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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008739
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】サーマルヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
B41J2/335 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110860
(22)【出願日】2022-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000113322
【氏名又は名称】東芝ホクト電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】弁理士法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】宮越 勇汰
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065JC06
2C065JC11
2C065JC13
2C065JH05
2C065JH10
2C065JH12
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッドプリンタ等に備えられるサーマルヘッドにおいて、品質の向上及び耐久性向上を図ることを目的とする。
【解決手段】基体(12)と、基体(12)の主面(12a)に形成された蓄熱層(13)と、蓄熱層(13)の上を覆うように主面(12a)に形成された発熱抵抗体層(14)と、発熱抵抗体層(14)上に形成され、発熱抵抗体層(14)に電流を供給する個別電極(16a)及び共通電極(16b)を有する電極層(16)と、少なくとも発熱抵抗体層(14)及び電極層(16)を被覆するように形成された保護被覆層(17)と、を備えたサーマルヘッド(10)において、基体(12)はセラミックで形成されると共に、基体(12)の主面(12a)が物理エッチングにより処理された処理面となっている。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の主面に形成された蓄熱層と、
前記蓄熱層の上を覆うように前記主面に形成された発熱抵抗体層と、
前記発熱抵抗体層上に形成され、前記発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層と、
少なくとも前記発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆するように形成された保護被覆層と、を備え、
前記基体は、該基体の前記主面が物理エッチングにより処理された処理面であるサーマルヘッド。
【請求項2】
前記基体の前記主面の表面粗さを示すRa値が、前記電極層の厚さの2/3以下である、請求項1に記載のサーマルヘッド。
【請求項3】
前記基体はセラミックで形成される、請求項1または2に記載のサーマルヘッド。
【請求項4】
基体をエッチングして平坦化処理を施す工程と、
前記平坦化された基体上に蓄熱層を形成する工程と、
前記蓄熱層を覆うように前記基体上に発熱抵抗体層を形成する工程と、
前記発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層を、前記発熱抵抗体層上に形成する工程と、
少なくとも前記発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆する保護被覆層を形成する工程と、を含むサーマルヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記平坦化処理の工程では、前記基体の表面粗さを示すRa値が、前記電極層の厚さの2/3以下となるように平坦化する、請求項4に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記基体はセラミックで形成される、請求項4または5に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項7】
基体と、
前記基体上に形成された薄ガラス層と、
前記薄ガラス層上に形成された蓄熱層と、
前記蓄熱層の上を覆うように形成された発熱抵抗体層と、
前記発熱抵抗体層上に形成され、前記発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層と、
少なくとも前記発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆するように形成された保護被覆層と、を備えたサーマルヘッド。
【請求項8】
前記薄ガラス層は厚さが0.10μm以上0.70μm以下である、請求項7に記載のサーマルヘッド。
【請求項9】
前記基体はセラミックで形成される、請求項7または8に記載のサーマルヘッド。
【請求項10】
基体上に薄ガラス層を形成する工程と、
薄ガラス層上に蓄熱層を形成する工程と、
前記蓄熱層を覆うように前記基体上に発熱抵抗体層を形成する工程と、
前記発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層を、前記発熱抵抗体層上に形成する工程と、
少なくとも前記発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆する保護被覆層を形成する工程と、
を含むサーマルヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記薄ガラス層は印刷法により0.10μm以上0.70μm以下の厚さに形成される、請求項10に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記基体はセラミックで形成される、請求項10または11に記載のサーマルヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サーマルヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドは、プリンタや製版機等において感熱式記録装置を構成する主要なデバイスとして用いられる。このデバイスは、例えば、レシートの出力、列車内での切符の出力、ガスの検針結果の出力等で見かけるミニプリンター、あるいはプリクラ等の写真出力、画像出力のキーコンポーネントとして用いられる。
【0003】
一般的に、この種のサーマルヘッドでは、感熱紙等の記録媒体が搬送される方向(副走査方向)に対して直交する方向(主走査方向)に、発熱抵抗体層の発熱部が並列配置され、発熱部の近傍に、それら発熱部を駆動する複数の駆動ICが配置される。発熱部と駆動ICは、例えば、配線基板に設けられる回路パターンによって電気的に接続される。駆動ICを用いて電極及び発熱抵抗体層の発熱部に電気を供給することにより、発熱部を発熱させ、各種メディアに記録される。
【0004】
サーマルヘッドの構成の一つとして、アルミナ等のセラミック製の基体上に、グレーズ層を形成したものを支持基体としたものがある。ここで、発熱抵抗体層、アルミニウム等の電極層をスパッタ法や印刷法等の形成法によって積層形成した後、写真食刻法を通すことによって複数の対となる発熱抵抗体層の発熱部と電極を一線上に形成する。そして、発熱抵抗体層および電極の必要部位のみに保護被覆層をスパッタ法等の薄膜形成法やペーストを利用した厚膜印刷法で形成する。
【0005】
サーマルヘッドは発熱抵抗体層の発熱部からの発熱を利用するデバイスであるので、発熱抵抗体層の下の蓄熱層の影響を大きく受ける。蓄熱層の役割は、発熱した発熱抵抗体層の発熱部の熱を利用し、効率良く次の印画点への発熱を促すことである。しかしながら、逆に熱が下がらない場合には、印画においては尾引き、にじみ等、前の印画点の発熱を次の印画点まで持ち込んでしまう。したがって、適度な蓄熱と急峻な熱低下という、相反する要求を同時満たす必要がある。
【0006】
そのため、蓄熱層についてはサーマルヘッドの用途別に様々な開発が行われている。主に、グレーズ構造には、基体上の主面全体にグレーズ層を配置する全面グレーズ構造と、発熱抵抗体層直下や平坦性を要求される部位のみにグレーズ層を配置する部分グレーズ構造とがあり、用途に応じてこれらの構造が用いられる。さらに、まず全面にグレーズ層を配置し、さらに発熱抵抗体層直下だけに部分的にグレーズ層を配置するグレーズ構造等が用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010―173128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、部分グレーズ構造では、電極を配置するセラミック等の基体表面の凹凸によって、その上に形成される電極が下面形状の影響を直接的に受ける。従って、電極に欠陥が入りやすいことや、電極を保護するための保護被覆層を形成した場合には、その微小な隆起を被覆しきれず保護被覆に粒界ができ、その粒界を介して腐食性物質が侵入し、電極が破壊するという問題があった。
【0009】
本発明は上述の事情によりなされたもので、サーマルヘッドの基体の主面上に形成される電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食を防ぎ、耐久性及び品質を高く維持することができるサーマルヘッド及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、一実施形態に係るサーマルヘッドは、基体と、基体の主面に形成された蓄熱層と、蓄熱層の上を覆うように主面に形成された発熱抵抗体層と、発熱抵抗体層上に形成され、発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層と、少なくとも発熱抵抗体層及び電極層を被覆するように形成された保護被覆層と、を備える。基体は、該基体の主面が物理エッチングにより処理された処理面である。
【0011】
また、一実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、基体をエッチングして平坦化処理を施す工程と、平坦化された基体上に蓄熱層を形成する工程と、蓄熱層を覆うように基体上に発熱抵抗体層を形成する工程と、を含む。さらに、該方法は、発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層を、発熱抵抗体層上に形成する工程と、少なくとも発熱抵抗体層及び前記電極層を被覆する保護被覆層を形成する工程と、を含む。
【0012】
また、一実施形態に係るサーマルヘッドは、基体と、基体上に形成された薄ガラス層と、薄ガラス層上に形成された蓄熱層と、蓄熱層の上を覆うように形成された発熱抵抗体層と、を備える。さらに、サーマルヘッドは、発熱抵抗体層上に形成され、発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層と、少なくとも発熱抵抗体層及び電極層を被覆するように形成された保護被覆層と、を備える。
【0013】
さらに、一実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法は、基体上に薄ガラス層を形成する工程と、薄ガラス層上に蓄熱層を形成する工程と、蓄熱層を覆うように基体上に発熱抵抗体層を形成する工程と、を含む。さらに、該方法は、発熱抵抗体層に電流を供給する個別電極及び共通電極を有する電極層を、発熱抵抗体層上に形成する工程と、少なくとも発熱抵抗体層及び電極層を被覆する保護被覆層を形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態に係るサーマルヘッドを備えたサーマルヘッドプリンタの印刷部分の縦断面略図である。
図2図1のサーマルヘッドの拡大図(図3のII-II断面拡大図)である。
図3図2のサーマルヘッドの一部を切除して示す部分平面図である。
図4図2のサーマルヘッドの発熱部近傍の拡大縦断面図である。
図5図1のサーマルヘッドの製造方法を示すフロー図である。
図6図1のサーマルヘッドの製造過程状態を時系列で示す概略断面図である。
図7】ドライエッチング時間と基体の表面粗さとの関係を示すグラフである。
図8図7で示したドライエッチング時間と基体の表面粗さとの関係を示す表である。
図9】電極層の厚みと基体の表面粗さRa値との比率を変化させた場合における通電試験の結果を示す表である。
図10】電極層の厚みと基体の表面粗さRa値との比率を変化させて製造したサーマルヘッドに対し、高温高湿雰囲気(温度60℃、湿度90%)において時間経過に伴う腐食の発生率を示す表である。
図11】第2の実施形態に係るサーマルヘッドの発熱部近傍の拡大縦断面図である。
図12図11のサーマルヘッドの製造方法を示すフロー図である。
図13図11のサーマルヘッドの製造過程状態を時系列で示す概略断面図である。
図14】薄ガラス層の厚みの変化に対するその表面粗さRa値の変化を示す表である。
図15】薄ガラス層の厚みを変化させて製造したサーマルヘッドに対し、通電試験の結果を示す表である。
図16】薄ガラス層の厚みを変化させて製造したサーマルヘッドに対し、高温高湿雰囲気(温度60℃、湿度90%)において時間経過に伴う腐食の発生率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態は例示であり、本発明の技術的範囲はこれに限定されない。また、図面は模式的なものであり、寸法等は現実のものとは異なる。
図1図11は第1の実施形態を示し、これらの図面に基づいて第1の実施形態に係るサーマルヘッド及びその製造方法を説明する。
【0016】
図1は、サーマルヘッド10を備えたサーマルヘッドプリンタ1の印刷部分の縦断面略図であり、矢印Yは感熱紙5等の用紙搬送方向を示す。図1において、サーマルヘッドプリンタ1の用紙出口1a近傍に、プラテンローラ3及びサーマルヘッド10が略上下に対向配置される。プラテンローラ3は円柱形をしており、用紙搬送方向Yと直交する方向に延びる回転軸3aを中心に矢印R方向に回転する。サーマルヘッド10は、用紙搬送方向Yの搬送下流側の端部に多数の発熱部15を有する。サーマルヘッド10はばね(図示せず)等の付勢手段により、用紙搬送方向Yの搬送下流側の端部がプラテンローラ3側に付勢される。これにより、発熱部15がプラテンローラ3の外周面に押し付けられる。感熱紙5は、給紙部(図示せず)からプラテンローラ3の外周面と発熱部15との間に供給され、通電により発熱している発熱部15の上に位置する印画媒体である感熱紙の画素が感熱して着色する。
なお、本発明では、印画媒体が感熱紙である場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、インクリボン等を用いて印画媒体に印刷するように構成されてもよい。
【0017】
図2はサーマルヘッド10の拡大縦断面図である。図2において、サーマルヘッド10は、放熱板11と、該放熱板11の上に接着剤で固着された絶縁性の基体12と、基体12の主面12aの用紙搬送方向Yの搬送下流側の端部付近に形成された蓄熱層(部分グレーズ層)13とを備えて構成される。さらに、サーマルヘッド10は、発熱抵抗体層14と、発熱抵抗体層14の上面に形成された個別電極16a及び共通電極16bからなる電極層16と、電極層16の上面を覆うように形成された保護被覆層17とを備えて構成される。ここで、該発熱抵抗体層14は、蓄熱層13の上面を覆うと共に基体12の主面12aに亘って形成される。また、発熱抵抗体層14のうち、蓄熱層13の頂部及びその近傍を覆う部分が上述の発熱部15となる。なお、基体12の「主面12a」とは、表面のうち、積層物等が実装される面(処理面)のことを言う。
【0018】
個別電極16aは、発熱部15に対して用紙搬送方向Yの搬送上流側に位置すると共に、用紙搬送方向Yの搬送上流側へと延びている。共通電極16bは、発熱部15に対して用紙搬送方向Yの搬送下流側に位置する。さらに、サーマルヘッド10は、放熱板11の用紙搬送方向Yの搬送上流側の部分に形成された段差面11bに固着された回路基板18と、回路基板18の用紙搬送方向Yの下流側の部分に設けられた駆動IC20とが実装される。さらに、サーマルヘッド10は、回路基板18上に形成された配線パターン21と、回路基板18の用紙搬送方向Yの搬送上流側の端部に設けられたコネクタ23とが実装される。
【0019】
駆動IC20は、ボンディングワイヤ31により個別電極16aに電気的に接続されると共に、別のボンディングワイヤ32により配線パターン21に電気的に接続される。駆動IC20及び両ボンディングワイヤ31,32は封止樹脂24により封止され、外部から保護される。
【0020】
図3は一部の部材を切除して示すサーマルヘッド10の平面図である。図3において、用紙搬送方向Yと直交する矢印X方向は、サーマルヘッド10の主走査方向と一致し、用紙搬送方向Yは副走査方向と一致する。図3において、基体12は主走査方向Xに長く延びる長方形状に形成される。多数の発熱部15及び個別電極16aは主走査方向Xに所定間隔で配設され、各個別電極16aはボンディングワイヤ31を介して駆動IC20に電気的に接続される。共通電極16bは主走査方向Xに所定間隔で形成された多数の枝部分を有する櫛形に形成され、各枝部分が各個別電極16aに対し副走査方向Yに間隔dで対向配置される。
【0021】
図4はサーマルヘッド10の発熱部15及びその近傍の拡大縦断面図である。図4において、放熱板11は、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属で形成された平板である。基体12は、アルミナ等のセラミックにより形成され、耐熱性のある接着剤によって放熱板11の上面に接着される。基体12の上端の主面12aは、薬液を使用しないドライエッチング等による物理エッチング処理が施される処理面である。本実施形態では、電極層16の厚みが0.75μmの場合、主面12aの表面粗さRa値が0.70μm以下となるように物理エッチング処理される。すなわち、電極層16の厚みの14/15の表面粗さとなるように形成される。好ましくは、電極層16の厚みが0.75μmの場合、主面12aの表面粗さRa値が0.50μm以下となるように物理エッチング処理される。すなわち、電極層16の厚みの2/3の表面粗さとなるように形成される。
【0022】
基体12の主面12aに形成された蓄熱層13は、いわゆる部分グレーズ層でありガラス(SiO)を主成分とする断熱層である。たとえば、ガラス粉末を含むペースト状のグレーズ材13p(図6(c)参照)を焼成することにより形成される。
【0023】
発熱抵抗体層14は、例えばTaSiO,TaSiNO,NbSiO,TiSiCO系の発熱抵抗材料を含むサーメット膜であり、スパッタリング法を用いて蓄熱層13の上面に積層形成されると共に、蓄熱層13以外の領域では主面12a上に直接的に形成される。
【0024】
個別電極16aと共通電極16bとは、低い山形の蓄熱層13及び発熱抵抗体層14の頂上部において、上述のように用紙搬送方向Yに所定間隔dでそれぞれ対向配置される。ここで、発熱抵抗体層14の間隔dに対応する部分が発熱部15を構成し、個別電極16aと共通電極16bとの間に電圧を印加した時に、間隔dに対応する領域の発熱部15に電流が通って(通電し)、発熱部15が発熱する。
【0025】
[第1の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法]
図5及び図6により、第1の実施形態に係るサーマルヘッド10の製造方法において、基体(基板)12の主面12a上に積層構造物を形成する工程及びその前工程を簡単に説明する。
【0026】
図5は、基体12の主面12a上に積層構造物を順次形成する工程及びその前工程を示すフロー図である。図5に示すように、ステップS1では、主面12aを含む基体12の表面に薬液を用いないドライエッチング処理を施し、基体12の表面粗さRa値が、0.70μm以下(電極層16の厚みの14/15以下)となるように形成し、次のステップS2へと進む。好ましくは電極層16の厚みの2/3以下(0.50μm以下)となるように形成する。
【0027】
ステップS2は蓄熱層(部分グレーズ層)13の形成工程である。ステップS2では、基体12の主面12aに、ガラスを主成分とするペースト状のグレーズ材13p(後述する図6(c)参照)を堆積して焼成する。これにより、低い山形の蓄熱層13が形成され、次のステップS3へと進む。
【0028】
ステップS3は発熱抵抗体層14の形成工程である。ステップS3では、例えばTaSiO、TaSiNO、NbSiO、TiSiCO系の抵抗体材料をスパッタリング法により蓄熱層13の上面及び蓄熱層13以外の領域の主面12aの上面に積層形成し、次のステップS4へと進む。
【0029】
ステップS4は電極層16の形成工程である。ステップS4では、たとえば上述の発熱抵抗体層14上にスパッタリング法を用いて電極層を形成する。次に、該電極層をフォトリソグラフィ技術等により個別電極16a及び共通電極16bをパターニングする。これにより、蓄熱層13及び主面12aに発熱抵抗体層14と共に電極層16が形成され、次のステップS5へと進む。
【0030】
ステップS5は保護被覆層17の形成工程である。ステップS5では、発熱抵抗体層14及び電極層16の上面に保護被覆層用のガラスペーストをスクリーン印刷等で添着させる。そして、このガラスペーストを焼成させることにより該ガラスペーストを固める。
【0031】
図6は、基体12の主面12aのドライエッチング時の状態や、蓄熱層13の形成時の状態を時系列で示す断面略図である。図6(a)は主面12aの表面粗さRa値が0.80又はそれ以上の状態のときのドライエッチング処理前の基体12を図示している。図6(b)はドライエッチング処理中の基体12を図示し、イオンEが主面12aに衝突することにより平坦化が進行し、主面12aの表面粗さRa値が図6(a)の時よりも平坦となった状態を示している。図6(c)は主面12aの表面粗さRa値が0.70μm以下又は0.50μm以下の状態となった基体12を図示し、その上に直方体形状又は立方体形状の蓄熱層13用のガラスを主成分とするペースト状のグレーズ材13pを堆積した状態を示している。図6(d)は図6(c)で形成されたグレーズ材13pを1200℃で焼成することにより、直方体形状又は立方体形状のグレーズ材13pが丸い山形の形状となり蓄熱層(部分グレーズ層)13が形成される状態を示している。図6(e)は発熱抵抗体層14,個別電極16a及び共通電極16bからなる電極層16,及び保護被覆層17を順に積層した状態を示している。
【0032】
[実施例,比較例及び評価試験]
図7図10は、第1の実施形態に係るサーマルヘッド10の実施例及びそれに対する各種品質試験の評価を示す。実施例としてドライエッチング処理された複数の基体12を作成し、それらとドライエッチング処理していない従来の基体12とを準備し、通電試験のNG並びに時間経過に伴う腐食発生の状況を比較検討した。
【0033】
(実施例1)
種々の表面粗さRa値を有する実施例1のサーマルヘッド10を以下のように作成した。
【0034】
個別電極16a及び共通電極16bの厚みを0.75μmとし、基体12となるアルミナ等セラミック基板をドライエッチング装置(たとえばサムコ社RIE-10)に設置した。次に、反応ガスCF4雰囲気×3kwのパワーとし、ドライエッチング装置内でのプラズマ印加時間をそれぞれ変更することによって、基体12の表面粗さRa値が0.20μm,0.30μm,0.50μm,0.60μm,0.70μmとなる5種類の基体12を準備した。併せて、従来例としてドライエッチング処理を施していない基体12を準備した。
【0035】
図7及び図8は、ドライエッチング時間に対する基体12の表面粗さRa値の変化を示すグラフ及び表である。図7及び図8において、ドライエッチング処理前の表面粗さRa値が0.80μmの基体12をドライエッチング処理した場合、ドライエッチング時間が長くなるに従い表面粗さRa値が小さくなることを示す。すなわち、ドライエッチング時間が10分の場合はRa値=0.72μmまで低下し、ドライエッチング時間が20分の場合はRa値=0.70μmまで低下する。また、ドライエッチング時間が30分の場合はRa値=0.67μmまで低下し、ドライエッチング時間が40分の場合はRa値=0.66μmまで低下する。さらに、ドライエッチング時間が50分の場合はRa値=0.60μmまで低下し、ドライエッチング時間が60分の場合はRa値=0.53μmまで低下する。またさらに、ドライエッチング時間が70分の場合はRa値=0.50μmまで低下し、ドライエッチング時間が80分の場合はRa値=0.44μmまで低下する。またさらに、ドライエッチング時間が90分の場合はRa値=0.30μmまで低下し、ドライエッチング時間が100分の場合はRa値=0.20μmまで低下する。
【0036】
図9は電極層の厚みと基体の表面粗さRa値との比率を変化させた場合における通電試験の結果を示す表である。また、図10は電極層の厚みと基体の表面粗さRa値との比率を変化させて製造したサーマルヘッドに対し、高温高湿雰囲気(温度60℃、湿度90%)において時間経過に伴う腐食の発生率を示す表である。すなわち、図9では通電試験のNGの割合が示され、図10では高温高湿雰囲気下の保存(放置)経過時間による腐食発生の割合が示されている。
【0037】
図7及び図8に示された表面粗さRa値とドライエッチング時間の関係性を利用して、所望の表面粗さRa値の基体12を作成した。具体的には、表面粗さ0.80の基体12にかけるドライエッチング時間を変更することにより、所望の表面粗さRa値を有する基体12を作成する。ここで、所望の表面粗さRa値が、0.20μm,0.30μm,0.50μm,0.60μm,0.70μmの5種類の基体12を作成した。さらに、表面粗さRa値が0.80μmの従来例とした基体12を追加して図9及び図10に示す各比較実験を行った。
【0038】
なお、図9に示すように、個別電極16a及び共通電極16bは厚さ0.75μmであるので、電極厚みとRa値とのレート比は次のような値となる。すなわち、Ra値が0.20μmの場合は4/15(0.267)となる。Ra値が0.30μmの場合は2/5(0.400)となる。Ra値が0.50μmの場合は2/3(0.667)となる。Ra値が0.60μmの場合は4/5(0.800)となる。Ra値が0.70μmの場合は14/15(0.933)となる。ここで、従来例としてのRa値が0.80μmの場合は16/15(1.067)となる。
【0039】
なお、本実施形態では、基体表面上の平坦性を向上させる(凹凸解消)手段としてドライエッチング装置(上述のRIE)を用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、本実施形態と同様のエッチングレートが得られるのであれば、成膜装置の逆スパッタなどのドライエッチングなどの手段を用いてよいし、エッチングガスについても本実施形態と同様の効果が得られるのであれば、ガスの種類についても本実施形態に記載したガス以外のガスを用いてもよい。
【0040】
上述したような5つの異なる条件で作成した5種類の基体12並びに従来品である基体12を用いて、主面12aに蓄熱層13となるスペースト状のグレーズ材13pを図6(c)のように配置した。ここで、グレーズ材13pは、その後形成される発熱抵抗体層14の発熱部15の直下となるように位置される。また、グレーズ材13pの凸部の高さは焼成後40μmの高さとなるように、スクリーン印刷法で形成し、1200℃以上の焼成を経て、図6(d)に示すように蓄熱層(部分グレーズ層)13として配置された基体12を作成した。
【0041】
その後、蓄熱層13を形成した基体12を用いて、図6(e)に示すように発熱抵抗体層14を形成する。次に、発熱抵抗体層14上に0.75μmの厚さとなるように調整された電極層16を形成する。次に、写真食刻法(フォトエングレービング)で基体12の主面12aに個別電極16a及び共通電極16bの櫛部分と発熱抵抗体層14の発熱部15が複数並ぶパターンを作成した。
【0042】
なお、本実施形態では、サーマルヘッド10は、発熱部15の列(印字長)の長さが105mmであり、その間に1248個の発熱部15が並ぶ300dpiのパターンとなるように構成された。その後、発熱抵抗体層14を含む一部個別電極16a,共通電極16bが露出する以外の部分を保護被覆層17で被覆した。
【0043】
その後、放熱板11上で発熱部15等のパターンが形成された基体12と回路基板18とを実装(合体)させる。次に、発熱抵抗体層14をそれぞれ操作するための駆動IC20を配置した。次に、駆動IC20と個別電極16aとをボンディングワイヤ31で結線すると共に、駆動IC20と回路基板18とをボンディングワイヤ32で結線した。さらに、ボンディングワイヤ31,32と駆動IC20を封止樹脂24で封止し、コネクタ23等の部品をつけて5種類の基体12を使用したサーマルヘッド10が製造された。
【0044】
製造された5種類のサーマルヘッド10及び従来品であるサーマルヘッド10の品質評価を実施した。詳細には、電極パターンの正当性及び欠陥性を確認するための通電試験(図9の表)と、腐食進行を検証するための温度60℃、湿度90%雰囲気の高温高湿炉での保存試験(図10の表)を実施した。
【0045】
具体的には、電極パターンの正当性及び欠陥を確認するための通電試験では従来品を含む全6種類の基体12をそれぞれ10本毎に試験して評価した。結果として、図9に示すように、グレーズ層がない部位の基体12の主面12aのRa値が所定の値となるようにドライエッチング処理された基体12では、いずれも全数において通電異常は見られなかった。すなわち、各10個のうち、いずれにも通電NGは生じなかった。なお、所定の値は、0.70μm(電極厚の14/15),0.60μm(電極厚の4/5),0.50μm(電極厚の2/3),0.30μm(電極厚の2/5),及び0.20μm(電極厚の4/15)の値である。一方、ドライエッチング処理を施していないRa値が0.80の従来品では、10個のうち3個の断線が確認された。
【0046】
次に、高温高湿試験では、温度60℃、湿度90%雰囲気下に各製品を投入し、100時間毎に腐食発生の有無を確認した。
【0047】
結果として、図10に示すように、ドライエッチング処理済の基体12を用いたサーマルヘッド10では、Ra値が0.20μm,0.30μm,0.50μm,0.60μm,0.70μmのいずれの基体12を備えたサーマルヘッド10においても、500時間完了までは、腐食等欠陥からのダメージが見られなかった。
【0048】
一方、Ra値0.80μmの基体12を使用した従来品では、保護被覆層17による被覆が不十分な箇所から腐食性物質の侵入による腐食が、200時間の時点で2個確認された。これは、主面12aの凹凸を拾って成長した個別電極16a,共通電極16bの表面の凹凸や、該凹凸上に形成された保護被覆層17が個別電極16a,共通電極16bの凸凹部が反映されたことによるものだと考えられる。
【0049】
この結果から、グレーズ層が配置されていない基体12の主面12aのドライエッチング効果を確認することができた。
【0050】
(実施例2)
実施例1に引き続き、基体12の主面12aのドライエッチング処理が特性に影響があるかどうかについて、実施例1の高温高湿試験を1000時間まで継続し、腐食の進行をさらに確認した。
【0051】
その結果、基体12の主面12aのRa値が、0.20μm,0.30μm及び0.50μmまでの基体12では腐食の発生が見られなかった。しかしながら、Ra値が0.60μmの基体12では800時間経過時の検査で10個のうち、1個の腐食が確認された。さらに、Ra値が0.70μmの基体12では、600時間経過時の検査において、10個のうち、2個の腐食が確認された。本試験で採用した電極厚みが0.75μmであることを勘案すると、電極層16の下層にある基体12のグレーズ層が配置されていない部位の表面粗さRa値は、電極厚みに対して、Ra値を2/3以下とすることにより、保護被覆層17や発熱抵抗体層14等の欠陥をさらに抑制できることを確認した。
【0052】
[第1の実施形態の作用及び効果]
以上説明したように本実施形態によれば、基体12の主面12aをドライエッチング等の物理エッチング処理により平坦化するので、基体12の主面12aの表面粗さを改善し、基体12の主面12aの凸凹部を低減でき平坦化することができる。これにより、厳しい条件での長期の使用に対し、サーマルヘッド10の電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食を防ぎ、サーマルヘッドの耐久性及び品質を向上させることができる。
【0053】
また、基体12の主面12aの凹凸に起因して、形成される個別電極16a,共通電極16bの欠陥や、保護被覆層17に形成される粒界に対しても、基体12の主面12aの表面粗さRa値を電極厚みの2/3以下までエッチング処理をすることにより、製品欠陥等をさらに低減することができる。
【0054】
また、ケミカルエッチングでは基体12の主面12aから薬液の浸食が懸念される。これに対して、主面12aをドライエッチング等の物理エッチングで加工するので、主面12aの突起に集中してイオン衝撃を与えてエッチングことができ、薬液が浸食することなしに表面突起を平坦化することができる。
【0055】
また、基体12の表面粗さRa値を電極厚みの2/3以下とするので、平坦性をさらに向上させることができ、より信頼性の高い製品を供給することが可能となる。
【0056】
[第2の実施形態]
図11図16は第2の実施形態を示しており、これらの図面に基づいて第2の実施形態に係るサーマルヘッド10及びその製造方法を説明する。上述した第1の上述実施形態と比較すると、エッチング処理を用いて基体12の平坦化処理を行う代わりに、基体12上に薄ガラス層50を堆積して平坦化処理を行うことが相違する。
【0057】
基体12の主面12aに形成される薄ガラス層50に関連する構成以外は、第1の実施形態に係るサーマルヘッド10及びその製造方法と同じであるので、同じ部品等には同じ番号を付している。
【0058】
図11は第2の実施形態に係るサーマルヘッド10の発熱部近傍の拡大縦断面図である。図11において、基体12は、アルミナ等のセラミックにより形成され、耐熱性のある接着剤によって放熱板11の上面に接着される。基体12の上端の主面12aには、蓄熱層13を形成する前に、印刷法により厚さが0.10μm以上0.70μm以下の薄ガラス層50が形成される。
【0059】
厚さが0.10μm以上0.70μm以下の薄ガラス層50の上面50aに蓄熱層13が形成される。この蓄熱層13は、部分グレーズ層であって、ガラス(SiO)を主成分とする断熱層であり、ガラス粉末を含むペースト状のグレーズ材13pを焼成することにより形成される。
【0060】
発熱抵抗体層14は、例えばTaSiO、TaSiNO、NbSiO、TiSiCO系の抵抗材料を含むサーメット膜であり、スパッタリング法を用いて蓄熱層13の上面に積層形成されると共に、蓄熱層13以外の領域では薄ガラス層50の上面50aに形成される。発熱抵抗体層14をパターニングすることで、発熱抵抗体層14を構成する回路パターンが形成される。
【0061】
個別電極16aと共通電極16bとは、低い山形の蓄熱層13及び発熱抵抗体層14の頂上部において、上述のように用紙搬送方向Yに所定間隔dでそれぞれ対向配置される。ここで、発熱抵抗体層14の間隔dに対応する部分が発熱部15を構成し、個別電極16aと共通電極16bとの間に電圧を印加した時に、間隔dに対応する領域の発熱部15に電流が通って(通電し)、発熱部15が発熱する。
【0062】
[第2の実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法]
図12及び図13により、第2の実施形態に係るサーマルヘッド10の製造方法において、基体12上に積層構造物を形成する工程及びその前工程を簡単に説明する。図12図11のサーマルヘッド10の製造方法を示すフロー図である。ここで、基体12上に積層構造物を順次形成する工程及びその前工程を示す。
【0063】
図12のステップS1では、まず、後述する蓄熱層13を形成する前に、印刷法により、基体12の主面12aに、厚さが0.10μm以上0.70μm以下の薄ガラス層50を形成する。そして、次のステップS2へと進む。
【0064】
ステップS2は蓄熱層13の形成工程である。ステップS2では、厚さが0.10μm以上0.70μm以下の薄ガラス層50の上面50aに、ガラスを主成分とするペースト状のグレーズ材13p(図13(c)参照)を堆積し、焼成することにより、低い山形の蓄熱層13を形成し、次のステップS3へと進む。
【0065】
ステップS3は発熱抵抗体層14の形成工程である。ステップS3では、例えばTaSiO、TaSiNO、NbSiO、TiSiCO系の抵抗体材料をスパッタリング法により蓄熱層13の上面及び蓄熱層13以外の領域の薄ガラス層50の上面50aに積層形成し、次のステップS4へと進む。
【0066】
ステップS4は電極層16の形成工程である。ステップS4では、たとえば上述の発熱抵抗体層14上にスパッタリング法を用いて電極層を形成する。次に、該電極層をフォトリソグラフィ技術等により個別電極16a及び共通電極16bをパターニングする。これにより、蓄熱層13及び主面12aに発熱抵抗体層14と共に電極層16を形成し、次のステップS5へと進む。
【0067】
ステップS5は保護被覆層17の形成工程である。ステップS5では、発熱抵抗体層14及び電極層16の上面に保護被覆層用のガラスペーストをスクリーン印刷等で添着させる。そして、このガラスペーストを焼成させることにより該ガラスペーストを固める。
【0068】
図13図11のサーマルヘッド10の製造過程状態を時系列で示す概略断面図である。ここで、基体12の主面12aに薄ガラス層50を形成する工程や、蓄熱層13の形成工程を時系列で示している。図13(a)は主面12aの表面粗さRa値が0.80又はそれ以上の状態のときの薄ガラス層50を堆積する前の基体12を図示している。図13(b)は薄ガラス層50を堆積した状態の基体12を図示している。ここでは、薄ガラス層50の上面50aの表面粗さRa値が、薄ガラス層形成前の基体12の主面12aよりも平坦となった状態が示されている。図13(c)は薄ガラス層50の上面50aの上に直方体形状又は立方体形状の蓄熱層13用のガラスを主成分とするペースト状のグレーズ材13pを堆積した状態を図示している。図13(d)は図13(c)で形成されたグレーズ材13pを1200℃で焼成することにより、直方体形状又は立方体形状のグレーズ材13pが丸い山形の形状となり蓄熱層(部分グレーズ層)13が形成される状態を示している。図13(e)は発熱抵抗体層14,個別電極16a及び共通電極16bからなる電極層16,及び保護被覆層17を順に積層した状態を示している。
【0069】
[実施例,比較例及び各種評価試験]
図14図16は、第2の実施形態に係るサーマルヘッド10の実施例及びそれによる各種品質の評価を示す。実施例として薄ガラス層を堆積した複数の基体12を作成し、それらと薄ガラス層を堆積していない従来の基体12とを準備し、通電試験のNG並びに時間経過に伴う腐食発生の状況を比較検討した。
【0070】
図14は薄ガラス層の厚みの変化に対するその表面粗さRa値の変化を示す表である。図15は薄ガラス層の厚みを変化させて製造したサーマルヘッドに対し、通電試験の結果を示す表である。図16は薄ガラス層の厚みを変化させて製造したサーマルヘッドに対し、高温高湿雰囲気(温度60℃、湿度90%)において時間経過に伴う腐食の発生率を示す表である。
【0071】
(実施例)
種々の表面粗さRa値を有するサーマルヘッド10を以下のように作成した。
【0072】
まず、基体12となるアルミナ等セラミック基板上に、粘度160kcpsのガラスペーストをスクリーン印刷した。
【0073】
その後、スクリーンと基体12の間に0.1mm前後のスペーサを挟み、厚みの調整を実施した基体12を1200℃の焼成炉で焼成した。製造された基体12の薄ガラス層50は、図14に示すように、平均値でそれぞれ0.11μm,0.34μm,0.62μm,0.70μmの4種類の製品となった。本実施形態では、薄ガラス層50の形成において、粘度160kcpsのガラスペーストを用いて形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、薄ガラス層50が所望の厚みが得られるのであれば、ガラスペーストの粘度や焼成温度は適宜変更してもよい。
【0074】
また、図14に示すように、それぞれの平坦性を示す表面粗さRa値は、0.20μm,0.23μm,0.31μm,0.50μmとなり、従来例の基体12のRa値=0.80μmに対して優位な平坦性を得ることが確認された。
【0075】
次に、基体12の主面12aに形成した薄ガラス層50の上面50aに、蓄熱層13となるガラスを主成分とするペースト状の粘度190kcpsを有するグレーズ材13pをスクリーン印刷法で配置した。蓄熱層13用のグレーズ材13pは、その後形成される発熱抵抗体層14の発熱部15の直下となるように位置し、かつ、グレーズ材13pの凸部の高さは焼成後40μmの高さとなるように調整される。
【0076】
その後、焼成炉で1200℃の高温で焼成し、部分的なグレーズ材13pが蓄熱層13として配置された基体を作成した。
【0077】
次に、蓄熱層13を形成した基体12を用いて、発熱抵抗体層14を形成し、発熱抵抗体層14上に0.75μm厚となるよう調整された個別電極16a及び共通電極16bを形成する。さらに、写真食刻法(フォトエングレービング)を用いて基体12の主面12aの薄ガラス層50の上面50aに、一対の個別電極16a,共通電極16bと発熱抵抗体層14の発熱部15が複数並ぶパターンを作成した。
【0078】
本実施形態では、サーマルヘッド10は、発熱部15の列(印字長)の長さが160mmであり、その間に1892個の発熱部15が並ぶ300dpiのパターンとなるように構成された。その後、発熱抵抗体層14を含む一部個別電極16a,共通電極16bが露出する以外の部分を保護被覆層17で被覆した。
【0079】
その後、発熱抵抗体層14を含む、一部個別電極16a等を露出する以外の部分を、保護被覆層17で被覆した。
【0080】
その後、放熱板11(図2参照)上で、基体12と回路基板18を合体させ、基体12上の発熱抵抗体層14をそれぞれ操作するための駆動IC20を配置する。次に、ボンディングワイヤ31で個別電極16aと駆動IC20とを結合し、また、駆動IC20と回路基板18の配線パターン21とをボンディングワイヤ32で結束する。最後に、駆動IC20及びボンディングワイヤ31,32を封止樹脂24で封止し、コネクタ23等の部品をつけてサーマルヘッド10が製造された。
【0081】
図15に示すように、上述した製造方法により製造されたサーマルヘッド10は、薄ガラス層50の厚みが、0.11μm,0.34μm,0.62μm,0.70μmのいずれの場合でも、その上に配置された個別電極16a及び共通電極16bには電極パターンに欠陥は見られなかった。
【0082】
次に、上述した効果を検証するため、通電試験と高温高湿試験とを実施した。通電試験では、図15に示すように、本実施形態に係る4種類の製品だけでなく、従来の基体(未処理品)12についても、通電での電極断線は見られなかった。
【0083】
また、第2の実施形態に係る製造方法に従って形成した10個のサーマルヘッド10と、比較対象となる10個の従来品を用いて、温度60℃、湿度90%雰囲気の高温高湿炉で500時間の保存試験を実施した。
【0084】
図16に示すように、500時間経過での結果は、従来品10個のうち2個の腐食発生があったのに対し、第2の実施形態に係る基体12を使用したサーマルヘッド10では、それらの厚みが0.11μm,0.34μm,0.62μm,0.70μmのいずれの製品においても腐食した製品は確認されなかった。
【0085】
[第2の実施形態の作用及び効果]
以上説明したように本実施形態によれば、サーマルヘッド10の基体12において、個別電極16a及び共通電極16bを配置するアルミナ等のセラミック製の基体12の主面12a上に0.10μm以上0.70μm以下の厚さを有する薄ガラス層50を印刷法で形成することができる。この構成により、基体12の主面12aの凸凹部を低減でき平坦化することができる。これにより、厳しい条件での長期の使用に対し、サーマルヘッド10の電極層及び発熱抵抗体層等の破壊あるいは腐食を防ぎ、サーマルヘッド10の耐久性及び品質を向上させることができる。
【0086】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、前記各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 サーマルヘッドプリンタ
5 感熱紙
10 サーマルヘッド
12 基体
12a 主面
13 蓄熱層
13p ペースト状のグレーズ材
14 発熱抵抗体層
15 発熱部
16 電極層
16a 個別電極
16b 共通電極
17 保護被覆層
20 駆動IC
50 薄ガラス層
50a 薄ガラス層の上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16