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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087424
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】昇華成長装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240624BHJP
   C30B 23/06 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202248
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】522491384
【氏名又は名称】ヤマコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘法
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA18
4G077EA01
4G077EG18
4G077EG19
4G077EH07
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】原料が収容される容器が大型化された場合であっても十分な熱容量を確保するとともに、容器内の温度分布の均一化を図る。
【解決手段】2000℃以上の昇華温度を持った原料を昇華させて種結晶に単結晶成長させる昇華成長装置1において、原料Bを加熱する加熱源は、互いに間隔をあけて配置された複数の誘導加熱源41~43と、誘導加熱源41~43とは別の箇所に配置された少なくとも1つの抵抗加熱源44とを含んでいる。制御装置50は、複数の誘導加熱源41~43と抵抗加熱源44とに同時に通電するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2000℃以上の昇華温度の原料が収容される容器と、前記容器を加熱する加熱源と、前記加熱源を制御する制御装置とを備え、前記容器を前記加熱源により加熱し、前記原料を昇華させて種結晶に単結晶成長させる昇華成長装置において、
前記加熱源は、互いに間隔をあけて配置された複数の誘導加熱源と、前記誘導加熱源とは別の箇所に配置された少なくとも1つの抵抗加熱源とを含んでおり、
前記制御装置は、複数の前記誘導加熱源と前記抵抗加熱源とに同時に通電するように構成されていることを特徴とする昇華成長装置。
【請求項2】
請求項1に記載の昇華成長装置において、
前記容器の温度状態を取得して前記制御装置に出力する温度センサを備え、
前記制御装置は、予め設定された設定温度と前記温度センサから出力された前記容器の温度状態とに基づくPID制御を実行することにより、複数の前記誘導加熱源と前記抵抗加熱源とを制御するように構成されていることを特徴とする昇華成長装置。
【請求項3】
請求項1に記載の昇華成長装置において、
複数の前記誘導加熱源は、第1の誘導加熱源と、第2の誘導加熱源とを含んでおり、
前記制御装置は、前記第1の誘導加熱源に電流を供給する第1の電源回路と、前記第2の誘導加熱源に電流を供給する第2の電源回路とを有するとともに、前記第1の誘導加熱源に印加される電圧の位相と前記第2の誘導加熱源に印加される電圧の位相との差を0にするように構成されていることを特徴とする昇華成長装置。
【請求項4】
請求項1に記載の昇華成長装置において、
複数の前記誘導加熱源は、前記容器を構成する周壁部を外側から囲むように配置され、
前記抵抗加熱源は、前記容器を構成する底壁部から前記周壁部で囲まれた空間内に向けて突出するように配置されていることを特徴とする昇華成長装置。
【請求項5】
請求項4に記載の昇華成長装置において、
前記抵抗加熱源は、平面視で前記容器の中央部に配置されていることを特徴とする昇華成長装置。
【請求項6】
請求項4に記載の昇華成長装置において、
複数の前記誘導加熱源は、前記周壁部の外側において下端部寄りに配置される下側誘導加熱源と、前記周壁部の外側において上端部寄りに配置される上側誘導加熱源とを含んでおり、
前記下側誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力は、前記上側誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力よりも高く設定されていることを特徴とする昇華成長装置。
【請求項7】
請求項6に記載の昇華成長装置において、
複数の前記誘導加熱源は、前記周壁部の外側において前記下側誘導加熱源と前記上側誘導加熱源との間に配置される中間誘導加熱源を含んでおり、
前記下側誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力は、前記中間誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力よりも高く設定されていることを特徴とする昇華成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば炭化ケイ素等の原料を昇華させて種結晶上に単結晶成長させる昇華成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて大電力を効率良く制御できることから、例えば半導体素子等をはじめとした各種デバイスに応用されており、その用途は広い。各種デバイスの特性に均一性を持たせるためには、炭化ケイ素を単結晶で成長させるのが好ましい。炭化ケイ素単結晶を製造する際には、昇華再結晶法と呼ばれる方法が知られており、この方法では、原料となる炭化ケイ素粉体を容器内に収容した状態で2000℃以上の高温まで加熱して昇華させ、原料から離れた所に設置された種結晶上に単結晶成長させることにより、炭化ケイ素単結晶を得ることができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、石英管の内部に原料が収容された容器が配置されており、その石英管の外周面を囲むように複数の誘導加熱コイルが管軸方向に互いに間隔をあけて設けられている。各誘導加熱コイルに電流を流すことで容器内の原料が昇華温度まで加熱されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-255693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、炭化ケイ素で半導体素子を形成する場合、炭化ケイ素基板が用いられるが、半導体素子の生産性向上のためには炭化ケイ素基板の直径を拡大させたいという要求がある。大きな直径の基板を製造するためには、原料が収容される容器の大型化、特に容器径の拡大が必要になる。
【0006】
容器が大型化すると、加熱源の熱容量を増加させなければならず、さらに容器内の温度分布が均一でなくなり、ひいては高品質な炭化ケイ素単結晶を安定して製造するのが困難になる。
【0007】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、原料が収容される容器が大型化された場合であっても十分な熱容量を確保するとともに、容器内の温度分布の均一化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の一態様では、2000℃以上の昇華温度の原料が収容される容器と、前記容器を加熱する加熱源と、前記加熱源を制御する制御装置とを備え、前記容器を前記加熱源により加熱し、前記原料を昇華させて種結晶に単結晶成長させる昇華成長装置を前提とすることができる。前記加熱源は、互いに間隔をあけて配置された複数の誘導加熱源と、前記誘導加熱源とは別の箇所に配置された少なくとも1つの抵抗加熱源とを含んでおり、前記制御装置は、複数の前記誘導加熱源と前記抵抗加熱源とに同時に通電するように構成されている。
【0009】
この構成によれば、同時に通電される複数の誘導加熱源を備えていることで熱容量が増加するので、大型化した容器であっても内部の原料を2000℃以上まで加熱して昇華させることが可能になる。加えて、複数の誘導加熱源が互いに間隔をあけて配置されているので、複数の誘導加熱源によって容器の複数箇所が同時に加熱され、さらに別の箇所に配置された抵抗加熱源によって容器の別の箇所も同時に加熱される。これにより、容器内の温度分布を均一に近づけることが可能になる。誘導加熱源の数は、3つ以上であってもよい。
【0010】
また、昇華成長装置は、前記容器の温度状態を取得して前記制御装置に出力する一または複数の温度センサを備えていてもよい。この場合、前記制御装置は、予め設定された設定温度と前記温度センサから出力された前記容器の温度状態とに基づくPID(Proportional-Integral-Differential)制御を実行することにより、複数の前記誘導加熱源と前記抵抗加熱源とを制御することができる。これにより、加熱温度の安定性が高まるので、高品質な単結晶を自動で成長させることができる。
【0011】
また、複数の前記誘導加熱源は、第1の誘導加熱源と、第2の誘導加熱源とを含んでいてもよい。この場合、前記制御装置は、前記第1の誘導加熱源に電流を供給する第1の電源回路と、前記第2の誘導加熱源に電流を供給する第2の電源回路とを有するとともに、前記第1の誘導加熱源に印加される電圧の位相と前記第2の誘導加熱源に印加される電圧の位相との差を0にすることができる。これにより、第1の誘導加熱源と第2の誘導加熱源との磁場干渉が低減されて加熱効率が向上する。
【0012】
また、複数の前記誘導加熱源は、前記容器を構成する周壁部を外側から囲むように配置されていてもよい。この場合、前記抵抗加熱源は、前記容器を構成する底壁部から前記周壁部で囲まれた空間内に向けて突出するように配置することができる。これにより、容器の内部も加熱することができるので、容器内の温度分布を更に均一に近づけることができる。抵抗加熱源は、平面視で容器の中央部に配置することもできるし、中央部から径方向に偏位した所に配置することもできる。
【0013】
また、複数の前記誘導加熱源は、前記周壁部の外側において下端部寄りに配置される下側誘導加熱源と、前記周壁部の外側において上端部寄りに配置される上側誘導加熱源とを含んでいてもよい。この場合、前記下側誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力は、前記上側誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力よりも高く設定することができる。
【0014】
また、複数の前記誘導加熱源は、前記周壁部の外側において前記下側誘導加熱源と前記上側誘導加熱源との間に配置される中間誘導加熱源を含んでいてもよい。この場合、前記下側誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力は、前記中間誘導加熱源の単位時間あたりの加熱能力よりも高く設定することができる。これにより、温度分布を均一化しながら、容器の下に残っている原料を効率良く昇華させて単結晶に成長させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、互いに間隔をあけて配置された複数の誘導加熱源と、誘導加熱源とは別の箇所に配置された少なくとも1つの抵抗加熱源とを同時に通電可能にしたので、原料が収容される容器が大型化された場合であっても十分な熱容量を確保できるとともに、容器内の温度分布の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る昇華成長装置の構成を示すブロック図である。
図2】容器を上方から見た斜視図である。
図3】容器の平面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5】底壁部に原料ポットを載置した状態を示す斜視図である。
図6】原料ポットの斜視図である。
図7】制御装置による制御手順の一例を示すフローチャートである。
図8A】ガス排出口が無い場合の種結晶近傍の熱流体の流れを模式的に示す図である。
図8B】ガス排出口がある場合の種結晶近傍の熱流体の流れを模式的に示す図である。
図9】実施形態の変形例1に係る容器及び抵抗加熱源を示しており、(A)は平面図であり、(B)はIX-IX線断面図である。
図10】実施形態の変形例2に係る容器及び抵抗加熱源を示しており、(A)は平面図であり、(B)はX-X線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る昇華成長装置1の構成を示すブロック図である。昇華成長装置1は、粉末の原料Bを昇華温度まで加熱して昇華させ、昇華した原料を種結晶Aに付着させて単結晶成長させるための装置である。原料Bは、例えば炭化ケイ素(SiC)の粉末である。炭化ケイ素の粉末は、例えば解粉や分級等を行うことにより、所定の範囲の平均粒径を有する粉末とすることができる。また、炭化ケイ素の昇華温度は2000℃以上、例えば2100℃~2400℃である。昇華成長装置1で得られた単結晶の炭化ケイ素は、例えばウエハ等に加工されて半導体素子の材料として使用される。
【0019】
昇華成長装置1は、炭化ケイ素の単結晶を成長させることによって大口径の単結晶を得る単結晶生成部10と、単結晶生成部10を制御する制御装置50と、操作盤60と、記憶部61を備えている。単結晶生成部10と制御装置50とは間隔をあけて配置されており、制御装置50が単結晶生成部10から放射される熱の影響を受けないようになっている。「大口径」とは、炭化ケイ素の単結晶の直径が大きいことであり、例えば6インチ以上または8インチ以上の直径の単結晶を昇華成長装置1によって製造することができる。したがって、昇華成長装置1は、炭化ケイ素の単結晶を製造する製造装置と呼ぶこともでき、この昇華成長装置1を用いることで、炭化ケイ素の単結晶の製造方法を実行できる。
【0020】
(単結晶生成部10の構成)
単結晶生成部10は、チャンバー11と、原料Bが収容される容器20と、種結晶Aを支持する支持部材30と、誘導加熱源41~43と、抵抗加熱源44とを備えている。誘導加熱源41~43及び抵抗加熱源44は、容器20に収容された原料Bを昇華温度まで加熱するためのものであり、抵抗加熱源44を第1加熱源とし、誘導加熱源41~43を第2加熱源とすることができる。チャンバー11は、例えば石英等で構成された水冷式チャンバーであり、内部を真空状態で保持可能な気密性を持っている。チャンバー11には、図示しないが真空引きを行うための真空引き装置(高真空排気装置)が接続されており、単結晶の製造を開始する前に、真空引き装置によってチャンバー11内が真空状態とされる。また、チャンバー11には、冷却水が流通する水路(図示せず)も設けられている。
【0021】
容器20は、昇華成長装置1に用いられる昇華成長装置用原料容器であり、その全体がチャンバー11内に収容される。図2図4に示すように、容器20は、底壁部21と、周壁部22とを有している。底壁部21は、平面視で円形をなす底板材21Aで構成されており、この底板材21Aが水平な姿勢となるようにチャンバー11内に設置される。底板材21Aの径方向の中心を通る鉛直線が容器20の軸線200となり、容器20は軸線200を対称軸とした回転対称形状である。
【0022】
図4に示すように、底板材21Aの周縁部には、上方へ突出するとともに周方向に連続して延びる環状部21aが一体成形されている。環状部31aが一体成形されていることで、底板材21Aの剛性が向上する。環状部21aの上部における外周側には、上方へ突出して周方向に連続して延びる下側突出部21bが形成されている。
【0023】
底板材21Aの中央部には、当該底板材21Aの厚み方向である上下方向に貫通する貫通孔21cが形成されている。貫通孔21cは円形であり、当該貫通孔21cの径方向の中心と底板材21Aの径方向の中心とは一致している。底板材21Aの上面(容器内面)には、窪み部21dが設けられている。この窪み部21dは、貫通孔21cを囲むように環状に延びている。また、底板材21Aの下面(容器外面)には、下方へ突出する突条部21eが形成されている。突条部21eも貫通孔21cを囲むように環状に延びている。
【0024】
図1にも示すように、周壁部22は、底板材21Aの上に配設されるとともに、円環状の誘導加熱源41~43内に配置される。図2図4等に示すように、周壁部22は、平面視で円環状をなすとともに導電性材料からなる複数の周壁構成部材22A~22Gが上下方向に接続されて構成されている。この実施形態では、7つの周壁構成部材22A~22Gが組み合わされることによって円筒状の周壁部22が構成されているが、周壁構成部材の数は7つに限られるものではなく、6つ以下の任意の数であってもよいし、8つ以上の任意の数であってもよい。
【0025】
周壁構成部材22A~22Gのうち、最も下に位置する部材を第1の周壁構成部材22Aとし、第1の周壁構成部材22Aの上に重ねられた状態で接続される部材を第2の周壁構成部材22Bとし、第2の周壁構成部材22Bの上に重ねられた状態で接続される部材を第3の周壁構成部材22Cとし、第3の周壁構成部材22Cの上に重ねられた状態で接続される部材を第4の周壁構成部材22Dとし、第4の周壁構成部材22Dの上に重ねられた状態で接続される部材を第5の周壁構成部材22Eとし、第5の周壁構成部材22Eの上に重ねられた状態で接続される部材を第6の周壁構成部材22Fとし、第6の周壁構成部材22Fの上に重ねられた状態で接続される部材を第7の周壁構成部材22Gとする。第1~第7の周壁構成部材22A~22Gは、同じ形状及び同じ大きさの部材、即ち、同じ部材である。これにより、共通の部材で周壁構成部材22A~22Gを構成することができるので、コストを低減できる。
【0026】
図4に示すように、第1の周壁構成部材22Aの下部における外周側には、底板材21Aの下側突出部21bが収容される第1凹部22aが形成されている。第1凹部22aは、第1の周壁構成部材22Aの周方向に連続して延びている。底板材21Aの下側突出部21bが第1凹部22aに収容されると両者が嵌合した状態になり、第1の周壁構成部材22Aが底板材21Aに対して径方向に相対移動するのが阻止される。このように凹凸嵌合させることで、容器20の気密性も高めることができる。周壁構成部材22A~22Gの結合構造も同様である。
【0027】
第1の周壁構成部材22Aの上部における外周側には、上方へ突出して周方向に延びる第1突出部22bが形成されている。この第1突出部22bの形状及び大きさは、底板材21Aの下側突出部21bの形状及び大きさと同じである。
【0028】
第2の周壁構成部材22Bの下部における外周側には、第1の周壁構成部材22Aの第1突出部22bが収容される第2凹部22cが形成されている。第2凹部22cの形状及び大きさは、第1凹部22aの形状及び大きさと同じである。第1の周壁構成部材22Aの第1突出部22bが第2の周壁構成部材22Bの第2凹部22cに収容されると両者が嵌合した状態になり、第2の周壁構成部材22Bが第1の周壁構成部材22Aに対して径方向に相対移動するのが阻止される。
【0029】
同様に、第2の周壁構成部材22Bの上部における外周側には、上方へ突出して周方向に延びる第2突出部22dが形成され、第3の周壁構成部材22Cの下部における外周側には、第2の周壁構成部材22Bの第2突出部22dが収容される第3凹部22eが形成されている。第3~第7周壁構成部材22C~22Gも同様である。これにより、第1~第7の周壁構成部材22A~22Gが相対的に径方向に相対移動することはなく、所定形状の周壁部22が構成される。
【0030】
底板材21A及び第1~第7の周壁構成部材22A~22Gは、導電性材料で構成されている。導電性材料としては、例えば不純物の含有量が極めて少ない高純度な黒鉛で構成されており、この導電性材料の非抵抗値は10-5Ωcm以上10-2Ωcm以下である。非抵抗値をこの範囲に設定しておくことで、後述する誘導加熱源41~43による誘導加熱時に渦電流を効率良く発生させることができ、原料Bの加熱効率が高まる。黒鉛には微量の不純物が含まれていてよく、含まれ得る不純物としては、例えばB、Na、K、Si、Mg、Al、Fe、Ca等を挙げることができる。これら元素が微量に含まれていても、加熱効率には大きく影響しない。
【0031】
この実施形態では、第1~第7の周壁構成部材22A~22Gを同じ部材で構成しているが、これに限られるものではない。例えば、厚みまたは上下方向の寸法が互いに異なる第1~第7の周壁構成部材22A~22Gを上下方向に接続することによって周壁部22が構成されていてもよい。すなわち、第1~第7の周壁構成部材22A~22Gの厚みや上下方向の寸法が異なると、誘導加熱源41~43による誘導加熱時の渦電流密度が変化することになり、ひいては容器20の部位による加熱温度の制御が可能になる。
【0032】
また、容器20が底板材21A及び複数の周壁構成部材22A~22Gで構成されることになるので、一体成形する場合に比べて各部品が小さくなり、製造が容易になる。また、底板材21A及び複数の周壁構成部材22A~22Gのうち、一部が損傷した場合には、損傷した部材のみ交換すればよく、メンテナンスのコストが低減される。
【0033】
容器20の内部には、抵抗加熱源44をカバーするためのカバー部材23と、複数の原料ポッド24とが設けられている。カバー部材23は、円筒部23aと、上板部23bとを有しており、全体が上記導電性材料で構成されている。円筒部23aの下端部には径方向外方へ突出して周方向に連続して延びるフランジ部23cが形成されている。このフランジ部23cが底板材21Aの窪み部21dに入って嵌合するようになっている。フランジ部23cが窪み部21dに嵌合した状態で、カバー部材23が底板材21Aに対して径方向に相対移動するのが阻止される。
【0034】
円筒部23aの内径は、底板材21Aの貫通孔21cの内径と同じに設定されている。また、円筒部23aの軸線は、容器20の軸線200と一致しており、円筒部23aは平面視で容器20の中央部に配置される。円筒部23aの高さは、原料ポッド24の高さと同じか、原料ポッド24よりも高く設定されている。上板部23bは、円筒部23aの上端部に設けられており、当該円筒部23aの上端開口が上板部23bによって閉塞されている。一方、円筒部23aの下端部は下方に開口しており、これにより、カバー部材23は下方にのみ開放されることになる。
【0035】
原料ポッド24は、原料Bが収容される部材であり、図5に示すように底板材21Aの上面に載置される。この実施形態では、6つの原料ポッド24が貫通孔21cの周り、即ち容器20の軸線200を囲むように、等間隔に配置されている。尚、原料ポッド24の数は、6つに限られるものではなく、5つ以下の任意の数であってもよいし、7つ以上の任意の数であってもよい。また、原料ポッド24は等間隔に配置しなくてもよく、不等間隔に配置してもよい。
【0036】
6つの原料ポッド24は、全て同じ形状及び同じ大きさの部材で構成されている。これにより、共通の部材で原料ポッド24を構成することができるので、コストを低減できるとともに、各原料ポッド24内の原料Bの加熱温度を均一化することができる。
【0037】
図6に示すように、各原料ポッド24は、ポッド本体24aと、蓋部材24bとを備えている。ポッド本体24a及び蓋部材24bは、全体が上記導電性材料で構成されている。ポッド本体24aは有底の円筒形状をなしており、外径はカバー部材23の円筒部23aの外径よりも小径に設定されている。尚、ポッド本体24aの外径は、カバー部材23の円筒部23aの外径と同じであってもよいし、円筒部23aの外径より大径であってもよい。
【0038】
ポッド本体24aの高さは、カバー部材23の円筒部23aの高さと略同じに設定されている。すなわち、ポッド本体24aの高さと、円筒部23aの高さとが略同じになるように、ポッド本体24aの高さ方向の寸法及び円筒部23aの高さ方向の寸法が設定されている。尚、ポッド本体24aの高さは、カバー部材23の円筒部23aの高さより高くてもよいし、低くてもよい。
【0039】
蓋部材24bは、ポッド本体24aの上端部を覆うように設けられており、円形の板状部材で構成されている。蓋部材24bには、ポッド本体24a内の原料Bが昇華することによって生成された昇華ガスを排気するための排気口24cが当該蓋部材24bを上下方向に貫通するように設けられている。つまり、原料ポッド24の上側部分に排気口24cが設けられていることで、ポッド本体24a内で生成された昇華ガスを効率良く原料ポッド24の外部に放出させることができる。排気口24cは、原料ポッド24の上端部に開口しているので、上端開口である。尚、蓋部材24bは必要に応じて設ければよく、蓋部材24bを省略してもよい。
【0040】
排気口24cは、蓋部材24bの中心部から径方向に偏心した部位に位置している。この実施形態では、排気口24cが、蓋部材24bにおける容器20の軸線200に接近する側に位置するようになっている。尚、排気口24cは、蓋部材24bの中心部に設けられていてもよいし、容器20の軸線200から離れた側に位置するように設けられていてもよい。また、排気口24cは蓋部材24bに1つだけ設けてもよいし、2つ以上設けてもよい。
【0041】
排気口24cの形状は円形である。排気口24cの径は、1mm以上30mm以下の範囲で設定されている。すなわち、排気口24cの径が1mmよりも小さいと、排気口24cが詰まりやすくなって単結晶の成長を阻害してしまう。一方、排気口24cの径が30mmよりも大きいと、原料ポッド24から大きな蒸発物が出やすくなり、単結晶の品質が悪化しやすくなる。よって、排気口24cの径を上記範囲にすることで、単結晶の安定した成長と品質の向上を図ることができる。
【0042】
この実施形態では、原料Bを加熱する加熱源として、互いに間隔をあけて配置された複数の誘導加熱源41~43と、誘導加熱源41~43とは別の箇所に配置された少なくとも1つの抵抗加熱源44とを含んでいる。以下、加熱源の詳細について説明する。
【0043】
誘導加熱源41~43は、上側誘導加熱源(第1の誘導加熱源)41と、中間誘導加熱源(第2の誘導加熱源)42と、下側誘導加熱源43とを含んでいる。上側誘導加熱源41、中間誘導加熱源42及び下側誘導加熱源43は、チャンバー11の外径よりも大径の円環状に形成された導線からなる誘導加熱コイルを有しており、この誘導加熱コイルに電流を流すことで、内側の部材に対して誘導加熱が可能に構成されている。上側誘導加熱源41、中間誘導加熱源42及び下側誘導加熱源43は、図示しない固定部材により、チャンバー11に固定しておくことができる。
【0044】
上側誘導加熱源41は、容器20の周壁部22の外側において上端部寄りに配置されるとともに、当該周壁部22を外側(チャンバー11の外側)から囲むように配置されている。上側誘導加熱源41の高さ(上下方向の位置)は、原料ポッド24の上端部及びカバー部材23の上端部よりも高くなっており、第7の周壁構成部材22Gと略同じ高さとなっている。下側誘導加熱源43は、容器20の周壁部22の外側において下端部寄りに配置されるとともに、当該周壁部22を外側(チャンバー11の外側)から囲むように配置されている。下側誘導加熱源43の高さは、原料ポッド24の下端部及びカバー部材23の下端部と略同じ高さであり、第1の周壁構成部材22Aと略同じ高さとなるように設定されている。また、中間誘導加熱源42は、周壁部22の外側において下側誘導加熱源43と上側誘導加熱源41との間に配置されている。中間誘導加熱源42の高さは、原料ポッド24の上端部及びカバー部材23の上端部と略同じ高さに設定されている。
【0045】
また、上側誘導加熱源41と中間誘導加熱源42との間には隙間が形成されており、上側誘導加熱源41と中間誘導加熱源42とは上下方向に第1の所定距離だけ離れて配置されている。また、中間誘導加熱源42と下側誘導加熱源43との間にも隙間が形成されており、中間誘導加熱源42と下側誘導加熱源43とは上下方向に第2の所定距離だけ離れて配置されている。第1の所定距離と第2の所定距離とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
上側誘導加熱源41、中間誘導加熱源42及び下側誘導加熱源43による単位時間あたりの加熱能力は、使用されている導線の径や巻き数等、導線に流す電流値等によって任意に設定することができる。下側誘導加熱源43の単位時間あたりの加熱能力は、上側誘導加熱源41の単位時間あたりの加熱能力よりも高く設定され、また、下側誘導加熱源43の単位時間あたりの加熱能力は、中間誘導加熱源42の単位時間あたりの加熱能力よりも高く設定されている。つまり、上側誘導加熱源41、中間誘導加熱源42及び下側誘導加熱源43のうち、下側誘導加熱源43の加熱能力が最も高くなっている。上側誘導加熱源41及び中間誘導加熱源42の加熱能力は、同じであってもよいし、上側誘導加熱源41の方が高くてもよいし、中間誘導加熱源42の方が高くてもよい。
【0047】
尚、誘導加熱源の数は3つに限られるものではなく、2つ以下であってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0048】
抵抗加熱源44は、容器20を構成する底壁部21から周壁部22で囲まれた空間内に向けて突出するように配置されている。具体的には、抵抗加熱源44はジュール熱を発生する導体を有しており、この導体が上下方向に長く延びるように形成されている。抵抗加熱源44の上下方向の寸法は、複数の周壁構成部材22A~22Gの上下方向の寸法を合わせた寸法よりも長く設定されている。抵抗加熱源44は、その長手方向が上下方向に向くように配置されて、底板材21Aの貫通孔21c内からカバー部材23の円筒部23a内に達するように設けられている。円筒部23a内の径方向中央部に抵抗加熱源44が位置するように、図示しない固定部材によって抵抗加熱源44がチャンバー11等に固定されている。これにより、抵抗加熱源44は、平面視で容器20の中央部に配置されることになる。また、複数の原料ポッド24と抵抗加熱源44との位置関係は、複数の原料ポッド24が抵抗加熱源44を囲むように配置されることになる。
【0049】
上記のように配置された抵抗加熱源44の上端部は、原料ポッド24の上側部分と同じ高さに配置され、また抵抗加熱源44の下端部は、原料ポッド24の下側部分よりも下に配置される。これにより、抵抗加熱源44から放射された熱がカバー部材23を介して原料ポッド24の上側部分から下側部分まで伝わることになる。また、抵抗加熱源44は水平方向のどの方向にも熱を放射するように構成されている。これにより、複数の原料ポッド24を同じように加熱することができる。
【0050】
図1に示すように、支持部材30は、容器20の内部における当該容器20の上部で種結晶Aを下向きに支持する部材である。具体的には、支持部材30は、チャンバー11内の上部に収容されるとともに、容器20の上端開口を覆うように配置された円形の板材で構成されており、支持部材30の下面に種結晶Aが設けられている。したがって、各原料ポッド24の排気口24cは種結晶Aの下方に配置されることになり、種結晶Aと各排気口24cとは上下方向に対向する位置関係となる。種結晶Aの成長方向が下方向になる。
【0051】
単結晶生成部10は、支持部材30を上下方向に延びる軸周りに回転させる回転機構45を備えている。回転機構45は、電動モータ45aと、電動モータ45aの出力が伝達される回転軸45bとを備えている。回転軸45bは、鉛直方向に延びるとともにチャンバー11の上壁部を上下方向に貫通するように配置されており、回転軸45bの下側部分が支持部材30の径方向中心部に固定されている。チャンバー11の上壁部には、回転軸45bを回転可能に支持する軸受部材11aが設けられている。この軸受部材11aは、チャンバー11内の真空状態を維持可能なシール機構を持つとともに、加熱源から放射される熱にも耐え得るように構成されている。
【0052】
電動モータ45aの出力は伝動歯車45cや伝動チェーン(図示せず)等を介して回転軸45bに伝達される。これにより、支持部材30が各原料ポッド24の排気口24cの上方で回転する。支持部材30の回転速度は、電動モータ45aを制御装置50によって制御することで変更することができ、支持部材30の回転方向の切替、回転開始及び停止のタイミングも、電動モータ45aを制御装置50によって制御することで可能になる。尚、伝動歯車45cや伝動チェーン等を介することなく、支持部材30を電動モータ45aで直接駆動してもよい。
【0053】
容器20における種結晶Aよりも上側部分には、原料の昇華ガスを排出するガス排出口25が設けられている。ガス排出口25が種結晶Aよりも上方に位置していることで、種結晶Aよりも下で発生した昇華ガスを上方へ流して種結晶Aに導くことが可能になる。ガス排出口25は、支持部材30の周囲と容器20の上端開口の周縁部との間に形成されている。図示しないが、支持部材30における種結晶Aの周りにガス排出口25を形成してもよい。また、ガス排出口25を複数形成してもよく、この場合、複数のガス排出口25を容器20の周方向に互いに間隔をあけて配置するのが好ましい。ガス排出口25の径は、原料ポッド24の排気口24cの径と同様に設定することができる。また、ガス排出口25は容器20の周方向に長いスリット状であってもよい。
【0054】
単結晶生成部10は、容器20の温度状態を取得して制御装置50に出力する上側温度センサ(第1温度センサ)46と下側温度センサ(第2温度センサ)47とを備えている。上側温度センサ46及び下側温度センサ47は、温度の計測対象物に接触することなく、計測対象物から放射される赤外線に基づいて温度を計測する赤外放射温度計で構成されている。上側温度センサ46は、チャンバー11の上壁部と対向するように配置されており、直接的にはチャンバー11の上壁部の温度を計測することになるが、このチャンバー11の上壁部と容器20の上部とは接近しているので、チャンバー11の上壁部の温度を計測することで容器20の上部の温度状態を取得することができる。例えば、予め実験等により、チャンバー11の上壁部と容器20の上部との温度の関係を得ておくことで、チャンバー11の上壁部の温度を計測するだけで、容器20の上部の温度の推定が可能になる。推定によって得られた温度は、容器20の上部の温度状態として後述するPID制御で使用される。
【0055】
下側温度センサ47は、チャンバー11の下壁部と対向するように配置されており、直接的にはチャンバー11の下壁部の温度を計測することになるが、上側温度センサ46の場合と同様に、予め実験等により、チャンバー11の下壁部と容器20の下部(底壁部21)との関係を得ておくことで、チャンバー11の下壁部の温度を計測するだけで、容器20の下部の温度の推定が可能になる。推定によって得られた温度は、容器20の下部の温度状態として後述するPID制御で使用される。
【0056】
尚、容器20の温度を直接計測可能な温度センサがあれば、その温度センサを用いることで容器20の温度状態を正確に得ることができる。上記した上側温度センサ46及び下側温度センサ47の推定による温度状態の取得であっても、原料Bを狙い通りに昇華させることができるように各加熱源の制御が可能である。また、温度センサの数は、2つに限られるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。上側温度センサ46及び下側温度センサ47は、誘導加熱源41~43から離れた部位の温度を計測するように配置されているので、容器20の温度の推定結果が正確なものになる。上側温度センサ46の出力値に基づいて上側誘導加熱源41の加熱制御を行ってもよいし、上側温度センサ46及び下側温度センサ47の両方の出力値に基づいて誘導加熱源41~43、抵抗加熱源44の加熱制御を行ってもよい。また、容器20の側面の温度状態を取得する温度センサを設けてもよい。
【0057】
(制御装置50の構成)
制御装置50は、誘導加熱源41~43、抵抗加熱源44及び回転機構45を制御するための装置であり、真空圧センサ51、ガス流量センサ52、PID制御部53、位相制御部54、電力制御モジュール55、電源回路56~58等を有している。PID制御部53及び位相制御部54は、例えばマイクロコンピュータ等のハードウエアやハードウエアで実行可能なソフトウエア等の組み合わせによって構成されている。位相制御部54、電力制御モジュール55及び電源回路56~58は、PID制御部53に接続されている。
【0058】
真空圧センサ51は、チャンバー11内の圧力、即ちチャンバー11内の圧力が所定の圧力以下(真空状態となる圧力以下)であるか否かを検出するセンサである。本実施形態における真空状態とは、完全な真空でなくてもよく、高品質な単結晶が安定して得られる程度の真空であればよい。本例では、例えば10-3Pa未満の真空度を維持することができる。
【0059】
また、ガス流量センサ52は、チャンバー11内のガスの流量を計測するセンサである。真空圧センサ51及びガス流量センサ52は、PID制御部53に接続されている。
【0060】
電源回路56~58は、上側誘導加熱源41に電流を供給する上側電源回路(第1の電源回路)56と、中間誘導加熱源42に電流を供給する中間電源回路(第2の電源回路)57と、下側誘導加熱源43に電流を供給する下側電源回路58とを含んでいる。上側電源回路56、中間電源回路57及び下側電源回路58は、それぞれ独立したインバータ回路等で構成されており、下側電源回路58は、上側電源回路56及び中間電源回路57に比べて大きな電力の供給が可能に構成されている。一例を挙げると、下側電源回路58は、40kW~60kW程度の電力を下側誘導加熱源43に供給可能に構成されており、また上側電源回路56及び中間電源回路57は、20kW~35kW程度の電力を上側誘導加熱源41及び中間誘導加熱源42に供給可能に構成されている。これにより、大口径の単結晶の生成が可能になる。
【0061】
ここで、上記のように誘導加熱源41~43に供給される電力が大きいと、発熱容量増加に伴い、電源や整合器の電気容量が大きくなり、電源の出力周波数に限界が生じ、その結果、容器20へのエネルギー伝送効率が悪化して加熱効率が低下するおそれがある。このことに対して、本実施形態では、独立した複数の電源回路56~58から出力される電力における電圧の位相差を0にして、誘導加熱源41~43間の磁場干渉を抑制している。
【0062】
すなわち、制御装置50は、上側電源回路56によって上側誘導加熱源41に印加される電圧の位相と、中間電源回路57によって中間誘導加熱源42に印加される電圧の位相と、下側電源回路58によって下側誘導加熱源43に印加される電圧の位相との差を0とするように構成されている。これを実現するために、上側電源回路56、中間電源回路57及び下側電源回路58を制御装置50の位相制御部54に接続して信号の送受信が可能に構成されている。位相制御部54は、位相同期回路を有している。位相同期回路は、入力信号の位相と出力信号の位相とを一致させる位相同期ループ(PLL:Phase Locked Loop)で構成されており、上側電源回路56、中間電源回路57及び下側電源回路58から入力される信号に基づいて、上側電源回路56、中間電源回路57及び下側電源回路58から出力される電力における電圧の位相差を0にする制御を行う。また、電力制御モジュール55は、抵抗加熱源44に電力を供給するためのものである。
【0063】
PID制御部53には、上側温度センサ46、下側温度センサ47、真空圧センサ51及びガス流量センサ52が接続されている。PID制御部53は、上側温度センサ46及び下側温度センサ47から出力された値に基づいて容器20の現在の温度状態を取得することができる。容器20の内部に原料Bが収容されており、容器20が熱伝導の良好な材料で構成されているので、容器20の温度状態は原料Bの温度状態とほぼ同じである。よって、PID制御部53は、原料Bの温度状態も間接的に取得できる。
【0064】
PID制御部53は、真空圧センサ51から出力された値に基づいてチャンバー11内が真空状態であるか否かを判定する。また、PID制御部53は、ガス流量センサ52から出力された値に基づいてチャンバー11内のガス流量を取得する。さらに、PID制御部53には操作盤60が接続されている。操作盤60には、各種設定を行うための操作スイッチ60aや、運転開始/停止を行うための操作スイッチ60a等が設けられている。ユーザは、操作盤60の操作スイッチ60aを操作することで、容器20の目標温度(設定温度)、容器20の昇温速度、容器20の加熱時間等の設定を行うことができる。設定された目標温度、昇温速度、加熱時間等は制御装置50や記憶部61等に記憶される。目標温度は、炭化ケイ素の粉末を昇華させることが可能な温度であり、例えば2000℃以上に設定される。
【0065】
制御装置50は、誘導加熱源41~43と抵抗加熱源44とに同時に通電するように構成されている。通電制御を行う際、制御装置50は、予め設定された設定温度と温度センサ46、47から出力された容器20の温度状態とに基づくPID制御を実行することにより、誘導加熱源41~43と抵抗加熱源44とを制御する。すなわち、設定温度と、容器20の温度状態との偏差を求め、比例制御、積分制御、微分制御を組み合わせて制御量を演算する。上側温度センサ46及び下側温度センサ47の出力値や、電力の制御値等は、時系列データとして記憶部61に記憶されて管理される。
【0066】
以下、図7に示すフローチャートに基づいて制御装置50による制御手順について説明する。このフローは、ユーザが操作盤60の操作スイッチ60aを操作して目標温度、昇温速度及び加熱時間等を設定し、単結晶の製造が開始されるとスタートする。また、スタートした時点から経過時間を計測し、ユーザが設定した加熱時間を経過した時点で上記フローを中断ないし終了する。尚、ユーザが加熱を停止する操作(製造中止操作)を行った場合にも、上記フローを中断ないし終了する。
【0067】
スタート後のステップS1では、現在温度の計測処理を実行する。現在温度の計測処理では、PID制御部53が、上側温度センサ46と下側温度センサ47で計測された現在の計測値を読み込む。現在の計測値は、容器20の温度(容器の推定温度)、即ち原料Bの温度(原料の推定温度)を示している。ステップS2では、ユーザが操作盤60で設定した目標温度、昇温速度及び加熱時間等の設定を読み込む。ステップS1とステップS2の順番は反対であってもよいし、ステップS1とステップS2を同時に実行してもよい。
【0068】
ステップS3では、PID制御部53が、上側、中間、下側電源回路56~58の出力設定値を読み込む。また、ステップS4では、PID制御部53が、電力制御モジュール55の出力設定値を読み込む。各出力設定値は、例えばステップS1で取得された現在温度に対して目標温度が高ければ高いほど大きな値になるように設定され、また昇温速度が速ければ速いほど大きな値になるように設定される。各出力設定値は、記憶部61等に記憶させておくことができる。ステップS3とステップS4の順番は反対であってもよいし、ステップS3とステップS4を同時に実行してもよい。
【0069】
ステップS5では、PID制御部53がPID制御を実行する。スタート後のはじめのフローのステップS6では、ステップS3で読み込まれた出力設定値の電力を出力するように、PID制御部53が上側、中間、下側電源回路56~58を制御し、また、ステップS4で読み込まれた出力設定値の電力を出力するように、PID制御部53が電力制御モジュール55を制御する。
【0070】
これにより、上側誘導加熱源41、中間誘導加熱源42及び下側誘導加熱源43に電流が流れて容器20の周壁部22に渦電流が発生して発熱する。このとき、電源回路56~58から出力される電力における電圧の位相差が0になっているので、誘導加熱源41~43間の磁場干渉が抑制されて加熱効率が高まる。さらに、周壁構成部材22A~22G及び誘導加熱源41~43が共に円環状であることから、各周壁構成部材22A~22Gに発生した渦電流を当該周壁構成部材22A~22Gに閉じ込めることが可能になり、渦電流が周方向に均一化する。これにより、容器20内の温度分布が均一化する。
【0071】
周壁部22に発生した熱は、内部に収容されている原料ポッド24に伝わり、当該原料ポッド24が加熱される。原料ポッド24が加熱されることで、原料ポッド24内の原料Bが加熱される。
【0072】
また、誘導加熱源41~43への電力供給と同時に、電力制御モジュール55から抵抗加熱源44にも電力が供給される。抵抗加熱源44が発熱すると、抵抗加熱源44から放射された熱がカバー部材23を介して複数の原料ポッド24に伝わり、原料ポッド24内の原料Bが加熱される。
【0073】
ステップS8では、ステップS1と同様に現在温度の計測処理を実行してPID制御部53が計測結果を取得する。ステップS9では、PID制御部53が、ステップS2で読み込んだ目標温度と、ステップS8で計測した測定温度とを比較する比較処理を実行する。ステップS9の比較処理の結果、目標温度と測定温度とに偏差があれば、ステップS6に進み、現在の出力指示値の電力を継続して出力するように、PID制御部53が、上側、中間、下側電源回路56~58及び電力制御モジュール55を制御する。
【0074】
一方、ステップS9の比較処理の結果、目標温度と測定温度とに偏差がなければ、ステップS5に進み、PID制御部53がPID制御を実行して、上側、中間、下側電源回路56~58及び電力制御モジュール55を制御する。
【0075】
目標温度に達する前に、制御装置50は回転機構45の電動モータ45aを作動させる。これにより、原料Bが昇華し始める前に種結晶Aを回転させることができる。抵抗加熱源44が種結晶Aの真下に位置しているので、抵抗加熱源44から放射された熱がカバー部材23の上板部23bを介して種結晶Aにも伝わる。これにより、種結晶Aの温度が単結晶の成長を促進する温度域に保たれる。
【0076】
原料Bが複数の原料ポッド24に分けて収容されているので、各原料ポッド24の内壁面で原料Bを加熱できる。これにより、原料Bを加熱する面積が拡大する。原料ポッド24内の原料Bの温度が昇華温度に達すると、原料Bが昇華することによって原料ポッド24内で昇華ガスが生成される。原料ポッド24内で生成された昇華ガスは、原料ポッド24の上側部分に設けられている排気口24cから上方へ排気される。原料ポッド24から排気された昇華ガスは、真上に位置している種結晶Aに向けて流れる。このとき、容器20の上部における種結晶Aの周りにガス排出口25が位置しているので、昇華ガスの流れはガス排出口25へ向かう流れとなり、種結晶Aに当たりやすくなる。これにより、炭化ケイ素の単結晶が成長していく。炭化ケイ素の単結晶は、例えば柱状になる。
【0077】
このことを図8A及び図8Bに基づいて説明する。図8Aは、ガス排出口が無い場合の種結晶A近傍の熱流体の流れをシミュレーションした結果を模式的に示す図である。この場合、種結晶A近傍では、大きな温度差に起因する流体圧縮が起きて、乱流が発生する。乱流が発生することで、単結晶の安定した成長が阻害される。
【0078】
一方、図8Bは、ガス排出口25がある場合の種結晶A近傍の熱流体の流れをシミュレーションした結果を模式的に示す図である。この場合、種結晶Aの側方にガス排出口25が位置することになるので、種結晶Aの下方から上方へ流れた熱流体(昇華ガス)は層流状態を維持したまま、種結晶Aを表面に沿うように流れてガス排出口25に達する。これにより、単結晶が安定して成長する。さらに、このときに種結晶Aが回転しているので、種結晶A近傍の温度差が小さくなり、このことによっても、層流状態が維持されやすくなる。
【0079】
(変形例)
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する各種変形や様々な変更は、全て本発明の範囲内のものである。容器20の大きさや形状は、任意に設定することができ、6インチ未満の小口径の単結晶を製造する場合にも本発明を適用できる。誘導加熱源による加熱範囲は、図示した範囲に限られるものではなく、例えば容器20の底壁部21を誘導加熱源で加熱してもよい。抵抗加熱源による加熱範囲は、図示した範囲に限られるものではなく、例えば容器20の周壁部22を抵抗加熱源で加熱してもよい。
【0080】
例えば、図9に示す実施形態の変形例1のように、カバー部材23を複数設けてもよい。カバー部材23は、容器20の軸線200を囲むように周方向に互いに間隔をあけて設けられている。各カバー部材23の内部には、抵抗加熱源44が収容されている。これにより、容器20内の温度分布がより一層均一化する。つまり、抵抗加熱源44は1つに限定されるものではなく、1つの容器20に対して複数設けることができる。抵抗加熱源44を複数設ける場合、容器20の軸線200を対称の中心として点対称に設けることができる。
【0081】
また、図10に示す実施形態の変形例2のように、カバー部材23を容器20の軸線200から径方向に偏位させてもよい。カバー部材23の内部には、抵抗加熱源44が収容されているので、抵抗加熱源44も容器20の軸線200から径方向に偏位することになる。
【0082】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、同時に通電される複数の誘導加熱源41~43を備えていることで熱容量が増加するので、6インチ径や8インチ径のような単結晶を成長させることが可能な大型化した容器20であっても、内部の原料Bを2000℃以上まで加熱して昇華させることができる。加えて、複数の誘導加熱源41~43が互いに間隔をあけて配置されているので、複数の誘導加熱源41~43によって容器20の複数箇所が同時に加熱され、さらに容器20の内部に対応するように配置された抵抗加熱源44によって容器20が内側からも同時に加熱される。これにより、容器20内の温度分布を均一に近づけることが可能になる。
【0083】
また、容器20の周壁部22の外側を囲むように誘導加熱源41~43が配置されているので、誘導加熱源41~43に通電すると、周壁部22を構成している各周壁構成部材22A~22Gに渦電流が発生し、各周壁構成部材22A~22Gが発熱して原料Bが加熱される。このとき、周壁構成部材22A~22G及び誘導加熱源41~43が共に円環状であることから、各周壁構成部材22A~22Gに発生した渦電流を当該周壁構成部材22A~22Gに閉じ込めることが可能になり、渦電流が周方向に均一化する。これにより、容器20内の温度分布も均一化する。
【0084】
また、種結晶Aが支持部材30によって下向きに支持されているので、単結晶の成長方向と重力の方向とが一致し、重力が単結晶の成長を阻害することはない。また、支持部材30が回転機構45によって回転することで、種結晶Aを回転させることができる。これにより、種結晶A近傍の熱流体の乱流が抑制されるので、熱流体が層流化し、単結晶に欠陥が含まれ難くなる。
【0085】
また、原料Bが複数の原料ポッド24に分けて収容されて各原料ポッド24の内壁面で加熱されることになるので、径の大きな容器20にそのまま原料Bを収容する場合に比べて、原料Bを加熱する面積が拡大する。これにより、原料Bが効率良く昇華するとともに昇華状態が安定し、さらに多くの原料Bを昇華温度まで加熱できるので、原料Bの使用率が高まる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本開示は、例えば炭化ケイ素等の原料を昇華させて種結晶上に単結晶成長させる場合に利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 昇華成長装置
20 容器
24 原料ポッド
24c 排気口
25 ガス排出口
30 支持部材
41 上側誘導加熱源
42 中間誘導加熱源
43 下側誘導加熱源
44 抵抗加熱源
45 回転機構
46、47 温度センサ
50 制御装置
A 種結晶
B 原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10