(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087569
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/092 20060101AFI20240624BHJP
A61M 25/14 20060101ALI20240624BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A61M25/092 500
A61M25/14 512
A61M25/00 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202464
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】吉原 章仙
(72)【発明者】
【氏名】林 伸明
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA02
4C267AA32
4C267BB06
4C267BB09
4C267BB12
4C267BB14
4C267BB16
4C267BB38
4C267BB52
4C267BB63
4C267CC08
4C267GG34
4C267HH02
(57)【要約】
【課題】操作線による操作性およびサブルーメンの耐久性に優れたカテーテルを提供する。
【解決手段】カテーテル10は、メインルーメン21aと、メインルーメン21aの周囲に配置され、メインルーメン21aの長手方向に沿って延びる複数のサブルーメン25aとを有する管状本体20と、サブルーメン25a内に配置され、その遠位端が管状本体20の遠位端に固定されている操作線30と、を備える。サブルーメン25aは、メインルーメン21aに沿って配置された樹脂製の中空管25で形成され、サブルーメン25aの長手方向と直交する断面形状は、管状本体20の径方向に沿った第1方向D1の寸法が、第1方向D1と直交する第2方向D2の寸法よりも短い扁平な環状である。中空管25の第1方向D1に位置する第1部位26の厚さt1が、中空管25の第2方向D2に位置する第2部位27の厚さt2よりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインルーメンと、前記メインルーメンの周囲に配置され、前記メインルーメンの長手方向に沿って延びる複数のサブルーメンとを有する管状本体と、
前記サブルーメン内に配置され、その遠位端が前記管状本体の遠位端に固定されている操作線と、を備え、
前記サブルーメンは、前記メインルーメンに沿って配置された樹脂製の中空管で形成され、
前記サブルーメンの長手方向と直交する断面形状は、前記管状本体の径方向に沿った第1方向の寸法が、前記第1方向と直交する第2方向の寸法よりも短い扁平な環状であり、
前記中空管の前記第1方向に位置する第1部位の厚さが、前記中空管の前記第2方向に位置する第2部位の厚さよりも大きい
カテーテル。
【請求項2】
前記中空管の前記第2部位の厚さに対する前記第1部位の厚さの比は1よりも大きく15以下である
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記サブルーメンの前記第1方向の長さと前記第2方向の長さの比は1よりも大きく4以下である
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記サブルーメンの前記第1方向の長さと前記第2方向の長さの相加平均は、60μm以上120μm以下である
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記管状本体の内径に対する前記第1部位の厚さの比は、0.002以上0.030以下である
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記中空管は、周方向における前記第1部位と前記第2部位の間に、前記第1部位よりも厚い厚肉部を有する
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記管状本体の遠位端は、前記操作線の近位側への牽引により屈曲する
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記管状本体は、前記中空管よりも径方向外側でらせん状に巻回され、前記長手方向に沿って配置される補強線材をさらに有する
請求項1に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、遠位端を屈曲させることにより体腔への進入方向が操作可能なカテーテルが提供されている。例えば、特許文献1には、薬液等が流れるメインルーメンの周囲にサブルーメンを並列に形成し、当該サブルーメンに操作線を挿通したシースを有するカテーテルが開示されている。この種のカテーテルでは、近位端側で操作線を牽引することでシースの遠位端を屈曲させる操作が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のカテーテルにおいて、シースのサブルーメンが配置される部位では、周方向のサブルーメン以外の部位と比べるとシース径方向の樹脂量が少なくなり、シースの強度が低下しうる。そこで、操作線の操作性を確保しつつ、サブルーメンの配置される部位でのシース径方向の樹脂量の低下を抑制するために、径方向への開口寸法が相対的に短い偏平な断面形状のサブルーメンがシースに設けられる場合もある。
【0005】
しかし、上記の断面形状のサブルーメンを適用する場合、シースが屈曲するときや薬液等の供給によるメインルーメンの内圧がサブルーメンにかかるときに、サブルーメンの管体がシースの径方向に臨む部位で破れる事象が生じやすい。
【0006】
そこで、本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、操作線による操作性およびサブルーメンの耐久性に優れたカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のカテーテルは、メインルーメンと、メインルーメンの周囲に配置され、メインルーメンの長手方向に沿って延びる複数のサブルーメンとを有する管状本体と、サブルーメン内に配置され、その遠位端が管状本体の遠位端に固定されている操作線と、を備える。サブルーメンは、メインルーメンに沿って配置された樹脂製の中空管で形成され、サブルーメンの長手方向と直交する断面形状は、管状本体の径方向に沿った第1方向の寸法が、第1方向と直交する第2方向の寸法よりも短い扁平な環状である。中空管の第1方向に位置する第1部位の厚さが、中空管の第2方向に位置する第2部位の厚さよりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、操作線による操作性およびサブルーメンの耐久性に優れたカテーテルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のカテーテルの一例を示す側面図である。
【
図2】カテーテルのA-A線部分の拡大断面図である。
【
図4】中空管の長手方向と直交する方向の断面を示す拡大図である。
【
図6】シースが屈曲した状態を模式的に示す図である。
【
図7】シースの屈曲部での中空管の変位例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係るカテーテルの構成例について説明する。なお、図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。また、以下の説明では、カテーテルのオペレータからみて遠い方を遠位側と称し、オペレータからみて近い方を近位側と称する。
【0011】
図1は、本実施形態のカテーテル10の一例を示す側面図である。
図2は、カテーテル10のA-A線部分の拡大断面図である。
図3は、
図2のB-B線断面図である。
【0012】
本実施形態のカテーテル10は、管状本体の一例であるシース20と、シース20の長手方向に沿ってシース20に挿通された複数本の操作線30と、シース20の近位側に設けられ、操作線30が接続された操作部50とを備えている。第1実施形態のカテーテル10は、操作部50で操作線30を個別に牽引操作することでシース20の遠位側を屈曲させることが可能である。
【0013】
シース20は、可撓性かつ長尺の管状体であって、内視鏡を通じてまたは直接に生体管腔内に挿通される。本実施形態のシース20の外径は、例えば、腹腔動脈などの血管、および肝動脈や内頸動脈枝などの末梢血管などに挿通可能な寸法である。
【0014】
図2、
図3に示すように、シース20は、内層21と、第1補強層22と、外層23と、操作線30と、マーカー40とを有している。
【0015】
シース20の内層21は、生体適合性を有する樹脂材料で管状に形成される。内層21は、薬液や造影剤などを流す中空管状のメインルーメン21aを内部に形成する。内層21は、円柱状のメイン芯線(不図示)の表面に樹脂材料で内層21の皮膜を管状に形成した後、当該皮膜からメイン芯線を引き抜くことで製造できる。特に限定するものではないが、シース20の内径(メインルーメン21aの径)は、例えば、0.5mm以上1.0mm以下としてもよい。
【0016】
例えば、
図2に示すように、内層21の長手方向と直交する方向の断面形状は円形であり、周方向に略均一の厚みを有している。なお、内層21の厚みは、長手方向にわたって均一でもよく、シース20の長手方向の位置により異なっていてもよい。例えば、メインルーメン21aの直径が遠位側から近位側に向けて連続的に拡大するテーパー状をなすように内層21が形成されていてもよい。
【0017】
内層21の材料には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。具体的には、内層21の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。内層21にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル10のメインルーメン21aを通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0018】
第1補強層22は、内層21の外周側に同心状に配置され、シース20の可撓性を保持しつつ内層21を外側から補強する機能を担う。第1補強層22は、例えば、内層21の周囲にワイヤを巻回するか、またはワイヤをメッシュ状に編成して管状に形成されている。
【0019】
第1補強層22に適用できるワイヤとしては、タングステン(W)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルチタン合金、鋼、チタン、銅、チタン合金、または銅合金などの金属細線のほか、内層21および外層23よりもせん断強度の高いポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子ファイバーの細線を用いることができる。第1補強層22に適用できるワイヤの断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
【0020】
外層23は、生体適合性を有する樹脂材料により、内層21の外周側で管状をなすように内層21と一体に形成され、周方向に略均一の厚みを有している。外層23は、内層21よりも径方向厚さが厚く、第1補強層22を内包するとともにシース20の主たる肉厚部分を構成する。また、外層23の外周側には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの材料で親水性被膜24が形成される。
【0021】
外層23は、内層21と同種または異種の樹脂材料で形成される。特に限定するものではないが、外層23の材料には熱可塑性ポリマーを広く用いることができる。例えば、外層23の材料としては、上記のPI、PAI、PETのほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン-酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVA)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。なお、外層23の材料には、X線造影性を向上させるために、硫酸バリウムや次炭酸ビスマスなどの無機フィラーが混合されていてもよい。
【0022】
また、外層23は、内層21および第1補強層22よりも外側に、複数のサブルーメン25aと、第2補強層29とを有している。
【0023】
サブルーメン25aは、メインルーメン21aよりも小径の管状の空隙であり、外層23の周方向に所定間隔をあけてメインルーメン21aの周囲に複数配置されている。例えば、各々のサブルーメン25aは、長手方向がメインルーメン21aの長手方向に沿うように並列に配置されている。
図2、
図3では、外層23の周方向にサブルーメン25aが180度の間隔をあけて2つ配置された例を示している。
【0024】
なお、外層23内のサブルーメン25aの数および配置は上記の例に限定されない。例えば、サブルーメン25aは、3つ以上形成されていてもよい。また、サブルーメン25aは、メインルーメン21aに対して長手方向成分および周回方向成分を含むように傾いて延びていてもよい。
【0025】
各々のサブルーメン25aは、外層23に埋設された中空管25によって形成されている。中空管25は、メインルーメン21aに沿って配置され、
図3に示すように遠位端側がマーカー40に臨み、近位端側は操作部50内に導入されている。また、中空管25の内部には、シース20の長手方向に沿って操作線30が摺動可能に遊挿されている。なお、操作線30が挿通された中空管25は第1補強層22の外側に配置されているため、メインルーメン21aは操作線30の摺動に対して第1補強層22で保護されている。
【0026】
中空管25の材料は、例えば内層21と同種または異種の樹脂材料で形成されている。一例として、中空管25の材料としては、操作線30との摺動性の観点から、PTFE、PVDFなどのフッ素系高分子材料や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSF)、高密度ポリエチレン(HDPE)やポリエステルなどを用いることができる。
【0027】
図4は、中空管25の長手方向と直交する方向の断面を示す拡大図である。中空管25の内側に形成されるサブルーメン25aは、長手方向と直交する方向の断面形状が略楕円状の扁平な環状をなしている。サブルーメン25aの断面において、シース20の径方向に沿った第1方向D1(
図4の上下方向)の長さL1が最も短く、第1方向D1と直交する第2方向D2(
図4の左右方向)の長さL2が最も長い。そのため、サブルーメン25aの第1方向D1の長さL1は、サブルーメン25aの第2方向D2の長さL2よりも短い(L1<L2)。
【0028】
ここで、サブルーメン25aの第1方向D1の長さL1が短いと、サブルーメン25aの配置される部位では、外層23の径方向において空隙の占める割合が少なくなる。これにより、外層23の径方向の樹脂量が増加するので、サブルーメン25aの配置される部位でのシース20の強度が向上しうる。
【0029】
一方で、サブルーメン25aの第2方向D2の長さL2が長くなると、サブルーメン25aの形状がより偏平になり、サブルーメン25aの第2方向D2の端部形状が鋭角に近づくのでサブルーメン25aの第2方向D2の端部でも応力集中による破断が生じやすくなる。また、サブルーメン25aの第2方向D2の長さL2が長くなると、後述の中空管25の形成のときに、第2方向D2の中間部分(後述する第1部位26の近傍)で樹脂膜にひけが生じやすくなる。
【0030】
サブルーメン25aの断面形状を規定するパラメータとして、サブルーメン25aの第1方向D1の長さL1に対する第2方向D2の長さL2の比(L2/L1)は、上記の観点に基づき適切な範囲で調整される。一例として、サブルーメン25aの第1方向D1の長さL1に対する第2方向D2の長さL2の比(L2/L1)は、1よりも大きく4以下であることが好ましい。上記の条件を満たす場合、サブルーメン25aの配置される部位でのシース20の強度が向上するとともに、サブルーメン25aの第2方向D2の端部での破断も抑制できる。また、上記の条件を満たす場合、第2方向D2の中間部分で樹脂膜のひけが生じにくくなり、中空管25の製造の際の歩留まりも向上する。
【0031】
サブルーメン25aの第1方向D1の長さL1は、操作線30の挿入と操作線30の長手方向への摺動を可能とするために、操作線30の外径よりも大きな値を有する。また、カテーテル10が屈曲してサブルーメン25aが変形した場合においても、サブルーメン25a内で操作線30が長手方向に摺動可能とするために、サブルーメン25aの大きさをある程度確保する必要がある。一例として、カテーテル10がマイクロカテーテルである場合、サブルーメン25aの第1方向D1の長さL1と第2方向D2の長さL2の相加平均は、60μm以上120μm以下とすることが好ましい。上記の条件を満たす場合、マイクロカテーテルにおいて、サブルーメン25aの全体的なサイズを小さくしつつも、サブルーメン25a内の操作線30が長手方向に摺動しにくくなることを抑制できる。
【0032】
また、中空管25は、サブルーメン25aの形状を規定している内周形状に対して外周形状が非相似であり、中空管25の周方向で肉厚が異なっている。
【0033】
例えば、中空管25の肉厚は、第1方向D1に位置する第1部位26の厚さt1が、第2方向D2に位置する第2部位27の厚さt2よりも大きい(t1>t2)。
【0034】
中空管25の第1部位26は、シース20の周方向において径方向の樹脂量が少ない箇所に臨んでいる。そのため、シース20を屈曲させたときや薬液等の供給でメインルーメン21aの内圧が高くなるときには、中空管25の第1部位26に応力が集中しやすい。また、メインルーメン21aは第1方向D1の長さL1が第2方向D2の長さL2よりも短いため、中空管25の第1部位26は第2部位27よりも操作線30に接触しやすく、第2部位27と比べて操作線30で擦れる可能性が高い。そのため、上記のように第1部位26の厚さt1を第2部位27の厚さt2よりも厚くすることで中空管25が破れにくくなり、中空管25およびシース20の強度を向上させることができる。
【0035】
上記の第1部位26の厚さt1を大きくしすぎると、シース20の長手方向の圧縮や引張に対して中空管25の反力が大きくなり、シース20の屈曲性が低下する可能性もある。そのため、中空管25の第2部位27の厚さt2に対する第1部位26の厚さt1の比(t1/t2)は、1よりも大きく15以下であることが好ましい。上記の条件を満たす場合、シース20の長手方向の圧縮や引張に対する中空管25の反力の増加を抑制しつつ、中空管25の第1部位26を補強することができる。一例として、カテーテル10がマイクロカテーテルである場合、第2部位27の厚さt2は1μm以上としてもよく、第1部位26の厚さt1は2μm以上15μm以下としてもよい。
【0036】
また、中空管25の第1部位26の厚さt1がシース20の内径に対して小さすぎる場合、中空管25の第1部位26での強度が不十分となる可能性がある。一方で、中空管25の第1部位26の厚さt1がシース20の内径に対して大きすぎる場合、サブルーメン25aの配置される部位で外層23の径方向の樹脂量が不足する可能性がある。そのため、シース20の内径に対する第1部位26の厚さt1の比は、0.002以上0.030以下とすることが好ましい。上記の条件を満たす場合、中空管25の第1部位26での強度と、サブルーメン25aの配置される部位での外層23の径方向の樹脂量をいずれも確保できる。
【0037】
また、中空管25は、周方向において第1部位26と第2部位27の間に厚肉部28を有している。厚肉部28は、中空管25の外周に交互に形成される第1部位26と第2部位27の間に配置され、中空管25の周方向に合計4つ形成されている。各々の厚肉部28の断面形状(周方向の長さ、肉厚分布など)はいずれも略同様である。また、厚肉部28の厚さt3は、第1部位26の厚さt1よりも大きい。
【0038】
図5は、中空管25の製造例を示す図である。
本実施形態の中空管25は、例えば、両端が曲面状をなす角丸長方形状のサブルーメン用の芯材(サブ芯線60)に中空管25の材料の溶液を塗布することで形成できる。なお、サブ芯線60の上面側および下面側には、それぞれ中央部にわずかな突起が形成されている。
図5では、サブ芯線60のエッジ部分を矢印で示している。
【0039】
サブ芯線60にコーティングされる溶液は、表面張力によってサブ芯線60の外表面にぬれ広がる。このとき、サブ芯線60の表面張力γSは、ヤング-デュプレの式が成立すると仮定するとき、溶液の表面張力γLと、サブ芯線60と溶液の接触角θと、溶液とサブ芯線60の界面張力γLSを用いて、以下のように求められる。
γS=γLcosθ+γLS
【0040】
ここで、上記の表面張力と界面張力はいずれもベクトル量である。サブ芯線60の平坦な部分とエッジ部分の間では、表面張力および界面張力の大きさは、物性が同じであるため変化しない。一方で、サブ芯線60と溶液の接触角θは各張力のベクトルの向きに応じて変化する。そのため、サブ芯線60のエッジ部分では、平坦な部分での接触角と比べてエッジ部分での接触角が異なることで、サブ芯線60のエッジ部分においては張力ベクトルの見かけ上のつり合いが崩れ、コーティングされた溶液にはひけが生じてしまう。サブ芯線60の上面側および下面側では、皮膜の中央部が窪んで薄肉になるとともにその両側には中央部よりも厚肉の部位が形成される。これにより、中空管25の第1部位26とその両側の厚肉部28が形成される。
【0041】
また、サブ芯線60の両側部では、表面張力で溶液がサブ芯線60のエッジに引っ張られることで、両側部の外側に凸となる曲面上に薄膜が形成される。サブ芯線60の両側部では皮膜が曲面で引き延ばされるため、上面側および下面側の中央部と比べて皮膜の厚さが薄くなる。これにより、中空管25において、第1部位26よりも薄肉な第2部位27が形成される。
【0042】
そして、
図5の状態から皮膜の乾燥後に、中空管25からサブ芯線60は長手方向に引き抜かれる。以上のようにして、内部にサブルーメン25aを有する中空管25(
図4)が形成される。
【0043】
第2補強層29は、メインルーメン21aおよび複数のサブルーメン25aの外側に配置され、第1補強層22で覆われた内層21および複数の中空管25を外側から覆っている。第2補強層29は、サブルーメン25aに配置された操作線30がシース20の外部に露出する事象を防止するとともに、シース20の製造時には内層21に対して複数の中空管25を位置決めして保持する機能を担う。
【0044】
第2補強層29は、例えば、第1補強層22で覆われた内層21および複数の中空管25の外側かららせん状に巻回される補強線材29aで形成され、シース20の長手方向に沿って配置されている。第2補強層29の補強線材29aには、例えば、第1補強層22で例示した材料が適用可能である。一例として、本実施形態では平線状の補強線材29aを図示するが、第1補強層22のワイヤと補強線材29aの構成は同じでもよく異なっていてもよい。
【0045】
ここで、シース20の製造工程では、内層21および第1補強層22を外周に形成したメイン芯線と、中空管25の皮膜を外周に形成したサブ芯線60(
図5)を準備する。そして、メイン芯線の周囲にサブ芯線60を並列に配置し、外側から補強線材29aをらせん状に巻回する。これにより、メインルーメン21aの周囲にサブルーメン25aが位置決めされる。
【0046】
ここで、サブルーメン25aの断面形状は偏平な環状であるため、メイン芯線にサブ芯線60を固定する際にメイン芯線に対してサブ芯線60を安定して配置しやすくなる。したがって、本実施形態によれば、製造工程でメイン芯線に対してサブ芯線60が蛇行しにくくなり、シース20の生産性が向上する。
また、本実施形態では、シース20の径方向に沿った中空管25の第1部位26が厚肉である。そのため、上記の製造工程で皮膜付きのサブ芯線60に補強線材29aが巻回されたときには、補強線材29aは中空管25の第1部位26で緩衝され、補強線材29aによるサブ芯線60への締め付けが緩和される。これにより、後工程で中空管25からサブ芯線60を抜去することが容易となる。
【0047】
操作線30は、シース20の長手方向に延びる線状部材であって、メインルーメン21aを隔てて各サブルーメン25a内に1本ずつ配置されている。各操作線30の遠位端はマーカー40に固定され、各操作線30の近位端は操作部50に接続されている。また、各操作線30は、操作部50の牽引によりサブルーメン25a内で長手方向にそれぞれ摺動可能である。
【0048】
操作線30の材料としては、例えば、低炭素鋼(ピアノ線)、SUS、耐腐食性被覆を施した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金またはタングステンなどを用いることができる。なお、操作線30は、1本の金属線材で構成されていてもよく、複数本の金属細線の撚り線であってもよい
【0049】
マーカー40は、シース20の遠位端に設けられるリング状の部材であり、シース20の遠位端をX線画像で外部から観察するときの指標として機能する。マーカー40は、例えば、プラチナ(Pr)、白金イリジウム(PrIr)、タングステンなどのX線造影性を有する材料で形成される。
【0050】
マーカー40は、
図3に示すように、シース20の遠位端において内層21および第1補強層22の外周側に固定され、外層23によって外側から被覆されている。マーカー40には、各操作線30の遠位端が固定されている。マーカー40に操作線30を固定する態様は特に限定されず、例えば、ハンダ接合、熱融着、接着剤による接着、操作線30とマーカー40との機械的掛止などのいずれの構成であってもよい。
【0051】
操作部50は、
図1に示すように、シース20の近位側に装着される本体部51と、ハブコネクタ52と、ダイヤル53およびストッパ54とを有している。
【0052】
本体部51は、カテーテル10を操作するオペレータが手で把持するハウジングである。シース20の近位側の端部は、管状のプロテクタ55で保護された上で本体部51の内部に導入されている。
【0053】
ハブコネクタ52は、本体部51の近位側に装着され、その先端がシース20のメインルーメン21aと互いに連通している。また、ハブコネクタ52には薬液等を注入するシリンジ(不図示)が接続可能である。シリンジからハブコネクタ52内に薬液等を注入することで、シース20のメインルーメン21aを介して生体管腔内に薬液等が供給される。
【0054】
ダイヤル53は、本体部51に設けられ、シース20の長手方向と直交する回転軸回りに回動可能な部材である。ダイヤル53は、本体部51内でシース20から引き出された操作線30との係合部(不図示)を有し、回動により各操作線30に個別に牽引力を付与できる。
【0055】
操作部50では、ダイヤル53の回動によりいずれかの操作線30を巻き取ることで、操作線30を長手方向に摺動させる。例えば、
図1(b)に示すようにダイヤル53を右回りに回動させると、シース20の一方の操作線30が摺動して近位側に牽引され、他方の操作線30は弛緩する。これにより、シース20の軸心から偏心した一方の操作線30に引張力が付与され、シース20の遠位端は一方の操作線30の側(図中上側)に屈曲する。
【0056】
また、例えば、
図1(c)に示すようにダイヤル53を左回りに回動させると、シース20の他方の操作線30が摺動して近位側に牽引され、一方の操作線30は弛緩する。これにより、シース20の軸心に対して偏心した他方の操作線30に引張力が付与され、シース20の遠位端は他方の操作線30の側(図中下側)に屈曲する。以上のようにして、操作部50でのダイヤル53の回動に伴ってシース20の遠位端を屈曲させることができる。
【0057】
ストッパ54は、本体部51に設けられ、ダイヤル53に対して離接可能に摺動する操作部材である。ストッパ54は、ダイヤル53に向けて摺動させるとダイヤル53と係合し、ダイヤル53の回動を規制する。ストッパ54によりダイヤル53の回動が規制されるロック状態とすることで、カテーテル10はシース20の屈曲状態を保持できる。
【0058】
図6は、シース20が屈曲した状態を模式的に示す図である。また、
図7(a)、(b)は、シース20の屈曲部20aでの中空管25の変位例を示す図である。
図7(a)、(b)では、変位前のサブルーメン25aの輪郭を一点鎖線で示している。
【0059】
操作線30の牽引によってシース20が屈曲すると、
図6に示すように、中立軸Zよりも曲げの内周側(図中Y側)では、シース20の屈曲部20aにおいて長手方向に圧縮が生じる。また、中立軸Zよりも曲げの外周側(図中X側)では、シース20の屈曲部20aにおいて長手方向に引張が生じる。
【0060】
長手方向に引張が生じる曲げの外周側では、屈曲部20aの外層23が引き延ばされることで、中空管25はシース20の径方向に潰れるように変位する。このとき、
図7(a)に示すように、中空管25は、長軸側の第2部位27同士の間隔が広がるとともに、短軸側の第1部位26同士の間隔が狭まるように変形する。
図7(a)では、サブルーメン25aがシース20の径方向と直交する第2方向に広がることで、曲げの外周側において操作線30の周囲に空隙を確保できる。
【0061】
一方、長手方向に圧縮が生じる曲げの外周側では、屈曲部20aの外層23が周方向にも圧縮され、
図7(b)に示すように、中空管25はシース20の径方向に広がるように変位する。
【0062】
中空管25は、第1部位26の厚さt1および第2部位27の厚さt2がそれぞれ厚肉部28よりも小さい。そのため、外層23が周方向に圧縮されると、厚肉部28および第1部位26よりも厚みの小さい第2部位27が最初に撓み、次に厚肉部28よりも厚みの小さい第1部位26が撓む。一方で、第1部位26と第2部位27の間の厚肉部28は、第1部位26および第2部位27に比べて撓みにくい。これにより、中空管25は、長軸側の第2部位27同士の間隔が狭まるとともに、短軸側の第1部位26同士の間隔が広がって、サブルーメン25aが円形断面に近づくように変形する。
【0063】
上記のように、操作線30が長手方向に摺動する曲げの内周側では、サブルーメン25aがシース20の径方向(第1方向)に広がることで、操作線30が中空管25と擦れにくくなり、操作線30が摺動しやすくなる。
【0064】
以下、本実施形態のカテーテル10の効果を述べる。
本実施形態のカテーテル10は、メインルーメン21aと、メインルーメン21aの周囲に配置され、メインルーメン21aの長手方向に沿って延びる複数のサブルーメン25aとを有するシース20(管状本体)と、サブルーメン25a内に配置され、その遠位端がシース20の遠位端に固定されている操作線30と、を備える。サブルーメン25aは、メインルーメン21aに沿って配置された樹脂製の中空管25で形成される。サブルーメン25aの長手方向と直交する断面形状は、シース20の径方向に沿った第1方向D1の寸法が、第1方向D1と直交する第2方向D2の寸法よりも短い扁平な環状である。中空管25の第1方向D1に位置する第1部位26の厚さt1が、中空管25の第2方向D2に位置する第2部位27の厚さt2よりも大きい。
本実施形態では、径方向への開口寸法が短い偏平な断面形状のサブルーメン25aとすることで、操作線30が摺動する空隙を確保しつつ、サブルーメン25aの配置される部位でのシース径方向の樹脂量の低下を抑制できる。また、第1部位26の厚さt1を第2部位27の厚さt2よりも厚くすることで中空管25が破れにくくなり、中空管25およびシース20の強度が向上する。これにより、操作線30の操作線とサブルーメン25aの耐久性に優れたカテーテル10を実現できる。
【0065】
また、本実施形態のカテーテル10では、操作線30が摺動するサブルーメン25aの耐久性が向上することで、シース20の薄肉化またはメインルーメン21aの大径化を達成できる。これにより、カテーテル10における薬液等のデリバリー性を従来よりも向上させることができる。
【0066】
また、中空管25の第2部位27の厚さt2に対する第1部位26の厚さt1の比(t1/t2)を1よりも大きく15以下とすると、シース20の長手方向の圧縮や引張に対する中空管25の反力の増加を抑制しつつ、中空管25の第1部位26を補強できる。
【0067】
また、サブルーメン25aの第1方向D1の長さと第2方向D2の長さの比を1よりも大きく4以下とすると、サブルーメン25aの配置される部位でのシース20の強度が向上するとともに、サブルーメン25aの第2方向D2の端部での破断も抑制できる。さらに、第2方向D2の中間部分で樹脂膜のひけが生じにくくなり、中空管25の製造の際の歩留まりも向上できる。
【0068】
また、サブルーメン25aの第1方向D1の長さと第2方向D2の長さの相加平均を60μm以上120μm以下とすると、サブルーメン25aの全体的なサイズを小さくしつつも、サブルーメン25a内の操作線30が長手方向に摺動しにくくなることを抑制できる。
【0069】
また、シース20の内径に対する第1部位26の厚さt1の比を0.002以上0.030以下とすると、中空管25の第1部位26での強度と、サブルーメン25aの配置される部位での外層23の径方向の樹脂量をいずれも確保できる。
【0070】
また、本実施形態の中空管25は、周方向における第1部位26と第2部位27の間に、第1部位26よりも厚い厚肉部28を有する。これにより、シース20の曲げの内周側では、短軸側の第1部位26同士の間隔が広がってサブルーメン25aが円形断面に近づくように変形し、操作線30が摺動しやすくなる。
【0071】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0072】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0073】
なお、上記の実施形態の開示は以下の技術的思想を包含する。
(1)メインルーメンと、前記メインルーメンの周囲に配置され、前記メインルーメンの長手方向に沿って延びる複数のサブルーメンとを有する管状本体と、前記サブルーメン内に配置され、その遠位端が前記管状本体の遠位端に固定されている操作線と、を備え、前記サブルーメンは、前記メインルーメンに沿って配置された樹脂製の中空管で形成され、前記サブルーメンの長手方向と直交する断面形状は、前記管状本体の径方向に沿った第1方向の寸法が、前記第1方向と直交する第2方向の寸法よりも短い扁平な環状であり、前記中空管の前記第1方向に位置する第1部位の厚さが、前記中空管の前記第2方向に位置する第2部位の厚さよりも大きいカテーテル。
(2)前記中空管の前記第2部位の厚さに対する前記第1部位の厚さの比は1よりも大きく15以下である上記(1)に記載のカテーテル。
(3)前記サブルーメンの前記第1方向の長さと前記第2方向の長さの比は1よりも大きく4以下である上記(1)または上記(2)に記載のカテーテル。
(4)前記サブルーメンの前記第1方向の長さと前記第2方向の長さの相加平均は、60μm以上120μm以下である上記(1)から上記(3)のいずれか1項に記載のカテーテル。
(5)前記管状本体の内径に対する前記第1部位の厚さの比は、0.002以上0.030以下である上記(1)から上記(4)のいずれか1項に記載のカテーテル。
(6)前記中空管は、周方向における前記第1部位と前記第2部位の間に、前記第1部位よりも厚い厚肉部を有する上記(1)から上記(5)のいずれか1項に記載のカテーテル。
(7)前記管状本体の遠位端は、前記操作線の近位側への牽引により屈曲する上記(1)から上記(6)のいずれか1項に記載のカテーテル。
(8)前記管状本体は、前記中空管よりも径方向外側でらせん状に巻回され、前記長手方向に沿って配置される補強線材をさらに有する上記(1)から上記(7)のいずれか1項に記載のカテーテル。
【符号の説明】
【0074】
10…カテーテル、20…シース(管状本体)、20a…屈曲部、21…内層、21a…メインルーメン、22…第1補強層、23…外層、24…親水性被膜、25…中空管、25a…サブルーメン、26…第1部位、27…第2部位、28…厚肉部、29…第2補強層、29a…補強線材、30…操作線、40…マーカー、50…操作部、51…本体部、52…ハブコネクタ、53…ダイヤル、54…ストッパ、55…プロテクタ、60…サブ芯線