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特開2024-87373健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法
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  • 特開-健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法 図1
  • 特開-健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法 図2
  • 特開-健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法 図3
  • 特開-健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087373
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240624BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202169
(22)【出願日】2022-12-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.WINDOWS
3.ANDROID
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『真の社会イノベーションを実現する革新的「健やか力」創造拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福家 暢夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】中路 重之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 健
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA40
2G045CA25
2G045DA36
2G045JA01
2G045JA07
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、種々の健康状態を簡便に評価する手段を提供することである。
【解決手段】血中リポ多糖結合タンパク質(lipopolysaccharide binding protein;LBP)濃度を測定することにより筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態を評価する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康状態評価システムであって、
当該健康状態は、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上であり、
当該システムを構成するのは、少なくとも、以下である:
測定装置:
これで測定されるのは、被測定者の血中リポ多糖結合タンパク質(lipopolysaccharide binding protein;LBP)濃度であり、
出力装置:
これで出力されるのは、当該被測定者の健康状態を評価するための情報であり、及び、
処理装置:
これに接続されるのは、当該出力装置であり、かつ、
これで処理されるのは、当該血中LBP濃度であり、それによって得られるのは、当該被測定者の健康状態を評価するための情報である。
【請求項2】
健康状態評価プログラムであって、
当該健康状態は、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上であり、
当該プログラムによってコンピュータが実行するのは、次の処理である:
判定:ここで判定されるのは、被測定者の健康状態に関連付けられる情報であり、その際に参照されるのは、当該被測定者の血中LBP濃度である。
【請求項3】
健康状態を評価するための情報を提供する方法であって、
当該健康状態は、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上であり、
当該方法を構成するのは、少なくとも、以下の工程である:
測定:ここで測定されるのは、被測定者の血中LBP濃度であり、
判定:ここで判定されるのは、当該被測定者の健康状態に関連付けられる情報であり、その際に参照されるのは、当該血中LBP濃度であり、及び、
提示:ここで提示されるのは、当該健康状態を評価するための情報である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、健康状態評価システム、健康状態評価プログラム、及び健康状態を評価するための情報を提供する方法である。
【背景技術】
【0002】
健康状態を把握し、疾病を早期発見したり予防したりすることは、個人の生活の観点からも医療政策の観点からも重要である。健康診断や人間ドックは疾病の発見・予防の重要な仕組みの一つであるが、その受診率は男性で74.0%、女性で65.6%と十分とは言えない(非特許文献1)。受診しない理由として「時間が取れない」「面倒だから」が上位を占めていることから(非特許文献2)、医療機関に出向くことなく自宅等で健康状態をチェックできるサービスには需要があると期待される。
【0003】
現在、在宅で血液検査により健康状態をチェックする商品やサービスは複数販売されているが、在宅での採血量は少なく、検査できる項目数が限られてしまう点が問題であった。そのため、少数の、好ましくは1種類のバイオマーカーにより多様な健康状態を評価することができれば、新たな健康診断のツールとして有用であると期待される。
これまでに、そのようなバイオマーカーとして血中リポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)が提案されている。LPSは、グラム陰性細菌由来の毒素であり、様々な組織で炎症を惹起し、それによって様々な健康状態の悪化につながると考えられている。また、メタボリックシンドロームや生活習慣病の発症や重症化に関与することが示唆されており(
非特許文献3)、血中LPS濃度を測定することによりメタボリックシンドロームや食生
活といった健康状態を評価する方法が提案されている(特許文献1)。
ただし、凍結保存した血液検体においてLPSは濃度が低下してしまうため、検体の管理が難しく、また低濃度域を正確に測定しにくいという難点がある(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-074806号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況 III世帯員の健康状況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/04.pdf
【非特許文献2】厚生労働省 2016年 国民生活基礎調査の概況 III世帯員の健康状況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf
【非特許文献3】Mariann I. Lassenius et al., Diabetes Care,34:1809-1815(2011)
【非特許文献4】Shyam Dheda et al., Diagnosis, 8 (2): 249-256(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法により評価することができる健康状態は多くを網羅しているわけではない。また、血中のLPS濃度を測定する方法は汎用化されておらず、LPSは健康状態を評価するバイオマーカーとして必ずしも適するものではない。
かかる状況に鑑みて、本発明は種々の健康状態を簡便に評価する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、血中リポ多糖結合タンパク質(lipopolysaccharide binding protein;LBP)が特定の健康状態と相関関係を有することに着目した。LBPはLPSへの暴露によって血中濃度が上昇することが知られているが、特定の健康状態との関係については知られていない。本発明者らは、血中LBP濃度を測定することにより筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態を評価することができることに想到し、本発明を完成させた。なお、タンパク質であるLBPは、LPSと異なり凍結保存した血液検体中でも検出・測定が容易である。
すなわち、本発明は以下の通り定義される。
【0008】
<健康状態評価システム>
健康状態評価システムを構成するのは、少なくとも、測定装置、出力装置、及び処理装置である。測定装置で測定されるのは、被測定者の血中LBP濃度である。出力装置で出力されるのは、当該被測定者の健康状態を評価するための情報である。処理装置に接続されるのは、当該出力装置である。処理装置で処理されるのは、当該血中LBP濃度であり、それによって得られるのは、当該被測定者の健康状態を評価するための情報である。当該システムにより評価される健康状態は、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上である。
【0009】
<健康状態評価プログラム>
健康状態評価プログラムによってコンピュータが実行するのは、少なくとも判定処理である。判定処理で判定されるのは、被測定者の健康状態に関連付けられる情報であり、その際に参照されるのは、当該被測定者の血中LBP濃度である。当該プログラムにより評価される健康状態は、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上である。
【0010】
<健康状態を評価するための情報を提供する方法>
健康状態を評価するための情報を提供する方法を構成するのは、少なくとも、測定工程、判定工程、及び提示工程である。測定工程で測定されるのは、被測定者の血中LBP濃度である。判定工程で判定されるのは、当該被測定者の健康状態に関連付けられる情報であり、その際に参照されるのは、当該血中LBP濃度である。提示工程で提示されるのは、当該健康状態を評価するための情報である。当該方法により提供される情報が評価目的とする健康状態は、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態から選択される健康状態を、簡便に精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】健康状態評価システムの構成を示す概略図である。
図2】判定処理の流れを示す概略図である。
図3】LBP評価の流れを示す概略図である。
図4】健康状態評価方法の流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を具現化するのは、以下の実施の形態である。ここで用いる語句の定義は、以下のとおりである。
【0014】
本明細書において、「血中LBP濃度」とは、血液に含まれるリポ多糖結合タンパク質(LPB)の濃度(単位:μg/mL)をいう。「血中LBP濃度」に含まれるのは、血漿中LBP濃度及び血清中LBP濃度である。血漿中LBP濃度とは、血漿に含まれるLBPの濃度(単位:μg/mL)をいう。血清中LBP濃度とは、血清に含まれるLBPの濃度(単位:μg/mL)をいう。本実施の形態で採用するのは、血漿中LBP濃度が好ましい(以下、単に「血中LBP濃度」ということもある。)。なお、血中LBP濃度は、血漿中LBP濃度に略等しい。
【0015】
本明細書において、「健康状態」とは、広義には、身体の機能的状態又は身体の器質的状態をいう。身体の機能的状態を例示すると、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態が挙げられる。
【0016】
本発明者らはこれらの状態に血中LBP濃度が相関することを見出した。これらの健康状態の表現態様は、特に限定されないが、例えば特定検診の表現に倣って、「異常なし」、「軽度異常」、「要経過観察」及び「要医療」というように表せる。
具体的には、血中LBP濃度の上昇に伴って筋肉量が減少し、予め定めた閾値を超える場合には異常状態にあると評価される情報と結び付けられる。
血中LBP濃度の上昇に伴って、腎機能が低下し、例えば、血清レニン活性値や尿中アルブミン/クレアチニン比が予め定めた閾値を超える状態、すなわち健康ではない状態にあると評価される情報と結び付けられる。
血中LBP濃度の上昇に伴って、副腎機能が低下し、例えばコルチゾール値が予め定めた閾値を超える状態、すなわち健康ではない状態にあると評価される情報と結び付けられる。
血中LBP濃度の上昇に伴って、甲状腺機能が低下し、例えば遊離T4値が予め定めた閾値を超える状態、すなわち健康ではない状態にあると評価される情報と結び付けられる。
血中LBP濃度の上昇に伴って、血液生化学検査項目が基準値を外れた異常状態となり、例えば血清総タンパク値が予め定めた閾値を超える状態、すなわち健康ではない状態にあると評価される情報と結び付けられ、また例えば血清鉄値が予め定めた閾値を下回る状態、すなわち健康ではない状態にあると評価される情報と結び付けられる。
【0017】
なお、本発明において血中LBP濃度に基づいてアウトプットされるのは、被測定者の「健康状態」ではなく、「健康状態を評価するための情報」である。すなわち、本発明のシステムにおいて処理装置で処理された血中LBP濃度から得られるのは、被測定者の健康状態を評価するための情報である。本発明のプログラムにおいて判定処理で判定されるのは、被測定者の健康状態に関連付けられる情報である。本発明の方法における判定工程で判定されるのは、当該被測定者の健康状態に関連付けられる情報である。
本発明においては血中LBP濃度に結び付けられる特定の健康状態を推測する段階までを含むものであり、健康状態の診断に関する最終的な判断行為は含まれない。医師等は、本発明により提供される情報を、必要に応じて他の情報をも参照して、被測定者の健康状態を診断したり、治療方針を立てたり、被測定者に日常生活への助言をしたりする。
【0018】
<健康状態評価システム>
図1で示すのは、健康状態評価システムの構成の一例である。健康状態評価システム10を構成するのは、測定装置20、出力装置30、処理装置40、入力装置50、及び、外部記憶装置60である。これらの装置の一部又は全部を接続する方式は、有線又は無線であってよい。これらの装置は、互いに独立し、或いは、一部又は全部が一体化している。出力装置30及び処理装置40並びに入力装置50が一体化している場合、そのような一体化を具現化するのは、パーソナルコンピュータやタブレット端末等であってよい。各
装置の詳細は、以下のとおりである。
【0019】
測定装置20で測定されるのは、被測定者の血中LBP濃度である。すなわち、測定装置20で先ず分析されるのは、被測定者の血液又は血漿であり、それによって出力されるのが当該被測定者の血中LBP濃度である。当該血液及び血漿は、後述する前処理が施されてもよい。当該血中LBP濃度の出力先は、不問であるが、好ましくは、出力装置30である。測定装置20を具現化するものは、様々であり特に限定されないが、例示すると、分光計、分光光度計、マイクロプレートリーダ等である。
【0020】
出力装置30で出力されるのは、被験者の血中LBP濃度及び被験者の健康状態を評価するための情報である。これらの情報を出力する態様は、不問であり、具体的には、画像出力、音声出力、紙出力、これらの組合せ等である。出力装置30を例示すると、ディスプレイ、スピーカ、プリンタ等である。
【0021】
処理装置40に接続されるのは、出力装置30、入力装置50及び外部記憶装置60である。処理装置40で処理されるのは、被測定者の血中LBP濃度であり、その結果、得られるのは、被験者の健康状態を評価するための情報である。本実施の形態では、被測定者の血中LBP濃度の源泉は、測定装置20である。また、当該血中LBP濃度を直接的に入力するのは、入力装置50である。
処理装置40を構成するのは、コンピュータの基本要素であり、具体的には、入出力部、通信部、プログラム記憶部、一時記憶部、及び、処理部である。これらの部品は、互いに、バス接続されている。これらの部品の説明は、次のとおりである。
【0022】
入出力部で授受されるのは、各種データである。入出力部に接続されるのは、処理装置40、入力装置50、及び、外部記憶装置60である。入出力部に接続可能なのは、測定装置20である。この場合、測定装置20に備わっているのは、入出力機能であってよい。
【0023】
通信部で送受されるのは、各種データである。通信部に接続されるのは、通常はネットワークである。通信部を例示すると、ダイヤルアップ接続モジュール、ワイファイ(Wi-Fi)モジュール、ブルートゥース(登録商標)“Bluetooth”、モジュール
等である。
【0024】
プログラム記憶部に記憶されるのは、各種プログラムである。プログラム記憶部を具現化するのは、不揮発性記憶装置(例えば、ROMなど)及び不揮発記憶装置(例えば、HDDやSSDなど)であってよい。不揮発性記憶装置に記憶されるのは、基本プログラム(それに必要なデータを含む。)であってよい。基本プログラムを例示すると、ベーシックインプット/アウトプットシステム(BIOS)、オペレーションシステム(OS)設定プログラム、ネットワーク設定プログラム等である。不揮発記憶装置に記憶されるのは、通常はオペレーションシステム(OS)及びアプリケーションプログラムである。オペレーションシステム(OS)を例示すると、ウィンドウズ(登録商標)“Windows”、リナックス(登録商標)“Linux(登録商標)”、アンドロイド(登録商標)“Android”などである。アプリケーションプログラムを例示すると、後述する健康状態評価プログラムである。
【0025】
一時記憶部に一時的に記憶されるのは、通常は各種プログラム及び各種データである。各種プログラムは、前述のとおりである。各種データが示すのは、通常は入力値や出力値などである。一時記憶部を例示すると、揮発性記憶装置(例えば、RAMなど)である。
【0026】
処理部で実行されるのは、各種プログラムであり、かつ、処理されるのは、通常は各種
データである。各種プログラムが実行されることで、入力値が処理されて出力値となる。処理部を具現化するのは、中央演算装置(いわゆるCPU)であってよい。
【0027】
入力装置50で入力されるのは、通常は各種データである。入力装置50を例示すると、タッチパネル、操作キー、ボタン、キーボードやマウス等である。
【0028】
外部記憶装置60で記憶されるのは、通常は各種データ及び各種プログラムである。外部記憶装置を例示すると、磁気記憶装置(HDDなど)、光学記憶装置(CD
、DVD、BDなど。その駆動装置を含む。)、半導体記憶装置(USBメモリ、SDカードメモリ、SSDなど)などである。
【0029】
<健康状態評価プログラム>
健康状態評価プログラムによって処理装置40が実行するのは、判定処理である。すなわち、処理装置40で判定されるのは、被測定者の健康状態を評価するための情報である。その際に、処理装置40で参照されるのは、当該被測定者の血中LBP濃度である。
図2で示すのは、判定処理の流れの一例である。判定処理を構成するのは、LBP評価(S10)、及び健康状態を評価するための情報出力(S20)である。
【0030】
LBP評価(S10)で得られるのは、LBP評価値である。LBP評価の詳細を、LBP評価の流れを示す図3を参照して説明する。LBP濃度が読み出されて(S21)、戻り値が返される(S22~S25)。
健康状態を推認するのに参照するLBP濃度「X」の基準値(閾値)を3点設け4段階の健康状態を評価するための情報に結び付ける(判定する)ことを例示しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、LBP濃度「X」の基準値(閾値)は1点又は2点以上の任意の数で設けてもよいし、健康状態を評価するための情報を2段階以上の任意の段階で設けてもよい。
【0031】
LBP濃度「X」が基準値「a」未満(X<a)であれば、戻り値「A」が返される(S22)。戻り値「A」が意味するのは、健康状態の悪化のリスクが低いと推認されること、より具体的には、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上の悪化が推認されないことであってよい。
【0032】
LBP濃度「X」が基準値「a」以上、かつ、「b」未満(a≦X<b)であれば、戻り値「B」が返される(S23)。戻り値「B」が意味するのは、健康状態の悪化のリスクがやや高いと推認されること、より具体的には、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上の軽度の悪化が推認されることであってよい。
【0033】
LBP濃度「X」が基準値「b」以上、かつ、「c」未満(b≦X<c)であれば、戻り値「C」が返される(S24)。戻り値「C」が意味するのは、健康状態の悪化のリスクが高いと推認されること、より具体的には、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上の悪化が推認されることであってよい。
【0034】
LBP濃度「X」が基準値「c」以上(c≦X)であれば、戻り値「D」が返される(S25)。戻り値「D」が意味するのは、健康状態の悪化のリスクがとても高いと推認されること、より具体的には、筋肉量、腎機能の状態、副腎機能の状態、甲状腺機能の状態、及び血液生化学検査項目の状態からなる群から選択される一種又は二種以上の重度の悪化が推認されることであってよい。
【0035】
表1で示すのは、血中LBP濃度と健康状態に関連付けられる情報との対応表である。当該対応表に当てはめられるのは、被測定者の血中LBP濃度であり、その結果、得られるのは、被測定者の健康状態に関連付けられる情報である。
基準値(閾値)は、通常は人種及び居住地に依存する。例えば、日本人の場合、基準値(閾値)を「a」、「b」、及び「c」の3点設ける場合は、それぞれ、「4.63μg/mL」、「5.66μg/mL」、及び「6.73μg/mL」とすることができる。
【0036】
【表1】
【0037】
健康状態を評価するための情報出力(S20)において健康状態を評価するための情報が出力されるのは、LBP評価が終了した後である。
例えば、LBP評価値(戻り値)が「A」である場合、その被測定者の健康状態の悪化は推認されないとされ、「異常なし」又は「正常」というように対象項目ごとに情報が出力される。
例えば、LBP評価値(戻り値)が「B」、「C」、又は「D」である場合、その被測定者の健康状態の何らかの程度の悪化が推認され、戻り値の段階によって「軽度異常」、「異常」、又は「重度異常」というように対象項目ごとに情報が出力される。
【0038】
<健康状態を評価するための情報を提供する方法>
図4で示すのは、健康状態を評価するための情報を提供する方法の流れの一例である。当該方法を構成するのは、測定(P1)、判定(P2)、及び、提示(P3)である。具体的には、以下のとおりである。
【0039】
測定(P1)の目的は、被測定者の血中LBP濃度を把握することである。すなわち、人又は装置若しくは器具によって測定されるのは、被測定者の血中LBP濃度である。言い換えれば、当該血中LBP濃度の測定態様は、自動、手動又は半自動である。測定原理は、不問であり、例示すると、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)であってよい。この場合、当該血中LBP濃度の測定手順は、次のとおりとすることができる。
【0040】
検体は、被測定者から採取した血液である。この血液の保管温度は、-80℃~35℃であり、好ましくは、-10℃~10℃である。当該血液の画分は、特に限定されないが、血漿及び血清が好ましく挙げられ、より好ましくは血漿である。
当該血漿は、測定に先立ち前処理されてよい。具体的には、先ず、当該血漿を希釈してよい。その希釈溶媒は、LBP非含有の液体(例えば、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水など)であってよく、かつ、その希釈率は、1000倍とすることができる。そのように処理された血漿に反応させるのは、ELISA試薬であってよい。この試薬は、市販されている。市販のキットを例示すると、ELISAキット(LBP, soluble mouse ELISA kit # ALX-850-305-KI0, Enzo Life sciences, Farmingdale, NY)等である。
前処理された血漿を分析するのは、後述する測定装置である。この血漿が分析されて得られるのは、被測定者の血中LBP濃度である。
【0041】
判定(P2)の目的は、被測定者の健康状態を評価するための情報を導出することである。人又は装置によって判定されるのは、当該被測定者の健康状態を評価するための情報であり、その際に参照されるのは、当該血中LBP濃度である。
血中LBP濃度を参照して、予め用意した血中LBP濃度と健康状態に関連付けられる情報との対応関係、例えば前掲した表1で示す対応表に基づき、被測定者の健康状態を評価するための情報が導出される。
【0042】
提示(P3)の目的は、被測定者の推認される健康状態を認知させることである。人又は装置若しくは器具によって提示されるのは、当該血中LBP濃度及び当該健康状態を評価するための情報であり、その提示先は、当該被測定者であってよく、医師等の医療関係者であってよい。測定された血中LBP濃度及び健康状態を評価するための情報を提示する方式は、問わないが、具体的には、電磁的(電子的又は磁気的)が挙げられる。また、当該血中LBP濃度及び健康状態を評価するための情報を提示する態様は、問わないが、具体的には、視覚的態様又は聴覚的態様であってよい。血中LBP濃度及び当該健康状態を評価するための情報を提示する手段は、限定されず、例示すると、紙や画面、音声などである。
【実施例0043】
血中LBPと関連する健康状態を、以下の試験例により探索した。
弘前大学COI研究推進機構の岩木健康増進プロジェクトの健診に参加した20歳以上の男女のうち、評価対象項目に欠損データがない896名を研究対象者とした。
同対象者において、体組成計(MC190、タニタ社製)で測定された筋肉量を解析対象と
した。また、同対象者において採取した血液について、LSIメディエンス社にて測定した
血清レニン活性、尿中アルブミン/クレアチニン比、コルチゾール、遊離サイロキシンT4、血清総蛋白、及び血清鉄を解析対象とした。
また、同対象者において採取した血液の血漿について、ELISAキット(LBP, soluble mouse ELISA kit # ALX-850-305-KI0, Enzo Life sciences, Farmingdale, NY)を用いて測定した血中LBP濃度を解析対象とした。
【0044】
<試験例1>研究対象者の血中LBP濃度と健康状態との関連
研究対象者の各検査値を目的変数、血中LBP濃度、年齢、性別、ボディマス指数(BMI)、喫煙習慣の有無及び、飲酒習慣の有無を説明変数とした重回帰分析を実施した。
表2に示す通り、血中LBP濃度と左右の腕の筋肉量、血清鉄濃度との間に有意な負の関連が見られた。一方、血中LBP濃度と血漿レニン活性、尿アルブミン/クレアチニン
比、コルチゾール濃度、遊離サイロキシンT4濃度、及び血清総蛋白質濃度との間には有意な正の関連が見られた。
【0045】
【表2】
【0046】
<試験例2>血中LBP濃度の四分位値と健康状態との関連
研究対象者の各検査値(log値)を目的変数とし、表3に示す血中LBP濃度の四分位値(Q1、Q2、Q3、又はQ4)、年齢、性別、ボディマス指数(BMI)、喫煙習慣の有無及び、飲酒習慣の有無を説明変数とした重回帰分析を実施した。血中LBP四分位値の上昇(Q1→Q4)に伴ってその検査値が上昇する場合はStandardized βが正の値
を示し、一方検査値が低下する場合はStandardized βが負の値を示す。P for trendが0.05未満を統計学的に有意差があると判断した。
表4に示す通り、右腕の筋肉量を除き有意な関連が見られた。右腕の筋肉量も有意差は無いものの、負の関連傾向を示した(P for trend < 0.1)。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明が有用な分野は、健康サービス事業である。
【符号の説明】
【0050】
10 健康状態評価システム
20 測定装置
30 出力装置
40 処理装置
図1
図2
図3
図4