(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087292
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】車両のドアのロック解除システム
(51)【国際特許分類】
E05B 85/12 20140101AFI20240624BHJP
E05B 81/90 20140101ALI20240624BHJP
E05B 81/64 20140101ALI20240624BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
E05B85/12 Z
E05B81/90
E05B81/64
B60J5/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202039
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 尚克
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250JJ48
2E250LL01
2E250PP13
2E250SS09
(57)【要約】
【課題】車両のドアのロック機構を電気的に解錠可能なスイッチと、ロック機構を機械的に解錠可能なインサイドハンドルを備えた車両のドアのロック解除システムにおいて、これらスイッチとインサイドハンドルの操作の識別性を向上させること。
【解決手段】車両1のドア2のロック解除システム10は、車両1に電源が供給された電源ON時に、ドア2のロック機構を電気的に解錠可能なスイッチ50と、ロック機構を機械的に解錠可能なインサイドハンドル30と、電源ON時に、インサイドハンドル30の解錠動作を規制しつつ、インサイドハンドル30を所定位置に保持する保持装置60を備えている。電源が喪失された電源OFF時に、保持装置60によるインサイドハンドル30の解錠動作の規制を解消しつつ、インサイドハンドル30の所定位置の保持を解消する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアのロック解除システムであって、
前記車両に電源が供給された電源ON時に、前記ドアのロック機構を電気的に解錠可能なスイッチと、
前記ロック機構を機械的に解錠可能なインサイドハンドルと、
前記電源ON時に、前記インサイドハンドルの解錠動作を規制しつつ、前記インサイドハンドルを所定位置に保持する保持装置と、を備え、
前記電源が喪失された電源OFF時に、前記保持装置による前記インサイドハンドルの前記解錠動作の規制を解消しつつ、前記インサイドハンドルの前記所定位置の保持を解消する車両のドアのロック解除システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のドアのロック解除システムであって、
前記保持装置は、電磁ソレノイドから構成されている車両のドアのロック解除システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両のドアのロック解除システムであって、
前記インサイドハンドルは、前記ドアに設けられたアームレストに形成された凹部に組み付けられており、
前記インサイドハンドルの表面は、前記所定位置において、その表面が前記凹部を塞ぐように前記アームレストの表面に略面一状態となっている車両のドアのロック解除システム。
【請求項4】
請求項1に記載の車両のドアのロック解除システムであって、
前記スイッチは、前記アームレストに組み付けられている車両のドアのロック解除システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両のドアのロック解除システムであって、
前記保持装置による前記インサイドハンドルの前記解錠動作の規制が解消されると、前記インサイドハンドルが前記所定位置から前記車両の内部に向けて進出する車両のドアのロック解除システム。
【請求項6】
請求項1に記載の車両のドアのロック解除システムであって、
前記スイッチは、前記インサイドハンドルに組み付けられている車両のドアのロック解除システム。
【請求項7】
請求項1に記載の車両のドアのロック解除システムであって、
前記保持装置による前記インサイドハンドルの前記解錠動作の規制が解消されると、前記スイッチおよび前記インサイドハンドルが前記所定位置から前記車両の外部に向けて押し込み可能となる車両のドアのロック解除システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアのロック解除システムに関し、詳しくは、車両のドアのロック機構を電気的に解錠可能なスイッチと、ロック機構を機械的に解錠可能なインサイドハンドルを備えた車両のドアのロック解除システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のドアのドアトリムに設けられたアームレストには、車両のドアのロック機構を電気的に解除可能なスイッチが設けられている。このようにスイッチが設けられていると、乗員は、手(指)でスイッチを操作した後、手でアームレストの把持部を掴み、ドアトリムを外方に押し出してドアを開けることができる。そのため、ドアトリムに組み付けられた従来のインサイドハンドルの操作によってロック機構を機械的に解除する場合と比較すると、インサイドハンドルを操作した後に把持部を掴むといった手を移動させる動作が不要となる。したがって、降車する際に乗員が必要とする所作を2つから1つに減らすことができる。もちろん、上述したようにスイッチがアームレストに設けられていても、車両の電源が喪失された電源OFF時(例えば、車両のバッテリ上がり時)でも乗員が降車するために(ドアを開けるために)、従来と同様のインサイドハンドルがドアトリムに設けられている。
【0003】
ここで、下記特許文献1には、スイッチと、インサイドハンドルとをアームレストに設け、インサイドハンドルをスイッチの周縁部に配置させた技術が開示されている。この開示では、乗員がスイッチを操作する方向とインサイドハンドルを操作する方向が同方向に設定されている。これにより、車両の電源が喪失された電源OFF時にインサイドハンドルを操作してロック機構を機械的に解錠する際、この解錠に必要な操作を乗員が感覚的に認識することができつつ、この解除に必要な操作を簡略化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、車両の電源が喪失された電源OFF時だけでなく車両に電源が供給されている電源ON時(車両にバッテリ上がりが生じていない通常時)でも、インサイドハンドルは、乗員の操作を許容する構成となっている。そのため、この電源ON時に、スイッチまたはインサイドハンドルのどちらの操作でもドアのロック機構を解錠できる構成となっている。したがって、乗員にとってドアのロック機構の解錠の操作方法が紛らわしいという問題が考えられる。
【0006】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、車両のドアのロック機構を電気的に解錠可能なスイッチと、ロック機構を機械的に解錠可能なインサイドハンドルを備えた車両のドアのロック解除システムにおいて、車両の電源ON時と電源OFF時におけるロック機構の解錠の操作方法の違いを乗員に識別させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの特徴によると、車両のドアのロック解除システムは、車両に電源が供給された電源ON時に、ドアのロック機構を電気的に解錠可能なスイッチと、ロック機構を機械的に解錠可能なインサイドハンドルと、電源ON時に、インサイドハンドルの解錠動作を規制しつつ、インサイドハンドルを所定位置に保持する保持装置を備えている。電源が喪失された電源OFF時に、保持装置によるインサイドハンドルの解錠動作の規制を解消しつつ、インサイドハンドルの所定位置の保持を解消する。
【0008】
そのため、車両に電源が供給された電源ON時において、ロック機構を機械的に解除するためのインサイドハンドルは、所定位置に保持された状態で解錠動作が規制されている。すなわち、この電源ON時において、インサイドハンドルは、乗員による操作を受け付けない状態である。また、この電源ON時において、ロック機構を電気的に解錠するためのスイッチは、乗員による操作を受け付ける状態である。一方、車両の電源が喪失された電源OFF時において、インサイドハンドルは、所定位置の保持が解消された状態で解錠動作の規制が解消されている。すなわち、この電源OFF時において、インサイドハンドルは、乗員による操作を受け付ける状態である。また、この電源OFF時において、スイッチは、乗員による操作を受け付けない状態である。したがって、車両の電源ON時と電源OFF時におけるロック機構の解錠の操作方法の違いを乗員に識別させることができる。
【0009】
本開示の他の特徴によると、保持装置は、電磁ソレノイドから構成されている。
【0010】
そのため、保持装置を簡便なもので実施できる。
【0011】
また、本開示の他の特徴によると、インサイドハンドルは、ドアに設けられたアームレストに形成された凹部に組み付けられている。インサイドハンドルの表面は、所定位置において、その表面が凹部を塞ぐようにアームレストの表面に略面一状態となっている。
【0012】
そのため、インサイドハンドルがアームレストに組み付けられていても、凹部が露出しないため、アームレストの意匠性の悪化を抑えることができる。
【0013】
また、本開示の他の特徴によると、スイッチは、アームレストに組み付けられている。
【0014】
そのため、スイッチの操作とインサイドハンドルの操作を個別に実施できる。
【0015】
また、本開示の他の特徴によると、保持装置によるインサイドハンドルの解錠動作の規制が解消されると、インサイドハンドルが所定位置から車両の内部に向けて進出する。
【0016】
そのため、車両の電源が喪失された電源OFF時に、乗員は、進出したインサイドハンドルに容易に気づくことができる。ゆえに、インサイドハンドルの操作を行って、容易にドアを開けることができる。
【0017】
また、本開示の他の特徴によると、スイッチは、インサイドハンドルに組み付けられている。
【0018】
そのため、スイッチの操作に伴ってインサイドハンドルの操作を実施できる。
【0019】
また、本開示の他の特徴によると、保持装置によるインサイドハンドルの解錠動作の規制が解消されると、スイッチおよびインサイドハンドルが所定位置から車両の外部に向けて押し込み可能となる。
【0020】
そのため、インサイドハンドルの操作をスイッチを押す通常の操作の延長操作(感覚的な操作)として実施できる。したがって、乗員にとってインサイドハンドルの操作をし易いものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係るロック解除システムを適用した車両のドアの全体模式図である。
【
図6】
図5において、乗員によってスイッチが押し操作された状態を示している。
【
図7】
図5において、電源が喪失された電源OFF時の状態を示している。
【
図8】
図7において、乗員によってインサイドハンドルが引き操作された状態を示している。
【
図9】第2実施形態に係るロック解除システムを適用した車両のドアのアームレストの一部の斜視図である。
【
図13】
図12において、乗員によってスイッチが押し操作された状態を示している。
【
図14】
図12において、電源が喪失された電源OFF時の状態を示している。
【
図15】
図14において、乗員によってインサイドハンドルが押し操作された状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下に、本発明を実施するための第1実施形態を、
図1~8を用いて説明する。なお、以下の説明にあたって、上下、前後、左右の向きは、車両1(例えば、自動車)の向きを基準としたときの上下、前後、左右の向きである。また、以下の説明にあたって、ドア2は、右ハンドルの車両1の運転席(図示しない)の右フロントサイドドアを例に説明する。このことは、後述する第2実施形態においても同様である。
【0023】
まず、車両1のドア2を説明する。ドア2は、乗員80が乗降するための車両1の右フロントの開口(図示しない)を開閉するためのものであり、ドア本体3と、ドアトリム6を備えている(
図1参照)。ドア本体3は、車両1の外部側の部分を構成するように上下、前後を面方向に沿って延在された金属製のドアアウタパネル(図示しない)と、同内部側の部分を構成するように上下、前後を面方向に沿って延在された金属製のドアインナパネル5とを備えている(
図5参照)。
【0024】
ドアインナパネル5は、ドアアウタパネルの車両1の内部側に一体を成すように組み付けられている。そのため、ドア2は、ドアアウタパネルとドアインナパネル5が左右方向において対向する2重構造となっている。
【0025】
ドアトリム6は、ドア本体3の車両1の内部側の意匠面を構成するためのドアトリム本体7と乗員80が手81で掴み可能なアームレスト8を備えている。ドア本体3とドアトリム6の間には、僅かな空間(図示しない)が形成されている。この空間には、ロック機構9と制御装置70が備えられている(
図1参照)。ロック機構9は、ラチェット9aと、アクチュエータ9bを備えている。
【0026】
ラチェット9aは、車両1の右フロントの開口の縁に設けられたストライカ(図示しない)に係合可能となっている。ストライカにラチェット9aが係合すると、車両1に対してドア2がロックされたロック状態となる。ラチェット9aには、ワイヤ部材40が掛け留めされている。ワイヤ部材40は、アウタケーブル41と、アウタケーブル41の内部を移動可能なインナケーブル42とから構成される2重構造のワイヤである(
図3参照)。
【0027】
アウタケーブル41の一端部(図示しない)は、ロック機構9の筐体(図示しない)に掛け留めされている。アウタケーブル41の他端部41bは、後述するアームレスト本体20の内部に掛け留めされている。インナケーブル42の一端部42aは、ラチェット9aに掛け留めされている。インナケーブル42の他端部42bは、後述するインサイドハンドル30の延出部32に掛け留めされている。
【0028】
そのため、インサイドハンドル30側に向けてインナケーブル42が引き操作されると、ストライカに対するラチェット9aの係合が解消する。これにより、車両1に対するドア2のロックが解消されたロック解消状態となる。また、アクチュエータ9bは、ラチェット9aに機械的に接続されている。そのため、アクチュエータ9bが動作すると、ストライカに対するラチェット9aの係合が解消する。この場合も同様に、車両1に対するドア2のロックが解消されたロック解消状態となる。
【0029】
ドアトリム本体7は、ドア本体3のドアインナパネル5を覆うように上下、前後を面方向に沿って延在された樹脂製のパネルである。ドアトリム本体7には、アームレスト8を備える部位において、上部に開口7aを有するボックス7bを備えている(
図3参照)。ドアトリム本体7は、クリップ5aを介してドアインナパネル5に組み付けられている(
図5参照)。
【0030】
アームレスト8は、ドアトリム本体7の上下方向の略中央において、車両1の内部に向けて膨出し、且つドアトリム本体7の前後方向に延びる略直方体状に形成されているアームレスト本体20と、アームレスト本体20の上部を覆う意匠パネル21を備えている(
図2~3参照)。
【0031】
アームレスト本体20は、インサイドハンドル30と、スイッチ50と、保持装置としての電磁ソレノイド60を備えている。これらインサイドハンドル30と、スイッチ50と、電磁ソレノイド60が、特許請求の範囲に記載の「ロック解除システム10」に相当する。インサイドハンドル30は、ロック機構9を機械的に解錠するための部材である。インサイドハンドル30は、乗員80が操作可能な矩形状のハンドル操作部31と、ハンドル操作部31に略直交するように一端に形成された延出部32と、延出部32に略平行するように他端に形成されたロック片33を備えている(
図5参照)。
【0032】
ハンドル操作部31は、アームレスト本体20に形成された矩形状の開口20aより僅かに小さく形成されている(
図4参照)。そのため、後述する通常状態において、開口20aに生じる隙間を僅かなものにできる。したがって、アームレスト8の見栄えを向上させることができる。ロック片33には、後述する電磁ソレノイド60のソレノイドレール62の先端部62aを抜き挿し可能な係合孔33aが形成されている。
【0033】
係合孔33aは、挿し込まれるソレノイドレール62の先端部62aに対して左右方向において十分に大きく形成されている(
図5参照)。すなわち、係合孔33aは、ソレノイドレール62の先端部62aが挿し込まれた状態において、隙間Sを備えている。係合孔33aの内壁において、ハンドル操作部31側の内壁は、テーパ面33bとなっている。
【0034】
インサイドハンドル30の延出部32は、ハンドル操作部31がアームレスト本体20の開口20aから進退可能に、アームレスト本体20の内部に上下方向を軸方向とする軸周りに回転可能にヒンジピン35を介して組み付けられている(
図3参照)。そのため、インサイドハンドル30は、アームレスト本体20の凹部(開口20aの内部)に組み付けられていることとなる。
【0035】
ヒンジピン35には、トーションばね36が介装されている。トーションばね36の一端と他端は、アームレスト本体20とインサイドハンドル30の延出部32にそれぞれ掛け留めされている。これにより、組み付けたインサイドハンドル30は、アームレスト本体20に対して車両1の内部に向けて(
図5において、矢印方向に向けて)トーションばね36により付勢されている。
【0036】
スイッチ50は、車両1に電源が供給された電源ON時(例えば、車両1にバッテリ上がりが生じていない時)に、ロック機構9を電気的に解錠するための部材である。スイッチ50は、固定部51と可動部52を備えている。可動部52は、スイッチ操作部53を備えている。スイッチ操作部53が押し操作されると、固定部51に対し可動部52が可動する。これにより、固定部51に内蔵の接点(図示しない)がON動作する。スイッチ50の固定部51は、アームレスト本体20の組付部20bに組み付けられている(
図3参照)。
【0037】
電磁ソレノイド60は、電磁ソレノイド本体61と、ソレノイドレール62を備えている。ソレノイドレール62の先端部62aには、ロック片33の係合孔33aのテーパ面33bと略平行なテーパ面62bが形成されている。ソレノイドレール62の基端部62cには、径方向に向かって張り出す鍔62dが形成されている。ソレノイドレール62には、電磁ソレノイド本体61と鍔62dの間において、圧縮ばね62eが介装されている。
【0038】
電磁ソレノイド60の電磁ソレノイド本体61は、アームレスト本体20の内部に組み付けられている。ソレノイドレール62は、電磁ソレノイド本体61が通電されると、電磁ソレノイド本体61に対して圧縮ばね62eの付勢力に抗して進出するように設定されている。そのため、この通電が解消されると、ソレノイドレール62は、電磁ソレノイド本体61に対して圧縮ばね62eの付勢力により退行する。
【0039】
意匠パネル21には、ボックス7bの開口7aに対応する位置に開口21aが形成されている(
図2~3参照)。そのため、この意匠パネル21の開口21aの縁を乗員80が手81で掴むことができる。すなわち、アームレスト8に乗員80が手81で掴むための把持部8a(意匠パネル21の開口21aの縁)を備えることとなる。
【0040】
なお、制御装置70は、第1ハーネス71を介して電磁ソレノイド60に電気的に接続されている。これにより、制御装置70から電磁ソレノイド60に電源を供給できる。また、制御装置70は、第2ハーネス72を介してスイッチ50に電気的に接続されている。これにより、制御装置70は、固定部51に内蔵の接点のON動作の信号を受信できる。また、制御装置70は、第3ハーネス73を介してアクチュエータ9bに電気的に接続されている。これにより、制御装置70は、アクチュエータ9bを動作させる信号を送信できる。
【0041】
続いて、
図5~8を参照して、上述したドア2(ロック解除システム10)の作用を説明する。以下の作用の説明では、通常時の降車の手順と、緊急時の降車の手順を個別に説明する。通常時とは、車両1に電源が供給されている電源ON時の状態(例えば、車両1にバッテリ上がりが生じていない状態)のことである。一方、緊急時とは、車両1の電源が喪失された電源OFF時の状態(例えば、車両1にバッテリ上がりが生じた状態)のことである。
【0042】
はじめに、通常時の降車の手順から説明する。この降車の手順を説明する前に、先に、通常時のロック解除システム10の状態を説明する。この通常時の状態では、車両1に電源が供給されているため、電磁ソレノイド60の電磁ソレノイド本体61は通電(励磁)されている。そのため、ソレノイドレール62は、電磁ソレノイド本体61に対して圧縮ばね62eの付勢力に抗して進出している(
図5参照)。
【0043】
この進出したソレノイドレール62の先端部62aは、インサイドハンドル30のロック片33の係合孔33aに挿し込まれている。したがって、付勢されているインサイドハンドル30のハンドル操作部31がアームレスト本体20の開口20aから進出することなく、アームレスト本体20の内部に退行した位置に保持されている。このように保持されていると、インサイドハンドル30のハンドル操作部31を引く操作(インサイドハンドル30の解錠動作)が規制されることとなる。
【0044】
この退行した位置が、特許請求の範囲に記載の「所定位置」に相当する。なお、この退行した位置において、インサイドハンドル30のハンドル操作部31の表面は、アームレスト本体20の開口20aの内部を塞ぐようにアームレスト本体20の表面に略面一状態となっている。また、この通常時の状態では、ラチェット9aは、車両1のストライカに係合している。そのため、車両1に対してドア2がロックされたロック状態となっている。
【0045】
このような通常時の状態において、乗員80が降車する場合、まず、乗員80は、手81でインサイドハンドル30のハンドル操作部31を押す操作を行う(
図6参照)。すると、係合孔33aが隙間Sを備えているため、テーパ面33b、テーパ面62bが面接触するまでハンドル操作部31がトーションばね36の付勢力に抗してヒンジピン35の軸回りに回転する(押し操作される)。すなわち、インサイドハンドル30のハンドル操作部31が僅かに押し操作された状態となる。
【0046】
これにより、電磁ソレノイド60のソレノイドレール62が退行することなく、回転したハンドル操作部31によりスイッチ50のスイッチ操作部53が押し操作される。そのため、固定部51に対し可動部52が押し込まれるため、固定部51に内蔵の接点がON動作する。したがって、制御装置70からの信号に基づいてアクチュエータ9bが動作する。ゆえに、ストライカに対するラチェット9aの係合が解消するため、車両1に対するドア2のロックが解消されたロック解消状態となる。
【0047】
次に、乗員80は、手81でアームレスト8の把持部8aを掴み、ドアトリム本体7(ドアトリム6)を外方に押し出す操作を行う。これにより、ドア2が開くため、乗員80は降車できる。なお、インサイドハンドル30のハンドル操作部31の押し操作を解消すると、インサイドハンドル30は、トーションばね36の付勢力により押し操作する前の状態に戻される(
図5参照)。
【0048】
続いて、緊急時の降車の手順を説明する。この降車の手順を説明する前に、先に、緊急時のロック解除システム10の状態を説明する。この緊急時の状態では、電磁ソレノイド60の電磁ソレノイド本体61は通電(励磁)されていない。そのため、ソレノイドレール62は、圧縮ばね62eの付勢力によりインサイドハンドル30の係合孔33aから退行している。したがって、インサイドハンドル30の解錠動作の規制が解消されつつ、インサイドハンドル30の所定位置の保持も解消されることとなる。
【0049】
ゆえに、インサイドハンドル30のハンドル操作部31は、トーションばね36の付勢力によりヒンジピン35の軸回りに回転するため、回転したインサイドハンドル30のハンドル操作部31がアームレスト本体20の開口20aから進出している(
図7参照)。また、この緊急時の状態でも、ラチェット9aは、車両1のストライカに係合している。そのため、車両1に対してドア2がロックされたロック状態となっている。
【0050】
このような緊急時の状態において、乗員80が降車する場合、乗員80は、手81で進出したインサイドハンドル30のハンドル操作部31を引く操作を行う。(
図8参照)。すると、ハンドル操作部31がヒンジピン35の軸回りに回転する(引き操作される)ため、回転したハンドル操作部31によりワイヤ部材40のインナケーブル42が引き操作される。
【0051】
これにより、ストライカに対するラチェット9aの係合が解消する。そのため、車両1に対するドア2のロックが解消されたロック解消状態となる。次に、乗員80は、手81でアームレスト8の把持部8aを掴み、ドアトリム本体7(ドアトリム6)を外方に押し出す操作を行う。したがって、ドア2が開くため、乗員80は降車できる。
【0052】
なお、車両1の電源が復旧して電源ON時の状態に戻されると、電磁ソレノイド60のソレノイドレール62も圧縮ばね62eの付勢力に抗して電磁ソレノイド本体61に対して進出する。そのため、インサイドハンドル30のハンドル操作部31をアームレスト本体20の開口20aに戻すように押し操作すると、インサイドハンドル30のロック片33の先端部33cがソレノイドレール62のテーパ面62bに干渉する。
【0053】
すると、進出したソレノイドレール62が圧縮ばね62eの付勢力に抗して退行し、その後、圧縮ばね62eの付勢力によりソレノイドレール62が退行する前の状態に戻される。すなわち、インサイドハンドル30のロック片33の先端部33cがソレノイドレール62の先端部62aを乗り越え、ソレノイドレール62がインサイドハンドル30のロック片33の係合孔33aに挿し込まれた状態(電源ON状態)に戻される(
図5参照)。
【0054】
第1実施形態に係るロック解除システム10は、上述したように構成されている。この構成によれば、アームレスト本体20は、インサイドハンドル30と、スイッチ50と、保持装置としての電磁ソレノイド60を備えている。インサイドハンドル30は、ロック機構9を機械的に解錠するための部材である。スイッチ50は、車両1に電源が供給された電源ON時(例えば、車両1にバッテリ上がりが生じていない時)に、ロック機構9を電気的に解錠するための部材である。電磁ソレノイド60は、電源ON時に、インサイドハンドル30の解錠動作を規制しつつ、インサイドハンドル30を所定位置(インサイドハンドル30のハンドル操作部31が、アームレスト本体20の内部に退行した位置)に保持する部材である。そして、車両1の電源が喪失された電源OFF時に、インサイドハンドル30の解錠動作の規制が解消されつつ、インサイドハンドル30の所定位置の保持も解消されることとなる。
【0055】
そのため、車両1に電源が供給された電源ON時において、ロック機構9を機械的に解除するためのインサイドハンドル30は、所定位置に保持された状態で解錠動作が規制されている。すなわち、この電源ON時において、インサイドハンドル30は、乗員80による操作を受け付けない状態である。また、この電源ON時において、ロック機構9を電気的に解錠するためのスイッチ50は、乗員80による操作を受け付ける状態である。一方、車両1の電源が喪失された電源OFF時において、インサイドハンドル30は、所定位置の保持が解消された状態で解錠動作の規制が解消されている。すなわち、この電源OFF時において、インサイドハンドル30は、乗員による操作を受け付ける状態である。また、この電源OFF時において、スイッチ50は、乗員80による操作を受け付けない状態である。したがって、車両の電源ON時と電源OFF時におけるロック機構の解錠の操作方法の違いを乗員に識別させることができる。
【0056】
また、この構成によれば、保持装置として電磁ソレノイド60から構成されている。そのため、保持装置を簡便なもので実施できる。
【0057】
また、この構成によれば、インサイドハンドル30の延出部32は、ハンドル操作部31がアームレスト本体20の開口20aから進退可能に、アームレスト本体20の内部に上下方向を軸方向とする軸周りに回転可能にヒンジピン35を介して組み付けられている。また、インサイドハンドル30のハンドル操作部31の表面は、アームレスト本体20の開口20aの内部を塞ぐようにアームレスト本体20の表面に略面一状態となっている。そのため、インサイドハンドル30がアームレスト本体20に組み付けられていても、開口20aの凹部が露出しないため、アームレスト本体20の意匠性の悪化を抑えることができる。
【0058】
また、この構成によれば、スイッチ50の固定部51は、アームレスト本体20の組付部20bに組み付けられている。そのため、スイッチ50の操作とインサイドハンドル30の操作を個別に実施できる。
【0059】
また、この構成によれば、インサイドハンドル30の解錠動作の規制が解消されると、インサイドハンドル30のハンドル操作部31は、トーションばね36の付勢力によりヒンジピン35の軸回りに回転する。そのため、回転したインサイドハンドル30のハンドル操作部31がアームレスト本体20の開口20aから進出する。したがって、車両1の電源が喪失された電源OFF時に、乗員80は、進出したハンドル操作部31に容易に気づくことができる。ゆえに、ハンドル操作部31を引く操作を行って、容易にドア2を開けることができる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明を実施するための第2実施形態を、
図9~15を用いて説明する。以下の説明にあたって、第1実施形態と同一および均等の部材には、図面において同一の符号を付すことで重複する説明は省略することとする。
【0061】
第2実施形態においても、ドア2は、インサイドハンドル30と、スイッチ50と、保持装置としての電磁ソレノイド60とから成るロック解除システム110を備えている。第2実施形態のロック解除システム110は、第1実施形態のロック解除システム10と比較すると、スイッチ50の組み付け構造が相違する。ハンドル操作部31には、スイッチ50のスイッチ操作部53より僅かに大きいサイズの開口34が形成されている(
図9~12参照)。
【0062】
ハンドル操作部31の開口34の内部には、組付部34aが形成されている。スイッチ50の固定部51は、ハンドル操作部31の開口34の内部の組付部34aに組み付けられている。なお、組み付けられたスイッチ50のスイッチ操作部53の表面は、ハンドル操作部31の開口34の内部を塞ぐようにハンドル操作部31の表面に略面一状態となっている(
図12参照)。
【0063】
続いて、
図12~15を参照して、上述したドア2(ロック解除システム110)の作用を説明する。以下の作用の説明では、通常時の降車の手順と、緊急時の降車の手順を個別に説明する。通常時とは、第1実施形態で説明したように、車両1に電源が供給されている電源ON時の状態のことである。一方、緊急時とは、第1実施形態で説明したように、車両1の電源が喪失された電源OFF時の状態のことである。
【0064】
はじめに、通常時の降車の手順から説明する。この降車の手順を説明する前に、先に、通常時のロック解除システム110の状態を説明する。この通常時の状態では、車両1に電源が供給されているため、電磁ソレノイド60の電磁ソレノイド本体61は通電(励磁)されている。そのため、ソレノイドレール62は、電磁ソレノイド本体61に対して圧縮ばね62eの付勢力に抗して進出している(
図12参照)。
【0065】
この進出したソレノイドレール62の先端部62aは、インサイドハンドル30のロック片33の係合孔33aに挿し込まれている。このように挿し込まれていると、インサイドハンドル30のハンドル操作部31を押す操作(インサイドハンドル30の解錠動作)が規制されることとなる。このとき、インサイドハンドル30のロック片33の先端部33cがドアトリム本体7のボックス7bの縁に干渉している。
【0066】
したがって、係合孔33aに対するソレノイドレール62の先端部62aの挿し込みが解消されても、付勢されているインサイドハンドル30のハンドル操作部31がアームレスト本体20の開口20aから進出することなく、アームレスト本体20の内部に退行した位置に保持されている。
【0067】
この退行した位置が、特許請求の範囲に記載の「所定位置」に相当する。なお、この退行した位置において、インサイドハンドル30のハンドル操作部31の表面は、アームレスト本体20の開口20aの内部を塞ぐようにアームレスト本体20の表面に略面一状態となっている。また、この通常時の状態では、ラチェット9aは、車両1のストライカに係合している。そのため、車両1に対してドア2がロックされたロック状態となっている。
【0068】
このような通常時の状態において、乗員80が降車する場合、まず、乗員80は、手81でスイッチ50のスイッチ操作部53を押す操作を行う(
図13参照)。すると、固定部51に内蔵の接点がON動作する。したがって、制御装置70からの信号に基づいてアクチュエータ9bが動作する。ゆえに、ストライカに対するラチェット9aの係合が解消するため、車両1に対するドア2のロックが解消されたロック解消状態となる。
【0069】
次に、乗員80は、手81でアームレスト8の把持部8aを掴み、ドアトリム本体7(ドアトリム6)を外方に押し出す操作を行う。これにより、ドア2が開くため、乗員80は降車できる。なお、スイッチ50のスイッチ操作部53の押し操作を解消すると、スイッチ操作部53は、弾性部材(図示しない)の付勢力により押し操作する前の状態に戻される(
図12参照)。
【0070】
続いて、緊急時の降車の手順を説明する。この降車の手順を説明する前に、先に、緊急時のロック解除システム110の状態を説明する。この緊急時の状態では、電磁ソレノイド60の電磁ソレノイド本体61は通電(励磁)されていない。そのため、ソレノイドレール62は、圧縮ばね62eの付勢力によりインサイドハンドル30の係合孔33aから退行している(
図14参照)。したがって、インサイドハンドル30の解錠動作の規制が解消されつつ、インサイドハンドル30の所定位置の保持も解消されることとなる。また、この緊急時の状態でも、ラチェット9aは、車両1のストライカに係合している。そのため、車両1に対してドア2がロックされたロック状態となっている。
【0071】
このような緊急時の状態において、乗員80が降車する場合、乗員80は、手81でスイッチ50のスイッチ操作部53を押す操作を行う。(
図15参照)。すると、係合孔33aに対するソレノイドレール62の挿し込みが解消されているため、ハンドル操作部31がトーションばね36の付勢力に抗してヒンジピン35の軸回りに回転する(押し操作される)。そのため、回転したハンドル操作部31によりワイヤ部材40のインナケーブル42が引き操作される。
【0072】
これにより、ストライカに対するラチェット9aの係合が解消する。そのため、車両1に対するドア2のロックが解消されたロック解消状態となる。次に、乗員80は、手81でアームレスト8の把持部8aを掴み、ドアトリム本体7(ドアトリム6)を外方に押し出す操作を行う。したがって、ドア2が開くため、乗員80は降車できる。
【0073】
なお、車両1の電源が復旧して電源ON時の状態に戻されると、既に、スイッチ操作部53を押す操作が解消されているためインサイドハンドル30はトーションばね36の付勢力により所定位置に戻されている。そのため、通電により進出したソレノイドレール62がインサイドハンドル30のロック片33の係合孔33aに挿し込まれた状態(電源ON時の状態)に戻される(
図12参照)。
【0074】
第2実施形態に係るロック解除システム110は、上述したように構成されている。この構成によれば、第1実施形態のロック解除システム10と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、
【0075】
また、この構成によれば、スイッチ50の固定部51は、ハンドル操作部31の開口34の内部の組付部34aに組み付けられている。そのため、スイッチ50の操作に伴ってインサイドハンドル30の操作を実施できる。
【0076】
また、この構成によれば、インサイドハンドル30の解錠動作の規制が解消されると、スイッチ50およびインサイドハンドル30が所定位置から車両1の外部に向けて押し込み可能となる。そのため、インサイドハンドル30の操作をスイッチ50を押す通常の操作の延長操作(感覚的な操作)として実施できる。したがって、乗員80にとってインサイドハンドル30の操作をし易いものにできる。
【0077】
以上、第1~第2実施形態について説明したが、これら実施形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。各実施形態では、ドア2は、車両1の運転席(例えば、右ハンドル)のフロントサイドドアを例に説明した。これに替えて、車両1の助手席のフロントサイドドアでも構わない。もちろん、車両1の後部座席のリアサイドドアでも構わない。
【0078】
各実施形態では、アクチュエータ9b、スイッチ50、電磁ソレノイド60を制御する制御部の例として制御装置70をドア本体3とドアトリム6の間に設ける例を説明した。これに替えて、制御部は、車両1のECU等、車両1内のコンピュータでも構わない。
【0079】
各実施形態では、車両1に電源が供給されている電源ON時の状態として、車両1にバッテリ上がりが生じていない状態を例に説明した。また、車両1の電源が喪失された電源OFF時の状態として、車両1にバッテリ上がりが生じた状態を例に説明した。これに替えて、車両1に電源が供給されている電源ON時の状態として、車両1のパワーユニット(例えば、ガソリン車であればエンジン)ON時の状態でも構わない。また、車両1の電源が喪失された電源OFF時の状態として、車両1のパワーユニットOFF時の状態でも構わない。
【0080】
その場合、パワーユニットOFF時となっても、所定時間(例えば、数秒~数分)だけ電磁ソレノイド60、制御装置70に通電させておいてもよい。そうすれば、パワーユニットOFF時となっても、所定時間、乗員80は通常時として降車できる。
【0081】
また、その場合、第1実施形態において、インサイドハンドル30のトーションばね36のばね力を大きく設定してもよい。そうすれば、インサイドハンドル30の係合孔33aの内壁が電磁ソレノイド60のソレノイドレール62の先端部62aを強く押し当てる。そのため、電磁ソレノイド60に通電されていなくても、ソレノイドレール62が係合孔33aから退行することを防止できる。したがって、パワーユニットOFF時の都度、インサイドハンドル30がアームレスト本体20から進出することを防止できる。
【0082】
各実施形態では、インサイドハンドル30のハンドル操作部31がアームレスト本体20の内部に退行した位置において、インサイドハンドル30のハンドル操作部31の表面が、アームレスト本体20の開口20aの内部を塞ぐようにアームレスト本体20の表面に略面一状態となっている形態を説明した。ここで言う、略面一状態とは、面一状態、もしくは僅かに段差を有する状態のことである。このことは、第2実施形態における組み付けられたスイッチ50のスイッチ操作部53の表面と、ハンドル操作部31の表面の略面一状態においても同様である。
【符号の説明】
【0083】
1 車両
2 ドア
9 ロック機構
10 ロック解除システム
30 インサイドハンドル
50 スイッチ
60 電磁ソレノイド(保持装置)