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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087544
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】炭酸刺激増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240624BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240624BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240624BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20240624BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240624BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 8/33 20060101ALI20240624BHJP
   C12C 5/02 20060101ALN20240624BHJP
   C12G 3/04 20190101ALN20240624BHJP
   C12G 1/06 20190101ALN20240624BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L2/52
A23L2/00 T
A23L2/00 B
A23L29/00
A23L2/38 A
A61K47/08
A61K8/33
C12C5/02
C12G3/04
C12G1/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202426
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小畑 雄司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 麻紀子
(72)【発明者】
【氏名】力武 茉莉花
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
4B115
4B117
4B128
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LC03
4B035LC05
4B035LC16
4B035LE03
4B035LE20
4B035LG01
4B035LG04
4B035LG49
4B035LK02
4B035LK19
4B035LP21
4B035LP22
4B047LB08
4B047LE01
4B047LF07
4B047LF09
4B047LF10
4B047LG05
4B047LP01
4B047LP20
4B115LG02
4B115LH01
4B115LH11
4B117LC02
4B117LC03
4B117LC14
4B117LC15
4B117LE10
4B117LG24
4B117LK04
4B117LK06
4B117LK08
4B117LK11
4B117LK30
4B117LL01
4B117LL09
4B117LP01
4B117LP14
4B117LP16
4B117LP18
4B128CP16
4C076AA12
4C076BB01
4C076DD40
4C076DD40T
4C076FF11
4C076FF52
4C083AC211
4C083AC212
4C083CC41
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE06
(57)【要約】
【課題】炭酸刺激増強剤を提供すること。
【解決手段】3-p-メンテン-7-アールからなる炭酸刺激増強剤、3-p-メンテン-7-アールを有効成分として含有する炭酸刺激増強組成物、炭酸刺激増強剤または炭酸刺激増強組成物を消費財に添加することを含む消費財の炭酸刺激増強方法を提供し、好ましくは炭酸刺激増強剤または炭酸刺激増強組成物を3-p-メンテン-7-アールが0.1ppt~1ppbの濃度となるように消費財に添加し、消費財は炭酸飲料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-p-メンテン-7-アールからなる炭酸刺激増強剤。
【請求項2】
3-p-メンテン-7-アールを有効成分として含有する炭酸刺激増強組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の炭酸刺激増強剤または請求項2に記載の炭酸刺激増強組成物を消費財に添加する工程を含む、消費財の炭酸刺激増強方法。
【請求項4】
請求項3に記載の消費財の炭酸刺激増強方法において、
前記工程では、前記消費財の全質量を基準として、3-p-メンテン-7-アールの濃度が0.1ppt~1ppbの範囲となるように前記炭酸刺激増強剤または前記炭酸刺激増強組成物を消費財に添加する、消費財の炭酸刺激増強方法。
【請求項5】
前記消費財が炭酸飲料である、請求項3に記載の炭酸刺激増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸刺激増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料は飲料市場で古くから存在し、世界中の人々の日々の生活に潤いを与え、長年にわたり愛飲されている。特に、夏の暑い時期や運動の後の汗をかいたときなどにおいて、炭酸飲料は、水分補給、糖分補給の目的だけでなく、その喫食時に口腔内や喉で感じられる独特の清涼感を醸し出すシュワシュワっとした刺激を伴う感覚が非常に好まれている。
【0003】
炭酸飲料は、この独特のシュワシュワッとした刺激を伴う感覚(本明細書では炭酸刺激感という。)を有することが他の清涼飲料にはない特徴であり、その嗜好性に影響を及ぼしている。
【0004】
しかしながら、殺菌条件によって充填時のガス圧を低めに抑えなければならない場合や、保管時の容器のガス透過性によるガス圧の低下、また、開栓時の炭酸ガスの急速な脱気などにより、炭酸飲料に必要な「炭酸刺激感」を十分に保てないという問題があった。
【0005】
炭酸飲料についてはこれまでに、炭酸飲料中にDE6~30の澱粉分解物を0.5~5質量%添加することにより、刺激性、クリーミー性、コク味などの味質を改善した炭酸飲料の製造法(特許文献1)、果汁等の植物成分を多く含む処方に対し、炭酸ガス圧を比較的高めに設定し、さらに、高甘味度甘味料を特定の割合で配合し、植物成分に由来する豊かな味わいと炭酸ガスによる爽快な刺激を備えた炭酸飲料(特許文献2)、スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物若しくは植物精油を、炭酸飲料に添加することにより、炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法(特許文献3)、センブリ抽出物、ジンジャー抽出物類およびラムエーテルから選択された2種以上からなる成分を炭酸飲料に添加することにより、きめの細かい微細な発泡感を増加させ、商品の嗜好性を高める方法(特許文献4)、ヒドロキシ酸エステル類を添加することにより、炭酸飲料の炭酸刺激を増強する方法(特許文献5)、δ-ラクトンを添加することにより、飲用時の泡をよりクリーミーに感じさせることができる方法(特許文献6)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-330735号公報
【特許文献2】再公表2002/067702号公報
【特許文献3】特開2006-166870号公報
【特許文献4】特開2005-13167号公報
【特許文献5】特開2013-94129号公報
【特許文献6】特開2012-50396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、辛味成分を単独で炭酸飲料に添加する方法では、炭酸刺激感の増強とともに辛味も付与してしまう。また、他の方法では炭酸刺激感の増強よりも、泡のコク感やクリーミー感が増強される結果となり、爽快で充分な炭酸刺激感の増強効果が得られなかった。
【0008】
本発明の課題は、炭酸刺激感を増強可能な炭酸刺激増強剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、3-p-メンテン-7-アールが炭酸刺激の増強に有用なことを見出した。
【0010】
かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
[1] 3-p-メンテン-7-アールからなる炭酸刺激増強剤。
[2] 3-p-メンテン-7-アールを有効成分として含有する炭酸刺激増強組成物。
[3] [1]に記載の炭酸刺激増強剤または[2]に記載の炭酸刺激増強組成物を消費財に添加する工程を含む、消費財の炭酸刺激増強方法。
[4] [3]に記載の消費財の炭酸刺激増強方法において、前記工程では、前記消費財の全質量を基準として、3-p-メンテン-7-アールの濃度が0.1ppt~1ppbの範囲となるように前記炭酸刺激増強剤または前記炭酸刺激増強組成物を消費財に添加する、消費財の炭酸刺激増強方法。
[5] 前記消費財が炭酸飲料である、[3]に記載の炭酸刺激増強方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、炭酸刺激感を増強可能な炭酸刺激増強剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度(ppt、ppb、ppmなど)、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表し、濃度とは特に断りのない限り最終濃度とする。
【0013】
[炭酸刺激増強剤]
本発明の一実施の形態に係る炭酸刺激増強剤(本明細書では本件炭酸刺激増強剤ということもある)は、下記式(1)で表される3-p-メンテン-7-アール(3-p-menthen-7-al、別名:4-(propan-2-yl)cyclohex-3-ene-1-carbaldehyde、CAS番号:27841-22-1)からなる。
【0014】
【化1】
3-p-メンテン-7-アールは、当業者によってなし得る任意の方法、例えば、食品用香料化合物または試薬として購入するか、天然物から抽出するか、定法(一例として特公平4-76660号公報に記載の方法)に従い合成することができる。
【0015】
3-p-メンテン-7-アール(本明細書では「本件化合物」ということもある)は、クミンシードやキウィフルーツに含まれる成分の一つとして同定されている化合物であり、柑橘様香味増強剤の有効成分として使用可能である(特許第6348555号)ことが知られているが、炭酸ガスによる好ましい炭酸刺激感を増強できることは知られていなかった。
【0016】
本件炭酸刺激増強剤は、後述の実施例にその一例を示すように、炭酸刺激を感じさせる飲食品や口腔用組成物などの各種消費財に添加してその炭酸刺激感を増強するものである。例えば、充填時のガス圧を低めに抑えなければならない場合や、保管時の容器のガス透過性によるガス圧の低下、また、開栓時の炭酸ガスの急速な脱気時にも炭酸刺激感の低下が抑えられ、炭酸飲料の嗜好性が開栓後も十分に維持される。なお、本明細書において、炭酸刺激感の増強を「炭酸刺激増強」ということがある。
【0017】
本件炭酸刺激増強剤は、本件化合物のみからなるが、当業者が有する通常の知識に基づいて実質的に本件化合物のみからなればよく、例えば、本件化合物を試薬として購入した際に残存する不純物を含むことは炭酸刺激増強に影響のない限り問題ない。
【0018】
本件炭酸刺激増強剤を添加した各種消費財中の本件化合物の濃度は、消費財の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定でき、例えば、0.1ppt~1ppbの範囲が例示でき、好ましくは1ppt~100pptで範囲である。
【0019】
[炭酸刺激増強組成物]
本発明の一実施の形態に係る炭酸刺激増強組成物は、下記式(1)で表される3-p-メンテン-7-アール(以下「本件化合物」という場合がある。)を有効成分として含有する。
【0020】
【化2】
【0021】
本件炭酸刺激増強組成物は、後述の実施例にその一例を示すように、炭酸刺激を感じさせる飲食品や口腔用組成物などの各種消費財に添加してその炭酸刺激感を増強するものである。例えば、充填時のガス圧を低めに抑えなければならない場合や、保管時の容器のガス透過性によるガス圧の低下、また、開栓時の炭酸ガスの急速な脱気による炭酸刺激感の低下時にも炭酸刺激の低下が抑えられ、炭酸飲料に本来求められる止渇飲料としての機能や嗜好性が開栓後も十分に維持される。
【0022】
本件炭酸刺激増強組成物は、本件化合物のみで構成してもよいし、本件化合物を有効成分として所定量含んでいればそれ以外の成分を含んでいてもよい。すなわち、前述した当業者によってなし得る任意の方法、例えば、食品用香料化合物または試薬として購入するか、天然物から抽出するか、定法に従い合成することにより入手した本件化合物(溶媒などの他の成分を含んでいてもよい)を、そのまま本件炭酸刺激増強組成物として使用するか、溶媒または他の炭酸刺激増強組成物に添加して炭酸刺激増強組成物として使用することができる。また、本件炭酸刺激増強組成物が本件化合物以外の成分として溶媒(または分散媒)および/または他の香気成分を含む場合、本件炭酸刺激増強組成物自体を香料組成物として使用することもできる。
【0023】
本件炭酸刺激増強組成物中の本件化合物の濃度の例として、特に本件炭酸刺激増強組成物が本件化合物およびその溶媒または分散媒以外に香味付与可能な成分を含む場合には、当該炭酸刺激増強組成物中の本件化合物の濃度は、上述したように本件炭酸刺激増強組成物の添加対象や香気特性に応じて任意に決定でき、炭酸刺激感を増強できる濃度で添加可能なように適当な濃度にすればよい。例えば、本件炭酸刺激増強組成物の全体質量に対して、100ppt~1%、好ましくは1ppb~0.1%、より好ましくは10ppb~100ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%のいずれかとし、上限値を1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppbのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、本件炭酸刺激増強組成物の処方および添加対象の各種消費財の香味などにも依存するが、本件炭酸刺激増強組成物の本件化合物の濃度を100ppt~1%とすると、本件化合物由来の香りが過度に突出することなく炭酸刺激感の増強効果が得られる。本件炭酸刺激増強組成物やその添加対象の香調などによっては、本件化合物を100ppt~1%の範囲外の濃度で添加してもよい。
【0024】
本件炭酸刺激増強組成物において、本件化合物に加えてさらに含有し得る、すなわち本件化合物と併用し得る任意の他の成分の具体例として、各種類の香料化合物、香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、動植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0025】
そのような化合物または成分の例として、各種の合成香料、天然香料、天然精油、柑橘油、植物エキスなどを挙げることができ、例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料,88-131頁,平成12年1月14日発行」に記載されている天然精油、柑橘精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0026】
本件炭酸刺激増強組成物は、上述した通り、本件化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に添加して調製することができ、本件炭酸刺激増強組成物の形態としては、本件化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。使用する溶媒や分散媒の種類に特に制限はないが、例えば以下に挙げるものを使用することができる。
【0027】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレートなどを例示することができる。これらのうち、飲食品へ使用する場合には、エタノールまたはプロピレングリコールが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、ハーコリン、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0028】
また、乳化製剤とするためには、本件化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。本件化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、本件化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を添加することができる。
【0029】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜添加することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0030】
[炭酸刺激増強組成物の製造方法]
本発明の一実施の形態に係る炭酸刺激増強組成物の製造方法は、本件化合物を各種消費財に添加可能な任意の組成物に添加することを含む。各種消費財に添加可能な組成物の例としては、飲食品、香粧品、保健衛生品に添加することが可能な溶剤、抗酸化剤、色素、およびその他添加物から選択される1種以上を含む組成物が例示でき、代表的には香料組成物などの香味付与組成物が例示できる。さらに、本発明の別の一態様として、本件化合物を他の炭酸刺激増強組成物に添加することで、添加対象の炭酸刺激増強組成物を本件炭酸刺激増強組成物として製造することもできる。
【0031】
以上のように製造された本件炭酸刺激増強組成物は、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財の添加用組成物として、各種消費財の製造に用いることができる。
【0032】
[消費財]
本発明の一実施の形態に係る消費財(以下「本件消費財」という場合がある。)は、本件炭酸刺激増強剤または本件炭酸刺激増強組成物を所定量含む消費財である。本件消費財は、後述の実施例にその一例を示すように、本件化合物からなる炭酸刺激増強剤、または本件化合物を有効成分として含有する本件炭酸刺激増強組成物が有効量添加されているため、本件化合物無添加の場合に比べてその炭酸刺激が増強されている。より具体的には、本件消費財は、本件炭酸刺激増強剤または本件炭酸刺激増強組成物が添加されているために炭酸刺激が強く感じられ、例えば、喉への刺激感、喉ごし感、爽やかさの少なくとも1種が強く感じられる。
【0033】
本件消費財に対する本件炭酸刺激増強剤または本件炭酸刺激増強組成物の添加量は、本件化合物による炭酸刺激増強効果の程度、および/または消費財自体の香味などに応じて任意に決定できる。ただし、本件消費財に含まれる本件化合物の濃度が、消費財の全体質量に対して、0.1ppt~1ppbの範囲内であることが好ましい。より具体的には、下限値を0.1ppt、1ppt、10ppt、100pptのいずれかとし、上限値を1ppb、100ppt、10ppt、1pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。
【0034】
[消費財の炭酸刺激増強方法]
本件炭酸刺激増強剤または本件炭酸刺激増強組成物を、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財に添加することによって、消費財の炭酸刺激を増強することができる。本件炭酸刺激増強剤または本件炭酸刺激増強組成物の各種消費財への添加タイミングは任意であり、炭酸刺激増強剤それ自体を飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財に添加してもよいし、1種または2種以上の他の香味付与組成物(例えば、水溶性香料組成物、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上)と併せて各種消費財に添加してもよい。
【0035】
本件炭酸刺激増強剤または本件炭酸刺激増強組成物を添加可能な消費財は特に限定されないが、好適な例としては炭酸刺激感を感じさせて口腔内に含むことが可能なものであり、二酸化炭素を含むまたは口腔内で発生させる各種飲料(各種の炭酸ノンアルコール飲料や炭酸アルコール飲料が例示でき、本明細書では総称して炭酸飲料ということがある。)や各種菓子、二酸化炭素を含むまたは口腔内で発生させる口腔用組成物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
炭酸ノンアルコール飲料については二酸化炭素を含む飲料であれば特には制限されず、例えば、コーラ炭酸飲料、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料、ノンアルコール炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、炭酸水、その他炭酸飲料および栄養ドリンク炭酸飲料がある。具体的には、サイダー、レモンソーダ、レモンライムソーダ、ラムネ、オレンジソーダ、グレープソーダ、アップルソーダ、コーラ、ガラナ、ジンジャーエール、トニックウォーター、クリームソーダ、エナジードリンク、ノンアルコールビール、ノンアルコールチューハイおよびノンアルコールスパークリングワインが例示できる。
【0037】
炭酸アルコール飲料としては、ビール、発泡酒、第三のビールなどのビール類、チューハイなどのリキュール類、シャンパン、スパークリングワイン、シードルなどの果実酒類が例示できる。
【0038】
口腔用組成物としては、口腔ケア用の各種製剤として、マウスウォッシュ、歯磨き剤などが例示できる。
【0039】
炭酸刺激増強効果をさらに高める観点からは、炭酸刺激増強効果を有する他の公知の化合物等(以下、他の炭酸刺激増強剤という場合がある。)を併用してよく、具体例としては、ウンデカトリエン類、ウンデカテトラエン類、温感物質、冷感物質、ナリンジンジヒドロカルコン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンから選択される1種または2種以上の化合物を本件化合物と併用して、炭酸刺激を感じさせる消費財に添加することが好ましい。炭酸飲料に該化合物を添加する濃度は、各化合物群によって異なり、具体的にはウンデカトリエン類またはウンデカテトラエン類は、0.01ppt~1ppb、好ましくは0.1ppt~100ppt、温感物質は10ppb~100ppm、好ましくは50ppb~50ppm、冷感物質は10ppb~50ppm、好ましくは50ppb~20ppm、ナリンジンジヒドロカルコンは1ppb~500ppm、好ましくは10ppb~1ppm、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンは1ppb~500ppm、好ましくは10ppb~1ppmの濃度を例示できる。
【0040】
前記ウンデカトリエン類およびウンデカテトラエン類の例として、6,8,10-ウンデカトリエン-2-オン、6,8,10-ウンデカトリエン-3-オン、6,8,10-ウンデカトリエン-4-オン、6,8,10-ウンデカトリエン-3-オール、6,8,10-ウンデカトリエン-4-オール、1,3,5-ウンデカトリエンおよび1,3,5,7-ウンデカテトラエンを挙げることができる。
【0041】
前記温感物質の例として、カプシカム抽出物、ペッパー抽出物、ジンジャー抽出物、サンショウ抽出物、ジャンブーオレオレジン、トウガラシオレオレジン、ジンジャーオレオレジン、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、バニリルエチルエーテル、バニリルプロピルエーテル、バニリルブチルエーテル、ノナン酸バニリルアミド、ピペリン、サンショオール、ヒドロキシサンショオール、サンショアミド、スピラントール、ジンゲロール、ショウガオール、ジンゲロンなどを挙げることができる。
【0042】
前記冷感物質の例として、ペパーミントオイル、スペアミントオイル、ハッカオイル、ユーカリプタスオイル、メントール、メンチルアセテート、メンチルラクテート、メントン、イソメントン、メンチル3-ヒドロキシブチレート、モノメンチルサクシネート、プレゴール、イソプレゴール、カルボン、シネオール、カンファー、オイゲノール、ボルネオール、エチル 3-(p-メンタン-3-カルボキサミド)アセテート、N-(4-メトキシフェニル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド、3-(l-メントキシ)プロパン-1,2-ジオール、p-メンタン-3,8-ジオール、1-メンチル-3-ヒドロキシブチレートなどを挙げることができる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
特公平4-76660号公報に記載の方法に従って3-p-メンテン-7-アール(本件化合物)を合成し、さらに、それを必要に応じてプロピレングリコールで任意の濃度に希釈した溶液を調製した。これらは、本件炭酸刺激増強剤(前記合成品)または本件炭酸刺激増強組成物(前記希釈品)として使用することができる(本発明品1)。
【0045】
また、果糖ぶどう糖液糖(Bx75°)13Kg、クエン酸(結晶)0.14Kg、クエン酸三ナトリウム0.04Kgにイオン交換水を加えて溶解し全体を100Lとし、炭酸飲料原液とした。
【0046】
炭酸飲料原液に本発明品1を本件化合物濃度がそれぞれ0.1ppt、1ppt、10ppt、100pptまたは1ppbとなるように添加し、さらに、それらの調製液に炭酸ガスを注入し、缶内ガス圧力を2.0kg/cmに設定し、缶シーマ(巻締め機)で密封し温水中で缶中心部温度が65℃に達した後に、10分間65℃で維持し殺菌後、冷水で冷却し炭酸飲料を得て、本発明品1-1~5とした。
【0047】
また、炭酸飲料原液に、本発明品1を本件化合物濃度が0.01pptとなるように添加した以外は本発明品1-1~1-5と同様にして炭酸飲料を得て、比較品1-1とした。そして、炭酸飲料原液に、本発明品1を本件化合物濃度が10ppbとなるように添加した以外は本発明品1-1~1-5と同様にして炭酸飲料を得て、比較品1-2とした。
【0048】
また、炭酸飲料原液に本発明品1を添加しなかった以外は本発明品1-1~1-5と同様にして炭酸飲料を得て、対照品1-1(本件化合物無添加の炭酸飲料)とした。
【0049】
さらに、炭酸飲料原液に本発明品1を本件化合物濃度がそれぞれ0.1ppt、1ppt、10ppt、100pptまたは1ppbとなるように添加し、さらに、それらの調製液に炭酸ガスを注入し、缶内ガス圧力を3.0kg/cmに設定し、缶シーマ(巻締め機)で密封し温水中で缶中心部温度が65℃に達した後に、10分間65℃で維持し殺菌後、冷水で冷却し炭酸飲料を得て、本発明品1-6~10とした。
【0050】
また、炭酸飲料原液に、本発明品1を本件化合物濃度が0.01pptとなるように添加した以外は本発明品1-6~1-10と同様にして炭酸飲料を得て、比較品1-3とした。そして、炭酸飲料原液に、本発明品1を本件化合物濃度が10ppbとなるように添加した以外は本発明品1-6~1-10と同様にして炭酸飲料を得て、比較品1-4とした。
【0051】
また、炭酸飲料原液に本発明品1を添加しなかった以外は本発明品1-6~10と同様にして、対照品の炭酸飲料を得て、対照品1-2(本件化合物無添加の炭酸飲料)とした。
【0052】
そして、本発明品1-1~1-10および比較品1-1~1-4の炭酸刺激感について、経験年数10年以上の熟練したパネリスト10名により官能評価を行った。評価の基準は、炭酸刺激感について行い、本発明品1-1~1-5および比較品1-1~1-2については対照品1-1の炭酸飲料を変化なし(4点)とする7段階評価を、本発明品1-6~1-10および比較品1-3~1-4については対照品1-2の炭酸飲料を変化なし(4点)とする7段階評価を行った。パネリスト10名の評価点の平均および代表的なコメントを表1に示す。
(採点基準)
かなり強く感じる:7点
強く感じる:6点
やや強く感じる:5点
変化なし:4点
やや弱く感じる:3点
弱く感じる:2点
かなり弱く感じる:1点
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、本発明品1はいずれも炭酸刺激感を増強できることが確認された。
【0055】
[実施例2] 各種炭酸飲料における炭酸刺激増加効果
市販の各種炭酸飲料として、炭酸水(無糖、無香料)、ビールテイスト飲料、ビール、桃チューハイ、スパークリング白ワイン、炭酸入りエナジードリンクを用意した。そして、これらの炭酸飲料に、本発明品1を本件化合物が下記表2のとおり0.1ppt、10pptまたは1ppbの濃度となるように添加したのち、フタを一度開封して、5分間放置後再度フタを閉め12時間冷蔵庫にて保管した炭酸飲料を得て、本発明品2-1~2-18とした。
【0056】
また、前記市販の各種炭酸飲料に何も添加せず、フタを一度開封して、5分間放置後再度フタを閉め12時間冷蔵庫にて保管した炭酸飲料を得て、対照品2-1~2-6(詳細は下記参照)とした。
【0057】
そして、本発明品2-1~2-18の炭酸刺激感について、経験年数10年以上の熟練したパネリスト10名により官能評価を行った。評価の基準は、炭酸刺激感について行い、本発明品2-1~2-3については対照品2-1の炭酸水を変化なし(4点)とする7段階評価を、本発明品2-4~2-6については対照品2-2のビールテイスト飲料を変化なし(4点)とする7段階評価を、本発明品2-7~2-9については対照品2-3のビールを変化なし(4点)とする7段階評価を、本発明品2-10~2-12については対照品2-4の桃チューハイを変化なし(4点)とする7段階評価を、本発明品2-13~2-15については対照品2-5のスパークリング白ワインを変化なし(4点)とする7段階評価を、本発明品2-16~2-18については対照品2-6の炭酸入りエナジードリンクを変化なし(4点)とする7段階評価をそれぞれ行った。パネリスト10名の評価点の平均および代表的なコメントを表2に示す。
(採点基準)
かなり強く感じる:7点
強く感じる:6点
やや強く感じる:5点
変化なし:4点
やや弱く感じる:3点
弱く感じる:2点
かなり弱く感じる:1点
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、本件炭酸刺激増強剤は、各種炭酸飲料のいずれにおいても炭酸刺激を増強できることが確認された。
【0060】
[実施例3] 炭酸刺激の経時変化の確認
実施例1と同様に調製した炭酸飲料原液に、本件化合物を0.1ppt、10ppt、または1ppb添加したものを用意し、さらに、それらの調製液に炭酸ガスを注入し、ペットボトル内ガス圧力を2.0kg/cmに設定し、密封後温水中でペットボトル中心部温度が65℃に達した後に、10分間65℃で維持し殺菌後、冷水で冷却し炭酸飲料を製造した。この炭酸飲料のフタを一度開封して、5分間放置後再度フタを閉め12時間冷蔵庫にて保管した炭酸飲料を本発明品3-1~3-3とした。
【0061】
また、炭酸飲料原液に、本発明品1を本件化合物濃度が0.01pptとなるように添加した以外は本発明品3-1~3-3と同様にして炭酸飲料を得て、比較品3-1とした。そして、炭酸飲料原液に、本発明品1を本件化合物濃度が10ppbとなるように添加した以外は本発明品3-1~3-3と同様にして炭酸飲料を得て、比較品3-2とした。
【0062】
また、前記炭酸飲料原液をそのまま炭酸ガスを注入し、ペットボトル内ガス圧力を2.0kg/cmに設定し、密封後温水中でペットボトル中心部温度が65℃に達した後に、10分間65℃で維持し殺菌後、冷水で冷却し炭酸飲料を製造した。この炭酸飲料のフタを一度開封して、5分間放置後再度フタを閉め12時間冷蔵庫にて保管した炭酸飲料を対照品3-1とした。
【0063】
そして、本発明品3-1~3-3および比較品3-1~3-2の各炭酸飲料の炭酸刺激について、熟練した経験年数10年以上のパネリスト10名により官能評価を行った。評価の基準は、炭酸による刺激について行い、前記対照品3-1を変化なし(4点)とする7段階評価を行い、採点基準は実施例1と同様に下記のとおりとした。パネリスト10名の評価点の平均および代表的なコメントを表3に示す。
(採点基準)
かなり強く感じる:7点
強く感じる:6点
やや強く感じる:5点
変化なし:4点
やや弱く感じる:3点
弱く感じる:2点
かなり弱く感じる:1点
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すように、本件炭酸刺激増強剤を添加しなかった比較品3-1~2は、開封後12時間経過したことで炭酸が抜け、炭酸刺激が顕著に弱くなっていた一方で、本件炭酸刺激増強剤を添加した本発明品3-1~3-3では、開封後12時間経過し炭酸が抜けたものの、炭酸刺激は開封前よりやや弱いが炭酸刺激増強効果によって炭酸刺激感が維持されているとの評価であり、本件炭酸刺激増強剤の添加によって、無添加の場合より炭酸刺激が維持可能なことが確認された。
【0066】
[実施例4] 他の炭酸刺激増強剤との併用例
他の炭酸刺激増強剤の1種と本発明品1(本件炭酸刺激増強剤または炭酸刺激増強組成物)とを併用すると、炭酸刺激の増強効果を本発明品1の単独使用よりも強くすることができる。
【0067】
表4に記載の濃度範囲で、上述した公知の他の炭酸刺激増強剤と本発明品1とを実施例1で調製した炭酸飲料原液に対して併用し、本発明品1-1~1-10の炭酸刺激感の強さと比較する評価を行ったところ、評価を行った5名のパネリスト全員が、本件化合物の単独使用よりも炭酸刺激増強効果が高く感じられたと回答した。
【0068】
【表4】
【0069】
本実施例で使用した他の炭酸刺激増強剤の濃度は、例えば、特開第2010-68749号公報、特許第5500664号公報、特許第7118565号公報の記載を参考に決定することもできる。
【0070】
なお、カプシカム抽出物は辛み成分を有効成分として含有する炭酸刺激増強剤の一例であり、以下のように調製することができる。
(カプシカム抽出物の調製例)
市販のタカノツメ乾燥物100gをミキサーにて粉砕し、60%(v/v)エタノール水溶液1000gを加え、65℃にて3時間攪拌した後、20℃に冷却し、遠心分離した後、ケイソウ土を濾過助剤として吸引濾過し、カプシカム抽出物865gを得る。
【0071】
[実施例のまとめ]
実施例1~4に示したように、3-p-メンテンー7-アールからなる炭酸刺激増強剤または3-p-メンテン-7-アールを有効成分として含有する炭酸刺激増強組成物は、各種消費財の炭酸刺激感を増強できる。