(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087588
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】鍵盤楽器および鍵盤楽器の製造方法
(51)【国際特許分類】
G10C 3/12 20060101AFI20240624BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20240624BHJP
G10B 3/12 20060101ALI20240624BHJP
G10C 1/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G10C3/12
G10H1/34
G10B3/12 100
G10C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202486
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 一郎
(72)【発明者】
【氏名】曽我 一樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 佳之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕史
(72)【発明者】
【氏名】勝又 良宏
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
(57)【要約】
【課題】鍵盤楽器について美観に優れた意匠を提供する。
【解決手段】鍵盤楽器100は、木質材を含む複数の鍵10を具備する。複数の鍵10は、幹音の発音のために操作される第1演奏面を有する複数の幹音鍵11と、派生音の発音のために操作される第2演奏面を有する複数の派生音鍵12とを含む。第1演奏面と第2演奏面とにおいて、L
*a
*b
*色空間におけるSCI方式による測色値について、
条件1:ΔE
*ab≦17、および、
条件2:ΔH
*<15、かつ、かつ、-1.7<L
*/c
*<1.7
の少なくも一方が成立する。第1演奏面と第2演奏面とは、光反射率または表面粗さの少なくとも一方が相違する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材を含む複数の鍵を具備し、
前記複数の鍵は、
幹音の発音のために操作される第1演奏面を有する複数の幹音鍵と、
派生音の発音のために操作される第2演奏面を有する複数の派生音鍵とを含み、
前記第1演奏面と前記第2演奏面とにおいて、L*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値について、
条件1:ΔE*ab≦17、および、
条件2:ΔH*<15、かつ、-1.7<L*/c*<1.7
の少なくも一方が成立し、
前記第1演奏面と前記第2演奏面とは、光反射率または表面粗さの少なくとも一方が相違する
鍵盤楽器。
【請求項2】
前記第1演奏面の色を決定づける材料と、前記第2演奏面の色を決定づける材料とが共通する
請求項1の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記第1演奏面および前記第2演奏面は、同じ樹種の木質材を含む
請求項2の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記幹音鍵は、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料により形成された成形体であり、
前記派生音鍵は、前記特定の樹種の木質材により形成された成形体である
請求項1の鍵盤楽器。
【請求項5】
前記第1演奏面と前記第2演奏面との間において、L*a*b*色空間におけるSCE方式による測色値についてΔE*ab≧1が成立する
請求項1の鍵盤楽器。
【請求項6】
前記幹音鍵のうち前記第1演奏面以外の表面は、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料により形成された成形体の成形面で構成され、かつ、前記第1演奏面は、前記成形面が除去された吸湿面である
請求項1の鍵盤楽器。
【請求項7】
複数の鍵組立体を具備し、
前記複数の鍵組立体の各々は、
木質材を含む材料により形成された前記派生音鍵と、
木質材を含まない材料により形成され、前記派生音鍵を支持する支持部とを含む
請求項1の鍵盤楽器。
【請求項8】
前記支持部は、前記派生音鍵の変位に連動して他部材に対して摺動する摺動部を含む
請求項7の鍵盤楽器。
【請求項9】
前記支持部は、前記派生音鍵の変位に連動して弾性変形する変形部を含む
請求項7の鍵盤楽器。
【請求項10】
前記複数の鍵組立体の各々における前記変形部は、ひとつの連結部材に連結される
請求項9の鍵盤楽器。
【請求項11】
木質材とプラスチックとを含む複合材料により成形体を形成し、
前記成形体における成形面の一部を除去することで、鍵盤楽器の鍵のうち演奏者が楽音の発音のために接触する演奏面を形成する
鍵盤楽器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばピアノ等の鍵盤楽器の鍵に関する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、染色済の木粉と樹脂と顔料とを含む材料により鍵盤楽器の黒鍵を成形する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鍵盤楽器の鍵盤は、複数の白鍵と複数の黒鍵とが配列された構造である。以上の構造は周知の意匠であるが、例えば色の統一感等の多面的な観点から改善の余地はある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、鍵盤楽器について美観に優れた意匠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る鍵盤楽器は、木質材を含む複数の鍵を具備し、前記複数の鍵は、幹音の発音のために操作される第1演奏面を有する複数の幹音鍵と、派生音の発音のために操作される第2演奏面を有する複数の派生音鍵とを含み、前記第1演奏面と前記第2演奏面とにおいて、L*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値について、
条件1:ΔE*ab≦17、および
条件2:ΔH*<15、かつ、-1.7<L*/c*<1.7
の少なくも一方が成立し、前記第1演奏面と前記第2演奏面とは、光反射率または表面粗さの少なくとも一方が相違する。
【0006】
本開示のひとつの態様に係る鍵盤楽器の製造方法は、木質材とプラスチックとを含む複合材料の射出成形により成形体を形成し、前記成形体における成形面の一部を除去することで、鍵盤楽器の鍵のうち演奏者が楽音の発音のために接触する演奏面を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態における鍵盤楽器の斜視図である。
【
図2】鍵盤楽器の内部的な構成を例示するブロック図である。
【
図7】各鍵の取付部の近傍を拡大した平面図である。
【
図8】幹音鍵を製造する工程のフローチャートである。
【
図9】派生音鍵を製造する工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A:第1実施形態
図1は、第1実施形態に係る鍵盤楽器100の斜視図である。鍵盤楽器100は、演奏者による演奏に応じて楽音を放射する電子楽器である。第1実施形態の鍵盤楽器100は、鍵盤1と支持体2とを具備する電子ピアノである。
【0009】
鍵盤1は、相異なる音高に対応する複数の鍵10を含む。各鍵10は、演奏者による押鍵および離鍵の操作を受付ける演奏操作子である。すなわち、演奏者は、所望の音高の楽音を発音するために各鍵10に順次に接触する。複数の鍵10は、X軸に沿って配列される。X軸は、演奏者の左右の方向に延在する軸線である。また、
図1のY軸は、水平面内においてX軸に直交する軸線である。すなわち、Y軸は、演奏者の前後の方向に延在する。各鍵10は、Y軸の方向に長尺な部材である。
【0010】
鍵盤1を構成する複数の鍵10は、複数の幹音鍵11と複数の派生音鍵12とに区別される。すなわち、鍵盤1は、複数の幹音鍵11と複数の派生音鍵12とで構成される。各幹音鍵11は、幹音に対応する鍵であり、各派生音鍵12は、派生音に対応する鍵である。幹音は、音律において基礎となる楽音であり、具体的にはシャープ(♯)またはフラット(♭)等の変化記号が付加されていない楽音(C,D,E,F,G,A,B)を意味する。各幹音鍵11は、一般的な白黒の鍵盤における白鍵(長鍵)に対応する。他方、派生音は、音律において幹音以外の楽音であり、具体的には変化記号が付加された楽音(C#,D#,F#,G#,A#)を意味する。各派生音鍵12は、一般的な白黒の鍵盤における黒鍵(短鍵)に対応する。
【0011】
支持体2は、鍵盤1を収容および支持する構造体である。第1実施形態の支持体2は、筐体20と右脚部23と左脚部24と譜面台25とを含む。筐体20は、鍵盤1を収容および支持する中空の構造体である。第1実施形態の筐体20は、上部材21と下部材22とを含む。上部材21は、筐体20の上面を構成する部材である。下部材22は、筐体20の底面を構成する部材である。
【0012】
右脚部23および左脚部24は、鍵盤1および筐体20を所定の高さに支持する平板状の構造体である。右脚部23と左脚部24との間に筐体20が支持され、当該筐体20に鍵盤1が収容される。譜面台25は、上部材21に設置され、楽曲の譜面を支持する。なお、右脚部23と左脚部24と譜面台25とは省略されてもよい。
【0013】
図2は、鍵盤楽器100の内部的な構成のブロック図である。
図2に例示される通り、鍵盤楽器100は、検出装置31と音源装置32と放音装置33とを具備する。検出装置31と音源装置32と放音装置33とは筐体20に収容される。
【0014】
検出装置31は、複数の鍵10の各々に対する操作を検出するセンサである。具体的には、検出装置31は、演奏者が各鍵10を演奏する操作(すなわち押鍵)と、当該操作の解除(すなわち離鍵)とを検出する。検出装置31は、例えば、各鍵10の変位を光学的、機械的または磁気的に検出するセンサで構成される。
【0015】
音源装置32は、演奏者による演奏に応じた音響信号を生成する。音響信号は、演奏者が操作した鍵10に対応する音高の楽音を表す信号である。音源装置32は、汎用の演算処理装置により実現されるソフトウェア音源、および専用の電子回路により実現されるハードウェア音源の何れでもよい。
【0016】
放音装置33は、音響信号が表す楽音を放射する。例えば単数または複数のスピーカが、放音装置33として利用される。なお、演奏者の頭部に装着されるヘッドホンが、放音装置33として利用されてもよい。
【0017】
図3は、鍵盤1の一部を拡大した平面図である。
図4は、鍵盤1をY軸の方向からみた正面図である。なお、
図4においては複数の幹音鍵11の一部の外形が破線で図示されている。
【0018】
各幹音鍵11は、幹音の発音のために操作される第1演奏面F1を含む。同様に、各派生音鍵12は、派生音の発音のために操作される第2演奏面F2を含む。第1演奏面F1および第2演奏面F2は、演奏者の手指が接触する上面である。
【0019】
従前の一般的な鍵盤は、色が顕著に相違する白鍵と黒鍵とで構成される。従前の鍵盤とは対照的に、第1実施形態においては、各幹音鍵11の色と各派生音鍵12の色とが相互に近似する。具体的には、幹音鍵11および派生音鍵12の双方が、黒色に近似する。
【0020】
例えば、各幹音鍵11の第1演奏面F1と各派生音鍵12の第2演奏面F2との色差は、CIE(国際照明委員会)のL*a*b*色空間におけるSCI(正反射光を含む)方式による測色値についてΔE*ab≦17であり、さらに具体的にはΔE*ab≦12である。以上の測色値は、分光測色計としてコニカミノルタ(登録商標)社製のCM-700dを利用し、かつ、光源としてCIE標準光源D65を利用して、拡散照明(積分球)方式により条件d(di:8°)のもとで測定される数値である。第1実施形態においては、鍵盤1を構成する全部の幹音鍵11および全部の派生音鍵12について、色差に関する以上の条件が成立する。ただし、鍵盤1を構成する一部の幹音鍵11または一部の派生音鍵12について以上の条件が成立してもよい。
【0021】
他方、各幹音鍵11と各派生音鍵12との間で光反射率は相違する。光反射率は、物体に照射される照射光の強度に対する反射光の強度の比率(%)である。具体的には、第1演奏面F1の光反射率と第2演奏面F2の光反射率とが相違する。第1実施形態において、第1演奏面F1の光反射率と第2演奏面F2の光反射率との差異(色差)は、CIEのL*a*b*色空間におけるSCE(正反射光除去)方式による測色値についてΔE*ab≧1であり、さらに具体的にはΔE*ab≧2である。以上の測色値は、前述の測色と同様に、分光測色計としてコニカミノルタ(登録商標)社製のCM-700dを利用し、かつ、光源としてCIE標準光源D65を利用して、拡散照明(積分球)方式により条件d(di:8°)のもとで測定される数値である。第1実施形態においては、鍵盤1を構成する全部の幹音鍵11および全部の派生音鍵12について、色差(反射率差)に関する以上の条件が成立する。ただし、鍵盤1を構成する一部の幹音鍵11または一部の派生音鍵12について以上の条件が成立してもよい。
【0022】
なお、幹音鍵11の色調値(WL,Wa,Wb)と派生音鍵12の色調値(BL,Ba,Bb)との間の色差ΔE*abは、例えば以下の数式(1)により定義される。
ΔE*ab={(WL-BL)2+(Wa-Ba)2+(Wb-Bb)2}1/2 (1)
【0023】
以上に説明した通り、第1実施形態においては、各幹音鍵11の第1演奏面F1と各派生音鍵12の第2演奏面F2との色差が、L*a*b*色空間におけるSCI(正反射光を含む)方式による測色値についてΔE*ab≦17である。したがって、複数の幹音鍵11と複数の派生音鍵12とを含む複数の鍵10(すなわち鍵盤1)の全体について色の統一感が実現され、美観に優れた意匠を提供できる。他方、第1演奏面F1と第2演奏面F2との間において光反射率は相違するから、演奏者は幹音鍵11と派生音鍵12とを視覚により識別できる。すなわち、第1実施形態によれば、鍵盤1の全体にわたる色の統一感と、幹音鍵11および派生音鍵12の識別性とを両立できる。
【0024】
複数の鍵10は、木質材を含む材料により形成される。木質材は、樹木から切出された材木の細分化により形成される木質の素材である。木質材は、例えば木粉等の木材のみで構成されてもよいし、木材と樹脂材料(例えば合成樹脂)との混合で構成されてもよい。例えば、スプルース、エゾマツ、アガチス、メープル、カバ、マンソニア、サペリ、オーストラリアンブラックウッド、黒檀、紫檀、ホンジュラスローズ、アフリカンパドック、グラナディラ、パオローザ、ウォールナット、ソノケリンマンソニア、アッシュ、オバンコール、オリーブまたはユーカリ等の樹種が、各鍵10を形成するための木質材として利用される。
【0025】
各幹音鍵11は、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料の射出成形により形成された成形体(すなわち射出成形体)である。他方、幹音鍵11は、特定の樹種の木質材の流動成形により形成された成形体(すなわち流動成形体)である。
【0026】
幹音鍵11に利用される木質材の樹種と、幹音鍵11に利用される木質材の樹種とは共通する。すなわち、第1演奏面F1および第2演奏面F2は、同じ樹種の木質材を含む。幹音鍵11および派生音鍵12の色は、材料に含まれる木質材の樹種に依存する。すなわち、第1実施形態においては、各幹音鍵11の第1演奏面F1の色を決定づける材料と、各派生音鍵12の第2演奏面F2の色を決定づける材料とが共通する。
【0027】
以上の通り、第1実施形態においては、各幹音鍵11の第1演奏面F1と各派生音鍵12の第2演奏面F2との間で材料の少なくとも一部が共通する。したがって、第1演奏面F1と第2演奏面F2とで材料が重複しない形態と比較して、各幹音鍵11と各派生音鍵12との色を統一し易いという利点がある。第1実施形態においては特に、第1演奏面F1の材料と第2演奏面F2の材料とが同じ樹種の材料を含むから、第1演奏面F1と第2演奏面F2との間で色を容易に近似させることが可能である。なお、幹音鍵11の材料と派生音鍵12の材料とは相違してもよい。
【0028】
なお、幹音鍵11および派生音鍵12の材料となる木質材としては、例えば楽器または建材等の各種の木製品の製造時に発生する端材が利用されてもよい。以上のように資材を廃棄することなく有効に利用することで環境負荷が軽減され、持続可能な開発の達成に寄与できる。
【0029】
図5は、任意の1個の幹音鍵11の側面図である。幹音鍵11は、基礎部41aと取付部42aと案内部43aとを含む構造体である。基礎部41aは、幹音鍵11のうち第1演奏面F1を含む長尺状の基本部分である。
【0030】
取付部42aは、基礎部41a(幹音鍵11)を筐体20に取付けるための部分であり、基礎部41aの基端(演奏者から遠い端部)に連続する。
図3に例示される通り、幹音鍵11は、取付部42aにより筐体20に支持された状態で、X軸に沿う回動軸C1を中心として回動する。案内部43aは、幹音鍵11についてX軸の方向の移動を規制するガイドである。具体的には、案内部43aは、
図4および
図5に例示される通り、基礎部41aのうち第1演奏面F1とは反対側の下面から鉛直方向の下方に突出する。
【0031】
図3および
図4に例示される通り、第1実施形態の鍵盤1は、相異なる派生音に対応する複数の鍵組立体50を含む。X軸の方向に隣合う2個の幹音鍵11の間に1個の鍵組立体50が設置される。
【0032】
図6は、任意の1個の鍵組立体50の分解側面図である。
図4および
図6に例示される通り、各派生音に対応する1個の鍵組立体50は、当該派生音に対応する前述の派生音鍵12と、派生音鍵12を支持する支持部51とを含む。
【0033】
図6に例示される通り、支持部51は、基礎部41bと取付部42bと案内部43bとを含む構造体である。支持部51は、例えばプラスチック等の弾性材料の射出成形により一体に形成される。派生音鍵12が木質材を含む材料により形成されるのに対し、支持部51は木質材を含まない材料により形成される。
【0034】
第1実施形態においては、木質材を含む材料により木質材の質感および特性を有する派生音鍵12が実現される。他方、派生音鍵12を支持する支持部51は木質材を含まない材料により形成される。すなわち、例えば派生音鍵12を支持する機械的な特性(例えば機械的な強度および弾性特性)のために好適な材料を支持部51の材料として選択できる。以上の通り、必要な機械的な特性を維持しながら、木質材の質感および特性を有する鍵10(鍵組立体50)を実現できる。
【0035】
図6の基礎部41bは、派生音鍵12を支持する。基礎部41bは、支持部51のうちY軸の方向に長尺な基本部分である。基礎部41bの上面には、Y軸の方向に長尺な矩形状の開口52が形成される。他方、派生音鍵12の下面には、Y軸の方向に長尺な突起部13が形成される。基礎部41bの開口52に派生音鍵12の突起部13が嵌合することで派生音鍵12が基礎部41bに固定される。すなわち、派生音鍵12の突起部13の外周面は基礎部41bの開口52の内周面に密着する。なお、派生音鍵12は、例えば接着剤等の接合材またはネジ等の締結材により、基礎部41bに固定されてもよい。
【0036】
取付部42bは、基礎部41b(さらには派生音鍵12)を筐体20に取付けるための部分であり、基礎部41bの基端(演奏者から遠い端部)に連続する。
図3に例示される通り、派生音鍵12は、取付部42bにより筐体20に支持された状態で、X軸に沿う回動軸C2を中心として回動する。案内部43bは、派生音鍵12についてX軸の方向の移動を規制するガイドである。具体的には、案内部43bは、基礎部41bのうち第2演奏面F2とは反対側の下面から鉛直方向の下方に突出する。
【0037】
図7は、幹音鍵11および派生音鍵12の各々に対応する取付部42(42a,42b)の近傍を拡大した平面図である。取付部42は、基礎部41(41a,41b)の基端からY軸の方向に延在する軸部分421と、軸部分421からX軸の方向に屈曲する鉤部分422とで構成される。筐体20に設置された軸受部26および保持部27に取付部42が装着されることで、鍵10(幹音鍵11,派生音鍵12)が筐体20に支持される。
【0038】
軸受部26は、X軸の方向に延在する部分である。軸受部26には、鉛直方向の上方に開口する取付溝261が形成される。また、保持部27は、取付溝261からみて鉛直方向の上方に位置する部分である。取付溝261の内壁面と保持部27の下面とにより包囲された空間に取付部42の軸部分421が挿入されることで、基礎部41が軸受部26に支持される。
【0039】
以上の構成において、幹音鍵11は、第1演奏面F1に対する演奏者からの操作に応じて、X軸に沿う回動軸C1を中心として回動する。同様に、派生音鍵12は、第2演奏面F2に対する演奏者からの操作に応じて、X軸に沿う回動軸C2を中心として回動する。具体的には、軸受部26の取付溝261の内壁面と保持部27の下面とに取付部42が接触した状態で、各鍵10の先端は鉛直方向に変位する。以上の説明から理解される通り、取付部42は、各鍵10の変位に連動して他部材(すなわち軸受部26および保持部27)に対して摺動する摺動部である。取付部42と軸受部26との間には、例えばグリスまたはオイル等の潤滑剤が塗布される。
【0040】
図4に例示される通り、幹音鍵11および派生音鍵12の各々に対応する案内部43(43a,43b)には、鉛直方向に直線状に延在するスリット44が形成される。他方、筐体20(例えば下部材22)には、
図5および
図6に例示される通り、案内部43のスリット44に挿入される平板状の規制部28が鍵10毎に設置される。規制部28にスリット44の内壁面が接触した状態で、各鍵10の先端は鉛直方向に変位する。したがって、X軸の方向における各鍵10の変位が制限される。以上の説明から理解される通り、各鍵10の案内部43は、当該鍵10の変位に連動して他部材(すなわち規制部28)に対して摺動する摺動部である。案内部43と規制部28との間には、例えばグリスまたはオイル等の潤滑剤が塗布される。
【0041】
派生音鍵12は木質材を含む材料により形成されるから、潤滑剤が派生音鍵12に付着した場合には潤滑剤が派生音鍵12により吸収される可能性がある。第1実施形態においては、鍵組立体50のうち他部材に対して摺動する摺動部(取付部42bおよび案内部43b)が、木質材を含まない支持部51により実現される。以上の形態によれば、潤滑剤が派生音鍵12に付着する可能性が低減される。したがって、潤滑剤が派生音鍵12により吸収されることを抑制できる。
【0042】
図8は、鍵盤楽器100の製造工程のうち幹音鍵11を製造する工程のフローチャートである。まず、準備工程Pa1において、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料(WPC:Wood Plastic Composite)が準備される。具体的には、木質材の含有率(重量比)が70%以上である高充填WPCが、準備工程Pa1において準備される。例えば、複合材料は、重量比で70%の木質材と30%のプラスチックとを含有する。ただし、木質材とプラスチックとの混合比は以上の例示に限定されない。また、複合材料は、木質材およびプラスチック以外の物質を含んでもよい。
【0043】
準備工程Pa1の実行後の成形工程Pa2において、複合材料の射出成形により、幹音鍵11の原形となる成形体が形成される。具体的には、流動状の複合材料が射出成形型に充填され、加圧状態での冷却により複合材料が硬化され、硬化後の開型により成形体が形成される。成形体の外表面は、射出成形型の内壁面により形成された成形面である。
【0044】
成形工程Pa2の実行後の除去工程Pa3において、成形体における成形面の一部の除去により、幹音鍵11の第1演奏面F1が形成される。すなわち、第1演奏面F1は、成形面の除去により露出した表面である。具体的には、例えば刃物等の切削器を利用した切除(切削)、金属やすりまたはサンドペーパー等の研削具を利用した研削、または、布製のバフ等の研磨具を利用した研磨(バフ掛け)が、除去工程Pa3における成形面の除去に利用される。
【0045】
以上の通り、幹音鍵11のうちの第1演奏面F1は、成形体の成形面が除去された表面(以下「吸湿面」という)である。他方、幹音鍵11のうち第1演奏面F1以外の表面は、成形体の成形面で構成される。
【0046】
木質材とプラスチックとを含む複合材料により形成された成形体の成形面は、当該成形面の直下に位置する内部層と比較してプラスチックの含有率が高い傾向がある。成形体の成形面は、機械的な強度が内部層と比較して高く、かつ、木質材の含有率が高い内部層と比較して吸湿性が低い。したがって、第1演奏面F1以外の表面により幹音鍵11の機械的な強度を確保できる。また、第1演奏面F1以外の表面における吸湿が低減されるから、吸湿による幹音鍵11の膨張が抑制される。
【0047】
他方、成形面の除去により露出した内部層の表面は、成形面と比較して木質材の含有率が高い吸湿面となる。したがって、演奏者の手指に付着した水分を吸湿面により吸収することが可能である。以上の説明の通り、第1実施形態によれば、幹音鍵11のうち演奏面以外の成形面により、幹音鍵11の機械的な強度の維持と吸湿による膨張の抑制とを実現しながら、演奏者の手指に付着した水分を吸湿面により吸収できる。
【0048】
また、第1実施形態においては、木質材とプラスチックとの複合材料により幹音鍵11が製造されるから、幹音鍵11がプラスチックのみで成形される従来の技術と比較してプラスチックの使用量が削減される。したがって、環境負荷を軽減できるという利点もある。
【0049】
なお、潤滑剤が幹音鍵11の第1演奏面F1に付着した場合には、潤滑剤が幹音鍵11に吸収される可能性がある。第1実施形態において、幹音鍵11のうち他部材に対して摺動する摺動部(取付部42aおよび案内部43a)の表面は成形面である。成形面の吸湿性は低いから、潤滑剤が幹音鍵11により吸収されることは抑制される。
【0050】
第1実施形態においては、成形体における成形面の一部を除去することで第1演奏面F1が形成される。したがって、例えば成形体の表面に吸湿層を追加的に形成する形態と比較して、演奏者の手指に付着した水分を効果的に吸収可能な第1演奏面F1を容易に形成できる。
【0051】
図9は、鍵盤楽器100の製造工程のうち派生音鍵12を製造する工程のフローチャートである。まず、準備工程Pb1において成形材料が準備される。成形材料は、樹脂材料等の液状の薬剤の含浸により木質材を軟化させた材料である。派生音鍵12の成形材料における木質材の含有率は、幹音鍵11の成形に利用される複合材料における木質材の含有率を上回る。
【0052】
準備工程Pb1の実行後の充填工程Pb2において、成形材料が流動成形型に充填される。充填工程Pb2の実行後の成形工程Pb3において流動成形が実行される。具体的には、流動成形型の内部の加熱および加圧により成形材料を流動させることで、流動成形型の内部形状に対応する派生音鍵12が成形される。成形工程Pb3の実行後の開型工程Pb4において、流動成形型の開型により派生音鍵12が完成する。
【0053】
図8の工程により製造された幹音鍵11と、
図9の工程により製造された派生音鍵12との組合せにより鍵盤1が構成され、鍵盤1を支持体2に設置することで鍵盤楽器100が製造される。
【0054】
B:第2実施形態
第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各形態において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用したのと同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0055】
図10および
図11は、第2実施形態における鍵盤1の平面図である。第2実施形態の鍵盤1は、
図10に例示される幹音鍵ユニットU1と
図11に例示される派生音鍵ユニットU2とを具備する。複数の幹音鍵ユニットU1と複数の派生音鍵ユニットU2とがX軸の方向に配列されることで鍵盤1が構成される。
【0056】
図10に例示される通り、各幹音鍵ユニットU1は、鍵盤1に含まれる複数の幹音鍵11のうち所定個(例えば7個)の幹音鍵11と、ひとつの連結部材45aとを具備する。連結部材45aは、X軸の方向に長尺な板状部材である。各幹音鍵11と連結部材45aとは、例えば射出成形型を利用した射出成形(成形工程Pa2)により一体に成形される。したがって、連結部材45aは、木質材とプラスチックとの複合材料(WPC)により複数の幹音鍵11とともに形成される。
【0057】
各幹音鍵11は、第1実施形態の取付部42aが変形部46aに置換された構造である。すなわち、各幹音鍵11は、基礎部41aと案内部43aと変形部46aとを含む。基礎部41aおよび案内部43aの構造は第1実施形態と同様である。
【0058】
各幹音鍵11の変形部46aは、幹音鍵11の端部を構成する部分であり、連結部材45aに連結される。すなわち、各幹音鍵11の基礎部41aと連結部材45aとが変形部46aにより相互に連結される。変形部46aは、基礎部41aと比較して薄肉に形成され、弾性変形が可能である。すなわち、変形部46aは、演奏による幹音鍵11(基礎部41a)の変位に連動して弾性変形する。各幹音鍵11は、変形部46aにおいて回動軸C1を中心として回動する。
【0059】
図11に例示される通り、各派生音鍵ユニットU2は、鍵盤1に含まれる複数の鍵組立体50のうち所定個(例えば5個)の鍵組立体50と、ひとつの連結部材45bとを具備する。連結部材45bは、X軸の方向に長尺な板状部材である。各鍵組立体50は、第1実施形態と同様に派生音鍵12と支持部51とで構成される。各鍵組立体50の支持部51と連結部材45bとは、例えばプラスチック等の弾性材料の射出成形により一体に成形される。なお、幹音鍵11の色と派生音鍵12の色とが相互に近似する点は、第1実施形態と同様である。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0060】
各支持部51は、第1実施形態の取付部42bが変形部46bに置換された構造である。すなわち、各支持部51は、基礎部41bと案内部43bと変形部46bとを含む。基礎部41bおよび案内部43bの構造は第1実施形態と同様である。また、派生音鍵12が基礎部41bに固定される構造も第1実施形態と同様である。
【0061】
各支持部51の変形部46bは、鍵組立体50の端部を構成する部分であり、連結部材45bに連結される。すなわち、複数の鍵組立体50の各々における変形部46bは、ひとつの連結部材45bに連結される。各支持部51の基礎部41bと連結部材45bとが変形部46bにより相互に連結される。
【0062】
変形部46bは、基礎部41bと比較して薄肉に形成され、弾性変形が可能である。すなわち、変形部46bは、演奏による幹音鍵11(基礎部41b)の変位に連動して弾性変形する。具体的には、各幹音鍵11は、変形部46bにおいて回動軸C2を中心として回動する。
【0063】
ところで、木質材により形成される派生音鍵12の一部が変形部46bとして利用される形態では、弾性変形の反復により派生音鍵12が破損する可能性がある。第2実施形態においては、木質材を含まない材料で形成された支持部51の一部が変形部46bとして弾性変形する。したがって、演奏に連動した弾性変形に起因した派生音鍵12の破損を抑制できる。
【0064】
第2実施形態においては、複数の幹音鍵11の各々における変形部46aが共通の連結部材45aに連結されて一体に構成される。したがって、複数の幹音鍵11の各々が相互に別体である形態と比較して、複数の幹音鍵11の設置が容易である。また、第2実施形態においては、複数の鍵組立体50の各々における変形部46bが共通の連結部材45bに連結されて一体に構成される。したがって、複数の鍵組立体50の各々が相互に別体である形態と比較して、複数の鍵組立体50の設置が容易である。
【0065】
C:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0066】
(1)前述の各形態においては、幹音鍵11と派生音鍵12との間の色差ΔE*abの条件(以下「条件1」という)を説明したが、幹音鍵11と派生音鍵12との間の色相差ΔH*に着目してもよい。具体的には、幹音鍵11と派生音鍵12とにおいて、CIEのL*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値について、ΔH*<15°、かつ、-1.7<L*/c*<1.7という条件(以下「条件2」という)が成立してもよい。条件2のうち色相差ΔH*に関する条件は、さらに具体的にはΔH*<10°である。
【0067】
以上の測色値は、前述の各形態における測色と同様に、分光測色計としてコニカミノルタ(登録商標)社製のCM-700dを利用し、かつ、光源としてCIE標準光源D65を利用して、拡散照明(積分球)方式により条件d(di:8°)のもとで測定される数値である。
【0068】
幹音鍵11の色調値(WL,Wa,Wb)と派生音鍵12の色調値(BL,Ba,Bb)との間の色相差ΔH*は、例えば以下の数式(2)により定義される。
ΔH*=abs{atan(Wb/Wa)-atan(Bb/Ba)}×180/pi() (2)
なお、数式(2)のatanは逆正接(arctan)を意味し、absは絶対値を意味する。また、pi()は円周率(π)である。ただし、座標(a,b)が第1象限または第4象限の場合と、座標(a,b)が第2象限または第3象限の場合とで、atan()の数値に応じてpi()の符号が設定される。
【0069】
また、条件2におけるL*/c*は、以下の数式(3a)および数式(3b)により定義される。
幹音鍵11 : L*/c*=WL/{(Wa2+Wb2)1/2} (3a)
派生音鍵12: L*/c*=BL/{(Ba2+Bb2)1/2} (3b)
条件2における-1.7<L*/c*<1.7という条件は、幹音鍵11および派生音鍵12の双方について成立する。
【0070】
鍵盤1を構成する全部の幹音鍵11および全部の派生音鍵12について、色相差に関する以上の条件2が成立する。ただし、鍵盤1を構成する一部の幹音鍵11または一部の派生音鍵12について条件2が成立してもよい。
【0071】
以上に説明した条件2は、第1実施形態における条件1とともに成立してもよいし、何れか一方の条件のみが成立してもよい。また、色相差に関するΔH*<15°(またはΔH*<10°)の条件が成立する形態において、反射率に関するΔE*ab≧1(ΔE*ab≧2)の条件は、成立してもよいし成立しなくてもよい。
【0072】
以上に例示した変形例においては、各幹音鍵11の第1演奏面F1と各派生音鍵12の第2演奏面F2との色相差が、L*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値についてΔH*<15である。したがって、複数の幹音鍵11と複数の派生音鍵12とを含む複数の鍵10(すなわち鍵盤1)の全体について色の統一感が実現され、美観に優れた意匠を提供できる。
【0073】
(2)幹音鍵11の色と派生音鍵12の色とが相互に近似する形態(ΔE*ab≦17,ΔH*<15)において、幹音鍵11と派生音鍵12との間で表面粗さが相違する形態も想定される。具体的には、第1演奏面F1および第2演奏面F2の一方が粗面として形成される。例えば、成形型の内壁面の凹凸を利用して成形体の成形面に粗面が形成されてもよいし、成形後の表面処理により成形面に粗面が形成されてもよい。
【0074】
幹音鍵11と派生音鍵12との間で光反射率が相違する前述の各形態によれば、演奏者は幹音鍵11と派生音鍵12とを視覚により識別できる。他方、幹音鍵11と派生音鍵12との間で表面粗さが相違する形態によれば、演奏者は幹音鍵11と派生音鍵12とを触覚により識別できる。なお、幹音鍵11と派生音鍵12との間で光反射率および表面粗さの双方が相違する形態も想定される。以上の例示の通り、第1演奏面F1と第2演奏面F2との間において、光反射率および表面粗さの少なくとも一方が相違する形態が想定される。
【0075】
(3)前述の各形態においては、弾性材料の支持部51に派生音鍵12が固定された形態を例示したが、同様の構成は幹音鍵11にも適用される。すなわち、特定の樹種の木質材の流動成形により幹音鍵11が形成され、木質材を含まないプラスチック等の弾性材料で形成された支持部に幹音鍵11が固定される。すなわち、幹音鍵11と支持部とにより鍵組立体が構成される。
【0076】
(4)前述の各形態においては、木質材とプラスチックとが混合された複合材料の射出成形により幹音鍵11が形成される形態を例示したが、同様の構成は派生音鍵12にも適用されてよい。すなわち、例えば、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料の射出成形により派生音鍵12が形成される。派生音鍵12のうち第2演奏面F2以外の表面は成形体の成形面であり、派生音鍵12のうち第2演奏面F2は成形面を除去した吸湿面である。以上の形態によれば、派生音鍵12の機械的な強度と吸湿による膨張の抑制とを実現しながら、演奏者の手指に付着した水分を派生音鍵12の吸湿面により吸収できる。
【0077】
(5)鍵盤楽器100の製造に使用される木質材の形態または状態は任意である。例えば、木粉、粒状またはチップ等の任意の形態または状態の木質材が、鍵盤楽器100(例えば各鍵10)の製造に利用される。
【0078】
(6)前述の各形態においては、以下の構成を例示した。
構成A:幹音鍵11と派生音鍵12との間で色が近似し、光反射率または表面粗さが相違する。
構成B:各鍵10における演奏面(F1,F2)以外の表面が成形体の成形面で構成され、かつ、演奏面は、成形面が除去された吸湿面である。
構成C:木質材を含む鍵10と木質材を含まない支持部51とにより鍵組立体50が構成される。
【0079】
構成Aと構成Bと構成Cとの各々は相互に独立に成立する。すなわち、構成Aから構成Cのうちの何れかの構成にとって、他の構成は必須ではなく省略されてよい。例えば、構成Bおよび構成Cにおいて構成Aは必須ではなく、幹音鍵11と派生音鍵12との間における色、光反射率または表面粗さの関係は任意である。
【0080】
(7)構成Bは鍵盤楽器以外の楽器にも適用される。例えば、弦楽器において演奏者が音高を指定するために操作する指板に構成Bが適用されてもよい。例えば、指板の原形となる成形体の成形面の一部が除去されることで、指板の表面に吸湿面が形成されてもよい。以上の例示から理解される通り、構成Bが適用される対象は、演奏者が接触する演奏面を含む演奏部を具備する楽器、として包括的に表現される。演奏部は、前述の各形態における鍵10のほか以上に例示した弦楽器の指板を含む。
【0081】
また、前述の各形態においては、音源装置32を具備する電子楽器を例示したが、機械的な作用により発音する発音機構を具備する自然楽器にも、前述の各形態は同様に適用される。発音機構は、例えば自然鍵盤楽器における打弦機構、または、自然弦楽器における弦および響胴で構成される共鳴機構である。
【0082】
音源装置32または発音機構を具備しない演奏操作装置(instrument playing apparatus)にも本開示は適用される。演奏操作装置は、例えば利用者からの操作を受付けるMIDI(Musical Instrument Digital Interface)コントローラである。演奏操作装置は、本開示における楽器(さらには鍵盤楽器)の概念に包含される。
【0083】
D:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0084】
[付記A]
例えばピアノ等の鍵盤楽器の鍵に関する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1(特開2011-242792号公報)には、染色済の木粉と樹脂と顔料とを含む材料により鍵盤楽器の黒鍵を成形する技術が開示されている。
【0085】
鍵盤楽器の鍵盤は、複数の白鍵と複数の黒鍵とが配列された構造である。以上の構造は周知の意匠であるが、例えば色の統一感等の多面的な観点から改善の余地はある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様(付記A)は、鍵盤楽器について美観に優れた意匠を提供することを目的とする。
【0086】
[付記A1]
本開示のひとつの態様(付記A1)に係る鍵盤楽器は、木質材を含む複数の鍵を具備し、前記複数の鍵は、幹音の発音のために操作される第1演奏面を有する複数の幹音鍵と、派生音の発音のために操作される第2演奏面を有する複数の派生音鍵とを含み、前記第1演奏面と前記第2演奏面とにおいて、L*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値について、
条件1:ΔE*ab≦17、および、
条件2:ΔH*<15、かつ、-1.7<L*/c*<1.7
の少なくも一方が成立し、前記第1演奏面と前記第2演奏面とは、光反射率または表面粗さの少なくとも一方が相違する。
【0087】
以上の態様によれば、各幹音鍵の第1演奏面と各派生音鍵の第2演奏面とにおいて、L*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値について、条件1(ΔE*ab≦17)および条件2(ΔH*<15,-1.7<L*/c*<1.7)の少なくも一方が成立する。したがって、複数の幹音鍵と複数の派生音鍵とを含む複数の鍵(すなわち鍵盤)の全体について色の統一感が実現され、美観に優れた意匠を提供できる。他方、第1演奏面と第2演奏面との間においては光反射率または表面粗さの少なくとも一方が相違するから、演奏者は幹音鍵と派生音鍵とを視覚または触覚により識別できる。なお、より具体的な態様において、第1演奏面と第2演奏面とにおいて、L*a*b*色空間におけるSCI方式による測色値についてΔE*ab≦12(条件1)またはΔH*<10(条件2)が成立してもよい。
【0088】
「幹音」は、音律において基礎となる楽音であり、具体的にはシャープまたはフラット等の変化記号が付加されていない楽音を意味する。「幹音鍵」は、幹音の発音のために操作される鍵である。「派生音」は、音律において幹音以外の楽音であり、具体的には変化記号が付加された楽音を意味する。「派生音鍵」は、派生音の発音のために操作される鍵である。
「(第1/第2)演奏面」は、鍵盤楽器の演奏者が各楽音の演奏のために接触する外装面である。第1演奏面と第2演奏面とにおいて条件1および条件2の少なくも一方が成立すれば足り、幹音鍵のうち第1演奏面以外の部分と派生音鍵のうち第2演奏面以外の部分との色の関係は任意である。同様に、幹音鍵のうち第1演奏面以外の部分と派生音鍵のうち第2演奏面以外の部分との間において光反射率または表面粗さは同一でも相違してもよい。
【0089】
[付記A2]
付記A1の具体例(付記A2)において、前記第1演奏面の色を決定づける材料と、前記第2演奏面の色を決定づける材料とが共通する。以上の態様によれば、各幹音鍵の第1演奏面と各派生音鍵の第2演奏面との間で材料が共通する。したがって、第1演奏面と第2演奏面とで材料が完全に相違する形態と比較して、各幹音鍵と各派生音鍵との色を統一し易い。なお、「(第1/第2)演奏面の色を決定づける材料」は、演奏面の色に最も優勢に寄与する材料(例えば木質材)である。
【0090】
[付記A3]
付記A2の具体例(付記A3)において、前記第1演奏面および前記第2演奏面は、同じ樹種の木質材を含む。以上の態様においては、第1演奏面の材料と第2演奏面の材料とが同じ樹種の材料を含むから、第1演奏面と第2演奏面との間で色を容易に近似させることが可能である。
【0091】
付記A1から付記A3の何れかの具体例(付記A4)において、前記幹音鍵は、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料により形成された成形体であり、前記派生音鍵は、前記特定の樹種の木質材により形成された成形体である。以上の態様によれば、色が相互に近似する幹音鍵と派生音鍵とを、簡便な工程により形成できる。
【0092】
「成形体」は、木質材を含む材料により成形された部材である。成形体を形成する方法(成形方法)としては、例えば、射出成形型に材料を充填して硬化させる射出成形、薬剤の含浸により軟化された木質材を加熱および加圧する流動成形、または、成形型に充填された材料を押出口(ダイ)から押出して硬化させる押出成形が例示される。以上の例示のほか、トランスファー成形またはコンプレッション成形等の各種の成形技術が、成形体の成形に利用される。
【0093】
例えば、幹音鍵は、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料の射出成形により形成された射出成形体である。また、派生音鍵は、例えば、特定の樹種の木質材とプラスチックとが混合された複合材料の流動成形により形成された流動成形体である。
【0094】
付記A1から付記A4の何れかの具体例(付記A5)において、前記第1演奏面と前記第2演奏面と間において、L*a*b*色空間におけるSCE方式による測色値についてΔE*ab≧1が成立する。以上の態様によれば、演奏者は幹音鍵と派生音鍵とを視覚により識別できる。なお、より具体的な態様において、第1演奏面と第2演奏面との間において、L*a*b*色空間におけるSCE方式による測色値についてΔE*ab≧2が成立する。
【0095】
[付記B]
例えばピアノ等の鍵盤楽器の鍵に関する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1(特開昭51-108821号公報)には、硬質の有機材料の粉末をフェノール樹脂に混合した材料により鍵盤を成形する技術が開示されている。
【0096】
演奏者の手指の汗等の水分が鍵の表面に付着した状態では、演奏時に演奏者の手指が滑るという問題がある。吸湿性の材料により鍵を構成すれば、以上の問題は低減される。しかし、吸湿性を優先する場合には、鍵の機械的な強度を維持することが困難となり得る。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様(付記B)は、鍵の機械的な強度を維持しながら、水分の付着により演奏が阻害されることを抑制することを目的とする。
【0097】
[付記B1]
本開示のひとつの態様(付記B1)に係る楽器は、演奏者が接触する演奏面を含む演奏部を具備し、前記演奏部は、木質材とプラスチックとを含む複合材料により形成された成形体であり、前記演奏面以外の表面は前記成形体の成形面で構成され、かつ、前記演奏面は、前記成形面が除去された吸湿面である。
【0098】
木質材とプラスチックとを含む複合材料により形成された成形体の成形面は、当該成形面の直下に位置する内部層と比較してプラスチックの含有率が高い傾向がある。成形体の成形面は、機械的な強度が内部層と比較して高く、かつ、木質材の含有率が高い内部層と比較して吸湿性が低い。したがって、演奏面以外の表面により演奏部の機械的な強度を確保できる。また、演奏面以外の表面における吸湿が低減されるから、吸湿による演奏部の膨張が抑制される。他方、成形面の除去により露出した内部層の表面は、成形面と比較して木質材の含有率が高い吸湿面となる。したがって、演奏者の手指に付着した水分を吸湿面により吸収することが可能である。以上の説明の通り、第1実施形態によれば、演奏部のうち演奏面以外の成形面により、演奏部の機械的な強度の維持と吸湿による膨張の抑制とを実現しながら、演奏者の手指に付着した水分を吸湿面により吸収できる。また、成形面の除去により露出した内部層の表面は、成形面と比較して感触が良好であり、演奏者の手指の接触により発生する接触音も良好である。すなわち、演奏面が成形面で構成される形態と比較して良好な演奏感を実現できる。
【0099】
「演奏面」は、楽器において演奏者が演奏のために接触する外装面であり、「演奏部」は、楽器において演奏面を含む部分である。例えば、演奏部の典型例は、鍵盤楽器の鍵である。鍵のうち楽音の発音のために演奏者が操作する上面が「演奏面」に相当する。ただし、演奏部は鍵に限定されない。例えば、弦楽器において演奏者が音高を指定するために操作する指板、演奏者が接触するカスタネット等の体鳴楽器の本体、または、各種の楽器において楽音を制御するための操作子(以下「楽音制御用操作子」という)が、「演奏部」として例示される。
【0100】
楽音制御要操作子としては、電子ドラムを含むドラム用のスティック、または、例えばピッチまたは音量等の楽音特性を調整するための各種の操作子(ホイールジョイスティック、リボンセンサー、アサイナブルレバーまたはポルタメントバー)が、「演奏部」である。例えばポルタメントバーは、鍵盤楽器において鍵盤に沿って配置される長尺状の操作子である。演奏者は、ポルタメントバーの表面に手指を接触させた状態で左右に移動することで、発音中の音高を連続的に変化させることが可能である。成形面が除去された吸湿面を演奏面として利用する前述の形態によれば、ポルタメントバーに対する手指の摩擦が演奏者の発汗の状態に影響され難いから、安定的で滑らかななぞり動作が可能になり、演奏性が向上するという利点がある。
【0101】
「成形面」は、成形体において成形具に対する接触により形成された表面である。例えば、射出成形においては射出成形型の内壁面により形成された表面(すなわち転写面)が「成形面」であり、流動成形においては流動成形型の内壁面により形成された表面(すなわち転写面)が「成形面」である。また、押出成形においては、押出口の内壁面により形成された表面(すなわち押出方向に延伸する表面)が「成形面」である。
【0102】
付記B1の具体例(付記B2)において、前記演奏部は、前記演奏者が楽音の発音のために接触する鍵である。以上の態様においては、木質材を含む吸湿面により鍵の演奏面が構成される。したがって、例えば鍵盤楽器の演奏者の手指に付着した汗等の水分を効果的に吸収できる。
【0103】
本開示のひとつの態様(付記B3)に係る楽器の製造方法は、木質材とプラスチックとを含む複合材料により成形体を形成する工程と、前記成形体における成形面の一部を除去することで、楽器において演奏者が接触する演奏面を形成する工程とを含む。以上の態様においては、成形体における成形面の一部を除去することで演奏面が形成される。したがって、例えば成形体の表面に吸湿層を形成する形態と比較して、演奏者の手指に付着した汗等の水分を効果的に吸収可能な演奏面を容易に形成できる。
【0104】
成形面の除去の方法は任意である。例えば、刃物等の切削器を利用した切除(切削)のほか、金属やすりまたはサンドペーパー等の研削具を利用した研削、研磨剤と布製のバフ等の研磨具を利用した研磨(バフ掛け)が、成形面の除去に採用される。また、例えば、なめし、しごきまたはこしとり等の表面処理により、成形面を除去することも可能である。
【0105】
[付記C]
例えばピアノ等の鍵盤楽器の鍵に関する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1(特開2011-242792号公報)には、染色済の木粉と樹脂と顔料とを含む材料により鍵盤楽器の黒鍵を成形する技術が開示されている。
【0106】
特許文献1の技術によれば、木質材の質感および特性を有する鍵を形成できるが、鍵盤楽器の鍵については演奏者が付与する押鍵力と鍵の変位との関係等、機械的な特性の確保も重要である。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様(付記C)は、鍵に要求される機械的な特性を維持しながら、木質材の質感および特性を有する鍵を実現することを目的とする。
【0107】
本開示のひとつの態様(付記C1)に係る鍵盤楽器は、複数の鍵組立体を具備する鍵盤楽器であって、前記複数の鍵組立体の各々は、楽音の発音のために操作される演奏面を有し、木質材を含む材料により形成された鍵と、木質材を含まない材料により形成され、前記鍵を支持する支持部とを含む。以上の態様においては、木質材を含む材料により木質材の質感および特性を有する鍵が実現される。他方、支持部は木質材を含まない材料により形成される。すなわち、例えば鍵を支持する機械的な特性のために好適な材料を支持部の材料として選択できる。以上の通り、鍵の支持に必要な機械的な特性を維持しながら、木質材の質感および特性を有する鍵を実現できる。
【0108】
付記C1の具体例(付記C2)において、前記支持部は、前記鍵の変位に連動して他部材に対して摺動する摺動部を含む。鍵は木質材を含む材料により形成されるから、潤滑剤が鍵に付着した場合には鍵により吸収される可能性がある。他部材に対して摺動する摺動部が、木質材を含まない支持部により実現される形態によれば、潤滑剤が鍵に付着する可能性が低減される。したがって、潤滑剤が鍵により吸収されることを抑制できる。
【0109】
付記C1または付記C2の具体例(付記C3)において、前記支持部は、前記鍵の変位に連動して弾性変形する変形部を含む。鍵は木質材を含む材料により形成されるから、弾性変形の反復により破損する可能性がある。木質材を含まない材料で形成された支持部に変形部が含まれる形態によれば、弾性変形による鍵の破損を抑制できる。
【0110】
付記C3の具体例(付記C4)において、前記複数の鍵組立体の各々における前記変形部は、ひとつの連結部材に連結される。以上の態様においては、複数の鍵組立体の各々における変形部が共通の連結部材に連結される。したがって、複数の鍵組立体の各々が相互に別体である形態と比較して、複数の鍵の設置が容易である。
【符号の説明】
【0111】
100…鍵盤楽器、1…鍵盤、10…鍵、11…幹音鍵、12…派生音鍵、13…突起部、2…支持体、20…筐体、21…上部材、22…下部材、23…右脚部、24…左脚部、25…譜面台、31…検出装置、32…音源装置、33…放音装置、41a,41b…基礎部、42a,42b…取付部、43a,43b…案内部、44…スリット、45a,45b…連結部材、46a,46b…変形部、50…鍵組立体、51…支持部、52…開口。