(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008738
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】サーマルヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B41J2/335 101D
B41J2/335 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110859
(22)【出願日】2022-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000113322
【氏名又は名称】東芝ホクト電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】弁理士法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】宮越 勇汰
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065JD09
2C065JD12
2C065JD13
2C065JD14
2C065JD15
2C065JH05
2C065JH11
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッドプリンタ等に備えられたサーマルヘッドにおいて、品質の向上及び耐久性向上を図ることを目的とする。
【解決手段】基体(12)と、基体(12)の主面(12a)に形成された膜層(40)と、膜層(40)上に形成された蓄熱層(13)と、蓄熱層(13)上を覆うように主面(12a)に形成された発熱抵抗体層(14)と、発熱抵抗体層(14)上に形成され、発熱抵抗体層(14)に電流を供給する個別電極(16a)及び共通電極(16b)を有する電極層(16)と、少なくとも発熱抵抗体層(14)及び電極層(16)を被覆するように形成された保護被覆層(17)と、を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の主面に形成された膜層と、
前記膜層上に形成された蓄熱層と、
前記蓄熱層上を覆うように前記主面に形成された発熱抵抗体層と、
前記発熱抵抗体層上に形成され、前記発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層と、
少なくとも前記発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆するように形成された保護被覆層と、を備えたサーマルヘッド。
【請求項2】
前記膜層は、少なくともケイ素もしくは窒化ケイ素を含み、成膜とエッチングとを交互に繰り返すバイアススパッタ法による形成される、請求項1に記載のサーマルヘッド。
【請求項3】
前記膜層は、該膜層の表面粗さを示す値Raが0.50μm以下である、請求項1または2に記載のサーマルヘッド。
【請求項4】
前記基体はセラミックで形成される、請求項1~3のうちのいずれか1つに記載のサーマルヘッド。
【請求項5】
基体の主面に膜層を形成する工程と、
前記膜層上に蓄熱層を形成する工程と、
前記蓄熱層を覆うように前記主面に発熱抵抗体層を形成する工程と、
前記発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層を、前記発熱抵抗体層上に形成する工程と、
少なくとも前記発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆する保護被覆層を形成する工程と、
を含むサーマルヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記膜層を形成する工程において、前記膜層は前記基体の前記主面に、少なくともケイ素もしくは窒化ケイ素を含み、成膜とエッチングとを交互に繰り返すバイアススパッタ法を用いて形成する、請求項5に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記膜層を形成する工程において、エッチング/成膜レートが3%以上になるように前記膜層を形成する請求項6に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サーマルヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドは、プリンタや製版機等において感熱式記録装置を構成する主要なデバイスとして用いられる。このデバイスは、例えば、レシートの出力、列車内での切符の出力、ガスの検針結果の出力等で見かけるミニプリンター、あるいはプリクラ等の写真出力、画像出力のキーコンポーネントとして用いられる。
【0003】
一般的に、この種のサーマルヘッドでは、感熱紙等の記録媒体が搬送される方向(副走査方向)に対して直交する方向(主走査方向)に、発熱抵抗体層の発熱部が並列配置され、発熱部の近傍に、それら発熱部を駆動する複数の駆動ICが配置される。発熱部と駆動ICは、例えば、配線基板に設けられる回路パターンによって電気的に接続される。駆動ICを用いて電極及び発熱抵抗体層の発熱部に電気を供給することにより、発熱部を発熱させ、各種メディアに記録される。
【0004】
サーマルヘッドの構成の一つとして、アルミナ等のセラミック製の基体上に、グレーズ層を形成したものを支持基体としたものがある。ここで、発熱抵抗体層、アルミニウム等の電極層をスパッタ法や印刷法等の形成法によって積層形成した後、写真食刻法を通すことによって複数の対となる発熱抵抗体層の発熱部と電極を一線上に形成する。そして、発熱抵抗体層および電極の必要部位のみに保護被覆層をスパッタ法等の薄膜形成法やペーストを利用した厚膜印刷法で形成する。
【0005】
サーマルヘッドは発熱抵抗体層の発熱部からの発熱を利用するデバイスであるので、発熱抵抗体層の下の蓄熱層の影響を大きく受ける。蓄熱層の役割は、発熱した発熱抵抗体層の発熱部の熱を利用し、効率良く次の印画点への発熱を促すことである。しかしながら、逆に熱が下がらない場合には、印画においては尾引き、にじみ等、前の印画点の発熱を次の印画点まで持ち込んでしまう。したがって、適度な蓄熱と急峻な熱低下という、相反する要求を同時満たす必要がある。
【0006】
そのため、蓄熱層についてはサーマルヘッドの用途別に様々な開発が行われている。主に、グレーズ構造には、基体上の主面全体にグレーズ層を配置する全面グレーズ構造と、発熱抵抗体層直下や平坦性を要求される部位のみにグレーズ層を配置する部分グレーズ構造とがあり、用途に応じてこれらの構造が用いられる。さらに、まず全面にグレーズ層を配置し、さらに発熱抵抗体層直下だけに部分的にグレーズ層を配置するグレーズ構造等が用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、部分グレーズ構造では、電極を配置するセラミック等の基体表面の凹凸によって、その上に形成される電極が下面形状の影響を直接的に受ける。したがって、電極に欠陥が入りやすいことや、電極を保護するための保護被覆層を形成した場合には、その微小な隆起を被覆しきれず保護被覆に粒界ができ、その粒界を介して腐食性物質が侵入し、電極が破壊するという問題があった。
【0009】
本発明は上述の事情によりなされたもので、サーマルヘッドの基体の主面上に形成される電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食を防ぎ、耐久性及び品質を高く維持することができるサーマルヘッド及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、一実施形態に係るサーマルヘッドは、基体と、基体の主面に形成された膜層と、膜層上に形成された蓄熱層と、蓄熱層上を覆うように主面に形成された発熱抵抗体層と、発熱抵抗体層上に形成され、発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層と、少なくとも発熱抵抗体層及び電極層を被覆するように形成された保護被覆層と、を備えている。
【0011】
また、一実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、基体の主面に膜層を形成する工程と、膜層上に蓄熱層を形成する工程と、蓄熱層を覆うように主面に発熱抵抗体層を形成する工程と、発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層を、発熱抵抗体層上に形成する工程と、少なくとも発熱抵抗体層及び電極層を被覆する保護被覆層を形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係るサーマルヘッドを備えたサーマルヘッドプリンタの印刷部分の縦断面略図である。
【
図2】
図1のサーマルヘッドの拡大図(
図3のII-II断面拡大図)である。
【
図3】
図2のサーマルヘッドの一部を切除して示す部分平面図である。
【
図4】
図2のサーマルヘッドの発熱部近傍の拡大縦断面図である。
【
図5】
図2のサーマルヘッドの製造方法を示す工程フロー図である。
【
図6】
図2のサーマルヘッドの製造過程状態を時系列で示す概略断面図である。
【
図7】高温高湿雰囲気(温度60℃、湿度90%)下、500時間経過時における表面粗さRaの異なる各従来品及び各実施例1の製品の腐食発生の有無を示した表である。
【
図8】膜層40の表面粗さRaと印加率(エッチング/成膜)との関係を示すグラフである。
【
図9】エッチング/成膜レートを変化させることにより基体の膜層の表面粗さを変化させた場合における通電遮断の有無を示す表である。
【
図10】エッチングと成膜とのレートを変化させて製造したサーマルヘッドに対し、高温高湿雰囲気下において時間経過に伴う腐食の発生率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態は例示であり、本発明の技術的範囲はこれに限定されない。また、図面は模式的なものであり、寸法等は現実のものとは異なる。
図1~
図4は第1の実施形態を示し、これらの図面に基づいて第1の実施形態に係るサーマルヘッド及びその製造方法を説明する。
【0014】
図1は、サーマルヘッド10を備えたサーマルヘッドプリンタ1の印刷部分の縦断面略図であり、矢印Yは感熱紙5等の用紙搬送方向を示す。
図1において、サーマルヘッドプリンタ1の用紙出口1a近傍に、プラテンローラ3及びサーマルヘッド10が略上下に対向配置される。プラテンローラ3は円柱形をしており、用紙搬送方向Yと直交する方向に延びる回転軸3aを中心に矢印R方向に回転する。サーマルヘッド10は、用紙搬送方向Yの搬送下流側の端部に多数の発熱部15を有する。サーマルヘッド10はばね(図示せず)等の付勢手段により、用紙搬送方向Yの搬送下流側の端部がプラテンローラ3側に付勢される。これにより、発熱部15がプラテンローラ3の外周面に押し付けられる。感熱紙5は、給紙部(図示せず)からプラテンローラ3の外周面と発熱部15との間に供給され、通電により発熱している発熱部15の上に位置する印画媒体である感熱紙の画素が感熱して着色する。
なお、本発明では、印画媒体が感熱紙である場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、インクリボン等を用いて印画媒体に印刷するように構成されてもよい。
【0015】
図2はサーマルヘッド10の拡大縦断面図である。
図2において、サーマルヘッド10は、放熱板11と、該放熱板11上に接着剤で固着された絶縁性の基体12と、該基体12の主面12a上に形成された膜層40と、該膜層40の用紙搬送方向Yの搬送下流側の端部付近に形成された蓄熱層(部分グレーズ層)13とを備えて構成される。さらに、サーマルヘッド10は、発熱抵抗体層14と、発熱抵抗体層14の上面に形成された個別電極16a及び共通電極16bからなる電極層16と、電極層16の上面を覆うように形成された保護被覆層17とを備えて構成される。ここで、該発熱抵抗体層14は、膜層40の上面を覆うと共に基体12の主面12aに亘って形成される。また、発熱抵抗体層14のうち、蓄熱層13の頂部及びその近傍を覆う部分が上述の発熱部15となる。なお、基体12の「主面12a」とは、表面のうち、積層物等が実装される面(処理面)のことを言う。
【0016】
個別電極16aは、発熱部15に対して用紙搬送方向Yの搬送上流側に位置すると共に、用紙搬送方向Yの搬送上流側へと延びている。共通電極16bは、発熱部15に対して用紙搬送方向Yの搬送下流側に位置する。さらに、サーマルヘッド10は、放熱板11の用紙搬送方向Yの搬送上流側の部分に形成された段差面11bに固着された回路基板18と、回路基板18の用紙搬送方向Yの下流側の部分に設けられた駆動IC20とが実装される。さらに、サーマルヘッド10は、回路基板18上に形成された配線パターン21と、回路基板18の用紙搬送方向Yの搬送上流側の端部に設けられたコネクタ23とが実装される。
【0017】
駆動IC20は、ボンディングワイヤ31により個別電極16aに電気的に接続されると共に、別のボンディングワイヤ32により配線パターン21に電気的に接続される。駆動IC20及び両ボンディングワイヤ31,32は封止樹脂24により封止され、外部から保護される。
【0018】
図3は一部の部材を切除して示すサーマルヘッド10の平面図である。
図3において、用紙搬送方向Yと直交する矢印X方向は、サーマルヘッド10の主走査方向と一致し、用紙搬送方向Yは副走査方向と一致する。
図3において、基体12は主走査方向Xに長く延びる長方形状に形成される。多数の発熱部15及び個別電極16aは主走査方向Xに所定間隔で配設され、各個別電極16aはボンディングワイヤ31を介して駆動IC20に電気的に接続される。共通電極16bは主走査方向Xに所定間隔で形成された多数の枝部分を有する櫛形に形成され、各枝部分が各個別電極16aに対し副走査方向Yに間隔dで対向配置される。
【0019】
図4~
図10は本実施形態を図示し、これらの図面に基づいてサーマルヘッド10及びその製造方法を説明する。本実施形態に係るサーマルヘッド10は、基体12の主面12aには、成膜とエッチングを交互に繰り返すバイアススパッタ法を用いて堆積された膜層40が形成される。膜層40は、少なくともケイ素もしくは窒化ケイ素を含み、該膜層40の表面粗さを示す値Ra値は0.50μm以下である。
【0020】
図4は本実施形態に係るサーマルヘッド10の発熱部15及びその近傍の拡大縦断面図である。
図4において、放熱板11は、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属で形成された平板である。基体12は、アルミナ等のセラミックにより形成され、耐熱性のある接着剤によって放熱板11の上面に接着される。ここで、基体12の上端の主面12aには、少なくともケイ素もしくは窒化ケイ素を含んだ膜層40が堆積形成される。該膜層40は、成膜とエッチングとが交互に繰り返すバイアススパッタ法による堆積形成され、その上面40aの表面粗さRa値は0.50μm以下である。
【0021】
膜層40の上面40aには蓄熱層13が形成される。この蓄熱層13は、部分グレーズ層であって、ガラス(SiO
2)を主成分とする断熱層であり、たとえば、ガラス粉末を含むペースト状のグレーズ材13p(
図6(c)参照)を焼成することにより形成される。
【0022】
発熱抵抗体層14は、例えばTaSiO,TaSiNO,NbSiO,TiSiCO系の発熱抵抗材料を含むサーメット膜であり、スパッタリング法を用いて蓄熱層13の上面に積層形成されると共に、蓄熱層13以外の領域では膜層40の上面40aに直接的に形成される。また、発熱抵抗体層14をパターニングすることにより、発熱抵抗体層14を構成する回路パターンが形成される。
【0023】
個別電極16aと共通電極16bとは、低い山形の蓄熱層13及び発熱抵抗体層14の頂上部において、上述のように用紙搬送方向Yに所定間隔dでそれぞれ対向配置される。ここで、発熱抵抗体層14の間隔dに対応する部分が発熱部15を構成し、個別電極16aと共通電極16bとの間に電圧を印加した時に、間隔dに対応する領域の発熱部15に電流が通って(通電し)、発熱部15が発熱する。
【0024】
[本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法]
図5及び
図6により、本実施形態に係るサーマルヘッド10の製造方法において、基体(基板)12の主面12a上に積層構造物を形成する工程及びその前工程を簡単に説明する。
図5は、基体12上に積層構造物を順次形成する工程及びその前工程を示す工程フロー図である。
【0025】
図5のステップS1では、まず、バイアススパッタ法により、基体12の表面に、上面40aの表面粗さRa値が0.50μm以下になるように膜層40を堆積形成する。その後、ステップS2へと進む。
【0026】
ステップS2は蓄熱層(部分グレーズ層)13の形成工程である。ステップS2では、基体12の主面12aに、ガラスを主成分とするペースト状のグレーズ材13p(後述する
図6(c)参照)を堆積して焼成する。これにより、低い山形の蓄熱層13が形成され、次のステップS3へと進む。
【0027】
ステップS3は発熱抵抗体層14の形成工程である。ステップS3では、例えばTaSiO、TaSiNO、NbSiO、TiSiCO系の抵抗体材料をスパッタリング法により蓄熱層13の上面及び蓄熱層13以外の領域の膜層40の上面40aに積層形成し、次のステップS4へと進む。
【0028】
ステップS4は電極層16の形成工程である。ステップS4では、たとえば上述の発熱抵抗体層14上にスパッタリング法を用いて電極層を形成する。次に、該電極層をフォトリソグラフィ技術等により個別電極16a及び共通電極16bをパターニングする。これにより、蓄熱層13及び膜層40の上面40aに発熱抵抗体層14と共に電極層16が形成され、次のステップS5へと進む。
【0029】
ステップS5は保護被覆層17の形成工程である。ステップS5では、発熱抵抗体層14及び電極層16の上面に保護被覆層用のガラスペーストをスクリーン印刷等で添着させる。そして、このガラスペーストを焼成させることにより該ガラスペーストを固める。
【0030】
図6は、基体12の主面12aに膜層40を形成する工程での状態や、蓄熱層13の形成工程時の状態を時系列で示す断面略図である。
図6(a)は主面12aの表面粗さRa値が0.80又はそれ以上の状態のときの膜層40の形成前の基体12を図示している。
図6(b)は膜層40が堆積された基体12を図示し、膜層40の上面40aの表面粗さRa値が基体12の主面12aよりも平坦である状態を示している。
図6(c)は膜層40上に直方体形状又は立方体形状の蓄熱層13用のガラスを主成分とするペースト状のグレーズ材13pを堆積した状態を示している。
図6(d)は
図6(c)で形成された蓄熱層用のペースト状のグレーズ材13pを1200℃で焼成することにより、直方体形状又は立方体形状のグレーズ材13pが丸い山形の形状となり蓄熱層(部分グレーズ層)13が形成される状態を示している。
図6(e)は発熱抵抗体層14,個別電極16a及び共通電極16bからなる電極層16,及び保護被覆層17を順に積層した状態を示している。
【0031】
[実施例,比較例及び各種評価試験]
図7~
図10は、本実施形態に係るサーマルヘッド10の実施例及びそれによる各種品質の評価を示している。
【0032】
(実施例1)
実施例1の種々の表面粗さRa値を有するサーマルヘッド10は下記のように作成した。
【0033】
基体12となるアルミナ等のセラミックの板材をアルゴン雰囲気下のバイアススパッタ装置に投入する。ここで、基体12の表面への成膜及びエッチングを交互に連続で繰り返すことにより膜層40を形成する。スパッタ焼結材料としてはSiO2とSi3N4の混合剤を焼結したターゲットを使用した。また、成膜パワーとエッチングパワーとを調整することにより、それぞれの成膜レートを1μm/時(h)及びエッチングレートを0.02μm/時(h)とし、膜厚0.50μmを有する膜層40を形成した。
なお、本実施形態では、焼結材料はSiO2とSi3N4との混合剤を用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、大きく膜質が変わらない、少なくともケイ素もしくは窒化ケイ素を含む焼結体を膜材料として用いてもよい。また、成膜パワーやエッチングパワーなどの成膜及びエッチング条件についても、上記の条件に限定されるものではなく他の条件を用いて成膜及びエッチングを行うように設定されてもよい。
【0034】
図6を参考にして、該表面に0.50μmの膜層40が形成されたセラミック製の基体12を10種類だけ準備した。ここで、この10種類の基体12の表面粗さRa値は0.38から0.47μm(
図7)の範囲内の値となった。次に、その上面40aに蓄熱層13となるガラスを主成分としたペースト状のグレーズ材13pをスクリーン印刷手法でそれぞれ配置した(
図6(c))。蓄熱層13用のグレーズ材13pは、その後形成される発熱抵抗体層14の発熱部15の直下となるように位置される。また、また、グレーズ材13pの凸部の高さは焼成後40μmの高さとなるように、スクリーン印刷法で形成し、1200℃以上の焼成を経て、
図6(d)に示すように蓄熱層(部分グレーズ層)13として配置された基体12を作成した。なお、比較として従来品の基体12を10種類だけ準備した。ここで、これらの表面粗さRa値の平均値は0.80μmであった。
【0035】
その後、蓄熱層13を形成した基体12を用いて、
図6(e)に示すように、発熱抵抗体層14を形成する。次に、発熱抵抗体層14上に膜厚0.75μmとなるように調整された電極層16を形成する。次に、写真食刻法(フォトエングレービング)で基体12の主面12aに個別電極16a及び共通電極16bの櫛部分と発熱抵抗体層14の発熱部15が複数並ぶパターンを作成した。
【0036】
本実施形態では、サーマルヘッド10は、発熱部15の列(印字長)の長さが105mmであり、その間に1248個の発熱部15が並ぶ300dpiのパターンとなるように構成された。その後、発熱抵抗体層14を含む一部個別電極16a,共通電極16bが露出する以外の部分を保護被覆層17で被覆した。
【0037】
その後、放熱板11上で発熱部15等のパターンが形成された基体12と回路基板18とを実装(合体)させる。次に、発熱抵抗体層14をそれぞれ操作するための駆動IC20を配置した。次に、駆動IC20と個別電極16aとをボンディングワイヤ31で結線すると共に、駆動IC20と回路基板18とをボンディングワイヤ32で結線した。さらに、ボンディングワイヤ31,32と駆動IC20とを封止樹脂24で封止し、コネクタ23等の部品をつけて5種類の基体12を使用したサーマルヘッド10が製造された。
【0038】
このような製造方法で製造されたサーマルヘッド10は、個別電極16a、共通電極16bが配置され、その直下が0.50μmの膜層40をバイアススパッタにて形成したセラミックにあたる部分でも、電極パターンの欠陥は見られなかった。また、
図7に示すように、同手法で形成した実施例1の10個の製品及び比較対象となる10個の従来品を用いて、温度60℃,湿度90%雰囲気の高温高湿炉で、500時間の保存試験を実施したところ、従来品では4個の腐食発生が確認されたが、実施例1ではいずれも腐食発生が見られなかった。すなわち、実施例1のすべての製品において、500時間の高温高湿雰囲気下の保存試験で、腐食発生は確認できなかったが、従来品では、4個の腐食は発生が確認された。
【0039】
(実施例2)
実施例2のサーマルヘッド10は下記のように作成した。
【0040】
基体12となるセラミック板材を、基体12の主面12aへの成膜とエッチングを交互に連続で繰り返すことが可能なアルゴン雰囲気下のバイアススパッタ装置に投入した。スパッタ焼結材料としては、SiO2とSi3N4との混合剤を焼結したターゲットを使用した。
【0041】
このとき、被着膜部であるセラミック部の平坦化を加速するため、成膜パワーで決定される成膜レートとエッチングパワーで決定されるエッチングレートとを調整した。ここでは、エッチング/成膜レート=1%,3%,5%となるよう調整した膜層40を有する基体12を準備した。なお、実施例1で使用したサーマルヘッド10も、この割合が2%に位置することから、引き続き実験に供した。
【0042】
ここで作成したサーマルヘッド10における膜層40の膜厚はすべて0.50μmで統一した。
【0043】
なお、本実施形態では、膜材料としてSiO2とSi3N4との混合剤を使用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、大きく膜質が変わらない、少なくともケイ素もしくは窒化ケイ素を含む混合剤を膜材料として用いてもよい。
【0044】
このように作成されたサーマルヘッド10では、
図8で示すように、膜層40の上面40aの表面粗さRa値は、エッチングと成膜の比率(印加率)が上昇すればするほど低くなって平坦化が進み、3%以上の印加率になると、表面粗さRa値は約0.1μmまで低下した。
【0045】
(実施例3)
実施例1,2で示した製造方法で制作したサーマルヘッド10を用いて、電極パターンの正当性及ぶ欠陥性を確認するための通電検査と、腐食進行を温度60℃,湿度90%雰囲気の高温高湿炉での保存試験とを実施した。
【0046】
試験に用いたサーマルヘッド10は、それぞれエッチング/成膜レートの比率で分類し、1%品、2%品、3%品、5%品で形成された膜層40を有する基体12及び比較用の従来基体を用いたサーマルヘッド10を使用した。
【0047】
あらかじめ基体12の支持基板の製造時に確認していた本実施形態に係るサーマルヘッド10の該当部位(主面12aに相当する部位)では、
図9に示すように、平均で1%品がRa=0.60μm、2%品がRa=0.40μm、3%品がRa=0.09μm、5%品がRa=0.07μmとなっている。参考として従来品の該当部位では、Ra=0.80μmとなっている。
【0048】
電極パターンの正当性及び欠陥性を確認するための通電試験では全5種の基体12をそれぞれ10本ずつ使用して評価した。
【0049】
結果として、
図9に示すように、グレーズ層がない部位の基体12の表面粗さRa値が0.80μmを示す従来品では10個のうち3個が通電検査で断線した。これに対して、本実施形態にしたがって、基体12の主面12aにバイアススパッタ法の膜層40を形成したすべての基体12では、エッチング/成膜レートが1%、2%、3%、5%のいずれの条件のものでも、通電に異常は見られなかった。
【0050】
次に、高温高湿試験においては、
図10に示すように、温度60℃,湿度90%の雰囲気下に製品を投入し、100時間毎にチェックし、最終的に1000時間まで保存状態を確認した。
【0051】
その結果、膜層40を有さず、表面粗さRa値が0.80μmだった従来の基体12を用いたサーマルヘッド10は、200時間完了時点で、10個のうち3個の製品に腐食が確認された。
【0052】
表面粗さRa値が0.60μmであった1%品は、600時間経過後に、10個のうち
2個の腐食が確認された。表面粗さRa値が0.40μmであった2%品は、800時間経過後に、10個のうち1個の腐食が確認された。これに対し、表面粗さRa値が0.09μmであった3%品並びに表面粗さRa値が0.07μmであった5%品は、100時間完了時でも腐食が発生することはなかった。
【0053】
[作用及び効果]
以上説明したように本実施形態によれば、基体12の主面12aにバイアススパッタ法を用いて、少なくともケイ素および窒化ケイ素を含む膜層40を形成する。従って、基体12の主面12aの表面粗さを改善し、基体12の主面12aの凸凹部を低減でき平坦化することができる。これにより、厳しい条件での長期の使用に対し、サーマルヘッド10の電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食を防ぎ、サーマルヘッド10の耐久性及び品質を向上させることができる。
【0054】
また、膜層40を形成するためのバイアススパッタの出力を、エッチング/成膜レートを3%以上に調整することにより、アルミナ等のセラミック製の基体12の主面12aの凹凸部をさらに平坦化することができ、サーマルヘッド10の電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食をさらに抑制でき、サーマルヘッド10の耐久性及び品質をさらに向上させることができる。
【0055】
また、エッチング/成膜レートを調整するだけで表面粗さRa値を容易に小さくすることができる。すなわち、エッチング/成膜レートを3%以上に設定するだけで、アルミナ等のセラミックで形成された基体12の表面粗さRa値を0.50μm未満とすることができ、アルミナ等のセラミック製の基体12の主面12aの凹凸部をさらに容易に平坦化することが可能となる。したがって、サーマルヘッド10の電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食をさらに抑制でき、サーマルヘッドの耐久性及び品質をさらに向上させることができる。
【0056】
また、基体12の主面12aの凹凸部に起因して形成される個別電極16a,共通電極16bの欠陥や、保護被覆層17に形成される粒界に対しても、エッチング/成膜レートを3%以上に調整することにより、アルミナ等のセラミック製の基体12の主面12aの凹凸部をさらに平坦化することができるので、製品欠陥等をさらに低減することができる。
【0057】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、前記各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 サーマルヘッドプリンタ
5 感熱紙
10 サーマルヘッド
12 基体
12a 主面
13 蓄熱層
13p ペースト状のグレーズ材
14 発熱抵抗体層
15 発熱部
16 電極層
16a 個別電極
16b 共通電極
17 保護被覆層
20 駆動IC
40 膜層
40a 膜層の上面