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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087519
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】変位計及び地中変位算定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20240624BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01B7/00 103Z
G01C15/00 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202381
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木梨 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西村 友宏
(72)【発明者】
【氏名】辻村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】阪本 崇介
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA04
2F063BA15
2F063DA02
2F063DA05
2F063EA01
(57)【要約】
【課題】簡略な設備で、長孔及び長孔周辺に生じる水平方向及び鉛直方向の変位を把握する
【解決手段】長孔内に設置され、該長孔の地中に削孔された孔内に設置されて、地中変位を計測する変位計であって、直列に配置される複数の長尺部材と、隣り合う該長尺部材どうしを連結する複数のジョイント部材と、該ジョイント部材に設けられる2体のエンコーダと、を備え、前記ジョイント部材が、前記長尺部材の端部に接続される一対の継手スリーブと、直交する2本の回転軸を備える自在継手と、を有し、前記2本の回転軸各々に、前記継手スリーブと前記エンコーダが接続される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長孔内に設置され、該長孔の変位を計測する変位計であって、
直列に配置される複数の長尺部材と、
隣り合う該長尺部材どうしを連結する複数のジョイント部材と、
該ジョイント部材に設けられる2体のエンコーダと、を備え、
前記ジョイント部材が、
前記長尺部材の端部に接続される一対の継手スリーブと、
直交する2本の回転軸を備える自在継手と、を有し、
前記2本の回転軸各々に、前記継手スリーブと前記エンコーダが接続されることを特徴とする変位計。
【請求項2】
請求項1に記載の変位計において、
前記エンコーダが、回転伝達機構を介して前記回転軸に接続されることを特徴とする変位計。
【請求項3】
請求項1に記載の変位計において、
前記長尺部材に、セントラライザーが設けられることを特徴とする変位計。
【請求項4】
トンネル構築予定領域の周辺地山に請求項1から3のいずれか1項に記載の変位計を、切羽近傍からトンネル掘進方向に延在する削孔に挿入するとともに、前記エンコーダが接続された前記回転軸各々を、鉛直方向および水平方向に向くように設置した後、
最も坑口側に位置する前記長尺部材の坑口側端部を計測補助地点、前記ジョイント部材の配置位置を計測地点として設定し、
掘削開始前、および掘削を開始し切羽位置が所定の距離だけ進むごとに、複数の前記計測地点各々で計測を行い、
掘削開始前および掘削開始後に計測を行った各時点における前記計測地点各々の位置座標を、前記計測補助地点の位置座標を基準とし、複数の前記計測地点で得た計測値のうちの自己よりも坑口側に位置する前記計測地点の計測値に基づいて算定し、
複数の前記計測地点各々における掘削前後の位置座標の変位を、鉛直方向および水平方向各々で算定することを特徴とする地中変位算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長孔及び長孔周辺の変位を計測する変位計および変位計を用いた地中変位算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事では、構築中のトンネル内周面に沿って支保工を設けるが、支保工は掘削の進行に伴って地圧に押されるため、内空方向に変形する場合が多い。このため、トンネルの支保工(内空変位)を計測する作業と併せて、トンネル周辺地山の岩盤変形を計測し、トンネルの安定性を評価している。
【0003】
地山は、トンネル掘削を開始すると、掘削地点の周辺で変位が生じるだけでなく、その前方においてもすでに、先行して変位が発生してる。この先行変位は、トンネル切羽が所定の地点に到達した段階で、掘削によって生じた全変位のうち、3~5割程度を占めることが知られている。したがって、切羽前方の先行変位を事前に計測することが重要となる。
【0004】
例えば、トンネル掘削時における周辺地山の変位を計測する機器として、重力加速度センサ等を用いた傾斜計が広く用いられている。傾斜計は、トンネルの天端部から切羽前方に向けて削孔したボーリング孔に設置されて、トンネル掘削に伴う天端の沈下計測を行う機器である。ところが、地山の鉛直方向の変位を計測することはできるものの、水平方向の変位を計測することができない。
【0005】
そこで、発明者らは特許文献1に示すように、ひずみゲージを利用した鉛直方向と水平方向の変位を計測可能な地中変位計を開発した。特許文献1の地中変位計は、ひずみセンサを設置した起歪板を2体で一組とし、これらを計測部として取り扱う。この2体の起歪板を、板面が互いに直交する方向に向けて並列配置することで、地山に生じる水平方向及び鉛直方向の変位を、同一地点で計測可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-41994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の地中変位計は、計測したひずみ量から角度を算出することで水平方向及び鉛直方向の変位を算出する。ところが、ひずみ量と角度の関係は、事前にキャリブレーションを行って取得しておく必要がある。また、ひずみ量と角度の関係は線形でないため、角度が大きくなると誤差も大きくなるといった課題がある。
【0008】
さらに、ひずみセンサを設置した起歪板を2体で一組とした計測部は、地中変位計の長手方向に一定の間隔を設けて複数配置するが、地中変位計が長大になるにつれて、ひずみゲージのリード線も長大となり、取り扱いが煩雑となりやすい。また、地中変位計を延長する場合に、計測部を追加設置することが困難であった。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、簡略な設備で、長孔及び長孔周辺に生じる水平方向及び鉛直方向の変位を把握することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の変位計は、長孔内に設置され、該長孔の変位を計測する変位計であって、直列に配置される複数の長尺部材と、隣り合う該長尺部材どうしを連結する複数のジョイント部材と、該ジョイント部材に設けられる2体のエンコーダと、を備え、前記ジョイント部材が、前記長尺部材の端部に接続される一対の継手スリーブと、直交する2本の回転軸を備える自在継手と、を有し、前記2本の回転軸各々に、前記継手スリーブと前記エンコーダが接続されることを特徴とする。
【0011】
本発明の変位計は、前記エンコーダが、回転伝達機構を介して前記回転軸に接続されることを特徴とする。
【0012】
本発明の変位計は、前記長尺部材に、セントラライザーが設けられることを特徴とする。
【0013】
本発明の地中変位算定方法は、変位計を、切羽近傍からトンネル掘進方向に延在する削孔に挿入するとともに、前記エンコーダが接続された前記回転軸各々を、鉛直方向および水平方向に向くように設置した後、最も坑口側に位置する前記長尺部材の坑口側端部を計測補助地点、前記ジョイント部材の配置位置を計測地点として設定し、掘削開始前、および掘削を開始し切羽位置が所定の距離だけ進むごとに、複数の前記計測地点各々で計測を行い、掘削開始前および掘削開始後に計測を行った各時点における前記計測地点各々の位置座標を、前記計測補助地点の位置座標を基準とし、複数の前記計測地点で得た計測値のうちの自己よりも坑口側に位置する前記計測地点の計測値に基づいて算定し、複数の前記計測地点各々における掘削前後の位置座標の変位を、鉛直方向および水平方向各々で算定することを特徴とする。
【0014】
本発明の変位計及び地中変位算定方法によれば、隣り合う長尺部材を連結するジョイント部材に自在継手を採用し、自在継手に備えた直交する2本の回転軸各々にエンコーダが接続されている。これにより、エンコーダを利用して、隣り合う長尺部材間の鉛直方向の角度および水平方向の角度を計測値として出力し、この計測値に基づいて、ジョイント部材を計測地点とする鉛直方向及び水平方向の変位の両者を算出することが可能となる。
【0015】
また、変位計を切羽近傍からトンネル掘進方向に延在する削孔に配置し、地中変位計として採用すれば、先行変位を含めた全変位を把握することができる。このため、この全変位と、いわゆる限界ひずみ法などで知られている地山ごとに推定する限界ひずみとの対比により。地山の塑性化を評価できる。さらに、鉛直方向の角度および水平方向の角度は、エンコーダの回転数から算出することとなるが、回転数の大小にかかわらず安定した高い精度で角度を算出することが可能となる。
【0016】
そして、エンコーダを利用することにより、ひずみゲージなどを利用してひずみ量と角度の関係を取得する場合に必要であった、事前のキャリブレーションを省略することができ、計測作業の効率化を図ることが可能となる。さらに、ジョイント部材と隣り合う長尺部材の一方をユニット化すれば、このユニットを順次継ぎ足すことにより、変位計に設ける計測地点の数を自在増減することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、隣り合う長尺部材を連結するジョイント部材に自在継手を採用し、自在継手に備えた直交する2本の回転軸各々にエンコーダを接続する簡略な設備で、長孔及び長孔周辺に生じる水平方向及び鉛直方向の変位を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態における変位計の設置状況を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるジョイント部材の平面を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるジョイント部材の側面及びセントラライザーの詳細を示す図である
図4】本発明の実施の形態におけるジョイント部材の断面を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における計測地点の位置(水平方向)及び計測部により計測される角度を示す概念図である。
図6】本発明の実施の形態における計測地点の位置(鉛直方向)及び計測部により計測される角度を示す概念図である。
図7】本発明の実施の形態におけるジョイント部材の他の事例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるジョイント部材(他の事例)の断面を示す図である。
図9】本発明の実施の形態におけるジョイント部材(他の事例)の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、長孔内に設置され、この長孔及び長孔周辺に生じる水平方向及び鉛直方向の変位を把握する変位計に関するものである。長孔は、例えば、地山に構築された削孔や埋め戻土に埋設された埋設管、もしくは地中連壁や鋼矢板などに取り付けた配管など、いずれの構造に形成された長孔をも含む。
【0020】
これらの長孔内に変位計を設置することにより、変位計が設置された長孔及び長孔周辺の変位、具体的には、地中変位や埋め戻し土の沈下、もしくは地中連壁や鋼矢板の変位(変形)などを把握することができる。本実施の形態では、トンネルの掘削工事に伴って生じる切羽前方の地中変位を計測するべく、変位計をトンネル構築予定領域の側方に位置する周辺地山に構築したボーリング孔内に設置し、地中変位計として採用する場合を事例に挙げ、地中変位測定方法を説明しつつ、変位計の詳細および地山変位を算定する手順を、図1図8を用いて説明する。
【0021】
≪≪≪地中変位測定方法:地中変位計を地山に設置≫≫≫
トンネルの掘削工事を開始するにあたって、図1の平面図で示すように、掘削開始地点Aの近傍地山をトンネル構築予定領域Tの断面より広い範囲にわたって掘削し、拡幅部Wを構築する。ここでは、X軸を水平方向(+方向はトンネル軸線Cから遠のく方向)、Z軸をトンネル軸線C方向(+方向は掘進方向)に設定し、Y軸を鉛直方向(-方向は鉛直下向き)に設定している。
【0022】
拡幅部Wから切羽前方のトンネル掘進方向に向けて、トンネル軸線Cと平行にボーリング孔Hを設け、このボーリング孔Hの内方に地中変位計10を挿入・設置する。図1では、切羽を前方に見てトンネル構築予定領域Tの左側に位置する周辺地山の1箇所にボーリング孔Hを構築して地中変位計10を設置している。
【0023】
なお、地中変位計10は、トンネル構築予定領域Tの周辺地山いずれの位置に設けてもよく、その数も1箇所に限定されるものではない。また、ボーリング孔Hは必ずしもトンネル軸線Cと平行でなくてもよく、トンネル軸線Cに対して所定の角度傾斜させて構築してもよい。
【0024】
さらに、図1では図示を省略しているが、ボーリング孔H内には孔壁保護用のパイプ材を設置し、パイプ材の内方に地中変位計10を設置している。パイプ材は、地圧により断面が変形しない材料であれば、いずれの管材を採用してもよく、また、地山の状態によっては必ずしも設けなくてもよい。
【0025】
≪≪地中変位計≫≫
図1及び図2で示すように、地中変位計10は、複数の長尺部材1と、ジョイント部材2と、セントラライザー6と、計測部7とを備える。計測部7がジョイント部材2に設けられているため、ジョイント部材2の配置位置がそれぞれ、地中変位計10における計測地点Pとなる。
【0026】
≪長尺部材≫
長尺部材1は、例えばステンレス製の高い剛性を有する長尺パイプよりなり、その部材長は、計測地点Pを配置したい離間距離Lに応じて適宜設定される。本実施の形態では、計測地点Pの離間距離Lが1000mmとなるよう長尺部材1の部材長を調整している。この長尺部材1は複数を直列に配置されて、ジョイント部材2を介して連結される。
【0027】
≪ジョイント部材≫
ジョイント部材2は、図2の平面図で示すように、部材本体3と直交する2本の回転軸(鉛直軸4a及び水平軸4b)との組み合わせよりなる自在継手と、一対の継手スリーブ(水平回転スリーブ51及び鉛直回転スリーブ52)と、を備える。地中変位計10をボーリング孔H内に配置する際、2本の回転軸の一方を鉛直状に、また、他方を水平状に配置する。このため、ここでは2本の回転軸を、鉛直軸4a及び水平軸4bと称する。
【0028】
部材本体3は、図2の平面図及び図3(a)の側面図で示すように、長方体形状の支持部材31と、その両側各々に取り付けた鉛直軸用軸受け32a及び水平軸用軸受け32bと、により構成されている。鉛直軸用軸受け32aには鉛直軸4aが回転自在に設置されている。また、水平軸用軸受け32bには水平軸4bが回転自在に設置されている。これにより、部材本体3と、鉛直軸4a及び水平軸4bの組み合わせは、直交する2本の回転軸を備える自在継手として機能する。
【0029】
そして、鉛直軸4aに水平回転スリーブ51の一端が固定され、水平軸4bに鉛直回転スリーブ52の一端が固定されている。これにより、水平回転スリーブ51は、鉛直軸4aを回転軸にして水平方向に揺動し、鉛直回転スリーブ52は、水平軸4bを回転軸にして鉛直方向に揺動する。このように挙動する水平回転スリーブ51の他端及び鉛直回転スリーブ52の他端の各々に、ジョイント部材2を挟んで隣り合う長尺部材1がそれぞれ接続される。
【0030】
これらジョイント部材2を構成する水平回転スリーブ51及び鉛直回転スリーブ52は、各々の軸心が同一線上に位置するよう配置される。したがって、ジョイント部材2を挟んで隣り合う長尺部材1も、その軸心がジョイント部材2の軸心と同一線上に配置されることとなる。
【0031】
上記の構成を有するジョイント部材2は、自在継手としての機能が失われることの無い態様で、防水材として機能する保護部材21によって被覆されている。保護部材21の形状や素材、取付方法はいずれでもよいが、その外径は、最小規格値(一般には径66mm)のボーリング孔Hに挿入・設置が可能な程度に成形するとよい。
【0032】
≪セントラライザー≫
セントラライザー6は、図1で示すように、ジョイント部材2を挟んだ両側に対をなして配置され、長尺部材1を包持するようにして設けられている。市場で取引されているいずれの金具を採用してもよいが、図2及び図3(b)では、ボーリング孔H内で地中変位計10を3点支持する形状のセントラライザー6を採用する場合を例示している。
【0033】
セントラライザー6は、図3(b)で示すように、長尺部材1を保持する保持具61と保持具61を囲うように設けられる支持台62と、支持台62に設置される支持棒材63と、を備えている。保持具61は、長尺部材1より内径の大きい角筒状の管材よりなる。支持台62は、帯状鋼板を折り曲げ形成した略三角筒状の金具であり、保持具61を内包可能な内部空間を有する。
【0034】
支持棒材63は、略三角筒状に形成された支持台62の各面に設置されており、1本の弾性棒材631と、2本の長さ調整棒材632とを備える。弾性棒材631は、バネ等の弾性部材を装備した長手方向に伸縮可能な棒材である。長さ調整棒材632は、ネジ等の長さ調整機能を備えた棒材である。これらはいずれも先端に、ボールキャスターが設置されている。なお、長さ調整棒材632は、2本に限定するものではなく、3本以上設けてもよい。
【0035】
このような構成のセントラライザー6は、地中変位計10の軸心がボーリング孔Hの軸心と合致するよう支持棒材63のうち2本の長さ調整棒材632の長さを調整する。こうして、セントラライザー6に備えた3本の支持棒材63の各々に設けたボールキャスターを孔壁に当接させながら、地中変位計10をボーリング孔Hに挿入・設置する。
【0036】
このとき、弾性棒材631は、収縮させた状態で鉛直上向きに配置し、2本の長さ調整棒材632は、地中変位計10を支持するように配置する。すると、ボーリング孔H内において、弾性棒材631は常時、鉛直上方の孔壁を押圧する。また、その反力で2本の長さ調整棒材632も、孔壁を押圧する態様となり、地中変位計10が孔壁に対して固定される。
【0037】
したがって、周辺地山に変形が生じた際にも地中変位計10はボーリング孔H内で位置ズレ等を生じることがなく、周辺地山の挙動に追従して隣り合う長尺部材1間の角度をジョイント部材2を介して変化させることが可能となる。
【0038】
こうして、ボーリング孔Hに地中変位計10を挿入・設置した後、図2及び図3(a)で示すように、ジョイント部材2に設けられている計測部7による計測を行うとともに、計測地点P各々の位置座標と、水平方向および鉛直方向の変位を算出する。計測は、トンネル構築予定領域Tの掘削を開始する前と、掘削開始後であって切羽位置が所定距離だけ進むごとに、計測地点P各々について行う。
【0039】
≪計測部≫
計測部7によって得られる計測値は、ジョイント部材2を介して連結される長尺部材1どうしが角度を持って隣り合う状態となった際の、角度(水平方向の角度及び鉛直方向の角度)である。このような事象は、トンネル構築予定領域Tを掘削することにより生じる周辺地山の変形に伴って、地中変位計10に外力が作用することにより生じるものである。
【0040】
計測部7は、図2及び図3(a)で示すように、2体のエンコーダ71、72と、マイコン73とを備えている。エンコーダ71、72には中空型を採用し、図4の断面図で示すように、他方のエンコーダ72は、水平軸4bを貫通して配置されている。一方のエンコーダ71も同様に、鉛直軸4aを貫通して配置され、また、2体のエンコーダ71、72各々のマイコン73は、部材本体3の支持部材31に固定されている。
【0041】
これにより、例えば図4で示すように、ジョイント部材2近傍に水平方向の外力が作用する。すると、長尺部材1に接続された水平回転スリーブ51が、鉛直軸用軸受け32aに回転自在に支持された鉛直軸4aとともに水平方向に回転する。この鉛直軸4aの回転を、図3(a)で示したエンコーダ71が検知して、電気信号をマイコン73に出力する。
【0042】
マイコン73は、エンコーダ71の出力値を処理し、回転数としてパソコンなどの端末装置に出力する。こうして出力された回転数から、図5で示すように、ジョイント部材2を介して隣り合う長尺部材1間の、水平方向の角度αxnを計測値として得ることができる。
【0043】
同様に、ジョイント部材2近傍に鉛直方向の外力が作用した際には、鉛直回転スリーブ52が、水平軸受け32bに対して回転自在に支持された水平軸4bとともに鉛直方向に回転する。すると、水平軸4bの回転をエンコーダ72が検知して、電気信号をマイコン73に出力する。
【0044】
マイコン73は、エンコーダ71の出力値を処理し、回転数としてパソコンなどの端末装置に出力する。こうして出力された回転数から、図6で示すように、ジョイント部材2を介して隣り合う長尺部材1間の、鉛直方向の角度αynを計測値として得ることができる。
【0045】
上記のとおり地中変位計10は、ジョイント部材2を構成する鉛直軸4aにエンコーダ71を接続し、水平軸4bにエンコーダ72を接続している。このため、長尺部材1に接続されている一対の継手スリーブ51、52が何れに回転しても、ジョイント部材2の配置位置である計測地点Pにおいて、水平方向の角度αxnと鉛直方向の角度αynの両者を、ともに計測することが可能となる。
【0046】
そして、計測値である水平方向の角度αxnと鉛直方向の角度αynから、計測地点P各々位置座標を算出することができる。また、これら位置座標の算出結果により、計測地点Pにおける地山の水平方向の変位uhおよび鉛直方向の変位uvの両者を、算出することが可能となる。
【0047】
≪≪≪地中変位算出方法≫≫≫
以下に、計測地点Pにおける位置座標および地中変位の算出方法を説明する。図5及び図6で示すように、X軸は水平方向(-方向はトンネル軸線Cに近づく方向)であり、Y軸は鉛直方向(-方向は鉛直下向き)である。そして、Z軸をトンネル軸線C方向(+方向は掘進方向)に設定する。
【0048】
≪計測地点Pにおける水平方向の位置座標(xi、zi)≫
複数の計測地点Pi(i=1~計測地点の数n)は、図5で示すように、地中変位計10の最も坑口側に位置する計測地点を計測地点P1とし、地中変位計10の先端に向けて昇順に配置されているものとする。図5では、事例として、計測地点Piを4点(i=1~4)示しており、計測地点Pi間の距離は、図1を参照して説明した離間距離Lである。
【0049】
そして、拡幅部Wに位置する掘削開始地点A近傍の計測補助地点Psの位置座標(x、z)の実測値を基準とし、坑口側に位置する計測地点P1から先端側に向けて順に位置座標を算定する。計測補助地点Psの位置座標(x、z)は、地中変位計10の最も坑口側に位置する坑口側長尺部材1aの坑口側端部であり、地中変位計10の起点(原点)となる地点である。
【0050】
まず、地中変位計10の設置後であってトンネル構築予定領域Tの掘削を開始する前の時点で、図5で示すように、計測補助地点Psの位置座標(x,z)と坑口側長尺部材1aのトンネル軸線Cに対する水平方向の角度αx0を実測する。
【0051】
併せて、各計測地点Piについて、計測部7より水平方向の角度αxiを計測する。なお、図5では、計測補助地点Psの位置座標(x,z)=(0,0)、及び角度αx0=πの場合を例示している。
【0052】
次に、各計測地点Piについて、トンネル軸線Cに対する水平方向の傾斜角βxiを、下記(1)式と計測値である角度αxiにより算出する。
【0053】
各計測地点Piにおける平面視の位置座標(x,z)を、先に実測した計測補助地点Psの位置座標(x,z)と(1)式で算出したβxiとに基づいて、(2)式より算出する。
【0054】
上記の(1)式及び(2)式による算定を、地中変位計10の坑口側に位置する計測地点P1から先端に向かって順に繰り返し、各々の位置座標(x,z)を算出する。
【0055】
上記と同様の手順を、トンネル構築予定領域Tの掘削開始後であって切羽位置が所定距離だけ進むごとに繰り返し実施する。なお、計測補助地点Psの位置座標(x,z)は、掘削作業が進むごとに変化することから、これらを実測する作業も、掘削開始前と同様に切羽位置が所定距離だけ進むごとに実施する。
【0056】
≪計測地点Pにおける鉛直方向の位置座標(y,z)≫
鉛直方向の計測地点Pにおける位置座標(y,z)も、水平方向の位置座標(x,z)と同様の手順で算出できる。つまり、地中変位計10の起点(原点)となる拡幅部Wに位置する掘削開始地点A近傍の計測補助地点Psの位置座標(y,z)の実測値を基準とし、坑口側に位置する計測地点P1から先端側に向けて順に位置座標を算定する。
【0057】
まず、地中変位計10の設置後であってトンネル構築予定領域Tの掘削を開始する前の時点で、図6で示すように、計測補助地点Psの位置座標(y,z)と坑口側長尺部材1aのトンネル軸線Cに対する鉛直方向の角度αy0を実測する。
【0058】
併せて、各計測地点Piについて、計測部7より鉛直方向の角度αyiを計測する。なお、図5では、計測補助地点Psの位置座標(y,z)=(0,0)、及び鉛直方向の角度αy0=πの場合を例示している。
【0059】
次に、各計測地点Piについて、トンネル軸線Cに対する鉛直方向の傾斜角βyiを、下記(3)式と計測値である角度αyiにより算出する。
【0060】
各計測地点Piにおける平面視の位置座標を、先に実測した計測補助地点Psの位置座標(y,z)と(1)式で算出したβyiとに基づいて、(4)式より算出する。
【0061】
≪≪≪地中変位測定方法:計測地点Pの水平方向の変位uの算出≫≫≫
計測地点Pi(i=1~計測地点の数n)各々について、掘削開始前の時点の位置座標(初期座標)と、掘削が所定距離だけ進んだ時点各々における位置座標との差を算出し、掘削が所定距離だけ進んだ時点各々における、水平方向の変位uを算出する。
【0062】
水平方向の変位uは、図5で示すようなx-z平面内のx方向変位uおよびz方向変位uから成るベクトル(u,u)である。先に算出した掘削開始前における計測地点Pi各々の平面視における位置座標を、初期座標として下記(5)式の(xi0,zi0)に代入し、各計測地点Piの変位uhiを算出する。
【0063】
≪≪≪地中変位測定方法:計測地点Pの鉛直方向の変位uの算出≫≫≫
同様の手順で、計測地点Pi(i=1~計測地点の数n)各々について、掘削開始前の時点の位置座標(初期座標)と、掘削が所定距離だけ進んだ時点各々における位置座標との差を算出し、掘削が所定距離だけ進んだ時点各々における、鉛直方向の変位uを算出する。
【0064】
鉛直方向の変位uは、図6で示すようなy-z平面内の、y方向変位uおよびz方向変位uから成るベクトル(u、u)である。先に算出した掘削開始前における計測地点Pi各々の平面視における位置座標を、初期座標として下記(6)式の(yi0,zi0)に代入し、各計測地点Piの変位uviを算出する。
【0065】
なお、拡幅部Wの計測補助地点Psの水平方向の変位u、鉛直方向のuについても、計測地点Piと同様に上記の(5)式および(6)式により算定できる。この場合には、先行して実測した掘削開始前における計測補助地点Psの位置座標を初期座標として(5)式の(xi0,zi0)、および(6)式の(yi0,zi0)に代入すればよい。
【0066】
上記の地中変位計10によれば、ジョイント部材2に備えた自在継手をなす鉛直軸4a、水平軸4b各々にエンコーダ71、72を接続する。このような簡略な構成で、多大な手間を要することなく、複数の計測地点Pi各々で、トンネル掘削に伴い切羽前方の地山に生じる水平方向の変位u及び鉛直方向の変位uの両者を算定することが可能となる。なお、実際に管理する値は、算出した水平方向の変位uおよび鉛直方向の変位uを各方向成分に分解したu、u、uである。
【0067】
また、地中変位算定方法で水平方向の変位u及び鉛直方向の変位uを算出するにあたり、エンコーダ71、72の回転数から、隣り合う長尺部材1間の水平方向の角度αxi、及び鉛直方向の角度αyiを計測値として取得することができる。これにより、ひずみゲージなどを利用して計測値を取得する場合に必要であった、事前のキャリブレーションを省略でき、計測作業の効率化を図ることが可能となる。また、回転数の大小にかかわらず、安定した高い精度でこれら角度αxi、角度αyiを算出することが可能となる。
【0068】
さらに、図1で示すように、計測地点Piの離間距離Lをなすジョイント部材2と長尺部材1の組み合わせを1つのユニットとして製作しておけば、このユニットを継ぎ足すことにより、地中変位計10の長さを自在調整することも可能となる。
【0069】
また、変位計により先行変位を含めた全変位を把握することができるため、この全変位と、いわゆる限界ひずみ法などで知られている地山ごとに推定する限界ひずみとの対比により。地山の塑性化を評価できる。
【0070】
本発明の変位計及び地中変位算定方法は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0071】
例えば、本実施の形態では、図2及び図3(a)で示すように、計測部7を取り付けるジョイント部材2に、部材本体3と鉛直軸4a及び水平軸4bとの組み合わせよりなる自在継手を採用した。しかし、これに限定するものではなく、市場で一般に取引されている自在継手を採用してもよい。以下に、カルダンジョイントを採用した場合の事例を示す。
【0072】
≪ジョイント部材の他の事例≫
ジョイント部材2は、図7図9で示すように、カルダンジョイント8と一対の継手ボックス53、54を備えている。
【0073】
一対の継手ボックス53、54は、図9で示すように、カルダンジョイント8が備える十字軸の一方の軸81、及び他方の軸82にそれぞれ設置されている。一方の軸81には、図7(a)の平面図で示すように、一方の継手ボックス53の一端が接続され、他端にジョイント部材2を挟んで隣り合う長尺部材1の一方が接続されている。
【0074】
他方の軸82には、図7(b)の側面図で示すように、他方の継手ボックス54の一端が接続され、。他端にジョイント部材2を挟んで隣り合う長尺部材1の他方が接続されている。これら長尺部材1にはそれぞれ、図3(b)を参照して説明したセントラライザー6が設置されている。そして、一対の継手ボックス53、54に計測部7が収納されている。
【0075】
計測部7は、図8の断面図で示すように、エンコーダ71、72及びマイコン73と、回転伝達機構74を備えている。エンコーダ71、72には、シャフト型を採用している。エンコーダ71は、固定治具531を介して、一方の継手ボックス53内に配置されている。また、マイコン73も一方の継手ボックス53内に設置されている。
【0076】
なお、図示を省略しているが、エンコーダ72も、固定治具531と同様の固定治具を介して、他方の継手ボックス54内に配置されている。また、エンコーダ72のマイコン73は、図8で示すように、他方の継手ボックス54内に設置されている。
【0077】
回転伝達機構74は、タイミングベルト743と一対のプーリ741、742を備える。一方のプーリ741は一方の軸81に固定され、他方のプーリ742はエンコーダ71のシャフトに設置されている。これら一対のプーリ741、742にタイミングベルト743が掛け回されることで、一方の軸81の回転・揺動が、エンコーダ71に伝達される。
【0078】
上記の回転伝達機構74は、他方の継手ボックス54にも設けられている。つまり、図9で示すように、一方のプーリ741が他方の軸82に固定され、他方のプーリ742がエンコーダ72(図示せず)のシャフトに固定されている。これら一対のプーリ741、742にタイミングベルト743が掛け回されることで、他方の軸82の回転・揺動が、エンコーダ72に伝達される。
【0079】
このような構成を備えるジョイント部材2を備える地中変位計10をボーリング孔H内に設置する際に、例えば図7で示すように、一方の軸81を水平状に配置して水平軸とし、他方の軸82を鉛直状に配置して鉛直軸とする。これにより、長尺部材1を介してジョイント部材2に水平方向及び鉛直方向の外力が作用すると、図9で示すように、一対の継手ボックス53、54が一方の軸81及び他方の軸82とともに回転する。
【0080】
すると、回転伝達機構74を介して一方の軸81及び他方の軸82に接続されたエンコーダ71、72各々が、この回転を検知して電気信号を出力する。マイコン73は、エンコーダ71、72の出力値を処理し、回転数としてパソコンなどの端末装置に出力する。こうして出力された回転数から、図5及び図6で示すように、ジョイント部材2を介して隣り合う長尺部材1間の、水平方向の角度αxn及び鉛直方向の角度αynを計測値として得ることができる。
【符号の説明】
【0081】
10 地中変位計(変位計)
1 長尺部材
1a 坑口側長尺部材
2 ジョイント部材
3 部材本体
31 支持部材
32a 鉛直軸用軸受け
32b 水平軸用軸受け
4a 鉛直軸(回転軸)
4b 水平軸(回転軸)
51 水平回転スリーブ(継手スリーブ)
52 鉛直回転スリーブ(継手スリーブ)
53 継手ボックス
531 固定治具
54 継手ボックス
6 セントラライザー
61 保持具
62 支持台
63 支持棒材
631 弾性棒材
632 長さ調整棒材
7 計測部
71 エンコーダ
72 エンコーダ
73 マイコン
74 回転伝達機構
741 プーリ
742 プーリ
743 タイミングベルト
8 カルダンジョイント
81 一方の軸(回転軸)
82 他方の軸(回転軸)
H ボーリング孔
T トンネル構築予定領域
W 拡幅部
A 掘削開始地点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9