(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087556
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】タイヤのスリップ速度の評価方法、ゴム組成物の物性評価方法及びゴム組成物の配合設計方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240624BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202443
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】本田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】玉田 良太
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA22
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】シミュレーションを用いてタイヤのスリップ速度を適切に評価できる方法を提供する。
【解決手段】タイヤのスリップ速度を評価方法は、タイヤモデル及び路面モデルをコンピュータに入力する第1ステップS1と、路面モデル上でタイヤモデルを予め定められた速度及び予め定められたスリップ率で転動させて、複数の節点におけるスリップ速度を取得する第2ステップS2と、スリップ速度を複数の階級に分類し、それぞれの階級毎に複数の節点におけるスリップ速度の度数を計数する第3ステップS3と、スリップ速度がゼロではなく度数が最大となる階級を特定する第4ステップS4とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのスリップ速度を評価する方法であって、
前記タイヤを複数の節点で定義される有限個の要素で離散化したタイヤモデル及び路面を有限個の要素で離散化した路面モデルを、コンピュータに入力する第1ステップと、
前記タイヤモデル及び前記路面モデルを用いた計算により、前記路面モデル上で前記タイヤモデルを予め定められた速度及び予め定められたスリップ率で転動させて、前記複数の節点におけるスリップ速度を取得する第2ステップと、
前記スリップ速度を複数の階級に分類し、それぞれの前記階級毎に前記複数の節点における前記スリップ速度の度数を計数する第3ステップと、
前記スリップ速度がゼロではなく前記度数が最大となる前記階級を特定する第4ステップとを含む、
タイヤのスリップ速度の評価方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、前記複数の節点における前記スリップ速度を複数の時系列で取得し、各節点毎に平均化するステップを含む、請求項1に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
【請求項3】
前記タイヤは、トレッド部にタイヤ軸方向にのびる横溝を有する、請求項2に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
【請求項4】
前記階級は、前記スリップ速度を真数とする対数関数を用いて分類される、請求項1に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
【請求項5】
前記スリップ率は、前記タイヤ及び前記路面を用いて実測した、摩擦係数及びスリップ率の関係を示すμ-s曲線に基づいて定められる、請求項1に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
【請求項6】
前記スリップ率は、前記μ-s曲線において前記摩擦係数がピーク値となる前記スリップ率にて定められる、請求項5に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
【請求項7】
請求項1に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法によって特定された前記階級の前記スリップ速度を用いて、前記タイヤ用のゴム組成物の物性を評価する、ゴム組成物の物性評価方法。
【請求項8】
請求項1に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法によって特定された前記階級の前記スリップ速度を用いて、前記タイヤ用のゴム組成物の配合を設計する、ゴム組成物の配合設計方法。
【請求項9】
摩擦係数及びスリップ率の関係を示すμ-s曲線上で、前記摩擦係数が前記特定された前記階級の前記スリップ速度の範囲でピーク値となるように、前記ゴム組成物の前記配合を設計する、請求項8に記載のゴム組成物の配合設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのスリップ速度の評価方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの特性をシミュレートするための方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤの特性の一つとして、減速時のスリップ速度が挙げられる。しかしながら、スリップ速度の評価にシミュレーションを適用する手法が確立されていない。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、シミュレーションを用いてタイヤのスリップ速度を適切に評価できる方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
タイヤのスリップ速度を評価する方法であって、
前記タイヤを複数の節点で定義される有限個の要素で離散化したタイヤモデル及び路面を有限個の要素で離散化した路面モデルを、コンピュータに入力する第1ステップと、
前記タイヤモデル及び前記路面モデルを用いた計算により、前記路面モデル上で前記タイヤモデルを予め定められた速度及び予め定められたスリップ率で転動させて、前記複数の節点におけるスリップ速度を取得する第2ステップと、
前記スリップ速度を複数の階級に分類し、それぞれの前記階級毎に前記複数の節点における前記スリップ速度の度数を計数する第3ステップと、
前記スリップ速度がゼロではなく前記度数が最大となる前記階級を特定する第4ステップとを含む、
タイヤのスリップ速度の評価方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の評価方法では、前記第3ステップで、前記スリップ速度を前記複数の階級に分類する。そして、それぞれの前記階級毎に、前記第2ステップで取得した前記複数の節点における前記スリップ速度の度数を計数する。これにより、前記スリップ速度に関する統計的なデーターが得られる。そして、前記第4ステップで、前記スリップ速度がゼロではなく前記度数が最大となる前記階級を特定する。ここで特定された前記階級は、各種のタイヤ特性に最も大きな影響力を有する前記スリップ速度の範囲である。従って、前記階級を前記スリップ速度の代表値として認定することにより、タイヤのスリップ速度を適切に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のタイヤのスリップ速度の評価方法の一実施形態の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図1の評価方法に用いられるコンピュータの外観を示す斜視図である。
【
図3】
図1の評価方法で用いられるタイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図1の評価方法において転動計算によって取得された各節点での接地圧の分布を示すコンター図である。
【
図5】
図1の評価方法において転動計算によって取得された各節点でのスリップ速度の分布を示すコンター図である。
【
図6】複数の階級に分類されたスリップ速度と、それぞれの階級毎に計数されたスリップ速度の度数を示すヒストグラムである。
【
図7】
図6とは別の複数の階級に分類されたスリップ速度と、それぞれの階級毎に計数されたスリップ速度の度数を示すヒストグラムである。
【
図8】評価対象となるタイヤ及び路面を用いて実測された、摩擦係数とスリップ率との関係を示すグラフである。
【
図9】試験片を用いて測定された3種のゴムの摩擦係数とスリップ速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤのスリップ速度の評価方法(以下、単に評価方法と記する)100の流れを示している。評価方法100は、コンピュータを用いて、タイヤのスリップ速度を評価する方法である。
【0010】
図2は、本実施形態のタイヤのスリップ速度の評価方法に用いられるコンピュータ10を示している。コンピュータ10は、本体11、キーボード12、及びディスプレイ装置13等を含んでいる。この本体11には、例えば、演算処理装置(CPU)並びにROM、作業用メモリ及びハードディスクなどの記憶装置が設けられる。記憶装置には、本実施形態の性能評価方法を実行するためのソフトウェアが予め記憶されている。演算処理装置がソフトウェアを実行することにより、本実施形態のタイヤのスリップ速度の評価方法が実現される。
【0011】
図1に示されるように、本実施形態の評価方法100は、後述するタイヤモデル及び路面モデルを入力する第1ステップS1と、タイヤモデルを転動させて、複数の節点におけるスリップ速度を取得する第2ステップS2と、スリップ速度を複数の階級に分類し、度数を計数する第3ステップS3と、度数が最大となる階級を特定する第4ステップS4とを含んでいる。
【0012】
第1ステップS1では、タイヤモデル及び路面モデルがコンピュータ10に入力される。入力されるタイヤモデル及び路面モデルは、別のコンピュータで作成され当該コンピュータ10に入力されるモデルの他、当該コンピュータ10内で作成されるモデルを含むものとする。
【0013】
図3は、タイヤモデル2及び路面モデル3を示している。タイヤモデル2とは、評価対象であるタイヤを複数の節点を有する有限個の要素で離散化した数学上のモデルである。本実施形態では、タイヤの全体をモデル化したフルモデルが適用される。有限個の要素は、複数の節点で定義される。タイヤモデル2において、各要素には対応する材料データーが付与される。
【0014】
路面モデル3とは、タイヤが転動する対象である路面を複数の節点を有する有限個の要素で離散化した数学上のモデルである。路面モデル3においても、有限個の要素は、複数の節点で定義され、各要素には対応する材料データーが付与される。
【0015】
第2ステップS2では、タイヤモデル2及び路面モデル3を用いた計算により、路面モデル3上でタイヤモデル2が転動される。この第2ステップS2において、タイヤモデル2は、予め定められた解析条件に基づいて転動される。
【0016】
解析条件には、評価対象であるタイヤが空気入りタイヤの場合その内圧、荷重、角速度ω、路面速度VV、摩擦係数μ等が挙げられる。各解析条件は、第1ステップS1でコンピュータ10に入力される。
【0017】
角速度ωと動荷重半径rとの積により、タイヤ速度VTが計算される。動荷重半径rには、評価対象であるタイヤを用いて実測された値が適用されていてもよく、タイヤモデル2及び路面モデル3を用いて計算された値が適用されていてもよい。路面速度VVとタイヤ速度VTとの差VV-VTにより、スリップ速度VSが計算される。さらに、路面速度VVに対するスリップ速度VSの比VS/VVよりスリップ率SRとなる。
【0018】
第2ステップS2では、予め定められた路面速度VV及び予め定められたスリップ率SRで転動計算が行われる。本実施形態の転動計算では、スリップ速度VS及び接地圧に依存して変動する摩擦係数μが適用されるのが望ましい。スリップ率SRは、上記関係から角速度ωに変換され、転動計算が行われる。第2ステップS2の転動計算によって、各節点での接地圧が取得される。
【0019】
図4は、転動計算によって取得された各節点での接地圧の分布を示している。接地圧がある閾値よりも大きい複数の節点(同図では、薄く表示された領域)で、転動中のタイヤモデル2が路面モデル3に接地していると考えられる。
【0020】
さらに第2ステップS2では、複数の節点におけるスリップ速度vsが取得される。スリップ速度vsが取得される複数の節点は、路面モデル3に接地している節点すなわち接地圧がある閾値よりも大きい複数の節点である。例えば、路面モデル3に接地している節点数が5000である場合、5000個のスリップ速度vs(すなわち、スリップ速度vs(1)~スリップ速度vs(5000))が取得される。
【0021】
図5は、転動計算によって取得された各節点でのスリップ速度vsの分布を示している。スリップ速度vsがゼロ(極めてゼロに近いスリップ速度vsであり、実質的にゼロとみなしても差し支えないスリップ速度vsを含む)である領域は、濃く表示され、スリップ速度vsがゼロより大きい領域は、薄く表示されている。第2ステップS2で取得されるスリップ速度vsは、各節点毎に異なるミクロ的な観点でのスリップ速速度であり、タイヤモデル2全体のマクロ的な観点でのスリップ速度VSとは異なる。
【0022】
本実施形態において、
図5に示される複数の節点におけるスリップ速度vsは、
図4に示される複数の節点における接地圧とは異なる分布を呈している。接地入部(踏み込み側)の接点での接地圧は、接地出部の接点での接地圧よりも大きい傾向にある(
図4参照)。一方、接地入部の接点でのスリップ速度vsは、接地入部の接点でのスリップ速度vsよりも小さい傾向にある。
【0023】
上述したように、各節点におけるスリップ速度vsは、一様ではない。そこで、本願発明者は、接地面内でのスリップ速度を適切に評価するために、統計的手法を検討し、以下の第3ステップS3及び第4ステップS4を見出した。
【0024】
第3ステップS3では、
図5に示される複数の節点におけるスリップ速度vsが複数の階級に分類される。そして、それぞれの階級毎に複数の節点におけるスリップ速度の度数が計数される。
【0025】
図6は、複数の階級に分類されたスリップ速度vsと、それぞれの階級毎に計数されたスリップ速度の度数を示している。複数の節点におけるスリップ速度vsを分類し、計数することにより、スリップ速度vsに関する統計的なデーターが得られる。
【0026】
そして、第4ステップでは、度数が最大となる階級が特定される。例えば、
図6においては、度数が最大となる階級は、2970~3300mm/秒のスリップ速度vsの範囲である。ここで特定された階級は、各種のタイヤ特性に最も大きな影響力を有するスリップ速度の範囲である。従って、当該階級のスリップ速度を接地面内でのスリップ速度の代表値として認定することにより、タイヤのスリップ速度を適切に評価することが可能となる。
【0027】
なお、
図4及び
図5から明らかなように、スリップ速度vsがゼロである節点は、接地している節点の大半を占めている。このような節点では、タイヤモデル2と路面モデル3とは、静止摩擦状態にあると考えられる。
【0028】
一方、スリップ速度vsがゼロではない節点では、タイヤモデル2と路面モデル3とは、動摩擦状態にあると考えられる。本願発明では、タイヤの挙動や摩耗特性に及ぼす影響が大きい動摩擦状態に焦点をおいて上記度数が最大となる階級が特定するため、スリップ速度vsがゼロである節点を除いて上記階級の特定を行なっている。これにより、タイヤのスリップ速度をより一層適切に評価することが可能となる。
【0029】
本願発明者は、第2ステップS2の転動計算によって、各節点におけるスリップ速度vsは時々刻々と変動し、静止摩擦状態にある節点の分布及び摩擦状態にある節点の分布も時々刻々と変動することを見出した。そこで、第2ステップS2は、複数の節点におけるスリップ速度vsを複数の時系列で取得し、各節点毎に平均化するステップを含む、ように構成されるのが望ましい。これにより、タイヤのスリップ速度をより一層適切に評価することが可能となる。
【0030】
このような構成では、評価対象のタイヤは、トレッド部にタイヤ軸方向にのびる横溝を有していてもよい。上記横溝を有するタイヤは、タイヤの位相すなわち、横溝の接地状態如何によって、その周辺の節点で異なるスリップ速度vsを呈する。しかしながら、第2ステップS2において、複数の節点におけるスリップ速度vsを複数の時系列で取得し、各節点毎に平均化するステップを含めることにより、トレッド部に横溝を有するタイヤのスリップ速度をより一層適切に評価することが可能となる。
【0031】
図6の横軸におけるスリップ速度vsの階級の幅は互いに等しく、例えば、330mm/秒である。ヒストグラムの横軸におけるスリップ速度vsの階級は、対数関数を用いて分類されていてもよい。
【0032】
図7は、スリップ速度vsの階級がスリップ速度vsを真数とする対数関数を用いて分類されたヒストグラムを示している。各接点でのスリップ速度vsの計算値は、
図6と同一のデーターを用いている。
図7においては、度数が最大となる階級は、625~3125mm/秒のスリップ速度vsの範囲である。
【0033】
スリップ速度vsとタイヤの挙動や摩耗特性に及ぼす影響との関係は、一定ではなく、スリップ速度vsが大きくなるほどにタイヤの挙動や摩耗特性に及ぼす影響は大きくなる。そこで、
図7では、スリップ速度vsを真数とする対数を横軸として、スリップ速度vsを重み付けている。すなわち、階級は、スリップ速度vsを真数とする対数関数を用いて分類されている。これにより、スリップ速度vsが大きくなるに従い、階級の幅が大きくなり、タイヤのスリップ速度をより一層適切に評価することが可能となる。また、度数のピークが鮮明となり、タイヤのスリップ速度をより一層適切に評価することが可能となる。
【0034】
第1ステップS1でコンピュータ10に入力される摩擦係数μ及びスリップ率SRは、評価対象となるタイヤ及び路面を用いて実測した、摩擦係数μ及びスリップ率SRの関係を示すμ-s曲線に基づいて定められる、のが望ましい。これにより、第2ステップS2における転動計算の結果を現実の現象に近づけることが可能となる。
【0035】
図8は、評価対象となるタイヤ及び路面を用いて実測された、摩擦係数μとスリップ率SRとの関係を示している。
図8によると、スリップ率SRが小さい領域では摩擦係数μは、スリップ率SRに比例し、スリップ率SRが1%を超える領域では摩擦係数μの増加が減少し、スリップ率SRが5%付近においてピークに達し、さらにスリップ率SRの増加に伴い徐々に減少する。
【0036】
本実施形態では、第1ステップS1でコンピュータ10に入力される摩擦係数μ及びスリップ率SRは、
図8に示されるμ-s曲線におけるピーク値の摩擦係数μ及びそのスリップ率SRにて定められる、のが望ましい。これにより、タイヤの限界時の挙動及び摩耗特性を正確に再現可能となる。
【0037】
本実施形態の上記第4ステップS4で特定された階級のスリップ速度の範囲は、タイヤを構成するゴム組成物の物性評価にも活用できる。
【0038】
図9は、試験片を用いて測定された3種の加硫ゴムA、B、Cの摩擦係数μとスリップ速度との関係を示している。測定には、タイヤが転動する対象である路面を模した模擬路面が用いられる。
【0039】
ゴム組成物の摩擦係数μは、通常、スリップ速度毎に測定され、
図9に示されるグラフが得られる。しかしながら、このようなスリップ速度毎の摩擦係数μの測定は、工数が嵩み、ゴム組成物の開発の効率化の妨げとなっている。
【0040】
そうしたところ、本実施形態の上記第4ステップS4で特定された階級のスリップ速度の範囲は、タイヤ用トレッドゴムのゴム組成物の物性評価に適用できる。例えば、
図6においては、2970~3300mm/秒のスリップ速度vsの範囲が、度数が最大となる階級として特定されている。そこで、試験片を用いた摩擦係数μの測定範囲を
図9においてハッチングで示される2970~3300mm/秒のスリップ速度の範囲に絞り込むことにより、測定精度を高めつつ工数を削減し、加硫ゴムの開発の効率化を図ることが可能となる。
【0041】
上記第4ステップS4での階級の特定に
図7に示されるヒストグラムが用いられた場合も同様である。すなわち、試験片を用いた摩擦係数μの測定範囲を625~3125mm/秒のスリップ速度の範囲に絞り込むことにより、測定精度を高めつつ工数を削減し、加硫ゴムの開発の効率化を図ることが可能となる。
【0042】
また、
図9において、ゴムA、B、Cは、摩擦係数μのピーク値は同等であるため、タイヤのトレッド部への適用にあたっては、いずれのゴムが好適であるかの判断が困難である。
【0043】
しかしながら、2970~3300mm/秒のスリップ速度の範囲でゴムA、B、Cを比較すると、ゴムCの摩擦係数μが最も高く、当該路面との相性を考慮すると、タイヤのトレッド部には、ゴムCが好適であることが理解される。
【0044】
本実施形態の上記第4ステップS4で特定された階級のスリップ速度の範囲は、タイヤ用のゴム組成物の配合設計にも活用できる。
【0045】
例えば、上記第4ステップS4で特定された階級のスリップ速度の範囲において摩擦係数μが高くなるように、ゴム組成物の成分を調整することにより、タイヤのトレッドゴムに好適なゴム組成物の配合を設計することができる。特定のスリップ速度の範囲における摩擦係数μは、例えば、ポリマーやフィラー、レジンの種類の変更及び含有量を増減することにより調整できる。
【0046】
例えば、上記第4ステップS4で特定された階級のスリップ速度の範囲において摩擦係数μがピーク値となるように、ゴム組成物の成分を調整することにより、タイヤのトレッドゴムに好適なゴム組成物の配合を設計することができる。摩擦係数μがピークに達するスリップ速度の範囲は、例えば、ポリマーやフィラー、レジンの種類の変更及び含有量を増減することにより調整できる。
【0047】
以上、本発明のタイヤ1が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0048】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0049】
[本発明1]
タイヤのスリップ速度を評価する方法であって、
前記タイヤを複数の節点で定義される有限個の要素で離散化したタイヤモデル及び路面を有限個の要素で離散化した路面モデルを、コンピュータに入力する第1ステップと、
前記タイヤモデル及び前記路面モデルを用いた計算により、前記路面モデル上で前記タイヤモデルを予め定められた速度及び予め定められたスリップ率で転動させて、前記複数の節点におけるスリップ速度を取得する第2ステップと、
前記スリップ速度を複数の階級に分類し、それぞれの前記階級毎に前記複数の節点における前記スリップ速度の度数を計数する第3ステップと、
前記スリップ速度がゼロではなく前記度数が最大となる前記階級を特定する第4ステップとを含む、
タイヤのスリップ速度の評価方法。
[本発明2]
前記第2ステップは、前記複数の節点における前記スリップ速度を複数の時系列で取得し、各節点毎に平均化するステップを含む、本発明1に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
[本発明3]
前記タイヤは、トレッド部にタイヤ軸方向にのびる横溝を有する、本発明2に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
[本発明4]
前記階級は、前記スリップ速度を真数とする対数関数を用いて分類される、本発明1ないし3のいずれかに記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
[本発明5]
前記スリップ率は、前記タイヤ及び前記路面を用いて実測した、摩擦係数及びスリップ率の関係を示すμ-s曲線に基づいて定められる、本発明1ないし4のいずれかに記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
[本発明6]
前記スリップ率は、前記μ-s曲線において前記摩擦係数がピーク値となる前記スリップ率にて定められる、本発明5に記載のタイヤのスリップ速度の評価方法。
[本発明7]
本発明1ないし6のいずれかに記載のタイヤのスリップ速度の評価方法によって特定された前記階級の前記スリップ速度の前記代表値を用いて、前記タイヤ用のゴム組成物の物性を評価する、ゴム組成物の物性評価方法。
[本発明8]
本発明1ないし6のいずれかに記載のタイヤのスリップ速度の評価方法によって特定された前記階級の前記スリップ速度を用いて、前記タイヤ用のゴム組成物の配合を設計する、ゴム組成物の配合設計方法。
[本発明9]
摩擦係数及びスリップ率の関係を示すμ-s曲線上で、前記摩擦係数が前記特定された前記階級の前記スリップ速度の範囲でピーク値となるように、前記ゴム組成物の前記配合を設計する、本発明8に記載のゴム組成物の配合設計方法。
【符号の説明】
【0050】
1 :タイヤ
2 :タイヤモデル
3 :路面モデル
10 :コンピュータ
100 :評価方法
R :路面
S1 :第1ステップ
S2 :第2ステップ
S3 :第3ステップ
S4 :第4ステップ
SR :スリップ率
VS :スリップ速度
vs :スリップ速度
μ :摩擦係数