(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087825
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】牽引装置およびそれを備える車両
(51)【国際特許分類】
B62D 53/00 20060101AFI20240625BHJP
B60D 1/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B62D53/00 G
B62D53/00 B
B60D1/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202696
(22)【出願日】2022-12-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】522390696
【氏名又は名称】株式会社ヤマナカ
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山中 崇
(57)【要約】
【課題】
被牽引車両を牽引車両に接続する牽引装置を用いて、牽引車両の後退または後進時に、牽引車両が被牽引車両と実質的に同じ軌跡を辿るようにする。
【解決手段】
牽引車両100が被牽引車両200を牽引するのに用いる牽引装置300である。牽引車両には、その後端部に被牽引車両側に延びるアーム324が取り付けられており、アームの先端部には上方または下方に延びるピン部材326が設けられている。被牽引車両は、被牽引車両から前方に延びる板状の板状部材310を備え、板状の板状部材の先端部に、被牽引車両に当接可能で、被牽引車両の幅よりも狭い幅の当接面を形成する。板状部材に記ピン部材が嵌合可能な連結穴316が形成されており、連結穴は被牽引車両の前後方向に延びた長穴である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車両が被牽引車両を牽引するのに用いる牽引装置において、
前記牽引車両には、その後端部に前記被牽引車両側に延びるアームが取り付けられており、前記アームの先端部には上方または下方に延びるピン部材が設けられており、
前記被牽引車両は、前記被牽引車両から前方に延びる板状の板状部材を備え、
前記板状部材の先端部に、前記牽引車両に当接可能な当接面を形成し、
前記板状部材に前記ピン部材が嵌合可能な連結穴を形成し、この連結穴が前記被牽引車両の前後方向に延びた長穴であることを特徴とする牽引装置。
【請求項2】
前記連結穴は、前記牽引車両に前記板状部材が当接した位置における穴位置であって、前記ピン部材の径よりわずかに大きな穴幅の小径部と、この小径部よりも前記被牽引車両側に位置し前記ピン部材よりも大径の大径部と、前記小径部から前記大径部へなだらかに移行する遷移部とを有することを特徴とする請求項1に記載の牽引装置。
【請求項3】
前記牽引車両は、自動車またはピックアップトラックであることを特徴とする請求項1または2に記載の牽引装置。
【請求項4】
前記牽引車両は、AGVであることを特徴とする請求項1または2に記載の牽引装置。
【請求項5】
請求項1に記載の前記牽引装置を備えることを特徴とする、牽引車両に接続された被牽引車両。
【請求項6】
請求項2に記載の前記牽引装置を備えることを特徴とする、牽引車両に接続された被牽引車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、ピックアップトラックおよびAGV等の牽引車両で、プレジャーボートや物品キャンピング用キャビン等の被牽引車両を牽引する際に用いる牽引装置、およびこの牽引装置を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源を有する牽引車両と、動力源を有せず牽引車両に牽引装置を介して牽引される被牽引装置からなる車両は、例えばプレジャーボートの陸送や物品の配送等に用いられる。これらの陸送や配送では、車両は公道をも通過するので、車両は公道の曲がりに沿って曲線動することが要求される。
【0003】
そのため、牽引装置は操舵機能が不十分な被牽引車両をできるだけ抵抗なく動かせるようにするよう構成される。それとともに、牽引車両と被牽引車両の接続に要する時間を低減するために、簡素な構成を採用して牽引手段に自由度を持たせている。
【0004】
代表的には、フックとそれに係止するリングまたは穴からなる構造がある。このような牽引装置の例が、特許文献1に記載されている。
【0005】
牽引車両である自動車に設けたフックで被牽引車両を牽引すると、操舵装置を有する牽引車両の動きと能動的な操舵装置を有しない被牽引車両の動きが連動し、被牽引車両が牽引車両に振り回されて車両は進行する。
【0006】
牽引車両が前進する場合には、牽引車両に被牽引車両が牽引されるので所定軌道(公道)からのずれは少なくて済むが、牽引車両が後進または後退する場合には、能動的な操舵性を有しない被牽引車両が牽引車両に押される形で進行するので、被牽引車両の車輪の姿勢次第で大きく軌道(公道)を逸れる可能性が生じる。
【0007】
なお、プレジャーボートを利用地で下ろす場合には、ボートを円滑に水際に下すため、駆動車両を直進後退させて水際まで進入させ、それに応じて被駆動車両も直進後退することが望まれている。
【0008】
連結型の車両における後退または後進時に、被牽引車両の軌跡を制御する例が、特許文献2~3に記載されている。
特許文献2には、バイク型の作業車(牽引車両)の後部に被牽引車両を左右揺動自在に連結し、機体後進時の牽引車両と被牽引車両の折れ曲がり(通称:ジャックナイフ現象)を防止するために、牽引車両Aと被牽引車両Bとを連結する連結器C、C′のいずれか一方の連結器Cに、作用姿勢と非作用姿勢とに上下動自在で、かつ、両連結器C、C′が一直線上に並んだ状態において他方の連結器C′に係合可能なロック金具11を設けることが開示されている。
これにより、両連結器C,C′の左右揺動を阻止可能としている。
【0009】
また特許文献3には、トレーラトラックや構内電気自動車等の牽引車両の後進時に、被牽引車両の方向を安定に自動制御するために、自走可能な牽引車両と、牽引車両に牽引される被牽引車両と自走牽引車両とを連結する連結アームと、連結アームと牽引車両の間に設けられたアクチュエータと、アクチュエータのための後退用制御装置と、牽引車両と連結アームとの間の角度を検出する第1角度センサと、連結アームと被牽引車両との間の角度を検出する第2角度センサとを牽引車両が備えることが開示されている。
【0010】
そして後退時においてだけ、第1および第2角度センサからの角度信号およびステアリング操作量と走行速度と後退時の旋回半径に応じて動作する後退用制御装置を用いて、アクチュエータを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭61-138752号公報(実願昭60-23363号の明細書)
【特許文献2】特開平5-310018号公報
【特許文献3】特開平8-272444号公報
【特許文献4】特開2014-193668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1には、被牽引車両を牽引車両に接続する時間を低減するために、被牽引車両を連結するトレーラバーをバンパ本体の後方対向面に取り付け、バンパステーをボルト止めするバンパステー取付け部を牽引車両の後部に設けている。トレーラバーは全体としてフック状を呈し、先端部はほぼ球状であり、これに被牽引車両の連結部が嵌合している。すなわち、球と穴の嵌合となっている。
【0013】
ところで、プレジャーボート等の陸送における牽引車両の後退運動では、能動操舵機構を有しない被牽引車両が牽引車両の押し込み動作で押されて進行するので、被牽引車両のその時の車輪の姿勢次第で、被牽引車両は斜めに押され意図しない方向に進行する恐れがある。それが水際であれば、ボートを正しく水中に下すのに更なる労力が必要になる。この特許文献1では、そのような不具合を回避することについて考慮されていない。
【0014】
特許文献2には、小型電動車等の牽引車両の後部にトレーラ等の被牽引車両を左右揺動自在に連結した作業車が開示されている。被牽引車両の軌跡は前方に位置する牽引車両の軌跡と少々異なっていても、公道から逸れなければ問題はない。
【0015】
ただし、頻度の少ない後退時に被牽引車両と牽引車両の間が「く」の時に過度に折れ曲がると、牽引車両又は被牽引車両の転倒を引き起こす虞があるため、牽引車両と被牽引車両間の連結部に曲がりを制限するロック手段を設けている。
【0016】
ただしこのロック手段は前進から後退、またはその逆の切り替え時に、牽引車両の乗員が一旦牽引車両から降りて手動で切り替えるため、手間がかかるとともに雨天時の公道等では、他車両との干渉を回避する必要があり面倒である。
【0017】
特許文献3には、センサとアクチュエータを牽引車両および/または被牽引車両に配置して、運転中の被牽引車両の位置を制御している。位置制御は牽引車両の後進時にも可能であるから、位置決め制御の精度は高い。
【0018】
しかしながら、牽引車両および被牽引車両の位置制御には、センサや制御器等を搭載する必要があり、制御が複雑になるとともに制御に要する付加的な装置の費用が増大する。
【0019】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、被牽引車両を牽引車両に接続する牽引装置が、牽引車両の後退または後進時に牽引車両が被牽引車両と実質的に同じ軌跡を辿るようにすること、および/または後退時に被牽引車両を需要元に正確に位置決めすることにある。
【0020】
本発明の他の目的は、牽引車両と被牽引車両の組合せまたは被牽引車両単体が、牽引車両と被牽引車両が実質的に同じ軌跡をたどれるようにする、牽引装置を備えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成する本発明の特徴は、牽引車両が被牽引車両を牽引するのに用いる牽引装置において、前記牽引車両は、その後端部に前記被牽引車両側に延びるアームが取り付けられており、前記アームの先端部には上方または下方に延びるピン部材が設けられており、前記被牽引車両は、前記被牽引車両から前方に延びる板状の板状部材を備え、前記板状部材の先端部に、前記牽引車両に当接可能な当接面を形成し、前記板状部材に前記ピン部材が嵌合可能な連結穴を形成し、この連結穴が前記被牽引車両の前後方向に延びた長穴であることにある。
このとき、前記当接面は、前記被牽引車両の幅よりも狭い幅であることが好ましい。
【0022】
そしてこの特徴において、前記連結穴は、前記牽引車両に前記板状部材が当接した位置における穴位置であって、前記ピン部材の径よりわずかに大きな穴幅の小径部と、この小径部よりも前記被牽引車両側に位置し前記ピン部材よりも大径の大径部と、前記小径部から前記大径部へなだらかに拡大する遷移部とを有することが望ましい。
【0023】
また上記特徴において、前記牽引車両は、自動車またはピックアップトラックであってもよく、前記牽引車両は、AGVであってもよい。
【0024】
本発明の他の特徴は、牽引車両に接続された被牽引車両が、上記いずれかの牽引装置を備えることにある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、車両の後退時には、被牽引車両が牽引車両と同じ直線軌跡を移動可能になる。したがって、前後進時に牽引車両と被牽引車両はほぼ同じ軌跡を移動できる。また後退時には、被牽引車両を直線動のみ可能にして駆動車両とともに直線動するから、被牽引車両を需要元に正確に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る車両の一実施例の図であり、同図(a)は上面斜視図、同図(b)は上面図である。
【
図2】
図1に示した車両の前進状態を説明する図であり、同図(a)は側面図、同図(b)は上面図である。
【
図3】
図1に示した車両の後進状態を説明する図であり、同図(a)は側面図、同図(b)は上面図である。
【
図4】
図1に示した車両が後進状態に移行するのを説明する、車両の上面図であり、同図(a)は後進移行直後の図、同図(b)は後進移行から経過した後の主要部の図である。
【
図5】
図1に示した車両が備える牽引装置の分解図であり、同図(a)は上面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によれば、下記に説明するように、牽引車両と被牽引車両間に介在させる牽引装置が、走行方向に小径の長穴部と大径部とを有し、牽引装置の被牽引車両側の前端面と牽引装置の牽引車両側の後端面同士が当接可能な当接面としている。
【0028】
これにより、牽引装置と被牽引装置からなる車両の前進時には、被牽引車両は小回りの利く曲線動が可能であり、車両の後退時には、被牽引車両が牽引車両と同じ直線軌跡を移動可能になる。
【0029】
したがって、前後進時に牽引車両と被牽引車両はほぼ同じ軌跡を移動できる。また後退時には、被牽引車両を直線動のみ可能にして駆動車両とともに直線動するから、被牽引車両を需要元に正確に位置決めすることができる。
【0030】
以下本発明に係る車両の一実施例を、図面を用いて説明する。なお、以下の記載では牽引車両100(ピックアップトラック)の後方に配置した被牽引車両200(トレーラ)を牽引装置300を用いて牽引する場合を例にとり説明するが、牽引車両100はピックアップトラックに限るものではなく、自動車(一般的な乗用車)やAGV(Automated Guided Vehicle)であってもよい。
また、被牽引車両200も、トレーラに限らず、プレジャーボートを搭載した台車やAGVで牽引される台車等であってもよい。牽引装置300を備えた牽引車両100と被牽引車両200の組合せ、または牽引装置300を備えた被牽引車両200単体が、本発明では車両50を構成する。
【0031】
図1は、公道上を前進(F)または後進(R)している車両50の様子を示す上面斜視図であり、
図1(a)は、車両50が牽引車両100であるピックアップトラックと、被牽引車両200であるトレーラとから構成されて、前進または後退していることを示す。
図1(b)は、
図1(a)に示す車両50が公道の曲線部を曲線に沿って前進(曲線動)する様子を示す上面図である。
【0032】
牽引車両のピックアップトラックは荷台110と運転手が乗車可能なキャビン120とを有し、左右一対の前輪132と左右一対の後輪134とで前進または後退する。牽引車両100は、一般的には後輪駆動であるから、後輪に図示しないエンジンの駆動力が伝達されて、車両50を前進または後退駆動する。牽引車両100の最後端面については、詳細を後述する、牽引装置300の一部を構成する取付け部材322が配置されている。取付け部材の幅方向長さは、ほぼ牽引車両100の荷台110の幅にわたっており、法的規制の範囲内で荷台110の幅を超えることも可能である。
【0033】
牽引車両100の後方に配置される被牽引車両200(トレーラ)は、トレーラ本体210と、トレーラ本体210の両側面下部に配置した一対の車輪220を有する。車輪220は、トレーラ本体210にその向きを固定されており、いわゆる能動的な操舵性を有しない。トレーラ本体210は、例えば農作業に要する器具や肥料、収穫物を収納可能な箱形の構成となっている。トレーラ本体210の前面であって、箱形の底面近くには牽引装置300を構成する板状部材310が前方に延びるように取り付けられている。
【0034】
図5により、牽引装置300の詳細を説明する。
図5は、牽引装置300の分解図であり、
図5(a)はその上面図、
図5(b)はその側面図である。牽引車両100側に配置される部品を
図5で左側に、被牽引車両200側に配意される部品を右側に示す。
【0035】
牽引車両側(牽引車両の後端)に配置される部品は、上述したように牽引車両100の幅方向に延びる板状部材からなる取付け部材322と、取付け部材322の牽引車両100の幅方向ほぼ中央部であって、取付け部材322の底面に取り付けられ、トレーラ側に延びる棒状または幅の狭い板状のアーム324と、アーム324の反取付け側先端部に配置され、上方に延びる円柱状のピン部材326とを有する。ピン部材326の上端先端部326aは、牽引装置300を円滑に組み合わせることができるよう半球状となっている。取付け部材322は、牽引車両100の後端面に、図示しないボルト等の締結手段を用いて配置される。なお、牽引車両100が乗用車の場合には、バンパの代わりにまたはバンパに重ねて取付け部材322が取り付けられる。取付け部材322の被牽引車両200(トレーラ)に面する側端面は、当接面328を構成する。
【0036】
被牽引車両200(トレーラ)の前面の幅方向ほぼ中央部であってトレーラ本体210の底面近傍に取り付けられる板状部材310は、矩形の板の一部を切り欠き及び切り抜いた形状で構成される。矩形の板の一方の側を切り落とし、トレーラ本体210への取付け部312を形成する。
【0037】
したがって、取付け部312は矩形の板の板幅より狭い幅となる。取付け部312を溶接等でトレーラ本体210に固定する。板状部材310の内側には、前後方向に延びた長穴(卓球ラケット状に切り抜いた穴)である連結穴316が形成されている。
【0038】
すなわち、連結穴316は、牽引車両側に位置し、幅が狭い溝状の小径部304と、取付け部312側に位置し小径部304よりも幅が広い大径部306と、小径部304から大径部306へなだらかに移行(拡大)する遷移部308を有する。ここで、小径部304の穴幅は、ピン部材326の径よりわずかに大きい。大径部306は、この小径部304よりも被牽引車両200側に位置し、ピン部材326よりも大径である。
【0039】
小径部304の先端はピン部材326が嵌合したときに、接触が面接触に近くなるように弧状に形成されている。板状部材310の反取付け部側の端面は、当接面302を形成する。
【0040】
図1(b)と
図2を用いて、車両50の前進運動について説明する。
図2は
牽引車両100と被牽引車両200を備える車両50が、前進(F)する状態を示す図であり、
図5(a)は車両50の側面図、
図5(b)は車両50の上面図である。
【0041】
牽引車両100と被牽引車両200(トレーラ)は牽引装置300により接続されている。具体的には、牽引車両100の後端面に取り付けた牽引装置300のピン部材326をトレーラ本体210の前端面に固定した板状部材310の連結穴316内に挿通して、牽引車両100と被牽引車両200(トレーラ)の両者は接続される。
【0042】
前進(F)時には、牽引車両100側のピン部材326が被牽引車両200(トレーラ)側の板状部材310に形成された連結穴316の小径部304、特にその最端部である小径部304の弧状部に接しており、その接触部に牽引車両100の牽引力が作用し、被牽引車両200(トレーラ)を引きずっていく。被牽引車両200(トレーラ)はこのけん引力により、車輪220を回転させ、抵抗少なく牽引車両100の軌道を追随する(
図2参照)。
【0043】
牽引車両100が道路の曲線部に差し掛かると、もしくは牽引車両100が曲線軌道を描いて前進する(
図1(b))と、板状部材310に形成された連結穴316の小径部304の牽引車両100側先端部が、ピン部材326の周りに接触しながら転がるように、被牽引車両200(トレーラ)は移動する。言い換えれば、被牽引車両200(トレーラ)は、ピン部材326を中心にして牽引車両100に振り回される。
【0044】
牽引車両100がカーブを切って進むにつれ、牽引車両100に取り付けた取付け部材322に被牽引車両200(トレーラ)の一方の前側角部が当接するまで、被牽引車両200(トレーラ)は牽引車両100の進行方向とは異なる角度で振り回されながら進む。つまり、牽引車両100と共に被牽引車両200(トレーラ)は、小回りが利いた進行が可能になる。このことから、取付け部材322の幅方向長さと板状部材310及びアーム324の進行方向長さは、被牽引車両200(トレーラ)に求められる最小回転半径に応じた長さとなる。
【0045】
以上説明したように、車両50の前進時には、牽引車両100の進行方向に対する被牽引車両200(トレーラ)の進行方向、より正確には車輪220の向きが異なることを可能にしたので、トレーラ側に駆動源や操舵機能を備えなくとも、小回りの利く車両50の移動が可能になる。
【0046】
次に、
図3および
図4を用いて、車両50の後進または後退の様子を説明する。
図3は後進(R)中の車両50の側面図(
図3(a))および上面図(
図3(b))である。これらの図において、
図2と相違する点は牽引車両100の後端面に取り付けた取付け部材322の後端面である当接面328に、被牽引車両200(トレーラ)の前部に取り付けた板状部材310の前端面である当接面302が当接していることにある。
【0047】
2つの当接面328、302が当接することにより、牽引車両100と被牽引車両200(トレーラ)が正対し、牽引車両100の進行方向と被牽引車両200(トレーラ)の進行方向、すなわち車輪220の向きが完全に一致し、牽引車両100の駆動力が当接面328、302間の押圧力として被牽引車両200(トレーラ)に伝達され、被牽引車両200(トレーラ)を後方に押し出す。その際、牽引車両100と被牽引車両200(トレーラ)は正対しているので、被牽引車両200(トレーラ)は牽引車両100の進行方向(後進方向)を正確に導く。
【0048】
車両50が、曲り道を進行した後に静止した状態または曲り道を前進した状態から後退状態に移行する様子を、
図4を用いて説明する。
図4(a)はほぼ後進開始後の状態を示す車両50の上面図であり、
図4(b)は
図4(a)から少し経過した後の車両50の要部を示す上面図である。
【0049】
車両50の前進時には、
図3(b)に示すように、牽引装置300のピン部材326は、板状部材310に形成した連結穴316の小径部304の前端部に位置しているので、前進状態から後進状態に車両50が移動すると、初めにピン部材326が小径部304内を後方、つまり被牽引車両200(トレーラ)側に移動する。ピン部材326が小径部304内を移動する間は、牽引車両100が後方に移動しても被牽引車両200(トレーラ)は移動しない。ただしこの時間は非常に短い時間であり一瞬である。
【0050】
さらに牽引車両100が後進すると、ピン部材326は連結穴316の大径部306へ移動し、牽引車両100が被牽引車両200(トレーラ)に接近して、ついには、少なくとも板状部材310の一方の前端角部が取付け部材322の当接面328に当接する。
【0051】
もちろん、直進路を直進した後の車両50では、牽引車両100と被牽引車両200(トレーラ)はほぼ同じ方向を向いて進行していたので、後進に移行してもその向きは異ならないので、板状部材310の前端面と取付け部材322の当接面328は
図4(b)に示したように前面で当接する。
【0052】
牽引車両100と被牽引車両200(トレーラ)の向きが異なっている状態で後進を開始すると、上述したように、板状部材310の一方の前端角部が取付け部材322の当接面328に当接する(
図4(a))。
【0053】
この状態で牽引車両100がさらに後進すると、被牽引車両200(トレーラ)は当接部である前端面角部に加えられる牽引車両100の押圧力で前端面角部を中心に、牽引車両100に対して回動する。そして最後は、
図4(b)に示すように、板状部材310の当接面302が取付け部材322の当接面328に当接し、牽引車両100が被牽引車両200(トレーラ)を直進後退させる。
【0054】
ここで、板状部材に形成した連結穴316が小径の溝である小径部304の他に、大径部306を有し、小径部304と大径部306をなだらかな遷移部308で接続したのは以下の理由による。
【0055】
被牽引車両200(トレーラ)が小回りを利くようにしたので、後退状態に移る直前において、牽引車両100の進行方向に対する被牽引車両200(トレーラ)の進行方向が著しく異なる場合がある。
【0056】
例えば牽引車両100の進行方向に対して被牽引車両200(トレーラ)の進行方向または車輪220の向きが60°にも達する場合がある。小径部304しか設けられていないと、ピン部材326に牽引車両100の駆動力が小径部304の溝方向とは異なる方向から集中する場合があり、ピン部材326に破損を生じる虞れがある。
【0057】
溝方向とは異なる方向からの駆動力がピン部材326作用しても、駆動力の方向に逃げられる空間を確保して、ピン部材326への駆動力の作用を低減する。また、後退状態または初期の取付け状態から前進動作に移る際に、ピン部材326を大径部306から小径部304に滑らかに移動させるために、ガイドとなるなだらかな遷移部308を設ける。
これにより、大径部306より狭い小径部304に小径部304とほぼ同じ大きさのピン部材326を容易に嵌合できる。
【0058】
以上説明したように、本実施例によれば、能動的な操舵手段を有しない被牽引車両を牽引装置を介して牽引車両に接続するようにしたので、公道での走行が可能になることはもちろんのこと、水際や配送先へ被牽引車両を直進後退させることができ、被牽引車両に振れや揺れが生じるのを低減でき、後進時の位置決め精度が向上する。
【0059】
一般に、被牽引車両には配送物やプレジャーボート、各種物品が搭載されるので、荷積み、荷卸しの容易さおよび荷積み、荷卸しの時間の短縮の面から、需要元へは車両が後進して被牽引車両の荷台側を需要元に近づけるのが望ましい。本実施例により、荷卸しの場合、直進して需要元へ物品を届けることにより、荷卸し位置に正確に被牽引車両を位置決めできる。荷積みの場合も同様である。
【0060】
上記実施例では、ピン部材を下方から板状部材に形成した穴に貫挿しているが、一般のキングピンのように、上からピンを板状部材に貫挿させるようにしてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
50…車両、100…牽引車両、110…荷台、120…キャビン、132…前輪、134…後輪、200…被牽引車両(トレーラ)、210…トレーラ本体、220…車輪、300…牽引装置、302…当接面、304…小径部、306…大径部、308…遷移部、310…板状部材、312…取付け部、314…枠部、316…連結穴、322…取付け部材、324…アーム、326…ピン部材、326a…先端部、328…当接面
【手続補正書】
【提出日】2023-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車両が被牽引車両を牽引するのに用いる牽引装置において、
前記牽引車両には、その後端部に前記被牽引車両側に延びるアームが取り付けられており、前記アームの先端部には上方または下方に延びるピン部材が設けられており、
前記被牽引車両は、前記被牽引車両から前方に延びる板状の板状部材を備え、
前記牽引車両の後退時に、前記板状部材の前端面に前記牽引車両の後端面に取り付けた取付け部材の後端面が当接しており、
前記牽引車両の後退時に、前記牽引車両と前記被牽引車両が正対し、前記牽引車両の進行方向と前記被牽引車両の進行方向が一致し、
前記板状部材に前記ピン部材が嵌合可能な連結穴を形成し、この連結穴が前記被牽引車両の前後方向に延びた長穴であり、
前記連結穴は、前記牽引車両の前進時における前記ピン部材の穴位置であって、前記ピン部材の径より大きな穴幅の小径部と、この小径部よりも前記被牽引車両側に位置し前記小径部よりも幅が広い大径部と、前記小径部から前記大径部へなだらかに移行する遷移部とを有し、前記牽引車両の後退時には、前記ピン部材は前記穴の前記大径部にあることを特徴とする牽引装置。
【請求項2】
前記牽引車両は、自動車またはピックアップトラックであることを特徴とする請求項1に記載の牽引装置。
【請求項3】
前記牽引車両は、AGVであることを特徴とする請求項1に記載の牽引装置。
【請求項4】
請求項1に記載の前記牽引装置を備えることを特徴とする、牽引車両に接続された被牽引車両。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
上記目的を達成する本発明の特徴は、牽引車両が被牽引車両を牽引するのに用いる牽引装置において、前記牽引車両には、その後端部に前記被牽引車両側に延びるアームが取り付けられており、前記アームの先端部には上方または下方に延びるピン部材が設けられており、前記被牽引車両は、前記被牽引車両から前方に延びる板状の板状部材を備え、前記牽引車両の後退時に、前記板状部材の前端面に前記牽引車両の後端面に取り付けた取付け部材の後端面が当接しており、前記牽引車両の後退時に、前記牽引車両と前記被牽引車両が正対し、前記牽引車両の進行方向と前記被牽引車両の進行方向が一致し、前記板状部材に前記ピン部材が嵌合可能な連結穴を形成し、この連結穴が前記被牽引車両の前後方向に延びた長穴であり、前記連結穴は、前記牽引車両の前進時における前記ピン部材の穴位置であって、前記ピン部材の径より大きな穴幅の小径部と、この小径部よりも前記被牽引車両側に位置し前記小径部よりも幅が広い大径部と、前記小径部から前記大径部へなだらかに移行する遷移部とを有し、前記牽引車両の後退時には、前記ピン部材は前記穴の前記大径部にあることにある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】削除
【補正の内容】