(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087349
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】電動車椅子
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20240624BHJP
A61G 5/06 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A61G5/04 707
A61G5/04 701
A61G5/06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202126
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松江 武典
(72)【発明者】
【氏名】川崎 宏治
(72)【発明者】
【氏名】仙波 快之
(57)【要約】
【課題】前後に支持棒を有する電動車椅子に関し、階段を下りる際に両方の支持棒が接地してしまわないようにする。
【解決手段】本明細書が開示する電動車椅子は、椅子と、椅子の両側に配置されている主輪と、前支持棒と、後支持棒と、コントローラを備える。主輪はモータで駆動される。前支持棒は、椅子の前方へ延びており、アクチュエータによって前端部が上下に揺動する。後支持棒は、椅子の後方へ延びており、アクチュエータによって後端部が上下に揺動する。コントローラは、電動車椅子が階段を下りる際、次の通りに前支持棒の前端部の位置を決定する。すなわち、コントローラは、階段の各段のエッジを結んだ平面が水平面となすスロープ角度と、階段の各段のエッジのうち主輪の中心に最も近いエッジと主輪中心を結んだ線が鉛直方向となすエッジ位置角度との一方に基づいて、前端部の位置を決定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車椅子であって、
椅子と、
前記椅子の両側に配置されており、モータで駆動される主輪と、
前記椅子の前方へ延びており、前端部が上下に揺動する前支持棒と、
前記椅子の後方へ延びており、後端部が上下に揺動する後支持棒と、
前記前支持棒と前記後支持棒と前記主輪を制御するコントローラと、
を備えており、
前記電動車椅子の重心が前記主輪の軸よりも後方に位置しており、
前記コントローラは、当該電動車椅子が階段を下りる際、前記階段の各段のエッジを結んだ平面が水平面となすスロープ角度と、前記階段の各段のエッジのうち前記主輪の中心に最も近い前記エッジと前記中心を結んだ線が鉛直方向となすエッジ位置角度との一方に基づいて、前記前端部の位置を決定する、電動車椅子。
【請求項2】
前記コントローラは、前記スロープ角度に基づいて決定した前記前端部の位置と、前記エッジ位置角度に基づいて決定した前記前端部の位置のうち、高い方を選択する、請求項1に記載の電動車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電動車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動車椅子は、階段を昇降することができる。特許文献1の電動車椅子は、椅子の両側に配置されている主輪と、椅子から後方へ延びている支持棒と、主輪よりも後方に位置する補助輪を備える。主輪はモータで駆動される。支持棒の後端部がアクチュエータによって上下に揺動する。補助輪もアクチュエータによって上下に揺動する。この電動車椅子は、階段では補助輪を浮かせ、主輪と支持棒で椅子を支えながら階段を上り下りすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
階段を下る際に椅子が前方転倒しないように前方へ延びる前支持棒を備えることが考えられる。椅子が前傾したときに前支持棒で椅子を支えることができる。その場合、前支持棒と後支持棒の両方が接地して主輪が浮いてしまうと電動車椅子全体が階段をすべってしまうおそれがある。本明細書は、椅子の前後に支持棒を有する電動車椅子であって、階段を下りる際に両方の支持棒が接地してしまわないようにする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する電動車椅子は、椅子と、椅子の両側に配置されている主輪と、前支持棒と、後支持棒と、コントローラを備える。主輪はモータで駆動される。前支持棒は、椅子の前方へ延びており、アクチュエータによって前端部が上下に揺動する。後支持棒は、椅子の後方へ延びており、アクチュエータによって後端部が上下に揺動する。コントローラは、電動車椅子が階段を下りる際、次の通りに前支持棒の前端部の位置を決定する。すなわち、コントローラは、階段の各段のエッジを結んだ平面が水平面となすスロープ角度と、階段の各段のエッジのうち主輪の中心に最も近いエッジと主輪中心を結んだ線が鉛直方向となすエッジ位置角度との一方に基づいて、前端部の位置を決定する。「各段のエッジ」とは、階段の各段の上角の直角部分を指す。
【0006】
上記の通りに前端部の位置を決定することで、前端部は階段のエッジの上方の位置に保持される。電動車椅子が前傾して後支持棒が浮いてしまった場合は前支持棒の前端部が階段に接地し、椅子の前方への回転を防ぐ。このときは前端部と主輪が接地しており、電動車椅子の全体が階段を滑り落ちることはない。
【0007】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の電動車椅子の側面図である(段差を上る前)。
【
図2】椅子の目標姿勢角とスロープ角度を説明する図である。
【
図3】目標姿勢角とスロープ角度の合計値に対する前端部位置の関係の一例を示すグラフである。
【
図4】エッジ位置角度と前端部の位置の関係を示す模式図である。
【
図5】エッジ位置角度に対する前端部の位置を決定するグラフである。
【
図6】
図6(A)は、スロープ角度から決定された前端部位置が選択される例である。
図6(B)は、エッジ位置角度から決定された前端部位置が選択される例である。
【
図7】後支持棒の後端部の位置と接地点角度の関係を示す模式図である。
【
図8】後支持棒の後端部の位置と接地点角度の関係の一例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照しつつ実施例の電動車椅子10を説明する。
図1に実施例の電動車椅子10の側面図を示す。実施例の電動車椅子10は、椅子11、主輪12、モータ13を備える。主輪12は、椅子11の両側に配置されており、モータ13で駆動される。なお、
図1では、電動車椅子10の構造がよくわかるように、主輪12は破線で描いてあり、主輪12の奥側に位置するデバイス(本来は主輪12に隠れて見えないデバイス)を実線で描いてある。
【0010】
電動車椅子10は、さらに、前支持棒14、後支持棒15、アクチュエータ16、17を備えている。前支持棒14は、椅子11の前方へ延びている。前支持棒14の後端はピボット18に揺動可能に支持されている。椅子11と前支持棒14との間にはアクチュエータ16が取り付けられている。アクチュエータ16は直動型であり、伸縮すると、前支持棒14の前端部14aが上下に揺動する。支持棒14の先端には自由に回転する補助輪が取り付けられている。
【0011】
図1の記号「14a_U」と「14a_L」は、前支持棒14の可動範囲を表している。前端部14a_Uは、前支持棒14の上限の位置(すなわち前端部14aの上限位置)を表している。前端部14a_Lは、前支持棒14の下限の位置(すなわち、前端部14aの下限位置)を表している。前支持棒14が揺動することで、前端部14aは
図1の前端部14a_Uが示す位置から前端部14a_Lが示す位置の間で変化する。
【0012】
前支持棒14は、電動車椅子10(椅子11)の前方転倒を防止するためのデバイスである。電動車椅子10が階段を下っているときに前端部14aが段下のステップの直上に位置することができるように、前端部14a_Lは、水平な床Fよりも下に位置することができる。
【0013】
後支持棒15は椅子11の後方へ延びている。後支持棒15の前端はピボット18に揺動可能に支持されている。椅子11と後支持棒15との間にはアクチュエータ17が取り付けられている。アクチュエータ17は直動型であり、伸縮すると、後支持棒15の後端部15aが上下に揺動する。ピボット18は、主輪12の軸12aよりも後ろであって、軸12aよりも下側に位置する。別言すれば、ピボット18は軸12aの後下方に位置する。
【0014】
後支持棒15の後端部15aは、そりの形状を有している。電動車椅子10の重心(着座したユーザの体重を含む)は、主輪12の中心(軸12a)よりも後方に位置する。それゆえ、後支持棒15の後端部15aは床Fに接する。後端部15aを上下に動かすことで、椅子11の目標姿勢角(主輪12の軸12aを中心とした椅子11の回転角)を調整することができる。
【0015】
モータ13とアクチュエータ16、17は、コントローラ20によって制御される。コントローラ20は、椅子11に内蔵されている。また、各種センサ21も椅子11に取り付けられている。センサ21には、電動車椅子10の速度を計測する車速センサ、椅子11の姿勢角を計測する角度センサ、電動車椅子10が走行している面の形状を検知する路面センサなどが含まれる。電動車椅子10が階段を昇降する際には路面センサが階段の形状を検知する。個々のセンサの図示は省略した。
【0016】
電動車椅子10は、前支持棒14と後支持棒15を巧みに使い、階段を下りる際に転倒を防止することができる。
【0017】
コントローラ20は、電動車椅子10が階段を下りる際、スロープ角度と、エッジ位置角度の一方に基づいて前端部14aの位置を決定する。コントローラ20は、決定した前端部14aが実現するように、前支持棒14(アクチュエータ16)を制御する。なお、以下では、前端部14aの位置を「前端部位置」と称する。後支持棒15の後端部15aの位置は「後端部位置」と称する。
【0018】
図2、3を参照しつつ、スロープ角度に基づく前端部位置決定プロセスを説明する。スロープ角度Asとは、階段90の複数のエッジ91を結んだ平面(スロープ平面SL)が水平面HLとなす角度を指す(
図2参照)。「階段のエッジ91」とは、
図2に示すように、階段90の各段の上角の直角部を指す。
図2では、いくつかの部品を省略し、電動車椅子10を簡略化して描いてある。
【0019】
ここで、椅子11の目標姿勢角Atを定義する。目標姿勢角Atは、椅子11の座面に平行に前方を向く軸(フロント軸Cf)と水平面HLがなす角度を指す。なお、座面に垂直な軸を垂直軸Cvと称する(
図2参照)。フロント軸Cfと垂直軸Cvが交差する原点は、主輪12の中心Ceに位置する。フロント軸Cfと垂直軸Cvは、椅子11に固定されたローカル座標系である。
【0020】
先に述べたように、椅子11の姿勢角は、後支持棒15の後端部15aの位置(後端部位置)で調整される。コントローラ20は、椅子11の実際の姿勢角が目標姿勢角Atに一致するように後支持棒15を制御する。
【0021】
コントローラは、スロープ角度Asと目標姿勢角Atの合計値(As+At)をパラメータとして、前端部14aがスロープ平面SLから予め定められた所定距離を保つように、前端部位置を決定する。
【0022】
スロープ平面SLから所定距離を保つ前端部位置は、電動車椅子10の幾何学的な構造に依存する。それゆえ、スロープ平面SLから所定距離を保つ前端部位置は、入力値(As+At)に対して前端部位置を出力するマップの形式(あるいは関数の形式)で予め決定されており、コントローラ20に記憶されている。
図3に、スロープ角度Asと目標姿勢角Atの合計値に対する前端部位置の関係の一例を示す。縦軸が前端部位置を示す。縦軸の前端部位置は、前述した前支持棒14の上限位置(前端部14a_Uの位置)を0[%]とし、下限位置(前端部14a_Lの位置)を100[%]としたときの百分率で表される。先に述べたように、スロープ平面SLから所定の一定距離を保つ前端部位置は、電動車椅子10の幾何学的な構造に依存し、
図3に例示するように予め決定される。
【0023】
目標姿勢角Atとスロープ角度Asの合計値に対して前端部位置が決定される。それゆえ、椅子11の実際の姿勢角が目標姿勢角Atからずれて前傾すると、前端部14aが階段90に接地し、椅子11の前方転倒が防止される。
【0024】
図4、5を参照しつつ、エッジ位置角度に基づく前端部位置の決定プロセスについて説明する。エッジ位置角度Agとは、水平方向で主輪12の中心Ceに最も近いエッジ(
図4ではエッジ91a)と中心Ceを結ぶ線と、ローカル座標系の垂直軸Cvがなす角度を指す(
図4参照)。水平方向で主輪12の中心Ceに最も近いエッジ91aを説明の便宜上、近接エッジ91aと称する。コントローラ20は、鉛直方向にて前端部14aと近接エッジ91aの間に所定距離が保持されるように前端部位置を決定する。この前端部位置は、エッジ位置角度Agに依存する。
【0025】
鉛直方向にて近接エッジ91aから所定距離を保つ前端部位置は、電動車椅子10の幾何学的な構造に依存する。所定距離を保つ前端部位置は、エッジ位置角度Agを入力値とするマップの形式(あるいは関数の形式)で予め決定されており、コントローラ20に記憶されている。
図5に、エッジ位置角度Agに対する前端部位置の関係の一例を示す。縦軸の数値の意味は、
図3のグラフの縦軸と同じである。
【0026】
コントローラ20は、電動車椅子10が階段を下りている間、目標姿勢角Atとスロープ角度Asの合計値に基づいて前端部位置を決定する。この前端部位置をスロープ前端部位置と称する。同時に、コントローラ20は、エッジ位置角度Agに基づいても前端部位置を決定する。この前端部位置をエッジ前端部位置と称する。コントローラ20は、スロープ前端部位置とエッジ前端部位置を比較し、高い方を選択する。コントローラ20は、選択した前端部位置が実現するように、前支持棒14(アクチュエータ16)を制御する。コントローラ20は、所定の制御周期で前端部位置の決定と前支持棒14の制御を繰り返す。
【0027】
図6を参照して、コントローラ20がスロープ前端部位置とエッジ前端部位置の一方を選択する例を説明する。
図6(A)では、近接エッジ91aが主輪12の中心Ceよりも後方に位置し、エッジ位置角度は角度Ag_aとなる。スロープ角度は角度Asである。このとき、スロープ前端部位置(前端部14a_slの位置)は、エッジ前端部位置(前端部14a_egの位置)よりも高い。コントローラ20は、スロープ前端部位置(前端部14a_slの位置)を選択し、この位置が実現するように前支持棒14(アクチュエータ16)を制御する。
【0028】
図6(B)では、電動車椅子10が
図6(A)の状態から少し前進し、近接エッジがエッジ91bに移る。近接エッジ91bは主輪12の中心Ceよりも前方に位置し、エッジ位置角度は角度Ag_bとなる。スロープ角度は角度Asである。このとき、エッジ前端部位置(前端部14a_egの位置)は、スロープ前端部位置(前端部14a_slの位置)よりも高くなる。コントローラ20は、エッジ前端部位置(前端部14a_egの位置)を選択し、この位置が実現するように前支持棒14(アクチュエータ16)を制御する。こうして、仮に椅子11の姿勢角が目標姿勢角から離れて前傾した場合、前端部14aが階段に接触し、前方転倒が防止される。
【0029】
図7、8を参照して後支持棒15の制御について説明する。
図7において、後端部15a_Uは、後支持棒15の上限の位置(後端部15aの上限位置)を示しており、後端部15a_Lは、後支持棒15の下限の位置(後端部15aの下限の位置)を示している。
【0030】
先に述べたように、後支持棒15の位置によって、椅子11の姿勢が定まる。コントローラ20は、目標姿勢角が実現するように後支持棒15(アクチュエータ17)を制御する。そのような制御に代えて、コントローラ20は、接地点角度Astに基づいて後支持棒15の後端部位置(後端部15aの位置)を決定し、決定した後端部位置を実現するように後支持棒15(アクチュエータ17)を制御してもよい。ここで、接地点角度Astとは、主輪12が接しているエッジ(
図7の場合はエッジ91c)と主輪12の中心Ceとを結ぶ線と、垂直軸Cvがなす角度を指す。垂直軸Cvは、椅子11の座面に垂直な軸を指す。説明の便宜上、主輪12が接しているエッジ91cを接触エッジ91cと称する。コントローラ20は、接触エッジ91cを通り車輪12に接する線と後端部位置との間に所定の距離が保持されるように、後端部位置を決定する。
【0031】
接触エッジ91cを通り車輪12に接する線との間に所定の距離を保持する後端部位置は、接地点角度Astに依存する。それゆえ、そのような後端部位置は、入力値(接地点角度Ast)に対して後端部位置を出力するマップの形式(あるいは関数の形式)で予め決定されており、コントローラ20に記憶されている。
図8に、接地点角度Astに対する後端部位置置の関係の一例を示す。
【0032】
図8の縦軸が後端部位置を示す。縦軸の前端部位置は、前述した後支持棒15の上限位置(後端部15a_Uの位置)を0[%]とし、下限位置(後端部15a_Lの位置)を100[%]としたときの百分率で表される。先に述べたように、接触エッジ91cを通り車輪12に接する線との間に所定の距離を保持する後端部位置は、電動車椅子10の幾何学的な構造と接地点角度Astに依存し、
図8に例示するように予め決定されている。
【0033】
コントローラ20が目標とする後端部位置は、現在の後端部位置に「ゲイン×姿勢誤差」を加えた値になる。コントローラ20は、目標とする後端部位置が実現されるように、後支持棒15(アクチュエータ17)を制御する。
【0034】
電動車椅子10は、着座したユーザが操作するジョイスティックを備えている。ジョイスティックを前方に倒すと電動車椅子10の前進し、後方に倒すと電動車椅子10が後進する。ジョイスティックが中立位置のとき、電動車椅子10は停止する。ジョイスティックを前に傾ける角度を増すと、前進速度が増加する。ジョイスティックを後ろに傾ける角度を増すと、電動車椅子10の後進速度が増加する。
【0035】
電動車椅子10は、状況に応じて安全のためにユーザの操作に反して減速または停止する必要がある。コントローラ20は、ジョイスティックの傾きに所定のゲインを乗じて電動車椅子10の速度を決定する。ゲインにはいくつかの種類がある。ゲインAは、姿勢制御誤差に応じたゲインであり、姿勢制御誤差が大きいほど小さくなるように設定されている。ゲインBは、スロープ角度に応じたゲインであり、スロープ角度が大きいほど小さくなるように設定されている。ゲインCは、後支持棒15の制御誤差に応じたゲインであり、制御誤差が大きいほど小さくなるように設定されている。ゲインDは、電動車椅子10のロール姿勢誤差に応じたゲインであり、姿勢誤差が大きいほど小さくなるように設定されている。ゲインEは、段差の高さに応じたゲインであり、段差が所定の閾値よりも大きい場合にゼロとなる。段差が閾値よりも小さい場合、ゲインEは「1」に設定される。コントローラ20は、ジョイスティックの傾きに上記したゲインA~Eを乗じて電動車椅子10の速度を決定する。段差が所定の閾値よりも大きい場合、ゲインEがゼロとなり、電動車椅子10は動かなくなる。
【0036】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。階段の形状は、LiDARセンサ、3D画像センサ、複数の距離センサなどで計測することができる。LiDARとは、「Light Detection And Ranging」の略である。LiDARセンサは、レーザを複数の方向に照射し、各方向における障害物(段差)までの距離を計測する。計測した各方向の距離から、障害物(段差)の外形状を取得する。3D画像センサは、2個のカメラで階段を撮影し、立体視の原理に基づいて階段の形状を測定する。レーザ光が平行に照射されるように複数の距離センサを並べたセンサによっても階段の形状を計測することができる。
【0037】
コントローラ20は、電動車椅子10の車体に対する階段のエッジ位置と、階段の傾斜角度(前述したスロープ角度)と、主輪の接地位置を推定し、それらに対応した制御マップにより前支持棒14と後支持棒15を制御してもよい。
【0038】
電動車椅子10は、前後の支持棒14、15が地面に接触しているか判定する接触判定装置を有し、コントローラ20は、前後の支持棒14、15が地面に接触しているか否かで制御を変化させるようにしてもよい。
【0039】
コントローラ20は、前後の支持棒14、15の姿勢の制御誤差に応じて電動車椅子10の速度を減速するようにしてもよい。
【0040】
コントローラ20は、電動車椅子10の進行方向の段差の高さが主輪12の半径よりも大きい場合、電動車椅子10の速度をゼロにするようにしてもよい。「進行方向」には、前進の場合と後進の場合が含まれる。
【0041】
電動車椅子10は椅子11の下(あるいは椅子11の背の中)に、モータ13、アクチュエータ16、17、コントローラ20、センサ21のための電源を搭載しているが、電源の図示は省略した。
【0042】
前支持棒14は、椅子11の両側に備えられていてもよいし、椅子11の片側のみに設けられていてもよい。後者の場合、前支持棒の先端部には横棒が備えられており、前支持棒と後支持棒で安定して主輪を浮かせられるようになっている。後支持棒も、椅子11の両側に配置されていてもよいし、椅子11の左右方向の中央に1本の後支持棒が配置されていてもよい。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0044】
10:電動車椅子 11:椅子 12:主輪 12a:軸 13:モータ 14:前支持棒 14a:前端部 15:後支持棒 15a:後端部 16、17:アクチュエータ 18:ピボット 20:コントローラ 21:センサ 90:階段 91:エッジ
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車椅子であって、
椅子と、
前記椅子の両側に配置されており、モータで駆動される主輪と、
前記椅子の前方へ延びており、前端部が上下に揺動する前支持棒と、
前記椅子の後方へ延びており、後端部が上下に揺動する後支持棒と、
前記前支持棒と前記後支持棒と前記主輪を制御するコントローラと、
を備えており、
前記電動車椅子の重心が前記主輪の軸よりも後方に位置しており、
前記コントローラは、当該電動車椅子が階段を下りる際、前記階段の各段のエッジを結んだ平面が水平面となすスロープ角度と、前記階段の各段のエッジのうち前記主輪の中心に最も近い前記エッジと前記中心を結んだ線が鉛直方向となすエッジ位置角度との一方に基づいて、前記前端部の位置を決定する、電動車椅子。
【請求項2】
前記コントローラは、前記スロープ角度に基づいて決定した前記前端部の位置と、前記エッジ位置角度に基づいて決定した前記前端部の位置のうち、高い方を選択する、請求項1に記載の電動車椅子。
【請求項3】
前記コントローラは、当該電動車椅子の進行方向の段差の高さが前記主輪の半径よりも大きい場合、当該電動車椅子の速度をゼロにする、請求項1または2に記載の電動車椅子。