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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087952
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】橋梁およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20240625BHJP
   E01D 2/00 20060101ALI20240625BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
E01D19/04 Z
E01D2/00
E01D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202872
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】592136635
【氏名又は名称】株式会社オーイケ
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】大池 秀実
(72)【発明者】
【氏名】大池 悦二
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA13
2D059AA33
2D059CC01
2D059GG30
(57)【要約】
【課題】効率的に施工できる構造の橋梁を提供する。
【解決手段】床板30と、床板の両側がそれぞれ搭載される支承面15aを備えた一対の橋台100とを有する橋梁1であって、一対の橋台の一方の橋台の支承面に埋設されたアンカーバー80が、床板の一方の側に設けられた貫通孔33に、アンカーバー80の周囲にアンカーバー80が移動可能な空間89が設けられた状態で挿入されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床板と、
前記床板の両側がそれぞれ搭載される支承面を備えた一対の橋台とを有する橋梁であって、
前記一対の橋台の一方の橋台の前記支承面に埋設された第1のアンカーバーが、前記床板の一方の側に設けられた第1の貫通孔に、前記第1のアンカーバーの周囲に前記第1のアンカーバーが移動可能な空間が設けられた状態で挿入されている、橋梁。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対の橋台の他方の橋台の前記支承面に埋設された第2のアンカーバーが、前記床板の他方の側に設けられた第2の貫通孔に硬質の充填材により取り付けられている、橋梁。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記一対の橋台のそれぞれの支承面に、前記第1のアンカーバーをねじ込むことができるインサートが埋設されている、橋梁。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記第1の貫通孔は、上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭く、その下に前記空間が設けられた封止部を備えており、前記封止部が硬質の充填材により充填されている、橋梁。
【請求項5】
請求項4において、
前記第2の貫通孔は、上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭い封止部を備えており、前記封止部が硬質の充填材により充填されている、橋梁。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記第1の貫通孔の前記空間に柔軟性の部材が充填されている、橋梁。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記第1のアンカーバーは、上部に弾性体を含む弾性カバーを含み、前記弾性カバーが前記空間に挿入されている、橋梁。
【請求項8】
橋梁の床板を乗せるための支承面を備えた橋台用ブロックであって、
前記支承面に、前記床板を取り付けるためのアンカーバーをねじ込み可能なインサートが埋設されている、橋台用ブロック。
【請求項9】
請求項8において、
前記支承面の後方から立ち上がったパラペット部を含む上部と、前記上部を支持する竪壁部と、前記竪壁部を支持するフーチング部とが一体でプレキャストされた逆T字型を含む、橋台ブロック。
【請求項10】
橋台の支承面に端部が搭載されることにより橋梁を構築する床板であって、
長手方向の両端に前記支承面に埋設されたアンカーバーが挿入される貫通孔を有する、床板。
【請求項11】
請求項10において、
前記貫通孔の上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭い封止部を含む、床板。
【請求項12】
請求項10または11において、
前記長手方向に沿った一方の端に一体で成型された地覆部を含む、床板。
【請求項13】
請求項12において、
前記地覆部の内側の長さが当該床板の長さより短い、床板。
【請求項14】
橋台の支承面に床板を取付けるためのアンカーバーであって、
前記支承面に埋設される下部と、
前記床板の貫通孔に挿入される上部と、
前記上部の少なくとも一部を覆う弾性体を含む弾性カバーとを含む、アンカーバー。
【請求項15】
請求項14において、
前記下部にねじが設けられている、アンカーバー。
【請求項16】
床板の両側のそれぞれを、一対の橋台の支承面にそれぞれ乗せることを有する橋梁の施工方法であって、
前記乗せることは、
前記一対の橋台の一方の橋台の前記支承面に埋設された第1のアンカーバーを、前記床板の一方の側に設けられた第1の貫通孔に、前記第1のアンカーバーの周囲に前記第1のアンカーバーが移動可能な空間を設けられた状態で挿入することを有する。施工方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記一対の橋台の他方の橋台の前記支承面に埋設された第2のアンカーバーを、前記床板の他方の側に設けられた第2の貫通孔に硬質の充填材により取り付けることを有する、施工方法。
【請求項18】
請求項16または17において
前記一対の橋台のそれぞれの支承面に、前記第1のアンカーバーをねじ込むことができるインサートが埋設されており、
前記挿入することは、前記第1のアンカーバーを前記インサートにねじ込むことで前記第1のアンカーバーを前記支承面に埋設された状態とすることを含む、施工方法。
【請求項19】
請求項16ないし18のいずれかにおいて、
前記第1の貫通孔は、上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭く、その下に前記空間が設けられた封止部を備えており、
前記挿入することは、前記空間に柔軟性の部材を充填し、前記封止部に硬質の充填材を充填することを含む、施工方法。
【請求項20】
請求項16ないし18のいずれかにおいて、
前記第1の貫通孔は、上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭く、その下に前記空間が設けられた封止部を備えており、
前記挿入することは、前記第1のアンカーバーの上部に設けられた弾性体を含む弾性カバーを前記空間に挿入し、前記封止部に硬質の充填材を充填することを含む、施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、既設鋼桁橋において、安全でかつ短時間に施工できる落橋防止構造を提供するために左右各橋台にそれぞれ形成された橋台パラペットの外壁面側にそれぞれ橋台パラペット補強部材を取り付けることにより定着部を形成し、この両定着部の間の橋桁を通過して配置したことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-226815
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
橋梁のような両端を支持された梁構造は単純梁と称され、梁の両端は固定ではなく、乗せただけの状態で支持される。単純梁の支持条件は、一端が「ピン支点」、他端が「ローラー支点」となっていることである。一方、橋梁においては、橋体を構成する床板が乗せただけの状態で落下しないようにすることも要求される。さらに、そのような構造を、短期間で、低コストで実現することが要望されており、特に、10m前後、またはそれ未満の橋梁に適した構造が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、床板と、床板の両側がそれぞれ搭載される支承面を備えた一対の橋台とを有する橋梁である。この橋梁は、一対の橋台の一方の橋台の支承面に埋設された第1のアンカーバー(アンカーピン)が、床板の一方の側に設けられた第1の貫通孔に、第1のアンカーバーの周囲に第1のアンカーバーが移動可能な空間が設けられた状態で挿入されている。この橋梁は、両側の橋台の支承面に床板(床版)が乗せられた状態で支持される。さらに、アンカーバーの周りに移動可能な空間が設けられた状態でアンカーバーが貫通孔に挿入されることにより、床板の落下も防止できる。したがって、簡易な構成で、単純梁と、落下防止とを兼ねた構造を実現できる。
【0006】
この橋梁の一対の橋台の他方の橋台の支承面に埋設された第2のアンカーバーは、床板の他方の側に設けられた第2の貫通孔に硬質の充填材、例えば、コンクリートあるいはモルタルにより取り付けられていてもよい。この床板の一方の側がローラー支点となり、他方の側がピン支点として機能する。
【0007】
一対の橋台のそれぞれの支承面に、第1のアンカーバーまたは第2のアンカーバーをねじ込むことができるインサート(埋設金物)が埋設されていてもよい。橋台の施工の際に所定の位置にあらかじめアンカーバーの鉄筋部を埋め込んでもよく、橋台が完成した後に橋台の支承部を削孔してアンカーバーを取り付けて、その後、アンカーバー周辺の孔をコンクリートで埋めてもよい。しかしながら、アンカーバーの姿勢や位置の精度の確保が難しく、フレームなどの治具を用いると工事の規模が大きくなり、精度が低くても対応できるようにすると床板の孔を拡大することになり床板の強度が低下する。さらに、アンカーバーを埋め込んだ支承部の強度も低下しやすい。これに対し、所定の位置にインサートを埋設しておくことにより、簡単に、精度よくアンカーバーを設定できる。
【0008】
さらに、第1の貫通孔は、上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭く、その下に空間が設けられた封止部を備えていてもよい。この封止部をコンクリートなどの硬質の充填材により充填することにより、床板を車両が通過しても、振動などにより径の小さな下方に充填材が沈みにくく、アンカーバーが動く空間を確保できるとともに、床板の表面に凹みが表れるような事態も防止できる。第2の貫通孔についても同様である。第1の貫通孔の空間は柔軟性の部材が充填されて、アンカーバーが移動できる空間が確保されていてもよい。第1のアンカーバーは、上部に弾性体を含む弾性カバーを含み、弾性カバーが空間に挿入されることによりアンカーバーが移動できる空間が確保されてもよい。
【0009】
本発明には、上記の橋梁に適した、橋台用ブロック、床板、アンカーバーも含まれる。橋台は、複数の工場プレハブ(プレキャスト)された橋台用ブロックにより施工されてもよい。橋台用ブロックは、橋梁の床板を乗せる(搭載する)ための支承面を有し、その支承面に、床板を取り付けるためのアンカーバーをねじ込み可能なインサートが埋設されている。橋台用ブロックの一例は、支承面の後方から立ち上がったパラペット部を含む上部と、上部を支持する竪壁部と、竪壁部を支持するフーチング部とが一体でプレキャストされた逆T字型を含むものであってもよい。
【0010】
橋台の支承面に端部が搭載されることにより橋梁を構築する床板は、長手方向の両端に支承面に埋設されたアンカーバーが挿入される貫通孔を有するものである。貫通孔の上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭い封止部を含んでもよい。床板は、長手方向に沿った一方の端に一体で成型された地覆部を含んでもよく、地覆部の内側の長さは、当該床板の長さより短くてもよい。
【0011】
橋台の支承面に床板を取付けるためのアンカーバーは、支承面に埋設される下部と、床板の貫通孔に挿入される上部と、上部の少なくとも一部を覆う弾性体を含む弾性カバーをさらに含んでもよい。アンカーバーは、下部にねじが設けられており、橋台にあらかじめ埋設されたインサートにねじ込むことにより下部が橋台に埋設された状態となってもよい。
【0012】
本発明は、橋梁の施工方法を含む。施工方法は、床板の両側のそれぞれを、一対の橋台の支承面にそれぞれ乗せる(搭載する)ことを有し、その際、一対の橋台の一方の橋台の支承面に埋設された第1のアンカーバーを、床板の一方の側に設けられた第1の貫通孔に、第1のアンカーバーの周囲に第1のアンカーバーが移動可能な空間を設けられた状態で挿入することを含む。一対の橋台の他方の橋台の支承面に埋設された第2のアンカーバーを、床板の他方の側に設けられた第2の貫通孔に硬質の充填材により取り付けてもよい。一対の橋台のそれぞれの支承面に、アンカーバーをねじ込むことができるインサートが埋設されており、第1のアンカーバーおよび/または第2のアンカーバーをインサートにねじ込むことで、それらのアンカーバーを支承面に埋設された状態とすることを含んでもよい。
【0013】
第1の貫通孔は、上部開口付近に、上方の径に対して下方の径が狭く、その下に空間が設けられた封止部を備えており、空間に柔軟性の部材を充填し、封止部に硬質の充填材を充填することを含んでもよい。第1のアンカーバーの上部に設けられた弾性体を含む弾性カバーを空間に挿入し、その上の封止部に硬質の充填材を充填することを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】施工された橋梁の概要を示す図。
図2】橋梁を施工する様子を示す図。
図3】橋台と床板とを接続する様子を示す図。
図4】橋台と床板とを連結する様子を示す図。
図5】橋台と床板にて橋梁を施工する様子を示す図。
図6】橋台ブロックを上方から見た図。
図7】橋台ブロックを側方から見た図。
図8】橋台と床板とを接続する他の例を示す図。
図9】床板に設けられた接続用の貫通孔の例を示す図。
図10】アンカーバーの概要を示す図。
図11】アンカーバーの他の例を示す図。
図12】橋台と床板とを接続する異なる例を示す図。
図13】橋台と床板とを連結する異なる例を示す図。
図14】橋台と床板にて橋梁を施工する異なる例を示す図。
図15】橋梁を上から見た状態を示す図。
図16】橋梁の上部構造の端面および断面図。
図17】橋梁の上部構造の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、本発明の一例である橋梁(橋、橋構造体)の概要を示す。図2に、橋梁1を製造(施工)する様子を示す。橋梁1は、河川2などの障害となるものの上を横断する構造体であり、河川2の護岸5の両側3に配置された橋台100と、両側の橋台100に支持され、河川2を跨ぐように配置された床板ブロック30と、床板ブロック30に設けられた地覆(地覆部)20に設置された防護柵(欄干)40とを含む。橋台100は、一体型で工場プレハブ(プレキャスト)され、強度の高い上部(上部構造)11を備えた複数の橋台ブロック10を設置することにより施工される。また、床板(床版、スラブ板)30も、工場プレハブ(プレキャスト)されており、両側の床板31は地覆20も含めてプレキャストされている。したがって、橋梁1は、これらのプレキャストされたコンクリート製のブロック(部品)10、30および31を現場において組み立てることにより、短期間で施工することができ、施工に要する労力も軽減できる。
【0016】
橋梁1の一例は、スパン(橋台ブロック間の距離)が3mを超え、概ね10m程度以下、さらに好適には、スパンが8m以下の現場で、輪荷重が、例えば、8トン以上の道路4を設置するなどの目的で施工される橋梁1に適している。さらに、河川2などに既存の護岸構造物5がある場所において、護岸構造物5を概ね保存した状態で、河川2を堰き止めたり、流れを変えることなく、最短のスパンで橋梁1を施工する場合に適している。なお、上記の数値は例示であり、これに限定されるものではない。
【0017】
図2に示すように、橋台100を組み立てる橋台ブロック10は、前側(内側)19aに設けられた床板(床版)30および31を支持する支承部15と、支承部15から立ち上がった、後方19bのパラペット部16とを含む上部(上部構造、床板支持部、床板支持構造)11を有する。橋台ブロック10は、さらに、この上部11と、上部11を支持する竪壁部12と、竪壁部12を支持するように前方19aおよび後方19bに延びたフーチング部13とを有し、これらが一体でプレキャストされた逆T字型の橋台ブロックである。本護岸の擁壁5の背面を、橋台ブロック10が搬入および設置できる程度に掘削し、橋台ブロック10を設置(施工)する。その後、橋台ブロック10の上に、床板30および/または地覆20がプレハブされた地覆付きの床板31を乗せる(搭載する)ことで、橋梁1を施工できる。橋台ブロックを現場打ちで施工する場合、型枠を組み外すためのスペースがさらに要求されるが、プレキャストされた本例の橋台ブロック10にはそのようなスペースは要さない。
【0018】
例えば、掘削した領域9に、基礎砕石およびベースコンクリートを含む基礎コンクリート層7を施工し、その上に、高さ調整用のグラウトを介して橋台ブロック10を設置してもよい。この方法により、擁壁5を崩さずに橋台ブロック10を施工でき、橋台ブロック10はプレキャストされているので養生期間も基本的に不要であり、短期間で橋梁1を施工できる。
【0019】
さらに、一対の橋台100を組み立てる橋台ブロック10のそれぞれの支承部15の支承面15aにインサート61が埋設されており、インサート61にアンカーバー80をねじ込み、それらを床板30および31に設けられた貫通孔33に挿入することにより橋台100と床板30および31とを現場で簡単に組み合わせて橋梁1を施工できる。アンカーバー80を現場で支承面15aに埋設してもよいが、施工に手間がかかり、さらに、床板30を乗せて支持するための支承面15aを損傷することとなり、耐久性が低下する。あらかじめ支承面15aにインサート(埋設金物)61を埋設しておき、それにアンカーバー80を取り付けることにより、橋台100に埋設された状態でアンカーバー(アンカーピン)80を設置できる。
【0020】
図3ないし図5に床板30の一方の端を拡大して例示している。床板30には、その長手方向の両側に接続または連結用の貫通孔(第1の貫通孔)33が設けられており、それらにアンカーバー(第1のアンカーバー)80を挿入することにより床板30が橋台100に取り付けられ、橋梁1が組み立てられる。アンカーバー80の一例は、主体となるアンカーピン(鉄筋)81と、その上部(上半部)を覆う弾性カバー(柱体、樹脂体、弾性体部材)82とを含み、アンカーピン81の下側(下半部)はインサート61にねじ込むためのねじ部83が設けられているものである。アンカーバー80の弾性カバー82を貫通孔33に挿入した状態で貫通孔33をコンクリートなどの硬質の充填材39により充填する。これにより、貫通孔33の内部に、弾性カバー82の弾性によりアンカーバー80の周囲にアンカーバー80が移動可能な空間89が設けられる。地覆20が設けられた床板31においても同様に橋台100に取り付けできる。
【0021】
この橋梁1においては、両側の橋台100の支承面15aに床板(床版)30(31)が乗せられた状態で支持される。すなわち、アンカーバー80の周囲に移動可能な領域89が設けられており、床板30は支承面15aの上に前後(左右)に移動できる状態で搭載され(乗せられ)る。一方、アンカーバー80は貫通孔33に挿入され、その内部に収まるので、床板30の落下も防止できる。したがって、橋梁1は、簡易な構成で、単純梁と、落下防止とを兼ねた構造を備えている。
【0022】
長さが数mから10m程度の橋梁の場合、橋台の上に床板(床版、スラブ板)30を設置する際に、アンカーバー(鉄筋)により橋台と床板とを取付けることが検討されてもよい。アンカーバーは、橋台の施工の際に所定の位置にあらかじめアンカーバーの鉄筋部を埋め込んでもよい。または、橋台が完成した後に橋台の支承部を削孔してその孔にアンカーバーを取り付けてもよく、その後、アンカーバー周辺の孔をコンクリートで埋めてもよい。その後、孔の開いた床板を橋台の上に乗せ、隙間をコンクリートで埋めるという手順が採用されてもよい。
【0023】
この方法の問題点の1つは、アンカーバーの位置決め精度が難しいことである。アンカーバーを固まっていない生コンに設置すると、突き出た部分(鉄筋)が重いのでアンカーバーが傾きやすく、また沈みやすい。したがって、所定の位置に、所定の形状でアンカーバーを設置するためにはアンカーフレームなどを準備する必要があり、大規模な工事となってしまう。また、床板の孔は断面欠損を小さくするために極力小さくしたいにも関わらず施工上の都合で床板の孔を大きくせざるを得ない。橋台が完成した後に支承部を削孔すると断面欠損が大きくなり、車両から衝撃荷重が常に加わる支承部の強度が低下してしまう。さらに、床板に設けた孔の許容範囲にアンカーバーが収まって固定されたとしても、床板の両端が橋台に固定されることになり、単純梁として構造計算に沿った強度を得ることが難しくなるという問題もある。
【0024】
本例の橋梁1においては、橋台100をプレハブされた橋台ブロック10で構成することとし、橋台ブロック10の支承面15aの所定の場所にインサート61を埋設しておくことにより、上記の問題を解決している。プレキャストする際に橋台ブロック10にインサート61を埋め込むことにより、精度の高い位置に、支承面15aの強度を低下させずにインサート61を埋設できる。さらに、そのインサート61に現場で、少なくとも下半部にねじ部83が設けられたアンカーバー(アンカーピン)80を設置する(ねじ込む)ことにより、位置がずれたり、傾いたりすることがない状態で、アンカーバー80を支承面15aに埋設する、または埋設された状態とすることができる。このため、アンカーバー80の設置位置や姿勢に対する誤差をほとんど考慮せずに、床板30に、最小限の口径の貫通孔33を設けることができる。
【0025】
図6に、プレキャストされた橋台ブロック10の一例を上方から見た様子を示し、図7に橋台ブロック10の一例を側方から見た様子を示す。この橋台ブロック10においては、型枠を用いてプレキャストする際に、複数の目的に応じた複数種類の埋設金物を埋設しておくことが可能である。本例の橋台ブロック10は、上部11の支承部15の上方を向いた支承面15aに、橋台ブロック10を工場から搬送したり、現場に搬入する際に吊り下げるための吊り下げ金具を取り付ける埋設金物63と、複数の橋台ブロック10を左右に並べて橋梁1を施工する際に複数の橋台ブロック10を接続するための埋設金物65と、橋梁1を施工する際に橋台ブロック10と床板30とを接続するアンカーを設置するための埋設金物(インサート)61とがあらかじめ埋設されている。さらに、フーチング部13の前側に延びた第1の基礎部(前側基礎部)13aと後側に延びた第2の基礎部(後側基礎部)13bのそれぞれに、高さ調整用のボルトを貫通して取り付けるためのナット部を含む貫通孔70が設けられている。
【0026】
床板30に設けられた貫通孔33に、支承面15aに埋設されたアンカーバー80を挿入してモルタルあるいはコンクリートなどの硬質の充填材で貫通孔33を埋める方法は短期間で橋梁1を施工するために適している。この方法の異なる課題として、貫通孔33を埋めたモルタルあるいはコンクリート39が凹むということがある。すなわち、現場で充填されたモルタルあるいはコンクリート39は、強度は十分にあるとしても密度などの面でプレハブされた床板30と異なる。したがって、橋梁1を通過する車両などに起因する圧力、振動、床板30の変位の繰り返しなどにより徐々に下側に圧縮され、表面が凹む傾向がある。この現象により貫通孔33を埋めているコンクリート39が凹むと、貫通孔33の上部にごみや排水がたまりやすくなり見栄えが悪くなるという問題とともに、アンカーバー80の周囲が圧迫され、アンカーバー80が動ける空間89が圧縮される可能性がある。
【0027】
このため、床板30を貫通する貫通孔33は、モルタルまたはコンクリート39が注入される上部開口(上部)36を含むその近傍(上部開口付近)に、上側が広く、下側が狭く縮小したテーパー状の封止部38を含む。例えば、貫通孔33は、上部開口36より径が小さな中間部34を含み、図4に示すように、上方の径よりも下方の径が狭くなった封止部38の下に、アンカーバー80が動く空間89が形成されるようになっている。したがって、床板30を貫通する貫通孔33においては、注入されたモルタルまたはコンクリート39は、上から圧力が加わっても、下側が狭いテーパー構造や下側が狭い段差構造の封止部38により下側に移動することはなく、貫通孔33に挿入されたアンカーバー80の周囲に弾性カバー82により形成された空間89がモルタルやコンクリート39により押しつぶされたりすることがない。このため、弾性カバー82によるアンカーバー80が移動する空間89が確保され、ローラー支点としての機能が維持される。
【0028】
さらに、下側が狭くなった封止部38により、封止部38に注入されて固まった硬質のモルタルまたはコンクリートの充填材39は、封止部38よりも下側に移動しにくい。このため、貫通孔33の上部開口36を埋めた充填材39は凹み難く、床板30の表面に、水溜まりや汚れの原因となる凹みが形成されにくい。また、貫通孔33は、最下部に、アンカーバー80を挿入しやすいように下側に開いた下部開口35を備えていてもよい。
【0029】
図8に、橋梁1の異なる例を示している。この橋梁1においても、橋台ブロック10により施工された橋台100の支承部15の支承面15aに埋設されているインサート61に連結金物(アンカー)80を取付けて床板30を組み合わせ、橋梁1を施工する。本例においても、単純梁伸縮固定方法により橋梁1は設計および施工されている。単純梁の支点条件は、一端が「ピン支点」、他端が「ローラー支点」となっている。このため、本例においては、右側を「ピン支点」としてアンカーバーを固定し、左側を「ローラー支点」としてアンカーバーが可動するようにしている。すなわち、一対の橋台100の一方(左側)の橋台100の支承面15に埋設された第1のアンカーバー80が、床板30の一方の側(左側)に設けられた第1の貫通孔33に、第1のアンカーバー80の周囲に第1のアンカーバー80が移動可能な空間89が設けられた状態で挿入され、他方(右側)の橋台100の支承面15に埋設された第2のアンカーバー85が、床板30の他方の側(右側)に設けられた第2の貫通孔33に硬質の充填材39により取り付けられている。左右は逆転してもよい。
【0030】
一方をピン固定にして、他方をフリーにすると、さらに橋梁の構造は簡易になるが車両が頻繁に通行する現場、あるいは片方に傾斜している橋、斜角の橋では、床板が橋台からずれてしまう可能性がある。この例においては、片側フリーとする代わりに多少可動させながらも、地震時、あるいは梁に車両から振動が加わっても、床板が大きくずれたり、外れることがなく、車が、頻繁に通行できる橋梁を経済的にも安く施工することできる。
【0031】
右側の固定用のアンカーバー85は、鉄筋81であってもよく、少なくとも下半部にインサート61にねじ込むことができるネジ部83が設けられている。アンカーバー85は全体がねじ棒であってもよい。固定用のアンカーバー85は、橋台ブロック10の支承部15にあらかじめ埋設されている連結用のインサート61に取付けて、床板30を貫通する連結用の貫通孔33に挿入し、床板30と橋台ブロック10とを連結する。その後、モルタルまたはコンクリートなどの硬質の充填材39によりアンカーピン85と床板30とを固定する。貫通孔33は、封止部38を備えているので、充填材39が凹むことを防止できる。
【0032】
図9に、床板30に設けられた連結用の貫通孔33のいくつかの例の構造を拡大して示している。図9(a)および(b)に示した貫通孔33は床板30を貫通しており、モルタル(コンクリート)39が注入される上部36は上側が広く、下側が狭く縮小したテーパー状の封止部38を含む。図9(a)に示した貫通孔33は、さらに、上部36より径が小さな中間部34を含む。したがって、これらの貫通孔33においては、注入されたモルタル39は、上から圧力が加わっても、下側が狭いテーパー構造や下側が狭い段差構造により、封止部38の各部において下側に移動することはない。このため、貫通孔33に挿入されたアンカーバー80の弾性カバー82がモルタル39により押しつぶされたり圧力が加わってアンカーバー80自身、すなわち、弾性体内部のピン81の移動範囲が大幅に狭められたりすることを防止できる。なお、貫通孔33の上部の溝(孔)の部分のみ、あるいは、封止部38のみをコンクリート39などで埋めてもよい。
【0033】
図10に、アンカーバー80の一例を示している。図10(a)に示すように、アンカーバー80は、少なくとも下半部(下部)にネジ部83を備えた鉄筋(アンカーピン)81と、その上半部(上部)を覆う弾性体からなるカバー(弾性カバー)82とを含む。このアンカーバー80は工場で製造することが可能であり、図10(b)に示すように、ウレタンあるいはゴムなどの弾性体を用いて、ねじ切りした鉄筋(アンカーピン)81を覆う部材(弾性体部材)82を成型する。弾性カバー82の直径は、鉄筋81の直径の1.2~5倍程度であってもよく、2.5~4倍程度であってもよい。本例では、弾性カバー82は先端が細くなった円錐台状であり、弾性カバー82を貫通孔33に差し込みやすい形状となっている。この弾性体からなるカバー82には鉄筋81が挿入できる孔84が設けられていてもよい。アンカーバー80は、アンカーピンとなる鉄筋81と弾性体のカバー82とが工場プレハブされており、現場において橋台ブロック10のインサート61に取り付けて、床板30の貫通孔33に挿入することにより橋梁1のローラー支点を構成できる。
【0034】
図11に、アンカーバーの異なる例を示している。図11(a)のアンカーバー80aは円柱状の弾性体部材82aに鉄筋がアンカーピン81として挿入され、一体化されている。図11(b)のアンカーバー80bは、鋼製の円筒状の鉄パイプ(シース)87bの内部に弾性体87aが注入され、アンカーピン86と一体化されている。このアンカーバー80bは、鉄パイプ87bにより弾性体87aが保護されているので弾性体87aはコンクリートによる影響を受けにくい。しかしながら、鉄パイプ87bが装着されているので、重く、高価である。
【0035】
図12ないし図14に、橋梁1を施工する異なる例を示している。橋台100の橋台ブロック10のインサート61にねじ切りした鉄筋81からなるアンカーバー85をねじ込み、床板30の貫通孔33に挿入したのち、貫通孔33の下部のアンカーバー85の周りにウレタンあるいはブチルゴムなどの弾性体を柔軟性のある充填材37として詰め込んでアンカーバー85が移動可能な空間89を形成する。その後、モルタルまたはコンクリートを硬質の充填材39として充填する。この方法によっても、移動範囲が限られたローラー支点を構成できる。現場で弾性ウレタンあるいはブチルゴムなどの弾性体を埋め込みすることは面倒であり、例えば、ブチルゴムは、冬場は硬くなり挿入し難く、夏場はべとべとして扱いにくい。ウレタンは2液を混ぜるので、現場での作業は面倒である。一方、アンカーバー80は、工場で所定の形状の弾性体部材からなる弾性カバー82を量産し、鉄筋(アンカーピン)81と組み合わせることにより、低コストで製造および提供でき、安定した空間89を確保できるので好ましい。
【0036】
図15に、橋台ブロック10と、床板ブロック30および31により組み立てられた橋梁1を上方から見た様子を示している。例えば、床板ブロック30および31は幅2m、長さ8mであり、両側に配置された3×2個の橋台ブロック10により橋台100が施工され、合計3枚の床板ブロック30および31により、全体の幅が6mでスパンが8mの橋梁1が施工されている。
【0037】
図16(a)に、床板ブロック30および31により組み立てられた橋上部構造41の端部を示し、図16(b)に橋上部構造41を中央の断面で示している。中央の床板ブロック30は、ほぼ平坦な一枚のプレキャスト板で構成され、左右の床板ブロック31は長手方向Xに沿った一方の端に地覆20が設けられており、地覆20と床板部30aとが一体成型されたものである。この床板ブロック31においては、一体化された地覆20の内側21の長さが床板31の長さより短い。したがって、コーナーの隅切りが不要となっている。
【0038】
床板31は、地覆20と床板部30aとを一体で成型されたプレキャスト板であり、現場での施工期間を短縮できる。さらに、現場での地覆20と床板部30aとの間の打ち継ぎがないので鉄筋がさびたり、打ち継ぎ部の強度が低下することを考慮する必要がなく、地覆20の幅を薄くすることができる。また、地覆20の長さを床板31の長さより短くすることにより、橋梁1の出入り口において車両と地覆20との干渉を防止できる。
【0039】
図17は、異なる形状の地覆20が床板部30aと一体成型された床板31を用いた橋梁の上部構造41を上から見た様子を示している。床板31に一体化された地覆20は、その内側21の長さが床板31の長さより短く、外側22の長さが内側21よりも長くなっている。したがって、地覆20の端部23は内側が狭くなるように斜めにカットされている。この端部23は、斜めに立ち上がっていてもよい。このような端部23は隅切りの役目を果たし、車が入りやすい橋梁1を施工できる。
【0040】
以上に説明した橋梁1の一例は、プレキャストされた(コンクリート製で工場でプレハブされた)橋台ブロック10とプレキャストされた床板30および31を現場において組み立てて橋梁1を施工するものであり、短期間で、耐久性の高い橋梁1を低コストで施工し、提供することが可能となる。さらに、橋台100と床板30および31を、橋台100に埋設されたアンカーバー80と、床板30および31に設けられた接続用の貫通孔33とを用いて組み合わせることが可能であり、単純梁と落下防止とを兼ねた構造を備えた橋梁1を提供できる。
【符号の説明】
【0041】
1 橋梁、 10 橋台ブロック、 20 地覆、 30、31 床板(床板ブロック)
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