(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008734
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110849
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】300079612
【氏名又は名称】株式会社アイ・メデックス
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】山下(雨宮) 歩
(72)【発明者】
【氏名】松村 彩
(72)【発明者】
【氏名】市田 誠
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 隆城
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB12
4C038VB35
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】 患者本人が医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すことを事前に検出する事のできる生体接触検知センサ及びこれを用いた生体接触検知装置を提供する。
【解決手段】装着者における特定の動作を予測判断する接触動作判断モジュールであって、装着者の接触を検知する接触検知センサからの接触信号を取得する接触信号取得部と、接触信号取得部が取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者の動作を判断する動作判断部と、動作判断部における判断結果が特定の動作と判断した場合に、動作信号を出力する動作信号出力部とからなる、接触動作判断モジュールとする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者における特定の動作を予測判断する接触動作判断モジュールであって、
装着者の接触を検知する接触検知センサからの接触信号を取得する接触信号取得部と、
接触信号取得部が取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者の動作を判断する動作判断部と、
動作判断部における判断結果が特定の動作と判断した場合に、動作信号を出力する動作信号出力部とからなる、接触動作判断モジュール。
【請求項2】
前記接触信号取得部が取得する接触信号は、装着者の接触を検知する接触検知センサが検知した電圧値である、請求項1に記載の接触動作判断モジュール。
【請求項3】
前記動作判断部は、接触信号取得部が取得した接触信号の間隔を監視し、第1の接触信号と第2の接触信号の取得間隔が0.25 秒以上、1.5秒以内[JK1]である場合に、前記動作信号出力部が動作信号を出力する、請求項1に記載の接触動作判断モジュール。
【請求項4】
装着者の接触を検知する接触検知センサと、装着者における特定の動作を予測判断する接触動作判断モジュールとからなる生体接触検知装置であって、
当該接触動作判断モジュールは、請求項1~3の何れか一項に記載の接触動作判断モジュールである生体接触検知装置。
【請求項5】
前記接触検知センサは、極性が異なる一対以上の配線又は電極で構成された検知部を備えており、
当該検知部は、前記極性が異なる一対以上の配線又は電極を、生体の接触によって電流、電圧及び電気抵抗の少なくとも何れかが変化する間隔で離して隣接配置または対向配置して構成している請求項4に記載の生体接触検知装置。
【請求項6】
前記検知部は、シート状の基材と、当該基材の片面又は両面に設けた極性が異なる一対以上の配線又は電極からなり、当該配線又は電極は、シート状の基材の少なくとも縁部に存在する、請求項4に記載の生体接触検知装置。
【請求項7】
装着者における特定の動作を監視する動作監視方法であって、
装着者において生体の接触を検知する対象領域に医療用保持具を設けると共に、当該医療用保持具の上に生体の接触を検知する接触検知センサを設置し、
当該接触検知センサからの接触信号を取得し、取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者における特定の動作を判断する、動作監視方法。
【請求項8】
前記装着者における特定の動作の判断は、請求項1~3の何れか一項に記載の接触動作判断モジュールによって行う、動作監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者本人が医療用カテーテルを抜去したり、包帯や被覆材などを取り外すなどの接触動作を予測するシステムと、これを用いた生体接触検知装置に関し、特に装着者が抜去又は剥離する為に接触したことを予測する為の接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院等の医療施設では、人工透析における体外循環や、点滴による薬液の供給等に際して、患者に医療用カテーテルを留置して治療が行われている。また外科的手術後の患者等においては傷口を保護する為に包帯、被覆材(「皮膚接合用テープ」を含む。以下同じ。)などを施術している。しかしこれ等の治療を受ける患者は様々であり、重度及び軽度の意識障害者、認知症患者または治療器具や使用方法について理解不足の患者においては、患者本人が医療用カテーテルを抜去したり、包帯や被覆材などを取り外すことがある。
【0003】
そこで従前においては、前記医療用カテーテルの抜けを検出するための技術が幾つか提案されている。例えば特許文献1(特開2007-20801号公報)では、自己抜針による穿刺針の抜けを予知して当該穿刺針の抜けによる悪影響を回避する穿刺部の監視装置が提案されている。この穿刺部の監視装置は、患者に穿刺し得る穿刺針と、該穿刺針から延設されるとともに、当該穿刺針を介して患者の体内に液体を導入又は患者の体内から血液を導出し得る可撓性チューブとを具備した穿刺部の監視装置において、治療中、前記可撓性チューブを患者に接触して固定させる固定部位の接触面とは異なる表面に形成され、該固定部位に患者が接触したことを検知する検知手段と、該検知手段による前記固定部位に対する接触を検知した際に信号を発生する信号発生手段とを備えて構成されている。
【0004】
更に従前においては、点滴針が抜かれる前に、点滴針の抜去につながる兆候を検知する技術も提案されている。例えば特許文献2(特開2015-66071号公報)では、監視対象者を撮影した画像に基づいて、前記監視対象者に点滴針が刺された箇所の状態を検出する第1検出部と、前記画像に基づいて、前記点滴針に接続された管の状態を検出する第2検出部と、検出された前記点滴針が刺された箇所の状態および前記管の状態の少なくとも一方の変化に基づいて前記点滴針の抜去の可能性の有無を判定する判定部と、前記点滴針の抜去の可能性があると判定された場合に、前記点滴針の抜去の可能性を示す警報を出力する出力部とを備える監視装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-20801号公報
【特許文献2】特開2015-66071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に係る穿刺部の監視装置は、検知手段によって、患者が固定部位に接触したことを検知し、この検知により信号発声手段が信号を発生するように構成されているが、接触の検知だけで信号の発生を判断していることから、穿刺針の抜けとは無関係な接触であっても信号を発生させる、いわゆる誤報の問題が存在する。
【0007】
また特許文献2では、点滴針が刺された箇所の状態および前記管の状態から抜去の可能性を予測するものとなっているが、点滴針に接続された管の状態の検出は監視対象者を撮影した画像に基づいて行われている。このため、監視対象者である患者の状態を画像撮影しなければならず、プライバシーの問題が生じる他、画像の撮影部位が死角となった場合には、監視自体ができないことになる。
【0008】
そこで本発明では、撮影画像による事無く、且つ正確に、患者などの装着者本人が医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作を予測して、これを検出する事のできる接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置を提供することを課題の1つとする。
【0009】
更に本発明では、患者などの装着者本人の動作において、医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外す動作だけを特定することで、それ以外の動作時の報知等(即ち、「誤報」)を無くすことのできる接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置を提供することを、前記とは別の課題とする。
【0010】
そして本発明では、前記課題の少なくとも何れかの課題を解決するためのセンサと、コンピュータプログラムを提供することも更に別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の少なくとも何れかを解決する為に、本発明では生体の接触の有無を検知するセンサとの検知信号を取得し、当該検知信号に基づいて、医療用カテーテルを抜去する動作や、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作(以下では「特定動作」とする。)であるか否かを判断する接触動作判断モジュールを提供する。また、当該接触動作判断モジュールを用いた生体接触検知装置を提供する。
【0012】
即ち本発明では、装着者における特定の動作を予測判断する接触動作判断モジュールであって、装着者の接触を検知する接触検知センサからの接触信号を取得する接触信号取得部と、接触信号取得部が取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者の動作を判断する動作判断部と、動作判断部における判断結果が特定の動作と判断した場合に、動作信号を出力する動作信号出力部とからなる、接触動作判断モジュールを提供する。
【0013】
前記接触信号取得部が取得する接触信号は、装着者の接触を検知する接触検知センサが検知した電圧値、電流値またはその他の電気信号などであって良いが、特に電圧値であることが望ましい。接触信号として電圧値を取得することにより、装着者の接触の仕方(そっと触れる、しっかり触れるなど)により電圧値の変化を取得でき、その結果、より詳細に装着者の接触を検知することができる。
【0014】
前記動作判断部は、接触信号取得部が取得した接触信号に基づいて装着者の動作を判断するロジックを実行するものとして構成することができる。特に装着者における医療用カテーテルを抜去する動作や、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作(即ち「特定動作」)であるか否かを判断する場合には、接触信号の間隔によって判断することが望ましい。例えば第1の接触信号と第2の接触信号の取得間隔が0.25秒以上、1.5秒以内、好ましくは0.5秒以上、1.5秒以内である場合に、前記特定動作と判断することにより、誤報を大幅に減じることができる。
【0015】
即ち、医療用カテーテルや包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを装着した患者などの装着者においては、掻痒感などからこれらの装着具に触れ続けているうちに自己抜去に至ることがある。一方で装着者であっても、他の動作によってこれら装着具に触れてしまうこともある。例えば、経鼻管栄養胃チューブの装着者であれば、枕を整える、仰臥位で寝る、寝返りをする、仰臥位で頭の後ろで手を組む、手や腕を顔の下にして寝る、背中を掻く、頭を掻く、流延を拭く、鼻汁を拭く、おしぼりで手と顔を拭く、あくびをする、くしゃみをする、上腕で口元を覆う、テーブルの上で頬杖をつく、手や腕を顔の下にしてテーブルに伏せるなどの動作によって、当該経鼻管栄養胃チューブに触れてしまうこともある。そこで前記特定動作とそれ以外の動作と区別する観点として接触信号の間隔に着目することにより、前記特定動作を特定できることを見出したものであり、更に第1の接触信号と第2の接触信号の取得間隔が0.25秒以上、1.5秒以内、好ましくは0.5秒以上、1.5秒以内である場合に前記特定動作と判断することにより、当該特定動作以外における接触に基づいた報知(即ち「誤報」)を大幅に減じたものである。
【0016】
そして本発明では前記課題を解決するべく、前記本発明に係る接触動作判断モジュールを用いて構成した生体接触検知装置を提供する。即ち、装着者の接触を検知する接触検知センサと、装着者における特定の動作を予測判断する接触動作判断モジュールとからなる生体接触検知装置であって、当該接触動作判断モジュールは、前記本発明に係る接触動作判断モジュールである生体接触検知装置を提供する。
【0017】
かかる生体接触検知装置において、装着者の接触を検知する接触検知センサは、電流、電圧、抵抗などの電気信号を検知するものである他、接触時の圧力を検知するものであっても良い。特に、当該接触検知センサは、極性が異なる一対以上の配線又は電極で構成された検知部を備えて構成するのが望ましい。この場合、当該検知部は、前記極性が異なる一対以上の配線又は電極を、生体の接触によって電流、電圧及び電気抵抗の少なくとも何れかが変化する間隔で離して隣接配置または対向配置して構成するのが望ましい。このように形成することにより、装着者が確実に接触したことを検知することができることから、近づいただけで検知する誤検知(過度の検知)を無くすことができ、また僅かな圧力しか作用しないような接触であっても確実に検知することができ、失報の問題を解消できる。
【0018】
更に前記検知部は、シート状の基材と、当該基材の片面又は両面に設けた極性が異なる一対以上の配線又は電極とで構成し、当該配線又は電極は、シート状の基材の少なくとも縁部に存在させることが望ましい。接触検知センサを剥がす動作においては、少なくともその縁部を持って剥がすことから、当該縁部における生体の接触を検知することにより、装着者の接触を確実に検知することができる。
【0019】
そして本発明では、前記課題の少なくとも何れかを解決するために、装着者における特定の動作を監視する動作監視方法を提供する。当該動作監視方法は、装着者において生体の接触を検知する対象領域に医療用保持具を設けると共に、当該医療用保持具の上に生体の接触を検知する接触検知センサを設置し、当該接触検知センサからの接触信号を取得し、取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者における特定の動作を判断する動作監視方法を提供する。かかる動作監視方法では、装着者における特定の動作の判断は、上記本発明に係る接触動作判断モジュールによって行うのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる接触動作判断モジュールは、装着者の接触を検知する接触検知センサからの接触信号を取得する接触信号取得部と、接触信号取得部が取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者の動作を判断する動作判断部と、動作判断部における判断結果が特定の動作と判断した場合に、動作信号を出力する動作信号出力部とで構成している。この為、動作判断部は、医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外す動作か否かを定量的に判断することができ、それ以外の動作時の報知等(即ち、「誤報」)を無くすことのできる接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置とすることができる。
【0021】
そして当該動作判断部における演算ロジックによって、患者などの装着者本人が医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作を予測し、これを検出する事のできる接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態にかかる接触動作判断モジュールを示すブロック図
【
図5】接触動作判断モジュールを用いて形成した生体接触検知装置のシーケンス図
【
図8】ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態にかかる接触動作判断モジュール50、及びこれを用いた生体接触検知装置60を具体的に説明する。特に本実施の形態では、装着者の接触時における電圧値の変化を検知する接触検知センサ10を用いて形成している。
【0024】
図1は本実施の形態にかかる接触動作判断モジュール50を示すブロック図である。
図1に示すように、当該接触動作判断モジュール50は、装着者の接触を検知する接触検知センサ10からの接触信号を取得する接触信号取得部51と、接触信号取得部51が取得した接触信号の間隔、パターン及び/又は出力に基づいて、装着者の動作を判断する動作判断部52と、動作判断部52における判断結果が特定の動作と判断した場合に、動作信号を出力する動作信号出力部53とを含んで構成されている。これらは1つの筐体内に収容したモジュールとして形成する他、何れかを別の筐体に収容して形成することもできる。
【0025】
特に前記接触検知センサ10が、装着者の接触による電圧値を検知するように構成している場合、前記接触信号取得部51は当該電圧信号が入力される入力端子とすることができる。そして前記動作判断部52は当該電圧信号の間隔に基づいて、医療用カテーテルを抜去する動作や、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作(即ち「特定動作」)であるか否かを判断する演算部を備える。そして前記動作信号出力部53は音声や光を発生するように構成する他、ネットワークを介して動作信号を外部の機器(表示/報知装置55など)に出力(送信)するように構成する。特にネットワークを介して動作信号を出力(送信)する場合には、当該動作信号を出力する接触動作判断モジュール50に固有の識別情報も出力(送信)するように構成することが望ましい。いずれの接触動作判断モジュール50からの信号なのかを特定できるようにするためである。
【0026】
図2は前記した装着者の接触を検知する接触検知センサ10の実施形態を示す斜視図である。特にこの実施の形態にかかる接触検知センサ10は、経鼻経管栄養胃チューブの取り外し動作を検出又は監視するのに適した構造であって、生体が接触した時に通電するように構成している。
【0027】
即ち、当該接触検知センサ10は、シート状の基材11と、当該基材11の片面又は両面に設けられた導電性材料からなる検知部15とで構成している。本実施の形態において、当該基材11は厚さ0.075mmのPETシートを用いて形成しており、矩形の鼻部装着部10aと、矩形の頬部装着部10bと、両者を連結する橋渡し部10cとで形成している。但し、当該基材11は他の樹脂材料を用いて形成することもでき、更に布帛を用いて形成することもできる。また当該基材11の形状は、これを設置する部位等に応じて適宜変更することができ、例えば帯状に形成して対象部位を巻くようにして設置する他、矩形、円形、楕円形などの各種形状に形成することができる。更に当該基材11は平面形状である他、円錐台形状等の立体形状に形成することもできる。
【0028】
当該基材11は、検知部15を構成する配線又は電極12が断線しない範囲において、伸縮性及び柔軟性を有する樹脂シートを用いて形成してもよい。これを装着した患者等の利用者の動きに追従することができ、装着時における違和感を緩和する為である。
【0029】
そして上記シート状の基材11に設ける検知部15は、各種導電性材料で形成することができ、本実施の形態ではカーボンを使用している。かかる検知部15は、極性が異なる一対以上の配線又は電極12で構成することができる。本実施の形態では陽極12a及び陰極12bからなる一対の電極12によって当該検知部15を形成している。但し、陽極12a及び陰極12bからなる複数の電極12で構成することもでき、何れか一方の極性の電極12を他方の極性の電極12よりも多く形成しても良い。特に本実施の形態において、当該電極12は帯状に形成した陽極12aと陰極12bとが交互に隣り合う様に形成しており、陽極12aと陰極12bの夫々を櫛歯形状に形成している。このような櫛歯状に電極12を設けることにより、生体接触時の感度を、どの領域でも均等に検知することができる。
【0030】
また前記検知部15は、シート状の基材11における少なくとも縁部、望ましくは縁部から3mm未満、より望ましくは縁部から1mm以下の領域に存在するように設けることが望ましい。当該接触検知センサ10を剥がそうとする装着者は、多くの場合、当該接触検知センサ10の縁部を掴んで剥がすことから、当該シート状の基材11の縁部に検知部15を構成する配線又は電極12を設けることで、特定動作を検知する可能性を高めることができる。更に当該検知部において、シート状の基材11の縁部に形成する配線又は電極12は、その他の領域に形成される配線又は電極12よりも密になる様に形成することが望ましく、例えば当該縁部に形成される配線又は電極12を、その他の領域に形成される配線又は電極12よりも細く、かつ陽極12aと陰極12bとの間隔を狭めて形成することが望ましい。
【0031】
前記検知部15を構成する配線又は電極12は、導電性材料を露出させて設けている。導電性材料を露出させることにより、生体の接触によって電流、電圧及び電気抵抗の少なくとも何れかが変化し、この変化量や変化時間によって生体の接触を検知することができる。よって、異なる極性の配線又は電極12は、生体が接触することによって電流、電圧及び電気抵抗の少なくとも何れかが変化し得る太さ及び間隔で形成することが望ましい。本実施の形態では、経鼻経管栄養胃チューブの自己抜去動作を検知するものとして形成しており、検知部15は帯状に形成した陽極12aと陰極12bとが交互に隣り合うように形成し、陽極12aと陰極12bの夫々は0.1~12mmの幅であって、相互に2~12mmの間隔で離して形成している。経鼻経管栄養胃チューブの意図的な自己抜去動作では手指によって行われる為、極性が異なる配線又は電極12は手指の接触を検知できる幅及び間隔で形成している。
【0032】
特に本実施の形態に係る接触検知センサ10では、当該電極12(陽極12a及び陰極12b)は金、銀、銅などの金属材料の他、導電性を有する材料(例えばカーボン等)を用いて形成することができる。特に印刷できる材料、例えばカーボンを用いた場合には、当該電極12を前記基材11に対する印刷によって形成することができ、その結果、製造工程や設備を簡素化することができると共に、安価に製造することができる。また当該電極12を金属で形成した場合には、金属自体の展延性によって伸びることができることから、柔軟性を有する基材11を用いた場合に、切断されにくい電極12とすることができる。
【0033】
本実施の形態において、前記検知部15は、極性が異なる一対の電極12を電気的に接続することなく配置している。その結果、各電極12に夫々の電力を供給しておけば、生体が接触することによって電極12同士が短絡し、電気が流れることができる。そして電気が流れた時の電圧値を取得することにより、生体の接触の有無を監視することができる。
【0034】
以上のように形成した接触検知センサ10は、シート状の基材11に対して導電性材料からなる検知部15を設けていることから、生体に直接設置したり、生体に設けた包帯や粘着テープなどの医療用保持具に設けることができる。即ち、適用できる場所を選ばない事から、汎用性の高い接触検知センサ10となっている。特に前記導電性材料は配線又は電極12が露出するように形成しており、これに接触することによる電気が流れ、電圧の変化によって生体の接触を検知できることから、接触時の圧力を検知するものに比べ、自己抜去時の動作(生体の接触)を、より的確に検知し防止することができる。
【0035】
図3は上記の接触検知センサ10と接触動作判断モジュール50とからなる生体接触検知装置60の構成図であり、
図4は上記の接触検知センサ10と接触動作判断モジュール50とからなる生体接触検知装置60の使用状態を示す斜視図であり、
図5は当該接触動作判断モジュール50を用いて形成した生体接触検知装置60のシーケンス図である。
【0036】
この生体接触検知装置60は、前記接触検知センサ10と、当該接触検知センサ10における検知部15から取得した電圧の変化に基づいて生体接触の有無を判断する接触動作判断モジュール50とで構成している。本実施の形態においては、当該接触動作判断モジュール50を接続する為の接続端子13を設けており、当該接続端子13に接触動作判断モジュール50を接続することができる。
【0037】
接触動作判断モジュール50は、検知部15が取得した電圧の変化量及び変化時間に基づいて、生体接触の有無を判断する為の判断回路(集積回路など)を伴って構成することができる。特に電圧の変化量及び変化時間については、一定の閾値を設定することができ、これにより経鼻経管栄養胃チューブなどの医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープ等を取り外すことを目的としない、単なる接触時の誤報を回避することができる。即ち本実施の形態においては、電圧値の検知間隔を閾値として設定し、当該検知間隔が閾値の範囲内である場合に、装着者が医療用カテーテルを抜去する動作や、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作(即ち「特定動作」)を行っていると判断することができる。かかる閾値は、使用する目的(例えば、点滴自己抜去予防、気管内挿管チューブ、膀胱留置カテーテル、排液ドレーン、動脈ライン、中心静脈カテーテル、経鼻栄養チューブ、創部、おむつなど)に応じて抵抗値の変化時間等に関する閾値を調整することができる。
【0038】
そして接触動作判断モジュール50において、医療用カテーテルを抜去したり、包帯や被覆材、皮膚接合用テープを取り外すための接触と判断された場合には、動作信号出力部53において動作信号を出力する。かかる動作信号は、ナースコールまたは連動した端末(表示/報知装置55など)に対して出力することができる他、警報や警告灯などによって報知(出力)することもできる。更に、当該動作信号出力部53は、前記動作信号を無線出力する無線出力部を伴うことができる。当該無線出力部を伴うことによって、当該生体接触検知装置60は無線でも使用できることから、看護師や介護士などがベッドサイドにいなくとも生体接触信号を報知することが可能となり、また当該生体接触検知装置60を使用していても患者の行動を制限しないようにすることができる。
【実施例0039】
この実験では、前記
図2の接触検知センサを用いて形成した
図3に示した生体接触検知装置を用いて、実際に医療用カテーテルを抜去する動作や、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外すような動作(即ち「特定動作」)を特定して動作信号を出力する精度、即ち、これら特定動作以外の動作時に動作信号を出力する誤報の減少について検証した。
〔実験1〕
【0040】
この実験1では、従前における生体接触検知装置における失報や誤報の程度を確認した。即ち、接触検知センサとして、前記
図2に示した接触検知センサにおいて、検知部15の周囲にシート状の基材11が存在する接触検知センサ、即ち配線又は電極からなる検知部15を、シート状の基材の縁部よりも3mm以上内側に設けた接触検知センサを使用した。また前記動作判断部を設けずに、当該接触検知センサに生体が接触して通電し、電圧が上昇した場合を接触信号とした。
【0041】
そして、装着者に設置した接触検知センサが装着者の接触によって通電し、電圧が上昇した時において特定動作以外の動作を行った場合を誤報とし、特定動作を行っているにもかかわらず接触検知センサが通電せず、電圧が上昇しなかった場合を失報とした。
【0042】
接触検知センサは、調査用チューブを非侵略的範囲(0.5cm)で装着者の鼻孔に挿入し、これを医療用テープで固定した上に接触検知センサを設けた。そして接触検知センサを剥がす動作を自己抜去想定動作(即ち、特定動作)とし、それ以外の動作を非自己抜去動作とした。この非自己抜去動作として以下の15項目を設定した。
【0043】
「非自己抜去動作」
・枕を整える。
・仰臥位で寝る。
・寝返りをする。
・仰臥位で頭の後ろで手を組む。
・手や腕を顔の下にして寝る。
・背中を掻く。
・頭を掻く。
・流延を拭く。
・鼻汁を拭く。
・おしぼりで手と顔を拭く。
・あくびをする。
・くしゃみをする。
・上腕で口元を覆う。
・テーブルの上で頬杖をつく。
・手や腕を顔の下にしてテーブルに伏せる。
【0044】
またこの実験における検討対象者の属性は以下の通りである。
「検証対象者属性」
職業(人) 看護師20 (100.0%)
年齢(歳)中央値(四分位範囲) 29.5 (22 - 41)
経験年数(年)中央値(四分位範囲) 7.0 (0.1 - 17.0)
認知機能低下が伴う高齢者のケア経験の有無 有20 (100.0%)
無0 (0.0)
性別(人) 男性3 (15.0%)
女性17 (85.0%)
角質水分量中央値(四分位範囲) 第1指33.0 (16 - 66)
第2指37.0 (19 - 64)
手掌中央部30.5 (18 - 54)
【0045】
上記検証対象者について、経験年数にばらつきはあるが、認知機能低下のある高齢者のケア経験は全対象者にあり動作の再現性は保たれた。
そして装着者の動作を動画撮影すると共に、接触検知センサの電圧値を接触電圧測定器で測定し、前記誤報と失報の発生具合を検証した。
【0046】
その結果、失報は20例中、3例発生し、失報率は15%であった。この失報の主な原因としては、接触検知センサの縁を指先でつまみ剥離などの回路への接触不足であった。そこでこの失報の対策として、配線又は電極などの検知部15をシート状の基材の少なくとも縁部に設ける事が有効である事を見出した。
【0047】
また、この実験において、誤報は300例中、70例発生し、誤報率は23.3%であった。この誤報の主な原因として、回路への水分や油分の付着、又は回路の捻じれなどの非接触誤報が70例中、3例であり、おしぼりで顔を拭く、あくびをする、くしゃみをする、テーブルの上で頬杖をつくなどの非自己抜去動作による誤報が70例中、67例であった。
【0048】
その結果、非接触誤報に対しては、接触検知センサやその周りを乾いた布で拭き取り、矩形の鼻部装着部と頬部装着部とを連結する橋渡し部の捻じれを解消することが有効である事を見出した。また非自己抜去動作による誤報に対しては、自己抜去想定動作に限した動作信号を出力する為の閾値の設定が有効である事を見出した。
〔実験2〕
【0049】
この実験2では、前記実験1における非自己抜去動作による誤報を削減する事を目的として、自己抜去想定動作に限した動作信号を出力する閾値を検討した。即ち、前記自己抜去動作と非自己抜去動作における接触検知センサの検知電圧を測定し、自己抜去動作と非自己抜去動作における電圧波形の違いを確認した。その結果を
図6に示す。
【0050】
この実験結果において、接触検知センサに接触しない動作では、電圧上昇は認められない。一方で非自己抜去動作では、それぞれの動作に応じた電圧上昇がみられた。そして自己抜去想定動作では、当該動作中において複数の電圧ピークを検知することができた。そこで、自己抜去想定動作と非自己抜去動作における電圧値の変化に基づいて、両動作を区別するのが適切である事を見出した。
【0051】
即ち、
図7の被験者動作による電圧波形図に示す様に、非抜去動作の場合には、16秒かかる1つの動作中に電圧上昇回数は2回計測され、各計測値の間には電圧ゼロの時間が2秒間存在していた。一方で自己抜去想定動作では、12秒間の1つの操作中に電圧上昇回数は6回存在する事を見出した。
【0052】
そこで
図8(A)に示す電圧ゼロ時間のROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)と、
図8(B)に示す電圧上下回数のROC曲線に基づいて自己抜去想定動作における閾値を検討した。
【0053】
その結果、非抜去動作と自己抜去想定動作において、動作に基づいた最初の電圧反応があり、電圧がゼロになってから0.250秒以上、1.543秒以内に次の電圧反応があった場合に自己抜去想定動作と判断するのが適切であることを見出した。但し、電圧値の測定に使用する機器、例えば接触電圧測定器におけるバッテリーの消耗を減じる上では、2Hzで0.5秒間隔で測定するのが望ましい。よって、電圧ゼロになってから0.5秒以上、1.5秒以内に次の電圧反応を検知することを閾値として設定することにより、自己抜去想定動作を精度よく検知できることを見出した。
〔実験3〕
【0054】
この実験3では、前記
図2に示したように、配線又は電極からなる検知部15をシート状の基材の少なくとも縁部(特に、縁部から1mm以下の範囲)に設けた接触検知センサを用いて、
図3に示した生体接触検知装置を形成し、その正確性を確認した。この実験3における生体接触検知装置では、前記実験2の結果を考慮して、電圧ゼロになってから次の電圧反応を検知する時間について0.5秒以上、1.5秒以内の閾値を設定して検証を行った。この実験3における被験者は以下の通りである。
【0055】
「検証対象者属性」
職業(人) 看護師、介護士、理学療法士各1名(計3名)
年齢(歳)中央値(四分位範囲) 61.0 (29 - 67)
経験年数(年)中央値(四分位範囲) 8.0 (6 - 40)
認知機能低下が伴う高齢者のケア経験の有無 有3 (100.0%)
無0 (0.0)
【0056】
その結果を
図9に示す。この
図9は実験3の結果を示すグラフであり、前記実験1との対比で示している。その結果実験1では23.3%であった誤報率が8.5%に改善された。この誤報となった動作では、「おしぼりで手と顔を拭く」動作では、誤報率が高めとなったが、顔を拭く動作は固定部を不安定にさせる可能性もあることから接触検知センサの装着状態を見守る必要もあり、当該動作に基づいて動作信号を出力しても特段の支障はないと考えられる。
【0057】
そして「おしぼりで手と顔を拭く」以外の動作での誤報率は2.5%であった。臨床現場での離床センサシステムの誤報率は52~70%である(Yoshimura et al, 2013. Brusco et al, 2021 より)ことを鑑みれば、この誤報率2.5%は実際の臨床現場においても使用できる精度である。またこの実験における失報率・誤報率は共に0.0%であった。
本発明の接触動作判断モジュール、及びこれを用いた生体接触検知装置は、患者などの装着者本人が、医療用カテーテルを抜去したり、包帯、被覆材、皮膚接合用テープなどを取り外したりする動作を監視する為の装置として利用することができる。また動作信号を出力する際の閾値を任意に変更する事で、各種部位、及び各種機器を設置した際における自己抜去動作等を想定且つ監視する為の機器として使用することができる。