(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087352
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】スラスト玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/12 20060101AFI20240624BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240624BHJP
F16H 39/14 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
F16C19/12
F16C33/58
F16H39/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202129
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】西岡 虎太朗
(72)【発明者】
【氏名】谷村 浩樹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA56
3J701BA69
3J701DA05
3J701FA31
3J701GA11
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB18
3J701XB26
3J701XB33
(57)【要約】
【課題】油圧式無段変速機のピストンと斜板間に組み込まれたスラスト玉軸受の内輪が高荷重かつ偏荷重によって破損することを防ぎ、そのスラスト玉軸受の長寿命化を図る。
【解決手段】内輪11及び外輪12に対する玉13の接触角がθのときの接触角線L上での内輪11の厚さをTiθと定義し、接触角線L上での外輪の厚さをToθと定義し、玉13の直径をDwと定義したとき、TiθがDwの40%以上60%以下であり、ToθがDwの25%以上40%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式無段変速機に備わる可変容量ポンプ又は可変容量モータのピストンに接触する内輪と、前記油圧式無段変速機に備わる斜板に固定される外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在する複数の玉とを有するスラスト玉軸受において、
前記内輪及び前記外輪に対する前記玉の接触角がθのときの接触角線上での当該内輪の厚さをTiθと定義し、当該接触角線上での当該外輪の厚さをToθと定義し、前記玉の直径をDwと定義したとき、当該内輪の厚さTiθが当該玉径Dwの40%以上60%以下であり、当該外輪の厚さToθが当該玉径Dwの25%以上40%以下であることを特徴とするスラスト玉軸受。
【請求項2】
前記内輪に形成された軌道面と前記玉の接触点から前記接触角線の方向での内輪溝深さをhiθと定義し、前記外輪に形成された軌道面と当該玉の接触点から当該接触角線の方向の外輪溝深さをhoθと定義したとき、当該内輪溝深さhiθが前記玉径Dwの2%以上12%以下であり、当該外輪溝深さhoθが当該玉径Dwの2%以上10%以下である請求項1に記載のスラスト玉軸受。
【請求項3】
前記各軌道面の溝曲率が1.07Dw以上である請求項2に記載のスラスト玉軸受。
【請求項4】
前記内輪のうちの前記ピストンと接触する幅面が、ビッカース硬さHV800以上のクロムめっき被膜からなる請求項1から3のいずれか1項に記載のスラスト玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧式無段変速機に用いられるスラスト玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
芝刈り機等の農業機械には、油圧式無段変速機が使用されている(例えば、特許文献1参照)。このような油圧式無段変速機では、軸の回転力を油圧に変換させる際、または油圧を軸の回転力に変換させる際のピストン圧力を受ける部分に、それぞれスラスト玉軸受が使用されている。
【0003】
近年、油圧式無段変速機の小型化に伴い、そのピストンと斜板間に組み込むスラスト玉軸受は高荷重条件下で使用されており、そのピストンと接触する内輪には、そのピストンから大きな荷重がかかるようになっている。その内輪の破損を防止するため、内輪の溝底厚を鋼球径の40%に対して1.2倍~1.5倍、外輪の溝底厚を鋼球径の15%に対して1.2倍~1.5倍とした油圧式無段変速機用のスラスト玉軸受がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-194183号公報
【特許文献2】特許第6036008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、スラスト玉軸受は、一方向からのアキシアル荷重を負荷し使用される。一方、油圧式無段変速機の入力軸又は出力軸の回転支部の斜板部分に使用されるスラスト玉軸受の場合、そのスラスト玉軸受はピストンから斜めに高荷重を受けるため、その荷重は高荷重かつ偏荷重となり、そのスラスト玉軸受における玉と軌道輪の接触角は理想的な接触角(90°)ではなくなる。特許文献2に開示されたスラスト玉軸受では、高荷重を考慮した内輪の溝底肉厚と外輪の溝底肉厚、あるいは、内輪・外輪の溝底の深さの規定はなされているが、前述のような偏荷重の問題に対して好適な設計はされていない。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、油圧式無段変速機のピストンと斜板間に組み込まれたスラスト玉軸受の内輪が高荷重かつ偏荷重によって破損することを防ぎ、そのスラスト玉軸受の長寿命化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、油圧式無段変速機に備わる可変容量ポンプ又は可変容量モータのピストンに接触する内輪と、前記油圧式無段変速機に備わる斜板に固定される外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在する複数の玉とを有するスラスト玉軸受において、前記内輪及び前記外輪に対する前記玉の接触角がθのときの接触角線上での当該内輪の厚さをTiθと定義し、当該接触角線上での当該外輪の厚さをToθと定義し、前記玉の直径をDwと定義したとき、当該内輪の厚さTiθが当該玉径Dwの40%以上60%以下であり、当該外輪の厚さToθが当該玉径Dwの25%以上40%以下であることを特徴とするスラスト玉軸受、という構成1を採用した。
【0008】
すなわち、小型化が図られる油圧式無段変速機用のスラスト玉軸受としてコンパクトな軸受サイズとするため、その軸受サイズの中で高荷重かつ偏荷重を考慮した内外輪の厚さ配分を行うことにより、内外輪の破損を防いで軸受の長寿命化を図ることができる。その内外輪に対する玉の接触角θは、ピストンと斜板間でスラスト玉軸受が受ける偏荷重の方向に応じて理想的な90°から外れた角度となる。その接触角線の方向の荷重が内外輪に負荷される。その内輪の接触角線上での厚さTiθが玉径Dwの40%以上であれば、荷重負荷方向の内輪の厚さをもたせて、高荷重かつ偏荷重による内輪の破損を防止することができる。一方、外輪は内輪ほどにピストンから直接高負荷を受けないので、外輪の接触角線上での厚さToθが玉径Dwの25%以上であれば、外輪の破損を防止することができる。内輪の厚さTiθが玉径Dwの60%以下であれば、内輪の厚さTiθが過剰にならず、さらに内輪の厚さTiθ≧外輪の厚さToθであれば、外輪の厚さToθも過剰にならず、油圧式無段変速機用のスラスト玉軸受としてコンパクトな軸受サイズとすることは阻害されない。このように、上記構成1によれば、油圧式無段変速機のピストンと斜板間に組み込まれたスラスト玉軸受の内輪が高荷重かつ偏荷重によって破損することを防ぎ、そのスラスト玉軸受の長寿命化を図ることができる。
【0009】
上記構成1において、前記内輪に形成された軌道面と前記玉の接触点から前記接触角線の方向での内輪溝深さをhiθと定義し、前記外輪に形成された軌道面と当該玉の接触点から当該接触角線の方向の外輪溝深さをhoθと定義したとき、当該内輪溝深さhiθが前記玉径Dwの2%以上12%以下であり、当該外輪溝深さhoθが当該玉径Dwの2%以上10%以下である、という構成2を採用することができる。このように、内輪溝深さhiθが玉径Dwの2%以上であれば、内輪の軌道面からの玉の乗り上げを防ぐことができる。上記外輪溝深さhoθが玉径Dwの2%以上であれば、外輪の軌道面からの玉の乗り上げを防ぐことができる。内輪溝深さhiθが玉径Dwの12%以下、外輪溝深さhoθが玉径Dwの10%以下であれば、保持器の厚さを確保して保持器強度の低下を防止することができる。
【0010】
上記構成2において、前記各軌道面の溝曲率が1.07Dw以上である、という構成3を採用することができる。内輪溝深さhiθ、外輪溝深さhoθが上記の範囲の値である場合、内輪の軌道面、外輪の軌道面の夫々の溝曲率が玉径Dwの1.07倍以上であれば、上記接触角θがついたときの玉の乗り上げを抑制できる。
【0011】
上記構成1から3のいずれか1つにおいて、前記内輪のうちの前記ピストンと接触する幅面が、ビッカース硬さHV800以上のクロムめっき被膜からなる、という構成4を採用することができる。内輪の幅面はピストンが強く摺動する表面となるから、その幅面をビッカース硬さがHV800以上(一般的な軸受鋼の硬さの上限以上)のクロムめっき被膜で構成すれば、耐摩耗性の低減を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、この発明は、上記構成1の採用により、油圧式無段変速機のピストンと斜板間に組み込まれたスラスト玉軸受の内輪が高荷重かつ偏荷重によって破損することを防ぎ、そのスラスト玉軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施形態に係るスラスト玉軸受を示す断面図
【
図2】
図1のスラスト玉軸受が組み込まれた油圧式無段変速機の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の一例としての実施形態に係るスラスト玉軸受を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図2に例示する油圧式無段変速機30は、図示しないエンジンから入力軸31に伝達された回転駆動力を油圧力に変換する可変容量ポンプ32と、油圧力を回転駆動力に戻して出力軸41に伝達する可変容量モータ42と、を備える。油圧式無段変速機30は、可変容量ポンプ32の斜板角変更を行うことにより、入力軸31に伝達された回転駆動力を前進側、後進側の駆動力に無段階に変更して出力軸41から出力したり、この出力を停止したりする。
【0016】
可変容量ポンプ32は、入力軸31と一体回動するシリンダブロック33と、シリンダブロック33のピストン室34内を往復動するピストン35と、ガイドブロック36のガイド面に沿って回動する斜板37と、を備える。斜板37には、スラスト玉軸受10がピストン35の先端部と接触する位置に配置されている。シリンダブロック33のうち、入力軸31周りの周方向複数箇所にそれぞれピストン室34が設けられ、各ピストン室34にピストン35が配置されている。斜板37は、入力軸31の軸線に対して傾斜している。スラスト玉軸受10は斜板37と共に回動する。可変容量ポンプ32は、斜板37が回動操作することで、ピストン35の往復動ストロークを変化させ、ピストン室34が吐出する油量を変化させるようになっている。
【0017】
可変容量モータ42は、出力軸41と一体回動するシリンダブロック43と、シリンダブロック43のピストン室44内を往復動するピストン45と、出力軸41の軸線に対して傾斜した斜板46と、を備えている。シリンダブロック43のうち、出力軸41周りの周方向複数箇所にそれぞれピストン室44が設けられ、各ピストン室44にピストン45が配置されている。斜板46には、別のスラスト玉軸受10がピストン45の先端部と接触する位置に配置されている。
【0018】
可変容量ポンプ32の各ピストン室34から油が吐出されると、シリンダブロック43の各ピストン室44に油が供給される。そして、各ピストン45がピストン室44に対して出入りするように往復駆動され、これにより、前進側又は後進側の駆動方向に、可変容量ポンプ32の吐出油量で決まる速度で出力軸41が回転する。
【0019】
各スラスト玉軸受10は、可変容量ポンプ32又は可変容量モータ42のピストン35又は45に接触する内輪11と、斜板37又は46に固定される外輪12と、内輪11に形成された軌道面11aと外輪12に形成された軌道面12aとの間に介在する複数の玉13と、これら複数の玉13を保持する保持器14とを有する。以下、内輪11の中心軸に沿った方向のことを軸方向といい、内輪11の中心軸周りに一周する円周に沿った方向のことを円周方向といい、内輪11の中心軸に直交する仮想平面のことをラジアル平面といい、内輪11の中心軸を含む仮想平面のことをアキシアル平面という。
【0020】
図1は、二個の玉13の中心を含むアキシアル平面上でのスラスト玉軸受10の断面を示している。
図1に示すように、内輪11と外輪12は、それぞれ円周方向に連続する一体の環状部材からなる。内輪11と外輪12は、それぞれ円周方向に連続する一本の軌道面11a、12aを有する。各軌道面11a、12aは、アキシアル平面上で円弧状を有する。保持器14は、複数の玉13を円周方向に等配する環状部材からなる。各玉13は、内輪11の軌道面11aと外輪12の軌道面12a間に介在し、外輪12に対する内輪11の回動に応じて転動する。
【0021】
内輪11は、ピストン35又は45(
図2参照)に接触する幅面11b(
図1参照)を有する。
図2に示す油圧式無段変速機30の運転時、ピストン35又は45が入力軸31又は出力軸41周りの方向に
図1に示す内輪11の幅面11bを摺動する。
【0022】
内輪11の幅面11bは、ピストン35又は45が強く摺動する表面となるから、幅面11bにおける耐摩耗性の低減を防止するため、軌道面11aを形成する鋼材よりも表面硬度を高くすることが好ましい。そこで、内輪11の幅面11bは、ビッカース硬さHV800以上のクロムめっき被膜によって構成されている。例えば、軌道面11aが形成された軸受鋼製の内輪本体11cの外周面にクロムめっき処理を施すことによって内輪11の幅面11bが設けられる。内輪本体11cは、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材を使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが、保持器材料としては、冷間圧延鋼板、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、オーステナイト系ステンレス鋼などが挙げられる。必要に応じ、クロムめっき被膜の下地としてニッケルめっき層などを内輪本体11cに設けてもよい。
【0023】
より好ましくは、内輪11の幅面11bは、ビッカース硬さがHV800以上、かつ自己潤滑性樹脂で封孔されたマイクロポーラス部またはマイクロクラック部を有するクロムめっき被膜で構成するとよい。このようにすると、内輪11の幅面11bにおいて、耐摩耗性の低下を防止できることに加え、残存異物による表面損傷の可能性を排除しつつ、ピストン35又は45に対する摺動抵抗の増加を防止することができ、また、希薄潤滑下におけるピストン35又は45と幅面11b間の潤滑特性にも優れる。このような樹脂封孔クロムめっき被膜は、マイクロポーラス部またはマイクロクラック部を有するクロムめっき被膜を設けた後、マイクロポーラス部、マイクロクラック部を自己潤滑性樹脂で封孔して得られる。その自己潤滑性樹脂は、例えば、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン- パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)共重合体樹脂、超高分子量ポリエチレン(PE)樹脂、ポリアミド(PA) 樹脂、およびポリアセタール(POM)樹脂から選ばれる少なくとも1つであり、二硫化タングステン、二硫化モリブデンおよびグラファイトから選ばれる少なくとも1つの固体潤滑剤の粒子を含むものであってもよい。なお、このような樹脂封孔クロムめっき被膜を軌道輪に設けるめっき処理として、特開2016-180439号公報に開示されためっき処理を採用することができる。
【0024】
内輪11の幅面11bと外輪12の背面は、それぞれラジアル平面に沿う円環面状に形成されている。内輪11の幅面11bと外輪12の背面は、スラスト玉軸受10の軸方向の軸受高さを規定する両端面になっている。
【0025】
内輪11の幅面11bにピストン35又は45から偏荷重が負荷される。その偏荷重により、内輪11と外輪12に対する玉13の接触角θは90°から外れ、鋭角になる。ここで、ある一個の玉13と内輪11の軌道面11aとの接触点と、当該玉13と外輪12の軌道面12aとの接触点を結ぶ仮想直線である接触角線Lと、当該玉13の中心を通る軸方向の仮想直線との成す鋭角が接触角θである。
【0026】
ここで、内輪11及び外輪12に対する玉13の接触角がθのときの接触角線L上での当該内輪11の厚さをTiθと定義し、当該接触角線L上での当該外輪12の厚さをToθと定義し、玉13の直径をDwと定義する。内輪11の厚さTiθは、接触角線Lを含むアキシアル平面上において内輪11の軌道面11aと接触角線Lの交点である接触点から内輪11の幅面11bまでの接触角線Lの線分長である。外輪12の厚さToθは、接触角線Lを含むアキシアル平面上において外輪12の軌道面12aと接触角線Lの交点である接触点から外輪12の背面までの接触角線Lの線分長である。
【0027】
内輪11の厚さTiθは、玉径Dwの40%以上60%以下である。すなわち、内輪11は、接触角線Lを含むアキシアル平面上において0.4Dw≦Tiθ≦0.6Dwを満たす形状を有する。内輪11の厚さTiθと玉径Dwの割合の評価結果を表1に示す。
【0028】
【0029】
表1にまとめたように、内輪の厚さTiθが玉径Dwの40%以上であれば、荷重負荷方向(接触角線Lの延びる方向)の内輪11の厚さをもたせて、高荷重かつ偏荷重による内輪11の破損を防止することができる。内輪の厚さTiθが玉径Dwの60%以下であれば、内輪の厚さTiθが過剰にならない。
【0030】
外輪12の厚さToθは、玉径Dwの25%以上40%以下である。すなわち、外輪12は、接触角線Lを含むアキシアル平面上において0.25Dw≦Toθ≦0.4Dwを満たす形状を有する。外輪12の厚さToθと玉径Dwの割合の評価結果を表2に示す。
【0031】
【0032】
表2にまとめたように、外輪12は、内輪11ほどにピストン35又は45(
図2も参照)から直接高負荷を受けないので、外輪12の厚さToθが玉径Dwの25%以上であれば、外輪12の破損を防止することができる。また、内輪11の厚さTiθ≧外輪12の厚さToθであれば、外輪12の厚さToθも過剰にならず、油圧式無段変速機30用のスラスト玉軸受10としてコンパクトな軸受サイズとすることは阻害されない。
【0033】
ここで、内輪11の軌道面11aと玉13の接触点から接触角線Lの方向での内輪溝深さをhiθと定義し、外輪12の軌道面12aと当該玉13の接触点から当該接触角線Lの方向の外輪溝深さをhoθと定義する。内輪溝深さhiθは、接触角線Lを含むアキシアル平面上において軌道面11aの両溝縁のうちの当該接触点に近い方の溝縁に対して軌道面11aの当該接触点上が接触角線Lの延びる方向に有する深さである。外輪溝深さhoθは、接触角線Lを含むアキシアル平面上において軌道面12aの両溝縁のうちの当該接触点に近い方の溝縁に対して当該軌道面12aの当該接触点上が接触角線Lの延びる方向に有する深さである。
【0034】
内輪溝深さhiθは、玉径Dwの2%以上12%以下である。すなわち、内輪11の軌道面11aは、接触角線Lを含むアキシアル平面上において0.02Dw≦hiθ≦0.12Dwを満たす形状を有する。
【0035】
外輪溝深さhoθは、玉径Dwの2%以上10%以下である。すなわち、外輪12の軌道面12aは、接触角線Lを含むアキシアル平面上において0.02Dw≦hiθ≦0.10Dwを満たす形状を有する。前述の内輪溝深さhiθと玉径Dwの割合の評価結果を表3に示し、前述の外輪溝深さhoθと玉径Dwの割合の評価結果を表4に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
表3にまとめたように、内輪溝深さhiθが玉径Dwの2%以上であれば、内輪11の軌道面11aからの玉13の乗り上げを防ぐことができる。
【0039】
表4にまとめたように、外輪溝深さhoθが玉径Dwの2%以上であれば、外輪12の軌道面12aからの玉13の乗り上げを防ぐことができる。
【0040】
また、表3、表4にまとめたように、内輪溝深さhiθが玉径Dwの12%以下、外輪溝深さhoθが玉径Dwの10%以下であれば、内輪11の溝肩部と外輪12の溝肩部が保持器14に干渉しないようにしつつ保持器14の厚さを確保して保持器強度の低下を防止することができる。
【0041】
内輪11の軌道面11aにおける溝曲率と外輪12の軌道面12aにおける溝曲率は、それぞれ1.07Dw以上である。これら溝曲率は、それぞれ接触角線Lを含むアキシアル平面上において当該軌道面11a、12aがそれぞれに有する曲率である。溝曲率の評価結果を表5に示す。
【0042】
【0043】
表5にまとめたように、内輪溝深さhiθ、外輪溝深さhoθが上記の範囲の値である場合、内輪11の軌道面11a、外輪12の軌道面12aの夫々の溝曲率が1.07Dw以上であれば、接触角θがついたときの玉の乗り上げを抑制できる。
【0044】
スラスト玉軸受10は、上述のようなものであり(以下、
図1、
図2参照)、油圧式無段変速機30に備わる可変容量ポンプ32又は可変容量モータ42のピストン35又は45に接触する内輪11と、油圧式無段変速機30に備わる斜板37又は46に固定される外輪12と、内輪11と外輪12との間に介在する複数の玉13とを有し、内輪11及び外輪12に対する玉13の接触角がθのときの接触角線L上での内輪11の厚さをTiθと定義し、接触角線L上での外輪12の厚さをToθと定義し、玉13の直径をDwと定義したとき、内輪11の厚さTiθが玉径Dwの40%以上60%以下であり、外輪12の厚さToθが玉径Dwの25%以上40%以下であることにより、油圧式無段変速機30のピストン35又は45と斜板37又は46間に組み込まれたスラスト玉軸受10の内輪11が高荷重かつ偏荷重によって破損することを防ぎ、そのスラスト玉軸受10の長寿命化を図ることができる。
【0045】
また、スラスト玉軸受10は、内輪11に形成された軌道面11aと玉13の接触点から接触角線Lの方向での内輪溝深さをhiθと定義し、外輪12に形成された軌道面12aと玉13の接触点から接触角線Lの方向の外輪溝深さをhoθと定義したとき、内輪溝深さhiθが玉径Dwの2%以上12%以下であり、外輪溝深さhoθが玉径Dwの2%以上10%以下であることにより、内輪11の軌道面11a、外輪12の軌道面12aからの玉の乗り上げを防ぐことができながら、保持器14の厚さを確保して保持器強度の低下を防止することができる。
【0046】
さらに、スラスト玉軸受10は、各軌道面11a、12aの溝曲率が1.07Dw以上であることにより、内輪溝深さhiθ、外輪溝深さhoθが上記の範囲の値である場合に接触角θがついたときの軌道面11a、12aからの玉13の乗り上げを抑制できる。
【0047】
また、スラスト玉軸受10は、内輪11のうちのピストン35又は45と接触する幅面11bが、ビッカース硬さHV800以上のクロムめっき被膜からなることにより、耐摩耗性の低減を防止することができる。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
10 スラスト玉軸受
11 内輪
11a 軌道面
11b 幅面
12 外輪
12a 軌道面
13 玉
14 保持器
30 油圧式無段変速機
32 可変容量ポンプ
35 ピストン
37 斜板
42 可変容量モータ
45 ピストン
46 斜板