(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087360
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】塗膜の製造方法、及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/04 20060101AFI20240624BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B05D3/04 Z
B05D7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202149
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】大本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲顕
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB26Z
4D075BB57Z
4D075BB95Z
4D075CA48
4D075CB01
4D075DA04
4D075DB33
4D075DB34
4D075DB43
4D075DC24
4D075EA05
4D075EA06
4D075EA07
4D075EA19
4D075EA21
4D075EB19
4D075EB22
(57)【要約】
【課題】 未硬化塗膜の斑を抑制し、表面の平滑性に優れた塗膜を製造する。
【解決手段】 長尺帯状の基材7を搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送しながら、前記基材7に材料溶液を塗布して未硬化塗膜8を形成する工程、前記未硬化塗膜8が形成された前記基材7を乾燥ゾーンZ3に搬送して前記未硬化塗膜8を乾燥する工程、を有し、前記乾燥ゾーンZ3が、前記未硬化塗膜8を風乾する風乾ゾーンZ31と、前記風乾ゾーンZ31の前記下流側に設けられたゾーンであって前記未硬化塗膜8の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置された遮蔽面部4が設けられた乾燥緩和ゾーンZ32と、を有し、前記風乾ゾーンZ31が、前記未硬化塗膜8の表面に対して前記搬送方向下流側に沿って風を吹き付け、前記基材7の搬送速度ASと前記風の風速BSが、1≦AS/BS≦50の関係を満たしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材を搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送しながら、前記基材に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成する工程、
前記未硬化塗膜が形成された前記基材を乾燥ゾーンに搬送して前記未硬化塗膜を乾燥する工程、を有し、
前記乾燥ゾーンが、前記未硬化塗膜を風乾する風乾ゾーンと、前記風乾ゾーンの前記下流側に設けられたゾーンであって前記未硬化塗膜の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置された遮蔽面部が設けられた乾燥緩和ゾーンと、を有し、
前記風乾ゾーンが、前記未硬化塗膜の表面に対して前記搬送方向下流側に沿って風を吹き付け、
前記基材の搬送速度ASと前記風の風速BSが、1≦AS/BS≦50の関係を満たしている、塗膜の製造方法。
【請求項2】
前記材料溶液を前記基材に塗布する塗布点から前記遮蔽面部に至るまでの前記基材の搬送長さL1が、0mを越え3m以下であり、
前記遮蔽面部が、前記未硬化塗膜の表面から50mm以上150mm以下の間隔Hを開けて配置されており、
前記遮蔽面部の長さL2が、0.5m以上2m以下であり、
前記未硬化塗膜の厚みDと前記遮蔽面部の長さL2が、0.5≦D/L2≦50の関係を満たしている、請求項1に記載の塗膜の製造方法。
【請求項3】
長尺帯状の基材を搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送しながら、前記基材に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成する工程、
前記未硬化塗膜が形成された前記基材を乾燥ゾーンに搬送して前記未硬化塗膜を乾燥する工程、を有し、
前記乾燥ゾーンが、前記未硬化塗膜を風乾する風乾ゾーンと、前記風乾ゾーンの前記下流側に設けられたゾーンであって前記未硬化塗膜の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置された遮蔽面部が設けられた乾燥緩和ゾーンと、を有し、
前記材料溶液を前記基材に塗布する塗布点から前記遮蔽面部に至るまでの前記基材の搬送長さL1が、0mを越え3m以下であり、
前記遮蔽面部が、前記未硬化塗膜の表面から50mm以上150mm以下の間隔Hを開けて配置されており、
前記遮蔽面部の長さL2が、0.5m以上2m以下であり、
前記未硬化塗膜の厚みDと前記遮蔽面部の長さL2が、0.5≦D/L2≦50の関係を満たしている、塗膜の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥する工程の後、前記未硬化塗膜を硬化させて塗膜を形成する工程を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塗膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の前記塗膜及び前記基材の少なくとも一方が、光学機能を有する、光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に任意の塗膜を連続的に形成する塗膜の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
長尺帯状の基材の表面に塗膜を形成する方法として、前記基材の搬送途中で、前記基材の表面に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成し、前記未硬化塗膜を乾燥させた後、前記未硬化塗膜を硬化させることが行なわれている。
例えば、特許文献1には、粘度が0.05Pa・s~500Pa・sの塗工液を基材に塗布した後、基材の走行方向に沿って風速8m/sec~50m/secの気体を塗膜に吹き付けて乾燥することが開示されている。
特許文献1には、前記粘度の塗工液を用いて塗膜を形成し、その塗膜に前記気体を吹き付けることにより、厚みや光学機能の均一性に優れた光学フィルムが得られると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、特許文献1の方法では、塗膜の表面に筋状の斑が生じるおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、未硬化塗膜の斑を抑制し、表面の平滑性に優れた塗膜を製造する方法及び光学フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る塗膜の製造方法は、長尺帯状の基材を搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送しながら、前記基材に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成する工程、前記未硬化塗膜が形成された前記基材を乾燥ゾーンに搬送して前記未硬化塗膜を乾燥する工程、を有し、前記乾燥ゾーンが、前記未硬化塗膜を風乾する風乾ゾーンと、前記風乾ゾーンの前記下流側に設けられたゾーンであって前記未硬化塗膜の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置された遮蔽面部が設けられた乾燥緩和ゾーンと、を有し、前記風乾ゾーンが、前記未硬化塗膜の表面に対して前記搬送方向下流側に沿って風を吹き付け、前記基材の搬送速度ASと前記風の風速BSが、1≦AS/BS≦50の関係を満たしている。
【0007】
本発明の第2の態様に係る塗膜の製造方法は、前記第1の態様の製造方法において、前記材料溶液を前記基材に塗布する塗布点から前記遮蔽面部に至るまでの前記基材の搬送長さL1が、0mを越え3m以下であり、前記遮蔽面部が、前記未硬化塗膜の表面から50mm以上150mm以下の間隔Hを開けて配置されており、前記遮蔽面部の長さL2が、0.5m以上2m以下であり、前記未硬化塗膜の厚みDと前記遮蔽面部の長さL2が、0.5≦D/L2≦50の関係を満たしている。
【0008】
本発明の第3の態様に係る塗膜の製造方法は、長尺帯状の基材を搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送しながら、前記基材に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成する工程、前記未硬化塗膜が形成された前記基材を乾燥ゾーンに搬送して前記未硬化塗膜を乾燥する工程、を有し、前記乾燥ゾーンが、前記未硬化塗膜を風乾する風乾ゾーンと、前記風乾ゾーンの前記下流側に設けられたゾーンであって前記未硬化塗膜の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置された遮蔽面部が設けられた乾燥緩和ゾーンと、を有し、前記材料溶液を前記基材に塗布する塗布点から前記遮蔽面部に至るまでの前記基材の搬送長さL1が、0mを越え3m以下であり、前記遮蔽面部が、前記未硬化塗膜の表面から50mm以上150mm以下の間隔Hを開けて配置されており、前記遮蔽面部の長さL2が、0.5m以上2m以下であり、前記未硬化塗膜の厚みDと前記遮蔽面部の長さL2が、0.5≦D/L2≦50の関係を満たしている。
【0009】
本発明の第4の態様に係る塗膜の製造方法は、前記第1乃至第3のいずれかの態様の製造方法において、前記乾燥する工程の後、前記未硬化塗膜を硬化させて塗膜を形成する工程を有する。
【0010】
本発明の別の局面によれば、光学フィルムの製造方法を提供する。
本発明の光学フィルムの製造方法は、前記第4の態様の塗膜及び基材の少なくとも一方が、光学機能を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、未硬化塗膜に斑が生じることを抑制できるので、表面の平滑性に優れた塗膜を得ることができる。このような表面平滑性に優れた塗膜を有するフィルムは、光学フィルムとして良好に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「略」という表現は、本発明の技術分野で許容される範囲を含むことを意味する。さらに、本明細書において、「下限値X以上上限値Y以下」で表される数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値以上任意の上限値以下」を設定できるものとする。
【0014】
[本発明の塗膜の製造方法の概要]
本発明の塗膜の製造方法(形成方法)は、長尺帯状の基材を搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送しながら、前記基材に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成する工程と、前記未硬化塗膜が形成された前記基材を乾燥ゾーンに搬送して前記未硬化塗膜を乾燥する工程と、を有し、前記乾燥ゾーンが、前記未硬化塗膜を風乾する風乾ゾーンと、前記風乾ゾーンの前記下流側に設けられたゾーンであって前記未硬化塗膜の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置された遮蔽面部が設けられた乾燥緩和ゾーンと、を有する。
【0015】
本発明の製造方法の第1の特徴点は、前記風乾ゾーンが、前記未硬化塗膜の表面に対して搬送方向下流側に沿った所定の風速の風を吹き付けることで、前記基材の搬送速度ASと前記風の風速BSが、1≦AS/BS≦50の関係を満たしていることである(以下、これを「第1特徴点」という場合がある)。
本発明の第2の特徴点は、前記材料溶液を前記基材に塗布する塗布点から前記遮蔽面部に至るまでの前記基材の搬送長さL1が、0mを越え3m以下であり、前記遮蔽面部が、前記未硬化塗膜の表面から50mm以上150mm以下の間隔Hを開けて配置されており、前記未硬化塗膜の厚みDと前記遮蔽面部の長さLが、0.5≦D/L2≦50の関係を満たしていることである(以下、これを「第2特徴点」という場合がある)。
【0016】
<基材>
基材は、平面視形状の観点では、長尺帯状である。前記長尺帯状は、長手方向の長さが幅方向よりも十分に長い平面視略長方形状をいう。長尺帯状の基材は、通常、ロール状に巻き取られて保管・運搬される。ロール状に巻かれた基材は、それに塗膜を形成する際に、長手方向に巻き出される。
【0017】
層構成の観点では、基材の層構成は、単層でもよく、或いは、複層でもよい。基材が複層である場合、その層数は、2以上であり、その上限は特にないが、一般的には10以下である。
【0018】
単層の基材は、光学機能を有するフィルム(以下、光学機能フィルムという)、又は、光学機能フィルム以外のフィルムからなる。前記光学機能フィルムとしては、偏光フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、光拡散フィルム、輝度向上フィルム、光反射フィルムなどが挙げられる。前記偏光フィルムは、特定の1つの方向に振動する光(偏光)を透過し、それ以外の方向に振動する光を遮断する性質を有するフィルムである。位相差フィルムは、光学異方性を示すフィルムであり、代表的には、例えば、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂などの延伸フィルムなどが挙げられる。光学機能フィルム以外のフィルムとしては、無色透明な樹脂フィルムなどが挙げられる。
複層の基材は、光学機能フィルムが複数積層された積層フィルム、光学機能フィルム以外のフィルムが複数積層された積層フィルム、1層又は複数層の光学機能フィルムと1層又は複数層の光学機能フィルム以外のフィルムが積層された積層フィルムなどが挙げられる。
基材の厚みは、特に限定されず、例えば、50μm以上300μm以下である。
【0019】
<材料溶液>
材料溶液は、塗膜の形成材料である。材料溶液は、形成する塗膜の種類に応じて適宜設定される。
材料溶液は、有効成分と、前記有効成分を溶解又は分散させる溶媒と、を含む。
有効成分は、塗膜を形成する成分であり、各種のポリマーや任意の適切な添加剤などが含まれる。例えば、光学機能を有する塗膜を形成する場合には、材料溶液の有効成分として光学機能を発現する有効成分及び/又は添加剤を含む材料溶液が用いられる。
前記ポリマーは、硬化態様に従って例示すれば、活性エネルギー線硬化型、熱硬化型、溶媒揮発型などが挙げられる。活性エネルギー線硬化型や熱硬化型などの反応型のポリマーは、活性エネルギー線(紫外線や電子線など)の照射や熱などによってモノマー又はオリゴマーが重合してポリマー化して硬化する。なお、反応型のポリマーは、硬化前(反応前)では一般にモノマー又はオリゴマーの状態であるが、この硬化前のモノマー又はオリゴマーも便宜上、反応型のポリマーという。前記溶媒揮発型のポリマーは、溶媒が揮発することによってポリマー同士の絡み合いや配向などによって硬化する。
【0020】
溶媒は、前記有効成分を溶解又は分散できる液状物であれば特に限定されない。溶媒としては、大別して、有機溶剤などの疎水性溶媒;水;親水性溶媒;が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF);ジオキサン;シクロヘキサノン;n-ヘキサン;トルエン;などが挙げられる。親水性溶媒は、水に略均一に溶解する溶媒であり、例えば、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。溶媒は、これらから選ばれる1種単独で、又は、2種以上併用できる。また、溶媒は、前記有機溶剤から選ばれる少なくとも1種と親水性溶媒から選ばれる少なくとも1種を併用してもよい。
【0021】
例えば、材料溶液は、活性エネルギー線硬化型のポリマーと、これを溶解させる溶媒と、必要に応じて適量配合される添加剤と、を含む。
前記活性エネルギー線硬化型のポリマーは、電子線硬化型、紫外線硬化型、可視光線硬化型に大別できる。また、活性エネルギー線硬化型のポリマーは、硬化のメカニズムの観点では、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物に大別できる。
ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などの炭素-炭素二重結合のラジカル重合性の官能基を有する化合物が挙げられる。また、単官能ラジカル重合性化合物又は二官能以上の多官能ラジカル重合性化合物のいずれも用いることができる。また、これらラジカル重合性化合物は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。前記ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
ラジカル重合性化合物を用いる場合の重合開始剤は、活性エネルギー線に応じて適宜に選択される。紫外線又は可視光線により接着剤を硬化させる場合には、紫外線開裂又は可視光線開裂の重合開始剤が用いられる。このような重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、芳香族ケトン化合物、アセトフェノン系化合物、芳香族ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、チオキサントン系化合物などが挙げられる。
【0022】
カチオン重合性化合物としては、分子内にカチオン重合性官能基を1つ有する単官能カチオン重合性化合物、分子内にカチオン重合性官能基を2つ以上有する多官能カチオン重合性化合物などが挙げられる。前記カチオン重合性官能基としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基などが挙げられる。エポキシ基を有するカチオン重合性化合物としては、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物などが挙げられる。オキセタニル基を有するカチオン重合性化合物としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタンなどが挙げられる。ビニルエーテル基を有するカチオン重合性化合物としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
カチオン重合性化合物を用いる場合、カチオン重合開始剤が配合される。このカチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、電子線などの活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、カチオン重合性化合物のエポキシ基などと重合反応を開始する。カチオン重合開始剤としては、光酸発生剤と光塩基発生剤を使用することができる。
【0023】
材料溶液の粘度は、特に限定されないが、余りに小さい又は大きいと、材料溶液を基材に塗布する際に塗工斑を生じるおそれがある。かかる観点から、材料溶液の23℃での粘度は、例えば、0.002Pa・s以上1.0Pa・s以下であり、好ましくは、0.01Pa・s以上0.5Pa・s以下である。前記粘度範囲の材料溶液は、主として溶媒量を調整することによって得られ得る。
前記材料溶液の粘度は、25℃で市販のE型粘度計を用いて測定した値をいう。
【0024】
[塗膜製造装置及び塗膜の製造方法]
図1乃至
図4は、本発明の方法を実施するための塗膜製造装置9の一例を示す。
図1は、塗膜製造装置9の概略側面図であり、
図2は、その平面図である。
図2においては、塗膜製造装置9の乾燥ゾーンZ3のみを表している。
図3及び
図4は、
図2のIII-III線及びIV-IV線でそれぞれ切断した断面図である。
図3においては、風乾ゾーンZ31のみを表し、
図4においては、乾燥緩和ゾーンZ32のみを表している。
本明細書において、塗膜製造装置及び塗膜の製造方法の説明上、基材の長手方向を「搬送方向」といい、基材が送られる側を「搬送方向下流側」又は「下流側」といい、その反対側を「搬送方向上流側」又は「上流側」という。基材の幅方向は、基材の面内において搬送方向と直交する方向をいう。
【0025】
塗膜製造装置9は、区域毎に分けると、搬送方向上流側から下流側に向かって順に、ロール状に巻かれた基材を巻き出す巻出しゾーンZ1と、前記基材の表面に材料溶液を塗布して未硬化塗膜を形成する塗布ゾーンZ2と、前記基材の表面に形成された未硬化塗膜を乾燥する乾燥ゾーンZ3と、前記乾燥後の未硬化塗膜を硬化させて塗膜を形成する硬化ゾーンZ4と、前記塗膜(硬化済みの塗膜)を有する基材を巻き取る巻取りゾーンZ5と、を有する。
乾燥ゾーンZ3は、搬送方向上流側から下流側に向かって順に、未硬化塗膜を風乾する風乾ゾーンZ31と、前記未硬化塗膜の乾燥を許容しつつその急激な乾燥を防止する乾燥緩和ゾーンZ32と、前記未硬化塗膜を熱によって乾燥する熱乾燥ゾーンZ33と、を有する。前記熱乾燥ゾーンZ33は、必要に応じて配置される。
なお、必要に応じて、前記各ゾーンの間に、任意の処理を行なうゾーンを有していてもよい(図示せず)。前記任意の処理としては、(a)基材に任意のフィルムを積層する、(b)基材から任意のフィルムを引き剥がす、(c)基材に任意の層を形成する、(d)基材を延伸する、などが挙げられる。例えば、巻出しゾーンZ1と塗布ゾーンZ2の間に、基材から任意のフィルムを引き剥がすゾーンを有していてもよい。また、硬化ゾーンZ4と巻取りゾーンZ5の間に、基材に任意のフィルムを貼り合わせるゾーンを有していてもよい。
【0026】
機械的な構成要素を説明すると、塗膜製造装置9は、巻出し部11から巻取り部12まで基材7を搬送する搬送装置1と、材料溶液を塗布する塗布装置2と、未硬化塗膜8に風を吹き付ける送風装置3と、未硬化塗膜8の乾燥を緩和する遮蔽面部4と、未硬化塗膜8に熱乾燥する熱乾燥装置5と、未硬化塗膜8を硬化させる硬化装置6と、を有する。
【0027】
<巻出しゾーン、巻取りゾーン及び搬送装置>
巻出しゾーンZ1は、最も上流側に配置され、巻取りゾーンZ5は、最も下流側に配置されている。巻出しゾーンZ1に設けられた巻出し部11に、ロール状に巻かれた基材7が装填されている。巻出し部11に装填された基材7は、搬送装置1によって巻き出され、塗布ゾーンZ2、乾燥ゾーンZ3、硬化ゾーンZ4に順に搬送された後、巻取りゾーンZ5に設けられた巻取り部12に巻き取られる。
搬送装置1は、従来公知のものであり、駆動ロールやガイドロールなどを有する。搬送装置1は、長尺帯状の基材7を所定の搬送速度で、上流側から下流側へと連続的に搬送する。基材7の搬送速度AS[m/min]は、適宜設定され、例えば、5m/min以上40m/min以下であり、好ましくは、10m/min以上35m/min以下である。
【0028】
<塗布ゾーン及び未硬化塗膜の形成工程>
塗布ゾーンZ2には、塗布装置2が設けられている。塗布ゾーンZ2において、前記搬送装置1は、搬送方向上流側から搬送方向下流側に連続的に搬送される基材7の表面に、材料溶液を連続的に塗布する。材料溶液を塗布することにより、基材7の表面に未硬化塗膜8が形成される(形成工程)。
基材7上に塗布された薄膜状の材料溶液が、未硬化塗膜8である。未硬化塗膜8は、基材7の表面の略全体に形成される。
塗布装置2は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、塗布装置2としては、ダイコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーターなどが挙げられる。図示例では、ダイコーターを例示している。
前記未硬化塗膜8の厚みDは、特に限定されず、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは、0.5μm以上30μm以下である。
【0029】
<乾燥ゾーン及び乾燥工程>
乾燥ゾーンZ3において、未硬化塗膜8中に含まれる余分な溶媒を揮発させ、未硬化塗膜8を乾燥する(乾燥工程)。
図示例の乾燥ゾーンZ3は、風乾ゾーンZ31と、乾燥緩和ゾーンZ32と、熱乾燥ゾーンZ33と、を有する。
【0030】
(風乾ゾーン)
風乾ゾーンZ31には、送風装置3が設けられている。
送風装置3は、基材7に形成された未硬化塗膜8の表面に風を吹き付ける装置である。ここで、風は、ある方向に向かって動く気体の流れをいう。送風装置3は、強制的に風を生じさせて、それを未硬化塗膜8の表面に作用させる。送風装置3は、未硬化塗膜8の表面に対して、搬送方向下流側に向けた風を吹き付ける。
送風装置3は、前記塗布装置2と後述する遮蔽面部4の間のゾーンに配置されている。送風装置3は、塗膜製造装置9のフレーム(図示せず)などに固定されている。
【0031】
送風装置3は、ブロアなどの送風機(図示せず)と、風を吹き出す吹出し口31を有するノズル部32と、前記送風機とノズル部32の間を繋ぐ送風管33(一部を省略)と、を有する。
前記ノズル部32の吹出し口31は、搬送される基材7の未硬化塗膜8の表面側に向けられている。前記ノズル部32の吹出し口31は、基材7の幅方向に延びるスリット状の開口でもよく、或いは、スポット的な点状の開口でもよい。吹出し口が点状の開口である場合、基材7の幅方向に複数のノズル部が配置される(図示せず)。図示例のノズル部32の吹出し口31は、スリット状であり(
図3参照)、基材7の幅方向に延在されている。吹出し口31の幅(基材7の幅方向に対応する吹出し口31の長さ)は、基材7の幅(基材7の幅方向の長さ)よりも小さくてもよい。未硬化塗膜8の表面全体に略均等に風を吹き付けるために、図示例のように、吹出し口31の幅は、基材7の幅よりも大きい又は基材7の幅と略同じであることが好ましい。基材7の幅よりも大きい吹出し口31の場合、吹出し口31の幅方向両端部が、基材7の幅方向両側縁よりも外側に出張っている。
【0032】
送風装置3による風の吹き出し角度は、特に限定されないが、余りに角度が大きいと、未硬化塗膜8の表面に対して搬送方向下流側に沿った風を吹き付けることができないおそれがある。かかる観点から、風の吹き出し角度θは、45度以下であり、好ましくは、30度以下である。また、風の吹き出し角度θの下限は、0度を越え、好ましくは、5度以上である。
風の吹き出し角度θは、
図1に示す側面視で、風の向きと未硬化塗膜8とが成す内角である。なお、吹出し口31から出た風は拡がるので、前記風の向きは、未硬化塗膜8の表面の設計上の箇所P2(設計上の箇所P2は、未硬化塗膜8の表面のある箇所に風の中心を当てることを意図して、風乾装置の風向きを設計する際の箇所をいう)と吹出し口31とを結んだ方向をいう。
前記設計上の箇所P2は、後述する遮蔽面部4よりも搬送方向上流側である。送風装置3による風が遮蔽面部4と未硬化塗膜8の間に入り込むことを防止する観点から、前記設計上の箇所P2は、例えば、遮蔽面部4の前端4aから搬送方向上流側に20cm以上300cm以下の範囲とされ、好ましくは、遮蔽面部4の前端4aから搬送方向上流側に50cm以上150cm以下の範囲とされる。つまり、風を当てる設計上の箇所P2と遮蔽面部4の前端4aとの長さL3(
図1参照)が、前記範囲とされる。
【0033】
前記風の風速BS[m/sec]は、適宜設定される。風乾ゾーンZ31での風乾によって未硬化塗膜8の表面に斑が生じることを抑制する観点から、送風装置3による風速BS[m/sec]は、基材7の搬送速度AS[m/min]との関係を考慮して設定されることが好ましい。具体的には、基材7の搬送速度AS[m/min]と風の風速BS[m/sec]が、1≦AS/BS≦50の関係を満たすように、搬送される基材7の未硬化塗膜8の表面に風を吹き付けることが好ましい。さらに、基材7の搬送速度AS[m/min]と風の風速BS[m/sec]が、2≦AS/BS≦50の関係を満たすように、搬送される基材7の未硬化塗膜8の表面に風を吹き付けることがより好ましい。風速BSの具体的な値は、例えば、0.3m/sec以上50m/sec以下である。
なお、前記送風装置3からの風は、特に加熱などが行なわれず、前記風の温度は、塗膜製造装置9が設置されている場所の雰囲気温度である。送風装置3から吹き出される気体(風)は、任意であり、例えば、塗膜製造装置9が設置されている場所の雰囲気などである。
【0034】
(乾燥緩和ゾーン)
乾燥緩和ゾーンZ32には、遮蔽面部4が設けられている。遮蔽面部4は、基材7と協働して、当該遮蔽面部4と未硬化塗膜8との間に、揮発した溶媒が高濃度で滞留する空間Sを画成する。遮蔽面部4によって未硬化塗膜8との間に前記空間Sが形成されることにより、前記未硬化塗膜8の乾燥(溶媒の揮発)を許容しつつその急激な乾燥を防止できる。この乾燥を許容しつつ急激な乾燥を防止することを「乾燥緩和」という場合がある。なお、揮発は、未硬化塗膜8中の溶媒が気化して未硬化塗膜8から抜け出ることをいう。
遮蔽面部4は、搬送される基材7の未硬化塗膜8の表面に対して対向して配置されている。遮蔽面部4は、未硬化塗膜8の表面に対して所定の間隔を開けて対向配置されている。
【0035】
遮蔽面部4と未硬化塗膜8の表面との間隔Hは、適宜設定される。この間隔Hは、揮発した溶媒が高濃度で滞留する空間Sの大きさに影響しており、それが余りに大きいと、遮蔽面部4を設けた意義がなく、それが余りに小さいと、前記空間S内において揮発した溶媒の濃度が高くなり過ぎる。かかる観点から、遮蔽面部4と未硬化塗膜8の表面との間隔Hは、50mm以上150mm以下であり、好ましくは70mm以上120mm以下である。
【0036】
遮蔽面部4は、前記間隔Hを有しつつ未硬化塗膜8を覆う面を有していれば、その全体的な構成は特に限定されない。図示例では、遮蔽面部4を構成する部材として、板状の部材41が用いられている。この板状の部材41の一方面が遮蔽面部4を構成している。遮蔽面部4(例えば板状の部材41)の形成材料は、特に限定されず、例えば、硬質樹脂、金属などが挙げられる。
遮蔽面部4は、波状などの凹凸状に形成されていてもよいが、図示例では、遮蔽面部4は平坦状である。なお、遮蔽面部4が凹凸状に形成されている場合、前記間隔Hを確定する際の遮蔽面部4の基準は、その遮蔽面部4の凹凸を平均化した平面を基準とする。遮蔽面部4は、未硬化塗膜8に対して平行に配置されている。なお、特に図示しないが、遮蔽面部4は、未硬化塗膜8の表面に対して若干傾斜して配置されていてもよい。遮蔽面部4が未硬化塗膜8の表面に対して傾斜されている場合、前記間隔Hは、平均値とする。
【0037】
遮蔽面部4は、前記送風装置3と後述する熱乾燥装置5の間のゾーンに配置されている。遮蔽面部4は、塗膜製造装置9のフレーム(図示せず)などに固定されている。遮蔽面部4は、特に加熱などが行なわれず、遮蔽面部4そのものの温度は、塗膜製造装置9が設置されている場所の雰囲気温度である。
遮蔽面部4の配置は、適宜設定される。遮蔽面部4は、その前端4aが塗布装置2による材料溶液の塗布点P1から下流側に3m以下に位置するように配置されていることが好ましい。このような配置により、風乾ゾーンZ31による未硬化塗膜8の風乾を効果的に行なうことができる。前記遮蔽面部4の前端4aは、下流側に搬送される基材7が、遮蔽面部4のうち最初に到達する端部である。また、前記塗布点P1は、基材7の表面に材料溶液が付着し始める箇所をいう。前記遮蔽面部4の前端4aが塗布点P1から下流側に3m以下に位置するとは、前記塗布点P1から前記遮蔽面部4に至るまでの前記基材7の搬送長さL1と同義である。従って、その基材7の搬送長さL1が、0mを越え3m以下であることが好ましい。さらに、前記基材7の搬送長さL1は、1m以上2.5m以下であることがより好ましい。
【0038】
遮蔽面部4の幅(基材7の幅方向に対応する遮蔽面部4の長さ)は、基材7の幅よりも小さくてもよい。未硬化塗膜8の全体に亘って均等な乾燥緩和効果を期待できることから、遮蔽面部4の幅は、
図2に示すように、基材7の幅よりも大きい又は基材7の幅と略同じであることが好ましい。基材7の幅よりも大きい遮蔽面部4の場合、遮蔽面部4の幅方向両端部が、基材7の幅方向両側縁よりも外側に出張っている。
また、遮蔽面部4の前端4a、後端4b及び両側端4c,4dから選ばれる少なくとも1つの端と未硬化塗膜8との間は、開放されていることが好ましい。図示例では、遮蔽面部4の周端(前端4a、後端4b及び両側端4c,4d)と未硬化塗膜8との間は、開放されている。遮蔽面部4の少なくとも1つの端と未硬化塗膜8との間が開放されていることにより、その開放部分から外部に溶媒が拡散する。このため、遮蔽面部4と未硬化塗膜8の間の空間Sの溶媒濃度が飽和量に達することがなく、その空間Sにおいて乾燥緩和効果を十分に発揮できる。
【0039】
遮蔽面部4の長さL2(基材7の搬送方向に対応する遮蔽面部4の長さ)は、適宜設定される。乾燥緩和の観点から、遮蔽面部4の長さL2は、未硬化塗膜8の厚みDとの関係を考慮して設定されることが好ましい。詳しくは、未硬化塗膜8の厚みDが大きいと相対的に未硬化塗膜8からの溶媒の揮発量が大きく、未硬化塗膜8の厚みDが小さいと溶媒の揮発量は小さい。未硬化塗膜8の厚みDが大きい場合には、それに対応して遮蔽面部4の長さL2を大きくすることにより、乾燥緩和ゾーンZ32において適切な量の溶媒を揮発させることができる。一方、未硬化塗膜8の厚みDが小さい場合には、それに対応して遮蔽面部4の長さL2を小さくすることにより、乾燥緩和ゾーンZ32において適切な量の溶媒を揮発させることができる。つまり、未硬化塗膜8の厚みDに対応して遮蔽面部4の長さL2の長短を設定することにより、乾燥緩和ゾーンZ32において、未硬化塗膜8の厚みDに拘わらず、溶媒を急激に揮発させることなく、適切な量の溶媒を揮発させることができる。かかる観点から、未硬化塗膜8の厚みD[μm]と遮蔽面部4の長さL2[m]は、0.5≦D/L2≦50の関係を満たしていることが好ましい。さらに、未硬化塗膜8の厚みD[μm]と遮蔽面部4の長さL2[m]は、0.8≦D/L2≦30の関係を満たしていることがより好ましく、特に、1≦D/L2≦10の関係を満たしていることがさらに好ましい。
前記遮蔽面部4の長さL2の具体的な値は、0.5m以上2m以下であることが好ましく、0.8m以上1.7m以下であることがより好ましい。
【0040】
(熱乾燥ゾーン)
熱乾燥ゾーンZ33には、熱によって未硬化塗膜8を乾燥する熱乾燥装置5が設けられている。
熱乾燥装置5は、特に限定されず、オーブン、温風を吹き付けるヒーターなどを用いることができる。
基材7を熱乾燥ゾーンZ33に通過させることにより、未硬化塗膜8中の溶媒を十分に揮発させることができる。
【0041】
<硬化ゾーン及び硬化工程>
硬化ゾーンZ4において、未硬化塗膜8を硬化させる(硬化工程)。これにより、基材7の表面に塗膜81(硬化後の塗膜81)が形成される。
硬化ゾーンZ4には、硬化装置6が設けられている。硬化装置6は、材料溶液の硬化態様に準じた適切なものが用いられる。例えば、材料溶液が、紫外線などの活性エネルギー線硬化型である場合、硬化装置6として、紫外線などの活性エネルギー線照射装置が用いられる。また、材料溶液が、熱硬化型である場合、硬化装置6として、加熱装置が用いられる。なお、前記熱乾燥ゾーンZ33の熱によって、熱硬化型の材料が硬化する場合には、硬化装置6を省略してもよい。また、材料溶液が、溶媒揮発型である場合、前記熱乾燥ゾーンZ33において未硬化塗膜8が硬化するので、硬化装置6は省略される。
塗膜が形成された基材7は、必要に応じて任意の適切処理が行なわれた後、巻取り部12に巻き取られる。
【0042】
本発明の方法によれば、表面の平滑性に優れた塗膜81を得ることができる。これは、未硬化塗膜8を乾燥させる乾燥工程において、未硬化塗膜8の表面に筋状の斑(筋状の凸又は凹)が生じることを抑制できるからである。その理由は明確ではないが、本発明者らは次のように推定している。
すなわち、基材7を上流側から下流側に搬送すると、未硬化塗膜8の表面は、それと反対に向かった風を受ける。この風は、基材7の搬送に伴って基材7の表面(未硬化塗膜8の表面)に生じる、下流側から上流側に向かった気体の流れである(以下、「搬送気流」という)。
図1において、搬送気流の向きを白抜き矢印で示している。この搬送気流の強さは、基材7の搬送速度ASに比例する。また、搬送装置1の振動や塗膜製造装置9の設置場所の雰囲気(例えば、設置場所の空調設備)などの要因で、前記基材7の表面に作用する搬送気流は、一律に下流側から上流側に向かった気体の流れではなく、所々で強弱を生じ或いは向きを微妙に変えるなどの乱れを生じていると推定される。このような搬送気流の乱れは、未硬化塗膜8の表面に斑を生じさせる原因となる。本発明の風乾ゾーンZ31は、第1特徴点を有している。風乾ゾーンZ31にて、1≦AS/BS≦50の関係を満たし且つ未硬化塗膜8の表面に対して搬送方向下流側に沿って風を未硬化塗膜8に吹き付けることにより、前記搬送気流の乱れを打ち消すことができる。このため、未硬化塗膜8の表面に斑が生じることを抑制でき、また、風を吹き付けるので、未硬化塗膜8中の溶媒の揮発を促進できる。
【0043】
次に、前記風乾によって斑の発生を抑制しつつ乾燥を促進しても、未硬化塗膜8は十分に乾燥していないので、その風乾ゾーンZ31の後、搬送気流によって未硬化塗膜8の表面に斑が生じるおそれがある。特に、風を吹き付けて乾燥が促進された直後においては、積極的な風を吹き付けなくても溶媒が揮発し易い状態にある。この点、本発明においては、風乾ゾーンZ31を搬送した直後に、第2特徴点を有する乾燥緩和ゾーンZ32に基材7を搬送している。第2特徴点により、乾燥緩和ゾーンZ32には、遮蔽面部4と未硬化塗膜8の表面との間に空間Sが形成される。この空間S内では基材7の未硬化塗膜8から溶媒が揮発するが、前記遮蔽面部4で仕切られた空間S内においては、溶媒濃度が高くなるので、溶媒が急激に揮発することを防止できる。急激な乾燥を防止する乾燥緩和ゾーンZ32を設けることにより、風乾後、未だ不安定な未硬化塗膜8がゆっくりと乾燥し、未硬化塗膜8の表面に斑が生じることを抑制できる。
【0044】
[その他]
上記の塗膜製造装置及び塗膜の製造方法において、第1特徴点を有する風乾ゾーンZ31と第2特徴点を有する乾燥緩和ゾーンZ32の双方を設けているが、第1特徴点又は第2特徴点のいずれかのみを有していてもよい(図示せず)。例えば、第1特徴点を有さない風乾ゾーンと第2特徴点を有する乾燥緩和ゾーンZ32に、未硬化塗膜8が形成された基材7を搬送してもよい。例えば、風乾ゾーンにおいて送風装置にて強制的な風を吹き付けずに基材7を搬送した後(この場合の風乾ゾーンでは、基材7の搬送に伴う搬送気流が未硬化塗膜8の表面に作用している)、第2特徴点を有する乾燥緩和ゾーンZ32に基材7を搬送してもよい。或いは、風乾ゾーンにおいて送風装置3にて第1特徴点の条件を満足しない風を未硬化塗膜8に吹き付けた後、第2特徴点を有する乾燥緩和ゾーンZ32に基材7を搬送してもよい。或いは、第1特徴点を有する風乾ゾーンZ31に基材7を搬送した後、第2特徴点の条件を満足しない遮蔽面部を有する乾燥緩和ゾーンに基材7を搬送してもよい。
【実施例0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
[基材]
基材は、厚み60μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム株式会社製の商品名「TG60UL」)を使用した。
[材料溶液]
材料溶液は、有機溶剤(メチルイソブチルケトン)に紫外線硬化型ポリマー(ペンタエリスリトルトリアクリレート)が溶解されている溶液(大阪有機化学工業株式会社製の商品名「ビスコート#300」)を使用した。この材料溶液の粘度は、25℃で、0.007Pa・sであった。前記粘度は、25度でE型粘度計を用いて測定した。
【0047】
[実施例1]
図1乃至
図4に示すような塗膜製造装置9を使用した。製造装置の各設定は次の通りとした。
塗布装置2:ダイコーター。
未硬化塗膜8の厚みD:15μm。
送風装置3の風の吹き出し角度θ:15度。
風を当てる箇所P2(長さL3):100cm。
基材7の搬送速度AS:30m/min。
風速BS:1m/sec。
搬送長さL1:2m。
遮蔽面部4と未硬化塗膜8との間隔H:100mm。
遮蔽面部4の長さL2:1.5m。
熱乾燥装置5:60℃~80℃のオーブン。
硬化装置6:紫外線照射装置。
【0048】
基材7を上記速度ASで搬送し、塗布装置2にて基材7の表面に厚みDの未硬化塗膜8を連続的に形成し、その基材7を風乾ゾーンZ31、乾燥緩和ゾーンZ32及び熱乾燥ゾーンZ33に順に搬送し、硬化装置6にて未硬化塗膜8を硬化させることによって、実施例1の塗膜を得た。
塗膜(硬化後の塗膜)の表面の状態を、目視で観察した。その結果を表1に示す。
表1の塗膜表面の状態の欄の「○」は、斑状のモヤを視認できないレベルであったことを表し、「△」は、斑状のモヤをわずかに視認できたが、ディスプレイの表示品位に影響しないレベルであったことを表し、「×」は、斑模様を強く視認でき、ディスプレイの表示品位を著しく低下させるレベルであったことを表す。ここで、前記「モヤ」とは、透明フィルムにおいて、透明な部分と白濁を視認できる部分とがランダムに発生している状態をいう。
なお、表1のAS/BSの欄のうち小数点が生じた数値は、小数点2位を四捨五入している。
【0049】
【0050】
[実施例2乃至11及び比較例1乃至11]
基材7の搬送速度AS、風速BS、搬送長さL1、間隔H、遮蔽面部4の長さL2、及び未硬化塗膜8の厚みDの中の幾つかを、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗膜を形成した。なお、比較例11は、遮蔽面部を設けなかった。
それらの塗膜の表面の状態の観察結果を表1に示す。