(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087485
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】医療用樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
A61M 39/10 20060101AFI20240624BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240624BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A61M39/10
B29C45/00
B29C45/26
A61M39/10 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202331
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
(72)【発明者】
【氏名】日高 正人
(72)【発明者】
【氏名】安積 信也
(72)【発明者】
【氏名】江島 隆司
【テーマコード(参考)】
4C066
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066JJ03
4C066JJ05
4F202AH63
4F202AM36
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK06
4F206AH63
4F206AM36
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】筒状部の内周面にゲート跡を生じさせることなく、ウェルドの影響が抑えられた医療用樹脂成形体を実現できるようにする。
【解決手段】医療用樹脂成形体は、第1側と第2側とを繋ぐ流路141を有する円筒状の本体部100と、本体部100の第1側に形成された第1端面121に位置するリング状に連続したゲート跡131とを備えている。本体部100の第2側の端部は、ゲート跡131から軸方向に延ばした直線上に位置している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1側と第2側とを繋ぐ流路を有する円筒状の本体部と、
前記本体部の前記第1側に形成された第1端面に位置するリング状に連続したゲート跡とを備え、
前記第1端面から前記本体部の前記第2側の端部まで、連続した樹脂層が形成されている、医療用樹脂成形体。
【請求項2】
前記本体部は、前記第1端面よりも前記第1側に突出した第1側凸部を有している、請求項1に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項3】
前記本体部は、前記第1側の端部の外径よりも前記第2側の端部の外径が小さい、請求項1に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項4】
前記流路は、内径が0.04mm以上、9mm以下である、請求項1に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項5】
前記本体部は、メスコネクタ部と、前記メスコネクタ部と反対側に形成されたチューブ接続部とを有している、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項6】
前記チューブ接続部は、前記第1側に形成されている、請求項5に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項7】
前記本体部は、径方向外側に突出する側方突出部を有している、請求項1に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項8】
前記本体部は、弾性率が700MPa以上、3400MPa以下の樹脂組成物により形成されている、請求項1に記載の医療用樹脂成形体。
【請求項9】
円筒状の本体部を成形する空洞部と、前記空洞部の第1側に設けられたリング状に連続したゲートとを有する金型を用いる射出成形工程を備え、
前記本体部は、前記第1側に第1端面を有し、
前記ゲートは、前記空洞部の前記第1端面を形成する部分に開口している、医療用樹脂形成体の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は医療用樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や薬液の流路を形成する筒状の医療用樹脂成形体が、体外循環回路及び輸液回路等をはじめとする種々の医療用機器において数多く使用されている。医療用樹脂成形体は、小さな不具合であっても重大な事故に繋がるおそれがあるため、一般の樹脂成形体と比べて高い成形精度及び強度が求められる。
【0003】
樹脂成形体は、溶融樹脂を金型のキャビティーに注入する射出成形により成形されることが一般的である。射出成形は、ランナーと呼ばれる樹脂供給路から金型のキャビティーに溶融樹脂を注入し、キャビティー内に充填させた溶融樹脂を固化させる。この後、ゲートと呼ばれる溶融樹脂の注入口の部分において固化した樹脂を切断し、独立した成形品とする。切断を行った後のゲート部分にはゲート跡と呼ばれる凹凸が発生してしまう。このため、コネクタの場合、ゲートは連結部分から離れた位置に設けることが考えられる。
【0004】
しかし、ゲートから離れた位置では溶融樹脂の流れにむらができやすく成形精度が低下する。このため、連結部分からゲートを遠ざけると、嵌め合いにより液密を実現する連結部分において真円度が低下し、漏れが生じやすくなるおそれがある。また、注入された溶融樹脂が合流することによるウェルドが、ゲートから離れた連結部において生じる。ウェルドは、真円度を低下させる要因となると共に、他の部分よりも強度が低いため、破損の起点となるおそれもある。
【0005】
樹脂成型品に種々の悪影響を与えるウェルドを低減する方法として、コネクタ等の筒状の成形品の場合、環状薄肉のゲートを筒状部の開口部内に配置することが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、環状薄肉のゲートを筒状部の開口部内に配置した場合には、筒状部の内周面にゲート跡が生じてしまう。筒状部の内周面のゲート跡は、血液等の流れに影響を与えたり、リークが生じる原因となったりするおそれがある。引用文献1においては、ゲートの切断方法を工夫することにより、筒状部の内周面に生じるゲート跡の影響をできるだけ小さくしようとしている。しかし、ゲート跡の影響が生じないようにするには、非常に高精度の切断をしなければならないが、それを可能とする具体的な構成や条件は記載されていない。特に、筒状部の内径が小さい場合には、ピンによる切断が非常に困難になり、このような方法は現実的ではない。
【0008】
本開示の課題は、筒状部の内周面にゲート跡を生じさせることなくウェルドの影響が抑えられた医療用樹脂成形体を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の医療用樹脂成形体の一態様は、第1側と第2側とを繋ぐ流路を有する円筒状の本体部と、本体部の第1側に形成された第1端面に位置するリング状に連続したゲート跡とを備え、第1端面から本体部の第2側の端部まで、連続した樹脂層が形成されている。
【0010】
医療用樹脂成形体の一態様は、ゲート跡が円筒状の本体部の軸方向の一方の端部に形成されており、ゲート跡が流路を流れる液の流れに影響を与えたり、本体部の内面又は外面を用いた嵌合に影響を与えたりすることがない。また、第1端面から本体部の第2側の端部まで樹脂の流れを遮るものがない金型により形成できるので、リング状に連続したゲート跡を形成する端部のゲートから、溶融樹脂が軸方向の層流を形成するようにでき、溶融樹脂の合流によるウェルドが本体部に生じないようにすることができる。また、溶融樹脂の乱れを生じにくくできるので、本体部の真円度を向上させることができる。
【0011】
医療用樹脂成形体の一態様において、本体部は、第1端面よりも第1側に突出した第1側凸部を有しているようにできる。このような構成とすることにより、第1端面のゲート跡が他の部材等と接触しにくくできるので、ゲート跡がこすれて異物を発生させるような事態を避けることができる。、また、最も第1側の端面が平滑になるので、当該端面をシールに用いることができる。さらに、美観を向上させることもできる。
【0012】
医療用樹脂成形体の一態様において、本体部は、第1側の端部の端部の外径よりも第2側の端部の外径が小さくなるようにすることができる。このような構成とすることにより、ゲートから注入された樹脂の次第に狭い方へ流れるので、層流が乱れにくくなり、成形精度が向上する。
【0013】
医療用樹脂形成体の一態様において、流路は、内径が0.04mm以上、9mm以下とすることができる。流路の内面にゲート跡が生じないため、流路が細い医療用樹脂成形体を容易に実現できる。
【0014】
医療用樹脂成形体の一態様において、本体部は、径方向外側に突出する側方突出部を有している構成とすることができる。溶融樹脂の合流によるウェルドが側方突出部に形成されないようにすることが容易にできるので、このような形状においても強度を向上させ、クラックの発生等を抑えることができる。
【0015】
医療用樹脂成形体の一態様において、本体部は、メスコネクタ部と、メスコネクタ部と反対側に形成されたチューブ接続部とを有しているようにできる。このような構成とすれば、オスコネクタと嵌合するメスコネクタ部及び液が流れる流路の内面にゲート跡がないメスコネクタを実現できる。また、メスコネクタ部における真円度を高くして漏れを生じにくくできる。さらに、メスコネクタ部におけるウェルドの発生を抑え、嵌合の際のコネクタの破損を生じにくくすることができる。
【0016】
医療用樹脂成形体の一態様において、チューブ接続部は、第1側に形成されるようにできる。このような構成とすることにより、メスコネクタ部におけるゲート跡の影響をさらに小さくすることができる。
【0017】
医療用樹脂成形体の一態様において、本体部は、径方向外側に突出する側方突出部を有しているようにできる。このような構成としても、側方突出部にウェルドラインができてクラックが発生する事態を避けることができる。
【0018】
医療用樹脂成形体の一態様において、本体部は、弾性率が700MPa以上、3400MPa以下の樹脂組成物により形成されているようにできる。ウェルドラインが生じると破損しやすくなるこのような弾性率を有する材料を選択することが可能となり、材料選択の自由度を大きくすることができるので、コネクタ等として優れた物性の樹脂成形体を実現できる。
【0019】
本開示の医療用樹脂成形体の製造方法の一態様は、円筒状の本体部を成形する空洞部と、空洞部の第1側に設けられたリング状に連続したゲートとを有する金型を用いる射出成形工程を備え、本体部は第1側に第1端面を有し、ゲートは空洞部の第1端面を形成する部分に開口している。このような構成とすることにより、流路の内面にゲート跡が生じず、真円度が高く、ウェルドの影響も生じにくい医療用樹脂成形体を容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の医療用樹脂成形体によれば、筒状部の内周面にゲート跡を生じさせることなく、ウェルドの影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る医療用樹脂成形体を示す斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【
図4】一実施形態に係る医療用樹脂成形体の第1端面を示す平面図である。
【
図5】一実施形態に係る医療用樹脂成形体の製造に用いる金型を示す断面図である。
【
図6】変形例に係る医療用樹脂成形体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1~
図4に示すように、一実施形態の医療用樹脂成形体は、第1側と第2側とを繋ぐ流路141を形成する円筒状の本体部100を有するメスコネクタである。本体部100は、チューブが接続されるチューブ接続部111と、オスコネクタが挿入されるメスコネクタ部112とを有している。本実施形態において、チューブ接続部111は第1側に形成され、メスコネクタ部112は第2側に形成されている。チューブ接続部111が形成された第1側の外面には径方向外側に突出した翼状部113が形成されている。メスコネクタ部112が形成された第2側の外側には、オスコネクタのカプラと螺合するネジ部114が形成されている。
【0023】
本体部100の第1側の第1端面121には、ゲート跡131が形成されている。ゲート跡131は、周方向に連続したリング状となっている。図面においてゲート跡131は明確に識別できるように記載しているが、仕上げの状態等によっては、ゲート跡131が連続したリング状となっていることを肉眼では確認できない場合もあり得る。また、ゲート跡131の部分に白化等が生じている場合もある。
【0024】
本実施形態の本体部100は、
図5に示すような金型200により形成することができる。金型200は、キャビティー及びコアを含む複数の型が組み合わされ、円筒状の本体部100を形成する空洞部211を形成する。空洞部211に樹脂を供給するゲート212は、本体部100の第1側の第1端面121を形成する部分にリング状に開口している。溶融された樹脂の導入路213を通ってゲート212から空洞部211に供給された樹脂は、空洞部211内を第2側に向かって層流となって流れる。このため、空洞部211内における樹脂の合流によるウェルドの発生を抑えることができる。ウェルドの発生を抑えることにより、本体部100の強度を向上させることができる。
【0025】
また、空洞部211内を流れる樹脂の均一性が高まるので、ゲート212から離れた第2側においても本体部100の真円度を大きく向上させることができる。これにより、メスコネクタ部112におけるオスコネクタとの接続性が向上し、リークの発生を抑えることができる。
【0026】
さらに、ゲート212が本体部100の端面となる部分に位置するため、オスルアーコネクタと嵌合するメスルアーテーパ面や、液と接触する液流路となる本体部100の内壁面にゲート跡が形成されない。このため、成形後にゲート跡の影響を低減する高精度の研磨を行わなくても、ゲート跡によるコネクタの接続性の低下や、流路内の液の流れに対する影響を回避することができる。また、ゲート跡が本体部100の外側面に形成されると、コネクタを把持する際に不快感を与えたり、美観を損ねたりするおそれがあるが、このような問題の発生も回避することができる。
【0027】
第1側の端部に設けられたゲート212から流入した樹脂が第2側の端部までできるだけきれいな層流を維持して流れるようにして、ウェルドの発生を抑える観点から、ゲート跡131を有する第1端面121から第2端面122まで樹脂層が連続していることが好ましい。樹脂層が連続しているとは、ゲート跡131と第2端面122との間に連続した表面が形成されている状態であり、第2の端面122まで層流が維持され、ウェルドの形成が抑えられる。なお、全体として樹脂層が連続していれば段差を伴って若しくは伴わずに縮径又は拡径する部分や、把持部やネジ山等の突出部が存在している場合も樹脂層は連続して形成されている。一方、樹脂層の少なくとも一部が中断されている部分、例えば側方に突出した開口部等が存在する場合には、樹脂層が第2の端面まで連続しておらず、樹脂の流れの方向が急激に変化して回り込む部分が生じ、層流が乱され、ウェルドが発生する。
【0028】
樹脂層が連続している成形品は、ゲート212から第2側の端部まで樹脂の流れを遮る部分が存在しない空洞部211を有する金型200により形成することができる。このため、ゲート212から第2側の端部まで層流が維持され、ウェルドの発生を抑えることができるとともに、成形精度も向上させることができる。
【0029】
層流を維持して成形する観点からは、軸方向に平面視した際に、ゲート212の位置と第2側の端部の位置とが揃っていることがさらに、好ましい。この場合、成形された本体部100において、第2側の端部は、ゲート跡131から軸方向に延ばした直線上に位置する。
【0030】
ゲート212は点ではなく幅を有し、生じるゲート跡131も幅を有し、境界部分も不明確な場合がある。ゲート跡131の径方向外端や中心から軸方向に延ばした直線115が第2端面122に達して交差する場合だけでなく、例えば
図2に示すような、ゲート跡131の径方向内端の位置から軸方向に延ばした直線115が第2端面122と交差する場合も、第2側の端部がゲート跡131から軸方向に延ばした直線上に位置している状態である。
【0031】
また、
図2には第2端面122が軸方向と直交する面である例を示しているが、第2端面122が面取りされた曲面であったり、先細になったテーパ加工された面であったりする場合もあり得る。このような場合、第2側の端部がゲート跡131から軸方向に延ばした直線上に位置しているとは、ゲート跡131から軸方向に延ばした直線が、面取りやテーパ加工によって生じている第2側の最も先端の部分に達していることを意味せず、面取りやテーパ加工がされていないと仮定した場合の第2側の端部に達していることを意味する。
【0032】
本実施形態において、チューブ接続部111をゲートが設けられた第1側にし、メスコネクタ部112を第2側にしている。このようにすれば、オスコネクタを接続する際に使用者の視界に入るメスコネクタ部112側の端面にゲート跡が形成されないので、美観に優れた製品が得られる。但し、本実施形態においては、メスコネクタ部112を第1側にした場合にも、オスコネクタと係合したり、液が流れたりするメスコネクタ部112の内面にゲート跡が形成されないので、メスコネクタ部112を第1側にすることも可能である。
【0033】
メスコネクタ部112を第1側にした場合、メスコネクタ部112の大部分が、ゲートから注入された樹脂の層流が乱れを引き起こすおそれがある翼状部113よりもゲート側に位置する。このため、メスコネクタ部112における樹脂の流れがより安定になり、メスコネクタ部112の成形精度をさらに向上させることができる。
【0034】
一般的なサブマリンゲートやピンゲート等を有する金型の場合、取り数を多くしたり、型構造を単純化したりするために筒状の本体部から径方向外側に突出する側方突出部にゲートを設けることが一般的である。この場合、筒状の本体部の側面にウェルドラインが発生する。側方突出部を含む側面に生じたウェルドラインは、クラックの起点となる。リング状のゲートを端面に有する金型を用いて成形をすることにより、筒状の本体部から径方向外側に突出する側方突出部を含む側面におけるクラックの発生を低減することができる。
【0035】
リング状のゲートを端面に有する金型によりコネクタを成形する例を示したが、他の医療用樹脂成形体もリング状のゲートを有する金型により形成することができる。
図6は、本体部が変形例として微量の一定流量を実現するための細い流路を有するフラッシュデバイスである例を示している。フラッシュデバイスは血管内治療でアブレーションを行う際に生理食塩水などを流すのに用いられる。フラッシュデバイスは3mL/h~30mL/h程度の一定流量を実現するために内径が0.04mm~0.1mm程度であり、高い圧力も加わるため、肉厚にする必要がある。このため、通常の側面等にゲートを有する金型で成形を行うと、樹脂の流れに乱れが生じやすく、軸部152にウェルドが形成されて強度低下が生じたり、十分な真円度が得られなかったりする。また、流路が細いため、内腔にゲートを設けて外縁部に拡がるように樹脂を流すことは困難である。
【0036】
本変形例の本体部150は、第1側に設けられた連続したリング状のゲートから第2側へ層流となるように樹脂を流して成形している。このため、軸部152にウェルドが発生しないようにできると共に、軸部152の真円度も向上させることができる。
【0037】
本変形例においても第2側の端部は、ゲート跡131から軸方向に延ばした直線上に位置することが好ましい。本変形例本体部150において第2側の端面はテーパ加工されているが、テーパ加工されていない場合の端面を仮定した領域135に、ゲート跡131から軸方向に延ばした直線が達するようにすることが好ましい。
【0038】
本変形例の本体部150は、ゲートが存在する第1側に外径が大きい鍔部151が配置され、外径が小さい軸部152が第2側に配置されている。このため、ゲートから成形用の空洞部に注入された樹脂は、体積が小さい第2側に向かって流れるので、より安定した樹脂の流れを作り出すことができる。但し、外径が小さい軸部152を第1側にし、外径が大きい鍔部151を第2側にすることもできる。
【0039】
本変形例の本体部150は、ゲート跡131が存在する第1端面161よりも第1側に突出した第1側凸部165を有している。本体部150の最も第1側に位置する第1側凸部165の端面166は、ゲート跡が存在しない平滑な面であるため、この部分にシールの機能を持たせることも容易にできる。また、最も第1側の端面にゲート跡が存在しないことは美観の点からも好ましい。
【0040】
本変形例において、ゲート跡131が形成された第1端面161は、第1側凸部165よりも径方向内側に位置している。しかし、第1側凸部165よりも径方向外側に位置する端面にゲート跡が形成されるようにすることもできる。
【0041】
樹脂成形体を形成する樹脂組成物は特に限定されないが、弾性率が好ましくは700MPa以上、より好ましくは1200MPa以上で、好ましくは3400MPa以下、より好ましくは3200MPa以下のものを用いることができる。このような弾性率の樹脂組成物は、ウェルド部分にクラックが生じやすく、樹脂成形体の設計に種々の制約が生じる。しかし、リング状のゲートを有する金型により形成することにより、このような弾性率の樹脂組成物を用いた場合にもウェルドによるクラックを生じにくくできるので、コネクタ等として優れた物性の樹脂成形体が容易に得られる。また、高精度の成形品を得ることも容易にできる。
【実施例0042】
実施例を用いて本開示の樹脂成形体についてさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示であり本発明を限定することを意図しない。
【0043】
<衝撃強さの評価>
精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG-Xplus)を用いて、メスコネクタにテーパが10%のステンレス棒を500mm/秒の速度で挿入して荷重を加え、破損の有無を目視により確認した。
【0044】
(実施例)
図1に示す形状のメスコネクタをリング状ゲートを有する金型により形成した。ゲート位置は第1端面121側とした。メスコネクタ部112は、ISO80369-7に準拠した寸法形状とした。樹脂材料は、硬度80D(JIS K 7215に準拠)の硬質ポリ塩化ビニル(PVC)(リケンテクノス社製)とした。成形には横型射出成形機(住友重工業製)を用い、成形温度は185℃、金型温度は30℃、射出速度は30mm/秒とした。サンプルは9個成形し、それぞれについて衝撃強さを評価した。
【0045】
荷重が35kgf、50kgf、及び70kgfのいずれの条件においても、3個ずつのサンプルのすべてに破損は認められなかった。
【0046】
(比較例)
一方の翼部113の第1端面121側に1点ゲートを設けた金型を用いて、実施例と同様にしてメスコネクタを形成した。一点ゲートと反対側の側面にウェルドが認められた。
【0047】
荷重が35kgfの条件においては1個のサンプルが破損し、40kgfの条件においては2個のサンプルが破損し、50kgfの条件においては3個のサンプルすべてが破損した。いずれのサンプルにおいても、メスコネクタ部112のウェルド部分において破損が生じた。
【0048】
表1に実施例及び比較例の結果をまとめて示す。
【0049】
【0050】
医療用樹脂成形体として、メスコネクタ及びフラッシュデバイスを示したが、精密マイクロシリンジやその他の内腔が流路となる筒状の種々の医療用樹脂成形体において、本開示の構成を採用することにより、流路の内面に影響を与えることなく真円度を向上させたり、ウェルドによる強度低下を抑えたりすることができる。また、内側にゲートを設けて外縁部に樹脂が拡がる様にすることが困難である、内径が小さい医療用樹脂成形体、例えば、好ましくは9mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下の内径を有する医療用樹脂成形体において有用である。成形できる内径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.04mm以上、より好ましくは0.1mm以上であれば容易に成形することができる。