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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087318
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】工作機械の熱変位補正装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20240624BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202074
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和宏
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB01
3C001TA02
3C001TB10
3C269AB02
3C269BB03
3C269EF10
3C269EF66
3C269MN28
(57)【要約】
【課題】工作機械の熱変位補正装置において熱変位に対する補正の精度を向上させる。
【解決手段】熱変位補正装置100は、自動旋盤200の複数の部位に設置された温度センサSiと、加工条件による加工に対応して温度センサSiによって検出された自動旋盤200の温度分布と自動旋盤200の工具の位置の熱変位量との対応関係として、互いに異なる複数の環境条件にそれぞれ対応して設定された複数のデータテーブル31を記憶した記憶部30と、記憶部30に記憶された複数のデータテーブル31のうち、自動旋盤200が現場において加工を行ったときに検出された温度分布に近い、温度分布を有するデータテーブル31を選択する比較選択部20と、選択されたデータテーブル31と検出された温度分布とに基づいて熱変位量を推定する熱変位推定部40と、推定された熱変位量を打ち消す、工具の位置を補正する熱変位補正量を出力する補正指令部50と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の複数の部位にそれぞれ設置された温度センサと、
予め設定された所定の加工条件による加工に対応して前記温度センサによって検出された前記工作機械の温度分布と、前記工作機械の工具によって加工されるワークに対する前記工具の位置の熱変位量と、の対応関係として、互いに異なる複数の環境条件にそれぞれ対応して設定された複数の対応関係を記憶した記憶部と、
前記工作機械が設置された環境条件において加工を行ったときに前記温度センサによって検出された前記工作機械の温度分布と、前記記憶部に記憶された複数の対応関係における前記工作機械の温度分布とを比較し、前記記憶部に記憶された複数の対応関係のうち、前記工作機械が設置された環境条件において検出された前記工作機械の温度分布に最も近い1つの対応関係を選択する比較選択部と、
前記比較選択部により選択された1つの前記対応関係と、前記工作機械が設置された環境条件において検出された前記工作機械の温度分布とに基づいて、前記工作機械が設置された環境条件における熱変位量を推定する熱変位推定部と、前記熱変位推定部により推定された熱変位量を打ち消すように前記工具の位置を補正するための熱変位補正量を出力する補正指令部と、を備えた工作機械の熱変位補正装置。
【請求項2】
前記環境条件は、前記工作機械が設置された環境において前記工作機械に対して、温度に影響を与える条件である、請求項1に記載の工作機械の熱変位補正装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記互いに異なる複数の環境条件にそれぞれ対応して設定された前記複数の対応関係の一つとして、基準となる環境条件に対応して設定された基準の対応関係を記憶し、
前記比較選択部は、前記記憶部に記憶された複数の対応関係のうち、前記工作機械が設置された環境条件において検出された前記工作機械の温度分布に最も近い1つの対応関係が無いときは、前記基準の対応関係を選択する、請求項1または2に記載の工作機械の熱変位補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の熱変位補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、ワークや工具を、回転、移動等変位させるために駆動源を作動させることで、駆動源や、摺動部等において熱が発生する。また、工作機械は、ワークと工具との接触箇所においても熱が発生する。そして、これらの熱は、工作機械の様々な部分を熱膨張等によって変位させるため、ワークに対する工具の位置が変化し、ワークを加工して得られた製品の寸法精度に影響を与える。
【0003】
そこで、工作機械は、この熱による変位の影響を抑制するための熱変位補正装置を備えている。熱変位補正装置は、工作機械の様々な部分に設けられた温度センサと、これらの温度センサによってそれぞれ検出された温度によって変位するワークに対する工具の位置の変位量を推定する熱変位推定部と、熱変位推定部で推定された変位量を打ち消すように工具の位置を補正するための補正指令を、工作機械の制御部に出力する補正指令部と、を備えている。
【0004】
ここで、熱変位推定部は、予め種々の加工条件(例えば、切削の切込み量、ワークの回転速度、工具の送り速度等の加工工程に関する条件)によってワークを加工したときの各加工条件における各温度センサによって検出された検出温度Ti(i=1,2,3,…)と、計測されたワークと工具との位置の変位量(熱変位量)ΔAとの対応関係を以下の重回帰式(1)として記憶している。
ΔA=α1*T1+α2*T2+α3*T3+… (1)
【0005】
式(1)におけるαi(i=1,2,3,…)は各温度センサによる検出温度Tiに対応した係数(熱変位係数)であり、種々の加工条件に対応して式(1)を満たすように予め設定されたものである。
【0006】
そして、熱変位推定部は、工作機械が製品を製造するために実際に使用されたときに各温度センサによって検出された検出温度Tiと記憶された式(1)とに基づいて、熱変位量ΔAを推定する。熱変位補正装置の出力部は、熱変位推定部で推定された熱変位量を打ち消すように補正するための補正指令を、工作機械の制御部に出力する。工作機械の制御部は、熱変位補正装置の補正指令部から出力された補正指令に基づいて、ワークに対する工具の位置を、熱変位量を打ち消す補正を行うように、工具を制御することで、工作機械で加工して得られた製品の寸法精度に対する熱変位の影響を低減する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-154907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、熱変位補正装置の熱変位推定部に記憶されている式(1)における熱変位係数αiは、基準となる所定の環境に工作機械を配置した状態で設定されたものである。一方、工作機械は、実際に製品が製造される現場に設置されて使用されるため、その工作機械が設置された環境は千差万別であり、基準となる所定の環境とは異なることがある。
【0009】
このため、工作機械が設置された環境において、寸法精度がより高い製品を製造するためには、工作機械の、熱変位に対する補正の精度を向上させることが求められる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、熱変位に対する補正の精度を向上させることができる工作機械の熱変位補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、工作機械の複数の部位にそれぞれ設置された温度センサと、予め設定された所定の加工条件による加工に対応して前記温度センサによって検出された前記工作機械の温度分布と、前記工作機械の工具によって加工されるワークに対する前記工具の位置の熱変位量と、の対応関係として、互いに異なる複数の環境条件にそれぞれ対応して設定された複数の対応関係を記憶した記憶部と、前記工作機械が設置された環境条件において加工を行ったときに前記温度センサによって検出された前記工作機械の温度分布と前記記憶部に記憶された複数の対応関係における前記工作機械の温度分布とを比較し、前記記憶部に記憶された複数の対応関係のうち、前記工作機械が設置された環境条件において検出された前記工作機械の温度分布に最も近い1つの対応関係を選択する比較選択部と、前記比較選択部により選択された1つの前記対応関係と、前記工作機械が設置された環境条件において検出された前記工作機械の温度分布とに基づいて、前記工作機械が設置された環境条件における熱変位量を推定する熱変位推定部と、前記熱変位推定部により推定された熱変位量を打ち消すように前記工具の位置を補正するための熱変位補正量を出力する補正指令部と、を備えた工作機械の熱変位補正装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る工作機械の熱変位補正装置によれば、熱変位に対する補正の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱変位補正装置の構成を示すブロック図である。
図2】熱変位補正装置によって熱変位の補正が行われる自動旋盤を示す斜視図である。
図3】表1に示した第1の加工条件K1における経過時間tと各部位の温度Tiとの対応関係を示す一例である。
図4】熱変位補正装置の動作の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る工作機械の熱変位補正装置の実施形態は、以下の通り、図面を用いて説明される。
【0015】
<構成>
図1は熱変位補正装置100の構成を示すブロック図、図2は熱変位補正装置100によって熱変位の補正が行われる自動旋盤200を示す斜視図である。図示の熱変位補正装置100は、本発明に係る工作機械の熱変位補正装置の一実施形態であり、自動旋盤200は、本発明に係る工作機械の熱変位補正装置が適用される工作機械の一実施形態である。
【0016】
(自動旋盤)
自動旋盤200は、所定のプログラムを読み込んで作動するコンピュータにより動作が制御されたNC旋盤である。自動旋盤200は、図2に示すように、ベッド250上に、正面主軸210と、背面主軸220と、タレット刃物台230と、制御部240と、を備えている。背面主軸220は、正面主軸210に対向して配置されている。正面主軸210と背面主軸220とは、加工対象であるワークをそれぞれ単独で把持して軸回りに回転させることができ、また、相互にワークを受け渡すことができる。
【0017】
正面主軸210は、ベッド250に設けられた主軸台260上に設置されている。背面主軸220は、ベッド250に設けられたスライド台270上に設置されている。
【0018】
タレット刃物台230は、回転するタレットの外周面に、ワークを加工するための複数の工具が設けられている。タレット刃物台230は、タレットが回転することにより、工具が選択される。そして、自動旋盤200は、正面主軸210や背面主軸220がワークを軸回りに回転しながら、タレット刃物台230の選択された工具をワークに接触させることにより、ワークに対して切削や穴あけ等の加工を行う。タレット刃物台230は、スライド支持台280に設置されている。
【0019】
制御部240は、所定のプログラムを読み込んで作動するコンピュータにより、正面主軸210、背面主軸220、タレット刃物台230、スライド台270及びスライド支持台280の位置、移動、速度等を制御する。また、制御部240は、後述する熱変位補正装置100の補正指令部50から出力された補正指令に応じて、正面主軸210、背面主軸220、タレット刃物台230、スライド台270及びスライド支持台280の位置を補正する。なお、自動旋盤200は、図示を略したクーラントを出射するクーラント系を備えていて、制御部240は、このクーラント系の動作も制御する。
【0020】
(熱変位補正装置)
熱変位補正装置100は、自動旋盤200に備えられる。熱変位補正装置100は、自動旋盤200に生じる熱による変位(熱変位)の影響を抑制するものであり、自動旋盤200における加工点(ワークに対して工具が接触する点)での熱変位を打ち消すように加工点の位置を補正する補正指令を、自動旋盤200の制御部240に出力する。
【0021】
熱変位補正装置100は、図1に示すように、温度センサSi(i=1,2,…,8)と、記憶部30と、比較選択部20と、熱変位推定部40と、補正指令部50と、を備えている。
【0022】
温度センサSiは、図2に示すように、自動旋盤200の複数(本実施形態においては、例えば8箇所(i=1,2,…,8))に設置されている。具体的には、温度センサS1は正面主軸210に、温度センサS2は背面主軸220に、温度センサS3はタレット刃物台230に、温度センサS4は主軸台260に、温度センサS5はスライド台270に、温度センサS6はスライド支持台280に、温度センサS7はベッド250の、主軸台260に近い部位に、温度センサS8はベッド250の、スライド台270に近い部位に、それぞれ設けられていて、それぞれが設けられている部位の温度を検出する。
【0023】
なお、以下において、個々の温度センサS1,S2,…,S8を区別しないで説明するときは、温度センサSiと総称することがある。
【0024】
比較選択部20は、製品を製造するために実際に自動旋盤200を稼働したときに、8個の温度センサSiによって検出された自動旋盤200の温度の分布(熱バランス)と、後述する記憶部30に記憶された、自動旋盤200を予め設定された複数の環境条件において所定の加工動作を行ったときにそれぞれ測定された複数の温度の分布とを比較して、記憶された複数の温度分布のうち、実際に自動旋盤200を稼働したときの温度分布に最も近い温度分布を選択する。
【0025】
記憶部30は、上述した温度分布をデータテーブル31として記憶している。具体的には、まず、自動旋盤200を稼働して、予め設定された所定のワークを、予め設定された複数の加工条件Kp(p=1,2,…:例えば、切削の切込み量、ワークの回転速度、工具の送り速度等の自動旋盤200による加工工程に関する条件)によって加工して、予め設定された所定形状の製品を製造する。
【0026】
このとき、各加工条件Kpにおいてワークを加工したときの、自動旋盤200の加工を開始してからの経過時間t[秒]と、各温度センサSi(S1,S2,…,S8)によってそれぞれ検出された自動旋盤200の各部位の温度Ti(T1,T2,…,T8)を検出して記録するとともに、そのときのワークにタレット刃物台230の工具が接触する加工点の位置の熱変位量ΔAを記録する。
【0027】
例えば、ワークに対して第1の加工条件K1によって加工して製品を製造したときの、経過時間t[秒]と、検出された各部位の温度Ti(T1,T2,…,T8)と、計測された加工点の位置の熱変位量ΔAとを対応付けると、表1に示すものとなる。
【0028】
【表1】
【0029】
図3は表1に示した第1の加工条件K1における経過時間tと各部位の温度Tiとの対応関係を示す一例である。上述した第1の加工条件K1における経過時間tと各部位の温度Tiとは、例えば図3に示すものとなる。なお、図3は、経過時間tと各部位の温度Tiとの関係を簡易に説明するための模式図であり、実際に計測された経過時間tと各部位の温度Tiとの関係を示すものではない。
【0030】
このようにして第1の加工条件K1における、経過時間tごとの、各部位の温度Ti(T1,T2,…,T8)と、加工点の位置の熱変位量ΔAとが、以下の重回帰式(1)を満たすように温度センサSiに対応した熱変位係数αi(i=1,2,3,…)が算出される。
ΔA=α1*T1+α2*T2+…+α8*T8 (1)
【0031】
算出の結果、表2に示すように、第1の加工条件K1における経過時間tに、温度センサSiの熱変位係数αi(i=1,2,…,8)のセット(α1,α2,…,α8)が対応付けられる。
【0032】
【表2】
【0033】
そして、同じワークを用いて、他の加工条件Kp(第2の加工条件K2、第3の加工条件K3、…)においても同様に、経過時間t[秒]と、検出された各部位の温度Ti(T1,T2,…,T8)と、計測された加工点の位置の熱変位量ΔAを、それぞれ対応付け、重回帰式(1)を満たすように温度センサSiに対応した熱変位係数αi(i=1,2,3,…)が算出され、表2と同様の、加工条件Kpとに、経過時間tに、温度センサSiの熱変位係数αi(i=1,2,…,8)のセット(α1,α2,…,α8)が対応付けられる。
【0034】
加工条件の数pは、本実施形態においては例えば10(p=1,2,…,10)であるが、1以上9以下であってもよいし、11以上であってもよい。
【0035】
次に、自動旋盤200が設置される現場の環境に対応した環境条件Mqを変えて、複数の環境条件Mqにおいて、上述した各加工条件Kpごとで、経過時間tごとの温度Tiと熱変位量ΔAを計測し、各環境条件Mqに対応した、各加工条件Kpごとで経過時間tごとの温度センサSiの熱変位係数αi(i=1,2,…,8)のセット(α1,α2,…,α8)が対応付けられる。
【0036】
ここで、環境条件Mqは、上述した加工条件Kp以外の、自動旋盤200が実際に設置される現場の環境を想定した条件であり、特に、工具の加工点の位置の熱変位に影響を与える条件である。環境条件Mqは、具体的には、自動旋盤200が設置される現場の雰囲気温度(室温)や、部分的な日当たり、周囲の熱源との位置関係等、自動旋盤200の温度を変化させ得る条件である。
【0037】
予め設定された環境条件Mqの数qは、例えば10であるが、複数(2以上)であればよく、9以下であってもよいし11以上であってもよい。
【0038】
このようにして、自動旋盤200が実際に設置されて製品を製造する環境に設置される以前に、想定される種々の環境条件Mqに自動旋盤200を試験的に設置して、複数の環境条件Mqにおける各環境条件Mqごとの、種々の加工条件Kpでワークを加工することで得られた加工条件Kpごとの、さらに経過時間tごとの、各部位の温度Tiの分布と熱変位量ΔAとの対応関係(一例として表1)が、データテーブル31として、記憶部30に記憶されている。
【0039】
また、各データテーブル31は、複数の環境条件Mqにおける各環境条件Mqごとの、種々の加工条件Kpでワークを加工することで得られた加工条件Kpごとの、さらに経過時間tごとの、各部位の温度Tiの分布と熱変位係数αiのセット(α1,α2,…,α8)との対応関係(一例として表2)も備えている。
【0040】
記憶部30は、上述したように、自動旋盤200が実際に製品を製造する現場に設置される以前に、自動旋盤200が設置される現場を想定した環境条件Mqごとに、多数のデータテーブル31を記憶しており、比較選択部20は、製品を製造するために自動旋盤200が、特定の現場に設置されてワークの加工を行ったときに、所定の経過時間tにおける、8個の温度センサSiによって検出された自動旋盤200の各部の温度Ti(温度分布)と、温度分布のデータテーブル31の温度分布とを比較する。
【0041】
そして、比較選択部20は、記憶部30に記憶された多数のデータテーブル31のうち、特定の現場に設置された自動旋盤200から実際に検出された温度Ti(温度分布)に最も近い温度分布のデータテーブル31を1つ選択して、実際に検出された温度Ti(温度分布)とともに、熱変位推定部40に出力する。
【0042】
熱変位推定部40は、比較選択部20から入力されたデータテーブル31の熱変位係数αiのセット(α1,α2,…,α8)と、特定の現場に設置されて稼働したときに実際に検出された各部の温度Tiとを用いて、重回帰式(1)により、その温度分布における加工点の位置の熱変位量ΔAを計算により推定し、推定された熱変位量ΔAを補正指令部50に出力する。
【0043】
補正指令部50は、自動旋盤200の工具の加工点の位置を、熱変位推定部40から入力された熱変位量ΔAを打ち消す位置に補正するための熱変位補正量を算出し、この熱変位補正量を、自動旋盤200の制御部240に出力する。
【0044】
<動作>
図4は熱変位補正装置100の動作の流れを説明するフローチャートである。本実施形態の熱変位補正装置100は、図4のフローチャートを用いて以下のように動作する。
【0045】
自動旋盤200は、実際にワークを工具で加工することで製品を製造する現場に設置された後に、自動旋盤200を稼働させて加工を開始する。比較選択部20が、自動旋盤200が加工を開始してからの所定の経過時間tと、自動旋盤200に設けられた8個の温度センサSiによって検出された自動旋盤200の各部の温度Ti(温度分布)と、を取得する(#1)。
【0046】
比較選択部20は、取得された経過時間tにおける自動旋盤200の温度Ti(温度の分布)と、記憶部30に記憶された複数のデータテーブル31における各経過時間tにおける温度Tiの分布とを比較し、温度分布が最も近いものを1つ選択する(#2)。
【0047】
ここで、「温度分布が最も近い」とは、例えば、取得した各温度Tiに対して例えば±5[%]の近似範囲の温度に該当する、データテーブル31における対応する温度センサSiの温度Tiとなる、温度センサSiの数が予め設定された数以上である場合、として規定することができる。
【0048】
取得した各温度Tiの近似範囲としては、上述した±5[%]の範囲に限定されず、±10[%]の範囲であってもよいし、その他の予め設定された範囲を適用することができる。また、「温度分布が最も近い」と規定するときの、近似範囲の温度センサSiの数は、例えば3つ以上であってもよいし、4つ以上又は5つ以上等、適宜設定することができる。
【0049】
また、「温度分布が最も近い」とは、例えば、温度Tiによる熱変位量ΔAに対する影響度の大きさに関して、温度センサSiの順序がある場合は、影響度の大きい温度センサSiについては、本数の算出において重み付けをして算出してもよい。重み付けの具体的な程度については、自動旋盤200が設置される現場の環境条件等に応じて変えてもよい。
【0050】
熱変位推定部40は、比較選択部20により選択されたデータテーブル31の熱変位係数αiのセット(α1,α2,…,α8)と、取得された経過時間tにおける自動旋盤200の温度Ti(温度の分布)と、に基づいて、重回帰式(1)を用いて、その自動旋盤200が自際に使用されている状態での、熱変位量ΔAを推定する(#3)。
【0051】
補正指令部50は、熱変位推定部40により推定された熱変位量ΔAに基づいて、自動旋盤200の工具の加工点の位置を、熱変位量ΔAを打ち消す位置に補正するための熱変位補正量を算出し、算出した熱変位補正量を自動旋盤200の制御部240に出力する(#4)。
【0052】
以上、詳細に説明したように、本実施形態の自動旋盤200の熱変位補正装置100は、自動旋盤200が実際に設置される現場の環境として想定される複数の環境条件ごとに熱変位係数αi及び温度Ti(温度分布)のデータテーブル31を記憶していて、実際に設置された現場で取得された温度Ti(温度分布)に最も近い温度Ti(温度分布)のデータテーブル31を用いて、現場での熱変位量を補正する。
【0053】
したがって、自動旋盤200が設置された現場の環境に適した熱変位量の補正を行うことができ、熱変位に対する補正の精度を向上させることができる。
【0054】
本実施形態の熱変位補正装置100は、比較選択部20が、温度分布が最も近いデータテーブル31を選択したが、規定による温度分布の近いデータテーブル31が存在しないこともあり得る。そこで、記憶部30は、予め設定された基準となる環境条件K0に対応して設定された基準となる熱変位係数αsi(i=1,2,…,8)のセット(αs1,αs2,…,αs8)を、基準のデータテーブルとして記憶する。そして、比較選択部20は、この基準のデータテーブルを選択する(#2)。
【0055】
熱変位推定部40は、基準のデータテーブルの基準の熱変位係数αsiのセット(αs1,αs2,…,αs8)と、取得された経過時間tにおける自動旋盤200の温度Ti(温度の分布)と、に基づいて、重回帰式(1)を用いて、その自動旋盤200が自際に使用されている状態での、熱変位量ΔAを推定し(#3)、補正指令部50は、熱変位推定部40により推定された熱変位量ΔAに基づいて、自動旋盤200の工具の加工点の位置を、熱変位量ΔAを打ち消す位置に補正するための熱変位補正量を算出し、算出した熱変位補正量を自動旋盤200の制御部240に出力する(#4)。
【0056】
熱変位補正装置100が、規定による温度分布の近いデータテーブル31が存在しないときに、基準となるデータテーブルの熱変位係数αsiのセット(αs1,αs2,…,αs8)を適用することで、基準となる環境条件に対応した熱変位量の補正を行うことができ、幅広い種々の環境条件に対して、必ずしも最適な補正ではないが、標準的な補正を行うことができる。
【0057】
本実施形態の熱変位補正装置100は、温度センサSiを8個(i=1,2,…,8)備えたものであるが、温度センサSiの数は8個に限定されず、2個以上7個以下であってもよいし、9個以上であってもよい。また、温度センサSiを設ける部位は、本実施形態で説明した自動旋盤200の部位に限定されず、他の部位に設けてもよい。
【0058】
本実施形態の熱変位補正装置100は、工作機械の一例として、正面主軸210と背面主軸220とタレット刃物台230とを備えた自動旋盤200を適用したが、自動旋盤200としては、主軸が1つ(正面主軸のみ)であってもよいし、主軸が3つ以上であってもよく、また、タレット刃物台230に代えて、くし刃形の刃物台を備えてもよい。
【0059】
本実施形態の熱変位補正装置100は、工作機械の一例として自動旋盤200を適用したが、本発明に係る工作機械の熱変位補正装置は、自動旋盤に限定して適用されるものではなく、ワークに対して、各種の塑性加工を行う、自動旋盤以外の工作機械に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
20 比較選択部
30 記憶部
31 データテーブル
40 熱変位推定部
50 補正指令部
100 熱変位補正装置
200 自動旋盤
Ki 加工条件
Kp 加工条件
Mq 環境条件
Si 温度センサ
Ti 温度
t 経過時間
ΔA 熱変位量
αi 熱変位係数
図1
図2
図3
図4