(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087400
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】タイヤの特性予測装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20240624BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20240624BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20240624BHJP
G06F 30/00 20200101ALI20240624BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
B60C11/24 Z
G01M17/02
G06F30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202205
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】堤 亜矢香
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131LA34
5B146AA05
5B146DC03
5B146DJ02
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】タイヤの静的特性に基づいてタイヤの動的特性を予測する技術を提供する。
【解決手段】タイヤの特性予測装置は、導出部を備える。導出部は、タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力し、前記対象タイヤの摩耗特性を表すデータを出力させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力し、前記対象タイヤの摩耗特性を表すデータを出力させる導出部
を備える、
タイヤの特性予測装置。
【請求項2】
前記静的接地特性を表すデータは、タイヤの接地面の接地圧分布を表すデータを含む、
請求項1に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項3】
前記接地圧分布を表すデータは、タイヤの接地面の各座標に対する接地圧値を含む、
請求項2に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項4】
前記各座標に対する接地圧値は、1または複数の閾値により指標化される、
請求項3に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項5】
前記接地圧分布を表すデータは、前記指標化された接地圧値に基づく画像データである、
請求項4に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項6】
前記摩耗特性を表すデータは、タイヤの接地面の摩耗エネルギー分布を表すデータを含む、
請求項1または2に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項7】
前記摩耗エネルギー分布を表すデータは、タイヤの接地面の各座標に対する摩耗エネルギー値を含む、
請求項6に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項8】
前記各座標に対する摩耗エネルギー値は、1または複数の閾値により指標化される、
請求項7に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項9】
前記摩耗エネルギー分布を表すデータは、前記指標化された摩耗エネルギー値に基づく画像データである、
請求項8に記載のタイヤの特性予測装置。
【請求項10】
1または複数のプロセッサにより実行されるタイヤの特性予測方法であって、
タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力することと、
前記モデルから、前記対象タイヤの摩耗特性を表すデータを出力させることと
を含む、
タイヤの特性予測方法。
【請求項11】
タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータと、該タイヤの摩耗特性を表すデータとが組み合わされた学習用データセットを生成することと、
前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力すると、前記対象タイヤの摩耗特性を予測するデータが出力されるように、機械学習モデルを学習させることと
を含む、
学習済みモデルの生成方法。
【請求項12】
タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータと、該タイヤの摩耗特性を表すデータとが組み合わされた学習用データセットを生成する生成部と、
前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力すると、前記対象タイヤの摩耗特性を予測するデータが出力されるように、機械学習モデルを学習させる学習部と
を備える、
学習済みモデルの生成装置。
【請求項13】
タイヤが静止状態であるときの静的特性を表すデータを入力すると、該タイヤが運動するときの動的特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的特性を表すデータを入力し、前記対象タイヤの動的特性を表すデータを出力させる導出部
を備える、
タイヤの特性予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの特性予測装置及び予測方法ならびに学習済みモデルの生成方法及び生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、機械学習モデルを使用して、タイヤの接地面形状を表す画像に基づいて、タイヤ性能値を予測する方法を開示する。特許文献1によれば、予測の対象となるタイヤ性能値は、例えばCP(コーナリングパワー)、CFmax(最大コーナリングフォース)、SAT(セルフアライニングトルク)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤの性能は、特許文献1で例示される観点以外にも様々な観点から評価される。例えば、摩耗に関する特性を表す摩耗特性等である。しかしながら、特許文献1では、接地面形状を表す画像といったタイヤの静的な特性から、タイヤの動的な特性である摩耗特性を予測することについては考慮されていない。
【0005】
本発明は、例えば静的接地特性のようなタイヤの静的特性に基づいて、例えば摩耗特性のようなタイヤの動的特性を予測するタイヤの特性予測装置及び予測方法ならびに学習済みモデルの生成方法及び生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るタイヤの特性予測装置は、導出部を備える。導出部は、タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力し、前記対象タイヤの摩耗特性を表すデータを出力させる。
【0007】
第2観点に係るタイヤの特性予測装置は、第1観点に係る特性予測装置であって、前記静的接地特性を表すデータは、タイヤの接地面の接地圧分布を表すデータを含む。
【0008】
第3観点に係るタイヤの特性予測装置は、第2観点に係る特性予測装置であって、前記接地圧分布を表すデータは、タイヤの接地面の各座標に対する接地圧値を含む。
【0009】
第4観点に係るタイヤの特性予測装置は、第3観点に係る特性予測装置であって、前記各座標に対する接地圧値は、1または複数の閾値により指標化される。
【0010】
第5観点に係る特性予測装置は、第4観点に係る特性予測装置であって、前記接地圧分布を表すデータは、前記指標化された接地圧値に基づく画像データである。
【0011】
第6観点に係る特性予測装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る特性予測装置であって、前記摩耗特性を表すデータは、タイヤの接地面の摩耗エネルギー分布を表すデータを含む。
【0012】
第7観点に係る特性予測装置は、第6観点に係る特性予測装置であって、前記摩耗エネルギー分布を表すデータは、タイヤの接地面の各座標に対する摩耗エネルギー値を含む。
【0013】
第8観点に係る特性予測装置は、第7観点に係る特性予測装置であって、前記各座標に対する摩耗エネルギー値は、1または複数の閾値により指標化される。
【0014】
第9観点に係る特性予測装置は、第8観点に係る特性予測装置であって、前記摩耗エネルギー分布を表すデータは、前記指標化された摩耗エネルギー値に基づく画像データである。
【0015】
第10観点に係る特性予測方法は、1または複数のプロセッサにより実行されるタイヤの特性予測方法であって、以下のことを含む。
・タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力すること
・前記モデルから、前記対象タイヤの摩耗特性を表すデータを出力させること
【0016】
第11観点に係る学習済みモデルの生成方法は、以下のことを含む。
・タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータと、該タイヤの摩耗特性を表すデータとが組み合わされた学習用データセットを生成すること
・前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力すると、前記対象タイヤの摩耗特性を予測するデータが出力されるように、機械学習モデルを学習させること
【0017】
第12観点に係る学習済みモデルの生成装置は、生成部と、学習部とを備える。生成部は、タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータと、該タイヤの摩耗特性を表すデータとが組み合わされた学習用データセットを生成する。学習部は、前記学習用データセットを用いて、対象タイヤの静的接地特性を表すデータを入力すると、前記対象タイヤの摩耗特性を予測するデータが出力されるように、機械学習モデルを学習させる。
【0018】
第13観点に係るタイヤの特性予測装置は、導出部を備える。導出部は、タイヤが静止状態であるときの静的特性を表すデータを入力すると、該タイヤが運動するときの動的特性を表すデータを出力するように機械学習されたモデルに、対象タイヤの静的特性を表すデータを入力し、前記対象タイヤの動的特性を表すデータを出力させる。
【発明の効果】
【0019】
第1観点によれば、タイヤの静的接地特性を表すデータに基づき、該タイヤの摩耗特性を予測することができる。また、第13観点によれば、タイヤが静止状態であるときの静的特性を表すデータに基づき、該タイヤが運動するときの動的特性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係る予測装置の電気的構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るタイヤの特性予測装置及び予測方法ならびに学習済みモデルの生成方法及び生成装置について説明する。
【0022】
<1.概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る特性予測装置1(以下、単に「予測装置1」とも称する)の電気的構成を示すブロック図である。予測装置1は、タイヤの静的特性を表すデータに基づき、該タイヤの動的特性を表すデータを予測する装置であり、主としてタイヤの設計開発や品質管理の場面で好ましく用いられる。タイヤの静的特性は、タイヤが静止状態であるときのタイヤの特性、形状及び構造を表し、静的ばね定数、接地面の形状、接地圧分布、タイヤの形状、プロファイル、及び内部構造が含まれる。また、タイヤの動的特性は、タイヤが運動するときの特性を表し、摩耗特性、運動特性、振動特性、及びノイズ特性等が含まれる。以下、タイヤの予測装置1が、対象となるタイヤの接地圧分布から、該タイヤの摩耗特性を予測する場合を例に説明する。
【0023】
タイヤの静的接地特性としては、例えば接地面の接地圧分布が挙げられる。接地圧分布は、例えばタイヤの接地面の幅方向(タイヤの回転軸に平行な方向)及び前後方向(タイヤの回転軸に直交する方向)で定義される平面上の各座標における、静止状態のタイヤの接地圧値である。接地圧値は、公知のタイヤ接地圧計測装置により取得することができる。タイヤ接地圧計測装置は、タイヤを圧着させる計測領域に、多数の圧力センサが幅方向及び前後方向に沿って2次元配列され、各々のセンサで各座標に対応する接地圧を検出するものや、タイヤを硬質ガラス等の透明板に圧着させて透明板とトレッドとの接触部分を照射し、各座標に対応する反射光量を測定して接地圧値に換算するもの、感圧マットにタイヤを圧着して感圧マットの外見的変化を計測するもの等、2次元的に接地圧(kPa)を計測できる装置であれば、特に限定されない。これらのタイヤ接地圧計測装置によれば、タイヤの接地面の各座標における接地圧値が取得される。
【0024】
タイヤの摩耗特性としては、例えば接地面の各座標に対するタイヤの摩耗傾向を表す指標が挙げられる。このような指標は、車両の駆動源の電気化が進み、車体重量が増加する中で、より一層重要な指標となることが予想される。本実施形態では、タイヤの摩耗特性として、摩耗エネルギー分布が使用される。摩耗エネルギー分布は、例えば上記接地面の各座標に対する摩耗エネルギー値である。摩耗エネルギー値は、トレッドの摩耗のし易さを表現する指標であり、例えば接地面あたりの平均値は、市場における摩耗速度を予測するのに重要な指標となる。摩耗エネルギー値は、以下のように定義される。
摩耗エネルギー値(J/m2)=μ×[接地圧値(kPa)]×[所定の回転速度、荷重及び内圧における変位量(m)]
【0025】
上式において、変位量は、各座標に対する値であり、トレッドの各点の滑り量であるとも言い換えることができる。μは、タイヤのトレッドパターンやカテゴリに応じて、予め定められる係数である。摩耗エネルギー値は、大きければ大きいほど摩耗しやすく、小さければ小さいほど摩耗しにくいということを表している。また、上式から分かるように、摩耗エネルギー値は、接地圧値と相関を有する。
【0026】
摩耗エネルギー値は、接地圧分布と、トレッドの各点での変位量とを測定する装置により、直接測定することもできる。測定は、例えば次のように行うことができる。まず、ホイールにセットされ、所定の内圧とされた状態のタイヤに所定の荷重をかけ、装置の透明板の上面に設置された感圧マットにトレッドを圧着する。この状態で、透明板の下側であって接地面の真下から、感圧マットの色分布をカメラで撮影する。これにより、静止状態での接地圧分布を表すデータが得られる。次に、タイヤに上記荷重をかけたまま、タイヤを所定の回転速度で透明板上を回転させる。このとき、透明板の下側であって接地面の前後方向に配置された2台のカメラで同一の範囲を撮影それぞれし、トレッドの各点に対する単位時間当たりの変位を導出する。接地圧分布、変位、及び予め定められているμを上式に代入すると、接地面の各座標に対する摩耗エネルギー値が得られる。
【0027】
しかしながら、タイヤを所定の条件で回転運動させて変位を計測し、摩耗エネルギー値を算出することは、多くの工数を要し、容易ではない。例えば、上記測定を適切に行うためには、タイヤを車両に実装して走行し、表面を慣らす前処理が数週間程度必要である。また、計測自体にも時間を要する上、計測精度が十分高いとは言えない。このため、比較的短時間で容易に取得可能な静的接地特性から摩耗特性を予測することができれば、工数の大幅削減となり、開発の効率化を図ることができる。また、予測装置1は機械学習モデルを使用しているため、学習用データセットの数と質により、上記装置を用いた計測と同程度かそれ以上の精度での予測が可能になることが期待される。
【0028】
<2.予測装置の構成>
予測装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップパソコン、ラップトップパソコン、タブレット、スマートフォンとして実現される。予測装置1は、CD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体133から、或いはネットワークを介して、プログラム132を上記汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。プログラム132は、予測装置1に後述する動作を実行させる。
【0029】
予測装置1は、制御部10、表示部11、入力部12、記憶部13、通信部14及びI/Oインタフェース15を備える。これらの部10~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ等で構成することができ、例えば後述する機械学習モデルの学習過程における誤差、及び機械学習されたモデルから導出される出力結果等を表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、予測装置1に対する操作を受け付ける。表示部11及び入力部12は、ともに同じタッチパネルディスプレイで構成されてもよい。通信部14は、ネットワークを介したデータ通信を行う通信インタフェースとして機能する。I/Oインタフェース15は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、専用ポート等であり、外部装置と接続するためのインタフェースである。
【0030】
記憶部13は、ハードディスク及びフラッシュメモリ等の不揮発性メモリで構成することができる。記憶部13内には、プログラム132が記憶されている他、機械学習されたモデル131を定義するパラメータが記憶される。モデル131は、タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータを入力すると、該タイヤの摩耗特性を表すデータを出力するように学習済みである。この学習方法については、後述する。
【0031】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等で構成することができる。制御部10は、記憶部13内のプログラム132を読み出して実行することにより、仮想的に取得部10A、導出部10B、画面生成部10C、生成部10D及び学習部10Eとして動作する。取得部10Aは、入力部12や通信部14等を介して、予測対象となる対象タイヤの静的接地特性を表すデータを取得する。導出部10Bは、取得された静的接地特性を表すデータをモデル131に入力し、モデル131から対象タイヤの摩耗特性を表すデータを出力させる。画面生成部10Cは、各種の情報を表示する画面等を生成する。生成部10D及び学習部10Eについては、後述する。
【0032】
<3.モデルの構成>
以下、モデル131の構成について説明する。
図2は、モデル131の概念図である。本実施形態のモデル131は、入力されたデータの特徴量を抽出するエンコーダ部1310と、抽出された特徴量に基づき、入力されたデータを変換するとともに、元のサイズに復元するデコーダ部1311とを含む。つまり、本実施形態では、モデル131への入力データ1340がエンコーダ部1310への入力データとなり、デコーダ部1311からの出力データがモデル131からの出力データ1341となる。
【0033】
モデル131への入力データ1340は、対象タイヤの接地面の接地圧分布を表すデータであり、より具体的には、接地面の各座標に対する接地圧値である。つまり、入力データ1340は、各座標に対して二次元配列された接地圧値である。入力データ1340に含まれる接地圧値の数は、接地面に対して設定された座標点の数である。
【0034】
本実施形態のエンコーダ部1310は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含んで構成される。畳み込みニューラルネットワークは、畳み込み層とプーリング層との組み合わせが、複数回繰り返して連続する構造を有する。畳み込み層では、畳み込みフィルタにより入力されたデータの特定の特徴が抽出される。畳み込みフィルタが持つパラメータは、後述する学習処理により調整済みである。畳み込みの演算の際には、ReLU関数等の活性化関数が適用されることが好ましく、これにより、抽出された特徴がより強調される。畳み込み層におけるフィルタ数、フィルタサイズ、フィルタにより入力データをスキャンする間隔等は、適宜設定することができる。このような畳み込み層は、プーリング層の前に、2つ以上連続してもよい。
【0035】
畳み込み層から出力されたデータは、プーリング層に入力され、ダウンサンプリングされる。プーリングは、平均値プーリング、最大値プーリング及び最小値プーリングのいずれでも、適宜選択することができる。プーリング層から出力されたデータは、後続の畳み込み層に入力され、上記の畳み込みが再び行われる。このようにして、畳み込みとプーリングとの組み合わせが複数回繰り返されると、層ごとに異なる特徴が抽出される。畳み込み層とプーリング層との組み合わせの数(各層の数)は、適宜設定することができる。
【0036】
エンコーダ部1310により最終的に出力されたデータは、全結合層1312に入力され、全結合層1312から出力されたデータが、デコーダ部1311への入力データとなる。デコーダ部1311は、転置畳み込み層が、複数連続する構造を有する。転置畳み込み層の数は、エンコーダ部1310における畳み込み層とプーリング層との組み合わせの数と対応する。
【0037】
転置畳み込み層に入力されたデータは、ダウンサンプリングされた分のデータを補間され、より大きなデータとなる。補間方法は特に限定されず、適宜選択することができる。さらに、補間後のデータに対し、畳み込みフィルタによる畳み込みが行われる。このように、転置畳み込み層での処理が繰り返されることにより、各転置畳み込み層から出力されるデータが、元の入力データ1340のサイズまで復元される。最後の転置畳み込み層から出力されるデータが、モデル131からの出力データ1341となる。この出力データ1341は、接地面の摩耗エネルギー分布を表すデータであり、入力データ1340の各座標に対応するように二次元配列された摩耗エネルギー値である。出力データ1341に含まれる摩耗エネルギー値の数は、入力データ1340と同様に、接地面に対して設定された座標点の数である。
【0038】
<4.予測方法>
次に、
図3を参照しつつ、予測装置1により実行される対象タイヤの摩耗特性予測方法について説明する。
【0039】
まず、取得部10Aが、対象タイヤの静的接地特性を表すデータとして、対象タイヤの接地面の接地圧分布を表すデータを取得し、入力データ1340としてRAMまたは記憶部13に保存する(ステップS1)。接地圧分布を表すデータは、上述したように、接地面の各座標における接地圧値であり、公知のタイヤ接地圧計測装置を用いて取得することができる。取得部10Aによる取得は、例えば予測装置1のユーザ(典型的には、タイヤの開発設計者)が入力部12を介して行ってもよいし、CD-ROM、USBメモリ等の記録媒体を介して行ってもよいし、ネットワークを介してタイヤ接地圧計測装置からデータを読み出すことで行ってもよい。
【0040】
続いて、導出部10Bが、入力データ1340をモデル131に入力し、モデル131から出力データ1341を出力させる(ステップS2)。出力データ1341は、上述したように、接地面の摩耗エネルギー分布を表すデータであり、入力データ1340と同じサイズで二次元配列された摩耗エネルギー値である。
【0041】
続いて、画面生成部10Cが、ステップS2で導出された出力データ1341を表示する結果画面を生成し、表示部11を介して表示する(ステップS3)。出力データ1341の表示形式は、特に限定されない。出力データ1341は、例えば、各座標に対応する摩耗エネルギー値が二次元配列された表形式のデータで表示されてもよい。加えて、各座標に対応する摩耗エネルギー値は、1または複数の所定の閾値により、段階的に指標化された値で表されてもよい。さらに、画面生成部10Cは、指標化された摩耗エネルギー値に基づいた画像データを生成し、表示してもよい。より具体的には、対象タイヤの接地面を表す領域内の画素を、指標化された摩耗エネルギー値に応じて、互いに異なる色で表示することができる(
図6参照)。この画像データによれば、対象タイヤの接地面形状と、摩耗エネルギー分布が視覚的に対応付けられる。
【0042】
さらに、画面生成部10Cは、入力データ1340と出力データ1341とを比較する画面を生成し、表示してもよい。この場合、入力データ1340の接地圧値も、1または複数の所定の閾値により、段階的に指標化された値で表されてよい。そして、画面生成部10Cは、指標化された接地圧値に基づいた画像データを生成し、表示してもよい。より具体的には、対象タイヤの接地面を表す領域内の画素を、指標化された接地圧値に応じて、互いに異なる色で表示することができる(
図5参照)。これにより、ユーザは、入力データ1340及び出力データ1341を、視覚的に確認することができる。
【0043】
<5.学習方法>
予測装置1は、学習済みモデルの生成装置としても構成することができる。
図4を参照しつつ、生成部10D及び学習部10Eにより実行される、モデル131を生成するための方法(機械学習モデルの学習方法)について説明する。
【0044】
機械学習モデルは、
図2に示すようなエンコーダ部とデコーダ部とが結合された構造を有し、学習用データセット134を用いて機械学習される。学習用データセット134は、タイヤが静止状態であるときの接地特性である静的接地特性を表すデータと、タイヤの摩耗特性を表すデータ(正解データ)とが組み合わされたデータセットであり、異なるタイヤについての多数のデータセットを含む。静的接地特性を表すデータ及び摩耗特性を表すデータは、それぞれ、装置により測定された接地面の接地圧値及び摩耗エネルギー値であってよい。これらのデータは、記憶媒体やネットワークを介して予測装置1に取り込まれる。生成部10Dは、タイヤの静的接地特性を表すデータに、正解データとしての該タイヤの摩耗特性を表すデータを組み合わせ、学習用データセット134として記憶部13に保存する。つまり、学習用データセット134を生成する(ステップS11)。
【0045】
続いて、学習部10Eが、学習用データセット134を、パラメータ調整用の訓練用データセットと、精度検証用のテスト用データセットとに分割する(ステップS12)。両者の割合は、適宜設定することができる。
【0046】
続いて、学習部10Eが訓練用データセットに含まれる静的接地特性を表すデータを機械学習モデルに入力すると、摩耗特性を予測するデータが出力されるように、機械学習モデルを学習させる(ステップS13)。具体的には、学習部10Eは、出力されたデータと、入力されたデータに組み合わせられている正解データとの誤差が小さくなるように、機械学習モデルを定義するパラメータを調整する。ステップS13は、バッチ勾配降下法、確率的勾配降下法、ミニバッチ勾配降下法等のいずれの方法で実行されてもよく、これらの方法に応じて、適当なエポック数だけ繰り返すことができる。
【0047】
続いて、学習部10Eが、規定のエポック数の学習が完了したか否かを判定する(ステップS14)。学習部10Eが、規定のエポック数の学習が完了していない(NO)と判定する場合、学習部10Eは、さらにステップS13~ステップS14を繰り返す。一方、学習部10Eが、規定のエポック数の学習が完了した(YES)と判定する場合、ステップS15が実行される。
【0048】
ステップS15では、学習部10Eが、機械学習モデルを定義する最新のパラメータを記憶部13に保存する。以上の手順により、モデル131が生成される。
【0049】
なお、ステップS14において、学習部10Eが機械学習モデルからの出力と正解データとの誤差が所定の値以下になったか否かを判定し、上記誤差が所定の値以下になった(YES)と判定される場合、ステップS15が実行されるようにしてもよい。この判定は、テスト用データセットの接地圧分布を表すデータをモデルに入力し、テスト用データセットの正解データとの誤差を算出することにより行うことができる。このように、規定のエポック数の学習の完了を待たずに機械学習モデルの学習を終了する場合、機械学習モデルの過学習を回避することができる。
【0050】
<6.特徴>
上記実施形態の予測装置1によれば、測定が比較的容易であるタイヤの接地圧分布を表すデータに基づき、該タイヤの摩耗エネルギー分布を予測することができる。これにより、摩耗エネルギー分布の測定を省略することができるため、測定の前処理の工数や測定自体の時間を省略することができる。
【0051】
<7.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下に示す変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0052】
(1)上記実施形態では、モデル131はエンコーダ部1310とデコーダ部1311とが全結合層1312を介して結合された構造を有していたが、機械学習モデルの構造はこれに限定されない。例えば、エンコーダ部1310及びデコーダ部1311の少なくとも一部分は、サポートベクタ―マシン(SVM)、決定木、ニューラルネットワーク(NN)、PCAをベースとするモデルが用いられてもよい。また、モデル131全体としては、TransNet、TransUNet、アテンションネットワーク、SegNet、全層畳み込みネットワーク(FCN)、特徴ピラミッドネットワーク、PSPNet、RefineNet、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)、UNet、USegnet、TransNet、TransUNet、Large Kernel Matters、Deeplabv3+等の構造をベースとしてもよい。
【0053】
(2)入力データ1340は、1または複数の所定の閾値により、段階的に指標化された接地圧値の二次元配列データであってもよい。同様に、出力データ1341は、1または複数の所定の閾値により、段階的に指標化された摩耗エネルギー値の二次元配列データであってもよい。さらに、入力データ1340は、上記指標化された接地圧値に基づく画像データであってもよい。この画像データは、例えば
図5に示すように、設置面の各座標に対応する画素を、指標化された接地圧値に対応する色で塗分けたものとすることができる。
図5の例では、接地圧値(kPa)は、その値に応じて8段階に指標化され、各画素にはそれぞれの指標に割り当てられた色が付与されている。同様に、出力データ1341は、上記指標化された摩耗エネルギー値に基づく画像データであってもよい。この画像データは、例えば
図6に示すように、設置面の各座標に対応する画素を、指標化された摩耗エネルギー値に対応する色で塗分けたものとすることができる。
図6の例では、摩耗エネルギー値(J/m
2)は、その値に応じて8段階に指標化され、各画素にはそれぞれの指標に割り当てられた色が付与されている。このように、入力データ1340及び出力データ1341の形式を変更する場合は、扱うデータの形式に合わせ、モデル131の構造も適宜選択することができる。
【0054】
(3)上述のように、入力データ1340及び出力データ1341の形式を変更する場合は、学習用データセット134の形式や、学習方法も適宜変更することができる。
【0055】
(4)上記実施形態では、予測装置1は1つの装置として構成されたが、各部10A~10E、記憶部13の機能は、複数の装置に分散されていてもよい。例えば、機械学習モデルの学習はネットワークを通じて提供されるサービスにより行い、構築されたモデル131を、予測装置1に保存することとしてもよい。すなわち、予測装置1と学習済みモデルの生成装置とは別体として構成されていてもよい。
【0056】
(5)予測装置1は、静的ばね定数、接地面の形状、接地圧分布、タイヤの形状、プロファイル、及び内部構造の少なくとも1つの静的特性に基づいて、摩耗特性、運動特性、振動特性、及びノイズ特性の少なくとも1つの動的特性を予測するように構成されてもよい。つまり、モデル131は、静的ばね定数、接地面の形状、接地圧分布、タイヤの形状、プロファイル、及び内部構造の少なくとも1つを表すデータを入力すると、摩耗特性、運動特性、振動特性、及びノイズ特性の少なくとも1つを表すデータを出力するように機械学習されてもよい。
【0057】
上述の静的ばね定数、接地面の形状、接地圧分布、タイヤの形状、プロファイル、及び内部構造を表すデータは、例えば以下の手段により取得することができる。静的ばね定数は静的ばね試験機による測定で、接地面の形状は接地面観測装置や上述したタイヤ接地圧計測装置による測定で、形状及びプロファイルはスキャナやプロファイル測定装置による測定で、内部構造はX線CTスキャナによる測定で、それぞれ取得することができる。また、摩耗特性、運動特性、振動特性、及びノイズ特性を表すデータは、例えば以下の手段により取得することができる。運動特性は、フラットベルト式タイヤ特性試験機や、インサイドドラム試験機による測定等で取得することができる。振動特性は、動的ばね試験機や、高速ユニフォミティ試験機による測定等で取得することができる。ノイズ特性は、大型無響実車試験室、音響ホログラフィ試験機、6分力試験機による測定等で取得することができる。摩耗特性は、上述した摩耗エネルギー値の測定装置による測定等で取得することができる。学習用データセット134は、これらの測定により得られたデータを適宜組み合わせることにより生成することができる。
【0058】
(6)予測装置1の制御部10は、CPUやGPUの他、ベクトルプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、その他人工知能専用チップ等を含んで構成されてもよい。また、制御部10の動作は、1または複数のプロセッサにより実行されてもよい。
【0059】
1 予測装置
10 制御部
10A 取得部
10B 導出部
10C 画面生成部
10D 生成部
10E 学習部
131 モデル