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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087637
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/18 20060101AFI20240624BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20240624BHJP
   F16D 9/06 20060101ALI20240624BHJP
   F16F 15/315 20060101ALI20240624BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20240624BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20240624BHJP
【FI】
H02K7/18 B
F16D1/02 110
F16D9/06
F16F15/315 A
B60K6/36 ZHV
B60K6/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202571
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】堀田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】天川 雅貴
【テーマコード(参考)】
3D202
5H607
【Fターム(参考)】
3D202AA09
3D202EE02
3D202EE12
3D202EE23
5H607BB02
5H607BB14
5H607CC03
5H607CC05
5H607DD03
5H607DD07
5H607EE41
5H607FF22
5H607FF24
(57)【要約】
【課題】ダンパレス構造において、駆動系の共振を抑制することができる車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】フライホイールを介してエンジンの動力が伝達される入力軸は、クランク軸が嵌合されるフライホイールのインロー部の径よりも、フライホイールと連結された円板の中心孔とスプライン嵌合される端部の径が大きくされている。これにより、クランク軸の径などの制約によって入力軸の径を大きくできない場合に比べて、入力軸の剛性を向上させることができる。よって、ダンパレス構造において、駆動系の共振を抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸の一端部が挿入されることで前記一端部の外周面が嵌合されるインロー部を有する中心孔が形成されたフライホイールと、前記フライホイールを介して前記エンジンの動力が伝達される入力軸と、を備えた車両用動力伝達装置であって、
外周部が前記フライホイールの外周部と連結されると共に、前記入力軸の前記エンジン側の端部の外周面とスプライン嵌合される中心孔が形成された、円板を備えており、
前記入力軸は、前記インロー部の径よりも前記円板の前記中心孔とスプライン嵌合される前記端部の径が大きくされていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記フライホイールは、前記インロー部を有する前記中心孔よりも径方向外側において周方向に所定間隔で形成された複数のボルト挿通孔を有しており、前記ボルト挿通孔に挿入された締結ボルトによって、前記クランク軸の前記一端部から径方向外側に延びるフランジ部に締結されるものであり、
前記入力軸は、前記ボルト挿通孔の各々の中心を通る円周の径よりも前記円板の前記中心孔とスプライン嵌合される前記端部の径が大きくされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記円板は、前記入力軸とスプライン嵌合される前記中心孔よりも径方向外側において他の部分よりも厚みの薄い円環状の脆弱部を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記入力軸は、駆動用のトルクを発生する電動機に供給される電力を前記エンジンの動力によって発電する発電機に動力伝達可能に連結されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記入力軸はインナーロータ形式又はアウターロータ形式の電動機のロータに動力伝達可能に連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイールを介してエンジンの動力が伝達される入力軸を備えた車両用動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの動力が伝達される入力軸を備えた車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用動力伝達装置がそれである。この特許文献1には、エンジンと入力軸との間の動力伝達経路においてダンパを不要とした車両構造つまりダンパレス構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0252136号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダンパレス構造を採用する場合、エンジンを起振源とする駆動系の共振が問題となり易い。例えば、エンジンの使用回転域において、駆動系の耐久性を低下させるような大きな共振が生じる可能性がある。これに対して、入力軸の剛性を向上させてエンジンの使用回転域から共振点を外すことが考えられる。しかしながら、例えばエンジンのクランク軸の径などの制約によって入力軸の径を大きくし難いと、入力軸の剛性を向上させることは困難である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ダンパレス構造において、駆動系の共振を抑制することができる車両用動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンのクランク軸の一端部が挿入されることで前記一端部の外周面が嵌合されるインロー部を有する中心孔が形成されたフライホイールと、前記フライホイールを介して前記エンジンの動力が伝達される入力軸と、を備えた車両用動力伝達装置であって、(b)外周部が前記フライホイールの外周部と連結されると共に、前記入力軸の前記エンジン側の端部の外周面とスプライン嵌合される中心孔が形成された、円板を備えており、(c)前記入力軸は、前記インロー部の径よりも前記円板の前記中心孔とスプライン嵌合される前記端部の径が大きくされていることにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、フライホイールを介してエンジンの動力が伝達される入力軸は、クランク軸が嵌合されるフライホイールのインロー部の径よりも、フライホイールと連結された円板の中心孔とスプライン嵌合される端部の径が大きくされている。これにより、クランク軸の径などの制約によって入力軸の径を大きくできない場合に比べて、入力軸の剛性を向上させることができる。よって、ダンパレス構造において、駆動系の共振を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両用動力伝達装置の概略構成を説明する断面図である。
図2】駆動系の周波数特性の一例を示す図である。
図3】電動機側から見た円板の正面図の一例を示している。
図4】本発明が適用される車両用動力伝達装置の概略構成を説明する断面図であって、図1の車両用動力伝達装置とは別の実施例である。
図5】本発明が適用される車両用動力伝達装置の概略構成を説明する断面図であって、図4の車両用動力伝達装置とは別の実施例である。
図6】ダンパを備えた車両用動力伝達装置であって、本実施例の比較例の概略構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0010】
図1は、本発明が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10という)の概略構成を説明する断面図である。図1において、動力伝達装置10は、回転軸線CL上に、フライホイール12、円板14、入力軸16などを備えている。
【0011】
フライホイール12は、回転中心部に中心孔12aが貫通して形成されている。中心孔12aは、エンジン50のクランク軸52の一端部52aが挿入されることで一端部52aの外周面52a1が嵌合されるインロー部12a1を有している。クランク軸52は、一端部52aから径方向外側に延びるフランジ部52bが形成されている。フライホイール12は、中心孔12aよりも径方向外側において周方向に所定間隔で形成された複数のボルト挿通孔12cを有している。フライホイール12は、ボルト挿通孔12cに挿入された締結ボルト60によってフランジ部52bに締結される。
【0012】
円板14は、回転中心部に中心孔14aが貫通して形成されている。円板14は、外周部14bがフライホイール12の外周部12bと例えば不図示のボルトによって連結されている。中心孔14aは、入力軸16のエンジン50側の端部16aの外周面16a1とスプライン嵌合されている。
【0013】
入力軸16は、フライホイール12や円板14を介してエンジン50の動力が伝達される。入力軸16は、インナーロータ形式の電動機70のロータ72に動力伝達可能に連結されている。従って、入力軸16は、電動機70のロータ軸でもある。或いは、入力軸16は、電動機70のロータ軸と一体的に連結されるものであっても良い。電動機70は、例えば駆動用のトルクを発生する電動機80に供給される電力をエンジン50の動力によって発電する発電機として機能する。電動機70が発電した電力は、不図示のインバータを介して電動機80に供給されたり、不図示のインバータを介して不図示のバッテリに充電される。
【0014】
ここで、図6は、本実施例の比較例の車両用動力伝達装置100(以下、動力伝達装置100という)の概略構成を説明する断面図である。図6において、動力伝達装置100は、回転軸線CL上に、フライホイール102、ダンパ104、入力軸106などを備えている。フライホイール102は、フライホイール12と同様に、クランク軸52に締結されている。入力軸106は、入力軸16と同様に、電動機70に動力伝達可能に連結されている。ダンパ104は、円板14と同様に、外周部においてフライホイール102と連結されていると共に、内周部において入力軸106とスプライン嵌合されている。つまり、動力伝達装置100は、フライホイール102と入力軸106との間の動力伝達経路にダンパ104が設けられている。図1に示す本実施例の動力伝達装置10は、ダンパ104が円板14に置き換えられている。つまり、動力伝達装置10は、ダンパ104を備えていないダンパレス構造を採用している。
【0015】
図2は、駆動系の周波数特性の一例を示す図である。図2において、二点鎖線はダンパ104を備えた動力伝達装置100における周波数特性の一例であり、破線はダンパ104を単に円板14に置き換えた車両用動力伝達装置の周波数特性の一例である。二点鎖線及び破線は、実線に示す本実施例の比較例である。ダンパレス構造を採用する場合、破線に示すように、エンジン50の使用回転域に共振域が入ってしまい、エンジン50の使用回転域で電動機70の強度上限を超える振動が発生する可能性がある。ダンパレス構造の車両用動力伝達装置において、振動を抑制する為に、例えば入力軸の剛性を向上させることが考えられる。入力軸の剛性は、入力軸を太くすることで向上させることが可能である。しかしながら、図6に示すように、クランク軸52の径の制約などによって入力軸を太くすることは容易ではない。特に、入力軸においてスプライン嵌合部よりもエンジン50側に突出させた先端部がクランク軸52の一端部52aの内周面に摺動可能に嵌め入れられたり又はベアリングを介して固定される場合、スプライン嵌合部は先端部と同等の太さとされてしまう。
【0016】
図1に戻り、本実施例の動力伝達装置10では、入力軸16のスプライン嵌合部つまり端部16aを電動機70側にずらし、端部16aの径を大きくする。仮に、入力軸16に端部16aよりもエンジン50側に突出する先端部が設けられている場合には、その先端部の径は大きくせず、端部16aや端部16aよりも電動機70側の軸部の径を大きくする。例えば、入力軸16は、インロー部12a1の径よりも端部16aの径つまりスプライン径が大きくされている。
【0017】
又、入力軸16を含む入力軸16に連結された部材の慣性を大きくすることで、振動を抑制することができる(図2参照)。動力伝達装置10では、ロータ72やフライホイール12によって慣性を稼ぐことができる。
【0018】
又、ダンパレス構造を採用する場合、大きなトルクが入力されると、駆動系の弱い部分の耐久性が低下させられ易い。本実施例の動力伝達装置10では、このような大きなトルクの入力に対して、弱い部分を設けておいて、この弱い部分で大きなトルクを吸収する。本実施例の動力伝達装置10では、円板14に弱い部分を設けてある。
【0019】
図3は、電動機70側から見た円板14の正面図の一例を示している。図3において、円板14は、外周部14b、中心孔14aに隣接したベース部14c、ベース部14cから径方向外側に延びる延伸部14d、延伸部14dから径方向外側に延びる脆弱部14eを備えている。脆弱部14eは、外周部14bとつながっている。脆弱部14eは、延伸部14dや外周部14bなどの他の部分よりも厚みが薄くされている(図1参照)。つまり、円板14は、中心孔14aよりも径方向外側において他の部分よりも厚みの薄い円環状の脆弱部14eを有している。これにより、駆動系に大きなトルクが入力されたときには、例えば脆弱部14eによって伝達されるトルクが抑制される。この際、脆弱部14eが損傷してエンジン50の動力が電動機70へ伝達不可となる場合がある。この場合、例えば電動機80によって修理工場等への退避走行が行われる。
【0020】
上述のように、本実施例によれば、入力軸16は、フライホイール12のインロー部12a1の径よりも、端部16aの径が大きくされている。これにより、クランク軸52の径などの制約によって入力軸16の径を大きくできない場合に比べて、入力軸16の剛性を向上させることができる。よって、ダンパレス構造において、駆動系の共振を抑制することができる。
【0021】
また、本実施例によれば、円板14は脆弱部14eを有している。これにより、大きなトルクの入力時は脆弱部14eによってヒューズ機能が作用させられ、駆動系の円板14以外の部品の耐久性の低下が抑制される。
【0022】
また、本実施例によれば、入力軸16は、駆動用のトルクを発生する電動機80に供給される電力をエンジン50の動力によって発電する発電機として機能する電動機70に動力伝達可能に連結されている。これにより、大きなトルクの入力によって円板14の脆弱部14eが損傷したときに、電動機80によって退避走行が可能となる。
【0023】
また、本実施例によれば、入力軸16はインナーロータ形式の電動機70のロータ72に動力伝達可能に連結されている。これにより、電動機70のロータ72によって慣性を稼ぐことができ、駆動系の共振を一層抑制することができる。
【0024】
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例0025】
図4は、本発明が適用される車両用動力伝達装置20(以下、動力伝達装置20という)の概略構成を説明する断面図である。動力伝達装置20は、動力伝達装置10とは別の実施例である。図4において、動力伝達装置20は、回転軸線CL上に、フライホイール22、円板24、入力軸26などを備えている。フライホイール22、円板24、及び入力軸26の各々の構成は、基本的には、フライホイール12、円板14、及び入力軸16の構成と同じである。動力伝達装置20において、動力伝達装置10とは異なる部分について説明する。
【0026】
入力軸26は、ボルト挿通孔22cの各々の中心を通る円周の径つまりピッチ円径よりも端部26aの径つまりスプライン径が大きくされている。
【0027】
また、本実施例によれば、入力軸26は、ピッチ円径よりもスプライン径が大きくされている。これにより、クランク軸52の径などの制約によって入力軸16の径を大きくできない場合に比べて、入力軸16の剛性を一層向上させることができる。よって、ダンパレス構造において、駆動系の共振を一層抑制することができる。
【実施例0028】
図5は、本発明が適用される車両用動力伝達装置30(以下、動力伝達装置30という)の概略構成を説明する断面図である。動力伝達装置30は、動力伝達装置20とは別の実施例である。図5において、動力伝達装置30は、回転軸線CL上に、フライホイール32、円板34、入力軸36などを備えている。フライホイール32、円板34、及び入力軸36の各々の構成は、基本的には、フライホイール22、円板24、及び入力軸26の構成と同じである。動力伝達装置30において、動力伝達装置20とは異なる部分について説明する。
【0029】
入力軸36は、アウターロータ形式の電動機90のロータ92に動力伝達可能に連結されている。ロータ92は、ロータ72と比べて、入力軸36を含む入力軸36に連結された部材の慣性を一層稼ぐことができる。
【0030】
また、本実施例によれば、入力軸36はアウターロータ形式の電動機90のロータ92に動力伝達可能に連結されている。これにより、電動機90のロータ92によって慣性を一層稼ぐことができ、駆動系の共振をより一層抑制することができる。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0032】
例えば、前述の実施例において、入力軸が電動機と直接的に連結されていない車両用動力伝達装置であっても、本発明を適用することができる。例えば、入力軸が遊星歯車装置等のギヤ機構を介して電動機と連結されている車両用動力伝達装置であっても、本発明を適用することができる。或いは、入力軸が電動機とは別の装置例えばトルクコンバータや自動変速機などに連結されている車両用動力伝達装置であっても、本発明を適用することができる。
【0033】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
10:車両用動力伝達装置 12:フライホイール 12a:中心孔 12a1:インロー部 12b:外周部 12c:ボルト挿通孔 14:円板 14a:中心孔 14b:外周部 14e:脆弱部 16:入力軸 16a:端部 16a1:外周面 20:車両用動力伝達装置 22:フライホイール 24:円板 26:入力軸 26a:端部 30:車両用動力伝達装置 32:フライホイール 34:円板 36:入力軸 50:エンジン 52:クランク軸 52a:一端部 52a1:外周面 52b:フランジ部 60:締結ボルト 70:電動機(発電機) 72:ロータ 80:電動機 90:電動機 92:ロータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6