(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087420
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】オフセット印刷方法及び装置、筒状体
(51)【国際特許分類】
B41M 1/40 20060101AFI20240624BHJP
B41M 1/28 20060101ALI20240624BHJP
B41M 1/06 20060101ALI20240624BHJP
B41F 17/22 20060101ALI20240624BHJP
B65D 25/20 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B41M1/40 Z
B41M1/28
B41M1/06
B41F17/22
B65D25/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202242
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】森川 久彰
【テーマコード(参考)】
2H113
3E062
【Fターム(参考)】
2H113AA01
2H113AA06
2H113BA05
2H113BB10
2H113BB23
2H113BB24
2H113CA25
3E062AA10
3E062AB02
3E062AC02
3E062AC03
3E062AC07
3E062DA01
3E062DA02
3E062DA09
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、成形後の筒状体のテーパ面で構成された印刷面に対しても、印刷ムラがない良好なオフセット印刷が可能なオフセット印刷方法を提供すること。
【解決手段】有底略円錐台形状に形成された金属製の筒状体140を回転可能に保持する回転保持手段111と、転写位置Pで回転保持手段111で保持した筒状体140の印刷面142を押圧しながら移動してインキTを転写する押圧転写手段121とを有するオフセット印刷方法であって、押圧転写手段121は、転写位置Pで回転保持手段111に保持された筒状体140の回転軸Ccに対して所定の傾きで押圧すること。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底略円錐台形状に形成された金属製の筒状体を回転可能に保持する回転保持手段と、転写位置で前記回転保持手段で保持した筒状体の印刷面を押圧しながら移動してインキを転写する押圧転写手段とを有するオフセット印刷方法であって、
前記押圧転写手段は、転写位置で前記回転保持手段に保持された筒状体の回転軸に対して所定の傾きで押圧することを特徴とするオフセット印刷方法。
【請求項2】
前記押圧転写手段は、転写位置で前記回転保持手段に保持された筒状体の回転軸に対して0度より大きく15度以下の角度いた方向から押圧することを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷方法。
【請求項3】
前記押圧転写手段は、転写位置で前記回転保持手段に保持された筒状体の印刷面よりも広範囲を押圧することを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷方法。
【請求項4】
筒状体の印刷面に隣接する上部および下部には、印刷面の傾斜角度と異なる傾斜角度で形成された開口側接続面および/又は底部側接続面を有し、
前記押圧転写手段は、転写位置で前記回転保持手段に保持された筒状体の印刷面と開口側接続面と底部側接続面とを同時に押圧することを特徴とする請求項3に記載のオフセット印刷方法。
【請求項5】
有底略円錐台形状に成形された金属製の筒状体を回転可能に保持するマンドレルと、前記マンドレルを外周縁に装着して回転するマンドレルターレットと、転写位置で前記マンドレルに保持された筒状体の印刷面に転写面を押圧しながら移動してインキを転写するブランケットと、前記ブランケットを外周面に装着して回転するブランケットホイールとを有するオフセット印刷装置であって、
前記マンドレルの回転軸と前記マンドレルターレットの回転軸は略平行であり、
前記ブランケットホイールの回転軸は、転写位置の前記マンドレルの回転軸と所定の傾きを有するように配置されていることを特徴とするオフセット印刷装置。
【請求項6】
前記ブランケットホイールの回転軸は、転写位置の前記マンドレルの回転軸と0度より大きく15度以下の角度傾くように配置されていることを特徴とする請求項5に記載のオフセット印刷装置。
【請求項7】
前記マンドレルは、筒状体の印刷面の内面側に沿って筒状体を支持する支持面をさらに有し、
前記ブランケットホイールは、転写位置で前記ブランケットの前記転写面を前記支持面に対して所定の角度傾けて押圧することを特徴とする請求項5に記載のオフセット印刷装置。
【請求項8】
前記ブランケットホイールは、転写位置で前記ブランケットの前記転写面を前記支持面と0度より大きく15度以下の角度傾くように配置されていることを特徴とする請求項7に記載のオフセット印刷装置。
【請求項9】
前記ブランケットの前記転写面の幅は、前記マンドレルに保持された筒状体の印刷面の幅よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項5に記載のオフセット印刷装置。
【請求項10】
筒状体の印刷面に隣接する上部および下部には、印刷面の傾斜角度と異なる傾斜角度で形成された開口側接続面および底部側接続面を有し、
前記ブランケットホイールは、転写位置で前記ブランケットの前記転写面を、前記マンドレルに保持された筒状体の印刷面と開口側接続面および/又は底部側接続面とを同時に押圧することを特徴とする請求項9に記載のオフセット印刷装置。
【請求項11】
テーパ状の円筒胴部と、前記円筒胴部の大径側の端部である開口部と、前記円筒胴部の小径側の端部に接続する底部とを有する有底略円錐台形状に成形された金属製の筒状体であって、
前記円筒胴部の表面には、平滑面で構成された成形後被印刷面が設けられ、
前記成形後被印刷面の最上面には、インキで構成された印刷層が形成されていることを特徴とする筒状体。
【請求項12】
前記円筒胴部の表面のうち前記成形後被印刷面よりも前記開口部側には、開口側胴部が設けられ、
前記円筒胴部の表面のうち前記成形後被印刷面よりも前記底部側には、底部側胴部が設けられ、
前記成形後被印刷面と前記開口側胴部とは、開口側接続面を介して接続され、
前記成形後被印刷面と前記底部側胴部とは、底部側接続面を介して接続され、
前記開口側接続面および/又は前記底部側接続面は、前記成形後被印刷面とは異なる傾斜角度で形成されていることを特徴とする請求項11に記載の筒状体。
【請求項13】
前記開口部の内径は、前記底部の外径よりも大きいことを特徴とする請求項11に記載の筒状体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底略円錐台形状に成形された金属製の筒状体の表面にオフセット印刷するオフセット印刷方法及び装置、金属製筒状体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料容器等の表面に文字や絵等を印刷する方法として、円筒状の筒状体(被印刷物8)を回転可能に保持する回転保持手段であるマンドレル(2)および、マンドレル(2)を外周縁に装着して回転するマンドレルターレット(タレット1)と、転写位置(インク転移位置)でマンドレル(2)に保持された筒状体(被印刷物8)に転写面を押圧しながら移動してインキ(インク材)を転写する押圧転写手段であるブランケット(4)および、ブランケット(4)を外周面に装着して回転するブランケットホイール(ブランケットシリンダ5)とを有するオフセット印刷装置(曲面印刷装置)を用いたオフセット印刷方法(曲面印刷方法)が特許文献1で公知である。
【0003】
特許文献1で公知のオフセット印刷装置(曲面印刷装置)を用いたオフセット印刷方法(曲面印刷方法)は、回転保持手段であるマンドレルターレット(タレット1)を回動操作してマンドレル(2)で保持した筒状体(被印刷物8)を転写位置(インク転移位置)まで移動させた後、転写位置(インク転移位置)でマンドレル(2)を自転させるとともに、押圧転写手段であるブランケットホイール(ブランケットシリンダ5)を回転させてインキ(インク材)を載せたブランケット(4)を転写位置(インク転写位置)まで移動し、筒状体(被印刷物8)を保持したマンドレル(2)と回転を同期させながら筒状体(被印刷物8)にブランケット(4)を移動しながら押圧することで、ブランケット(4)の表面に塗布されていたインキ(インク材)が転写されて筒状体(被印刷物8)の表面に印刷できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献で公知のオフセット印刷装置を用いたオフセット印刷方法は、未だ改善の余地があった。
【0006】
すなわち、特許文献1で公知のオフセット印刷方法は、多くの飲料缶等の全面均一な外径の円筒面を印刷面とする筒状体であれば良好なオフセット印刷が可能だが、例えば、アルミカップのような略円錐台形状のテーパ面を印刷面とする筒状体にオフセット印刷をする場合、マンドレルの回転軸と略平行な向きからテーパ面をブランケットで押圧すると、テーパ面の大径側に向かうに従ってブランケットからの押圧力が高くなるとともに、テーパ面の小径側に向かうに従ってブランケットからの押圧力が低くなるため、過剰にブランケットを押し付けられて印刷面上に転写された模様や文字が潰れてしまう箇所が発生したり、押圧力が弱くブランケットから印刷面に十分にインキが転写されない箇所が発生する等、印刷面の位置によってブランケットからのインキの転写量が不安定になり印刷ムラが発生する虞があった。
【0007】
また、成形途中の均一な外径を有した状態の印刷面にオフセット印刷をした後、円筒部をテーパ状に加工して略円錐台形状にすることも考えられるが、追加工を施す際の印刷面を保護するためのコーティング材をオフセット印刷後に使用する必要があり、環境負荷が高くなってしまう虞や、工程が増加してコストアップしてしまう虞があった。
【0008】
本発明はこれらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、成形後の筒状体のテーパ面で構成された印刷面に対しても、印刷ムラがない良好なオフセット印刷が可能なオフセット印刷方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のオフセット印刷方法は、有底略円錐台形状に形成された金属製の筒状体を回転可能に保持する回転保持手段と、転写位置で前記回転保持手段で保持した筒状体の印刷面を押圧しながら移動してインキを転写する押圧転写手段とを有するオフセット印刷方法であって、前記押圧転写手段は、転写位置で前記回転保持手段に保持された筒状体の回転軸に対して所定の傾きで押圧することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係るオフセット印刷方法は、押圧転写手段は、転写位置で回転保持手段に保持された筒状体の回転軸に対して所定の傾きで押圧するため、例えば、押圧転写手段によって筒状体の印刷面のうち小径側に近づくように傾けて押圧することで、押圧転写手段が転写位置で回転保持手段に保持された筒状体の回転軸に対して略平行な向きで筒状体の印刷面を押圧する場合に比べて、筒状体の印刷面のうち大径側に対する押圧転写手段からの押圧力を低減するとともに、筒状体の印刷面のうち小径側に対する押圧転写手段からの押圧力を増加することができる。
これによって、印刷面全体に対する押圧転写手段の転写圧力を安定化できるため、模様や文字が局所的に潰れることなく印刷面に転写できる。
また、筒状体の胴部をテーパ形状まで成形してからオフセット印刷しているため、オフセット印刷後に胴部をテーパ形状に成形する際の保護コーティング材を塗布する必要がなく、工数や製造コストの低減や、環境負荷を低減できる。
なお、押圧転写手段は、転写位置で回転保持手段に保持された筒状体の回転軸に対して0度より大きく15度以下の角度傾いた方向から押圧するのが好適である。
【0011】
請求項3に記載の構成によれば、押圧転写手段は、転写位置で回転保持手段に保持された筒状体の印刷面よりも広範囲を押圧するため、例えば、筒状体の印刷面の上下に隣接する位置に文字や模様を印刷したい場合であっても、印刷面と同時にオフセット印刷できる。
また、筒状体の印刷面の上下に隣接する位置の表面に緩やかな凹凸形状を有していたり、筒状体の印刷面のテーパと異なるテーパ角度で拡径または縮径されていても、押圧転写手段と筒状体の回転軸との傾きを調整することで、適切な転写圧力で良好なオフセット印刷を実施できる。
請求項4に記載の構成によれば、筒状体の印刷面に隣接する上部および下部には、印刷面の傾斜角度と異なる傾斜角度で形成された開口側接続面および/または底部側接続面を有し、押圧転写手段は、転写位置で回転保持手段に保持された筒状体の印刷面と開口側接続面と底部側接続面とを同時に押圧するため、例えば、開口側接続面や底部側接続面に文字や模様等の印刷を施したい場合、印刷面にオフセット印刷するタイミングと同時に開口側接続面や底部側接続面に一度にオフセット印刷することができる。
【0012】
請求項5に係るオフセット印刷装置は、ブランケットが、転写位置においてブランケットホイールの回転軸がマンドレルの回転軸と所定の傾きで筒状体の印刷面を押圧しているため、例えば、ブランケットの転写面を、筒状体の印刷面のうち小径側に近づくようにブランケットホイールの回転軸を傾けて押圧することで、ブランケットホイールの回転軸とマンドレルの回転軸とが略平行な向きで筒状体の印刷面を押圧する場合に比べて、筒状体の印刷面のうち大径側に対するブランケットからの押圧力を低減するとともに、筒状体の印刷面のうち小径側に対するブランケットの押圧力を増加することができる。
これによって、印刷面全体に対するブランケットの転写圧力を安定化できるため、模様や文字が局所的に潰れることなく印刷面に転写できる。
また、筒状体の胴部をテーパ形状まで成形してから良好なオフセット印刷が可能となるため、オフセット印刷後に胴部をテーパ形状に成形する際の保護コーティング材を塗布する必要がなく、工数や製造コストの低減や、環境負荷を低減できる。
また、汎用のブランケットやブランケットホイールであっても、ブランケットホイールの回転軸とマンドレルの回転軸との相対的な角度を調整することで、ブランケットの転写面から筒状体の同時に押圧される印刷面全体にかかる転写圧力を安定化できる。
また、マンドレルターレット側の装置とブランケットホイール側の装置が分割されている構成であれば、マンドレルターレット側の装置全体の向きとブランケットホイールの回転軸の向きをずらすことのみで簡単に調整できる。
なお、ブランケットホイールの回転軸は、転写位置のマンドレルの回転軸と0度より大きく15度以下の角度傾くように配置するのが好適である。
【0013】
請求項7に記載の構成によれば、マンドレルは、筒状体の印刷面の内面側に沿って支持する支持面をさらに有し、ブランケットホイールは、転写位置ブランケットの転写面を支持面に対して略平行でない向きに傾けて押圧するため、筒状体の印刷面の内面側全体を支持面で支持していれば、ブランケットからの転写圧力によって筒状体の印刷面が凹む等変形してしまうことがない。
また、支持面とブランケットとの向きを調整することで、ブランケットの転写面から筒状体の同時に押圧される印刷面全体にかかる転写圧力を安定化できる。
なお、ブランケットホイールは、転写位置でブランケットの転写面を支持面と0度より大きく15度以下の角度傾くように配置するのが好適である。
請求項9に記載の構成によれば、ブランケットの転写面の幅は、マンドレルに保持された筒状体の印刷面の幅よりも大きく形成されているため、例えば、筒状体の印刷面の上下に隣接する位置に文字や模様を印刷したい場合であっても、印刷面と同時にオフセット印刷できる。
また、筒状体の印刷面の上下に隣接する位置の表面に緩やかな凹凸形状を有していたり、筒状体の印刷面のテーパと異なる傾斜角度で拡径または縮径されていても、ブランケットホイールの回転軸とマンドレルの回転軸との傾きを調整することで、適切な転写圧力で良好なオフセット印刷を実施できる。
【0014】
請求項10に記載の構成によれば、ブランケットホイールは、転写位置でブランケットの転写面を、マンドレルに保持された筒状体の印刷面と開口側接続面および/または底部側接続面とを同時に押圧するため、例えば、開口側接続面や底部側接続面に文字や模様等の印刷を施したい場合、印刷面にオフセット印刷するタイミングと同時に開口側接続面や底部側接続面に一度にオフセット印刷することができる。
請求項11に係る筒状体によれば、テーパ状の円筒胴部の表面には、平滑面で構成された成形後被印刷面が設けられ、成形後被印刷面の最上面には、インキで構成された印刷層が形成されているため、例えば、印刷後に筒状体を成形するような場合に必要な、印刷層のインキを成形時の変形から保護する保護コーティング材を塗布することがなく、製造コストや環境負荷の抑制ができる。
【0015】
請求項12に記載の構成によれば、円筒胴部の表面のうち成形後被印刷面よりも開口部側には、開口側胴部が設けられ、円筒胴部の表面のうち成形後被印刷面よりも底部側には、底部側胴部が設けられ、成形後被印刷面と開口側胴部とは、開口側接続面を介して接続され、成形後被印刷面と底部側胴部とは、底部側接続面を介して接続され、開口側接続面および/又は底部側接続面は、成形後被印刷面とは異なる傾斜角度で形成されているため、例えば、オフセット印刷で印刷層を形成する際に、成形後被印刷面だけでなく開口側接続面や底部側接続面も同時に覆うことが可能な幅の大きなブランケットを使用することで、成形後被印刷面と同時に開口側胴部や底部側胴部の表面にも文字や模様等を印刷することができる。
請求項13に記載の構成によれば、開口部の内径は、底部の外径よりも大きいため、筒状体を複数スタックして効率的に収容でき、輸送コストや保管コストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100の全体模式図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100の、マンドレル111を示す正面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100でオフセット印刷する筒状体140の正面図。
【
図4】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100の、ブランケット121の転写面122と筒状体140の成形後被印刷面142との傾きを示す上面模式図。
【
図5】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100による、転写位置Pでのブランケット121から筒状体140への転写時の位置関係を示す上面図。
【
図6】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100による、転写位置Pでのブランケット121から筒状体140への転写時の位置関係を示すA部拡大図。
【
図7】本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100の、マンドレルターレット110およびブランケットホイール120の設置角度とニップ幅NPa、NPbとの関係を示す比較図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100について、
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0018】
本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100は、有底略円錐台形状に成形された金属製の筒状体140の表面にオフセット印刷するものであり、
図1および
図2に示すように、筒状体140を回転可能に保持する回転保持手段であるマンドレル111と、マンドレル111を外周縁に複数装着して回転するマンドレルターレット110と、転写位置Pでマンドレル111に保持された筒状体140に転写面122を押圧しながら移動して印刷層143を形成するインキTを転写する押圧転写手段であるブランケット121と、ブランケット121を外周面に装着して回転するブランケットホイール120と、ブランケットホイール120に装着されたブランケット121にインキTを転写する刷版131が装着されたプレートシリンダー130とを有している。
【0019】
マンドレル111は、マンドレルターレット110に回転可能に接続する接続ロッド112と、後述する筒状体140の印刷面である成形後被印刷面142の裏側を支持する支持面113と、後述する筒状体140の成形後被印刷面142に隣接する開口側胴部144の開口側接続面144aおよび底部側胴部145の底部側接続面145aのそれぞれの内面側を支持する開口側補助支持面114および底部側補助支持面115を有している。
なお、支持面113は、筒状体140の成形後被印刷面142の内面側に密着可能な傾斜面で構成されている。
【0020】
マンドレルターレット110は、筒状体140を保持したマンドレル111を転写位置Pに移動させた後に回転を一時停止し、転写位置PでのインキTの転写が完了した後に回転を再開して次のマンドレル111を転写位置Pへ移動可能に構成されている。
なお、マンドレルターレット110の回転軸とマンドレル111の回転軸とは、互いに略平行である。
【0021】
また、ブランケットホイール120は、ブランケットホイール120の回転軸Cbを、マンドレル111の回転軸Cmと水平方向に所定の角度傾くように配置している。
また、ブランケット121は均一な厚みを有しており、ブランケット121のブランケットホイール120の回転軸Cb方向の幅は、成形後被印刷面142の幅よりも長い。
【0022】
筒状体140は、有底略円錐台形状に形成され、テーパ状の円筒胴部141と、円筒胴部141の大径側の端部である開口部146と、円筒胴部141の小径側の端部に接続する底部148とを有している。
円筒胴部141の表面には、成形後被印刷面142と、成形後被印刷面142よりも開口部146側に形成された開口側胴部144と、成形後被印刷面142よりも底部148側に形成された底部側胴部145とが設けられ、成形後被印刷面142と開口側胴部144とは、開口側接続面144aを介して接続され、成形後被印刷面142と底部側胴部145とは、底部側接続面145aを介して接続されている。
【0023】
成形後被印刷面142は平滑面で構成され、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aの表面は緩やかな凹凸形状を有している。
なお、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aは、テーパ状に形成されておらず、それぞれ筒状体140の中心軸Ccの方向に延びる略均一な外径の円筒面で構成されているため、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aと成形後被印刷面142とがなす角r1の角度は、本実施形態における成形後被印刷面のテーパの傾斜角度と同じである。
金属製筒状体の素材としては、スチール、ステンレススチール、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、銅、鉄或いは、これらの金属を含む合金などが挙げられる。
さらに、筒状体の内面或いは外面は、有機樹脂被覆が積層されていてもよい。
有機樹脂被覆としては、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、シリコン系塗料、フッ素系塗料などの塗料に由来する被覆や、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0024】
次に、本発明の一実施形態に係るオフセット印刷装置100による、筒状体140へのオフセット印刷手順について、
図1、
図4乃至
図7を用いて説明する。
【0025】
まず、
図1に示すように、ブランケットホイール120に装着されたブランケット121は、ブランケットホイール120の周囲に配置されたプレートシリンダー130に装着された刷版131から、オフセット印刷する模様や文字の形で配置されたインキTを転写面122に転写される。
【0026】
次に、マンドレルターレット110に装着されたマンドレル111は、筒状体140を保持した状態で転写位置Pへ移動する。
このとき、マンドレル111は、
図4に示すように、支持面113が筒状体140の成形後被印刷面142の内面側に密着する位置で筒状体140を保持する。
これによって、筒状体の中心軸Ccとマンドレル111の回転軸Cmとが一致する。
【0027】
ブランケット121は、ブランケットホイール120の回転によって転写位置Pへ移動する。
なお、ブランケットホイール120の回転軸Cbは、マンドレル111の回転軸Cmと所定の角度水平方向に傾いているため、ブランケットホイール120の外周面に装着されているブランケット121の転写面122も、転写位置Pではマンドレル111の回転軸Cmと所定の角度水平方向に傾いた向きでマンドレル111に保持された筒状体140を押圧する。
【0028】
このとき、筒状体140の成形後被印刷面143にのみオフセット印刷する場合は、成形後被印刷面142に対して転写面122が略平行になるようにブランケットホイール120の回転軸Cbを傾けることで、成形後被印刷面143の大径側(開口側)から小径側(底部側)までの転写圧力を安定化でき、良好なオフセット印刷を実施できる。
ここで、ブランケット121のブランケットホイール120の回転軸方向の幅は、成形後被印刷面142の幅よりも長いため、筒状体140の成形後被印刷面142だけでなく、開口側胴部144および底部側胴部145の成形後被印刷面142に隣接する表面である開口側接続面144aおよび底部側接続面145aに対しても同時にオフセット印刷を実施できる。
【0029】
ところが、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aは、それぞれ筒状体140の中心軸Ccの方向に延びる均一な外径の円筒面で構成され、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aと成形後被印刷面142との傾斜角度の差はr1であるため、ブランケットの転写面122を成形後被印刷面142に対して略平行な向きでオフセット印刷を実施すると、開口側接続面144aが受けるブランケット121からの転写圧力は成形後被印刷面142が受ける転写圧力に比べて低下し、底部側接続面145aが受けるブランケット121からの転写圧力は成形後被印刷面142が受ける転写圧力に比べて増大する。
すなわち、開口側接続面144aの表面は十分にインキTが転写されず、底部側接続面145aの表面はブランケット121に過剰押圧されて模様や文字が潰れてしまう。
【0030】
この転写圧力の変化は、
図7に示すように、筒状体140の回転を固定した状態でブランケット121から筒状体140へ転写した際に生じる転写跡(以下、ニップと呼ぶ)の幅で確認することができる。
成形後被印刷面142に対して転写面122が略平行になる位置関係のときのニップNPbは、開口側接続面144a上のニップn1では開口側から成形後被印刷面142に近づくに従ってニップNPbのニップ幅がtb1からtb2へと長くなり、成形後被印刷面142上のニップn2ではニップ幅が変わらず(tb2=tb3)、底部側接続面145a上のニップn3では成形後被印刷面142から底部側へ遠ざかるにしたがってニップ幅がtb3からtb4へと長くなっていることが確認できる。
【0031】
n2では良好なオフセット印刷が実施できているため、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aの表面においても良好なオフセット印刷を実施するためには、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aへのブランケット121からの転写圧力を、成形後被印刷面142へのブランケット121からの転写圧力に近づけることが必要である。
すなわち、n1、n3のニップ幅がn2のニップ幅に近づくようにブランケット121の向きを傾けることが必要である。
【0032】
ここで、
図4に示すように、ブランケット121の転写面122と成形後被印刷面142とが所定の角度r2だけ傾くようにブランケットホイール120をマンドレルターレット110に対して水平方向に傾けて配置し、筒状体140にブランケット121を移動させながら押圧すると、
図5および
図6に示すように、成形後被印刷面142を押圧するブランケット121の、開口側接続面144aの厚みd1の方が、底部側接続面145aの厚みd2よりも短くなっている。
これによって、ブランケット121は成形後被印刷面142の開口側を強く押圧し、底部側を弱く押圧していることがわかる。
【0033】
また、このときのニップNPaは、n2においてta2からta3へ向かうにしたがってニップ幅が短くなる。
しかしながら、n1およびn3においては、ta1とta2との差がtb1とtb2との差よりも縮まっており、ta3とta4との差がtb3とtb4との差よりも縮まっていることがわかる。
【0034】
すなわち、ta1からta4までの差が縮まっているため、ブランケット121全体が成形後被印刷面142だけでなく、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aも含めて転写圧力を安定化させることができ、これによって開口側接続面144aにも十分にインキTが転写され、底部側接続面145aは模様や文字が潰れてしまうことなくいずれの箇所においても鮮明で良好なオフセット印刷を実施することができる。
なお、本実施条件においては、成形後被印刷面142と開口側接続面144aおよび底部側接続面145aとの傾斜がなす角r1の角度は、0度より大きく15度以下の範囲内が好適である。
【0035】
なお、本実施条件において、ニップ幅ta1、ta2、ta3、ta4が6mm以上8.5mm以下の範囲に収まっていれば、開口側接続面144aや底部側接続面145aのような凹凸を含む面であっても良好なオフセット印刷を実施可能であるが、ニップ幅が6mm未満だと十分にインキTが転写できず、8.5mmよりも長くなると文字や模様が潰れてしまう。
また、成形後被印刷面142のようなテーパ状の印刷面に対してオフセット印刷する際、筒状体140の回転に伴って成形後被印刷面142の開口部側から底部側にかけて周速差が生じるため、ブランケット121との相対速度のズレが生じ、転写された模様や文字が筒状体140の回転方向に大きく擦れて不鮮明になる現象(ずり)が発生する。
ずりの発生する程度は、成形後被印刷面142への押圧力が高くなるほど大きくなる虞があるが、上記の良好なニップ幅の範囲であれば、ずりの発生を最小限に留めることができる。
【0036】
また、成形後被印刷面142、開口側接続面144a、底部側接続面145aのそれぞれの外径差を小さく形成することでも、ずりの発生を抑えることができる。
本実施形態においては、ブランケット121の転写面122と成形後被印刷面142とがなす角r2の角度は0度より大きく15度以下の角度が好適である。
また、本実施形態においては、ブランケットホイール120の回転軸Cbが、転写位置Pのマンドレル111の回転軸Cmと0度より大きく15度以下の角度で傾くように配置するのが好適である。
【0037】
なお、筒状体140は金属で形成されているため、ブランケット121が成形後被印刷面142、開口側接続面144a、底部側接続面145aを押圧しても、筒状体140が凹む等変形してしまうことはない。
また、筒状体140は成形後被印刷面142の内面側を支持面113で支持され、開口側接続面144aおよび底部側接続面145aを開口側補助支持面114および底部側補助支持面115でそれぞれ支持しているため、より一層確実に筒状体140が凹む等変形することはなく、良好なオフセット印刷を実施できる。
【0038】
以上のように、テーパ状の円筒胴部141を有する筒状体140を成形した後でも、成形後被印刷面142にオフセット印刷で良好な印刷層143を形成することができる。
これによって、オフセット印刷後に円筒胴部141をテーパ状に形成する手順に比べて、成形時に印刷層143を保護するための保護コーティング材を塗布する必要がなく、製造コストが削減できるだけでなく、CO2排出量の削減等、環境負荷を低減することもできる。
【0039】
また、使用後の筒状体140を回収して金属材料等に資源化・再利用する場合でも、保護コーティング材を使用していない分不純物の排出量が低く、環境負荷を低減できる。
また、成形後被印刷面142に隣接する緩やかな凹凸形状を有した開口側接続面144a、底部側接続面145aの表面に対しても、文字や模様が潰れたりインキTの転写が不十分になることなく成形後被印刷面142と同時にオフセット印刷を実施できる。
【0040】
なお、筒状体140は開口部146の内径が底部148の外径よりも大きく形成されているため、筒状体140を複数スタックして効率的に収容でき、輸送コストや保管コストを抑制できる。
筒状体140をスタッキングした際、一方の筒状体の内面に、他方の筒状体の外面の一部が接触して支持されることで、一方の筒状体の内面と他方の筒状体の印刷層143とは接触せず、間に空間を形成する。
これによって、輸送や搬送など流通過程における印刷面の擦れや傷つきを防止できる。
【0041】
以上、本発明の一実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0042】
なお、上述した実施形態では、ブランケットは均一な厚みを有しているものとして説明したが、ブランケットの構成はこれに限定されず、例えば、ブランケットのうち、開口側接続面を押圧する位置のみ他の箇所に比べて厚く形成してもよく、成形後被印刷面を押圧する位置のみ成形後被印刷面のテーパに合わせて厚みを変化させて形成してもよい。
また、上述した実施形態では、ブランケットホイールの回転軸をマンドレルホイールの回転軸と水平方向に所定の角度傾けることでブランケットの転写面と筒状体の成形後被印刷面との向きを調整するものとして説明したが、ブランケットと筒状体の位置関係の調整方法はこれに限定されず、例えば、ブランケットの厚みを調整して成形後被印刷面との向きを調整するように構成してもよい。
【0043】
また、上述した実施形態では、開口側接続面および底部側接続面は、テーパ状に形成されておらず、それぞれ筒状体の中心軸の方向に延びる均一な外径の円筒面で構成されているものとして説明したが、筒状体の構成はこれに限定されず、例えば、開口側接続面および底部側接続面がそれぞれ所定の傾斜角のテーパ状に形成されていてもよい。
また、上述した実施形態では、筒状体は、開口部の内径が底部の外径よりも大きく形成されているものとして説明したが、筒状体の構成はこれに限定されず、例えば、開口部の内径が底部の外径よりも小さく形成されていてもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、マンドレルは、成形後被印刷面の内面を支持する支持面と、開口側接続面の内面を支持する開口側補助支持面と、底部側接続面の内面を支持する底部側補助支持面とを有し、支持面を成形後被印刷面の内面と密着させることで筒状体を保持するものとして説明したが、筒状体の保持方法はこれに限定されず、例えば、開口側補助支持面や底部側補助支持面がなくてもよく、支持面に加えて、底部を外側から押圧する押圧部材を設けてマンドレルと挟み込むように筒状体を保持してもよい。
【符号の説明】
【0045】
100 ・・・ オフセット印刷装置
110 ・・・ マンドレルターレット
111 ・・・ マンドレル
112 ・・・ 接続ロッド
113 ・・・ 支持面
114 ・・・ 開口側補助支持面
115 ・・・ 底部側補助支持面
120 ・・・ ブランケットホイール
121 ・・・ ブランケット
122 ・・・ 転写面
130 ・・・ プレートシリンダー
131 ・・・ 刷版
140 ・・・ 筒状体
141 ・・・ 円筒胴部
142 ・・・ 成形後被印刷面
143 ・・・ 印刷層
144 ・・・ 開口側胴部
144a ・・・ 開口側接続面
145 ・・・ 底部側胴部
145a ・・・ 底部側接続面
145b ・・・ 底部近傍胴部
146 ・・・ 開口部
147 ・・・ カール部
148 ・・・ 底部
NPa、NPb ・・・ ニップ
ta1、tb1 ・・・ 開口部側のニップ幅
ta2、tb2 ・・・ 成形後被印刷面のうち開口部側のニップ幅
ta3、tb3 ・・・ 成形後被印刷面のうち底部側のニップ幅
ta4、tb4 ・・・ 底部側のニップ幅
n1 ・・・ 開口側接続面上の転写跡
n2 ・・・ 成形後被印刷面上の転写跡
n3 ・・・ 底部側接続面上の転写跡
d1 ・・・ 成形後被印刷面の開口部側を押圧しているブランケットの厚み
d2 ・・・ 成形後被印刷面の底部側を押圧しているブランケットの厚み
P ・・・ 転写位置
Cc ・・・ 筒状体の中心軸
Cm ・・・ マンドレルの回転軸
Cb ・・・ ブランケットホイールの回転軸
r1 ・・・ 成形後被印刷面と開口側接続面および底部側接続面とがなす角
r2 ・・・ 成形後被印刷面と転写面とがなす角