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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087342
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】苗移植機
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/00 20060101AFI20240624BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A01C11/00 A
A01C11/02 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202112
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】村並 昌実
(72)【発明者】
【氏名】山根 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】東 幸太
(72)【発明者】
【氏名】清家 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】中島 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】周防 僚太
(72)【発明者】
【氏名】川崎 優太
【テーマコード(参考)】
2B060
【Fターム(参考)】
2B060AA10
2B060AC03
2B060AE01
2B060BA03
2B060CA19
2B060CC05
(57)【要約】
【課題】補助作業者の労力を軽減しつつ、圃場に苗を安定して移植できる苗移植機を提供する。
【解決手段】
走行輪7を備え、圃場を走行可能に構成された走行車体2に、
前記走行輪7にエンジン8の駆動力を伝達する走行伝動ケース10と、
圃場に苗を植え付ける苗植付機3とが配設された苗移植機であって、
前記走行伝動ケース10の後部に、補助作業者が搭乗可能な補助作業者搭乗部12が設けられ、
前記作業者搭乗部12は、前記走行輪7の回転駆動力の伝達を受けて駆動する補助駆動輪15と、前記補助駆動輪15に、前記走行輪7の回転駆動力を伝達する補助駆動輪伝動ケース24とを備えることを特徴とする苗移植機1によって、上記課題の解決が図られる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行輪を備え、圃場を走行可能に構成された走行車体に、
前記走行輪にエンジンの駆動力を伝達する走行伝動ケースと、
圃場に苗を植え付ける苗植付機とが配設された苗移植機であって、
前記走行伝動ケースの後部に、補助作業者が搭乗可能な補助作業者搭乗部が設けられ、
前記作業者搭乗部は、前記走行輪の回転駆動力の伝達を受けて駆動する補助駆動輪と、前記補助駆動輪に、前記走行輪の回転駆動力を伝達する補助駆動輪伝動ケースとを備えることを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記補助駆動輪伝動ケースは、
前記走行輪の車軸上に設けられ、前記走行輪とともに回転する走行出力スプロケットとともに伝動チェーンの巻回を受ける走行入力スプロケットによって前記補助駆動輪に回転駆動力を伝達するよう構成された補助駆動輪伝動機構を内蔵し、かつ、前記補助駆動輪伝動機構を機体外側から覆うアウタケースが着脱可能に構成され、
補助駆動輪伝動機構は、前記走行出力スプロケットよりも前記走行入力スプロケットが小径に設けられ、前記走行輪よりも前記補助駆動輪の走行時における回転数が多くなるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
補助作業者搭乗部は、前記アウタケースを上下に切り欠いて形成された調節孔に、前記伝動チェーンに当接して張り具合を調節する軸部材を備えた軸付きボルトが締結され、かつ、前記軸付きボルトの操作部がアウタケース外に露出して操作可能に構成され、
前記補助作業者搭乗部は、前記走行輪の車軸を中心に回動可能に構成されるとともに、前記苗移植機の車高の上下に連動させるための車高連動用部材を備え、苗移植機の車高が上昇すると、これに応じて前記補助作業者搭乗部が上方へと回動するよう構成されたことを特徴とする請求項2に記載の苗移植機。
【請求項4】
前記補助作業者搭乗部は、補助作業者が搭乗するためのステップ板部と、前記ステップ板部上に設けられ、補助作業者が着座するための座席部とを備え、
前記座席部は、前記ステップ板部上に固定された基部パイプと、前記基部パイプに上下スライド可能に挿通された上下高さ調節パイプと、前記上下高さ調節パイプに回転可能に挿通された回転パイプと、前記回転パイプの上端に角度調節可能に連結された着座用のサドルとを備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項5】
前記補助作業者搭乗部は、ステップ板部の後端は、後方に向けて下り傾斜が形成された傾斜部が設けられ、また、前記走行輪に付着した泥を落とす走行輪用スクレーパと、前記補助駆動輪に付着した泥を落とす補助駆動輪用スクレーパとを備えたことを特徴とする請求項4に記載の苗移植機。
【請求項6】
前記補助作業者搭乗部は、左右の走行伝動ケースにそれぞれ配設され、さらに、左右の補助作業者搭乗部が左右伸縮可能な連結パイプで連結され、
前記連結パイプは、前記走行車体の車体骨格をなすメインフレームの下方に配設され、かつ、前記連結パイプ上に作業者が搭乗可能な作業者用ステップが設けられたことを特徴とする請求項5に記載の苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に苗を移植する苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、苗移植機による植付作業中、正常に苗を植付けできなかった箇所に、手作業で苗を植え付ける補助作業者が、立ち姿勢で簡便に乗降できる作業台を、機体後部に備えた苗移植機が開示されている。
【0003】
この作業台は、従動輪である支持輪が設けられており、この支持輪が、補助作業者の荷重を支持しながら転輪することで、補助作業者が搭乗した状態で、苗移植機の機体に牽引させて移動できるよう構成されている。これにより、補助作業者が圃場を歩いて移動する労力を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-116529号公報
【特許文献2】特開2020-195400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によれば、作業台に補助作業者が搭乗すると、その荷重によって、苗移植機に後方への引っ張り負荷がかかり、その結果、走行用の駆動輪にスリップが生じやすくなり、また、機体バランスの悪化により、蛇行が生じやすくなる。その結果、苗の植え付け間隔(株間)や苗同士の左右間(条間)が乱れるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、補助作業者の労力を軽減しつつ、圃場に苗を安定して移植できる苗移植機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、
走行輪を備え、圃場を走行可能に構成された走行車体に、
前記走行輪にエンジンの駆動力を伝達する走行伝動ケースと、
圃場に苗を植え付ける苗植付機とが配設された苗移植機であって、
前記走行伝動ケースの後部に、補助作業者が搭乗可能な補助作業者搭乗部が設けられ、
前記作業者搭乗部は、前記走行輪の回転駆動力の伝達を受けて駆動する補助駆動輪と、前記補助駆動輪に、前記走行輪の回転駆動力を伝達する補助駆動輪伝動ケースとを備えることを特徴とする苗移植機を提供する。
【0008】
上記第1の発明によれば、
記作業者搭乗部は、走行輪の回転駆動力の伝達を受けて駆動する補助駆動輪と、補助駆動輪に、前記走行輪の回転駆動力を伝達する補助駆動輪伝動ケースを備えたことにより、苗移植機に後方への引っ張り負荷を低減し、走行用の駆動輪のスリップを防止し、また、機体バランスを安定化できる。その結果、補助作業者の労力を軽減しつつ、苗の植え付け間隔(株間)や苗同士の左右間(条間)を安定させることができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明の構成に加え、前記補助駆動輪伝動ケースは、
前記走行輪の車軸上に設けられ、前記走行輪とともに回転する走行出力スプロケットとともに伝動チェーンの巻回を受ける走行入力スプロケットによって前記補助駆動輪に回転駆動力を伝達するよう構成された補助駆動輪伝動機構を内蔵し、かつ、前記補助駆動輪伝動機構を機体外側から覆うアウタケースが着脱可能に構成され、
補助駆動輪伝動機構は、前記走行出力スプロケットよりも前記走行入力スプロケットが小径に設けられ、前記走行輪よりも前記補助駆動輪の走行時における回転数が多くなるよう構成されたことを特徴とする。
【0010】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、
補助駆動輪伝動機構を機体外側から覆うアウタケースが着脱可能に構成されたため、機体外側に設けられ、アウタケースが容易に着脱できるようになっているため、補助駆動輪伝動機構のメンテナンス、部品交換が容易となる。走行出力スプロケットよりも走行入力スプロケットが小径に設けられ、前記走行輪よりも前記補助駆動輪の走行時における回転数が多くなるよう構成されたため、補助作業者搭乗部に補助作業者の荷重がかかった場合においても、補助駆動輪のスリップを生じにくくし、より良好に苗の植え付けを安定化できる。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明の構成に加え、補助作業者搭乗部は、前記アウタケースを上下に切り欠いて形成された調節孔に、前記伝動チェーンに当接して張り具合を調節する軸部材を備えた軸付きボルトが締結され、かつ、前記軸付きボルトの操作部がアウタケース外に露出して操作可能に構成され、
前記補助作業者搭乗部は、前記走行輪の車軸を中心に回動可能に構成されるとともに、前記苗移植機の車高の上下に連動させるための車高連動用部材を備え、苗移植機の車高が上昇すると、これに応じて前記補助作業者搭乗部が上方へと回動するよう構成されたことを特徴とする。
【0012】
上記第3の発明によれば、上記第2の発明の効果に加え、
軸付きボルトの操作部がアウタケース外に露出して操作可能に構成されたため、アウタケースを装着した状態で、軸付きボルトを操作して、伝動チェーンに当接して張り具合を調節できるため、作業を迅速化できる。また、苗移植機の車高の上下に連動させるための車高連動用部材を備え、苗移植機の車高が上昇すると、これに応じて前記補助作業者搭乗部が上方へと回動するよう構成されたため、機体旋回時に、畝と干渉しないようにして旋回を行う際、作業者が補助作業者搭乗部を回動操作する手間を省き、作業効率を向上できる。
【0013】
第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明の構成に加え、前記補助作業者搭乗部は、補助作業者が搭乗するためのステップ板部と、前記ステップ板部上に設けられ、補助作業者が着座するための座席部とを備え、
前記座席部は、前記ステップ板部上に固定された基部パイプと、前記基部パイプに上下スライド可能に挿通された上下高さ調節パイプと、前記上下高さ調節パイプに回転可能に挿通された回転パイプと、前記回転パイプの上端に角度調節可能に連結された着座用のサドルとを備えたことを特徴とする。
【0014】
上記第4の発明によれば、上記第1から第3のいずれかの発明の効果に加え、座席部の上下高さや角度変更により、補助作業者の体型や好みに応じた細かな調節が可能となるため、安定した着座が可能となり、安全性や作業能率が向上する。
【0015】
第5の発明は、上記第4の発明の構成に加え、前記補助作業者搭乗部は、ステップ板部の後端は、後方に向けて下り傾斜が形成された傾斜部が設けられ、また、前記走行輪に付着した泥を落とす走行輪用スクレーパと、前記補助駆動輪に付着した泥を落とす補助駆動輪用スクレーパとを備えたことを特徴とする。
【0016】
上記第5の発明によれば、上記第4の発明の効果に加え、
ステップ板部の後端は、後方に向けて下り傾斜が形成された傾斜部が設けられたため、傾斜部に足を掛けて、補助作業者が搭乗しやすい。また、走行輪に付着した泥を落とす走行輪用スクレーパと、補助駆動輪に付着した泥を落とす補助駆動輪用スクレーパによって、走行輪及び補助駆動輪に付着した泥を落とすことで、スリップの発生が防止され、苗移植機の植え付けを安定化することができる。特に、走行輪よりも小径に設けられた補助駆動輪用に関し、泥の付着により径が変化して走行が不安定になる事態を好適に防止できる。
【0017】
第6の発明は、上記第5の発明の構成に加え、
前記補助作業者搭乗部は、左右の走行伝動ケースにそれぞれ配設され、さらに、左右の補助作業者搭乗部が左右伸縮可能な連結パイプで連結され、
前記連結パイプは、前記走行車体の車体骨格をなすメインフレームの下方に配設され、かつ、前記連結パイプ上に作業者が搭乗可能な作業者用ステップが設けられたことを特徴とする。
【0018】
上記第6の発明によれば、上記第5の発明の効果に加え、左右の補助作業者搭乗部によって、機体バランスを更に良好なものとすることができる。また、連結パイプは、走行車体の車体骨格をなすメインフレームの下方に配設されたため、車高調節時における走行車体と連結パイプとの干渉が防止される。また、作業者用ステップにより、作業者の労力を軽減して、利便性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、補助作業者の労力を軽減しつつ、圃場に苗を安定して移植できる苗移植機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の好ましい実施形態に係る苗移植機の略左側面図である。
図2図2は、図1の苗移植機の平面図である。
図3図3は、図1の苗移植機の鎮圧機構の背面図である。
図4図4は、補助作業者搭乗部が配設された図1苗移植機の側面図である。
図5図5は、図4の補助作業者搭乗部の左側面図である。
図6図6は、同上の斜視図である。
図7図7は、同上の斜視図である。
図8図8は、同上の平面図である。
図9図9は、同上の右側面図である。
図10図10は、別実施例に係る苗移植機1の補助作業者搭乗部近傍の斜視図である。
図11図11(a)は、左右幅伸長時の連結パイプの略背面図であり、図11(b)は、左右幅伸縮時の連結パイプの略背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。なお、説明においては、苗移植機1の前進方向Fを基準に、前後、左右という。まず、苗移植機1の基本構成について以下説明する。なお、苗移植機1の一般的な公知の構成については、適宜説明を省略する。
【0022】
<基本構成>
本発明に係る苗移植機1は、その左側面図と平面図を図1図2に示すように、圃場を走行可能に構成された走行車体2に、苗植付機3と鎮圧機構4とを備え、畝面センサSによって畝面高さに合わせて苗植付機3の植え付け深さを確保するとともに、鎮圧機構4により植え付け位置の両側を鎮圧しつつ走行する。図例では、2条植え構成として機体メインフレーム5の両側に各状の苗植付機3と鎮圧機構4を横並びに備える。なお、説明の便宜上、後述する補助作業者搭乗部12は、図1図2において図示が省略されている。
【0023】
走行車体2は、走行用の車体であって、車体の骨格をなすメインフレーム5に、前輪6、後輪7,7、駆動源となるエンジン8、前方から乗込むときに利用されるフロントステップ9、エンジン8から出力される駆動力を、走行輪である後輪7,7に伝動する走行伝動ケース10等が配設され、走行輪である後輪7,7の回転駆動により圃場を走行可能となっている。
【0024】
苗植付機3は、開閉可能なくちばし状の苗植付け体3aを昇降動作可能に備え、苗搬送装置D(5)によって配給搬送された苗を受けて畝面の所定深さ位置に植付け動作し、鎮圧機構4は、植付け苗の左右両側位置の畝面を押圧する左右の鎮圧部材である鎮圧輪4a,4a(11,11)を苗植付機3の後方に配置して構成する。
【0025】
各鎮圧機構4は、詳細には、その背面図を図3に示すように、メインフレーム5に鎮圧ロッド4b(14)を支持してばね4c(14a)で下方付勢可能に構成し、この鎮圧ロッド4b(14)の下端に略逆三角形の連結プレート4g(13)を左右回動可能に軸支し、この軸支部4d(13a)の左右等距離位置に左右の支持アーム4f,4f(12,12)を介してそれぞれ鎮圧輪4a(11,11)を転動可能に軸支し、鎮圧ロッド4b(14)の付勢力を連結プレート4g(13)により左右の鎮圧輪4a,4a(11,11)にバランスして配分可能に構成する。
【0026】
また、苗移植機1は、走行伝動ケース10を昇降シリンダ11の伸縮により、回動して車高を調節する車高調節機構を備えている。この車高調節機構の一般的な公知の構成については、必要に応じて特許文献2(特開2020-195400号公報)を参照されたい。
【0027】
走行伝動ケース10の後部には、補助作業者が搭乗可能な補助作業者搭乗部12が設けられている。以下、補助作業者搭乗部12の詳細について説明する。
【0028】
<補助作業者搭乗部>
図4は、補助作業者搭乗部12が配設された苗移植機1の側面図である。
図4に示されるように、補助作業者搭乗部12は、補助作業者が搭乗するためのステップ板部13と、このステップ板部13の左右に取り付けられたサイドボディ部14と、このサイドボディ部14の後部に取り付けられた補助駆動輪15と、後輪7,7の駆動力を補助駆動輪15に伝動する補助駆動輪伝動機構16と、ステップ板部13上に設けられ、補助作業者が着座するための座席部17とを備えている。
【0029】
図5は、図4の補助作業者搭乗部の左側面図であり、図6図7は、同上の斜視図であり、図8は、同上の平面図である。図5図8に示されるように、ステップ板部13は、補助作業者搭乗部16の上面部分を形成する部材であり、前後方向を長手とする略矩形板状をなし、ステップ板部13の前端は、後輪7との干渉を防止するために凹状に切り欠かれた切欠部18が設けられ、当該切欠部18に沿って立ち上がるようにして、後輪7から跳ね上がる泥を防ぐための後輪用フェンダ19(走行輪用フェンダ19)が壁状に立設されている。この後輪用フェンダ19は、後輪7から跳ね上がる泥がステップ板部13のフロア面13aに付着することを防止し、これにより、補助作業者の安全面や衛生面における利便性を向上できる。
【0030】
ステップ板部13のフロア面13aには、上穴の縁を広げながら立てるようにバーリング加工されたバーリング穴13bが複数設けられている。この複数のバーリング穴13bは、フロア面13aにおける滑り止めと、補助作業者の靴に付着した泥を落とす機能を発揮するものである。なお、フロア面13aには、滑り止め用のシートが配設されてもよい。
【0031】
ステップ板部13の後端は、後方に向けて下り傾斜が形成された傾斜部13cが設けられており、該傾斜部13cに足を掛けて、補助作業者が搭乗しやすいように構成されている。
【0032】
また、ステップ板部13の下面には、後輪7に付着した泥を落とす後輪用スクレーパ13dと、補助駆動輪15に付着した泥を落とす補助駆動輪用スクレーパ13eがそれぞれ設けられている。後輪用スクレーパ13d及び補助駆動輪用スクレーパ13eとしては、鉄板、線材、へら状、ブラシ状など種々のものが採用でき、これらの泥落とし用の部材を、ステップ板部13の下面に取り付けるととともに、その先端側を、後輪7、補助駆動輪15にそれぞれ伸ばして当接させて、泥落とし効果を得るものである。この後輪用スクレーパ13d及び補助駆動輪用スクレーパ13eによって、後輪7及び補助駆動輪用13eに付着した泥を落とすことにより、スリップの発生が防止され、苗移植機1の植え付けを安定化することができる。特に、後輪7よりも小径に設けられた補助駆動輪15に関し、泥の付着により車輪の径が変化して走行が不安定になる事態を好適に防止できる。
【0033】
後輪用スクレーパ13dは、後輪の後方かつ後輪用フェンダ13dの下方に設けられている。補助駆動輪用スクレーパ13eは、ステップ板部13の下面かつ補助駆動輪15の後ろ斜め上方に設けられている。
【0034】
次に、サイドボディ部14について、説明する。
サイドボディ部14は、補助作業者搭乗部12の左右側面部分を形成する部材であり、走行伝動ケース10を左右から挟むようにして走行伝動ケース10と連結されており、上端側が、ステップ板部13の下面にボルト締結により固定されている。また、サイドボディ部14の前端側は、ステップ板部13より前方に延び、左右それぞれ、ベアリングを介して走行伝動ケース10にボルト締結されており、これにより、サイドボディ部14は、後輪7の回動と干渉せず、後輪7の車軸と同軸上に配設されたボルト締結部20を中心として回動自在となるように、走行伝動ケース6に取り付けられている。
【0035】
これにより、補助作業者搭乗部12は、上方(矢線F2方向)へと回動して折り畳むことが可能となっており、機体旋回時に折り畳むことにより、支障なく旋回が可能となる。また、非使用時には、折り畳んで機体をコンパクト化できる。なお、走行伝動ケース10は、所定の回動角度(例えば、水平姿勢から上方へと160度)以上、補助作業者搭乗部12が回動すると、補助作業者搭乗部12を係止して回動を規制するストッパ21が設けられている。
【0036】
サイドボディ部14の後端側は、後輪7の回転駆動力の伝達を受けて駆動する補助駆動輪15が設けられている。この補助駆動輪15は、駆動により苗移植機1の走行を補助する機能を果たし、後輪7よりも小径に形成され、ステップ板部13の後端よりやや前方に配設されている。このように、この補助駆動輪15は、後輪7よりも小径に形成され、後輪7よりも速く(多く)回転するように構成されているため、補助作業者搭乗時における補助作業者搭乗部12の走行を安定できる仕組みとなっている。
【0037】
サイドボディ部14は、連結された走行伝動ケース10に対して、機体内側に配設された内側サイドボディ部22と、機体外側に配設された外側サイドボディ部23とを備えている。
【0038】
内側サイドボディ部22は、補助作業者搭乗部12の左側面を形成し、外側サイドボディ部23は、補助作業者搭乗部12の右側面をそれぞれ形成する剛性板状部材である。外側サイドボディ部23は、断面略コの字状のインナケース23aと、インナケース23aの開放面を被覆可能に形成された断面略コの字状のアウタケース23bとを嵌合し、ボルトで締結して固定することで、後述する補助駆動輪伝動機構16の筐体となるように形成されている。なお、図示例において、インナケース23aの開放面は、機体内側(右側)であり、アウタケース23bの開放面は、機体外側(左側)である。アウタケース23bは、インナケース23aの開放面に蓋をするように覆うため、インナケース23aの形状に合わせて、インナケース23aよりもやや大なる寸法で形成されている。
【0039】
なお、筐体をなす外側サイドボディ部23と、これに内蔵される補助駆動輪伝動機構16とを合わせて、補助駆動輪伝動ケース24と称する。
【0040】
アウタケース23bは、インナケース23aに固定用のボルト締結により固定されて嵌着されており、固定用ボルトの操作により、インナケース23aに容易に着脱できるものとなっている。このように構成された外側サイドボディ部23は、機体外側に設けられ、アウタケース23bが容易に着脱できるようになっているため、後述する補助駆動輪伝動機構16のメンテナンスや部品交換が容易となっている。
【0041】
次に、図9を参照し、補助駆動輪伝動機構16について、説明する。
図9は、図8のQ方向から視た補助作業者搭乗部12の右側面図であり、インナケース23aからアウタケース23bが取り外された状態が図示されている。
【0042】
補助駆動輪伝動機構16は、補助駆動輪15に伝動する機構であり、後輪7の車軸上に設けられて、後輪7とともに回転する走行出力スプロケット16aと、該走行出力スプロケット16aとともに伝動チェーン16bの巻回を受ける走行入力スプロケット16cとを備え、該走行入力スプロケット16cは、補助駆動輪15の車軸上に設けられており、補助駆動輪15に回転駆動力を伝達する。このように構成された補助駆動輪伝動機構16は、後輪7の回転駆動力を補助駆動輪15へと伝達し、補助駆動輪15に走行力を付与する機能を果たす。
【0043】
このように、補助駆動輪15は、苗移植機1の走行時に、補助駆動輪伝動機構16によって、後輪7の回転駆動力の伝達を受けて回転駆動するように構成されているため、補助作業者搭乗部12に前方への推進力を発揮させるものである。これにより、苗移植機1にかかる後方への引っ張り負荷を低減して、苗移植機1の走行を補助することができる。その結果、走行用の駆動輪である後輪7のスリップの発生を抑えるとともに、走行時の機体バランスを安定化させ、蛇行を抑えることができる。その結果、作業者搭乗部12に補助作業者の荷重がかかった場合においても、苗の植え付け間隔(株間)や苗同士の左右間(条間)を安定化できる。
【0044】
また、補助駆動輪伝動機構16は、走行出力スプロケット16aの回転数よりも、走行入力スプロケット16cの回転数を増加させるよう、走行出力スプロケット16aの歯数が走行入力スプロケット16cの歯数よりも多く設けられている。例えば、走行出力スプロケット16aは24歯であり、走行入力スプロケット16cの13歯である。これに応じて、後輪7の回転数よりも、補助駆動輪15の回転数を増加させる(換言するならば、後輪7の駆動速度より補助駆動輪15の駆動速度を高める回転比率とする)よう構成されており、その結果、補助作業者搭乗部12に補助作業者の荷重がかかった場合においても、補助駆動輪15のスリップを生じにくくし、より良好に苗の植え付けを安定化できる。
【0045】
なお、走行出力スプロケット16a及び走行入力スプロケット16cは、歯数が異なるものに交換可能となっており、例えば、傾斜地等において、走行出力スプロケット16aまたは走行入力スプロケット16cを交換して歯数を増減する(例えば、±4歯)ことにより、補助駆動輪15のスリップを生じにくく調整することができる。
【0046】
また、サイドボディ部14には、伝動チェーン16bのテンション(張り具合)を調節可能なテンショナー25が設けられている。このテンショナー25は、サイドボディ部14(より詳細には、インナケース23a及びアウタケース23bの両方)を緩く弧を描くように上下に所定範囲切り欠いて形成された調節孔25aに、伝動チェーン16bに当接してテンションを調節する軸部材(図示せず)を備えた軸付きボルト25b(テンション調節具)を締結することにより構成される。
【0047】
そして、調節孔25aにおける軸付きボルト25bの締結位置を作業者が適宜変更することにより、伝動チェーン16bのテンションを調節可能となっている。すなわち、調節孔25aの上方側に位置決め締結するほど、伝動チェーン16bの張り具合をきつくし、これにより、弛み、緩みを是正できるため、故障を防止できる。また、調節孔25aの下方側に位置決め締結するほど、緩く調節できる。このように、走行出力スプロケット16aまたは走行入力スプロケット16cを交換して歯数を増減させた場合や、摩耗等を要因とする伝動チェーン16bの弛み、緩みが生じた場合に、テンショナー25の操作によって、故障を良好に防止できる。
【0048】
軸付きボルト25b(テンション調節具)の頭部(操作部)は、サイドボディ部14外に露出しており、これにより、アウタケース23bを取り外すことなく、伝動チェーン16cのテンションを調節可能となっている。これにより、作業を迅速化できる。
【0049】
次に、補助作業者が着座するための座席部17について説明する。
座席部17は、補助作業者搭乗部12に搭乗した補助作業者が着座するためのものであり、着座により補助作業者の負担を軽減し、また、着座や把持により補助作業者の姿勢を安定させ、補助作業者搭乗部12から意図せず落下してしまうことを防止できる。
【0050】
座席部17は、ステップ板部13上に固定された基部パイプ17aと、該基部パイプ17aに上下スライド可能に挿通された上下高さ調節パイプ17bと、該上下高さ調節パイプ17bに鉛直方向を軸として回転可能に挿通された回転パイプ17cと、該回転パイプ17cの上端に連結された着座用のサドル17dとを備えている。
【0051】
基部パイプ17aは、ステップ板部13上面の前寄り左側に固定され、該基部パイプ17aの上部に、上下高さ調節パイプ17bを固定する握り付きの押しボルト17eが設けられている。これにより、上下高さ調節パイプ17bの上端の高さを無段階で調節した上で、該握り付きの押しボルト17eを締め込む操作によって、所望の高さで固定できるよう構成されている。なお、基部パイプ17aの全長は、一般的な成人の膝までの高さ以下(例えば、60cm以下)に設定され、後述するサドル17dの高さを腰よりやや低い位置に設定可能となっている。これにより、補助作業者は、補助作業者搭乗部12への乗降が容易にできるよう浅く腰掛けることができ好適である。また、基部パイプ17aは、ステップ板部13上面の前寄り左側に固定されたことより、補助作業者が捕植作業しやすい位置に、座席部17を配置できる。
【0052】
回転パイプ17cは、作業者の回転操作により上下高さ調節パイプ17bに対して回転可能に設けられ、これにより、後述するサドル17dを回転して所望の向きとすることが可能となっている。
【0053】
サドル17dは、該回転パイプ17cの上端にボールジョイントで連結されており、これにより、サドル17d先端の上下方向角度を変更できるよう構成されている。補助作業者の体型や好みに応じた細かな調節が可能となるため、安定した着座が可能となる。これにより、安全性や作業能率が向上する。
【0054】
次に、補助作業者搭乗部12の車高連動構成について、説明する。
通常、苗移植機1の旋回時、作業者の所定操作により、苗植付機3が植え付けを行えない程度の高さまで、車高調節機構により車高を上げ、苗植付機3が畝と干渉しないようにして旋回を行う。このとき、補助作業者搭乗部12についても、畝との干渉を避けるため、上方へ回動させることが望ましい。
【0055】
そこで、補助作業者搭乗部12の回動中心(ボルト締結部12)の近傍(図示例においては、後輪用フェンダ19)に、車高の上下に連動させるための車高連動用部材として車高連動用ワイヤー13fの一端を接続し、該車高連動用ワイヤー13fの他端を、走行車体2の車高と連動して上下する適宜の箇所(例えば、フロントステップ9の左右端)と接続し、車高連動用ワイヤー13fを、苗植付機3が植え付けを行えない程度の高さまで車高を上げたときに、補助作業者搭乗部12が上方へと引っ張られて、水平姿勢から45度~60度程度上方へと回動する長さに設定する。なお、苗植付機3が植え付け可能な車高としたとき、車高連動用ワイヤー13fは撓み、補助作業者搭乗部12は接地する。このような、車高連動構成を設けることで、機体旋回時に、作業者が補助作業者搭乗部12を回動操作する手間を省き、作業能率を向上できる。
【0056】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0057】
<補助作業者搭乗部の左右2台配置構成>
図10は、別実施例に係る苗移植機1の補助作業者搭乗部近傍の斜視図である
次に、補助作業者搭乗部12を苗移植機1の左右両側に設ける構成(左右2台配置構成)について説明する。
上記において、補助作業者搭乗部12を苗移植機1の左側に設けた構成について説明したが、図10に示されるように、補助作業者搭乗部12の構成が、左右対称となるように、苗移植機1の左右両側に設ける構成(換言するならば、左右の走行伝動ケース10にそれぞれ連結して配設する構成)とすることもできる。これにより、機体バランスを更に良好なものとすることができる。
【0058】
さらにこのとき、左右の補助作業者搭乗部12を連結する連結パイプ26を設け、該連結パイプ26の左右略中央に、作業者が一時搭乗可能な矩形平板状の作業者用ステップ27が設けられてもよい。これにより、左右の補助作業者搭乗部12の強度を向上できるとともに、作業者用ステップにより、作業者の労力を軽減して、利便性を向上できる。なお、図示例においては、連結パイプ26の左右両端は、左右のステップ板部13の傾斜部13cに固定されている。なお、これに限らず、左右のサイドボディ部14の前後中間部14a)に固定されるよう構成されてもよい。このとき、車高調節機構による最大下降時のメインフレーム5位置より、さらに下方に連結パイプ26が配置されるよう構成する。これにより、車高調節時における走行車体2と連結パイプ26との干渉が防止される。
【0059】
さらに、連結パイプ26は、苗植付機3における苗植付け体3aの左右間(条間)調節に対応して、左右幅を調節可能に構成されることが望ましい。図11(a)は、左右幅伸長時の連結パイプ26の略背面図であり、図11(b)は、左右幅伸縮時の連結パイプ26の略背面図である。
【0060】
図11(a)、図11(b)に示されるように、連結パイプ26は、外筒パイプ26a(右側)に内筒パイプ26b(左側)を挿通して2重パイプ構成とし、左右の補助作業者搭乗部12、12の左右幅に応じて、連結パイプ26の左右幅を伸縮自在とする。このとき、作業者用ステップ27は外筒パイプ26a上面に固着される。これにより、左右間(条間)調節に対応し、走行伝動ケース10の左右幅が調節される場合に、連結パイプ26の左右幅についても、伸縮によって同時に調節でき、利便性が良い。
【0061】
<その他の別実施例>
補助作業者搭乗部12を、苗移植機1の右側の後輪伝動ケース(走行伝動ケース)10のみに設けてもよい。また、ステップ板部13に、自転車のスタンドのように、回動操作により補助作業者搭乗部12の姿勢を保持できるスタンドが取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 苗移植機
2 走行車体
3 苗植付機
3a 苗植付け体
4 鎮圧機構
4a 鎮圧輪
4b 鎮圧ロッド
4c ばね
4d 軸支部
4f 支持アーム
4g 連結プレート
5 メインフレーム
6 前輪
7 後輪
8 エンジン
9 フロントステップ
10 走行伝動ケース
11 昇降シリンダ
12 補助作業者搭乗部
13 ステップ板部
13a フロア面
13b バーリング穴
13c 傾斜部
13d 後輪用スクレーパ
13e 補助駆動輪用スクレーパ
13f 車高連動用ワイヤー
14 サイドボディ部
14a 中間部
15 補助駆動輪
16 補助駆動輪伝動機構
16a 走行出力スプロケット
16b 伝動チェーン
16c 走行入力スプロケット
17 座席部
17a 基部パイプ
17b 上下高さ調節パイプ
17c 回転パイプ
17d サドル
17e 押しボルト
18 切欠部
19 後輪用フェンダ(走行輪用フェンダ)
20 ボルト締結部
21 ストッパ
22 内側サイドボディ部
23 外側サイドボディ部
23a インナケース
23b アウタケース
24 補助駆動輪伝動ケース
25 テンショナー
25a 調節孔
25b 軸付きボルト(テンション調節具)
26 連結パイプ
26a 外筒パイプ
26b 内筒パイプ
27 作業者用ステップ
S 畝面センサ
図1
図2
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図5
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図11