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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087967
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240625BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240625BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652M
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 652T
H01L29/91 D
H01L29/91 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202893
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 太郎
(57)【要約】
【課題】パワーMOSFETと同一の半導体基板に形成されたフリーホイールダイオードによってパワーMOSFETの保護を十分に行う。
【解決手段】トレンチ10A、10Bに関わる構造は、MOSFETとして機能する。トレンチ10C側においても、ゲート酸化膜14D、第2ゲート電極15Bが設けられている。ゲート酸化膜14Dはゲート酸化膜14Aよりも薄く形成されている。トレンチ10Cの上には、第2ゲート制御用電極19が形成され、第2ゲート電極15Bと第2ゲート制御用電極19は接続され、第2ゲート制御用電極19とソース電極18とは、抵抗素子Rを介して接続される。ソース電位がドレイン電位よりも高い場合に、トレンチ10Cで形成される疑似的なMOSFETはオンとなり、第2ゲート電位の絶対値はソース電位よりも小さくなり、フリーホイールダイオードの耐圧を高めることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型をもつ半導体材料で構成された第1の半導体層と、前記第1の導電型と逆の第2の導電型をもち前記第1の半導体層の上に形成された第2の半導体層と、を具備し、表面側から前記第2の半導体層を貫通し前記第1の半導体層に達するように掘下げられた第1の溝が設けられ、表面側において前記第1の溝と接するように部分的に前記第1の溝の延伸方向に沿って形成された前記第1の導電型をもつ第1ソース領域が形成された半導体基板が用いられ、
前記半導体基板の表面側において、前記第2の半導体層及び前記第1ソース領域と接続され金属で構成された第1主電極と、
前記半導体基板の裏面側において前記第1の半導体層と接続された第2主電極と、
前記第1の溝内において第1ゲート絶縁膜を挟んで前記第1の溝の内面と対向する第1ゲート電極と、
を具備し、
前記第1主電極と前記第2主電極との間を流れる電流が、前記第1ゲート電極の電位によって制御される半導体装置であって、
前記半導体基板において前記第1の溝から離間した箇所に表面側から掘下げられた第2の溝と、
表面側において前記第2の溝と接するように部分的に前記第2の溝の延伸方向に沿って形成された前記第1の導電型をもつ第2ソース領域と、
前記半導体基板の表面側において前記第2の半導体層及び前記第2ソース領域と接続され金属で構成され、かつ前記第1主電極とは分離された第2ゲート制御用電極と、
前記第2の溝内において前記第1ゲート絶縁膜よりも薄い第2ゲート絶縁膜を挟んで前記第2の溝の内面と対向する第2ゲート電極と、
を具備し、
前記第2ゲート制御用電極は、前記第2ゲート電極と接続され、かつ抵抗素子を介して前記第1主電極と接続されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1主電極は、平面視において前記第1の溝の延伸方向において前記第1ソース領域の一部のみと接触し、前記抵抗素子は、前記第1ソース領域における前記第1主電極と接触しない領域を用いて形成された、
又は
前記第2ゲート制御用電極は、平面視において前記第2の溝の延伸方向において前記第2ソース領域の一部のみと接触し、前記抵抗素子は、前記第2ソース領域における前記第2ゲート制御用電極と接触しない領域を用いて形成された、
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板の厚さ方向において、
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層の間に、前記第1の導電型をもち前記第1の半導体層よりも不純物濃度が低く、かつ前記第1の半導体層よりも薄い第3の半導体層が挿入されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1の溝において、前記第1の半導体層、前記第2の半導体層、及び前記第1ゲート電極と絶縁され前記第1主電極と電気的に接続されたシールド電極が、前記第1ゲート電極の下側に設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の表面に形成されたトレンチ(溝)内に制御電極が設けられた半導体装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の表面側と裏面側との間の電流のオン・オフがゲート電極の電位で制御される半導体装置(パワー半導体素子:パワーMOSFET、IGBT等)が用いられている。こうした半導体装置においては、ゲート電極(制御電極)の電位によってゲート電極と対向する半導体層に形成されるチャネルが電流の経路となり、チャネルのオン・オフが制御されることによって、電流のオン・オフが制御される。また、半導体基板の表面側にトレンチ(溝)が形成され、ゲート電極がこのトレンチ内に設けられたトレンチ型の素子は、セルの微細化が容易であり、かつオン時の抵抗(オン抵抗)を低減することができるために、特に好ましく用いられている。トレンチ型の素子においては、トレンチの内壁に薄いゲート酸化膜(ゲート絶縁膜)が形成され、トレンチの内壁を構成する半導体層とゲート電極とは、このゲート酸化膜を介して対向し、半導体層におけるこの部分におけるチャネルのオン・オフがゲート電極の電位(ゲート電位)で制御される。
【0003】
例えば、nチャネル型のパワーMOSFETにおいては、n型のドリフト層の上にp型のボディ層が形成され、ボディ層の上側に高濃度のn型のソース領域が形成される。トレンチはソース領域及びボディ領域を貫通するように形成され、オン時の電流は、ボディ層に形成されたチャネルを介して、ソース領域とドリフト層の間を流れ、更にドリフト層を厚さ方向に縦断してドレインに流れる。ここで、ボディ層とドリフト層との間にはpn接合が形成されるため、この部分はダイオード(ボディダイオード)として機能する。パワーMOSFETの通常動作時においては、ソース(ボディ層側の主電極)よりもドレイン(ドリフト層側の主電極)の電位が高くされるために、ボディダイオードは逆バイアスとなり、ボディ層とドリフト層の間のpn接合は導通せず、ボディ層に形成されたチャネルを介してのみ、電流が流れる。このため、ゲート電位によるチャネルのオン・オフの制御によって、ソースとドレインの間に流れる電流のオン・オフを制御することができる。
【0004】
一方、例えばこうしたパワーMOSFETの負荷としてコイル等のインダクタを接続し、そのオン・オフの切り替えの制御を行う場合には、パワーMOSFETがオンからオフ状態となった直後において、過渡的にソースの電位がドレインの電位よりも大幅に高くなる状況が発生しうる。こうした場合に、パワーMOSFETが過電流によって破壊することを抑制するために、ソース電位がドレイン電位よりも高くなった場合に順バイアスとなるようなダイオード(フリーホイールダイオード)を接続し、こうした場合に電流をフリーホイールダイオードに流してパワーMOSFETからバイパスさせることが好ましい。前記のような通常動作時には、ドレイン側の電位が高くなるためにフリーホイールダイオードは逆バイアスとなり、フリーホイールダイオードを介して電流は流れず、これによるパワーMOSFETの動作は影響を受けない。
【0005】
このようなフリーホイールダイオードの特性(極性)は、上記のボディダイオードと同様であるため、ボディダイオードをフリーホイールダイオードとして用いることもできる。ただし、ボディダイオードはパワーMOSFETにおけるボディ層とドリフト層によるpn接合で形成され、ボディ層とドリフト層は共にパワーMOSFETにおける通常のオン・オフ動作に適合するように設定されるため、フリーホイールダイオードとして最適となるようにボディ層とドリフト層を構成することは一般的には困難である。このため、ボディダイオードとは別に、ボディダイオードと同じ極性で同様にダイオードとして機能し、かつよりフリーホイールダイオードとして好ましい特性をもつ部分を同一の半導体基板に設け、ソース電位が高くなった場合には、ボディダイオードとこのダイオードに電流が流れる構成とすることが特に好ましい。
【0006】
ここで、このようなフリーホイールダイオードとしては、順方向で充分に電流が流せることが好ましいが、一般的に、ダイオードは順方向でも電圧がVF(順方向電圧)以下では、逆方向の場合と同様に僅かな電流しか流れない。ボディダイオードを構成するSiのpn接合においては、一般的にはVFは0.7V程度であるのに対して、フリーホイールダイオードとしては、VFがより小さいことが望まれる。
【0007】
このため、特許文献1には、パワーMOSFETにおけるボディダイオードとは別に、このようなVFが小さなダイオードとして機能する部分をパワーMOSFETと同一チップ上に形成した半導体装置が記載されている。ここでは、複数のトレンチが形成され、一部のトレンチにパワーMOSFETが、他のトレンチにこのようなダイオードとして機能する部分が、それぞれ形成される。
【0008】
図5は、この半導体装置9の構造を示す断面図である。この半導体装置9は、nチャネル型のパワーMOSFETと前記のようなダイオードとして機能する部分が組み合わされており、パワーMOSFETと、ダイオードとして機能する部分は、共に共通の半導体基板に形成されたトレンチを用いて形成されている。図1において、半導体材料(Si)で構成された半導体基板10において、3つのトレンチ(溝)10A~10Cが右から順に、表面(上面)側から掘り下げられて形成されており、右側のトレンチ10A、10BはMOSFETとして機能し、左側のトレンチ10Cはダイオードとして機能する。図5においては、これらのトレンチの延伸方向に垂直な断面が示されている。
【0009】
この半導体基板10においては、n型(第1の導電型)のドリフト層(第1の半導体層)11の上側に、p型(第2の導電型)のボディ層(第2の半導体層)12が積層して形成される。トレンチ10A~10Cは、半導体基板10の表面側からボディ層12を貫通し、その底面がドリフト層11中に来るように形成される。半導体基板10の表面におけるボディ層12には、トレンチ10A~10Cの各々の両側に隣接して、高濃度のn型の層(n層)となるソース領域(第1ソース領域)13Aが選択的に形成されている。ボディ層12は、ドリフト層11の上にエピタキシャル成長、又はボディ層12が表面に設けられた状態の半導体基板10の表面にイオン注入等を行うことによって、形成することができる。ソース領域13Aは、ボディ層12の表面に局所的にイオン注入を行うことによって形成することができる。
【0010】
図5においては、トレンチ10Bに関わる構成要素のみに符号が設けられており、トレンチ10Aに関わる構造はトレンチ10に関わる構造と同一である。トレンチ10A、10B(第1の溝)は、その内面にゲート酸化膜(第1ゲート絶縁膜)14Aが形成された状態で、上側の第1ゲート電極(制御電極)15A、下側のシールド電極16によって埋め込まれている。第1ゲート電極15A、シールド電極16は、共に導電性の金属材料、あるいは高濃度に不純物が添加された導電性の高い多結晶シリコンで構成されている。また、第1ゲート電極15Aは、その側方にソース領域13、ボディ層12がありその底面がドリフト層11がある高さにあるように設定される。シールド電極16は、第1ゲート電極15Aよりも下側でドリフト層11がある高さに設けられる。第1ゲート電極15Aとシールド電極16の間は、酸化膜14Bによって絶縁されているため、これらの電位は独立とされる。シールド電極16とドリフト層11の間は、酸化膜14Cによって絶縁され、かつ、上記の構造により、シールド電極16とボディ層12との間も絶縁される。
【0011】
また、トレンチ10A、10Bの上側には、第1ゲート電極15Aを上側から覆うように層間絶縁層17Aが局所的に厚く形成されている。ただし、ソース領域13Aのトレンチ10A、10Bから離間した部分は層間絶縁層17Aには覆われない形態とされる。ゲート酸化膜14Aはトレンチ10Aの内面を構成する半導体基板10を熱酸化することによって形成されたSiOで構成される。酸化膜14B、14C、層間絶縁層17Aも同様にSiOで構成されるが、これらは、CVD法等によって、ゲート酸化膜14Aよりも厚く堆積して形成される。
【0012】
半導体基板10の表面側(図中上側)は、全体にわたり、抵抗率の低い金属材料(Al等)で構成されたソース電極(第1主電極)28で覆われる。上記のように層間絶縁層17Aが設けられるため、ソース電極28は、半導体基板10の表面でボディ層12及び第1ソース領域13Aと接し、第1ゲート電極15Aとは絶縁される。また、シールド電極16は、図示の範囲外でソース電極28と接続される。
【0013】
一方、半導体基板10の裏面側(図中下側)は、ドリフト層11(n型層)とオーミック接触する金属材料で構成されたドレイン電極(第2主電極)20によって、全面にわたり覆われる。なお、ドレイン電極20とドリフト層11の間に高濃度のn型層を設けてもよい。
【0014】
以上の構造では、ソース電極28、ドレイン電極20、第1ゲート電極15Aの電位は独立に制御され、上記のようなトレンチ10A、10Bに関わる構造は、ソース電極28、ドレイン電極20間に流れる電流のオン・オフが第1ゲート電極15Aに印加される電圧(ゲート電位)によって制御されるMOSFET(パワーMOSFET)として機能する。すなわち、ゲート電位によって、トレンチ10A、10Bの内面を構成するボディ層12におけるチャネルのオン・オフ(有無)を制御し、これによって第1ソース領域13Aとドリフト層11の間の電子の流れのオン・オフ、これによるソース電極28とドレイン電極20間の電流のオン・オフが制御される。この際、通常の動作時にはソース電極28は接地電位とされ、同様に接地電位とされるシールド電極16をトレンチ10A内において第1ゲート電極15の下側に設けることによって、帰還容量Crss(ゲート・ドレイン間の容量)を低減することができ、このパワーMOSFETをより高速で動作させることができる。ただし、シールド電極16を設けなくとも動作速度が十分である場合には、シールド電極16を設けず、トレンチ10A、10B内においてゲート酸化膜14Aを介して第1ゲート電極15Aのみを設けてもよい。この場合には、図1の構成よりもトレンチ10Aを浅くすることができる。
【0015】
左側のトレンチ10Cにおいても、右側のトレンチ10A、10B内のゲート酸化膜14A、第1ゲート電極15A、シールド電極16、酸化膜14B、14C、層間絶縁層17Aと同様に、ゲート酸化膜(第2ゲート絶縁膜)14D、第2ゲート電極15B、シールド電極16、酸化膜14B、14C、層間絶縁層17Bが設けられている。表面側において、第1ソース領域13Aと同様に、n層である第2ソース領域13Bも設けられている。ソース電極28は、トレンチ10Aからトレンチ10Cがある領域全体を覆うように形成され、トレンチ10C付近でも、ボディ層12及び第2ソース領域13Bと接し、図示の範囲外でトレンチ10C内のシールド電極16と接続されている点についても同様である。
【0016】
ただし、ゲート酸化膜14Dはゲート酸化膜14Aよりも薄く形成されている。また、トレンチ10A、10Bでは層間絶縁層17Aによって第1ゲート電極15Aとソース電極28とが絶縁されていたのに対し、トレンチ10C上に形成された層間絶縁層17Bには開口が形成され、この開口によって第2ゲート電極15Bとソース電極28は接続される。このため、トレンチ10Cにおいては、トレンチ10A、10Bとは異なる、第2ゲート電極15Bを疑似的なゲートとする疑似的なMOSFETが形成され、このMOSFETはソース電極28の電位(ソース電位)を疑似的なゲート電位として動作する。
【0017】
前記のように、ドレイン電位がソース電位よりも高い通常の動作の場合には、トレンチ10A、10Bに関わる部分は、MOSFETとして動作し、ボディ層12、ドリフト層11で構成されるpn接合(ボディダイオード)は逆バイアスとなる。一方、トレンチ10Cにはゲート電位が印加される制御電極は設けられず、ソース電位(≦ドレイン電位)がこの疑似的なMOSFETの疑似的なゲート電位となるため、ゲート電位に関わらずこの疑似的なMOSFETはオフ状態となり、トレンチ10A、10Bに関わる部分の動作はトレンチ10Cに関わる部分の影響を受けない。
【0018】
一方、ソース電位がドレイン電位よりも高くなった場合には、前記のように、ボディ層12、ドリフト層11で構成されるpn接合(ボディダイオード)が順バイアスとなるため、ソース電極28、ドレイン電極20間で、ゲート電位に関わらず電流が流れる。この点については、トレンチ10A、10Bに関わる部分と、トレンチ10Cに関わる部分とで共通である。ただし、トレンチ10Cでは、疑似的なゲート電位は実際のソース電位であるため、この場合には、前記の疑似的なMOSFETがオン状態となる。この際、ゲート酸化膜14Dは薄く形成されるため、この疑似的なMOSFETの閾値電圧Vtは低い。すなわち、この疑似的なMOSFETはソース電位がドレイン電位に対して僅かに正となった場合でも、オンとなる。このため、トレンチ10Cに関わる部分で構成されるダイオードでは、実質的にVFが小さくなる。すなわち、この半導体装置9においては、実質的にVFが小さなフリーホイールダイオードが形成される。この際、このような2種類のトレンチ内の構造には共通の部分が多く用いられるため、単純な製造工程でこの半導体装置を製造することができる。
【0019】
更に、この構造においては、パワーMOSFETとこのようなダイオードとして機能する部分とは同一の半導体基板(チップ)上に形成され、両者を接続するための長い配線等は用いられないため、不要なインダクタンス成分等が形成されることも抑制される。また、パワーMOSFETやこのようにダイオードとして機能する部分に流すことのできる電流は、複数形成されたトレンチにおいて、パワーMOSFETを構成するものとダイオードとして機能するものの振り分けの比率や、トレンチの間隔等によって調整することができる。
【0020】
同様の観点より、ダイオードとして機能する部分を上記と異なる構成とした半導体装置が、特許文献2に記載されている。この半導体装置においても、上記の場合と同様に、複数のトレンチが、MOSFETとして機能する部分と、上記のようなダイオードとして機能する部分とに区分される。特許文献1に記載の半導体装置とは異なり、後者のトレンチにおいては、ゲート酸化膜(MOS構造)は形成されず、ショットキー電極がトレンチ側面と直接接するように形成されている。このため、この部分ではショットキーダイオードが形成されている。
【0021】
一般的にはショットキーダイオードのVFはpn接合のVFよりも小さいため、この構造を用いることによっても、実質的にVFが小さなフリーホイールダイオードを得ることができる。また、この場合においても、共通に形成されたトレンチを用いることができるため、単純な製造工程でこの半導体装置を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0078707号明細書
【特許文献2】特開2018-137389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献2に記載の半導体装置において形成されるフリーホイールダイオードのVFは、形成されるショットキーダイオードのVFで定まる。前記のように、ショットキーダイオードのVFはpn接合のVFよりも小さいものの、フリーホイールダイオードとしては、より小さなVFが要求された。すなわち、この場合にはVFを充分に小さくすることは困難であった。
【0024】
これに対し、特許文献1に記載の半導体装置においては、ダイオードとして機能するトレンチ10C内のゲート酸化膜14Dを、MOSFETとして機能するトレンチ10A、10B内のゲート酸化膜14Aよりも充分に薄くすることによって、VFを充分に小さくすることができる。しかしながら、この構造において、ソース電位が高くなった場合には、このゲート酸化膜14D内の電界強度が高くなり、ゲート酸化膜14Dが絶縁破壊しやすくなった。すなわち、この場合には、VFは小さくなるものの、ソース電位に対しての耐圧が低くなった。
【0025】
このため、パワーMOSFETと同一の半導体基板に形成されたフリーホイールダイオードによってパワーMOSFETの保護を十分に行うことは困難であった。
【0026】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、第1の導電型をもつ半導体材料で構成された第1の半導体層と、前記第1の導電型と逆の第2の導電型をもち前記第1の半導体層の上に形成された第2の半導体層と、を具備し、表面側から前記第2の半導体層を貫通し前記第1の半導体層に達するように掘下げられた第1の溝が設けられ、表面側において前記第1の溝と接するように部分的に前記第1の溝の延伸方向に沿って形成された前記第1の導電型をもつ第1ソース領域が形成された半導体基板が用いられ、前記半導体基板の表面側において、前記第2の半導体層及び前記第1ソース領域と接続され金属で構成された第1主電極と、前記半導体基板の裏面側において前記第1の半導体層と接続された第2主電極と、前記第1の溝内において第1ゲート絶縁膜を挟んで前記第1の溝の内面と対向する第1ゲート電極と、を具備し、前記第1主電極と前記第2主電極との間を流れる電流が、前記第1ゲート電極の電位によって制御される半導体装置であって、前記半導体基板において前記第1の溝から離間した箇所に表面側から掘下げられた第2の溝と、表面側において前記第2の溝と接するように部分的に前記第2の溝の延伸方向に沿って形成された前記第1の導電型をもつ第2ソース領域と、前記半導体基板の表面側において前記第2の半導体層及び前記第2ソース領域と接続され金属で構成され、かつ前記第1主電極とは分離された第2ゲート制御用電極と、前記第2の溝内において前記第1ゲート絶縁膜よりも薄い第2ゲート絶縁膜を挟んで前記第2の溝の内面と対向する第2ゲート電極と、を具備し、前記第2ゲート制御用電極は、前記第2ゲート電極と接続され、かつ抵抗素子を介して前記第1主電極と接続されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記第1主電極は、平面視において前記第1の溝の延伸方向において前記第1ソース領域の一部のみと接触し、前記抵抗素子は、前記第1ソース領域における前記第1主電極と接触しない領域を用いて形成された、又は前記第2ゲート制御用電極は、平面視において前記第2の溝の延伸方向において前記第2ソース領域の一部のみと接触し、前記抵抗素子は、前記第2ソース領域における前記第2ゲート制御用電極と接触しない領域を用いて形成された、ことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、前記半導体基板の厚さ方向において、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層の間に、前記第1の導電型をもち前記第1の半導体層よりも不純物濃度が低く、かつ前記第1の半導体層よりも薄い第3の半導体層が挿入されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、前記第1の溝において、前記第1の半導体層、前記第2の半導体層、及び前記第1ゲート電極と絶縁され前記第1主電極と電気的に接続されたシールド電極が、前記第1ゲート電極の下側に設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は以上のように構成されているので、パワーMOSFETと同一の半導体基板に形成されたフリーホイールダイオードによってパワーMOSFETの保護を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1の実施の形態に半導体装置の断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る半導体装置の斜視断面図である。
図3】実施例と従来例におけるフリーホイールダイオードの順バイアス時の特性をシミュレーションによって算出した結果である。
図4】本発明の第1の実施の形態に半導体装置の変形例の断面図である。
図5】従来の半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態となる半導体装置について説明する。この半導体装置1においても、パワーMOSFETとして機能する部分と、フリーホイールダイオードとして機能する部分とが、それぞれトレンチを用いて形成される。これらの各々の部分の基本構造は、特許文献1に記載された半導体装置と同様であるが、特にこれらの部分の間の接続に特徴を有する。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置1の構造を示す断面図であるが、ここでは一部が構造ではなく回路記号で示されている。前記の半導体装置9と同様に、この半導体装置1においても半導体基板10中にトレンチ10A~10Cが形成され、これに対応して半導体基板10中に、n型(第1の導電型)のドリフト層(第1の半導体層)11、p型(第2の導電型)のボディ層(第2の半導体層)12、高濃度のn型の層(n層)となる第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bが形成されている。ドリフト層11(n型)、ボディ層12(p型)、第1ソース領域13A、第2ソース領域13B(n型)の不純物濃度は、それぞれ例えば1016cm-3、1015cm-3、1019cm-3程度である。
【0032】
また、トレンチ10A、10B(第1の溝)内では、ゲート酸化膜(第1ゲート絶縁膜)14A、第1ゲート電極(制御電極)15A、シールド電極16、酸化膜14B、14Cが形成されている。また、トレンチ10A、10Bの上側には、層間絶縁層17A、第1ソース領域13A及びボディ層12と接するようにソース電極(第1主電極)18が形成される。半導体基板10の裏面側に、ドレイン電極(第2主電極)20も形成される。このため、前記の半導体装置9と同様に、トレンチ10A、10Bに関わる構造は、同様にパワーMOSFETとして機能する。また、ボディ層12とドリフト層11の間で、フリーホイールダイオードとして機能するダイオード(ボディダイオード)が形成される点も同様である。また、シールド電極16は場合によっては不要である点についても同様である。
【0033】
このため、トレンチ10A、10Bに関わる動作は、前記の半導体装置9と変わるところがない。すなわち、通常の動作では、ソース電位は接地電位とされ、ドレイン電位が正側とされる。ゲート電位(第1ゲート電極15Aの電位)によって、ソース電極18とドレイン電極20間の電流のオン・オフが制御される。また、ソース電位がドレイン電極よりも高くなった場合には、ボディ層12とドリフト層11の間で構成されるボディダイオードが順バイアスとなるため、ゲート電位と無関係に、ソース電極18とドレイン電極20間で電流が流れる。
【0034】
一方、トレンチ10C側においても、前記の半導体装置9と同様に、ゲート酸化膜(第2ゲート絶縁膜)14D、第2ゲート電極15B、シールド電極16、酸化膜14B、14C、層間絶縁層17Bが設けられている。ここで、ゲート酸化膜14Dがゲート酸化膜14Aよりも薄く形成されている点についても同様である。このため、トレンチ10Cに関わる構造によって、フリーホイールダイオードとして機能する部分が構成される点についても同様である。
【0035】
ただし、前記の半導体装置9においては、ソース電極28はトレンチ10A~10Cの全てを覆うように形成されていたのに対し、この半導体装置1においては、ソース電極18(ソース電位が印加される電極)は、トレンチ10A、10Bの上のみに形成される。一方、トレンチ10Cの上には、ソース電極18とは分断された第2ゲート制御用電極19が、ソース電極18と同様に形成されている。第2ゲート制御用電極19は、前記の半導体装置9におけるソース電極28と同様に、トレンチ10Cに隣接するボディ層12及び第2ソース領域13Bと電気的に接続されているる。第2ゲート制御用電極19は、ソース電極18、28と同様に金属で形成される。このため、実際には、図5におけるソース電極28をパターニングして、図1におけるソース電極18と第2ゲート制御用電極19の2つに分断してこれらを形成することができる。
【0036】
また、前記の半導体装置9と同様に、層間絶縁層17Bに形成された開口を介して、第2ゲート電極15Bと第2ゲート制御用電極19は接続される。このため、トレンチ10Cにおいては、トレンチ10A、10B側とは異なる、第2ゲート電極15Bをゲートとする疑似的なMOSFETが形成されることも同様である。ただし、半導体装置9においてはこの疑似的なMOSFETの疑似的なゲート電位はソース電位(ソース電極28の電位)であったのに対して、この半導体装置1においては、この疑似的なゲート電位は、第2ゲート制御用電極19の電位(第2ゲート電位)となり、これは、ソース電位(ソース電極18の電位)とは異なる。
【0037】
ここで、図1において回路記号で示されるように、左側の第2ゲート制御用電極19と右側のソース電極18とは、抵抗素子Rを介して接続される。このため、ソース電位が変動した場合に、第2ゲート電位とソース電位は連動して変化するものの、ソース電位がドレイン電位よりも高い場合に、第2ゲート電位は、抵抗素子Rによる電圧降下の分だけソース電位よりも低くなる。一方、ソース電位≦ドレイン電位となる通常動作の場合には、この疑似的なMOSFETは常時オフとなり、ボディダイオードも逆バイアスとなるため、トレンチ10Cに関わる部分は、パワーMOSFETの動作には影響しない。
【0038】
このように、ソース電位がドレイン電位よりも高い場合に、第2ゲート電位はソース電位より低くなるものの、その極性は同様であるため、ここで形成される疑似的なMOSFETはオンとなり、半導体装置9の場合と同様に、トレンチ10Cで形成されるダイオードのVFを小さくすることができる。ただし、第2ゲート電位の絶対値は、抵抗素子Rによる電圧降下の分だけソース電位よりも小さくなるため、ゲート酸化膜14D中の最大電界強度を半導体装置9と比べて低下させることができる。このため、この場合に形成されるフリーホイールダイオードの順バイアス時の耐圧を高めることができる。
【0039】
抵抗素子Rの半導体基板10上での具体的形態について説明する。図2は、この抵抗素子Rが形成された半導体装置1の部分的な構造を示す、斜め上側からみた斜視断面図であり、ここで断面として示された部分は図1に対応する。ここでは、便宜上第1ソース領域13A、第2ソース領域13B以外のハッチングは省略されている。また、斜視で示された上面側の構造においては、図1におけるソース電極18、第2ゲート制御用電極19、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bの斜視図が示されている。
【0040】
前記の通り、半導体基板10の上側に形成されたソース電極18(右側)と第2ゲート制御用電極19(左側)は、分断されて形成されている。また、ここで示されるように、ソース電極18、第2ゲート制御用電極19は、共に紙面手前側のL1の範囲でのみ形成され、これより紙面奥側の領域には形成されていない。これに対して、トレンチ10A~10Cは紙面手前側から奥側の領域にかけて連続的に形成され、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bも、平面視において細長い形態で各トレンチに沿って紙面奥側に向かって複数が並行に連続的に延伸する。この形態は、通常知られるトレンチ型のパワーMOSFETにおけるものと同様である。
【0041】
ソース電極18、第2ゲート制御用電極19は、抵抗率が小さな金属で構成されるのに対して、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bは例えば1019cm-3程度の不純物濃度とされたn層(半導体層)である。このため、ソース電極18、第2ゲート制御用電極19の抵抗は無視できるのに対して、細長いソース領域13A、13Bの特に長手方向(延伸方向)に沿った抵抗は無視できず、これを用いて抵抗素子Rを形成することができる。紙面手前側のL1の領域ではソース電極18、第2ゲート制御用電極19が存在するために、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bの電位は一様となり、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bを抵抗素子Rとして用いることができないが、図2におけるL1よりも紙面奥側の領域における第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bは、このような抵抗素子Rとして用いることができる。
【0042】
このため、図2において、トレンチ10Bにおける左側の第1ソース領域13Aにおけるソース電極18よりも奥側のL2の領域を挟んで離間した接続点P1と、トレンチ10Cの右側の第2ソース領域13Bにおける第2ゲート制御用電極19よりも奥側のL2の領域を挟んで離間した接続点P2と、を配線Wによって接続すれば、ソース領域13A、13Bの長手方向におけるL2の領域に対応した抵抗値(図中R01)の2倍の抵抗値をもつ抵抗素子Rを実質的に形成することができる。図2においては配線Wを模式化して示しているが、実際には、前記の層間絶縁層17Bと同様に、上記の接続点を含む領域に絶縁層を形成した後に、接続点P1、P2に対応した箇所においてこの絶縁層に開口を形成し、ソース電極18、第2ゲート制御用電極19と同様の金属材料で配線Wをパターニングして形成すればよい。この配線Wも、実際には図5のソース電極28をパターニングすることによって、ソース電極18,第2ゲート制御用電極19と同時に形成することができる。
【0043】
すなわち、トレンチ型のパワーMOSFETに対しては、図1のようにソース電極18、第2ゲート制御用電極19を設け、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bを用いて、これらの間に抵抗素子Rを接続した構成を容易に実現することができる。上記の例では、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bのそれぞれを用いて抵抗R01が形成され、抵抗素子Rは2つの抵抗R01の直列接続となった。図2における接続点の位置を調整することによって、抵抗素子Rの抵抗値を調整することができる。また、配線Wの一端を第2ゲート制御用電極19又はソース電極18と接続してもよく、この場合には、第1ソース領域13A、第2ソース領域13Bのうちの一方のみで抵抗素子Rが形成される。
【0044】
なお、前記の半導体装置9と同様に、上記の動作において、シールド電極16は無関係である。このため、使用目的に対して上記の半導体装置1の動作速度が十分である場合には、各トレンチ内にシールド電極16を設ける必要はない。
【0045】
実際に、ドレイン電極を接地、ソース電極を正側とした場合における、ソース・ドレイン間電圧VSDと、ソース・ドレイン間に流れる電流IS(フリーホイールダイオードの順方向電流)を、従来のpn接合のみで形成されるボディダイオードを用いた場合(従来例)、図1の構造(実施例)の両方でシミュレーションによって計算した例を図3に示す。ここで、ドリフト層、ボディ層の不純物濃度はそれぞれ1016~1017cm-3、1017cm-3図1における抵抗素子Rは10Ωとされた。
【0046】
この結果において、従来例では、フリーホイールダイオードはpn接合のみで形成されるためにVFは0.7V程度であり、VDSが0.7Vを超えると急激に電流が流れる一方で、VDSが0.7V以下では逆方向と同程度の低電流しか流れない。これに対して、実施例では、前記のVFよりも小さい0.4V程度から電流が流れる。このため、実施例では、フリーホイールダイオードの順バイアス時において、特許文献1に記載の技術よりも、特にVDSが小さな場合に大電流を流すことができる。前記のように、特許文献2に記載の技術においては、フリーホイールダイオードとしてショットキーダイオードが用いられるが、一般的にはショットキーダイオードのVFはpn接合の場合の0.7Vよりも小さいものの、0.5V程度である。実施例では、0.4V程度から電流が流れるため、特許文献2に記載の技術よりも小さなVDSで電流を流すことができる。特に、前記の半導体装置1では、抵抗素子Rの存在によってフリーホイールダイオードとして機能する部分に印加される電圧(順バイアス)が前記の半導体装置9より低下するものの、従来例と比べて特にVSDが小さな場合に大きな電流を流すことができる。
【0047】
次に、上記の半導体装置1の変形例について説明する。前記のように、この半導体装置1においては、ソース電位が高くなった場合におけるトレンチ10C内におけるゲート酸化膜(第2ゲート絶縁膜)14D内の最大電界強度を低下させることができる。ただし、ここで、このゲート酸化膜14Dにおいて最も最大電界強度が高くなる場所は、図2において点線で囲まれた領域B(第2ゲート電極15Bの左右両側の下端部側)である。
【0048】
ソース電位がドレイン電位よりも高くなった場合には、第2ゲート電極15Bとゲート酸化膜14Dを挟んで対向するボディ層12が空乏化し、かつこの空乏層中に(n型)チャネルが形成されることによって、この疑似的なMOSFETがオンとなる。一方、この空乏層はドリフト層11(n型層)とボディ層12(p型層)の間に形成された空乏層と結合する。第2ゲート電極15Bとドレイン電極20との間に印加される電界(電位)は、主にゲート酸化膜14Dとこの空乏層中で分配されるため、ゲート酸化膜14D中の最大電界強度を低下させるためには、この空乏層を広げることが有効である。ボディ層12とドリフト層11の境界から特にドリフト層11側に広がる空乏層幅を広くするためには、ドリフト層11の不純物濃度を低くすることが好ましい。
【0049】
一方、トレンチ10A、10B側において、パワーMOSFETがオンとなった場合には、オン電流はドリフト層11を上下方向で流れるため、ドリフト層11の不純物濃度を低くした場合には、このパワーMOSFETのオン抵抗が高くなる。このため、単純にドリフト層11の不純物濃度を低くすることは好ましくない。このため、ドリフト層11の不純物濃度は1016cm-3程度でとされる。
【0050】
図4は、この点を考慮してゲート酸化膜14D中の最大電界強度を低下させた半導体装置2の、図1に対応した断面図である。ここで用いられる半導体基板40においては、ドリフト層11とボディ層12の間に、ドリフト層11よりも低不純物濃度のn型層(n層)である低不純物濃度層(第3の半導体層)11Aが形成されている。低不純物濃度層11Aが存在すること以外については、この構造は図1の半導体装置1と変わるところがない。ドリフト層11の不純物濃度が1016cm-3程度である場合には、低不純物濃度層11Aの不純物濃度はこれよりも低く、例えば1015cm-3程度とされる。このため、前記の空乏層は、ドリフト層11よりもボディ層12に近い側にある低不純物濃度層11Aで広がりやすくなり、ゲート酸化膜14D中の最大電界強度を図1の半導体装置1よりも更に低下させることができる。
【0051】
一方、特にトレンチ10A、10B側では、高抵抗率となる低不純物濃度層11Aの存在によって、パワーMOSFETのオン抵抗が高くなる。しかしながら、このオン抵抗は、近似的には不純物濃度層11Aによる成分とドリフト層11による成分の和となるため、図4に示されるように、低不純物濃度層11Aをドリフト層11と比べて充分薄くすれば、このオン抵抗の増大は僅かとなる。一方、このように低不純物濃度層11Aが薄くとも、低不純物濃度層11Aがボディ層12と直接接していれば、前記のようなゲート酸化膜14D中の最大電界強度を低下させる効果は大きい。
【0052】
低不純物濃度層11Aは、ボディ層12と同様にエピタキシャル成長によって形成することができ、不純物濃度も、この成長の際に設定することができる。このため、この半導体装置2は、前記の半導体装置1において低不純物濃度層11Aを挿入する工程を加えるだけで製造することができる。この半導体装置2においては、前記のようにフリーホイールダイオードの順バイアス時において大きな電流を流すことができると共に、この際の耐圧を前記の半導体装置1よりも更に高めることができる。
【0053】
前記の例では、半導体基板を構成する半導体材料がSiであるものとしたが、同様にパワーMOSFETが構成することができる限りにおいて、この半導体材料は任意である。例えば、上記のSiの代わりにSiCを用いることができる。
【0054】
また、上記の例では、ドリフト層がn型(第1の導電型)、ボディ層がp型(第2の導電型)であるnチャネル型のパワーMOSFETについて記載されたが、これらの導電型を逆転したp型のパワーMOSFETを同様に構成することができることも明らかである。
【符号の説明】
【0055】
1、2、9 半導体装置
10、40 半導体基板
10A、10B トレンチ(第1の溝)
10C トレンチ(第2の溝)
11 ドリフト層(第1の半導体層)
11A 低不純物濃度層(第3の半導体層)
12 ボディ層(第2の半導体層)
13A 第1ソース領域
13B 第2ソース領域
14A ゲート酸化膜(第1ゲート絶縁膜)
14B、14C 酸化膜
14D ゲート酸化膜(第2ゲート絶縁膜)
15A 第1ゲート電極
15B 第2ゲート電極
16 シールド電極
17A、17B 層間絶縁層
18、28 ソース電極(第1主電極)
19 第2ゲート制御用電極
20 ドレイン電極(第2主電極)
R 抵抗素子
W 配線
図1
図2
図3
図4
図5