(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087551
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】プレキャスト合成床材及び建物
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
E04B5/02 C
E04B5/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202438
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌尚
(72)【発明者】
【氏名】松野 巧
(72)【発明者】
【氏名】畔柳 歩
(72)【発明者】
【氏名】永岡 久
(57)【要約】
【課題】ノロ漏れが発生し難く、応力を伝達可能なスラブを形成できるプレキャスト合成床材及び建物を提供する。
【解決手段】プレキャスト合成床材11は、木質版22とコンクリート版24とを一体化した板状のプレキャスト床版20Bと、コンクリート版24の一端辺に形成され、プレキャスト床版20Bと、隣に配置される他のプレキャスト床版と、を突き合わせて固定可能とする床版固定部30と、コンクリート版24の一端辺と直交する他端辺に形成され、建物の躯体(コア12)に支持される床版支持部40と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質版とコンクリート版とを一体化した板状のプレキャスト床版と、
前記コンクリート版の一端辺に形成され、前記プレキャスト床版と、隣に配置される他のプレキャスト床版と、を突き合わせて固定可能とする床版固定部と、
前記コンクリート版の一端辺と直交する他端辺に形成され、建物の躯体に支持される床版支持部と、
を備えたプレキャスト合成床材。
【請求項2】
前記床版固定部は、
前記コンクリート版に設けられた切欠き部と、
鋼製の板材を上面視で枠状に組み付けて形成され、前記切欠き部に配置された箱部材と、
前記コンクリート版から突出して前記板材を貫通するアンカーボルトと、
前記箱部材の内側で前記アンカーボルトへ捩じ込まれるナットと、
を備えている、
請求項1に記載のプレキャスト合成床材。
【請求項3】
コア部分及び前記コア部分を取り囲む外周部にそれぞれ配置された躯体と、
木質版とコンクリート版とを一体化した板状のプレキャスト床版と、を有し、
前記プレキャスト床版は、
前記コンクリート版の一端辺が、隣り合う前記プレキャスト床版のコンクリート版に固定された床版固定部と、
前記コンクリート版の一端辺と直交する他端辺に形成され、建物の躯体に支持された床版支持部と、
を有する、
建物。
【請求項4】
前記プレキャスト床版よりコンクリート版の厚みが大きい第二プレキャスト床版を備え、
前記第二プレキャスト床版と前記躯体とは、前記第二プレキャスト床版及び前記躯体から突出する床配筋同士の重ね接手と、現場打ちコンクリートと、で固定され、
前記第二プレキャスト床版と前記プレキャスト床版とは前記床版固定部で固定されている、
請求項3に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト合成床材及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、木質層の上面にコンクリート層又はモルタル層が接合された耐力板部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された耐力板部材では、木質層の上面にコンクリート又はモルタルを打設することにより、コンクリート層又はモルタル層が形成される。また、上記特許文献1には、コンクリート層をプレキャストコンクリートで形成してもよい旨も示されている。
【0005】
例えば木質層の上面にコンクリートを打設する場合、コンクリートが隣り合う耐力板部材の境界を伝ってノロ漏れが発生し易いが、このようなノロ漏れは、美観上、抑制することが好ましい。そこで、コンクリート層をプレキャストコンクリートにすると、ノロ漏れを抑制し易い。しかし、コンクリート層をプレキャストコンクリートにする場合、トラックなどで運搬できるサイズに耐力板部材を分割して形成する必要があり、この場合、プレキャストコンクリート同士で応力を伝達することが難しい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、ノロ漏れが発生し難く、応力を伝達可能なスラブを形成できるプレキャスト合成床材及び建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のプレキャスト合成床材は、木質版とコンクリート版とを一体化した板状のプレキャスト床版と、前記コンクリート版の一端辺に形成され、前記プレキャスト床版と、隣に配置される他のプレキャスト床版と、を突き合わせて固定可能とする床版固定部と、前記コンクリート版の一端辺と直交する他端辺に形成され、建物の躯体に支持される床版支持部と、を備える。
【0008】
請求項1のプレキャスト合成床材は、木質版とコンクリート版とが一体化した板状のプレキャスト床版を備えている。プレキャスト床版は、工場等で製作後建設現場へ搬入されるものであり、建設現場において梁等に掛け渡した木質版の上にコンクリートを打設して形成されるものではない。
【0009】
このため、現場でコンクリートを打設する湿式の合成床と比較して、ノロ漏れの発生が抑制される。このため、木質版の美観が損なわれ難い。
【0010】
また、コンクリートを現場で打設する湿式の合成床では、養生時に養生シート内で湿気が溜まってカビの発生が懸念される。これに対して、本態様のプレキャスト床版は、工場で適切に湿度管理しながら養生できるので、現場におけるカビの発生を抑制できる。
【0011】
さらに、コンクリート版の一端辺には床版固定部が形成されており、隣り合うプレキャスト床版同士を突き合わせて固定することができる。これにより、隣り合うプレキャスト床版同士で応力を伝達できる。
【0012】
そして、コンクリート版の一端辺と直交する他端辺に形成された床版支持部を建物の躯体に支持させることで、ワンフロア分の床スラブを構築することができる。これにより、ワンフロアサイズの床スラブを、トラックで搬送可能なサイズのプレキャスト床版として、建設現場へ搬入できる。
【0013】
請求項2のプレキャスト合成床材は、請求項1に記載のプレキャスト合成床材において、前記床版固定部は、前記コンクリート版に設けられた切欠き部と、鋼製の板材を上面視で枠状に組み付けて形成され、前記切欠き部に配置された箱部材と、前記コンクリート版から突出して前記板材を貫通するアンカーボルトと、前記箱部材の内側で前記アンカーボルトへ捩じ込まれるナットと、を備えている。
【0014】
請求項2のプレキャスト合成床材は、箱部材、アンカーボルト及びナットを用いて、互いに隣り合うコンクリート版同士が固定される。箱部材は鋼製であるため、コンクリート版同士の応力を伝達し易い。また、箱部材は板材を枠状に組付けられて形成されているため、隣り合って配置されたコンクリート床版のそれぞれから突出するアンカーボルトにナットを捩じ込める。
【0015】
請求項3の建物は、コア部分及び前記コア部分を取り囲む外周部にそれぞれ配置された躯体と、木質版とコンクリート版とを一体化した板状のプレキャスト床版と、を有し、前記プレキャスト床版は、前記コンクリート版の一端辺が、隣り合う前記プレキャスト床版のコンクリート版に固定された床版固定部と、前記コンクリート版の一端辺と直交する他端辺に形成され、建物の躯体に支持された床版支持部と、を有する。
【0016】
請求項3の建物は、木質版とコンクリート版とが一体化した板状のプレキャスト床版を備えている。プレキャスト床材は、工場等で製作後建設現場へ搬入されるものであり、建設現場において梁等に掛け渡した木質版の上にコンクリートを打設して形成されるものではない。
【0017】
このため、現場でコンクリートを打設する湿式の合成床と比較して、ノロ漏れの発生が抑制される。このため、木質版の美観が損なわれ難い。
【0018】
また、コンクリートを現場で打設する湿式の合成床では、養生時に養生シート内で湿気が溜まってカビの発生が懸念される。これに対して、本態様のプレキャスト合成床材は、工場で適切に湿度管理しながら養生できるので、現場におけるカビの発生を抑制できる。
【0019】
さらに、コンクリート版の一端辺には床版固定部が形成されており、隣り合うプレキャスト床版同士を突き合わせて固定することができる。これにより、隣り合うプレキャスト床版同士で応力を伝達できる。
【0020】
そして、コンクリート版の一端辺と直交する他端辺に形成された床版支持部を建物の躯体に支持させることで、ワンフロア分の床スラブを構築することができる。これにより、ワンフロアサイズの床スラブを、トラックで搬送可能なサイズのプレキャスト合成床材として、建設現場へ搬入できる。
【0021】
請求項4の建物は、請求項3に記載の建物において、前記プレキャスト床版よりコンクリート版の厚みが大きい第二プレキャスト床版を備え、前記第二プレキャスト床版と前記躯体とは、前記第二プレキャスト床版及び前記躯体から突出する床配筋同士の重ね接手と、現場打ちコンクリートと、で固定され、前記第二プレキャスト床版と前記プレキャスト床版とは前記床版固定部で固定されている。
【0022】
請求項4の建物では、プレキャスト床版よりコンクリート版の厚みが大きい第二プレキャスト床版を備えている。このため、第二プレキャスト床版はプレキャスト床版より剛性が高い。
【0023】
そして、第二プレキャスト床版と躯体は、第二プレキャスト床版及び躯体から突出する床配筋同士の重ね接手と、現場打ちコンクリートと、で固定されている。このため、このような重ね接手及び現場打ちコンクリートがない構成と比較して、第二プレキャスト床版の躯体に対する固定強度が大きい。
【0024】
これにより、第二プレキャスト床版が扁平梁として機能して、プレキャスト床版を支持できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ノロ漏れが発生し難く、応力を伝達可能なスラブを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る建物の概略構成を示す平面図である。
【
図2】(A)本発明の実施形態に係るプレキャスト合成床材の構成を示す平面図でありお、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
【
図3】(A)は床版固定部を示す平面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図であり、(C)はAにおけるC-C線断面図であり、(D)は床版固定部の変形例を示す平面図である。
【
図4】(A)は床版支持部を示す平面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図であり、(C)はAにおけるC-C線断面図である。
【
図5】(A)は
図2におけるD-D線断面図でありプレキャスト床版と柱との接合部の構成を示し、(B)は
図2におけるE-E線断面図でありプレキャスト床版における梁同士の接合部の構成を示す。
【
図6】
図1におけるF-F線断面図であり第二プレキャスト床版とコアとの接合部の構成を示す。
【
図7】
図1におけるG-G線断面図でありプレキャスト床版と第二プレキャスト床版との接合部の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係るプレキャスト合成床材及び建物について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0028】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する、異なる構成と入れ替える、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いる等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0029】
各図面において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0030】
<建物>
図1には、本発明の実施形態に係る建物10が示されている。建物10は、コア部分及びコア部分を取り囲む外周部にそれぞれ躯体が配置されて形成されている。
【0031】
具体的には、建物10の平面視における中央部(X方向及びY方向における中央部)には、躯体としてのコア12が形成されている。コア12は平面視で矩形状のコンクリート躯体であり、このコア配置により、建物10はセンターコア形式の建物となっている。
【0032】
なお、本発明における建物は必ずしもセンターコア形式とする必要はなく、片寄コア、両端コアなど様々な形式とすることができる。すなわち、後述するプレキャスト床版20A及び20Bは、様々な形式のコアに固定することができる。
【0033】
コア12を形成する鉄筋コンクリート製の壁体12A間には、鉄筋コンクリート製のスラブ12Bが架け渡されている。スラブ12Bには、図示しない階段やエレベータ用の貫通孔が形成されている。
【0034】
建物10の外周部には、躯体としての柱14が配置されている。柱14は、建物10のX方向及びY方向に沿う外周部に、それぞれ複数配置されている。
【0035】
コア12と建物10の外周部との間には、スラブ20が架け渡されている。スラブ20は、複数のプレキャスト床版20A、20B及び20Cを備えて形成されている。
【0036】
プレキャスト床版20Aは、矩形状のコア12の角部と建物10の外周部との間に架け渡された床版である。プレキャスト床版20Bは、コア12の角部以外の部分と建物10の外周部との間に架け渡された床版である。プレキャスト床版20Bは、後述する床版支持部40(
図4参照)によってコア12に支持されている。プレキャスト床版20Cは、プレキャスト床版20Aと建物10の外周部との間に架け渡された床版である。
【0037】
なお、プレキャスト床版20A、20B及び20Cは、後述する床版固定部30(
図3参照)によって互いに固定され、一体的なスラブ20を構成する。このため、全てのプレキャスト床版20A、20B及び20Cが柱14に支持される必要はなく、一部のプレキャスト床版20A、20B及び20Cが柱14に支持されていればよい。
【0038】
プレキャスト床版20Bは本発明におけるプレキャスト床版の一例であり、プレキャスト床版20Aは本発明における第二プレキャスト床版の一例である。本発明は、さらにプレキャスト床版20Cを含むものとすることができる。
【0039】
<プレキャスト合成床材>
図2(A)は、
図1に破線の囲み線Aで示した部分の拡大図であり、この図にはプレキャスト床版20Bの平面図が示されている。プレキャスト床版20Bは、床版固定部30によって他のプレキャスト床版20Aまたは20Bに固定される。また、プレキャスト床版20Bは、床版支持部40によってコア12に支持される。
【0040】
本発明におけるプレキャスト合成床材11は、プレキャスト床版20B、床版固定部30及び床版支持部40を備えている。すなわち、プレキャスト合成床材11は、プレキャスト床版20Bと、プレキャスト床版20Bを他の部材に接合するための接合構造と、を含んだ構成である。
【0041】
(プレキャスト床版)
図2(B)に示すように、プレキャスト床版20Bは、CLT(Cross Laminated Timber)で形成された木質版22とコンクリート版24とを一体化した板状のパネルである。木質版22とコンクリート版24とは、木質版22に捩じ込んだラグスクリューによって、互いに応力を伝達可能に連結される。
【0042】
CLTは木の板を繊維が直角に交わるように互い違いに複数層重ねて圧着したパネル材であり、集成材と比較して高強度であり、一般的に建物のスラブや壁体をして利用することができる。なお、木質版22を形成する素材はCLTに限定されるものではなく、この素材としてはLVL(Laminated Veneer Lumber)や各種の木質材料を用いることができる。
【0043】
コンクリート版24は、木質版22を捨て型枠として工場で打設される。この際、木質版22の上面、すなわち、木質版22とコンクリート版24の界面となる部分には、防水シートや非透水性塗膜による防水層を形成することが好ましい。
【0044】
これにより、コンクリート版24を形成するコンクリートから木質版22への水分の移動を抑制することができる。また、コンクリート版24を形成するコンクリートとして、スランプ値の低いコンクリートを用いてもよい。
【0045】
詳しくは後述するが、
図3(C)に示すように、プレキャスト床版20Bにおいて、隣に配置される他のプレキャスト床版20B(または20A)と対向する端面では、木質版22のほうがコンクリート版24より突出寸法が大きい。このため、2枚のプレキャスト床版20Bは、互いの木質版22同士が端面を接するように配置される。一方、コンクリート版24同士は隙間を空けて配置される。
【0046】
一方、
図4(C)に示すように、プレキャスト床版20Bにおいて、コア12と対向する端面では、コンクリート版24のほうが木質版22より突出寸法が大きい。このため、コンクリート版24を、木質版22を介さずに、後述するコア12の突出部12Cの上に置くことができる。
【0047】
図2(A)に示すように、プレキャスト床版20Bにおけるコンクリート版24には、床版固定部30及び床版支持部40が形成されている。
【0048】
床版固定部30は、コンクリート版24の一端辺に形成され、プレキャスト床版20Bと、隣に配置される他のプレキャスト床版20Bまたは20Aと、を突き合わせて固定可能とする固定部である。
【0049】
「一端辺」とは、建物10のコア12から外周部に向かう方向に沿う端辺であり、
図2(A)においてはX方向に沿う2つの端辺を示す。なお、それぞれの端辺において、床版固定部30を設ける箇所数は、プレキャスト床版20Bの大きさや重量等に応じて適宜変更できる。
【0050】
床版支持部40は、コンクリート版24の一端辺と直交する他端辺に形成され、建物10の躯体としてのコア12に支持される支持部である。
【0051】
「他端辺」とは、上述した「一端辺」の他の端辺という意味であり、
図2(A)においてはY方向に沿う2つの端辺のうち、コア12側の端辺を示す。この床版支持部40を設ける箇所数も、床版固定部30と同様に、プレキャスト床版20Bの大きさや重量等に応じて適宜変更できる。
【0052】
(床版固定部)
図3(A)は、
図2(A)に破線の囲み線J1で示した部分の内部構造を示す拡大断面図であり、この図には床版固定部30の構成が示されている。
【0053】
床版固定部30は、コンクリート版24に設けられた切欠き部32、切欠き部32に配置された箱部材34、アンカーボルト36及びナット38を備えて形成されている。
【0054】
切欠き部32は、コンクリート版24において、隣り合うプレキャスト床版20Bと対向する端面に形成される凹部である。
【0055】
切欠き部32は、コンクリート版24において、隣に他のプレキャスト床版20B、20Aまたは20Cと対向する2つの端辺にそれぞれ形成されている。切欠き部32は、例えば2枚のプレキャスト床版20Bを並べて配置した際に、それぞれの切欠き部32が互いに対向する位置に形成される。
【0056】
また、切欠き部32は、
図3(B)に示すように、コンクリート版24の上面から下面に貫通して形成されている。
【0057】
箱部材34は、
図3(A)に示すように、鋼製の板材34Aを上面視で長方形の枠状に組み付けて形成された部材であり、長方形の短辺に沿う板材34Aが、互いに隣り合う2つのプレキャスト床版20Bにおけるそれぞれの切欠き部32に亘って配置される。
【0058】
アンカーボルト36は、コンクリート版24に埋設され、端部が切欠き部32に突出したボルトであり、かつ、切欠き部32に配置された箱部材34の板材34Aを貫通して配置される。
【0059】
箱部材34の長手方向に沿う2つの板材34Aには、アンカーボルト36を挿通するための貫通孔(不図示)がそれぞれ2つずつ形成されている。このため、箱部材34には、両側のプレキャスト床版20Bから、アンカーボルト36が2本ずつ挿通される。
【0060】
ナット38は、箱部材34の内側でアンカーボルト36へ捩じ込まれる。これにより、隣り合うプレキャスト床版20B同士が、端面を突合せた状態で、箱部材34を介して固定される。
【0061】
なお、箱部材34は、切欠き部32の壁面と隙間を空けて配置される。箱部材34と切欠き部32の壁面との間には、フィラープレートPが配置される。フィラープレートPは図示しない貫通孔を有し、この貫通孔にアンカーボルト36が挿通される。
【0062】
床版固定部30において、切欠き部32の内側、かつ、箱部材34の内側及び外側には、無収縮モルタルGが充填される。
図3(B)に示すように、無収縮モルタルGはコンクリート版24と面一になる高さまで充填され、箱部材34は無収縮モルタルGの内部に埋設される。
【0063】
ここで、隣り合うプレキャスト床版20B同士を突合せた状態では、
図3(C)に示すように、木質版22の端面同士が接して配置され、コンクリート版24の端面同士が隙間を空けて配置される。コンクリート版24の端面には凹部24Aが形成されている。コンクリート版24の端面同士の隙間及び凹部24Aには、無収縮モルタルGが充填される。
【0064】
木質版22の端面の上端部は、端面の長手方向に沿って切欠きが形成され、この切欠きにはノロ止め材Fが配置されている。ノロ止め材Fは、ゴムや樹脂などで形成され弾性変形可能な長尺部材であり、収縮された状態で切欠きに収容される。
【0065】
ノロ止め材Fを設けることで、無収縮モルタルGが木質版22の端面を伝って下階へ流れることを抑制できる。なお、ノロ止め材Fは、コーキング剤などで形成してもよい。
【0066】
上述したように、工場において木質版22とコンクリート版24の界面となる部分に防水層を形成する場合は、無収縮モルタルGが打設される部分にも、当該防水層を形成しておくことが好ましい。これにより、工場において打設するコンクリート版24と、建設現場において打設する無収縮モルタルGと、の双方からの水分移動を抑制できる。
【0067】
本実施形態において、木質版22の上端部に対するノロ止め材Fの配置、切欠き部32に対する箱部材34及びフィラープレートPの配置、アンカーボルト36へのナット38の捩じ込み及び切欠き部32への無収縮モルタルGの充填は、建物10の建設現場で実行される。
【0068】
(床版支持部)
図4(A)は、
図2(A)に破線の囲み線J2で示した部分の内部構造を示す拡大断面図であり、この図には床版支持部40の構成が示されている。
【0069】
床版支持部40は、コンクリート版24に設けられた切欠き部42、切欠き部42に配置された箱部材44、アンカーボルト46及びナット48を備えて形成されている。
【0070】
切欠き部42は、コンクリート版24において、躯体であるコア12(
図4ではスラブ12B)と対向する端面に形成される凹部である。また、切欠き部42は、
図4(B)に示すように、コンクリート版24の上面に開口した有底の凹部である。「有底」とは木質版22ではなくコンクリート版24によって底が形成されていることを示す。
【0071】
箱部材44は、
図4(A)に示すように、鋼製の板材44Aを上面視で枠状に組み付けて形成された部材であり、切欠き部42に配置された状態で、コア12側の端面がコンクリート版24におけるコア12側の端面と面一に形成されている。
【0072】
箱部材44は、工場において、コンクリート版24の内部に埋設される固定鉄筋46Aに溶接することにより、プレキャスト床版20Bに固定されている。
【0073】
アンカーボルト46は、コア12に埋設され、端部が切欠き部42に突出したボルトであり、かつ、切欠き部42に配置された箱部材44の板材44Aを貫通して配置される。板材44Aには、アンカーボルト46を挿通するための貫通孔(不図示)が形成されている。
【0074】
ナット48は、箱部材44の内側でアンカーボルト46へ捩じ込まれる。これにより、プレキャスト床版20Bの端面をコア12に突合せた状態で、プレキャスト床版20Bが箱部材34を介してコア12に固定される。
【0075】
なお、箱部材44は、コア12の端面と隙間を空けて配置される。箱部材44とコア12の端面との間には、フィラープレートPが配置される。フィラープレートPは図示しない貫通孔を有し、この貫通孔にアンカーボルト46が挿通される。
【0076】
床版支持部40において、切欠き部42の内側、かつ、箱部材44の内側及び外側には、無収縮モルタルGが充填される。
図4(B)に示すように、無収縮モルタルGはコンクリート版24と面一になる高さまで充填され、箱部材44は無収縮モルタルGの内部に埋設される。
【0077】
ここで、プレキャスト床版20Bとコア12とを突合せた状態では、
図4(C)に示すように、コンクリート版24の端面とコア12の端面とが隙間を空けて配置される。コンクリート版24の端面には凹部24Aが形成されている。同様に、コア12の端面にも凹部12Dが形成されている。コンクリート版24の端面とコア12の端面との間の隙間、凹部24A及び12Dには、無収縮モルタルGが充填される。
【0078】
図4(B)及び(C)に示すように、コア12の端面には、プレキャスト床版20B側へ突出する突出部12Cが形成されている。上述したように、突出部12Cには、プレキャスト床版20Bのコンクリート版24が木質版22を介さずに置かれる。このため、木質版22がコンクリート版24の荷重を受けず、木質版22が圧縮変形することを抑制できる。
【0079】
プレキャスト床版20Bの上面とコンクリート版24の下面との間には、上述したノロ止め材Fが配置される。ノロ止め材Fは、プレキャスト床版20Bの荷重によって破断しない程度の弾性を備えたものとすることが好ましい。
【0080】
本実施形態において、コア12の突出部12Cに対するノロ止め材Fの配置、フィラープレートPの配置、アンカーボルト46へのナット48の捩じ込み及び切欠き部42への無収縮モルタルGは、建物10の建設現場で実行される。
【0081】
(その他の接合部:柱梁接合部)
図2(A)に示すように、プレキャスト床版20Bは、上面視で、柱14と干渉する部分を有している。この部分では、
図5(A)に示すように、下階の柱14Aと上階の柱14Bとの間に、プレキャスト床版20Bが挟まれて形成される。
【0082】
この図に示されるように、プレキャスト床版20Bにおいて、建物10の外周部側に配置される端部は、コンクリート版24によって形成されている。換言すると、プレキャスト床版20Bにおいて建物10の外周部側に配置される端部に、木質版22は配置されていない。
【0083】
これにより、プレキャスト床版20Bの建物10の外周部側の端部は、他の部分より高剛性の梁16(
図5(A)において二点鎖線BMより右側部分)を形成する。この梁16は、下階の柱14A及び上階の柱14Bに挟まれて支持される。
【0084】
具体的には、梁16には上面から下面へ貫通する貫通孔16Hが形成され、この貫通孔16Hに、柱14A及び14Bの柱主筋Y1が挿入されて、継手を形成している。梁16と柱14Aとの間の横目地、梁16と柱14Bとの間の横目地及び貫通孔16Hには、無収縮モルタルGなどのグラウト材が充填される。
【0085】
なお、
図5(A)に示されるように、木質版22における、建物10の外周部側の端面は、上面から下面にかけて傾斜する傾斜面22E1である。傾斜面22E1は、上端が下端より外側に位置するように傾斜している。
【0086】
このような傾斜面は、
図4(B)、(C)に示すように、木質版22における、建物10のコア12側にも形成されている。すなわち、木質版22には、建物10のコア12側に段差が設けられ、この段差に、木質版22の上面から下面にかけて傾斜する傾斜面22E2が形成されている。傾斜面22E2は、上端が下端より外側に位置するように傾斜している。
【0087】
傾斜面22E1、22E2を設けることで、木質版22とコンクリート版24との間に継手が形成され、木質版22とコンクリート版24とが上下方向に分離し難くなる。また、木質版22とコンクリート版24との一体性が高められてプレキャスト床版20Bの剛性が高くなる。
【0088】
(その他の接合部:梁接合部)
図2(A)に示すように、隣り合うプレキャスト床版20Bにおいて、梁16を形成する部分同士は、現場打ちコンクリートC1によって連結される。この部分では、
図5(B)に示すように、コンクリート版24に埋設された床配筋であるスラブ筋Y2同士が、継手部材Y3を用いて連結され、現場打ちコンクリートC1に埋設される。
【0089】
(第二プレキャスト床版)
図1を用いて説明したように、コア12の角部と建物10の外周部との間には、本発明における第二プレキャスト床版の一例としてのプレキャスト床版20Aが架け渡されている。
【0090】
プレキャスト床版20Aの厚みは、プレキャスト床版20Bの厚みと等しい。一方、
図6に示すように、プレキャスト床版20Aにおけるコンクリート版24の厚みH2は、プレキャスト床版20Bにおけるコンクリート版24の厚みH1(
図4(B)参照)より厚い。このため、プレキャスト床版20Aは、プレキャスト床版20Bより高剛性の扁平梁として機能する。
【0091】
プレキャスト床版20Aのコンクリート版24は、コア12側の部分の厚みが薄く形成されている。この厚みが薄い部分によって形成された凹部24Bには、コンクリート版24の床配筋であるスラブ筋Y2と、コア12におけるスラブ12Bのスラブ筋Y4とがそれぞれ突出して配筋され、互いに重ね接手を形成している。スラブ筋Y4は、スラブ12Bの端部に開口した継手部材Y5に捩じ込まれた異形鉄筋である。
【0092】
凹部24Bには、現場打ちコンクリートC2が打設される。このような接合形式により、プレキャスト床版20Aは、プレキャスト床版20Bと比較して、スラブ12Bとの間で応力を伝達し易い。
【0093】
なお、
図7に示すように、プレキャスト床版20Aとプレキャスト床版20Bとは、床版固定部30によって固定される。また、図示は省略するが、プレキャスト床版20Aとプレキャスト床版20C、プレキャスト床版20C同士も、床版固定部30によって固定される。床版固定部30によるこれらの固定方法は、
図4(A)を用いて説明したコア12とプレキャスト床版20Bとの固定方法と同様であり、詳細の説明は省略する。
【0094】
<作用及び効果>
上記実施形態におけるプレキャスト合成床材11は、
図2(B)に示すように、木質版22とコンクリート版24とが一体化した板状のプレキャスト床版20Bを備えている。プレキャスト床版20Bは、工場等で製作後建設現場へ搬入されるものであり、建設現場において梁等に掛け渡した木質版22の上にコンクリートを打設して形成されるものではない。
【0095】
このため、現場でコンクリートを打設する湿式の合成床と比較して、ノロ漏れの発生が抑制される。このため、木質版22の美観が損なわれ難い。
【0096】
また、コンクリートを現場で打設する湿式の合成床では、養生時に養生シート内で湿気が溜まってカビの発生が懸念される。これに対して、本態様のプレキャスト床版20Bは、工場で適切に湿度管理しながら養生できるので、現場におけるカビの発生を抑制できる。
【0097】
さらに、
図3に示すように、コンクリート版24の一端辺には床版固定部30が形成されており、隣り合うプレキャスト床版20B同士を突き合わせて固定することができる。これにより、隣り合うプレキャスト床版20B同士で応力を伝達できる。
【0098】
そして、
図4に示すように、コンクリート版24の一端辺と直交する他端辺に形成された床版支持部40を建物10の躯体であるコア12に支持させることで、ワンフロア分のスラブ20を構築することができる。これにより、ワンフロアサイズのスラブ20を、トラックで搬送可能なサイズのプレキャスト床版20Bとして、建設現場へ搬入できる。
【0099】
また、上記実施形態におけるプレキャスト合成床材11では、
図3に示すように、箱部材34、アンカーボルト36及びナット38を用いて、互いに隣り合うコンクリート版24同士が固定される。箱部材34は鋼製であるため、コンクリート版24同士の応力を伝達し易い。また、箱部材34は板材34Aを枠状に組付けられて形成されているため、隣り合って配置されたプレキャスト床版20Bのそれぞれから突出するアンカーボルト36にナット38を捩じ込める。
【0100】
また、上記実施形態の建物10では、
図6に示すように、プレキャスト床版20Bよりコンクリート版の厚みが大きいプレキャスト床版20Aを備えている。このため、プレキャスト床版20Aはプレキャスト床版20Bより剛性が高い。
【0101】
そして、プレキャスト床版20Aとコア12とは、プレキャスト床版20A及びコア12から突出する床配筋であるスラブ筋Y2及びY4の重ね接手と、現場打ちコンクリートC2と、で固定されている。
【0102】
このため、このような重ね接手及び現場打ちコンクリートC2がない構成と比較して、プレキャスト床版20Aのコア12に対する固定強度が大きい。これにより、プレキャスト床版20Aが扁平梁として機能して、プレキャスト床版20Bを支持できる。
【0103】
<変形例>
【0104】
上記実施形態においては、コンクリート版24に埋設されたアンカーボルト36にナット38が捩じ込まれる構成としたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えばコンクリート版24に、コンクリート版24の端面に開口する長ナットを埋め込んで、この長ナットに、箱部材34の内側からボルトを捩じ込む構成としてもよい。このような構成とすれば、コンクリート版24からアンカーボルト36が突出しないため、箱部材34を配置し易い。
【0105】
また、上記実施形態においては、
図5(A)に示すように、プレキャスト床版20Bの端部に形成された梁16が、下階の柱14A及び上階の柱14Bに挟まれて支持されているものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0106】
例えば柱14は通し柱として、この柱14にはコア12の突出部12Cと同様の突出部をプレキャスト床版20B側へ形成し、当該突出部にプレキャスト床版20Bを載せる構成としてもよい。この際、柱14とプレキャスト床版20Bとの間で水平方向へ応力を伝達可能な鉄筋を適宜配筋する。
【0107】
また、下階の柱14A及び上階の柱14Bに挟まれて支持される梁16を、プレキャスト床版20Bと別々に形成してもよい。この場合、梁16にプレキャスト床版20Bを載せる構成とすればよい。
【0108】
また、上記実施形態の床版固定部30においては、
図3(A)に示すように、隣り合うプレキャスト床版20Bの対向する端面にそれぞれ切欠き部32が形成され、当該切欠き部32が互いに対向して配置されるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0109】
例えば
図3(D)に示す床版固定部30Aのように、隣り合うプレキャスト床版20Bにおいて、一方の端面に切欠き部32Aを形成し、他方の端面には形成しないものとしてもよい。この場合、切欠き部32Aには、工場において箱部材34を固定しておけばよい。箱部材34は、コンクリート版24の内部に埋設される固定鉄筋36Aに溶接することで、プレキャスト床版20Bに固定される。
【0110】
また、上記実施形態においては、箱部材34及び44が無収縮モルタルGに埋設されるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。この無収縮モルタルGは省略してもよい。
【0111】
無収縮モルタルGを省略しても、箱部材34、44及びフィラープレートP等を介して、プレキャスト床版20B同士、またはプレキャスト床版20Bとコアとのあいだで応力を伝達できる。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0112】
10 建物
11 プレキャスト合成床材
12 コア(躯体)
12A 壁体(躯体)
12B スラブ(躯体)
20A プレキャスト床版(第二プレキャスト床版)
20B プレキャスト床版
22 木質版
24 コンクリート版
34 箱部材
34A 板材
36 アンカーボルト
38 ナット
40 床版支持部
Y2 スラブ筋(床配筋)
Y4 スラブ筋(床配筋)
C2 コンクリート(現場打ちコンクリート)