(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087744
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】触媒劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20240624BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F02D45/00 368F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063947
(22)【出願日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/046658
(32)【優先日】2022-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 賢一
(72)【発明者】
【氏名】清水 佑太
【テーマコード(参考)】
3G091
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA13
3G091AB01
3G091BA34
3G091CB02
3G091DA01
3G091DA02
3G384BA31
3G384DA43
3G384EB05
3G384EB07
3G384FA37Z
3G384FA41Z
(57)【要約】
【課題】上流酸素濃度センサの出力信号の反転の周期に乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れが生じても、触媒の劣化状態を診断できる触媒劣化診断装置を提供する。
【解決手段】燃料量の増加/減少の反転周期が正常であるときに燃料量の増加/減少が2回反転する期間と同じ長さの期間内に燃料量の増加/減少が3回以上反転するような燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じているときに、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときにリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間で且つ1ドライビングサイクル中に複数回収まるような長さの期間である診断期間Tdにおける、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサ14の出力信号の、増加および減少の両方を含む変動の影響を受けにくく且つ診断期間Td中に複数取得される単位期間Tu毎のデータに基づいて、触媒12の劣化状態を診断する処理を実行するプロセッサを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの燃焼室から排出された排ガスを浄化する触媒と、排ガスの流れ方向において前記触媒の上流に配置され、混合気の空燃比がリッチとリーンのどちらであるかに応じた信号を出力する上流酸素濃度センサと、排ガスの流れ方向において前記触媒の下流に配置された下流酸素濃度センサと、を備えたエンジン具備装置において、前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転に基づいて、前記エンジンに供給する燃料量の増加/減少の反転が行われるように前記エンジンが運転されているときの前記下流酸素濃度センサの出力信号に応じて前記触媒の劣化状態を診断する触媒劣化診断装置であって、
前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回反転する期間と同じ長さの期間内に前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が3回以上反転するような上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーンの反転周期の乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転周期が正常であるときに燃料量の増加/減少が2回反転する期間と同じ長さの期間内に燃料量の増加/減少が3回以上反転するような燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じているときに、
前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間であって、且つ、1ドライビングサイクル中に複数回収まるような長さの期間である診断期間における、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた前記下流酸素濃度センサの出力信号の、増加および減少の両方を含む変動の影響を受けにくく且つ前記診断期間中に複数取得される単位期間毎のデータに基づいて、前記触媒の劣化状態を診断する診断処理を少なくとも実行するプロセッサを有することを特徴とする触媒劣化診断装置。
【請求項2】
前記診断期間中に複数取得される前記単位期間毎のデータから得られ、前記触媒の劣化状態の診断に使用される判定値は1つであることを特徴とする請求項1に記載の触媒劣化診断装置。
【請求項3】
前記判定値は、前記下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量が反映された値であることを特徴とする請求項2に記載の触媒劣化診断装置。
【請求項4】
前記判定値は、反映された複数種類の特徴量の合成指標であることを特徴とする請求項3に記載の触媒劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンから排出された排ガスを浄化する触媒の劣化状態を診断する触媒劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから排出された排ガスを浄化する触媒の劣化を診断する触媒劣化診断装置がある。例えば、特許文献1では、排ガスの流れ方向における触媒の上流および下流に、それぞれ、上流酸素濃度センサおよび下流酸素濃度センサが設けられる。上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が反転したときに、触媒劣化診断装置はリッチ/リーン状態が継続する時間をカウントし、継続時間が所定の遅延時間に達したときに燃焼室に供給される燃料量の増加/減少を反転させるようにエンジンを運転させる。そして、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態に基づいて燃料量の増加/減少の反転が制御されているときの、下流酸素濃度センサの出力信号に基づいて触媒の劣化診断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、エンジンの形態または用途によっては、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じることがある。これに対して、特許文献1において、上記のように、継続時間が所定の遅延時間に達したときに燃焼室に供給される燃料量の増加/減少を反転させるようにエンジンを運転させる。これにより、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が反転し、その後遅延時間が経過する前に上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が再度反転するように、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じたときには、燃料量の増加/減少が反転せず、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れが生じない。しかしながら、特許文献1において、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が反転し、その後遅延時間が経過してから上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が再度反転するように、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じたときには、燃料量の増加/減少が反転して、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れが生じる。このとき、例えば遅延時間を長くすることによって、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じたときに、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れを生じにくくすることが考えられる。しかしながら、遅延時間を長くすると、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態に正常な反転が発生しているときに燃料量の増加/減少が反転されないことによって、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れが生じてしまう可能性が高くなる。
上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転の周期に乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れが生じても、触媒の劣化状態を診断できる触媒劣化診断装置が望まれている。
【0005】
本発明は、上流酸素濃度センサの出力信号の反転の周期に乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転の周期に乱れが生じても、触媒の劣化状態を診断できる触媒劣化診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態の触媒劣化診断装置は、以下の構成を有する。
エンジンと、前記エンジンの燃焼室から排出された排ガスを浄化する触媒と、排ガスの流れ方向において前記触媒の上流に配置され、混合気の空燃比がリッチとリーンのどちらであるかに応じた信号を出力する上流酸素濃度センサと、排ガスの流れ方向において前記触媒の下流に配置された下流酸素濃度センサと、を備えたエンジン具備装置において、前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転に基づいて、前記エンジンに供給する燃料量の増加/減少の反転が行われるように前記エンジンが運転されているときの前記下流酸素濃度センサの出力信号に応じて前記触媒の劣化状態を診断する触媒劣化診断装置であって、
前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回反転する期間と同じ長さの期間内に前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が3回以上反転するような上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーンの反転周期の乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転周期が正常であるときに燃料量の増加/減少が2回反転する期間と同じ長さの期間内に燃料量の増加/減少が3回以上反転するような燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じているときに、
前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに前記上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間であって、且つ、1ドライビングサイクル中に複数回収まるような長さの期間である診断期間における、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた前記下流酸素濃度センサの出力信号の、増加および減少の両方を含む変動の影響を受けにくく且つ前記診断期間中に複数取得される単位期間毎のデータに基づいて、前記触媒の劣化状態を診断する診断処理を少なくとも実行するプロセッサを有する。
【0007】
本構成において、触媒劣化診断装置は、診断期間における、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号の、診断期間中に複数取得される単位期間毎のデータに基づいて、触媒の劣化状態を診断する。診断期間は、上流酸素濃度センサのリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間であって、且つ、1ドライビングサイクル中に複数回収まるような長さの、比較的長い期間である。燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じていても、比較的長い期間である診断期間における下流酸素濃度センサの出力信号に、触媒の劣化状態を判断できる特徴が現れる。これにより、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じていても触媒の劣化状態を診断できる。
また、本構成において、診断期間が比較的長いので、診断期間における、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号の診断期間中に複数取得される単位期間毎のデータに基づいて、触媒の劣化状態を診断する際に、例えばパターン認識法などを用いて触媒の劣化状態を簡単に診断できる。
また、本構成において、上流酸素濃度センサの出力信号に対する下流酸素濃度センサの出力信号の遅れ時間に基づいて診断するときほど、燃料量の増加/減少の周期および振幅を大きくしなくても触媒の劣化状態を診断できる。
【0008】
本発明の一実施形態の触媒劣化診断装置は、以下の構成を有してもよい。
前記診断期間中に複数取得される前記単位期間毎のデータから得られ、前記触媒の劣化状態の診断に使用される判定値は1つである。
【0009】
本構成によると、診断期間中に複数取得される単位期間毎のデータから得られ、触媒の劣化状態の診断に使用される判定値が1つであるため、触媒の劣化状態の診断に使用される判定値が2以上ある場合よりも簡単に触媒の劣化状態を診断することができる。
【0010】
本発明の一実施形態の触媒劣化診断装置は、以下の構成を有してもよい。
前記判定値は、前記下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量が反映された値である。
【0011】
本構成によると、下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量が反映された1つの判定値に基づいて、触媒の劣化状態を簡単に精度よく診断することができる。
【0012】
本発明の一実施形態の触媒劣化診断装置は、以下の構成を有してもよい。
前記判定値は、反映された複数種類の特徴量の合成指標である。
【0013】
本構成によると、上記複数種類の特徴量の合成指標に基づいて、触媒の劣化状態を簡単に精度よく診断することができる。
【0014】
本発明および実施形態において、エンジンの形式は、4ストロークエンジンであってもよく、2ストロークエンジンであってもよい。エンジンは、キャニスタを有してもよく有さなくてもよい。エンジンは、過給装置(forced induction device)を有してもよく有さなくてもよい。過給装置はターボチャージャであってもよくスーパーチャージャであってもよい。エンジンの形式は、単一の燃焼室を有する単気筒エンジンであってもよく、複数の燃焼室を有する多気筒エンジンであってもよい。多気筒エンジンにおける複数の気筒(複数の燃焼室)の配列の形態は特に限定されない。多気筒エンジンの場合、複数の燃焼室に供給される燃料量の増加/減少の反転の周期は互いに同じまたはほぼ同じである。複数の燃焼室に燃料が供給されるタイミングは互いに異なってもよい。燃料室の数が4つ以上の場合、複数の燃焼室のうちの2つの燃焼室に燃料が供給されるタイミングが同じであってもよい。
本発明および実施形態において、エンジン具備装置は特に限定されない。例えば、エンジン具備装置は、ビークルであってもよい。ビークルは、車輪を有してもよく、有さなくてもよい。ビークルは、鞍乗型車両を含んでもよい。鞍乗型車両とは、ライダー(運転者)が鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指す。鞍乗型車両は、、例えば、自動二輪車、自動三輪車(motor tricycle)、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle / 全地形型車両)、スノーモービル、水上オートバイ(パーソナルウォータークラフト)などである。ビークルは、自動車、船舶、または例えばドローン等の飛行体などでもよい。
【0015】
本発明および実施形態において、触媒は、エンジンの燃焼室から排出された排ガスを浄化する。本発明および実施形態において、触媒とは、三元触媒(TWC:three way catalyst)、酸化触媒(DOC)、NOx選択還元用SCR触媒、NOx吸蔵還元触媒(LNT)等である。三元触媒は、主に、大気汚染物質である、排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)の3物質を、酸化または還元することで除去する触媒のことをいう。三元触媒は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を含む触媒である。三元触媒は、炭化水素が水と二酸化炭素に、一酸化炭素が二酸化炭素に、窒素酸化物が窒素に、それぞれ酸化または還元することで、排ガスを浄化する。NOx選択還元用SCR触媒は、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種を含有する。NOx吸蔵還元触媒は、アルカリ金属、及び/又はアルカリ土類金属等である。アルカリ金属は、K、Na、Li等である。アルカリ土類金属は、Ca等である。なお、触媒は、炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物のいずれか1つまたは2つを除去する触媒であってもよい。触媒は、酸化還元触媒でなくてもよい。触媒は、酸化または還元のいずれか一方だけで大気汚染物質を除去する酸化触媒または還元触媒であってもよい。触媒は、排ガス浄化作用を有する貴金属が基材に付着された構成となっている。触媒は、メタル基材の触媒であってもよいし、セラミック基材の触媒であってもよい。
【0016】
本発明および実施形態において、上流酸素濃度センサおよび下流酸素濃度センサは、エンジンの燃焼室から排出された排ガス中の酸素濃度を検出する。以下、上流酸素濃度センサおよび下流酸素濃度センサを総称して、酸素濃度センサと称する場合がある。酸素濃度センサは、O2センサおよびリニアA/Fセンサを含む。O2センサは、排ガス中の酸素濃度が第1の濃度より高いことと、第2の濃度より低いことを検出する。第1の濃度は、第2の濃度より高くてもよく、同じでもよい。リニアA/Fセンサは、排ガス中の酸素濃度の変化を連続的に検出する。上流酸素濃度センサの信号に基づいて、混合気の空燃比がリッチとリーンのどちらであるかを検出することができる。混合気の空燃比がリッチであるとは、目標空燃比に対して燃料が過剰な状態をいう。混合気の空燃比がリーンであるとは、目標空燃比に対して空気が過剰な状態をいう。上流酸素濃度センサがリニアA/Fセンサの場合、目標空燃比は理論空燃比である。上流酸素濃度センサがO2センサの場合、目標空燃比は、理論空燃比を含む値または範囲であってもよく、理論空燃比から若干ずれた値または範囲であってもよい。混合気の空燃比がリッチのときに、上流酸素濃度センサの出力信号はリッチ状態となり、混合気の空燃比がリーンのときに、上流酸素濃度センサの出力信号はリーン状態となる。上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ状態とは、例えば、出力信号の電圧値または電流値が第1の値よりも大きい状態である。この場合、上流酸素濃度センサの出力信号のリーン状態とは、出力信号の電圧値または電流値が第1の値と同じかそれよりも小さい第2の値よりも小さい状態である。酸素濃度センサは、例えばジルコニアを主体とした固体電解質体からなるセンサ素子部を有する。酸素濃度センサのセンサ素子部が、高温に加熱されて活性化状態となったときに、酸素濃度センサは酸素濃度を検知できる。
【0017】
本発明および実施形態において、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転とは、上流酸素濃度センサの出力信号が、混合気の空燃比がリッチであることを示すリッチ状態から、混合気の空燃比がリーンであることを示すリーン状態に切り換わること、および、上流酸素濃度センサの出力信号が、リーン状態からリッチ状態に切り換わることの両方を意味する。混合気の空燃比がリッチからリーンに切り換わるときに上流酸素濃度センサの出力信号がリッチ状態からリーン状態に切り換わる。混合気の空燃比がリーンからリッチに切り換わるときに上流酸素濃度センサの出力信号がリーン状態からリッチ状態に切り換わる。
【0018】
本発明および実施形態において、燃料量の増加/減少の反転とは、燃焼室に供給する燃料量が増加する状態から減少する状態に切り換わること、および、燃焼室に供給する燃料量が減少する状態から増加する状態に切り換わることの両方を意味する。
【0019】
本発明および実施形態において、例えば、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転に応じて燃料量の増加/減少を反転させたときに、従来の上流酸素濃度センサの出力信号に対する下流酸素濃度センサの出力信号の遅れ時間に基づく触媒の劣化状態の診断が可能な場合に、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常である。本発明および実施形態において、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回反転する期間とは、上流酸素濃度センサの出力信号の反転の周期が正常であるときに、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態のある反転のタイミングから、この反転の次の上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転のタイミングまでの期間のことである。
本発明および実施形態において、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回反転する期間と同じ長さの期間内に上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が3回以上反転するような上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期の乱れが生じているときに、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときよりも、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転の間隔が短い。なお、上述したように、エンジンの形態および用途によって、このような上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期の乱れが生じる。
本発明および実施形態において、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常である状態で、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転に基づいて燃料量の増加/減少が反転するときに、燃料量の増加/減少の反転周期が正常である。本発明および実施形態において、燃料量の増加/減少の反転周期が正常であるときに燃料量の増加/減少が2回反転する期間とは、燃料量の増加/減少の反転周期が正常であるときに、燃料量のある増加/減少の反転のタイミングから、この反転の次の燃料量の増加/減少の反転のタイミングまでの期間のことである。
本発明および実施形態において1ドライビングサイクルとは、エンジンを始動してからエンジンを停止させるまでの期間のことである。
【0020】
本発明および実施形態において、触媒劣化診断装置とは、プロセッサおよび記憶装置を有し、少なくとも本発明および本明細書に記載する触媒の劣化診断および燃料量の制御を実行する装置である。触媒劣化診断装置は、例えばECU(Electronic Control Unit)でもよい。プロセッサは、請求項に記載された制御を実行できるように構成される。プロセッサには、マイクロコントローラ、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マルチプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラム可能な論理回路(PLC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)および本明細書に記載する触媒の劣化状態の診断および燃料量の制御を実行することができる任意の他の回路が含まれる。記憶装置は、データやプログラムの保存または記憶を行うための装置である。記憶装置は、レジスタやキャッシュメモリ等の半導体メモリ、メインメモリ(主記憶装置/RAM)、ストレージ(外部記憶装置/補助記憶装置)等が含まれる。本発明および実施形態において、触媒劣化診断装置は、エンジン具備装置に設けられた装置であってもよいし、エンジン具備装置に設けられておらず、エンジン具備装置と通信可能な装置であってもよい。
【0021】
本発明および実施形態において、触媒劣化診断装置は、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号に基づいて触媒の劣化状態を診断する。
本発明および実施形態において、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号とは、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じることによって、触媒が劣化している場合に、触媒の下流における酸素濃度が燃料量の増加/減少の反転周期が正常のときとは異なる酸素濃度であるときの下流酸素濃度センサの出力信号のことである。
燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号は、燃料量の増加/減少の反転に応じて増加と減少とを繰り返す。本発明および実施形態において、診断期間における、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号の、増加および減少の両方を含む変動の影響を受けにくく且つ前記診断期間中で複数取得される単位期間毎のデータとは、増加と減少とを繰り返す下流酸素濃度センサの出力信号の値の増加と減少の両方の影響を受けにくい程度に短い単位期間毎に取得され、且つ、診断期間中に複数取得される単位期間毎のデータである。増加と減少の両方を含む変動の影響を受けにくいとは、1回の増加と1回の減少を含む変動の影響を受けにくいことを意味する。仮に、単位期間が長く、単位期間の間に、下流酸素濃度センサの出力信号の増加と減少の両方の変動が含まれる場合、下流酸素濃度センサの出力信号の単位期間あたりの変化量はゼロになる場合がある。このような長い単位期間毎のデータは、増加と減少の両方を含む変動の影響を受けている。本発明および実施形態において、診断期間とは、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間であって、且つ、1ドライビングサイクル中に複数回収まるような長さの、比較的長い期間である。そして、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じているときに、診断期間における下流酸素濃度センサの出力信号に、触媒の劣化状態を判断できる特徴が現れる。
触媒劣化診断装置は、例えば、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサの出力信号から得られた触媒の劣化に関連する判定値と、予め設定された閾値とに基づいて、触媒の劣化状態を診断する。例えば、触媒劣化診断装置は、判定値と閾値とを比較することによって、触媒の劣化状態を診断する。
【0022】
本発明および実施形態において、下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサの出力信号の、診断期間における単位期間毎に取得される変化量の平均値、中央値、最頻値、最大値、最小値、累積値、分散および標準偏差のうち少なくとも1つを含んでいてもよい。
本発明および実施形態において、下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサの出力信号の、診断期間における単位期間毎に取得される変化量が特定の値(例えば最頻値)である頻度を含んでいてもよい。
診断期間における単位期間毎に取得される変化量は、診断期間における単位期間毎の微分値であってもよいし、診断期間における単位期間あたりの変化量であってもよい。
本発明および実施形態において、下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサの出力信号の、診断期間における単位期間毎の値の平均値、中央値、最頻値、最大値、最小値、累積値、分散および標準偏差の少なくとも1つを含んでいてもよい。本発明および実施形態において、下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサの出力信号の、診断期間における単位期間毎の値が特定の値(例えば最頻値)である頻度を含んでいてもよい。
本発明および実施形態において、下流酸素濃度センサの出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサの出力信号の診断期間における単位期間毎の値から算出される、下流酸素濃度センサの出力信号の歪度、尖度、反転回数、軌跡長、積分値、周期、周波数および振幅の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0023】
なお、例えば、疑似信号を発生させるシミュレータ、および、外部スキャンツールを利用して、請求項1に記載された本発明の触媒劣化診断装置による制御が行われているか否かを確認することができる。シミュレータは、上流酸素濃度センサから信号が出力される配線の途中に設けられる。上流酸素濃度センサの出力信号の代わりに、上流酸素濃度センサの出力信号とシミュレータが発生させた疑似信号とを合わせた合成信号が、触媒劣化診断装置に入力される。外部スキャンツールは、触媒劣化診断装置と有線または無線で通信する。例えば、触媒劣化診断装置がエンジン具備装置に設けられている場合、外部スキャンツールは、エンジン具備装置の制御装置に着脱可能に接続され、エンジン具備装置の制御装置に接続されることによって触媒劣化診断装置と通信可能になるものであってもよい。外部スキャンツールは、触媒劣化診断装置から、触媒の劣化状態の診断に用いた判定値、および、触媒の劣化状態の診断時に上記判定値と比較される閾値の情報を取得する。
シミュレータにより疑似信号を発生させて、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態を反転させることにより、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れを生じさせる。このときに、燃料量の増加/減少に疑似信号に応じた変化が生じ、かつ、下流酸素濃度センサの出力信号に疑似信号に応じた変化が生じた場合に、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じたことにより、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じ、下流酸素濃度センサの出力信号が、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れの影響を受けたものであることを確認することができる。
燃料量の増加/減少に疑似信号に応じた変化が生じたか否かは、疑似信号を発生させたときの燃料量の増加/減少のタイミングの変化に基づいて判断することができる。燃料量の増加/減少の反転のタイミングは、外部スキャンツールによって燃料量の補正係数の時間的変化を取得することで取得できる。燃料量の補正係数とは、基本燃料供給量に対する補正係数である。燃料量の増加/減少が反転するタイミングは、エンジンに燃料を供給する燃料供給装置に触媒劣化診断装置から送られる信号に基づいて取得されてもよい。
上記のように、下流酸素濃度センサの出力信号が、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れの影響を受けたものであることが確認された場合に、エンジン具備装置に劣化していない触媒が取り付けられた状態でシミュレータに疑似信号を発生させたときの判定値の閾値に対する大小関係が、エンジン具備装置に劣化している触媒が取り付けられた状態でシミュレータに疑似信号を発生させたときの判定値の閾値に対する大小関係とは逆の大小関係である場合に、請求項1に記載された本発明の触媒劣化診断装置による制御が行われていると推定することができる。ここで、下流酸素濃度センサの出力信号に基づいて触媒の劣化状態を診断する場合、下流酸素濃度センサの出力信号の1つの単位期間についてのデータだけでは、触媒の劣化状態を正しく診断することはできない。したがって、判定値が触媒の劣化状態を正しく示している場合に、判定値は、複数の単位期間毎のデータに基づくものであると推定することができる。
【0024】
本発明および実施形態において、複数の選択肢のうちの少なくとも1つ(一方)とは、複数の選択肢から考えられる全ての組み合わせを含む。複数の選択肢のうちの少なくとも1つ(一方)とは、複数の選択肢のいずれか1つであってもよく、複数の選択肢の全てであってもよい。例えば、AとBとCの少なくとも1つとは、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、Cのみであってもよく、AとBであってもよく、AとCであってもよく、BとCであってもよく、AとBとCであってもよい。
【0025】
特許請求の範囲において、ある構成要素の数を明確に特定しておらず、英語に翻訳された場合にこの構成要素が単数で表示される場合、本発明はこの構成要素を複数有してもよい。また、本発明はこの構成要素を1つだけ有してもよい。
【0026】
なお、本発明および実施形態において、含む(including)、有する(having)、備える(comprising)およびこれらの派生語は、列挙されたアイテム及びその等価物に加えて追加的アイテムをも包含することが意図されて用いられている。
【0027】
他に定義されない限り、本明細書および請求範囲で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0028】
本明細書において、「してもよい(でもよい)」という用語は非排他的なものである。「してもよい(でもよい)」は、「してもよい(でもよい)がこれに限定されるものではない」という意味である。本明細書において、「してもよい(でもよい)」は、「しない(ではない)」場合があることを暗黙的に含む。本明細書において、「してもよい(でもよい)」と記載された構成は、少なくとも、請求項1の構成により得られる上記効果を奏する。
【0029】
本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されたまたは図面に図示された構成要素の構成および配置の詳細に制限されないことが理解されるべきである。本発明は、後述する実施形態以外の実施形態でも可能である。本発明は、後述する実施形態に様々な変更を加えた実施形態でも可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の触媒劣化診断装置によると、上流酸素濃度センサの出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じても、触媒の劣化状態を診断できる。
本発明の触媒劣化診断装置によると、診断期間が比較的長いので例えばパターン認識法を用いた診断が可能である。そのため、触媒の劣化状態を簡単に診断できる。
本発明の触媒劣化診断装置によると、上流酸素濃度センサの出力信号に対する下流酸素濃度センサ出力信号の遅れ時間に基づいて診断するときほど、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくしなくても触媒の劣化状態を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態の触媒劣化診断装置を説明するための図である。
【
図2】
図2は本発明の第2実施形態の触媒劣化診断装置において触媒の劣化状態を診断するときの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3(a)は触媒が正常であるときのマハラノビス距離を示すグラフであって、
図3(b)は
図3(a)のマハラノビス距離のヒストグラムである。
【
図5】
図5(a)は触媒が劣化しているときのマハラノビス距離を示すグラフであって、
図5(b)は
図5(a)のマハラノビス距離のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態の触媒劣化診断装置10について、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、第1実施形態の触媒劣化診断装置10は、エンジン21を備えるエンジン具備装置1における触媒12の劣化状態を診断するための装置である。
図1は、触媒劣化診断装置10がエンジン具備装置1に設けられている例を示すが、触媒劣化診断装置10は、エンジン具備装置1に設けられておらず、エンジン具備装置1と通信可能でもよい。エンジン具備装置1は、ビークルであってもよいし、ビークル以外の装置であってもよい。エンジン具備装置1は、エンジンユニット11と、触媒12と、上流酸素濃度センサ13と、下流酸素濃度センサ14とを有する。エンジンユニット11は、エンジン21と、エンジン21の燃焼室22に燃料を供給する図示しない燃料供給装置とを有する。エンジン21は、4ストロークのエンジンであってもよいし、2ストロークのエンジンであってもよい。
【0033】
上流酸素濃度センサ13は、エンジン21の燃焼室22から排出された排ガスの流れ方向において触媒12の上流に配置される。上流酸素濃度センサ13の出力信号は、混合気の空燃比がリッチであるかリーンであるかに応じた信号である。混合気の空燃比がリッチであることを示す上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ状態は、例えば、上流酸素濃度センサ13の出力信号の値が第1の値Va1よりも大きい状態である。混合気の空燃比がリーンであることを示す上流酸素濃度センサ13の出力信号のリーン状態は、例えば、上流酸素濃度センサ13の出力信号の値が第2の値Va2よりも小さい状態である。第2の値Va2は、第1の値Va1と同じかそれより小さい。
【0034】
エンジン21は、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転に基づいて、燃料量の増加/減少の反転が行われるように運転される。より詳細に説明すると、上流酸素濃度センサ13の出力信号がリーン状態に切り換わることに基づいて、燃料量を減少させる状態から増加させる状態へ反転させる、すなわち、燃料量の増加/減少を反転させるように、燃料供給装置から燃焼室22へ供給される燃料量は制御される。上流酸素濃度センサ13の出力信号がリッチ状態に切り換わることに基づいて、燃料量を増加させる状態から減少させる状態へ反転させる、すなわち、燃料量の増加/減少を反転させるように、燃料供給装置から燃焼室22へ供給される燃料量は制御される。
【0035】
触媒劣化診断装置10は、プロセッサ31と記憶装置32とを備えている。触媒劣化診断装置10は、触媒12の劣化状態を診断する。触媒劣化診断装置10がエンジン具備装置1に設けられている場合、触媒劣化診断装置10は、プロセッサ31の処理により、燃料供給装置から燃焼室22へ供給される燃料量を制御する。触媒劣化診断装置10がエンジン具備装置1に設けられている場合、触媒劣化診断装置10は、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転に基づいて、燃料量の増加/減少の反転が行われるようにエンジン21を運転させる。
【0036】
下流酸素濃度センサ14は、排ガスの流れ方向における触媒12の下流に配置される。下流酸素濃度センサ14の出力信号は、触媒12が正常であるか触媒12が劣化しているかによって異なる。例えば、触媒12が正常であるときには、エンジン21の運転条件が変わらなければ、下流酸素濃度センサ14の出力信号は、診断期間Tdの間にほとんど変化しない。触媒12が正常である場合、エンジン21の運転条件が変わらなければ、下流酸素濃度センサ14の出力信号は、基本的には、排ガス中の酸素濃度が所定の濃度よりも低いことを示す第1状態、または、排ガス中の酸素濃度が所定の濃度よりも高いことを示す第2状態のいずれかに維持される。但し、エンジン21の運転条件が変わらなくても、触媒12が正常である場合に、下流酸素濃度センサ14の出力信号が、第1状態で維持されている状態から第2状態で維持される状態へ、または、第2状態で維持されている状態から第1状態で維持される状態へ変化する場合がある。触媒12が正常であって、下流酸素濃度センサ14の出力信号が第1状態または第2状態で維持されている間、下流酸素濃度センサ14の出力信号の値はわずかに増減する場合がある。一方、触媒12が劣化しているときには、エンジン21の運転条件が変わらなくても、下流酸素濃度センサ14の出力信号は、診断期間Tdの間に、触媒12が正常であるときよりも第1状態と第2状態が切り換わる回数が多くなる。触媒12が劣化しているときには、診断期間Td中の上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転回数が多いほど、診断期間Td中の下流酸素濃度センサ14の出力信号の第1状態と第2状態が切り換わる回数は多くなりやすい。
【0037】
診断期間Tdは、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間であって、且つ、1ドライビングサイクル中に複数回収まるような長さの期間である。仮に、診断期間Tdが、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態が1回だけ反転する長さの期間であるとする。この場合、診断期間Td中に、下流酸素濃度センサ14の出力信号が第1状態から第2状態へまたは第2状態から第1状態に1回だけ変化した場合に、触媒12が劣化しているかどうかを判断することが難しい。診断期間Tdが、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態が2回以上反転する長さの期間であることにより、診断期間Tdにおける下流酸素濃度センサの出力信号に、触媒12の劣化状態を判断できる特徴が現れる。診断期間Tdの長さは、燃料量の増加/減少の反転の周期の長さによらずに設定されてもよく、燃料量の増加/減少の反転の周期の長さに応じて設定されてもよい。例えば、診断期間Tdは、1秒程度の期間であってもよい。あるいは、例えば、診断期間Tdは、燃料量の増加/減少の反転の4周期分程度の長さの期間であってもよい。
【0038】
次に、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期の乱れ、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れ、および、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサ14の出力信号について説明する。
図1に、ある期間中の、上流酸素濃度センサ13の出力信号の変化と、燃料量の変化と、下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化との関係の一例を示す。
図1の例では、期間の前半において上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じており、期間の後半において上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常である。また、
図1の例において、期間Ta1は、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態が2回反転する期間である。これに対して、
図1の例において、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じているときに、期間Ta1と同じ長さの期間Ta2に、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態が3回以上反転する。
また、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期が正常であるときに、燃料量の増加/減少の反転周期が正常である。
図1の例において、期間Tb1は、燃料量の増加/減少の反転周期が正常であるときに、燃料量の増加/減少が2回反転する期間である。上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じることによって燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じる。
図1の例では、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じているときに、期間Tb1と同じ長さの期間Tb2に、燃料量の増加/減少が3回以上反転する。なお、
図1の例では、燃料量の補正係数の変化によって燃料量の変化を示している。
そして、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じると、下流酸素濃度センサ14の出力信号が、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受ける。例えば、
図1の例では、期間Tc1は、燃料量の増加/減少の反転周期の正常である状態で、下流酸素濃度センサ14の出力信号の値が減少し始めてから次に増加し始めるまでの期間である。これに対して、
図1の例では、触媒12が劣化している状態で、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じているときに、下流酸素濃度センサ14の出力信号の値が減少し始めてから次に増加し始めるまでの期間Tc2が、上記期間Tc1よりも長い。ただし、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが下流酸素濃度センサ14の出力信号に与える影響は、
図1の例に示すものには限られない。
【0039】
次に、第1実施形態において、触媒劣化診断装置10における、触媒12の劣化状態を診断するための処理の流れについて説明する。第1実施形態において、触媒劣化診断装置10のプロセッサ31が、
図1のフローチャートに沿って診断処理を行うことによって、触媒12の劣化状態を診断する。ここで、第1実施形態において、触媒劣化診断装置10は、触媒12の劣化状態の診断のためではなく燃料量が制御されているときに、プロセッサ31が診断処理を行ってもよい。あるいは、第1実施形態において、触媒劣化診断装置10は、触媒12の劣化状態の診断のために燃料量が制御されているときに、プロセッサ31が診断処理を行ってもよい。
【0040】
図1のフローチャートについて詳細に説明すると、プロセッサ31は、ステップS1において、診断期間Tdにおける、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサ14の出力信号から、単位期間Tu毎の複数のデータを取得する。ここで、単位期間Tuは、下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化が、燃料量の増加および減少の両方を含む変動の影響を受けにくい程度に短い期間である。単位期間Tuは、例えば、10~30msec程度の期間であってもよい。
続いて、プロセッサ31は、ステップS2において、ステップS1で取得した下流酸素濃度センサ14の出力信号の複数のデータに基づいて触媒12の劣化状態を診断する。このとき、例えば、ステップS1で取得した複数のデータから、触媒12の劣化状態の診断に用いる判定値を算出し、判定値と予め記憶装置32に記憶された閾値との大小関係に基づいて触媒の劣化状態を診断してもよい。また、このとき、複数の診断期間Tdの各々について、取得した複数のデータに基づいて触媒12の劣化状態を診断してもよい。そして、複数の診断期間Tdのうち所定個数以上の診断期間Tdについての診断結果が、触媒12が劣化していることを示してる場合に、触媒12が劣化していると診断するようにしてもよい。ステップS2の後、処理はステップS1に戻る。
【0041】
ここで、第1実施形態と異なり、例えば特許文献1に記載されているように上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断する場合には、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じたときに、触媒12の劣化状態を診断できなくなることがある。
これに対して、第1実施形態の触媒劣化診断装置10においては、診断期間Tdにおける下流酸素濃度センサ14の出力信号の単位期間Tu毎の複数のデータに基づいて触媒12の劣化状態を診断する。そのため、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーン状態の反転周期に乱れが生じることによって、燃料量の増加/減少の反転周期に乱れが生じても、触媒12の劣化状態を診断できる。
【0042】
また、第1実施形態の触媒劣化診断装置10によると、診断期間Tdが比較的長いため、診断期間における下流酸素濃度センサ14の出力信号に、触媒12の劣化状態を判断できる特徴が現れる。そのため、例えばマハラノビス・タグチ法(MT法)のようなパターン認識法を用いた診断が可能である。そのため、触媒12の劣化状態を簡単に診断できる。
パターン認識法を用いて触媒12の劣化状態を診断する場合には、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断する場合と比較して、触媒12の劣化状態を診断するための処理を簡単にすることができる。これにより、触媒劣化診断装置10の開発工数を少なくすることができる。また、プロセッサ31の演算負荷を低減でき、ハードウェアリソースの設計の自由度を高くすることができる。
また、パターン認識法を用いて触媒12の劣化状態を診断する場合には、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断する場合と比較して、触媒12の劣化状態を診断するのに必要な時間を短くすることができる。これにより、リアルタイムで触媒12の劣化状態を診断することができる。
【0043】
また、第1実施形態と異なり、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断する場合には、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくする必要がある。
これに対して、第1実施形態の触媒劣化診断装置10においては、診断期間Tdにおける下流酸素濃度センサ14の出力信号の単位期間Tu毎の複数のデータに基づいて触媒12の劣化状態を診断する。したがって、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断するときほどは、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくしなくても触媒12の劣化状態を診断できる。
また、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくする場合には、触媒12を、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくしたときに排ガスを浄化できる程度に大きいものにする必要がある。これに対して、第1実施形態においては、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくしなくても触媒12の劣化状態を診断できる。これにより、触媒12の大型化を抑えることができる。
また、空燃比と理論空燃比の差が小さいときほど触媒12による排ガスの浄化性能が高くなるが、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくする場合には、空燃比と理論空燃比との差が大きくなることがある。これに対して、第1実施形態においては、燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくしなくても触媒12の劣化状態を診断できる。これにより、空燃比と理論空燃比との差を小さくして、触媒12による排ガスの浄化性能を高くすることができる。
また、第1実施形態においては、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断するときほど燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくする必要がないため、エンジン具備装置1がビークルである場合に、ドライバビリティを向上させることができる。触媒12の劣化状態の診断のために燃料量を制御せずに、触媒12の劣化状態を診断するときには、この効果は特に顕著である。
また、第1実施形態においては、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断するときほど触媒12の劣化状態の診断のために燃料量の増加/減少の反転周期および振幅を大きくする必要がないため、触媒12の劣化状態を診断する機会を確保しやすい。
上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて触媒12の劣化状態を診断する場合、診断可能なエンジン21の運転領域が制限される。一方、第1実施形態においては、比較的長い診断期間Tdにおける、下流酸素濃度センサ14の出力信号の、増加および減少の両方を含む変動の影響を受けにくく且つ診断期間Td中に複数取得される単位期間毎のデータに基づいて、触媒12の劣化状態を診断するため、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断する場合に比べて、診断可能なエンジン21の運転領域を広げることができる。そのため、触媒12の劣化状態を診断する機会を増やすことができる。例えば、診断可能なエンジン回転速度の領域をより低速の領域に広げることができる場合がある。それにより、例えば、エンジン回転速度の領域を2等分した場合に低い方の領域において、触媒12の劣化状態を診断することができる場合がある。また、例えば、エンジン回転速度の領域を3等分した場合に3つの領域のうち最も低速の領域において、触媒12の劣化状態を診断することができる場合がある。また、例えば、エンジン回転速度がアイドリング回転速度のときに、触媒12の劣化状態を診断することができる場合がある。また、例えば、診断可能なエンジン回転速度の領域をより高速の領域に広げることができる場合がある。診断可能なエンジン21の運転領域を広げることができることにより、エンジン具備装置1がビークルである場合には、診断可能な車速領域を広げることができる。
【0044】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態の触媒劣化診断装置10について、
図2を用いて説明する。第2実施形態の触媒劣化診断装置10は、第1実施形態の触媒劣化診断装置10の構成を備えている。第2実施形態において、触媒劣化診断装置10のプロセッサ31が、
図2のフローチャートに沿って処理を行うことによって、触媒12の劣化状態を診断する。
図2のフローチャートについて詳細に説明すると、プロセッサ31は、第1実施形態と同様、ステップS1において、診断期間Tdにおける、燃料量の増加/減少の反転周期の乱れの影響を受けた下流酸素濃度センサ14の出力信号から、単位期間Tu毎の複数のデータを取得する。
続いて、プロセッサ31は、ステップS2において、ステップS21およびステップS22の処理を行う。プロセッサ31は、ステップ21において、ステップS1で取得した複数のデータから得られる、下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化に関する複数種類の特徴量に基づいて、複数種類の特徴量が反映された1つの判定値として、複数種類の特徴量の合成指標を算出する。
下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサ14の出力信号の、診断期間Tdにおける単位期間Tu毎に取得される変化量の平均値を含んでいてもよい。下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、下流酸素濃度センサ14の出力信号の、診断期間Tdにおける単位期間Tu毎に取得される変化量の最大値を含んでいてもよい。
複数種類の特徴量の合成指標は、例えば、MT法で用いられるマハラノビス距離に関する値であってもよい。マハラノビス距離は、基準となるデータ群からどれだけ離れているかを示す。マハラノビス距離が1に近いほど、基準となるデータ群にマハラノビス距離の元となったデータが近いことを示す。マハラノビス距離に関する値は、例えばマハラノビス距離の2乗の値でもよい。マハラノビス距離が用いられる品質工学の分野においては、マハラノビス距離の2乗の値を、マハラノビス距離と称する場合がある。基準となるデータ群は、触媒12が正常であるときの下流酸素濃度センサ14の出力信号のデータ群を含んでもよく、触媒12が劣化しているときの下流酸素濃度センサ14の出力信号のデータ群を含んでもよい。触媒劣化診断装置10の記憶装置は、基準となるデータ群として、エンジン21の様々な運転領域における下流酸素濃度センサ14の出力信号のデータ群を記憶していてもよい。例えば、エンジン回転速度が異なる場合の下流酸素濃度センサ14の出力信号のデータ群が、基準となるデータ群として記憶されてもよい。
プロセッサ31は、ステップS22において、ステップS21で算出した合成指標の値に基づいて触媒の劣化状態を診断する。例えば、ステップS21で算出する合成指標が、マハラノビス距離に関する値であって、基準となるデータ群が、触媒12が正常であるときの下流酸素濃度センサ14の出力信号のデータ群を含むとする。この場合、ステップS22において、マハラノビス距離に関する値が閾値未満のときに触媒12が正常であると診断し、マハラノビス距離に関する値が閾値以上のときに触媒12が劣化していると診断してもよい。例えば、ステップS21で算出する合成指標が、マハラノビス距離に関する値であって、基準となるデータ群が、触媒12が劣化しているときの下流酸素濃度センサ14の出力信号のデータ群を含むとする。この場合、ステップS22において、マハラノビス距離に関する値が閾値未満のときに触媒12が劣化していると診断し、マハラノビス距離に関する値が閾値以上のときに触媒12が正常であると診断してもよい。
【0045】
第2実施形態において、ステップS21で、複数種類の特徴量の合成指標としてマハラノビス距離に関する値以外の合成指標の値を算出し、ステップS22でマハラノビス距離に関する値以外の合成指標の値に基づいて触媒の劣化状態を診断してもよい。
第2実施形態において、ステップS21で、複数種類の特徴量を反映した1つの判定値として、複数種類の特徴量の合成指標以外の判定値を算出し、ステップS22で合成指標以外の判定値に基づいて触媒の劣化状態を診断してもよい。
【0046】
第2実施形態の触媒劣化診断装置10では、合成指標の値に基づいて触媒12の劣化状態を診断することにより、触媒12の劣化状態を診断するための処理を簡単に精度よく実行することができる。
第2実施形態の触媒劣化診断装置10において、触媒12の劣化状態を診断するための処理を簡単に実行することができることにより、触媒劣化診断装置10の開発工数を少なくすることができる。また、プロセッサ31の演算負荷を低減でき、ハードウェアリソースの設計の自由度を高くすることができる。
第2実施形態の触媒劣化診断装置10において、合成指標の値に基づいて触媒12の劣化状態を診断するため、上流酸素濃度センサ13の出力信号に対する下流酸素濃度センサ14の出力信号の遅れ時間に基づいて診断する場合と比較して、触媒12の劣化状態を診断するのに必要な時間を短くすることができる。これにより、リアルタイムで触媒12の劣化状態を診断することができる。
【0047】
触媒劣化診断装置10は、第1実施形態および第2実施形態で説明したような、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーンの反転周期の乱れによって燃料量の増加/減少の反転周期の乱れが生じているときに下流酸素濃度センサ14の出力信号に基づいて触媒12の劣化状態を診断するための処理と、例えば特許文献1に記載されているような、上流酸素濃度センサ13の出力信号のリッチ/リーンの反転周期の乱れによる燃料量の増加/減少の反転周期の乱れを抑えて触媒12の劣化状態を診断するための処理のどちらをもできるように構成されていてもよい。
【0048】
第1実施形態および第2実施形態において、上流酸素濃度センサ13の出力信号と、下流酸素濃度センサ14の出力信号の両方に基づいて、触媒12の劣化状態を診断してもよい。
【0049】
<第2実施形態の具体例>
次に、第2実施形態の具体例の触媒劣化診断装置10について、
図3(a)、
図3(b)、
図4、
図5(a)、
図5(b)および
図6を用いて説明する。但し、第2実施形態の具体例は、以下に説明する具体例に限定されない。この具体例におけるプロセッサ31は、第2実施形態で説明したステップS21において、下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化に関する複数種類の特徴量が反映された1つの判定値として、マハラノビス距離に関する値を算出する。この具体例において、下流酸素濃度センサ14の出力信号の変化に関する複数種類の特徴量は、診断期間Tdにおける単位期間Tu毎に取得される変化量の平均値、最大値、および標準偏差を少なくとも含む。この具体例において、診断期間Tdの長さは、燃料量の増加/減少の反転の周期の長さに関わらず一定である。この具体例において、触媒劣化診断装置10の記憶装置32は、マハラノビス距離の基準となるデータ群として、触媒12が正常であるときの下流酸素濃度センサ14および上流酸素濃度センサ13の出力信号のデータ群を記憶する。この具体例において、エンジン具備装置1は、多段変速機(より詳細には6段変速機)を有するビークルである。
【0050】
図3(a)および
図5(a)は、1ドライビングサイクルにおけるエンジン回転速度ES、車速VS、スロットル開度TP、多段変速機のギヤ位置(ギヤ段)GP、上流酸素濃度センサ13の出力信号、および下流酸素濃度センサ14の出力信号を示すグラフを含む。
図3(a)および
図5(a)の横軸は時間を示す。スロットル開度TPとは、エンジン21に供給される空気量を調整するスロットル弁の開度である。
図3(a)および
図5(a)において、エンジン回転速度ES、車速VS、スロットル開度TP、ギヤ位置GP、および上流酸素濃度センサ13の出力信号の推移は、ほぼ同じである。
図3(a)および
図5(a)の最下段のグラフは、1ドライビングサイクルの全域にわたって診断期間Tdと同じ長さの期間毎に算出されたマハラノビス距離を示す。但し、この具体例の触媒劣化診断装置10は、1ドライビングサイクルの全域にわたってマハラノビス距離に関する値を算出する必要はない。この具体例の触媒劣化診断装置10は、1ドライビングサイクルにおける少なくとも1つの診断期間Tdのマハラノビス距離に関する値を算出して、触媒12の劣化状態を診断する。
図3(a)および
図5(a)の最下段のグラフの縦軸は、厳密には、マハラノビス距離の2乗の値を示す。以下の説明において、マハラノビス距離の2乗の値を、マハラノビス距離と称する。
図3(a)および
図5(a)の最下段のグラフの縦軸の最大値は180である。
【0051】
図3(a)は、触媒12が正常であるときのグラフである。
図3(b)は、
図3(a)のマハラノビス距離のヒストグラムである。
図3(b)の横軸は、マハラノビス距離の区間を示し、縦軸は各区間に含まれるマハラノビス距離の数を示す。
図3(b)に示すように、
図3(a)の1ドライビングサイクルにおけるマハラノビス距離の大半は、1付近の値である。
図4は、
図3(a)のグラフの4つの箇所の部分拡大グラフである。但し、
図4におけるマハラノビス距離を示す縦軸の最大値は20である。
図4の4つのグラフにおける時間の長さt1は、互いに同じであって、診断期間Tdの複数倍の長さである。
【0052】
図4の4つのグラフのうちの左端のグラフは、エンジン21の運転条件がほぼ変化しない定常運転時を示し、下流酸素濃度センサ14の出力信号はほとんど変化せず、マハラノビス距離はほぼ1で維持されている。左から2番目のグラフは、ギヤ位置GPが変更されたときを示す。ギヤ位置GPが変更されたときに、スロットル開度TPは一時的に大幅に小さくなり、エンジン回転速度ESは緩やかに増加した状態から一時的に減少状態となっている。ギヤ位置GPが変更された時に、下流酸素濃度センサ14の出力信号が変化し、マハラノビス距離が1よりも大幅に大きくなっている。左から3番目のグラフは、スロットル弁が閉じてビークルが減速するときを示す。スロットル弁が閉じたときに下流酸素濃度センサ14の出力信号が変化し、マハラノビス距離が1よりも大幅に大きくなっている。左から4番目のグラフは、エンジン21の運転条件がほぼ変化しない定常運転時であるものの、下流酸素濃度センサ14の出力信号が全く変化しないことでマハラノビス距離が1よりも大幅に大きくなっている。左から4番目のグラフのようなパターンはほとんど生じないが、このようなパターンが生じても触媒12の劣化状態を精度良く診断するために、触媒劣化診断装置10は複数の診断期間Tdのマハラノビス距離に関する値を用いて触媒12の劣化状態を診断してもよい。つまり、第1実施形態で述べたように、複数の診断期間Tdのうち所定個数以上の診断期間Tdについての診断結果が、触媒12が劣化していることを示してる場合に、触媒劣化診断装置10は触媒12が劣化していると診断してもよい。また、左から2番目および3番目のグラフのように、触媒12が正常であってもエンジン21の運転条件が大きく変化すると、下流酸素濃度センサ14の出力信号が大きく変化してマハラノビス距離が1よりも大幅に大きくなる。そのため、触媒劣化診断装置10は、エンジン21の運転条件が大きく変化していないときにのみ診断してもよい。
【0053】
図5(a)は、触媒12が劣化しているときのグラフである。
図5(b)は、
図5(a)のマハラノビス距離のヒストグラムである。
図5(b)に示すように、
図5(a)の1ドライビングサイクルにおけるマハラノビス距離の大半は、10以上の値である。
図6は、
図5(a)のグラフの4つの箇所の部分拡大グラフである。
図6におけるマハラノビス距離を示す縦軸の最大値は180である。
図6の4つのグラフにおける時間の長さt2は、互いに同じであって、診断期間Tdの複数倍の長さであって、時間t1よりも長い。
【0054】
図6の4つのグラフは、エンジン21の運転条件が、触媒劣化診断装置10が触媒12の劣化状態を診断できる条件を満たすときのグラフである。4つのグラフはいずれもエンジン21の運転条件がほぼ変化しない定常運転時を示す。4つのグラフのうち左端のグラフでは、車速VSはゼロで、エンジン回転速度ESはアイドリング回転速度であり、マハラノビス距離の平均値は5である。マハラノビス距離の平均値5は、触媒12が正常であるときの値である1よりも十分に大きいことから、触媒劣化診断装置10は、エンジン回転速度ESがアイドリング回転速度であっても触媒12の劣化状態を診断することができる。左から2番目のグラフでは、車速VSが低車速領域内の値であって、マハラノビス距離の平均値が29である。左から3番目のグラフでは、車速VSが低車速領域より高い中車速領域内の値であって、マハラノビス距離の平均値が90である。左から4番目のグラフでは、車速VSが中車速領域より高い高車速領域内の値であって、マハラノビス距離の平均値が117である。車速VSが高くなるほど、マハラノビス距離の値は大きくなっている。上述したように、この具体例では、診断期間Tdの長さは、燃料量の増加/減少の反転の周期の長さに関わらず一定である。そのため、車速VSが高くなるほど、診断期間Tdにおける燃料量の増加/減少の反転の回数が多くなり、診断精度が向上する。
【符号の説明】
【0055】
1:エンジン具備装置、10:触媒劣化診断装置、12:触媒、13:上流酸素濃度センサ、14:下流酸素濃度センサ、21:エンジン、22:燃焼室、31:プロセッサ、32:記憶装置