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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008782
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/20 20060101AFI20240112BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B60C9/20 J
B60C9/00 L
B60C9/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178444
(22)【出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2022109348
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 了太
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA33
3D131AA34
3D131AA36
3D131AA39
3D131AA44
3D131AA45
3D131AA48
3D131BA02
3D131BA07
3D131BA08
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC13
3D131BC25
3D131BC31
3D131BC35
3D131BC36
3D131BC51
3D131DA33
3D131DA34
3D131DA43
3D131DA44
3D131LA28
(57)【要約】
【課題】転がり抵抗の低減を図りつつ、ベルト端部における耐久性に優れる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤセンター部における前記第1ベルト層の厚み及び前記第2ベルト層の厚みが、いずれも1.00mm以下であり、前記タイヤセンター部における前記第2ベルト層のコードと前記第1ベルト層のコードとの最短距離をaとし、前記第2ベルト層の最も端部にあるコードと前記第1ベルト層のコードとの最短距離をbとしたとき、b/aが1.8以上4.0以下であり、前記ベルトの端部において、前記第1ベルト層のタイヤ径方向内側、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間、並びに前記第2ベルト層のタイヤ径方向外側に、所定の態様で端部ゴムが配置される、ことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、第1ベルト層と、該第1ベルト層のタイヤ径方向外側に積層された第2ベルト層とを含むベルトを備える空気入りタイヤであって、
前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層は、複数本のコードがコーティングゴムに埋設されてなり、
タイヤセンター部における前記第1ベルト層の厚み及び前記第2ベルト層の厚みが、いずれも1.00mm以下であり、
前記タイヤセンター部における前記第2ベルト層のコードと前記第1ベルト層のコードとの最短距離をaとし、前記第2ベルト層の最も端部にあるコードと前記第1ベルト層のコードとの最短距離をbとしたとき、b/aが1.8以上4.0以下であり、
前記ベルトの端部において、前記第1ベルト層のタイヤ径方向内側、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間、並びに前記第2ベルト層のタイヤ径方向外側に、端部ゴムが配置され、
前記第1ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する端部ゴムをゴム部A、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間に位置する端部ゴムをゴム部B、前記第2ベルト層のタイヤ径方向外側に位置する端部ゴムをゴム部Cとしたときに、ゴム部Bが、前記センター部に向かう方向の長さが最も長く、且つ、前記タイヤセンター部に最も近接している、ことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム部A、ゴム部B及びゴム部Cのタイヤセンター部に向かう方向の長さをそれぞれL、L及びLしたとき、L/Lが0.5以下であり、且つ、L/Lが0.5以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤセンター部における、前記第1ベルト層の界面-コード間の距離及び前記第2ベルト層の界面-コード間の距離が、いずれも0.14mm以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層におけるコードが、N本のフィラメントを撚り合わせてなる1×N構造(Nは2~6から選択される整数である)である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記コードの打ち込み密度が、60本/dm以上95本/dm以下である、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記コードの径が、0.5mm以上1.0mm以下である、請求項4又は5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層におけるコードが、モノフィラメントであって、互いに撚り合わされずに並列に引き揃えられている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記コードの打ち込み密度が、180本/dm以上240本/dm以下である、請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記コードの径が、0.24mm以上0.28mm以下である、請求項7又は8に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層におけるコードを構成するフィラメントが、ISO 17832:2009に規定されるUTグレードに分類される、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記第1ベルト層と前記第2ベルト層とを積層する工程を含む、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法であって、
前記積層する工程に先立ち、前記第1ベルト層の端部を第1ゴムシートで包んでおくとともに、前記第2ベルト層の端部を第2ゴムシートで包んでおき、その際、前記第1ゴムシート及び前記第2ゴムシートの両方について、前記積層したときに他方のベルト層に対向する側に位置するゴムシート部分の長さが、その反対側に位置するゴムシート部分の長さよりも長くなるように、ずらして各ベルト層の端部を包む、ことを特徴とする、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記第1ベルト層と前記第2ベルト層とを積層したときに、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間に位置する前記第1ゴムシートの終端と前記第2ゴムシートの終端とが重ならない、請求項11に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、空気入りタイヤの補強部材として一般に用いられているベルトは、主としてタイヤの赤道面に対し傾斜配列されたスチールコードのゴム引き層からなるベルト層を2枚以上用い、これらベルト層中のスチールコードが互いに交差するようにして構成されている。
【0003】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤの転がり抵抗を低減する要求は益々高まってきている。タイヤの低転がり抵抗化の手段の一つとして、タイヤ部材の軽量化、特に、ベルト層の軽量化が挙げられる。例えば、特許文献1では、モノフィラメントの束コードを用いることでベルトの軽量化を実現し、更に、第2ベルト層の端部における第1ベルト層と第2ベルト層とのモノフィラメントコード間のゴム層の間隔を、タイヤセンター部における第1ベルト層と第2ベルト層とのモノフィラメントコード間のゴム層の間隔よりも広げることで、ベルトエッヂセパレーション(ベルト端部の剥がれ)を抑制し、軽量性及び耐久性の両立を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、依然として、タイヤの耐久性、特にベルト端部の耐久性を高めることの要求があり、高い耐久性と低転がり抵抗化とが、より一層高いレベルで発揮されるタイヤが求められる。
【0006】
また、上述したような2枚以上のベルト層を有する構成においては、タイヤ製造の際にベルト端部に隙間(エア溜まり)が形成されるのを防ぐことも重要である。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、転がり抵抗の低減を図りつつ、ベルト端部における耐久性に優れる空気入りタイヤを提供することを課題とする。
また、本発明は、ベルト端部における隙間の形成を抑制しつつ、上述した空気入りタイヤを製造することが可能な、空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
[1]トレッド部に、第1ベルト層と、該第1ベルト層のタイヤ径方向外側に積層された第2ベルト層とを含むベルトを備える空気入りタイヤであって、
前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層は、複数本のコードがコーティングゴムに埋設されてなり、
タイヤセンター部における前記第1ベルト層の厚み及び前記第2ベルト層の厚みが、いずれも1.00mm以下であり、
前記タイヤセンター部における前記第2ベルト層のコードと前記第1ベルト層のコードとの最短距離をaとし、前記第2ベルト層の最も端部にあるコードと前記第1ベルト層のコードとの最短距離をbとしたとき、b/aが1.8以上4.0以下であり、
前記ベルトの端部において、前記第1ベルト層のタイヤ径方向内側、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間、並びに前記第2ベルト層のタイヤ径方向外側に、端部ゴムが配置され、
前記第1ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する端部ゴムをゴム部A、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間に位置する端部ゴムをゴム部B、前記第2ベルト層のタイヤ径方向外側に位置する端部ゴムをゴム部Cとしたときに、ゴム部Bが、前記センター部に向かう方向の長さが最も長く、且つ、前記タイヤセンター部に最も近接している、ことを特徴とする、空気入りタイヤ。
かかる本発明の空気入りタイヤは、転がり抵抗の低減を図りつつ、ベルト端部における耐久性に優れる。
【0010】
[2]前記ゴム部A、ゴム部B及びゴム部Cのタイヤセンター部に向かう方向の長さをそれぞれL、L及びLしたとき、L/Lが0.5以下であり、且つ、L/Lが0.5以下である、[1]に記載の空気入りタイヤ。
この場合、ベルト端部における隙間の形成が一層抑制される。
【0011】
[3]タイヤセンター部における、前記第1ベルト層の界面-コード間の距離及び前記第2ベルト層の界面-コード間の距離が、いずれも0.14mm以下である、[1]又は[2]に記載の空気入りタイヤ。
この場合、タイヤの低転がり抵抗性をより十分に向上させることができる。
この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
【0012】
[4]前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層におけるコードが、N本のフィラメントを撚り合わせてなる1×N構造(Nは2~6から選択される整数である)である、[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
【0013】
[5]前記コードの打ち込み密度が、60本/dm以上95本/dm以下である、[4]に記載の空気入りタイヤ。
この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
【0014】
[6]前記コードの径が、0.5mm以上1.0mmである、[4]又は[5]に記載の空気入りタイヤ。
この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
【0015】
[7]前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層におけるコードが、モノフィラメントであって、互いに撚り合わされずに並列に引き揃えられている、[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
【0016】
[8]前記コードの打ち込み密度が、180本/dm以上240本/dm以下である、[7]に記載の空気入りタイヤ。
この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
【0017】
[9]前記コードの径が、0.24mm以上0.28mmである、[7]又は[8]に記載の空気入りタイヤ。
【0018】
[10]前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層におけるコードを構成するフィラメントが、ISO 17832:2009に規定されるUTグレードに分類される、[1]~[9]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0019】
[11]前記第1ベルト層と前記第2ベルト層とを積層する工程を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法であって、
前記積層する工程に先立ち、前記第1ベルト層の端部を第1ゴムシートで包んでおくとともに、前記第2ベルト層の端部を第2ゴムシートで包んでおき、その際、前記第1ゴムシート及び前記第2ゴムシートの両方について、前記積層したときに他方のベルト層に対向する側に位置するゴムシート部分の長さが、その反対側に位置するゴムシート部分の長さよりも長くなるように、ずらして各ベルト層の端部を包む、ことを特徴とする、空気入りタイヤの製造方法。
かかる本発明の空気入りタイヤの製造方法によれば、ベルト端部における隙間の形成を抑制しつつ、上述した空気入りタイヤを製造することが可能である。
【0020】
[12]前記第1ベルト層と前記第2ベルト層とを積層したときに、前記第1ベルト層及び前記第2ベルト層の間に位置する前記第1ゴムシートの終端と前記第2ゴムシートの終端とが重ならない、[11]に記載の空気入りタイヤの製造方法。
この場合、ベルト端部における隙間の形成を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、転がり抵抗の低減を図りつつ、ベルト端部における耐久性に優れる空気入りタイヤを提供することができる。
また、本発明によれば、ベルト端部における隙間の形成を抑制しつつ、上述した空気入りタイヤを製造することが可能な、空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの概略片側断面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤにおける、ベルトの端部の概略断面図である。
図2B】本発明の別の実施形態に係る空気入りタイヤにおける、ベルトの端部の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤにおける、ベルトのタイヤセンター部及び端部の概略断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤにおける、ベルトのタイヤセンター部の概略断面図である。
図5A】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法の一部を示す概略図である。
図5B図5Aの製造方法に従って得られた空気入りタイヤにおける、ベルトの端部の概略断面図である。
図6A】比較の空気入りタイヤの製造方法の一部を示す概略図である。
図6B図6Aの製造方法に従って得られた空気入りタイヤにおける、ベルトの端部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(空気入りタイヤ)
以下に、本発明の空気入りタイヤを、図面を用いて、詳細に例示説明する。
図1は、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある)に係る空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」と称することがある)の概略片側断面図である。図1のタイヤ20においては、トレッド部1、サイドウォール部2及びビード部3が、一方のビード部3から他方のビード部3にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカス層からなるカーカス4により補強されている。また、トレッド部1は、カーカス4のクラウン領域のタイヤ径方向外側に配設した少なくとも2層のベルト層(図1では、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の2層)を含むベルト7により補強されている。なお、タイヤ20において、カーカス4のカーカス層は、複数枚としてもよい。
【0024】
タイヤ20は、カーカス4のクラウン領域のタイヤ半径方向外側に第1ベルト層5が配置され、第1ベルト層5のタイヤ径方向外側に第2ベルト層6が配置されている。通常、図1に示すように、第2ベルト層6のベルト幅(タイヤ幅方向の長さ)は、第1ベルト層5のそれよりも小さい。これら第1ベルト層5及び第2ベルト層6は、順次積層されて、ベルト7を構成している。なお、図示例においては、ベルト7は2層のベルト層5,6からなるが、ベルト7は、3層以上のベルト層からなるものであってもよい。
【0025】
そして、本実施形態のタイヤ20においては、タイヤセンター部における第1ベルト層5の厚み及び第2ベルト層6の厚みが、1.00mm以下である。このように、各ベルト層のタイヤセンター部における厚みを1.00mm以下とすることで、軽量化を図るとともに、転がり抵抗を低減させることができる。同様の観点から、タイヤセンター部における第1ベルト層5の厚みは、0.90mm以下であることが好ましい。また、タイヤセンター部における第2ベルト層6の厚みは、0.90mm以下であることが好ましい。かかる厚みを達成するためには、第1ベルト層及び第2ベルト層に埋設されたコード5A、6Aの径や、コーティングゴム5B、6Bの被覆厚みなどを適切に選択することができる。
なお、タイヤセンター部とは、タイヤ幅方向において、タイヤ赤道面からタイヤ接地幅の1/4の距離以内にある部分を指すものとする。
【0026】
図2Aに、本実施形態のタイヤ20におけるベルト7の端部(タイヤ幅方向の端部。以下同じ。)の概略断面図を示す。図示するように、第1ベルト層5及び第2ベルト層6は、複数本のコード(5A、6A)がコーティングゴム(5B、6B)に埋設されてなる。より一般に、これらベルト層5,6は、並列に引き揃えられたスチールコード(コード5A、6A)がコーティングゴム(5B、6B)で被覆されたゴム-スチールコード複合体からなる。
【0027】
図示するように、本実施形態のタイヤ20のベルト7の端部には、端部ゴム8が配置されており、より具体的に、少なくとも、第1ベルト層5のタイヤ径方向内側、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間、並びに第2ベルト層6のタイヤ径方向外側に、ゴム(端部ゴム)8が配置されている。このような態様でベルト7の端部に端部ゴム8を配置することで、ベルト端部における耐久性を向上させることができる。なお、第1ベルト層5のタイヤ径方向内側のゴムは、タイヤ半径方向更に内側に配置される部材(例えば、カーカス4)との関係で耐久性を向上させることができ、第2ベルト層6のタイヤ径方向外側のゴムは、タイヤ半径方向更に外側に配置され得る部材(例えば、ベルト補強層)との関係で耐久性を向上させることができる。
【0028】
更に、本実施形態のタイヤ20においては、図示するように、第1ベルト層5のタイヤ径方向内側に位置する端部ゴムをゴム部A(8A)、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間に位置する端部ゴムをゴム部B(8B)、第2ベルト層6のタイヤ径方向外側に位置する端部ゴムをゴム部C(8C)としたときに、タイヤセンター部に向かう方向の長さ(「タイヤ幅方向の長さ」と概ね同義である)が最も長いのが、ゴムB(8B)である。換言すると、本実施形態のタイヤ20においては、ゴム部A(8A)、ゴム部B(8B)、及びゴム部C(8C)のタイヤセンター部に向かう方向の長さをそれぞれL、L及びL図2A参照)としたとき、L/Lが1.0未満であり、L/Lが1.0未満である。加えて、本実施形態のタイヤ20においては、図示するように、ゴム部A(8A)、ゴム部B(8B)、及びゴム部C(8C)の中ではゴム部B(8B)が、タイヤセンター部に最も近接している。
【0029】
なお、上述した端部ゴム8の態様は、典型的には、後述する本発明の空気入りタイヤの製造方法に従ってタイヤを製造することにより達成できるものである。本発明の空気入りタイヤの製造方法では、後述の通り、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間、並びに第2ベルト層6及び第2ベルト層6の外側に配置され得る層(例えば、ベルト補強層)の間に隙間が形成され難いところ、この点も、ベルト端部における耐久性の向上に寄与することができる。
【0030】
本実施形態のタイヤ20においては、L/Lが0.5以下であり、且つ、L/Lが0.5以下であることが好ましい。この場合、ベルト端部における隙間の形成が一層抑制される。同様の観点から、L/Lは0.4以下であることがより好ましく、また、L/Lは0.4以下であることがより好ましい。
【0031】
なお、図2A(及び図1図3)のタイヤでは、ゴム部A、ゴム部B及びゴム部Cが端部ゴム8として一体化してベルト7の端部に配置されているが、かかる一体化は必須ではない。例えば、本発明のタイヤにおいては、第1ベルト層5のタイヤ径方向内側のゴム(ゴム部A)、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間のゴム(ゴム部B)、並びに第2ベルト層6のタイヤ径方向外側のゴム(ゴム部C)が、それぞれ分離して配置されていてもよい。また、本発明のタイヤにおいては、図2Bに示すように、第1ベルト層5の端部を包む端部ゴム8(ゴムシート)と第2ベルト層6の端部を包む端部ゴム8(ゴムシート)とが、(完全には一体化せずに)接触している態様であってもよい。
但し、ベルト端部の耐久性をより向上させる観点からは、ゴム部A、ゴム部B及びゴム部Cが端部ゴム8として一体化していることが好ましい。
【0032】
図3は、本実施形態のタイヤ20における、ベルト7のタイヤセンター部及び端部の概略断面図である。なお、図3のベルト7の端部は、図2Aに示したものに対応する。本実施形態のタイヤ20においては、図示するように、タイヤセンター部における第2ベルト層6のコード6Aと、第1ベルト層5のコード5Aとの最短距離をaとし、第2ベルト層6の最も端部にあるコード6Aと第1ベルト層5のコード5Aとの最短距離をbとしたとき、b/aが1.8以上4.0以下である。このように、ベルト端部において、第1ベルト層5及び第2ベルト層6のそれぞれのコード同士の間隔を広げることで、ベルトエッヂセパレーションの原因となる歪を抑制することができる。そして、本実施形態のタイヤ20では、b/aを1.8以上とすることで、ベルト端部における耐久性、特にはベルトエッヂセパレーション耐久性を向上させることができる。また、b/aを4.0以下とすることで、タイヤに所望される十分な低転がり抵抗を確保することができる。同様の観点から、b/aは、1.95以上であることが好ましく、2.00以上であることが好ましく、また、3.90以下であることが好ましい。
なお、「第2ベルト層の最も端部にあるコードと第1ベルト層のコードとの最短距離b」は、実質的には、第2ベルト層の最も端部にあるコードと、第1ベルト層中で引き揃えられた複数本のコードの接線(図3における点線)との最短距離を表すものとする。
【0033】
図4は、本実施形態のタイヤ20における、ベルト7のセンター部の概略断面図であり、図3において破線にて囲んだ部分である。本実施形態のタイヤ20においては、タイヤセンター部における第1ベルト層5の界面-コード5Aの距離(即ち、上面からコード5Aまでの距離c1及び下面からコード5Aまでの距離c2)が、いずれも0.14mm以下であり、タイヤセンター部における第2ベルト層6の界面-コード6Aの距離(即ち、上面からコード6Aまでの距離c3及び下面からコード6Aまでの距離c4)が、いずれも0.14mm以下であることが好ましい。このような態様とすることで、タイヤ20の低転がり抵抗性をより十分に向上させることができる。同様の観点から、タイヤセンター部における、第1ベルト層5の界面-コード間5Aの距離及び第2ベルト層6の界面-コード6A間の距離は、0.13mm以下であることがより好ましく、0.12mm以下であることが更に好ましい。
なお、図3及び図4からも分かる通り、図3に示す距離aは、図4に示す距離(c4+c1)である。
【0034】
本発明のタイヤは、ベルト7まわりが上述の通りの態様であれば、それ以外の具体的なタイヤ構造、材質については、特に制限されない。
例えば、第1ベルト層5及び第2ベルト層6は、コーティングゴムに埋設された複数本のコードが、タイヤ周方向に対し、例えば15~40°の角度で傾斜するように配置することができる。
また、カーカス4には、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70~90°の角度で延びる有機繊維コードを用いることができる。
また、本発明のタイヤは、ベルト7のタイヤ径方向外側に、ベルト補強層(キャップレイヤーとも称される)を備えてもよい。
また、図示するタイヤ20では、一対のビード部3にそれぞれビードコア10が埋設され、カーカス4はこのビードコア10の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止された構造であるが、ビードコア10に巻き付けて係止した構造としてもよく(図示せず)、また、両側からビードワイヤで挟み込んで係止した構造としてもよい(図示せず)。
また、本発明のタイヤにおいては、トレッド部1の表面にトレッドパターンが形成されていてもよい。
また、本発明のタイヤにおいては、最内層にインナーライナー(図示せず)が形成されていてもよい。
また、本発明のタイヤ内に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を変えた空気、もしくは窒素等の不活性ガスを用いることができる。
なお、本発明のタイヤは、乗用車用空気入りタイヤに好適である。
【0035】
次に、本実施形態のタイヤ20に用いられる各部材の詳細について説明する。
なお、本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0036】
(コーティングゴム)
第1ベルト層及び第2ベルト層に用いられるコーティングゴム5B、6Bとしては、コード5A、6Aを被覆することができる一般的なゴム組成物であれば特に限定がない。ゴム成分としては、ジエン系ゴムが挙げられ、特に天然ゴム又はイソプレンゴムが好ましい。また、上記コーティングゴム5B、6Bには、コーティングゴムとしての接着性や耐久性等の性能に影響しない範囲であれば、カーボンブラック等の充填剤を配合してもよい。上記カーボンブラックとしては、HAFクラスのカーボンブラックが好ましく、また、コーティングゴム5B、6Bにおけるカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して50~70質量部とすることができる。また、上記コーティングゴム5B、6Bは、上述した成分以外に、例えば、加硫促進剤、硫黄、亜鉛華などの架橋系薬品;コバルト塩を含むコバルト化合物などの接着促進剤;老化防止剤;オイル;樹脂;等を適宜含有することができる。上記老化防止剤としては、6PPD等のアミン系老化防止剤、o-MBp14等のビスフェノール系老化防止剤などが挙げられ、これら老化防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(端部ゴム)
端部ゴム8(ゴム部A、ゴム部B、ゴム部C)としては、特に限定されないが、例えば、第1ベルト層5及び第2ベルト層6のコーティングゴム5B、6Bと同じゴム組成物を用いることができる。
【0038】
(コード)
第1ベルト層5及び第2ベルト層6においては、典型的には、複数本のコード5A、6Aが並列に引き揃えられる。かかるコード5A、6Aは、一般的には、スチールコードである。また、かかるコードの構造としては、特に制限はない。但し、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させる観点から、当該コードは、N本のフィラメントを撚り合わせてなる1×N構造(Nは2~6から選択される整数である)であることが好ましい。特に、タイヤロードインデックスが100未満のタイヤにおいては、上記コードは1×2構造であることがより好ましく、タイヤロードインデックスが100以上のタイヤにおいては、上記コードは1×5構造であることがより好ましい。また、同様の観点から、当該コードは、モノフィラメントであって、互いに撚り合わされずに並列に引き揃えられていることも好ましい。また、上記1×N構造の場合において、当該コードは、フィラメント同士が接触せずに互いに間隔を設けて撚り合わされてなる1×Nオープン構造とすることができる。オープン構造のコードは、フィラメント同士が互いに接触しながら撚り合わされたコードに比べ、耐疲労性に優れる。
なお、1×Nオープン構造のコードは、フィラメント同士の間に未加硫ゴムを挟み、一緒に撚り合わせて形成してもよく、あるいは、フィラメントの表面に未加硫ゴムを被覆してから、これらを撚り合わせて形成してもよい。
また、かかるフィラメントを事前に型付けを施してから撚り合わせることもできる。事前に型付けを施す場合、フィラメントの型付けピッチは、8mm以上16mm以下の範囲であることが好ましい。型付けピッチがこの範囲であれば、ゴム浸透性が高まり、耐久性をより一層向上させることができる。
また、コード断面におけるフィラメント断面積Sfとコード断面外接円の面積Scとの比率Sf/Scは、0.4以上0.7以下の範囲であることが好ましい。Sf/Scがこの範囲であれば、ゴム浸透性が高まり、耐久性をより一層向上させることができる。
また、コード5A、6Aを構成するフィラメントは、伸線の際にフィラメントの表面において表面処理が施されていてもよい。その場合、表面処理後のフィラメントの表面のリン酸量は、2.0mg/m以下であることが好ましい。フィラメントの表面のリン酸量が2.0mg/m以下であれば、フィラメントと被覆ゴムとの接着力が良好なものとなる。
【0039】
第1ベルト層5及び第2ベルト層6に用いられるコード5A、6Aを構成するフィラメントは、ISO 17832:2009に規定されるSTグレード(super tensile strength cord)又はUTグレード(ultra tensile strength cord)に分類されることが好ましく、特に、UTグレードに分類されることが好ましい。この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。
同様の観点から、上記コード5A、6Aは、当該コードを構成するフィラメントの直径をX(mm)とし、当該フィラメントの引張強度をY(MPa)としたときに、下記式(1):
4250-2000X≦Y≦4500-2000X ・・・(1)
を満たすことが好ましい。
上記コード5A、6Aを構成するフィラメントにおいては、耐疲労性の観点から、表層の硬度が、内層の硬度に対して90~110%であることが好ましく、100%であることがより好ましい。ここで、フィラメントの表層とは、フィラメントにおける最表面から0.01mmの深さまでの層(領域)を意味し、フィラメントの内層とは、上記表層の内側の層(領域)を意味する。上記硬度は、例えばビッカース硬さとして測定することができる。また、フィラメントの表層の硬度は、フィラメントの最表面から0.005mmの深さ位置にて測定することができ、フィラメントの内層の硬度は、フィラメントの最表面から0.04mmより深い領域にて測定することができる。
上記コード5A、6Aを構成するフィラメントの製造方法は、特に限定されない。上記フィラメントは、例えば、鉄鉱石を精錬、伸線して得たものでもよく、廃鉄スクラップを精錬、伸線して得たものでもよく、或いは、タイヤから取り出したスチールをリサイクルして得たものでもよい。
【0040】
第1ベルト層5及び第2ベルト層6においては、コード5A、6Aの打ち込み密度が、50本/dm以上250本/dm以下であることが好ましい。この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。特に、上記コードが1×N構造(Nは2~6から選択される整数である)である場合、当該コードの打ち込み密度は、60本/dm以上95本/dm以下であることが好ましい。一方、上記コードがモノフィラメントである場合、当該コードの打ち込み密度は、180本/dm以上240本/dm以下であることが好ましい。
【0041】
第1ベルト層5及び第2ベルト層6に用いられるコード5A、6Aの径は、0.2mm以上1.2mm以下であることが好ましい。この場合、タイヤの耐久性向上と低転がり抵抗化とを効果的に両立させることができる。特に、上記コードが1×N構造(Nは2~6から選択される整数である)である場合、当該コードの径は、0.4mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることが更に好ましい。一方、上記コードがモノフィラメントである場合、当該コードの径は、0.24mm以上0.28mm以下であることが好ましい。
【0042】
(ベルト補強層)
上述の通り、本発明のタイヤ20は、ベルト7のタイヤ径方向外側にベルト補強層(キャップレイヤーとも称される)を備えてもよい。ベルト補強層は、タイヤ周方向に対し実質的に平行(例えば、タイヤ周方向に対する角度が0~5°)に配列した有機繊維コード(補強材)をゴム(エラストマー)で被覆してなる部材である。該ベルト補強層は、有機繊維コードをエラストマーで被覆して準備した幅狭のストリップをタイヤ周方向に連続して螺旋状に巻回して形成され得る。
【0043】
ベルト補強層に適用する有機繊維コードとしては、切断強度が6.5cN/dtex以上、切断伸度が10%以上、且つ7%伸長時の弾性率が6.0mN/(dtex・%)以上である有機繊維コードが好ましい。ここで、上記の切断強度、切断伸度、7%伸長時の弾性率は、室温(23℃)で測定した値であり、有機繊維コードの諸物性は、JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」に従って測定することができる。
【0044】
7%伸長時の弾性率は、コードの荷重-伸び曲線の伸び7%に対応する点における接線の傾き(N/%)を、1dtex当りの値に換算することで算出される。
切断強度が6.5cN/dtex以上、切断伸度が10%以上、且つ7%伸長時の弾性率が6.0mN/(dtex・%)以上である有機繊維コードは、切断時の強度が高く、切断時の伸びが大きく、7%伸長時の弾性率も高いため、かかる物性の有機繊維コードをベルト補強層に適用して、ベルト7の剛性を補うことで、例えば金属モノフィラメントを含むベルト層の適用によるプランジャー耐久性の低下を抑制しつつ、タイヤの操縦安定性を向上させることができる。
【0045】
有機繊維コードの材質としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;6-ナイロン、6,6-ナイロン、4,6-ナイロン等のナイロン;レーヨン、リヨセル等のセルロース;が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、即ち、ベルト補強層の補強材としての有機繊維コードは、ポリエチレンテレフタレートからなるコード(以下、単に「ポリエチレンテレフタレートコード」と称することがある。)であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートコードは、一般的に用いられているナイロンコード等に比べて剛性が高く、タイヤのプランジャー耐久性及び操縦安定性の向上効果に優れる。
【0046】
有機繊維コードは、160℃で測定した29.4N荷重時の弾性率が2.5mN/(dtex・%)以上であることが好ましい。ここで、160℃で測定した29.4N荷重時の弾性率は、160℃で測定したコードの荷重-伸び曲線の荷重29.4Nに対応する点における接線の傾き(N/%)を、1dtex当りの値に換算することで算出される。
なお、弾性率を160℃で測定するのは、タイヤ内部の温度は高速走行するに従って上昇し、高速走行でタイヤ故障が起こる時点では、ベルト補強層の温度が160℃に達しているからである。特に、ポリエチレンテレフタレートコードは、常温時に比べ高温時での弾性率の低下が大きく、常温で高弾性であるコードであっても、高温時に高い弾性率を維持できなければ、十分なベルトの補強効果(突起入力に対する耐久性の向上効果及びベルトの迫り出し抑制効果)を発現できないため、高温時の弾性率が重要な意義を持つ。160℃で測定した29.4N荷重時のコードの弾性率を2.5mN/(dtex・%)以上にすることで、タイヤのプランジャー耐久性を向上させることができ、また、高速走行時のベルトの迫り出し量を抑制でき、タイヤの踏み込み・踏み出し時の応力を低減して、高速走行時のタイヤの操縦安定性が向上する。
【0047】
有機繊維コードの160℃での弾性率を向上させるためには、高張力下でディップ処理を行うことが好ましい。また、コードを十分に高弾性化するためには、コードに対して接着剤処理を行う際の張力を6.9×10-2N/tex以上にすることが好ましい。但し、コードの高弾性化の方法は、これに限られるものではなく、コードの低撚り化等、他の方法を採用することもできる。接着剤処理は、ドライ処理、ホット処理、ノルマライズ処理等から構成され、張力以外に温度及び時間を適宜調節して行う処理である。接着剤処理は、1浴処理、2浴処理のいずれで行ってもよいが、2浴処理で行うことが好ましく、6.9×10-2N/tex以上の張力を2浴のホット処理時にコードにかけることが好ましい。
【0048】
有機繊維コードは、下記式:
α=T×D1/2
[式中、αは撚り係数で、Tは撚り数(回/100mm)、Dはコードの総繊度(dtex)を示す]で表される撚り係数αが500~2500であることが好ましい。該有機繊維コードの撚り係数αが500以上であると、フィラメントの拘束力が強くなり、接着が十分となり、2500以下であると、突起入力に対する耐久性の向上効果及びベルトの迫り出し抑制効果を得るのに十分な弾性率が発揮できる。
【0049】
また、有機繊維コードは、総繊度が1000~3500dtexであることが好ましい。該コードの総繊度が1000dtex以上であると、突起入力に対する耐久性の向上効果及びベルトの迫り出し抑制効果を得るのに十分な弾性率が発揮でき、3500dtex以下であると、打ち込みを密にでき、単位幅当りの剛性を十分に確保できる。
上記有機繊維コードの原材料は、特に限定されず、合成品由来でもよいし、生物由来でもよいし、ペットボトル等のPET製品を粉砕、溶融、再紡糸してなるメカニカルリサイクル由来でもよいし、ペットボトル等のPET製品を解重合し、再重合してなるケミカルリサイクル由来でもよい。
【0050】
(空気入りタイヤの製造方法)
本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)は、上述した本発明の空気入りタイヤ20を製造するための方法であり、上記第1ベルト層5と上記第2ベルト層6とを積層する工程(積層工程)を含む。また、本実施形態の製造方法は、上記積層工程に先立ち、上記第1ベルト層5の端部を第1ゴムシート8で包んでおくとともに、上記第2ベルト層6の端部を第2ゴムシート8で包んでおき、その際、上記第1ゴムシート8及び上記第2ゴムシート8の両方について、上記積層したときに他方のベルト層に対向する側に位置するゴムシート部分の長さが、その反対側に位置するゴムシート部分の長さよりも長くなるように、ずらして各ベルト層の端部を包む、ことを特徴とする。
かかる製造方法によれば、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間、並びに第2ベルト層6及び第2ベルト層6の外側に配置され得る層(例えば、ベルト補強層)の間に隙間が形成されるのが効果的に抑制されつつ、上述した空気入りタイヤ20を製造することができる。
【0051】
本実施形態において上記の通り隙間の形成が抑制されるメカニズムについて、以下、詳細に説明する。
【0052】
図5Aは、本実施形態の製造方法における積層工程を示す概略図である。図示するように、積層工程では、例えば、第1ベルト層5、第2ベルト層6、その他の層16(ベルト補強層、ゴム層、圧着用層など)をこの順で積層した状態で、ロール15を上から押し当てつつ、タイヤセンター部から各層の端部の方向に向けて移動させて、第1ベルト層5、第2ベルト層6、及びその他の層16を圧着させる。その際、あらかじめ、第1ベルト層5の端部を第1ゴムシート8で包んでおくとともに、第2ベルト層6の端部を第2ゴムシート8で包んでおく。そしてこのとき、第1ベルト層5の端部を包む第1ゴムシート8は、図5Aに示すように、各層を積層したときに第2ベルト層6に対向する側に位置するゴムシート部分の長さ(タイヤ幅方向の長さ、以下同じ。)(LB1’)が、その反対側に位置するゴムシート部分の長さ(L’)よりも長くなるように、ずらして第1ベルト層5の端部を包むようにする。また、第2ベルト層6の端部を包む第2ゴムシート8は、図5Aに示すように、各層を積層したときに第1ベルト層5に対向する側に位置するゴムシート部分の長さ(LB2’)が、その反対側に位置するゴムシート部分の長さ(L’)よりも長くなるように、ずらして第2ベルト層6の端部を包むようにする。このようなゴムシート8の配置態様にて積層及び圧着を行えば、ベルト端部は、図5Bに概略的に示すように、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間、並びに第2ベルト層6及びその他の層16の間において、隙間が形成され難い。
【0053】
一方、従来においては、図6Aに示すように、第1ベルト層5の端部を包む第1ゴムシート8、及び第2ベルト層6の端部を包む第2ゴムシート8ともに、端部を中心にして対称的に包んでいた(即ち、L’≒LB1’、LB2’≒L’)。かかるゴムシート8の配置態様にて積層及び圧着を行うと、第1ベルト層5、第2ベルト層6及びその他の層16が互いに密着するまでは変形できず、結果的にベルト端部は、図6Bに示すように、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間、並びに第2ベルト層6及びその他の層16の間において、大きな隙間(エア溜まり)が形成され易かった。
【0054】
なお、上記その他の層16は、例えば、ベルト補強層又はゴム層などのタイヤ構成部材であってもよい。一方、上記その他の層16がタイヤ構成部材でない場合には、積層工程の後、当該その他の層16を適宜剥離してもよい。
【0055】
上記の第1ゴムシート及び第2ゴムシートは、例えば、矩形状のゴムシートとすることができる。
【0056】
上記積層工程では、第1ゴムシート8と第2ゴムシート8とが接触するように、第1ベルト層5と第2ベルト層6とを積層することが好ましい。
【0057】
本実施形態の製造方法では、第1ベルト層5と第2ベルト層6とを積層したときに、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間に位置する第1ゴムシート8の終端と第2ゴムシートの終端とが重ならないことが好ましい。換言すると、第1ベルト層5及び第2ベルト層6の間に位置する第1ゴムシート8の終端と第2ゴムシートの終端の距離L’(タイヤ幅方向の距離)(図5A参照)が、0超であることが好ましい。これにより、ベルト端部における隙間の形成を一層抑制することができる。なお、この場合、第1ベルト層5の第1ゴムシート8の終端の方がタイヤセンター部に近接していてもよく、図5Aに示すように第2ベルト層6の第2ゴムシート8の終端の方がタイヤセンター部に近接していてもよい。但し、より効果的な隙間形成の抑制の観点からは、図5Aに示すような、第2ベルト層6の第2ゴムシート8の終端の方がタイヤセンター部に近接していることがより好ましい。
【0058】
本実施形態の製造方法は、第1ベルト層5及び第2ベルト層6まわりのゴムシート8の配置態様を上述の通りとし、且つ、上記の本実施形態の空気入りタイヤ20の構成が得られれば、それ以外の具体的な製造条件については、特に限定されない。
例えば、積層後のタイヤ20におけるゴム部A、ゴム部B、ゴム部Cの長さ(L、L及びL)及び相対的な位置の関係は、本実施形態の製造方法に係る各ゴムシート部分の長さ(L’、LB1’~LB2’、L’)のそれらに対応するため、当業者であればこの点に留意して適宜調整可能である。
また、例えば、本実施形態のタイヤ20における第1ベルト層5と第2ベルト層6のそれぞれのコード同士の間隔を調整する(ひいては、b/a:1.8以上4.0以下とする)ためには、例えば、上述した第1ベルト層5の端部を包む第1ゴムシート8の厚み及び/又は第2ベルト層6の端部を包む第2ゴムシート8の厚みを適宜調整することができる。
【実施例0059】
以下、本発明のタイヤを実施例を用いて、より詳細に説明する。
【0060】
下記表1に示すベルトの構造(ISO 17832:2009に規定されるUTグレードに分類されるコードを使用)を有し、図2Aに示すベルト端部の概略構造を有するタイヤを用いて、ベルトエッヂセパレーション耐久性および転がり抵抗の評価を行った。なお、タイヤは、タイヤサイズ:265/65R18の空気入りタイヤであり、各ベルト層におけるコードを、タイヤ周方向に対する角度が±30°で交差するように配置した。
【0061】
<ベルトエッヂセパレーション耐久性>
各例のタイヤを劣化後、内圧を充填してテスト用乗用車に装着し、BESドラム上を、一定のサイドフォース(SF)を繰り返しかけて走行させた後、タイヤを解剖してベルト層端部に発生している亀裂の長さを測定した。各例の亀裂長さについて、従来例の亀裂長さと比較し、従来例との亀裂長さの差が0.5mm以内の場合は○と評価し、従来例の亀裂長さより1.0mm以上短い場合は◎と評価する。結果を表1に示す。
なお、従来例のタイヤ構造を基準としつつ、ベルト層の厚みを従来例より小さくした場合には、ベルト端部が亀裂しやすくなり、ベルトエッヂセパレーション耐久性が悪化する傾向がある。かかる傾向は、当業者であれば明らかな知見であるため、サンプルをもって測定するまでもない。
【0062】
<転がり抵抗>
リム組みした各例のタイヤの内圧を210kPaに設定し、直径1.7mの鉄板表面を持つドラム試験機を用いて、ISO 28580に準拠して、負荷質量を最大負荷能力の80%とし、80km/hでタイヤを転動させ、転がり抵抗係数(N/kN)を測定した。結果を表1に示す。値が小さいほど、転がり抵抗が低いことを示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1より、本発明に従う実施例のタイヤは、ベルト層の薄層化などにより低転がり抵抗化が図られるとともに、ベルトエッヂセパレーション耐久性が従来例(つまり、ベルト層の厚みが大きい例)と同等レベル以上であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、転がり抵抗の低減を図りつつ、ベルト端部における耐久性に優れる空気入りタイヤを提供することができる。
また、本発明によれば、ベルト端部における隙間の形成を抑制しつつ、上述した空気入りタイヤを製造することが可能な、空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
1:トレッド部
2:サイドウォール部
3:ビード部
4:カーカス
5:第1ベルト層
6:第2ベルト層
5A、6A:コード
5B、6B:コーティングゴム
7:ベルト
8:端部ゴム(ゴムシート)
8A:ゴム部A
8B:ゴム部B
8C:ゴム部C
10:ビードコア
15:ロール
16:その他の層
20:タイヤ(空気入りタイヤ)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B