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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087475
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】光投射システム
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20240624BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20240624BHJP
   F21S 41/64 20180101ALI20240624BHJP
   F21S 41/147 20180101ALI20240624BHJP
   F21W 102/14 20180101ALN20240624BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240624BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1333 505
F21S41/64
F21S41/147
F21W102:14
F21Y115:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202316
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 純也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里実
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
(72)【発明者】
【氏名】亀井 松雄
(72)【発明者】
【氏名】梶原 一馬
【テーマコード(参考)】
2H088
2H190
【Fターム(参考)】
2H088EA33
2H088GA02
2H088GA17
2H088HA03
2H088HA04
2H088HA16
2H088HA18
2H088HA21
2H088HA24
2H088HA28
2H088JA10
2H088MA20
2H190HA04
2H190HA08
2H190HB03
2H190HC03
2H190HC11
2H190HC12
2H190JB02
2H190JB03
2H190KA04
2H190LA09
2H190LA12
2H190LA16
2H190LA20
2H190LA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光投射システムに用いられる液晶素子における入射光による加温効果を領域毎に制御可能とすること。
【解決手段】集光された光が入射する位置に配置される液晶素子を含む光投射システムであって、液晶素子は、少なくとも第1基板と液晶層との間に配置される第1積層部を含み、第1積層部は、第1ITO層と、第1無機絶縁層と、第2ITO層とを有し、第1無機絶縁層は、光の透過する領域の一部である第1領域において、第1ITO層の液晶層と対向する一面側に配置される第1SiOx膜と、第1SiOx膜の液晶層と対向する一面側に配置される第1SiNx膜とを有する、光投射システムである。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射する光を集光する集光光学系と、
前記集光光学系によって集光された前記光が入射する位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子を透過した前記光を投影する投影レンズと、
を含み、
前記液晶素子は、
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、
前記第1基板と前記液晶層との間に配置されており複数の層を含む第1積層部と、
前記第2基板と前記液晶層との間に配置されており複数の層を含む第2積層部と、
を有し、
前記第1積層部及び前記第2積層部のうち少なくとも一方は、
第1ITO層と、
前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1無機絶縁層と、
前記第1無機絶縁層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第2ITO層と、
を有し、
前記第1無機絶縁層は、前記光の透過する領域の一部である第1領域において、
前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1SiOx膜と、
前記第1SiOx膜の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1SiNx膜と、
を有する、
光投射システム。
【請求項2】
前記第1無機絶縁層は、前記光の透過する領域の一部であって前記第1領域と異なる第2領域において、
前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第2SiNx膜を有する、
請求項1に記載の光投射システム。
【請求項3】
前記第1領域は、前記集光光学系によって集光される前記光の焦点を含む領域であり、
前記第2領域は、前記集光光学系によって集光される前記光の焦点を含まない領域である、
請求項2に記載の光投射システム。
【請求項4】
前記第1領域は、平面視において10mm以下の径を有する領域である、
請求項3に記載の光投射システム。
【請求項5】
前記第2領域は、平面視において前記第1領域の周囲の領域である、
請求項4に記載の光投射システム。
【請求項6】
前記第1積層部及び前記第2積層部のうち少なくとも一方は、
前記第2ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される絶縁膜と、
前記絶縁膜の前記液晶層と対向する一面側に配置される配向膜と、
を有する、
請求項1に記載の光投射システム。
【請求項7】
前記第1領域の前記第1SiOx膜の膜厚が100nm以上200nm以下である、
請求項1に記載の光投射システム。
【請求項8】
前記第1領域の前記第1SiNx膜の膜厚が100nm以下である、
請求項1に記載の光投射システム。
【請求項9】
前記第1領域の前記第1SiOx膜の膜厚が26nm以上164nm以下であり、
前記第1領域の前記第1SiNx膜の膜厚が36nm以上90nm以下である、
請求項7又は8に記載の光投射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光投射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-181466号公報(特許文献1)には、液晶パネル装置における低温時の応答速度を向上させることが可能な液晶パネル装置として、液晶表示部であるLCDと、LEDバックライトと、LEDバックライト6の発光量を調整するバックライト制御回路と、LCDの温度を測定するサーミスタを備え、サーミスタにより測定されたLCDの温度が所定の基準温度より低い場合に、LEDバックライトの発光量を大きくする制御を行う液晶パネル装置が記載されている。
【0003】
上記した従来例はLEDバックライトの発光量を大きくすることで液晶表示部の全体が加温されることを想定したものであると考えられる。しかしながら、例えば集光光学系により集光された光を液晶素子へ入射させるような用途においては、光の集光位置を含む領域とそれ以外の領域において入射光による加温の程度に差異を生じ得る。それにより、ある領域では必要以上に加温され、他の領域では加温が不足するという不都合を生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-181466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る具体的態様は、光投射システムに用いられる液晶素子における入射光による加温効果を領域毎に制御可能とする技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る一態様の光投射システムは、(a)光源と、(b)前記光源から出射する光を集光する集光光学系と、(c)前記集光光学系によって集光された前記光が入射する位置に配置される液晶素子と、(d)前記液晶素子を透過した前記光を投影する投影レンズと、を含み、(e)前記液晶素子は、(e1)対向配置される第1基板及び第2基板と、(e2)前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、(e3)前記第1基板と前記液晶層との間に配置されており複数の層を含む第1積層部と、(e4)前記第2基板と前記液晶層との間に配置されており複数の層を含む第2積層部と、を有し、(f)前記第1積層部及び前記第2積層部のうち少なくとも一方は、(f1)第1ITO層と、(f2)前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1無機絶縁層と、(f3)前記第1無機絶縁層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第2ITO層と、を有し、(g)前記第1無機絶縁層は、前記光の透過する領域の一部である第1領域において、(g1)前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1SiOx膜と、(g2)前記第1SiOx膜の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1SiNx膜と、を有する、光投射システムである。
【0007】
上記構成によれば、光投射システムに用いられる液晶素子における入射光による加温効果を領域毎に制御可能とすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図2図2は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。
図3図3は、液晶素子の画素の構成例を説明するための模式的な平面図である。
図4図4(A)及び図4(B)は、液晶素子の構成を層構造に着目して簡略化して示した模式断面図である。
図5図5(A)及び図5(B)は、変形実施例の液晶素子の構成を層構造に着目して簡略化して示した模式断面図である。
図6図6は、ガラス基板上にITO膜、SiNx膜、ITO膜をこの順に積層したサンプル基板Aと、ガラス基板上にITO膜、ITO膜をこの順に積層したサンプル基板Bの分光透過率を示す図である。
図7図7は、ITO層に接するSiNx膜を含む絶縁層を設けることによる温度上昇効果について検証した結果を説明するための図である。
図8図8は、ITO層に接するSiNx膜を含む絶縁層を設けることによる温度上昇効果について検証した結果を説明するための図である。
図9図9(A)は、図8に示した光学特性(Y値透過率及び450-470nm平均透過率)とSiOx膜の膜厚の関係を示した図である。
図10図10は、SiOx膜の膜厚を可変に設定して計算したスペクトルを示す図である。
図11図11は、SiNx膜の膜厚を可変に設定して計算したスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図1に示す車両用灯具システムは、光源1、カメラ2、コントローラ(制御装置)3、リフレクタ(反射部材)4、リフレクタ(反射部材)5、液晶素子6、一対の偏光板7a、7b、光学補償板8、投影レンズ9を含んで構成されている。この車両用灯具システムは、カメラ2によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を減光範囲(ないし非照射範囲)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うためのものである。
【0010】
光源1は、例えば青色光を放出する発光素子(LED)に黄色蛍光体を組み合わせて構成された白色光LEDを含んで構成されている。光源1は、例えば、マトリクス状あるいはライン状に配列された複数の白色光LEDを備える。なお、光源1としてはLEDのほかに、レーザー、さらには電球や放電灯など車両用ランプユニットに一般的に使用されている光源が使用可能である。光源1の点消灯状態はコントローラ3によって制御される。光源1から出射する光は、リフレクタ2、3によって反射並びに集光され、偏光板7aを介して液晶素子(液晶パネル)6に入射する。なお、リフレクタ2、3が「集光光学系」に相当する。また、光源1から液晶素子6へ至る経路上に他の光学系(例えば、レンズや反射鏡、さらにはそれらを組み合わせたもの)が存在してもよい。
【0011】
カメラ2は、自車両の前方を撮影してその画像(情報)を出力するものであり、自車両内の所定位置(例えば、フロントガラス内側上部)に配置されている。なお、他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが自車両に備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0012】
コントローラ3は、自車両の前方を撮影するカメラ2によって得られる画像に基づいて画像処理を行うことによって前方車両等の位置を検出し、検出された前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲とし、それ以外の範囲を光照射範囲とした配光パターンを設定し、この配光パターンに対応した像を形成するための制御信号を生成して液晶駆動回路4へ供給する。このコントローラ3は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。
【0013】
液晶素子6は、例えば、それぞれ個別に制御可能な複数の画素領域(光変調領域)を有しており、コントローラ3の制御に応じてドライバ(図示せず)によって与えられる液晶層への印加電圧の大きさに応じて各画素領域の透過率が可変に設定される。ドライバは、例えば液晶素子6の基板上に直接設けられている。この液晶素子6に光源1からの光が照射されることにより、上記した光照射範囲と減光範囲に対応した明暗を有する像が形成される。例えば、液晶素子6は、垂直配向型の液晶層を備えるものであり、クロスニコル配置された一対の偏光板7a、7bの間に配置されており、液晶層への電圧が無印加(あるいは閾値以下の電圧)である場合に光透過率が極めて低い状態(遮光状態)となり、液晶層へ電圧が印加された場合に光透過率が相対的に高い状態(透過状態)となるものである。
【0014】
一対の偏光板7a、7bは、例えば互いの偏光軸を略直交させており、液晶素子6を挟んで対向配置されている。本実施形態では、液晶層に電圧無印加としているときに光が遮光される(透過率が極めて低くなる)動作モードであるノーマリーブラックモードを想定する。各偏光板7a、7bとしては、例えば一般的な有機材料(ヨウ素系、染料系)からなる吸収型偏光板を用いることができる。また、耐熱性を重視したい場合には、ワイヤーグリッド型偏光板を用いることも好ましい。ワイヤーグリッド型偏光板とはアルミニウム等の金属による極細線を配列してなる偏光板である。また、吸収型偏光板とワイヤーグリッド型偏光板を重ねて用いてもよい。
【0015】
光学補償板8は、液晶素子6と偏光板7bの間に配置されており、透過光の視角特性を補償する。
【0016】
投影レンズ9は、液晶素子6を透過する光によって形成される像(光照射範囲と減光範囲に対応した明暗を有する像)をヘッドライト用配光になるように広げて自車両の前方へ投影するものであり、適宜設計されたレンズが用いられる。本実施形態では、反転投影型のプロジェクターレンズが用いられる。
【0017】
図2は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。図示の液晶素子6は、第1基板11、第2基板12、複数の画素電極13、共通電極(対向電極)14、複数の画素間電極(補助電極)15、複数の配線部16、絶縁層17、液晶層18を含んで構成されている。
【0018】
第1基板11および第2基板12は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。第1基板11と第2基板12の間には、例えば樹脂などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板11側若しくは第2基板12側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。
【0019】
複数の画素電極13は、第1基板11の一面側において絶縁層17の一面(液晶層18と接する側の面)に設けられている。各画素電極13は、絶縁層17に設けられたスルーホール20を介して1つの画素間電極15及びこの画素間電極と繋がる1つの配線部16と物理的並びに電気的に接続されている。各画素電極13は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各画素電極13は、例えば平面視において矩形状の外縁形状を有しており、X方向およびY方向に沿ってマトリクス状に配列されている。各画素電極13の間には隙間が設けられている。
【0020】
共通電極14は、第1基板11の一面側に設けられている。この共通電極14は、第2基板12の各画素電極13と対向するようにして一体に設けられている。共通電極14は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。この共通電極14と各画素電極13との重なる領域のそれぞれにおいて画素領域(光変調領域)が構成される。
【0021】
複数の画素間電極15は、第1基板11の一面側と絶縁層17との間に設けられている。各画素環電極15は、平面視において、隣り合う画素電極13の相互間の隙間に重なるように配置されている。各画素間電極15は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0022】
複数の配線部16は、第1基板11の一面側と絶縁層17との間に設けられている。各配線部16は、各画素電極13と平面視において重なるように配置されている。各配線部16は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各配線部16は、各画素電極13の何れかと接続されており、ドライバ4から各画素電極13に対して電圧を与えるために用いられる。図示の配線部16のうち、図中で画素電極13と接続されていないものは、例えば紙面の奥行き方向に存在する他の画素電極13の1つと接続されている。
【0023】
絶縁層17は、第1基板11の一面側において各画素間電極15および各配線部16を覆うようにして設けられている。絶縁層17は、少なくとも各画素間電極15に対応する部分に開口部19を有している。本実施形態では、絶縁層17は、各画素電極13に対応する範囲に設けられており、各画素電極13の相互間は全て開口部19となっている。絶縁層17は、各画素電極13と重なる部分においては、各画素電極13の端部位置と絶縁等17の端部位置とが略一致するような平面視形状を有している。
【0024】
液晶層18は、第1基板11と第2基板12の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負であり、カイラル材を含み、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層18が構成される。本実施形態の液晶層18は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が一方向に傾斜した状態となり、各基板面に対して、例えば85°以上90°未満の範囲内のプレティルト角を有する略垂直配向となるように設定されている。
【0025】
なお、図示を省略しているが第1基板11の一面側には各画素電極13を覆うように配向膜が設けられており、第2基板12の一面側には共通電極14を覆うように配向膜が設けられている。また、各画素電極13と配向膜の間、並びに共通電極14と配向膜の間には絶縁膜からなる保護膜が設けられてもよい。本実施形態では、各配向膜として液晶層18の配向状態を垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられている。各配向膜にはラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向へ液晶層18の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜の膜厚は、例えば50nm~70nmである。
【0026】
本実施形態の液晶素子6は、共通電極14と各画素電極13が平面視において重なる領域の各々として画定される領域である画素領域を数十~数百個有しており、これらの画素領域はマトリクス状に配列されている。本実施形態において各画素領域の形状は例えば正方形状に構成されているが、長方形状と正方形状を混在させるなど各画素領域の形状は任意に設定することができる。共通電極14、各画素電極13、各画素間電極15は、各配線部16等を介してドライバと接続されており、例えばスタティック駆動される。
【0027】
図3は、液晶素子の画素の構成例を説明するための模式的な平面図である。液晶素子6は、複数の画素(セグメント領域)を備えており、これらは平面視においてシール材15に囲まれた内側領域である有効表示領域内に配置されている。図示の液晶素子において種々のサイズの矩形状領域や三角形状領域で表された各々が画素に対応する。図中、例示的にいくつかの画素に符号を付して示す。また、図中に示す符号Rは、シール材15の対称軸を示している。
【0028】
画素30aは、X方向長さ、Y方向長さともに相対的に小さい小面積の正方形状の画素である。各画素30bは、X方向長さが画素30aよりは大きく、Y方向長さも画素30aよりは少し大きい台形状の画素である。画素30cは、X方向長さが小さく、Y方向長さは比較的大きい縦長の長方形状の画素である。画素30dは、画素30bよりはX方向長さの小さい縦長の長方形状の画素である。画素30eは、X方向長さ、Y方向長さ(一辺の長さ)ともに比較的大きい三角形状の画素である。画素30fは、X方向長さが非常に大きい横長の大面積の画素である。画素30gは、縦長の長方形状の画素である。画素30hは、X方向長さが非常に大きい横長の画素である。なお、図示のように、液晶素子11には例示したもの以外にも種々のサイズ、形状の画素が備えられている。各画素は、それぞれ個別に光の透過/非透過を制御可能であり、これらを適宜制御することによって、車両の前方状況に応じた種々の配光パターンの照射光を形成することが可能となる。
【0029】
画素30c、30dなどの各画素は、ハイビームの照射範囲のうち、主に対向車両や先行車両より高い位置における配光パターンの形成に用いられる画素である。画素30a、30bなどの各画素は、ハイビームの照射範囲のうち、主に対向車両や先行車両の存在する位置における配光パターンの形成に用いられる画素である。画素30h、30fなどの各画素は、主にロービームの照射範囲や路肩などへの照射範囲における配光パターンの形成に用いられる画素である。画素30g、30eなどの各画素は、周辺の配光パターンの形成に用いられる画素である。
【0030】
本実施形態では、液晶素子6へ入射する光は、平行光ではなく±30°程度の角度で集光されて入射する光であり、主に画素30aが配置される領域C(図中、点線で囲んで示す楕円状の領域であり第1領域に相当)において入射光がその焦点を結ぶ。領域Cの平面視での大きさは、概ね10mm径かそれ以下の径である。当該領域Cには、例えば0.22W/mmという極めてエネルギーの強い光が入射することとなり、当該領域Cにおいては、それ以外の周辺領域に比べて温度が上昇しやすくなる。これを別言すると、例えば環境温度が比較的低い場合には、当該領域Cでは温度上昇により液晶層18の応答速度を確保しやすいが周辺領域では温度上昇しにくいので液晶層18の応答速度を確保しにくくなるともいえる。そこで、本実施形態では、当該領域Cとそれ以外の周辺領域(第2領域に相当)において上記した絶縁層17の構成を異なるものとすることで上記の不都合の解消を図っている。以下、絶縁層17を含め、液晶素子6の層構造について詳細に説明する。
【0031】
図4(A)及び図4(B)は、液晶素子の構成を層構造に着目して簡略化して示した模式断面図である。図4(A)に示す液晶素子6の層構造は、例えば上記した入射光のエネルギーが相対的に高い領域Cにおいて用いられる。また、図4(B)に示す液晶素子6の層構造は、例えば上記した入射光のエネルギーが相対的に高い領域C以外の領域、つまり、当該領域Cの周辺領域において用いられる。
【0032】
具体的には、図4(A)に示される部分における液晶素子6は、第1基板11の一面(第2基板12と対向する面)にはITO層116、絶縁層17、ITO層113、保護膜21、配向膜22がこの順で積層されており、第2基板12の一面(第1基板11と対向する面)にはITO層114、保護膜23、配向膜24がこの順で積層されている。ITO層116は、ITOを用いて形成された各画素間電極15及び各配線部16を含む総称として用いている。同様に、ITO層113は、ITOを用いて形成された画素電極13を含む総称として用いており、ITO層114は、ITOを用いて形成された共通電極14を含む総称として用いている。なお、ITO層116、絶縁層17、ITO層113、保護膜21、配向膜22が「第1積層部」に対応し、ITO層114、保護膜23、配向膜24が「第2積層部」に対応する。
【0033】
また、図4(A)に示される部分における絶縁層(第1無機絶縁層)17は、SiOx(酸化珪素)膜17aと、SiNx(窒化珪素)膜17bを含む。SiOx膜17aは、ITO層116の一面(液晶層18及び第2基板12と対向する面)において当該ITO層116と接して設けられている。SiNx膜17bは、SiOx膜17aの一面(液晶層18及び第2基板12と対向する面)において当該SiOx膜17aと接して設けられている。SiNx膜17bにおける窒素Nの組成比xは概ね1であるが、0.9≦x≦1.1程度が許容される。SiOx膜17aにおける酸素Oの組成比xは概ね2であるが、1.9≦x≦2.1程度が許容される。
【0034】
保護膜21、23としては、それぞれ例えば印刷可能なチタノシロキサン系無機絶縁膜を用いることができる。配向膜22、24としては、それぞれ例えば印刷法により形成可能な垂直配向膜にラビング等の配向処理が施されたものや、斜方蒸着法によって形成可能な無機系配向膜を用いることができる。
【0035】
図4(B)に示される部分における液晶素子6は、基本的に上記した図4(A)に示される部分と共通の層構造を有しており、絶縁層17の層構造のみが異なる。このため、共通する層構造については説明を省略する。図4(B)に示される部分における液晶素子6の絶縁層17は、SiNx膜からなり、ITO層116の一面(液晶層18及び第2基板12と対向する面)において当該ITO層116と接して設けられている。
【0036】
ここで、SiNx単層の部分とSiOx/SiNx複層の部分を1つの液晶素子内で併存させるための製造プロセスについて例示する。例えば図3の領域Cのみ開口されたマスク(SUSマスクなど)を配置した状態でSiOx膜を成膜(スパッタ、真空蒸着、PE-CVDなど)することで、領域CのみSiOx膜をパターン形成し、その後マスクを除去した状態で全面にSiNx膜を形成し、最後にSiNx膜をフォトリソ工程でドライエッチングなどによりパターニング(SiOx膜も同様にパターニングされる)することで所望の構成を得ることが可能である。もしくはSiOx膜を全面に成膜後フォトリソ工程などでパターニングを行い、領域CのみSiOx膜を残し、その後SiNx膜を全面に成膜し、最後にSiNx膜をフォトリソ工程などでパターニングしてもよい。
【0037】
なお、図4(A)及び図4(B)に示した液晶素子6では、第1基板11側のみに絶縁層17が設けられていたが、図5(A)及び図5(B)に示した変形実施例の液晶素子6aのように、第2基板12側も複数のITO層を有するように構成してもよい。具体的には、図5(A)に示される部分における液晶素子6aは、第2基板12側においてITO層114と保護膜23との間に、絶縁層25及びITO層115が追加して配置されている。絶縁層(第2無機絶縁層)25は、上記した絶縁層17と同様にSiOx膜26aとSiNx膜25bを含む。図5(B)に示される部分における液晶素子6aも基本的に同様であり、絶縁層25がSiNx膜からなる層である点が異なっている。このような変形実施例の液晶素子6aにおける複数のITO層114、115は、例えばITO層114がヒーター機能を実現するための層として用いられ、ITO層115が共通電極を実現するための層として用いられる。なお、この変形実施例では、ITO層114、115、保護膜23、配向膜24、絶縁層25が「第2積層部」に対応する。
【0038】
本実施形態においては、液晶素子6においてITO層116に接して設けられるSiNx膜からなる絶縁層17は、例えばプラズマCVD法を用いて形成される。それにより、成膜時に下地となるITO層116が窒素を含むプラズマに晒されることでITO層116の特性(膜質)に変化が生じ、この特性変化により、光照射時にITO層116がより効率的に温度上昇するという作用が得られる。具体的には、特性変化としては詳細を後述するように、ITO層116においてはITO内部のキャリア密度の上昇が挙げられる。他方で、SiOx膜17aとSiNx膜17bを含む絶縁層17においては、上記したようなSiNx膜による温度上昇効果が出にくい。
【0039】
従って、ITO層116に接するSiOx膜17aとITO層116に接しないSiNx膜17bとを含む絶縁層17を有する部分を上記した入射光のエネルギーが相対的に高い領域Cに配置することで、入射光による液晶素子6の温度上昇を抑制することが可能となる。他方、ITO層116に接するSiNx膜を含む絶縁層17を有する部分を上記した入射光のエネルギーが相対的に高い領域C以外の領域、つまり、当該領域Cの周辺領域に配置することで、相対的に低いエネルギーの入射光でも液晶素子6をより効果的に温度上昇させることが可能となる。
【0040】
次に、ITO層116に接して設けられるSiNx膜からなる絶縁層17を用いることによる温度上昇効果についての検証結果を説明する。まず、ガラス基板上にITO膜、SiNx膜、ITO膜をこの順に積層したサンプル基板Aと、ガラス基板上にITO膜、ITO膜をこの順に積層したサンプル基板Bを用意し、各サンプル基板A、Bの分光透過率を測定した。図6にその分光透過率を示す。SiOx膜については上記のようにプラズマCVD法で形成された。
【0041】
図示の特性線aに示すように、サンプル基板Aでは450nm付近で透過率が顕著に下がることを確認した。比較のため、ガラス基板上にSiNxを単層で設けた場合の分光透過率についても計測したところ、特性線bに示すように450nm付近での吸収は見られなかった。他方で、サンプル基板AについてSiNxを除去して分布透過率を計測したところ450nm付近での吸収が見られた。このため、450nm付近での吸収はITO膜に起因するといえる。比較のため、SiNxをスパッタ法にて形成した場合には上記のようなITO膜における顕著な吸収は見られなかった。これらから、SiNxをプラズマCVD法にて形成する際にITO膜が窒素を含むプラズマに晒されることで、ITOの特性を変化させた現象であると考えられる。
【0042】
一例として、本実施形態の液晶素子6(又は6a)の構成を採用した実施例の液晶素子を組み込んだ車両用灯具システムにおいて光源1から光を出射させて液晶素子6へ入射させた際の温度を計測したところ、ITO層116に接するSiNx膜を含む部分が88.0℃となった際、ITO層116に接するSiOx膜17aとITO層116に接しないSiNx膜17bとを含む絶縁層17を有する部分では39.3℃であった。つまり、SiNxとITO層との間に200nm程度のSiOx膜を介在させるかどうかの構造的違いにより、絶縁性などにほとんど影響を与えることなく光に対する発熱性(発熱効率)に差異を生じさせることができるということである。なお、SiNx膜上にITO層113を設けない構成の液晶素子についても検証したところ発熱性は同等であったので、SiNx膜上のITO層113については特性変化を生じていないと考えられる。
【0043】
図7は、ITO層に接するSiNx膜を含む絶縁層を設けることによる温度上昇効果について検証した結果を説明するための図である。図中に模式的に示すように、0.5mm厚のガラス基板上に90nm厚のITO膜のみを設けた場合(ITO単板)、0.5mm厚のガラス基板上に90nm厚のITO膜を設け、ITO膜上に400nm厚のSiNx膜を設けた場合(SiNxテスト基板)、0.5mm厚のガラス基板上に90nm厚のITO膜を設け、ITO膜上に40nm厚のSiNx膜を設けた場合(ITO+SiNx基板)、0.5mm厚のガラス基板上に90nm厚のITO膜を設け、ITO膜上に20nm厚のSiOx膜を設け、SiOx膜上に280nm厚のSiNx膜を設けた場合(ITO+SiOx+SiNx基板)、のそれぞれについてITO膜に強い光(一例として、0.22W/mm)を照射し、その際の温度の測定結果を計測した。
【0044】
図中に元の温度からの温度上昇値Δt(℃)を示すように、ITO膜に接するSiNx膜を有する基板である「SiNxテスト基板」並びに「ITO+SiNx基板」では、SiNx膜の膜厚が40nmと薄くても60℃前後の高い温度上昇値を得られていることが分かる。他方で、ITO膜に接するSiNx膜を有しない基板である「ITO単板」並びに「ITO+SiOx+SiNx基板」では、温度上昇値がそれぞれ14℃、17.9℃と上昇幅が低かった。検証のため、「ITO+薄膜SiNx基板」から薄膜SiNxを除去して得たITO単板、並びに「ITO+SiOx+SiNx基板」からSiOx及びSiNxを除去して得たITO単板についても確認したところ、温度上昇値はそれぞれ26.4℃、27.0℃と上昇幅が低かった。
【0045】
上記の検証から、全体的には、ITO膜にSiNx膜が接触していなければ光照射時にも発熱しにくいことが分かる。別言すれば、ITO膜に接して配置されるSiNx膜を有していると光照射時に発熱しやすいといえる。この理由については、SiNx膜をプラズマCVD法にて形成する際に、高温状態かつ水素イオンリッチな状況下に置かれることでITOが還元され、欠陥が増加することによりキャリア密度が上昇し、このことが発熱に影響していると推察される。ここでいうITOの還元とは、ITO内にて酸素欠乏状態が促進され、自由電子が増加することにより、メタルリッチ状態となり、透過率が低下することをいう。
【0046】
図8は、ITO層に接するSiNx膜を含む絶縁層を設けることによる温度上昇効果について、液晶素子サンプルを構成して検証した結果を説明するための図である。ここでは、ガラス基板上にITO膜を形成し、そのITO膜にSiOx膜、SiNx膜、ITO膜を積層した場合と、ガラス基板上にITO膜を形成し、そのITO膜にSiOx、ITO膜を積層した場合について、SiOx膜、SiNx膜のそれぞれの膜厚を可変に設定し、光学特性並びに温度特性を計測した。各サンプルにおいて、基板上のITO膜、SiOx膜、SiNx膜、ITO膜の積層構成は、第1基板側も第2基板側も同じ構成である。また、SiNxのプラズマCVDによる成膜温度はいずれも300℃とした。図8における光学特性XおよびYは、それぞれCIE1931色度図上の色度座標を示す。また、図8における温度特性の発熱量の単位はWである。ITO膜については、サンプル8を除き、膜厚を90nmに固定した。サンプル1、10は、ガラス基板上にITO膜を形成し、そのITO膜にSiOx、ITO膜を積層した場合のサンプルであり、サンプル2~9は、ガラス基板上にITO膜を形成し、そのITO膜にSiOx膜、SiNx膜、ITO膜を積層した場合のサンプルである。ガラス基板の一面に設けられたITO膜を図中で「ITO(1)」と表記し、SiNx又はSiOxの一面に設けられたITO膜を図中で「ITO(2)」と表記している。
【0047】
ガラス基板上のITO膜にSiOx膜が設けられているものであるサンプル2~9ではいずれも光照射時の温度及び発熱量が相対的に低く、ガラス基板上のITO膜にSiNx膜が設けられているものであるサンプル1、10ではいずれも光照射時の温度及び発熱量が相対的に高いことが分かる。
【0048】
図9(A)は、図8に示した光学特性(Y値透過率及び450-470nm平均透過率)とSiOx膜の膜厚の関係を示した図である。図9(B)は、図8に示した光学特性(450-470nm平均透過率)とSiNx膜の膜厚の関係を示した図である。各図について、青色に相当する波長域である450nm~470nmの波長域において明るいという観点でみると、図9(A)に点線の楕円aで示すように、SiOx膜の膜厚としては100nm以上200nm以下の範囲にて透過率が高いことが分かる。図9(A)に点線の楕円bで示す範囲は可視光全体が明るい範囲である。同様に、図9(B)に点線の楕円aで示すように、SiNx膜の膜厚としては100nm以下の領域にて透過率が高いことが分かる。従って、SiOx膜及びSiNx膜については透過率の面から好ましい条件があるということが分かる。
【0049】
他方、絶縁耐圧の観点から最小限の膜厚を検討すると、SiOx膜の絶縁破壊電圧が39.11[MV/cm]、SiNx膜の絶縁破壊電圧が28.0[MV/cm]であることから、直流100Vの電圧を仮定した場合の絶縁耐圧から最小膜厚を求めると、SiOx膜の最小膜厚は26[nm]、SiNx膜の最小膜厚は36[nm]となる。
【0050】
次に、スペクトルの合わせ込みという観点から、SiOx膜及びSiNx膜の好適値を求める方法の一例を説明する。ここでは、生産時の工程管理上、設計膜厚を可変に設定することが比較的難しい配向膜やITO膜については膜厚を固定値とし、SiOx膜及びSiNx膜についての膜厚を可変に設定し、スペクトルの合わせ込みを行った実例を説明する。液晶素子の構成としては上記した変形実施例の液晶素子6aの構成を想定したが、実施形態の液晶素子6でも同様に考えることができる。スペクトルピークの設定位置としては、490[nm]付近がピークとなるように設計を行った。光は電磁波であるからマクスウェルの方程式を行列計算に変換した特性マトリクスを用いることで光学特性を計算することができる。波長設計においては、薄膜の位相差についてπ/2、π/4で検討した。SiOx膜についてはπ/2、SiNx膜についてはπ/4で薄膜干渉により、求めるスペクトルを得た。
【0051】
図10は、SiOx膜の膜厚を可変に設定して計算したスペクトルを示す図である。SiOx膜の膜厚については、149[nm]、154[nm]、159[nm]、164[nm]、168[nm]に設定した。図中の特性線aは膜厚149[nm]に対応し、特性線bは膜厚154[nm]に対応し、特性線cは膜厚159[nm]に対応し、特性線dは膜厚164[nm]に対応し、特性線eは膜厚148[nm]に対応している。SiNx膜の膜厚については59[nm]で固定した。ITO膜については、ガラス基板の一面に設けられるITO膜の膜厚を90[nm]とし、SiOx膜ないしSiNxに設けられるITO膜の膜厚を40[nm]とした。図示のように、SiOx膜の膜厚が164[nm]以下で青色に相当する波長以下の波長(λ≦490[nm])の合わせ込みができることが分かる。
【0052】
図11は、SiNx膜の膜厚を可変に設定して計算したスペクトルを示す図である。SiNx膜の膜厚については59[nm]~120[nm]で可変に設定した。図中の特性線a~jは、それぞれ膜厚59[nm]、63[nm]、66[nm]、68[nm]、70[nm]、72[nm]、75[nm]、90[nm]、100[nm]、120[nm]に対応している。SiOx膜の膜厚については149[nm]で固定した。ITO膜については、ガラス基板の一面に設けられるITO膜の膜厚を90[nm]とし、SiOx膜ないしSiNxに設けられるITO膜の膜厚を40[nm]とした。
【0053】
図示のように、SiNxに関しては、スペクトルの変化の特徴からピークシフトよりも位相差を大きくしたことによる振幅の発生が起こる。ばらつきを考慮するとこのような振幅の発生はなるべく抑えたい。スペクトルの特徴から、SiNx膜の膜厚を90[nm]以下とすることで振幅が抑えられると判断できる。スペクトルの傾向として、位相差が大きくなるとスペクトルに振幅が発生する。そして、SiOx膜よりもSiNx膜のほうが振幅の出やすい傾向がある。これは屈折率の差によるものと考えられる。SiOx膜の屈折率が1.46であるのに対してSiNx膜の屈折率が1.85であるので、同じ膜厚で考えるとSiNx膜のほうが位相差を生じやすいといえる。一例として、SiNx膜の膜厚を59[nm]、SiOxの膜厚を149[nm]とした設計においてバラツキを検証したところ、位相シフトの影響があるものの安定して高い透過率が得られた。
【0054】
以上のような実施形態によれば、車両用前照灯システムに用いられる液晶素子における入射光による加温効果を領域毎に制御可能となる。
【0055】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態等による各種条件(数値例など)は一例であってそれらに限定されない。また、上記した実施形態では本開示に係る光投射システムの一例として車両用前照灯システムを挙げていたが本開示の適用範囲はこれに限定されない。
【0056】
また、上記実施形態では、エネルギーの強い光が入射する第1領域と、それ以外の周辺領域である第2領域の絶縁層の構成を異なるものとして構成したが、入射光による液晶素子の温度上昇の抑制の観点から、いずれの領域においても絶縁層をITO層116に接するSiOx膜17aとITO層116に接しないSiNx膜17bとを含む構成とすることもできる。
【0057】
また、上記した実施形態においては、図2に示すように絶縁層17のうち各画素電極13の間の部分を完全に除去して各画素間電極15を完全に露出させているが、開口部19の底部に、各画素間電極15を覆う絶縁層(薄層部)を残存させることもできる。つまり、画素間電極15用の、画素電極と重複しない領域に、絶縁層17より薄い膜厚の絶縁層を形成することができる。このとき、絶縁層17および薄層部の形成は、エッチング時間等の制御により実現できる。例えば、絶縁層17をSiOxとSiNxで積層した場合には、CFとOの混合ガス系によるエッチングレート比はSiOx:SiNx=1:3程度であるため、薄層部をSiOxとして安定して形成することができる。絶縁層である薄層部を残存させることにより、画素電極13上の領域と画素間電極15上との領域との間の透過率差を抑制することができる。一般に、液晶層18が垂直配向モードである場合には透過率の層厚依存性があり、透過率の層厚依存性により画素電極13上の領域と画素間電極15上との領域では、液晶層の層厚が異なることより、透過率に差を生じるが、絶縁層である薄層部を残存させることにより液晶層の層厚差を小さくすることができるためである。
【0058】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
光源と、
前記光源から出射する光を集光する集光光学系と、
前記集光光学系によって集光された前記光が入射する位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子を透過した前記光を投影する投影レンズと、
を含み、
前記液晶素子は、
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、
前記第1基板と前記液晶層との間に配置されており複数の層を含む第1積層部と、
前記第2基板と前記液晶層との間に配置されており複数の層を含む第2積層部と、
を有し、
前記第1積層部及び前記第2積層部のうち少なくとも一方は、
第1ITO層と、
前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1無機絶縁層と、
前記第1無機絶縁層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第2ITO層と、
を有し、
前記第1無機絶縁層は、前記光の透過する領域の一部である第1領域において、
前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1SiOx膜と、
前記第1SiOx膜の前記液晶層と対向する一面側に配置される第1SiNx膜と、
を有する、
光投射システム。
(付記2)
前記第1無機絶縁層は、前記光の透過する領域の一部であって前記第1領域と異なる第2領域において、
前記第1ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される第2SiNx膜を有する、
付記1に記載の光投射システム。
(付記3)
前記第1領域は、前記集光光学系によって集光される前記光の焦点を含む領域であり、
前記第2領域は、前記集光光学系によって集光される前記光の焦点を含まない領域である、
付記2に記載の光投射システム。
(付記4)
前記第1領域は、平面視において10mm以下の径を有する領域である、
付記1~3の何れかに記載の光投射システム。
(付記5)
前記第2領域は、平面視において前記第1領域の周囲の領域である、
付記2~4の何れかに記載の光投射システム。
(付記6)
前記第1積層部及び前記第2積層部のうち少なくとも一方は、
前記第2ITO層の前記液晶層と対向する一面側に配置される絶縁膜と、
前記絶縁膜の前記液晶層と対向する一面側に配置される配向膜と、
を有する、
付記1~5の何れかに記載の光投射システム。
(付記7)
前記第1領域の前記第1SiOx膜の膜厚が100nm以上200nm以下である、
付記1~5の何れかに記載の光投射システム。
(付記8)
前記第1領域の前記第1SiNx膜の膜厚が100nm以下である、
付記1~6の何れかに記載の光投射システム。
(付記9)
前記第1領域の前記第1SiOx膜の膜厚が26nm以上164nm以下であり、
前記第1領域の前記第1SiNx膜の膜厚が36nm以上90nm以下である、
付記1~8の何れかに記載の光投射システム。
【符号の説明】
【0059】
11:第1基板、12:第2基板、113、114、116:ITO層、17:絶縁層、17a:SiOx膜、17b:SiNx膜、18:液晶層、21、23:保護膜、22、24:配向膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11