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特開2024-87615高仰角離着陸固定翼式飛行体、該飛行体による略ホバリング飛行方法及び超短距離離着陸方法、更には高仰角離着陸固定翼式飛行体システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087615
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】高仰角離着陸固定翼式飛行体、該飛行体による略ホバリング飛行方法及び超短距離離着陸方法、更には高仰角離着陸固定翼式飛行体システム
(51)【国際特許分類】
   B64C 13/00 20060101AFI20240624BHJP
   B64C 25/08 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B64C13/00 Z
B64C25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202536
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】301052227
【氏名又は名称】小林 芳人
(72)【発明者】
【氏名】小林 芳人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】無人及び有人の固定翼式飛行体において超短距離で離着陸可能な高仰角離着陸固定翼式飛行体を提供する。
【解決手段】高仰角離着陸固定翼式飛行体2は1以上の推進手段と、1以上の胴体4を備えた機体3と、タンデム配置の2葉の翼幅bの水平翼6と、2葉以上の垂直翼7と、複数の可動小翼8と、該機体の下部には左右方向に0.4*b以上離間配置された4脚以上の脚長可変降着装置9とを有し、高仰角離着陸固定翼式飛行体の推力重量比T/Wを0.5~1.2の範囲とし、機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢として略ホバリング飛行状態で超短距離の滑走で離着陸させることが可能な該高仰角離着陸固定翼式飛行体である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高仰角の機体姿勢の状態で安定した略ホバリング飛行および超短距離滑走での安全な離着陸が可能な固定翼式飛行体である高仰角離着陸固定翼式飛行体であって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は1基以上の推進手段と、1以上の胴体を備えた機体と、タンデム配置の2葉の水平翼と、2葉以上の垂直翼と、5以上の可動小翼と、前後方向および左右方向に離間配置された4脚以上の脚長調整機能を有する降着装置である脚長可変降着装置と、少なくとも該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置を制御するCPUとを含んで構成され、該水平翼および該垂直翼の各々は機体のロール・ピッチ・ヨーの姿勢を制御可能な該可動小翼を備え、各々の該水平翼の面積をSとし、翼幅(左右方向の長さ)をbとしたときのアスペクト比AR(=b^2/S)を0.5~20の範囲とし、該水平翼の翼端を翼根より上げる角度である上反角を5~40度の範囲とし、該推進手段は総推力と離陸重量との比T/Wtおよび総推力と着陸重量との比T/Wlを0.5~1.2の範囲とすることを可能とし、該脚長可変降着装置は機体の仰角(ピッチ角)を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態で離着陸させることを可能とすると共に左右の間隔を0.4*b以上とすることを特徴とする高仰角離着陸固定翼式飛行体。
【請求項2】
高仰角の機体姿勢の状態で安定した略ホバリング飛行および超短距離滑走での安全な離着陸が可能な固定翼式飛行体である高仰角離着陸固定翼式飛行体であって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は左右対称位置に配設された2基以上の偶数基の推進手段と、1以上の胴体を備えた機体と、タンデム配置の2葉の水平翼と、2葉以上の垂直翼と、6以上の可動小翼と、前後方向および左右方向に離間配置された4脚以上の脚長調整機能を有する降着装置である脚長可変降着装置と、少なくとも該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置を制御するCPUとを含んで構成され、該水平翼および該垂直翼の各々は機体のロール・ピッチ・ヨーの姿勢を制御可能な可動小翼を備え、左右対称位置に配設された推進手段の回転方向を互いに逆方向とし、各々の該水平翼の面積をSとし、翼幅(左右方向の長さ)をbとしたときのアスペクト比AR(=b^2/S)を0.5~20の範囲とし、該水平翼の翼端を翼根より上げる角度である上反角を5~40度の範囲とし、該推進手段は総推力と離陸重量との比T/Wtおよび総推力と着陸重量との比T/Wlを0.5~1.2の範囲とすることを可能とし、該脚長可変降着装置は機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態で離着陸させることを可能とすると共に左右の間隔を0.4*b以上とすることを特徴とする高仰角離着陸固定翼式飛行体。
【請求項3】
該高仰角離着陸固定翼式飛行体が、機体の3次元位置の測定が可能な衛星測位システムおよび機体の姿勢の測定が可能な9軸センサーを備えると共に、機体周辺の風速及び風向の測定が可能な3次元風速計あるいは及び3次元突風検出手段、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の可視光撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の赤外線型暗視撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の微光監視型暗視撮像装置、測距機能を有するレーザースキャニング装置の少なくとも1種の測定手段と少なくとも該測定手段が収集した測定データを該CPUのメモリーに格納するデータ格納手段を備え、該可視光撮像装置、該赤外線型暗視撮像装置、該微光監視型暗視撮像装置及び該レーザースキャニング装置は該高仰角離着陸固定翼式飛行体の機体の仰角が10~90度の高仰角姿勢の状態であっても該機体の鉛直下方向の撮像あるいは測距が可能であることを特徴とする請求項1ないし2記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体。
【請求項4】
該高仰角離着陸固定翼式飛行体が、大気の温度・湿度・気圧検出手段、浮遊微粒子物体の粒度及び濃度の検出が可能な浮遊微粒子検出手段、放射性物質検出手段、化学性物質検出手段の少なくとも1種を備えることを特徴とする請求項3記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体。
【請求項5】
該脚長可変降着装置の調整により該脚長可変降着装置を流体抵抗の低い状態に畳み込み、該推進手段と該可動小翼との複合制御により、機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢とした状態で所定時間範囲内において所定高度範囲および所定水平速度以下の略ホバリング飛行を可能とせしめることを特徴とする請求項1ないし4記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体による略ホバリング飛行方法。
【請求項6】
該脚長可変降着装置の調整により機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢とし、該推進手段と該可動小翼との複合制御により、高仰角姿勢の状態で、超短距離滑走で安全な離着陸を可能とせしめることを特徴とする請求項1ないし4記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体による超短距離離着陸方法。
【請求項7】
該脚長可変降着装置の調整により機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢とし、該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の伸展操作との複合制御により、高仰角姿勢の状態で、超短距離滑走で安全な滑走・跳躍離陸を可能とせしめると共に、該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の屈曲操作との複合制御により、高仰角姿勢の状態で、超短距離滑走で安全な屈み込み・滑走着陸を可能とせしめることを特徴とする請求項1ないし4記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体による超短距離離着陸方法。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載の1機以上の高仰角離着陸固定翼式飛行体と定置型あるいは移動型の1個以上の指令手段を含んで構成される高仰角離着陸固定翼式飛行体システムであって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は該指令手段と無線交信可能な無線送受信手段を備えており、該指令手段は該高仰角離着陸固定翼式飛行体が離着陸可能な超短距離滑走手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体に動力エネルギーを補給するエネルギー補給手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体を補修整備する補修整備手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体を格納する飛行体格納手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体と無線交信可能な無線送受信手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体から受信した該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の作動情報および衛星測位システム、9軸センサー、3次元風速計、3次元突風検出手段、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の可視光撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の赤外線型暗視撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の微光監視型暗視撮像装置、測距機能を有するレーザースキャニング装置、大気の温度・湿度・気圧検出手段、浮遊微粒子検出手段、放射性物質検出手段、化学性物質検出手段が収集した検出データの少なくとも一部を解析することが可能なデータ解析手段を備えており、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は現在の3次元位置と機体姿勢、および推進手段、可変小翼、脚長可変降着装置の作動情報、更に搭載している各種センサーにより収集した検出データを該指令手段に無線送信可能であり、定置対象物の3次元位置を特定する機能および移動対象物を追尾する機能を有し、該指令手段から受信する指令情報に基づいて、機体操縦制御、各種センサーの情報収集制御、該定置対象物あるいは該移動対象物に対してその現在事象を変化させる事象変化手段を備え、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は1機以上の直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体と、該指令手段と該直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体との間の無線交信を中継する無線中継手段を備えた0機以上の無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体を含むことを特徴とする高仰角離着陸固定翼式飛行体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高仰角離着陸固定翼式飛行体、該飛行体による略ホバリング飛行方法及び超短距離離着陸方法、更には高仰角離着陸固定翼式飛行体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有人飛行体及び無人飛行体において、短距離で離着陸あるいは離着水が可能であることはそれらの利用範囲を拡大するうえで重要である。ヘリコプターやマルチコプターのような回転翼飛行体では滑走することなく所定位置において垂直離着陸が可能である。また、空中の一定位置で停止するホバリング飛行が容易である。しかし回転翼飛行体は飛行速度が遅い(一般的無人機で100km/h以下)、飛行時間が短い、航続距離が短い(無人機では500km以下)などの欠点がある。一方、固定翼飛行体は飛行速度が速い、航続距離が長い(軍用無人機で約5000km)という長所があるが、失速速度(軍用無人機で40km/h程度)より高速で水平離着陸する必要があるため、加速及び減速のために長い滑走路が必要である。また、ホバリング飛行が困難であるとされている。これらのことにより固定翼飛行体の利用範囲が限定されてきた。
本発明の対象として、上記のような欠点のある回転翼飛行体は除くこととする。該回転翼飛行体以外の飛行体で短距離の滑走あるいは無滑走で離着陸が可能な飛行体として、胴体に対する主翼仰角度を可変とする飛行体および胴体に対する推進手段の仰角度を可変とする飛行体があるが、可動部分により重量増がもたらされるという難点があり、これらは本発明の対象外とする。
本発明では、胴体に対して主翼角度が固定され、推進手段の主推進方向も固定されている飛行体を対象とする。
本発明で対象とする飛行体は有人および無人飛行体を含めることとする。本発明では、推進手段としては、例えばプロペラ式、ジェット式、ロケット式など型式を問わないこととする。
回転翼飛行体以外の飛行体では離着陸距離によって以下のようにおおよそ分類されている(非特許文献1、離着陸距離とは高さ15mの障害をクリアするとの条件付き)。
(1) VTOL(Vertical Take-off and Landing Aircraft):離着陸距離:0 (m)
(2) USTOL(Ultra-short Take-off and Landing Aircraft):離着陸距離:150 (m)以下
(3) STOL(Short Take-off and Landing Aircraft):離着陸距離:150-300 (m)
(4) ITOL(Intermediate Take-off and Landing Aircraft):離着陸距離:300-600 (m)
(5) NTOL(Normal Take-off and Landing Aircraft):離着陸距離: 600 (m)以上
(5)はCTOL(Conventional Take-off and Landing Aircraft)と呼ばれることもある。
上記の分類は1960年代以前に提案された有人機を対象とした古い分類であって、今日のような無人航空機(UAV)は想定していなかったように思われる。上記の分類で、(1) VTOLは戦闘機で実用化されている。また、カタパルト方式として無滑走での離陸方法が提案されているが短距離着陸方法については不明確である(非特許文献4)。(3) STOLは特許文献1、非特許文献1、2、3に示すように検討されており、離着陸時の騒音被害範囲が(5) NTOLに比べて狭いことで、都市近郊に空港を配置可能であることにより、ドアツードアの移動時間が最も短い移動手段として期待されている(非特許文献3)。しかし、検討されているSTOL機の形状、推力および離着陸時の機体仰角は(5) NTOLと類似している。必然的に離着陸距離が150m以下のUSTOL機は実用化されていない。
本発明の対象は上記で (2) USTOLに該当する。本発明では有人飛行体および無人飛行体を対象としており、離着陸距離はそれぞれ50m以下および10m以下を想定し、前者では道路、公園、運動場、河川敷、農地、草原、雪原、氷原、砂漠、高層ビルの屋上、池などで、後者では駐車場、舗装道路、ビルの屋上、公園、運動場、プール、トラックの荷台、船の甲板、輸送機後部胴体内などで離着可能な飛行体の実現を目的としている。
一般的な固定翼機の場合、機体の仰角(機体の長手軸の水平面に対するピッチ角度)が10~20度を超えると失速状態になるとされている。しかし、不可抗力的に失速状態になった場合に、姿勢制御可能な正常状態へ復帰する方法を探るために、高仰角姿勢における翼面近傍の流れの研究(非特許文献5、6)、および小型UAVでの高仰角飛行実験(非特許文献7、8、9)がなされている。また、短距離での着陸技術として、高仰角失速着陸法が検討されている(非特許文献10、11、12、13、14、図8)が、着地直前に機体を高仰角姿勢から水平姿勢に移行するという危険な機体の姿勢制御が要求される(非特許文献13、14、図8)という課題があることに加え短距離での離陸方法が示されていない。
短距離での離陸技術として、カタパルト方式とスキー・ジャンプ方式(離陸滑走路の終端を登り傾斜面とする)が実用化され、特に後者に関しては更なる検討がなされている(非特許文献15)。
鳥の跳躍離陸の解析がなされ(非特許文献16)、2脚ジャンピング・着地ロボットのための人口筋骨格アクチュエータの開発がすすめられ(非特許文献17)、羽ばたき飛行ロボットの跳躍離陸を可能とするためにトーションバネを用いた跳躍機構の研究がなされている(非特許文献18)。
固定翼式飛行体であるエンジン付きグライダーで自動操縦による離着陸システムの開発が進められている(非特許文献19)。
一方、固定翼の機体を120度までの高仰角姿勢にして略ホバリング飛行した後通常の低仰角水平飛行に回復させるという特殊な飛行技術が1989年のパリの航空ショーで元ロシア空軍パイロットのViktor Pugachevによって公開された。この特殊飛行技術はPugachev’s Cobra Maneuverと称され、その後の航空イベントや空戦で利用されてきている(非特許文献20、21、図9)。
双発実験機で機体仰角-10~+90度の範囲での風洞実験と機体仰角+20~+50度の範囲での飛行実験がなされ、後者では高仰角姿勢による水平飛行速度約20km/hの略ホバリング飛行の安定制御が実証された(非特許文献8)。機体仰角50度で高度を一定に保ちながら約20km/hの低速水平飛行が可能であることが実証されているので、Pugachev’s Cobra Maneuverのように更に高仰角飛行とすれば水平飛行速度約20km/h以下の安定した略ホバリング飛行が可能であることが示唆される。
しかし、総推力/最大離陸重量の比T/W、推進手段の配置、主翼構成、可動小翼の配置、降着装置など機体構造および失速状態での機体姿勢制御を安定化することにより高仰角姿勢による安定な略ホバリング飛行や安全な超短距離離着陸を実現させるための改良については非特許文献5~14では示されていない。
従来の飛行体の推進手段の総推力/最大離陸重量の比T/Wでみると商用飛行機では0.1~0.4、戦闘機で0.9~1.2、VTOLおよび回転翼機で1.0超である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5046100
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】松浦陽恵,”VTOL機とSTOL機に関するいくつかの問題点”, 航空学会誌, Vol. 12, No. 125 (1964-6), 178-187.
【非特許文献2】落合一夫, “DHC-6 Twin-Otter 軽輸送機”, 航空学会誌, Vol. 13, No. 138 (1965-7), 227-228.
【非特許文献3】近藤次郎, “STOL 交通システム”, 日本機械学会誌, Vol. 78, No. 680 (1975-7), 634-639.
【非特許文献4】”CNG-V Target Drone”, https://www.unmannedsystemstechnology.com/company/a-techsyn/cng-v-target-drone/#product-gallery-5
【非特許文献5】松尾則久, 平野昇吾, “民間小型機の大仰角特性”, 日本航空宇宙学会誌, Vol. 33, No. 377 (1985-6), 326-332.
【非特許文献6】石黒満津夫, “飛行機の揚力の限界”, 日本機械学会誌, Vol. 105, No. 1006 (2002-9), 622-624.
【非特許文献7】Baron Johnson and Richard Lind, "High Angle-of-Attack Flight Dynamics of Small UAVs", 47th AIAA Aerospace Sciences Meeting including The New Horizons Forum and Aerospace Exposition, 05 - 08 January 2009, Orlando, Florida., https://doi.org/10.2514/6.2009-61"
【非特許文献8】Daisuke Kubo, Koji Muraoka, Noriaki Okada, “HIGH ANGLE OF ATTACK FLIGHT CHARACTERISTICSOF A WING-IN-PROPELLER-SLIPSTREAM AIRCRAFT”, 27TH CONGRESS OF THE INTERNATIONAL COUNCIL OF THE AERONAUTICAL SCIENCES, 19 - 24 September 2010, Nice, France., http://www.icas.org/ICAS_ARCHIVE/ICAS2010/PAPERS/237.PDF""
【非特許文献9】Daisuke Kubo, Shinji Suzuki,""HIGH ANGLE OF ATTACK FLIGHT CONTROL OF A TAIL-SITTER UNMANNED AIRCRAFT"", 28TH INTERNATIONAL CONGRESS OF THE AERONAUTICAL SCIENCES(2012).<https://www.icas.org/ICAS_ARCHIVE/ICAS2012/PAPERS/533.PDF>"
【非特許文献10】牧嵜 敦、鳥に倣った高迎角失速着陸法の研究、福岡工業大学工学部知能機械工学科平成 21 年度卒業論文 指導教員 河村 良行 教授<http://www.fit.ac.jp/~kawamura/packages/study/2009st/sissokutyakuriku.pdf>
【非特許文献11】溝口 由華、福田 浩文、鳥に倣った高迎角失速着陸法の研究、福岡工業大学工学部知能機械工学科平成 22 年度卒業論文 指導教員 河村 良行 教授 指導院生 牧嵜 敦. <http://www.fit.ac.jp/~kawamura/packages/study/2010st/torininarattakougeikakusisokutykurikuhounokennkyuu.pdf>
【非特許文献12】Kristoffer Gryte, "High Angle of Attack Landing of an Unmanned Aerial Vehicle", Master of Science in Cybernetics and Robotics, Supervisor: Thor Inge Fossen, ITK, Department of Engineering Cybernetics, Submission date: July 2015., Norwegian University of Science and Technology, https://ntnuopen.ntnu.no/ntnu-xmlui/handle/11250/2352405.
【非特許文献13】Min-Jea Tahk, Seungyeop Han, Byung-Yoon Lee and Jaemyung Ahn, "Perch Landing Assisted by Thruster (PLAT): Concept and Trajectory Optimization", Int’l J. of Aeronautical & Space Sci. 17(3), 378&#8211;390 (2016), DOI: https://koreascience.kr/article/JAKO201634347631077.pdf.
【非特許文献14】今村彰隆, 三輪昌史, “無人航空機の超短距離着陸に関する基礎的検討”, ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集, 日本機械学会誌, (2017-5), 1P1-H06(1)-(2), 日本機械学会."
【非特許文献15】P. Shrikant Rao, Amitabh Saraf, ""PERFORMANCE ANALYSIS AND CONTROL DESIGNFOR SKI-JUMP TAKE OFF"", AIAA Guidance, Navigation, and Control Conference and Exhibit11 August 2003 - 14 August 2003, Austin, Texas<https://doi.org/10.2514/6.2003-5412>""
【非特許文献16】Ben Parslew, Girupakaran Sivalingam and William Crowther, ""A dynamics and stability framework for avian jumping take-off"", . R. Soc. open sci. 5: 181544. (2018).<https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rsos.181544>"
【非特許文献17】Ryuma Niiyama, Akihiko Nagakubo, Yasuo Kuniyoshi, "A Bipedal Jumping and Landing Robot with an Artificial Musculoskeletal System", 2007 IEEE International Conference on Robotics and Automation, Roma, Italy, 10-14 April 2007. <http://www.isi.imi.i.u-tokyo.ac.jp/~niiyama/pdf/Niiyama2007_ICRA2007_ThC5-2_Mowgli.pdf>
【非特許文献18】木村 悠希, 大竹博, "跳躍による鳥型飛行ロボットの離陸の実現", ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2018 (0), 2P1-D07-, 2018, 一般社団法人 日本機械学会<file:///C:/Users/user/Downloads/2018_2P1-D07.pdf>
【非特許文献19】T. Nagayama, N. Akamine, A. Yamane, "AUTOMATIC TAKE-OFF AND LANDING SYSTEM FOR FIXED WING SMALL AIRCRAFT", 24th Congress of International Council of the Aeronautical Sciences, 29 August-3, September 2004, Yokohama, Japan, Paper ICAS 2004-4.9.2.<https://www.icas.org/ICAS_ARCHIVE/ICAS2004/PAPERS/498.PDF>
【非特許文献20】”Cobra maneuver”, Wikipedia, (2022-9-29). <https://en.wikipedia.org/wiki/Cobra_maneuver>
【非特許文献21】“Viktor Pugachev”, Wikipedia, (2022-9-20). https://en.wikipedia.org/wiki/ Viktor Pugachev
【非特許文献22】Brede, B., Calders, K., Lau, A., Raumonen, P., Bartholomeus, H. M., Herold, M., & Kooistra, L., "Non-destructive tree volume estimation through quantitative structuremodelling: Comparing UAV laser scanning with terrestrial LIDAR", Remote Sensing of Environment, (2019). 233, [111355]. <https://doi.org/10.1016/j.rse.2019.111355>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、無人及び有人の固定翼式飛行体において機体を高仰角姿勢として安定した略ホバリング飛行を可能とする構造および制御の仕様とした高仰角離着陸固定翼式飛行体、該飛行体による略ホバリング飛行方法及び超短距離離着陸方法、更には高仰角離着陸固定翼式飛行体システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は、高仰角の機体姿勢の状態で安定した略ホバリング飛行および超短距離滑走での安全な離着陸が可能な固定翼式飛行体である高仰角離着陸固定翼式飛行体であって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は1基以上の推進手段と、1以上の胴体を備えた機体と、タンデム配置の2葉の水平翼と、2葉以上の垂直翼と、5以上の可動小翼と、前後方向および左右方向に離間配置された4脚以上の脚長調整機能を有する降着装置である脚長可変降着装置と、少なくとも該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置を制御するCPUとを含んで構成され、該水平翼および該垂直翼の各々は機体のロール・ピッチ・ヨーの姿勢を制御可能な該可動小翼を備え、各々の該水平翼の面積をSとし、翼幅(左右方向の長さ)をbとしたときのアスペクト比AR(=b^2/S)を0.5~20の範囲とし、該水平翼の翼端を翼根より上げる角度である上反角を5~40度の範囲とし、該推進手段は総推力と離陸重量との比T/Wtおよび総推力と着陸重量との比T/Wlを0.5~1.2の範囲とすることを可能とし、該脚長可変降着装置は機体の仰角(ピッチ角)を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態で離着陸させることを可能とすると共に左右の間隔を0.4*b以上とすることを特徴とする高仰角離着陸固定翼式飛行体である。
一般的な固定翼式飛行体では翼面積が大きな水平主翼を胴体の前方に、翼面積が小さな水平尾翼を胴体の後方に配設している。この構造の飛行体が機体を高仰角姿勢として飛行すると前方に配設されている水平主翼の後方域に大きな空気流の乱れ領域(Dynamic Stall Vortex:DSV)が形成され、後方に配設されている小さな翼面積の水平尾翼の揚力が失われ、所定の高仰角姿勢を安定して維持することが困難になる。
本発明では、後方に配設されている水平翼の翼面積を通常前方に配設されている水平主翼と同程度に大きくすることで翼面荷重を低下させて短距離離着陸性能を向上させると共に高仰角姿勢で飛行する飛行体のピッチングおよびローリングに対する機体姿勢の制御を安定化させて略ホバリング飛行を容易化させている。タンデム配置の2葉の水平翼の構造である。
一般的な固定翼式飛行体では1葉の小さな垂直尾翼を機体後方上部位置に配設させている。機体のヨーイング安定性と左右方向の旋回能力及び空気抵抗低減を考慮した設計で、本発明で検討しているような高仰角姿勢での飛行への対応を想定していない。本発明で、2葉以上のタンデム配置の垂直翼としたことにより上記乱れ領域(DSV)が生じてもヨーイングに対する機体姿勢の制御を安定化させた。垂直翼を機体の前方上方あるいは前方下方位置に配設することで高仰角飛行時においても上記乱れ領域の影響を排除することが出来る。垂直翼を水平翼の左右対称位置に配設してもよい。
各々の該水平翼のアスペクト比AR(=b^2/S)を0.5~20の範囲とした。実用化されている固定翼式飛行体ではアスペクト比1以下の例は見当たらないが、ムササビの高仰角滑空の例により実現可能と判断した。低アスペクト比の飛行体ではローリングに対する機体姿勢の安定性については劣るが、全体として機体をコンパクトに且つ高剛性構造とすることが出来る、俊敏な飛行が可能、耐衝撃損傷性に優れるなどのメリットが期待できる。20程度の高アスペクト比の飛行体とすることで、アルバトロスのようにエネルギ源の低量搭載で長航続距離の飛行体とすることが出来る。
該水平翼の翼端を翼根より上げる角度である上反角を5~40度の範囲とすることで、該高仰角離着陸固定翼式飛行体が突風を受けたときや高仰角飛行時の機体のローリングからの復元力を高めることが出来る。
本発明では、機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態で離着陸させることを可能とする前後方向および左右方向に離間配置された4脚以上の脚長可変降着装置を備えさせた。特に左右方向に0.4*b以上このことにより、超短距離滑走での着陸安全性を向上させると共に超短距離滑走での離陸を可能とさせた。更に、離着陸時に突風や滑走路面の障害物などによる転倒事故を防止できる構造となる。特に脚長可変降着装置を左右方向に0.4*b以上離間配置させることによりアスペクト比の大きな水平翼を有する飛行体の着陸時に突風により予期せぬローリングが生じた場合においても該水平翼の翼端が接地損傷することを防止することが出来る。
該降着装置は弾性手段とダンピング手段を備えさせる。これにより、軟弱地での離着陸時の降着装置の沈み込みを少なくすることが出来る。また、突風を受ける状態であっても安全な離着陸が可能となる。
該降着装置は弾性手段とダンピング手段を備えさせると共に左右方向及び前後方向に広く離間させて配設させる。こうすることにより突風を受ける状態であっても安全な離着陸が可能となる。特にアスペクト比の大きな水平翼を有する飛行体の着陸時に突風により予期せぬローリングが生じた場合においても該水平翼の翼端が接地損傷することを防止することが出来る。
該脚長可変降着装置には、車輪、フロートの外にそりを装着することにより、雪上および氷上においても離着陸することが可能であるため、遭難者救助などの活動に適用できる。
本発明における高仰角離着陸固定翼式飛行体の用途については、調査、捜索、災害対策、農漁業用、航行安全対策、運輸、防衛など多岐にわたると想定される。用途ごとに最適な仕様が設定されるべきであるが、仕様の設定に際して軽量化に関する配慮は重要であるため、重要ではない装備は可能な限り排除すべきである。そうした観点から、推進手段の出力の設定においても必要最小限の出力とすべきとの考え方から、推力重量比を0.5~1.2の範囲とした。推力重量比がこの範囲以下では超短距離滑走での離着陸及び略ホバリング飛行が困難となり、この範囲以上では過剰装備となる可能性がある。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体を複胴の機体とすることで、機体全体の剛性を高めることが可能となり、積載重量を増加させることや強風、台風、竜巻、集中豪雨、噴火などに最接近しての詳細情報の収集が可能となる。氷雨、噴石、蝗害の情報収集用として本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体を適用する場合には、無人機、双胴、タンデム配置の2葉の低アスペクト比の水平翼とそれぞれの該水平翼に配設した4基の高推力の推進手段という仕様とすることで対応可能である。
該推進手段の動力手段の選定に関しては、燃料や蓄電手段を含めた動力手段の総重量をWp(kN)、動力手段の出力をPp(kW)、搭載燃料量や搭載蓄電量によって定まるエネルギーをEp(kJ)としたときに動力密度ρp=Pp/Wpとエネルギー密度ρe=Ep/Wpが重要になる。動力密度ρpは該高仰角離着陸固定翼式飛行体の揚力の余裕度に関連し、エネルギー密度ρeは航続距離、滞空時間に関連する。現状では動力密度ρp=とエネルギー密度ρeに優れ、有人飛行体および無人飛行体で実績の豊富なガソリンエンジンが本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体の動力手段として適すると考えられる。
推進手段としてはジェット方式およびプロペラ方式などが適用可能であるが、高仰角離着陸固定翼式飛行体の使用目的によって選択すればよい。高温排気を排出させないプロペラ方式の方が使用範囲が広いと思われる。複数基プロペラ方式の場合左右のプロペラの回転方向を反対方向とすることで高仰角飛行時の姿勢制御の安定性を向上させることが出来る(非特許文献5)。
本発明では有人飛行体および無人飛行体を対象としており、離着陸距離はそれぞれ50m以下および10m以下を想定し、前者では道路、公園、運動場、河川敷、農地、草原、雪原、氷原、砂漠、高層ビルの屋上、池、プールで、後者では道路、公園、運動場、船の甲板、トラックの荷台、貨物飛行体などで離着可能な飛行体の実現を目的としている。
有人飛行体の場合、高仰角略ホバリング飛行により水平方向飛行速度を5km/h程度以下まで低下させ得る仕様とし、直径10m程度以下の旋回飛行を可能とすることで、海上、山岳地、洪水時あるいは高層ビル火災時の屋上での被災者を救護することが出来る。また、遠隔地救急搬送医療に関して、現状のドクターヘリやメディカルジェットの機能に対して近隣にヘリポートやNTOL対応空港を持たない地域で迅速性および費用の面で本発明のUSTOLはより寄与できるのではないかと思われる。山岳火災の消火のためにNTOL のWaterbomberが使用されているが飛行速度を低速化できないためピンポイントでの効果的な消火剤投下ができていない。本発明の有人飛行体では低速飛行が可能であるためパイロットは最も効果的なピンポイントでの消火剤投下が可能となる。本発明の飛行体の適用により、着陸せずに略ホバリング飛行状態で散水タンクの交換が可能となるため、火災現場により近い位置で給水し山岳火災、船舶火災、燃料タンク火災、3/11のような海面火災、高層ビル火災などを高効率で迅速に消火することが可能となる。本発明の有人飛行体は回転翼式(ヘリコプター、マルチコプターなど)のWaterbomberに比べて巡航飛行速度が速いため、火災現場の遠隔地から消火活動参加が可能となり、火災被害損失対消火費用の観点からメリットがもたらされる可能性が生ずる。
自然災害(地震、台風、竜巻、集中豪雨、洪水、地すべり、津波、噴火など)や事故等(海難、山岳遭難、緊急医療、火災、有害物質・放射能発生、テロ、戦禍など)に関して、被災を最小限とするために迅速な局地情報の収集や事後防災対策、被災者救護のための移動手段が必要となる。そうした有事の異常状態において、地上移動手段の対応可能範囲は限定される。そうした状況において、対応可能な条件下において回転翼式飛行体が限定的に対応している。回転翼式飛行体では翼による揚力の助力がないので常に1以上の高い推力/重量比の低いエネルギー効率での短時間、短距離の飛行任務においてのみ対応可能である。
一方、固定翼式飛行体では水平飛行時に、固定翼による揚力の助けを得て、推力の大半を水平方向移動のために利用することが出来るので、0.1程度の低い推力/重量比で高いエネルギー効率での高速かつ長距離の水平移動が可能である。しかし、STOL、ITOL、NTOLの有人固定翼式飛行体は離着陸にそれぞれ少なくとも150m、300m、600mの離着陸用滑走路を備えた空港が必要である。また、失速飛行速度以下での飛行は一般的に忌避されているためホバリング飛行は不可である。
本発明のUSTOLである高仰角離着陸固定翼式飛行体は、低い推力/重量比での高速かつ長距離の経済的水平飛行が可能であることと高仰角姿勢での略ホバリング飛行で超短距離離着陸が可能であるため、従来の固定翼式飛行体と回転翼式飛行体のそれぞれが有する長所を併せ持つ飛行体である。
【0007】
請求項2に係る本発明は、高仰角の機体姿勢の状態で安定した略ホバリング飛行および超短距離滑走での安全な離着陸が可能な固定翼式飛行体である高仰角離着陸固定翼式飛行体であって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は左右対称位置に配設された2基以上の偶数基の推進手段と、1以上の胴体を備えた機体と、タンデム配置の2葉の水平翼と、2葉以上の垂直翼と、6以上の可動小翼と、前後方向および左右方向に離間配置された4脚以上の脚長調整機能を有する降着装置である脚長可変降着装置と、少なくとも該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置を制御するCPUとを含んで構成され、該水平翼および該垂直翼の各々は機体のロール・ピッチ・ヨーの姿勢を制御可能な可動小翼を備え、左右対称位置に配設された推進手段の回転方向を互いに逆方向とし、各々の該水平翼の面積をSとし、翼幅(左右方向の長さ)をbとしたときのアスペクト比AR(=b^2/S)を0.5~20の範囲とし、該水平翼の翼端を翼根より上げる角度である上反角を5~40度の範囲とし、該推進手段は総推力と離陸重量との比T/Wtおよび総推力と着陸重量との比T/Wlを0.5~1.2の範囲とすることを可能とし、該脚長可変降着装置は機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態で離着陸させることを可能とする高仰角の機体姿勢の状態で安定した略ホバリング飛行および超短距離滑走での安全な離着陸が可能な固定翼式飛行体である高仰角離着陸固定翼式飛行体であって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は1基以上の推進手段と、1以上の胴体を備えた機体と、タンデム配置の2葉の水平翼と、2葉以上の垂直翼と、5以上の可動小翼と、前後方向および左右方向に離間配置された4脚以上の脚長調整機能を有する降着装置である脚長可変降着装置と、少なくとも該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置を制御するCPUとを含んで構成され、該水平翼および該垂直翼の各々は機体のロール・ピッチ・ヨーの姿勢を制御可能な該可動小翼を備え、各々の該水平翼の面積をSとし、翼幅(左右方向の長さ)をbとしたときのアスペクト比AR(=b^2/S)を0.5~20の範囲とし、該水平翼の翼端を翼根より上げる角度である上反角を5~40度の範囲とし、該推進手段は総推力と離陸重量との比T/Wtおよび総推力と着陸重量との比T/Wlを0.5~1.2の範囲とすることを可能とし、該脚長可変降着装置は機体の仰角(ピッチ角)を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態で離着陸させることを可能とすると共に左右の間隔を0.4*b以上とすることを特徴とする高仰角離着陸固定翼式飛行体である。
請求項2では2基以上の偶数基の推進手段を左右対称位置に配設させたことと左右の推進手段の回転方向を互いに逆方向に限定した点が請求項1と異なる。推進手段が奇数基であると、推進手段の回転慣性力にアンバランスが生じて機体を左右どちらかにローリングさせようとする力が作用する。高仰角姿勢での飛行中に機体姿勢を安定制御させるためには各推進手段の回転数を迅速に変化させる制御が必要となる。2基以上の偶数基の推進手段を左右対称位置に配設させることと左右の推進手段の回転方向を互いに逆方向にすることで、高仰角姿勢での飛行制御の安定性を格段に向上させることが出来る。
請求項1及び2では1以上の胴体を備えた機体としているが、単胴ではなく双胴の機体であってもよい。機体を双胴とすることで重量が増加するというデメリットは生ずるが、機体全体の剛性を向上させるなどメリットが期待できる。例えば、水平翼のアスペクト比増、機外搭載重量増(Waterbomber機能、救援物資など)、脚長可変降着装置の配置自由度増と収納による機体全体の空気流の抵抗(ドラッグ)減などである。
【0008】
請求項3に係る本発明は、該高仰角離着陸固定翼式飛行体が、機体の3次元位置の測定が可能な衛星測位システムおよび機体の姿勢の測定が可能な9軸センサーを備えると共に、機体周辺の風速及び風向の測定が可能な3次元風速計あるいは及び3次元突風検出手段、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の可視光撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の赤外線型暗視撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の微光監視型暗視撮像装置、測距機能を有するレーザースキャニング装置の少なくとも1種の測定手段と少なくとも該測定手段が収集した測定データを該CPUのメモリーに格納するデータ格納手段を備え、該可視光撮像装置、該赤外線型暗視撮像装置、該微光監視型暗視撮像装置及び該レーザースキャニング装置は該高仰角離着陸固定翼式飛行体の機体の仰角が10~90度の高仰角姿勢の状態であっても該機体の鉛直下方向の撮像あるいは測距が可能であることを特徴とする請求項1ないし2記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体である。
衛星測位システムとしてはGPS(精度数m)、GNSS(同10-20m)、SBAS(同2-3m)、MADOCA(同10cm)、GNSS+RTK測位(同数cm)、CLAS(同6cm)、などが実用化されており、その受信可能領域および精度は本発明に適合するレベルに向上してきている。衛星測位システムで機体の飛行高度の精度あるいは検知応答性が不充分であるケースが予測される場合は別途高度センサーを装備する。該高仰角離着陸固定翼式飛行体の三次元位置を衛星測位システムで検知し、機体の姿勢を9軸センサーで検知可能とすることで、これらの検知情報と該推進手段と該可動小翼との複合制御により機体の位置及び姿勢を適切にフィードバック制御することが出来る。
加えて、該高仰角離着陸固定翼式飛行体が、3次元風速計、3次元突風検出手段を備えることで、該高仰角離着陸固定翼式飛行体の現在位置での気流及び突風の情報を得て、荒天時であっても機体の位置及び姿勢を更に迅速且つ適正にフィードバック制御することが出来る。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体が、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の可視光撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の赤外線型暗視撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の微光監視型暗視撮像装置、測距機能を有するレーザースキャニング装置の少なくとも1種の測定手段を備えることで、該高仰角離着陸固定翼式飛行体の鉛直下方向を含む周辺の撮像情報、測距情報を得て、より適正且つ安全な飛行および離着陸が可能となる。
特に、パン・チルト・ズーム可能な赤外線型暗視撮像装置あるいは及びパン・チルト・ズーム可能な微光監視型暗視撮像装置、測距機能を有するレーザースキャニング装置を該高仰角離着陸固定翼式飛行体に搭載することにより、夜間や荒天時においても遭難者や海賊船の捜索、魚群探知などの飛行任務を適確に遂行することが出来る。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体の飛行目的に応じて離陸、水平飛行、略ホバリング飛行、着陸を含む飛行計画を予め作成しそれをプログラム化して該CPUのメモリーに格納しておくことで、該高仰角離着陸固定翼式飛行体の自動操縦が可能となる。
【0009】
請求項4に係る本発明は、該高仰角離着陸固定翼式飛行体が、大気の温度・湿度・気圧検出手段、浮遊微粒子物体の粒度及び濃度の検出が可能な浮遊微粒子検出手段、放射性物質検出手段、化学性物質検出手段の少なくとも1種を備えることを特徴とする請求項3記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体である。
本発明における高仰角離着陸固定翼式飛行体の用途については、調査、捜索、災害対策、農漁業用、航行安全対策、運輸、防衛など多岐にわたると想定される。
本発明における高仰角離着陸固定翼式飛行体の用途に応じて必要なセンサーを装備する。大気の温度・湿度・気圧検出手段を装備し、台風の目の中に飛行させることで、台風の勢力、進行状況などを逐次測定することが出来る。
浮遊微粒子検出手段を装備し、雪、霰、黄砂、PM2.5、PM0.5、火山の噴煙などの浮遊状況などを逐次測定することが出来る。
放射性物質検出手段を装備し、原子力発電所、使用済み核燃料再処理施設、放射性物質を含む廃棄物の周辺を周航監視することで、異常発生を迅速に監視できる。
化学性物質検出手段を装備し、化学工場、化学物質保管庫などの周辺を周航監視することで、異常発生を迅速に監視できる。
Unmanned Aerial Vehicle Laser Scanning (UAV-LS) システム(非特許文献22)を本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体に搭載すれば、低速・長時間の飛行により広範囲の地表の植生(Above-Ground Biomass (AGB) )のより精度の高い調査が効率的に安価に実施できる。
【0010】
請求項5に係る本発明は、該脚長可変降着装置の調整により該脚長可変降着装置を流体抵抗の低い状態に畳み込み、該推進手段と該可動小翼との複合制御により、機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢とした状態で所定時間範囲内において所定高度範囲および所定水平速度以下の略ホバリング飛行を可能とせしめることを特徴とする請求項1ないし4記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体による略ホバリング飛行方法である。
前記Pugachev’s Cobra Maneuverの実演に供されたSu-27、Mig-21、Saab 35、F-16、Chengdu J-7などの戦闘機は空中戦に要求される数々の機能を備えており、たまたまそうした機能の一部を使い、高いレベルの操縦技術を有するパイロットだけが仰角120度までの高仰角姿勢での略ホバリング飛行が可能であったということであるのに対して、本発明の請求項1,2に記載した高仰角離着陸固定翼式飛行体の仕様は仰角90度までの高仰角姿勢での安定な略ホバリング飛行を可能とする仕様に特化している。従って、通常レベルの技量のパイロットであっても、数百時間程度の操縦訓練をこなすことで、請求項1及び2に記載の本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体の安定な略ホバリング飛行操縦が可能となることを想定している。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体の推力重量比T/Wは0.5~1.2の範囲としている。このため、高い推力重量比T/Wの該推進手段の性能を発揮させることにより、該可動小翼と該推進手段との複合制御により該機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢として略ホバリング状態で安定して飛行させることが可能となる。
請求項3に記載の本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体の仕様は、衛星測位システムおよび9軸センサーを備えているため、所定位置近傍での高仰角姿勢での略ホバリング飛行をフィードバック制御により自動操縦とすることが出来る。請求項3に記載の本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体は有人飛行体と無人飛行体のどちらかの仕様とすることが出来る。
パン・チルト・ズーム可能な1個以上の可視光撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の赤外線型暗視撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の微光監視型暗視撮像装置の少なくとも1種の測定手段を請求項3に記載の本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体に装備させ、略ホバリング飛行予定位置近傍の障害物、地形状況、救護対象者の状況などの情報を収集すると共に該機体3に搭載されている3次元風速計、3次元突風検出手段による風向などの情報を得て、荒天時においても的確且つ安全な略ホバリング飛行任務を遂行することが出来る。
本発明における高仰角離着陸固定翼式飛行体の用途に応じて必要なセンサーを装備する。大気の温度・湿度・気圧検出手段を装備し、該高仰角離着陸固定翼式飛行体の略ホバリング飛行能力を発揮して、5~10km/hの比較的低速で移動する台風の目の中に飛行させることで、台風の勢力、進行状況などを逐次測定することが出来る。
浮遊微粒子検出手段を装備し、所定位置の雪、霰、黄砂、PM2.5、PM0.5、火山の噴煙などの浮遊状況などを略ホバリング飛行により逐次測定することが出来る。
放射性物質検出手段を装備し、原子力発電所、使用済み核燃料再処理施設、放射性物質を含む廃棄物の周辺を略ホバリング飛行による低速周航監視することで、異常発生を迅速に監視できる。
化学性物質検出手段を装備し、化学工場、化学物質保管庫などの周辺を略ホバリング飛行による低速周航監視することで、異常発生を迅速に監視できる。
【0011】
請求項6に係る本発明は、該脚長可変降着装置の調整により機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢とし、該推進手段と該可動小翼との複合制御により、高仰角姿勢の状態で、超短距離滑走で安全な離着陸を可能とせしめることを特徴とする請求項1ないし4記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体による超短距離離着陸方法である。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体を離陸あるいは離水させるときには 、該脚長可変降着装置により機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢として離陸あるいは離水準備姿勢とする。次いで該推進手段の出力を徐々に上げて、高い推力重量比T/Wの性能を発揮させることにより、該可動小翼と該推進手段との複合制御により機体を高仰角姿勢に維持した状態で略ホバリング飛行に移行させ、超短距離滑走で離陸あるいは離水を可能とせしめる。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体を着陸あるいは着水させるときには 、該可動小翼と該推進手段との複合制御により該機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢として略ホバリング状態とする。次いで該脚長可変降着装置を調整して高仰角姿勢のまま着陸あるいは着水可能な形態とする。次いで該推進手段の出力を徐々に下げて、低速で降下し該機体の後部に配設された該脚長可変降着装置を最初に接地あるいは接水させ次いで該機体の前部に配設された該脚長可変降着装置を接地あるいは接水させ、機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態のままで着陸あるいは着水させ、超短距離の滑走後の停止時に該脚長可変降着装置の脚長の調整により該機体を水平姿勢に徐々に移行させるという方法で該高仰角離着陸固定翼式飛行体を超短距離の滑走で着陸あるいは着水させることを可能とせしめる。
本発明では機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢の状態のままで略ホバリング飛行により水平飛行速度を5km/h以下、降下速度を0.2m/s以下としての着陸が可能とせしめる。非特許文献13、14に示されている高仰角着陸法では着陸直前に機体姿勢を高仰角姿勢から水平姿勢に変更するという危険な操縦操作が要求されるが、本発明ではそうした危険な操縦操作を必要としない。本発明では、高仰角姿勢のまま着地し、地上滑走を終了した後の停止時において機体姿勢を高仰角姿勢から水平姿勢に変更するという着陸方法であるので、着陸時の操縦の容易性および安全性が格段に向上する。
【0012】
請求項7に係る本発明は、該脚長可変降着装置の調整により機体の仰角を10~90度の範囲の高仰角姿勢とし、該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の伸展操作との複合制御により、高仰角姿勢の状態で、超短距離滑走で安全な滑走・跳躍離陸を可能とせしめると共に、該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の屈曲操作との複合制御により、高仰角姿勢の状態で、超短距離滑走で安全な屈み込み・滑走着陸を可能とせしめることを特徴とする請求項1ないし4記載の高仰角離着陸固定翼式飛行体による超短距離離着陸方法である。
通常の地上滑走離陸の場合、降着装置が地面から離れるまで該降着装置は地面との摩擦抵抗として作用する。本発明では、離陸の際に該推進手段と該可動小翼との複合制御に該脚長可変降着装置の伸展操作を加えることにより、機体をジャンプさせて離陸を助力する。こうすることで離陸滑走距離を更に短縮するなど離陸を容易化することが出来る。地上滑走を開始して、所定の滑走速度(請求項6の場合よりも遅い滑走速度)に達したときに、該脚長可変降着装置の伸展操作を加える。これにより機体の重心高度は地上滑走時よりも増加する。機体は少なくとも1時的に浮揚する。降着装置が地面から離れるため、その走行抵抗がなくなり機体の速度は増加し、その時点の速度を初速、飛行角度を発射角度として機体重心位置は略弾道軌道に従い変化する。機体の重心高度が地上滑走時より高い状態を維持している間に、該推進手段および可動小翼を含めた水平翼の揚力により飛行角度をプラスの状態にすることで上昇を開始することが出来るようになる。請求項7記載の離陸方法では、請求項6記載の離陸方法よりも離陸時滑走速度を低減することができるので、更なる超短距離滑走離陸が可能となる。
着陸の際に該推進手段と該可動小翼との複合制御に該脚長可変降着装置の屈曲操作を加えることにより、機体を沈み込ませて着陸時の衝撃を緩和させる。こうすることで降下速度が速くなった場合や突風など荒天時の場合においても胴体の下方向減速度を減じて着陸をより安全化することが出来る。
【0013】
請求項8に係る本発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の1機以上の高仰角離着陸固定翼式飛行体と定置型あるいは移動型の1個以上の指令手段を含んで構成される高仰角離着陸固定翼式飛行体システムであって、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は該指令手段と無線交信可能な無線送受信手段を備えており、該指令手段は該高仰角離着陸固定翼式飛行体が離着陸可能な超短距離滑走手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体に動力エネルギーを補給するエネルギー補給手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体を補修整備する補修整備手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体を格納する飛行体格納手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体と無線交信可能な無線送受信手段と、該高仰角離着陸固定翼式飛行体から受信した該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の作動情報および衛星測位システム、9軸センサー、3次元風速計、3次元突風検出手段、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の可視光撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の赤外線型暗視撮像装置、パン・チルト・ズーム可能な1個以上の微光監視型暗視撮像装置、測距機能を有するレーザースキャニング装置、大気の温度・湿度・気圧検出手段、浮遊微粒子検出手段、放射性物質検出手段、化学性物質検出手段が収集した検出データの少なくとも一部を解析することが可能なデータ解析手段を備えており、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は現在の3次元位置と機体姿勢、および推進手段、可変小翼、脚長可変降着装置の作動情報、更に搭載している各種センサーにより収集した検出データを該指令手段に無線送信可能であり、定置対象物の3次元位置を特定する機能および移動対象物を追尾する機能を有し、該指令手段から受信する指令情報に基づいて、機体操縦制御、各種センサーの情報収集制御、該定置対象物あるいは該移動対象物に対してその現在事象を変化させる事象変化手段を備え、該高仰角離着陸固定翼式飛行体は1機以上の直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体と、該指令手段と該直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体との間の無線交信を中継する無線中継手段を備えた0機以上の無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体を含むことを特徴とする高仰角離着陸固定翼式飛行体システムである。
該指令手段は定置型の指令基地であってもよいし、陸上・空中・水上・水中移動型の指令手段であっても良い。これらの指令手段は離着陸用の超短距離滑走路、エネルギー補給手段と、補修整備手段と、飛行体格納手段と、無線送受信手段と、データ解析手段と、を備えており、有人運用あるいは及び無人運用であってよいが、該高仰角離着陸固定翼式飛行体の繰り返しあるいは緊急発進の飛行任務を適確に遂行可能な仕様であることが要求される。
背景技術の項で記述したが、STOL、NTOLの滑走路長はそれぞれ150-300(m)、600(m)超であり、離着陸時の騒音被害を考慮してNTOLの空港は都市中心部から離れて設置されるのに対して、STOLでは都市中心部により近い位置に設置可能であるということで、都市中心部の多くの住民にとっては中近距離移動手段としてSTOLはドアツードア時間の最も短い移動手段として期待されている。本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体はUSTOLであり、STOLに比べて格段に高い飛行角度で離着陸が可能である。そのため、離着陸時の騒音被害範囲をSTOLよりも狭く出来る。例えば、都市中心部の高さ500(m)の高層ビルの屋上に設けた50(m)の滑走路が本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体の離着陸空港になり得る。500(m)の高所にある滑走路では、離陸可能速度以下の速度で滑走路端を離れて降下飛行状態になったとしても時間をかけて上昇飛行に変更させることが可能であり即墜落に至ることがない点が地上設置滑走路と異なる利点である。一般的な航空母艦は飛行甲板とその下の階が格納庫、そしてその間を飛行体を載せて移動できるエレベータとで構成されている。これと同じように50(m)の長さの滑走路と格納庫、エレベータを都市中心部の高層ビルの最上部に設置するという構造の空港である。このシステムには翼アスペクト比が小さい水平翼をタンデム配置する構造の飛行体などコンパクトな機体の飛行体が適合する。翼アスペクト比が小さい水平翼の飛行体は揚抗比が低くなるが、近距離移動手段として特化した仕様とすれば少ない燃料の搭載で機体重量を減らし、運航燃料経費の損失の低減が可能であると共に、不時着の被害を低減させることが出来る。500(m)超の距離差により地上歩行者にとっては騒音被害をあまり感じないと思われる。本発明のこのシステムでは、該高層ビルに火災やテロなどが発生した場合に避難手段、消防隊員・軍隊・医療班の派遣手段、消火剤や酸素吸入システムなどの供給手段として活用することが出来る。現行の屋上ヘリポートの大規模化・多様化など延長線上の運用である。
現行の中近距離都市間で運航されている航空機の殆どはNTOLであるので、長距離都市間で運航されている大型機用の大規模の空港(都市中心部から離れた位置に配置されている)を共用している。本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体はUSTOLであり、騒音被害範囲が狭いので、都市中心部により近い地域に中近距離都市間航空機専用の小規模の空港設備を設置できる。そうした変革により、ドアツードアの交通や物流の時間短縮が図られ得る。上記都市中心部の高層ビル最上階の離着陸設備はその一例である。都市中心部から離れた位置に設置された大規模空港を中近距離都市間航空機が利用していると推定される例として、ニュ―ヨーク、ロスアンジェルス、デトロイト、ローマ、ニューデリー、プネー、メルボルン、ホバート、深&#22323;、宣昌、ソウル、蔚山、大阪、名古屋、札幌などの都市が挙げられる。これらの都市などを離発着する中近距離都市間航空機運航のために、都市中心部により近い位置において本発明によるUSTOL飛行体専用に小規模の空港を含む航空システムを構築することにより中近距離都市間の交通および物流の利便性が格段に向上する。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体から受信した該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の作動情報および衛星測位システム、9軸センサーの情報をシミュレーションとつき合わせて該指令手段のデータ解析手段で解析することにより、該推進手段と該可動小翼と該脚長可変降着装置の機能劣化、作動不良などをリアルタイムで把握して、より精度の高い作動制御が可能となる。また、該データ解析手段により、搭載エネルギー源の実残量を解析して、飛行任務を修正する指令を飛行体に送信することもできる。
定置対象物としては、山岳事故や水害、風害などによる遭難者、ビルや原油タンクの火災などが挙げられ、移動対象物としては、雨雲、雷雲、黄砂、PM0.5、台風、竜巻、山岳火災、放射性物質の大気拡散、津波、噴煙、原油流出、魚群、海賊船、領海侵犯の不審船、戦時における相手軍及び自軍の戦力配置などが挙げられる。
定置対象物に対する事象変化手段として、山岳事故の遭難者や水害・土砂崩れなどによる孤立被災者に対する食料、救急治療用具、防寒用具、通信機器など救援物資の投下、遭難者救護などが挙げられる。移動対象物に対する事象変化手段として、海難事故被災者に対して飲食料カプセルや位置情報送信手段を備えた自動膨張式のライフボートなどを投下して被災状況を改善させることが出来る。また、山岳火災の消火、落雷制御、海賊船や不審船に対する警告活動などが挙げられる。
該高仰角離着陸固定翼式飛行体は1機以上の直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体と、0機以上の無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体で編成され得る。飛行の用途に適合させた仕様の高仰角離着陸固定翼式飛行体編成とする。例えば、該指令手段から遠距離の山岳地域での遭難者捜索および救助が飛行目的の場合、直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体と無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体を含めた飛行体編成とすることで、無線送受信環境が劣悪な谷底付近での捜索や救助などの飛行任務を適確に遂行できる。また、無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体を含めた飛行体編成とすることで、該指令手段から遠距離域での該直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体の飛行任務を遂行できるようになる。
移動可能な指令手段としての船の甲板で離着陸可能な無人飛行体の実現により本発明のUSTOLの用途は格段に広範囲化する。例えば、漁業支援、海難事故や自然災害時の捜索及び被災者救助、タンカーの水先案内、領海警備、密輸防止などへの新規利用拡大が可能となる。
移動型の指令手段として漁船に本システムを応用すると、水中超音波の反射情報を利用する従来の魚群探知機(水平方向探知可能距離:数百m)やスキャニングソナー(同:約2km)に比べて格段に広範囲の魚群探知が空中から可能となる。例えば、海鳥とカツオの餌が同じであることから、海鳥の群れを双眼鏡で探してのカツオ漁は古くから行われている。また、水持ち群(濃色化)や白湧き群(白色化)のように魚群による海面色調の変化などを本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体システムで検知して、自船の遠方の魚群に最短距離で接近することが出来る。このため漁獲効率を向上させることが出来る。また、他国の監視船の接近を事前に察知することにより拿捕されることを回避することが出来る。
本発明の直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体と、無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体を2000km超の航続距離の仕様とすれば、該指令手段を漁船の母港に設置して、該母港より1000km超の範囲の魚群を探知確認後に出港操業することが出来るようになる。また、レーザースキャニング装置を本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体に搭載すれば、魚群位置への到達経路の波高を知ることが出来るため、経済効率が高くしかも安全な操業が可能となる。
総トン数700トン以上の大型外航船の場合、本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体システムを採用することで甲板部航海当直部員の員数削減が可能となると共に航行安全性を向上できる。
該移動対象物が不審飛行体あるいはおよび不審船舶であって領空あるいはおよび領海侵犯の可能性を事前に察知し、要すればそれらに対して退去勧告するなど国防活動に本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体システムは利用できる。本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体はUSTOLであるので、長い滑走路を有する航空母艦でなくともヘリポート甲板を小改造することで巡視船、護衛艦、駆逐艦、巡洋艦、潜水艦でも離着艦可能とすることが出来る。
該指令手段を無人航行可能な海上浮体として、対潜哨戒手段などを装備した高仰角離着陸固定翼式無人飛行体と組み合わせた安価で実効性のある防衛システムとすることが出来る。所定数の高仰角離着陸固定翼式無人飛行体を配備し、交代運航とすることにより広範囲域を24時間警備することが出来る。該浮体には該高仰角離着陸固定翼式無人飛行体への給油や給電が可能なエネルギー自動補給設備を備えることが出来る。こうしたシステムを領海外縁部に複数配置させることで、人的被害無しに防衛機能を格段に向上させることが出来る。また、排他的経済水域の外縁部に複数配置させることで、安価で安全に他国の密漁を防止することが出来る。国際法的に可能であれば公海域にこうしたシステムを複数配置させることで、不特定他国による攻撃ミサイル発射位置(潜水艦からの発射を含む)により近い位置での発射情報を早期に検知し、より迅速・確実な国防手段システムに組み込むことが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、大翼面積の水平翼をタンデムに配設し、またそれぞれの水平翼に推進手段を左右対称位置に配設させることにより高仰角飛行時の姿勢制御(対ローリング、対ヨーイングおよび対ピッチング)の安定性を向上させると共に、推力重量比T/Wを0.5~1.2の高出力の推進手段とすることで安定した略ホバリング飛行(Pugachev’s Cobra Maneuver)を可能とさせている。加えて機体を高仰角姿勢としたままの超短距離離着陸を可能とする脚長可変降着装置を装備させた。
本発明により、公園やビルの屋上で離着陸可能な固定翼式の有人飛行体、道路、駐車場や船の甲板で離着陸可能な固定翼式の無人飛行体の実現が可能となり、海難事故や自然災害時の捜索及び被災者救助、山火事消火活動、タンカーの水先案内・海賊被害防止、原発テロ攻撃の警戒・予防対策、国境・領海警備、密輸防止、離島間の物流、農業・漁業支援などへの新規利用拡大が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1~6を参照して、実施形態について説明する。
図1に本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体2の基本構造の例を3面図で説明する。図1の例では、高仰角離着陸固定翼式飛行体2の機体3は単胴の胴体4、タンデム配置され略同形状の2葉の水平翼6および2葉の垂直翼7を含んで構成されている。各々の水平翼6には推進手段5、可動小翼8、脚長可変降着装置9が配設されている。本図では水平翼配設の可動小翼を水平翼後部に配設させているが、可動小翼を水平翼前部に配設させる、あるいは可動小翼を水平翼前部および水平翼後部に配設させてもよい。高仰角姿勢での飛行時に水平翼の上面に発生する剥離流は水平翼前縁から開始されるようで、可動小翼を水平翼前部に配設させることによるDSM制御安定化の効果が期待できる(非特許文献8)。
本図では推進手段としてプロペラ方式の例を示しているが、ジェット方式など種類は限定されない。
略同形状の2葉の水平翼6をタンデムに配置させることで機体姿勢のピッチングおよびローリングに対する安定性を向上させている。この図の例では、低アスペクト比の水平翼を採用しており、機体全体の剛性を上げると共に機体全体をコンパクトな形状とすることにより操縦機敏性、離着陸対応性を向上させ、荒天域の飛行を可能とさせる仕様としている。前部の推進手段に加えて後部の水平翼にも推進手段を配設させることで高仰角姿勢での飛行時に前部の水平翼の乱れた後流(DSVなど)が後部の水平翼の揚力を不安定にさせる影響を低減させている。左右のプロペラの回転方向は互いに逆回転方向として、ローリングに対する機体姿勢を安定化させている。2葉の垂直翼7をタンデムに配設させることによりヨーイングに対する機体姿勢を安定化させている。脚長可変降着装置9を左右に離間した配置として、離着陸時に突風を受けた場合に後部の水平翼の翼端が接地して損傷することや機体が横転することを防止している。
本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2は衛星測位システム12と9軸センサー34を備えており、空中での機体の位置および姿勢のフィードバック制御を可能としている。要すれば3次元風速計13、3次元突風検出手段14を装備させて荒天時対応仕様としてもよい。加えて、パン・チルト・ズーム可能な可視光撮像装置15,パン・チルト・ズーム可能な赤外線型暗視撮像装置16.パン・チルト・ズーム可能な微光監視型暗視撮像装置17、測距機能を有するレーザースキャニング装置35のいずれかを1種以上備えることにより、該高仰角離着陸固定翼式飛行体2の高仰角姿勢の飛行中においても鉛直下方向を含む周辺の撮像情報、測距情報を得て、昼夜を問わず安全な着陸や救護活動が可能となる。
本発明では安定した制御により安全に略ホバリング飛行が可能な有人および無人のUSTOL固定翼式飛行体として実現可能な仕様の概念を提示している。その用途の多様性検討の参考として、本発明のUSTOL固定翼式飛行体の機能面の仕様の例を以下に記す。高仰角姿勢による略ホバリング飛行時の水平飛行速度を5km/h程度以下とする。巡航水平速度は推進手段により異なるがラジコン飛行機から有人の偵察機・旅客機・戦闘機の機能までを適用可能と推定すると20~3000km/hと考えられる。同様に飛行時間と航続距離はそれぞれ0.3~20h、0.5~17000kmの範囲と考えられる。回転翼式飛行体の水平飛行速度は0~400km/h、飛行時間と航続距離はそれぞれ0.1~5h、0.5~400kmの範囲と考えられる。従って、本発明の固定翼式飛行体は既存の回転翼式飛行体が有する機能を超えた範囲の機能を持たせることを目標としている。本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2の略ホバリング飛行時の水平飛行速度を5km/h程度以下とすることで、ピンポイントでの遭難者の救護や消火剤投下など回転翼式飛行体と同程度の機能を保持させることが出来る。船舶や航空機の事故での捜索や救護、あるいは台風、津波の情報収集のためには往復5000km、10h程度の飛行機能が要求されると思われる。本発明による有人飛行体および無人飛行体の離着陸距離はそれぞれ50m以下および10m以下を想定している。このような航続距離および離着陸距離は現状の固定翼式飛行体および回転翼式飛行体では対応不可能な機能であり、本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体2では対応可能とすることが出来る。
本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2は大気の温度・湿度・気圧検出手段10、浮遊微粒子検出手段22、空中放射線濃度検出手段27、化学兵器検出手段28のいずれかを少なくとも備えている。こうした機能を有する本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体2により、台風、竜巻、PM0.5、放射能や化学物質汚染の発生源に近接した詳細情報を収集することが可能となり、迅速で適確な避難指示を発信することが可能となる。本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体2は上記以外の各種センサー類を搭載可能だが、機体重量増をもたらす可能性があるので、目的や飛行空域の天候状態などを考慮して必要最小限のセンサー類を搭載することが望ましい。
本図では4基の推進手段を採用しているが、高仰角飛行時の各推力制御の応答速度を向上させるために、1~2基の動力源(内燃機関+発電機)とサーボモーター駆動の各プロペラ推進手段の構成としてもよい。この場合、可動小翼および脚長可変降着装置の制御を電磁アクチュエータとして制御の応答を高速化させてもよい。
本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2は従来にない特殊な飛行方法(略ホバリング飛行)を採用しているため、実用化にあたっては、飛行体操縦免許取得が比較的容易な無人機を当初の対象とすることが適当であると思われる。
本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2の機体3の長手軸のピッチ角度が高仰角となる高仰角姿勢における略ホバリング飛行時の状況を図2に示す。脚長可変降着装置9を畳み込んで空気抵抗を少なくしている。4基の推進手段5と水平翼および垂直翼に設けられた可変小翼8の複合制御、あるいはそれに加えて衛星測位システム12と9軸センサー34を組み合わせた複合フィードバック制御により高仰角姿勢を安定して持続させる。更に3次元風速計13、3次元突風検出手段14を備えさせることにより、荒天時における略ホバリング飛行の安全性を高めることが出来る。
本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2の水平飛行時の状況を図3に示す。脚長可変降着装置9の畳み込み状態は図2と同様である。水平巡航飛行時においては推力重量比T/Wを0.1程度に低下させることが出来るので4基の推進手段5の一部を停止させてもよい。水平翼に配設されている可動小翼は抵抗の少ない巡航角度とする。
通常、飛行体の飛行時間の殆どは水平巡航飛行に費やされる。回転翼式飛行体では、飛行時間中の殆どを1.1超の推力重量比で飛行するのに対して、本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2では水平翼の揚力を得て0.1程度の低い推力重量比での水平巡航飛行が可能である。従って、本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2では飛行時間中の殆どを低騒音飛行とすることが可能であり、回転翼式飛行体に比べて飛行航路周辺の騒音被害を低減させることが出来るという効果をもたらす。また、回転翼式飛行体に比べ本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2は飛行時間、航続距離、水平飛行速度などの機能面において優れている。
本発明の該高仰角離着陸固定翼式飛行体2の離着時の状況を図4(a)、(b)に示す。図1で理解されるように、機体3の前後タンデムに及び左右に離間して配設された4脚の脚長可変降着装置9を調整して機体3のピッチ角度を高仰角の姿勢にすることが出来る。
離陸の際にはまず4基の推進手段を起動し、図4(a)に示すように脚長可変降着装置9を調整して機体3を高ピッチ角の姿勢にする。脚長可変降着装置9にブレーキをかけた状態で、水平翼6に配設されている可動小翼8を離陸角度に設定する。次いで推進手段5の出力を徐々に上げて、脚長可変降着装置9のブレーキを開放して高仰角姿勢での滑走を開始させる。その後、高い推力重量比T/Wの該推進手段の性能を発揮させることにより超短距離滑走で高仰角姿勢として離陸させることが可能となる。
着陸の際には、図3に示す水平飛行の状態から徐々に図2の高仰角姿勢での略ホバリング飛行に移行する。高度を下げながら図4(b)の右側図のように脚長可変降着装置9を調整して高仰角姿勢のまま着地可能な形態にして着陸予定位置に接近する。要すれば、風向・風速や周囲の障害物の状況を考慮しながら、着陸計画を策定する。着陸計画に従って徐々に高度を下げて図4(b)の左側図のように着陸し超短距離滑走後停止する。その後脚長可変降着装置9を調整して図1に示す駐機姿勢とする。要すればこの姿勢で滑走路上を移動する。該脚長可変降着装置9は弾性手段とダンピング手段を備えており、図4(b)で理解されるように着陸時には前後方向に脚を拡げる形態とするので、突風などで高仰角姿勢が乱れても転倒することなく安全に着陸することが出来る。4基の推進手段5と水平翼および垂直翼に設けられた可変小翼8の複合制御、あるいはそれに加えて衛星測位システム12と9軸センサー34を組み合わせた複合フィードバック制御により高仰角姿勢による着陸を自動操縦とすることもできる。
請求項7に示した滑走・跳躍離陸法(Run and Jump Take-off Maneuver)を図5に示す。図5(a)に示すように脚長可変降着装置9を調整して機体3を高ピッチ角の姿勢にする。脚長可変降着装置9にブレーキをかけた状態で、水平翼6に配設されている可動小翼8を離陸角度に設定する。次いで推進手段5の出力を徐々に上げて、脚長可変降着装置9のブレーキを開放して高仰角姿勢での滑走を開始させる。所定の滑走速度に達したときに、脚長可変降着装置9を展伸操作させて機体を跳躍させ図5(b)の状態にした直後に脚長可変降着装置9を屈曲操作し、図5(a)に示した形態と同じ形態とする。こうすることで離陸失敗時においても安全に着陸することが出来る。本発明の滑走・跳躍離陸法により、図5(b)の状態にした機体重心位置は略弾道軌道に従い一旦上昇し次いで降下するように移動しようとする(図5(c))が、該脚長可変降着装置9と滑走路との摩擦抵抗がなくなるので、その分機体重心の水平移動速度は高くなり、水平翼の揚力は増加する。高仰角方向を向く推進手段5の推力ベクトルの鉛直方向成分と該水平翼の揚力の合力が増加し、機体重力よりも大となって以降は高い推力重量比T/Wの該推進手段の性能を発揮させることにより機体高度は上昇し続け、離陸完了に向かう。このようにして、本発明の滑走・跳躍離陸法は図4(a)に示した跳躍を伴わない高仰角離陸法の場合よりも更なる短距離滑走での離陸が可能となる。該脚長可変降着装置9の脚長操作アクチュエータは電磁方式、導電性高分子方式、空圧方式などの採用を想定しているが、跳躍離陸対応のために、要すればバネ式、火薬式を追加で装備してもよい。
図6に本発明の高仰角離着陸固定翼式飛行体システム1の例を示す。無線送受信手段21と超短距離滑走路11を備えた指令手段18としてのタンカー、コンテナ船やヘリポートを備えた護衛艦などと高仰角離着陸固定翼式飛行体2とを組み合わせた高仰角離着陸固定翼式飛行体システム1の例である。タンカーの甲板や積載コンテナの上面に設けた離着陸用プレートで無人の高仰角離着陸固定翼式飛行体2を離着陸させる。該高仰角離着陸固定翼式飛行体2は直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体23に加えて無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体24を備えることにより、無線交信精度が低下する遠方域でも直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体23を適確に運用することが可能となる。このシステムの導入により、海賊船の接近情報を事前に収集可能となり、母船に被害が及ばない時点で威嚇射撃するなどの防御が可能となる。遠洋漁業に本発明のシステムを適用すれば、遠方広範囲域の魚群の位置と移動方向・速度を事前に検知できるため、燃料消費の少ない効率的な漁獲操業が可能となる。
航路幅の狭いマラッカ・シンガポール海峡、ロンボク海峡やホルムズ海峡などを大型船が航行する場合に本発明のシステムを適用すれば、航路前方の船に高仰角離着陸固定翼式飛行体2から予め注意喚起アナウンスをして衝突事故を未然に防止することが出来る。赤外線型暗視撮像装置16や微光監視型暗視撮像装置17を高仰角離着陸固定翼式飛行体2に装備させることで、夜間や濃霧など荒天時であっても低速航行や航行計画の変更などによる経済的損失を最小限にすることが出来る。
無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体24を追加することにより、山岳地など無線交信精度が低下する空域でも直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体23を適確に運用することが可能となる。
日本の本島・離島の東側海浜域は環太平洋地震帯のいずれかから発生する津波被害の可能性を抱えている。津波被害を最小限とするためには、地震発生後に津波発生及び伝播の情報を速やかに収集し、想定被災域の住民や船舶、原発等に情報を迅速に伝達することが重要である。駐車場や舗装道路で離着陸可能な簡便な本発明のシステムを沿岸域に複数配備しておくことで、迅速に広範囲の情報収集及び伝達が可能となり、被害を最小限にすることが出来る。自力で移動できない状態の被災者は脱水や低体温症などのため被災から72時間を経過すると生存率が10%以下に低下するといわれている。従って、被災後72時間以内での迅速かつ効率的な救護活動が求められる。2011年の東日本大震災時に事故原発からの放射線の拡散域の情報が不充分であったために風上にあたる海岸線の被災者の緊急救護活動が適切に実施されなかった。本発明による空中放射線濃度検出手段27を搭載した無人の高仰角離着陸固定翼式飛行体2を使用すれば同様の事故が発生した場合に、放射線の拡散域を迅速に正確に把握することが出来るため、救助隊員の放射線被害を防止しながら適確な救護活動が可能となる。また、拡散域の住民の避難経路を適確に指示し、放射能被害を少なくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体の基本構造の一例の説明図である。
図2】本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体の高仰角姿勢による略ホバリング飛行の説明図である。
図3】本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体の水平飛行の説明図である。
図4】本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体の離陸および着陸の説明図である。
図5】本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体の滑走・跳躍離陸法の説明図である。
図6】本発明による高仰角離着陸固定翼式飛行体システムの一例の説明図である。
図7】従来技術としてのSTOLとVTOLの例の説明図である。
図8】従来技術としての高仰角失速着陸法による特殊飛行技術の説明図である。
図9】従来技術としてのPugachev’s Cobra Maneuverによる特殊飛行技術の説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 高仰角離着陸固定翼式飛行体システム
2 高仰角離着陸固定翼式飛行体
3 機体
4 胴体
5 推進手段
6 水平翼
7 垂直翼
8 可動小翼
9 脚長可変降着装置
10 大気の温度・湿度・気圧検出手段
11 超短距離滑走路
12 衛星測位システム
13 3次元風速計
14 3次元突風検出手段
15 パン・チルト・ズーム可能な可視光撮像装置
16 パン・チルト・ズーム可能な赤外線型暗視撮像装置
17 パン・チルト・ズーム可能な微光監視型暗視撮像装置
18 指令手段
19 定置対象物
20 移動対象物
21 無線送受信手段
22 浮遊微粒子検出手段
23 直接行動型高仰角離着陸固定翼式飛行体
24 無線中継型高仰角離着陸固定翼式飛行体
25 無線中継手段
26 事象変化手段
27 空中放射線濃度検出手段
28 化学兵器検出手段
29 発電手段
30 熱電変換手段
31 ヒートパイプ
32 高仰角離着陸固定翼式有人飛行体
33 高仰角離着陸固定翼式無人飛行体
34 9軸センサー
35 レーザースキャニング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9