第1部位61及び61Bよりも親水性が高いことが好ましい。
このような構成とすることで、金属酸化物抗菌剤配合繊維60を含む表面材2では、金属酸化物抗菌剤6の配合量が相対的に多い融着部63に、より排泄物が留まりやすくなり、金属酸化物抗菌剤6と排泄物とをより効率的に高頻度で接触させることができ、効率的な抗菌が可能となる。
【0055】
融着部63が第1部位61及び61Bよりも親水性が高い不織布とする方法としては、例えば不織布に親水性油剤(繊維処理剤)を塗工する方法がある。親水性油剤は、繊維表面を親水化させる繊維処理剤である。親水性油剤は、典型的には親水性界面活性剤である。構成繊維同士の交点である融着部63近傍では繊維間距離が短くなっているため、融着部63には親水性油剤がより溜まりやすくなる。このような融着部63に親水性油剤が多く存在する状態で乾燥することで、融着部63の親水性を第1部位61及び61Bよりも高くすることができる。
更に、不織布に後述する延伸加工を施す場合、加工前に線状部位65に位置していた鞘部を構成する樹脂成分が、延伸加工により融着部63に集まるように移動しやすくなるので、該樹脂成分に付着している親水性油剤が融着部63に集まることになり、融着部63の親水性をより一層高めることができる。
【0056】
親水性の指標としては、接触角を用いることができる。接触角が小さいほど親水性が高く(疎水性が低く)、接触角が大きいほど親水性が低い(疎水性が高い)と判断できる。一般に、親水性に分類される繊維の接触角θは90°以下(好ましくは88°以下であり、小さいほど親水性は高い。)、疎水性に分類される繊維の接触角θは90°超(好ましくは90°超~140°)である。
【0057】
(親水性の測定方法)
測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA-Jを用いる。接触角測定には蒸留水を用いる。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC-25)から吐出される液量を20ピコリットルに設定して、水滴を、繊維(測定用サンプル)の真上に滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に、画像が録画される。録画された映像において、繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.62、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシュホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維とのなす角を算出し、接触角とする。測定用サンプルは、表面材2から取り出して得られる繊維である。該繊維を接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持し、該繊維1本につき、融着部及び第1部位それぞれにおいて、異なる2箇所の位置で接触角を測定する。当該測定対象部位において、N=5本の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10か所の測定値を平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を、該測定対象部位での接触角と定義する。
【0058】
[金属酸化物抗菌剤配合繊維の材料例]
芯鞘型の金属酸化物抗菌剤配合繊維60の原料繊維は、例えば、芯部60CがPET(ポリエチレンテレフタレート)やPP(ポリプロピレン)、鞘部60Sは金属酸化物抗菌剤(酸化亜鉛)が練り込まれたPE(ポリエチレン)からなり、芯鞘比が質量比で20/80~80/20のものを用いることができる。なお、芯鞘比は芯と鞘各々を構成する樹脂の質量比(芯/鞘)を示す。
【0059】
製造方法については後述するが、上記金属酸化物抗菌剤配合繊維60を含む表面材2は、例えば次のように製造される。
上記原料繊維を用い、カード機によって繊維ウェブが形成された後、エアスルー製法によって繊維ウェブに熱風が吹き付けられることで、絡合した繊維の交点が熱融着してなる融着部を有するエアスルー不織布が形成される。該エアスルー不織布を、後述する延伸加工法によって局所的に引き延ばすことで、金属酸化物抗菌剤配合繊維60を有する表面材2を製造することができる。
このようにエアスルー不織布に延伸加工を施す場合、エアスルー不織布の構成繊維に高伸度繊維が含まれることが好ましい。構成繊維は、高伸度繊維に加えて他の繊維を含んで構成されていてもよいが、非弾性繊維のみから構成されていることが好ましく、高伸度繊維のみから構成されていることが更に好ましい。
【0060】
ここで、高伸度繊維とは、原料の繊維の段階で高伸度である繊維のみならず、製造された不織布の段階でも高伸度である繊維を意味する。「高伸度繊維」としては、弾性(エラストマー)を有して伸縮する伸縮性繊維を除き、例えば特開2010-168715号公報の段落[0033]に記載のように低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、延伸処理を行わずに加熱処理及び/又は捲縮処理を行うことにより得られる加熱により樹脂の結晶状態が変化して長さの伸びる熱伸張性繊維、或いはポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂を用いて比較的紡糸速度を低い条件にして製造した繊維、又は、結晶化度の低い、ポリエチレン-ポリプロピレン共重合体、若しくはポリプロピレンに、ポリエチレンをドライブレンドし紡糸して製造した繊維等が挙げられる。それらの繊維のうちでも高伸度繊維は、熱融着性の芯鞘型繊維であることが好ましい。芯鞘型繊維は、同心の芯鞘型でも、偏心の芯鞘型でも、サイドバイサイド型でも、異形型でもよいが、特に同心の芯鞘型であることが好ましい。繊維がどのような形態をとる場合であっても、柔軟で肌触り等のよい不織布等を製造する観点からは、高伸度繊維の繊度は、原料の段階で、1.0dtex以上であることが好ましく、2.0dtex以上であることがより好ましく、そして、10.0dtex以下であることが好ましく、8.0dtex以下であることがより好ましく、具体的には、1.0dtex以上10.0dtex以下が好ましく、2.0dtex以上8.0dtex以下であることがより好ましい。
【0061】
高伸度繊維の伸度は、原料の段階で、100%以上であることが好ましく、より好ましくは200%以上であり、更に好ましくは250%以上であり、そして、800%以下であることが好ましく、より好ましくは500%以下であり、更に好ましくは400%以下であり、具体的には、100%以上800%以下であることが好ましく、より好ましくは200%以上500%以下、更にこのましくは250%以上400%以下である。この範囲の伸度を有する高伸度繊維を用いることで、該繊維が後述する延伸装置内で首尾よく引き伸ばされ、延伸加工する際に繊維が切断されにくい。
【0062】
高伸度繊維の伸度はJISL-1015に準拠し、測定環境温湿度20±2℃、65±2%RH、引張試験機のつかみ間隔20mm、引張速度20mm/minの条件での測定を基準として測定する。なお、すでに製造された不織布から繊維を採取して伸度を測定するとき等、測定する繊維の長さがつかみ間隔を20mmに設定するのに不足する場合には、つかみ間隔を10mm又は5mmに設定して測定する。
【0063】
高伸度繊維において、芯部60Cを構成する樹脂成分は、鞘部60Sの樹脂成分よりも高い融点を有する。芯部60Cを構成する樹脂成分は、繊維の熱伸長性を発現する成分であり、鞘部60Sを構成する樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。
鞘部60Sを構成する樹脂成分は、ポリエチレン樹脂を含む。鞘部60Sを構成する樹脂成分は、ポリエチレン樹脂単独であることが好ましいが、他の樹脂を含んでいてもよい。
芯部60Cを構成する樹脂成分は、鞘部60Sを構成する樹脂成分であるポリエチレン樹脂よりも融点の高い樹脂成分、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を用いることができる。
不織布の製造が容易となることから、芯部を構成する樹脂成分の融点と、鞘部を構成する樹脂成分の融点との差(前者-後者)が、20℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。
【0064】
また、高伸度繊維において、鞘部60Sに分散材を含有させてもよい。これにより、鞘部60Sに練りこまれる金属酸化物抗菌剤6が鞘部60S内で局所的に凝集するということが抑制される。分散材を含むことで、延伸加工を施した後も、金属酸化物抗菌剤配合繊維60において、鞘部60S内に均一に金属酸化物抗菌剤6が分布することになり、融着部63の単位表面積当たりの金属酸化物抗菌剤の配合量が第1部位61及び61Bよりも多くなるように容易に調整することができる。
【0065】
<表面材に占める金属酸化物抗菌剤の割合等>
金属酸化物抗菌剤6による皮膚トラブル防止効果が効率的かつ効果的に発揮されるとともに、肌の常在菌のバランスをより一層良好に保持して皮膚トラブルを抑制する観点から、表面材全体に占める金属酸化物抗菌剤の割合(含有割合)は、好ましくは0.015質量%以上2.0質量%以下であり、より好ましくは0.04質量%以上0.75質量%以下である。表面材に占める金属酸化物抗菌剤の含有割合の算出方法について以下説明する。
【0066】
[表面材に占める金属酸化物抗菌剤の含有割合の算出方法]
表面材を1gはかり取り、できるだけ小さく切り刻んで300mlビーカーに入れ、更に該ビーカーにイオン交換水200mlを入れてマグネティックスターラーで攪拌し、繊維が完全に水と触れるようにする。液を撹拌しながら濃塩酸(約10M)3mlを少しずつ加え、更に1時間撹拌し、第2層を構成する繊維の表面に存在する金属酸化物抗菌剤を溶出させる。次いで、5.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を6ml加えて液を中和させた後、pH10.7の緩衝液(28質量%・NH水溶液54.7mlと0.535gのNHClとを含み、イオン交換水で溶解させたもの)10mlを加えてpHの微調整を行う。
続いて、エリオクロムブラックT試薬(エリオクロムブラックT粉末0.125gと塩酸ヒドロキシルアミン1.125gを無水エタノール25mlに溶解させたもの)を指示薬として加え、液を淡いピンク色とする。0.0002MのEDTA・2Naを滴定液として用いて滴定を行い液がピンク色から淡い青~緑に変色したときの該滴定液の添加量(ml)を滴定値Aとする。そして、以下の式により金属酸化物抗菌剤の質量を算出する。下記式中の「5000000」は、1mоl当たりの滴定液の体積(ml)を意味する。
金属酸化物抗菌剤の質量(g)=滴定値A×金属酸化物抗菌剤1mоl当たりの質量/5000000
以上のようにして算出された金属酸化物抗菌剤の質量は、1gの表面材に含まれる金属酸化物抗菌剤の質量である。したがって、算出された金属酸化物抗菌剤の質量を100倍した値が表面材における金属酸化物抗菌剤の含有割合となる。
【0067】
また、鞘部のみに金属酸化物抗菌剤が練りこまれてなる芯鞘型の金属酸化物抗菌剤配合繊維60において、繊維表面に金属酸化物抗菌剤6が露出して金属酸化物抗菌剤6による皮膚トラブル防止効果が効率的かつ効果的に発揮されるとともに、肌の常在菌バランスを良好に維持する観点から、鞘部60Sを構成する樹脂に占める金属酸化物抗菌剤6の割合は、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上4.0質量%以下である。
【0068】
<表面材の全体構成例>
上記おむつ1に用いられる表面材2の形態例について説明する。
表面材2は、金属酸化物抗菌剤配合繊維60を含んで構成される。
【0069】
表面材2は、図5に示すように、肌側面2a及び非肌側面2bが平坦面の、全体的にフラットな形状であってもよい。図5及び後述する図7において、内部が白い輪郭線だけの小円は、繊維同士の融着部63を模式的に示したものである。
尚、本明細書でいう「平坦」は、巨視的に凹凸が無く平坦であることを意味し、繊維で構成されているが故に生じ得る比較的小さな凹凸の存在は許容される。例えば、厚み方向における凸部の頂部と凹部の底部との差が0.3mm未満の凹凸は許容される。
【0070】
また、図6に示す表面材2のように、肌側面2a及び非肌側面2bが凹凸構造を有する形状であってもよい。図6に示す例では、肌側面2aには、一方向に延びる畝状の凸条部と溝状の凹条部とが交互に配され、肌側面2aは、凸部33と凹部34とを有する凹凸構造となっている。凸部33は肌側に向かって突出して形成され、凸部33どうしの間には、非肌側に向かって凹陥した凹部34が形成されている。非肌側面2bには、肌側面2aの凸条部に対応した溝状の凹条部が位置し、肌側面2aの凹条部に対応した畝状の凸条部が位置し、非肌側面2bも凹凸構造を有している。
【0071】
また、表面材2は複数の不織布層が積層されて構成されてもよく、例えば図7に示すように、上層ULと下層LLとの積層構造としてもよい。図7に示す表面材2は、金属酸化物抗菌剤配合繊維60を含んで構成される上層ULとなる不織布と、抗菌剤が配合されていない複数の融着部71を有する繊維70から構成される下層LLとなる不織布とを重ね合わせ、これら不織布を部分的に接合することによって製造することができる。
図7に示す表面材2では、肌側面2aを構成する上層ULは、凹凸構造を有する不織布層であり、凹部34と凸部33を有する。尚、上層ULの凹凸構造は、図6に示す畝状の凸条部と溝状の凹条部とが交互に配された形態であってもよいし、複数の凸部33及び複数の凹部34が千鳥格子状に形成された形態であってもよく、凸部33及び凹部34それぞれの形状及び配置は特に限定されない。
非肌側面2bを構成する下層LLは、図5に示したような全体的にフラットな不織布層である。
図7に示す表面材2において、上層ULは、着用者の肌に接する層であり、排泄物が直接供給される層である。このため、上層ULを金属酸化物抗菌剤配合繊維60で構成し、下層LLを抗菌剤が配合されていない繊維70で構成することで、全体的に少ない量の金属酸化物抗菌剤6であっても金属酸化物抗菌剤6と排泄物とを効率的に高頻度で接触させることができ、効率的な抗菌が可能となるとともに、常在菌バランスを良好に維持することができる。また、コストの削減が可能となる。更に、上層ULの凹部34では、その窪んだ形状から排泄物が留まり易くなっているため、金属酸化物抗菌剤6と排泄物とをより一層効率的に高頻度で接触させることができる。
尚、表面材2は、全体的にフラットな不織布層が複数積層されて構成されてもよいし、凹凸構造を有する不織布層が複数積層されて構成されてもよい。
【0072】
このように、表面材2は種々の形態をとることができ、少なくともその肌側面2aに、金属酸化物抗菌剤配合繊維60が含まれていればよい。着用者の肌に接する表面材2の肌側面2aに金属酸化物抗菌剤配合繊維60が含まれることで、排泄初期から抗菌効果が発揮され得、排泄初期から着用者からの排泄物に起因する細菌の繁殖が抑制され、皮膚トラブルが抑制される。
【0073】
また、図6及び7に示すように、着用時、着用者の肌が接する肌側面2aを凹凸構造とすることで、肌側面2aが肌に全面的に接触することに起因するべたつき感やムレ、擦れに起因する刺激感が低減され、炎症、湿疹や肌かぶれ等の皮膚トラブルが更に抑制される。
【0074】
<表面材の製造方法>
融着部63に相対的に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維60の製造例について以下説明する。
【0075】
[製造方法例1]
局所的(具体的には融着部)に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維60を含む不織布は、例えば次のように製造することができる。
まず、鞘部にのみ金属酸化物抗菌剤6が練りこまれた芯鞘構造の原料繊維を用いてエアスルー製法により不織布を形成する。該エアスルー不織布は、繊維同士の交点が熱融着し、複数の融着部63を有する。
次に、図8に示すように、エアスルー不織布を、延伸装置20の相互に噛み合う2つの周面に凹凸形状を有する凹凸ロール11、12間に、噛みこませる。これにより、エアスルー不織布が間欠的に延伸され(延伸加工)、例えば図6に示すような外観の不織布を得ることができる。凹凸ロール11は、大径凸部13と小径凹部15とがロール周方向に交互に配されて形成されている。凹凸ロール12は、大径凸部14と小径凹部16とがロール周方向に交互に配されて形成されている。凹凸ロール11、12は、互いに噛み合いが可能となっており、加熱可能に構成される。
図8に示すように、延伸加工後の不織布10は、上方に突出する凸部33の頂部21と、下方に陥凹する凹部34の底部22と、頂部21と底部22との間に位置する壁部23とを有する。壁部23は、延伸加工によって主に延伸される領域であり、頂部21及び底部22はあまり延伸されない領域である。このように、延伸加工では、エアスルー不織布が部分的に延伸される。
【0076】
ここで、融着部63は、熱融着されていることで延伸加工によって延伸されにくい部分である。このため、延伸加工前の2つの融着部63間に位置する線状部位65のうち、融着部63に近接する部分は、延伸加工によって張力がかかりやすく、延伸されやすくなっている。このため、延伸加工後の不織布10において、延伸加工によって引き伸ばされた領域にある繊維では、線状部位65の融着部63に近接した部分は引き伸ばされて第1部位61及び61Bが形成され、また、この引き伸ばされた部分の鞘部の成分樹脂(金属酸化物抗菌剤が練りこまれている樹脂)が融着部63に集まるように移動する。これにより、鞘部の厚みが相対的に薄い第1部位61及び61Bが形成されるとともに、融着部63の鞘部の厚みが厚くなり、金属酸化物抗菌剤配合繊維60は、融着部63に相対的に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する繊維となる。
このように、延伸加工によって、融着部63に相対的に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維60を得ることができる。また、延伸加工により引き伸ばされた領域にある繊維では、線状部位65の長さが加工前よりも長くなるため、通気性及び液透過性が向上した不織布10とすることができる。
【0077】
また、加工前のエアスルー不織布における融着部の数や延伸加工時の延伸倍率を調整することで、線状部位65の形態を調整してもよい。
例えば、延伸加工前のエアスルー不織布の融着部63の数を増やすことで、2つの融着部63間距離を短くし、このような状態のエアスルー不織布に高い延伸倍率で延伸加工を施すことで、図3(A)に示す第2部位62Bのない第1部位61のみを有する線状部位65を備える金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aを得やすい。
一方、延伸加工前のエアスルー不織布の融着部63の数を減らすことで、2つの融着部63間距離を長くし、このような状態のエアスルー不織布に一般的な延伸倍率で延伸加工を施すことで、図4(A)に示す第1部位61B及び第2部位62Bを有する線状部位65を備える金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bを得やすい。第1部位61Bは、延伸加工により延伸された部位である。第2部位62Bは、延伸加工により延伸されなかった部位であり、延伸加工前の線状部位65と同じ繊維径を有する。
尚、エアスルー不織布は、融着部が規則的に位置して形成されるわけではなく、ランダムな大きさの網目状に形成されるため、延伸加工後の不織布10の延伸された領域全てが必ずしも第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60A又は第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bの形態になるものではなく、両者が混在する場合もある。また、図4(A)に示す第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bのように、3つの第1部位61Bと2つの第2部位62Bを含む線状部位65と、2つの第1部位61Bと1つの第2部位62Bを含む線状部位65とを含む形態となる場合もある。
しかしながら、エアスルー不織布における融着部の数や延伸加工時の延伸倍率を調整することで、例えば、第1例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Aが全体的に多い不織布としたり、第2例の金属酸化物抗菌剤配合繊維60Bが全体的に多い不織布としたりというように、調整することが可能である。
【0078】
延伸加工時、凹凸ロール11、12は、加熱してもしなくても良いが、凹凸ロール11、12を加熱することがより好ましい。加熱することで、延伸加工前の線状部位65部分にあった金属酸化物抗菌剤6が配された鞘部の樹脂成分が溶融し、より一層多く融着部63に移動して、融着部63により多くの金属酸化物抗菌剤6が位置するようにすることができる。
【0079】
凹凸ロール11、12を加熱する場合の加熱温度は、構成繊維に含まれる高伸度繊維を延伸し易くする観点から、高伸度繊維内の最もガラス転移点が高い樹脂のガラス転移点以上、高伸度繊維内の最も融点が低い樹脂の融点以下にすることが好ましい。より好ましくは、繊維のガラス転移点より10℃高い温度以上、融点よりも10℃低い温度以下であり、更に好ましくは繊維のガラス転移点より20℃高い温度以上、融点よりも20℃低い温度以下である。
【0080】
このように、延伸加工でエアスルー不織布を局所的に伸ばすことで、上述の融着部63に金属酸化物抗菌剤6が相対的に多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維60を有する不織布10を得ることができ、この不織布10を用いて表面材2を構成することができる。
【0081】
例えば図7に示すように、延伸加工を施し凹凸構造を有する不織布10を上層ULとし、フラット構造の不織布を下層LLとして両者を積層し部分的に接合することで表面材2を形成することができる。
また、上記延伸加工によって凹凸賦形がなされた不織布10を図5に示すようにフラット形状に引き伸ばして、表面材2としてもよい。このようにフラット形状に引き伸ばしても、融着部63に相対的に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維60の形態は維持される。
また、上記延伸加工によって凹凸賦形がなされた不織布10を、図6に示すように、単独で表面材2として用いてもよい。しかしながら、表面材2の凹凸形状を良好に維持する観点からは、図7に示すように、他の不織布層(図7では下層LL)で、凹凸構造の不織布層(図7では上層UL)を支持するような形態とすることが好ましい。
【0082】
また、上述したように、第1部位61及び61Bの鞘部60Sの厚みds61及びds61B寸法は、金属酸化物抗菌剤6の直径寸法よりも大きいことが好ましく、延伸加工時の延伸倍率を調整することで、このような構成とすることができる。
【0083】
[製造方法例2]
融着部63に相対的に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維の他の製造例について説明する。
【0084】
金属酸化物抗菌剤6を含まない芯鞘構造の原料繊維を用いてエアスルー製法によりエアスルー不織布を形成する。該エアスルー不織布は、繊維同士の交点が熱融着し、複数の融着部を有する。該エアスルー不織布に、金属酸化物抗菌剤を含む親水性油剤(繊維処理剤)を塗工する。塗工された親水性油剤は、繊維の毛管力によって、融着部に多く集まる。これを乾燥することで、融着部の表面に相対的に金属酸化物抗菌剤6が多く分布する金属酸化物抗菌剤配合繊維を含む、表面材用の不織布を製造することができる。
【0085】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0086】
例えば、以上の実施形態では、吸収性物品として使い捨ておむつの例を示したが、これに限定されない。本発明の吸収性物品は、例えば、尿取りパットやおりものシート、生理用ナプキン等であってもよく、これら吸収性物品の表面材として本発明の表面材を用いることができる。吸収性物品は、一般に、液透過性の表面材、液不透過性の裏面材、及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を有して構成される。
【0087】
また、上述の各実施形態において、金属酸化物抗菌剤配合繊維に金属酸化物抗菌剤以外の界面活性剤・有機化合物などの抗菌剤が含まれていてもよい。
【0088】
また、金属酸化物抗菌剤配合繊維にスキンケア剤が含まれていてもよい。
スキンケア剤としては、疎水性スキンケア剤、親水性スキンケア剤等を用いることができる。
【0089】
疎水性スキンケア剤とは、水溶性及び水分散性を有さないか、また極めて溶解性が低い疎水性成分のことであり、且つ着用者の肌に対して保護、治癒等の効能を有する組成物又は化合物のことである。より具体的には、疎水性成分とは、成分の剤10gをイオン交換水1L中で混合した後に24時間静置したときの溶解量が1g未満のものを言い、好ましくは、0.1g以下の溶解量のものであり、特に好ましくは完全に溶解しないものである。
疎水性スキンケア剤としては、炭素鎖長12~28の脂肪酸又は該脂肪酸とグリセリンのエステル化合物や、ワックス、ワセリン等が挙げられ、特に、炭素鎖長12~28の不飽和脂肪酸又は該不飽和脂肪酸のグリセリンエステル化合物を含むことが好ましい。当該グリセリンエステルは、グリセリンと前述の不飽和脂肪酸のモノエステル、ジエステル又はトリエステルであるが、特に、トリエステルであることが好ましい。脂肪酸又は脂肪酸化合物を含む剤としては、アルガンオイル、シアバター等の天然物抽出成分が好ましく使用できる。特に、不飽和脂肪酸を含む疎水性の植物油であるアルガンオイルは、肌の水分と油分のバランスを保ち乾燥を防ぎ、スキンケア剤として機能する。また、アルガンオイルは、オレイン酸、リノール酸といった不飽和脂肪酸を多くふくみ、活性酸素除去力が強く、例えば日焼けによる肌のダメージを軽減させることができる。
【0090】
一方、親水性スキンケア剤とは、水溶性又は水分散性を有する親水性成分のことであり、かぶれや炎症の発生を抑制し、かぶれや炎症が生じた場合には、当該かぶれや炎症の進行を抑制するか、又は当該かぶれや炎症を緩和させることができるものであることが好ましい。より具体的には、親水性成分とは、成分の剤10gをイオン交換水1L中で混合した後に24時間静置したときの溶解量又は分散量が1g以上のものを言い、好ましくは、5g以上の溶解量又は分散量のものであり、より好ましくは、1g以上溶解するもの、一層好ましくは5g以上溶解するもので、最も好ましいのは、完全に溶解するものである。
親水性スキンケア剤としては、桃の葉エキス、ハマメリスエキス等の天然物抽出成分や炭鎖数が2~4の多価アルコール、ポリエチレングリコール、スキンケア等の機能を有する親水性化合物等を用いることができる。
これらの中でも、植物抽出エキスである桃の葉エキス(親水性エキス)は、抗菌作用、抗炎症作用を有することから好ましい。表面材に供給された液に親水性成分である桃の葉エキスがとけ、肌に移行することによりスキンケア効果が生じる。
炭鎖数が2~4の多価アルコールは、親水性成分であり、典型的には、1,3-ブチレングリコールである。1,3-ブチレングリコールを用いることにより、保湿効果と潤滑性が向上する。潤滑性が向上することにより、肌と不織布との摩擦を低減することができ、肌へのダメージが抑制される。1,3-ブチレングリコールは、保湿性のある液状の水溶性基剤成分で、さらっとした使用感でべたつきが少なく、肌の潤いを保つ。1,3-ブチレングリコールは、保湿剤として用いられる他、溶剤としても用いられる。例えば、桃の葉エキスをスキンケア剤として用いる場合、桃の葉エキスの溶剤として1,3-ブチレングリコールを用いることができる。尚、ここでは、1,3-ブチレングリコールを例にあげたが、炭鎖数が2~4の多価アルコールであれば同様の効果を示し、例えばプロピレングリコールを用いてもよい。プロピレングリコールも桃の葉エキス(親水性エキス)の抽出溶媒として用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
1…使い捨ておむつ(吸収性物品)
2…表面材(吸収性物品の表面材)
6…金属酸化物抗菌剤
60、60A、60B…金属酸化物抗菌剤配合繊維(構成繊維)
61、61B…第1部位
63…融着部
65…線状部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8