(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087557
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】タイヤモデルの作成方法、記憶媒体、シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240624BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20240624BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/15
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202444
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 孝人
(72)【発明者】
【氏名】伊田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】竹中 康晴
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131LA33
5B146AA05
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ08
(57)【要約】
【課題】 パターンモデルとボディモデルとの結合部に形成される隙間の露出を防ぐことが可能なタイヤモデルの作成方法を提供する。
【解決手段】 タイヤモデルを作成するための方法である。この方法は、トレッドパターン部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にM分割(ただし、Mは2以上の整数)したパターンモデルを入力する工程S1と、ボディ部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にN分割(ただし、NはMよりも小さい2以上の整数)したボディモデルを入力する工程S2と、ボディモデルのタイヤ半径方向外側に、パターンモデルを結合して、ボディモデルとパターンモデルとの結合部に隙間を有するタイヤベースモデルを作成する工程S3と、タイヤベースモデルの隙間がモデル表面で露出しないように、タイヤベースモデルのモデル表面を覆うシェル要素からなるラッピングモデルを作成する工程S4とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドパターン部と、前記トレッドパターン部のタイヤ半径方向内側の部分であるボディ部とを含むタイヤの数値解析用のタイヤモデルを作成するための方法であって、
前記トレッドパターン部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にM分割(ただし、Mは2以上の整数)したパターンモデルを、コンピュータに入力する工程と、
前記ボディ部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にN分割(ただし、NはMよりも小さい2以上の整数)したボディモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記ボディモデルのタイヤ半径方向外側に、前記パターンモデルを結合して、前記ボディモデルと前記パターンモデルとの結合部に隙間を有するタイヤベースモデルを作成する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤベースモデルの前記隙間がモデル表面で露出しないように、前記タイヤベースモデルの前記モデル表面を覆うシェル要素からなるラッピングモデルを作成する工程とを含む、
タイヤモデルの作成方法。
【請求項2】
前記ラッピングモデルは、前記パターンモデル及び前記ボディモデルの表面形状に追従して変形可能である、請求項1に記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項3】
前記ラッピングモデルは、前記タイヤベースモデルのタイヤ外表面を覆う外側ラッピングモデルを含む、請求項1又は2に記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項4】
前記ラッピングモデルは、前記タイヤベースモデルのタイヤ内表面を覆う内側ラッピングモデルを含む、請求項1又は2に記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項5】
前記コンピュータが、予め定められた条件に基づいて、前記タイヤベースモデルと前記ラッピングモデルとを含む前記タイヤモデルの変形を計算する工程と、
前記コンピュータが、変形後の前記タイヤモデルから、変形後の前記ラッピングモデルを抽出する工程とを含む、請求項1又は2に記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項6】
請求項5に記載のタイヤモデルの作成方法で抽出された変形後の前記ラッピングモデルを特定するための数値データが、前記コンピュータに読み取り可能に記憶されている、
記憶媒体。
【請求項7】
請求項5に記載のタイヤモデルの作成方法で作成された変形後の前記ラッピングモデルを用いたタイヤのシミュレーション方法であって、
前記タイヤと接触する路面形成物を有限個の要素で離散化した路面形成モデルを、前記コンピュータに入力する工程を含み、
前記コンピュータが、前記ラッピングモデルを前記路面形成モデルに接触させて、前記ラッピングモデルと前記路面形成モデルとの相互作用を計算する工程を実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項8】
前記路面形成物は、水、岩、泥、雪、氷及び砂の少なくとも1つを含む、請求項7に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項9】
請求項5に記載のタイヤモデルの作成方法で作成された変形後の前記ラッピングモデルを用いたタイヤのシミュレーション方法であって、
前記タイヤと接触する気体を有限個の要素で離散化した気体モデルを、前記コンピュータに入力する工程を含み、
前記コンピュータが、前記ラッピングモデルを前記気体モデルに接触させて、前記ラッピングモデルと前記気体モデルとの相互作用を計算する工程を実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項10】
前記気体モデルは、前記ラッピングモデルの全体を囲む大きさを有する、請求項9に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤモデルの作成方法、記憶媒体、シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤモデルの作成方法が、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。このタイヤモデルには、トレッドパターン部をモデリングしたパターンモデルと、トレッドパターン部のタイヤ半径方向内側の部分であるボディ部をモデリングしたボディモデルとが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のタイヤモデルでは、シミュレーションでの計算精度を維持しつつ、計算時間を短縮することを目的として、ボディモデルのタイヤ周方向の分割数が、パターンモデルのタイヤ周方向の分割数よりも少なく設定されている。この分割数の差に起因して、ボディモデルとパターンモデルとの結合部には、不可避的に隙間が形成される。このような隙間がモデル表面に露出していると、例えば、タイヤ走行シミュレーションにおいて、路面形成物や流体等の要素が隙間に進入するなど、実際のタイヤには生じない現象が計算されるという問題もあった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、パターンモデルとボディモデルとの結合部に形成される隙間の露出を防ぐことが可能なタイヤモデルの作成方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッドパターン部と、前記トレッドパターン部のタイヤ半径方向内側の部分であるボディ部とを含むタイヤの数値解析用のタイヤモデルを作成するための方法であって、前記トレッドパターン部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にM分割(ただし、Mは2以上の整数)したパターンモデルを、コンピュータに入力する工程と、前記ボディ部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にN分割(ただし、NはMよりも小さい2以上の整数)したボディモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、前記コンピュータが、前記ボディモデルのタイヤ半径方向外側に、前記パターンモデルを結合して、前記ボディモデルと前記パターンモデルとの結合部に隙間を有するタイヤベースモデルを作成する工程と、前記コンピュータが、前記タイヤベースモデルの前記隙間がモデル表面で露出しないように、前記タイヤベースモデルの前記モデル表面を覆うシェル要素からなるラッピングモデルを作成する工程とを含む、タイヤモデルの作成方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤモデルの作成方法は、上記の工程を採用することにより、パターンモデルとボディモデルとの結合部に形成される隙間の露出を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のコンピュータ及び記憶媒体の斜視図である。
【
図3】タイヤモデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】タイヤモデル及び路面モデルを示す斜視図である。
【
図12】本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】ラッピングモデルと路面形成モデルとを示す側面図である。
【
図14】本発明の他の実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図15】ラッピングモデルと気体モデルとを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態のタイヤモデルの作成方法(以下、「作成方法」ということがある。)では、タイヤの数値解析用のタイヤモデルが作成される。このタイヤモデルは、例えば、タイヤのシミュレーション方法(以下、「シミュレーション方法」ということがある。)に用いられる。
【0011】
本実施形態の作成方法及びシミュレーション方法の実行には、コンピュータが用いられる。
図1は、本実施形態のコンピュータ及び記憶媒体の斜視図である。
【0012】
コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の作成方法及びシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。ディスクドライブ装置1a1、1a2では、記憶媒体2に記憶されたデータの読み取りや、書き込みが可能とされている。
【0013】
本実施形態の記憶媒体2は、持ち運び可能な可搬型記憶媒体として構成されている。可搬型記憶媒体の一例としては、FD、CD-R、DVD-RがBR-Rが挙げられるが、フラッシュメモリ等であってもよい。
【0014】
[タイヤ]
図2は、本実施形態のタイヤ3を示す断面図である。本実施形態のタイヤ3として、乗用車用の空気入りタイヤが例示されているが、特に限定されない。タイヤ3は、例えば、トラックやバスなどの重荷重用や、二輪自動車用等であってもよい。なお、タイヤ3は、実在するか否かについては問われない。
【0015】
本実施形態のタイヤ3は、トレッド部3aと、一対のサイドウォール部3bと、一対のビード部3cとを有している。さらに、本実施形態のタイヤ3には、カーカス6と、ベルト層7とが含まれる。
【0016】
トレッド部3aは、路面と接地するトレッドゴムを有している。トレッド部3aの外面には、トレッドパターンが形成されている。本実施形態のトレッドパターンは、トレッド部3aの外面に設けられたタイヤ周方向に連続してのびる複数本の縦溝4aと、タイヤ周方向に隔設された横溝(図示省略)とを含んで構成されている。
【0017】
一対のサイドウォール部3bは、トレッド部3aの両側からタイヤ半径方向内方に延びている。一対のビード部3cは、各サイドウォール部3bの内方に設けられている。これらのビード部3cには、ビードコア5がそれぞれ埋設されている。
【0018】
カーカス6は、一対のビードコア5間を跨って延びている。カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成される。カーカスプライ6Aは、本体部6aと、折返し部6bとを含んで構成されている。本体部6aは、トレッド部3aからサイドウォール部3bを経てビード部3cのビードコア5に延びている。折返し部6bは、本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。また、カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80度~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)が設けられている。
【0019】
本実施形態のベルト層7は、複数枚のベルトプライを含んで構成されている。複数枚のベルトプライには、2枚のベルトプライ7A、7Bが含まれているが、3枚以上のベルトプライが含まれていてもよい。これらのベルトプライ7A、7Bは、例えば、タイヤ周方向に対して10~35度の角度で配列されたベルトコード(図示省略)が、互いに交差する向きに重ね合わされている。
【0020】
本実施形態のタイヤ3は、トレッドパターン部9と、トレッドパターン部9のタイヤ半径方向内側の部分であるボディ部10とに仮想区分される。本実施形態では、縦溝4aの溝底を滑らかにつなぐ仮想溝底線BLを基準として、仮想溝底線BLよりもタイヤ半径方向外側にトレッドパターン部9が区分され、仮想溝底線BLよりもタイヤ半径方向内側にボディ部10が区分される。
【0021】
トレッドパターン部9の外面には、トレッドパターンが形成されている。ボディ部10には、サイドウォール部3b、ビード部3c、ビードコア5、カーカス6及びベルト層7が含まれる。
【0022】
[タイヤモデルの作成方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態の作成方法が説明される。
図3は、タイヤモデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4は、タイヤベースモデル11の斜視図である。
図5は、
図4の拡大図である。
図6は、タイヤベースモデル11の断面図である。
図7は、タイヤベースモデル11の部分側面図である。
図7では、節点15及び節点17の一部が、「●」を用いて強調表示されている。
【0023】
[パターンモデルを入力]
本実施形態の作成方法では、先ず、パターンモデル12が、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S1)。工程S1では、
図2に示したトレッドパターン部9が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いてタイヤ周方向にM分割される。これにより、パターンモデル12が設定される。ただし、分割数Mは2以上の整数である。
【0024】
本実施形態の工程S1では、先ず、
図2に示したトレッドパターン部9の断面の輪郭データが有限個の要素F(i)で離散化される。これにより、
図6に示されるように、二次元のトレッド断面モデル12aが作成される。輪郭データには、例えば、
図2に示したタイヤ3のCADデータが用いられる。離散化には、例えば、市販のメッシュ作成ソフトウェア(ANSYS社の「ICEM CFD」等)が用いられる。
【0025】
次に、
図5及び
図7に示されるように、本実施形態の工程S1では、トレッド断面モデル12aが、タイヤ回転軸の周りに均等にM個配置される。そして、
図7に示されるように、タイヤ周方向で隣接するトレッド断面モデル12aについて、それらを構成する要素F(i)の節点15が、要素F(i)の辺16を用いてタイヤ周方向に接続される。これにより、環状の(三次元の)パターンモデル12が設定される。
【0026】
本実施形態では、
図2に示したトレッド部3aの縦溝4aに基づいて、
図4~
図6に示されるように、パターンモデル12に縦溝14aが設けられている。さらに、
図5及び
図7に示されるように、パターンモデル12には、横溝14bが設けられている。横溝14bは、例えば、複数のトレッド断面モデル12aを接続した複数の辺16のうち、任意の辺16(
図7において、二点鎖線で示す)を削除することで容易に作成されうる。
【0027】
図2に示したタイヤ3のトレッドパターン部9では、路面を転動する際に、路面との接地及び解放が繰り返される。このため、トレッドパターン部9では、ボディ部10に比べると、複雑かつ大きな変形が生じる。このようなトレッドパターン部9の変形を詳細に計算するために、
図5及び
図7に示したパターンモデル12は、タイヤ周方向において、ボディモデル13よりも細かく分割されるのが好ましい。パターンモデル12の分割数Mは、例えば、120~540に設定される。
【0028】
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法(本実施形態では、有限要素法)が適宜採用されうる。環状のパターンモデル12において、要素F(i)は、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などとして構成される。
【0029】
各要素F(i)には、要素番号、節点15の番号、節点15の座標値、及び、材料特性(例えば、密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等を含む物性)などの数値データが定義される。各要素F(i)の材料特性(物性)は、例えば、
図2に示したトレッドパターン部9を構成するゴム部材などの実際の材料特性(物性)に基づいて定義される。パターンモデル12は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0030】
[ボディモデルを入力]
次に、本実施形態の作成方法では、
図4及び
図5に示されるように、ボディモデル13が、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S2)。工程S2では、
図2に示したボディ部10が、有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いてタイヤ周方向にN分割される。これにより、ボディモデル13が設定される。ただし、分割数Nは2以上の整数である。
【0031】
本実施形態の工程S2では、先ず、
図2に示したボディ部10の断面の輪郭データが有限個の要素G(i)で離散化される。これにより、
図6に示されるように、二次元のボディ断面モデル13aが作成される。輪郭データには、例えば、
図2に示したタイヤ3のCADデータが用いられる。離散化には、例えば、上記のメッシュ作成ソフトウェアが用いられる。
【0032】
次に、
図5及び
図7に示されるように、本実施形態の工程S2では、ボディ断面モデル13aが、タイヤ回転軸の周りに均等にN個配置される。そして、
図7に示されるように、タイヤ周方向で隣接するボディ断面モデル13aについて、それらを構成する要素G(i)の節点17が、要素G(i)の辺18を用いてタイヤ周方向に接続される。これにより、環状の(三次元の)ボディモデル13が設定される。
【0033】
図2に示したタイヤ3のボディ部10では、トレッドパターン部9に比べると、複雑かつ大きな変形は生じない。このようなボディ部10の変形計算を簡略化するために、
図5及び
図7に示したボディモデル13の分割数Nは、パターンモデル12の分割数Mよりも小さい2以上の整数に設定される。これにより、
図7に示されるように、ボディ部10の節点17の個数は、トレッドパターン部9の節点15の個数よりも少なくなるため、パターンモデル12での詳細な計算を可能としつつ、計算時間を短縮することが可能となる。分割数Nは、例えば、60~360に設定される。
【0034】
各要素G(i)は、要素F(i)と同様に、数値解析法(本例では、有限要素法)により取り扱い可能なものである。環状のボディモデル13において、各要素G(i)は、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。また、各要素G(i)には、要素番号、節点17の番号、節点17の座標値、及び、材料特性(例えば、密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等を含む物性)などの数値データが定義される。
【0035】
各要素F(i)の材料特性(物性)は、例えば、
図2に示したボディ部10を構成するカーカスプライ6A、ベルトプライ7A、7B、及び、ゴム部材などの実際の材料特性(物性)に基づいて定義される。ボディモデル13は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0036】
[タイヤベースモデルを作成]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、タイヤベースモデル11を作成する(工程S3)。本実施形態の工程S3では、ボディモデル13のタイヤ半径方向外側に、パターンモデル12が結合されることで、タイヤベースモデル11が作成される。
【0037】
ボディモデル13とパターンモデル12とは、適宜結合されうる。本実施形態では、上記の特許文献1と同様に、拘束条件が定義される。この拘束条件は、
図6及び
図7に示したボディモデル13の外周面を形成する要素G(i)の面又は節点17と、パターンモデル12の内周面を形成する要素F(i)の面又は節点15との相対距離の変化を制限するためのものである。このような拘束条件の定義により、ボディモデル13とパターンモデル12とを結合したタイヤベースモデル11が作成される。
【0038】
拘束条件は、タイヤベースモデル11の変形計算時においても維持されるのが好ましい。なお、拘束条件は、上記のメッシュ作成ソフトウェアで適宜定義される。タイヤベースモデル11は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0039】
図5及び
図7に示されるように、パターンモデル12とボディモデル13とは、タイヤ周方向の分割数が互いに異なる。このため、
図7に示されるように、これらの結合部19において、パターンモデル12の要素F(i)の節点15と、ボディモデル13の要素G(i)の節点17とが一致しない部分が生じる。したがって、パターンモデル12の要素F(i)の面と、ボディモデル13の要素G(i)の面との間に、隙間20が形成される。
【0040】
図6及び
図7に示されるように、ボディモデル13とパターンモデル12との結合部19には、分割数の差(節点15、17間の不一致)に起因して、不可避的に隙間20が形成される。このような隙間20がタイヤベースモデル11のモデル表面22に露出していると、例えば、タイヤ走行シミュレーションにおいて、路面形成物や流体等の要素が隙間20に進入するなど、実際のタイヤ3(
図2に示す)には生じない現象が計算される場合がある。本実施形態では、次の工程S4において、隙間20がモデル表面22で露出しないように、タイヤベースモデル11のモデル表面22を覆うシェル要素からなるラッピングモデルが作成される。
【0041】
[ラッピングモデルを作成]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、ラッピングモデルを作成する(工程S4)。
図8は、タイヤモデル23及び路面モデル25を示す斜視図である。
図9は、
図8の断面図である。
図10は、
図9の拡大図である。
図11は、ラッピングモデル21の部分側面図である。
図9及び
図10では、ラッピングモデル21が破線で示されている。
図10及び
図11では、節点15、節点17及び節点24の一部が、「●」を用いて強調表示されている。
図10では、タイヤベースモデル11が色付けして示されている。
【0042】
本実施形態の工程S4では、
図10及び
図11に示されるように、タイヤベースモデル11の隙間20がモデル表面22で露出しないように、モデル表面22がシェル要素H(i)(i=1、2、…)で覆われる。これにより、シェル要素H(i)からなるラッピングモデル21が作成される。このようなシェル要素H(i)を用いたモデル表面22の被覆(サーフェスラッピング)には、例えば、上記のメッシュ作成ソフトウェアが用いられる。
【0043】
シェル要素H(i)は、厚みがゼロに設定された二次元の面として定義されている。このシェル要素H(i)は、要素F(i)や要素G(i)と同様に、数値解析法(本例では、有限要素法)により取り扱い可能なものである。各シェル要素H(i)には、要素番号、節点24の番号、及び、節点24の座標値などの数値データが定義される。
【0044】
一方、シェル要素H(i)は、要素F(i)や要素G(i)とは異なり、材料特性が定義されない。すなわち、シェル要素H(i)の強度がゼロに設定される。このようなシェル要素H(i)からなるラッピングモデル21は、パターンモデル12及びボディモデル13の表面形状(すなわち、タイヤベースモデル11のモデル表面22)に追従して変形可能に設定される。
図9及び
図10では、ラッピングモデル21の存在を理解しやすいように、タイヤベースモデル11のモデル表面22からラッピングモデル21が離間して示されている。なお、実際のラッピングモデル21は、隙間20を除いて、モデル表面22に沿って配置されている。
【0045】
本実施形態では、シェル要素H(i)の節点24とパターンモデル12の要素F(i)の節点15とが共有するように、パターンモデル12の表面(モデル表面22)がシェル要素H(i)で被覆される。さらに、シェル要素H(i)の節点24とボディモデル13の要素G(i)の節点17とが共有するように、ボディモデル13の表面(モデル表面22)がシェル要素H(i)で被覆される。
【0046】
図7に示されるように、ボディモデル13とパターンモデル12との結合部19では、パターンモデル12の要素F(i)の節点15の個数に比べると、ボディモデル13の要素G(i)の節点17の個数が少ない。このような結合部19を覆う各シェル要素H(i)の節点24は、
図11に示されるように、ボディモデル13の一つの節点17と共有し、かつ、パターンモデル12の二つの節点15、15と共有しており、三角形状に形成される。これにより、シェル要素H(i)で結合部19(破線で示す)が覆われるため、タイヤベースモデル11のモデル表面22から隙間20が露出するのを防ぐことができる。
【0047】
本実施形態では、タイヤベースモデル11のモデル表面22が、ラッピングモデル21によって覆われることで、タイヤベースモデル11とラッピングモデル21とを含むタイヤモデル23が作成されうる。ラッピングモデル21を含むタイヤモデル23は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0048】
このように、本実施形態の作成方法では、
図3~
図7に示したタイヤベースモデル11が、
図8~
図11に示したラッピングモデル21によって被覆される。これにより、パターンモデル12とボディモデル13との結合部19に形成される隙間20(
図10及び
図11に示す)の露出を防ぐことが可能なタイヤモデル23が作成される。このようなタイヤモデル23がタイヤ走行シミュレーションに用いられることで、タイヤベースモデル11の隙間20に、路面形成物や流体等の要素が進入するのが抑制される。これにより、実際のタイヤ3(
図2に示す)には生じない現象が計算されるのを防ぐことが可能となる。
【0049】
本実施形態のラッピングモデル21は、パターンモデル12及びボディモデル13の表面形状に追従して変形可能に設定されている。これにより、タイヤモデル23を用いたシミュレーションにおいて、パターンモデル12及びボディモデル13の変形を、ラッピングモデル21が阻害するのが抑制され、計算精度が維持される。
【0050】
ラッピングモデル21は、タイヤベースモデル11のモデル表面22から隙間20が露出するのを防ぐことができれば、適宜作成されうる。したがって、ラッピングモデル21は、
図10に示したモデル表面22の一部分(隙間20が形成される結合部19)のみに配置されてもよい。
【0051】
図9及び
図10に示されるように、本実施形態のラッピングモデル21は、タイヤベースモデル11のモデル表面22のうち、タイヤ外表面22oを覆う外側ラッピングモデル21Aが含まれている。このような外側ラッピングモデル21Aにより、タイヤ外表面22oに形成された隙間20が覆われうる。さらに、外側ラッピングモデル21Aを構成するシェル要素H(i)の節点24の座標値が追跡されることで、例えば、タイヤ走行シミュレーションで変形したタイヤ外表面22oの形状が容易に特定されうる。
【0052】
本実施形態のラッピングモデル21は、タイヤベースモデル11のモデル表面22のうち、タイヤ内表面22iを覆う内側ラッピングモデル21Bが含まれている。このような内側ラッピングモデル21Bを構成するシェル要素H(i)の節点24の座標値が追跡されることで、例えば、タイヤ走行シミュレーションで変形したタイヤ内表面22iの形状が容易に特定されうる。
【0053】
本実施形態のラッピングモデル21は、タイヤ外表面22o及びタイヤ内表面22iとの境界部において、外側ラッピングモデル21Aと内側ラッピングモデル21Bとが結合(
図10に示したシェル要素H(i)の節点24が共有)されている。これにより、タイヤベースモデル11のモデル表面22の全体が覆われるため、隙間20の露出を抑制しつつ、タイヤ走行シミュレーションで変形したタイヤ外表面22o及びタイヤ内表面22iの形状が容易に特定されうる。
【0054】
本実施形態のラッピングモデル21には、タイヤモデル23のビード部23cによって囲まれる空間を覆うホイールラッピングモデル21Cがさらに含まれている。このようなホイールラッピングモデル21Cは、例えば、ホイールをモデリングしたホイールモデルとして構成されるため、ホイールモデルのモデリングが省略されうる。
【0055】
[タイヤモデルの変形を計算]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、予め定められた条件に基づいて、
図8及び
図9に示したタイヤベースモデル11とラッピングモデル21とを含むタイヤモデル23の変形を計算する(工程S5)。タイヤモデル23の変形計算は、適宜実施されうる。本実施形態の工程S5では、内圧が充填され、かつ、荷重が負荷されたタイヤモデル23の変形が計算される。このような変形計算は、例えば、従来のタイヤのシミュレーション方法と同様に計算されうる。
【0056】
本実施形態の工程S5では、先ず、
図9に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル23が計算される。本実施形態では、先ず、タイヤモデル23のビード部23c、23cが拘束される。次に、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル23の変形が計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル23が計算される。内圧条件は、例えば、評価対象のタイヤ3(
図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
【0057】
タイヤモデル23の変形計算は、タイヤベースモデル11の各要素F(i)及び各要素G(i)の形状及び材料特性などに基づいて、各要素F(i)及び各要素G(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1(
図1に示す)が、各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらをシミュレーションの単位時間T(x)(x=0、1、…)毎にタイヤモデル23の変形計算を行う。
【0058】
上述したように、本実施形態では、
図10に示したラッピングモデル21を構成するシェル要素H(i)が、パターンモデル12及びボディモデル13の表面形状に追従して変形可能とされている。このため、シェル要素H(i)は、タイヤベースモデル11の要素F(i)及び要素G(i)とは異なり、タイヤモデル23の変形に影響しない。
【0059】
タイヤモデル23の変形計算(後述する転動計算等を含む)は、例えば、LSTC社製のLS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
【0060】
次に、本実施形態の工程S5では、荷重負荷後のタイヤモデル23が計算される。
図8に示されるように、荷重負荷後のタイヤモデル23の計算には、例えば、予め定められた荷重負荷条件L、キャンバー角及び摩擦係数が用いられる。荷重負荷条件Lには、例えば、
図2に示したタイヤ3が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定める荷重が設定される。キャンバー角は、タイヤ3が車両に装着される条件に基づいて適宜設定される。摩擦係数は、タイヤ3が走行する路面等に応じて定義される。
【0061】
本実施形態では、荷重負荷後のタイヤモデル23を計算するために、先ず、内圧充填後のタイヤモデル23と、路面モデル25との接触が計算される。路面モデル25は、例えば、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素J(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。要素J(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素J(i)には、複数の節点26が設けられている。さらに、要素J(i)は、要素番号や、節点26の座標値等の数値データが定義される。
【0062】
次に、本実施形態では、荷重負荷条件L、キャンバー角(図示省略)、及び、摩擦係数に基づいて、タイヤモデル23の変形が計算される。荷重負荷条件Lは、タイヤモデル23の回転軸23sに設定される。これにより、工程S5では、路面モデル25に接地した荷重負荷後のタイヤモデル23が計算される。変形後のタイヤモデル23は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0063】
[変形後のラッピングモデルを抽出]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、
図8及び
図9に示した変形後のタイヤモデル23から、変形後のラッピングモデル21を抽出する(工程S6)。変形後のラッピングモデル21の抽出は、適宜実施されうる。例えば、変形後のタイヤモデル23から、
図10及び
図11に示したラッピングモデル21を構成するシェル要素H(i)のみが取り出されてもよいし、
図10に示したタイヤベースモデル11を構成する要素F(i)及び要素G(i)が削除されてもよい。これにより、変形後のタイヤモデル23から、変形後のラッピングモデル21が抽出される。
【0064】
変形後のラッピングモデル21では、
図9及び
図10に示したタイヤベースモデル11の要素F(i)及び要素G(i)を特定しなくても、変形後のタイヤモデル23のモデル表面22(タイヤ外表面22o及びタイヤ内表面22i)の形状が特定されうる。したがって、変形後のモデル表面22の形状の特定に必要なデータ容量が小さくなる。変形後のラッピングモデル21は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0065】
また、抽出された変形後のラッピングモデル21を特定するための数値データは、
図1に示したコンピュータ1に読み取り可能に、記憶媒体2に記憶されるのが好ましい。数値データは、
図8及び
図9に示した変形後のラッピングモデル21を特定できれば、特に限定されない。本実施形態の数値データは、変形後のラッピングモデル21において、
図10及び
図11に示したシェル要素H(i)の節点24の座標値が採用されうる。
【0066】
図1に示した記憶媒体2に記憶された数値データは、作成方法の実施に用いられたコンピュータ1とは異なる他のコンピュータ(図示省略)において読み取られうる。これにより、他のコンピュータでは、上記の作成方法を実施しなくても、
図8及び
図9に示した変形後のタイヤモデル23のモデル表面22の形状が特定されうる。したがって、例えば、ラッピングモデル21を用いた数値解析(例えば、流体シミュレーション)等が、様々なコンピュータで実施されうる。
【0067】
[タイヤモデルの作成方法(第2実施形態)]
本実施形態の作成方法では、タイヤモデル23の変形を計算する工程S5において、
図8及び
図9に示されるように、内圧が充填され、かつ、荷重が負荷されたタイヤモデル23が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、路面モデル25を転動しているタイヤモデル23が計算されてもよい。この場合、
図8に示したタイヤモデル23の回転軸23sには、走行速度に基づく角速度が定義され、さらに、路面モデル25には、走行速度に基づく並進速度が定義されるのが好ましい。これにより、路面モデル25の上を転動しているタイヤモデル23が計算されうる。このような転動シミュレーションは、例えば、予め定められた終了条件(例えば、転動終了時間)を満たすまで、シミュレーションの単位時間T(x)毎に計算されてもよい。
【0068】
図8及び
図11に示されるように、パターンモデル12に横溝14bが設けられている場合には、転動シミュレーション中の単位時間T(x)毎に、横溝14bのタイヤ周方向の位置や、横溝14bの形状が異なる。このため、変形後のラッピングモデル21を抽出する工程S6では、転動シミュレーション中の単位時間T(x)毎に、転動しているタイヤモデル23から、転動しているラッピングモデル21がそれぞれ抽出されてもよい。これらの抽出されたラッピングモデル21により、タイヤベースモデル11を構成する要素F(i)及び要素G(i)を特定しなくても、転動しているタイヤモデル23のモデル表面22の形状が、単位時間T(x)毎に特定されうる。したがって、転動しているモデル表面22の形状の特定に必要なデータ容量が小さくなる。
【0069】
[タイヤのシミュレーション方法(第1実施形態)]
次に、作成方法で作成された変形後のラッピングモデル21(
図8に示す)を用いたタイヤのシミュレーション方法(以下、「シミュレーション方法」ということがある。)が説明される。本実施形態のシミュレーション方法では、変形後のラッピングモデル21と、路面形成物をモデリングした路面形成モデルとの相互作用が計算される。
図12は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
図13は、ラッピングモデル21と路面形成モデル29とを示す側面図である。
図13では、
図8に示したラッピングモデル21のシェル要素H(i)が省略されている。
【0070】
[変形後のラッピングモデルを準備]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、変形後のラッピングモデル21が準備される(工程S11)。工程S11では、
図3に示した作成方法が実行されることで、変形後のラッピングモデル21が準備されうる。また、変形後のラッピングモデル21を特定するための数値データが記憶媒体2(
図1に示す)に記憶されている場合には、記憶媒体2の数値データがコンピュータ1に読み込まれることで、変形後のラッピングモデル21が準備されうる。
【0071】
工程S11では、転動しているラッピングモデル21が準備されてもよい。この場合、シミュレーションの単位時間T(x)毎に、転動しているラッピングモデル21がそれぞれ準備されるのが好ましい。準備されたラッピングモデル21は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0072】
[路面形成モデルを入力]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、路面形成モデル29がコンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S12)。本実施形態の工程S12では、
図2に示したタイヤ3と接触する路面形成物(図示省略)が、有限個の要素K(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、路面形成モデル29が作成される。
【0073】
路面形成物は、
図2に示したタイヤ3と接触可能な路面を構成するものであれば、特に限定されない。路面形成物には、水、岩、泥、雪、氷及び砂の少なくとも1つが含まれるのが好ましい。このような路面形成物がモデリングされることで、任意の路面を走行中のタイヤのシミュレーションが可能となる。本実施形態では、路面形成物として、雪が採用される。
【0074】
本実施形態の要素K(i)には、路面形成物を有限体積法にて取り扱い可能なオイラー要素が用いられる。本実施形態では、平面剛要素31の上の空間に定義された格子状の要素K(i)が設定される。要素K(i)には、路面形成物(本例では、雪)32が定義される。路面形成物32には、路面形成物の物性が定義される。物性には、例えば、弾塑性特性及び崩壊特性が含まれうる。
図13において、路面形成物32が定義された複数の要素K(i)が色付けして示されている。
【0075】
各要素K(i)において、路面形成物32の有無は、自由界面の流れの計算で用いられるVOF(Volume of Fluid)法に基づいて計算される。このような路面形成モデル29は、例えば、特許文献(特許第4394866号公報)や、特許文献(特開2017-126272号公報)に記載される方法に基づいて設定されうる。路面形成モデル29は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0076】
[ラッピングモデルと路面形成モデルとの相互作用を計算]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、ラッピングモデル21を路面形成モデル29に接触させて、ラッピングモデル21と路面形成モデル29との相互作用を計算する(工程S13)。
【0077】
本実施形態の工程S13では、路面形成モデル29との接触に先立ち、
図8及び
図10に示したラッピングモデル21のシェル要素H(i)が、剛体表面として定義される。これにより、工程S13では、路面形成モデル29との接触によって、ラッピングモデル21の変形が計算されることはない。
【0078】
ラッピングモデル21と路面形成モデル29との間には、タイヤ3と路面形成物との間に作用する物理量が定義される。物理量には、例えば、摩擦係数、粘着力及び粘着摩擦力等が含まれる。
【0079】
次に、本実施形態の工程S13では、ラッピングモデル21に、予め定められた荷重負荷条件L、キャンバー角、物理量(摩擦係数、粘着力及び粘着摩擦力等)が定義される。荷重負荷条件L及びキャンバーは、上述の作成方法と同様に設定される。荷重負荷条件Lは、ラッピングモデル21の回転軸21sに設定される。そして、ラッピングモデル21と路面形成モデル29との間の相互作用が計算される。
【0080】
相互作用は、ラッピングモデル21及び路面形成モデル29を用いて適宜計算されうる。相互作用には、例えば、ラッピングモデル21と路面形成モデル29との間に作用する力及びエネルギー等の授受などが含まれる。これらの力やエネルギー等の授受により、路面形成モデル29の変形が計算される。本実施形態のように、路面形成物として雪が採用された場合には、路面形成モデル29において、雪のコンパクション(踏み固められた状態)が計算される。
【0081】
工程S11において、転動しているラッピングモデル21が準備されている場合には、各単位時間T(x)のラッピングモデル21と路面形成モデル29との相互作用がそれぞれ計算される。これにより、ラッピングモデル21の転動によって変形した路面形成モデル29が計算される。
【0082】
ラッピングモデル21と路面形成モデル29との相互作用の計算や変形計算は、例えば、特許文献(特許第4394866号公報)と同様に、陽解法に基づいて計算されうる。このような計算には、例えば、上記の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられてもよいが、流体シミュレーションに特化した市販のアプリケーションソフト(例えば、Ansys社製のFluentなど)が用いられてもよい。相互作用(力及びエネルギー等の授受)や、路面形成モデル29の変形形状は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0083】
本実施形態のシミュレーション方法では、
図9~
図11に示した隙間20の露出が防がれたラッピングモデル21が用いられるため、
図13に示した路面形成物のモデリングに用いられた要素K(i)が、隙間20に進入するのが抑制される。これにより、本実施形態では、実際のタイヤ3(
図2に示す)には生じない現象が計算されるのを防ぐことが可能となる。さらに、剛体表面として定義されたラッピングモデル21により、タイヤの変形計算が省略されるため、計算時間が短縮される。
【0084】
[相互作用を評価]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、相互作用が、良好か否かが評価される(工程S14)。相互作用の評価は、
図2に示したタイヤ3に求められる性能等に応じて適宜実施される。
【0085】
工程S14において、相互作用が良好であると評価された場合(工程S14で「Yes」)、ラッピングモデル21の作成に使用されたタイヤの設計因子に基づいて、タイヤが設計及び製造される(工程S15)。一方、工程S14において、相互作用が良好でないと評価された場合(工程S14で「No」)、工程S11~工程S14が再度実施される。工程S11では、タイヤの設計因子を変更したラッピングモデル21が新たに準備されてもよい。これにより、所望の性能を有するタイヤ3(
図2に示す)を、確実に設計及び製造することが可能となる。
【0086】
[タイヤのシミュレーション方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態では、変形後のラッピングモデル21と、路面形成物をモデリングした路面形成モデル29との相互作用が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、変形後のラッピングモデル21と、気体をモデリングした気体モデルとの相互作用が計算されてもよい。
図14は、本発明の他の実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図15は、ラッピングモデル21と気体モデル34とを示す側面図である。
【0087】
[変形後のラッピングモデルを準備]
この実施形態のシミュレーション方法では、先ず、変形後のラッピングモデル21が準備される(工程S11)。工程S11は、これまでの実施形態のシミュレーション方法と同様の手順に基づいて、変形後のラッピングモデル21が準備される。準備されたラッピングモデル21は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0088】
[気体モデルを入力]
次に、この実施形態のシミュレーション方法では、気体モデル34が、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S16)。この実施形態の工程S16では、
図2に示したタイヤ3と接触する気体(図示省略)が、有限個の要素P(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、気体モデル34が作成される。
【0089】
この実施形態の要素P(i)には、気体物を有限体積法にて取り扱い可能なオイラー要素が用いられる。各要素P(i)には、気体(空気)の流速や圧力といった物理量が割り当てられる。各要素P(i)には、複数の節点35が設けられている。各節点35では、気体モデル34での物理量が計算される。このような気体モデル34は、例えば、特許文献(特許第4792049号公報)に記載される方法に基づいて設定されうる。
【0090】
この実施形態の気体モデル34は、ラッピングモデル21の全体を囲む大きさを有している。これにより、ラッピングモデル21のモデル表面22の全体と、気体モデル34との相互作用が計算されうる。気体モデル34は、立方体に形成されているが、特に限定されない。また、気体モデル34は、ラッピングモデル21の境界に沿って離散化される境界適合格子に基づいてモデリングされてもよい。
【0091】
本実施形態の気体モデル34には、ラッピングモデル21の前方に配置される前壁34a、ラッピングモデル21の後方に配置される後壁34b、及び、前壁34aと後壁34bとの間をのびる側壁34cが含まれる。気体モデル34は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0092】
[ラッピングモデルと気体モデルとの相互作用を計算]
次に、この実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、ラッピングモデル21を気体モデル34に接触させて、ラッピングモデル21と気体モデル34との相互作用を計算する(工程S17)。
【0093】
この実施形態の工程S17では、先ず、本実施形態では、路面形成モデル29との接触に先立ち、
図8及び
図10に示したラッピングモデル21のシェル要素H(i)が、剛体表面として定義される。これにより、工程S17では、気体モデル34との接触によって、ラッピングモデル21の変形が計算されることはない。
【0094】
次に、この実施形態の工程S17では、気体モデル34の内部に、ラッピングモデル21が配置される。次に、気体モデル34に、前壁34aから後壁34bに向かう流れが定義される。これにより、前壁34aから後壁34bに向かう気体モデル34と、ラッピングモデル21との接触が計算される。そして、ラッピングモデル21と路面形成モデル29との間の相互作用が計算される。
【0095】
相互作用は、ラッピングモデル21及び気体モデル34を用いて適宜計算されうる。相互作用には、例えば、ラッピングモデル21と気体モデル34との間に作用する力及びエネルギー等の授受などが含まれる。これらの力やエネルギー等の授受により、
図2に示したタイヤ3が気体に及ぼす影響(例えば、空力やノイズなど)が計算されうる。
【0096】
工程S11において、転動しているラッピングモデル21が準備されている場合には、各単位時間T(x)のラッピングモデル21と気体モデル34との相互作用がそれぞれ計算される。これにより、回転するタイヤ3が気体に及ぼす影響が計算されうる。
【0097】
ラッピングモデル21と気体モデル34との相互作用の計算や変形計算には、例えば、上記の有限要素解析アプリケーションソフトや、流体シミュレーションに特化した市販のアプリケーションソフトが用いられてもよい。相互作用(力及びエネルギー等の授受)は、コンピュータ1に記憶される。
【0098】
この実施形態のシミュレーション方法では、
図9~
図11に示した隙間20の露出が防がれたラッピングモデル21が用いられるため、
図15に示した気体のモデリングに用いられた要素P(i)が、隙間20に進入するのが抑制される。これにより、この実施形態では、これまでの実施形態と同様に、実際のタイヤ3(
図2に示す)には生じない現象が計算されるのを防ぐことが可能となる。さらに、剛体表面として定義されたラッピングモデル21により、タイヤの変形計算が省略されるため、計算時間が短縮される。
【0099】
[相互作用を評価]
次に、この実施形態のシミュレーション方法では、相互作用が、良好か否かが評価される(工程S14)。相互作用の評価は、これまでの実施形態と同様の手順に基づいて実施される。これにより、所望の性能を有するタイヤ3を設計及び製造することが可能となる。
【0100】
これまでの実施形態のシミュレーション方法では、有限体積法にて取り扱い可能なオイラー要素を用いた解析が実施されたが、このような態様に限定されない。例えば、粒子法や格子ボルツマン法に基づく解析が実施されてもよい。
【0101】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0102】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0103】
[本発明1]
トレッドパターン部と、前記トレッドパターン部のタイヤ半径方向内側の部分であるボディ部とを含むタイヤの数値解析用のタイヤモデルを作成するための方法であって、
前記トレッドパターン部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にM分割(ただし、Mは2以上の整数)したパターンモデルを、コンピュータに入力する工程と、
前記ボディ部を、有限個の要素を用いて、タイヤ周方向にN分割(ただし、NはMよりも小さい2以上の整数)したボディモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記ボディモデルのタイヤ半径方向外側に、前記パターンモデルを結合して、前記ボディモデルと前記パターンモデルとの結合部に隙間を有するタイヤベースモデルを作成する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤベースモデルの前記隙間がモデル表面で露出しないように、前記タイヤベースモデルの前記モデル表面を覆うシェル要素からなるラッピングモデルを作成する工程とを含む、
タイヤモデルの作成方法。
[本発明2]
前記ラッピングモデルは、前記パターンモデル及び前記ボディモデルの表面形状に追従して変形可能である、本発明1に記載のタイヤモデルの作成方法。
[本発明3]
前記ラッピングモデルは、前記タイヤベースモデルのタイヤ外表面を覆う外側ラッピングモデルを含む、本発明1又は2に記載のタイヤモデルの作成方法。
[本発明4]
前記ラッピングモデルは、前記タイヤベースモデルのタイヤ内表面を覆う内側ラッピングモデルを含む、本発明1ないし3のいずれかに記載のタイヤモデルの作成方法。
[本発明5]
前記コンピュータが、予め定められた条件に基づいて、前記タイヤベースモデルと前記ラッピングモデルとを含む前記タイヤモデルの変形を計算する工程と、
前記コンピュータが、変形後の前記タイヤモデルから、変形後の前記ラッピングモデルを抽出する工程とを含む、本発明1ないし4のいずれかに記載のタイヤモデルの作成方法。
[本発明6]
本発明5に記載のタイヤモデルの作成方法で抽出された変形後の前記ラッピングモデルを特定するための数値データが、前記コンピュータに読み取り可能に記憶されている、
記憶媒体。
[本発明7]
本発明5に記載のタイヤモデルの作成方法で作成された変形後の前記ラッピングモデルを用いたタイヤのシミュレーション方法であって、
前記タイヤと接触する路面形成物を有限個の要素で離散化した路面形成モデルを、前記コンピュータに入力する工程を含み、
前記コンピュータが、前記ラッピングモデルを前記路面形成モデルに接触させて、前記ラッピングモデルと前記路面形成モデルとの相互作用を計算する工程を実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
[本発明8]
前記路面形成物は、水、岩、泥、雪、氷及び砂の少なくとも1つを含む、本発明7に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明9]
本発明5に記載のタイヤモデルの作成方法で作成された変形後の前記ラッピングモデルを用いたタイヤのシミュレーション方法であって、
前記タイヤと接触する気体を有限個の要素で離散化した気体モデルを、前記コンピュータに入力する工程を含み、
前記コンピュータが、前記ラッピングモデルを前記気体モデルに接触させて、前記ラッピングモデルと前記気体モデルとの相互作用を計算する工程を実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
[本発明10]
前記気体モデルは、前記ラッピングモデルの全体を囲む大きさを有する、本発明9に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【符号の説明】
【0104】
S1 パターンモデルを入力する工程
S2 ボディモデルを入力する工程
S3 タイヤベースモデルを作成する工程
S4 ラッピングモデルを作成する工程