(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087320
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】エスカレーターステップ点検装置および点検方法
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20240624BHJP
B66B 29/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B29/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202076
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】松井 一真
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321EA15
3F321EB07
3F321EC06
3F321HA04
(57)【要約】
【課題】
隣接する2枚のステップの隙間の状態を検知することができるエスカレーターステップ点検装置および点検方法を提供する。
【解決手段】
エスカレーター10のステップ11の状態を把握するエスカレーターステップ点検装置1において、隣接する2枚のステップ11である第1のステップ11Aと第2のステップ11Bの隙間からステップ11のステップフレーム13が見える位置においてステップ11を撮影する撮影部2と、撮影部2で撮影された画像から、第1のステップ11Aのデマケーション12である第1のデマケーション12Aから第2のステップ11Bのデマケーション12であって第1のデマケーション12Aに隣接する第2のデマケーション12Bまでの領域に存在する点検対象を抽出して、ステップ11の状態の判定を行う解析部3とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレーターのステップの状態を把握するエスカレーターステップ点検装置において、
隣接する2枚の前記ステップである第1のステップと第2のステップの隙間から前記ステップのステップフレームが見える位置において前記ステップを撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された画像から、前記第1のステップのデマケーションである第1のデマケーションから前記第2のステップのデマケーションであって前記第1のデマケーションに隣接する第2のデマケーションまでの領域に存在する点検対象を抽出して、前記ステップの状態の判定を行う解析部とを有することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記撮影部は、可視光カメラを有することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記撮影部は、前記ステップを上方から撮影することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記撮影部で撮影された前記画像とガイドとを表示する表示部を有し、
前記撮影部は、前記点検対象が前記ガイドの中に入る位置に設置されることを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記撮影部は、前記エスカレーターを運転させた状態で動画で撮影を行うことを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記解析部は、前記画像の一部の領域に演算領域を設定し、前記演算領域内の平均値の時間変化に基づいて、撮影された動画の中から前記点検対象が含まれる画像フレームを抽出することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記撮影部は、前記ステップとともにキャリブレーション用サンプルを撮影し、
前記解析部は、前記画像の画素値を前記キャリブレーション用サンプルの画素値を用いて補正することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記解析部は、前記点検対象を撮影した前記画像の画素値をRGB成分に分解し、少なくとも1つの成分をしきい値処理して前記ステップの状態の判定を行うことを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記解析部は、前記画像の中の一部の領域である検知領域内で前記点検対象を抽出することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記解析部は、前記ステップに生じたサビを抽出し、前記サビの面積が許容範囲であるか否かを判定することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記解析部は、前記デマケーションを抽出し、前記デマケーションの変形を判定することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項12】
請求項1において、
前記解析部は、ボルトまたはワッシャーを抽出し、前記ボルトまたは前記ワッシャーの有無を判定することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項13】
請求項1において、
前記解析部における判定の結果を表示する表示部を有することを特徴とするエスカレーターステップ点検装置。
【請求項14】
エスカレーターのステップの状態を把握するエスカレーターステップ点検方法において、
隣接する2枚の前記ステップである第1のステップと第2のステップの隙間から前記ステップのステップフレームが見える位置において前記ステップを撮影する撮影ステップと、
前記撮影ステップで撮影された画像から、前記第1のステップのデマケーションである第1のデマケーションと前記第2のステップのデマケーションであって前記第1のデマケーションに隣接する第2のデマケーションとに挟まれた領域に存在する点検対象を抽出して、前記ステップの状態の判定を行う解析ステップとを有することを特徴とするエスカレーターステップ点検方法。
【請求項15】
請求項14において、 前記撮影ステップにおいて、2枚の乗降板の隙間から前記ステップを撮影することを特徴とするエスカレーターステップ点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターステップ点検装置および点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレーターのステップの状態は作業員が目視で確認している。
【0003】
ステップを機械で診断する技術としては、例えば、特許文献1がある。特許文献1には、特許文献1の
図1に示すようにエスカレータの下部トラス(5)内に配置されたテレビカメラ(7)によりステップ(2)を撮影し、画像処理することにより、特許文献1の
図5および
図12に示すような踏段凸部(13)の破損箇所(2a)を検出する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、隣接する2枚のステップの隙間の状態、例えば、ステップに生じたサビ、デマケーションの変形、ボルト、ワッシャー等の有無などを検知する手法については記載されていない。
【0006】
これらは作業員が目視で確認しているが、エスカレーターのステップは1台あたり数十枚あり、また、同じようなものを繰り返し観察する必要があるため、作業員の負荷が大きく、見落としが生じ易いという課題がある。また、目視点検では判定が作業員の主観的な判断に影響されるため、定量的な点検が難しいという課題がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、隣接する2枚のステップの隙間の状態を検知することができるエスカレーターステップ点検装置および点検方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明のエスカレーターステップ点検装置は、例えば、 エスカレーターのステップの状態を把握するエスカレーターステップ点検装置において、隣接する2枚の前記ステップである第1のステップと第2のステップの隙間から前記ステップのステップフレームが見える位置において前記ステップを撮影する撮影部と、前記撮影部で撮影された画像から、前記第1のステップのデマケーションである第1のデマケーションから前記第2のステップのデマケーションであって前記第1のデマケーションに隣接する第2のデマケーションまでの領域に存在する点検対象を抽出して、前記ステップの状態の判定を行う解析部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のエスカレーターステップ点検方法は、例えば、エスカレーターのステップの状態を把握するエスカレーターステップ点検方法において、隣接する2枚の前記ステップである第1のステップと第2のステップの隙間から前記ステップのステップフレームが見える位置において前記ステップを撮影する撮影ステップと、前記撮影ステップで撮影された画像から、前記第1のステップのデマケーションである第1のデマケーションと前記第2のステップのデマケーションであって前記第1のデマケーションに隣接する第2のデマケーションとに挟まれた領域に存在する点検対象を抽出して、前記ステップの状態の判定を行う解析ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撮影された画像に基づいて、隣接する2枚のステップの隙間の状態を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例のエスカレーターステップ点検装置の機能ブロック図。
【
図2】実施例のエスカレーターステップ点検装置における撮影時の配置を説明する斜視図。
【
図3】実施例のエスカレーターステップ点検装置によって撮影された画像の一例を説明する図。
【
図4】実施例のエスカレーターステップ点検装置における撮影時の配置を説明する上面図。
【
図5】実施例のエスカレーターステップ点検装置におけるガイドを説明する図。
【
図6】実施例のエスカレーターステップ点検装置における解析部の動作を説明する図。
【
図7】実施例のエスカレーターステップ点検装置における解析部の動作を説明する波形図。
【
図8】実施例のエスカレーターステップ点検装置における解析部の動作を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図、各実施例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、実施例のエスカレーターステップ点検装置の機能ブロック図である。
【0014】
エスカレーターステップ点検装置1は、撮影部2と、解析部3とを有しており、撮影部2で撮影した画像を解析部3で画像処理して解析することで、エスカレーターのステップの状態を把握することができる。具体的には、エスカレーターステップ点検装置1は、隣接する2枚のステップの隙間の状態を検知することができる。また、エスカレーターステップ点検装置1は、表示部4を有しており、撮影部2で撮影した画像や、解析部3で解析した結果を表示することができる。
【0015】
撮影部2としては、例えば、可視光カメラ、近赤外線カメラ、赤外線カメラ等を用いることができ、通常のデジタルカメラ、ボックスPCなどに接続されたカメラ、スマートフォンに搭載されたカメラ等を用いることができる。
【0016】
ここでは、エスカレーターステップ点検装置1がスマートフォンによって実現されている例を用いて説明する。この場合、撮影部2はスマートフォンに搭載されたカメラによって実現され、解析部3はスマートフォンによって実行されるプログラムで実現され、表示部4はスマートフォンに搭載されたディスプレイによって実現される。なお、これに限らず、例えば解析部3をコンピュータによって実現し、撮影部2をデジタルカメラによって実現し、表示部をディスプレイによって実現するなど、様々な実現方法が考えられる。
【0017】
図2は、実施例のエスカレーターステップ点検装置における撮影時の配置を説明する斜視図である。なお、
図2では、エスカレーター10は簡略化して図示しており、例えばステップ11の形状やデマケーション12の形状についても一部を省略して図示している。例えば、一部のステップ11ではデマケーション12やステップフレーム13の図示を省略している。また、一部のステップ11では前後方向端部のデマケーション12は図示しているが、横方向端部(幅方向端部)のデマケーション12は図示を省略している。
【0018】
撮影部2は、撮影ステップにおいて、隣接する2枚のステップ11である第1のステップ11Aと第2のステップ11Bの隙間からステップ11のステップフレーム13が見える位置においてステップ11を撮影する。
【0019】
図2では、例えば、エスカレーターステップ点検装置1の撮影部2は隣接する2枚のステップ11の隙間を上方から撮影するように配置されている。上方から撮影することで、天井に設置されている照明の光や太陽光が撮影対象に当たり易くなり、撮影部2に入射する光量が増加してS/Nのよい画像が得られる。特に、動画撮影の場合、照明が明るいほど撮影の露光時間を短くできるので、対象の動きによるボケが生じ難い。
【0020】
なお、上方からの撮影に限られず、例えば、
図2の点線矢印で示したように、隣接する2枚のステップ11の隙間を側方から撮影するように配置してもよい。側方から撮影する場合、エスカレーター10の機械室内に撮影部2を設置できるので、乗降位置に設置されている乗降板を閉めて撮影することができる。これにより、踏み外して下に落ちる危険性が減り、安全性が向上する。また、外光を遮断できるので、撮影用に設置する照明のみが撮影対象に照射され、安定した照明状態を作り易い。
【0021】
また、撮影部2の配置は上方や側方に限定されるものではなく、ステップ11の回転に応じて回転する隙間を撮影できる位置であれば他の位置であってもよい。これにより、様々な機械が配置されている狭い空間においても、適切な位置に撮影部2を配置して撮影することができる。
【0022】
図3は、実施例のエスカレーターステップ点検装置によって撮影された画像の一例を説明する図である。
【0023】
斜線で示した面がステップ11の踏面である。
図3では、例えば、点検対象部位として、第1のステップ11Aのステップフレーム13の前輪側の面と、第1のステップ11Aの第1のデマケーション12Aと、第2のステップ11Bの第2のデマケーション12Bが撮影されている。点検対象としては、例えば、ステップ11に生じたサビ14や、踏面に設置されているデマケーション12や、ボルト15、ワッシャー等の部材が挙げられる。
【0024】
解析部3は、撮影された画像に基づいて、例えば、サビ14の面積が許容範囲内であるか否か、デマケーション12の変形や有無、ボルト15、ワッシャー等の部材の有無を判定する。解析部3は、撮影された画像にデマケーション12が存在しないことで、ステップ11の不在を認知してもよい。
【0025】
図4は、実施例のエスカレーターステップ点検装置における撮影時の配置を説明する上面図である。
【0026】
図3で説明した点検対象部位は、隣接する2枚のステップ11の隙間から撮影できるが、この隙間が開くのはステップ11がエスカレーター10の乗降位置に設置されている乗降板16の下に存在するときである。したがって、
図2で示したように上方から撮影する場合には、乗降板16を外して撮影を行う。これにより、空間を広く開けることで作業が容易になり、また、対象に照明光を当て易くなる。
【0027】
しかしながら、乗降板16を外してしまうと踏み外して下に落ちる危険性がある。
【0028】
そこで、
図4に示すように、2枚の乗降板16の隙間からステップ11を撮影することが望ましい。この場合、撮影対象部位を覆わない大きさの隙間ができるように乗降板16を配置する。これにより、作業員が踏み外して下に落ちる危険性が減り、安全性が向上する。また、撮影した画像に余分なものが映り込まなくなるので、解析部3による解析の精度が向上する。
図4では、例えば、第1のステップ11Aの第1のデマケーション12Aの外側に一方の乗降板16を配置し、第2のステップ11Bの第2のデマケーション12Bの外側に他方の乗降板16を配置することで、撮影対象部位を撮影可能とし、かつ、隙間を狭めている。
【0029】
また、ステップ11とともにキャリブレーション用サンプル17を撮影してキャリブレーションを行うこともできる。その場合、例えば、
図4に示すように、乗降板16の上にキャリブレーション用サンプル17を配置することができる。
【0030】
図5は、実施例のエスカレーターステップ点検装置におけるガイドを説明する図である。
【0031】
例えば、スマートフォンに搭載されたカメラの場合、アウトカメラで撮影対象を写しながら、スマートフォンの画面に画像を表示することができる。そこで、スマートフォンの画面に、
図5に示すような半透明のスクリーンを表示して、撮影用のガイド5とする。そして、ガイド5の中心部のスクリーンの掛かっていない検知領域6に、撮影対象が入るように撮影部2を移動させて配置する。すなわち、表示部4に撮影部2で撮影された画像とガイド5とを表示し、撮影部2は、点検対象がガイド5の中に入る位置に設置されるようにする。これにより、作業者に対して撮影位置を誘導し、設置の作業を容易にできる。
【0032】
解析部3による点検対象の識別は、画像全体に対して行うことが可能であるが、点検対象の識別を、ガイド5の中央部のスクリーンがかかっていない検知領域6内で行うように限定することで、処理時間を短縮することが可能である。また、検知領域6内に点検対象を含むように撮影部2の位置を調整することにより、識別の精度を向上することができる。また、検知領域6内に誤認識を生じる対象を含まないように撮影することにより、点検対象の識別の精度を向上することができる。識別精度が向上することにより、自動で識別が可能になる。
【0033】
ガイド5を使った撮影部2の位置の調整にはいくつかの方法が考えられる。例えば、デマケーション12を指標とし、第1のデマケーション12Aと第2のデマケーション12Bがガイド5のスクリーンの掛かっていない検知領域6に入るように誘導する。これにより、デマケーション12の撮影が可能となる。あるいは、デマケーション12が検知領域6に入らないように誘導してもよい。これにより、デマケーション12をサビ14と誤認識するリスクが減少する。デマケーション12が黄色や緑色の場合は明るい茶色のサビ14と誤認識し易く、デマケーション12が黒色の場合は暗い茶色のサビ14と誤認識し易いため、サビ14の識別に有効である。
【0034】
あるいは、ボルト15を指標とし、4個のボルト15がガイド5のスクリーンの掛かっていない検知領域6に入るように誘導する。これにより、ボルト15やワッシャーの撮影が可能となる。あるいは、ボルト15が検知領域6に入らないように誘導する。これにより、ボルト15やワッシャーが光る素材の場合に、サビ14と誤認識するリスクが減少する。
【0035】
あるいは、上下のデマケーション12と左右のボルト15で囲まれる領域がガイド5のスクリーンの掛かっていない検知領域6に入るように誘導することで、これらを同時に撮影して、一度に有無を確認することができる。あるいは、入らないように誘導することで、誤認識のリスクを減少できる。
【0036】
次に、ガイド5を利用した撮影の流れを説明する。初めに、撮影部2を起動し、表示部4にガイド5のスクリーンを表示する。次に、ガイド5の中央部のスクリーンの掛かっていない検知領域6に撮影対象が入るように撮影部2を移動させ、撮影部2の位置を決めて、撮影部2を固定する。次に、エスカレーター10が停止した状態で撮影部2で撮影対象を撮影するか、エスカレーター10を運転させた状態で動画で撮影を行う。
【0037】
次に、解析部3の動作について説明する。
【0038】
図6は、実施例のエスカレーターステップ点検装置における解析部の動作を説明する図である。
【0039】
解析部3は、解析ステップにおいて、撮影部2で撮影された画像から、第1のステップ11Aのデマケーション12である第1のデマケーション12Aから第2のステップ11Bのデマケーション12であって第1のデマケーション12Aに隣接する第2のデマケーション12Bまでの領域に存在する点検対象を抽出して、ステップ11の状態の判定を行う。ここで、撮影部2で撮影された画像は、撮影部2で撮影された動画でもよい。また、点検対象にはデマケーション12が含まれていてもよい。このように、第1のデマケーション12Aからこれに隣接する第2のデマケーション12Bまでの領域に存在する点検対象を抽出することで、隣接する2枚のステップ11の隙間の点検対象を精度よく抽出することができる。
【0040】
解析部3は、撮影部2が動画で撮影を行った場合は、撮影された動画の中から点検対象が含まれる画像フレームを抽出する。次に、撮影した画像あるいは動画から抽出した画像に対して、解析部3は、色情報を用いてサビ14や、デマケーション12、ボルト15、ワッシャー等の部材を識別する。次に、解析部3は、識別した対象を判定する。最後に、解析部3による判定結果を表示部4に表示させる。
【0041】
エスカレーター10を運転させながら、撮影対象を動画で撮影することにより、撮影に要する時間を短縮することができる。あるいは、撮影対象ごとにエスカレーター10を停止させ、静止画で撮影することにより、動体による画像のボケを生じることないため、高精細の画像を得ることができる。また、光量が少ない場合にも、長時間露光を行うことで、撮影が可能である。
【0042】
また、点検時にステップ枚数を設定し、撮影開始したステップ11を基準にしてステップ11をカウントし、異常と判定したステップ11の位置を特定する。また、特定した結果を記録し、作業員に提示する。これにより、記録を元にして次回以降の点検時に比較を行い、時系列変化を追跡し、劣化の進展を予測し、点検間隔の調整を行うことが可能となる。なお、異常と判定してもその場で交換や修理などを行うことは困難であるため、点検時にはその場では交換や修理などを行わず、部品等を手配して、後日交換や修理などの作業を行うことができる。
【0043】
解析部3は、点検対象がサビ14の場合、画像上でサビ14として識別された領域の画素数を数えて面積を算出する。また、撮影対象の画素数を数えて全体面積とし、サビ14の面積の比を算出する。面積比でしきい値処理を行い、サビ14の面積が許容範囲であるか否かを判定する。解析部3は、最も面積比の高い画像フレームを示し、作業員に目視での確認を指示する。その後、赤外線カメラ等を用いて、サビ14の状態の詳細な確認作業を行ってもよい。
【0044】
ここで、面積比を求める際に用いる全体面積は、画像全体の面積でもよいし、ガイド5の中央部のスクリーンがかかっていない検知領域6の面積でもよい。また、ステップ11に付属の部材を用いて領域を設定し、全体面積を算出することも可能である。例えば、4個のボルト15で囲まれる領域や、上下のデマケーション12で囲まれる領域や、上下のデマケーション12と左右のボルト15で囲まれる領域などでもよい。これらにより、自動で全体面積の算出が可能である。
【0045】
解析部3は、点検対象がデマケーション12の場合、画像上でデマケーション12と識別された領域に対して、直線からの歪みを判定する。点検対象がボルト15やワッシャーの場合、形状から正しい部材がはまっているか判定する。あるいは、デマケーション12が識別できない場合は、デマケーション12が破損している、あるいは、ステップ11が取り外されていると判定する。あるいは、ボルト15やワッシャーが識別できない場合は、破損あるいは締め忘れと判定する。
【0046】
次に、
図6および
図7を用いて、動画の中から点検対象が含まれる画像フレームを抽出する方法を説明する。
【0047】
図7は、実施例のエスカレーターステップ点検装置における解析部の動作を説明する波形図である。
【0048】
解析部3は、
図6に示すように、動画で撮影された画像において、ガイド5でスクリーンがかかっていない検知領域6の中のさらに一部の領域に、演算領域7を設定する。そして、解析部3は、演算領域7内で画素値の加算平均値を算出する。各撮影フレームで加算平均値を算出し、時間軸に対してグラフを描くと、
図7のグラフとなる。
図7の横軸は撮影フレームであり、縦軸は演算領域内平均値である。
【0049】
図6において、ステップ11が手前に移動して来ると仮定すると、
図7に示すように、最初に第2のデマケーション12Bが演算領域7内を通過する際に第2のピーク8Bが発生し、次に第1のデマケーション12Aが演算領域7内を通過する際に第1のピーク8Aが発生する。そして、これが周期的に繰り返される。なお、第1のピーク8Aから次の第2のピーク8Bまでの間隔は、第2のピーク8Bから次の第1のピーク8Aまでの間隔よりも長い。点検対象は、第2のデマケーション12Bから第1のデマケーション12Aまでの間に存在するため、間隔が短い方である第2のピーク8Bから次の第1のピーク8Aが発生するまでの画像フレームのうちの中心のフレームが点検対象が演算領域7を通過する画像フレームとなる。
【0050】
そこで、解析部3は、画像の一部の領域に演算領域7を設定し、演算領域7内の平均値の時間変化に基づいて、撮影された動画の中から点検対象が含まれる画像フレームを抽出するようにすればよい。このように、簡潔な方法で画像フレームの抽出を行うことにより、高速に抽出が可能となり、高フレームレートの動画撮影に対して、リアルタイムで処理が可能になる。
【0051】
なお、撮影部2で撮影する際には、演算領域7に対して、撮影のフォーカスと露光を調整する。これにより、特に動体を撮影する際に、撮影対象ではないものに対してフォーカスと露光が合い、結果として撮影対象がボケたり暗くなり、画質が悪くなることを回避する。
【0052】
また、撮影において、照明の光や太陽光などの外光の影響は大きく、判定の精度を低下させる。そこで、解析部3は、判定前に画像に対してキャリブレーションを行うことが望ましい。例えば、
図4に示すように、キャリブレーション用サンプル17を取り付けて撮影する。キャリブレーション用サンプル17にはRGBの各成分が均一に含まれる白色の物質が適する。また、キャリブレーション用サンプル17は表面の凹凸が少なく、平坦なものが適する。これにより、キャリブレーションを安定に実施することができる。
【0053】
撮影された画像上で、白色で平坦な対象の場所が分かっている場合は、この対象のRGB値をキャリブレーションに使用することができる。これにより、キャリブレーション用サンプル17を不用とし、処理を自動化してもよい。
【0054】
次に、解析部3が、画像の画素値をキャリブレーション用サンプル17の画素値を用いて補正する方法を説明する。撮影したカラー画像において、各画素の値をRGB成分に分離する。また、キャリブレーション用サンプル17の画素値をRGB成分に分離する。点検対象の画像のR成分値をキャリブレーション用サンプル17の画素値のR成分値で除算することで、キャリブレーションを行う。同様に、点検対象の画像のG成分値をキャリブレーション用サンプル17の画素値のG成分値で除算し、点検対象の画像のB成分値をキャリブレーション用サンプル17の画素値のB成分値で除算する。これにより、照明の光や太陽光などの外光の影響を軽減することができ、安定した識別が可能となる。特に、作業用ライトのオレンジ系や青系の色味や、夕日の赤味、天候や照明による光量の強弱を補正することができる。
【0055】
図8は、実施例のエスカレーターステップ点検装置における解析部の動作を説明するグラフである。
【0056】
例えば、実験的にサビ14を模擬したサンプルをステップ11に貼り付けて様々な照明条件で画像を撮影し、RGB成分に分離して3軸のグラフにプロットすると、
図8のようなグラフになる。このグラフにおいて、RGBに対して、サビ領域18Aとサビ以外領域18Bを分離するしきい値を求める。点検対象を撮影した画像において、各画素の値をRGB成分に分離し、各成分をしきい値処理することで、サビ14かサビ14以外かが判定できる。また、キャリブレーションを行った後に
図8のRGBのグラフを描くと、分離の精度が向上できる。
【0057】
図8では3軸を用いたが、2軸あるいは1軸の成分を用いて、サビ領域18Aとサビ以外領域18Bを分離することも可能である。特に、サビ14が赤茶色の場合、赤茶色の主成分であるR成分のみを用いて、サビ領域18Aとサビ以外領域18Bを分離するしきい値を求めることも可能である。その場合、処理が簡略化されて高速化が可能となる。
【0058】
以上説明した通り、実施例のエスカレーターステップ点検装置1および点検方法によれば、撮影された画像に基づいて、隣接する2枚のステップ11の隙間の状態を検知することができる。
【0059】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に記載された構成に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、実施例で説明した構成の一部または全部を組み合わせて適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 エスカレーターステップ点検装置
2 撮影部
3 解析部
4 表示部
5 ガイド
6 検知領域
7 演算領域
8A 第1のピーク
8B 第2のピーク
10 エスカレーター
11 ステップ
11A 第1のステップ
11B 第2のステップ
12 デマケーション
12A 第1のデマケーション
12B 第2のデマケーション
13 ステップフレーム
14 サビ
15 ボルト
16 乗降板
17 キャリブレーション用サンプル
18A サビ領域
18B サビ以外領域