(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087463
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】キャップ付きボトル型缶の開口カール部の成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 51/26 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
B21D51/26 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202299
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】榎木 泰史
(57)【要約】
【課題】薄肉化し、あるいは開口径を小さくするなどのいわゆる小型化した場合であっても、剛性や強度を十分に維持することのできるカール部の成形方法を提供する。
【解決手段】傾斜壁部5とねじ円筒部の中心軸線L0との間の角度が20度以上かつ30度以下の範囲の角度となるように縮径加工し、湾曲させた部分の先端エッジ部10側を半径方向で内側に巻き込ませて傾斜壁部5の外面に突き当てる加工は、カール部1の最外径部9と先端エッジ部10が傾斜壁部5に突き当たっている箇所との間の半径方向で測った寸法が、カール部1の外径と内径との差の半分であるカール幅Wの40%以上かつ60%以下の範囲に入り、かつ先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て角度θ10が90度を中心にした±20度の範囲に入る角度となるように行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ溝が形成されているねじ円筒部より上側の部分を径が小さくなるように縮径加工を行ってテーパ状の傾斜壁部を形成し、ついで前記傾斜壁部より上側の部分を半径方向で外側に拡げるとともに下側に湾曲させ、さらに前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて前記傾斜壁部の外面に突き当てることにより前記傾斜壁部の上側にカール部を形成する、キャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法であって、
前記縮径加工は、前記傾斜壁部と前記ねじ円筒部の中心軸線との間の角度が20度以上かつ30度以下の範囲の角度となるように行い、
前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて前記傾斜壁部の外面に突き当てる加工は、前記カール部の最外径部と前記先端エッジ部が前記傾斜壁部に突き当たっている箇所との間の半径方向で測った寸法が、前記カール部の外径と内径との差の半分であるカール幅の40%以上かつ60%以下の範囲に入り、かつ前記先端エッジ部の前記傾斜壁部に対する突き当て角度が90度を中心にした±20度の範囲に入る角度となるように行う
ことを特徴とするキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法であって、
前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて前記傾斜壁部の外面に突き当てる加工は、半径方向で外側に拡げるとともに下側に湾曲させた前記傾斜壁部より上側の部分に半径方向で外側から内側に向けて押圧することにより行う
ことを特徴とするキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法。
【請求項3】
請求項1に記載のキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法であって、
前記傾斜壁部より上側の部分を半径方向で外側に拡げるとともに下側に湾曲させる加工は、外面側に凸となるように湾曲させる外曲げ加工であり、かつ
前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませる加工は、外面側に凸となるように湾曲させる内曲げ加工であり、
前記外曲げ加工では、前記カール部の最上端部である頂点部が前記カール部の前記幅方向での中央部より外周側に位置するように曲げ加工を行い、かつ
内曲げ加工では、前記先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて外面側に凸となるように湾曲させる曲率半径が、前記頂点部より内周側の部分が外面側に凸となるように湾曲している曲率半径よりも小さくする
ことを特徴とするキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法であって、
前記ボトル型缶は、日本産業規格の3104H19で規定されているアルミニウム合金を素材としかつ前記カール部が呼び径28mmの金属缶であり、
前記カール部を前記中心軸線に沿って切断した断面における前記カール幅と前記カール部の前記中心軸線の方向での高さとの積であるカール占有面積に対する、前記断面における前記カール部を構成している素材の断面積である素材断面積の比率が40%以上60%以下の範囲に入るように前記カール部を成形する
ことを特徴とするキャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャップをねじによって着脱できるように構成した金属製のボトル型缶における口部の開口端のカール部を成形する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のボトル型缶の概略的な構成を説明すると、キャップを取り付けるねじ円筒部が胴部の上部に肩部を介して設けられており、そのねじ円筒部より上側の部分が、ねじ円筒部よりも小径に絞られ、その開口端部がカール部となっている。カール部は、その名称のとおり、円筒状の開口端を外側に湾曲させ、更に下側から内側に向けて巻き返すことにより形成される。カール部は、基本的には、素材である金属板の切断端を内側に巻き込んで隠すとともに、キャップの内面に設けてあるライナを密着させて機密性あるいは液密性を確保するための部分である。
【0003】
このカール部およびその下側のねじ円筒部を含むいわゆる口頸部は、金属薄板であるブランクを、絞りしごき加工によって次第に小径の筒状に成形し、その中心部に胴部より小径の閉じた筒状部を形成し、その筒状部の先端をトリミングして開口させることにより作製する。あるいはこれとは反対に、ブランクを絞りしごき加工によって筒状に成形し、その開口部を次第に絞って、先端側に開口した小径の筒状部を形成し、そのエッジをトリミングして揃えることにより、口頸部を作製する。
【0004】
このような口頸部の開口端となっているカール部の例が、特許文献1や特許文献2に記載されている。特許文献1に記載されたボトル型缶では、雄ねじが形成された円筒部分(ねじ円筒部)の上側に続く部分を径が小さくなるように縮径加工し、その縮径部分の開口端部を外側に湾曲させて巻き返し、その湾曲させた部分の先端部であるカール先端エッジ部を、ねじ円筒部の上側に繋がっている傾斜壁部の外面に接触させている。すなわち、縮径部分の上端部を外側に巻いて断面形状が円形に近い形状をなすカール部を形成している。なお、傾斜壁部は、ねじ円筒部の上側の部分をねじ円筒部よりも小径とすることにより生じるテーパ状の部分である。このような形状のカール部であれば、唇を触れた場合の感触が良好である。また、封止のためのキャップを取り付ける場合、キャップの内面に設けられている樹脂製のライナが、カール部の下側にまで押し込まれてライナがカール部を巻き込んだ状態になる。その結果、キャップを開栓方向に回してキャップが浮き上がってもライナによる封止状態が維持され、キャップの下端部に設けてあるピルファープルーフバンドが破断するまでは、封止状態が維持されるいわゆるタンパーエビデンス性(TE性)が良好になっている。
【0005】
また、特許文献2には、カール部の断面形状をいわゆる略逆三角形状としたボトル型缶が記載されている。カール部をこのような形状とすることにより、キャップを取り付けた場合の密閉性が良好になり、また落下させた場合などにおける衝撃に対する強度が高くなる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4707172号公報
【特許文献2】特許第6946620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載されているカール部あるいはその製造方法によれば、キャップによる密封性や落下時もしくはキャッピング時などにおけるいわゆる垂直荷重に対する剛性や強度を確保できる、とされている。一方、省資源化や温室効果ガスの排出抑制などの要請でボトル型缶の肉厚を薄くすることが求められており、これらの要請に応じてカール部をも薄肉化した場合には、形状あるいは構造を改良しないのであれば、カール部の剛性あるいは強度が低下し、想定されているいわゆる垂直荷重に耐え得なくなったり、あるいはキャップによる密封性もしくはTE性が低下するなどの可能性がある。また、特許文献1や特許文献2に記載されているカール部あるいはその製造方法を、開口径の小さいボトル型缶に適用した場合も同様である。すなわち、開口径が小さいカール部であれば、キャップの内面に設けられているライナと接触する面積が小さくなり、またいわゆる垂直荷重を受ける箇所の面積あるいは全長が小さくなるなど、垂直荷重を支える箇所のボリュームが小さくなっていわゆる垂直荷重に対する剛性もしくは強度が低くなり、その結果、ロールオンキャッピング時などにおける垂直荷重による変形が生じて、キャップによる密封性もしくはTE性が低下する可能性がある。
【0008】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、薄肉化し、あるいは開口径を小さくするなどのいわゆる小型化した場合であっても、剛性や強度を十分に維持することのできるカール部の成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の技術的課題を解決するために、ねじ溝が形成されているねじ円筒部より上側の部分を径が小さくなるように縮径加工を行ってテーパ状の傾斜壁部を形成し、ついで前記傾斜壁部より上側の部分を半径方向で外側に拡げるとともに下側に湾曲させ、さらに前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて前記傾斜壁部の外面に突き当てることにより前記傾斜壁部の上側にカール部を形成する、キャップ付きボトル型缶のカール部の成形方法であって、前記縮径加工は、前記傾斜壁部と前記ねじ円筒部の中心軸線との間の角度が20度以上かつ30度以下の範囲の角度となるように行い、前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて前記傾斜壁部の外面に突き当てる加工は、前記カール部の最外径部と前記先端エッジ部が前記傾斜壁部に突き当たっている箇所との間の半径方向で測った寸法が、前記カール部の外径と内径との差の半分であるカール幅の40%以上かつ60%以下の範囲に入り、かつ前記先端エッジ部の前記傾斜壁部に対する突き当て角度が90度を中心にした±20度の範囲に入る角度となるように行うことを特徴とする方法である。
【0010】
本発明の方法においては、前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて前記傾斜壁部の外面に突き当てる加工は、半径方向で外側に拡げるとともに下側に湾曲させた前記傾斜壁部より上側の部分に半径方向で外側から内側に向けて押圧することにより行うこととしてよい。
【0011】
本発明の方法においては、前記傾斜壁部より上側の部分を半径方向で外側に拡げるとともに下側に湾曲させる加工は、外面側に凸となるように湾曲させる外曲げ加工であり、かつ前記湾曲させた部分の先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませる加工は、外面側に凸となるように湾曲させる内曲げ加工であり、前記外曲げ加工では、前記カール部の最上端部である頂点部が前記カール部の前記幅方向での中央部より外周側に位置するように曲げ加工を行い、かつ内曲げ加工では、前記先端エッジ部側を半径方向で内側に巻き込ませて外面側に凸となるように湾曲させる曲率半径が、前記頂点部より内周側の部分が外面側に凸となるように湾曲している曲率半径よりも小さくすることとしてよい。
【0012】
本発明の方法においては、前記ボトル型缶は、日本産業規格の3104H19で規定されているアルミニウム合金を素材としかつ前記カール部が呼び径28mmの金属缶であり、前記カール部を前記中心軸線に沿って切断した断面における前記カール幅と前記カール部の前記中心軸線の方向での高さとの積であるカール占有面積に対する、前記断面における前記カール部を構成している素材の断面積である素材断面積の比率が40%以上60%以下の範囲に入るように前記カール部を成形することとしてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、カール部をねじ円筒部におけるねじ溝の谷径より小さい外径とすることに伴って生じる傾斜壁部を、中心軸線との間の角度が20度~30度の範囲に入る角度になるように加工するから、ボトル型缶にその軸線方向のいわゆる垂直荷重が掛かった場合、カール部をその内周側に倒れ込ませるように作用する荷重もしくはモーメントが小さくなり、結局、カール部あるいはねじ円筒部などの剛性もしくは強度が高くなってその変形を防止することができる。これに加えて、先端エッジ部をカール幅での中央部もしくはその付近で傾斜壁部に突き当て、かつその先端エッジ部側の部分が傾斜壁部に垂直に近い角度で突き当たるので(突き当て角度を垂直(90度)に近い角度とするので)、上記の垂直荷重が作用した場合に先端エッジ部が傾斜壁部の表面に沿って滑ることがなく、その結果、上記の垂直荷重はカール部のみで受けるのではなく、傾斜壁部によっても受けることになり、この点でもカール部の実質的な剛性あるいは強度を高くすることができる。特に、突き当て角度が垂直に近い角度(90度を中心にした±20度)であることにより、先端エッジ部が傾斜壁部の表面に沿ってずれたり、そのためにカール部の支えが不足するなどの事態を未然に回避して、カール部の実質的な剛性あるいは強度を高くすることができる。本発明では、このように、構造あるいは形状が新規なものとなるように成形加工を行うので、薄肉化されているボトル型缶のカール部を成形する場合にも、いわゆる垂直荷重によって変形しにくい、剛性あるいは強度の高いカール部を得ることができる。
【0014】
また、先端エッジ部を半径方向で内側に巻き込ませる加工を、半径方向で外側から押圧することにより行うので、カール部を成形する加工の途中でカール部や傾斜壁部あるいはねじ円筒部を変形あるいは座屈させてしまうなどの事態を解消することができる。
【0015】
さらに、本発明では、カール部のうち、上側に凸となって露出する湾曲部を大きい曲率半径で湾曲させ、これに対して先端エッジ部に近い、下側に凸となるように湾曲している部分を小さい曲率半径で湾曲させるので、伸びフランジに類似した加工となる箇所での引っ張りが緩和されて亀裂や破断などを回避もしくは抑制できる。これに対して、先端エッジ部側での湾曲加工は、縮みフランジと類似した加工となるうえに、既に伸びや縮みなどの加工を受けている部分を加工することになるので、突き当て角度が上述したように垂直に近い角度となるように大きい曲率で加工しても亀裂などの不都合を回避することができる。
【0016】
しかも、本発明では、カール部のいわゆる頂点部が、カール部の幅方向での中央部より外周側に位置するように加工するので、キャッピングの際にキャップの内面に設けられているライナをカール部側に押し付ける場合、頂点部に対して内周側よりも外周側でライナの変形が生じやすくなり、その結果、ライナがカール部の下側に入り込んでカール部を包み込む状態になる。そのため、キャップによる密封性が良好になり、それに伴っていわゆるTE性に優れたカール部とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の方法で加工するカール部の形状を説明するための断面図である。
【
図2】突き当て角度を説明するための説明図である。
【
図3】粗形材における口頸部の形状の一例を示す断面図である。
【
図4】ねじ成形ならびにカール成形およびビード成形の加工工程を説明するための工程図である。
【
図5】第3カール成形での加工状態を示す断面図である。
【
図6】ロールオンキャッピング時の荷重および応力の作用状態を説明するための説明図である。
【
図7】先端エッジ部の傾斜壁部に対する突き当て位置による影響を検討した結果を示す図表である。
【
図8】面積比率による影響を検討した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施した場合の一例を図面を参照して説明する。なお、以下に説明する例は、本発明の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0019】
まず、本発明の方法で成形加工するカール部を有するボトル型缶について説明する。本発明に係るボトル型缶は、スチール缶やアルミ缶などの金属製であり、缶胴と底部とを一体に成形したいわゆるツーピース缶や、缶胴の底部に底蓋を巻き締めて取り付けたいわゆるスリーピース缶であってよい。いずれの缶であっても、缶胴の上部に肩部を介して筒状の口頸部が形成され、その口頸部の上端部が開口し、かつその開口部の全周がカール部となり、さらにその口頸部にキャップをねじ嵌合させる構成の金属缶である。特にこの発明を好適に適用できるボトル型缶は、開口部である口部の径(内径。呼び径)が28mm(φ28)のアルミニウム合金缶であり、その素材は例えば日本産業規格(JIS)3104H19のアルミニウム合金である。
【0020】
本発明の方法で成形しようとするカール部1の一例を
図1に拡大断面図で示してある。なお、
図1はカール部1もしくはボトル型缶の中心軸線を含む平面で切断した場合の断面図である。カール部1は、ボトル型缶2の飲み口あるいは注ぎ口である開口部3の輪郭を構成する部分であり、その開口部3を閉じるキャップを取り付けるためのねじ円筒部4の上側に続けて設けられている。すなわち前述した特許文献1や特許文献2に記載されている構成と同様に、絞り加工した径の小さい円筒部にらせん状のねじ溝を加工してねじ円筒部4とし、その上側の部分をねじ溝の谷径より小さい径に絞り加工することにより、ねじ円筒部4の上側に連続させて傾斜壁部5が形成されている。この傾斜壁部5は、上側で径が次第に小さくなるように縮径加工したテーパ状の部分であり、そのテーパ角の半分の角度すなわちねじ円筒部4の中心軸線L0との間の角度θ5は、20度以上30度以下の範囲に入る角度に設定されている。
【0021】
カール部1は、傾斜壁部5に上側に繋がっている部分を半径方向で外側に拡げるとともに、下向きならびに内向きに巻き返して中空状になるように外曲げ加工した部分である。傾斜壁部5に繋がっている部分は、斜め上向きおよび斜め内向きで、外側に凸となるように湾曲しており、この湾曲部(以下、仮に第1湾曲部とする)6には曲げ加工に伴って大きい応力が作用するから、応力を緩和して亀裂や破断などを避けるように、比較的大きい曲率半径R6の湾曲部となっている。
【0022】
第1湾曲部6の半径方向を向く接線が水平となる(前記中心軸線L0に直交する)箇所がカール部1の頂点部7であり、その頂点部7より外周側の部分が、カール部1の外周側の表面もしくは輪郭を形成する外周曲面部8となっている。この外周曲面部8は、
図1の断面で見た場合に、いわゆる肩部となるように斜め上向きに凸となる(要は、外側に凸となる)とともに下向きに繋がっている湾曲部(以下、仮に第2湾曲部とする)8aと、その第2湾曲部8aから下側に繋がっていて、斜め下向きに凸となるように半径方向で内向きに(要は、外側に凸となるように)湾曲している湾曲部(以下、仮に第3湾曲部とする)8bとから構成されている。カール部1のうち、これら第2湾曲部8aと第3湾曲部8bとの境界となっている箇所の外径が最も大きく、この部分がカール部1における最外径部9である。
【0023】
第3湾曲部8bの先端側の部分は、第3湾曲部8bと同様に適宜の曲率で湾曲していてもよく、あるいは断面で見た場合の形状が直線的になる形状であってもよい。そして、その先端部である先端エッジ部10が、上記の傾斜壁部5の外面に突き当たっている。なお、先端エッジ部10を突き当てる傾斜壁部5は、テーパ状の部分ならびにその上側で内周側に凸湾曲してカール部1に続く部分であり、したがって
図1の断面図で直線で示される部分以外に曲線で示される部分(コーナ部と称することのできる部分)に先端エッジ部10を突き当てることがある。
【0024】
ここで、カール部1は、断面が円形であるとした場合の半径がある程度小さくなるように、すなわちきつく(タイトに)巻き込むことが好ましく、したがって第3湾曲部8bの曲率半径R8bは、上述した第1湾曲部6の曲率半径R6より小さい半径(R6>R8b)になっている。この第3湾曲部8bは、前述した傾斜壁部5から上方向に延びた円筒状の状態から半径方向で外側に拡げる際の加工や、下向きならびに内向きに曲げる加工などの加工を受けて既に変形作用を受けているので、容易に加工できる状態になっている。そのため、第3湾曲部8bは亀裂や破断を生じさせることなく容易に加工することができる。
【0025】
さらに、傾斜壁部5に対する先端エッジ部10の突き当て角度θ10が、直角に近い角度になっている。突き当て角度θ10は、
図2の(A)に先端エッジ部10が曲面の場合、
図2の(B)に先端エッジ部10が平面の場合をそれぞれ示すように、先端エッジ部10の延長線(もしくは先端エッジ部10の厚さ方向での中心線の延長線)と傾斜壁部5の表面を示す線(傾斜面を示す母線)との間の角度である。
【0026】
先端エッジ部10の傾斜壁部5への突き当てを可能にするために、先端エッジ部10を傾斜壁部5に突き当てている箇所は、カール部1の幅方向での中央部を挟んだ所定の範囲内に設定してある。ここでカール部1の幅(カール幅)Wは、カール部1の外径と内径との差の半分である。そのカール幅Wの40%から60%の範囲内の位置(換言すれば、中央部から±10%の範囲内の位置)に、先端エッジ部10を傾斜壁部5に突き当てている箇所が設定されている。
【0027】
さらに、前述した第2湾曲部8aは、その一方の端部(加工順序では開始側の端部)である上記の頂点部7が、カール部1の幅方向での中央部より外周側に位置する形状になっている。これは、キャップをいわゆるロールオンキャッピングする際に、キャップの内面に設けたライナをカール部1の外周側ならびに下側に、より多く導くためである。
【0028】
そして、
図1に示す断面において、カール部1が占める空間の面積(以下、仮にカール占有面積とする)A0と、その空間内での素材の断面積である素材断面積(以下、壁厚面積とする)A1との比率(A1/A0)は、0.4~0.6(40%以上60%以下)の範囲になっている。ここで、カール占有面積A0は、先端エッジ部10を傾斜壁部5に突き当てている箇所から頂点部7までの高さをHとすると、高さHとカール幅Wとの積(H×W)である。また、壁厚面積A1は、カール部1を構成している素材(アルミニウム合金板)の板厚(壁厚)Tと、先端エッジ部10が突き当たっている箇所から先端エッジ部10までの線分長Lとの積(T×L)である。これらの面積の比率(A1/A0)を40%以上60%以下の範囲内に収めることにより、カール部1が丸みを帯びた形状になって、外観および触れた場合の感触が良好になり、併せていわゆるタイトに巻いた構成になって剛性あるいは強度が優れることになる。
【0029】
つぎに上述したカール部1を成形する手順について説明する。
図3はボトル型缶の粗形材20の一例を模式的に示しており、いわゆる本体となる胴部21の上側に、ドーム状に湾曲した肩部22を介して、口頸部23が繋がっている。この口頸部23は、下側(胴部21側)から順に、首部円筒部24、それよりわずかに小径のねじ円筒部25、上述した傾斜壁部5に成形される傾斜部26、カール成形されているカール円筒部27を備えている。カール部1を成形するのに先だって、
図4に示すように、先ず、ねじ成形を行う(
図4の(A))。ついで、カールネック成形を行う(
図4の(B))。このカールネック成形は、カール成形のための形状を整える加工であり、複数の工程で行う。その過程で傾斜壁部5が成形され、その角度θ5を20度から30度(水平面から測った場合には、60度から70度)の範囲に入る角度にする。
【0030】
先端エッジ部10を平らに整え、またカール部1の長さを整えるためにトリミングを行う(
図4の(C))。それに続けて第1から第3のカール成形を行う(
図4の(D)、(E)、(F))。すなわち、第1カール成形(
図4の(D))では、トリミングを既に行ってあるカール円筒部27の開口端側の部分を半径方向で外側に押し拡げつつ湾曲させる。第2カール成形(
図4の(E))では、カール円筒部27の開口端側の部分の押し拡げと湾曲とを更に行う。その場合、先端エッジ部10側の部分は、下側かつ内側に巻き込むように湾曲させる。そして、第3カール成形(
図4の(F))では、先端エッジ部10が傾斜壁部5に突き当たるように加工する。その場合、例えば
図5に一例を示すように、カール円筒部27の内部に挿入した内ローラ30に半径方向で外側から外ローラ31を接近させることにより、既に下側かつ内側に向けて湾曲している部分を半径方向で外側から押圧する。すなわち、最終段階のカール成形では、口頸部23を上側から押圧せずに、半径方向に押圧する。こうすることにより、カール部1を所期の形状に成形できるとともに、傾斜壁部5やねじ円筒部4などの上下方向での変形(座屈)を回避もしくは抑制できる。これら第1ないし第3のカール成形によって、上述した
図1に断面として示す形状のカール部1を成形する。
【0031】
カール部1を上記のようにして成形した後に、ビード成形を行う(
図4の(G))。すなわち、首部円筒部24の下側の部分をその全周に亘って絞り込んでいわゆる凹ビード加工を行うことにより、その凹ビードの上側の部分(ねじ円筒部4の直下の部分)に、半径方向で外側に相対的に凸となる凸ビード部を形成する。凸ビード部は、図示しないキャップの下端部に設けられているピルファープルーフバンドを巻き付けて係合させる部分である。
【0032】
つぎに、ロールオンキャッピング時に上記のカール部1に掛かる荷重の状況を
図6を参照して説明する。ロールオンキャッピングでは、キャップ粗形材を口頸部23に被せて押し付け、その状態で天板部とスカート部との間のコーナ部をカール部1側に押し潰し、かつスカート部をねじ円筒部4に押し付けて雌ねじを成形し、さらに下端部に設けられているピルファープルーフバンドを上述した凸ビード部に向けて絞り込んで凸ビード部に係合させる。
図6において符号40はキャップを示し、キャップ40の内面には合成樹脂製のライナ41が設けられている。キャップ40は押圧パッド42によってカール部1に向けて押し付けられており、その状態でプッシャーブロック43が下降してキャップ40の周縁部(コーナ部)を内側かつ下側に向けて絞り込む。したがって、押圧パッド42からは符号L1で示す荷重が作用し、プッシャーブロック43からは符号L2で示す荷重が作用する。ライナ41は弾性のある合成樹脂製であるから、上記の荷重L1,L2を受けることにより、カール部1を包み込むように変形する。すなわち、符号D1で示すように、カール部1の外周曲面部8の表面に沿って下側に延び、カール部1を下側から包む状態、もしくはカール部1の下側に係合する状態に変形する。また、ライナ41は頂点部7側で押し潰されて符号D2で示すように内周側に変形し、カール部1の頂点部7側を包み込む。
【0033】
上記の変形を伴うライナ41を介してカール部1に荷重が作用する。その荷重は上述したように押圧パッド42およびプッシャーブロック43から作用するので、頂点部7を境にした両側から、カール部1を小さく絞り込む方向に応力F1,F2が掛かる。頂点部7よりも外周側の部分に掛かる応力F1は、先端エッジ部10を傾斜壁部5に押し付ける方向に作用するが、先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て角度θ10が垂直に近い角度になっているので、先端エッジ部10が傾斜壁部5の表面に沿って滑ることがなく、先端エッジ部10が傾斜壁部5によって支えられる。
【0034】
また、傾斜壁部5の中心軸線L0に対する角度θ5が20度~30度の角度になっていて傾斜壁部5がいわゆる起き上がった状態になっているので、カール部1を内周側に撓ませるモーメントが小さく、この点でも変形しにくくなっている。結局、本発明の方法によるカール部1は、外観や感触が良好な丸みのある形状を維持しつつ、剛性あるいは強度が高くなり、したがってボトル型缶の素材を薄肉化して素材自体の剛性を低くしても、製品として要求される強度を保持することができる。言い換えれば、素材を薄肉化して資源の有効利用や環境負荷の低減などを図ることができる。また、荷重を受ける開口端のボリュームが小さい呼び径28mm(φ28)などの小型のボトル型缶であっても、剛性あるいは強度に優れたカール部とすることができる。
【0035】
さらに、ライナ41がカール部1の下側にまで押し込まれて、前述した第3湾曲部8bに沿って内側に入ってカール部1を抱き込む状態になる。そのため、キャップを開栓側に回して幾分緩めても、ライナ41はカール部1の外表面に密着して封止状態を維持する。したがって、ライナ41による封止が解除されるまでキャップを開栓方向に回すとすれば、キャップをかなり大きく回すことになり、その時点では、前述した凸ビード部に係合しているピルファープルーフバンドがキャップから引きちぎられる。すなわち、ピルファープルーフ機能(タンパーエビデンス機能)を確実に発揮させるカール部1とすることができる。
【0036】
つぎに、本発明の実施例を説明する。実施例のボトル型缶は、日本産業規格の3104H19に規定されているアルミニウム合金板(板厚0.28mm)を素材とし、絞りしごき加工によって、缶胴径が45mm(φ45)、高さ(ハイト)が110mmの2ピース缶とした。胴部やそれに続く肩部、口頸部などの成形加工は従来と同様の方法、工程で行い、ねじ円筒部4やカール部1の成形加工は上述した通りに行った。口径は呼び径28mm(φ28)である。より具体的には、傾斜壁部5の中心軸線L0に対する角度θ5は30度、カール部1の内径は21.8mm、壁厚Tは0.38mmであった。傾斜壁部5を起き上がらせてその角度を30度としたことにより、カール部1を半径方向で外側に巻くためのスペース状の余裕が少なくなっているが、頂点部7をカール部1の幅方向での中央部より半径方向で外側に設定したことにより、第1湾曲部6の曲率半径R6の制約が少なくなって亀裂や破断などが生じない半径を確保できた。なお、それに伴って第3湾曲部8bの曲率半径R8bを第1湾曲部6の曲率半径R6より小さくしたので、カール部1の全体としての湾曲形状は、完全な円形(丸形)から幾分撓んだいわゆる変形丸カール形状になっている。また、先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て位置をカール部1の幅方向での中央部ないしその両側の10%の範囲内とした。その結果、先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て角度θ10を直角に近い角度に設定できている。
【0037】
先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て位置を変化させた場合のカール部1の断面形状および突き当て角度を、
図7にまとめて示してある。突き当て位置は、カール部1の最外径部9からのカール幅Wに対する割合で示してある。なお、傾斜壁部5の角度θ5は、30度としてある。
【0038】
サンプルSa1は、突き当て位置を最外径部9からカール幅Wの30%とした例であり、この例では、カール部1の断面形状がいわゆる縦長となり、突き当て角度θ10を所定の範囲(90度±20度)にすることが困難である。したがって、この例の評価は「不可(×)」とした。
【0039】
これに対して、突き当て位置を最外径部9からカール幅Wの40%とした例(サンプルSa2)ならびに50%とした例(サンプルSa3)および60%とした例(サンプルSa4)では、先端エッジ部10を半径方向で内周側に巻き込ませることになるので、先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て角度θ10を垂直(直角)に近い所定の範囲(90度±20度)にすることができた。また、第1湾曲部6から第3湾曲部8bに到る全体を滑らかに連続した曲面とすることができ、外観あるいは触った場合の感触が良好であるだけでなく、過度な曲げ加工を行う必要がないことにより、成形加工が容易になる。したがって、これらの例の評価は「可(○)」とした。
【0040】
さらに、突き当て位置を最外径部9からカール幅Wの70%とした例(サンプルSa5)では、先端エッジ部10を傾斜壁部5の最も上側の部分(カール部1に向けて内側に凸となるように湾曲し始めているコーナ部)に上げる必要があり、そのために第3湾曲部8bでの曲率を大きくせざるを得ず、湾曲というよりもむしろ折り曲げに近い形になる。そのため、外観および触った場合の感触が悪化し、評価は「不可(×)」とした。
【0041】
図7に示す結果から、本発明では、先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て位置を、カール幅Wの40%以上60%以下の範囲内としてある。なお、傾斜壁部5の角度θ5を下限の20度とすれば、カール部1の幅の制約が更に強くなるので、先端エッジ部10の傾斜壁部5に対する突き当て位置の好適な範囲は、更に狭い範囲になる。
【0042】
さらに、カール占有面積A0に対する壁厚面積A1の面積比率(A1/A0)の検討結果を
図8に示す。
図8には、壁厚ならびに面積比率およびカール部1としての可否の評価と併せてカール部1の断面形状を模式的に示してある。壁厚は0.2mm(サンプルSb1)、0.25mm(サンプルSb2)、0.3mm(サンプルSb3)、0.4mm(サンプルSb4)、0.45mm(サンプルSb5)、0.5mm(サンプルSb6)とした。それぞれの面積比率は、サンプルSb1で32.5%、サンプルSb2で39.8%、サンプルSb3で46.6%、サンプルSb4で58.8%、サンプルSb5で63.6%、サンプルSb6で67.9%であった。
【0043】
サンプルSb1では、壁厚に対するカール部1の巻き込みの程度が緩いので、全体として剛性が低く、想定される垂直荷重が掛かった場合に変形してしまう可能性が高い。したがって評価は「不可(×)」とした。これに対してサンプルSb2からサンプルSb5では、壁厚の増大に伴って素材の剛性が高くなるが、この程度であれば、十分にカール成形加工が可能である。特にサンプルSb3およびサンプルSb4では、先端エッジ部10を傾斜壁部5に所期通りに突き当てることができた。これは、壁厚が特には厚くないことによりスプリングバックを抑えられていることによるものと思われる。また反対に、壁厚が容易に成形できるサンプルSb1ほどには薄くないので、カール部1の剛性あるいは強度が十分に高くなっている。
【0044】
サンプルSb3およびサンプルSb4について、変形が生じる垂直荷重を測定したところ、サンプルSb3では1556N(ニュートン)、サンプルSb4では1868N(ニュートン)であり、規格が1471N(ニュートン)であるから、十分な強度であることが認められた。また、サンプルSb4は、壁厚が上述した突き当て位置の検討で使用したサンプルの壁厚(0.38mm)に近い壁厚であるから、面積比率をサンプルSb4程度にすることにより、剛性あるいは強度を維持しつつ、薄肉化できることが認められる。したがって、サンプルSb2およびサンプルSb5については評価を「可(○)」とした。また、サンプルSb3およびサンプルSb4については評価を「良(◎)」とした。
【0045】
なお、サンプルSb6では、壁厚が厚いことにより、相対的にタイトに巻いたカール部となり、剛性あるいは強度を確保できると思われる。しかしながら、壁厚が厚いことに伴って素材自体の剛性が高いから、成形加工に要する加工荷重を大きくせざるを得ず、またスプリングバックが強くなり、その結果、カール部を所期の形状に安定して加工し、また先端エッジ部を傾斜壁部5に安定して突き当てることが困難である。したがって、サンプルSb6については評価を「不可(×)」とした。以上の結果から、本発明では、面積比率を40%~60%とした。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されないのであって、カール部の断面形状は、円形もしくはそれに可及的に近い形状であることが好ましいが、これに限らず、例えば頂点部側が底辺となる逆三角形に近い形状であってもよい。また、上述した実施形態では、ロールオンキャッピングの際の上側の荷重をいわゆる垂直荷重として説明したが、本発明においてカール部に掛かる垂直荷重は、ボトル型缶を落下させた場合の衝撃力などの他の荷重を含み、本発明ではそれらの垂直荷重に対しても十分な剛性あるいは強度を保持する。
【符号の説明】
【0047】
1 カール部
2 ボトル型缶
3 開口部
4 ねじ円筒部
5 傾斜壁部
6 第1湾曲部
7 頂点部
8 外周曲面部
8a 第2湾曲部
8b 第3湾曲部
9 最外径部
10 先端エッジ部
20 粗形材
21 胴部
22 肩部
23 口頸部
24 首部円筒部
25 円筒部
26 傾斜部
27 カール円筒部
30 内ローラ
31 外ローラ
40 キャップ
41 ライナ
42 押圧パッド
43 プッシャーブロック
θ5 (傾斜壁部の)角度
θ10 突き当て角度
L0 中心軸線
L1,L2 荷重
H 高さ
W カール幅