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特開2024-87405固体酸化物型燃料電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087405
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240624BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240624BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240624BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20240624BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M8/12 101
H01M8/1226
H01M8/1213
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202217
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】李 新宇
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB01
5H018BB03
5H018CC06
5H018EE02
5H018EE12
5H018HH01
5H018HH03
5H018HH05
5H126AA02
5H126BB06
5H126HH01
5H126HH02
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】 金属基板に対する密着性を向上させる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 固体酸化物型燃料電池は、厚み方向の貫通孔を有する金属基板と、前記金属基板上に設けられ、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、前記アノード上に設けられた電解質層と、を備え、前記多孔質金属層に含まれる結晶粒子のうち少なくともいずれかは、前記金属基板に入り込んでいる。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の貫通孔を有する金属基板と、
前記金属基板上に設けられ、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、
前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、
前記アノード上に設けられた電解質層と、を備え、
前記多孔質金属層に含まれる結晶粒子のうち少なくともいずれかは、前記金属基板に入り込んでいる、固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記多孔質金属層において、前記金属基板に接する結晶粒子のうち、10%以上が、前記金属基板に対して3μm以上入り込んでいる、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記多孔質金属層における平均結晶粒子径は、前記金属基板における平均結晶粒子径よりも小さい、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記多孔質金属層における平均結晶粒子径は、2μm以上150μm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記金属基板における平均結晶粒子径は、200μm以上3000μm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、前記アノード上に設けられた電解質層と、を備える積層体を準備する工程と、
厚み方向の貫通孔を有する金属基板に対して前記積層体を加圧焼成し、前記多孔質金属層に含まれる結晶粒子のうち少なくともいずれかが前記金属基板に入り込むようにする工程と、を含む、固体酸化物型燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、高い発電効率を有しているため、CO削減技術として注目されている。近年、自動車などで使用可能な固体酸化物型燃料電池システムを開発するためには、金属基板で支持するメタルサポートタイプの固体酸化物型燃料電池が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-158026号公報
【特許文献2】特表2004-512651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタルサポートタイプの固体酸化物型燃料電池では、金属基板に対する密着性が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、金属基板に対する密着性を向上させる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池は、厚み方向の貫通孔を有する金属基板と、前記金属基板上に設けられ、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、前記アノード上に設けられた電解質層と、を備え、前記多孔質金属層に含まれる結晶粒子のうち少なくともいずれかは、前記金属基板に入り込んでいる。
【0007】
上記固体酸化物型燃料電池の前記多孔質金属層において、前記金属基板に接する結晶粒子のうち、10%以上が、前記金属基板に対して3μm以上入り込んでいてもよい。
【0008】
上記固体酸化物型燃料電池の前記多孔質金属層における平均結晶粒子径は、前記金属基板における平均結晶粒子径よりも小さくてもよい。
【0009】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記多孔質金属層における平均結晶粒子径は、2μm以上150μm以下であってもよい。
【0010】
上記固体酸化物型燃料電池の前記金属基板における平均結晶粒子径は、200μm以上3000μm以下であってもよい。
【0011】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法は、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、前記アノード上に設けられた電解質層と、を備える積層体を準備する工程と、厚み方向の貫通孔を有する金属基板に対して前記積層体を加圧焼成し、前記多孔質金属層に含まれる結晶粒子のうち少なくともいずれかが前記金属基板に入り込むようにする工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属基板に対する密着性を向上させる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
図2】多孔質金属層、混合層、およびアノードの詳細を例示する拡大断面図である。
図3】積層方向を含む断面である。
図4】(a)および(b)は積層方向を含む断面である。
図5】燃料電池の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0015】
図1は、固体酸化物型の燃料電池100の積層構造を例示する模式的断面図である。図1で例示するように、燃料電池100は、一例として、金属基板5上に、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40、中間層50、およびカソード60がこの順に積層された構造を有する。複数の燃料電池100を積層させて、燃料電池スタックを構成してもよい。
【0016】
電解質層40は、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を主成分とする固体酸化物電解質層であり、ガス不透過性を有する緻密層である。電解質層40は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウム(ScYSZ)、YSZ(イットリア安定化酸化ジルコニウム)、Gd(ガドリニウム)がCeOにドープされたGDC(Gdドープセリア)などを主成分とすることが好ましい。ScYSZを用いる場合、Y+Scの濃度は6mol%~15mol%の間で酸化物イオン伝導性が最も高く、この組成の材料を用いることが望ましい。また、電解質層40の厚みは、20μm以下であることが好ましく、より望ましいのは10μm以下である。電解質は薄いほど良いが、両側のガスが漏れないように製造するためには、1μm以上の厚みが望ましい。
【0017】
カソード60は、カソードとしての電極活性を有する電極であり、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有する。例えば、カソード60は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料を主成分とする。当該セラミックス材料として、例えば、LaCoO系材料、LaMnO系材料、LaFeO系材料などを用いることができる。例えば、LaCoO系材料として、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)などを用いることができる。LSCは、Sr(ストロンチウム)がドープされたLaCoOである。
【0018】
中間層50は、電解質層40とカソード60との反応を防止する成分を主成分とする反応防止層である。中間層50の構成材料は、電解質層40の構成材料と異なっている。中間層50は、酸化物イオン伝導性を有しているが、カソードとしての電極活性を有していない。例えば、中間層50は、セリア(CeO)に添加物が添加された構造を有している。添加物は、特に限定されるものではない。例えば、中間層50は、GDC(例えば、Ce0.8Gd0.22-x)などを主成分とする。一例として、電解質層40がScYSZを含有し、カソード60がLSCを含有する場合には、中間層50は、以下の反応を防止する。
Sr+ZrO→SrZrO
La+ZrO→LaZr
【0019】
図2は、多孔質金属層10、混合層20、およびアノード30の詳細を例示する拡大断面図である。
【0020】
多孔質金属層10は、ガス透過性を有するとともに、混合層20、アノード30、および電解質層40を支持可能な部材である。したがって、多孔質金属層10は、混合層20、アノード30、および電解質層40の支持体としても機能する。多孔質金属層10は、複数の空隙を有する金属多孔体であり、例えば、Fe-Cr合金の多孔体などである。多孔質金属層10の材料の詳細については後述する。
【0021】
アノード30は、アノードとしての電極活性を有する電極であり、セラミックス材料の多孔体(電極骨格)を有する。多孔体には、金属成分が含まれていない。この構成では、高温還元雰囲気での焼成時に、金属成分の粗大化によるアノードの空隙率の低下が抑制される。また、多孔質金属層10の金属成分との合金化が抑制され、触媒機能低下が抑制される。
【0022】
アノード30の多孔体は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有している。アノード30の多孔体は、電子伝導性セラミックス31を含有している。電子伝導性セラミックス31として、例えば、組成式がABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、AサイトがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BサイトがTi、Crから選ばれる少なくとも1種であるペロブスカイト型酸化物を用いることができる。AサイトとBサイトのモル比は、B≧Aであってもよい。具体的には、電子伝導性セラミックス31として、LaCrO系材料、SrTiO系材料などを用いることができる。
【0023】
また、アノード30の多孔体は、酸化物イオン伝導性セラミックス32を含有している。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、ScYSZなどである。例えば、スカンジア(Sc)が5mol%~16mol%で、イットリア(Y)が1mol%~3mol%の組成範囲を有するScYSZを用いることが好ましい。スカンジアとイットリアの添加量が合わせて6mol%~15mol%となるScYSZがさらに好ましい。この組成範囲で、酸化物イオン伝導性が最も高くなるからである。なお、酸化物イオン伝導性セラミックス32は、例えば、酸化物イオンの輸率が99%以上の材料である。酸化物イオン伝導性セラミックス32として、GDCなどを用いてもよい。図2の例では、酸化物イオン伝導性セラミックス32として、電解質層40に含まれる固体酸化物と同じ固体酸化物を用いている。
【0024】
図2で例示するように、アノード30において、例えば、電子伝導性セラミックス31と酸化物イオン伝導性セラミックス32とが多孔体を形成している。この多孔体によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の多孔体の表面には、アノード触媒が担持されている。したがって、空間的に連続して形成されている多孔体において、複数のアノード触媒が空間的に分散して配置されている。アノード触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス33と、触媒金属34とが、多孔体の表面に担持されていることが好ましい。酸化物イオン伝導性セラミックス33として、例えば、YがドープされたBaCe1-xZr(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe1-xZr(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO(LSS)、GDCなどを用いることができる。触媒金属34として、Niなどを用いることができる。酸化物イオン伝導性セラミックス33は、酸化物イオン伝導性セラミックス32と同じ組成を有していてもよいが、異なる組成を有していてもよい。なお、触媒金属34として機能する金属は、未発電時には化合物の形態をとっていてもよい。例えば、Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、アノード触媒として機能する金属の形態をとるようになる。例えば、アノード触媒のD50%粒径は、10nm以上、1μm以下である。
【0025】
なお、燃料電池100は例えば600℃~900℃の高温で発電するため、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子が小さすぎると発電温度で当該セラミックス粒子が焼結し、ガスを流すための空隙が少なくおそれがある。そこで、断面において、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径に下限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径は、0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。なお、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子とは、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32のことである。
【0026】
一方、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子が大きすぎると、比表面積が低下し、電極反応に寄与する三相界面が減少し、発電特性が低下するおそれがある。そこで、断面において、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径に上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径は、3μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
アノード30が薄すぎると、電極反応に寄与する三相界面が少なくなり、発電特性が低下するおそれがある。そこで、アノード30の厚みに、下限を設けることが好ましい。たとえば、アノード30の厚みは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
【0028】
一方、アノード30が厚すぎると、発電反応に利用されるガスがより長い距離を拡散しなければならない。このガス拡散抵抗を抑えるために、アノード30の厚みに、上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の厚みは、15μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
アノード30の厚みは、例えば、異なる10点の厚みの平均値を算出することによって得ることができる。
【0030】
アノード30全体における空隙率が低すぎると、燃料ガスが十分に反応せず、発電性能が低下するおそれがある。そこで、アノード30の断面の全体における空隙率に下限を設けることが好ましい。例えば、アノード30全体における空隙率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
一方、アノード30全体における空隙率が高すぎると、層間の密着性が低下し、はがれるおそれがある。そこで、アノード30全体における空隙率に上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30全体における空隙率は、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
アノード30全体の空隙率は、断面写真において、アノード30の全体に対する、各空孔の合計面積の比率を算出することによって得ることができる。
【0033】
アノード30において、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32の代わりに、イオン電子混合伝導性セラミックスを用いてもよい。
【0034】
混合層20は、金属材料21とセラミックス材料22とを含有する。混合層20において、金属材料21とセラミックス材料22とがランダムに混合されている。したがって、金属材料21の層とセラミックス材料22の層とが積層されたような構造が形成されているわけではない。混合層20においても、複数の空隙が形成されている。金属材料21は、金属であれば特に限定されるものではない。図2の例では、金属材料21として、多孔質金属層10と同じ金属材料が用いられている。セラミックス材料22として、電子伝導性セラミックス31、酸化物イオン伝導性セラミックス32などを用いることができる。例えば、セラミックス材料22として、ScYSZ、GDC、SrTiO系材料、LaCrO系材料などを用いることができる。SrTiO系材料およびLaCrO系材料は高い電子伝導性を有するため、混合層20におけるオーム抵抗を小さくすることができる。なお、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32の代わりに、イオン電子混合伝導性セラミックを用いてもよい。
【0035】
図2で例示するように、混合層20において、例えば、金属材料21とセラミックス材料22とが多孔体を形成している。この多孔体によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の多孔体の表面には、複数の改質触媒が担持されている。改質触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス23と、触媒金属24とが、多孔体の表面に担持されている。したがって、金属材料21およびセラミックス材料22によって空間的に連続して形成されている多孔体において、複数の酸化物イオン伝導性セラミックス23および触媒金属24が空間的に分散して配置されている。改質触媒は、炭化水素ガスを水素ガスに改質することができるものであれば特に限定されるものではない。触媒金属24と酸化物イオン伝導性セラミックス23との組み合わせとして、例えば、NiとGDCとの組み合わせ、NiとYSZとの組み合わせ、NiとSDC(サマリアドープドセリア)との組み合わせなどを用いることができる。Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、改質触媒として機能する金属の形態をとるようになる。酸化物イオン伝導性セラミックス23は、酸化物イオン伝導性セラミックス33と同じ材料とすることが好ましい。触媒金属24は、触媒金属34と同じ材料とすることが好ましい。
【0036】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。カソード60には、空気などの、酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。カソード60においては、酸素と、外部電気回路から供給される電子とが反応して酸化物イオンになる。酸化物イオンは、電解質層40を伝導してアノード30側に移動する。
【0037】
一方、金属基板5には、炭化水素ガス、水蒸気などを含有する燃料ガスが導入される。燃料ガスは、多孔質金属層10の空隙を介して混合層20に到達する。燃料ガスは、混合層20の触媒金属24の触媒作用により、水素ガスを含む改質ガスに改質される。改質反応は、例えば、下記式で表すことができる。
2CH + 2HO → CO + 6H + CO
【0038】
改質ガスは、混合層20の空隙を介してアノード30に到達する。アノード30に到達した水素は、アノード30において電子を放出するとともに、カソード60側から電解質層40を伝導してくる酸化物イオンと反応して水(HO)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード60に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0039】
以上の発電反応において、触媒金属24は、改質反応の触媒として機能する。触媒金属34は、水素と酸化物イオンとの反応における触媒として機能する。電子伝導性セラミックス31は、水素と酸化物イオンとの反応によって得られる電子の伝導を担う。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、電解質層40からアノード30に到達した酸化物イオンの伝導を担う。
【0040】
このように、本実施形態に係る燃料電池100では、燃料ガスの改質と発電とが燃料電池100の内部で行なわれている。
【0041】
このような燃料電池においては、金属基板に対する密着性が求められている。本実施形態に係る燃料電池100は、金属基板5に対する密着性を向上させる構成を有している。以下、当該構成について説明する。
【0042】
図3は、積層方向を含む断面である。図3で例示するように、多孔質金属層10は、複数の結晶粒子11が結晶粒界12を介して焼結した構造を有している。また、金属基板5は、複数の結晶粒子51を有している。
【0043】
図4(a)で例示するように、金属基板5に接触する結晶粒子11のうちの少なくとも一部は、金属基板5と多孔質金属層10との界面よりも、金属基板5側に入り込んでいる。ここで、金属基板5と多孔質金属層10との界面は、図4(a)において点線で示され、積層方向を含む断面において、金属基板5と多孔質金属層10との境界付近における複数の空隙13の金属基板5側の最端の線を直線近似した線と定義することができる。金属基板5に接触する結晶粒子11が金属基板5側に入り込んでいることでアンカー効果が得られ、金属基板5と多孔質金属層10との密着性が向上する。それにより、金属基板5からの剥がれを抑制することができる。
【0044】
金属基板5に接触する結晶粒子11のうち、金属基板5と多孔質金属層10との界面よりも金属基板5側に入り込む結晶粒子11の数が多いほど、金属基板5と多孔質金属層10との密着性が向上する。本実施形態においては、金属基板5に接触する結晶粒子11のうち、金属基板5と多孔質金属層10との界面よりも金属基板5側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子11の個数の比率は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
次に、図3および図4(a)で例示するように、多孔質金属層10の空隙13は、結晶粒子11の外周によって構成される。すなわち、空隙13は、複数の結晶粒子11によって形成されている。したがって、空隙13のサイズは、結晶粒子11のサイズとほぼ同じになる。結晶粒子11が小さいと、細かい空隙が多数存在する状態となる。この場合、金属基板5の貫通孔から導入された燃料ガスは、多孔質金属層10を通過する際にランダムに面内に分布し、均一に発電できる。以上のことから、多孔質金属層10における結晶粒子11は、小さいほうが好ましい。
【0046】
そこで、本実施形態に係る燃料電池100においては、多孔質金属層10における平均結晶粒子径は、金属基板5における平均結晶粒子径よりも小さくなっていることが好ましい。この構成によれば、空隙13が小さくなり、多孔質金属層10内に多数の空隙13が存在するようになり、均一に発電できるようになる。なお、多孔質金属層10における結晶粒子11の結晶方位および結晶粒子径は、EBSD測定によって確認することができる。具体的には、図4(b)で例示するように、多孔質金属層10の断面のEBSD測定用サンプルを作製し、100~300倍の倍率で観察を行なう。等間隔L1(例えば、10μmとする)で多孔質金属層10の延びる方向と垂直方向に線を引き、引いた線と結晶粒子11とぶつかった点の距離、例えば、D1、D2、D3・・・・Dnを計測し、平均した値を平均粒径と定義することができる。
【0047】
多孔質金属層10における空隙13を小さくする観点から、平均結晶粒子径に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、多孔質金属層10における平均結晶粒子径は、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
一方、多孔質金属層10における平均結晶粒子径が小さすぎると、多孔質金属層10における空隙13も小さくなり、ガスが通りにくくなり、ガス拡散抵抗が増大し、発電特性が悪くなるおそれがある。そこで、多孔質金属層10における平均結晶粒子径に下限を設けることが好ましい。多孔質金属層10における平均結晶粒子径は、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0049】
また、金属基板5においては、結晶粒子51が大きいほど、電気伝導性および熱伝導性の両方が良好となる。そのため、金属基板5においては、結晶粒子51が大きい方が好ましい。そこで、金属基板5における平均結晶粒子径に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、金属基板5における平均結晶粒子径は、200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、400μm以上であることがさらに好ましい。
【0050】
一方、金属基板5における平均結晶粒子径が大きすぎると、金属基板5の強度が低下し、セル全体が反りやすくなる。そこで、金属基板5における平均結晶粒子径に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、金属基板5における平均結晶粒子径は、3000μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
多孔質金属層10の厚みは、例えば、0.05mm以上0.5mm以下であり、0.1mm以上0.4mm以下であり、0.2mm以上0.3mm以下である。
【0052】
金属基板5の厚みは、例えば、0.1mm以上1mm以下であり、0.2mm以上0.8mm以下であり、0.3mm以上0.6mm以下である。なお、コスト低減およびセルの反り抑制の観点から、金属基板5の厚みは、多孔質金属層10よりも厚く形成されていることが好ましい。
【0053】
以下、燃料電池100の製造方法について説明する。図5は、燃料電池100の製造方法のフローを例示する図である。
【0054】
(金属基板の作製工程)
金属基板5を用意し、機械加工で貫通孔を一定間隔で形成する。例えば、金属基板5として、厚み0.2mm~1mmのステンレス板(例えば、SUS304など)などを用い、機械加工で0.1mm以上5mm以下の貫通孔を一定間隔で形成する。
【0055】
(多孔質金属層用材料の作製工程)
多孔質金属層用材料として、金属粉末(例えば、粒径が10μm~500μm)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、消失材(有機物)、バインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。多孔質金属層用材料は、多孔質金属層10を形成するための材料として用いる。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と金属粉末との体積比は、例えば1:1~20:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。
【0056】
(混合層用材料の作製工程)
混合層用材料として、セラミックス材料22の原料であるセラミックス材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、金属材料21の原料である小粒径の金属材料粉末(例えば、粒径が1μm~10μm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と、セラミックス材料粉末および金属材料粉末と、の体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。セラミックス材料粉末は、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末とを含んでいてもよい。この場合、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とすることが好ましい。また、電子伝導性材料の代わりに電解質材料ScYSZ、GDCなどを用いても界面のはがれが無く、セルの作製が可能である。ただし、オーム抵抗を小さくする観点から、電子伝導性材料と金属粉末とを混合することが好ましい。
【0057】
(アノード用材料の作製工程)
アノード用材料として、電極骨格を構成するセラミックス材料粉末、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。電極骨格を構成するセラミックス材料粉末として、電子伝導性セラミックス31の原料である電子伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、酸化物イオン伝導性セラミックス32の原料である酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)などを用いてもよい。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と電子伝導性材料粉末との体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とする。
【0058】
(電解質層用材料の作製工程)
電解質層用材料として、酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、ScYSZ、YSZ、GDCなどであって、粒径が10nm~1000nm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比は、例えば6:4~3:4の範囲とする。
【0059】
(焼成工程)
まず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、多孔質金属層用材料を塗工することで、多孔質金属グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、混合層用材料を塗工することで、混合層グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、アノード用材料を塗工することで、アノードグリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、電解質層用材料を塗工することで、電解質層グリーンシートを作製する。例えば、多孔質金属グリーンシートを複数枚、混合層グリーンシートを1枚、アノードグリーンシートを1枚、電解質層グリーンシートを1枚、順に積層し、所定の大きさにカットする。その後、酸素分圧が10-20atm以下の還元雰囲気において1100℃~1300℃程度の温度範囲で焼成する。それにより、多孔質金属層10、混合層20、アノード30の電極骨格、電解質層40を備えるハーフセルを得ることができる。これらの多孔質金属層10、混合層20、アノード30の電極骨格、および電解質層40は、焼結体である。炉内に流す還元ガスは、H(水素)を不燃ガス(Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、N(窒素)など)で希釈したガスであってもよく、Hが100%のガスであってもよい。安全を考慮して、爆発限界までの上限を設けることが好ましい。例えば、HとArの混合ガスの場合には、Hの濃度は4体積%以下であることが好ましい。
【0060】
(金属基板への密着工程)
ハーフセルを機械加工後の金属基板5の上に載せて、ホットプレス機を用い、不活性ガス雰囲気、あるいは、還元雰囲気にて加圧焼成を行う。焼成することによって、多孔質金属層10および金属基板5の材料が互いに拡散する。それにより、金属基板5に接触する結晶粒子11のうちの少なくとも一部が、金属基板5と多孔質金属層10との界面よりも、金属基板5側に入り込むようになる。加圧焼成の際の焼成温度が高いほど、金属基板5側に入り込む結晶粒子11の数が多くなる。そこで、加圧焼成の際の焼成温度は、1100℃以上であることが好ましく、1200℃以上であることがより好ましく、1300℃以上であることがさらに好ましい。
【0061】
(アノード含浸工程)
次に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34の原料を、アノード30の電極骨格内に含浸させる。例えば、還元雰囲気で所定の温度で焼成するとGdドープセリアあるいはSc,YドープジルコニアとNiが生成するように、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの各硝酸塩または塩化物を水またはアルコール類(エタノール、2-プロパノール、メタノールなど)に溶かし、ハーフセルを含浸、乾燥させ、熱処理を必要回数繰り返す。
【0062】
(中間層形成工程)
中間層50に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックス(GDC、SDCなど)を、例えばPVD(物理気相成長)、PLD(パルスレーザアブレーション成膜)により電解質層40上に成膜することで、中間層50を成膜する。
【0063】
(カソード用材料の作製工程)
カソード用材料として、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:LaSrCoO)等の導電性セラミックス粉末を溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と、LSC粉末との体積比は、例えば6:4~1:4の範囲とする。
【0064】
(カソードの形成工程)
中間層上に、スクリーン印刷によって、作製したカソード用材料を印刷する。その後、窒素などの中性雰囲気において1000℃で焼成する。以上の工程により、酸化物系燃料電池が完成する。
【0065】
本実施形態に係る製造方法によれば、密着工程を実施することによって、金属基板5に接触する結晶粒子11のうちの少なくとも一部が、金属基板5と多孔質金属層10との界面よりも、金属基板5側に入り込むようになる。それにより、金属基板5に接触する結晶粒子11が金属基板5側に入り込んでいることでアンカー効果が得られ、金属基板5と多孔質金属層10との密着性が向上する。それにより、金属基板5からの剥がれを抑制することができる。
【0066】
アノード30の焼成後に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34を含浸させるため、焼成時に触媒が他の部材と反応することなどが防止される。また、密着工程の後に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34を含浸させるため、密着工程時に触媒が他の部材と反応することなどが防止される。
【実施例0067】
上記実施形態に係る製造方法に従って、燃料電池100を作製した。
【0068】
(実施例1)
機械加工でステンレスの金属基板に貫通孔を形成した。多孔質金属層用の多孔質金属グリーンシート、混合層用の混合層グリーンシート、アノード用のアノードグリーンシート、電解質層用の電解質層グリーンシートを順に積層し、焼成した。得られたハーフセルを、加圧焼成によって金属基板に密着させた。多孔質金属層用の多孔質金属グリーンシートにおける金属粉末の粒径を50μmとした。密着工程における焼成温度を1300℃とした。その後、酸化物イオン伝導性セラミックスおよび触媒金属の原料を、アノードの電極骨格内に含浸させた。電解質層上に、中間層として、GDCをPVD法で成膜した。中間層上に、LSCのペーストを印刷し、N雰囲気において1000℃で焼成した。
【0069】
断面のEBSD測定によって、多孔質金属層の結晶粒子が、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に入り込んでいることが観察された。多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率は、50%であった。100枚のサンプルについて、金属基板からの多孔質金属層の剥がれの有無を確認したところ、剥がれが確認されたのは0枚であった。これは、多孔質金属層における結晶粒子が金属基板に入り込んだからであると考えられる。
【0070】
次に、結晶粒子径を測定した。多孔質金属層における平均結晶粒径は、50μmであった。金属基板における平均結晶粒径は、800μmであった。発電特性を評価する際に得られたガス拡散抵抗は、比較的に低く、0.3Ω・cm程度であった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が金属基板の平均結晶粒子径よりも小さいことで小さくなり、高いガス流通性が得られたからであると考えられる。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
実施例2では、密着工程における焼成温度を1200℃とした。その他の製造条件は、実施例1と同じとした。
【0072】
断面のEBSD測定によって、多孔質金属層の結晶粒子が、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に入り込んでいることが観察された。多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率は、30%であった。100枚のサンプルについて、金属基板からの多孔質金属層の剥がれの有無を確認したところ、剥がれが確認されたのは1枚であり、少なかった。これは、多孔質金属層における結晶粒子が金属基板に入り込んだからであると考えられる。剥がれが1枚確認されたのは、多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率が実施例1よりは小さかったからであると考えられる。
【0073】
次に、結晶粒子径を測定した。多孔質金属層における平均結晶粒径は、50μmであった。金属基板における平均結晶粒径は、800μmであった。発電特性を評価する際に得られたガス拡散抵抗は、比較的に低く、0.3Ω・cm程度であった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が金属基板の平均結晶粒子径よりも小さいことで小さくなり、高いガス流通性が得られたからであると考えられる。
【0074】
(実施例3)
実施例3では、密着工程における焼成温度を1100℃とした。その他の製造条件は、実施例1と同じとした。
【0075】
断面のEBSD測定によって、多孔質金属層の結晶粒子が、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に入り込んでいることが観察された。多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率は、10%であった。100枚のサンプルについて、金属基板からの多孔質金属層の剥がれの有無を確認したところ、剥がれが確認されたのは10枚であり、少なかった。これは、多孔質金属層における結晶粒子が金属基板に入り込んだからであると考えられる。剥がれが10枚確認されたのは、多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率が実施例1よりは小さかったからであると考えられる。
【0076】
次に、結晶粒子径を測定した。多孔質金属層における平均結晶粒径は、50μmであった。金属基板における平均結晶粒径は、800μmであった。発電特性を評価する際に得られたガス拡散抵抗は、比較的に低く、0.3Ω・cm程度であった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が金属基板の平均結晶粒子径よりも小さいことで小さくなり、高いガス流通性が得られたからであると考えられる。
【0077】
(実施例4)
実施例4では、多孔質金属層用の多孔質金属グリーンシートにおける金属粉末の粒径を150μmとした。その他の製造条件は、実施例1と同じとした。
【0078】
断面のEBSD測定によって、多孔質金属層の結晶粒子が、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に入り込んでいることが観察された。多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率は、50%であった。100枚のサンプルについて、金属基板からの多孔質金属層の剥がれの有無を確認したところ、剥がれが確認されたのは0枚であり、少なかった。これは、多孔質金属層における結晶粒子が金属基板に入り込んだからであると考えられる。
【0079】
次に、結晶粒子径を測定した。多孔質金属層における平均結晶粒径は、150μmであった。金属基板における平均結晶粒径は、800μmであった。発電特性を評価する際に得られたガス拡散抵抗は、比較的に低く、0.6Ω・cm程度であった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が金属基板の平均結晶粒子径よりも小さいことで小さくなり、高いガス流通性が得られたからであると考えられる。ただし、実施例1~3と比較すると、ガス拡散抵抗は低くなった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が実施例1~3よりは大きくなったからであると考えられる。
【0080】
(実施例5)
実施例5では、多孔質金属層用の多孔質金属グリーンシートにおける金属粉末の粒径を500μmとした。また、金属基板は市販のSUS基板マーカーより比較的に粒径が小さくするような熱処理条件で作製して、結晶粒子径は400μmとした。その他の製造条件は、実施例1と同じとした。
【0081】
断面のEBSD測定によって、多孔質金属層の結晶粒子が、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に入り込んでいることが観察された。多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率は、30%であった。100枚のサンプルについて、金属基板からの多孔質金属層の剥がれの有無を確認したところ、剥がれが確認されたのは3枚であり、少なかった。これは、多孔質金属層における結晶粒子が金属基板に入り込んだからであると考えられる。剥がれが3枚確認されたのは、多孔質金属層における金属基板と接する結晶粒子のうち、金属基板と多孔質金属層との界面よりも金属基板側に3μm以上入り込んでいる結晶粒子の比率が実施例1よりは小さかったからであると考えられる。
【0082】
次に、結晶粒子径を測定した。多孔質金属層における平均結晶粒径は、500μmであった。金属基板における平均結晶粒径は、400μmであった。発電特性を評価する際に得られたガス拡散抵抗は、比較的に低く、3Ω・cm程度であった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が金属基板の平均結晶粒子径よりも小さいことで小さくなり、高いガス流通性が得られたからであると考えられる。ただし、実施例1~4と比較すると、ガス拡散抵抗は低くなった。これは、多孔質金属層の平均結晶粒子径が金属基板における平均結晶粒子径よりも大きく、多孔質金属層の空隙が比較的小さくなったからであると考えられる。
【0083】
(比較例1)
比較例1では、多孔質金属層を設けなかった。その他の製造条件は、実施例1と同じとした。比較例1では、アノードなどに剥がれが確認された。これは、多孔質金属層が存在しないため、金属基板への密着性を担保できなかったからであると考えられる。
【表1】
【0084】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
5 金属基板
10 多孔質金属層
11 結晶粒子
12 結晶粒界
13 空隙
20 混合層
21 金属材料
22 セラミックス材料
30 アノード
31 電子伝導性セラミックス
32 酸化物イオン伝導性セラミックス
33 酸化物イオン伝導性セラミックス
34 触媒金属
40 電解質層
50 中間層
51 結晶粒子
60 カソード
100 燃料電池
図1
図2
図3
図4
図5