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特開2024-87455低分子量のキトサンを有するポリイオンコンプレックスを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087455
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】低分子量のキトサンを有するポリイオンコンプレックスを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/55 20060101AFI20240624BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240624BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K8/73
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022202285
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 麻理子
(72)【発明者】
【氏名】河西 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】白谷 俊史
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真介
(72)【発明者】
【氏名】五十島 健史
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AC791
4C083AC901
4C083AC902
4C083AD071
4C083AD091
4C083AD241
4C083AD261
4C083AD271
4C083AD272
4C083AD301
4C083AD321
4C083AD322
4C083AD331
4C083AD332
4C083AD341
4C083AD41
4C083AD412
4C083BB33
4C083BB34
4C083CC02
4C083CC03
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE11
(57)【要約】
【課題】ポリイオンコンプレックスを形成することができ、塗布中の良好な展延性及び塗布後の低減されたべたつき等の改善されたテクスチャをもたらすことができる、安定した組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び(d)水を含む組成物であって、(a)カチオン性ポリマーが、分子量が20,000以下のキトサンから選択される、組成物に関する。本発明による組成物は、安定しており、ポリイオンコンプレックスを形成することができ、塗布中の良好な展延性及び塗布後の低減されたべたつき等の改善されたテクスチャをもたらすことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び
(d)水
を含む組成物であって、
前記(a)カチオン性ポリマーが、分子量が20,000以下のキトサンから選択される、組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記(a)カチオン性ポリマーの量が、前記組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(b)アニオン性ポリマーが、硫酸基、スルフェート基、スルホン酸基、スルホネート基、リン酸基、ホスフェート基、ホスホン酸基、ホスホネート基、カルボン酸基及びカルボキシレート基からなる群から選択される少なくとも1つの負電荷を有することができる及び/又は負電荷を有する部分を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記(b)アニオン性ポリマーが、多糖、例えばアルギン酸、ヒアルロン酸及びセルロースポリマー、アニオン性(コ)ポリアミノ酸、例えば(コ)ポリグルタミン酸、(コ)ポリ(メタ)アクリル酸、(コ)ポリアミン酸、(コ)ポリスチレンスルホネート、(コ)ポリ(ビニルスルフェート)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、(コ)ポリマレイン酸、ポリフマル酸、マレイン酸(コ)ポリマー、並びにそれらの塩からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記(b)アニオン性ポリマーが、多糖、好ましくは、ヒアルロン酸及びその誘導体、セルロースポリマー及びその塩並びにこれらの混合物、より好ましくは、ヒアルロン酸及びその塩、カルボキシメチルセルロース及びその塩並びにこれらの混合物から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の前記(b)アニオン性ポリマーの量が、前記組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩が、有機酸又はその塩、好ましくは、親水性若しくは水溶性の有機酸又はその塩、より好ましくは、フィチン酸若しくはその塩、テレフタリリデンジカンファースルホン酸若しくはその塩又はこれらの混合物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物中の前記(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量が、前記組成物の総質量に対して、0.001質量%~10質量%、好ましくは0.005質量%~5質量%、より好ましくは0.01質量%~1質量%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物中の前記(d)水の量が、前記組成物の総質量に対して、50質量%~99質量%、好ましくは60質量%~98質量%、より好ましくは70質量%~97質量%である、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物のpHが、3~9、好ましくは3.5~8.5、より好ましくは4~8である、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
化粧用組成物、好ましくは皮膚化粧用組成物、より好ましくはスキンケア化粧用組成物である、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
皮膚等のケラチン物質のための美容方法であって、
請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物を前記ケラチン物質に塗布する工程と、
前記組成物を乾燥させて前記ケラチン物質上に化粧皮膜を形成する工程と
を含む、方法。
【請求項13】
分子量が20,000以下のキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び
(d)水
を含む組成物中での使用であって、
前記組成物を安定化するための及び/又は前記組成物の展延性を改善するための、使用。
【請求項14】
皮膜、好ましくは化粧皮膜であって、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含み、
前記(a)カチオン性ポリマーが、分子量が20,000以下のキトサンから選択される、皮膜。
【請求項15】
分子量が20,000以下のキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含む皮膜中での使用であって、
皮膜のテクスチャを改善するための、好ましくは、皮膜によって付与されるしっとり感、柔らかさ及び滑らかさを強化するための及び/又は皮膜のべたつきを低減するための、より好ましくは、皮膜のべたつきを低減するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイオンコンプレックスを含む組成物、及び組成物を使用する美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子の形態であってもよく、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーで形成され得るポリイオンコンプレックスは、既に知られている。
【0003】
例えば、WO2021/125069は、美容処置に有用であり、一実施形態では、少なくとも1種のカチオン性ポリマー、少なくとも1種のヒアルロン酸ベースのアニオン性ポリマー、及び少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩を含む、少なくとも1種のポリイオンコンプレックス粒子を含む、組成物を開示している。WO2021/125069で開示される従来技術では、カチオン性ポリマーとしてポリ-ε-リジンを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2021/125069
【特許文献2】EP-A-0750899
【特許文献3】EP-A-1069172
【特許文献4】EP-A-0173109
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Micelle formation of random copolymers of sodium 2-(acrylamido)-2-methylpropanesulfonate and nonionic surfactant macromonomer in water as studied by fluorescence and dynamic light scattering - Macromolecules、2000年、第33巻、第10号-3694~3704頁
【非特許文献2】「Hyaluronan fragments:an information-rich system」、R. Sternら、European Journal of Cell Biology 58 (2006)、699~715頁
【非特許文献3】D. Campocciaら、「Semisynthetic resorbable materials from hyaluronan esterification」、Biomaterials 19 (1998) 2101~2127頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリイオンコンプレックスを形成することができ、塗布中の良好な展延性及び塗布後の低減されたべたつき等の改善されたテクスチャをもたらすことができる、安定した組成物が依然として必要とされている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ポリイオンコンプレックスを形成することができ、塗布中の良好な展延性及び塗布後の低減されたべたつき等の改善されたテクスチャをもたらすことができる、安定した組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記の目的は、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び
(d)水
を含む組成物であって、
(a)カチオン性ポリマーが、分子量が20,000以下のキトサンから選択される、
組成物によって達成することができる。
【0009】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0010】
(b)アニオン性ポリマーは、硫酸基、スルフェート基、スルホン酸基、スルホネート基、リン酸基、ホスフェート基、ホスホン酸基、ホスホネート基、カルボン酸基、及びカルボキシレート基からなる群から選択される、好ましくはカルボン酸基及びカルボキシレート基からなる群から選択される、少なくとも1つの負電荷を有することができる及び/又は負電荷を有する部分を有してもよい。
【0011】
(b)アニオン性ポリマーは、多糖、例えばアルギン酸、ヒアルロン酸及びセルロースポリマー、アニオン性(コ)ポリアミノ酸、例えば(コ)ポリグルタミン酸、(コ)ポリ(メタ)アクリル酸、(コ)ポリアミン酸、(コ)ポリスチレンスルホネート、(コ)ポリ(ビニルスルフェート)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、(コ)ポリマレイン酸、ポリフマル酸、マレイン酸(コ)ポリマー、並びにこれらの塩からなる群から選択することができる。
【0012】
(b)アニオン性ポリマーは、多糖、好ましくは、ヒアルロン酸及びその誘導体、セルロースポリマー及びその塩並びにこれらの混合物、より好ましくは、ヒアルロン酸及びその塩、カルボキシメチルセルロース及びその塩、並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0013】
本発明による組成物中の(b)アニオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0014】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、有機酸又はその塩、好ましくは、親水性若しくは水溶性の有機酸又はその塩、より好ましくは、フィチン酸若しくはその塩、テレフタリリデンジカンファースルホン酸若しくはその塩又はこれらの混合物であってもよい。
【0015】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.001質量%~10質量%、好ましくは0.005質量%~5質量%、より好ましくは0.01質量%~1質量%であってもよい。
【0016】
本発明による組成物中の(d)水の量は、組成物の総質量に対して、50質量%~99質量%、好ましくは60質量%~98質量%、より好ましくは70質量%~97質量%であってもよい。
【0017】
本発明による組成物のpHは、3~9、好ましくは3.5~8.5、より好ましくは4~8であってもよい。
【0018】
本発明による組成物は、化粧用組成物、好ましくは皮膚化粧用組成物、より好ましくはスキンケア化粧用組成物であってもよい。
【0019】
本発明はまた、皮膚等のケラチン物質のための美容方法であって、
本発明による組成物をケラチン物質に塗布する工程と、
該組成物を乾燥させてケラチン物質上に化粧皮膜を形成する工程と
を含む、方法にも関する。
【0020】
本発明はまた、分子量が20,000以下のキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び
(d)水
を含む組成物中での使用であって、
組成物を安定化するための及び/又は組成物の展延性を改善するための、使用にも関し得る。
【0021】
本発明はまた、皮膜、好ましくは化粧皮膜であって、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含み、
(a)カチオン性ポリマーが、分子量が20,000以下のキトサンから選択される、
皮膜にも関し得る。
【0022】
本発明はまた、分子量が20,000以下のキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含む皮膜中での使用であって、
皮膜のテクスチャを改善するための、好ましくは、皮膜によって付与されるしっとり感、柔らかさ及び滑らかさを強化するための及び/又は皮膜のべたつきを低減するための、より好ましくは、皮膜のべたつきを低減するための、使用にも関し得る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
鋭意検討の結果、本発明者らは、ポリイオンコンプレックスを形成することができ、塗布中の良好な展延性及び塗布後の低減されたべたつき等の改善されたテクスチャをもたらすことができる、安定した組成物を提供することが可能であることを発見した。
【0024】
そのため、本発明による組成物は、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び
(d)水
を含み、
(a)カチオン性ポリマーは、分子量が20,000以下のキトサンから選択される。
【0025】
本発明による組成物は、安定しており、ポリイオンコンプレックスを形成することができ、塗布中の良好な展延性及び塗布後の低減されたべたつき等の改善されたテクスチャをもたらすことができる。
【0026】
本発明による組成物は、その調製後に均一であり得るように安定している。
【0027】
本発明による組成物は、(a)カチオン性ポリマー及び(b)アニオン性ポリマー、並びに架橋剤としての(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩で、ポリイオンコンプレックスを形成することができる。ポリイオンコンプレックスは、粒子の形態であってもよい。
【0028】
本発明による組成物は、塗布中の良好な展延性を有することができる。したがって、本発明による組成物は、塗布中、例えば、皮膚等のケラチン物質上に容易に展延できる。
【0029】
本発明による組成物は、塗布後、低減されたべたつき、強化されたしっとり感、強化された柔らかさ及び強化された滑らかさ等の改善されたテクスチャをもたらすことができる。
【0030】
塗布後のべたつき、しっとり感、柔らかさ及び滑らかさにおける改善は、本発明による組成物によって形成される皮膜によって実現することができる。
【0031】
以下、本発明による組成物及び方法等をより詳細に説明する。
【0032】
[組成物]
(カチオン性ポリマー)
本発明による組成物は、(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーを含む。
【0033】
(a)カチオン性ポリマーのタイプに限定はない。2つ以上の異なるタイプのカチオン性ポリマーを組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプのカチオン性ポリマー、又は異なるタイプのカチオン性ポリマーの組合せを使用することができる。
【0034】
カチオン性ポリマーは、正の電荷密度を有する。(a)カチオン性ポリマーの電荷密度は、0.01meq/g~20meq/g、好ましくは0.05~15meq/g、より好ましくは0.1~10meq/gでもよい。
【0035】
(a)カチオン性ポリマーは、分子量が20,000以下、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下のキトサンから選択される。
【0036】
説明中に別段の定義がない限り、「分子量」は質量平均分子量を意味する。
【0037】
(a)カチオン性ポリマーの分子量が、1,000以上、好ましくは1,200以上、より好ましくは1,500以上であることが好ましい場合がある。
【0038】
キトサン類は、キトサン、キトサンの塩、例えばキトサン塩酸塩、及びキトサンのグリコシドを含む。(a)カチオン性ポリマーは、分子量が20,000以下のキトサンであることが好ましい。
【0039】
キトサンは周知である。キトサンは、ランダムに分布しているβ-(1→4)結合したD-グルコサミン(脱アセチル化単位)及びN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)から構成される、直鎖状多糖類であり得る。
【0040】
キトサンのアセチル化度は、3%超~10%未満、好ましくは3%~8%、より好ましくは3%~5%であり得る。
【0041】
キトサンは、例えば、エビ又は他の甲殻類のキチン殻を、アルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウムで処理することによって調製され得る。しかしながら、真菌に由来するキトサンは、いずれのアレルゲンも不含とすることができるため、キトサンは真菌、例えば、クロコウジカビ(Aspergillus Niger)に由来することが好ましい。そのため、キトサンは真菌に由来することが好ましい場合がある。
【0042】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であってもよい。
【0043】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってもよい。
【0044】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0045】
(アニオン性ポリマー)
本発明による組成物は、(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマーを含む。
【0046】
(b)アニオン性ポリマーのタイプに限定はない。2つ以上の異なるタイプのアニオン性ポリマーを組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプのアニオン性ポリマー、又は異なるタイプのアニオン性ポリマーの組合せを使用することができる。
【0047】
(e)アニオン性ポリマーは、(a)カチオン性ポリマーと共にポリイオンコンプレックスを形成することができる。
【0048】
アニオン性ポリマーは、正の電荷密度を有する。(b)アニオン性ポリマーが合成アニオン性ポリマーである場合、(b)アニオン性ポリマーの電荷密度は、0.1meq/g~20meq/g、好ましくは1~15meq/g、より好ましくは4~10meq/gであってもよく、(b)アニオン性ポリマーが天然アニオン性ポリマーである場合、(b)アニオン性ポリマーの平均置換度は、0.1~3.0、好ましくは0.2~2.7、より好ましくは0.3~2.5であってもよい。
【0049】
アニオン性ポリマーの分子量が、300以上、好ましくは1,000以上、より一層好ましくは5,000以上、より一層好ましくは10,000以上、より一層好ましくは50,000以上、より一層好ましくは100,000以上、より一層好ましくは1,000,000以上であることが、好ましい場合がある。
【0050】
説明中に別段の定義がない限り、「分子量」は質量平均分子量を意味し得る。
【0051】
(b)アニオン性ポリマーは、硫酸基、スルフェート基、スルホン酸基、スルホネート基、リン酸基、ホスフェート基、ホスホン酸基、ホスホネート基、カルボン酸基、及びカルボキシレート基からなる群から選択される、好ましくはカルボン酸基及びカルボキシレート基からなる群から選択される、少なくとも1つの負電荷を有することができる及び/又は負電荷を有する部分を有してもよい。
【0052】
(b)アニオン性ポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。「コポリマー」という用語は、2種類のモノマーから得たコポリマー、及び2種類超のモノマーから得たもの、例えば3種類のモノマーから得たターポリマーの両方を意味すると理解される。
【0053】
(b)アニオン性ポリマーは、天然及び合成のアニオン性ポリマーから選択することができる。
【0054】
(b)アニオン性ポリマーは、少なくとも1つの疎水性鎖を含んでもよい。
【0055】
少なくとも1つの疎水性鎖を含み得るアニオン性ポリマーは、α,β-エチレン性不飽和を含むカルボン酸(モノマーa')及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(モノマーa'')から選択されるモノマー(a)を、(a)以外のエチレン性不飽和を含む非表面活性モノマー(b)、並びに/又はα,β-モノエチレン性不飽和を含むアクリルモノマー若しくはモノエチレン性不飽和を含むイソシアネートモノマーを、一価の非イオン性両親媒性成分又は第一級若しくは第二級脂肪アミンと反応させることから得られるエチレン性不飽和を含むモノマー(c)と、共重合させることによって得ることができる。
【0056】
そのため、少なくとも1つの疎水性鎖を有するアニオン性ポリマーは、2つの合成経路のいずれかによって得ることができる:
- モノマー(a')と(c)、若しくは(a')と(b)と(c)、若しくは(a'')と(c)、若しくは(a'')と(b)と(c)との共重合、
- 又はモノマー(a')、若しくはモノマー(a')と(b)、若しくは(a'')と(b)とから形成されたコポリマーを、一価の非イオン性両親媒性化合物又は第一級若しくは第二級脂肪アミンで修飾(具体的にはエステル化若しくはアミド化)すること。
【0057】
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸コポリマーとしては、特に、論文「Micelle formation of random copolymers of sodium 2-(acrylamido)-2-methylpropanesulfonate and nonionic surfactant macromonomer in water as studied by fluorescence and dynamic light scattering - Macromolecules、2000年、第33巻、第10号-3694~3704頁」並びに出願EP-A-0750899及びEP-A-1069172に開示されているものを挙げることができる。
【0058】
モノマー(a')を構成する、α,β-モノエチレン性不飽和を含むカルボン酸は、多数の酸から、特に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸及びマレイン酸から選択することができる。これは、好ましくは、アクリル酸又はメタクリル酸である。
【0059】
コポリマーは、界面活性剤特性を有さないモノエチレン性不飽和を含むモノマー(b)を含んでもよい。好ましいモノマーは、単独重合させた場合に水不溶性ポリマーを生じるものである。これらは、例えば、アクリル酸及びメタクリル酸アルキル(C1~C4)、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル又は対応するメタクリレートから選択することができる。とりわけ好ましいモノマーは、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルである。使用することができる他のモノマーは、例えば、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル及び塩化ビニリデンである。非反応性モノマーが好ましく、これらのモノマーは、単一のエチレン性基が、重合条件下で反応性である唯一の基であるものである。しかしながら、熱の作用下で反応する基を含むモノマー、例えばアクリル酸ヒドロキシエチルを、任意選択で使用することができる。
【0060】
モノマー(c)は、α,β-モノエチレン性不飽和を含むアクリルモノマー、例えば(a)、又はモノエチレン性不飽和を含むイソシアネートモノマーと、一価の非イオン性両親媒性化合物又は第一級若しくは第二級脂肪アミンとの反応によって得られる。
【0061】
非イオン性モノマー(c)を生成するのに使用される一価の非イオン性両親媒性化合物又は第一級若しくは第二級脂肪アミンは、周知である。一価の非イオン性両親媒性化合物は、一般に、分子の親水性部分を形成するアルキレンオキシドを含むアルコキシル化疎水性化合物である。疎水性化合物は、一般に、脂肪族アルコール又はアルキルフェノールで構成され、その化合物中、少なくとも6個の炭素原子を含む炭素性鎖が、両親媒性化合物の疎水性部分を構成する。
【0062】
好ましい一価の非イオン性両親媒性化合物は、以下の式(V)を有する化合物である:
R-(OCH2CHR')m-(OCH2CH2)n-OH (V)
(式中、Rは、6~30個の炭素原子を含むアルキル又はアルキレン基、及び8~30個の炭素原子を含むアルキル基を有するアルキルアリール基から選択され、R'は、1~4個の炭素原子を含むアルキル基から選択され、nは、およそ1~150の範囲の平均数であり、mは、およそ0~50の範囲の平均数であり、但し、nは、少なくともmと同じ大きさである)。
【0063】
好ましくは、式(V)の化合物中、R基は、12から26個の炭素原子を含むアルキル基及びアルキル基がC8~C13であるアルキルフェニル基から選択され、R'基は、メチル基であり、m=0であり、n=1から25である。
【0064】
好ましい第一級及び第二級脂肪アミンは、6~30個の炭素原子を含む1つ又は2つのアルキル鎖から構成される。
【0065】
非イオン性ウレタンモノマー(c)を形成するのに使用されるモノマーは、きわめて多様な化合物から選択することができる。共重合性不飽和、例えばアクリル性、メタクリル性又はアリル性不飽和を含む、任意の化合物を使用してもよい。モノマー(c)は、特に、モノエチレン性不飽和を含むイソシアネート、例えば特にα,α-ジメチル-m-イソプロペニルベンジルイソシアネートから得ることができる。
【0066】
モノマー(c)は、特に、オキシエチレン化(1から50EO)C6~C30脂肪アルコールのアクリレート、メタクリレート又はイタコネート、例えばメタクリル酸ステアレス-20、オキシエチレン化(25EO)ベヘニルメタクリレート、オキシエチレン化(20EO)モノセチルイタコネート、オキシエチレン化(20EO)モノステアリルイタコネート又はポリオキシエチレン化(25EO)C12~C24アルコールで修飾されたアクリレートから、及びオキシエチレン化(1から50EO)C6~C30脂肪アルコールのジメチル-m-イソプロペニルベンジルイソシアネート、例えば特にオキシエチレン化ベヘニルアルコールのジメチル-m-イソプロペニルベンジルイソシアネートから選択することができる。
【0067】
本発明の特定の実施形態によれば、アニオン性ポリマーは、(a)α,β-エチレン性不飽和を含むカルボン酸、(b)(a)以外のエチレン性不飽和を含む非表面活性モノマー、及び(c)一価の非イオン性両親媒性化合物と、モノエチレン性不飽和を含むイソシアネートとの反応生成物である非イオン性ウレタンモノマーから得られるアクリルターポリマーから選択される。
【0068】
少なくとも1つの疎水性鎖を含むアニオン性ポリマーとしては、特に、アクリル酸/アクリル酸エチル/アクリル酸アルキルターポリマー、例えばRohm & Haas社によって名称Acusol 823で販売されている30%水性分散体としての製品;アクリレート/メタクリル酸ステアレス-20コポリマー、例えばRohm & Haas社によって名称Aculyn 22で販売されている製品;(メタ)アクリル酸/アクリル酸エチル/オキシエチレン化(25EO)ベヘニルメタクリレートターポリマー、例えばRohm & Haas社によって名称Aculyn 28で販売されている水性エマルションとしての製品;アクリル酸/オキシエチレン化(20EO)モノセチルイタコネートコポリマー、例えばNational Starch社によって名称Structure 3001で販売されている30%水性分散体としての製品;アクリル酸/オキシエチレン化(20EO)モノステアリルイタコネートコポリマー、例えばNational Starch社によって名称Structure 2001で販売されている30%水性分散体としての製品;アクリレート/ポリオキシエチレン化(25EO)C12~C24アルコールで修飾されたアクリレートのコポリマー、例えば3V SA社によって名称Synthalen W2000で販売されている30~32%コポリマーラテックス;又はメタクリル酸/アクリル酸メチル/エトキシル化ベヘニルアルコールのジメチル-メタ-イソプロペニルベンジルイソシアネートのターポリマー、例えば文献EP-A-0173109に開示された40個のエチレンオキシド基を含む24%水性分散体としての製品を挙げることができる。
【0069】
(e)アニオン性ポリマーはまた、ポリエステル-5、例えば、以下の化学式を有する、EASTMAN CHEMICAL社により名称Eastman AQ(商標)55S Polymerで販売されている製品であってもよい。
【0070】
【化1】
【0071】
A:ジカルボン酸部分
G:グリコール部分
SO3 -Na+:ナトリウムスルホ基
OH:ヒドロキシル基
【0072】
(e)アニオン性ポリマーが、多糖、例えばアルギン酸、ヒアルロン酸及びセルロースポリマー(例えばカルボキシメチルセルロース)、アニオン性(コ)ポリアミノ酸、例えば(コ)ポリグルタミン酸、(コ)ポリ(メタ)アクリル酸、(コ)ポリアミン酸、(コ)ポリスチレンスルホネート、(コ)ポリ(ビニルスルフェート)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、(コ)ポリマレイン酸、(コ)ポリフマル酸、マレイン酸(コ)ポリマー、並びにそれらの塩からなる群から選択されることが好ましい場合がある。
【0073】
マレイン酸コポリマーは、1つ又は複数のマレイン酸コモノマー、並びに酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、2~20個の炭素原子を含むオレフィン、及びスチレンから選択される1つ又は複数のコモノマーを含んでもよい。
【0074】
したがって、「マレイン酸コポリマー」は、1つ又は複数のマレイン酸コモノマーと、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、2~20個の炭素原子を含むオレフィン、例えばオクタデセン、エチレン、イソブチレン、ジイソブチレン又はイソオクチレン、及びスチレンから選択される1つ又は複数のコモノマーとの共重合によって得られる任意のポリマーを意味すると理解され、マレイン酸コモノマーは、任意選択で部分的に又は完全に加水分解されている。好ましくは、親水性ポリマー、すなわち2g/l以上の水溶解度を有するポリマーが使用される。
【0075】
本発明の有利な態様では、マレイン酸コポリマーは、マレイン酸単位のモル分率が、0.1から1の間、より好ましくは0.4から0.9の間であってよい。
【0076】
マレイン酸コポリマーの質量平均モル質量は、1,000から500,000の間、好ましくは1,000から50,000の間であってよい。
【0077】
マレイン酸コポリマーが、スチレン/マレイン酸コポリマー、より好ましくはスチレン/マレイン酸コポリマーナトリウムであることが好ましい。
【0078】
好ましくは、50/50の比のスチレンとマレイン酸とのコポリマーが使用される。
【0079】
例えば、Cray Valley社により参照名SMA1000H(登録商標)で販売されている、水中30%でアンモニウム塩の形態のスチレン/マレイン酸(50/50)コポリマー、又はCray Valley社により参照名SMA1000HNa(登録商標)で販売されている、水中40%でナトリウム塩の形態のスチレン/マレイン酸(50/50)コポリマーを使用することができる。
【0080】
スチレン/マレイン酸コポリマー、例えばスチレン/マレイン酸コポリマーナトリウムの使用は、本発明による組成物によって調製される皮膜の濡れ性を改善することができる。
【0081】
本発明の一実施形態によれば、(e)アニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸及びその誘導体から選択されることが好ましい。
【0082】
ヒアルロン酸は、以下の化学式によって表すことができる。
【0083】
【化2】
【0084】
本発明の文脈では、用語「ヒアルロン酸」は、具体的には、次式のヒアルロン酸の基本単位を包含する:
【0085】
【化3】
【0086】
これは、二糖ダイマー、すなわちD-グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンを含むヒアルロン酸の最小の部分である。
【0087】
用語「ヒアルロン酸及びその誘導体」はまた、本発明の文脈では、380から13,000,000ダルトンの間の範囲であり得る分子量(MW)を有する、交互β(1,4)及びβ(1,3)グルコシド結合を介して鎖内で一緒に結合される上記のポリマー単位を含む直鎖状ポリマーも含む。この分子量は、主に、ヒアルロン酸が得られる供給源及び/又は調製方法に依存する。
【0088】
用語「ヒアルロン酸及びその誘導体」はまた、本発明の文脈では、ヒアルロン酸塩も含む。塩として、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0089】
自然状態では、ヒアルロン酸は、真皮及び上皮組織等の脊椎動物の臓器の結合組織の基体中の細胞周囲ゲル中に存在し、具体的には、表皮中、関節の滑液中、硝子体液中、ヒト臍帯中、及び鶏冠突起中に存在する。
【0090】
そのため、用語「ヒアルロン酸及びその誘導体」は、特に上で想起される分子量範囲内の分子量を有するヒアルロン酸の全画分又はサブ単位を含む。
【0091】
本発明の文脈では、炎症活性を有さないヒアルロン酸画分が使用されることが好ましい。
【0092】
多様なヒアルロン酸画分の例示を介して、ヒアルロン酸の列挙されている生物活性をその分子量に応じて概説している文献「Hyaluronan fragments:an information-rich system」、R. Sternら、European Journal of Cell Biology 58 (2006)、699~715頁を参照することができる。
【0093】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明に包含される使用に好適なヒアルロン酸画分は、50,000から5,000,000、特に100,000から5,000,000、とりわけ400,000から5,000,000Daの間の分子量を有する。この場合、使用される用語は、高分子量のヒアルロン酸である。
【0094】
或いは、本発明に包含される使用に好適でもあり得るヒアルロン酸画分は、50,000から400,000Daの間の分子量を有する。この場合、使用される用語は、中間分子量のヒアルロン酸である。
【0095】
或いは、本発明に包含される使用に好適であり得るヒアルロン酸画分は、50,000Da未満の分子量を有する。この場合、使用される用語は、低分子量のヒアルロン酸である。
【0096】
最後に、用語「ヒアルロン酸及びその誘導体」はまた、ヒアルロン酸エステル、具体的には、1~20個の炭素原子を含有する、特にヒアルロン酸のD-グルクロン酸のレベルにおける置換度が0.5~50%の範囲である、酸官能基のカルボン酸基の全て又は一部がオキシエチレン化アルキル又はアルコールでエステル化されているものを含む。
【0097】
特に、ヒアルロン酸のメチル、エチル、n-プロピル、n-ペンチル、ベンジル及びドデシルエステルを挙げることができる。このようなエステルは、詳細には、D. Campocciaら、「Semisynthetic resorbable materials from hyaluronan esterification」、Biomaterials 19 (1998) 2101~2127頁に記載されている。
【0098】
ヒアルロン酸誘導体は、例えば、アセチル化ヒアルロン酸又はその塩でもよい。
【0099】
上に示した分子量はまた、ヒアルロン酸エステルにも有効である。
【0100】
ヒアルロン酸は、特に、Hyactive社により商品名CPN(MW:110~150kDa)で、Soliance社により商品名Cristalhyal(MW:150kDa)で、Soliance社により商品名Cristalhyal(MW:1.1×106)で、Bioland社により名称Nutra HA(MW:820,000Da)で、Bioland社により名称Nutra AF(MW:69,000Da)で、Bioland社により名称Oligo HA(MW:6100Da)で、或いはVam Farmacos Metica社により名称D Factor(MW:380Da)で供給されているヒアルロン酸であってもよい。
【0101】
(b)アニオン性ポリマーは、多糖、好ましくは、ヒアルロン酸及びその誘導体、セルロースポリマー及びその塩並びにこれらの混合物、より好ましくは、ヒアルロン酸及びその塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース及びその塩並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0102】
本発明による組成物中の(b)アニオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であってもよい。
【0103】
本発明による組成物中の(b)アニオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってもよい。
【0104】
本発明による組成物中の(b)アニオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0105】
(2つ以上の酸解離定数を有する非ポリマー酸)
本発明による組成物は、(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、すなわち、少なくとも1種の2つ以上の酸解離定数を有する非ポリマー酸又はその塩を含む。pKa値(酸解離定数)は、当業者に周知であり、一定の温度、例えば25℃で決定されるべきである。
【0106】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、(a)カチオン性ポリマーの架橋剤として機能することができる。(a)カチオン性ポリマーは、(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩によってイオン架橋され得る。
【0107】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、(a)カチオン性ポリマー及び(b)アニオン性ポリマーによって形成され得るポリイオンコンプレックス中に含まれ得る。(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、(a)カチオン性ポリマー及び(b)アニオン性ポリマーによって形成されるポリイオンコンプレックスに影響を与えることができる。
【0108】
用語「非ポリマー」は、本明細書では、酸が、2種以上のモノマーを重合させることによって得られるものではないことを意味する。したがって、非ポリマー酸は、ポリカルボン酸等の2種以上のモノマーを重合することによって得られる酸には相当しない。
【0109】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の分子量が、1000以下、好ましくは800以下、より好ましくは700以下であることが好ましい。
【0110】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩のタイプに限定はない。2つ以上の異なるタイプの2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩を組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプの2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸若しくはその塩、又は異なるタイプの2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸若しくはその塩の組合せを使用することができる。
【0111】
用語「塩」は、本明細書では、2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸に、好適な塩基を添加することによって形成される塩を意味し、これは、当業者に公知の方法に従って、2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸を、塩基と反応させることから得ることができる。塩として、金属塩、例えば、Na及びK等のアルカリ金属との塩並びにMg及びCa等のアルカリ土類金属との塩、並びにアンモニウム塩を挙げることができる。
【0112】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、有機酸又はその塩、好ましくは親水性又は水溶性の有機酸又はその塩でもよい。
【0113】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、カルボン酸基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性ヒドロキシル基、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも2つの酸基を有し得る。
【0114】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、非ポリマー多価酸でもよい。
【0115】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、ジカルボン酸、ジスルホン酸及びジホスホン酸、並びにこれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0116】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、アコニット酸、オキサロ酢酸、酒石酸、及びそれらの塩;アスパラギン酸、グルタミン酸、及びそれらの塩;テレフタリリデンジカンファースルホン酸又はその塩(Mexoryl SX)、ベンゾフェノン-9;フィチン酸及びその塩;赤色2号(アマランス)、赤色102号(ニューコクシン)、黄色5号(タルトラジン)、黄色6号(サンセットイエローFCF)、緑色3号(ファストグリーンFCF)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、青色2号(インジゴカルミン)、赤色201号(リソールルビンB)、赤色202号(リソールルビンBCA)、赤色204号(レーキレッドCBA)、赤色206号(リソールレッドCA)、赤色207号(リソールレッドBA)、赤色208号(リソールレッドSR)、赤色219号(ブリリアントレーキレッドR)、赤色220号(ディープマルーン)、赤色227号(ファストアシッドマジェンタ)、黄色203号(キノリンイエローWS)、緑色201号(アリザニンシアニングリーンF)、緑色204号(ピラニンコンク)、緑色205号(ライトグリーンSF黄)、青色203号(パテントブルーCA)、青色205号(アルファズリンFG)、赤色401号(ビオラミンR)、赤色405号(パーマネントレッドF5R)、赤色502号(ポンソー3R)、赤色503号(ポンソーR)、赤色504号(ポンソーSX)、緑色401号(ナフトールグリーンB)、緑色402号(ギネアグリーンB)及び黒色401号(ナフトールブルーブラック);葉酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、及びそれらの塩;シスチン及びその塩;EDTA及びその塩;グリチルリチン及びその塩;並びにこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0117】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩が、テレフタリリデンジカンファースルホン酸及びその塩(Mexoryl SX)、黄色6号(サンセットイエローFCF)、アスコルビン酸、フィチン酸、及びそれらの塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択されることが、好ましい場合がある。
【0118】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩が、テレフタリリデンジカンファースルホン酸及びその塩(Mexoryl SX)、フィチン酸、及びそれらの塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択されることが、より好ましい場合がある。
【0119】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上でもよい。
【0120】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下であってもよい。
【0121】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.001質量%~10質量%、好ましくは0.005質量%~5質量%、より好ましくは0.01質量%~1質量%であってもよい。
【0122】
(水)
本発明による組成物は、(d)水を含む。
【0123】
(d)水の量は、組成物の総質量に対して、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であってもよい。
【0124】
(d)水の量は、組成物の総質量に対して、99質量%以下、好ましくは98質量%以下、より好ましくは97質量%以下であってもよい。
【0125】
(d)水の量は、組成物の総質量に対して、50質量%~99質量%、好ましくは60質量%~98質量%、より好ましくは70質量%~97質量%であってもよい。
【0126】
(pH)
本発明による組成物のpHは、3~9、好ましくは3.3~8.5、より好ましくは3.5~8であってもよい。
【0127】
3~9のpHで、(a)アニオン性ポリマー及び(b)アニオン性ポリマー並びに(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、粒子の形態であってもよい安定したポリイオンコンプレックスを形成することができる。したがって、本発明による組成物は、3~9のpHで安定であることができる。
【0128】
本発明による組成物のpHは、(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩以外の、少なくとも1種のアルカリ剤及び/又は少なくとも1種の酸を添加することによって調整することができる。本発明による組成物のpHはまた、少なくとも1種の緩衝剤を添加することによって調整することもできる。
【0129】
(アルカリ剤)
本発明による組成物は、少なくとも1種のアルカリ剤を含んでよい。2種以上のアルカリ剤を組み合わせて使用してもよい。したがって、単一のタイプのアルカリ剤、又は異なるタイプのアルカリ剤の組合せを使用してもよい。
【0130】
アルカリ剤は、無機アルカリ剤であってもよい。無機アルカリ剤は、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属リン酸塩及びリン酸一水素塩、例えばリン酸ナトリウム又はリン酸一水素ナトリウムからなる群から選択されることが好ましい。
【0131】
無機アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物の例としては、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムを挙げることができる。無機アルカリ剤として、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0132】
アルカリ剤は、有機アルカリ剤であってもよい。有機アルカリ剤は、モノアミン及びその誘導体、ジアミン及びその誘導体、ポリアミン及びその誘導体、塩基性アミノ酸及びその誘導体、塩基性アミノ酸のオリゴマー及びその誘導体、塩基性アミノ酸のポリマー及びその誘導体、尿素及びその誘導体、並びにグアニジン及びその誘導体からなる群から選択されることが好ましい。
【0133】
有機アルカリ剤の例として、アルカノールアミン、例えばモノ-、ジ-及びトリ-エタノールアミン、並びにイソプロパノールアミン;尿素、グアニジン及びそれらの誘導体;塩基性アミノ酸、例えばリジン、オルニチン又はアルギニン;並びにジアミン、例えば以下の構造:
【0134】
【化4】
【0135】
(式中、Rは、ヒドロキシル基又はC1~C4アルキル基で任意選択により置換されているプロピレン等のアルキレンを示し、R1、R2、R3及びR4は、独立に、水素原子、アルキル基又はC1~C4ヒドロキシアルキル基を示す)で記載され、1,3-プロパンジアミン及びその誘導体によって例示することができるものを挙げることができる。アルギニン、尿素及びモノエタノールアミンが好ましい。
【0136】
アルカリ剤は、それらの溶解度に応じて、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.03質量%~5質量%の総量で使用することができる。
【0137】
(酸)
本発明による組成物は、少なくとも1種の酸を含んでよい。2種以上の酸を組み合わせて使用してもよい。したがって、単一のタイプの酸、又は異なるタイプの酸の組合せを使用してもよい。
【0138】
酸としては、化粧料中で一般に使用される任意の無機又は有機酸、好ましくは無機酸を挙げることができる。一価の酸及び/又は多価酸を使用してもよい。クエン酸、乳酸、硫酸、リン酸及び塩酸(HCl)等の一価の酸を使用してもよい。HClが好ましい。
【0139】
酸は、それらの溶解度に応じて、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.03質量%~5質量%の総量で使用することができる。
【0140】
(緩衝剤)
本発明による組成物は、少なくとも1種の緩衝剤を含んでよい。2種以上の緩衝剤を組み合わせて使用してもよい。したがって、単一のタイプの緩衝剤、又は異なるタイプの緩衝剤の組合せを使用してもよい。
【0141】
緩衝剤として、酢酸緩衝液(例えば、酢酸+酢酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(例えば、リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム)、クエン酸緩衝液(例えば、クエン酸+クエン酸ナトリウム)、ホウ酸緩衝液(例えば、ホウ酸+ホウ酸ナトリウム)、酒石酸緩衝液(例えば、酒石酸+酒石酸ナトリウム二水和物)、トリス緩衝液(例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、及びHepes緩衝液(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)を挙げることができる。
【0142】
(任意選択の添加剤)
本発明による組成物は、前述の成分に加えて、化粧品に典型的に用いられる成分、具体的には、油、界面活性剤(特に、非イオン性界面活性剤)又は乳化剤、親水性又は親油性増粘剤、有機揮発性又は不揮発性溶媒、親水性又は疎水性UV遮蔽剤、シリコーン及びシリコーン誘導体、動物又は植物に由来する天然抽出物、ワックス等を、本発明の効果を損なわない範囲内で含んでもよい。
【0143】
本発明による組成物は、上記の任意選択の添加剤を、組成物の総質量に対して、0.01質量%~50質量%、好ましくは0.05質量%~30質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%の量で含んでもよい。
【0144】
(調製)
本発明による組成物は、上記で説明した必須成分、及び必要な場合、上記で説明した任意選択の成分を混合することによって、調製することができる。
【0145】
上記の必須成分及び任意選択の成分を混合する方法及び手段は、限定されない。任意の従来の方法及び手段を使用して、上記の必須成分及び任意選択の成分を混合し、本発明による組成物を調製することができる。
【0146】
[組成物]
本発明による組成物は、化粧用組成物として使用されることが意図されてもよい。したがって、本発明による化粧用組成物は、ケラチン物質への塗布が意図されてもよい。ケラチン物質は、本明細書では、ケラチンを主な構成要素として含有する物質を意味し、その例には、皮膚、頭皮、爪、唇、毛髪等が挙げられる。したがって、本発明による化粧用組成物は、ケラチン物質、特に皮膚のための美容方法に使用されることが好ましい。
【0147】
したがって、本発明による化粧用組成物は、皮膚化粧用組成物、好ましくはスキンケア組成物又は皮膚メイクアップ組成物、より好ましくはスキンケア組成物であってもよい。
【0148】
[皮膜]
本発明による組成物は、皮膜を調製するのに使用することができる。
【0149】
したがって、本発明はまた、好ましくは0.1μm超、より好ましくは0.5μm以上、より一層好ましくは1.0μm以上の厚さを任意選択により有する皮膜、好ましくは化粧皮膜を調製するための方法であって、
本発明による組成物を基材、好ましくはケラチン物質、より好ましくは皮膚に塗布する工程と、
該組成物を乾燥させる工程と
を含む方法にも関し得る。
【0150】
上記皮膜の厚さの上限は限定されない。したがって、例えば、上記の皮膜の厚さは、1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、より一層好ましくは100μm以下であってよい。
【0151】
本発明に関連し得る皮膜を調製するための方法は、本発明による組成物を基材、好ましくはケラチン物質、より好ましくは皮膚に塗布する工程と、組成物を乾燥させる工程とを含むことから、方法は、スピンコーティング又はスプレーすることを一切必要とせず、したがって、比較的厚い皮膜さえ容易に調製することが可能である。したがって、本発明に関連し得る皮膜を調製するための方法は、スピンコーター及びスプレー機等の特殊な装置を一切用いずに皮膜を調製することができる。
【0152】
上記の方法によって調製される皮膜が比較的厚くても、それでもなお薄く、透明とすることができ、したがって、知覚することが容易でない場合がある。したがって、皮膜は、好ましくは化粧皮膜として使用することができる。
【0153】
基材が皮膚等のケラチン物質でない場合、本発明による組成物は、ケラチン以外の任意の材料から作製された基材に塗布することができる。非ケラチン基材の材料は限定されない。2種以上の材料を組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプの材料、又は異なるタイプの材料の組合せを使用することができる。いずれの場合でも、基材が可撓性又は弾性があることが好ましい。
【0154】
基材がケラチン物質でない場合、基材は、水溶性であることが好ましく、その理由は、基材を水で洗浄することによって皮膜を残すことが可能であるからである。水溶性材料の例としては、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール(PVA)、デンプン、酢酸セルロース等を挙げることができる。PVAが好ましい。
【0155】
非ケラチン基材がシートの形態である場合、これは、基材シートに付着した皮膜の取り扱いを容易にするために、上記の方法によって調製された皮膜の厚さを超える厚さを有してもよい。非ケラチン基材シートの厚さは限定されないが、1μm~5mm、好ましくは10μm~1mm、より好ましくは50μm~500μmであってもよい。
【0156】
上記の方法によって調製された皮膜は、非ケラチン基材から剥離可能であることがより好ましい。剥離方式は限定されない。したがって、上記の方法によって調製された皮膜は、非ケラチン基材から剥がしてもよく、又は基材シートを水等の溶媒中に溶解することによって剥離してもよい。
【0157】
そのため、本発明はまた、
(1)好ましくは0.1μm超、より好ましくは0.5μm以上、より一層好ましくは1.0μm以上の厚さを任意選択により有する皮膜、好ましくは化粧皮膜であって、
本発明による組成物を基材、好ましくはケラチン物質、より好ましくは皮膚に塗布する工程と、
該組成物を乾燥させる工程と
を含む方法によって調製される皮膜、
並びに
(2)好ましくは0.1μm超、より好ましくは0.5μm以上、より一層好ましくは1.0μm以上の厚さを任意選択により有する皮膜、好ましくは化粧皮膜であって、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含み、
(a)カチオン性ポリマーが、分子量が20,000以下のキトサンから選択される、皮膜
にも関し得る。
【0158】
(a)カチオン性ポリマー、(b)アニオン性ポリマー、及び(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー塩基又はその塩に関する上記の説明は、上記の皮膜(1)及び(2)中のものに適用され得る。
【0159】
このようにして上記で得られた皮膜は、自立性があってよい。用語「自立性」は、本明細書では、皮膜がシートの形態にあることができ、基材又は支持体の補助なしに独立したシートとして取り扱うことができることを意味する。そのため、用語「自立性」は、「自己支持性」と同じ意味を有することができる。
【0160】
上記の皮膜は、疎水性であることが好ましい。
【0161】
本明細書における用語「疎水性」は、20℃~40℃、好ましくは25℃~40℃、より好ましくは30℃~40℃でのポリマーの(好ましくは1リットルの体積の)水中溶解度が、ポリマーの総質量に対して、10質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、より一層好ましくは0.1質量%未満であることを意味する。ポリマーが水に可溶でないことが最も好ましい。
【0162】
上記の皮膜が疎水性である場合、皮膜は、耐水特性を有することができ、したがって、ケラチン物質の表面が例えば汗及び雨により濡れている場合であっても、皮膚等のケラチン物質上に残存することができる。したがって、皮膜が何らかの美容効果を付与するとき、その美容効果は長時間持続することができる。
【0163】
一方、上記の皮膜は、pH8~12、好ましくは9~11等のアルカリ性条件下で、皮膚等のケラチン物質から容易に除去することができる。したがって、上記の皮膜は、水で除去することは困難であるが、そのようなアルカリ性条件をもたらすことができる石けんで容易に除去することができる。
【0164】
上記の皮膜は、少なくとも1種の生体適合性及び/又は生分解性ポリマーの層を含んでもよい。2種以上の生体適合性及び/又は生分解性ポリマーを組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプの生体適合性及び/若しくは生分解性ポリマー、又は異なるタイプの生体適合性及び/若しくは生分解性ポリマーの組合せを使用することができる。
【0165】
本明細書における用語「生体適合性」ポリマーは、ポリマーが、ポリマーと皮膚を含む生体内の細胞との間で過度な相互作用を有さず、ポリマーが、生体によって異物として認識されないことを意味する。
【0166】
本明細書における用語「生分解性」ポリマーは、ポリマーが、例えば生体自体の代謝、又は生体内に存在し得る微生物の代謝により、生体内で分解され得る又は分割され得ることを意味する。また、生分解性ポリマーは、加水分解によって分解され得る。
【0167】
上記の皮膜が生体適合性及び/又は生分解性ポリマーを含む場合、これは、皮膚への刺激が少ないか又は刺激がなく、一切の発疹を引き起こさない。加えて、生体適合性及び/又は生分解性ポリマーの使用により、上記の皮膜は、皮膚によく接着することができる。
【0168】
上記の皮膜は、ケラチン物質、好ましくは皮膚、特に顔の美容処置に使用することができる。上記の皮膜は、任意の形状又は形態であってもよい。例えば、これは、フルフェイスマスクシート、又は頬、鼻、及び目の周り等の顔の一部用のパッチとして使用することができる。
【0169】
[美容方法及び使用]
本発明はまた、
皮膚等のケラチン物質のための美容方法であって、
本発明による組成物をケラチン物質に塗布する工程と、
組成物を乾燥させて、ケラチン物質上に化粧皮膜を形成する工程と
を含む、方法、
並びに
本発明による組成物の、皮膚等のケラチン物質上に化粧皮膜を調製するための、使用にも関する。
【0170】
美容方法は、本明細書では、皮膚等のケラチン物質の表面をケアする及び/又はメイクアップするための非治療的美容方法を意味する。
【0171】
上記の方法と使用との両方において、上記の化粧皮膜は、7以下のpHを有する水に耐性があり、7超、好ましくは8以上、より好ましくは9以上のpHを有する水で除去可能である。
【0172】
換言すると、上記の化粧皮膜は、7以下、好ましくは6以上で7以下の範囲、より好ましくは5以上で7以下の範囲のpH等の中性又は酸性条件下で耐水性があってよく、その一方で、上記の化粧皮膜は、7超、好ましくは8以上、より好ましくは9以上のpH等のアルカリ性条件下で除去することができる。pHの上限は、好ましくは13、より好ましくは12、より一層好ましくは11である。
【0173】
これに応じて、上記の化粧皮膜は、耐水性があってよく、したがって、該化粧皮膜は、ケラチン物質の表面が例えば汗及び雨により濡れている場合であっても、皮膚等のケラチン物質上に残存することができる。他方、上記の化粧皮膜は、アルカリ性条件下で、皮膚等のケラチン物質から容易に除去することができる。したがって、上記の化粧皮膜は、水で除去することは困難であるが、アルカリ性条件をもたらすことができる石けんで容易に除去され得る。
【0174】
更に、上記の化粧皮膜は、化粧皮膜が美容有効成分を一切含まない場合であっても、化粧皮膜中のポリイオンコンプレックスの特性により、皮膚等のケラチン物質にマット感を付与する、皮脂若しくは悪臭を吸収若しくは吸着する、且つ/又は例えば汚れ若しくは汚染物質からケラチン物質を保護する等の美容効果を有し得る。
【0175】
加えて、上記の化粧皮膜は、化粧皮膜が美容有効成分を一切含まない場合であっても、皮膚上の光反射等を変化させることによって皮膚の外観を即座に変化させる又は修正することができる。したがって、上記の化粧皮膜が毛穴又はしわ等の皮膚の欠陥を隠すことが可能であり得る。更に、上記の化粧皮膜は、皮膚上の表面粗さ等を変化させることによって皮膚の触感を即座に変化させる又は修正することができる。更に、上記の化粧皮膜は、環境ストレス、例えば汚染物質、夾雑物等から、バリアーとして、皮膚の表面を覆い、皮膚を遮蔽することによって、皮膚を即座に保護することができる。
【0176】
上記の美容効果は、上記の化粧皮膜の化学組成、厚さ及び/又は表面粗さを変化させることによって調整又は制御することができる。
【0177】
上記の化粧皮膜が、少なくとも1種の追加の美容有効成分を含む場合、化粧皮膜は、その追加の美容有効成分によって提供される美容効果を有することができる。例えば、化粧皮膜が、抗老化剤、皮脂抑制剤、デオドラント剤、発汗抑制剤、白色化剤及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の美容有効成分を含む場合、該化粧皮膜は、皮膚の老化を処置し、皮膚上の皮脂を吸収し、皮膚上の匂いを制御し、皮膚上の発汗を制御し、且つ/又は皮膚を白色化することができる。
【0178】
皮膚に塗布した後に、上記の化粧皮膜又はシートにメイクアップ化粧用組成物を塗布することも可能である。
【0179】
本発明はまた、分子量が20,000以下のキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び
(d)水
を含む組成物中での使用であって、
組成物を安定化するための及び/又は組成物の展延性を改善するための、使用にも関し得る。組成物は、その調製後に均一であり得るように安定している。組成物は、塗布中、例えば皮膚等のケラチン物質上に容易に展延できる。
【0180】
本発明はまた、分子量が20,000以下のキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの、
(b)少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含む皮膜中での使用であって、
皮膜のテクスチャを改善するための、好ましくは、皮膜によって付与されるしっとり感、柔らかさ及び滑らかさを強化するための及び/又は皮膜のべたつきを低減するための、より好ましくは、皮膜のべたつきを低減するための、使用にも関し得る。
【0181】
(a)カチオン性ポリマー、(b)アニオン性ポリマー、(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、及び(d)水に関する上記の説明は、上記の使用におけるものに適用され得る。
【実施例0182】
本発明を、実施例によって、より詳細な方法で説明する。しかしながら、これらは、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでない。
【0183】
[実施例1~9及び比較例1~5]
[調製]
実施例1~9及び比較例1~5による組成物のそれぞれを、表1及び表2に示す成分を混合して調製した。
【0184】
表1及び表2中の成分の量についての数値はすべて、原料の「質量%」に基づく。
【0185】
調製の詳細は、以下の通りである。
【0186】
(実施例1)
先ず、ヒアルロン酸ナトリウムを水に添加し、可溶化して、ポリアニオンの水溶液を調製した。可溶化した後、適量の水酸化ナトリウムをポリアニオンの水溶液に添加してアルカリ水溶液を作製した。次に、ポリカチオンとして、分子量が3,000のキトサンをアルカリ水溶液に添加した。水溶液のアルカリ性条件によって水溶液中のポリイオンコンプレックスの形成を回避した。次に、適量のフィチン酸を水溶液に添加した。粒子の形態のポリイオンコンプレックスが形成された。
【0187】
(実施例2及び3)
実施例1の調製工程を繰り返したが、但し、ポリアニオン(ヒアルロン酸ナトリウム)及びポリカチオン(キトサン)の量を変えた。
【0188】
(実施例4)
実施例1の調製工程を繰り返したが、但し、ポリアニオン及びポリカチオンの量を変え、分子量が3,000のキトサンの代わりに、分子量が10,000から20,000の間のキトサンを使用した。
【0189】
(実施例5)
実施例1の調製工程を繰り返したが、但し、ヒアルロン酸ナトリウムの代わりに、カルボキシメチルセルロースを使用した。
【0190】
(実施例6)
実施例1の調製工程を繰り返したが、但し、キトサンの分子量を3,000から5,000に変えた。
【0191】
(実施例7)
実施例1の調製工程を繰り返したが、但し、キトサンの分子量を3,000から7,000に変えた。
【0192】
(実施例8)
実施例5の調製工程を繰り返したが、但し、キトサンの分子量を3,000から5,000に変えた。
【0193】
(実施例9)
実施例5の調製工程を繰り返したが、但し、キトサンの分子量を3,000から7,000に変えた。
【0194】
(比較例1)
実施例2の調製工程を繰り返したが、但し、分子量が3,000のキトサンの代わりに、分子量が100,000以上のキトサンを使用した。
【0195】
(比較例2)
実施例2の調製工程を繰り返したが、但し、フィチン酸及び水酸化ナトリウムは使用しなかった。
【0196】
(比較例3)
実施例2の調製工程を繰り返したが、但し、キトサンの分子量を3,000から5,000に変え、フィチン酸及び水酸化ナトリウムは使用しなかった。
【0197】
(比較例4)
実施例2の調製工程を繰り返したが、但し、キトサンの分子量を3,000から7,000に変え、フィチン酸及び水酸化ナトリウムは使用しなかった。
【0198】
(比較例5)
実施例1の調製工程を繰り返したが、但し、ポリカチオンの量を変え、分子量が3,000のキトサンの代わりに、ポリ-ε-リジンを使用した。
【0199】
【表1】
【0200】
【表2】
【0201】
[評価]
(安定性)
調製直後の実施例1~9及び比較例1~5による組成物を、目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
良好:沈殿がなく均一
普通:沈殿がなく均一だが、数日後にゆっくり沈殿した
不良:沈殿があり、不均一
【0202】
結果を表1及び表2に示す。
【0203】
(官能評価)
三名のパネリストが、組成物の塗布中及び塗布後のタイミングで、実施例1及び5~9並びに比較例5による組成物のそれぞれを評価した。具体的には、各パネリストは、各組成物を自身の手に塗布し、それを拡げ、後続して乾燥させ、乾燥時の展延性、べたつき、乾燥後のしっとり感、乾燥後の柔らかさ及び乾燥後の滑らかさを評価し、1wt%のヒアルロン酸ナトリウム(HA)又はカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液である対照をかんがみて1(低)~5(高)で格付けした。次いで、それを、格付けの平均に基づいて以下の3つのカテゴリーに分類した:
はるかに良好:対照よりはるかに良好
より良好:対照より良好
同じ:対照と同じ
【0204】
結果を表3及び表4に示す。
【0205】
【表3】
【0206】
【表4】
【0207】
(まとめ)
実施例1~9による組成物は安定していた(表1参照)。
【0208】
実施例1及び5~9による組成物の展延性並びに実施例1及び5~9による組成物によってもたらされるテクスチャは、カチオン性ポリマー(分子量が20,000以下のキトサン)とアニオン性ポリマー(ヒアルロン酸ナトリウム又はカルボキシメチルセルロース)との組合せによるポリイオンコンプレックスの形成に起因して、アニオン性ポリマーしか含まない組成物(対照)と比較して改善された(表3及び表4参照)。
【0209】
実施例1の官能評価の結果は、実施例1による組成物及び実施例2~4による組成物が類似していることから、実施例2~4にも適用することができる。
【0210】
高分子量のキトサンを含んでいた比較例1による組成物は安定していなかった(表2参照)。
【0211】
フィチン酸を含んでいなかった比較例2による組成物は安定していなかった(表2参照)。
【0212】
フィチン酸を含んでいなかった比較例3による組成物は安定していなかった(表2参照)。
【0213】
フィチン酸を含んでいなかった比較例4による組成物は安定していなかった(表2参照)。
【0214】
キトサンの代わりにポリ-ε-リジンを含んでいた比較例5による組成物は、安定していたが、本発明による組成物と比較して、塗布中の展延性が低く、塗布後のべたつきが多かった(表2及び表3参照)。本発明による組成物は、ポリ-ε-リジンの代わりに20,000以下の分子量のキトサンを使用するため、比較例5による組成物と比較して、塗布中の展延性が高く、塗布後のべたつきが少なかった(表3参照)。
【外国語明細書】