(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087985
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 17/04 20060101AFI20240625BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202916
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 英明
(72)【発明者】
【氏名】安藤 尊啓
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA09
3J011BA13
3J011CA01
3J011KA03
3J011MA06
3J011MA08
3J011NA01
3J011PA02
3J033AA02
3J033AA05
3J033GA02
(57)【要約】
【課題】スラスト軸受に損傷が起き難く安価な軸受装置を提供すること。
【解決手段】軸受装置(1)の半割スラスト軸受の摺動面は、放射状に延びる少なくとも2つの油溝(81a)と、複数のパッド面と、少なくとも2つの第1傾斜面(85)と、少なくとも2つの第2傾斜面(86)とを有する。第1傾斜面の周方向長さ(L1)および第2傾斜面の周方向長さ(L2)の和が、合計周方向長さ(L3)として定義され、合計周方向長さ(L3)は、円周角度15~40°に相当する長さになっている。第1傾斜面の周方向長さ(L1)は、合計周方向長さ(L3)の60~90%になっている。クランク軸の軸線方向力の入力側の受座(6R)では、各第1傾斜面が、隣接する油溝に関してクランク軸の回転方向前方側に位置する。反対側の受座(6F)では、各第2傾斜面が、クランク軸の回転方向前方側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受装置(1)であって、前記軸受装置(1)は、
内燃機関のクランク軸(10)と、
前記クランク軸の軸線方向力を受ける半円環形状の半割スラスト軸受(8)と、
前記半割スラスト軸受を配置するための受座(6F、6R)が両側面(4F、4R)に形成されている軸受ハウジング(4)と、
を備え、
前記半割スラスト軸受は、前記軸線方向力を受ける摺動面(81)と、その反対側の背面(82)とを有し、前記摺動面は、
それぞれが前記摺動面の径方向内側端部(8i)から径方向外側端部(8o)まで放射状に延びる少なくとも2つの油溝(81a)と、
各油溝の周方向両側に位置する複数のパッド面(84)であって、前記背面から前記パッド面までの軸線方向厚さ(T)が一定である、複数のパッド面と、
少なくとも2つの第1傾斜面(85)であって、各第1傾斜面が、油溝の一方の幅方向端部(811a)と隣接するように前記油溝と前記パッド面との間に形成され、前記背面から前記第1傾斜面までの軸線方向厚さ(T)が、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第1傾斜面と、
少なくとも2つの第2傾斜面(86)であって、各第2傾斜面が、油溝の他方の幅方向端部(812a)と隣接するように前記油溝と前記パッド面との間に形成され、前記背面から前記第2傾斜面までの軸線方向厚さ(T)が、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第2傾斜面と、
を有し、
各第1傾斜面の周方向長さ(L1)および各第2傾斜面の周方向長さ(L2)は、円周角度に相当する長さであり、また、前記第1傾斜面の周方向長さ(L1)および前記第2傾斜面の周方向長さ(L2)の和が、合計周方向長さ(L3)として定義され、
前記合計周方向長さ(L3)は、円周角度15~40°に相当する長さになっており、
前記第1傾斜面の周方向長さ(L1)は、前記合計周方向長さ(L3)の60~90%になっており、
前記クランク軸の前記軸線方向力が入力される側の受座(6R、6R)では、各第1傾斜面が、隣接する油溝に関してクランク軸の回転方向前方側に位置するように、前記半割スラスト軸受が配置されており、
前記クランク軸の前記軸線方向力が入力される側の受座とは反対側の受座(6F,6F)では、各第2傾斜面が、隣接する油溝に関してクランク軸の回転方向前方側に位置するように、前記半割スラスト軸受が配置されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
油溝の一方の幅方向端部における前記第1傾斜面の深さ(D2)は、5~100μmである、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
油溝の他方の幅方向端部における前記第2傾斜面の深さ(D3)は、5~150μmである、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記半割スラスト軸受の径方向中央における前記パッド面に垂直な周方向断面視において、前記第1傾斜面と前記パッド面とがなす角度(θ1)は、0.05~0.8°である、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記半割スラスト軸受の径方向中央における前記パッド面に垂直な周方向断面視において、前記第2傾斜面と前記パッド面とがなす角度(θ2)は、0.2~10°である、請求項1に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、1対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支持されている。
【0003】
1対の半割軸受のうちの一方または両方は、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、一般に半割軸受の軸線方向に向いた両端面に配設される。
【0004】
そして、潤滑油は、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁内の貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれ、その後に半割スラスト軸受に供給されるようになっている。
【0005】
軸受ハウジングの両側面に配置される半割スラスト軸受のうち、変速機側に配置される半割スラスト軸受(I)は、クランク軸から入力される大きな軸線方向力Fを支承する。一方、変速機側とは反対側に配置される半割スラスト軸受(II)は、変速機側に配置される半割スラスト軸受(I)よりも小さな軸線方向力を支承する。一般的には、半割スラスト軸受(I)と半割スラスト軸受(II)とは、同じ寸法および形状を有するものが用いられる。これは、半割スラスト軸受(I)と半割スラスト軸受(II)を共通化することで、半割スラスト軸受が安価に製造でき、軸受装置が安価になるからである。
【0006】
特許文献2では、半割スラスト軸受の摺動面は、複数のパッド部とパッド部との間に油溝を設けられている。さらに、各油溝の周方向の両側には、クランク軸の回転方向の前方側に向かってクランク軸(スラストカラー面)との間の隙間が狭くなる傾斜面(FS)、および、クランク軸の回転方向の後方側に向かってパッド部の間の隙間が狭くなる傾斜面(RS)を設けられている。それによって、内燃機関の運転時に傾斜面(F)とスラストカラー面との間の隙間に高圧の油膜を形成して、半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが直接に接触し難くしている。従来の半割スラスト軸受は、傾斜面(FS)および傾斜面(RS)は、周方向長さが同じになっており、また、半割スラスト軸受の周方向断面視において傾斜面(FS)とパッド部の表面とがなす角度および傾斜面(RS)とパッド部の表面とがなす角度も同じになっている(例えば、特許文献2の
図3参照)。
【0007】
近年、内燃機関の運転時、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際に、クランク軸に対して衝撃的に入力される軸線方向力Fが大きくなる傾向にある。そのため、クラッチから押される方向の軸線方向力Fを支える変速機側の半割スラスト軸受(I)は、変速機から遠い側の半割スラスト軸受(II)よりも大きな負荷容量が必要となる。しかし、前述した通り、半割スラスト軸受は、変速機側および変速機から遠い側において共通の部品を使用することにより、経済性を高めると同時に組付ける部品の間違いを防いでいる。このため、変速機側および変速機から遠い側での半割スラスト軸受の負荷容量は、同じになってしまっている。変速機側の半割スラスト軸受(I)は、軸線方向力Fに対する負荷容量が不足し、損傷することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-201145号公報
【特許文献2】特開2019-100404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、スラスト軸受に損傷が起き難く安価な軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、軸受装置(1)であって、軸受装置(1)は、
内燃機関のクランク軸(10)と、
クランク軸の軸線方向力を受ける半円環形状の半割スラスト軸受(8)と、
半割スラスト軸受を配置するための受座(6F、6R)が両側面(4F、4R)に形成されている軸受ハウジング(4)と、
を備え、
半割スラスト軸受は、軸線方向力を受ける摺動面(81)と、その反対側の背面(82)とを有し、摺動面は、
それぞれが摺動面の径方向内側端部(8i)から径方向外側端部(8o)まで放射状に延びる少なくとも2つの油溝(81a)と、
各油溝の周方向両側に位置する複数のパッド面(84)であって、背面からパッド面までの軸線方向厚さ(T)が一定である、複数のパッド面と、
少なくとも2つの第1傾斜面(85)であって、各第1傾斜面が、油溝の一方の幅方向端部(811a)と隣接するように油溝とパッド面との間に形成され、背面から第1傾斜面までの軸線方向厚さ(T)が、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第1傾斜面と、
少なくとも2つの第2傾斜面(86)であって、各第2傾斜面が、油溝の他方の幅方向端部(812a)と隣接するように油溝とパッド面との間に形成され、背面から第2傾斜面までの軸線方向厚さ(T)が、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第2傾斜面と、
を有し、
各第1傾斜面の周方向長さ(L1)および各第2傾斜面の周方向長さ(L2)は、円周角度に相当する長さであり、また、第1傾斜面の周方向長さ(L1)および第2傾斜面の周方向長さ(L2)の和が、合計周方向長さ(L3)として定義され、
合計周方向長さ(L3)は、円周角度15~40°に相当する長さになっており、
第1傾斜面の周方向長さ(L1)は、合計周方向長さ(L3)の60~90%になっており、
クランク軸の軸線方向力が入力される側の受座(6R、6R)では、各第1傾斜面が、隣接する油溝に関してクランク軸の回転方向前方側に位置するように、半割スラスト軸受が配置されており、
クランク軸の軸線方向力が入力される側の受座とは反対側の受座(6F,6F)では、各第2傾斜面が、隣接する油溝に関してクランク軸の回転方向前方側に位置するように、半割スラスト軸受が配置されていることを特徴とする軸受装置を提供する。
【0011】
本発明の別の実施形態では、油溝の一方の幅方向端部における第1傾斜面の深さ(D2)は、5~100μmである。
【0012】
本発明の別の実施形態では、油溝の他方の幅方向端部における第2傾斜面の深さ(D3)は、5~150μmである。
【0013】
本発明の別の実施形態では、半割スラスト軸受の径方向中央におけるパッド面に垂直な周方向断面視において、第1傾斜面とパッド面とがなす角度(θ1)は、0.05~0.8°である。
【0014】
本発明の別の実施形態では、半割スラスト軸受の径方向中央におけるパッド面に垂直な周方向断面視において、第2傾斜面とパッド面とがなす角度(θ2)は、0.2~10°である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施例1の半割スラスト軸受の正面図である。
【
図3】
図2の半割スラスト軸受の線A-Aに沿った断面図である。
【
図5】軸受装置の軸線方向力の入力側のスラスト軸受の正面図である。
【
図6】軸受装置の軸線方向力の入力側とは反対側のスラスト軸受の正面図である。
【
図7】実施例1の半割スラスト軸受の作用を説明する断面図である。
【
図8】実施例1の半割スラスト軸受の作用を説明する断面図である。
【
図9】従来技術の半割スラスト軸受の正面図である。
【
図10】
図9の半割スラスト軸受の線B-Bに沿った断面図である。
【
図12】実施例2の半割スラスト軸受の正面図である。
【
図13】
図11の半割スラスト軸受の線C-Cに沿った断面図である。
【
図14】別形態の半割スラスト軸受の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例0017】
(軸受装置の構成)
まず、
図1および
図4を参照して、本発明の半割スラスト軸受8を備える軸受装置1の全体構成を説明する。
図1および
図4に示すように、軸受ハウジング4は、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成されている。軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔5が形成されている。側面4F、4Rにおける軸受孔5の周縁には、円環状凹部である受座6、6が形成されている。クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が、円筒状に組み合わされて軸受孔5に嵌合されている。半割スラスト軸受8、8が、円環状に組み合わされて受座6F、6Rに嵌合されている。半割スラスト軸受8、8は、クランク軸10のスラストカラー12を介して、軸線方向力F(
図4参照)を受ける。
【0018】
すなわち、本実施例の軸受装置1は、内燃機関のクランク軸としてのジャーナル部11と、クランク軸の径方向力を支承する1対の半割軸受7、7と、クランク軸の軸線方向力を支承する2対(4つ)の半割スラスト軸受8、8、8、8と、軸受ハウジング4と、を備えている。軸受ハウジング4は、1対の半割軸受7、7を保持するために貫通形成された軸受孔5と、半割スラスト軸受8、8、8、8を配置するために、両側面4F、4Rに形成された受座6F、6Rとを有している。
【0019】
クランク軸10の軸線方向力Fが入力される側とは反対側の側面4F(
図4では左側)の受座6Fにおいて、後述する第1傾斜面85および第2傾斜面86を備えた2つの半割スラスト軸受8、8が、円環状に組み合わされて配置されている。同様に、クランク軸10の軸線方向力Fが入力される側の側面4R(
図4では右側)の受座6Rにおいて、2つの半割スラスト軸受8、8が、円環状に組み合わされて配置されている。
【0020】
このように、本実施例の軸受装置1においては、軸線方向力Fが入力される側とは反対側(換言すれば、変速機から遠い側、または、クランク軸10の回転力の出力側とは反対側)の側面4Fの受座6Fに、半割スラスト軸受8を1つまたは2つ配置するようになっている。また、軸線方向力Fが入力される側(換言すれば、変速機から近い側、または、クランク軸10の回転力の出力側)の側面4Rの受座6Rに、半割スラスト軸受8を1つまたは2つ配置するようになっている。
【0021】
(半割スラスト軸受の構成)
図2および
図3は、本発明の第1の実施形態による半割スラスト軸受8の構成を示す。この半割スラスト軸受8は、半円環形状の平板に形成されている。半割スラスト軸受8は、鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着させたバイメタルによって形成されている。半割スラスト軸受8は、摺動面81および背面82を有する。摺動面81は、軸受合金層の表面であり、スラストカラー12を支承する。背面82は、裏金層の表面であり、軸受合金層を接着させた側とは反対側の表面である。摺動面81は、複数のパッド面84と、複数の第1傾斜面85と、複数の第2傾斜面86と、複数の油溝81aとを有する。なお、油溝81aの表面は、軸受合金層によって覆われていなくてもよい。また、摺動面81は、軸受合金よりも軟質のBi、Sn、Pbのいずれか1種からなる表面部、または、これら金属を主体とする合金からなる表面部を有してもよい。また、摺動面81は、合成樹脂を主体とする樹脂組成物からなる表面部を有してもよい。摺動面81を含む半割スラスト軸受8の全表面が、表面部を有してもよい。
【0022】
図2は、本発明の第1の実施形態による半割スラスト軸受8の正面図である。
図3は、
図2の線A-Aに沿った断面(径方向中央DCの位置における、パッド面84に垂直な周方向断面)を示す。
【0023】
複数のパッド面84では、パッド面84と背面82との間の軸線方向厚さTが一定になっている(すなわち、パッド面84は背面82と平行である)。パッド面84は、部分円環形状になっている。本実施形態では、半割スラスト軸受8の摺動面81に3つのパッド面84が周方向に離間して配置されているが、パッド面84の数は、3つより多くてもよく、一般的には、3~5つのパッド面が形成されている。
【0024】
複数の油溝81aは、それぞれ、半割スラスト軸受8の径方向内側端部から径方向外側端部まで放射状に(すなわち径方向に)延びており、パッド面84とパッド面84との間に配置されている。なお、本実施形態では、パッド面84に挟まれた2つの油溝81aに加えて、半割スラスト軸受8の周方向両端面83、83に隣接して、部分的な油溝81aが形成されている。これによって、2つの半割スラスト軸受18を組み合わせたときに、油溝81aが、各突合せ部に形成される。
【0025】
油溝81aの具体的な寸法として、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合、油溝81aの溝幅W1は、2~7mmであり、油溝81aの深さD1は、0.2~1mmであってもよい。本実施形態では、その周方向断面は、略円弧形状である(
図3参照)。ここで、油溝81aの深さD1は、パッド面84から油溝81aの最深部までの、半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される。なお、上述の寸法は一例に過ぎず、それぞれの寸法はこれらの範囲に限定されない。
【0026】
第1傾斜面85および第2傾斜面86が、パッド面84と油溝81aとの間に配置されている。第1傾斜面85の軸線方向厚さは、パッド面84の周方向端部から油溝81aの一方の幅方向端部811aへ向かって漸次薄くなり、油溝81aと隣接する位置で最小の厚さT1となる。第2傾斜面86の軸線方向厚さは、パッド面84の周方向端部から油溝81aの他方の幅方向端部812aへ向かって漸次薄くなり、油溝81aと隣接する位置で最小の厚さT2となる。本実施形態において、第1傾斜面85および第2傾斜面86は、いずれも平面として形成されているが、これに限定されない。第1傾斜面85および第2傾斜面86は、背面82側から摺動面81側に向かって僅かに凸形状に湾曲した曲面、あるいは、摺動面81側から背面82側に向かって僅かに凸形状に湾曲した曲面であってもよい。
【0027】
半割スラスト軸受8の径方向のいずれの位置においても、第1傾斜面85の周方向長さL1は、第2傾斜面86の周方向長さL2よりも大きくなっている。各第1傾斜面85の周方向長さL1および各第2傾斜面86の周方向長さL2は、円周角度に相当する長さである。すなわち、周方向長さL1および周方向長さL2は、(パッド面84に平行な)半割スラスト軸受8の周方向の長さとして定義される。各第1傾斜面85の周方向長さL1および各第2傾斜面86の周方向長さL2は、半割スラスト軸受8の径方向で一定になっている。なお、各第1傾斜面85の周方向長さL1および各第2傾斜面86の周方向長さL2を半割スラスト軸受8の径方向で一定とすることができる理由は、油溝81aが半割スラスト軸受8の放射状に延びるように形成されているからである。例えば、特許文献1の
図1に示される半割スラスト軸受のように、油溝が放射状に形成されない場合には、各第1傾斜面85の周方向長さL1および各第2傾斜面86の周方向長さL2は、半割スラスト軸受8の径方向で一定になることが困難となる。
【0028】
また、油溝81aに隣接する1対の第1傾斜面85の周方向長さL1および第2傾斜面86の周方向長さL2の長さの和が、合計周方向長さL3として定義される。合計周方向長さL3は、円周角度15~40°に相当する長さになっている。なお、この合計周方向長さL3は、従来の半割スラスト軸受において油溝に隣接して同じ寸法および形状に形成された1対の傾斜面の周方向長さの和と同じである。合計周方向長さL3は、円周角度20~30°に相当する長さであることがより好ましい。
【0029】
第1傾斜面85の周方向長さL1は、合計周方向長さL3の60~90%になっている。第1傾斜面85の周方向長さL1は、合計周方向長さL3の65~85%であることがより好ましい。また、各パッド面84の周方向長さを合計した周方向長さは、半割スラスト軸受の周方向長さの30~50%であることが好ましい。なお、各パッド面の周方向長さを合計した周方向長さは、従来の半割スラスト軸受のものと同等である。内燃機関の始動時において油の供給が十分となるまでの間、半割スラスト軸受8のパッド面84が、スラストカラー12の表面と直接的に接触して支承する。各パッド面の周方向長さを合計した周方向長さが半割スラスト軸受の周方向長さの30%未満であると、始動時にスラストカラー12の表面との接触によってパッド面84に加わる面圧が大きくなり過ぎて、パッド面84が損傷することがある。一方、各パッド面の周方向長さを合計した周方向長さが半割スラスト軸受の周方向長さの50%を超えると、後述する半割スラスト軸受8の負荷容量に関係する第1傾斜面の周方向長さL1および第2傾斜面86の周方向長さL2が小さくなり、負荷容量が不十分になり易い。
【0030】
本実施例において、第1傾斜面85の深さD2は、パッド面84の表面から油溝81aの一方の幅方向端部811aまでの半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される。また、第2傾斜面86の深さD3は、パッド面84の表面から油溝81aの他方の幅方向端部812aまでの半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される。第1傾斜面85の深さD2と第2傾斜面86の深さD3は、半割スラスト軸受8の径方向のいずれの位置でも同じになっている。第1傾斜面85の深さD2は、5~100μmとすることができる。第2傾斜面86の深さD3は、5~150μmとすることができる。なお、本実施例では、第1傾斜面85の深さD2および第2傾斜面86の深さD3は、半割スラスト軸受8の径方向で一定になされているが、これに限定されない。上記の深さ寸法の範囲内において、第1傾斜面85の深さD2および第2傾斜面86の深さD3は、径方向内側端部8iにおいて最小で、径方向外側端部8oに向かって大きくなっていてもよく、あるいは、径方向内側端部8iにおいて最大で、径方向外側端部8oに向かって小さくなっていてもよい。
【0031】
半割スラスト軸受8の径方向のいずれの位置においても、パッド面84に垂直な周方向断面視において、第1傾斜面85とパッド面とがなす角度θ1は、第2傾斜面86とパッド面とがなす角度θ2よりも小さくなっている。半割スラスト軸受8の径方向中央DCにおけるパッド面84に垂直な周方向断面視において、第1傾斜面85とパッド面とがなす角度θ1および第2傾斜面86とパッド面とがなす角度θ2は、0.05°~10°とすることができる。角度θ1および角度θ2が10°を超えると、第1傾斜面85および第2傾斜面86によるくさび状隙間を油が流れる際に圧力が僅かにしか上昇しないため、半割スラスト軸受の負荷容量を高める効果が得られなくなる。さらに、角度θ1は、0.05°~0.8°であり、角度θ2は、0.2°~10°であることが好ましい(
図3参照)。角度θ2が10°以下であれば、第2傾斜面86によるくさび状隙間を油が流れる際に加わる流体力学的作用により圧力が十分に上昇して、半割スラスト軸受の負荷容量が十分に高くなる。さらに、角度θ1は、クランク軸の軸線方向力Fが入力される側の受座6Rに配置された際の半割スラスト軸受8の負荷容量をより高めるために、0.8°以下とすることが好ましい。また、角度θ1および角度θ2が0.05°未満であると、第1傾斜面85および第2傾斜面86によるくさび状隙間にある油の量が少なくなり過ぎて、半割スラスト軸受8の負荷容量が不十分となることがある。上述の各寸法は一例に過ぎず、それぞれの寸法はこれらの範囲に限定されない。
【0032】
なお、半割スラスト軸受8の複数のパッド面84、複数の油溝81a、複数の第1傾斜面85、および、複数の第2傾斜面86は、それぞれ同じ形状および寸法を有している。また、軸受装置1に用いられる複数の半割スラスト軸受8は、同じ形状および寸法を有している。
【0033】
(半割スラスト軸受の配置)
図5は、軸受装置1の軸線方向力Fの入力側のスラスト軸受の正面図であり、このスラスト軸受は、軸受ハウジング4の側面4Rの受座6、6に配置された1対の半割スラスト軸受8、8を組み合わせて構成されている。
図6は、軸線方向力Fの入力側とは反対側のスラスト軸受の正面図であり、このスラスト軸受は、軸受ハウジング4の側面4Fの受座6、6に配置された1対の半割スラスト軸受8、8を組み合わせて構成されている。
図5および
図6において、矢印Xは、クランク軸(スラストカラー12の表面)の回転方向を示す。軸線方向力Fの入力側におけるクランク軸の回転方向Xは、軸線方向力Fの入力側とは反対側におけるクランク軸の回転方向Xに対して逆方向となる。軸線方向力Fの入力側の半割スラスト軸受8、8では、各第1傾斜面85が、隣接する油溝81aに関してクランク軸の回転方向Xの前方側に位置するようになっている(
図5参照)。一方、軸線方向力Fの入力側とは反対側の半割スラスト軸受8、8では、各第2傾斜面86が、隣接する油溝81aに関してクランク軸の回転方向Xの前方側に位置するようになっている(
図6参照)。
【0034】
(作用)
次に、
図7および
図8を参照して、本実施例の軸受装置1の作用を説明する。
【0035】
図7は、
図5に示す半割スラスト軸受8のY1矢視図である。矢印Xは、スラストカラー12の回転方向を示し、白矢印は、油の流れを示す。
図8は、
図6に示す半割スラスト軸受8のY2矢視図である。矢印Xは、スラストカラー12の回転方向を示し、白矢印は、油の流れを示す。
【0036】
上述の通り、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際に、クランク軸に対して衝撃的に入力される軸線方向力Fが大きくなる傾向にある。軸線方向力Fの入力側(変速機側)の半割スラスト軸受8では、軸線方向力Fの入力側とは反対側の半割スラスト軸受8よりも、摺動面81が受ける荷重が大きくなる。軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受8では、回転するスラストカラー12の表面に付随する油が、回転方向前方側に位置する第1傾斜面85とスラストカラー12の表面との間に形成されたくさび状の隙間(スラストカラー12の回転方向の前方側に向かって小さくなるくさび状の隙間)を流れる際に、流体力学的な作用を受けて圧力が高くなる(
図7参照)。一方、軸線方向力の入力側とは反対側の半割スラスト軸受8では、回転するスラストカラー12の表面に付随する油が、回転方向前方側に位置する第2傾斜面86とスラストカラー12の表面との間に形成されたくさび状の隙間(スラストカラー12の回転方向の前方側に向かって小さくなるくさび状の隙間)を流れる際に、流体力学的な作用を受けて圧力が高くなる(
図8参照)。半割スラスト軸受8は、この圧力が高くなった油によって、摺動面81に加えられる負荷を支承する。
【0037】
ここで、実施例では、合計周方向長さL3は、円周角度15~40°に相当する長さになっており、これは、従来のスラスト軸受における1対の傾斜面の周方向長さの和と同じである。
【0038】
しかし、第1傾斜面85の周方向長さL1は、合計周方向長さL3の60~90%になっており、したがって、従来よりも長くなっている。このため、軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受では、第1径斜面85とスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間の周方向長さが大きくなる。この周方向長さが大きくなった第1傾斜面85によるくさび状隙間を油が流れることによって、油の圧力は従来よりも高くなり、軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受8は、負荷容量が大きくなり、損傷が起き難くなる。
【0039】
一方、軸線方向力の入力側とは反対側の半割スラスト軸受8では、負荷容量(油の圧力の上昇)に関係する第2傾斜面86の周方向長さL2が、合計周方向長さL3の10~40%になっている。そのため、軸線方向力の入力側とは反対側の半割スラスト軸受8の負荷容量は、軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受8よりも低くなるが、摺動面81に加えられる負荷が小さいので、この周方向長さL2の範囲であれば、十分な負荷容量を有し、損傷が起こらない。
【0040】
第1傾斜面85の周方向長さL1が合計周方向長さL3の60%未満であると、軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受8の負荷容量を高める効果が不十分となる。また、第1傾斜面85の周方向長さL1が合計周方向長さL3の90%を超えると、第2傾斜面86の周方向長さL2は、合計周方向長さL3の10%未満となる。したがって、軸線方向力の入力側とは反対側の半割スラスト軸受8の負荷容量が不十分になり易い。
【0041】
また、軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受8と軸線方向力の入力側とは反対側の半割スラスト軸受8の寸法および形状が共通であることによって、軸線方向力の入力側の半割スラスト軸受と軸線方向力の入力側とは反対側の半割スラスト軸受が異なる寸法および形状を有する場合と比べて、半割スラスト軸受8が安価に製造でき、軸受装置が安価になる。また、半割スラスト軸受8を軸受装置1に組み付ける際、軸受ハウジング4の軸線方向力の入力側の側面4Rの受座6に配置されるべき半割スラスト軸受が、軸線方向力の入力側とは反対側の側面4Fの受座6に配置される等の誤りが防がれる。
【0042】
ここで、
図9および
図10を参照して、摺動面に複数の傾斜面とパッド面とを有する従来技術の半割スラスト軸受18の構成を説明する。
図9は、半割スラスト軸受18の摺動面側を見た正面図である。
図10は、
図9の線B-Bに沿った周方向断面図である。
【0043】
従来技術の半割スラスト軸受18の摺動面181は、複数のパッド面184と、複数の傾斜面(第1傾斜面185および第2傾斜面186)と、複数の油溝181aとを有する。各パッド面184について、パッド面184と半割スラスト軸受18の背面との間の軸線方向厚さが一定になっている。また、各油溝181aは、半割スラスト軸受18の中心から放射状に延びており、パッド面184とパッド面184との間に配置されている。第1傾斜面185の軸線方向厚さは、パッド面184の周方向端部から油溝181aの一方の幅方向端部へ向かって薄くなっている。第2傾斜面186の軸線方向厚さは、他のパッド面184の周方向端部から油溝181aの他方の幅方向端部へ向かって薄くなっている。第1傾斜面185の周方向長さL11は、第2傾斜面186の周方向長さL12と同じである。第1傾斜面185の周方向長さL11および第2傾斜面186の周方向長さL12の和が、合計周方向長さL13として定義され、合計周方向長さL13は、円周角度15~40°に相当する長さになっている。また、第1傾斜面185の最大深さD0は、第2傾斜面186の最大深さD0と同じである(
図10参照)。
【0044】
従来の軸受装置では、従来技術の半割スラスト軸受18が、両側面4F、4Rの受座6、6に配置されている。軸線方向力Fの入力側の半割スラスト軸受18では、第1傾斜面185の周方向長さL11が合計周方向長さL13の50%であるため、負荷容量が不十分となり損傷することがある。
【0045】
図11は、比較例の周方向断面を示し、半割スラスト軸受の油溝281a、ならびに、油溝281aに隣接する1対の第1傾斜面285および第2傾斜面286を示している。比較例の油溝281aは、パッド面284と平行な溝底面を有している。この溝底面の各端部とパッド面284との間に、平面状の第1傾斜面(一方の溝側面)285および第2傾斜面(他方の溝側面)286が形成されている。第1傾斜面285の周方向長さL21は、第2傾斜面286の周方向長さL22よりも大きくなっている。比較例では、油溝281aに隣接する1対の第1傾斜面285の周方向長さL21および第2傾斜面286の周方向長さL22の長さの和が、合計周方向長さL23として定義される。合計周方向長さL23を円周角度15~40°に相当する長さにすると、油溝281aの溝深さD11を過度に小さくする必要がある。このため、油溝281aから第1傾斜面285または第2傾斜面286へ流れる油の量が少なくなり、半割スラスト軸受の負荷容量が低下してしまう。一方、油溝281aの深さD11を従来と同じ(例えば、0.2~1mm)とし、合計周方向長さL23を円周角度15~40°に相当する長さにすると、第1傾斜面285とパッド面284とがなす角度および第2傾斜面286とパッド面284とがなす角度を、過度に大きくする必要があるため、半割スラスト軸受の負荷容量が低下してしまう。
本実施例の半割スラスト軸受8において、第2傾斜面86の深さD3は、(半割スラスト軸受8の径方向のいずれの位置においても)第1傾斜面85の深さD2よりも大きくなっている。なお、第1傾斜面85の深さD2および第2傾斜面86の深さD3は、半割スラスト軸受8の径方向のいずれの位置においても一定になっている。
以上、図面を参照して、本発明の実施例1および2を詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施例1および2に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。