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特開2024-87806高度不飽和脂肪酸を含有する飲料用油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087806
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】高度不飽和脂肪酸を含有する飲料用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240624BHJP
   A23C 9/152 20060101ALN20240624BHJP
   A23L 11/65 20210101ALN20240624BHJP
【FI】
A23D9/00 514
A23C9/152
A23L11/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213231
(22)【出願日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2022202408
(32)【優先日】2022-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永渕 詢大
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛俊
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
4B026
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC06
4B001AC15
4B001BC03
4B001EC01
4B020LB18
4B020LC02
4B020LG05
4B020LK01
4B020LK03
4B020LK04
4B020LK05
4B020LQ06
4B026DC01
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG06
4B026DG08
4B026DG14
4B026DG20
4B026DH01
4B026DH02
4B026DK10
4B026DL03
4B026DL08
4B026DX04
(57)【要約】
【課題】
高度不飽和脂肪酸が配合される飲料は、高度不飽和脂肪酸由来の異風味の発生が課題となる。従来技術においてもマスキング効果を有する油脂は見いだされているが、一定量の配合が必要となる。幅広い飲料の用途に対し、少量配合するのみで異風味を抑制できる油脂が求められている。
【解決手段】
特定の組成を有する飲料用油脂組成物を配合することで、該飲料用油脂組成物の配合量が極めて少量の場合であっても、高度不飽和脂肪酸由来の異風味が低減された、飲料を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する油脂組成物であって、以下(A1)及び(B)の要件を満たすことを特徴とする、飲料用油脂組成物。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
【請求項2】
さらに、(C1)及び(D1)の要件を満たすことを特徴とする、請求項1記載の飲料用油脂組成物。
(C1)全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である。ここで「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。
(D1)CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である。ここで「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを示し、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。
【請求項3】
融点が35℃以下である、請求項1又は請求項2記載の飲料用油脂組成物。
【請求項4】
高度不飽和脂肪酸を含有する飲料であって、以下(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物を含有し、以下(A2)、(C2)及び(D2)の要件を満たすことを特徴とする、飲料。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
(A2)中鎖脂肪酸が0.0005重量%以上含有されている。
(C2)飲料に含まれる油分の全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である。ここで「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。
(D2)飲料に含まれる油分における、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である。ここで「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを示し、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。
【請求項5】
高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂の配合量と、以下(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物の配合量の比が、30~99.9:70~0.1であることを特徴とする、請求項4記載の飲料。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
【請求項6】
以下(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物を配合することを特徴とする、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料の異風味を低減する方法。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸は、その生理作用等から摂取が推奨されており、幅広い食品への適用が求められている。同時に、その融点の低さから、手軽に摂取できる飲料への使用ニーズが存在する。しかしながら、高度不飽和脂肪酸の酸化により異風味が発生する場合があり、それに対応する技術が開発されてきた。
【0003】
特許文献1には、「高度不飽和脂肪酸含有油脂を事前に所定の融点を示す油脂と混合して油相とし、これを水相と混合して水中油型乳化組成物たる乳化組成物調製用プレミックスとすることで、これを用いて調製された組成物は、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生が抑制された、風味良好な製品が得られる」旨、記載されている。
特許文献2には、「DHAとEPAの合計量に対して所定量のラウリン酸を含有させることにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制できる」旨、記載されている。
特許文献3には、「高度不飽和脂肪酸を含有する油脂加工食品中に所定量の温水洗浄された油脂を配合させることにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制できる」旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2018/061723号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2019/146207号パンフレット
【特許文献3】特開2022-150976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料において、特定の油脂組成物を配合することにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、課題の解決に向け鋭意検討を行った。特許文献1~3の技術を用いることにより、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料において、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味をある程度は抑えることが可能となった。しかし、特許文献1では、高度不飽和脂肪酸含有油脂を事前に所定の融点を示す油脂と混合し乳化物とする必要がある等、操作が煩雑であった。また特許文献2や3では、配合上或いは製造工程上の制限を受ける場合があった。
【0007】
本発明者らは更に検討を行ったところ、予想に反して、構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸を1重量%以上含有し、かつトリグリセリド組成がランダム化されている油脂組成物を高度不飽和脂肪酸含有飲料に配合することにより、その配合量が僅かであっても、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を十分に低減することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の発明を含有するものである。
(1) 高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する油脂組成物であって、以下(A1)及び(B)の要件を満たすことを特徴とする、飲料用油脂組成物。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
(2) さらに、(C1)及び(D1)の要件を満たすことを特徴とする、(1)の飲料用油脂組成物。
(C1)全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である。ここで「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。
(D1)CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である。ここで「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを示し、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。
(3) 融点が35℃以下である、(1)又は(2)の飲料用油脂組成物。
(4) 高度不飽和脂肪酸を含有する飲料であって、以下(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物を含有し、以下(A2)、(C2)及び(D2)の要件を満たすことを特徴とする、飲料。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
(A2)中鎖脂肪酸が0.0005重量%以上含有されている。
(C2)飲料に含まれる油分の全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である。ここで「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。
(D2)飲料に含まれる油分における、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である。ここで「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを示し、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。
(5) 高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂の配合量と、以下(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物の配合量の比が、30~99.9:70~0.1であることを特徴とする、(4)の飲料。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
(6) 以下(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物を配合することを特徴とする、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料の異風味を低減する方法。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料において、特定の油脂組成物を配合することにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本発明において高度不飽和脂肪酸とは、不飽和結合を2以上有する不飽和脂肪酸のことを言う。代表的には、ALA(アラキドン酸)、DHA(ドコサエキサエン酸)及びEPA(エイコサペンタエン酸)を挙げる事ができ、これらを含む飲料において、異風味を抑制できることが、本発明の特徴である。
なお、本発明における高度不飽和脂肪酸は、グリセリンに1~3のいずれかの個数結合したトリグリセライド(いわゆる油脂)の状態で存在するものである。
高度不飽和脂肪酸は、高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂より供給することができ、具体的には、亜麻仁油、魚油、鯨油、藻類油、微生物発酵由来の油脂を挙げることができる。高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂の組成は、好ましくはALA、DHA、EPAの合計が30.0重量%以上である。
【0012】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、以下(A1)及び(B)の要件を満たすことが必要である。
(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている。
(B)トリグリセリド組成がランダム化されている。
【0013】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている必要がある。中鎖脂肪酸とは、具体的には、炭素数が6~10の脂肪酸である。構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されている場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料用油脂組成物の構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸含有量は、好ましくは、1重量%~99重量%、1.5重量%~99重量%、2重量%~99重量%、2.5重量%~99重量%、3重量%~99重量%、4重量%~99重量%、5~99重量%、1重量%~90重量%、1.5重量%~90重量%、2重量%~90重量%、2.5重量%~90重量%、3重量%~90重量%、4重量%~90重量%、5重量%~90重量%、1重量%~80重量%、1.5重量%~80重量%、2重量%~80重量%、2.5重量%~80重量%、3重量%~80重量%、4重量%~80重量%、5重量%~80重量%、1重量%~70重量%、1.5重量%~70重量%、2重量%~70重量%、2.5重量%~70重量%、3重量%~70重量%、4重量%~70重量%、5重量%~70重量%、1.5重量%~60重量%、2重量%~60重量%、2.5重量%~60重量%、3重量%~60重量%、4重量%~60重量%、5重量%~60重量%、1重量%~50重量%、1.5重量%~50重量%、2重量%~50重量%、2.5重量%~50重量%、3重量%~50重量%、4重量%~50重量%、5重量%~50重量%、1重量%~40重量%、1.5重量%~40重量%、2重量%~40重量%、2.5重量%~40重量%、3重量%~40重量%、4重量%~40重量%、5重量%~40重量%、1重量%~30重量%、1.5重量%~30重量%、2重量%~30重量%、2.5重量%~30重量%、3重量%~30重量%、4重量%~30重量%、5重量%~30重量%である。
【0014】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、(B)トリグリセリド組成がランダム化されている必要がある。ランダム化されたトリグリセリド組成は、化学触媒或いは酵素触媒によりトリグリセリドから脂肪酸を一度切り離したのち再結合する、ランダムエステル交換工程により得られる。
本明細書におけるランダム化とは、エステル交換における反応率で換言すると、必ずしも反応率100%を意味するものではない。後述する化学触媒又はリパーゼによりエステル交換反応がされた油脂組成物は、部分的にランダム化が進んでいることをもって、エステル交換における反応率に関わらず、ランダム化されたトリグリセリド組成を有するものとする。ランダム化の指標であるエステル交換における反応率の一例を挙げれば、25%以上、より好ましくは、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%である。該エステル交換反応率が25%以上である場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
エステル交換における反応率は、従来報告があるように、特定のトリグリセリドの含有量の変化率やSFCの変化率など、任意に定めたパラメーターに基づいて適宜決定することができる。好ましくは、構成脂肪酸の総炭素数を基準とするトリグリセリド含有量であって、構成脂肪酸の総炭素数が特定の範囲であるトリグリセリド含有量の、エステル交換反応前後の変化に基づいて、反応率を算出することである。さらに好ましくは、構成脂肪酸の総炭素数が30~34の範囲であるトリグリセリド含有量の、エステル交換反応前後の変化に基づいて、反応率を算出することである。
前記好ましい反応率の算出方法について具体的に説明する。エステル交換反応前の特定のトリグリセリドの含有量をP%と、完全にランダム化が完遂した場合(平衡に達した場合)の特定のトリグリセリドの含有量をQ%とする。この場合において、エステル交換反応の結果、特定のトリグリセリド含有量がR%であった場合の反応率は、以下の式により算出するものとする。
反応率%=(R-P)/(Q-P)×100
ランダムエステル交換は、化学触媒によるエステル交換でもあっても、リパーゼによるエステル交換であっても、可能である。化学触媒によるエステル交換にあっては、例えばナトリウムメチラートを使用することができる。例えば、油脂原料に対して0.1~0.5重量%添加することにより反応させることができる。一般に、油脂原料に対して0.1%以上のナトリウムメチラートを用い30分以上反応を行った場合には、ランダム化は完遂する。必要であれば、反応後の油脂のトリグリセリド組成の実測値と、計算により算出されるランダム化完遂後のトリグリセリド組成を比較することにより、ランダム化の完遂の是非を判断することができる(報文「植物油のトリアシルグリセリン組成の分析と油脂の配合推定への応用」https://www.jstage.jst.go.JP/article/jos1956/28/10/28_10_680/_pdf/-char/en)。
リパーゼを用いたエステル交換にあっては、ランダムエステル交換活性を示すものであれば、あらゆるリパーゼを使用することができ、一例として、各種微生物由来のリパーゼを、油脂原料に対して1~5重量%添加し、40~70℃、16~48時間反応させることにより、先述の反応率を管理しつつ、行う事ができる。
化学触媒を用いたランダムエステル交換反応後の触媒の失活処理は、公知技術であれば特に限定されない。一例を挙げると、酸性溶液及び温水洗浄により行っても良く、或いは、酸と吸着剤を添加し減圧下で処理(例えば、温度70~130℃、時間5~60分)することにより行っても良い。触媒の失活処理方法として減圧下の処理を選択する場合、後述する精製工程の一つである脱色工程を兼ねることができる。
脱色工程及び脱臭工程からなる精製工程は、公知の方法であれば特に限定されない。
【0015】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、前記(A1)及び(B)の要件を満たすことができれば、種々の油脂類の配合量で調製して使用することができる。使用することができる油脂類としては、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵由来の油脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む原料油脂をエステル交換することにより得られる油脂組成物である。より好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドを2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、5重量%以上含む原料油脂をエステル交換することにより得られる油脂組成物である。
さらに好ましくは、下記油脂成分X、及び油脂成分Yを必須成分として含む原料油脂として使用することが好ましい。
油脂成分Xは、パーム核油及びこれを加工した油脂より選ばれた1種以上の油脂
油脂成分Yは、中鎖脂肪酸トリグリセリド
最も好ましくは、下記油脂成分X、及び油脂成分Yを必須成分として含む原料油脂として使用することが好ましい。
油脂成分Xは、パーム核油又はパーム核分別油を極度硬化した油脂
油脂成分Yは、中鎖脂肪酸トリグリセリド
【0016】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、前記(A1)及び(B)の要件に加え、さらに、(C1)及び(D1)の要件を満たすことが好ましい。
(C1)全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である。ここで「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。
(D1)CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である。ここで「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを示し、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。
【0017】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、前記(A1)及び(B)の要件に加え、(C1)全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上であることが好ましい。
「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料用油脂組成物の、全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量は、より好ましくは、0.05重量%~40重量%、0.06重量%~40重量%、0.08重量%~40重量%、0.1重量%~40重量%、0.2重量%~40重量%、0.05重量%~35重量%、0.06重量%~35重量%、0.08重量%~35重量%、0.1重量%~35重量%、0.2重量%~35重量%、0.05重量%~30重量%、0.06重量%~30重量%、0.08重量%~30重量%、0.1重量%~30重量%、0.2重量%~30重量%である。
【0018】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、前記(A1)及び(B)の要件に加え、前記(C1)の要件と共に、(D1)CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10であることが好ましい。
「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が1~10である場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料用油脂組成物の、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比は、より好ましくは、1.5~10、2~10、2.5~10、3~10、3.2~10、3.5~10、4~10、5~10、1~8、1.5~8、2~8、2.5~8、3~8、3.2~8、3.5~8、4~8、5~8、1~7、1.5~7、2~7、2.5~7、3~7、3.2~7、3.5~7、4~7、5~7である。
【0019】
本発明に係る、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料に配合する飲料用油脂組成物は、前記(A1)及び(B)の要件に加え、融点が35℃以下であることが好ましい。融点が35℃を上回ると、汎用的な飲料としての一般的な物性を得ることができない恐れがあるためである。
本発明に係る飲料用油脂組成物の融点は、より好ましくは、34℃以下、33℃以下、32℃以下、31℃以下、30℃以下である。
【0020】
本発明に係る飲料に含まれる高度不飽和脂肪酸の含有量は、0.025~1.5重量%であることが好ましい。高度不飽和脂肪酸含有量が0.025~1.5重量%である場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料に含まれる高度不飽和脂肪酸含有量は、より好ましくは0.025~1.25重量%、0.025~1重量%、0.05~1.5重量%、0.05~1.25重量%、0.05~1重量%、0.06~1.5重量%、0.06~1.25重量%、0.06~1重量%、0.075~1.5重量%、0.075~1.25重量%、0.075~1重量%である。
【0021】
本発明に係る飲料は、前記(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物を含有し、以下(A2)、(C2)及び(D2)の要件を満たすことが必要である。
(A2)中鎖脂肪酸が0.0005重量%以上含有されている。
(C2)飲料に含まれる油分の全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である。ここで「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。
(D2)飲料に含まれる油分における、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である。ここで「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを示し、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。
【0022】
本発明に係る飲料は、(A2)中鎖脂肪酸が0.0005重量%以上含有されている必要がある。中鎖脂肪酸とは、具体的には、炭素数が6~10の脂肪酸である。中鎖脂肪酸が0.0005重量%以上含有されている場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料に含まれる中鎖脂肪酸は、好ましくは、0.0005重量%~2重量%、0.001重量%~2重量%、0.002重量%~2重量%、0.0005重量%~1.6重量%、0.001重量%~1.6重量%、0.002重量%~1.6重量%、0.0005重量%~1.3重量%、0.001重量%~1.3重量%、0.002重量%~1.3重量%、0.0005重量%~1重量%、0.001重量%~1重量%、0.002重量%~1重量%、0.0005重量%~0.7重量%、0.001重量%~0.7重量%、0.002重量%~0.7重量%、0.0005重量%~0.5重量%、0.001重量%~0.5重量%、0.002重量%~0.5重量%である。
【0023】
本発明に係る飲料は、(C2)飲料に含まれる油分の全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上である必要がある。「CN20~CN30のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が20~30のトリグリセリドを示す。油脂の全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量が0.05重量%以上含有されている場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料に含まれる油分の全トリグリセリドに占める、CN20~CN30のトリグリセリド含有量は、好ましくは、0.05重量%~40重量%、0.06重量%~40重量%、0.08重量%~40重量%、0.1重量%~40重量%、0.05重量%~35重量%、0.06重量%~35重量%、0.08重量%~35重量%、0.1重量%~35重量%、0.05重量%~30重量%、0.06重量%~30重量%、0.08重量%~30重量%、0.1重量%~30重量%、0.05重量%~20重量%、0.06重量%~20重量%、0.08重量%~20重量%、0.1重量%~20重量%、0.05重量%~10重量%、0.06重量%~10重量%、0.08重量%~10重量%、0.1重量%~10重量%である。
【0024】
本発明に係る飲料は、(D2)飲料に含まれる油分における、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比が、1~10である必要がある。「CN24~CN28のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が24~28のトリグリセリドを、「CN30~CN34のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~34のトリグリセリドを示す。飲料に含まれる油分における、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比1~10である場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料の、飲料に含まれる油分における、CN24~CN28のトリグリセリド含有量に対する、CN30~CN34のトリグリセリド含有量の比は、好ましくは、1.5~10、2~10、2.5~10、3~10、3.2~10、3.5~10、4~10、5~10、1~8、1.5~8、2~8、2.5~8、3~8、3.2~8、3.5~8、4~8、5~8、1~7、1.5~7、2~7、2.5~7、3~7、3.2~7、3.5~7、4~7、5~7である。
【0025】
本発明に係る飲料に含まれる、高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂の配合量と、前記(A1)及び(B)の要件を満たす飲料用油脂組成物の配合量の比は、30~99.9:70~0.1であることが好ましい。当該配合量の比が30~99.9:70~0.1である場合、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味を低減する効果を十分に得ることができる。
本発明に係る飲料に含まれる、高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂の配合量と、前記(A1)及び(B)の要件を満たす飲料用油脂組成物の配合量の比は、より好ましくは、35~99.9:65~0.1、40~99.9:60~0.1、45~99.9:55~0.1、50~99.9:50~0.1、55~99.9:45~0.1、60~99.9:40~0.1、65~99.9:35~0.1、70~99.9:30~0.1、75~99.9:25~0.1、80~99.9:20~0.1、85~99.9:15~0.1、90~99.9:10~0.1、95~99.9:5~0.1である。
【0026】
本発明はまた、前記(A1)及び(B)の要件を満たす油脂組成物を配合することを特徴とする、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料の異風味を低減する方法と捉えることもできる。具体的には、(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されており、かつ(B)トリグリセリド組成がランダム化されている飲料用油脂組成物を、高度不飽和脂肪酸を含有する飲料へ配合することにより、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制することができる。
この場合、飲料用油脂組成物の要件として、前記(C1)及び(D1)も併せて満たすことが好ましい。
【0027】
本発明に係る飲料に使用される原材料及び添加物は、特に限定されるものではなく、例えば、水、油脂分、乳化剤、pH調整剤、乳原料、糖類、酸化防止剤、増粘多糖類、塩類、香料成分、着色料、酸味料、保存料、栄養強化剤等の一般的に使用される原材料及び添加物を、本発明の効果を妨げない範囲で適宜配合することができる。
本発明に係る飲料の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。一例として、水を60~70℃に加熱しながら添加物を加えて攪拌し、溶解あるいは分散させた水相を調整後、あらかじめ調合した油相を添加し、予備乳化を行い、予備乳化後、ホモゲナイザーにて均質化し、バッチ式殺菌法、または間接加熱方式あるいは直接加熱方式によるUHT滅菌処理法にて滅菌し、再びホモゲナイザーにて均質化し冷却する方法を挙げることができる。
【0028】
本発明に係る飲料用油脂組成物が高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生を抑制することから、本発明の効果を発揮する一の態様として、当該飲料用油脂組成物と高度不飽和脂肪酸をあらかじめ混合した油脂組成物を調製すること、及びそれを本発明に係る飲料に用いることが考えられる。
【実施例0029】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中%及び部、比はいずれも重量基準を意味する。
【0030】
(脂肪酸組成の測定方法)
油脂の構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2.4.2.1-2013により測定した。
(トリグリセリド組成の測定方法)
油脂のトリグリセリド組成の測定は、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.4.6 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)に準じて実施した。
(融点)
油脂の融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996により測定した。
【0031】
(油脂A)
構成脂肪酸中のオレイン酸含量が86.0重量%の高オレイン酸ヒマワリ油30.0重量部とステアリン酸70.0重量部を混合した後、1、3位選択性のあるリパーゼを用いてエステル交換を行い、反応油を得た。この反応油より脂肪酸を蒸留により留去し、アセトンを用いて溶剤分別を行い、分別中融点部である油脂A(ヨウ素価:33.0、飽和脂肪酸含量64.2重量%)を得た。
【0032】
(飲料用油脂組成物実施例1の製造)
コーン油82重量部、油脂A13重量部、及び中鎖脂肪酸トリグリセリド5重量部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダム化が完遂するまでランダムエステル交換反応を行った。その後、酸性溶液及び温水洗浄により触媒の失活処理を行った後、常法通り脱色、脱臭を行い、精製油として飲料用油脂組成物実施例1を得た。
【0033】
(飲料用油脂組成物実施例2の製造)
ランダムエステル交換の配合油として、コーン油95重量部、中鎖脂肪酸トリグリセリド5重量部からなる配合油を用いる以外は、飲料用油脂組成物実施例1の製造と同様にして、飲料用油脂組成物実施例2を得た。
【0034】
(飲料用油脂組成物実施例3の製造)
ランダムエステル交換の配合油として、パーム核ステアリン極度硬化油80重量部、中鎖脂肪酸トリグリセリド20重量部からなる配合油を用いる以外は、飲料用油脂組成物実施例1の製造と同様にして、飲料用油脂組成物実施例3を得た。
【0035】
(飲料用油脂組成物実施例4の製造)
パーム核ステアリン極度硬化油80重量部、中鎖脂肪酸トリグリセリド20重量部を混合し、ランダムエステル交換に用いられるリパーゼ(名糖産業株式会社製リパーゼQLM)を0.1重量部添加し、攪拌しながら60℃で1時間、リパーゼによる反応を行った。反応後、リパーゼをろ別し、ろ液を常法通り脱色、脱臭を行い、精製油として飲料用油脂組成物実施例4を得た。
【0036】
(飲料用油脂組成物実施例5の製造)
リパーゼによる反応時間を20時間とする以外は、飲料用油脂組成物実施例4の製造と同様にして、飲料用油脂組成物実施例5を得た。
【0037】
その他、精製菜種油(飲料用油脂組成物比較例1)、精製パーム油(同比較例2)、精製シアオレイン(同比較例3)、精製ヤシ油(同比較例4)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(同比較例5)を用いた。いずれも不二製油株式会社製である。
【0038】
(飲料用油脂組成物比較例6の製造)
パーム核ステアリン極度硬化油80重量部、中鎖脂肪酸トリグリセリド20重量部を混合し、飲料用油脂組成物比較例6を得た。これは、飲料用油脂組成物実施例3~5のエステル交換反応前の油脂組成物に該当する。
【0039】
以上の飲料用油脂組成物実施例1~5、同比較例1~6の分析値を表1-1及び表1-2に示す。
【0040】
(表1―1)飲料用油脂組成物実施例の分析値
【0041】
(表1―2)飲料用油脂組成物比較例の分析値
【0042】
パーム核ステアリン極度硬化油80重量部、中鎖脂肪酸トリグリセリド20重量部を混合し、ナトリウムメチラートによりエステル交換反応を行った場合(飲料用油脂組成物実施例3)、リパーゼによりエステル交換反応を行った場合(同実施例4、同実施例5)、又はエステル交換反応を行わなかった場合(同比較例6)について、エステル交換反応前後のCN30~34のトリグリセリドの含有量に基づき、エステル交換反応の反応率を算出した。
ここで、エステル交換反応前のCN30~34のトリグリセリドの含有量(P)は、飲料用油脂組成物比較例6より9.4%とする。同様に、完全にランダム化が完遂した場合(平衡に達した場合)のCN30~34のトリグリセリドの含有量(Q)は、飲料用油脂組成物実施例3より36.2%とする。従い、各飲料用油脂組成物のCN30~34のトリグリセリドの含有量がR%であった場合、反応率の算出は以下の通りである。
反応率%=(R-P)/(Q-P)×100=(R-9.4)/(36.2-9.4)×100
この式のRに各飲料用油脂組成物のCN30~34のトリグリセリドの含有量を代入することにより、各飲料用油脂組成物のエステル交換の反応率は以下表1-3の通り算出できる。
【0043】
(表1-3)各飲料用油脂組成物のエステル交換の反応率
【0044】
魚油として、タマ生化学社製精製魚油「DHA-27」(ALA+DHA+EPA=35.1重量%)を用いた。各種飲料の試作においては、「DHA-27」を精製菜種油(不二製油株式会社製)により混合希釈し、ALA+DHA+EPA=30.0重量%に調整したものを「オメガ3含有油脂」として用いた。すなわち、「DHA-27」:精製菜種油=85.5:14.5で混合したものが「オメガ3含有油脂」に相当する。
【0045】
(検討1)酸性飲料検討
以下酸性飲料の試作手順に従い、酸性飲料実施例1~6、同比較例1~8を試作した。配合については、以下の酸性飲料の配合表に示す。尚、いずれの酸性飲料も、酸性飲料中の高度不飽和脂肪酸含有量は0.195重量%となる。
【0046】
(酸性飲料の試作手順)
1.表2の配合に従い、水相及び油相に分類された原材料をそれぞれ混合し、水相及び油相を調製した。
2.撹拌している水相へ油相及び香料を投入し、混合した。
3.2の混合物を、pH4に調整した後、高圧ホモゲナイザー(150kg/cm)で均質化した。
4.5℃に冷却した。
【0047】
(表2)酸性飲料の配合表
・抑泡剤には太陽化学株式会社製の「アワブレーク」を使用した。
・乳化剤には阪本薬品工業株式会社製の「SYグリスターMSW-7S」を使用した。
・ペクチンには三昌株式会社製の「GENUペクチンYM-115-LJ」を使用した。
・ヨーグルトフレーバーには小川香料株式会社製の「ヨーグルトフレーバー」を使用した。
【0048】
風味評価は訓練されたパネラー6人の官能評価にて、以下の基準で行い、その合議によって決めた点数を最終評価とした。4点以上を合格とした。
【0049】
(風味評価の基準)
5点 異風味は感じられない。非常に良好。
4点 わずかに異風味を感じる。良好。
3点 やや弱いが異風味を感じる。やや不適
2点 異風味が感じられる。不適。
1点 強い異風味が感じられる。非常に不適。
【0050】
(表3―1)検討1評価結果(実施例)
【0051】
(表3―2)検討1評価結果(比較例)
【0052】
(検討1評価結果の考察)
高度不飽和脂肪酸含有量が0.195重量%である酸性飲料において、(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されており、かつ(B)トリグリセリド組成がランダム化されている、飲料油脂組成物を配合した試験区(酸性飲料実施例1~6)は、いずれも良好な風味評価であった。特に、酸性飲料実施例3~6については、前記規定を満たす飲料用油脂組成物3の配合量を減らした場合であっても、十分に良好な風味を得られることを確認できた。異風味を抑える飲料における、高度不飽和脂肪酸を主成分とする油脂と、前記(A1)及び(B)の要件を満たす飲料用油脂組成物の配合比は、46.1~97.7:53.9~2.3であった。
一方で、酸性飲料比較例の試験区では、いずれの風味評価も不良であった。特に、酸性飲料比較例5~8の結果より、前記規定を満たさない飲料用油脂組成物5の配合量を増加させた場合であっても、配合量に応じて異風味を抑える一定の効果がみられるものの、十分といえるものではなかった。
【0053】
(検討2)乳飲料
以下乳飲料の試作手順に従い、乳飲料実施例1~3、同比較例1~3を試作した。配合については、以下の乳飲料の配合表に示す。尚、いずれの乳飲料も、乳飲料中の高度不飽和脂肪酸含有量は0.089重量%となる。
試作した乳飲料は、前記風味評価の基準に従い評価した。
【0054】
(乳飲料の試作手順)
1.表4の配合に従い、水相及び油相に分類された原材料をそれぞれ混合し、水相及び油相を調製した。
2.撹拌している水相へ油相を投入し、混合した。
3.2の混合物を、高圧ホモゲナイザー(150kg/cm)で均質化した。
4.5℃に冷却した。
【0055】
(表4)乳飲料の配合表
・乳化剤には阪本薬品工業株式会社製の「SYグリスターMM-750」を使用した。
【0056】
(表5)乳飲料の評価結果
【0057】
(検討2評価結果の考察)
高度不飽和脂肪酸含有量が0.089重量%である乳飲料において、(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されており、かつ(B)トリグリセリド組成が反応率100%でランダム化されている、飲料油脂組成物を配合した試験区(乳飲料実施例1)は、良好な風味評価であり、酸性飲料の場合と同様の結果であった。
また、乳飲料実施例1~3及び同比較例3により、ランダム化が進んでいない飲料用油脂組成物比較例6を用いた乳飲料比較例3は風味が不良であるのに対し、反応率がそれぞれ100%、28%、89%である、飲料用油脂組成物実施例3、同実施例4、同実施例5を用いた、乳飲料実施例1、同実施例2、同実施例3は、風味が良好であった。また反応率に応じて風味が良好となる傾向が確認され、トリグリセリドのランダム化が風味向上に寄与することが示された。
【0058】
(検討3)豆乳飲料
以下豆乳飲料の試作手順に従い、豆乳飲料実施例1、同比較例1~2を試作した。配合については、以下の豆乳飲料の配合表に示す。尚、いずれの豆乳飲料も、豆乳飲料中の高度不飽和脂肪酸含有量は0.747重量%となる。
試作した豆乳飲料は、前記風味評価の基準に従い評価した。
【0059】
(豆乳飲料の試作手順)
1.表6の配合に従い、水相、油相及び添加剤配合に分類された原材料をそれぞれ混合し、水相、油相及び添加剤配合を調製した。
2.撹拌している水相へ油相及び添加剤配合を投入し、混合した。
3.2の混合物を、ホモミキサーにて高速撹拌し均質化した。
4.5℃に冷却した。
【0060】
(表6)豆乳飲料の配合表
・乳化剤には三菱ケミカル株式会社製の「ショ糖ステアリン酸エステルS-570」を使用した。
・増粘剤1には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンエース」を使用した。
・増粘剤2には太陽化学株式会社製の「ネオソフトG」を使用した。
・ゲル化剤には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ケルコゲル」を使用した。
【0061】
(表7)豆乳飲料の評価結果
【0062】
(検討3評価結果の考察)
高度不飽和脂肪酸含有量が0.747重量%である豆乳飲料において、(A1)構成脂肪酸組成中に中鎖脂肪酸が1重量%以上含有されており、かつ(B)トリグリセリド組成がランダム化されている、飲料油脂組成物を配合した試験区(豆乳飲料実施例1)は、良好な風味評価であり、酸性飲料、乳飲料の場合と同様の結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により、高度不飽和脂肪酸を含む飲料に、特定の組成を有する飲料用油脂組成物を配合することで、該飲料用油脂組成物の配合量が少量の場合であっても、高度不飽和脂肪酸由来の異風味が低減された、飲料を得ることができる。