(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087469
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240624BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240624BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240624BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202308
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】高田 祥希
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】容量維持率の向上と反応抵抗の抑制との両立を可能にしたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】非水電解液は、シュウ酸骨格を有するリチウム塩である添加剤Aと、アルキル硫酸リチウム塩、ハロゲン化アルキル硫酸リチウム塩、およびハロゲン化硫酸リチウム塩から選択される少なくとも一種である添加剤Bと、非水溶媒と、を含み、非水溶媒は、ハロゲン化エチレンカーボネートである添加剤Cと、飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルである添加剤Dと、を含み、添加剤Aが0.0015mol%以上0.0021mol%以下であり、添加剤Bが0.0066mol%以上0.0071mol%以下であり、添加剤Cが0.0058mol%以上0.0078mol%以下であり、添加剤Dが0.0261mol%以上0.0341mol%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液を含むリチウムイオン二次電池であって、
前記非水電解液は、
六フッ化リン酸リチウム、四フッ化硼酸リチウム、ビス(フッ化スルホニル)イミド酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド酸リチウム、およびビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種である主電解質塩と、
シュウ酸骨格を有するリチウム塩である添加剤Aと、
アルキル硫酸リチウム塩、ハロゲン化アルキル硫酸リチウム塩、およびハロゲン化硫酸リチウム塩から選択される少なくとも一種である添加剤Bと、
非水溶媒と、を含み、
前記非水溶媒は、
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種の主非水溶媒と、
ハロゲン化エチレンカーボネートである添加剤Cと、
炭素数が3以上8以下の飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルである添加剤Dと、
を含み、
前記添加剤Aの配合比が0.0015mol%以上0.0021mol%以下であり、
前記添加剤Bの配合比が0.0066mol%以上0.0071mol%以下であり、
前記添加剤Cの配合比が0.0058mol%以上0.0078mol%以下であり、
前記添加剤Dの配合比が0.0261mol%以上0.0341mol%以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、およびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種である
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウム、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸リチウム、メチル硫酸リチウム、およびエチル硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種である
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、およびトランスもしくはシス-4,5-ジクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オンからなる群から選択される少なくとも一種である
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記添加剤Dは、プロピオン酸メチル、あるいはプロピオン酸エチルである、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムであり、
前記添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウムであり、
前記添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンであり、
前記添加剤Dは、プロピオン酸メチルであり、
前記主電解質塩は、六フッ化リン酸リチウムであり、
前記主非水溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートの混合物である
請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液を含むリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車両は、電源としてリチウムイオン二次電池を搭載する。リチウムイオン二次電池は、吸蔵するリチウムイオンを可逆的に放出する活物質を正極と負極とに備える。
【0003】
リチウムイオン二次電池に含まれる非水電解液の第1例は、主電解質塩、第1リチウム塩、および第3級カルボン酸エステルを含む(例えば、特許文献1を参照)。主電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、ビス(フッ化スルホニル)イミド酸リチウム(LiN(SO2F)2)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、およびビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド酸リチウム(LiN(SO2C2F5)2)からなる群から選択される少なくとも一種である。第1リチウム塩は、シュウ酸骨格を有するリチウム塩と、リン酸骨格を有するリチウム塩、および主電解質塩以外においてスルホニル基を有するリチウム塩とからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0004】
非水電解液の第1例における主電解質塩のモル濃度は、非水溶媒に対して0.3M以上2.5M以下であり、かつ第1リチウム塩のモル濃度は、主電解質塩のモル濃度よりも低い。これにより、非水電解液の第1例は、負極活物質の表面にSEI膜(Solid Electrolyte Interface)を形成し、これによって非水溶媒の酸化分解や還元分解の抑制による高い容量維持率を実現する。
【0005】
リチウムイオン二次電池に含まれる非水電解液の第2例は、鎖状エステルと、添加剤にフッ素原子含有環状カーボネートと、を含む(例えば、特許文献2を参照)。鎖状エステルは、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、およびピバリン酸メチルからなる群から選択される少なくとも一種である。フッ素原子含有環状カーボネートは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、およびトランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0006】
非水電解液の第2例におけるフッ素原子含有環状カーボネートの質量濃度は、非水電解液に対して0.1質量%以上30質量%以下である。また、非水電解液の第2例における鎖状エステルの体積濃度は、非水溶媒に対して60体積%以上90体積%以下である。これにより、非水電解液の第2例は、高温かつ高電圧環境下での連続充電特性を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/017809号
【特許文献2】国際公開第2018/198618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した非水電解液の第1例において、シュウ酸骨格を有したリチウム塩によるSEI被膜の形成は、リチウムイオン二次電池の容量維持率を向上させる。一方、SEI被膜のなかのシュウ酸骨格を有した成分の増加は、リチウムイオン二次電池における反応抵抗の増大を生じさせる。すなわち、シュウ酸骨格を有したリチウム塩の添加による容量維持率の向上と反応抵抗の抑制とは、一方を高めると他方を低めるというトレードオフの関係を有する。このため、上述したリチウムイオン二次電池には、容量維持率の向上と反応抵抗の抑制とを両立させる技術が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池は、非水電解液を含むリチウムイオン二次電池である。前記非水電解液は、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化硼酸リチウム、ビス(フッ化スルホニル)イミド酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド酸リチウム、およびビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種である主電解質塩と、シュウ酸骨格を有するリチウム塩である添加剤Aと、アルキル硫酸リチウム塩、ハロゲン化アルキル硫酸リチウム塩、およびハロゲン化硫酸リチウム塩から選択される少なくとも一種である添加剤Bと、非水溶媒と、を含む。前記非水溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種の主非水溶媒と、ハロゲン化エチレンカーボネートである添加剤Cと、炭素数が3以上8以下の飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルである添加剤Dと、を含む。前記添加剤Aの配合比が0.0015mol%以上0.0021mol%以下であり、前記添加剤Bの配合比が0.0066mol%以上0.0071mol%以下であり、前記添加剤Cの配合比が0.0058mol%以上0.0078mol%以下であり、前記添加剤Dの配合比が0.0261mol%以上0.0341mol%以下である。
【0010】
上記構成によれば、添加剤A~Dが上述した配合比を満たすため、(i)容量維持率の向上と(ii)反応抵抗の抑制との両立が可能である。
上記リチウムイオン二次電池において、前記添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、およびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0011】
上記リチウムイオン二次電池において、前記添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウム、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸リチウム、メチル硫酸リチウム、およびエチル硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0012】
上記リチウムイオン二次電池において、前記添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、およびトランスもしくはシス-4,5-ジクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オンからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0013】
上記リチウムイオン二次電池において、前記添加剤Dは、プロピオン酸メチル、あるいはプロピオン酸エチルでもよい。
上記リチウムイオン二次電池において、前記添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムであり、前記添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウムであり、前記添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンであり、前記添加剤Dは、プロピオン酸メチルであり、前記主電解質塩は、六フッ化リン酸リチウムであり、前記主非水溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートの混合物でもよい。
【0014】
上記各構成によれば、(i)容量維持率の向上と(ii)反応抵抗の抑制とを両立する実効性が高まる。
【発明の効果】
【0015】
本開示のリチウムイオン二次電池によれば、(i)容量維持率の向上と(ii)反応抵抗の抑制との両立が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、リチウムイオン二次電池を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、リチウムイオン二次電池の内部構造を示す平面図である。
【
図3】
図3は、試験例のリチウムイオン二次電池と評価結果とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[リチウムイオン二次電池1]
図1が示すように、リチウムイオン二次電池1は、電極体10、ケース11、および非水電解液を備える。電極体10は、積層体から形成される扁平柱状を有した捲回体である。ケース11は、上側に開口を有した偏平な有底角型の外形を有する。ケース11は、電極体10と非水電解液とを収容する。蓋体12は、ケース11の開口を閉塞する。ケース11は、蓋体12を取り付けることで直方体形状の密閉された電槽を構成する。
【0018】
蓋体12は、正極の外部端子14と負極の外部端子16とを備える。電極体10における正極側の端部である正極側集電部は、正極側集電部材13を介して正極の外部端子14に電気的に接続される。電極体10における負極側の端部である負極側集電部は、負極側集電部材15を介して負極の外部端子16に電気的に接続される。
【0019】
図2が示すように、電極体10は、正極シート110、セパレータ120、および負極シート100を備える。正極シート110、セパレータ120、および負極シート100は、それぞれ長尺状を有する。各シート100,110、およびセパレータ120の長手方向が他のシートの長手方向に一致し、かつ正極シート110、セパレータ120、負極シート100、セパレータ120の順に各シート100,110が並ぶように、各シート100,110が捲回前に積層される。各シート100,110において、シート100,110の長手方向が長手方向Zであり、長手方向Zに直交する方向が幅方向Wである。
【0020】
電極体10は、捲回体の最も内側に正極シート110を配置するように、長手方向Zに沿って捲回される。捲回された電極体10は、捲回された電極体10の周面を1つの方向から押圧されることによって扁平形状に加工される。
【0021】
正極シート110は、正極集電体111と、正極集電体111の両面に配置された正極合材層112とを備える。正極合材層112は、正極集電体111に塗工された正極合材ペーストの乾燥によって形成される。正極シート110の幅方向Wの一方の端部は、未塗工部113である。未塗工部113は、正極集電体111の端部であって、正極集電体111のなかで正極合材層112が塗工されずに正極集電体111を露出している。
【0022】
負極シート100は、負極集電体101と、負極集電体101の両面に配置された負極合材層102とを備える。負極合材層102は、負極集電体101に塗工された負極合材ペーストの乾燥によって形成される。負極シート100の幅方向Wの一方の端部は、未塗工部103である。未塗工部103は、負極集電体101の端部であって、負極合材層102が塗工されずに負極集電体101を露出している。
【0023】
リチウムイオン二次電池1は、未塗工部113に金属材からなる正極側集電部材13が接合され、かつ未塗工部103に金属材からなる負極側集電部材15が接合されている。リチウムイオン二次電池1は、正極側集電部材13に正極の外部端子14を接続されると共に、負極側集電部材15に負極の外部端子16を接続されることによって、充電、および放電可能にする。
【0024】
[電極体10]
正極集電体111は、金属箔である。金属箔の構成材料は、アルミニウム箔でもよい。正極合材層112は、正極活物質、導電材、およびバインダである結着材を含む。正極活物質は、1種類の活物質でもよいし、2種類以上の活物質の混合物でもよい。正極活物質の構成材料は、層状系のリチウム複合金属酸化物でもよいし、スピネル系のリチウム複合金属酸化物でもよい。リチウム複合金属酸化物は、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCrMnO4、LiFePO4からなる群から選択される少なくとも1種でもよい。結着材は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群から選択される少なくとも1種でもよい。
【0025】
正極合材層112に占める正極活物質の割合は、60重量%以上99重量%以下でもよいし、70重量%以上99重量%以下でもよい。
負極集電体101は、金属箔である。金属箔の構成材料は、銅箔でもよいし、ニッケル箔でもよい。負極合材層102は、負極活物質、導電材、およびバインダである結着材を含む。負極活物質は、1種類の活物質でもよいし、2種類以上の活物質の混合物でもよい。負極活物質の構成材料は、炭素材料でもよい。炭素材料は、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種である。負極活物質が導電性の向上、およびエネルギー密度の向上を要求される場合、炭素材料は、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛系材料であることが好ましく、天然黒鉛であることがより好ましい。結着材は、PVDF、SBR、PTFEからなる群から選択される少なくとも1種でもよい。結着材は、増粘剤や分散剤を含有してもよい。増粘剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)でもよいし、メチルセルロース(MC)でもよい。
【0026】
負極合材層102に占める負極活物質の割合は、50重量%以上でもよいし、90重量%以上99重量%以下でもよい。負極合材層102に占める結着材の割合は、0.5重量%以上10重量%以下でもよいし、0.5重量%以上5重量%以下でもよい。負極合材層102に占める増粘剤の割合は、0.5重量%以上10重量%以下でもよいし、0.5重量%以上5重量%以下でもよい。
【0027】
セパレータ120は、樹脂から形成された多孔質層を有する。多孔質層は、単層構造体でもよいし、多層構造体でもよい。多孔質層の構成材料は、ポリオレフィンでもよいし、ポリ塩化ビニルでもよい。多孔質層が強度の向上を要求される場合、多孔質層は、フィラーを含有してもよい。セパレータ120は、接着剤からなる接着層を介して負極シート100に接合されてもよい。
【0028】
[非水電解液]
非水電解液は、電解質塩と、非水溶媒とを含む。電解質塩は、主電解質塩、添加剤A、および添加剤Bを含む。非水溶媒は、主非水溶媒、ハロゲン化エチレンカーボネートである添加剤C、および飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルである添加剤Dを含む。
【0029】
[電解質塩]
主電解質塩は、電解質塩を構成する成分のなかで最も高い配合比を有する主成分である。電解質塩における各成分の配合比は、非水電解液の全モル数に対する電解質塩の各成分のモル分率である。主電解質塩の配合比は、主電解質塩が六フッ化リン酸リチウムである場合、0.085mol%以上0.099mol%以下である。
【0030】
主電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化硼酸リチウム、およびイミド酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種である。イミド酸リチウムは、ビス(フッ化スルホニル)イミド酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド酸リチウム、およびビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0031】
添加剤Aは、シュウ酸骨格を有するリチウム塩である。添加剤Aは、下記式(A1)に示すビス(オキサラト)ホウ酸リチウムでもよい。添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、およびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0032】
【化1】
添加剤Bは、硫酸骨格を有するリチウム塩である。添加剤Bは、下記式(B1)に示すモノフルオロ硫酸リチウムでもよい。添加剤Bは、アルキル硫酸リチウム塩、ハロゲン化アルキル硫酸リチウム塩、およびハロゲン化硫酸リチウム塩から選択される少なくとも一種でもよい。添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウム、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸リチウム、メチル硫酸リチウム、およびエチル硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0033】
【化2】
電解質塩は、主電解質塩、添加剤A、および添加剤Bからなる群以外の残余分として、トリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホウ酸リチウム、ペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホウ酸リチウムを含有してもよい。
【0034】
添加剤A、および添加剤Bのそれぞれの配合比は、非水電解液の全モル数に対するモル分率として、以下の条件を満たす。
(条件1)添加剤Aの配合比が、0.0015mol%以上0.0021mol%以下である。
(条件2)添加剤Bの配合比が、0.0066mol%以上0.0071mol%以下である。
【0035】
添加剤Aは、負極活物質におけるSEI被膜の形成を促す。SEI被膜は、非水溶媒の分解反応による電池容量の低下を抑える。添加剤Aの配合比が0.0015mol%以上であれば、SEI被膜の形成によって良好な容量維持率が得られる。一方、シュウ酸骨格を有した成分のSEI被膜における過多は、SEI被膜におけるイオン移動度の低下による反応抵抗の増大を招く。
【0036】
ここで、(i)添加剤Aの単位配合比あたりにおける容量維持率の上昇する度合いは、添加剤Aの配合比が増えるに連れて低下し続けてやがて飽和する。一方、(ii)添加剤Aの単位配合比あたりにおける反応抵抗の上昇する度合いは、添加剤Aの配合比が増えるとしてもほぼ一定である。このため、容量維持率の向上効果が飽和するなかで最も低い添加剤Aの配合比、すなわち、添加剤Aの配合比が0.0021mol%以下であれば、良好な容量維持率が得られると共に、シュウ酸骨格を有した成分の適量化によって良好な反応抵抗が得られる。
【0037】
添加剤Bは、負極活物質におけるSEI被膜の形成を促す。添加剤Bの配合比が0.0066mol%以上であれば、SEI被膜の形成によって良好な容量維持率が得られる。一方、添加剤Bの過多は、正極シート110や負極シート100の製造時に混入したコンタミネーションを構成するステンレスを非水電解液のなかに溶出させやすい。添加剤Bの溶出による鉄イオンは、負極に化学的な短絡を生じさせる。
【0038】
ここで、(i)添加剤Bの単位配合比あたりにおける容量維持率の上昇する度合いは、添加剤Bの配合比が増えるに連れて低下し続けてやがて飽和する。また、(ii)添加剤Bの単位配合比あたりにおける反応抵抗の下降する度合いは、添加剤Bの配合比が増えるに連れて徐々に低下し続ける。このため、容量維持率の向上効果が飽和するなかで最も低い添加剤Bの配合比、すなわち、添加剤Bの配合比が0.0071mol%以下であれば、良好な容量維持率と、良好な反応抵抗とが得られると共に、ステンレスの溶出が抑制されて、負極において短絡が抑制されやすい。
【0039】
[非水溶媒]
主非水溶媒は、非水溶媒を構成する成分のなかで10mol%以上の配合比を有する主成分である。非水溶媒における各成分の配合比は、非水電解液の全モル数に対する非水溶媒の各成分のモル分率である。主非水溶媒の配合比は、例えばエチレンカーボネート(EC)が0.312mol%以上0.347mol%以下、ジメチルカーボネート(DMC)が0.294mol%以上0.328mol%以下、エチルメリルカーボネート(EMC)が0.254mol%以上0.284mol%以下である。
【0040】
主非水溶媒は、ハロゲン原子を含有しない環状カーボネートである。主非水溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0041】
添加剤Cは、ハロゲン化エチレンカーボネートである。添加剤Cは、下記式(C1)に示すモノハロゲン-1,3-ジオキソラン-2-オンでもよい。式(C1)における「X」は、ハロゲン原子である。添加剤Cは、下記式(C2)に示す4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンでもよいし、下記式(C3)に示す4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オンでもよい。添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランスもしくはシス-4,5-ジクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0042】
【0043】
【0044】
【化5】
添加剤Dは、炭素数が3以上8以下である飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルである。飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルは、飽和鎖状カルボン酸アルキルエステルでもよいし、飽和分岐鎖状カルボン酸アルキルエステルでもよい。添加剤Dは、下記式(D1)に示すプロピオン酸メチルでもよいし、下記式(D2)に示すプロピオン酸エチルでもよい。添加剤Dは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピルからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0045】
【0046】
【化7】
非水溶媒は、主非水溶媒、添加剤C、および添加剤Dからなる群以外の残余分として、環状エーテル、鎖状エーテル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、およびラクトンからなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。環状エーテルは、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、および1,4-ジオキサンからなる群から選択される少なくとも一種である。鎖状エーテルは、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、および1,2-ジブトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0047】
添加剤C、および添加剤Dのそれぞれの配合比は、非水電解液の全モル数に対するモル分率として、以下の条件を満たす。
(条件3)添加剤Cの配合比が、0.0058mol%以上0.0078mol%以下である。
(条件4)添加剤Dの配合比が、0.0261mol%以上0.0341mol%以下である。
【0048】
添加剤Cは、負極活物質におけるSEI被膜の形成を促す。添加剤Cの配合比が0.0058mol%以上であれば、SEI被膜の形成によって良好な容量維持率が得られる。一方、エチレンカーボネート骨格を有した成分のSEI被膜における過多は、SEI被膜におけるイオン移動度の低下による反応抵抗の増大を招く。
【0049】
ここで、(i)添加剤Cの単位配合比あたりにおける容量維持率の上昇する度合いは、添加剤Cの配合比が増えるに連れて低下し続けてやがて飽和する。一方、(ii)添加剤Cの単位配合比あたりにおける反応抵抗の上昇する度合いは、添加剤Aの配合比が増えるとしてもほぼ一定である。このため、容量維持率の向上効果が飽和するなかで最も低い添加剤Cの配合比、すなわち、添加剤Cの配合比が0.0078mol%以下であれば、良好な容量維持率が得られると共に、エチレンカーボネート骨格を有した成分の適量化によって良好な反応抵抗が得られる。
【0050】
添加剤Dは、負極活物質におけるSEI被膜の形成に関わる。添加剤Dの配合比が0.0261mol%以上であれば、SEI被膜の形成によって良好な容量維持率が得られる。一方、添加剤Dの配合比は、リチウムイオン二次電池1の安全性を高めるうえで小さいことが好ましい。
【0051】
ここで、(i)添加剤Dの単位配合比あたりにおける容量維持率の上昇する度合いは、添加剤Dの配合比が増えるに連れて低下し続けてやがて飽和する。また、(ii)添加剤Dの単位配合比あたりにおける反応抵抗の下降する度合いは、添加剤Dの配合比が増えるに連れて徐々に低下し続ける。このため、容量維持率の向上効果が飽和するなかで良好な反応抵抗を得られる添加剤Dの配合比、すなわち、添加剤Dの配合比が0.0341mol%以下であれば、良好な容量維持率と、良好な反応抵抗とが得られると共に、リチウムイオン二次電池1の安全性が得られやすい。
【0052】
[試験例]
各試験例の正極活物質にLiNiCoMnO2、導電材にアセチレンブラック、およびバインダにポリフッ化ビニリデンを含む正極ペーストを用いた。また、各試験例の正極集電体111にアルミニウム箔を用いた。そして、正極集電体111の両面に正極合材層112を備える正極集電体111を準備した。
【0053】
各試験例の負極活物質に天然黒鉛を用いた。また、各試験例の負極集電体101に銅箔を用いた。そして、負極集電体101の両面に負極合材層102を備える負極集電体101を準備した。
【0054】
各試験例のセパレータ120に多孔性ポリオレフィンシートを用い、2枚のセパレータ120が正極集電体111を挟むように、加熱圧力によって正極集電体111にセパレータ120を接着した。また、正極集電体111を挟むセパレータ120に負極集電体101を重ねるように、加熱加圧によってセパレータ120に負極集電体101を接着した。そして、正極集電体111、セパレータ120、および負極集電体101からなる積層体を長尺方向に捲回し、これによって各試験例の電極体10を得た。
【0055】
各試験例の非水電解液における主電解質塩に、六フッ化リン酸リチウムを用いた。また、各試験例の非水電解液における主非水溶媒に、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートの混合物を用いた。この際、各試験例における主電解質塩の配合比を0.09mol%に調整した。また、各試験例におけるエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートをこれらの合計に対してそれぞれ1/3mol%ずつ配合した。
【0056】
[添加剤A~D]
各試験例の添加剤Aに上記式(A1)に示すビス(オキサラト)ホウ酸リチウムを用いた。また、各試験例の添加剤Bに上記式(B1)に示すモノフルオロ硫酸リチウムを用いた。各試験例の添加剤Cに上記式(C2)に示す4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンを用いた。また、各試験例の添加剤Dに上記式(D1)に示すプロピオン酸メチルを用いた。そして、添加剤A、添加剤B、添加剤C、および添加剤Dの配合比を以下の範囲のなかで変更し、試験例1から試験例27までの非水電解液をそれぞれ得た。
【0057】
添加剤A:ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム
添加剤B:モノフルオロ硫酸リチウム
添加剤C:4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン
添加剤D:プロピオン酸メチル
添加剤Aの配合比:0.0010mol%以上0.0026mol%以下
添加剤Bの配合比:0.0066mol%以上0.0071mol%以下
添加剤Cの配合比:0.0049mol%以上0.0087mol%以下
添加剤Dの配合比:0.0250mol%以上0.0341mol%以下
【0058】
次に、正極集電体111の未塗工部113に正極側集電部材13を接合すると共に、負極集電体101の未塗工部103に負極側集電部材15を接合した。そして、注入口を有したケース11に電極体10を収容すると共に、各試験例のケース11に当該試験例の非水電解液を注入することによって、試験例1から試験例27までのリチウムイオン二次電池1をそれぞれ得た。
【0059】
[評価]
各試験例における添加剤A~Dの配合比、当該試験例のリチウムイオン二次電池1における容量維持率、および当該試験例のリチウムイオン二次電池1における反応抵抗の測定結果を
図3に示す。なお、
図3における試験例の容量維持率は、容量維持率の目標値を基準にした試験例の容量維持率の比率を示す。
図3において、100%以上の容量維持率は、目標値以上であることを示す。また、
図3における試験例の反応抵抗は、試験例の反応抵抗を基準にした目標値の比率を示す。
図3において、100%以上の反応抵抗は、反応抵抗の目標値以下であることを示す。
【0060】
容量維持率は、初期容量を基準とした高温環境下保存後容量の比率である。初期容量は、高温環境下保存前の電池容量である。高温環境下保存後容量は、75℃の環境下で10日にわたり保存した後の電池容量である。容量維持率は、下記の式(1)から算出される。
容量維持率(%)=(高温環境下保存後容量)/(初期容量)×100・・・式(1)
【0061】
試験例のリチウムイオン二次電池1における反応抵抗は、正極電極活物質および負極電極活物質の表面における電池反応に要する抵抗を示す。反応抵抗の測定は、ナイキストプロットを用いて行われる。反応抵抗の測定は、まず、試験例のリチウムイオン二次電池1をSOC60%に調整した後に-30℃の環境下に静置して交流インピーダンス法により測定した。交流インピーダンス法とは、微小振幅で、段階的に周波数を変えて電圧または電流をリチウムイオン二次電池1の電極系に印加することにより、インピーダンススペクトルを観察する方法である。そして、ナイキスト線図の反応抵抗に起因する部分から反応抵抗を算出する。
【0062】
図3が示すように、試験例1~8の非水電解液は、0.0015mol%に添加剤Aの配合比を調整された水準である。試験例1~8の非水電解液は、3つの条件2~4に示す下限値、あるいは上限値に、添加剤B、添加剤C、および添加剤Dの配合比をそれぞれ調整された水準である。
【0063】
試験例9~16の非水電解液は、0.0021mol%に添加剤Aの配合比を調整された水準である。試験例9~16の非水電解液は、3つの条件2~4に示す下限値、あるいは上限値に、添加剤B、添加剤C、および添加剤Dの配合比のそれぞれを調整された水準である。
【0064】
試験例1~8のリチウムイオン二次電池1について、(i)100%以上の良好な容量維持率、および(ii)105%以上の優れた反応抵抗が認められた。また、試験例9~16のリチウムイオン二次電池1について、(i)102%以上の良好な容量維持率、および(ii)100%以上の良好な反応抵抗が認められた。
これによって、添加剤A~Dが条件1~4を満たすことが良好な容量維持率と良好な反応抵抗との両立を可能にすることが認められた。
【0065】
[添加剤Aの評価]
試験例17、18の非水電解液は、0.0010mol%に添加剤Aの配合比を調整された水準である。試験例17、18の非水電解液は、条件2、4に示す上限値に添加剤B、Dの配合比を調整され、かつ条件3に示す上限値と下限値とに添加剤Cの配合比を調整された水準である。
【0066】
試験例19、20の非水電解液は、0.0026mol%に添加剤Aの配合比を調整された水準である。試験例19、20の非水電解液は、条件2、4に示す上限値に添加剤B、Dの配合比を調整され、かつ条件3に示す上限値と下限値とに添加剤Cの配合比を調整された水準である。
【0067】
試験例17、18のリチウムイオン二次電池1について、(i)100%を下回る容量維持率、および(ii)105%を上回る優れた反応抵抗が認められた。また、試験例19、20のリチウムイオン二次電池1について、(i)105%を上回る優れた容量維持率、および(ii)95%を下回る反応抵抗が認められた。
【0068】
これによって、試験例6、8と試験例17、18との比較から、添加剤Aの配合比を0.0015mol%以上で高めることが(i)容量維持率を高め、かつ(ii)反応抵抗を高めることが認められた。試験例14、16と試験例19、20との比較から、添加剤Aの配合比を0.0021mol%以下で低めることが(i)容量維持率を低め、かつ(ii)反応抵抗を低めことが認められた。
【0069】
そして、添加剤Aが条件1の下限値を下回ると、添加剤B、Dの配合比が条件2、4の上限値であっても、さらに添加剤B~Dの配合比が条件2~4の上限値であっても、目標値に達する容量維持率を得られないことも認められた。また、添加剤Aが条件1の上限値を上回ると、添加剤B、Dの配合比が条件2、4の上限値である場合、添加剤Cの配合比が条件3の下限値であっても、目標値に達する反応抵抗を得られないことも認められた。このように、良好な容量維持率と良好な反応抵抗との両立条件が条件1を含むことも認められた。
【0070】
[添加剤Bの評価]
試験例21、22の非水電解液は、0.0061mol%に添加剤Bの配合比を調整された水準である。試験例21、22の非水電解液は、条件1、3に示す下限値に添加剤A、Cの配合比を調整され、かつ条件4に示す上限値と下限値とに添加剤Dの配合比を調整された水準である。
【0071】
試験例21、22のリチウムイオン二次電池1について、(i)100%を下回る容量維持率、および(ii)105%を上回る優れた反応抵抗が認められた。
これによって、試験例1、2、5、6と試験例21、22との比較から、添加剤Bの配合比が0.0066mol%以上で高まることが(i)容量維持率を高め、かつ(ii)反応抵抗を良好な範囲に保つことが認められた。
【0072】
そして、添加剤Bが条件2の下限値を下回ると、添加剤A、Cの配合比が条件1、3の下限値である場合、添加剤Dの配合比が条件4の上限値であっても、目標値に達する容量維持率を得られないことが認められた。また、添加剤Bが条件2の下限値を下回ると、添加剤Dの配合比が条件4の上限値であれ下限値であれ、いずれにおいても優れた反応抵抗を得られる一方、目標値に達する容量維持率を得られないことも認められた。このように、良好な容量維持率と良好な反応抵抗との両立条件が条件2の下限値を含むことも認められた。
【0073】
[添加剤Cの評価]
試験例23、24の非水電解液は、0.0049mol%に添加剤Cの配合比を調整された水準である。試験例23、24の非水電解液は、条件1に示す下限値に添加剤Aの配合比を調整され、かつ条件2に示す上限値に添加剤Bの配合比を調整され、そして条件4に示す上限値と下限値とに添加剤Dの配合比を調整された水準である。
【0074】
試験例25、26の非水電解液は、0.0087mol%に添加剤Cの配合比を調整された水準である。試験例25、26の非水電解液は、条件1、2に示す上限値に添加剤A、Bの配合比を調整され、かつ条件4に示す上限値と下限値とに添加剤Dの配合比を調整された水準である。
【0075】
試験例23、24のリチウムイオン二次電池1について、(i)100%を下回る容量維持率、および(ii)105%を上回る優れた反応抵抗が認められた。
試験例25、26のリチウムイオン二次電池1について、(i)105%以上の優れた容量維持率、および(ii)100%を下回る反応抵抗が認められた。
【0076】
これによって、試験例5、6と試験例23、24との比較から、添加剤Cの配合比を0.0058mol%以上で高めることが(i)容量維持率を高め、かつ(ii)反応抵抗を高めることが認められた。試験例15、16と試験例25、26との比較から、添加剤Cの配合比を0.0078mol%以下で低めることが(i)容量維持率を良好な範囲に保ち、かつ(ii)反応抵抗を低めことが認められた。
【0077】
そして、添加剤Cが条件3の下限値を下回ると、添加剤Bの配合比が条件2の上限値であっても、さらに添加剤B、Dの配合比が条件2、4の上限値であっても、目標値に達する容量維持率を得られないことも認められた。添加剤Cが条件3の上限値を上回ると、添加剤A、Bの配合比が条件1、2の上限値である場合、添加剤Dの配合比が条件4の下限値であっても、目標値に達する反応抵抗を得られないことも認められた。このように、良好な容量維持率と良好な反応抵抗との両立条件が条件3を含むことも認められた。
【0078】
[添加剤Dの評価]
試験例27の非水電解液は、0.0250mol%に添加剤Dの配合比を調整された水準である。試験例27の非水電解液は、条件1、2に示す上限値に添加剤A、Bの配合比を調整され、かつ条件3に示す上限値に添加剤Cの配合比を調整された水準である。
試験例27のリチウムイオン二次電池1について、(i)100%以上の良好な容量維持率、および(ii)100%を下回る反応抵抗が認められた。
【0079】
これによって、試験例15、16と試験例27との比較から、添加剤Dの配合比を高めることが(i)容量維持率をおよそ保ち、かつ(ii)反応抵抗を低めることが認められた。そして、添加剤Dが条件4の下限値を下回ると、添加剤A~Cの配合比が条件1~3の上限値である場合、目標値に達する反応抵抗を得られないことが認められた。このように、良好な容量維持率と良好な反応抵抗との両立条件が条件4の下限値を含むことが認められた。
【0080】
[効果]
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)添加剤A~Dが条件1~4を満たすため、(i)容量維持率の向上と(ii)反応抵抗の抑制との両立が可能である。
【0081】
(2)添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、およびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0082】
(3)添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウム、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸リチウム、メチル硫酸リチウム、およびエチル硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0083】
(4)添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、およびトランスもしくはシス-4,5-ジクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オンからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
(5)添加剤Dは、プロピオン酸メチル、あるいはプロピオン酸エチルでもよい。
【0084】
(6)添加剤Aは、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムであり、添加剤Bは、モノフルオロ硫酸リチウムであり、添加剤Cは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンであり、添加剤Dは、プロピオン酸メチルであり、主電解質塩は、六フッ化リン酸リチウムであり、主非水溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートの混合物でもよい。
上記(2)~(6)によれば、上記(1)に準じた効果を得ることの実行性が高まる。
【符号の説明】
【0085】
1…リチウムイオン二次電池
10…電極体
11…ケース
12…蓋体
13…正極側集電部材
14,16…外部端子
15…負極側集電部材
100…負極シート
101…負極集電体
102…負極合材層
103,113…未塗工部
111…正極集電体
112…正極合材層
110…正極シート
120…セパレータ