(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087805
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】ヒドロホルミル化の停止時に活性を維持する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20240624BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20240624BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20240624BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20240624BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01J31/28 Z
B01J33/00 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023212954
(22)【出願日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】22214450
(32)【優先日】2022-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】523448406
【氏名又は名称】エボニック オクセノ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト フランケ
(72)【発明者】
【氏名】リンダ アルゼンユク
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン オット
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ シュラー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クライス
(72)【発明者】
【氏名】フランク ステンガー
(72)【発明者】
【氏名】マルク オリバー クリステン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA04
4G169AA15
4G169AA20
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BA21A
4G169BA21B
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4G169BA27A
4G169BA27B
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4G169BC71B
4G169BC73A
4G169BC74A
4G169BD03A
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BE14A
4G169BE15B
4G169BE29A
4G169BE29B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169CB51
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA04Y
4G169EA06
4G169EA19
4G169EB17Y
4G169EB18Y
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB23
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC45
4H006BA24
4H006BA48
4H006BA55
4H006BA84
4H006BC10
4H006BC11
4H006BD20
4H006BE20
4H006BE40
4H039CA62
4H039CF10
4H039CL45
(57)【要約】 (修正有)
【課題】反応の再開後に触媒活性が著しく低下することを防ぐ、オレフィンをヒドロホルミル化する方法を提供する。
【解決手段】触媒系が多孔質セラミック材料で構成される担体上に不均一化された形態で存在する少なくとも1つの反応器中で、短鎖オレフィン、特にC2~C5オレフィンをヒドロホルミル化する方法であって、下記工程a)~c)を、方法の停止時に実施する方法とする。
a)合成ガスが前記少なくとも1つの反応器にまだ供給されている間に、ガス状供給混合物の供給を停止すること;
b)前記少なくとも1つの反応器内の温度を周囲温度まで低下させること;かつ、
c)前記合成ガスの供給を停止し、前記ヒドロホルミル化する方法が再開されるまで、前記少なくとも1つの反応器を前記合成ガスの雰囲気下に維持すること、
を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一化触媒系を用いて少なくとも1つの反応器中でC2~C8オレフィンをヒドロホルミル化する方法であって、ここで、
少なくとも1つの反応器中で、C2~C8オレフィンを含有するガス状供給混合物を合成ガスとともに、前記少なくとも1つの反応器中に配置された、元素周期表の第8族又は第9族の金属、少なくとも1つの有機リン含有配位子及び安定剤を含む触媒系が不均一化されて存在する多孔質セラミック材料で構成された担体上を通過させ、ここで、
前記担体は、モノリス、セラミック材料のブロックであるか、又は粉末、粒状物質、若しくは成形体の形態であり、かつ、炭化物材料、窒化物材料、ケイ化物材料及びそれらの混合物からなる群から選択され、ここで、
前記ヒドロホルミル化は、温度が65~200℃の前記少なくとも1つの反応器内で行われ、前記方法は、前記少なくとも1つの反応器を停止するための以下の工程:
a)前記合成ガスが前記少なくとも1つの反応器にまだ供給されている間に、前記ガス状供給混合物の供給を停止すること;
b)前記少なくとも1つの反応器内の温度を周囲温度まで低下させること;かつ、
c)前記合成ガスの供給を停止し、前記ヒドロホルミル化する方法が再開されるまで、前記少なくとも1つの反応器を前記合成ガスの雰囲気下に維持すること、
を含む、方法。
【請求項2】
工程a)において前記ガス状供給混合物の供給が停止される場合、前記合成ガスの供給速度が速くなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの反応器内の圧力が、工程b)における温度の低下後及び/又は低下中に低減される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記合成ガスの供給速度が工程b)では既に低下している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程c)において前記合成ガスの供給を停止する前に、前記少なくとも1つの反応器内の圧力を再び上昇させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロホルミル化のための触媒系の有機リン含有配位子が、以下の一般式(II):
R’-A-R’’-A-R’’’’ (II)
(式中、R’、R’’及びR’’’’は各々有機基であり、ただしR’及びR’’’は同一ではなく、2つのAは各々架橋-O-P(-O)2-基であり、3つの酸素原子-Oのうちの2つは各々基R’及び基R’’’に結合している)
で表される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
安定剤が、以下の式(I)
【化1】
の少なくとも1つの2,2,6,6-テトラメチルピペリジン単位を含有する有機アミン化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
窒化物のセラミックが、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び当該混合物から選択され、炭化物のセラミックが、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン及び当該混合物から選択され、ケイ化物のセラミックがケイ化モリブデンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記担体が炭化物セラミックである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記担体が炭化ケイ素である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドロホルミル化を、75~175℃の範囲、又は85~150℃の範囲の温度で行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロホルミル化における圧力が、少なくとも1バールであり、かつ、35バール以下、30バール以下、又は25バール以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
触媒系がイオン性液体を含まない、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒドロホルミル化する方法においてC4オレフィンが用いられる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
元素周期表の第8族又は第9族の金属がロジウムである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、欧州連合の2020年ホライズン研究及び革新プログラムの助成金番号869896のプロジェクトの支援を受けた。
本発明は、触媒系が多孔質セラミック材料で構成される担体上に不均一化された形態で存在する少なくとも1つの反応器中で、短鎖オレフィン、特にC2~C5オレフィンをヒドロホルミル化する方法であって、請求項1に記載の方法工程a)~c)を、方法の停止時に実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロホルミル化による年間世界生産能力は数百万トンであり、工業化学における最重要反応の1つである。それは、アルケン(オレフィン)を、一酸化炭素と水素(また、合成ガス又はsyngas)の混合物と共に触媒を用いて、アルコール、エステル又は可塑剤などの化学的バルク製品の製造における重要かつ価値のある中間体であるアルデヒドに変換することを含む。
工業的規模でのヒドロホルミル化は、専ら均一系触媒作用下で実施される。可溶性遷移金属触媒系は、典型的には、コバルト又はロジウムをベースとし、これは、比較的短鎖のオレフィンのヒドロホルミル化のために、リン含有配位子、例えばホスフィン又はホスファイトとともに用いられることが多い。
【0003】
公知の方法には種々の問題があり、当該問題は、特に、ロジウム及びコバルトの両方並びにそれらの化合物が比較的高価であるという事実に関連している。ヒドロホルミル化する方法による触媒損失をできるだけ回避するために、例えば触媒返送工程(当該工程の一部は極めて費用がかかる)による、高いエネルギー消費及び複雑なプロセス技術が必要である。さらに、生成物中に触媒残渣ができるだけ残らないようにするための生成物の精製工程はますます困難である。
公知の均一系触媒法のさらなる問題は、温度、圧力、pH値等のヒドロホルミル化の条件に適合すべき配位子の安定性、及び用いられる溶剤がプロセス中で消費されるため、補充によって補償されなければならないことである。
【0004】
均一系触媒作用によるヒドロホルミル化の上記問題を回避するために、触媒系を、特に担体材料上に固定化することによって不均一化するヒドロホルミル化法が開発された。従って、用語「不均一化」及び「固定化」は、触媒が、固体担体材料の表面上及び/又は細孔内にイオン性液体を用いて薄い液膜を形成することによって固定化され、触媒が均一に溶解されている従来の意味の反応溶液が存在しないことを意味するものと理解されるべきである。触媒が担体材料上に不均一化された形で存在するヒドロホルミル化法は、例えば、特許文献1~5に開示されている。
このような化学反応を工業的規模で実施する場合、例えば組み立てやメンテナンス作業のために、システムを長時間停止する必要が生じることがある。このようなシャットダウン時には、まず反応を停止し、次に反応器を窒素などの不活性物質でフラッシュする。これにより、反応器内に存在する生成物を排出し、まだ存在する生成物の後続反応を排除することができる。このような反応停止手順の後、反応を開始できないような問題が発生することがある。この理由は、触媒活性の大幅な低下である場合があり、この場合、触媒の交換が必要となるがこれには費用がかさむ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/028284号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3632885号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3744707号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第3632886号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第3736258号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、少なくとも1つの反応器を停止するための工程を含むが、上記のような欠点がないオレフィンのヒドロホルミル化する方法を提供することであった。特に、反応の再開後に、触媒活性が著しく低下してはならず、かつ、活性は可能な限り維持されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って本発明の目的は、本願請求項1による、停止中に少なくとも1つの反応器を合成ガスでフラッシング(パージ)し、その後の貯蔵中は合成ガス雰囲気中に放置することによって解決される。好ましい実施形態は、本願従属項に記載されている。
【0008】
本発明は、不均一化触媒系を用いて少なくとも1つの反応器中でC2~C8オレフィンをヒドロホルミル化する方法であって、ここで、
少なくとも1つの反応器中で、C2~C8オレフィンを含有するガス状供給混合物を合成ガスとともに、前記少なくとも1つの反応器中に配置された、元素周期表の第8族又は第9族の金属、少なくとも1つの有機リン含有配位子及び安定剤を含む触媒系が不均一化されて存在する多孔質セラミック材料で構成された担体上を通過させ、ここで、
前記担体は、モノリス、セラミック材料のブロックであるか、又は粉末、粒状物質、若しくは成形体の形態であり、かつ、炭化物材料、窒化物材料、ケイ化物材料又はそれらの混合物で構成され、ここで、前記ヒドロホルミル化は、温度が65~200℃の前記少なくとも1つの反応器内で行われ、前記方法は、前記少なくとも1つの反応器を停止するための以下の工程:
a)前記合成ガスが前記少なくとも1つの反応器にまだ供給されている間に、前記ガス状供給混合物の供給を停止すること;
b)前記少なくとも1つの反応器内の温度を周囲温度まで低下させること;かつ、
c)前記合成ガスの供給を停止し、前記ヒドロホルミル化する方法が再開されるまで、前記少なくとも1つの反応器を前記合成ガスの雰囲気下に維持すること、
を含む、方法を提供する。
【0009】
本発明の特徴は、反応の停止時に少なくとも1つの反応器を合成ガスでパージし、それを合成ガス雰囲気下に維持することである。これにより、反応が再開された後に、当該方法を再び通常の操作で確実に実行することができる。
本発明の文脈における周囲温度とは、加熱又は冷却なしに達成される温度を意味すると理解される。各々の支配的な温度は、例えば、季節に応じて著しく異なる場合もあるため、より正確な定義はできない。
【0010】
停止及び保持工程の第一の工程a)では、供給混合物の供給は停止される。これにより反応が停止する。同時に、合成ガス流は、少なくとも1つの反応器になお供給されている。これにより、反応器中になお存在する炭化水素をパージすることができる。本発明の好ましい実施形態では、合成ガスの供給速度は、ガス状供給混合物の供給が工程a)において停止されるときに高まる。これにより、同様の又は同一の体積流量が少なくとも1つの反応器を依然として確実に通過することができる。従って、特に好ましい実施形態では、ガス状供給混合物の供給は、合成ガスによって完全に置換される。
続く工程b)では、少なくとも1つの反応器中の温度は、周囲温度に下げられる。これは、冷却によって能動的に行うことができ、この場合、冷却は、少なくとも1つの反応器中で周囲温度が達成されるまで行われる。冷却は、能動的な冷却ではなく受動的に行うこともできる。本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの反応器内の圧力は、工程b)における温度の低下後及び/又は低下中に低下する。これにより、工程a)におけるパージによって除去することができなかった、反応器中に依然として存在している可能性のある高沸点物を除去することができる。
【0011】
本発明のさらに好ましい実施形態では、合成ガスの供給速度は、工程b)において低減され得る。これにより、少なくとも1つの反応器内の圧力の低下を達成することができるために、ある状況下では必要であり得る。さらに、合成ガスを節約することができる。
【0012】
本発明による方法の停止及び保持工程の工程c)では、合成ガスの供給は停止され、少なくとも1つの反応器は、ヒドロホルミル化が再開されるまで合成ガスの雰囲気中に保持される。好ましい実施形態では、工程c)において合成ガスの供給を停止する前に、少なくとも1つの反応器内の圧力を再び上昇させることができる。その前の工程b)で圧力が低下した場合、圧力の印加が必要であり得る。
【0013】
少なくとも1つの反応器は、特定の期間、例えば、数日間、数週間、数ヶ月間又は数年間、にわたり、合成ガスの雰囲気下に維持することができる。好ましい実施形態では、少なくとも1つの反応器は、合成ガスの雰囲気下に少なくとも24時間保持される。
【0014】
用いられる供給混合物は、反応物としてC2~C8オレフィン、好ましくはC2~C5オレフィン、特にエテン、プロペン、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン又は2-ペンテンを含むいかなる混合物であってよい。供給混合物中のオレフィンの量は、当然のことながら、ヒドロホルミル化反応を経済的に稼働できる程度に十分に高くなければならない。本発明による方法で用いられてよい供給混合物は、特に、石油化学の当業界における技術的な混合物、例えばラフィネート流(ラフィネートI、II又はIII)又は粗ブタンも含む。本発明では、粗ブタンとしては、5~40質量%のブテン、好ましくは20~40質量%のブテン(ブテンは、1~20質量%の1-ブテン及び80~99質量%の2-ブテンから構成される)、及び60~95質量%のブタン、好ましくは60~80質量%のブタンがあげられる。
【0015】
本発明による方法は、本発明によるヒドロホルミル化が行われる少なくとも1つの反応器中で実施される。不均一化触媒系を備える担体が少なくとも1つの反応器中に配置される。本発明のさらなる実施形態では、本方法は、並列又は直列に接続されてよい複数の反応器中で実施することもできる。2つ以上の反応器が存在する場合、当該反応器は、好ましくは並列に接続され、交互に用いられる。
【0016】
ヒドロホルミル化は、好ましくは以下の条件下で実施される。ヒドロホルミル化の温度は、65~200℃、好ましくは75~175℃、より好ましくは85~150℃の範囲である。温度は、適当な冷却装置、例えば冷却ジャケットによって調節することができる。ヒドロホルミル化の圧力は、少なくとも1バールであり、かつ、35バール以下、好ましくは30バール以下、特に好ましくは25バール以下であってよい。合成ガスと供給混合物とのモル比は、6:1~1:1、好ましくは5:1~3:1であってよい。場合により、供給混合物は、不活性ガス、例えば工業用炭化水素流中に存在するアルカンで希釈されてよい。
【0017】
本発明のヒドロホルミル化する方法において用いられる触媒系は、好ましくは、元素周期表の第8族又は第9族の遷移金属、特に鉄、ルテニウム、イリジウム、コバルト又はロジウム、さらに好ましくはコバルト及びロジウム、より好ましくはロジウム、少なくとも1種の有機リン含有配位子及び安定剤を含む。
安定剤は、好ましくは有機アミン化合物、より好ましくは以下の式(I):
【0018】
【化1】
であらわされ化合物の少なくとも1つの2,2,6,6-テトラメチルピペリジン単位を含有する有機アミン化合物である。
【0019】
本発明の特に好ましい実施形態では、安定剤は、以下の式(I.1)、(I.2)、(I.3)、(I.4)、(I.5)、(I.6)、(I.7)及び(I.8):
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【化5】
(式中、RはC6~C20アルキル基である。)
で表される化合物からなる群から選択される。
【0024】
全てのフィルム形成成分、すなわちこの場合には安定剤について、反応物のガス溶解性は、生成物のガス溶解性よりも良好であってよい。この方法だけで、用いられる反応体オレフィンと形成される生成物アルデヒドとの間の部分的な物理的分離を達成することができる。原則として、他のフィルム形成物質もまた、この目的のために考えられるが、多量の高沸点物を形成させないこと、及び/又は反応物オレフィンの補充が確実に制限されるように注意すべきである。
【0025】
本発明による触媒系のために選択される有機リン含有配位子は、ヒドロホルミル化のために公知のいかなる配位子であってよい。多数の適当な配位子が、特許及び科学文献から当業者に公知であり、例えば、モノ又はビホスファイト配位子である。有機リン含有配位子には、好ましくは、以下の一般式(II)
R’-A-R’’-A-R’’’’ (II)
(式中、R’、R’’及びR’’’’は各々有機基であり、ただしR’及びR’’’は同一ではなく、2つのAは各々架橋-O-P(-O)2-基であり、3つの酸素原子-Oのうちの2つは各々基R’及び基R’’’に結合し、
有機基R’、R’’及びR’’’は、好ましくは末端トリアルコキシシラン基を含有しない)
として表されるビホスファイト構造がある。
【0026】
好ましい実施形態では、式(VI)の化合物中のR’、R’’及びR’’’は、好ましくは、置換又は非置換の1,1’-ビフェニル、1,1’-ビナフチル及びオルト-フェニル基から、特に置換又は非置換の1,1’-ビフェニル基から選択されるが、ただし、R’及びR’’’は同一ではない。より好ましくは、置換1,1’-ビフェニル基は、1,1’-ビフェニル基本構造の3,3’位及び/又は5,5’位にアルキル基及び/又はアルコキシ基、特にC1~C4アルキル基、より好ましくはtert-ブチル及び/又はメチル基、及び/又は好ましくはC1~C5アルコキシ基、より好ましくはメトキシ基を有する。
【0027】
本発明によれば、上記の触媒系は、多孔質セラミック材料で構成される担体上に不均一化された形態で存在する。本発明の文脈における表現「不均一化されて(不均一化された形態で)」は、触媒系が、安定剤により、固体又は液体の薄膜の形成を介して、担体の内側及び/又は外側表面上に固定化されることを意味すると理解される。フィルムはまた、室温で固体であり、反応条件下で液体であってよい。
【0028】
固体支持体材料の内部表面は、より具体的には、細孔の内部表面積を含む。固定化の概念は、触媒系及び/又は触媒活性種が固体又は液体フィルム中に溶解した形態で存在する状況、及び安定剤が接着促進剤として作用するか、又は触媒系が表面に吸着されるが、表面に化学的/共有結合的に結合されない状況を含む。
本発明によれば、触媒が均一に溶解されている従来の意味での反応溶液は存在せず、触媒系は、担体の表面上及び/又は細孔中に分散されている。
多孔質担体の材料は、好ましくは、窒化物セラミック、炭化物セラミック、ケイ化物セラミック、及びそれらの混合物、例えば、炭窒化物材料からなる群から選択される。
窒化セラミックは、好ましくは、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びそれらの混合物から選択される。炭化物セラミックは、好ましくは、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、又はそれらの混合物から選択される。また、炭窒化物として知られる、炭化物セラミックと窒化物セラミックとの混合物も考えられる。ケイ化物セラミックは、好ましくはケイ化モリブデンである。触媒系が適用される本発明による担体は、好ましくは炭化物セラミック、より好ましくは炭化ケイ素からなる。
【0029】
この場合、担体は、モノリス、すなわちセラミック材料のブロックとして、又は粉末の形態で、粒状材料の形態で、又は成形体の形態で存在してもよい。
支持体がモノリスである場合、支持体は、多孔質セラミック材料のブロック(三次元物体)で構成される。ブロックは、一体型であってよく、又は、複数の、すなわち少なくとも2つの個別部品であってよく、当該個別部品は、ブロックを形成するために互いに接合されてよく、及び/又は、固定されたもしくは分離可能な方法で互いに接合されてよい。
多孔質セラミック材料で構成される担体は、好ましくは、その断面が原則としていかなる幾何学的形状、例えば円形、角形、正方形などであってよい、三次元に延伸する構成要素である。好ましい実施形態では、担体として用いられ得る3次元に延在する成分には、貫流の主方向(供給混合物及び合成ガスが少なくとも1つの反応器の入口から出口へ流れる方向)に長手方向(最長範囲の方向)がある。
このように成形された多孔質セラミック材料の支持体モノリスは、主な貫流方向に少なくとも1つの連続的なチャネルがある。しかしながら、チャネルは、完全に連続せず、少なくとも1つの反応器の入口とは反対側の端部で終結するように、すなわち、チャネルがこの端部に向かって閉じられるように構成されてよい。支持体モノリスにはまた、少なくとも2つ以上のチャネルがあってよい。チャネルの直径は、0.25~50mmの範囲、好ましくは1~30mmの範囲、さらに好ましくは1.5~20mmの範囲、より好ましくは2~16mmの範囲であってよい。複数のチャネルが存在する場合、チャネルの直径は同じでも異なってもよい。支持体全体の直径又は直径の1つに対するチャネルの選択された直径は、特に、機械的安定性が損なわれないものであってよい。
さらに、セラミック材料の支持体モノリスは、多孔質であり、すなわち細孔がある。本発明による触媒系は、より具体的には、当該細孔内の液体又は固体フィルム中にも存在する。細孔直径は、好ましくは0.9nm~30μmの範囲、好ましくは10nm~25μmの範囲、より好ましくは70nm~20μmの範囲である。細孔直径は、DIN66133(1993-06版)により窒素吸着又は水銀ポロシメトリーによって決定することができる。
【0030】
好ましい実施形態では、支持体モノリスには、表面からチャネルまで、及び/又は1つのチャネルから次のチャネルまで延在する少なくとも部分的に連続した細孔がある。複数の細孔が互いに接続され、したがって、全体として単一の連続細孔を形成してもよい。
【0031】
本発明では、担体は、粉末の形態、顆粒状材料の形態、又はペレット、リング、球体などの成形体の形態で存在してよい。担体の中央粒径(d50)は、0.1mm~7mm、好ましくは0.3~6mm、より好ましくは0.5mm~5mmであってよい。中央粒径は、画像化法によって決定されてよく、特に、規格ISO13322-1(2004-12-01版)及びISO13322-2(2006-11-01版)に引用されている方法によって決定されてよい。担体は、当業者に公知の方法によって、粉末の形態、顆粒状材料の形態又は成形体の形態で製造することができる。これは、例えば、炭化物材料、窒化物材料、ケイ化物材料又はそれらの混合物のモノリスを、例えばジョークラッシャを用いて機械的に粉砕し、得られた粉砕された粒状材料の粒径をふるい分けによって調整することによって行われてよい。
担体モノリスと同様に、粉末、粒状材料又はセラミック材料から構成される成形体の粒子は多孔質であり、すなわち細孔がある。本発明による触媒系は、より具体的には、当該細孔内の液体又は固体フィルム中にも存在する。細孔直径は、好ましくは0.9nm~30μmの範囲、好ましくは10nm~25μmの範囲、より好ましくは70nm~20μmの範囲である。細孔直径は、DIN 66133(1993-06版)に従って窒素吸着又は水銀ポロシメトリーによって決定することができる。
モノリス、粉末、粒状材料又は成形体のいずれであっても、担体は以下に記載するように製造される。
【0032】
さらに、担体のセラミック材料と同じか又は異なるセラミック材料、好ましくは酸化ケイ素で構成されるいわゆるウォッシュコートを、粉末状、顆粒状又はペレット状のセラミック材料で構成されるあらかじめ調製された担体に塗布することができる。ウォッシュコート自体は、多孔質又は非多孔質であってよく、好ましくは非多孔質である。ウォッシュコートの粒径は、好ましくは5nm~3μm、好ましくは7nm~700 nmである。ウォッシュコートは、所望の細孔径を導入するか、もしくは生成させるために、及び/又は担体の表面積を高めるために用いられる。ウォッシュコートは、特に、ウォッシュコートのセラミック材料を、いかなる前駆体の形態でも含有するウォッシュコート溶液中に浸漬すること(ディップコーティング)によって塗布することができる。担体上に存在するウォッシュコートの量は、担体の総量に対して、≦20質量%、好ましくは≦15質量%、より好ましくは≦10質量%である。しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、担体にはウォッシュコートはない。
【0033】
触媒系は、ウォッシュコートを用いて又は用いずに担体に塗布される。このために、まず、少なくとも1種の有機リン含有配位子、少なくとも1種の前駆体、例えば塩化物、酸化物、各々のカルボキシレート、少なくとも1種の安定剤及び少なくとも1種の溶媒を含む溶液を、特に室温及び周囲圧で混合することによって製造する。場合により、触媒系の製造の際にイオン性液体を用いてよいが、触媒溶液は、イオン性液体なしに製造することもできる。触媒溶液は、特に、不活性環境、例えばグローブボックス中で製造されてよい。この場合の「不活性環境」は、できるだけ水及び酸素を含まない雰囲気を意味する。
溶媒は、全ての溶媒クラス(プロトン性、非プロトン性、極性又は非極性)から選択され得る。溶媒の前提条件は、触媒系(配位子、金属前駆体、安定剤及び場合によりイオン性液体)の溶解度であり、好ましくはヒドロホルミル化の際に形成される高沸点物の溶解度でもある。溶解度は、固定化工程の間に加熱することによって高めることができる。
溶媒は、好ましくは非プロトン性及び極性、例えばアセトニトリル及び酢酸エチル、又は非プロトン性及び非極性、例えばTHF及びジエチルエーテルである。用いられる溶媒は、塩素化炭化水素、例えばジクロロメタン、又はアルデヒドであってよい。
【0034】
このようにして製造された触媒溶液は、その後、例えば浸漬(ディップコーティング)によって、又は加圧容器に充填することによって、例えば、少なくとも1つの反応器に直接充填することによって(in-situ含浸)、担体(場合によってはウォッシュコートを含む)と接触させる。触媒溶液を反応器の外側に適用する場合には、担体は、もちろん、溶媒を除去した後に反応器中に再設置しなければならない。好ましくは、触媒溶液は、反応器内で直接ウォッシュコートがある担体に適用される。なぜなら、これにより、潜在的に時間のかかる設置や取り外し工程、並びに触媒の潜在的な汚染を回避することができるからである。
【0035】
反応器は、例えばポンプによって、通常の入口/出口を介して触媒溶液で充填され得る。反応器内の液体分配器又はノズルにより、触媒液体を均一に分配することができ、場合により存在する計量供給速度のための圧力降下内部構造物又はレギュレーターも同様である。
【0036】
触媒系を塗布した後、溶媒を除去する。これは、最初に、反応器出口を介して残留触媒溶液を排出することを含む。次いで、反応器中に残存する溶媒残渣を、圧力を調節するか、又は温度を上昇させることによって蒸発させる。別の実施形態では、圧力を温度の上昇と並行して調整してもよい。温度は、溶媒に応じて20~150℃であってもよい。圧力は、溶媒に応じて高真空(10-3~10-7mbar)に調整されてよいが、溶媒及び温度に応じて数mbar~数barの正圧も考えられる。
【0037】
安定剤及び場合により存在するイオン性液体は、遷移金属、特にコバルト又はロジウム及び有機リン含有配位子で構成される触媒を備える担体上に不均一化された形態で残る。
触媒系は、反応器内で直接(in situ)又は反応器の外部で担体に塗布することができる。触媒系を反応器の外側に適用する場合、担体は常に空気を排除して輸送すべきであり、これは例えば窒素向流で達成することができる。本発明の好ましい実施形態では、触媒系は、反応器中に直接、すなわち、その場で塗布される。溶媒を除去した後、反応器を直ちに使用し、供給混合物を充填することができる。これにより、長時間の原子炉停止をもたらす時間のかかる設置や取り外しの工程が不要という利点がある。さらに、不活性環境である適当な空間が特定のサイズで利用可能であるという点で、支持体のサイズに対する制限はない。担体の大きさは、反応器の設計に応じて自由に選択することができる。
【0038】
触媒系が担体に塗布され、溶媒が除去された後、プラント、より具体的には反応器は、2段階又は多段階の始動手順によって始動させる、すなわち運転することができる。適当な始動手順は、例えば、欧州特許出願第3632887号に記載されている。
形成された生成物アルデヒドの少なくとも一部及び未反応オレフィンの少なくとも一部を含むガス状排出物は、好ましくは、本発明によるヒドロホルミル化が実施される反応帯域から連続的に取り出される。ガス状排出物は、ガス状排出物が未反応オレフィンに富む少なくとも1つの相と生成物アルデヒドに富む少なくとも1つの相とに分離される1つ以上の物理的分離工程に供されてよい。
物理的分離は、凝縮、蒸留、遠心分離、ナノ濾過、又はそれらの2つ以上の組み合わせなどの既知の物理的分離方法によって実施することができ、好ましくは凝縮又は蒸留である。
多段物理的分離の場合、第一の物理的分離で形成された生成物アルデヒド富化相は、第二の物理的分離、特にアルデヒドの下流除去に送ることができ、そこで生成物アルデヒドは、この相に存在する他の物質、一般にアルカン及び反応物オレフィンから分離される。未反応オレフィン富化相は、ヒドロホルミル化工程に、又は多段階構成の場合には、そこに存在するオレフィンを生成物アルデヒドにさらにヒドロホルミル化するために、ヒドロホルミル化工程の1つに再循環させることができる。
物理的分離では、上記の相に加えて、未反応オレフィン富化相と同一又は少なくとも類似の組成であるパージガス流を取り出すこともできる。パージガス流は、同様に、その中に存在する生成物アルデヒドを除去し、不純物(例えば、合成ガス中の窒素)又は不活性物質(例えば、供給混合物中のアルカン)を系から排出するために、第二の物理的分離又はアルデヒド除去に搬送することができる。不純物又は不活性物質は、典型的には、第二の物理的分離において、揮発性物質として、例えばカラムの頂部で除去することができる。
【0039】
さらなる詳細がなくても、当業者は、上記の説明を最大限に利用することができると考えられる。したがって、好ましい実施形態及び実施例は、いかなる形でも決して限定するものではない、単に記述的な開示として解釈されるべきである。
本発明は、実施例を参照して以下により詳細に説明される。本発明の代替実施形態は、同様に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例0040】
担体に用いた出発材料は、SiCペレット(Sicat SarL)であった。SiCペレットを、長さ20cm、直径1インチ(約2.54cm)の円形反応器スリーブに導入し、同様のサイズのガラスビーズを粒状材料の上下に導入した。次いで、SiCペレットに、Rh(acac)(Co)2、bisphephos(配位子)、ビス(2266-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(安定剤)及び溶媒としてペンタナールを含有する溶液を装填した。これは、反応器を窒素で最初にパージした後、わずかに正圧下で触媒溶液を反応器に導入することによって行った。反応器からの排出及び蒸発による溶剤の除去後に、粒状担体材料上で不均一化された触媒系をヒドロホルミル化のために用いた。
実験のために用いられた供給混合物は、ブテン15質量%及びブタン85質量%を有する炭化水素流であった。ヒドロホルミル化のために、供給混合物を合成ガス(合成ガス対供給混合物のモル比=3.5:1)とともに390ml/分のガス体積流量で反応器中を通過させた。ヒドロホルミル化は、120~130℃の温度及び17バールの圧力で実施した。
実験中、反応物の流れを数回の長時間(停止時間)停止し、この停止時間中、120℃に加熱されたままの反応器を17バールの圧力の窒素流でパージした。変換率及び収率を、停止時間の前後に、それぞれ、排出流のガスクロマトグラフィーによって測定した。
表1:実施例1の結果
【0041】
担体に用いた出発材料は、SiCペレット(Sicat SarL)であった。SiCペレットを、長さ20cm、直径1インチ(約2.54cm)の円形反応器スリーブに導入し、同様のサイズのガラスビーズを粒状材料の上下に導入した。次いで、SiCペレットに、Rh(acac)(Co)2、bisphephos(配位子)、ビス(2266-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(安定剤)及び溶媒としてペンタナールを含有する溶液を装填した。これは、反応器を窒素で最初にパージした後、わずかに正圧下で触媒溶液を反応器に導入することによって行った。反応器からの排出及び蒸発による溶剤の除去後に、粒状担体材料上で不均一化された触媒系をヒドロホルミル化のために用いた。
実験のために用いられた供給混合物は、ブテン15質量%及びブタン85質量%を有する炭化水素流であった。ヒドロホルミル化のために、供給混合物を合成ガス(合成ガス対供給混合物のモル比=3.5:1)とともに390ml/分のガス体積流量で反応器中に通過させた。ヒドロホルミル化は、120~130℃の温度及び17バールの圧力で実施した。
実験中、反応器の停止をシミュレートした。この目的のために、反応物の流れを長時間停止し、反応器を周囲温度まで冷却し、23日の停止時間後に再び始動させた。その間、反応器を合成ガス下に維持した。
第一の工程では、炭化水素流の流れを停止し、少なくとも部分的に合成ガスで置換した。反応温度に近い長いパージ段階の後、反応器内の圧力を低下させて、さらなる生成物残渣を除去した。その後、系を室温まで冷却し、最後に合成ガスを注入して反応圧に保ち、系を停止した。
23日の停止時間の後、システムを再び始動させた。始動のために、反応器をまず合成ガスで再びパージし、合成ガスを10バールまで注入し、反応器を反応温度120℃まで加熱した。炭化水素流の計量添加は、(欧州特許出願第3632887号に記載されているように)多段階で行った。停止及び保持の前後に、反応器性能を、転化率、収率及び選択率から、排出流についてのガスクロマトグラフィーによって決定した。
表2:実施例2の結果