(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087409
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】溶鉄の精錬方法、精錬装置および鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20240624BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20240624BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C1/02 110
C21C7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202226
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長野 真孟
(72)【発明者】
【氏名】則竹 貴史
(72)【発明者】
【氏名】亀田 澄広
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
【テーマコード(参考)】
4K013
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K013CC00
4K013CE01
4K013CF13
4K014AA03
4K014AB02
4K014AB03
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4K014BB01
4K014BB03
4K070AB02
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4K070BA07
4K070BA10
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4K070BB00
4K070BC02
4K070BC11
4K070BD18
4K070BE10
4K070EA01
4K070EA03
4K070EA07
4K070EA10
(57)【要約】
【課題】脱リン処理時に必要な媒溶材の量を明確な判断基準を基に決定することができる技術を提供する。
【解決手段】脱リン処理後のスラグを残留させた転炉型の容器内に高炉から出銑した溶銑を装入して脱珪処理を行い、脱珪処理終了時に所定のSi濃度および所定の溶湯温度の溶鉄ならびに所定の塩基度のスラグに調整する脱珪工程と、脱珪処理後の溶鉄およびスラグの一部を容器内に残留させ、所定量のスラグを排出する中間排滓工程と、容器内に残留させた脱珪後の溶鉄およびスラグに対して石灰系媒溶材を添加するとともに酸素を吹錬することによって溶鉄の脱リン処理を行う脱リン工程と、脱リン処理後の所定の塩基度のスラグの一部を容器内に残留させて出湯する出湯工程と、を含み、各工程を順次繰り返し行う溶鉄の精錬方法であって、脱リン工程では、送酸ランスの振動を計測し、計測された振動計測値に応じて脱リン処理に必要な媒溶材使用量を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉から出銑した溶銑を転炉型の容器内に装入して脱珪処理を行い、脱珪処理終了時に所定のSi濃度および所定の溶湯温度の溶鉄ならびに所定の塩基度のスラグに調整する脱珪工程と、
脱珪処理後の前記溶鉄と前記スラグの一部とを前記容器内に残留させ、所定量のスラグを排出する中間排滓工程と、
前記容器内に残留させた脱珪後の前記溶鉄および前記スラグに対して石灰系媒溶材を添加するとともに酸素を吹錬することによって溶鉄の脱リン処理を行う脱リン工程と、
脱リン処理後の所定の塩基度のスラグの一部を前記容器内に残留させて出湯する出湯工程と、
を含み、脱珪工程、中間排滓工程、脱リン工程および出湯工程を順次繰り返し行う溶鉄の精錬方法であって、
前記脱珪工程では、脱リン処理後の前記スラグを残留させた前記容器に高炉から出銑した前記溶銑を装入し、
前記脱リン工程では、前記酸素を吹錬する送酸ランスの振動を計測し、計測された送酸ランスの振動計測値に応じて前記媒溶材使用量を制御する、溶鉄の精錬方法。
【請求項2】
前記出湯工程では、スラグの塩基度が1.2以上である脱リン処理後の前記スラグのうち30mass%以上を前記容器内に残留させ、
前記脱珪工程では、脱珪処理終了時に、Si濃度を0.2mass%以下、溶湯温度を1240℃以上1400℃以下の溶鉄とし、スラグの塩基度を0.5以上1.5以下とし、
前記中間排滓工程では、脱珪処理後の前記スラグの40mass%以上を炉外に排出する、請求項1に記載の溶鉄の精錬方法。
【請求項3】
前記脱リン工程では、脱リン処理中に送酸ランスの振動計測値が所定値以下になったとき、前記媒溶材の添加を停止することと決定する、請求項1に記載の溶鉄の精錬方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法に用いる溶鉄の精錬装置であって、
転炉型の容器と、石灰系媒溶材の添加手段と、送酸ランスと、送酸ランスの振動を計測する振動測定装置と、計測した送酸ランスの振動計測値に応じて前記媒溶材の添加量を制御する制御手段と、を備える、溶鉄の精錬装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で精錬した溶鉄に、必要に応じて真空処理を含む二次精錬を施して成分調整したのち、鋳造して鋼素材とし、前記鋼素材を圧延して鋼材を製造する、鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鉄の精錬処理、特に、同じ転炉型の容器にて脱珪処理と脱リン処理の両方を行う溶鉄の精錬方法、精錬装置および鋼材の製造方法に関する。ここで、溶鉄には、高炉から出銑した溶銑、溶銑に冷鉄源を溶解させたもの、冷鉄源を加熱して溶解したものおよび溶鋼など該溶銑中の炭素の一部が精錬処理により除去されたものならびにそれらの混合物を含む。
【背景技術】
【0002】
溶銑は、これを転炉で脱炭精錬するのに先立って、この溶銑中のSiやPを予め除去する予備処理を行なうことが一般的である。その予備処理は、精錬用フラックス使用量の低減や溶鋼の高純度化、転炉操業時の過酸化防止によるマンガン歩留りの向上、精錬スラグ量の低減などを目的として実施されている。また、予備処理は、その後の脱炭工程の処理も含めた様々な方法が提案されている。
【0003】
ところで、予備処理時には精錬スラグが発生する。この精錬スラグを廃棄するのではなく、各種の用途に利用する必要がある。従来は、脱リン処理時に脱リン反応効率を高める目的でフッ素源である蛍石(CaF2)を使用していた。ところが、スラグの用途によってはフッ素などが溶出しないようにすることが求められる。そこで、フッ素源である蛍石を使用しないで予備処理を行なう方法が検討されてきた。また、近年では、製鉄業に対し、温室効果ガス排出量の削減要求もある。そのため、酸化鉄を還元するのに大きなエネルギーを必要とし、CO2排出量の多い高炉溶銑の使用割合を低減させる一方、鉄スクラップなどの冷鉄源の使用割合を増大させる精錬方法について検討されている。このような背景の下で、近年の予備処理については、精錬方法の改善を図りつつ、冷鉄源の使用比率を増大させる傾向にあることがわかる。
【0004】
また、溶銑の脱珪や脱リンを行なう予備処理の1つとして、溶銑に対して生石灰などの精錬剤(媒溶材)を添加すると共に気体酸素や酸化鉄等の固体酸素源を加えることにより、溶銑中のSiやPをスラグ中に除去する方法がある。また、予備処理のための容器としては、トーピードカーや高炉鍋などの搬送容器または転炉型容器(精錬炉)などを用いる。なかでも、多量のスクラップを使用するためには、炉容積の大きい転炉型容器を用いることが有利である。
【0005】
たとえば、特許文献1には、脱珪、脱リン、脱炭のプロセスにおいて、媒溶材使用量を抑制してP濃度を効率的に低減しつつスクラップ溶解のための熱源を確保して、鉄歩留りを向上させる溶銑の予備処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】内田 祐一、佐々木 直敬、三木 祐司、鉄と鋼、Vol.102(2016)、No.12、pp31-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に開示の技術では、中間排滓を伴うことからスラグの塩基度を吹錬中に判断することが難しく、脱リン処理における最適な塩基度やその際の媒溶材の必要量の予測が困難であった。そのため、脱リン処理のための媒溶材原単位削減が十分に行えなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、脱リン処理時に必要な媒溶材の量を、吹錬中に成分測定をすることなく明確な判断基準を基に決定することができる溶鉄の精錬方法、精錬装置および鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、脱リン処理中に、送酸ランスは、溶湯には浸からないものの、滓化してフォーミングしたスラグに接触し振動することを見出した。また、滓化が終了し、沈静化したスラグは、送酸ランスと接触せず、送酸ランスの振動が止まることを見出した。本発明はこれらの観察の結果をもとに開発したものである。
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる溶鉄の精錬方法は、高炉から出銑した溶銑を転炉型の容器内に装入して脱珪処理を行い、脱珪処理終了時に所定のSi濃度および所定の溶湯温度の溶鉄ならびに所定の塩基度のスラグに調整する脱珪工程と、脱珪処理後の前記溶鉄と前記スラグの一部とを前記容器内に残留させ、所定量のスラグを排出する中間排滓工程と、前記容器内に残留させた脱珪後の前記溶鉄および前記スラグに対して石灰系媒溶材を添加するとともに酸素を吹錬することによって溶鉄の脱リン処理を行う脱リン工程と、脱リン処理後の所定の塩基度のスラグの一部を前記容器内に残留させて出湯する出湯工程と、を含み、脱珪工程、中間排滓工程、脱リン工程および出湯工程を順次繰り返し行う溶鉄の精錬方法であって、前記脱珪工程では、脱リン処理後の前記スラグを残留させた前記容器に高炉から出銑した前記溶銑を装入し、前記脱リン工程では、前記酸素を吹錬する送酸ランスの振動を計測し、計測された送酸ランスの振動計測値に応じて前記媒溶材使用量を制御することを特徴とする。ここで、「塩基度」とは、質量基準でスラグ中の(SiO2)に対する(CaO)の濃度比をいう、以下に同じ。
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる溶鉄の精錬装置は、上記の方法に用いる溶鉄の精錬装置であって、転炉型の容器と、石灰系媒溶材の添加手段と、送酸ランスと、送酸ランスの振動を計測する振動測定装置と、計測した送酸ランスの振動計測値に応じて前記媒溶材の添加量を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼材の製造方法は、上記の方法で精錬した溶鉄に、必要に応じて真空処理を含む二次精錬を施して成分調整したのち、鋳造して鋼素材とし、鋼素材を圧延して鋼材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる溶鉄の精錬方法および精錬装置によれば、脱リン処理時に必要な媒溶材の量を、吹錬中に成分測定をすることなく明確な判断基準を基に決定することができる。特に、脱リン工程で送酸ランスの振動を計測し、スラグの状態の変化を適時に把握し、脱リン処理に必要な石灰系媒溶材の必要量を判断するので、媒溶材を過剰に添加する必要がなくなった。また、脱リン処理後に所定の塩基度のスラグを容器内に残留させることで、精錬処理全体の副原料原単位の削減につながる。くわえて、送酸ランスの振動を計測することでスラグのフォーミングが沈静化したことを把握でき、出湯時にスラグの漏出を抑制できた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態にかかる転炉型容器の縦断面概略図であり、(b)は、振動計測装置の模式上面図である。
【
図2】(A)~(E)は、本発明の一実施形態にかかる溶鉄の精錬方法を工程順に示す概略図である。
【
図3】上記実施形態にかかる溶鉄の精錬方法の脱リン工程におけるスラグの組成を示すFeO-CaO-SiO
2三元状態図である。
【
図4】発明例と従来例とを比較する、脱リン処理中に添加した石灰系媒溶材の量と炉下P濃度の関係を示すグラフである。
【
図5】発明例と従来例とを比較する、脱リン処理中に添加した石灰系媒溶材の原単位を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1(a)に本発明の一実施形態にかかる溶鉄の精錬方法に用いて好適な精錬装置を示す。この精錬装置は、転炉型の容器からなる転炉型精錬炉1として構成される。この精錬炉1では酸素の上吹きは昇降可能な上吹き用の送酸ランス2の先端から酸素含有ガス12を溶鉄9に向けて吹き付けることによって行なう。ここで、酸素含有ガス12としては純酸素ガスのほか、Arガスや窒素ガスなどの不活性ガスや二酸化炭素などの希釈ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いることができ、工業用純酸素が用いることが好ましい。また、ガスの底吹きは、この精錬炉1の底部に設けられた底吹き羽口3を使って行なう。底吹きガス13としては、酸素含有ガス、あるいはArガスや窒素ガスなどの不活性ガスが一般的である。くわえて、溶鉄9中に吹き込むことにより溶鉄9の攪拌を強化して冷鉄源の溶解を促進する機能を有するガス、さらには搬送用ガスと共に溶鉄中に媒溶材を吹き込む機能を有するようなガスであってもよい。底吹き羽口3を保護するような吸熱性のガス、たとえば炭化水素を吹き込むこともできる。なお、図中の符号4は、精錬後の溶鉄9を出湯するための出湯口である。
【0018】
本実施形態では、溶鉄の精錬には、2基以上の転炉型精錬炉1を用い、そのうちの少なくとも1基の転炉型精錬炉1を予備処理、つまり脱珪処理および脱リン処理に使用する。そして、残りの1基を、本実施形態の適用によって予備処理が施された溶鉄の脱炭精錬に使用する。例えば、予備処理用の転炉型精錬炉1にて予備処理を行ない、そして予備処理後の溶鉄9を脱炭精錬用の転炉型精錬炉に移し替えて脱炭処理を行なうようにすることが好ましい。
【0019】
本実施形態では、送酸ランス2の上部に振動を計測する振動計測装置20と、石灰系媒溶材16の添加手段としてのホッパー7およびシュート8と、計測した振動計測値に応じて石灰系媒溶材16の添加量を制御する制御手段としての制御装置21と、をさらに備える。
図1(b)に振動計測装置20の一例を模式上面図で表す。振動を計測する一軸型加速度ピックアップセンサ20aを2個用いることが好ましい。それぞれセンサの振動の検出方向20bを水平面内で交差させ、好ましくは直交させて、送酸ランス2の水平振動を計測する。替えて、三軸型加速度ピックアップであってもよい。振動計測値としては、振動加速度や振動加速度レベル、振動レベル、変位振幅や速度振幅のいずれでもよい。振動スペクトル解析により、特定周波数の振動の強度を測定してもよい。振動加速度を電位変換することが簡便で好ましい。たとえば、所定の電位の最大値を過去の振動計測値の最大値と結び付け、電位の零値をノイズとしての常時振動の最大値に設定することができる。
【0020】
制御装置21は、シーケンサやコンピュータで構成される。制御装置21は、制御部、記憶部、操作部、表示部、通信部等を備えていてもよく、各部をバスによって接続していてもよい。制御部は中央演算装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)等により構成されるコンピュータが例示される。制御部のCPUは、操作部の操作に応じて、記憶部、たとえば、記憶部内のプログラムを記憶する記憶領域に記憶されているシステムプログラムや、各種処理プログラムを読みだす。そして、CPUは、RAMの作業領域にプログラムを展開し、展開されたプログラムにしたがって、各種処理を実行し、制御手段の各機能を実現する。また、CPUは、バスを介して他の構成部から信号やデータを受け取ったり、制御信号や命令を送ったりする。そのほか、通信部を介して、振動計測装置20などの外部のセンサから情報を受け取ったり、石灰系媒溶材の添加手段に制御信号を送受信したりする。通信部は、他の機器や装置と有線または無線で通信するように構成される。
【0021】
記憶部は、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性の半導体メモリやハードディスク(HDD:Hard Disk Drive)等により構成される。記憶部は着脱可能なフラッシュメモリ等を含んでいてもよい。記憶部は、制御部において各種処理を実行するためのプログラムをはじめとする各種プログラムや、プログラムによる処理の実行に必要なパラメータ、または、処理結果等のデータを記憶する。記憶部に記憶されている各種プログラムはコンピュータにより読み取り可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部は当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0022】
通信部は、LAN(Local Area Network)アダプターやモデム、無線通信装置などを備え、通信手段により接続された振動計測装置20や添加手段との間の送受信を制御する。通信部は、たとえば、ネットワークカード等の通信用のインターフェースを備えるものであってもよい。通信部は、外部装置との間で各種データを送受信できるようになっている。たとえば、振動計測装置20が検出した情報は、この通信部を介して制御装置21に入力される。操作部は、カーソルキー、数字入力キーおよび各種機能キーを備えたキーボードやマウス、タッチパネルなどのポインティングデバイスやスティックコントローラを備え、キー操作やマウス操作などにより入力された指令信号を制御部に出力する。
【0023】
表示部は、たとえば、液晶ディスプレイ(LCD)やCRT、有機発光ダイオード(LED)などのモニターが例示される。振動計測装置20が検出した情報や添加手段の動作状況などを表示し、送酸ランス2の振動状態や石灰系媒溶材の添加状況を監視することができる。操作者が、表示部に表示された振動計測値に基づき。石灰系媒溶材の添加の停止などの指示を添加手段に送信することができる。振動計測値が所定値以下になったときやその状態が所定時間継続したときにフォーミングが沈静化したと判断することが好ましい。なお、この操作を自動制御とすることもできる。表示部には、操作者へのガイダンスを提示する目的で、フォーミングの沈静化の情報や石灰系媒溶材の添加を停止するよう作業指示を表示することもできる。
【0024】
転炉型精錬炉1を用いる本実施形態にかかる溶鉄の精錬方法は、
図2のフローに示すように、(A)溶銑装入ステップ、(B)脱珪処理ステップ、(C)中間排滓工程、(D)脱リン工程、(E)出湯工程、の順に行なうものであり、特に、同一炉においてこれらの工程を繰返し実施することにより、効率的な溶鉄の予備処理が可能となる。溶銑装入ステップと脱珪処理ステップとを合わせて脱珪工程とする。
【0025】
[溶銑装入ステップ]
まず、溶銑装入ステップ(A)について説明する。このステップ(A)では、転炉型精錬炉1内に前回の溶鉄の予備処理において生成した脱リン処理終了後のスラグ(以下、単に「脱リン処理後スラグ」という)17を残留させたまま、装入鍋14より新たな溶銑9aを装入する。または、その溶銑装入前に鉄スクラップなどの冷鉄源11を装入した後に溶銑9aを装入する。予め装入する冷鉄源11としては、日本鉄源協会の「鉄スクラップ検収統一規格」に規定されている鉄スクラップの他、直接還元鉄、冷銑などの鉄を主成分とするものでもよい。
【0026】
ここで、次回の精錬に備え、精錬炉1内に残留させておく前回の脱リン処理後スラグ17は、後に続く脱珪処理時のスラグ塩基度を調節する目的で使用されるものである。この脱リン処理後スラグの塩基度、つまり、質量基準でスラグ中の(SiO2)に対する(CaO)の濃度比(CaO)/(SiO2)(以下、単に「塩基度」という)は1.2以上が好ましく、より好ましくは1.4以上とする。その理由は、この前回の脱リン処理終了時の脱リン処理後スラグ17の塩基度が1.2未満では、このスラグを残留させても脱珪処理における塩基度調節には不十分なおそれがあるからである。そのため、脱珪処理で多量の石灰系媒溶材を添加することが必要になるからである。なお、上記脱リン処理後スラグの塩基度の上限については特に限定しない。通常は、溶鉄の脱リン処理でのスラグの塩基度を3.0程度以下とする。そこで、これ以上に塩基度を高める必要はない。
【0027】
また、炉内に残留させておく前回の脱リン処理後スラグ17の量は、塩基度の調節を効果的に行なうためには、前回の溶鉄の脱リン処理時に生成したスラグ量の30mass%以上が好ましい。60mass%以上とすることがより好ましい。本実施形態では脱リン処理を経て出湯した後、炉内に残留させたスラグの全量を新たな溶鉄の脱珪処理に活用すれば脱珪処理での塩基度調節にさらに効果的である。その上、このような方法を継続的に行えば、排出される予備処理スラグは脱珪処理終了時のスラグ(以下、「脱珪処理後スラグ」という)のみで均質なものとなる。したがって、予備処理スラグに塩基度の高い脱リン処理後スラグが混入しない。そのため、水和反応によるスラグの膨張やアルカリの溶出といった問題も生じない。ゆえに、スラグの利材化を図る上でも本実施形態は極めて有効である。
【0028】
なお、上記脱リン処理後スラグは、比較的高塩基度で、比較的高融点であり、比較的低温(1350℃程度以下)であることから流動性は小さい。そのため、この脱リン処理後スラグ上に冷鉄源を装入しても、冷鉄源がスラグにくるまれて溶解が遅れるようなことはない。いわゆる脱炭スラグを炉内に残留させておくときのように多量の冷却材を添加して固化させるような、熱収支上および物質収支上非効率的な操作は必要なくなる。また、この脱リン処理後スラグは、上記の特性から固相に富んで流動性が低いことから、組織内に大量の微細な金属鉄分を含有している。そのため、スラグを固化し、粉砕後磁選処理した後でも、10mass%程度以上の金属鉄分を含んでいる。従来、このスラグを系外に排出していた。本実施形態によれば、この脱リン処理後スラグを次回の精錬処理に持ち越すことができるので、この脱リン処理後スラグ中の金属鉄分の大部分を溶鉄中に回収して、鉄損失を削減する効果もある。一方、脱珪処理後スラグについては、流動性が比較的高いため、該スラグ中の金属鉄分が粗大化しやすい。したがって、このようなスラグは、スラグの粉砕および磁選処理後に回収されずにスラグ中に残留するような金属鉄分は少ない。それゆえ、本実施形態では、溶鉄の精錬処理全体を通じてスラグ中への鉄損失を削減できる。
【0029】
[脱珪処理ステップ]
次に、
図2(B)に示す脱珪処理ステップ(B)について説明する。このステップ(B)は、転炉型精錬炉1を直立させ、送酸ランス2を介して溶鉄9に酸素含有ガス12を供給し、脱珪を行なう処理である。この脱珪処理においては、ホッパー5に収容されたSi源15およびホッパー7に収容された石灰系媒溶材16を、それぞれシュート6およびシュート8を介して転炉型精錬炉1内に添加する。そのほか、熱源となる炭材やSi源あるいは酸素源となる酸化鉄なども同様に添加する。脱珪処理のための酸素源としては、多量の冷鉄源11を溶解させる観点からは、吸熱量の大きい酸化鉄を用いずに酸素含有ガス12のみを用いることが好ましい。特に純酸素を用いることが好ましい。
【0030】
この脱珪処理において、溶銑9a中に含まれるSiあるいはSi源15および冷鉄源11に含有していて溶解により溶鉄中に移行するSiは、酸素源と反応(Si+O2→SiO2)して脱珪される。そのため、その後の脱リン処理における反応効率を高めるのに役立つ。この脱珪処理反応時に酸化熱が発生し、この酸化熱で溶湯温度が上昇して溶鉄中の冷鉄源11の溶解が促進される。この脱珪処理段階でのスラグの組成は、炉内に予め残留させた前回の脱リン処理後スラグ17の量およびその組成の推定値と、上記反応により生成するSiO2の生成量とを考慮して決定する。
【0031】
すなわち、脱珪処理中のスラグの塩基度は、0.8以上1.5以下に調整することが好ましい。その理由は、脱珪処理中のスラグ塩基度が0.8よりも小さいと、溶鉄中の[Si](mass%)濃度によっては、脱リン処理後スラグ17の脱リン能低下によって復燐する現象、つまり溶鉄中の[P]濃度の上昇が見られるからである。一方、このスラグ塩基度が1.5よりも大きいと、未滓化CaOの増大による固相率が上昇するために、脱リン処理後スラグ17の流動性が悪くなり、このスラグを排滓できない場合が生じる。好ましいスラグの塩基度の上限は1.2程度である。
【0032】
次に、脱珪処理終了時のスラグの塩基度は、0.5以上1.5以下になるように調節することが好ましい。この段階でのスラグ(脱珪処理後スラグ)の塩基度が0.5未満では、炉内に残留させた前回の脱リン処理後スラグ17から復燐して溶鉄中の[P]濃度の上昇を招き、後工程での脱リン負荷が大きくなって効率的でないからである。したがって、脱珪処理終了時の脱珪処理後スラグの塩基度は0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上とする。また、この段階でのスラグ塩基度が1.5より高くなると、スラグの流動性が低下するため、次の中間排滓時の排滓量が少なくなったり排滓量の制御が難しかったりする問題がある。それは、石灰系媒溶材を削減するうえでも効率的でない。したがって、脱珪処理終了時のスラグ塩基度は1.5以下が好ましく、より好ましくは1.2以下とする。なお、塩基度の調節には、生石灰や石灰石、ドロマイトなどの石灰系媒溶材の他、脱炭スラグや脱リンスラグ、取鍋スラグなどから選ばれる製鋼スラグを媒溶材として用いることができる。
【0033】
脱珪処理終了時の溶湯温度は、1240℃以上1400℃以下に調節することが好ましい。それは1400℃よりも高温になると、炉内に残留させた脱リンスラグから復燐を起こして溶鉄中[P]濃度の上昇を招くからである。そのため、後工程での脱リン負荷が大きくなって効率的ではない。それだけでなく、内張りのマグネシアカーボンレンガの損耗を防止するためにスラグ中のマグネシア(MgO)濃度を上昇させることも必要となってコスト高となるからである。より好ましくは1350℃以下とする。一方、1240℃未満では、スラグの流動性が低下し、次の中間排滓時の排滓量が少なくなったり排滓量の制御が困難になったりする問題がある。くわえて、スクラップの溶解速度が低下するからである。より好ましくは1260℃以上とする。
【0034】
また、この段階での溶湯温度というのは、のちの脱リン工程において、脱リンを効率よく行なうためにも制御することが必要である。たとえば、脱珪処理終了時の溶湯温度を1350℃以下とすれば、脱リン処理において温度調節のために添加する鉄鉱石などの冷却材を大幅に削減することができる。なお、同一炉において脱珪処理と脱リン処理を続けて行なう場合、脱リン処理前にもスクラップを添加することは作業時間の点で困難であるという事情もある。また、処理中に炉上から添加できる冷鉄源は、整粒された高価なものであったり、製鉄所内で発生する地金など量的に限られたものであったりする。そのため、冷鉄源を脱リン処理時に定常的に大量に使用することは難しい。実際には炉上投入装置で使用できる副原料の種類数も制約される。その場合、冷鉄源を炉上から添加しないこともある。要するに、従来、脱リン処理工程において利用している冷却材は、鉄鉱石などの酸化鉄に限られていて、スクラップなどの安価な冷鉄源を十分に活用できないのが普通である。
【0035】
一般に、脱珪処理段階というのは、安価な冷鉄源の使用量を増大させることは比較的容易である。これによって脱珪処理終了時の溶湯温度を1350℃以下とすることができる。このことにより、脱リン処理段階での酸化鉄の使用量を大幅に削減することができるようになる。その結果、酸化鉄の分解反応による大きな吸熱分を削減でき、その熱量分を脱珪処理での冷鉄源溶解に振り分けることができるようになる。なお、脱珪処理終了時の溶湯温度が低すぎると、冷鉄源が溶け残るおそれがある。ただし、溶け残った冷鉄源は溶鉄と共に炉内に保持されて、次の脱リン処理段階までに溶解を進行させることが可能である。すなわち、冷鉄源については、脱リン処理終了時までに溶解が完了していれば操業上の問題は生じない。
【0036】
なお、脱珪処理後の溶湯温度は、熱電対等による測定値を用いてもよいし、熱収支からの推算値を用いてもよい。熱収支からの推算方法では、個別の装置条件や操業条件に応じて係数を調節したり、変数を追加あるいは削除したりして適用することができる。なお、脱珪処理後にスクラップの溶け残りがあると、測定値の方が推算値よりも若干高くなる傾向はあるが、誤差程度であって使用に差し支えない。
【0037】
ここで、酸化物となるSiは、溶銑9a、冷鉄源11および添加物に含まれるものの合計である。そのうち、溶銑9a中の[Si]濃度は、毎チャージ装入前の溶銑から採取した試料の迅速分析値を用いる。ただし、高炉の出銑成分など他の分析値を用いて演算するなどして代用する方法を用いてもよい。また、各種冷鉄源11中のSi濃度は、例えば、ロット毎の代表試料の分析値が用いられる。冷銑では溶銑と同程度の濃度で安定している場合が多い。また、スクラップ中のSi濃度は、発生源による変動はあるものの、平均的には銑鉄の1/10程度以下の濃度で安定しているためこれを代表値としても用いてよいし、無視しても差し支えはない。
【0038】
また、上記添加物中には、上記酸化物となる以下のSi含有物質をあげることができる。酸化可能な形態で存在するSi含有物質として、酸化物でないSi含有物質がある。これは珪化鉄や金属Si、炭化Si、窒化Siあるいはその他の珪化物として含有するものを指す。代表的な添加物としては、フェロシリコンの他、炭化Siを約60mass%含む粉体をブリケットに成型したもの(以下、炭化Siブリケットという)などが例示される。添加物中の酸化物でないSiの分析方法としては、JIS G 1312-1~3:2011に記載されたフェロシリコンの分析方法がある。その他、Siおよびその他の含有元素の分析、X線回折法による化合物の分析などを組み合わせて推定することができる。含有元素の分析法として、全珪素分析や酸可溶珪素分析、全炭素分析、全酸素分析、全窒素分析、熱質量分析、温度履歴を調整した燃焼法による炭素分析などが例示される。
【0039】
添加物中にはその他に炭素を含有する。この炭素としては、コークスあるいは土状黒鉛などの炭材の他、前述の炭化Siなどの炭化物中の炭素が用いられる。また、媒溶材としては、生石灰や軽焼ドロマイト、マグネシアクリンカなどの副原料が使用される。その他、脱リンスラグ、脱炭スラグ、取鍋スラグなどのスラグも酸化カルシウム源あるいは酸化マグネシウム源として使用できる。また、安価な副原料の例としては、カルシウムあるいはマグネシウムの炭酸化物や水酸化物などを利用してもよい。ただし、これらは吸熱量が大きいため大量に使用する場合は他の媒溶材と区別して熱収支の推算値を修正することが好ましい。
【0040】
次に、本実施形態では、冷鉄源原単位を調節するが、短時間で多量の冷鉄源を溶解させるために、発熱量の大きいSi源を熱源として適量使用してもよい。この場合、装入時あるいは脱珪処理時に添加する酸化物でないSiの原単位を、装入する溶銑9aと冷鉄源11の合計質量当たり2~10kg/t-溶鉄の範囲とすることが好ましい。より好ましくは4~8kg/t-溶鉄の範囲である。この点に関し、Si原単位が10kg/t-溶鉄を超えるように添加すると、脱珪処理でのSiO2生成量が過大となる。そして、前回精錬の脱リン処理後スラグを全量炉内に残したまま脱珪処理を行っても、さらに塩基度調節のための酸化カルシウム源を多量に添加する必要が生じてしまう。そして、炉内スラグ量も多くなり、精錬コスト増大などのおそれがある。また、Si原単位が2kg/t-溶鉄未満では、Siの酸化反応による発熱量が小さくて冷鉄源の溶解に効果的でない。そのうえ脱珪処理段階で珪酸の生成量が減少し、塩基度の高い脱リン処理後スラグを多量に炉内に残留させることになる。その場合、脱珪処理後スラグの塩基度が高くなり、その後の排滓に障害となり、熱的にも資源としても無駄なSiO2源を添加して塩基度を調節する必要が生じるおそれがある。この点、Si原単位が4~8kg/t-溶鉄の範囲であれば、脱珪処理後スラグの塩基度を調整するうえでも、また冷鉄源溶解のための熱源を確保するうえでも、好ましい。
【0041】
添加するSi源としては、フェロシリコンを用いることができる。また、より安価な炭化Siを主成分とする炭化Siブリケットや炭化Siを主成分とする廃棄耐火物などを使用することが好ましい。なお、熱源としてこのSi源のみを使用する必要はなく、生産性が低下しない範囲で炭材などの他の熱源を併用してもよい。その炭材は、脱珪処理終了時の溶銑中[C]濃度が3.3mass%以上となるように、脱炭量等を予測して添加することが好ましい。それは3.3mass%未満では、その後に続く脱リンおよび脱炭の工程において熱源が不足するからである。それと共に、スクラップ等の冷鉄源表面での浸炭速度が低下し、冷鉄源の溶解速度の低下を招くからである。
【0042】
このように、本実施形態の脱珪処理にあっては、脱珪処理終了時の溶湯温度を適切な範囲に制御すると共に、珪素を熱源として利用する。それで、溶銑と冷鉄源の合計質量(t)当たり100~250kg/t-溶鉄という多量の原単位の冷鉄源を使用しても生産性の低下や精錬コストの上昇を招くことがない。さらに、冷鉄源の溶解と溶鉄の予備処理精錬を効率よく行なうことができる。ただし、冷鉄源原単位が250kg/t-溶鉄超えでは、さらなる熱源が必要となってコストの上昇を招いたり、吹錬時間が長くなって生産性が低下したりするおそれがある。また、冷鉄源の装入設備の制約からも使用量をさらに増やすことは効率的でない。
【0043】
なお、後で詳述するが、脱珪処理後スラグ10の排滓性を高めるためには、転炉型精錬炉1内でスラグに適度なフォーミングを起こさせることが好ましい。そのためには溶鉄中の炭素とスラグ中の酸化鉄の反応によって発生するCOガスの発生速度を高めることが有効である。したがって、次の中間排滓工程において安定した排滓率を得るためには、溶銑中および添加したSi源中のSiを酸化するのに必要な化学量論以上の酸素を供給することが好ましい。
【0044】
脱珪処理中に溶鉄に供給する酸素の原単位は、化学量論的に脱珪に必要な量に2Nm3/t-溶鉄以上、より好ましくは4Nm3/t-溶鉄以上を加えた量とすることが好適である。本実施形態では、このような送酸を行なって脱珪処理終了時における溶鉄中[Si]濃度を0.2mass%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1mass%以下、さらに好ましくは0.05mass%以下とする。このことによって、脱珪処理後に排滓する際にもフォーミング状態を維持して排滓性を良好に保つことができる。それと共に、スラグから溶鉄への復燐を抑制することができるようになる。脱珪処理のための酸素吹錬は、上吹き送酸速度が1~2Nm3/(min・t-溶鉄)が好ましい。同時に、底吹きガスの吹き込み速度は0.02~0.2Nm3/(min・t-溶鉄)程度のときに、前記の効果が得られることを確認している。
【0045】
なお、溶鉄中の[Si]濃度の制御は、上記のスラグの塩基度の制御および溶湯温度の制御と組み合わせることが好ましい。そうすることによって、前回の処理における脱リン処理後スラグを全量炉内に残したまま溶鉄の脱珪処理を行なっても、復燐を招くことなく脱リン処理後スラグ中の石灰分を有効に活用することができる。また、この[Si]濃度、スラグの塩基度および溶湯温度の制御を組み合わせると共に、前回の処理における脱リン処理後スラグを炉内に残留させることによって、スラグ中の(P2O5)濃度を高めることができる。このことによってもスラグのフォーミングは促進される。とくに、このスラグ中の(P2O5)はスラグの表面張力を低下させる効果があり、溶鉄との反応や微細気泡の分散を促進する。そのことから、全鉄濃度(T.Fe)が10mass%程度といった比較的低い酸化鉄濃度においても、スラグのフォーミングを維持して排滓性を良好に保つことができるものと考えられる。
【0046】
[中間排滓工程]
次に、
図2(C)に示す中間排滓工程(C)について説明する。本実施形態にかかる溶鉄の精錬方法では、上述した脱珪処理ステップの後に排滓処理を行う。つまり、前記脱珪処理時に発生した大量のSiO
2を含む低塩基度の脱珪処理後スラグを該転炉型精錬炉1から排出する中間排滓の処理を行なう。脱珪処理後スラグ10の中間排滓は、次工程の脱リン処理において、適切なスラグ塩基度に調節するための石灰系媒溶材の使用量を低減するために有効である。また、本実施形態では、前回の溶鉄の精錬処理時に生成した脱リン処理後スラグを大量に炉内に残留させたまま新たな溶銑の脱珪処理を行なう。その場合、スラグから溶鉄への復燐を防止するように脱珪処理するため、脱珪スラグ中の(P
2O
5)濃度が従来よりも高くなる。脱珪処理後スラグを大量に残留させた場合、次の脱リン工程における炉内スラグ中の(P
2O
5)量が過大になって脱リン効果が低下することから、これを防止する上でも重要である。
【0047】
本実施形態にかかる溶鉄の精錬方法において特徴的なことは、前述した(A)~(E)の処理を繰返し連続して実施する場合において、脱珪処理後スラグの排出が不十分だと(P2O5)の炉内への蓄積が進むことから注意を要する。それは、脱リン処理段階において炉内スラグ中の(P2O5)量が多くなりすぎると、スラグ中の(P2O5)濃度の上昇により脱リン反応効率が低下して処理後の溶鉄中[P]濃度が上昇するからである。くわえて、脱リン反応のために必要な石灰系媒溶材の使用量が増大するからである。
【0048】
そこで、本実施形態において、脱珪処理後スラグの排滓率は、少なくとも40mass%以上が好ましく、より好ましくは60mass%以上とすることである。ここで、排滓率(mass%)は排出スラグの質量を脱珪処理終了時炉内スラグの質量で除した値の百分率とする。排滓率が40mass%未満では、上記のように次工程の脱リン処理における石灰系媒溶材の使用量が増大するからである。また、これによってスラグ量が増大するとスラグフォーミングを抑制することができなくなり、脱リン処理時に炉口からのスラグ噴出が発生し、スラグ噴出による操業障害を招くことがある。
【0049】
このように、本実施形態にかかる溶鉄の精錬方法では、脱珪処理終了時のスラグの塩基度を0.5~1.5の範囲内となるように、脱珪処理終了時の溶湯温度が1240℃以上1400℃以下となるようにすることが好ましい。さらに酸素原単位を適性化してスラグフォーミングを促進するようにすれば、良好なスラグの流動性とガスホールドアップを確保することができる。そして、脱珪処理終了後に炉体を傾動して炉口からスラグを流出させるだけで良好な排滓率を得ることができるようになる。溶鉄を流出させないように炉体の傾動角度を調節してスラグを流出させる場合、ある程度のスラグ量は炉内に残留させざるを得ない。ただし、フォーミングしているスラグの容積率は1/10程度であり真比重に比べて嵩比重が低下している。そのため、炉内に残留するスラグ量を低めに制御できる。なお、スラグのフォーミングが沈静化してしまった場合、スラグの排滓率の低下を招くため、脱珪処理終了から排滓のための炉体傾動開始までの時間は4分以内で行なうことが好ましい。
【0050】
この中間排滓工程の段階において求められる脱珪処理終了時のスラグの塩基度は、0.5未満ではスラグの粘性が高くなり、良好な排滓率を確保することができないおそれがある。一方、この脱珪処理終了時のスラグの塩基度が1.5を超えると、固相スラグが生じてスラグの流動性が低下し、排滓率が低下するおそれがある。このように、スラグの排滓性および排滓率を確保するという観点からは、スラグの塩基度を0.5~1.5程度にすることが好ましい。ただし、脱珪処理ステップにおけるスラグからの復燐防止や石灰系媒溶材の使用量を削減させるという観点からは、スラグの塩基度を0.8~1.2の範囲に調整することがより好ましい。
【0051】
また、中間排滓工程の段階における脱珪スラグ中の全鉄(T.Fe)、すなわち酸化鉄と溶鉄またはスラグ中に懸濁する炭素を含有する粒鉄との反応により生成する微細なCO気泡によってスラグフォーミングが進行する。適正な(T.Fe)濃度範囲を検証するため、別途確認したところ、(T.Fe)<5mass%の場合、スラグフォーミングが不十分であることがわかった。そのため、転炉傾動によりスラグ排出する際の駆動力が小さく、十分な排出が困難であった。一方、(T.Fe)>25mass%の場合、流滓中のCO気泡発生が急激に進行し、突沸現象が確認されたため、スラグ排出作業を中断するなどを余儀なくされた。このようにして、脱珪処理終了時、すなわち排滓工程におけるスラグ中の(T.Fe)の適正範囲を、(T.Fe)=5~25mass%とすることが好ましい。
図3のFeO-CaO-SiO
2三元状態図に、それぞれの境界を2点鎖線で示す。
【0052】
また、この中間排滓工程の排滓処理において、脱珪処理終了時のスラグの温度が低い、たとえば、1240℃未満であると固相スラグの生成に伴うスラグ粘性の上昇、液相スラグの粘性上昇を招く。そして、スラグの流動性が低下して排滓率の低下を招く。したがって、使用する溶銑の初期条件によって、冷鉄源原単位を調節すると共に、炭化Siやフェロシリコンなどの熱源添加量および酸素原単位のうち少なくとも一つを調節することが好ましい。そして、脱珪処理終了時の溶湯温度を1240℃以上とすることにより、スラグ温度も1240℃以上となる。より好ましくは、溶湯温度を1260℃以上とすることである。
【0053】
ただし、生成した脱珪処理後スラグのすべてを排滓してしまうと、次工程の脱リン処理において新たに添加する石灰系媒溶材の滓化が遅れる。そして、脱リン反応の阻害要因となる。これに対し、蛍石を添加して滓化を促進させることができる。しかし、それでは、上述したように、スラグの用途が制約を受け、スラグの利用が阻害されることになる。また、鉄鉱石などの酸化鉄を添加して滓化を促進する方法もある。ただし、この方法だと酸化鉄の分解吸熱反応による熱損失が大きい。そのため、冷鉄源の溶解に利用できる熱量が減少するので得策ではない。
【0054】
したがって、脱リン処理段階において蛍石や酸化鉄を使用しないで石灰系媒溶材の滓化を促進するには、炉内に適度な量の好ましい組成・温度の前記脱珪処理後スラグを残留させることが好ましい。そのスラグ中のSiO2や酸化鉄を利用して滓化を促進することが有効である。なお、脱珪処理後スラグを排出する際には、炉体の傾転角度を調節することにより4~20kg/t-溶鉄の脱珪処理後スラグが炉内に残留するように排出することが好ましい。好適脱珪スラグ排滓率40mass%以上、より好ましくは60mass%以上を維持することができる。これにより、脱リン処理段階で酸化鉄を使用しなくても脱リン反応を効率よく促進できる。そして、酸化鉄の分解吸熱による反応熱分を間接的に脱珪処理での冷鉄源溶解のための熱として活用することが可能となる。この点、脱珪処理後スラグの残留量が4kg/t-溶鉄未満では、次の脱リン工程において石灰系媒溶材の滓化促進のために酸化鉄を使用することが必要となる。一方、これが20kg/t-溶鉄を超えると、石灰系媒溶材の使用量が増大したり、脱リン処理の操業が阻害されたりするおそれがある。
【0055】
[脱リン工程]
次に、
図2(D)に示す脱リン工程(D)について説明する。中間排滓工程(C)の後は、同じ転炉型精錬炉1内に残留させた溶鉄9に石灰系媒溶材を添加すると共に、酸素源となる酸素吹錬を行なって、溶鉄9の脱リン処理を行なう。この脱リン工程において使用する酸素源は、送酸ランス2からの酸素含有ガス12のみを使用することが熱ロスを低減するうえで好ましい。溶鉄中の[P]は、供給される酸素源中の酸素により酸化されて燐酸化物(P
2O
5)となる。この燐酸化物が、石灰系媒溶材の滓化によって生成するスラグ中に安定的に取り込まれて、溶鉄の脱リンが進行する。脱リン反応を効率よく進めるには、脱リン処理後のスラグ(当該精錬処理時の脱リン処理後スラグ17)の塩基度は1.2以上3.0以下となるように石灰系媒溶材を添加し、かつ送酸によって脱リン処理終了後の溶湯温度が1280℃以上1360℃以下となるようにして脱リン処理を行なうことが好ましい。より好ましくは、スラグの塩基度を1.4以上とする。
【0056】
この脱リン処理時に生成した脱リン処理後スラグ17のスラグ塩基度が1.2未満あるいは溶湯温度が1360℃超えでは、スラグの脱リン能が低下して、処理後の溶鉄中[P]濃度を十分に低下できない場合がある。一方、そのスラグ塩基度が3.0を超えると石灰系媒溶材の滓化が困難となり、石灰系媒溶材の利用効率が低下し、コストが上昇するおそれがある。溶湯温度が1280℃未満でも、やはり石灰系媒溶材の滓化が困難となり、脱リン能が低下するほか、後工程の脱炭処理時の熱量が不足するおそれがある。そして、脱炭工程の段階における熱量を十分に確保するには、脱リン処理終了後の溶湯温度を1280℃以上1360℃以下とすることが好ましい。それと共に、脱リン処理終了時の溶鉄中炭素濃度が2.8mass%以上となるように、脱珪処理および脱リン処理での酸素使用量や炭素添加量を調節することが好ましい。
【0057】
本実施形態に従う操業を行なうに当たり、溶鉄の[Si]濃度、[P]濃度、溶湯温度が変化し、脱珪処理終了時の溶湯温度が低いケース、もしくは溶鉄の[P]濃度が高く脱リン負荷が大きいケースが生じる。その場合、脱リン工程における石灰の溶解促進を図るため、粉状の石灰もしくは炭酸カルシウム等の石灰源を送酸ランスからまたは別途設置したランスから酸素ガスもしくは不活性ガスにより溶湯面に吹付けることが有効である。上吹き酸素が溶湯面に照射された領域では、直接脱炭反応や鉄酸化が生じることにより、2000℃程度の高温になっており、その領域に粉状の石灰源が添加されることで、溶融が促進される。
【0058】
本実施形態に従う溶鉄の精錬方法では石灰の溶融に寄与するSiO2含有スラグを脱珪処理後に排出するため、粉状石灰源の投射による早期溶解が有効となる。また、この方法では、溶鉄中のSiの酸化熱を利用し、冷鉄源の溶解を促進される。したがって、溶鉄中のスクラップの溶解速度については、より高温での操業が好ましい。しかし、脱珪処理中の復燐の防止および脱リン処理の促進について、高温処理はむしろ不利になる。そこで、本実施形態では上記の上吹き酸素が噴射される領域に粉状の酸化鉄を同時に上吹きすることにより、酸化鉄の分解反応(吸熱反応)によって反応領域のみを局所的に冷却することが好ましい。そしてし、マクロ的には高温である条件において、脱リンもしくは復燐の抑制を図ることが可能となる。ここで、石灰や炭酸カルシウムを含有する副原料としては、それぞれ単体だけでなく、転炉脱炭吹錬時に発生するスラグなどの再利用物等でも構わない。また、酸化鉄についても鉄鉱石等の単体だけでなく、圧延スケール、焼結鉱粉、集塵ダストなどの再利用物を使用してもよい。
【0059】
本実施形態では、送酸ランス2の上部に設置した振動計測装置20で送酸ランス2の振動を計測しながら脱リン処理を行う。中間排滓後のスラグは上述したようにフォーミングを維持した状態で脱リン処理に供することになる。送酸ランス2は溶湯には接触しないものの、フォーミングしたスラグとは接触する。それによって、送酸ランス2に振動が発生する。石灰系媒溶材16の添加によって、脱リン処理中のスラグの塩基度が上昇してくると、フォーミングが沈静化し、スラグが送酸ランスに接触しなくなる。そこで、計測した送酸ランスの振動計測値、たとえば、振動加速度が所定の値以下になったときに、制御手段によって石灰系媒溶材の添加を停止する。
【0060】
たとえば、FeO濃度が20mass%のスラグ組成を
図3のFeO-CaO-SiO
2三元状態図に、点線で示す。
図3中に矢印で脱リン処理中のスラグの塩基度の推移を示す。
図3中にハッチングで非特許文献1に記載の2CaO・SiO
2飽和領域を示す。非特許文献1では、この領域にリン濃化相が析出するとしている。中間排滓後のスラグの塩基度は約0.8であり、融点が1350℃程度である。石灰系媒溶材の添加によりスラグの塩基度が1.3程度(たとえば、
図3中の空丸(○)印)に上昇すると、ハッチングしたリン濃化相の析出する領域に達する。このリン濃化相の析出する領域は融点が1400℃以上であり、高融点の2CaO・SiO
2が固相として析出する領域になる。脱リン処理時の溶湯温度は脱リン反応促進のため1400℃以下に管理する。このようなスラグの状態変化、つまりフォーミングの沈静化を動的に送酸ランス2の振動を計測することで把握できる。つまり、従来用いていた物質収支から求める計算塩基度より高精度に塩基度1.2~1.3のスラグ組成を把握できるようになる。脱リン処理に適したスラグの塩基度1.5程度を超えて過剰に石灰系媒溶材を添加する必要がなくなる。さらに、フォーミングの沈静化を確認したうえで出湯できるため、出湯時に炉口からスラグが漏出する事故を抑制できる。
【0061】
[出湯工程]
次に、
図2(E)に示す出湯工程(E)について説明する。この工程(E)では、上記の脱リン工程を経て溶鉄中の[P]濃度が所定の値にまで低下したとき、該転炉型精錬炉1を出湯口が設置された側に傾転させて、転炉型精錬炉内の溶鉄を溶湯保持容器(図示せず)に出湯する。なお、前記所定の[P]濃度としては、0.030mass%以下とすることが好ましい。出湯工程では容器内にスラグの塩基度が1.2以上である脱リン処理後のスラグのうち30mass%以上を残留させることが好ましい。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る溶鉄の精錬方法においては、溶鉄の脱リン処理終了後に出湯した後に、炉内に残留させた脱リン処理後スラグの少なくとも一部を排出しないまま残す。そこに新たな溶鉄を装入して脱珪処理を行なうという連続的な処理になる。したがって、転炉型精錬炉(予備処理炉)から排出されるスラグの多くは脱珪処理後スラグとなり、比較的塩基度の高い脱燐処理後スラグの混入を低減することができる。それは、脱リン処理後スラグが混入していると、アルカリの溶出や水和反応による膨張のおそれがあってスラグの用途が制約されるのを避けるためである。特に、脱リン処理後スラグを全く排出しない方法では、このような問題が全く生じないため、スラグの処理を単純化できるうえ、高付加価値の用途にも適用が可能となる。これは溶鉄の予備処理を本実施形態のように1つの転炉を使って連続して繰返し行なうようにする方法の場合、特にその効果が大きい。
【0063】
くわえて、本実施形態では脱リン処理時に添加する石灰系媒溶材の量を必要最小限とすることができる。溶鉄の精錬処理全体の副原料原単位の削減に寄与する。
【0064】
[鋼材の製造方法]
本発明にかかる他の実施形態は、上記方法で精錬した溶鉄に、必要に応じて真空処理を含む二次精錬を施して成分調整したのち、鋳造して鋼素材とし、鋼素材を圧延して鋼材を製造する、鋼材の製造方法である。二次精錬には、RH式真空処理、気泡による攪拌、機械式攪拌、電磁攪拌や取鍋精錬などを用いることができる。鋳造には、造塊・分塊法、通常の連続鋳造法や薄スラブ連続鋳造法などを用いることができる。圧延後の鋼材として、熱間圧延鋼板、厚板、形鋼、棒鋼や線材が挙げられる。
【実施例0065】
図1の構成を有する溶鉄の精錬装置および振動計測装置20を用いて、溶鉄の精錬処理を行った。転炉型精錬炉1は400tの容量のであり、送酸ランス2の送酸速度は最大600Nm
3/minである。溶鉄の精錬処理では、脱リン工程を除き、上記好適範囲で操業した。発明例と従来例とで、脱リン処理前の溶鉄[P]濃度、溶湯温度ほかの条件、および、脱リン処理中の送酸速度、石灰系媒溶材の添加速度ほかの条件、脱リン処理後の目標[P]濃度、目標溶湯温度は、同等として比較した。
【0066】
発明例は、送酸ランス2の上部に振動測定装置20を設置し、送酸ランス2の水平振動を計測した。測定された振動加速度は、電圧に変換した。最大の電圧が過去に測定した振動加速度の実績のうち最大値となるように設定し、常時振動(ノイズ)の最大値が零となるように設定した。振動計測値としての電圧が零を超えているときは、送酸ランスが振動している、つまり、送酸ランスにフォーミングしたスラグが接触しているものと判断した。そして、石灰系媒溶材の添加を継続した。振動計測値としての電圧が継続して10sのあいだ零値であるときにスラグのフォーミングが沈静化したものとして、石灰系媒溶材の添加を停止した。
【0067】
従来例は、中間排滓後に残留するスラグ量を推定し、物質収支から脱リン処理後にスラグの塩基度が好適範囲になるように石灰系媒溶材の添加量を定めた。発明例、従来例いずれも脱リン処理中にスラグの塩基度測定は行わなかった。
【0068】
発明例と従来例との脱リン処理結果を、
図4および
図5に示す。
図4は発明例と従来例の、1回処理あたり石灰系媒溶材添加量(kg/ch)と出湯後の溶鉄中[P]濃度(炉下[P]濃度)(mass%)の関係を示す。発明例は空丸(〇)印でプロットし、一次回帰の近似直線を破線で示す。従来例は×印でプロットし、一次回帰の近似直線を点線で示す。
図5は発明例と従来例の、脱リン処理時に添加する石灰系媒溶材の溶鉄1t当たりの原単位を表す。
図5中の棒グラフは原単位の平均値であり、バラツキの範囲をエラーバーで示す。この結果、発明例は、炉下[P]濃度のばらつきが狭く管理されており、従来例に比べ、脱リン処理時の石灰系媒溶材の原単位を約1.4kg/t-溶鉄削減することができた。発明例と従来例とで炉下[P]濃度の平均値に大きな差異はなかった。
【0069】
本明細書中において、質量の単位である「t」は103kgを表す。気体の体積の単位に付す記号「N」は、0℃、101325Paの標準状態の値を表す。記号[M]は元素Mが溶銑や溶鉄中に溶解していることを表す。記号(R)は、化学式Rの化合物がスラグ中に含有していることを表す。
本発明の溶鉄の精錬方法、精錬装置および鋼材の製造方法によれば、脱リン処理時の送酸ランスの振動を計測して石灰系媒溶材の添加量を制御するので媒溶材を過剰に添加する必要がなくなった。出湯時のスラグ流出のおそれが低減した。もって、溶鉄の精錬処理全体の生産性が向上し、産業上有用である。
本発明では、脱リン処理時に送酸ランスの振動とスラグ塩基度との関係を用いて石灰系媒溶材の使用量を制御した。そのほか、振動の変化と、反応の終点やスロッピングなどの異常現象とが関連付けできるプロセスに適用して好適である。