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特開2024-87827繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法、および繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087827
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法、および繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240625BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240625BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240625BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/02
B29B11/16
B29B17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202699
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【テーマコード(参考)】
4F072
4F401
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB22
4F072AC12
4F072AD37
4F072AD46
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH46
4F072AK02
4F072AK15
4F072AL02
4F401AA28
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401BB09
4F401CA14
4F401FA04Z
4F401FA07Z
4J002AA011
4J002BB001
4J002CF071
4J002CL031
4J002CN011
4J002DL006
4J002FA046
4J002FB096
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】繊維強化熱可塑性樹脂組成物のリサイクル時に強化繊維の折損を見かけ上再生して優れた機械特性を発現すると共にクローズドリサイクルに有効な繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を得ること。
【解決手段】
熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の成形工程で発生した工程端材、ならびに製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(A)成形品破砕物を得て、該(A)成形品破砕物と、特定の(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物とを、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下となるように、混合することを特徴とする繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(A)成形品破砕物を得て、該(A)成形品破砕物と、(A)成形品破砕物と熱可塑性樹脂種が実質的に同じである(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物とを、混合する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下となるように、(A)成形品破砕物1~99重量%に対して、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物99~1重量%を、混合することを特徴とする繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-35%以上、35%以下であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度と(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-10%以上、10%以下となるように、(A)成形品破砕物1~99重量%に対して、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物99~1重量%を、混合することを特徴とする請求項1に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の密度と(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-15%以上、15%以下であることを特徴とする請求項3に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物が、強化繊維束の周囲を被覆するように熱可塑性樹脂が配置されている芯鞘構造であることを特徴する請求項1に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維が、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかである請求項1~5のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕した(A)成形品破砕物を1~99重量%、ならびに該(A)成形品破砕物と熱可塑性樹脂種が実質的に同じである(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を99~1重量%混合してなる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物であって、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下である、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックの再生利用に関するものであり、再生利用されていない繊維強化熱可塑性樹脂組成物と比較して機械特性の低下が極めて小さい繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、熱可塑性樹脂のリサイクルが加速しており、特に使用後の製品を同じ製品としてリサイクルするクローズドリサイクルの要求が高まっている。
【0003】
熱可塑性樹脂は、ガラス繊維や炭素繊維に代表される強化繊維を配合して繊維強化樹脂組成物として用いられるが、繊維強化樹脂組成物は成形および再生の工程で強化繊維が破損するため、再生利用した樹脂組成物(以下、再生材とする)は再生利用されていない樹脂組成物(以下、未使用材とする)に比べ機械特性が低下する課題があり、未使用材に再生材を10~20%程度混合してリサイクルすることが一般的であった。
【0004】
これらの問題に対し、繊維強化樹脂組成物の再生材の強度向上手法として、リサイクル樹脂組成物の成形において発生する回収成形物の粉砕品をペレット化せずに、原料樹脂および樹脂用添加剤とを含む混合物とし、溶融混練したリサイクル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、リサイクル樹脂と長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを混合することで、リサイクル樹脂組成物の強度を向上する手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-26719号公報
【特許文献2】特開平11-166054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法は、回収成形物の熱履歴を減らす手法であり、リサイクル樹脂組成物のガラス繊維が更に折損することは抑制できるが、既にガラス繊維が折損して機械特性が低下したものを再生する技術とは言いがたい。また、特許文献2はリサイクル樹脂組成物中のガラス繊維長のみかけ上の再生が可能だが、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットのガラス繊維量や比重がリサイクル樹脂とは異なるため、得られるリサイクル樹脂組成物の組成をリサイクル樹脂とは同組成にできず、クローズドリサイクルには適用できない。本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物のリサイクル時に強化繊維の折損を見かけ上再生して優れた機械特性を発現すると共に、クローズドリサイクルに有効な繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる成形品を破砕して得られた成形品破砕物に、特定の長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を特定量混合することで、組成の変動を抑制しながら折損した強化繊維を見かけ上再生させることで、上記課題が解消されることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(A)成形品破砕物を得て、該(A)成形品破砕物と、(A)成形品破砕物と熱可塑性樹脂種が実質的に同じである(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物とを、混合する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下となるように、(A)成形品破砕物1~99重量%に対して、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物99~1重量%を、混合することを特徴とする繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
2.前記(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-35%以上、35%以下であることを特徴とする1項に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
3.前記繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度と、(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-10%以上、10%以下となるように、(A)成形品破砕物1~99重量%に対して、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物99~1重量%を、混合することを特徴とする1または2項に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
4.前記(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の密度と(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-15%以上、15%以下であることを特徴とする1~3項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
5.前記(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物が、強化繊維束の周囲を被覆するように熱可塑性樹脂が配置されている芯鞘構造であることを特徴する1~4項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
6.前記強化繊維が、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかである1~5項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
7.熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕した(A)成形品破砕物を1~99重量%、ならびに該(A)成形品破砕物と熱可塑性樹脂種が実質的に同じである(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を99~1重量%混合してなる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物であって、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下である、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、リサイクル後であっても、未使用材を使用した場合と同等の機械的強度、成形加工性を保持しつつ、射出成形用途などの広範な分野での利用が可能となる。これらの特性を有する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、サーキュラーエコノミーの実現に貢献する材料となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明における繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(A)成形品破砕物を得て、該(A)成形品破砕物と、特定の(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物とを、混合することが特徴である。
【0012】
本発明における(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物との混合とは、(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を押出機等で溶融混練することも含まれるが、(A)成形品破砕物のガラス繊維の折損を抑制する観点から溶融混練を伴わない混合も含まれる。例えば(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物のペレットを、ペレットブレンドすることが好ましい。
【0013】
(A)成形品破砕物は、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材の破砕物を含む。工程端材とは、たとえば、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造工程、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の成形工程から選択される少なくともいずれかの工程で発生した工程端材であって、たとえば、繊維強化熱可塑性樹脂を射出成形等で成形した成形品の破砕物や、射出成形した際に回収されたスプルー、ランナー等の破砕物をいう。繊維強化熱可塑性樹脂は、二種類以上の繊維強化熱可塑性樹脂を含有するものであってもよい。また、(A)成形品破砕物は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として市場で使用後に回収された成形品の破砕物を含む。サーキュラーエコノミー実現の観点で、(A)成形品破砕物は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として市場で使用後に回収された成形品の破砕物であることが好ましく、係る成形品は、本発明の製造方法で得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物から構成されることがより好ましく、複数回再生利用された成形品破砕物であることが特に好ましい。
【0014】
(A)成形品破砕物が製品として市場で使用後に回収された成形品の破砕物である場合は、汚れ成分による機械特性の低下や臭気を抑制する観点で、破砕の前または後のいずれかで溶媒で洗浄し、付着物を除去することが好ましい。溶媒としては、水や有機極性溶媒が挙げられ、コストの観点からは水が好ましく、汚れ成分を効率的に除去する観点からは有機極性溶媒が好ましく、溶媒は複数種を混合して用いてもよく、有機極性溶媒で洗浄後、水で洗浄するなど2段階で洗浄してもよい。洗浄の方法としては、溶媒により付着物を除去することができる方法であれば特に制限はないが、槽に成形品を浸漬し、撹拌後に成形品を取り出すバッチ式洗浄方法や、ベルトコンベアーやロータリースクリーンで成形品を搬送中に溶媒をかける連続式洗浄方法が挙げられる。また、洗浄効率の向上を目的に、洗浄前に予め粗く破砕することも可能である。
【0015】
(A)成形品破砕物は樹脂材料のみからなる製品であれば取り扱いが容易であるが、本発明では金属除去を行えば、樹脂と金属とのインサート成形品でも差し支えない。また、少量の金属部品を含んでいてもよく、その場合、金属部品を回収時に除去することは生産性の低下を伴うため、成形品破砕物の製造工程内に金属除去装置を用いることが好ましい。金属除去装置の具体例としては、マグネットに金属を付着除去させる方法や、磁力式、渦電流式の選別装置が挙げられる。
【0016】
(A)成形品破砕物は、成形品を破砕した後、さらに破砕物を溶融混練して得た成形品破砕物ペレットであってもよく、この場合は、(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を混合する際に生じる分級や、押出機や成形機への供給不良が解決でき、好ましい。
【0017】
成形品破砕物ペレットを得る際の溶融混練は、単軸または二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に原料を供給して溶融混練する方法などを代表例として挙げることができるが、強化繊維の折損および熱可塑性樹脂の熱劣化を抑制するために、単軸押出機による溶融混練が好ましい。
【0018】
(A)成形品破砕物は、押出機や成形機に供給し得る大きさであることが好ましく、破片の長軸寸法が1~20mm以下であることがより好ましい。
【0019】
(A)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂とは、加熱と冷却による溶融と固化が可逆的な樹脂であり、具体例として、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、およびそれらの共重合体、ならびにこれらのうち複数の樹脂からなるポリマーアロイが代表例として挙げられ、加工時の溶融粘度を低くして強化繊維の折損を抑制するために、結晶性樹脂が好ましい。
【0020】
(A)成形品破砕物を構成する強化繊維とは、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、ならびにアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、および金属繊維等が挙げられ、これらを併用することも可能である。入手性やコストや性能のバランスからガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。
【0021】
さらに、強化繊維の表面をエポキシ化合物やイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物等のカップリング剤で予備処理し、強化繊維の集束性や樹脂配合時の分散性を向上させた強化繊維が好ましく、このような強化繊維は、熱可塑性樹脂との界面の密着性や分散性が向上して、高い強度向上効果や耐熱性、耐薬品性が得られる。
【0022】
また、強化繊維径は1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましく、5~20μmが特に好ましい。強化繊維径が小さい程、引張強度や曲げ強度の向上効果を得ることができ、繊維径が大きい程、成形で繊維が折れにくく、衝撃強度の向上効果を得ることができると共に、繊維間の空隙が増えることで樹脂の含浸性が向上する傾向がある。繊維径を上記範囲内とすることで、機械強度と含浸性を両立でき好ましい。
【0023】
本発明における(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中に、後記する数平均繊維長(Ln)が0.5mm以上である強化繊維を含む樹脂組成物である。Lnを大きくして、効率よく繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物に含まれる強化繊維の繊維長を見かけ上再生する観点で、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中にペレットの長さ方向に揃えられた強化繊維束を含有し、ペレットの長さが実質的に強化繊維束の繊維長となる樹脂組成物であることが好ましい。さらに、ペレットの長さは、強度向上効果と取り扱い性の観点から3.0~50mmが好ましく、(A)成形品破砕物との混合性から20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、分級を抑制する観点から7.0mm以下が特に好ましい。
【0024】
本発明における(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、クローズドリサイクル実現の観点で、(A)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂種と実質的に同じ熱可塑性樹脂を使用する必要がある。ここで、実質的に同じとは、樹脂の繰り返し単位が同じであることをいい、公知の分光分析法や、元素分析法や、熱分析法によって同定を行うことが有効である。また、相溶する熱可塑性樹脂の組み合わせも実質的に同じ熱可塑性樹脂である。相溶する、とは異なる熱可塑性樹脂をポリマーブレンドした場合に単一相を形成する挙動であり、公知の相構造観察等によって同定を行うことが有効である。一方、強化繊維束により悪化する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の流動性を確保するため、実質的に同じ熱可塑性樹脂であっても、分子量を低くする等、(A)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂より、流動性が優れることが好ましい。さらに、(A)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂がポリマーアロイの場合、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂も実質的に同じポリマーアロイであることが好ましい。
【0025】
本発明における(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を構成する強化繊維は、クローズドリサイクル効率化の観点で、(A)成形品破砕物を構成する強化繊維と実質的に同じ強化繊維を含むことが好ましい。ここで、実質的に同じとは、構成する元素や組成が同じであることをいい、例えば、Eガラスのように、同じ組成として扱われる範囲内にある強化繊維であることをいう。これらは公知の分光分析法や、元素分析法や、熱分析法によって同定を行うことが有効である。
【0026】
本発明における(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、クローズドリサイクル実現の観点で、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が、-35以上、35%以下であることが好ましい。さらに、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の品質の変化を抑制する観点で、その下限は-20%以上が好ましく、-15%以上がより好ましく、-10%以上が特に好ましく、上限は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。また、成形性の変化を抑制する観点で、下限は-5%以上が殊更に好ましく、上限は5%以下が殊更に好ましい。
【0027】
なお、灰分率は、(A)成形品破砕物または(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を、550℃で3時間焼成して得た残渣の重量を焼成前の重量で除した値の百分率である。
【0028】
本発明における(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、クローズドリサイクル実現の観点で、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の密度(単位:g/cm)と(A)成形品破砕物の密度との差を(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-15%以上、15%以下であることが好ましい。繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の品質の変化を抑制する観点で、その下限は-10%以上が好ましく、-5%以上がより好ましく、-3%以上が特に好ましく、上限は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下が特に好ましい。なお、(A)成形品破砕物および(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の密度は、ISO1183:2019に従い測定する。
【0029】
本発明における(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物における強化繊維束の含有量は強度補強効果と繊維束の分散性の観点から、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を100重量%としたとき、10~80重量%が好ましく、(A)成形品破砕物中の折損した強化繊維を効率よく補填する観点から、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の毛羽立ちに伴う押出機への供給不良の観点から70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましい。
【0030】
このような(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、連続ガラス繊維束を直接押出機に投入するダイレクトロービング法や、連続ガラス繊維束に樹脂を含浸するプルトリュージョン法や連続強化繊維束に樹脂を被覆する方法で得られる。マトリックスとなる熱可塑性樹脂は、(A)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂と同じ熱可塑性樹脂か同程度の流動性を有する熱可塑性樹脂を用いることが好ましいため、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、マトリックス樹脂の流動性に制限がかかりにくい方法で製造されることが好ましい。
【0031】
特に(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂がポリマーアロイの場合、連続強化繊維束に樹脂を含浸するプルトリュージョン法は含浸性に制約が生じることがある。その理由は製造温度を高温にして繊維を含浸させるため、特に耐熱性が低いポリマーの熱劣化やゲル化が生じるためである。
【0032】
このような(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、強化繊維束の周囲を被覆するように、熱可塑性樹脂が配置されている芯鞘構造として製造することが好ましい。一般的にこのように電線被覆の要領で製造された芯鞘構造は、連続繊維の分散性が悪いために、各種成形によって得られた成形品に繊維の分散不良が認められることが多い。そのため、強化繊維の分散性を向上させるために、被覆層である熱可塑性樹脂組成物に熱可塑性樹脂と強化繊維の接着性を高める化合物を含有させることが好ましい。接着性を高める化合物は、熱可塑性樹脂や強化繊維種によるため一概には言えないが、例えば、有機物と無機物の接着性を高める化合物として公知のアルコキシシラン化合物が好ましく、熱可塑性樹脂種の官能基と反応する官能基を有することがより好ましい。また、強化繊維の表面処理に用いた化合物と反応する官能基を有することが特に好ましく、強化繊維の中でも特にガラス繊維と組み合わせることが殊更に好ましい。
【0033】
本発明における連続した強化繊維束は、強化繊維の表面をエポキシ化合物で表面処理したものが好ましく、強化繊維の分散性が向上する。エポキシ化合物としては、例えば、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、などが挙げられる。これらは、一種単独で使用、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本発明における連続した強化繊維束は、熱可塑性樹脂組成物との分散性を高める観点からアルコキシシラン化合物で表面処理されていることも好ましく、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ウレイドシラン、などが挙げられる。ここでエポキシシランは、上記エポキシ化合物にも該当するため好ましい。
【0035】
本発明における連続した強化繊維束は、部分的にイソシアネート系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物等のカップリング剤で予備処理することも、分散性や界面の密着性向上の観点から好ましい。
【0036】
連続した強化繊維束の表面処理とは、強化繊維の製造工程において、強化繊維のモノフィラメントに上記の化合物を含む溶媒を塗布した後、加熱により溶媒を蒸発させて皮膜を形成させる方法、強化繊維のモノフィラメントを結束して強化繊維束を得たあと、二次処理として上記の化合物を含む溶媒を塗布する方法、上記の化合物を直接塗布して付着させる方法など、いずれの方法でもよい。
【0037】
本発明における連続した強化繊維束の強熱減量は、0.3~25重量%以下が好ましい。強熱減量は、強化繊維束に付着した有機化合物量の指標であるが、強熱減量を上記範囲とすることで、一般的に強化繊維の分散性が劣る芯鞘構造のような長繊維強化熱可塑性樹脂組成物であっても、成形時に強化繊維の分散性を高め、優れた外観の成形品が得られる。強熱減量の好ましい範囲は、熱可塑性樹脂や強化繊維種によるため一概には言えないが、その下限は0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましく、界面接着性を高める観点で、3.0重量%以上がさらに好ましく、5.0重量%以上が特に好ましい。クローズドリサイクル時のガス量を低減する観点から、その上限は、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。なお、ここでの強熱減量は、JIS R3420(2013)に従い測定して求められる値である。
【0038】
本発明の(A)成形品破砕物、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、非繊維充填材として、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが配合されていてもよく、これらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、電気特性、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
【0039】
(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物に上記の非繊維充填材を配合する場合、連続強化繊維束に樹脂を含浸するプルトリュージョン法は、非繊維充填材を配合することで熱可塑性樹脂組成物の粘度が高くなるため、含浸性に制約が生じることがある。この場合、前記の通り、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は連続強化繊維束を芯構造として、その周囲を熱可塑性樹脂と非繊維充填材を配合してなる樹脂組成物で被覆するように配置された芯鞘構造として製造することが好ましい。
【0040】
本発明の(A)成形品破砕物、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、フェノール系酸化防止剤や、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。このような添加剤は、発明の効果を損なわない程度に0.01~5重量%配合することが好ましい。
【0041】
本発明における繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物に加えて、適宜、(C)繊維強化熱可塑性樹脂組成物を配合してもよい。本発明の(C)繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる樹脂組成物であり、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物に該当するものは含まれない。特にクローズドリサイクルの効率化を図る観点で、(C)繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、(A)成形品破砕物の未使用材であることが最も好ましい。なお、「(A)成形品破砕物の未使用材」とは、(A)成形品破砕物の原料となる成形品を構成する樹脂組成物であって、再生利用されていない樹脂組成物のことを指す。
【0042】
本発明における繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、クローズドリサイクル実現の観点で、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と、(A)成形品破砕物の灰分率の差を(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下となるように、(A)成形品破砕物1~99重量%に対して、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物1~99重量%を、混合することが必要である。繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の品質の変化を抑制する観点で、その下限は、-15%以上がより好ましく、-10%以上が特に好ましく、-5%以上が殊更に好ましい。その上限は15%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましく、5%以下が殊更に好ましい。
【0043】
なお、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率は、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を550℃で3時間焼成して得た残渣の重量を焼成前の重量で除した値の百分率である。
【0044】
本発明における繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度と、(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-10%以上、10%以下となるように、(A)成形品破砕物1~99重量%に対して、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物99~1重量%を混合することが好ましい。繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の品質の変化を抑制する観点で、その下限は、-5%以上がより好ましく、-3%以上が特に好ましく、-1%以上が殊更に好ましい。その上限は5%以下がより好ましく、3%以下が特に好ましく、1%以下が殊更に好ましい。なお、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度は、ISO1183:2019に従い測定する。
【0045】
このような範囲を満たすのであれば、(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の混合割合に制限はないが、リサイクル性を高める観点で、(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の合計を100重量%としたときに、(A)成形品破砕物は、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましく、環境低負荷の観点から50重量%以上が特に好ましく、70重量%以上が殊更に好ましい。また、(A)成形品破砕物の配合量の上限は、優れた特性を発現させる観点から、90重量%以下が好ましい。
【0046】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、(A)成形品破砕物を1~99重量%、ならびに該(A)成形品破砕物と熱可塑性樹脂種が実質的に同じである(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を99~1重量%を混合してなる。また、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が-20%以上、20%以下である特長を有する。灰分率は、熱可塑性樹脂組成物中に含まれる強化繊維や非繊維充填材等の無機物の配合量の指標であり、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の機械特性や成形性に大きな影響を与える。ゆえに、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率を上記範囲とすることで、(A)成形品破砕物と同様の機械特性や成形性を有する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物が得られる。クローズドリサイクル実現の観点で、その下限は、-15%以上がより好ましく、-10%以上が特に好ましく、-5%以上が殊更に好ましい。その上限は15%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましく、5%以下が殊更に好ましい。
【0047】
上記灰分率の差の百分率の値は、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物中における(A)成形品破砕物や(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の配合比率を変更することで調整でき、灰分率が既知の(A)成形品破砕物や(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いると、それらの配合比率から繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率を予測できるため好ましい。しかし、(A)成形品破砕物の灰分率と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率の差が大きい場合は、上記灰分率の差の百分率を得るための配合比率に制限が生じるため、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差を、(A)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が前記範囲となるような(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0048】
サーキュラーエコノミーに貢献する観点で、(A)成形品破砕物は、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましく、環境低負荷の観点から50重量%以上が特に好ましく、70重量%以上が殊更に好ましい。また、(A)成形品破砕物は、優れた特性を発現させる観点から、90重量%以下が好ましい。
【0049】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、(A)成形品破砕物と同様の製造条件で、成形品品質を安定化させる観点で、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度と、(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が-10%以上、10%以下となることが好ましい。その下限は、-5%以上がより好ましく、-3%以上が特に好ましく、-1%以上が殊更に好ましい。その上限は5%以下がより好ましく、3%以下が特に好ましく、1%以下が殊更に好ましい。
【0050】
上記密度の差の百分率の値は、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物中における(A)成形品破砕物や(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の配合比率を変更することで調整でき、密度が既知の(A)成形品破砕物や(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いると、それらの配合比率から繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度を予測できるため好ましい。しかし、(A)成形品破砕物の密度と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の密度の差が大きい場合は、上記密度の差の百分率を得るための配合比率に制限が生じるため、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の密度と(A)成形品破砕物の密度の差を、(A)成形品破砕物の密度で除した値の百分率が前記範囲となるような(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物における強化繊維の配合量は、優れた強度を得るために20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。
【0052】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、(A)成形品破砕物に由来する折損した短い強化繊維と、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物に由来する長い強化繊維が混在するため、繊維長分布が広い成形品が得られる。その結果、短い強化繊維由来の流動性を維持しながら、長い強化繊維由来の特性を発現しやすい他、強化繊維の配向を好ましく変化させることが可能となり、(A)成形品破砕物の特性を飛躍的に向上させるだけでなく、(A)成形品破砕物の未使用材の特性をも凌駕する特性を発現することが可能である。このような成形品の繊維長分布は、強化繊維の重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の比(以下、Lw/Ln)で表すことができ、含有する強化繊維の種類や、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の配合量にもよるため一概には言えないが、Lw/Lnは2.0以上、5.0以下である特徴を有する。Lw/Lnが大きい程、長い強化繊維が短い強化繊維に対して残存していることを表し、Lw/Lnは、機械特性と流動性を両立させる観点で2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましい。成形品の品質安定性の観点で、Lw/Lnは4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。Lw/Lnは、(A)成形品破砕物と(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の種類や量を調整して混合することで、調整が可能となる。
【0053】
繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の、強化繊維の重量平均繊維長は、強化繊維の種類によるため一概には言えないが、優れた機械特性と流動性確保の観点から50~5000μmであることが好ましい。優れた機械特性を得る観点から100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、金属代替用途に用いる観点から300μm以上がさらに好ましい。また、Lw/Lnが好ましい範囲である場合は、更に機械特性と流動性の両立が可能であることから、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが特に好ましい。また、優れた流動性を得る観点から4000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましく、2000μm以下が特に好ましい。
【0054】
ここで、強化繊維の重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)は、熱可塑性樹脂組成物ペレット、または熱可塑性樹脂組成物ペレットを射出成形して得たISO(1A)成形品を焼成して得た強化繊維を、光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1000本の強化繊維の長さを測定し、その測定値(μm)を用いて以下の式に基づき計算した値である。
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×ni)/Σ(Li×ni)
Li:強化繊維の繊維長
ni:繊維長Liの強化繊維の本数。
【0055】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の引張強度、曲げ強度、シャルピー衝撃強さに代表される機械特性は、(A)成形品破砕物の機械特性の1.0倍以上となるが、再生材の適用範囲を広げるため、1.3倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、1.8倍以上が特に好ましく、2.0倍以上が殊更に好ましい。その上限は、クローズドリサイクル実現の観点で未使用材と同等の成形加工性を得る観点から3.0倍以下が好ましく、2.5倍以下がより好ましい。
【0056】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、様々な成形方法に適用可能であり、例えば押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。
【0057】
本発明の製造方法によって得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は多くの用途に適用できるが、特にサーキューラーエコノミーの要求が高まる自動車部材用途への適用が好ましい。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、次の方法により行った。
【0059】
(1)灰分率
各参考例、実施例および比較例により得られた樹脂組成物を秤量後、ルツボに入れ550℃に設定した電気炉内で3時間焼成することにより、強化繊維の残渣を得た。この残渣を秤量し、焼成前のサンプル重量に対する強化繊維の重量割合を算出して灰分率を求めた。
【0060】
(2)密度
各参考例、実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、ISO1183(2019)に準じて求めた(単位:g/cm)。
【0061】
(3)射出成形による試験片作成
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物について、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、PBT樹脂であれば、シリンダー温度250℃、金型温度80℃、PA6樹脂であれば、シリンダー温度250℃、金型温度80℃、PA66樹脂であれば、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、PPS樹脂であれば、シリンダー温度310℃、金型温度140℃の条件で、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。
【0062】
(4)機械特性
上記(3)項で得たISO(1A)ダンベル試験片について、ISO179(2010)に従い、シャルピー衝撃強さ(ノッチあり)を評価した。
【0063】
(5)分散性
上記(3)項で得られたISO(1A)ダンベル試験片を目視で評価し、1cm以上の強化繊維束の分散不良が認められた試験片の本数に応じて、以下の3段階で評価した。
○:試験片50本の内0本
△:試験片50本の内1~3本。
×:試験片50本の内4本以上。
【0064】
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下に示す。
(A-1)市場での使用後に回収された水廻り製品から、PPS-GFと印字された組成比が不明なPPS樹脂組成物を取り外して、長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕して破砕品をメッシュドラム式洗浄装置内にて50℃の温水を用いて洗浄し、エアブローにより水切りを行い、成形品破砕物を得た。灰分率は33重量%で、密度は1.54g/cmで、オレフィン系ポリマーを約7重量%、PPSを約60重量%を含むポリマーアロイであった。
(A-2)水廻り製品に用いる部品としてPPSとガラス繊維からなる樹脂組成物を成形した際に発生したスプルー/ランナーを長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕して成形品破砕物を得た。灰分率は31重量%で、密度は1.52g/cm、オレフィン系ポリマーを約5重量%、PPSを約65重量%含むポリマーアロイであった。
(A-3)自動車用途の部品として、PBTとガラス繊維からなる樹脂組成物を成形した際に発生したスプルー/ランナーを長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕して成形品破砕物を得た。灰分率は31重量%で、密度は1.54g/cm、PBTを約70重量%含んでいた。
(A-4)自動車用途の部品として、PA66とガラス繊維からなる樹脂組成物を成形した際に発生したスプルー/ランナーを長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕して成形品破砕物を得た。灰分率は31重量%で、密度は1.37g/cm、PA66を約70重量%含んでいた。
(A-5)スポーツ用品に用いる部品として、PA6と炭素繊維からなる樹脂組成物を成形した際に発生したスプルー/ランナーを長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕して成形品破砕物を得た。灰分率は29重量%で、密度は1.26g/cm、PA6を約70重量%含んでいた。
【0065】
[参考例1](B-1)ガラス長繊維強化PPS樹脂組成物(含浸法)
熱可塑性樹脂組成物としてPPS(東レ製“トレリナ”A900)を340℃で単軸押出機にて溶融混練して、溶融状態とし、これを押出機の先端に取り付けた含浸槽に供給した。さらに、平均繊維径17μmのエポキシ系化合物で集束された強熱減量が0.5重量%のロービングガラス繊維束を連続的に引き取り、前記含浸槽内を通過させることで、ガラス繊維束の単位長さあたりに一定量のPPS樹脂を含浸させた含浸ストランドを得た。前記含浸ストランドを、水冷バスで冷却して5mmの長さに切断することでガラス長繊維強化PPS樹脂組成物(B-1)を得た。配合量はガラス繊維が50重量%、PPS樹脂が50重量%となるように調整した。
【0066】
[参考例2](B-2)ガラス長繊維強化PPS樹脂組成物(含浸法)
熱可塑性樹脂組成物としてPPS(東レ製“トレリナ”A900とA670X01を1:1の混合比率でペレットブレンドした樹脂組成物)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、ガラス長繊維強化PPS樹脂組成物(B-2)を得た。配合量はガラス繊維が30重量%、PPS樹脂が63重量%、オレフィン系ポリマーが7重量%となるように調整した。
【0067】
[参考例3](B-3)ガラス長繊維強化PPS樹脂組成物(被覆法)
東レ製“トレリナ”A900とA670X01を1:1の混合比率でペレットブレンドして、これらの合計100重量部に対して、エポキシ基を含有する有機シラン化合物(信越シリコーン製:KBM303)を0.3部添加したPPS樹脂組成物を、320℃で単軸押出機にて溶融混練して溶融状態とし、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、平均繊維径17μmのエポキシ系化合物で集束された強熱減量が3.0重量%のロービングガラス繊維束をクロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、電線被覆法の要領で、ガラス繊維束の単位長さあたりに一定量のPPS樹脂組成物をガラス繊維束の周囲に被覆したストランドを得た。前記被覆ストランドを、水冷バスで冷却して、5mmの長さに切断することで芯鞘構造のガラス長繊維強化PPS樹脂組成物(B-3)のペレットを得た。配合量はガラス繊維が30重量%、PPS樹脂が63重量%、オレフィン系エラストマーが7重量%となるように、被覆層の厚みを調整した。
【0068】
[参考例4](B-4)ガラス長繊維強化PBT樹脂組成物(被覆法)
熱可塑性樹脂組成物として、PBT(東レ製“トレコン”1401 X06)を用いて、溶融混練温度を250℃としたこと以外は、参考例3と同様にしてガラス長繊維強化PBT樹脂組成物(B-4)を得た。配合量はガラス繊維が30重量%、PBT樹脂が70重量%、となるように被覆層の厚みを調整した。
【0069】
[参考例5](B-5)ガラス長繊維強化PA66樹脂組成物(被覆法)
熱可塑性樹脂組成物として、PA66(東レ製“アミラン”CM3001―N)を用いて、溶融混練温度を290℃としたこと以外は、参考例3と同様にしてガラス長繊維強化PA66樹脂組成物(B-5)を得た。配合量はガラス繊維が30重量%、PA66樹脂が70重量%、となるように被覆層の厚みを調整した。
【0070】
(B-6)炭素長繊維強化PA6樹脂組成物(被覆法)
炭素繊維束の周囲にPA6樹脂組成物が被覆された芯鞘構造の炭素長繊維強化PA6樹脂組成物として、東レ製“トレカ”TLP1060を用いた。
【0071】
[実施例1~12、比較例1~3、参考例6]
各原料を表1、表2に示す割合でドライブレンドした。次いで得られた繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率、密度を測定し、上記(3)項に記載の条件で射出成形し、シャルピー衝撃強さ、および分散性を評価した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
上記表1の実施例と比較例の比較により以下が明らかである。
【0075】
比較例1と比較して実施例1~8は(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を混合したため、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物のシャルピー衝撃強度が向上した。比較例2~3と比較して実施例1は、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の密度が(A)成形品破砕物と近く、クローズドリサイクルに有効であることがわかる。一方、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差が大きいため、クローズドリサイクルに有効な繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を与える混合比率に制限があることがわかる。比較例2~3と実施例2~4の比較により、(B)長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(A)成形品破砕物の灰分率の差が小さくすることで混合比率の設定範囲が広がることがわかる。さらに、実施例5~8は実施例2~4と比べて、強化繊維の分散性が向上しており、被覆法で得られる長繊維強化熱可塑性樹脂組成物はポリマーアロイであっても分散性に優れることが示された。
【0076】
さらに、上記表2の結果より、成形品破砕物としてスプルー/ランナーを用いた場合や、熱可塑性樹脂組成物として他の樹脂を用いた場合でも、同様の効果が得られた。