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特開2024-8765ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008765
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137314
(22)【出願日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】111125556
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、シャンニー
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA29
4F071AH16
4F071AH19
4F071BB02
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC17
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関する。前記ポリビニルアルコールフィルムは、ケン化度が95mole%を超えるポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃の条件下:せん断モードにおいて、発振周波数100ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T1は0.40~0.93で、せん断モードにおいて発振周波数1ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T2は0.20~0.46であり、T2/T1は0.75を超えない。本発明のポリビニルアルコールフィルムは、フィルム面の変異を生じにくく、フィルムが切れにくい特性を同時に持ち、また前記フィルムから製造された偏光膜は優れた偏光度を持っている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が95mole%を超えるポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃の条件下:
せん断モードにおいて、発振周波数100ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T1は、0.40~0.93であり、
せん断モードにおいて発振周波数1ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T2は、0.20~0.46であり、
T2/T1は、0.75を超えない、
ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールフィルムの損失係数T1は、0.58~0.85であり、T1/T2は0.60を超えない、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールフィルムの損失係数T2は、0.30~0.45である、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.85mole%以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、1300~5200である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、2000~3000である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルム。
【請求項9】
偏光膜である請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
99.99%の偏光度を有する請求項9に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムに関し、特に、偏光膜の製造に使用されることができるポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールフィルムは、優れた透明性、機械的強度、水溶性、加工適性などの特性を有する親水性ポリマーであるため、包装材料又は電子機器の光学フィルム、特に偏光膜に広く応用されてきた。
【0003】
ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光膜の製造に関して、通常、フィルム状に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂の単層体に染色処理及び延伸処理を施すことにより、該ポリビニルアルコール系樹脂内のポリビニルアルコール系樹脂層に二色性物質が配向状態で吸着されることで、偏光膜を形成する。
【0004】
ポリビニルアルコールフィルムを延伸する時に必要な高延伸性、及び加工後の変形等の問題となる残留応力を低減する方法について、特許文献1などの先行技術に開示されている。特許文献1は、ポリビニルアルコール(A)と親水性基を有する変性共役ジエン系ポリマー(B)を使用して形成されたポリビニルアルコールフィルムであり、延伸加工性及び生産性に優れているため、該ポリビニルアルコールフィルムを加工して成形性に優れた延伸フィルム及び偏光膜が得られる。
【0005】
また、ポリビニルアルコールフィルムの製造プロセスにおいて、原料の不均一な撹拌による成形品フィルムの延伸性の不均一、欠陥の増加により、その後の加工工程で成形品フィルムにフィルム切れの現象が頻繁に発生することを解決するための手段は、特許文献2などの先行技術でも開示されている。特許文献2は、原料混合順序において、まず固体状界面活性剤及び抗酸化剤を添加して原料をよりよく混合させ、同時に包埋現象を避けることができ、次にマイクロ波加熱により原料をより均一に混合させて延伸性が安定で、厚さの均一性が良く、欠陥の少ない、表面平滑性に優れた光学フィルムが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許公開第114051513A号
【特許文献2】中国特許公開第CN112341636A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ポリビニルアルコールフィルムの既知の延伸性/伸び率に劣ることによるその後の加工工程でフィルム切れ現象が発生しやすい以外に、本出願発明者らは、製造されたポリビニルアルコールフィルムを外力なしで長時間放置すると、シワ又は曇り等の形態変化(本明細書では「変異」或いは「フィルム面の変異」と呼ばれる。)が自発的に発生することを見出した。これにより如何にしてポリビニルアルコールフィルムのフィルム面の変異問題を解決すると同時に、その後の調製過程でフィルムを切れにくい特性、及び前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光膜に優れた偏光能力を持たせるかが、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に基づいて、本発明は、次の技術的手段を提示する。すなわち、本発明の主な目的の一つは、ケン化度が95mole%を超えるポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃の条件下:せん断モードにおいて、発振周波数100ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T1は0.40~0.93で、せん断モードにおいて発振周波数1ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T2は0.20~0.46であり、T2/T1は0.75を超えないポリビニルアルコールフィルムを提供することである。
【0009】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの損失係数T1は、0.58~0.85であり、T1/T2は0.60を超えない。
【0010】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの損失係数T2は、0.30~0.45である。
【0011】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.85mole%以上である。
【0012】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、1300~5200である。
【0013】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、2000~3000である。
【0014】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである。
【0015】
本発明の別の目的は、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供することである。
【0016】
1つ又は複数の実施形態において、前記光学フィルムは、偏光膜である。
【0017】
1つ又は複数の実施形態において、前記光学フィルムは、99.99%の偏光度を有する。
【0018】
本発明の技術的内容により、フィルム面の変異を生じにくく、フィルムが切れにくい特性を持つポリビニルアルコールフィルムを得ることができる。また、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光膜は、優れた偏光特性を持っている。したがって、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、様々な用途に適し、特に、偏光膜などの光学フィルムに適している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明により開示される上記及び他の実施例を説明する。以下は、本発明の詳細な説明及び好ましい実施例である。
【0020】
以下の実施形態は、本発明を過度に限定すると見なされるべきではない。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、本明細書で論じられる実施例を修正及び変化することができ、かかる修正や変化も本発明の範囲に網羅される。
【0021】
本発明の目的の一つは、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムを提供することである。前記ポリビニルアルコールフィルムは、ケン化度が95mole%を超えるポリビニルアルコール樹脂を含み、25℃の条件下:せん断モードにおいて、発振周波数100ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T1は0.40~0.93で、せん断モードにおいて発振周波数1ラジアン/秒(rad/s)で測定された損失係数(loss factor,Tanδ)T2は0.20~0.46であり、T2/T1は0.75を超えない。
【0022】
本明細書で述べる「損失係数(Tanδ)」とは、損失剪断弾性率(G’’)と貯蔵剪断弾性率(G’)の比(G’’/G’)を指す。貯蔵剪断弾性率(G’)は、振動せん断力が加えられる過程で材料に貯蔵されるエネルギーの尺度であり、外部振動が終了した後、このエネルギーが変形回復に利用されることができる。損失剪断弾性率(G’’)は、振動せん断力が加えられて材料が変形する際に損失したエネルギー(内部エネルギー損失)の尺度で、材料の粘性特徴に関連する。したがって、G’’とG’の比を表す損失係数(Tanδ)は、材料の粘弾性特性を示すために用いられることができる。損失係数(Tanδ)が大きいほど、前記材料の粘性が高くなり、損失係数(Tanδ)が小さいほど、材料の弾性が高くなる。
【0023】
したがって、測定されたTanδが大きい場合、ポリビニルアルコールフィルムにフィルム面の変異(すなわち、フィルムにシワ又は曇りが生じる)を生じさせやすく、測定されたTanδが小さい場合、ポリビニルアルコールフィルムにフィルム面の変異が生じにくくなるが、その後の偏光膜の製造工程でフィルム切れが発生しやすくなる。
【0024】
本明細書で述べる「フィルム面の変異」とは、ポリビニルアルコールフィルムを外力なしで長時間放置すると、シワ又は曇り等の形態変化が自発的に発生することを意味する。いかなる理論にも拘束されないが、おそらくフィルム面の変異は、フィルム内の分子の再配列、一部の成分の凝集による局所的な組成の不均一性で引き起こされる。おそらくポリビニルアルコールフィルム製造工程でキャストドラム及び加熱ローラが加えるせん断力の一部は、フィルムに吸収されて蓄積されるため、ポリビニルアルコールフィルムを外力なしで長期間放置した場合、応力は徐々に解放されることで、フィルム内の分子を再配列させる。ポリビニルアルコールフィルムの測定されたTanδが大きいほど、分子の再配列が容易に発生してフィルム面の変異を引き起こす。
【0025】
本明細書で述べる「フィルム切れ」とは、一定の長さのポリビニルアルコールフィルムに必要な加工工程(例えば偏光膜の製造に限定されない)を実施し、加工工程中の一定の長さのポリビニルアルコールフィルムにフィルム切れの状況の有無を観察することを意味する。いかなる理論にも拘束されないが、おそらくポリビニルアルコールフィルムの測定されたTanδが小さいほど、ポリビニルアルコールフィルムの貯蔵エネルギーが大きくなり、全体的な構造と分子配列がより規則的になることで、ポリビニルアルコールフィルムの変形抵抗が増加して、その後の偏光製造工程で引張強度が大きすぎてフィルムが切れる。
【0026】
したがって、フィルム面の変異を生じにくく、フィルムが切れにくい特性を持つフィルムを得るため、Tanδを一定の範囲内に制御する必要がある。さらに、本出願発明者らは、せん断モードにおいて、1及び100ラジアン/秒(rad/s)の発振周波数で測定されるポリビニルアルコールフィルムの損失係数(loss factor,Tanδ)T1及びT2を特定の範囲内に制御することで、フィルム面の変異を生じにくく、フィルムが切れにくい特性を持つフィルムを得ることができることを見出した。
【0027】
本明細書で述べる「損失係数(loss factor,Tanδ)T1」とは、25℃の条件下、せん断モード下で、レオメータを使用し100ラジアン/秒(rad/s)の発振周波数で測定された損失係数の値を意味し、ここで25℃はレオメータの治具の温度を指す。1つ又は複数の実施形態において、前記Tanδ T1は、0.40~0.93で、例えば0.40~0.93、0.45~0.92、0.50~0.91、0.55~0.90、0.60~0.89、0.65~0.87、0.70~0.88、0.75~0.86、0.80~0.85、0.81~0.84又は0.82~0.83で、特に0.40、0.45、0.48、0.57、0.59、0.61、0.63、0.66、0.75、0.79、0.81又は0.93であり、好ましくは0.58~0.85である。
【0028】
本明細書で述べる「損失係数(loss factor,Tanδ)T2」とは、25℃の条件下、せん断モード下で、レオメータを使用し1ラジアン/秒(rad/s)の発振周波数で測定された損失係数の値を意味し、ここで25℃はレオメータの治具の温度を指す。1つ又は複数の実施形態において、前記Tanδ T2は0.20~0.46で、例えば0.20~0.46、0.22~0.46、0.24~0.45、0.25~0.45、0.28~0.44、0.30~0.44、0.32~0.44、0.35~0.43、0.40~0.42又は0.40~0.41で、特に0.20、0.24、0.27、0.31、0.32、0.33、0.34、0.41、0.43、0.45又は0.46であり、好ましくは0.30~0.45である。
【0029】
さらに、測定された損失係数T1及び損失係数T2をT2/T1で換算してTanδ変化率(すなわち、Tanδ変化率=低周波数の下で測定されたTanδ T2/高周波数下で測定されたTanδ T1)が得られたものは、損失の変化量を表す。Tanδの変化率が大きい場合、いかなる理論にも拘束されないが、おそらく前記ポリビニルアルコールフィルムの内部消費作用(分子鎖運動、分子結合運動、相変化など)が大きいことを表し、該材料の構造が緩く、分子配列が乱れることで、前記ポリビニルアルコールフィルムの分子をその後の偏光工程で整列させることが困難であるので、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光膜の偏光度が低くさせることを示しめしている。ポリビニルアルコールフィルムのTanδの変化量が特定の値未満の場合、内部消費作用が小さいため、全体の構造と分子配列が比較的規則的であることで、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光膜に良好な偏光度を持たせる。したがって、優れた偏光度を有する偏光膜を得るため、前記ポリビニルアルコールフィルムのTanδの変化率を特定の範囲内に制御する必要がある。
【0030】
したがって、1つ又は複数の実施形態において、本明細書における「Tanδ変化率」(「T2/T1」としても表すことができる)の値は、0.75未満で、好ましくは0.60未満であり、その値は例えば0.75、0.74、0.73、0.72、0.71、0.70、0.69、0.68、0.67、0.66、0.65、0.64、0.63、0.62、0.61、0.60、0.59、0.58、0.57、0.56、0.55、0.54、0.53、0.52、0.51、0.50、0.49、0.48、0.47、0.46、0.45、0.44、0.43、0.42、0.41又は0.40であるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で述べる「偏光度」とは、本発明のポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光子を特定のサイズの複数のサンプルに切断し、前記複数の偏光子を同じ流れ方向に重ね(直交方向)、分光光度計で波長700nmの照射下で光透過率H11を測定し、次に前記複数の偏光子を垂直流れ方向に重ね、同様に分光光度計で波長700nmの照射下で光透過率Hを測定し、最後に測定された光透過率H11及びHを次の式で計算して得られた結果を意味する。
【0032】
偏光度(%)=[(H11-H)/(H11 + H)]1/2
【0033】
一方、前記ポリビニルアルコールフィルムの製造方法は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を加熱溶解し、前記ポリビニルアルコール系樹脂の濃度を調整して、ポリビニルアルコール流延溶液を形成する溶解工程、(b)前記ポリビニルアルコール流延溶液をキャストドラムに流延し、前記キャストドラムから剥離した後、予備ポリビニルアルコールフィルムを得る流延工程、(c)予備ポリビニルアルコールフィルムを複数の加熱ローラ及びオーブンで乾燥した後、ポリビニルアルコールフィルムを得る乾燥工程、及び(d)ポリビニルアルコールフィルムを温湿度調節器に入れて、温度と湿度を調整する温湿度調整工程を含む。
【0034】
いかなる理論にも拘束されないが、おそらくポリビニルアルコールフィルムの調製過程でフィルムの流延工程中のキャストドラムにおける温度、乾燥工程における乾燥条件、温湿度調整工程における温度、湿度及び時間、及び添加剤の添加量は、Tanδ又はTanδ変化率の大きさを制御することができる。
【0035】
[溶解工程について]
少なくとも1つの実施形態によれば、溶解工程は、主にポリビニルアルコール系樹脂、溶媒及び添加剤を攪拌しながら温度を少なくとも130℃に上げ、均一に溶解した後、樹脂濃度を20~50%に調整して、ポリビニルアルコール流延溶液を得る。
【0036】
1つ又は複数の実施形態において、溶解工程で使用されるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂モノマーによって重合され、重合度1300~5200のポリビニルアルコール系樹脂が形成されてからケン化反応を行って、95%moleを超えるケン化度を有するポリビニルアルコール樹脂を得る。前記ビニルエステル系樹脂モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル又はオクト酸ビニル等のビニルエステル類、或いはこれらの組み合わせが挙げられ、本発明において、これに限定されない。また、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と前記ビニルエステル系樹脂モノマーとの共重合によって形成されるコポリマーも使用でき、ここで、前記オレフィン類化合物としては、エチレン、プロピレン又はブテンなどが挙げられ、本発明において、これに限定されない。前記オレフィン類化合物の添加量は、2~4mol%、例えば2mol%、2.5mol%、3mol%、3.5mol%又は4mol%などであり得るが、これらに限定されない。前記アクリレート誘導体としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどが挙げられ、本発明において、これに限定されない。
【0037】
本明細書で述べる「重合度」とは、JIS K 6726(1994)に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、1300~5200の範囲であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100又は5200で、本発明において好ましくは2000~3000の範囲である。
【0038】
本明細書で述べる「ケン化度」とは、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、より良い光学特性を得るため、95mole%を超え、例えば95mole%超、96mole%超、97mole%超、98mole%超又は99mole%超である。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、95mole%を超える場合、該樹脂の強度が増加し、その後の偏光膜工程での染色、固定処理の時、該樹脂が溶けにくく、偏光性能の高い偏光膜が容易に得られる。さらに前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.00mole%以上であり、例えば99.00mole%以上、99.15mole%以上、99.25mole%以上、99.35mole%以上、99.45mole%以上、99.55mole%以上、99.65mole%以上、99.75mole%以上、99.85mole%以上、99.95mole%以上であり、本発明において、好ましくは99.85mole%を超える。
【0039】
1つ又は複数の実施形態において、上記溶解工程で使用される溶媒は、ポリビニルアルコール樹脂を溶解できるものでよい、本発明において、特に限定されない。溶媒として、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられるが、これらに限定されなく、上記の溶媒は、1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。環境及び経済的側面を考慮すると、本発明において溶媒として水を使用することが好ましい。
【0040】
1つ又は複数の実施形態において、前記溶解工程で使用される添加剤は、界面活性剤、可塑剤/プラスティサイザなどのうちの少なくとも1つであり得る。前記「可塑剤」は、具体的にグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなど、或いはこれらの組み合わせであるがこれらに限定されない。本発明において、好ましくはグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンである。また1つ又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は5~15wt%であり、具体的に例えば6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%、11wt%、12wt%、13wt%、14wt%又は15wt%であるがこれらに限定されない。
【0041】
前述の「界面活性剤」は、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性界面活性剤に限定されず、具体的にはラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルなどのアルコールフェニルエーテル型、モノラウリン酸ポリエチレングリコールなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウラミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型、又はラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウムなどであるがこれらに限定されない。添加剤の添加量は、Tanδ及びTanδの変化率に影響を与え、添加量を一定の範囲内に制御する方がよい。1つ又は複数の実施形態において、前記界面活性剤の添加量は、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して1500~3000ppmであり、具体的には例えば1500ppm、1600ppm、1700ppm、1800ppm、1900ppm、2000ppm、2100ppm、2200ppm、2300ppm、2400ppm、2500ppm、2600ppm、2700ppm、2800ppm、2900ppm、又は3000ppmであるがこれらに限定されない。
【0042】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を溶解するための温度は、少なくとも130℃であることが好ましく、具体的には例えば少なくとも130℃、少なくとも140℃又は少なくとも150℃などである。
【0043】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度は、20~50%であることが好ましく、具体的には例えば20%、25%、30%、35%、40%、45%又は50%である。樹脂濃度が低すぎるとフィルムの乾燥負荷が高くなり、逆に樹脂濃度が高すぎると粘度が高くなり製膜が困難になる。
【0044】
[流延工程について]
少なくとも1つの実施形態によれば、流延工程は、主に前記ポリビニルアルコール流延溶液を脱泡(静置脱泡法又はベントホールを有する多軸押出機を使用して脱泡でき、例えばダブルスクリュー押出機で脱泡することがこれに限定されない)した後、溶液温度を少なくとも90℃に制御してからTダイリップから吐出し、キャストドラム(流延ドラムとも呼ばれる)、エンドレスベルトなどの支持体としてのキャストドラムに流延して製膜して、予備ポリビニルアルコールフィルムを得る。
【0045】
1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール流延溶液の温度は、少なくとも90℃であることが好ましく、例えば90℃、91℃、92℃、93℃、94℃又は95℃である。1つ又は複数の実施形態において、前記キャストドラムの温度は、好ましくは例えば85~95℃の範囲で、具体的には例えば85℃、86℃、87℃、88℃、89℃、90℃、91℃、92℃、93℃、94℃又は95℃であるがこれらに限定されない。
【0046】
[乾燥工程について]
少なくとも1つの実施形態によれば、乾燥工程は、主に前記予備ポリビニルアルコールフィルムをキャストドラムから剥離した後、予備ポリビニルアルコールフィルムの上面と下面を複数の加熱ローラで接触乾燥させた後、次に前記予備ポリビニルアルコールフィルムの上面と下面をオーブンで熱風乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルムを得る。
【0047】
1つ又は複数の実施形態において、前記複数の加熱ローラは、2~30本であり得、例えば2、5、10、15、20、25又は30本であるがこれらに限定されない。前記複数の加熱ローラの温度は、高いものから低いものへと徐々に逓減し、最初の加熱ローラが全ての加熱ローラの中で温度が最も高いローラであり、最後の加熱ローラの温度が全ての加熱ローラの中で最も低い。1つ又は複数の実施形態において、前記最初の加熱ローラの温度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば80℃、85℃、90℃、95℃又は100℃で、80~100℃の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、前記最後の加熱ローラの温度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃又は60℃で、30℃~60℃の範囲であることが好ましい。
【0048】
1つ又は複数の実施形態において、前記オーブンは、好ましくはフローティングオーブンを用い、温度は40℃~120℃の範囲に制御され、具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃又は120℃である。かつ前記オーブンの全体的な平均温度は、好ましくは70℃~80℃の範囲であり、具体的には例えば70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃又は80℃である。1つ又は複数の実施形態において、前記オーブンでの前記ポリビニルアルコールフィルムの乾燥時間は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば1分、1.5分、2分、2.5分又は3分で、1~3分の範囲であることが好ましい。
【0049】
[温湿度調整工程について]
本出願の好ましい実施態様によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、上記乾燥工程を経た後、さらに温湿度調節器に入れて温度と湿度を調整する。
【0050】
1つ又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の温度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば35℃、40℃又は45℃で、35~45℃の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の相対湿度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば70%、72%、74%、76%、78%又は80%で、70~80%の範囲であることが好ましい。1つ又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムを前記温湿度調節器に静置する時間は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば:5分、10分、15分又は20分で、5~20分の範囲であることが好ましい。
【0051】
1つ又は複数の実施形態において、前述の調製方法で得られたポリビニルアルコールフィルムの厚さは、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば30μm、35μm、40μm、45μm、50μm、55μm、60μm、65μm、70μm、75μm又は80μmで、30~75μmの範囲であることが好ましく、上記の値は単なる例であり、限定するものではない。また、得られたポリビニルアルコールフィルムが薄型偏光膜を製造するために用いられる場合、ポリビニルアルコールフィルムの厚さは50μm以下であり得、好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
【0052】
本発明の別の目的は、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供することである。本明細書で述べる「光学フィルム」は、偏光膜、位相差フィルム、視野角拡大フィルム或いは輝度上昇フィルムなどであり得、偏光膜であることが好ましい。
【実施例0053】
以下では、実施例を参照しつつ本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明の理解を助けることを意図し、本発明の範囲を如何ようにも限定することを意図しないことを理解されたい。
【0054】
ポリビニルアルコールフィルムの製造:まず、ポリビニルアルコール系樹脂を溶解バレルで加熱溶融してポリビニルアルコール流延溶液を形成し、次に前記ポリビニルアルコール流延溶液をTダイリップ及びキャストドラムによって押し出して成形し、予備ポリビニルアルコールフィルムを形成し、最後に前記予備ポリビニルアルコールフィルムを複数の加熱ローラ及びオーブンで乾燥させて、ポリビニルアルコールフィルムを得る。
【0055】
以下は、本実施例及び比較例におけるポリビニルアルコールフィルムを製造する主要工程であり、かつ以下の表1は、本実施例及び比較例の1つ又は複数の工程パラメータの違いを詳細に示す。
【0056】
1.まず、溶解バレルにケン化度≧99.85mole%、重合度2400程度のポリビニルアルコール樹脂1800kg、水4000kg、可塑剤グリセリン180kg及びラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル(表1に示す添加量)をそれぞれ加え、攪拌しながら温度を130℃に上げ、均一に溶解した後、水を加えて樹脂濃度を30.0%に調整して、ポリビニルアルコール流延溶液を得る。
【0057】
2.前記ポリビニルアルコール流延溶液をダブルスクリュー押出機で脱泡した後、前記ポリビニルアルコール流延溶液の温度を93℃に制御し、次に前記ポリビニルアルコール流延溶液をTダイリップから吐出し、回転する高温キャストドラムに流延して、乾燥させて予備ポリビニルアルコールフィルムとして製膜する。
【0058】
3.予備ポリビニルアルコールフィルムをキャストドラムから剥離した後、フィルムの上面と下面を15本の加熱ローラで接触乾燥させ、1本目の加熱ローラは、全ての加熱ローラの中で最も温度が高いローラで、後続の加熱ローラの温度が徐々に引き下げ、15本目の加熱ローラの温度が40℃まで下がり、全ての加熱ローラの中で最も低い。
【0059】
4.次に、前記予備ポリビニルアルコールフィルムの上面と下面を乾燥温度40~120℃の範囲のフローティングオーブンで熱風乾燥させる。
【0060】
5.最後に、乾燥した予備ポリビニルアルコールフィルムを温湿度調節器に入れて処理して、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得る。
【0061】
【表1】
【0062】
上記実施例1~12及び比較例1~8で得られたポリビニルアルコールフィルムは、以下の分析試験を実施し、使用した分析試験の方法を以下に詳細に説明する。
【0063】
<Tanδ及びTanδ変化率の分析>
機器:TA機器のDHR HR-20レオメータ
サンプルの作製:ポリビニルアルコールフィルムを直径2.5cmの円形に切断した後、温度30℃、相対湿度70%の環境中に5分間静置し、サンプルを均一に吸湿させる。
【0064】
試験方法:スイープ発振モードで測定し、治具によって検出されたトルク及び角変位、及び応力とひずみ情報を記録する。ここでスイープ発振は、モータがゼロ点で時計回り/反時計回りに回転してサンプルをせん断する。
【0065】
試験条件
モード:スイープ発振
周波数範囲:0.1~350rad/s(0.01~100 Hz)
ひずみ:1%
治具:フラットクランプ(直径2.5cm)、固定垂直力1N
治具温度:25℃
周囲温度:25~30℃
周囲湿度:相対湿度40~60%。
【0066】
データ結果:異なる周波数に対応するTanδが機器によって直接表示される。
【0067】
データ変換:レオメータのスイープ結果では、周波数1と100rad/sのデータ結果を取って計算し、計算式は次のように示される。
【0068】
【数1】
【0069】
<フィルム面の評価>
サンプルの作製:ポリビニルアルコールフィルムを流れ方向40cm±5%程度、横方向2.8m±5%のサイズのフィルムサンプルに切断する。
【0070】
試験条件:前記フィルムサンプルをアルミホイルバッグに入れて密封してから常温キャビネット(23~27℃)に入れて1ヶ月以上保管する。
【0071】
評価基準:フィルムサンプルのフィルム面にシワ及び/又は面積が1cm×1cmを超える曇りがないか確認する。フィルムサンプルのフィルム面にシワ又は曇りがない場合、「O」と評価され、フィルムサンプルのフィルム面にシワ又は曇りというフィルム面の変異がある場合、「X」と評価される。
【0072】
<フィルム切れの評価>
試験条件:ポリビニルアルコールフィルムサンプルを5000m連続で引っ張って偏光膜を製造する。偏光膜の調製方法は、次の通りである。すなわち、
i.ポリビニルアルコールフィルムを30℃の純水で満たされた膨潤タンクに浸し、フィルム面を水洗して膨潤させ、機械方向(MD)に沿ってフィルムを元の長さの1.2倍に延伸し、
ii.予備延伸フィルムを、温度30℃、0.37g/Lのヨウ素と18.5g/Lのヨウ化カリウムを含む水溶液の染色タンクに浸して染色すると共に前記フィルムを機械方向に元の長さの3.4倍に延伸し、
iii.2回延伸及び染色後のフィルムを温度55°C、55g/Lのホウ酸とヨウ化カリウムを含む水溶液の延伸タンクに浸し、次に前記フィルムを機械方向に沿って元の長さの6倍に延伸し、
iv.3回延伸したフィルムを55g/Lのヨウ化カリウムを含む水溶液に浸して、フィルム面に残留しているヨウ素溶液とホウ酸で洗浄し、
v.洗浄したフィルムを60℃のオーブンで5分間乾燥させてから、偏光膜の調製を完成させた。
【0073】
評価基準:偏光膜調製プロセスでフィルムサンプルにフィルム切れの状況があるかどうかを観察する。調製プロセス中にフィルムが切れていない場合、「◎」と評価され、調製プロセス中にフィルム切れが一回発生した場合、「O」と評価され、調製プロセス中にフィルム切れが複数回発生した場合、「X」と評価される。
【0074】
<偏光度評価>
試験条件:ポリビニルアルコールフィルムサンプルから製造された偏光子を4cm(MD方向)×4cm(TD方向)の正方形サンプル2枚に切断した後、前記複数の偏光子を同じ流れ方向に重ね、分光光度計で波長700nmの照射下で光透過率H11を測定し、次に前記複数の偏光子を垂直流れ方向に重ね(直交方向)、同様に分光光度計で波長700nmの照射下で光透過率Hを測定し、最後に測定された光透過率H11及びHのデータを計算し、計算式は次のように示される。
【0075】
偏光度(%)=[(H11-H)/(H11+H)]1/2
【0076】
実施例1~12及び比較例1~8のポリビニルアルコールフィルムについて、上記分析試験を実施した後に得られた結果を下表2に整理した。
【0077】
【表2】
【0078】
表2から分かるように、実施例1~12のポリビニルアルコールフィルムが25℃の条件下、せん断モード下で、発振周波数100rad/sで測定されたTanδ T1は、0.40~0.93で、発振周波数1rad/sで測定されたTanδ T2が0.20~0.46であり、T2/T1が0.75を超えず、前記ポリビニルアルコールフィルムは優れたフィルム面の評価(すなわち、フィルム面にシワ又は曇りがない)を有し、偏光膜製造プロセスでのフィルム切れの発生回数が1回までで、並びに前記フィルムから製造された偏光膜に99.9%の偏光度を持たせ、特に実施例2~6及び8のフィルムは偏光膜製造プロセスでフィルム切れが発生していない。対照的に、比較例1及び4~7のポリビニルアルコールフィルムが同時に温度を25℃に制御しないせん断モード下で、発振周波数100rad/sで測定されたTanδ T1は0.40~0.93で、発振周波数1rad/sで測定されたTanδ T2は0.20~0.46であり、T2/T1は0.75を超えないことで、前記ポリビニルアルコールフィルムは優れたフィルム面の評価、偏光膜製造プロセスでのフィルム切れの発生回数が1回までであることを同時に備えることができない。比較例2、3及び8のポリビニルアルコールは、優れたフィルム面及びフィルム切れの評価を有したとしても、前記ポリビニルアルコールから製造された偏光膜は、実施例1~12の製造された偏光膜と同じように優れた偏光度を有することができない。
【0079】
上記をまとめ、本発明の技術的内容により、ケン化度が95mole%を超えるポリビニルアルコール樹脂を含有するポリビニルアルコールフィルムが25℃の条件下、せん断モード下で、発振周波数100rad/sで測定されたTanδ T1は0.40~0.93で、発振周波数1rad/sで測定されたTanδ T2は0.20~0.46であり、T2/T1は0.75を超えないことで、フィルム面の変異を生じにくく、フィルムが切れにくい特性を同時に持つポリビニルアルコールフィルムが得られ、かつ前記フィルムから製造された偏光膜に優れた偏光特性を持たせる。
【0080】
本明細書において提供される全ての範囲は、所定の範囲内の各特定の範囲、及び所定の範囲間のサブ範囲の組み合わせを含むことが意図されている。また、本明細書に明確に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、その終点を含む。したがって、1~5の範囲には、特に1、2、3、4、および5と、2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などのサブ範囲が含まれる。
【0081】
本明細書で引用される全ての刊行物および特許出願は、参照により本明細書に組み込まれ、ありとあらゆる目的のために、個々の刊行物又は特許出願は、参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されている。本明細書と、参照により本明細書に組み込まれている刊行物または特許出願との間に矛盾がある場合、本明細書が優先される。
【0082】
本明細書で使用される「備える」、「有する」及び「含む」という用語は、オープンエンドで非限定的な意味を有する。「1つの」および「該」という用語は、文脈上明らかに単数形であることが示されない限り、複数形も同様に含むことを意図する場合がある。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を意味し、したがって単一の特徴または混合物/組み合わせを含むことができる。
【0083】
明細書記載の実施例以外で、又は特に明記されていない限り、成分の量及び/又は反応条件を表す全ての数値は、全ての場合に「約」という用語で修飾できる。これは、示された数値の±5%以内を意味する。本明細書で使用する場合、「基本的に含まない」又は「実質的に含まない」という用語は、特定の特徴が約2%未満であることを意味する。本明細書に明確に記載されている全ての要素又は特徴は、特許請求の範囲から否定的に除外することができる。