(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087946
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】押出成形セメント板、この押出成形セメント板から得られるコーナー用部材、コーナー用部材の製造方法、及び押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造
(51)【国際特許分類】
E04F 13/14 20060101AFI20240625BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
E04F13/14 102C
E04F13/08 101Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202862
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000135335
【氏名又は名称】株式会社ノザワ
(74)【代理人】
【識別番号】100143122
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 功雄
(72)【発明者】
【氏名】森木 伸也
(72)【発明者】
【氏名】長江 遙
【テーマコード(参考)】
2E110
【Fターム(参考)】
2E110AA41
2E110AA42
2E110AA57
2E110AB04
2E110AB22
2E110AB26
2E110AB27
2E110AB28
2E110BA12
2E110BB22
2E110BD23
2E110BD26
2E110CC03
2E110CC17
2E110DA03
2E110DA04
2E110DD03
2E110EA04
2E110EA05
2E110EA09
2E110GA33W
2E110GB02Z
2E110GB23W
(57)【要約】
【課題】中空部の埋戻し作業等の後加工工程、及びコーナー用部材専用の口金を不要とすることでコストアップを防ぎ、それと共にリブが設けられたデザインパネルとした場合であっても、入隅部用及び出隅部用のコーナー用部材をいずれも製造することができる押出成形セメント板、この押出成形セメント板から得られるコーナー用部材、コーナー用部材の製造方法、及び押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造を提供する。
【解決手段】複数の中空部が一方向に並設され、90度のコーナー角度に合わせて幅方向端部1aを厚み方向に対して傾斜するように斜めに45度の角度で切除することでコーナー用部材5として使用される押出成形セメント板1である。幅方向端部1aを斜めに切除したときに、切断ライン6に最も近い第2中空部4を完全な形で維持できるコーナー構築用の切除予定部分8を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空部が一方向に並設され、コーナー角度に合わせて幅方向端部又は幅方向任意の部分を厚み方向に対して傾斜するように斜めに切除することでコーナー用部材として使用される押出成形セメント板であって、
前記幅方向端部又は幅方向任意の部分を斜めに切除したときに、その切断面に最も近い前記中空部を完全な形で維持できるコーナー構築用の切除予定部分を有することを特徴とする押出成形セメント板。
【請求項2】
表面側に凸状のリブが形成されている請求項1に記載の押出成形セメント板。
【請求項3】
形状が維持される前記中空部は、当該押出成形セメント板の幅方向端部から1つ目又は2つ目である請求項1又は2に記載の押出成形セメント板。
【請求項4】
前記切断面の傾斜角度は、表面又は裏面を基準として45度である請求項1又は2に記載の押出成形セメント板。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の押出成形セメント板から得られるコーナー用部材であって、
幅方向端部に前記切除予定部分が切除された後の切断面を有し、この切断面に最も近い前記中空部が完全な形で維持されていることを特徴とするコーナー用部材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の押出成形セメント板を用いて製造されるコーナー用部材の製造方法であって、
原料混合物を押出成形し硬化させて前記押出成形セメント板を成形した後、前記切除予定部分を切除してコーナー用部材を得ることを特徴とするコーナー用部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造であって、
前記切除予定部分が切除されたコーナー用部材としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を所要角度で突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材が互いに接合されていることを特徴とする押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造であって、
前記切除予定部分が切除されたコーナー用部材としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を所要角度で目地の間隔を開けて突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材が下地に取り付けられていることを特徴とする押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚を組み合わせて建築物等のコーナー構造を構築する際に用いるコーナー用部材として使用される押出成形セメント板、この押出成形セメント板から得られるコーナー用部材、コーナー用部材の製造方法、及び押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、押出成形セメント板で建築物等のコーナーを構築する場合、コーナー用ではない通常品50の幅方向の一端部を長手方向に45度の角度で切除した後、切除により中空部51の一部が欠けるようにして出現した開口kにモルタル等の充填材52を充填し、充填材52を硬化させてコーナー用部材53とする。その2枚のコーナー用部材53、53の端部同士を突き合わせることで断面くの字型のコーナー材54を構築していた(
図15参照)。
【0003】
このようなコーナー材54を用いる場合、一端部を切除した後に上記のとおり中空部51の一部が欠けるようにして開口kが出現した状態となる。そのため、切除後の開口kの破損を防ぐことや、目地部に不燃材を充填し耐火性能を確保することや、シーリング材を打設し易くするために上記のように欠けた中空部51の埋戻し作業が必要なる。これらの加工工程が必要となることから、製作に時間を要し、コストアップする要因となっていた。
【0004】
表面が平らな押出成形セメント板でコーナー用部材を製造する場合では押出成形の段階で、幅方向端面を所要の角度に傾斜させた成形品とし、2枚のコーナー用部材を組み合わせることができるようにしていた。押出成形セメント板をコーナー用部材の専用品として製造する際、幅方向端部が傾斜していることから押出成形の段階で斜めにはね出した箇所が必ず存在する。一方、表面に凸状のリブが存在する押出成形セメント板を用いてコーナー用部材を製造する場合、斜めにはね出した部分の表面にリブが存在することになり、リブ部分の重量が成形精度に影響する。押出成形直後の粘土状である未硬化の柔らかい段階では、リブ部分の重量の影響により、はね出した部分が下方へ変形することで形状を維持することが難しく、製品のリブの形状や基準寸法精度の確保が困難であった。
【0005】
また、幅方向端面を所要の角度に傾斜させたコーナー用部材として押出成形する場合には、通常の口金とは別にコーナー用部材専用の口金設備を設けることとなり、口金の製造コスト及び維持保管コストが必要となる。
【0006】
特許文献1には、側辺が斜面となっている板体を製造する工程と、板体の斜面同士を接合する工程とを有するコーナー部材の製造方法において、複数の板体が斜面同士を向き合わせ且つ連結部を介して繋がっている平板状の連結板体を押出成形し、その後連結部と板体とを分離することにより前記板体を製造することを特徴とするコーナー部材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のコーナー部材の製造方法では、幅方向端面を所要の角度に傾斜させたコーナー用の専用部材として製造しなければならず、コーナー用部材専用の口金が必要となる。また、表面にリブを有する押出成形セメント板を用いる場合、入隅部のコーナー用部材では、はね出した箇所が下側になるためリブ部分の重量による変形という問題はなく、製造することができる。しかし、出隅部のコーナー用部材を製造する場合、はね出した箇所の変形を防ぐためにはリブ側が下面となり、リブ側の面がローラーや受け鉄板に接触することになり、リブの形状や精度の確保が困難となるため、出隅部用を製造できないといった問題がある。
【0009】
そこで本発明は従来技術の問題点に鑑み、中空部の埋戻し作業等の後加工工程、及びコーナー用部材専用の口金を不要とすることでコストアップを防ぎ、それと共にリブが設けられたデザインパネルとした場合であっても、入隅部用及び出隅部用のコーナー用部材をいずれも製造することができる押出成形セメント板、この押出成形セメント板から得られるコーナー用部材、コーナー用部材の製造方法、及び押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の押出成形セメント板は、複数の中空部が一方向に並設され、コーナー角度に合わせて幅方向端部又は幅方向任意の部分を厚み方向に対して傾斜するように斜めに切除することでコーナー用部材として使用される押出成形セメント板であって、前記幅方向端部又は幅方向任意の部分を斜めに切除したときに、その切断面に最も近い前記中空部の形状を完全な形で維持できるコーナー構築用の切除予定部分を有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の押出成形セメント板によれば、幅方向端部又は幅方向任意の部分を斜めに切除したときに、切断面に最も近い中空部の形状を完全な形で維持できるコーナー構築用の切除予定部分を有するため、中空部の埋戻し作業等の後加工工程、及びコーナー用部材専用の口金が不要となりコストアップを防ぐことができる。それと共に、押出成形して硬化した後に切除予定部分を切除するため変形といった問題は生じず、リブが設けられたデザインパネルとした場合であっても、入隅部用及び出隅部用のコーナー用部材をいずれも製造することができる。
【0012】
前記表面側に凸状のリブが形成されている押出成形セメント板とした場合であっても、押出成形時のリブ部分の重量による変形といった問題はなく、リブを有する良好なコーナー用部材を得ることができる。
【0013】
形状が維持される前記中空部は、当該押出成形セメント板の幅方向端部から1つ目又は2つ目とすることができる。例えば、切除予定部分に他の中空部を形成した場合には、切除後、端から2つ目の中空部の形状が維持されることになる。所要形状の他の中空部を設けることで、後述のように生産効率の向上を図ることができる。
【0014】
前記切断面の傾斜角度を、表面又は裏面を基準として45度とすることで、90度のコーナー角度を構築するための最も汎用的なコーナー用部材が得られ、コーナー構造を精度良く構築することができる。
【0015】
本発明のコーナー用部材は、上記の押出成形セメント板から得られるコーナー用部材であって、幅方向端部に、前記切除予定部分が切除された後の切断面を有し、この切断面に最も近い前記中空部が完全な形で維持されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明のコーナー用部材とすれば、中空部の埋戻し作業等の後加工工程、及びコーナー用部材専用の口金が不要となりコストアップを防ぐことができる。それと共に、押出成形して硬化した後に切除予定部分を切除するため変形といった問題は生じず、リブが設けられたデザインパネルとした場合であっても、入隅部用及び出隅部用のコーナー用部材をいずれも製造することができる。
【0017】
本発明のコーナー用部材の製造方法は、上記の押出成形セメント板を用いて製造されるコーナー用部材の製造方法であって、原料混合物を押出成形し硬化させて前記押出成形セメント板を成形した後、前記切除予定部分を切除してコーナー用部材を得ることを特徴とするものである。
【0018】
本発明のコーナー用部材の製造方法とすれば、前記押出成形セメント板を成形した後、切除予定部分を切除してコーナー用部材を得るため、中空部の埋戻し作業等の後加工工程が不要となるだけではなく、切除予定部分に関する一部の口金部品のみを交換すればよいため、成形口金設備の大掛かりな新設、製造時の成形口金設備の交換作業による生産性の低下を防止でき、コストダウンを図ることができる。
【0019】
本発明のコーナー構造は、上記の押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造であって、前記切除予定部分が切除されたコーナー用部材としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を所要角度で突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材が互いに接合されていることを特徴とするものである。
【0020】
本発明のコーナー構造によれば、切除予定部分が切除されたコーナー用部材としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を所要角度で突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材が互いに接合されているため、中空部の埋戻し作業等の後加工工程が不要となり、コストアップを防ぐことができる。さらに、切除予定部分を切除した後の切断面をそのまま接合することでコーナー構造を構築できるため、作業効率を向上させることができる。
【0021】
本発明のコーナー構造は、上記の押出成形セメント板を用いて構築されるコーナー構造であって、前記切除予定部分が切除されたコーナー用部材としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を所要角度で目地の間隔を開けて突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材が下地に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明のコーナー構造によれば、切除予定部分が切除されたコーナー用部材としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を所要角度で目地の間隔を開けて突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材が下地に取り付けられているため、中空部の埋戻し作業等の後加工工程が不要となり、コストアップを防ぐことができる。さらに、切除予定部分を切除した後の切断面をそのまま目地部としてコーナー構造を構築できるため、作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、中空部の埋戻し作業等の後加工工程、及びコーナー用部材専用の口金が不要となりコストアップを防ぐことができる。押出成形して硬化した後に切除予定部分を切除するため変形といった問題は生じず、リブが設けられたデザインパネルとした場合であっても、入隅部用及び出隅部用のコーナー用部材をいずれも製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る押出成形セメント板の端面図である。
【
図2】
図1の押出成形セメント板を用いて構築したコーナー構造の端面図である。
【
図4】
図2のコーナー構造を別の視点から見た斜視図である。
【
図5】(a)は本発明の第2実施形態に係る押出成形セメント板の端面図である。(b)は本発明の第3実施形態に係る押出成形セメント板の端面図である。
【
図6】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図5(a)、
図1及び
図5(b)に対応するリブ等の変形例である。
【
図7】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図5(a)、
図1及び
図5(b)に対応するリブの変形例である。
【
図8】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図5(a)、
図1及び
図5(b)に対応するリブの変形例である。
【
図9】(a)及び(b)は切除予定部分を嵌合凹部側に設けた本発明の第4及び第5実施形態を示す端面図である。
【
図10】(a)及び(b)は出隅部及び入隅部の両方に対応可能とする本発明の第6及び第7実施形態を示す端面図である。
【
図11】(a)は、嵌合凸部側及び嵌合凹部側の両方に切除予定部分を形成した本発明の第8実施形態を示す端面図であり、(b)及び(c)は、切除予定部分を中央部に形成した本発明の第9及び第10実施形態を示す端面図である。
【
図12】(a)及び(b)は表面が平滑な押出成形セメント板に適用した本発明の第11及び第12実施形態を示す端面図である。
【
図13】
図12(a)又は(b)を用いて構築したコーナー構造の端面図である。
【
図14】(a)はコーナー用部材で役物部材を構成した例を示す端面図であり、(b)はそれを内側から見た斜視図である。
【
図15】コーナー構造の従来例を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明は、幅方向端部に傾斜部を有する押出成形セメント板からなるコーナー用部材を押出成形するのではなく、外観上は通常品と変わりのない押出成形セメント板を押出成形した後に一部を切除し、押出成形セメント板の長手方向において中空部の一部が欠けるようにして出現する開口を生じさせずにコーナー用部材を得るものである。
図1は本発明の第1実施形態に係る押出成形セメント板1の端面図である。
【0026】
押出成形セメント板1は、縦張り工法又は横張り工法で建物の躯体に取り付けられる外装材であり、水、セメント、骨材、繊維等を混練した混合物を押出成形機で押し出し、養生硬化後、所定寸法に切断して製作される。押出成形セメント板1には、断面矩形状に形成された複数の中空部が押出方向である長手方向に向けて互いに平行して構成されている。
【0027】
複数の中空部が構成されていることで、押出成形セメント板1の表面側基材と背面側基材を繋ぐ複数の隔壁が形成されている。縦横に張られた押出成形セメント板1によって、例えば建物の壁面が構成される。建物のコーナーでは押出成形セメント板1からなる2つのコーナー用部材5を所要角度で目地の間隔を開けて突き合わせこれらを下地材に取り付けることによってコーナー構造が構築される。
【0028】
図1に示すように本実施形態の押出成形セメント板1の表面側には複数の凸状のリブ2が形成されている。幅方向の一端部には嵌合する際のオス側としての嵌合凸部が形成され、他端にはメス側としての嵌合凹部が形成されている。複数の中空部は同形状の複数の第1中空部3と、幅方向端部1aに近い1つの第2中空部4からなる。第1中空部3は通常の矩形状であり、第2中空部4は第1中空部3とは異なる異形の中空部となっている。
【0029】
押出成形セメント板1は、幅方向端部1aを斜めに切除することでコーナー用部材5として使用可能となっている。押出成形セメント板1はコーナー用部材5として建物のコーナーに用いられ、それと同時にコーナー以外の壁面を構築するために兼用できる汎用性の高いものである。
【0030】
押出成形セメント板1は、コーナー構造を構築する際のコーナー角度に合わせて幅方向端部1aをリブ2のある表面側から裏面側に向かうに従って内側へ傾斜するように斜めに切除することでコーナー用部材5となる。押出成形セメント板1には、幅方向端部1aを破線で示す切断ライン6で斜めに切除したときに、切断面7に最も近い第2中空部4を完全な形で維持できるコーナー構築用の切除予定部分8を有している。
【0031】
切除予定部分8は嵌合凸部を除いて断面略三角形状となっており、押出成形セメント板1の裏面側片隅部分を切り取るような領域となっている。切除された切除予定部分8は、
図1の切断ライン6から外側の断面略三角形状で、押出成形セメント板1の全長の長さの柱状となる。
【0032】
切除予定部分8を切除した状態で最も端に位置する第2中空部4が完全な形で維持される必要がある。そのため第2中空部4は切断ライン6から逃されるような断面形状となり、裏面側片隅に傾斜部4aが形成されて断面5角形状となっている。切除予定部分8が切除される切断ライン6、切除予定部分8が切除された切断面7の傾斜角度θは、表面又は裏面を基準として45度である。コーナー用部材5で構築されるコーナー構造の角度が90度であることからこの角度となっている。
【0033】
押出成形セメント板1やリブ2の形状及び大きさは限定されず、また複数の第1中空部3、最も端に位置する第2中空部4の形状及び大きさ、切除予定部分8の形状及び大きさは限定されない。本実施形態では切断ライン6の傾斜角度を45度としているが、この角度に限らず、コーナー用部材5で構築するコーナー構造の角度に合わせて切断ライン6の傾斜角度を変更すればよい。例えばコーナー構造が鋭角であれば、本実施形態よりも切断ラインをねかせるようにして傾斜角度を小さくすればよい。コーナー構造が鈍角であれば、本実施形態よりも切断ラインをたたせるようにして傾斜角度を大きくすればよい。それに伴って切除予定部分8及び第2中空部4の形状も変更される。
【0034】
コーナー用部材5を製造するには、押出成形セメント板1を押出成形し硬化させた後、切除予定部分8を切除してコーナー用部材5を得る。コーナー用部材5は、幅方向端部に切除予定部分8が切除された後の傾斜した切断面7を有しており、この切断面7に最も近い第2中空部4が完全な形で維持される。尚、押出成形した後の工程として、一次養生及び二次養生があり、切除予定部分8を切除する場合、一次養生である常圧蒸気養生によりハンドリング強度が付与された後に行うことが望ましい。二次養生であるオートクレーブ養生後では完全に硬化するため、切断刃の摩耗が大きくなり、切断時の抵抗負荷により時間も要することから、切断の効率が悪くなるためである。
【0035】
図2は
図1の押出成形セメント板1を用いて構築したコーナー構造10の端面図であり、
図3は
図2のコーナー構造10の斜視図であり、
図4は
図2のコーナー構造10を別の視点から見た斜視図である。本実施形態のコーナー構造10は、押出成形セメント板1によるコーナー用部材5を用いて構築されるコーナー構造であり、切除予定部分8が切除されたコーナー用部材5としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部である切断面7、7同士を90度で目地の間隔を開けて突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材5、5が下地に取り付けられたものである。
【0036】
図2のように2枚のコーナー用部材5を用いてコーナー構造10とするには、各押出成形セメント板1を切断ライン6で切断して切除予定部分8を切り離す。パネル設置場所で各コーナー用部材5の切断面7に目地を設けて、
図3のようにそれぞれのコーナー用部材5を下地材11に固定する。これにより90度のコーナー角度の出隅コーナーとすることができる。固定された2枚のコーナー用部材5、5間の目地部12には、ウレタン発泡材等によるバックアップ材13、グラスウール等の充填材14、及びシーリング材15が充填されている。尚、
図3及び
図4では、押出成形セメント板を下地に取り付けるためのZクリップと下地が取り付けられている躯体は省略している。
【0037】
押出成形セメント板1の切除予定部分8を45度の傾斜角度で切除してコーナー用部材5とし、2枚のコーナー用部材5、5をその幅方向端部で組み合わせてコーナー構造10を構築するに際し、押出成形セメント板1の最も端に存在する第2中空部4が露出しないようになっている。押出成形セメント板1を上記形状とすることで、一端を傾斜させたコーナー用の専用部材として押出成形する必要がなく、専用の成形口金設備が不要となる。
【0038】
従来の成形口金設備のうち、中空形状を形成する口金の部品である中玉のみを交換することで本実施形態の押出成形セメント板1を製造することができる。具体的には、複数の中空部のうち第1中空部3を形成する中玉はそのまま使用し、切断ライン6に近い第2中空部4を形成する中玉のみを交換して、押出成形する。そのため、最小限の口金部品の交換のみで製造することが可能となる。
【0039】
一般製品とコーナー製品の成形口金設備を兼用することができるので、成形口金全体の交換作業による生産性ダウンや、成形口金設備の維持及び管理によるコストアップを抑えることができる。また上述のとおり、表面にリブが形成された押出成形セメント板を、一端が傾斜したコーナー用の専用部材として製造する場合、押し出した時点の未硬化段階において、リブ部分の重量による影響ではね出した部分が下方へ変形するという問題があり、リブが設けられた専用品の製造は困難であった。
【0040】
これに対して、本実施系形態の切除予定部分8を有する押出成形セメント板1は外観上、通常の押出成形セメント板と変わりはなく、押出成形の段階で、はね出した部分は存在しない。切断ライン6に近いリブ2の下には切除されていない切除予定部分8が存在しており、押し出した時点の未硬化段階において、そのリブ2の下方への変形という問題はなく、押出後の変形を防止することができる。
【0041】
本実施形態によれば、コーナー用部材5を製作するため押出成形セメント板1の幅方向端部1aを斜めに切除したときに、切断面7に最も近い第2中空部4の形状を完全な形で維持できるコーナー構築用の切除予定部分8を有するため、中空部の埋戻し作業等の後加工工程、及びコーナー用部材専用の口金が不要となりコストアップを防ぐことができる。それと共に、押出成形して硬化した後に切除予定部分8を切除するため、変形といった問題は生じず、入隅部用及び出隅部用のコーナー用部材5をいずれも製造することができる。
【0042】
表面側に凸状のリブ2が形成されている押出成形セメント板1とした場合であっても、成形時のリブ部分の重量による変形といった問題はなく、リブ2を有する良好なコーナー用部材5を得ることができる。切断ライン6の傾斜角度θを、表面又は裏面を基準として45度とすることで、90度のコーナー角度を有する最も汎用的なコーナー用部材5が得られ、コーナー構造10を精度良く構築することができる。
【0043】
原料混合物を押出成形し硬化させて押出成形セメント板1とした後、切除予定部分8を切除してコーナー用部材5を得る本実施形態のコーナー用部材の製造方法とすれば、押出成形セメント板1を成形した後、切除予定部分8を切除するため、中空部の埋戻し作業等の後加工工程が不要となるだけではなく、中空形状を形成する口金部品のみを交換すればよいため、成形口金設備の大掛かりな新設、製造時の成形口金設備の交換作業による生産性の低下を防止でき、コストダウンを図ることができる。
【0044】
コーナー用部材5としての2枚の押出成形セメント板の幅方向端部同士を、所要角度で目地の間隔を開けて突き合わせた状態で、当該両コーナー用部材5、5が下地に取り付けられている本実施形態のコーナー構造10によれば、中空部の埋戻し作業等の後加工工程が不要となり、コストアップを防ぐことができる。さらに、2枚のコーナー用部材5、5の各切除予定部分8を切除した後の切断面7、7を、そのまま目地としてコーナー構造10を構築できるため、作業効率を向上させることができる。
【0045】
図5(a)は本発明の第2実施形態に係る押出成形セメント板1の端面図である。本実施形態が上記実施形態と異なる点は、嵌合凸部側端部の切除予定部分8に入り込む形で断面縦長状のサブ中空部17が第1、第2中空部3、4に並行して設けられている点である。サブ中空部17は第1、第2中空部3、4と同じ厚み方向寸法で、幅狭に形成されており、切除予定部分8で切除せず通常の外壁材等として用いた場合には押出成形セメント板1を軽量化することができる。切除予定部分8を切除した後のサブ中空部17による開口領域は小さく抑えられているため、切除した後の埋戻しが不要となる。
【0046】
なお本実施形態の場合、形状が維持される中空部は押出成形セメント板1の幅方向端部から2つ目の第2中空部4となる。切除予定部分8にこのようなサブ中空部17を形成した場合には、切除後、第2中空部4の形状が維持されると共に、切除予定部分8が減少することで、廃棄物量を抑えることができる。
【0047】
図5(b)は本発明の第3実施形態に係る押出成形セメント板1の端面図である。本実施形態が第1実施形態と異なる点は、嵌合凸部側端部の切除予定部分8に断面三角形状のサブ中空部18が第1、第2中空部3、4に並行して設けられている点である。このサブ中空部18の全体が切除予定部分8に形成されている。サブ中空部18の一辺である傾斜部18aが切断ライン6上に位置しており、これにより、サブ中空部18と第2中空部4との境を形成する桟部19が斜めの形状とされている。
【0048】
サブ中空部18の一辺である傾斜部18aが切断ライン6上に位置し、サブ中空部18と第2中空部4との境を形成する桟部19が斜めの形となっていることで、切除予定部分8を切除する際の丸ノコの抵抗負荷が低減され切断しやすくなる。切断する部分は、サブ中空部18の上部端部側である縦基材部分eと裏面側基材部分uのみとなり切断負荷が大きく低減され、生産効率を格段に向上させることができる。さらに、本実施形態のサブ中空部18を設けることで、切除予定部分8で切除せず通常の外壁材等として用いた場合には押出成形セメント板1の軽量化効果も得ることができる。
【0049】
サブ中空部18の一辺である傾斜部18aは切断ライン6上になくてもよく、サブ中空部18を変形させるか、サブ中空部18の位置を変更して
図5(b)の破線で示すように傾斜部18hを切断ライン6より内部側に位置させてもよい。傾斜部18hを切断ライン6より内部側に位置させて、切断ライン6と桟部19とを若干離間させた状態とする。切断ライン6と桟部19との間隔tが5mm以下であれば、耐火性能を確保するために目地内部に充填する不燃材の施工に支障を生じせることはない。サブ中空部18の傾斜部18aを切断ライン6上に位置させるより、切断ライン6より内部側に位置させる方が、必ずしも傾斜部18aと切断ライン6を一致させる必要がないことから加工精度の点で製造しやすくなる。
【0050】
上記のとおり本実施形態では切除予定部分8に、第1、第2中空部3、4に並行する断面角状のサブ中空部18が形成されており、このサブ中空部18の一辺である傾斜部18a、18hが切除予定部分8の切断ライン6上、又は切断ライン6より内部側に位置している。
【0051】
サブ中空部は角状であれば断面三角形状に限定されず、切断ライン6に沿う傾斜部が切断負荷を低減させる程度の長さを有するものであればよい。サブ中空部の傾斜部は切断ラインに完全に沿っていることが好ましいが、切断ラインに対して傾いていてもよい。サブ中空部の形状及び大きさにより、切断時の抵抗負荷の低減度合いが変わる。断面切断距離mに対する断面空間距離nが30%程度以上あれば、抵抗負荷の十分な低減効果を得ることができる。
【0052】
なお本実施形態の場合、形状が維持される中空部は、押出成形セメント板1の幅方向端部から2つ目の第2中空部4となる。切除予定部分8にこのようなサブ中空部18を形成した場合には、切除後、第2中空部4の形状が維持されると共に、切除予定部分8が減少することで、廃棄物量を抑えることができる。
【0053】
本発明の押出成形セメント板は上記の形態に限らず、その他の様々なデザインパネルやフラットパネルに適用することができる。
図6(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図5(a)、
図1及び
図5(b)に対応するリブ等の変形例である。これらの例では、大小の2種類の第1中空部3A、3Bが設けられ、小さい方の第1中空部3Bに対応するリブ内部にリブ中空部21が形成されている。
【0054】
図7(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図5(a)、
図1及び
図5(b)に対応するリブの変形例である。これらの例では、押出成形セメント板1の表面に波状リブ22が形成されている。
図8(a)、(b)及び(c)は、それぞれ
図5(a)、
図1及び
図5(b)に対応するリブの変形例である。これらの例では、押出成形セメント板1の表面に第1実施形態よりも低い高さの低リブ23が形成されている。
【0055】
図9(a)及び(b)は切除予定部分8を嵌合凹部側に設けた本発明の第4及び第5実施形態を示す端面図である。これらの実施形態では、切除予定部分8及び異型の第2中空部4が嵌合凹部側に設けられている。
図9(a)の第4実施形態の押出成形セメント板1には、第2実施形態と同じ断面細長のサブ中空部17が嵌合凸部側に設けられている。
図9(b)の第5実施形態の押出成形セメント板1は表面にリブのないフラット状となっている。
【0056】
図10(a)及び(b)は出隅部及び入隅部の両方に対応可能とする本発明の第6及び第7実施形態を示す端面図である。上記各実施形態では得られるコーナー用部材5を出隅用としているが、本実施形態の押出成形セメント板1では入隅部用のコーナー用部材5を製作することができる。
【0057】
例えば
図1に示す第1実施形態の上記押出成形セメント板1において、入隅部用のコーナー用部材とするには、コーナー角度に合わせて幅方向端部1aを裏面側から表面側に向かうに従って内側へ傾斜するように斜めに切除すればよい。このときの切断ラインは同実施形態と逆向きとなる。それに伴って、第2中空部の形状も変更される。
【0058】
図10(a)及び(b)の第6及び第7実施形態の押出成形セメント板1の嵌合凸部側にはクロスした2つの切断ライン6、25が存在し、一方の切断ライン6は出隅部用であり、他方の切断ライン25は入隅部用となっている。第2中空部4は、出隅用及び入隅用の両方の切断ライン6、25に対応する形状となっており、当該第2中空部4には2つの傾斜部4a、4bが形成されている。
【0059】
図11(a)は嵌合凸部側及び嵌合凹部側の両方に切除予定部分8を形成した本発明の第8実施形態である。嵌合凸部側及び嵌合凹部側のそれぞれの第2中空部4が、切除予定部分8に対応した形状となっている。
図11(b)及び(c)は、切除予定部分8を幅方向中央部に形成し、規格の幅以外のコーナー用部材5を得るための本発明の第9及び第10実施形態を示す端面図である。
【0060】
図11(b)の第9実施系形態では、押出成形セメント板1の幅方向中央部に切除予定部分8が形成され、それに合わせて2つの切断ライン6及び第2中空部4が設けられている。
図11(c)の第10実施形態では、押出成形セメント板1の幅方向両端部及び中央部に3つの切除予定部分8が形成され、それに合わせて4つの切断ライン6及び第2中空部4が設けられている。このように切除予定部分8は、押出成形セメント板1の幅方向端部だけでなく、幅方向中央部等の幅方向任意の部分に設けることができる。
【0061】
規格の幅以外のコーナー用部材を製造するに際して、専用の成形口金を準備するほどの数量がない場合、
図11(b)及び(c)の第9及び第10実施形態のように切除予定部分8を幅方向中央部に設け、1つの押出成形セメント板1から2つのコーナー用部材5、5を製作すればよい。これにより専用の成形口金を準備することなく、規格の幅よりも幅の短いコーナー用部材5を製造できる。切除予定部分8を幅方向中央部にも形成していることから、余分な廃棄物が生じるが、専用の成形口金を必要としないためコストアップを招かない。
【0062】
図12(a)及び(b)は表面が平滑な押出成形セメント板に本発明を適用した第11及び第12実施形態を示す端面図であり、
図13は
図12(a)又は(b)の押出成形セメント板1を用いて構築したコーナー構造26の端面図である。固定された2枚のコーナー用部材5、5間の目地部12には、ウレタン発泡材等によるバックアップ材13、グラスウール等の充填材14、及びシーリング材15が充填されている。
【0063】
2つのコーナー用部材を事前に工場等で予め一体化し、これをコーナー用の役物部材とすることができる。
図14(a)はコーナー用部材5で役物部材30を構成した例を示す端面図であり、(b)はそれを内側から見た斜視図である。
図11(b)或いは(c)のように押出成形セメント板1の幅方向中央部に切除予定部分8を形成したものが使用されている。このような押出成形セメント板1を幅方向中央部の2箇所の切断ライン6、6で切断して、中央部の切除予定部分8を切り離す。2枚となったコーナー用部材5、5の切断面7、7同士をエポキシ樹脂等による接着剤で貼り合わせる。
【0064】
その後、90度の角度で貼り合わされた2枚のコーナー用部材5、5のコーナー内側に、プレートやアングル31をボルト32止めして、これらを補強し役物部材30とする。このような構成とすることで、幅方向端部を45度に成形することができないデザインパネル等の品種を使用した場合であっても、切断部分の埋戻し作業を省略することが可能となり、同作業に要している作業時間及び作業コストを削減することができる。
【0065】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定するものではない。開示した実施形態及び実施例は、本発明に係る押出成形セメント板、コーナー用部材、コーナー用部材の製造方法、及びコーナー構造の例示であり制限的なものではない。押出成形セメント板の躯体等への各種の取付構造の形態は限定されない。
【0066】
本発明は建築物の外壁だけではなく内壁にも用いられる。押出成形セメント板の中空部及びリブの数、形状、配置は本発明の効果を損なわない限りにおいて限定されず、コーナー用部材の製造方法に用いられる工程、及びコーナー構造を構築するために必要に応じて設けられる他の部材は、本発明の効果を損なわない限りにおいてどのような形態のものであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 押出成形セメント板
2 リブ
3 第1中空部
4 第2中空部
4a、4b 傾斜部
5 コーナー用部材
6、25 切断ライン
7 切断面
8 切除予定部分
10、26 コーナー構造
11 下地材
12 目地部
13 バックアップ材
14 グラスウール
15 シーリング材
17、18 サブ中空部
18a、18h 傾斜部
19 桟部
t 切断ラインと桟部との間隔
m 切断距離
n 空間距離
21 リブ中空部
22 波状リブ
23 低リブ
30 役物部材
31 アングル
32 ボルト