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特開2024-87549光硬化性組成物、アンダーコート層、積層体および表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087549
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、アンダーコート層、積層体および表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20240624BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240624BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240624BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240624BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C08G59/20
B32B27/38
C09D5/00 D
C09D163/00
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202436
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】齊之平 裕策
【テーマコード(参考)】
4F100
4J036
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AG00B
4F100AK52A
4F100AK52C
4F100AK53A
4F100AL05A
4F100AR00C
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EH46
4F100EJ41
4F100EJ54
4F100GB41
4F100JB12C
4F100JB14A
4F100JK06
4F100JK12C
4F100YY00A
4F100YY00C
4J036AA06
4J036AB07
4J036AJ09
4J036AJ21
4J036FA14
4J036HA01
4J036JA01
4J038DB171
4J038DB261
4J038DL031
4J038FA252
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA12
4J038PA07
4J038PA17
4J038PC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】基材への密着性に優れ、容易に塗工することができる光硬化性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の光硬化性組成物は脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物および/またはオキセタン化合物とを含み、前記第1のエポキシ化合物の含有量が溶媒を除く組成物全量に対して30~70質量%であることを特徴とする。また、前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物と前記オキセタン化合物を含有するものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物とを含み、
前記第1のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して30~70質量%である光硬化性組成物。
【請求項2】
前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物と前記オキセタン化合物とを含有する請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記第2のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して20~60質量%である請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記オキセタン化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して5~25質量%である請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物からなる硬化物であるアンダーコート層。
【請求項6】
厚みが0.1~15μmである請求項5に記載のアンダーコート層。
【請求項7】
基材と前記基材の少なくとも一方の面に形成された請求項6に記載のアンダーコート層と、ハードコート層とがこの順に積層された積層体。
【請求項8】
前記基材がガラス基材である請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記ハードコート層が硬化型樹脂として硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含む請求項7に記載の積層体。
【請求項10】
前記ハードコート層表面の鉛筆硬度が6H以上である請求項7に記載の積層体。
【請求項11】
前記ハードコート層の表面に1mm間隔で格子状に100個のマス目を作製し、粘着テープを貼り付け、90℃方向に引きはがした際に90個以上が残存している請求項7に記載の積層体。
【請求項12】
請求項7に記載の積層体を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光硬化性組成物およびその硬化物からなるアンダーコート層、積層体、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、パソコン、スマートフォン等のディスプレイやそれらのディスプレイ用のフィルム等の透明性や美観が重要視される物品(基材)の表面には、耐擦傷性(すなわち、擦過や引っかきによる損傷の防止特性)を向上させる目的で、ハードコート層を設ける構成が知られている。
【0003】
特に基材としてガラス基材を使用する場合、ハードコート層とガラス基材との密着性を発揮させるために、ガラス基材表面にシランカップリング剤を使用することや、ガラス表面を改質する方法等が知られていた(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】鈴木すすむ著、「ガラスコーティングの密着性」表面技術、Vol.48、No7、1997年、698-702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の基材に対する処理方法では基材への密着性が依然として不十分である場合があった。
【0006】
また、基材とハードコート層との密着性を発揮させるために基材とハードコート層の間にアンダーコート層(層間接着層)を設ける構成が知られていた。しかしながら、アンダーコート層が基材に対してうまく塗工することができず、はじきが発生してしまうという問題があった。そのため、基材が制限される場合や、特別な塗工方法でアンダーコート層を塗工する必要があった。
【0007】
本開示は上記の課題を解決するものであって、その目的は基材への密着性に優れ、容易に塗工することができる光硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者は、脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物とを含み、上記第1のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して30~70質量%である光硬化性組成物によれば、基材への密着性に優れ、容易に塗工することができることを見出した。本開示は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本開示は脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物とを含み、上記第1のエポキシ化合物の含有量が溶媒を除く組成物全量に対して30~70質量%である光硬化性組成物を提供する。
【0010】
本開示は上記構成を有することで、基材への密着性に優れ、容易に塗工することができ、さらにハードコート層を積層した際に耐擦傷性に優れる。
【0011】
また、本開示の光硬化性組成物は上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物と上記オキセタン化合物とを含有することが好ましい。上記構成を有することで基材への密着性、塗工容易性、さらにハードコート層を積層した際に耐擦傷性に関してより優れる傾向にある。
【0012】
上記第2のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して20~60質量%であることが好ましい。上記構成を有することで基材に容易に塗工できる傾向にある。
【0013】
上記オキセタン化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して5~25質量%であることが好ましい。上記構成を有することで基材への密着性に関してより優れる傾向にある。
【0014】
また、本開示は上記光硬化性組成物からなる硬化物であるアンダーコート層を提供する。
【0015】
上記アンダーコート層の厚みは0.1~15μmであることが好ましい。
【0016】
また、本開示は基材と上記基材の少なくとも一方の面に形成された上記アンダーコート層と、ハードコート層とがこの順に積層された積層体を提供する。
【0017】
上記積層体は基材がガラス基材であることが好ましい。
【0018】
また、上記積層体は上記ハードコート層が硬化型樹脂として硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含むことが好ましい。
【0019】
また、上記積層体は上記ハードコート層表面の鉛筆硬度が6H以上であることが好ましい。上記構成を有することで十分な表面硬度を有し、耐擦傷性に優れる傾向にある。
【0020】
また、上記積層体は上記ハードコート層の表面に1mm間隔で格子状に100個のマス目を作製し、粘着テープを貼り付け、90℃方向に引きはがした際に90個以上が残存していることが好ましい。上記構成を有することで、上記積層体においてアンダーコート層とハードコート層とが十分な密着性を発揮することができる。
【0021】
また、本開示は上記積層体を備える表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本開示の光硬化性組成物は基材への密着性に優れ、容易に塗工することができる。さらに上記光硬化性組成物から形成されたアンダーコート層にハードコート層を積層した積層体では、アンダーコート層とハードコート層とが優れた密着性を発揮しつつ、ハードコート層表面に十分な表面硬度を付与することができ、耐擦傷性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示中において、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を意味する。「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0024】
[光硬化性組成物]
本開示の光硬化性組成物は脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物とを含み、上記第1のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して30~70質量%である。
【0025】
<脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサン(第1のエポキシ化合物)>
上記光硬化性組成物は、上記脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物を含む。上記第1のエポキシ化合物は、分子内に2以上の脂環式エポキシ基を有し、さらに、シロキサン結合(Si-O-Si)により構成されたシロキサン骨格を少なくとも有する化合物である。上記シロキサン骨格には、環状シロキサン骨格、直鎖状または分岐鎖状のシリコーン(直鎖状または分岐鎖状ポリシロキサン)、かご型やラダー型のポリシルセスキオキサン等が含まれる。本開示においては、なかでも、基材への塗工容易性と密着性を両立できる点で、環状シロキサン骨格を有する化合物が好ましい。なお、上記第1のエポキシ化合物は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
また、上記第1のエポキシ化合物が環状シロキサンである場合、シロキサン環を形成するSi-O単位の数(シロキサン環を形成するケイ素原子の数に等しい)は、2~12が好ましく、より好ましくは4~8である。
【0027】
また、上記第1のエポキシ化合物の脂環式エポキシ基は分子内にエポキシ化された環状オレフィン基を意味する。「エポキシ化された環状オレフィン基」とは、環状オレフィン(環を形成する炭素-炭素結合の少なくとも1つが炭素-炭素不飽和結合である環状脂肪族炭化水素)が有する炭素-炭素不飽和結合の少なくとも1つがエポキシ化された構造から1つの水素原子を除いて形成される基(1価の基)である。即ち、エポキシ化環状オレフィン基は、脂肪族炭化水素環構造とエポキシ基とを含み、上記エポキシ基が上記脂肪族炭化水素環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基である基である。
【0028】
上記エポキシ化環状オレフィン基における環状オレフィン基(エポキシ化される前の形態)としては、シクロプロペニル基(例えば、2-シクロプロペン-1-イル基等)、シクロブテニル基(例えば、2-シクロブテン-1-イル基等)、シクロペンテニル基(例えば、2-シクロペンテン-1-イル基、3-シクロペンテン-1-イル基等)、シクロヘキセニル基(例えば、2-シクロヘキセン-1-イル基、3-シクロヘキセン-1-イル基等)等のシクロアルケニル基;2,4-シクロペンタジエン-1-イル基、2,4-シクロヘキサジエン-1-イル基、2,5-シクロヘキサジエン-1-イル基等のシクロアルカジエニル基;ジシクロペンテニル基、ジシクロヘキセニル基、ノルボルネニル基等の多環式基等が挙げられる。
【0029】
なお、上記エポキシ化環状オレフィン基における環状オレフィン基を形成する脂肪族炭化水素環には、1個以上の置換基が結合していてもよい。上記置換基としては、例えば、炭素数0~20(より好ましくは炭素数0~10)の置換基等が挙げられ、より具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基等のアルコキシ基(好ましくはC1-6アルコキシ基、より好ましくはC1-4アルコキシ基);アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基(好ましくはC2-6アルケニルオキシ基、より好ましくはC2-4アルケニルオキシ基);フェノキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくはC6-14ア リールオキシ基);ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基(好ましくはC7-18アラルキルオキシ基);アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシルオキシ基(好ましくはC1-12アシルオキシ基);メルカプト基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基(好ましくはC1-6アルキルチオ基、より好ましくはC1-4アルキルチオ基);アリルチオ基等のアルケニルチオ基(好ましくはC2-6アルケニルチオ基、より好ましくはC2-4アルケニルチオ基);フェニルチオ基、トリルチオ基、ナフチルチオ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくはC6-14アリールチオ基);ベンジルチオ基、フェネチルチオ基等のアラルキルチオ基(好ましくはC7-18アラルキルチオ基);カルボキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基(好ましくはC1-6アルコキシ-カルボニル基);フェノキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基(好ましくはC6-14アリールオキシ-カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基等のアラルキルオキシカルボニル基(好ましくはC7-18アラルキルオキシ-カルボニル基);アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のモノまたはジアルキルアミノ基(好ましくはモノまたはジ-C1-6アルキルアミノ基);アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(好ましくはC1-11アシルアミノ基);エチルオキセタニルオキシ基等のオキセタニル基含有基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基;オキソ基;これらの2以上が必要に応じてC1-6アルキレン基を介して結合した基等が挙げられる。
【0030】
中でも、上記環状オレフィン基としては、炭素数5~12の環状オレフィン基が好ましく、より好ましくは炭素数5~12のシクロアルケニル基、さらに好ましくはシクロヘキセニル基である。即ち、上記エポキシ化環状オレフィン基としては、炭素数5~12の環状オレフィン基がエポキシ化された基が好ましく、より好ましくは炭素数5~12のシクロアルケニル基がエポキシ化された基、さらに好ましくはシクロヘキセニル基がエポキシ化された基(シクロヘキセンオキシド基)である。なお、上記第1のエポキシ化合物は、エポキシ化環状オレフィン基の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0031】
上記第1のエポキシ化合物が分子内に有するエポキシ化環状オレフィン基の数は、2個以上であればよく、特に限定されないが、2~6個が好ましく、より好ましくは3~5個であり、さらに好ましくは4個である。
【0032】
上記第1のエポキシ化合物としては、例えば、2,4-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,6,8,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン、4,8-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,2,4,6,6,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン、2,4-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-6,8-ジプロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、4,8-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,6-ジプロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,8-トリ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,6,8-ペンタメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,8-トリ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-6-プロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、エポキシ基を有するシルセスキオキサン等を挙げることができる。
【0033】
本開示の光硬化性組成物における上記第1のエポキシ化合物の含有量は、硬化性化合物の全量に対して、30~70質量%が好ましく、より好ましくは35~65質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。上記範囲内であることにより、光硬化性組成物を基材に容易に塗工できるようになり、さらに塗工した基材が密着性に優れる。
【0034】
<第2のエポキシ化合物>
上記光硬化性組成物は上記第1のエポキシ化合物以外のエポキシ化合物を含有する(以後、上記その他のエポキシ化合物を「第2のエポキシ化合物」と記載する)。上記第2のエポキシ化合物を含有することにより、光硬化性組成物を基材に容易に塗工できる。
【0035】
上記第2のエポキシ化合物としては上記第1のエポキシ化合物以外の脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物等を挙げることができる。上記第1のエポキシ化合物と組み合わせて基材への塗工容易性を発揮させる観点から上記第2のエポキシ化合物は脂環式エポキシ化合物であることが好ましい。
【0036】
上記その他の脂環式エポキシ化合物としては、例えば、下記式(a1)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
上記式(a1)中、Rは、上述のエポキシ化環状オレフィン基と同様のものが挙げられる。2個のRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。Xは単結合又は連接基(1以上の原子を有する二価の基;シロキサン結合を含む基を除く)を示す。上記連接基としては、例えば、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、及びこれらが複数個連接した基等を挙げることができる。上記2価の炭化水素基としては、例えば、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、およびこれらが複数個結合した基等が挙げられる。上記2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の直鎖または分岐鎖状のアルキレン基(例えば、炭素数1~6のアルキレン基)等が挙げられる。また、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等の2価のシクロアルキレン基等が挙げられる。上記式(a1)で表される化合物としては、例えば、2つのRがともにシクロヘキセンオキシド基である化合物(特に、2つのシクロヘキセンオキシド基の4位の炭素原子(エポキシ基を形成する2つの炭素原子の位置を1位、2位とする)が単結合または2価の炭化水素基によって連結された化合物等)が挙げられる。
【0039】
上記式(a1)で表される脂環式エポキシ化合物としては、具体的に(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。
【0040】
また、上記その他の脂環式エポキシ化合物には、下記式(b1)で表される化合物等の、脂環にエポキシ基が直接単結合で結合した化合物や水素化芳香族グリシジルエーテル系エポキシ化合物等も含まれる。
【0041】
【化2】
【0042】
式(b1)中、Riはq価のアルコールからq個の-OHを除した基であり、p、qはそれぞれ自然数を表す。q価のアルコール[Ri-(OH)q]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール等(炭素数1~15のアルコール等)を挙げることができる。qは1~6が好ましく、pは1~30が好ましい。qが2以上の場合、2個以上の( )内(丸括弧内)の基におけるpは同一でもよいし、異なっていてもよい。上記化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物、商品名「EHPE3150」(ダイセル社製)等を挙げることができる。
【0043】
上記水素化芳香族グリシジルエーテル系エポキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、これらの多量体等のビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、これらの多量体等のビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水添ビフェノール型エポキシ化合物;水添フェノールノボラック型エポキシ化合物;水添クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水添クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水添ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物の水添エポキシ化合物等が挙げられる。
【0044】
上記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、q価の環状構造を有しないアルコール(qは自然数である)のグリシジルエーテル;一価または多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。
【0045】
上記q価の環状構造を有しないアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等が挙げられる。また、q価のアルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。
【0046】
上記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接またはアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等が挙げられる。
【0047】
本開示の光硬化性組成物における第2のエポキシ化合物の含有量は、硬化性化合物の全量に対して、20~60質量%が好ましく、より好ましくは25~55質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。上記範囲内であることにより光硬化性組成物を基材に容易に塗工できるようになる。
【0048】
<オキセタン化合物>
本開示の光硬化性組成物における一つの実施形態として、上記第1のエポキシ化合物、上記第2のエポキシ化合物に加えて、オキセタン化合物を含有する。上記オキセタン化合物はカチオン重合性基としてオキセタニル基を1分子中に少なくとも1個以上有する化合物であり、2個以上含有する化合物であってもよい。なお、上記オキセタン化合物は1種を使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。上記オキセタン化合物を含有することにより、光硬化性組成物が基材との密着性を発揮できる傾向にある。
【0049】
上記オキセタン化合物としては、例えば、トリメチレンオキシド、3,3-ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1-エチル(3-オキセタニル)]メチル}エーテル、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、3-エチル-エチル(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン等を挙げることができる。
【0050】
上記オキセタン化合物の含有量としては硬化性化合物の全量に対して、5~25質量%が好ましく、より好ましくは10~20質量%である。オキセタン化合物の含有量が上記範囲内であると、基材と密着性を発揮することが容易となる。
【0051】
なお、上記光硬化性組成物において、上記オキセタン化合物と共に後述の第3のエポキシ化合物、第4のエポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0052】
<第3のエポキシ化合物>
また、本開示の光硬化性組成物のもう一つの実施形態として、上記第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物に加えて、上記第1のエポキシ化合物には該当せず、上記第2のエポキシ化合物とは異なる成分である第3のエポキシ化合物を含有することが好ましい。なお、上記光硬化性組成物において、より含有量の多いエポキシ化合物を第2のエポキシ化合物、より含有量の少ないエポキシ化合物を第3のエポキシ化合物とする。
【0053】
上記第3のエポキシ化合物としては、上記第1のエポキシ化合物に該当しないエポキシ化合物のうち、上記第2のエポキシ化合物として使用されたもの以外のエポキシ化合物を挙げることができ、具体的には上述の第2のエポキシ化合物としては例示されたものを使用することができる。
【0054】
上記第3のエポキシ化合物としては、特に第2のエポキシ化合物として脂環式エポキシ化合物を含有する場合、第3のエポキシ化合物として脂肪族エポキシ化合物を含有することが好ましい。第3のエポキシ化合物として上記脂肪族エポキシ化合物を含有することで、基材との密着性を発揮することが容易となる。なお、上記脂肪族エポキシ化合物としては上記第2のエポキシ化合物の脂肪族エポキシ化合物として例示されたものを使用することができる。
【0055】
上記第3のエポキシ化合物を含む場合、第3のエポキシ化合物との含有量としては硬化性化合物の全量に対して、5~25質量%が好ましく、より好ましくは7~20質量%である。第3のエポキシ化合物の含有量が上記範囲内であると、基材と密着性を発揮することが容易となる。
【0056】
また、上記光硬化性組成物は上記第1~3のエポキシ化合物以外のエポキシ化合物(以後、「第4のエポキシ化合物」と称する)をさらに含有していてもよい。上記第4エポキシ化合物としては上記第1のエポキシ化合物に該当しないエポキシ化合物のうち、上記第2,3のエポキシ化合物として使用されたもの以外のエポキシ化合物を使用することができる。すなわち、上記第4のエポキシ化合物としては上述の第2のエポキシ化合物として例示されたエポキシ化合物のうち、第2,3のエポキシ化合物として使用されたもの以外を使用することができる。なお、上記光硬化性組成物において、上記第4のエポキシ化合物は上記第2のエポキシ化合物および上記第3のエポキシ化合物と比較してより含有量の少ないエポキシ化合物である。上記第4のエポキシ化合物は1種を使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0057】
上記光硬化性組成物はさらに硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤としては公知乃至慣用光カチオン重合開始剤を使用することができる。上記硬化剤は1種を使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0058】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩系化合物、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ホスホニウム塩系化合物、セレニウム塩系化合物、オキソニウム塩系化合物、アンモニウム塩系化合物、臭素塩系化合物等を挙げることができる。本開示においては、なかでも、スルホニウム塩系化合物を使用することが、硬化性に優れた硬化物を形成することができる点で好ましい。
【0059】
光カチオン重合開始剤のアニオン部としては、例えば、[(Y)SB(Phf)4-S](式中、Yはフェニル基またはビフェニリル基を示す。Phfは水素原子の少なくとも1つが、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、およびハロゲン原子から選択される少なくとも1種で置換されたフェニル基を示す。sは0~3の整数である)、BF4、[(Rf)nPF6-n](Rf:水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基、n:0~5の整数)、AsF6、SbF6、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネート等を挙げることができる。
【0060】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウムフェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4-(2-チオキサントニルチオ)フェニル]フェニル-2-チオキサントニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0061】
上記硬化剤の使用量(配合量)は、上記硬化性組成物に含まれる全カチオン硬化性化合物の総量(100質量部)に対して、0.01~15質量部が好ましく、より好ましくは0.03~10質量部、さらに好ましくは0.05~10質量部、特に好ましくは0.1~5質量部である。硬化剤を上記範囲内で使用することにより、基材との密着性に優れた硬化物を得ることができる。
【0062】
<その他の化合物>
本開示の光硬化性組成物は上記化合物以外にも、その他の化合物を含んでいてもよい。上記その他の化合物としては、例えば、溶媒、酸化防止剤、金属酸化物粒子、ゴム粒子、シリコーン系やフッ素系の消泡剤、シランカップリング剤、充填剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、顔料、離型剤等を挙げることができる。これら各種の添加剤の含有量(配合量)は、硬化性組成物全量(100質量%)の5質量%以下とすることが好ましい。
【0063】
[アンダーコート層]
本開示に係る一実施形態として、上記光硬化性組成物の硬化物からなるアンダーコート層が挙げられる。上記アンダーコート層は上記光硬化性組成物を基材の少なくとも一方の面に塗工し、硬化することで得ることができる。
【0064】
上記基材としては、単層であっても同一または異なる材料からなる複層であってもよい。また、上記基材としては樹脂基材、ガラス基材、金属基材等を使用することができ、上記アンダーコート層との密着性の観点からガラス基材であることが好ましい。
【0065】
上記アンダーコート層の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えば、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法、有機蒸着法等の周知の方法を用いることができる。硬化処理としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線源、レーザー光源、LED光源等を使用した光照射が挙げられる。積算照射量が例えば300~10000mJ/cm2となる範囲で照射することが好ましい。また、上記形成方法で別の基材にあらかじめコーティングされた膜を、粘着材転写、熱転写、UV転写等の転写法を用いて基材に転写するのでもよい。
【0066】
光照射終了後は、更にアニール処理を施して内部歪みを除去することが好ましく、例えば100~200℃の温度で30分~1時間程度加熱することが好ましい。
【0067】
また、上記アンダーコート層を硬化後に外観を目視確認した際に、基材にはじきがなく塗工できることが好ましく、アンダーコート層表面に荒れがなく、均一に塗工できるものであることがより好ましい。
【0068】
また、上記アンダーコート層はJIS K5600-5-6に従って、1mmの間隔でカッター刃で掻いて、格子状に100個の升目を作り、粘着テープで貼り付け、90°方向に引き剥がして、アンダーコート層の表面が粘着テープについてから剥離するかを目視確認した際に、90個以上が残存することが好ましく、より好ましくは95個以上であり、特に好ましくは100個残存するものである。90個以上が基材上に残存するような構成では基材とアンダーコート層が十分な密着性を発揮することができる。
【0069】
上記アンダーコート層の厚さは0.1~15μmであることが好ましく、より好ましくは1~10μmである。アンダーコート層の厚さが上記範囲内であることにより、密着性を発揮しつつ、さらにハードコート層を積層した際に、ハードコート層表面の表面硬度を向上させることが容易となる。
【0070】
[積層体]
本開示に係る一実施形態として、上記基材、上記アンダーコート層、ハードコート層を含む積層体が挙げられる。上記基材上に形成されたアンダーコート層上に、さらにハードコート層を形成することで上記積層体を作製することができる。なお、上記積層体において上記積層構造は、上記基材の一方の表面(片面)のみに形成されていてもよいし、両方の表面(両面)に形成されていてもよい。また、上記積層体はアンダーコート層、ハードコート層以外の層を有していてもよく、積層体の密着性を発揮させる観点から、基材、アンダーコート層、ハードコート層がこの順に積層されることが好ましい。
【0071】
上記ハードコート層は硬化型樹脂を含有することが好ましく、硬化型樹脂として下記式(1)で表される構成単位を有するポリオルガノシルセスキオキサン(以下、「本開示のポリオルガノシルセスキオキサン」と称する場合がある)を含むことが好ましい。すなわち、上記ハードコート層を形成するための硬化性組成物(以後、「ハードコート剤」と称する場合がある)は下記式(1)で表される構成単位を有するポリオルガノシルセスキオキサンを含有することが好ましい。後述のように、上記ハードコート剤は、硬化剤(特に光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合性開始剤)、酸化防止剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【化3】
[式(1)中、R1は、活性エネルギー線硬化性官能基を含有する基を示す。]
【0072】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、上記式(1)で表される構成単位を有することを特徴とする。また、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、下記式(I)で表される構成単位(「T3体」と称する場合がある)と、下記式(II)で表される構成単位(「T2体」と称する場合がある)を有することが好ましい。さらに、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、後述の式(4)で表される構成単位を有することが好ましい。
【化4】
【化5】
【0073】
上記式(1)で表される構成単位は、一般に[RSiO3/2]で表されるシルセスキオキサン構成単位(いわゆるT単位)である。なお、上記式中のRは、水素原子または一価の有機基を示し、以下においても同じである。上記式(1)で表される構成単位は、対応する加水分解性三官能シラン化合物(具体的には、例えば、後述の式(a)で表される化合物)の加水分解および縮合反応により形成される。
【0074】
式(1)中のR1は、活性エネルギー線硬化性官能基を含有する基(一価の基)を示す。即ち、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、分子内に活性エネルギー線硬化性官能基を少なくとも有する、光カチオン硬化性化合物(光カチオン重合性化合物)または光ラジカル硬化性化合物(光ラジカル重合性化合物)である。
【0075】
上記活性エネルギー線硬化性官能基を含有する基における「光カチオン重合性官能基」としては、光カチオン重合性を有するものである限り特に限定されず、例えば、エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基、ビニルフェニル基等が挙げられる。上記活性エネルギー線硬化性官能基を含有する基における「光ラジカル重合性官能基」としては、光ラジカル重合性を有するものである限り特に限定されず、例えば、(メタ)アクリルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、ビニルチオ基等が挙げられる。活性エネルギー線硬化性官能基としては、硬化物(塗膜)の表面硬度(例えば、H以上)の観点から、エポキシ基、(メタ)アクリルオキシ基等が好ましく、エポキシ基が特に好ましい。
【0076】
上記エポキシ基を含有する基としては、オキシラン環を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、下記式(1a)で表される基、下記式(1b)で表される基、下記式(1c)で表される基、下記式(1d)で表される基が好ましく、より好ましくは下記式(1a)で表される基、下記式(1c)で表される基、さらに好ましくは下記式(1a)で表される基である。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0077】
上記式(1a)中、R1aは、直鎖または分岐鎖状のアルキレン基を示す。直鎖または分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、デカメチレン基等の炭素数1~10の直鎖または分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。中でも、R1aとしては、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、炭素数1~4の直鎖状のアルキレン基、炭素数3または4の分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、より好ましくはエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、さらに好ましくはエチレン基、トリメチレン基である。
【0078】
上記式(1b)中、R1bは、直鎖または分岐鎖状のアルキレン基を示し、R1aと同様の基が例示される。中でも、R1bとしては、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、炭素数1~4の直鎖状のアルキレン基、炭素数3または4の分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、より好ましくはエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、さらに好ましくはエチレン基、トリメチレン基である。
【0079】
上記式(1c)中、R1cは、直鎖または分岐鎖状のアルキレン基を示し、R1aと同様の基が例示される。中でも、R1cとしては、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、炭素数1~4の直鎖状のアルキレン基、炭素数3または4の分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、より好ましくはエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、さらに好ましくはエチレン基、トリメチレン基である。
【0080】
上記式(1d)中、R1dは、直鎖または分岐鎖状のアルキレン基を示し、R1aと同様の基が例示される。中でも、R1dとしては、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、炭素数1~4の直鎖状のアルキレン基、炭素数3または4の分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、より好ましくはエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、さらに好ましくはエチレン基、トリメチレン基である。
【0081】
式(1)中のR1としては、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性の観点で、特に、上記式(1a)で表される基であって、R1aがエチレン基である基[中でも、2-(3',4'-エポキシシクロヘキシル)エチル基]が好ましい。
【0082】
上記オキセタン基を含有する基としては、オキセタン環を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、オキセタン基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)をオキセタン基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性の観点で、3-オキセタニル基、オキセタン-3-イルメチル基、3-エチルオキセタン-3-イルメチル基、2-(オキセタン-3-イル)エチル基、2-(3-エチルオキセタン-3-イル)エチル基、3-(オキセタン-3-イルメトキシ)プロピル基、3-(3-エチルオキセタン-3-イルメトキシ)プロピル基等が好ましい。
【0083】
上記ビニルエーテル基を含有する基としては、ビニルエーテル基を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、ビニルエーテル基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)をビニルエーテル基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性の観点で、ビニルオキシメチル基、2-(ビニルオキシ)エチル基、3-(ビニルオキシ)プロピル基等が好ましい。
【0084】
上記ビニルフェニル基を含有する基としては、ビニルフェニル基を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、ビニルフェニル基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)をビニルフェニル基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性の観点で、4-ビニルフェニル基、3-ビニルフェニル基、2-ビニルフェニル基等が好ましい。
【0085】
上記(メタ)アクリルオキシ基を含有する基としては、(メタ)アクリルオキシ基を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリルオキシ基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)を(メタ)アクリルオキシ基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤(塗膜)の硬化性、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、2-((メタ)アクリルオキシ)エチル基、3-((メタ)アクリルオキシ)プロピル基等が好ましい。
【0086】
上記(メタ)アクリルアミド基を含有する基としては、(メタ)アクリルアミド基を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)を(メタ)アクリルアミド基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、2-((メタ)アクリルアミド)エチル基、3-((メタ)アクリルアミド)プロピル基等が好ましい。
【0087】
上記ビニル基を含有する基としては、ビニル基を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、ビニル基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)をビニル基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、ビニル基、ビニルメチル基、2-ビニルエチル基、3-ビニルプロピル基等が好ましい。
【0088】
上記ビニルチオ基を含有する基としては、ビニルチオ基を有する公知乃至慣用の基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、ビニルチオ基そのもの、アルキル基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基)の水素原子(通常1つ以上、好ましくは1つの水素原子)をビニルチオ基で置換してなる基が挙げられる。上記ハードコート剤の硬化性、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、ビニルチオメチル基、2-(ビニルチオ)エチル基、3-(ビニルチオ)プロピル基等が好ましい。
【0089】
式(1)中のR1としては、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性の観点で、エポキシ基を含有する基、(メタ)アクリルオキシ基を含有する基が好ましく、特に、上記式(1a)で表される基であって、R1aがエチレン基である基[中でも、2-(3',4'-エポキシシクロヘキシル)エチル基]、3-(アクリルオキシ)プロピル基、3-(メタクリルオキシ)プロピル基が好ましい。
【0090】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、上記式(1)で表される構成単位を1種のみ有するものであってもよいし、上記式(1)で表される構成単位を2種以上有するものであってもよい。
【0091】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、シルセスキオキサン構成単位[RSiO3/2]として、上記式(1)で表される構成単位以外にも、下記式(2)で表される構成単位を有していてもよい。
【化10】
【0092】
上記式(2)で表される構成単位は、一般に[RSiO3/2]で表されるシルセスキオキサン構成単位(T単位)である。即ち、上記式(2)で表される構成単位は、対応する加水分解性三官能シラン化合物(具体的には、例えば、後述の式(b)で表される化合物)の加水分解および縮合反応により形成される。
【0093】
上記式(2)中のR2は、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルキル基、または、置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。上記アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。上記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。
【0094】
上述の置換アリール基、置換アラルキル基、置換シクロアルキル基、置換アルキル基、置換アルケニル基としては、上述のアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルキル基、アルケニル基のそれぞれにおける水素原子または主鎖骨格の一部若しくは全部が、エーテル基、エステル基、カルボニル基、シロキサン基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基、アミノ基、およびヒドロキシ基(水酸基)からなる群より選択された少なくとも1種で置換された基が挙げられる。
【0095】
中でも、R2としては、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基が好ましく、より好ましくは置換若しくは無置換のアリール基、さらに好ましくはフェニル基である。
【0096】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおける上述の各シルセスキオキサン構成単位(式(1)で表される構成単位、式(2)で表される構成単位)の割合は、これらの構成単位を形成するための原料(加水分解性三官能シラン)の組成により適宜調整することが可能である。
【0097】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、さらに、上記式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位以外のシルセスキオキサン構成単位[RSiO3/2]、[R3SiO1/2]で表される構成単位(いわゆるM単位)、[R2SiO2/2]で表される構成単位(いわゆるD単位)、および[SiO4/2]で表される構成単位(いわゆるQ単位)からなる群より選択される少なくとも1種のシロキサン構成単位を有していてもよい。なお、上記式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位以外のシルセスキオキサン構成単位としては、例えば、下記式(3)で表される構成単位等が挙げられる。
【化11】
【0098】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンが、上記式(I)で表される構成単位(T3体)と、上記式(II)で表される構成単位(T2体)とを有する場合、その割合[T3体/T2体]は、特に限定されないが、例えば、5以上(例えば、5以上、500以下)の範囲から適宜選択可能である。上記割合[T3体/T2体]の下限値は、好ましくは20、より好ましくは21、より好ましくは23、さらに好ましくは25である。上記割合[T3体/T2体]を5以上とすることにより、硬化物(塗膜)の表面硬度、耐擦傷性、靭性が向上する傾向がある。一方、上記割合[T3体/T2体]の上限値は、好ましくは500、より好ましくは100、より好ましくは50、さらに好ましくは40である。上記割合[T3体/T2体]を500以下とすることにより、ハードコート剤における他の成分との相溶性が向上し、粘度も抑制もされるため、取扱いが容易となり、ハードコート剤として塗工しやすくなる。
【0099】
なお、上記式(I)で表される構成単位をより詳細に記載すると、下記式(I')で表される。また、上記式(II)で表される構成単位をより詳細に記載すると、下記式(II')で表される。下記式(I')で表される構造中に示されるケイ素原子に結合した3つの酸素原子はそれぞれ、他のケイ素原子(式(I')に示されていないケイ素原子)と結合している。一方、下記式(II')で表される構造中に示されるケイ素原子の上と下に位置する2つの酸素原子はそれぞれ、他のケイ素原子(式(II')に示されていないケイ素原子)に結合している。即ち、上記T3体およびT2体は、いずれも対応する加水分解性三官能シラン化合物の加水分解および縮合反応により形成される構成単位(T単位)である。
【化12】
【化13】
【0100】
上記式(I)中のRa(式(I')中のRaも同じ)および式(II)中のRb(式(II')中のRbも同じ)は、それぞれ、活性エネルギー線硬化性官能基を含有する基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、または水素原子を示す。RaおよびRbの具体例としては、上記式(1)におけるR1、上記式(2)におけるR2と同様のものが例示される。なお、式(I)中のRaおよび式(II)中のRbは、それぞれ、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの原料として使用した加水分解性三官能シラン化合物におけるケイ素原子に結合した基(アルコキシ基およびハロゲン原子以外の基;例えば、後述の式(a)~(c)におけるR1、R2、水素原子等)に由来する。
【0101】
上記式(II)中のRc(式(II')中のRcも同じ)は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。式(II)中のRcにおけるアルキル基は、一般的には、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの原料として使用した加水分解性シラン化合物におけるアルコキシ基(例えば、後述のX1~X3としてのアルコキシ基等)を形成するアルキル基に由来する。
【0102】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおける上記割合[T3体/T2体]は、例えば、29Si-NMRスペクトル測定により求めることができる。29Si-NMRスペクトルにおいて、上記式(I)で表される構成単位(T3体)におけるケイ素原子と、上記式(II)で表される構成単位(T2体)におけるケイ素原子とは、異なる位置(化学シフト)にシグナル(ピーク)を示すため、これらそれぞれのピークの積分比を算出することにより、上記割合[T3体/T2体]が求められる。具体的には、例えば、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンが、上記式(1)で表され、R1が2-(3',4'-エポキシシクロヘキシル)エチル基である構成単位を有する場合には、上記式(I)で表される構造(T3体)におけるケイ素原子のシグナルは-64~-70ppmに現れ、上記式(II)で表される構造(T2体)におけるケイ素原子のシグナルは-54~-60ppmに現れる。従って、この場合、-64~-70ppmのシグナル(T3体)と-54~-60ppmのシグナル(T2体)の積分比を算出することによって、上記割合[T3体/T2体]を求めることができる。R1が2-(3',4'-エポキシシクロヘキシル)エチル基以外の活性エネルギー線硬化性官能基を含む基である場合も、同様にして[T3体/T2体]を求めることができる。
【0103】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの29Si-NMRスペクトルは、例えば、下記の装置および条件により測定することができる。
測定装置:商品名「JNM-ECA500NMR」(日本電子社製)
溶媒:重クロロホルム
積算回数:1800回
測定温度:25℃
【0104】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの上記割合[T3体/T2体]が上記範囲(例えば、5以上、500以下)である場合は、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおいてT3体に対して一定量のT2体存在していることを意味する。このようなT2体としては、例えば、下記式(4)で表される構成単位、下記式(5)で表される構成単位、下記式(6)で表される構成単位等が挙げられる。下記式(4)におけるR1および下記式(5)におけるR2は、それぞれ上記式(1)におけるR1および上記式(2)におけるR2と同じである。下記式(4)~(6)におけるRcは、式(II)におけるRcと同じく、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【化14】
【化15】
【化16】
【0105】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、カゴ型、不完全カゴ型、ラダー型、ランダム型のいずれのシルセスキオキサン構造を有していてもよく、これらシルセスキオキサン構造の2以上を組み合わせて有していてもよい。
【0106】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンが上記式(4)で表される構成単位を有する場合、シロキサン構成単位の全量[全シロキサン構成単位;M単位、D単位、T単位、およびQ単位の全量](100モル%)に対する、上記式(1)で表される構成単位および上記式(4)で表される構成単位の割合(総量)は、特に限定されないが、好ましくは55~100モル%であり、より好ましくは65~100モル%、さらに好ましくは80~99モル%である。上記割合を55モル%以上とすることにより、ハードコート剤の硬化性が向上し、また、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性が著しく高くなる。なお、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおける各シロキサン構成単位の割合は、例えば、原料の組成やNMRスペクトル測定等により算出できる。
【0107】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおけるシロキサン構成単位の全量[全シロキサン構成単位;M単位、D単位、T単位、およびQ単位の全量](100モル%)に対する、上記式(2)で表される構成単位および上記式(5)で表される構成単位の割合(総量)は、特に限定されないが、0~70モル%が好ましく、より好ましくは0~60モル%、さらに好ましくは0~40モル%、特に好ましくは1~15モル%である。上記割合を70モル%以下とすることにより、相対的に式(1)で表される構成単位および式(4)で表される構成単位の割合を多くすることができるため、ハードコート剤の硬化性が向上し、硬化物(塗膜)の耐擦傷性や靭性がより高くなる傾向がある。
【0108】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおけるシロキサン構成単位の全量[全シロキサン構成単位;M単位、D単位、T単位、およびQ単位の全量](100モル%)に対する、上記式(1)で表される構成単位、上記式(2)で表される構成単位、上記式(4)で表される構成単位、および上記式(5)で表される構成単位の割合(総量)は、特に限定されないが、60~100モル%が好ましく、より好ましくは70~100モル%、さらに好ましくは80~100モル%である。上記割合を60モル%以上とすることにより、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性がより高くなる傾向がある。
【0109】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、例えば、1000~50000の範囲から適宜選択することができる。数平均分子量の下限値は、好ましくは1500、より好ましくは1800、さらに好ましくは2000である。数平均分子量を1000以上とすることにより、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。一方、数平均分子量の上限値は、好ましくは50000、より好ましくは10000、さらに好ましくは8000である。数平均分子量を50000以下(例えば、3000以下)とすることにより、ハードコート剤における他の成分との相溶性が向上し、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。
【0110】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量分散度(Mw/Mn)は、特に限定されないが、1.0~4.0の範囲から適宜選択することができる。分子量分散度の下限値は、好ましくは1.0、より好ましくは1.1、さらに好ましくは1.2である。分子量分散度を1.1以上とすることにより、ハードコート剤が液状となりやすく、取り扱い性が向上する傾向がある。一方、分子量分散度の上限値は、好ましくは4.0、より好ましくは3.0、さらに好ましくは2.5である。分子量分散度を4.0以下(とすることにより、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、靭性がより高くなる傾向がある。
【0111】
なお、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの数平均分子量、分子量分散度は、下記の装置および条件により測定することができる。
測定装置:商品名「LC-20AD」(島津製作所社製)
カラム:Shodex KF-801×2本、KF-802、およびKF-803(昭和電工社製)
測定温度:40℃
溶離液:THF、試料濃度0.1~0.2質量%
流量:1mL/分
検出器:UV-VIS検出器(商品名「SPD-20A」、島津製作所社製)
分子量:標準ポリスチレン換算
【0112】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの空気雰囲気下における5%重量減少温度(Td5)は、特に限定されないが、330℃以上(例えば、330~450℃)が好ましく、より好ましくは340℃以上、さらに好ましくは350℃以上である。5%重量減少温度が330℃以上であることにより、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。特に、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンが、上記割合[T3体/T2体]が5以上500以下であって、数平均分子量が1000~50000、分子量分散度が1.0~4.0であるものであることにより、その5%重量減少温度は330℃以上に制御される。なお、5%重量減少温度は、一定の昇温速度で加熱した時に加熱前の重量の5%が減少した時点での温度であり、耐熱性の指標となる。上記5%重量減少温度は、TGA(熱重量分析)により、空気雰囲気下、昇温速度5℃/分の条件で測定することができる。
【0113】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、公知乃至慣用のポリシロキサンの製造方法により製造することができ、特に限定されないが、例えば、1種または2種以上の加水分解性シラン化合物を加水分解および縮合させる方法により製造できる。但し、上記加水分解性シラン化合物としては、上述の式(1)で表される構成単位を形成するための加水分解性三官能シラン化合物(下記式(a)で表される化合物)を必須の加水分解性シラン化合物として使用する必要がある。
【0114】
より具体的には、例えば、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおけるシルセスキオキサン構成単位(T単位)を形成するための加水分解性シラン化合物である下記式(a)で表される化合物、必要に応じてさらに、下記式(b)で表される化合物、下記式(c)で表される化合物を、加水分解および縮合させる方法により、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンを製造できる。
【化17】
【化18】
【化19】
【0115】
上記式(a)で表される化合物は、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおける式(1)で表される構成単位を形成する化合物である。式(a)中のR1は、上記式(1)におけるR1と同じく、活性エネルギー線硬化性官能基を含有する基を示す。即ち、式(a)中のR1としては、上記式(1a)で表される基、上記式(1b)で表される基、上記式(1c)で表される基、上記式(1d)で表される基が好ましく、より好ましくは上記式(1a)で表される基、上記式(1c)で表される基、さらに好ましくは上記式(1a)で表される基、特に好ましくは上記式(1a)で表される基であって、R1aがエチレン基である基[中でも、2-(3',4'-エポキシシクロヘキシル)エチル基]である。また、上述のように、式(a)中のR1としては、3-(アクリルオキシ)プロピル基、3-(メタクリルオキシ)プロピル基も好ましい。
【0116】
上記式(a)中のX1は、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。X1におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基等が挙げられる。また、X1におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でもX1としては、アルコキシ基が好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、3つのX1は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0117】
上記式(b)で表される化合物は、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおける式(2)で表される構成単位を形成する化合物である。式(b)中のR2は、上記式(2)におけるR2と同じく、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルキル基、または、置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。即ち、式(b)中のR2としては、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基が好ましく、より好ましくは置換若しくは無置換のアリール基、さらに好ましくはフェニル基である。
【0118】
上記式(b)中のX2は、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。X2の具体例としては、X1として例示したものが挙げられる。中でも、X2としては、アルコキシ基が好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、3つのX2は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0119】
上記式(c)で表される化合物は、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンにおける式(3)で表される構成単位を形成する化合物である。上記式(c)中のX3は、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。X3の具体例としては、X1として例示したものが挙げられる。中でも、X3としては、アルコキシ基が好ましく、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、3つのX3は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0120】
上記加水分解性シラン化合物としては、上記式(a)~(c)で表される化合物以外の加水分解性シラン化合物を併用してもよい。例えば、上記式(a)~(c)で表される化合物以外の加水分解性三官能シラン化合物、M単位を形成する加水分解性単官能シラン化合物、D単位を形成する加水分解性二官能シラン化合物、Q単位を形成する加水分解性四官能シラン化合物等が挙げられる。
【0121】
上記加水分解性シラン化合物の使用量や組成は、所望する本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの構造に応じて適宜調整できる。例えば、上記式(a)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、使用する加水分解性シラン化合物の全量(100モル%)に対して、55~100モル%が好ましく、より好ましくは65~100モル%、さらに好ましくは80~99モル%である。
【0122】
また、上記式(b)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、使用する加水分解性シラン化合物の全量(100モル%)に対して、0~70モル%が好ましく、より好ましくは0~60モル%、さらに好ましくは0~40モル%、特に好ましくは1~15モル%である。
【0123】
さらに、使用する加水分解性シラン化合物の全量(100モル%)に対する式(a)で表される化合物と式(b)で表される化合物の割合(総量の割合)は、特に限定されないが、60~100モル%が好ましく、より好ましくは70~100モル%、さらに好ましくは80~100モル%である。
【0124】
また、上記加水分解性シラン化合物として2種以上を併用する場合、これらの加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応は、同時に行うこともできるし、逐次行うこともできる。上記反応を逐次行う場合、反応を行う順序は特に限定されない。
【0125】
上記加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応は、1段階で行ってもよいし、2段階以上に分けて行ってもよい。例えば、上記割合[T3体/T2体]が20未満および/または数平均分子量が2500未満の本開示のポリオルガノシルセスキオキサン(以下、「低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン」と称する場合がある)を効率よく製造するためには、加水分解および縮合反応を1段階で行うことが好ましい。また、上記割合[T3体/T2体]が20以上および/または数平均分子量が2500以上の本開示のポリオルガノシルセスキオキサン(以下、「高分子量ポリオルガノシルセスキオキサン」と称する場合がある)を効率よく製造するためには、加水分解および縮合反応を2段階以上(好ましくは、2段階)で加水分解および縮合反応を行うこと、即ち、上記低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを原料としてさらに1回以上加水分解および縮合反応を行うことが好ましい。以下に、加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応を1段階で行って低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを得て、さらに低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを加水分解および縮合反応に付すことにより高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを得る態様について説明するが、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの製造方法はこれに限定されない。
【0126】
本開示の加水分解および縮合反応を2段階で行う場合、好ましくは、第1段目の加水分解および縮合反応で、上記割合[T3体/T2体]が5以上20未満であり、数平均分子量が1000以上2500未満である低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを得、第2段目で、上記低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを、さらに加水分解および縮合反応に付すことにより、上記割合[T3体/T2体]が20以上500以下であり、数平均分子量が2500以上50000以下である高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを得ることができる。
【0127】
第1段目の加水分解および縮合反応は、溶媒の存在下で行うこともできるし、非存在下で行うこともできる。中でも溶媒の存在下で行うことが好ましい。上記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール等が挙げられる。上記溶媒としては、中でも、ケトン、エーテルが好ましい。なお、溶媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0128】
第1段目の加水分解および縮合反応における溶媒の使用量は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の全量100質量部に対して、0~2000質量部の範囲内で、所望の反応時間等に応じて、適宜調整することができる。
【0129】
第1段目の加水分解および縮合反応は、触媒および水の存在下で進行させることが好ましい。上記触媒は、酸触媒であってもアルカリ触媒であってもよいが、エポキシ基等の活性エネルギー線硬化性官能基の分解を抑制するためにはアルカリ触媒が好ましい。上記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;リン酸エステル;酢酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;活性白土等の固体酸;塩化鉄等のルイス酸等が挙げられる。上記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等のアルカリ金属の有機酸塩(例えば、酢酸塩);酢酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の有機酸塩(例えば、酢酸塩);リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド;ナトリウムフェノキシド等のアルカリ金属のフェノキシド;トリエチルアミン、N-メチルピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン等のアミン類(第3級アミン等);ピリジン、2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリン等の含窒素芳香族複素環化合物等が挙げられる。なお、触媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、触媒は、水や溶媒等に溶解または分散させた状態で使用することもできる。
【0130】
第1段目の加水分解および縮合反応における上記触媒の使用量は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の全量1モルに対して、0.002~0.200モルの範囲内で、適宜調整することができる。
【0131】
第1段目の加水分解および縮合反応に際しての水の使用量は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の全量1モルに対して、0.5~20モルの範囲内で、適宜調整することができる。
【0132】
第1段目の加水分解および縮合反応における上記水の添加方法は、特に限定されず、使用する水の全量(全使用量)を一括で添加してもよいし、逐次的に添加してもよい。逐次的に添加する際には、連続的に添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。
【0133】
第1段目の加水分解および縮合反応の反応条件としては、特に、低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンにおける上記割合[T3体/T2体]が5以上20未満となるような反応条件を選択することが重要である。第1段目の加水分解および縮合反応の反応温度は、特に限定されないが、40~100℃が好ましく、より好ましくは45~80℃である。反応温度を上記範囲に制御することにより、上記割合[T3体/T2体]をより効率的に5以上20未満に制御できる傾向がある。また、第1段目の加水分解および縮合反応の反応時間は、特に限定されないが、0.1~10時間が好ましく、より好ましくは1.5~8時間である。また、第1段目の加水分解および縮合反応は、常圧下で行うこともできるし、加圧下または減圧下で行うこともできる。なお、第1段目の加水分解および縮合反応を行う際の雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下等の酸素存在下等のいずれであってもよいが、不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0134】
上記第1段目の加水分解および縮合反応により、低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンが得られる。上記第1段目の加水分解および縮合反応の終了後には、エポキシ基の開環等の活性エネルギー線硬化性官能基の分解を抑制するために触媒を中和することが好ましい。また、低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製してもよい。
【0135】
第1段目の加水分解および縮合反応により得られた低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを、第2段目の加水分解および縮合反応に付すことにより、高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを製造することができる。第2段目の加水分解および縮合反応は、溶媒の存在下で行うこともできるし、非存在下で行うこともできる。第2段目の加水分解および縮合反応を溶媒の存在下で行う場合、第1段目の加水分解および縮合反応で挙げられた溶媒を用いることができる。第2段目の加水分解および縮合反応の溶媒としては、第1段目の加水分解および縮合反応の反応溶媒、抽出溶媒等を含む低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンをそのまま、または一部留去したものを用いてもよい。なお、溶媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0136】
第2段目の加水分解および縮合反応において溶媒を使用する場合、その使用量は、特に限定されず、低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン100質量部に対して、0~2000質量部の範囲内で、所望の反応時間等に応じて、適宜調整することができる。
【0137】
第2段目の加水分解および縮合反応は、触媒および水の存在下で進行させることが好ましい。上記触媒は、第1段目の加水分解および縮合反応で挙げられた触媒を用いることができ、エポキシ基等の活性エネルギー線硬化性官能基の分解を抑制するためには、好ましくはアルカリ触媒であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩である。なお、触媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、触媒は、水や溶媒等に溶解または分散させた状態で使用することもできる。
【0138】
第2段目の加水分解および縮合反応における上記触媒の使用量は、特に限定されず、低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン(1000000ppm)に対して、好ましくは0.01~10000ppm、より好ましくは0.1~1000ppmの範囲内で、適宜調整することができる。
【0139】
第2段目の加水分解および縮合反応に際しての水の使用量は、特に限定されず、低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン(1000000ppm)に対して、好ましくは10~100000ppm、より好ましくは100~20000ppmの範囲内で、適宜調整することができる。水の使用量が100000ppmよりも大きいと、高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンの割合[T3体/T2体]や数平均分子量が、所定の範囲に制御しにくくなる傾向がある。
【0140】
第2段目の加水分解および縮合反応における上記水の添加方法は、特に限定されず、使用する水の全量(全使用量)を一括で添加してもよいし、逐次的に添加してもよい。逐次的に添加する際には、連続的に添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。
【0141】
第2段目の加水分解および縮合反応の反応条件としては、特に、高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンにおける上記割合[T3体/T2体]が20以上500以下、数平均分子量が2500~50000となるような反応条件を選択することが重要である。第2段目の加水分解および縮合反応の反応温度は、使用する触媒により変動し、特に限定されないが、5~200℃が好ましく、より好ましくは30~100℃である。反応温度を上記範囲に制御することにより、上記割合[T3体/T2体]、数平均分子量をより効率的に所望の範囲に制御できる傾向がある。また、第2段目の加水分解および縮合反応の反応時間は、特に限定されないが、0.5~1000時間が好ましく、より好ましくは1~500時間である。また、上記反応温度の範囲内にて加水分解および縮合反応を行いながら適時サンプリングを行って、上記割合[T3体/T2体]、数平均分子量をモニターしながら反応を行うことによって、所望の割合[T3体/T2体]、数平均分子量を有する高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを得ることもできる。
【0142】
第2段目の加水分解および縮合反応は、常圧下で行うこともできるし、加圧下または減圧下で行うこともできる。なお、第2段目の加水分解および縮合反応を行う際の雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下等の酸素存在下等のいずれであってもよいが、不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0143】
上記第2段目の加水分解および縮合反応により、高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンが得られる。上記第2段目の加水分解および縮合反応の終了後には、エポキシ基の開環等の活性エネルギー線硬化性官能基の分解を抑制するために触媒を中和することが好ましい。また、高分子量ポリオルガノシルセスキオキサンを、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製してもよい。
【0144】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは上述の構成を有するため、上記ポリオルガノシルセスキオキサンを必須成分として含むハードコート剤を塗工・硬化させることにより、優れた、耐擦傷性、靭性を有する硬化物(塗膜)を形成できる。
【0145】
上記ハードコート剤において本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0146】
上記ハードコート剤における本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの含有量(配合量)は、特に限定されないが、溶媒を除くハードコート剤の全量(100質量%)に対して、70質量%以上、100質量%未満が好ましく、より好ましくは80~99.8質量%、さらに好ましくは90~99.5質量%である。本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの含有量を70質量%以上とすることにより、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。一方、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの含有量を100質量%未満とすることにより、硬化剤を含有させることができ、これによりハードコート剤の硬化をより効率的に進行させることができる傾向がある。
【0147】
上記ハードコート剤に含まれる光カチオン硬化性化合物または光ラジカル硬化性化合物の全量(100質量%)に対する本開示のポリオルガノシルセスキオキサンの割合は、特に限定されないが、70~100質量%が好ましく、より好ましくは75~98質量%、さらに好ましくは80~95質量%である。光カチオン硬化性化合物または光ラジカル硬化性化合物の含有量を70質量%以上とすることにより、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。
【0148】
上記ハードコート剤は、さらに、活性化エネルギー線照射による硬化反応を促進するため硬化剤を含むことが好ましい。中でも、よりタックフリーとなるまでの硬化時間が短縮できる点で、硬化剤として光カチオン重合開始剤または光ラジカル重合開始剤を含むことが特に好ましい。
【0149】
上記光カチオン重合開示剤としては上述の光硬化性組成物に開示したものと同様のものを使用することができる。
【0150】
上記光ラジカル重合開始剤は、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン等の光ラジカル硬化性化合物の光ラジカル重合反応を開始または促進することができる化合物である。
【0151】
上記光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノンベンジル、ベンジルジメチルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジメトキシアセトフェノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ジフェニルジサルファイト、オルトベンゾイル安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2-メチル-1-[4-(メチル)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ジメチルアミノ-2-(4-モルホリノ)ベンゾイル-1-フェニルプロパン等の2-アミノ-2-ベンゾイル-1-フェニルアルカン化合物、テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ベンジル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、4,4-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゼン誘導体、2,2'-ビス(2-クロロフェニル)-4,5,4',5'-テトラフェニル-1,2'-ビイミダゾ-ル等のイミダゾール化合物、2,6-ビス(トリクロロメチル)-4-(4-メトキシナフタレン-1-イル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチル化トリアジン化合物、2-トリクロロメチル-5-(2-ベンゾフラン2-イル-エテニル)-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチルオキサジアゾール化合物等を挙げることができる。また、必要に応じて、光増感剤を加えることができる。
【0152】
なお、上記ハードコート剤において上記硬化剤は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0153】
上記ハードコート剤における上記硬化剤の含有量(配合量)は、特に限定されないが、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、および後述のその他の活性エネルギー線硬化性化合物の総量(100質量部;活性エネルギー線硬化性化合物の全量)に対して、0.01~10.0質量部が好ましく、より好ましくは0.05~5.0質量部、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。硬化剤の含有量を0.01質量部以上とすることにより、硬化反応を効率的に十分に進行させることができ、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。一方、硬化剤の含有量を5.0質量部以下とすることにより、ハードコート剤の保存性がいっそう向上したり、硬化物(塗膜)の着色が抑制される傾向がある。
【0154】
上記ハードコート剤は、さらに、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン以外の活性エネルギー線硬化性化合物(「その他の活性エネルギー線硬化性化合物」と称する場合がある)を含んでいてもよい。その他の活性エネルギー線硬化性化合物としては、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン以外の光カチオン硬化性化合物(「その他の光カチオン硬化性化合物」と称する場合がある)および/または本開示のポリオルガノシルセスキオキサン以外の光ラジカル硬化性化合物(「その他の光ラジカル硬化性化合物」と称する場合がある)が挙げられる。
【0155】
その他の光カチオン硬化性化合物としては、公知乃至慣用の光カチオン硬化性化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。なお、上記ハードコート剤においてその他の光カチオン硬化性化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0156】
上記エポキシ化合物、オキセタン化合物としては上述の光硬化性組成物において記載したものと同様のものを例示することができる。
【0157】
上記ビニルエーテル化合物としては、分子内に1以上のビニルエーテル基を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル(エチレングリコールモノビニルエーテル)、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1-メチル-3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1-メチル-2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1-ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,8-オクタンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,3-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,2-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、p-キシレングリコールモノビニルエーテル、p-キシレングリコールジビニルエーテル、m-キシレングリコールモノビニルエーテル、m-キシレングリコールジビニルエーテル、o-キシレングリコールモノビニルエーテル、o-キシレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールジビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールジビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールジビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、イソソルバイドジビニルエーテル、オキサノルボルネンジビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ハイドロキノンジビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ビスフェノールAジビニルエーテル、ビスフェノールFジビニルエーテル、ヒドロキシオキサノルボルナンメタノールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル等が挙げられる。
【0158】
上記ハードコート剤においては、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンとともにその他の光カチオン硬化性化合物としてエポキシ化合物を併用することが好ましい。
【0159】
その他の光ラジカル硬化性化合物としては、公知乃至慣用の光ラジカル硬化性化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン以外の(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルオキシ基、(メタ)アクリルアミノ基、ビニルエーテル基、ビニルアリール基、ビニルオキシカルボニル基等の光ラジカル重合性基を1分子内に1つ以上有する化合物が挙げられる。なお、上記ハードコート剤においてその他の光ラジカル硬化性化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0160】
(メタ)アクリル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、1-ブテン-3-オン、1-ペンテン-3-オン、1-ヘキセン-3-オン、4-フェニル-1-ブテン-3-オン、5-フェニル-1-ペンテン-3-オン等、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0161】
(メタ)アクリルオキシ基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、(メタ)アクリルオキシ基を1分子内に1つ以上有するモノマーまたはオリゴマーが挙げられる。
【0162】
(メタ)アクリルオキシ基を1分子内に1つ以上有するモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、n-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2-(メタ)アクリルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリルオキシエチルアシッドフォスフェート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、γ-(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリルオキシエチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリルオキシ)エチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、3-(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0163】
(メタ)アクリルオキシ基を1分子内に1つ以上有するオリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0164】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリカーボネート系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート、カプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとの反応により得ることができる。上記ポリオールとしては、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールが挙げられる。
【0165】
エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂のオキシラン環とアクリル酸とのエステル化反応により得られる。
【0166】
ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリオールの脱水縮合反応によって両末端に水酸基を有するポリエーテルオリゴマーを得、次いで、その両末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
【0167】
ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリカルボン酸とポリオールの縮合によって両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーを得、次いで、その両末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
【0168】
(メタ)アクリルオキシ基を1分子内に1つ以上有するオリゴマーの重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、特に500~50,000であることが好ましい。
【0169】
(メタ)アクリルアミノ基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、4-(メタ)アクリルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド等、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0170】
ビニルエーテル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、3,3-ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1-メチル-3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1-メチル-2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1-ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、p-キシレングリコールモノビニルエーテル、m-キシレングリコールモノビニルエーテル、o-キシレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0171】
ビニルアリール基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、スチレン、ジビニルベンゼン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、酢酸4-ビニルフェニル、(4-ビニルフェニル)ジヒドロキシボラン、N-(4-ビニルフェニル)マレイミド等、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0172】
ビニルオキシカルボニル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、ギ酸イソプロペニル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル、酪酸イソプロペニル、イソ酪酸イソプロペニル、カプロン酸イソプロペニル、吉草酸イソプロペニル、イソ吉草酸イソプロペニル、乳酸イソプロペニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0173】
なお、上記ハードコート剤においてその他の活性エネルギー線硬化性化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0174】
上記ハードコート剤がその他の活性エネルギー線硬化性化合物を含む場合、その含有量(配合量)は、特に限定されないが、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、およびその他の活性エネルギー線硬化性化合物の総量(100質量%;活性エネルギー線硬化性化合物の全量)に対して、3~50質量%が好ましく、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは7~30質量%である。その他の活性エネルギー線硬化性化合物の含有量を50質量%以下とすることにより、硬化物(塗膜)の、耐擦傷性、靭性がより向上する傾向がある。一方、その他の活性エネルギー線硬化性化合物の含有量を3質量%以上とすることにより、ハードコート剤や硬化物(塗膜)に対して所望の性能(例えば、ハードコート剤に対する速硬化性や粘度調整等)を付与することができる場合がある。
【0175】
上記ハードコート剤がビニルエーテル化合物(特に、分子内に1個以上の水酸基を有するビニルエーテル化合物)を含む場合、その含有量(配合量)は、特に限定されないが、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、その他の活性エネルギー線硬化性化合物の総量(100質量%;活性エネルギー線硬化性化合物の全量)に対して、0.01~10質量%が好ましく、より好ましくは0.05~9質量%、さらに好ましくは1~8質量%である。ビニルエーテル化合物の含有量を上記範囲に制御することにより、硬化物(塗膜)の表面硬度がより高くなり、活性エネルギー線(例えば、紫外線)の照射量を低くした場合であっても表面硬度が非常に高い硬化物(塗膜)が得られる傾向がある。特に、分子内に1個以上の水酸基を有するビニルエーテル化合物の含有量を上記範囲に制御することにより、硬化物(塗膜)の表面硬度が特に高くなる傾向がある。
【0176】
上記ハードコート剤は、酸化防止剤を含むことが好ましい。上記ハードコート剤が酸化防止剤を含むことにより、硬化物(塗膜)のがより向上する傾向がある。
【0177】
酸化防止剤としては、公知乃至慣用の酸化防止剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤(フェノール系化合物)、ヒンダードアミン系酸化防止剤(ヒンダードアミン系化合物)、リン系酸化防止剤(リン系化合物)、イオウ系酸化防止剤(イオウ系化合物)等が挙げられる。
【0178】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール類;2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のビスフェノール類;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3'-ビス-(4'-ヒドロキシ-3'-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェノール等の高分子型フェノール類等が挙げられる。
【0179】
上記ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0180】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2、4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、ビス[2-t-ブチル-6-メチル-4-{2-(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイト等のホスファイト類;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド等のオキサホスファフェナントレンオキサイド類等が挙げられる。
【0181】
上記イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ドデカンチオール、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3'-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3'-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0182】
中でも、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤が好ましく、特に、フェノール系酸化防止剤が好ましい。なお、上記ハードコート剤において酸化防止剤は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0183】
上記ハードコート剤が酸化防止剤を含む場合、その含有量(配合量)は、特に限定されないが、ハードコート剤に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物の全量(100質量部)に対して、0.05~5質量部が好ましく、より好ましくは0.1~3質量部である。酸化防止剤の含有量が0.05質量部未満であると、硬化物(塗膜)のが不十分となる場合がある。一方、酸化防止剤の含有量が5質量部を超えると、硬化物(塗膜)が着色しやすくなる場合がある。
【0184】
上記ハードコート剤は、1分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物(以下、「化合物A」と称する場合がある。)を含むことが好ましい。上記ハードコート剤が、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンと共に化合物Aを含むことにより、硬化物としたときの架橋密度を効果的に高めることができ、硬化物(塗膜)に高い表面硬度と優れたが付与されやすくなる。
【0185】
化合物Aが有する「熱重合性官能基」は、化合物Aに熱により重合性を付与する官能基である限り特に限定されないが、例えば、水酸基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等が挙げられ、本開示の塗膜の表面硬度、の観点から、水酸基、エポキシ基が好ましい。なお、化合物Aが2個以上の熱重合性官能基を有する場合、これらの熱重合性官能基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0186】
化合物Aが有する「光重合性官能基」は、化合物Aに光(例えば、紫外線)により重合性を付与する官能基である限り特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等が挙げられ、本開示の塗膜の表面硬度、の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。なお、化合物Aが2個以上の光重合性官能基を有する場合、これらの光重合性官能基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0187】
化合物Aが1分子内に有する熱重合性官能基の数は1個以上であればよく、特に限定されないが、例えば、1~5個が好ましく、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1個または2個である。また、化合物Aが1分子内に有する光重合性官能基の数は1個以上であればよく、特に限定されないが、例えば、1~5個が好ましく、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1個または2個である。
【0188】
化合物Aの熱重合性官能基の官能基当量は、特に限定されないが、50~500が好ましく、より好ましくは80~480、さらに好ましくは120~450である。上記官能基当量が50未満であると、硬化物(塗膜)のが不十分となる場合がある。一方、上記官能基当量が500を超えると、硬化物(塗膜)の表面硬度が低下する場合がある。なお、化合物Aの熱重合性官能基の官能基当量は、下記式により算出することができる。
[熱重合性官能基の官能基当量]=[化合物Aの分子量]/[化合物Aが有する熱重合性官能基の数]
【0189】
化合物Aの光重合性官能基の官能基当量は、特に限定されないが、50~500が好ましく、より好ましくは80~480、さらに好ましくは120~450である。上記官能基当量が50未満であると、硬化物(塗膜)のが不十分となる場合がある。一方、上記官能基当量が500を超えると、硬化物(塗膜)の表面硬度が低下する場合がある。なお、化合物Aの光重合性官能基の官能基当量は、下記式により算出することができる。
[光重合性官能基の官能基当量]=[化合物Aの分子量]/[化合物Aが有する光重合性官能基の数]
【0190】
化合物Aとしては、具体的には、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート(トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルの両方のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応させて得られる化合物)、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルの一方のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応させて得られる化合物)、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート(ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両方のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応させて得られる化合物)、ビスフェノールAエポキシハーフ(メタ)アクリレート(ビスフェノールAジグリシジルエーテルの一方のエポキシ基に(メタ)アクリル酸またはその誘導体を反応させて得られる化合物)、ビスフェノールFエポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエポキシハーフ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSエポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSエポキシハーフ(メタ)アクリレート等の1分子内にエポキシ基およびまたは水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物;3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-ブチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-へキシル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート等の1分子内にオキセタニル基と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物;(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等の1分子内にビニルエーテル基と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物等が挙げられる。
【0191】
硬化物(塗膜)のおよび表面硬度の観点から、化合物Aとしては、1分子内に熱重合性官能基としてエポキシ基および/または水酸基と、光重合性官能基として(メタ)アクリロイル基とを有する化合物が好ましく、具体的は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシハーフ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエポキシハーフ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSエポキシハーフ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0192】
なお、上記ハードコート剤において化合物Aは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。化合物Aは、公知の方法により製造することができ、例えば、1分子内に2個以上の熱重合性官能基(例えば、エポキシ基、水酸基)を有する化合物の上記熱重合性官能基の一部を、光重合性官能基を有するカルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸等)またはその誘導体と反応させる方法等により得られる。
【0193】
上記ハードコート剤における上記化合物Aの含有量(配合量)は、特に限定されないが、固形分として、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、その他の活性エネルギー線硬化性化合物の総量(活性エネルギー線硬化性化合物の全量)100重部に対して、1.0~100質量部が好ましく、より好ましくは1.3~75質量部、さらに好ましくは1.5~50質量部である。化合物Aの含有量を1質量部以上とすることにより、硬化物(塗膜)のがより向上する傾向がある。一方、化合物Aの含有量を100質量部以下とすることにより、硬化物(塗膜)の表面硬度を維持できる傾向がある。
【0194】
上記ハードコート剤は、フッ素含有光重合性樹脂を含むことが好ましい。フッ素含有光重合性樹脂は、分子内にフルオロ脂肪族炭化水素骨格等のフッ素含有基と光重合性官能基を有する樹脂(オリゴマー)である。上記ハードコート剤が、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンや化合物Aと共にフッ素含有光重合性樹脂を含むことにより、硬化物としたときの塗膜表面の架橋密度を効果的に高めることができ、硬化物(塗膜)の表面の平滑性等の外観を向上させ、表面硬度、耐擦傷性、および防汚性を向上させる性質を有する。特に、フッ素含有光重合性樹脂は、化合物Aと共にハードコート剤に配合されることにより、その効果は顕著となる。
【0195】
フッ素含有光重合性樹脂が有する光重合性官能基としては、上記の化合物Aが有する「光重合性官能基」と同様のものが挙げられ、本開示の塗膜の耐擦傷性、防汚性の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。なお、フッ素含有光重合性樹脂が2個以上の光重合性官能基を有する場合、これらの光重合性官能基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0196】
上記フッ素含有光重合性樹脂が1分子内に有する光重合性官能基の数は1個以上であればよく、特に限定されないが、例えば、1~5個が好ましく、より好ましくは1~3個である。
【0197】
上記フッ素含有光重合性樹脂が有する「フッ素含有基」は、フッ素原子を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、フルオロ脂肪族炭化水素骨格を有するものが挙げられる。フルオロ脂肪族炭化水素骨格としては、例えばフルオロメタン、フルオロエタン、フルオロプロパン、フルオロイソプロパン、フルオロブタン、フルオロイソブタン、フルオロt-ブタン、フルオロペンタン、フルオロヘキサン等のフルオロC1-10アルカン等を挙げることができる。
【0198】
これらのフルオロ脂肪族炭化水素骨格は、少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されていればよいが、塗膜の耐擦傷性、滑り性および防汚性を向上できる点から、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロ脂肪族炭化水素骨格が好ましい。
【0199】
さらに、フルオロ脂肪族炭化水素骨格は、エーテル結合を介した繰り返し単位であるポリフルオロアルキレンエーテル骨格を形成していてもよい。繰り返し単位としてのフルオロ脂肪族炭化水素基は、フルオロメチレン、フルオロエチレン、フルオロプロピレン、フルオロイソプロピレン等のフルオロC1-4アルキレン基からなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。ポリフルオロアルキレンエーテル単位の繰り返し数(重合度)は、例えば10~3000であり、好ましくは30~1000であり、より好ましくは50~500である。
【0200】
上記フッ素含有光重合性樹脂は、上記の「光重合性官能基」、「フッ素含有基」に加えて、シリコーン含有基を有していてもよい。フッ素含有光重合性樹脂が、さらにシリコーン含有基を有することにより、本開示のポリオルガノシルセスキオキサンとの親和性が向上し、硬化物(塗膜)の表面硬度、耐擦傷性、防汚性が、さらに向上する傾向がある。シリコーン含有基はポリオルガノシロキサン骨格を有する基であり、M単位、D単位、T単位、Q単位で形成されたポリオルガノシロキサンであればよいが、通常、D単位で形成されたポリオルガノシロキサンが好ましく使用される。ポリオルガノシロキサンの有機基としては、通常、C1-4アルキル基、アリール基が使用され、メチル基、フェニル基(特にメチル基)が汎用される。シロキサン単位の繰り返し数(重合度)は、例えば2~3000であり、好ましくは3~2000であり、より好ましくは5~1000である。
【0201】
これらのフッ素含有光重合性樹脂は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0202】
上記ハードコート剤における上記フッ素含有光重合性樹脂の含有量(配合量)は、特に限定されないが、固形分として、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、その他の活性エネルギー線硬化性化合物の総量(活性エネルギー線硬化性化合物の全量)100重部に対して、例えば0.01~15質量部、好ましくは0.02~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部、さらに好ましくは0.04~3質量部である。フッ素含有光重合性樹脂の含有量を0.01質量部以上とすることにより、硬化物(塗膜)の耐擦傷性、防汚性がより向上する傾向がある。
【0203】
上記ハードコート剤は表面調整剤を含有することが好ましい。上記表面調整剤としては公知乃至慣用の消泡、レベリング、ワキ防止等の目的で添加される化合物を使用することができる。
【0204】
上記消泡剤、レベリング剤、ワキ防止剤としては、例えば、ブタジエン、アクリルおよびオレフィン等をポリマー主成分あるいは、シリコーンおよびフッ素変性シリコーン等のシリコーン系主成分から選ばれる主成分から成る水系あるいは非水系の化合物を使用することができる。
【0205】
上記ハードコート剤における上記表面調整剤の含有量(配合量)は、特に限定されないが、固形分として、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、その他の活性エネルギー線硬化性化合物の総量(活性エネルギー線硬化性化合物の全量)100重部に対して、例えば0.01~15質量部、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.2~3質量部である。表面調整剤の含有量を0.01質量部以上とすることにより、硬化物(塗膜)のレベリング性がより向上する傾向がある。
【0206】
上記ハードコート剤には、好ましくは溶剤がさらに含有されていてもよい。溶剤としては、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン、および必要に応じて使用される添加物を溶解することができ、且つ重合を阻害しないものであれば特に制限されることはない。
【0207】
溶剤は、ハードコート層に塗布するのに適した流動性を付与することができ、且つ重合の進行を抑制可能な温度において加熱することにより容易に除去できる溶剤を使用することが好ましく、沸点(1気圧における)が170℃以下の溶剤(例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類等)を1種または2種以上使用することが好ましい。
【0208】
溶剤は、ハードコート剤に含まれる不揮発分の濃度が例えば5~100質量%程度、好ましくは10~80質量%、特に好ましくは20~70質量%となる範囲で使用することが、塗布性に優れる点で好ましい。ただし、添加量は適度な膜厚が達成できる粘度に調整されるべき最適な添加量を選択すべきで上記範囲に限定されるものではない。すなわち、溶剤の使用量が過剰であると、ハードコート剤の粘度が低くなり適度な膜厚の塗膜を形成することが困難となる傾向がある。一方、溶剤の使用量が少なすぎると、ハードコート剤の粘度が高くなりすぎ、ガラス代替基材に均一に塗布することが困難となる傾向がある。
【0209】
上記ハードコート剤は、さらに、その他任意の成分として、沈降シリカ、湿式シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、酸化チタン、アルミナ、ガラス、石英、アルミノケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の無機質充填剤、これらの充填剤をオルガノハロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物により処理した無機質充填剤;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の有機樹脂微粉末;銀、銅等の導電性金属粉末等の充填剤、硬化助剤、安定化剤(耐光安定剤、熱安定化剤、重金属不活性化剤等)、紫外線吸収剤(トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、オキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤)、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤等)、難燃助剤、補強材(他の充填剤等)、核剤、カップリング剤(シランカップリング剤等)、滑剤、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃改良剤、色相改良剤、透明化剤、レオロジー調整剤(流動性改良剤等)、加工性改良剤、着色剤(染料、顔料等)、帯電防止剤、分散剤、表面改質剤(スリップ剤等)、艶消し剤、消泡剤、抑泡剤、脱泡剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、光増感剤、発泡剤等の慣用の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0210】
上記ハードコート剤は、特に限定されないが、上記の各成分を室温でまたは必要に応じて加熱しながら攪拌・混合することにより調製することができる。なお、上記ハードコート剤は、各成分があらかじめ混合されたものをそのまま使用する1液系の組成物として使用することもできるし、例えば、別々に保管しておいた2以上の成分を使用前に所定の割合で混合して使用する多液系(例えば、2液系)の組成物として使用することもできる。
【0211】
上記ハードコート剤は、特に限定されないが、常温(約25℃)で液体であることが好ましい。より具体的には、上記ハードコート剤は、溶媒20%に希釈した液[特に、メチルイソブチルケトンの割合が20質量%であるハードコート剤溶液]の25℃における粘度として、300~20000mPa・sが好ましく、より好ましくは500~10000mPa・s、さらに好ましくは1000~8000mPa・sである。上記粘度を300mPa・s以上とすることにより、硬化物(塗膜)のがより向上する傾向がある。一方、上記粘度を20000mPa・s以下とすることにより、ハードコート剤の調製や取り扱いが容易となり、また、硬化物(塗膜)中に気泡が残存しにくくなる傾向がある。なお、上記ハードコート剤の粘度は、粘度計(商品名「MCR301」、アントンパール社製)を用いて、振り角5%、周波数0.1~100(1/s)、温度:25℃の条件で測定される。
【0212】
調製した上記ハードコート剤を上記アンダーコート層上に公知乃至慣用の方法で塗工、硬化することにより、基材、アンダーコート層、ハードコート層の3層構造を有する積層体を作製することができる。
【0213】
上記ハードコート層の塗工、硬化方法としては上述のアンダーコート層で例示したものと同様の方法で実施することができる。なお、ハードコート層の硬化においては紫外線を照射する場合には、例えば積算照射量が1~5000mJ/cm2程度とすることが好ましい。
【0214】
具体的な硬化条件としては、特に限定されないが、例えば、上記ハードコート剤を、まず、好ましくは60℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上で、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは60秒以上熱処理(プレベイク)し、次いで、紫外線を照射し(照射条件(照射量):好ましくは300mJ/cm2以上;照射強度:100mW/cm2以上)、最後に、好ましくは120℃以上で、好ましくは0.5時間以上熱処理(エージング)することによって硬化させることができる。ただし、硬化条件はこの範囲に限定されるものではなく、プリベイク温度、時間、およびエージング温度、時間は使用する溶剤により適宜選択でき、また、紫外線照射条件も使用する硬化剤により適宜選択できる。
【0215】
上記ハードコート剤は上述のように、塗工、硬化させることによって、高い、耐擦傷性と表面硬度、靭性を有するハードコート層を形成できる。このようにして作製した積層体は密着性に優れながら、ハードコート層の表面硬度を向上させることができる。
【0216】
上記ハードコート層の厚さは0.5~50μmであることが好ましく、より好ましくは1~40μmであり、特に好ましくは3~30μmである。表面硬度が0.5μm以上であることにより、表面硬度を向上させることが容易となる。
【0217】
上記積層体のハードコート層表面の鉛筆硬度は6H以上であることが好ましく、より好ましくは7H以上であり、特に好ましくは8H以上である。なお、鉛筆硬度は、JIS K5600-5-4(750g荷重)に記載の方法に準じて評価することができる。上記鉛筆硬度が6H以上であることにより、上記積層体は十分な表面硬度を有し、耐擦傷性に優れる傾向にある。
【0218】
また、上記積層体はJIS K5600-5-6に従って、ハードコート層側から1mmの間隔でカッター刃で掻いて、格子状に100個の升目を作り、粘着テープで貼り付け、90°方向に引き剥がして、コーティングの表面が粘着テープについてから剥離するかを目視確認した際に、90個以上が残存することが好ましく、より好ましくは95個以上であり、特に好ましくは100個である。90個以上が積層体上に残存することにより、ハードコート層とアンダーコート層が十分な密着性を発揮することを確認することができる。
【0219】
[表示装置]
本開示の一実施形態として、上記積層体を備えた表示装置が挙げられる。上記標記装置において上記積層体は、例えば、ハードコート層が視認側の表面を構成するように配置される。上記表示装置は特に限定されず、例えば有機EL表示装置、無機EL表示装置、液晶表示装置等の表示装置が挙げられる。上記表示装置は、ハードコート層表面が十分な鉛筆硬度を有するため、表面に傷が生じにくい。また、上記表示装置は、屈曲または巻回等が可能なフレキシブルディスプレイとして用いることもできる。
【0220】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。また、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【実施例0221】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0222】
実施例1~6、比較例1~9
表1に示す配合比の混合溶液を作製し、これを光硬化性組成物として使用した。上記で得られた光硬化性組成物を硬化後の厚さが10μmになるようにワイヤーバー♯12を用いて、ガラス基材(スライドガラス)の表面に塗工した後、LEDランプを用いて3000mJ/cm2の照度で紫外線を照射した。その後150℃のオーブンで30分熱処理することによりアンダーコート層を作製した。
【0223】
[評価]
上記作製したアンダーコート層に対して、以下の評価を実施し、その結果を表1に記載した。なお、表1中の「-」は評価しなかった、またはできなかったことを示す。
【0224】
(1)密着性試験
上記アンダーコート層表面にJIS K5600-5-6に従って、1mmの間隔でカッター刃で掻いて、格子状に100個の升目を作り、粘着テープで貼り付け、90°方向に引き剥がして、コーティングの表面が粘着テープについてから剥離するかを目視確認した。90個以上密着していた場合を〇、90個未満の場合を×とした。
【0225】
(2)外観(はじき)
上記アンダーコート層を目視確認した際に、ガラス基材上に均一に塗工できたものを◎、ガラス基材上に塗工できたものを○、ガラス基材上にはじきが発生したものを×として評価した。
【0226】
【表1】
【0227】
表1に記載の各成分に関しては以下に詳述する。
KR-470:商品名「KR-470」 信越化学工業社製 (脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサン)
A-1:3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(脂環式エポキシ化合物)
A-2:3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキシル(脂環式エポキシ化合物)
YX7400N:商品名「YX7400N」 三菱ケミカル社製(脂肪族エポキシ化合物)
エポライト1600:商品名「エポライト1600」 1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル 共栄化学社製(脂肪族エポキシ化合物)
OXT-101:商品名「OXT-101」 東亞合成社製(オキセタン化合物)
CPI-101A:商品名「CPI-101A」 サンアプロ社製(光重合開始剤)
【0228】
製造例1
(ポリオルガノシルセスキオキサンの製造)
温度計、攪拌装置、還流冷却器、および窒素導入管を取り付けた1000ミリリットルのフラスコ(反応容器)に、窒素気流下で2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン277.2ミリモル(68.30g)、フェニルトリメトキシシラン3.0ミリモル(0.56g)、およびアセトン275.4gを仕込み、50℃に昇温した。このようにして得られた混合物に、5%炭酸カリウム水溶液7.74g(炭酸カリウムとして2.8ミリモル)を5分で添加した後、水2800.0ミリモル(50.40g)を20分かけて添加した。なお、添加の間、著しい温度上昇は起こらなかった。その後、50℃のまま、重縮合反応を窒素気流下で5時間行った。
その後、反応溶液を冷却すると同時に、メチルイソブチルケトン137.70gと5%食塩水100.60gとを投入した。この溶液を1Lの分液ロートに移し、再度メチルイソブチルケトン137.70gを投入し、水洗を行った。分液後、水層を抜き取り、下層液が中性になるまで水洗を行い、上層液を分取した後、1mmHg、50℃の条件で上層液から溶媒を留去し、メチルイソブチルケトンを23質量%含有する無色透明で液状の生成物(エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン:SQ1)を75.18g得た。
なお、生成物を分析したところ、数平均分子量は2235であり、分子量分散度は1.54であった。上記生成物の29Si-NMRスペクトルから算出されるT2体とT3体の割合[T3体/T2体]は11.9であった。得られたエポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンの1H-NMR、29Si-NMRにより確認を行った。
なお、生成物の分子量の測定は、ポンプ:Shimadzu LC-20AD、検出器:Shodex RI-504、カラム:Shodex GPC KF-602、KF-603、ガードカラム:Shodex GPC KF-G、溶媒:THF、測定条件:40℃により行った。また、生成物におけるT2体とT3体の割合[T3体/T2体]の測定は、JEOL ECA500(500MHz)による29Si-NMRスペクトル測定により行った。
【0229】
(ハードコート剤の調製)
上記エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン(SQ1)に表2に記載の構成比率となるよう各材料を混合し、ハードコート剤を調製した。
【0230】
【表2】
【0231】
表2で使用した各成分に関しては以下に詳述する。
200PA-E5:商品名「エポキシエステル200PA-E5」、共栄社化学社製(1分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)
エポライト1600N:商品名「エポライト1600N」 共栄社化学社製(その他の光カチオン硬化性化合物)
Omnirad127:商品名「Omnirad127」、IGM Resins B.V.社製(光ラジカル重合開始剤)
CPI-310FG:商品名「CPI-310FG」、サンアプロ社製(光カチオン重合開始剤)
アデカスタブ AO-02:商品名「アデカスタブ AO-02」、ADEKA社製(酸化防止剤)
FT602A:商品名「フタージェント602」、ネオス社製(フッ素含有光重合性樹脂)
KY1203:商品名「KY1203」、信越化学工業社製(表面調整剤)
MIBK:メチルイソブチルケトン(溶媒)
MEK:メチルエチルケトン(溶媒)
【0232】
実施例7~12
実施例1~6で作製したアンダーコート層上に、さらに製造例1で作製したハードコート剤を硬化後のハードコート層の厚さが20μmになるようにワイヤーバー♯24を用いて塗工した後、80℃のオーブンで1分間放置し、120℃のオーブンで2分間放置し、次いで、高圧水銀ランプを用いて、300mJ/cm2の照度で紫外線を照射した。その後120℃のオーブンで60分間熱処理することによってハードコート剤を硬化させて、実施例7~12の積層体を作製した。
【0233】
[評価]
上記積層体に対して、以下の評価を実施し、その結果を表3に記載した。
【0234】
(1)密着性試験
上記積層体のハードコート層表面に上述のアンダーコート層に実施した試験と同様の密着性試験を実施し、90個以上密着していた場合を〇、90個未満の場合を×とした。
【0235】
(2)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4(750g荷重)に準じてハードコート層表面の鉛筆硬度を測定した。
【0236】
【表3】
【0237】
表1に示した通り、本開示の光硬化性組成物は脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物とを含み、上記脂環式エポキシ基を2つ以上含むオルガノシロキサンの含有量が溶媒を除く組成物全量に対して30~70質量%であることで基材に対して容易に塗工でき、十分な密着性を発揮できることを確認した(実施例1~6)。一方で、上記第1のエポキシ化合物を含まない場合、または過剰に含有する場合、基材への塗工性に劣ることが確認された(比較例2~5、7)。また、第1のエポキシ化合物の含有量が少ない場合、基材に塗工することは可能である一方、基材への密着性に劣る結果となった(比較例1)。さらに、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物を含まない例でも、基材に容易に塗工することは可能である一方、基材への密着性に劣る結果となった(比較例8、9)。
また、表3に示した通り、基材に本開示の実施例のアンダーコート層、ハードコート層を積層した積層体では、高い鉛筆硬度を有し、耐擦傷性に優れることが示された(実施例7~12)。
【0238】
以下本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]
脂環式エポキシ基を2以上含むオルガノシロキサンである第1のエポキシ化合物と、第2のエポキシ化合物と、第3のエポキシ化合物またはオキセタン化合物とを含み、
前記第1のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して30~70質量%である光硬化性組成物。
[付記2]
前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物と前記オキセタン化合物とを含有する付記1に記載の光硬化性組成物。
[付記3]
前記第2のエポキシ化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して20~60質量%である付記1または2に記載の光硬化性組成物。
[付記4]
前記オキセタン化合物の含有量が硬化性化合物の全量に対して5~25質量%である付記1~3のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[付記5]
付記1~4のいずれか1つに記載の光硬化性組成物からなる硬化物であるアンダーコート層。
[付記6]
厚みが0.1~15μmである付記5に記載のアンダーコート層。
[付記7]
基材と前記基材の少なくとも一方の面に形成された付記5または6に記載のアンダーコート層と、ハードコート層とがこの順に積層された積層体。
[付記8]
前記基材がガラス基材である付記7に記載の積層体。
[付記9]
前記ハードコート層が硬化型樹脂として硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含む付記7または8に記載の積層体。
[付記10]
前記ハードコート層表面の鉛筆硬度が6H以上である付記7~9のいずれか1つに記載の積層体。
[付記11]
前記ハードコート層の表面に1mm間隔で格子状に100個のマス目を作製し、粘着テープを貼り付け、90℃方向に引きはがした際に90個以上が残存している付記7~10のいずれか1つに記載の積層体。
[付記12]
付記7~11のいずれか1つに記載の積層体を備える表示装置。