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特開2024-87541スピニング加工装置、突起状の円環部を有する物品の製造方法
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  • 特開-スピニング加工装置、突起状の円環部を有する物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087541
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】スピニング加工装置、突起状の円環部を有する物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/16 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
B21D22/16 B
B21D22/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202423
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 孝二
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137BA01
4E137BA02
4E137BA04
4E137BA05
4E137BA07
4E137BB01
4E137CA06
4E137EA18
4E137GA12
4E137HA09
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置において、円環部の変形の発生を抑制し、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を形成するスピニング加工装置、及び、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を有する物品を製造する製造方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置であって、支持軸の方向に材料を押圧する第1加工部を備え、前記第1加工部は、前記材料を前記支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする、スピニング加工装置を提供する。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置であって、
支持軸の方向に材料を押圧する第1加工部を備え、
前記第1加工部は、前記材料を前記支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする、スピニング加工装置。
【請求項2】
前記第1加工面は、前記支持軸の軸方向に対して略平行であることを特徴とする、請求項1に記載のスピニング加工装置。
【請求項3】
前記第2加工面は、前記支持軸から離間するように傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載のスピニング加工装置。
【請求項4】
前記第1加工面により肉寄せされた材料を前記支持軸の軸方向に圧延することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のスピニング加工装置。
【請求項5】
前記支持軸に沿って移動することにより、前記第1加工面により肉寄せされた材料を前記支持軸の軸方向に圧延する第2加工部を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のスピニング加工装置。
【請求項6】
第1加工部により支持軸の方向に材料を肉寄せする第1加工ステップと、
前記第1加工ステップにより肉寄せされた材料を前記支持軸の軸方向に圧延する第2加工ステップを備え、
前記第1加工部は、前記材料を前記支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする、突起状の円環部を有する物品の製造方法。
【請求項7】
材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置用の加工ローラーであって、
材料を支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする、加工ローラー。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の一部を塑性変形させることで突起状の円環を形成するスピニング加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の一部を加工ローラーによって加圧し塑性変形させ、支持軸(いわゆる心金)の周囲に突起状の円環部(いわゆるボス部)を形成するスピニング加工装置が知られている。
例えば、特許文献1には、回転する台座に乗せられた円盤状の材料に対して加工ローラーを押し当てることで、ボス部を形成する塑性加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-334335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された塑性加工方法は、突起状の円環部を形成する際、加工ローラーと支持軸で材料を挟むように押圧することにより、加工ローラーと支持軸の間に突起状の円環部を形成している。しかし、特許文献1に記載された塑性加工方法では、突起状の円環部の内径部が心金に当たらないため内径の精度が一定に保持できないという問題がある。
【0005】
ここで、従来のスピニング加工装置の動作について以下に説明する。図5(a)、(b)には、従来のスピニング加工装置Dが示されており、図5(a)はスピニング加工前を示し、図5(b)はスピニング加工後を示している。
図5(a)に示すように、回転する材料M1に対して、回転する加工ローラー状の加工部K1を押し当てつつ、金型である支持軸Sに向けて加工部K1を移動する(図中矢印)。これにより、材料M1の一部が支持軸S方向へ流動する。なお、材料の一部が流動する操作のことを「肉寄せ」ともいう。
【0006】
図5(b)に示すように、肉寄せされた材料M1の一部は、加工部K1の加工面K11に沿って起き上がるとともに、支持軸Sに押圧されて円環部M2及び開口部Oを成形する。この時、加工面K11の軸方向の長さr1が大きい場合には、加工面K11が支持軸Sに対して均等に押圧されないことがあり、円環部の内径側が支持軸Sの外径に密着されていない箇所が生じることがある。
【0007】
本発明の課題は、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置において、円環部の変形の発生を抑制し、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を形成するスピニング加工装置、及び、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を有する物品を製造する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、材料を肉寄せして突起状の円環部を形成するスピニング加工装置において、加工ローラーにより材料を成形する際に、加工ローラーの押圧面で押圧して突起状の円環部を成形するのではなく、支持軸に沿って圧延して突起状の円環部を成形することに着想した。そして、材料を押圧する加工ローラーの形状を、材料を支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、第1加工面により肉寄せされた材料の一部を支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有する形状とすることにより、第2加工面側に誘導された材料を支持軸に沿って成形することができることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のスピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品の製造方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工装置は、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置であって、支持軸の方向に材料を押圧する第1加工部を備え、前記第1加工部は、前記材料を前記支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする。
このスピニング加工装置によれば、材料を押圧する第1加工部の形状が、材料を支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、第1加工面により肉寄せされた材料の一部を支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有する形状であるため、第1加工部は、第2加工面により材料を支持軸から遠ざける方向に誘導しつつ肉寄せをすることが可能となる。次いで、誘導された材料を支持軸に沿って成形することにより、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を形成することができる。
さらに、このスピニング加工装置によれば、加工ローラーと支持軸の間に突起状の円環部を成形する従来のスピニング加工装置と比較して、加工ローラーに掛ける加工力が小さくなるため、動力機械のスペックを下げることが可能となり、機械コストを低下することができる。
【0010】
更に、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、第1加工面は、支持軸の軸方向に対して略平行であることを特徴とする。
このスピニング加工装置によれば、第1加工部における第1加工面が支持軸の軸方向に対して略平行であるため、第1加工面により材料を肉寄せすると同時に、第1加工面で材料の一部を支持軸に沿って成形することができる。これにより、高品質な突起状の円環部を有する物品を簡潔に製造することができる。
【0011】
更に、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、第2加工面は、前記支持軸から離間するように傾斜していることを特徴とする。
このスピニング加工装置によれば、第1加工部における第2加工面は、支持軸の軸方向に対して、外方向に離間するように傾斜しているため、肉寄せされた材料の一部を支持軸から遠ざける方向に適切に誘導させることが可能となる。
【0012】
更に、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、第1加工面により肉寄せされた材料を支持軸の軸方向に圧延することを特徴とする。
このスピニング加工装置によれば、第1加工面により肉寄せされた材料を支持軸の軸方向に圧延することで、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を有する物品を製造することができる。
【0013】
更に、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、支持軸に沿って移動することにより、第1加工面により肉寄せされた材料を支持軸の軸方向に圧延する第2加工部を備えることを特徴とする。
第1加工部は、材料表面に押し当てる際に、材料表面に対して垂直方向に1/100ミリ単位の微調整をしつつ、材料表面に沿って支持軸の方向に移動させる移動機構を有するものであり、第2加工部は、支持軸に肉寄せされた材料を押し当てて支持軸の軸方向に圧延するものであり、支持軸の方向に1/100ミリ単位の微調整をしつつ、支持軸に沿って移動させる移動機構を有するものである。2つの異なる処理を行う加工部を別部材とすることにより、駆動機構を簡素化することができる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の突起状の円環部を有する物品の製造方法は、第1加工部により支持軸の方向に材料を肉寄せする第1加工ステップと、前記第1加工ステップにより肉寄せされた材料を前記支持軸の軸方向に圧延する第2加工ステップを備え、前記第1加工部は、前記材料を前記支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする。
この突起状の円環部を有する物品の製造方法によれば、材料を押圧する第1加工部の形状が、材料を支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、第1加工面により肉寄せされた材料の一部を支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有する形状であるため、第1加工ステップでは、第2加工面により材料を支持軸から遠ざける方向に誘導しつつ肉寄せをすることが可能となる。次いで、第2加工ステップにより、誘導された材料を支持軸に沿って成形することで、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を形成することができる。
さらに、この突起状の円環部を有する物品の製造方法によれば、加工ローラーと支持軸の間に突起状の円環部を成形する従来のスピニング加工装置と比較して、加工ローラーに掛ける加工力が小さくなるため、動力機械のスペックを下げることが可能となり、機械コストを低下することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の加工ローラーは、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置用の加工ローラーであって、材料を支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とする。
この加工ローラーによれば、既設のスピニング加工装置の加工ローラーと交換することで、本発明のスピニング加工装置を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置において、円環部の変形の発生を抑制し、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を形成するスピニング加工装置、及び、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を有する物品を製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のスピニング加工装置により製造される物品を示す概略説明図(斜視図)である。(a)は、加工前の材料を示す概略説明図であり、(b)は、材料を加工後の突起状の円環部を有する物品を示す概略説明図である。
図2】本発明のスピニング加工装置により製造される物品を示す図1(a)(b)のV-V方向から見た概略説明図(側面図)である。
図3】本発明の第1の実施態様であるスピニング加工装置の動作を示す概略説明図(側面図)である。
図4】本発明の第2の実施態様であるスピニング加工装置の動作を示す概略説明図(側面図)である。
図5】従来のスピニング加工装置の動作を示す概略説明図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るスピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品の製造方法の実施態様を詳細に説明する。また、本発明に係る突起状の円環部を有する物品の製造方法方法については、本発明に係るスピニング加工装置の動作に係る説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載するスピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品の製造方法については、本発明に係るスピニング加工装置、突起状の円環部を有する物品の製造方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明に係るスピニング加工装置は、材料を回転させながら加工具を押し当てることで、突起状の円環部を形成する塑性加工装置である。具体的には、平板状の材料を回転する台座の上に載置することで一定方向へ回転させ、加工ローラー等の加工具を材料の表面に押し当てて、材料の表面を支持軸(金型)に向かって肉寄せする。次いで、支持軸に向かって肉寄せされた材料の一部を支持軸に沿って流動させて、支持軸の形状に沿って成形するという装置である。
【0020】
本発明に係るスピニング加工装置は、図1(a)に示すような、円板状の材料M1の表面に、図1(b)に示すような、開口部Oを有する突起状の円環部M2を形成するものである。具体的な材料M1の移動の態様を図2に示す。図2(a)は、図1(a)のV-V方向から見た側面図であり、図2(b)は、図1(b)のV-V方向から見た側面図である。図2(b)に示すように、材料M1の表面に対して押圧し塑性変形させることで開口部Oを備える円環部M2を形成するものである。
【0021】
また、本発明に係るスピニング加工装置により製造される物品Pは、いわゆるボス部を有する物品であれば特に制限されないが、例えば、機械装置の軸受等が挙げられる。より具体的には、自動車のシートリクライニング機構における座面同士を連結する部分に用いられる軸受け等である。
【0022】
[第1の実施態様]
本発明に係るスピニング加工装置は、材料を肉寄せすることにより突起状の円環部を形成するスピニング加工装置であって、支持軸の方向に材料を押圧する第1加工部を備え、前記第1加工部は、前記材料を前記支持軸の方向に肉寄せする第1加工面と、前記第1加工面により肉寄せされた前記材料の一部を前記支持軸から遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴とするものである。
これにより、肉寄せされた材料の一部が支持軸から遠ざける方向に誘導されるため、第1加工面の支持軸方向の長さが短くなり、第1加工面が支持軸に対して均等に押圧することができる。また、第1加工面の支持軸方向の長さが短くなることにより、第1加工部に掛ける加工力が小さくなるため、動力機械のスペックを下げることが可能となり、機械コストを低下することができるという効果もある。
第2加工面により誘導された材料は、支持軸に沿って軸方向に圧延することで、支持軸の形状に沿って成形された高品質な突起状の円環部を形成することができる。
【0023】
以下、図3(a)、(b)を用いて第1の実施態様におけるスピニング加工装置100について詳細に説明する。
スピニング加工装置100は、支持軸Sと、第1加工部10を備え、被加工物である材料M1を支持軸Sとともに回転可能に設置する。また、第1加工部10は、材料M1を支持軸Sの方向に肉寄せする第1加工面11と、第1加工面により肉寄せされた材料M1の一部を支持軸Sから遠ざける方向に誘導する第2加工面12を備えている。
【0024】
「材料」
材料M1は、スピニング加工装置100により加工される被加工物であり、突起状の円環部M2を有する物品Pとなる素材である。材料M1は、図3(a)、(b)に示すように、回転する台座(非図示)に載置され一定の方向へ回転するものである。また、材料M1の中央には、支持軸Sが配置されている。
【0025】
材料M1の材質は、スピニング加工に適した材料であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、鉄、ステンレス、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、白金系合金、クラッド材、コバルト合金、インバー材、純チタン、チタン合金等が挙げられる。ここで好ましくは、ニッケル、クロム、マンガンなどを含んだ合金鋼が挙げられる。合金鋼を用いることで、靭性など機械的性質や熱処理性、耐食性などを向上させることができる。
【0026】
円環部M2は、スピニング加工装置100により材料M1の表面に突起するように形成された円筒状の構造である。円環部M2の大きさは、物品Pの仕様に応じて自由に変更される。
また、図3(b)に示すように円環部M2は中央部分に開口部Oを備えている。開口部Oは後述する支持軸Sの直径に等しい大きさの円柱状の開口部であり、その形状や大きさは金型となる支持軸Sの形状に依存するものである。
【0027】
「支持軸」
支持軸Sは、材料M1の表面に突起状の円環部M2を形成するための棒状の金型である。図3(a)、(b)に示すように、支持軸Sは、材料M1の中央に垂直に配置され、材料M1と同方向に回転する。
支持軸Sの形状は略円柱状であればよく、大きさは、物品Pの円環部M2の形状に合わせて適宜決定される。
【0028】
「第1加工部」
第1加工部10は、支持軸Sの方向に材料M1を押圧する部材である。図3(a)、(b)に示すように、第1加工部10は軸を中心に矢印方向に自由に回転可能な加工ローラーである。スピニング加工装置100における第1加工部10は、材料を支持軸Sの方向に肉寄せする第1加工面と、第1加工面により肉寄せされた材料M1の一部を支持軸Sから遠ざける方向に誘導する第2加工面と、を有することを特徴としている。
【0029】
(第1加工面)
第1加工面11は、材料M1の表面を支持軸Sに向けて肉寄せするものである。また、第1の実施態様のスピニング加工装置100において、第1加工面11は、第1加工部10を支持軸Sに沿って移動させることにより、第2加工面で誘導された材料M1を支持軸Sの形状に沿って圧延し、円環部M2を成形するものである。
【0030】
以下、第1加工面11の特徴的な形状について説明する。
図3(b)に示すように、支持軸Sの軸方向に平行に引いた仮想線L1と第1加工面11の面形状に沿って引いた仮想線L3を仮定する。この時L1とL3は平行であるため、第1加工面11は支持軸Sの軸方向に対して略平行である。これによれば、材料M1の一部を最適に支持軸に押圧することができるため、突起状の円環部M2を精度良く形成することができる。
【0031】
また、図3(b)に示すように、第1加工面11の下端を通過し材料M1の表面と平行な直線L4、第1加工面11の上端を通過し材料M1の表面と平行な直線L5、第2加工面12の上端を通過し材料M1の表面と平行な直線L6を仮定し、L4とL6の距離をR1、L4とL5の距離(第1加工面11の支持軸Sの軸方向の長さ)をR2とする。本発明の第1加工部10は、第1加工部10の加工面全体の大きさを表す距離R1よりも、第1加工面11の大きさを表す距離R2が小さいことを特徴とする。また、L5とL6の距離をR4とし、第1加工面11の軸方向の大きさを表す距離R2は、第2加工面12の大きさを表す距離R4より小さいことが好ましい。これにより、一つの加工面全体で塑性加工を行う従来のスピニング加工装置と比較して、小さな加工力で突起状の円環部を形成することができる。
【0032】
(第2加工面)
第2加工面12は、第1加工面11により肉寄せされた材料M1の一部を支持軸Sから遠ざかる方向へ誘導させることを目的とする部位である。なお、第2加工面により誘導された材料は、以下「逃げ部」ともいう。
【0033】
第2加工面12の形状は、特に制限されないが、支持軸から離間するように傾斜していることが好ましい。
図3(a)に示すように、支持軸Sの軸方向に平行に引いた仮想線L1と第2加工面12の面形状に沿った引いた仮想線L2を仮定すると、L1とL2は、角度θ1で交差している。つまり、第2加工面12は、角度θ1だけ支持軸S1から遠ざかる方向へ傾斜している。ここで、角度θ1は、好ましくは5度から30度であり、より好ましくは10度から20度である。第1加工面11により肉寄せされた材料M1の一部は、第2加工面12の傾斜に沿って支持軸Sから遠ざける方向に誘導されるため、角度θ1を上記範囲とすることにより、逃げ部M3を支持軸Sに沿って圧延するために適切な形状とすることができる。
【0034】
(逃げ部)
図3(a)に示すように、逃げ部M3は、第1加工面11により肉寄せされた材料M1の内、第2加工面12の傾斜に沿って支持軸Sに対して遠ざかる方向へ誘導された部分である。逃げ部M3の形状は、第2加工面12の傾斜により決定されるものであり、例えば、先端部分が支持軸Sから離間するように拡径する截頭円錐柱である。逃げ部M3がこの形状であることにより、第1加工面が支持軸Sに沿って圧延する動作であるいわゆるしごき動作を容易にすることができる。また、支持軸Sの形状に沿った精度の高い円環部M2及び開口部Oを形成するができる。
【0035】
「スピニング加工装置100の動作」
次にスピニング加工装置100の動作について、図3(a)、(b)を用いて説明する。本発明のスピニング加工装置100は、第1加工部により支持軸の方向に材料を肉寄せする第1加工ステップと、第1加工ステップにより肉寄せされた材料を支持軸の軸方向に圧延する第2加工ステップを備えることを特徴とする。
【0036】
(第1加工ステップ)
図3(a)に示すように、黒線矢印方向に回転可能な加工ローラー状の第1加工部10が、中央に配置された支持軸Sとともに回転する材料M1の表面を押圧しつつ、材料M1の周囲から支持軸Sの方向(白抜き矢印方向)に移動する。これにより、第1加工部10の第1加工面11が、材料M1の表面の素材を支持軸Sに方向へ流動させ、材料M1の一部を肉寄せすることができる。この時、肉寄せされた材料M1の一部は、第2加工面12の形状に沿って支持軸Sから遠ざかる方向へ誘導され、逃げ部M3を形成する。
【0037】
(第2加工ステップ)
次に、図3(b)に示すように、第1加工部10が支持軸Sの軸方向(白抜き矢印方向に)に移動する。これにより、第1加工面11が逃げ部M3を支持軸Sの軸方向に沿って圧延する加工、いわゆるしごき加工を行う。この一連の動作により、支持軸の形状に沿った精度の高い高品質な突起状の円環部を形成するスピニング加工装置及び支持軸の形状に沿った精度の高い高品質な突起状の円環部を有する物品を製造することができる。また、第1加工ステップ(肉寄せ加工)及び第2加工ステップ(しごき加工)を、面積の小さな第1加工面11で行うことによりエネルギー効率の良い、スピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品の製造方法を提供することができる。
【0038】
[第2の実施態様]
図4(a)、(b)は、本発明に係る第2の実施態様におけるスピニング加工装置200を示す概略側面図である。
第2の実施態様におけるスピニング加工装置200は、第1の実施態様におけるスピニング加工装置100と比較して、第1加工ステップ(肉寄せ加工)を第1加工部10で行った後、第2加工ステップ(しごき加工)を第1加工部10とは別の第2加工部20が行うことを特徴とするものである。
なお、第1加工部10、第1加工面11、第2加工面12、材料M1、円環部M2、逃げ部M3、支持軸S、開口部O、第1加工ステップ(肉寄せ加工)は第1の実施態様におけるスピニング加工装置100と同一のため説明を省略する。
【0039】
「第2加工部」
図4(b)に示すように、第2加工部20は軸を中心に矢印方向に自由に回転可能な加工ローラーであり、肉寄せ加工において第1加工部10により形成された逃げ部M3を支持軸Sの軸方向に沿って圧延するしごき加工のみを行うものである。第2加工部20は、逃げ部M3を押圧する第3加工面21を備えている。
【0040】
(第3加工面)
第3加工面21は、逃げ部M3を支持軸S1の軸方向平行に押圧することで、支持軸S1の形状に沿った円環部M2を形成する部位である。第3加工面21は、拡大図に示すようにR形状となっている。R形状とすることにより、支持軸に沿って逃げ部M3を圧延する際に、第3加工面21の押圧力が材料に均等に与えられるため、円環部M2の外周面が平滑になり、優れた外観のボス部を形成することができる。
【0041】
(非接触面)
非接触面22は、第2加工部20の一部であり、逃げ部M3に接触しないように形成された形状を有するものである(図4(b)斜線で示す部分)。なお、本発明のスピニング加工装置200において、非接触面22は必須の形状ではないが、非接触面22を設けることにより、第2加工部20における材料M1と接触する部位が第3加工面21のみとなり、加工力が小さくなるという効果を有する。
【0042】
以下、非接触面22の特徴的な形状について説明する。
ここで、図4(b)に示すように、支持軸Sの軸方向に平行に引いた仮想線L1と非接触面22の面形状に沿って引いた仮想線L8を仮定する。この時L1とL8は角度θ2で交差している。つまり、非接触面22は、角度θ2だけ支持軸S1から遠ざかる方向へ傾斜している。ここで、角度θ2は、第2加工面12における角度θ1(図4(a)参照。)よりも大きいことを特徴とするものである。これにより、肉寄せ工程において第2加工面12により形成された逃げ部M3に第3加工面21のみを接触させることが可能となる。
【0043】
「スピニング加工装置200の動作」
(第2加工ステップ)
第1の実施態様におけるスピニング加工装置100と同様に、第1加工部10により第1加工ステップ(肉寄せ加工)が行われた後、図4(b)に示すように、第1加工部10に代えて第2加工部20で材料M1を押圧し、第2加工部20を支持軸Sの軸方向(白抜き矢印方向)に移動する。これにより、第3加工面21が逃げ部M3を支持軸Sの軸方向に沿って圧延するしごき加工を行う。第1加工ステップ及び第2加工ステップをそれぞれ第1加工部10及び第2加工部20で加工することにより、各加工ステップに適した形状の加工面を使用できることや、各加工ステップに適した加工部の駆動制御を実現することなどの利点がある。これにより、表面形状が平滑で優れた外観の物品を得ることができる。
【0044】
なお、上述した実施態様は、スピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品を製造する製造方法の一例を示すものである。本発明に係る制振装置及び突起状の円環部を有する物品を製造する製造方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係るスピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品の製造方法を変形してもよい。
例えば、円柱形状の外周に軸方向のスプラインを有する支持軸Sを用いてもよい。これにより、突起状の円環部M2の内周に軸方向のスプラインのあるものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るスピニング加工装置及び突起状の円環部を有する物品を製造する製造方法は、自動車のシートリクライニング機構における座面同士を連結する部分に用いられる軸受けに代表される、各種回転機構の軸受け部品の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
100,200,D…スピニング加工装置、10,20,K1…加工部、11,12,21,K11…加工面、22…非接触面、M1…材料、M2…円環部、M3…逃げ部、S…支持軸、L1~L8…直線、R1~R4…距離、θ1,θ2…角度、O…開口部


図1
図2
図3
図4
図5