(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087417
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240624BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240624BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20240624BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20240624BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1226
H01M8/1213
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202237
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】多田 咲
(72)【発明者】
【氏名】李 新宇
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018CC06
5H018EE02
5H018EE10
5H018HH03
5H018HH04
5H126AA02
5H126BB06
5H126GG08
5H126HH01
5H126HH02
5H126JJ03
5H126JJ04
(57)【要約】
【課題】 ガス拡散抵抗を低減することができる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 固体酸化物型燃料電池は、厚み方向の貫通孔を複数有する金属基板と、前記金属基板上に設けられ、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、を備え、前記金属基板の前記多孔質金属層側の主面に、複数の前記貫通孔を接続する溝が形成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の貫通孔を複数有する金属基板と、
前記金属基板上に設けられ、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、
前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、を備え、
前記金属基板の前記多孔質金属層側の主面に、複数の前記貫通孔を接続する溝が形成されている、固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記金属基板の厚みは、0.2mm以上1mm以下である、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記金属基板は、フェライト系ステンレスである、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記貫通孔の径は、0.1mm以上6mm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
複数の前記貫通孔のピッチは、前記貫通孔の径の1.2倍以上5倍以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記溝の幅は、前記貫通孔の径の1/10以上1/2以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
前記溝の深さは、前記金属基板の厚みの1/10以上1/2以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項8】
前記金属基板において、複数の前記貫通孔が、複数の格子点のそれぞれに配置されている、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項9】
前記貫通孔は、最近接の4つの貫通孔と前記溝によって接続されている、請求項8に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項10】
前記貫通孔は、最近接の4つの貫通孔と、前記4つの貫通孔の次に最近接の4つの貫通孔と、前記溝によって接続されている、請求項8に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項11】
厚み方向の貫通孔を複数有し、一方の主面に複数の前記貫通孔を接続する溝が形成されている金属基板と、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層上にアノードが設けられたハーフセルとを用意する工程と、
前記ハーフセルの前記アノード側を前記金属基板の前記一方の主面に対して加圧焼成する工程と、を含む、固体酸化物型燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、高い発電効率を有しているため、CO2削減技術として注目されている。近年、自動車などで使用可能な固体酸化物型燃料電池システムを開発するためには、金属基板で支持するメタルサポートタイプの固体酸化物型燃料電池が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-158026号公報
【特許文献2】特表2004-512651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2では、セルのガス透過性を確保するため、金属基板支持体に孔を空けて電極を印刷する方法を開示している。しかしながら、セルにおいて、基板孔上に位置する部位と基板孔上に位置しない部位とで、ガス拡散性に差が生じ、ガス拡散抵抗が高くなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ガス拡散抵抗を低減することができる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池は、厚み方向の貫通孔を複数有する金属基板と、前記金属基板上に設けられ、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられたアノードと、を備え、前記金属基板の前記多孔質金属層側の主面に、複数の前記貫通孔を接続する溝が形成されている。
【0007】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記金属基板の厚みは、0.2mm以上1mm以下であってもよい。
【0008】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記金属基板は、フェライト系ステンレスであってもよい。
【0009】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記貫通孔の径は、0.1mm以上6mm以下であってもよい。
【0010】
上記固体酸化物型燃料電池において、複数の前記貫通孔のピッチは、前記貫通孔の径の1.2倍以上5倍以下であってもよい。
【0011】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記溝の幅は、前記貫通孔の径の1/10以上1/2以下であってもよい。
【0012】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記溝の深さは、前記金属基板の厚みの1/10以上1/2以下であってもよい。
【0013】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記金属基板において、複数の前記貫通孔が、複数の格子点のそれぞれに配置されていてもよい。
【0014】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記貫通孔は、最近接の4つの貫通孔と前記溝によって接続されていてもよい。
【0015】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記貫通孔は、最近接の4つの貫通孔と、前記4つの貫通孔の次に最近接の4つの貫通孔と、前記溝によって接続されていてもよい。
【0016】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法は、厚み方向の貫通孔を複数有し、一方の主面に複数の前記貫通孔を接続する溝が形成されている金属基板と、金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層上にアノードが設けられたハーフセルとを用意する工程と、前記ハーフセルの前記アノード側を前記金属基板の前記一方の主面に対して加圧焼成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガス拡散抵抗を低減することができる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
【
図2】多孔質金属層、混合層、およびアノードの詳細を例示する拡大断面図である。
【
図4】(a)および(b)は貫通孔の径およびピッチを例示する図である。
【
図5】金属基板のアノード側の主面を例示する図である。
【
図7】金属基板のアノード側の主面を例示する図である。
【
図8】金属基板のアノード側の主面を例示する図である。
【
図9】金属基板のアノード側の主面を例示する図である。
【
図10】(a)および(b)は溝が延びる方向に垂直な面で断面図である。
【
図11】燃料電池の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0020】
図1は、固体酸化物型の燃料電池100の積層構造を例示する模式的断面図である。
図1で例示するように、燃料電池100は、一例として、金属基板5上に、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40、中間層50、およびカソード60がこの順に積層された構造を有する。複数の燃料電池100を積層させて、燃料電池スタックを構成してもよい。金属基板5は、厚み方向に貫通する1または複数の貫通孔51を有している。
【0021】
電解質層40は、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を主成分とする固体酸化物電解質層であり、ガス不透過性を有する緻密層である。電解質層40は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウム(ScYSZ)、YSZ(イットリア安定化酸化ジルコニウム)、Gd(ガドリニウム)がCeO2にドープされたGDC(Gdドープセリア)などを主成分とすることが好ましい。ScYSZを用いる場合、Y2O3+Sc2O3の濃度は6mol%~15mol%の間で酸化物イオン伝導性が最も高く、この組成の材料を用いることが望ましい。また、電解質層40の厚みは、20μm以下であることが好ましく、より望ましいのは10μm以下である。電解質は薄いほど良いが、両側のガスが漏れないように製造するためには、1μm以上の厚みが望ましい。
【0022】
カソード60は、カソードとしての電極活性を有する電極であり、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有する。例えば、カソード60は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料を主成分とする。当該セラミックス材料として、例えば、LaCoO3系材料、LaMnO3系材料、LaFeO3系材料などを用いることができる。例えば、LaCoO3系材料として、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)などを用いることができる。LSCは、Sr(ストロンチウム)がドープされたLaCoO3である。
【0023】
中間層50は、電解質層40とカソード60との反応を防止する成分を主成分とする反応防止層である。中間層50の構成材料は、電解質層40の構成材料と異なっている。中間層50は、酸化物イオン伝導性を有しているが、カソードとしての電極活性を有していない。例えば、中間層50は、セリア(CeO2)に添加物が添加された構造を有している。添加物は、特に限定されるものではない。例えば、中間層50は、GDC(例えば、Ce0.8Gd0.2O2-x)などを主成分とする。一例として、電解質層40がScYSZを含有し、カソード60がLSCを含有する場合には、中間層50は、以下の反応を防止する。
Sr+ZrO2→SrZrO3
La+ZrO3→La2Zr2O7
【0024】
図2は、多孔質金属層10、混合層20、およびアノード30の詳細を例示する拡大断面図である。
【0025】
多孔質金属層10は、ガス透過性を有するとともに、混合層20、アノード30、および電解質層40を支持可能な部材である。したがって、多孔質金属層10は、混合層20、アノード30、および電解質層40の支持体としても機能する。多孔質金属層10は、複数の空隙を有する金属多孔体であり、例えば、Fe-Cr合金の多孔体などである。多孔質金属層10の材料の詳細については後述する。
【0026】
アノード30は、アノードとしての電極活性を有する電極であり、セラミックス材料の多孔体(電極骨格)を有する。多孔体には、金属成分が含まれていない。この構成では、高温還元雰囲気での焼成時に、金属成分の粗大化によるアノードの空隙率の低下が抑制される。また、多孔質金属層10の金属成分との合金化が抑制され、触媒機能低下が抑制される。
【0027】
アノード30の多孔体は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有している。アノード30の多孔体は、電子伝導性セラミックス31を含有している。電子伝導性セラミックス31として、例えば、組成式がABO3で表されるペロブスカイト型酸化物であって、AサイトがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BサイトがTi、Crから選ばれる少なくとも1種であるペロブスカイト型酸化物を用いることができる。AサイトとBサイトのモル比は、B≧Aであってもよい。具体的には、電子伝導性セラミックス31として、LaCrO3系材料、SrTiO3系材料などを用いることができる。
【0028】
また、アノード30の多孔体は、酸化物イオン伝導性セラミックス32を含有している。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、ScYSZなどである。例えば、スカンジア(Sc
2O
3)が5mol%~16mol%で、イットリア(Y
2O
3)が1mol%~3mol%の組成範囲を有するScYSZを用いることが好ましい。スカンジアとイットリアの添加量が合わせて6mol%~15mol%となるScYSZがさらに好ましい。この組成範囲で、酸化物イオン伝導性が最も高くなるからである。なお、酸化物イオン伝導性セラミックス32は、例えば、酸化物イオンの輸率が99%以上の材料である。酸化物イオン伝導性セラミックス32として、GDCなどを用いてもよい。
図2の例では、酸化物イオン伝導性セラミックス32として、電解質層40に含まれる固体酸化物と同じ固体酸化物を用いている。
【0029】
図2で例示するように、アノード30において、例えば、電子伝導性セラミックス31と酸化物イオン伝導性セラミックス32とが多孔体を形成している。この多孔体によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の多孔体の表面には、アノード触媒が担持されている。したがって、空間的に連続して形成されている多孔体において、複数のアノード触媒が空間的に分散して配置されている。アノード触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス33と、触媒金属34とが、多孔体の表面に担持されていることが好ましい。酸化物イオン伝導性セラミックス33として、例えば、YがドープされたBaCe
1-xZr
xO
3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe
1-xZr
xO
3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO
3(LSS)、GDCなどを用いることができる。触媒金属34として、Niなどを用いることができる。酸化物イオン伝導性セラミックス33は、酸化物イオン伝導性セラミックス32と同じ組成を有していてもよいが、異なる組成を有していてもよい。なお、触媒金属34として機能する金属は、未発電時には化合物の形態をとっていてもよい。例えば、Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、アノード触媒として機能する金属の形態をとるようになる。例えば、アノード触媒のD50%粒径は、10nm以上、1μm以下である。
【0030】
なお、燃料電池100は例えば600℃~900℃の高温で発電するため、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子が小さすぎると発電温度で当該セラミックス粒子が焼結し、ガスを流すための空隙が少なくおそれがある。そこで、断面において、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径に下限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径は、0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。なお、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子とは、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32のことである。
【0031】
一方、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子が大きすぎると、比表面積が低下し、電極反応に寄与する三相界面が減少し、発電特性が低下するおそれがある。そこで、断面において、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径に上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径は、3μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
アノード30が薄すぎると、電極反応に寄与する三相界面が少なくなり、発電特性が低下するおそれがある。そこで、アノード30の厚みに、下限を設けることが好ましい。たとえば、アノード30の厚みは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
【0033】
一方、アノード30が厚すぎると、発電反応に利用されるガスがより長い距離を拡散しなければならない。このガス拡散抵抗を抑えるために、アノード30の厚みに、上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の厚みは、15μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
アノード30の厚みは、例えば、異なる10点の厚みの平均値を算出することによって得ることができる。
【0035】
アノード30全体における空隙率が低すぎると、燃料ガスが十分に反応せず、発電性能が低下するおそれがある。そこで、アノード30の断面の全体における空隙率に下限を設けることが好ましい。例えば、アノード30全体における空隙率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
一方、アノード30全体における空隙率が高すぎると、層間の密着性が低下し、はがれるおそれがある。そこで、アノード30全体における空隙率に上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30全体における空隙率は、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
アノード30全体の空隙率は、断面写真において、アノード30の全体に対する、各空孔の合計面積の比率を算出することによって得ることができる。
【0038】
アノード30において、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32の代わりに、イオン電子混合伝導性セラミックスを用いてもよい。
【0039】
混合層20は、金属材料21とセラミックス材料22とを含有する。混合層20において、金属材料21とセラミックス材料22とがランダムに混合されている。したがって、金属材料21の層とセラミックス材料22の層とが積層されたような構造が形成されているわけではない。混合層20においても、複数の空隙が形成されている。金属材料21は、金属であれば特に限定されるものではない。
図2の例では、金属材料21として、多孔質金属層10と同じ金属材料が用いられている。セラミックス材料22として、電子伝導性セラミックス31、酸化物イオン伝導性セラミックス32などを用いることができる。例えば、セラミックス材料22として、ScYSZ、GDC、SrTiO
3系材料、LaCrO
3系材料などを用いることができる。SrTiO
3系材料およびLaCrO
3系材料は高い電子伝導性を有するため、混合層20におけるオーム抵抗を小さくすることができる。なお、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32の代わりに、イオン電子混合伝導性セラミックを用いてもよい。
【0040】
図2で例示するように、混合層20において、例えば、金属材料21とセラミックス材料22とが多孔体を形成している。この多孔体によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の多孔体の表面には、複数の改質触媒が担持されている。改質触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス23と、触媒金属24とが、多孔体の表面に担持されている。したがって、金属材料21およびセラミックス材料22によって空間的に連続して形成されている多孔体において、複数の酸化物イオン伝導性セラミックス23および触媒金属24が空間的に分散して配置されている。改質触媒は、炭化水素ガスを水素ガスに改質することができるものであれば特に限定されるものではない。触媒金属24と酸化物イオン伝導性セラミックス23との組み合わせとして、例えば、NiとGDCとの組み合わせ、NiとYSZとの組み合わせ、NiとSDC(サマリアドープドセリア)との組み合わせなどを用いることができる。Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、改質触媒として機能する金属の形態をとるようになる。酸化物イオン伝導性セラミックス23は、酸化物イオン伝導性セラミックス33と同じ材料とすることが好ましい。触媒金属24は、触媒金属34と同じ材料とすることが好ましい。
【0041】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。カソード60には、空気などの、酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。カソード60においては、酸素と、外部電気回路から供給される電子とが反応して酸化物イオンになる。酸化物イオンは、電解質層40を伝導してアノード30側に移動する。
【0042】
一方、金属基板5には、炭化水素ガス、水蒸気などを含有する燃料ガスが導入される。燃料ガスは、貫通孔51および多孔質金属層10の空隙を介して混合層20に到達する。燃料ガスは、混合層20の触媒金属24の触媒作用により、水素ガスを含む改質ガスに改質される。改質反応は、例えば、下記式で表すことができる。
2CH4 + 2H2O → CO + 6H2 + CO2
【0043】
改質ガスは、混合層20の空隙を介してアノード30に到達する。アノード30に到達した水素は、アノード30において電子を放出するとともに、カソード60側から電解質層40を伝導してくる酸化物イオンと反応して水(H2O)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード60に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0044】
以上の発電反応において、触媒金属24は、改質反応の触媒として機能する。触媒金属34は、水素と酸化物イオンとの反応における触媒として機能する。電子伝導性セラミックス31は、水素と酸化物イオンとの反応によって得られる電子の伝導を担う。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、電解質層40からアノード30に到達した酸化物イオンの伝導を担う。
【0045】
このように、本実施形態に係る燃料電池100では、燃料ガスの改質と発電とが燃料電池100の内部で行なわれている。
【0046】
図3は、金属基板5の斜視図である。金属基板5の材料は、特に限定されるものではないが、例えば、オーステナイト系ステンレス、フェライト系ステンレスなどであり、SUS430、SUS304、Crofer22などである。本実施形態においては、一例としてフェライト系ステンレスを用いる。金属基板5の厚みは、例えば、0.2mm以上1mm以下である。貫通孔51は、空隙になっていて気体以外の物質が存在していないことが好ましいが、他の部材が部分的に延在してきていてもよい。貫通孔51が備わっていることで、燃料ガスの通気性が向上する。ただし、貫通孔51が小さすぎると、金属基板5が十分な通気性を実現しないおそれがある。そこで、本実施形態においては、貫通孔51のサイズに下限を設けることが好ましい。具体的には、金属基板5の面内方向において、貫通孔51の径を0.1mm以上とすることが好ましい。一方、貫通孔51が大きすぎると、支持体10を形成するためのペーストが貫通孔51内に入り込んで十分な通気性が得られないおそれがある。そこで、本実施形態においては、貫通孔51のサイズに上限を設けることが好ましい。具体的には、貫通孔51の径を6mm以下とすることが好ましい。
【0047】
例えば、貫通孔51は、
図4(a)で例示するように、金属基板5に対する平面視で円形状を有している。金属基板5に対する平面視において、当該円形状は、0.1mm以上、6mm以下の直径を最大長さLとして有している。
図4(b)で例示するように、貫通孔51は、金属基板5に対する平面視で矩形状などの他の形状を有していてもよい。この場合には、貫通孔51は、0.1mm以上、6mm以下の対角線を最大長さLとして有している。これらのように、貫通孔51の径とは、金属基板5に対する平面視において、最大長さのことを意味する。
【0048】
良好な通気性を得る観点から、貫通孔51の径は、0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。また、多孔質金属層10を形成するためのペーストが貫通孔51内に入り込むことを抑制する観点から、貫通孔51の径は、6mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましい。
【0049】
金属基板5に複数の貫通孔51が設けられている場合には、各貫通孔51の径の平均値が、0.1mm以上であり、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、6mm以下であり、4mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態においては、
図4(a)および
図4(b)で例示するように、貫通孔51同士の距離(ピッチP)とは、所定の貫通孔51に着目した場合に、当該所定の貫通孔51の中心Oと、隣りの貫通孔51の中心Oとの距離を意味する。
【0051】
本実施形態においては、金属基板5上に、多孔質状の支持体10が設けられていることから、ガスの透過性を実現しつつ、金属基板5と混合層20との密着性が向上する。さらに、支持体10とアノード30との間に、金属成分およびセラミックス成分の両方を備える混合層20が設けられていることから、支持体10とアノード30との密着性が向上する。したがって、金属基板5とアノード30との密着性が向上する。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る燃料電池100は、金属基板5とアノード30との密着性と、金属基板5の通気性とを両立することができる。
【0053】
しかしながら、燃料電池100において、貫通孔51上に位置する部位と、貫通孔51上に位置しない部位とでガス拡散性に差が生じ、ガス拡散抵抗が高くなるおそれがある。そこで、本実施形態に係る燃料電池100は、ガス拡散抵抗を低減することができる構成を有している。
【0054】
図5は、金属基板5の、アノード30側の主面を例示する図である。
図6は、
図5のA-A線断面図である。
図5および
図6で例示するように、金属基板5のアノード30側の主面には、複数の貫通孔51を接続する溝52が形成されている。この構成によれば、溝52を介してガスが拡散するため、貫通孔51上に位置しない部位のガス拡散性が向上する。それにより、ガス拡散抵抗を抑制することができる。
【0055】
各貫通孔51に接続される溝52の本数は、特に限定されるものではないが、多い方が好ましい。例えば、
図5で例示するように各貫通孔51が格子点のそれぞれに配置されている場合において、各貫通孔51は、最近接の4つの貫通孔51と4本の溝52によって接続されていてもよい。
【0056】
または、
図7で例示するように、各貫通孔51が格子点のそれぞれに配置されている場合において、各貫通孔51は、最近接の2つの貫通孔51と2本の溝52によって接続されていてもよい。
【0057】
または、
図8で例示するように、各貫通孔51が格子点のそれぞれに配置されている場合において、各貫通孔51は、最近接の4つの貫通孔51aの次に最近接の4つの貫通孔51bと4本の溝52によって接続されていてもよい。
【0058】
または、
図9で例示するように、各貫通孔51が格子点のそれぞれに配置されている場合において、各貫通孔51は、最近接の4つの貫通孔51a、および次に最近接となる4つの貫通孔51bと、8本の溝52によって接続されていてもよい。
【0059】
図10(a)および
図10(b)は、溝52が延びる方向に垂直な面で断面図である。
図10(a)で例示するように、溝52は、断面が半円または円弧状の形状を有していてもよい。または、
図10(b)で例示するように、溝52は、断面が矩形状を有していてもよい。
【0060】
溝52の幅Wは、溝52が延びる方向に垂直な面での断面において、金属基板5に溝52が形成されている主面における凹部が開始する点から、当該凹部が終了する点までの距離のことである。溝52の深さDは、金属基板5の厚み方向において、最深点から、金属基板5に溝52が形成されている主面までの距離のことである。
【0061】
金属基板5の面内において、貫通孔51同士のピッチPが長いと十分なガス拡散性が得られないおそれがある。そこで、ピッチPに上限を設けることが好ましい。例えば、ピッチPは、当該所定の貫通孔51の径の5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。
【0062】
金属基板5に3以上の貫通孔51が設けられている場合には、隣り合う貫通孔51同士の中心間距離(ピッチP)の平均値は、各貫通孔51の径の5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。
【0063】
一方で、ピッチPが短いと、金属基板5の強度が低下し、燃料電池スタックを組み立てる際に割れるおそれがある。そこで、貫通孔51同士のピッチPに下限を設けることが好ましい。ピッチPは、各貫通孔51の径の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。
【0064】
金属基板5に3以上の貫通孔51が設けられている場合には、ピッチPの平均値は、各貫通孔51の径の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。
【0065】
溝52の幅Wが小さいと、十分なガス拡散性が得られないおそれがある。そこで、幅Wに下限を設けることが好ましい。例えば、幅Wは、貫通孔51の径の1/10以上であることが好ましく、1/7以上であることがより好ましく、1/5以上であることがさらに好ましい。
【0066】
溝52の幅Wが大きいと、金属基板5の強度低下のおそれがある。そこで、幅Wに上限を設けることが好ましい。例えば、幅Wは、貫通孔51の径の1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることがさらに好ましい。
【0067】
溝52の深さDが小さいと、十分なガス拡散性が得られないおそれがある。そこで、深さDに下限を設けることが好ましい。例えば、深さDは、金属基板5の厚みの1/10以上であることが好ましく、1/7以上であることがより好ましく、1/5以上であることがさらに好ましい。
【0068】
溝52の深さDが大きいと、金属基板5の強度低下のおそれがある。そこで、深さDに上限を設けることが好ましい。例えば、深さDは、金属基板5の厚みの1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることがさらに好ましい。
【0069】
金属基板5の厚みは、例えば、0.1mm以上1mm以下であり、0.2mm以上0.8mm以下であり、0.3mm以上0.6mm以下である。なお、十分な支持強度を維持する観点から、金属基板5の厚みは、多孔質金属層10よりも厚く形成されていることが好ましい。
【0070】
以下、燃料電池100の製造方法について説明する。
図11は、燃料電池100の製造方法のフローを例示する図である。
【0071】
(金属基板の作製工程)
金属基板5を用意し、機械加工で貫通孔を一定間隔で形成する。フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレスのいずれを用いるもよいが、例えばフェライト系ステンレスを用いる。金属基板5に、機械加工で一定間隔の貫通孔51を加工するまた、各格子点に貫通孔51を形成する。さらに、機械加工で、貫通孔51同士を接続する溝52を形成する。
【0072】
(多孔質金属層用材料の作製工程)
多孔質金属層用材料として、金属粉末(例えば、粒径が10μm~100μm)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、消失材(有機物)、バインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。多孔質金属層用材料は、多孔質金属層10を形成するための材料として用いる。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と金属粉末との体積比は、例えば1:1~20:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。
【0073】
(混合層用材料の作製工程)
混合層用材料として、セラミックス材料22の原料であるセラミックス材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、金属材料21の原料である小粒径の金属材料粉末(例えば、粒径が1μm~10μm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と、セラミックス材料粉末および金属材料粉末と、の体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。セラミックス材料粉末は、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末とを含んでいてもよい。この場合、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とすることが好ましい。また、電子伝導性材料の代わりに電解質材料ScYSZ、GDCなどを用いても界面のはがれが無く、セルの作製が可能である。ただし、オーム抵抗を小さくする観点から、電子伝導性材料と金属粉末とを混合することが好ましい。
【0074】
(アノード用材料の作製工程)
アノード用材料として、電極骨格を構成するセラミックス材料粉末、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。電極骨格を構成するセラミックス材料粉末として、電子伝導性セラミックス31の原料である電子伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、酸化物イオン伝導性セラミックス32の原料である酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)などを用いてもよい。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と電子伝導性材料粉末との体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とする。
【0075】
(電解質層用材料の作製工程)
電解質層用材料として、酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、ScYSZ、YSZ、GDCなどであって、粒径が10nm~1000nm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比は、例えば6:4~3:4の範囲とする。
【0076】
(焼成工程)
まず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、多孔質金属層用材料を塗工することで、多孔質金属グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、混合層用材料を塗工することで、混合層グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、アノード用材料を塗工することで、アノードグリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、電解質層用材料を塗工することで、電解質層グリーンシートを作製する。例えば、多孔質金属グリーンシートを複数枚、混合層グリーンシートを1枚、アノードグリーンシートを1枚、電解質層グリーンシートを1枚、順に積層し、所定の大きさにカットする。その後、酸素分圧が10-20atm以下の還元雰囲気において1100℃~1300℃程度の温度範囲で焼成する。それにより、多孔質金属層10、混合層20、アノード30の電極骨格、電解質層40を備えるハーフセルを得ることができる。これらの多孔質金属層10、混合層20、アノード30の電極骨格、および電解質層40は、焼結体である。炉内に流す還元ガスは、H2(水素)を不燃ガス(Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、N2(窒素)など)で希釈したガスであってもよく、H2が100%のガスであってもよい。安全を考慮して、爆発限界までの上限を設けることが好ましい。例えば、H2とArの混合ガスの場合には、H2の濃度は4体積%以下であることが好ましい。
【0077】
(金属基板への密着工程)
ハーフセルを機械加工後の金属基板5の上に載せて、ホットプレス機を用い、不活性ガス雰囲気、あるいは、還元雰囲気にて加圧焼成を行う。焼成することによって、多孔質金属層10および金属基板5の材料が互いに拡散し、密着する。加圧焼成の際の焼成温度は、1100℃以上であることが好ましく、1200℃以上であることがより好ましく、1300℃以上であることがさらに好ましい。
【0078】
(アノード含浸工程)
次に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34の原料を、アノード30の電極骨格内に含浸させる。例えば、還元雰囲気で所定の温度で焼成するとGdドープセリアあるいはSc,YドープジルコニアとNiが生成するように、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの各硝酸塩または塩化物を水またはアルコール類(エタノール、2-プロパノール、メタノールなど)に溶かし、ハーフセルを含浸、乾燥させ、熱処理を必要回数繰り返す。
【0079】
(中間層形成工程)
中間層50に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックス(GDC、SDCなど)を、例えばPVD(物理気相成長)、PLD(パルスレーザアブレーション成膜)により電解質層40上に成膜することで、中間層50を成膜する。
【0080】
(カソード用材料の作製工程)
カソード用材料として、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:LaSrCoO3)等の導電性セラミックス粉末を溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と、LSC粉末との体積比は、例えば6:4~1:4の範囲とする。
【0081】
(カソードの形成工程)
中間層上に、スクリーン印刷によって、作製したカソード用材料を印刷する。その後、窒素などの中性雰囲気において1000℃で焼成する。以上の工程により、酸化物系燃料電池が完成する。
【0082】
本実施形態に係る製造方法によれば、電極ペーストを金属基板に印刷して焼成するのではなく、ハーフセルを焼成してから金属基板5に密着させることになる。この場合、電極ペーストによる貫通孔51の目詰まりを抑制することができるため、ガス拡散抵抗を低減することができる。
【0083】
また、密着工程の後に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34を含浸させるため、密着工程時に触媒が他の部材と反応することなどが防止される。
【実施例0084】
上記実施形態に係る製造方法に従って、燃料電池100を作製した。
【0085】
(実施例1)
機械加工で金属基板上にΦ(径)3mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で作製した。各貫通孔は、格子点に配置させた。
図9で例示したように、各貫通孔が、最近接の4つの貫通孔、および次に最近接となる4つの貫通孔と、8本の溝によって接続されるように加工した。各溝の幅Wを1mmとし、深さDを0.2mmとした。
【0086】
多孔質金属層、混合層およびアノードを有するハーフセルを、加工した金属基板上に載せ、加圧焼成することで、金属基板とハーフセルとを密着させた。金属基板付きハーフセルのアノード多孔体に、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの硝酸塩溶液を含浸、乾燥、熱処理することでアノード触媒を生成した。電解質層の上にPVD法によって中間層を製膜した。カソードLSCのペーストを用い、中間層の上にスクリーン印刷後、N2雰囲気において1000℃で焼成し、フルセルを完成した。完成したフルセルを用いて発電評価を行い、インピーダンス測定で分離した低周波数側のガス拡散抵抗は0.11Ω・cm2と低くなった。これは、金属基板に、貫通孔に加えて溝を形成したことで、ガス拡散性が向上したからであると考えられる。
【0087】
(実施例2)
機械加工で金属基板上にΦ(径)3mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で作製した。各貫通孔は、格子点に配置させた。
図7で例示したように、貫通孔1つにつき2本の溝を、隣接する2個の貫通孔と接続するように加工した。各溝の幅Wを1mmとし、深さDを0.2mmとした。
【0088】
多孔質金属層、混合層およびアノードを有するハーフセルを、加工した金属基板上に載せ、加圧焼成することで、金属基板とハーフセルとを密着させた。金属基板付きハーフセルのアノード多孔体に、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの硝酸塩溶液を含浸、熱処理することでアノード触媒を生成した。電解質層の上PVD法によって中間層を製膜した。カソードLSCのペーストを用い、中間層の上にスクリーン印刷後、N2雰囲気において1000℃で焼成し、フルセルを完成した。完成したフルセルを用いて発電評価を行い、インピーダンス測定で分離した低周波数側のガス拡散抵抗は0.2Ω・cm2と低かったものの、実施例1の方が低くなった。これは、溝の本数が実施例1の方が多かったからであると考えられる。
【0089】
(実施例3)
機械加工で金属基板上にΦ(径)3mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で作製した。各貫通孔は、格子点に配置させた。
図9で例示したように、各貫通孔が、最近接の4つの貫通孔、および次に最近接となる4つの貫通孔と、8本の溝によって接続されるように加工した。各溝の幅Wを0.5mmとし、深さDを0.2mmとした。
【0090】
多孔質金属層、混合層およびアノードを有するハーフセルを、加工した金属基板上に載せ、加圧焼成することで、金属基板とハーフセルとを密着させた。金属基板付きハーフセルのアノード多孔体に、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの硝酸塩溶液を含浸、熱処理することでアノード触媒を生成した。電解質層の上にPVD法によって中間層を製膜した。カソードLSCのペーストを用い、中間層の上にスクリーン印刷後、N2雰囲気において1000℃で焼成し、フルセルを完成した。完成したフルセルを用いて発電評価を行い、インピーダンス測定で分離した低周波数側のガス拡散抵抗は0.13Ω・cm2と低かったものの、実施例1の方が低くなった。これは、溝の幅Wが実施例1の方が大きかったからであると考えられる。
【0091】
(実施例4)
機械加工で金属基板上にΦ(径)3mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で作製した。各貫通孔は、格子点に配置させた。
図9で例示したように、各貫通孔が、最近接の4つの貫通孔、および次に最近接となる4つの貫通孔と、8本の溝によって接続されるように加工した。各溝の幅Wを1mmとし、深さDを0.1mmとした。
【0092】
多孔質金属層、混合層およびアノードを有するハーフセルを、加工した金属基板上に載せ、加圧焼成することで、金属基板とハーフセルとを密着させた。金属基板付きハーフセルのアノード多孔体に、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの硝酸塩溶液を含浸、熱処理することでアノード触媒を生成した。電解質層の上にPVD法によって中間層を製膜した。カソードLSCのペーストを用い、中間層の上にスクリーン印刷後、N2雰囲気において1000℃で焼成し、フルセルを完成した。完成したフルセルを用いて発電評価を行い、インピーダンス測定で分離した低周波数側のガス拡散抵抗は0.16Ω・cm2と低かったものの、実施例1の方が低くなった。これは、溝が実施例1の方が深かったからであると考えられる。
【0093】
(比較例1)
機械加工で金属基板上にΦ3mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で作製した。金属基板に溝は設けなかった。
【0094】
多孔質金属層、混合層およびアノードを有するハーフセルを、加工した金属基板上に載せ、加圧焼成することで、金属基板とハーフセルとを密着させた。金属基板付きハーフセルのアノード多孔体に、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの硝酸塩溶液を含浸、熱処理することでアノード触媒を生成した。電解質層の上にPVD法によって中間層を製膜した。カソードLSCのペーストを用い、中間層の上にスクリーン印刷後、N
2雰囲気において1000℃で焼成し、フルセルを完成した。完成したフルセルを用いて発電評価を行い、インピーダンス測定で分離した低周波数側のガス拡散抵抗は1.28Ω・cm
2と高くなった。金属基板に溝を設けなかったために、ガスの拡散が抑制され、拡散抵抗が増大したと考えられる。
【表1】
【0095】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。