(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088010
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】帯状体の液体除去装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
C23G 3/02 20060101AFI20240625BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240625BHJP
F26B 5/14 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C23G3/02
F16C13/00 B
F26B5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202951
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】浜田 一駿
(72)【発明者】
【氏名】平井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】田野口 一郎
【テーマコード(参考)】
3J103
3L113
4K053
【Fターム(参考)】
3J103AA02
3J103BA41
3J103CA65
3J103FA08
3J103GA64
3L113AA02
3L113AA03
3L113AB09
3L113AC31
3L113AC62
3L113AC69
3L113BA35
3L113DA14
4K053PA02
4K053PA12
4K053QA04
4K053SA12
4K053XA41
(57)【要約】
【課題】帯状体に押し付けられるロールを支持するシリンダーの容積を大きくすることなく、ロールを支持することができる帯状体の液体除去装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】帯状体1の上面に上ロール4を押し付ける上アクチュエータ7と、帯状体1の下面に下ロール5を押し付ける下アクチュエータ10と、上ロール4を回転自在に支持する上ロールチョック6と、下ロール5を回転自在に支持する下ロールチョック8とを備える帯状体1の液体除去装置3であって、帯状体1に上ロール4と下ロールと5を押し付けている場合に、下ロールチョック8の下側に配置されて下側への下ロールチョック8の移動を抑制するストッパー11を更に備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送されてくる帯状体の上面に押し付けられる上ロールと、前記帯状体の下面に押し付けられる下ロールと、前記上面に前記上ロールを押し付ける上アクチュエータと、前記下面に前記下ロールを押し付ける下アクチュエータと、前記上ロールの両端部のそれぞれを回転自在に支持すると共に、前記上ロールと一体となって上下方向に移動する上ロールチョックと、前記下ロールの両端部のそれぞれを回転自在に支持すると共に、前記下ロールと一体となって上下方向に移動する下ロールチョックとを備え、
前記上アクチュエータと前記下アクチュエータとによって前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している液体を除去する帯状体の液体除去装置であって、
前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している前記液体を除去している場合に、前記下ロールチョックの下側に配置されて下側への前記下ロールチョックの移動を抑制するストッパーを更に備えている
帯状体の液体除去装置。
【請求項2】
前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している前記液体を除去している場合における上下方向での前記帯状体の通過位置よりも、前記下アクチュエータによって前記帯状体を押し上げている場合に、前記下ロールチョックの下側に前記ストッパーを配置すると共に、前記下ロールチョックの下側から前記ストッパーを退避させる退避装置を更に備えている請求項1に記載の帯状体の液体除去装置。
【請求項3】
前記退避装置は、固定部上に設けられており、前記下ロールの軸線方向に移動するスライダーと、前記軸線方向に前記スライダーを移動させるアクチュエータとを備え、前記スライダー上に前記ストッパーが一体に設けられている請求項2に記載の帯状体の液体除去装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液体除去装置の制御方法であって、
前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとが押し付けられておりかつ前記ストッパー上に前記下ロールチョックが載置している状態から前記上ロールと前記下ロールとの間の間隔を増大させる際には、前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している前記液体を除去している場合における上下方向での前記帯状体の通過位置よりも、前記上ロールと前記下ロールとを上昇させて前記下ロールチョックの下側から前記ストッパーを離脱させ、その後、前記通過位置よりも前記下ロールを下降させ、かつ、
前記上ロールと前記下ロールとが互いに離隔している状態から前記上ロールと前記下ロールと互いに接近させて前記帯状体に押し付ける際には、前記通過位置よりも前記下ロールを上昇させることによって前記下ロールチョックを上昇させて前記下ロールチョックの下側に前記ストッパーを配置し、その後、前記前記下ロールを下降させて前記ストッパーに載置すると共に、前記上ロールを下降させて前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付ける液体除去装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状体に付着している液体を除去する装置およびその制御方法に関し、特に、帯状体を挟み付けるように配置された一対のロールを帯状体に押し付けることによって、帯状体に付着している液体を除去する装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸洗、脱脂、水洗、化成処理等の各種表面処理工程においては、所定の容器に貯留してある酸洗液やメッキ液等に帯状の鋼材(以下、鋼帯と記す。)を浸漬して各種表面処理を行う。その後、容器から鋼帯が搬出され、鋼帯の表面に付着している酸洗液やメッキ液等を除去した後に、次工程に鋼帯が搬出される。また、鋼帯に防錆油等を塗油する工程においても、その後の次工程に搬出される前に余分な油が鋼帯から除去される。
【0003】
上述した酸洗液、メッキ液および油(以下、処理液と記す。)を鋼帯から除去する方法の一例が特許文献1に記載されている。その方法では、ほぼ水平な状態で搬送される鋼帯の上面側と下面側とのそれぞれに、リンガーロールと称されるロールが配置されている。それらのリンガーロールをエアシリンダーによって鋼帯に押し付けることによって鋼帯に付着している液体を絞って除去する。
【0004】
また、設備の稼働率の向上や加工コストの低減のためには、一対のリンガーロール同士の間に、途切れることなく、連続して複数の鋼帯を通すことが好ましい。そのために、例えば、鋼帯の搬送方向でリンガーロールの上流側に、リンガーロールに通す鋼帯の後端部と、それに続く他の鋼帯の先端部とを接続する溶接機が設置される場合がある。一方で、搬送方向でリンガーロールの上流側に溶接機が設置されていない場合がある。その場合には、一対のリンガーロール同士の間に新たに鋼帯を通す度に、一対のリンガーロール同士の間隔を広げる。そして、一対のリンガーロール同士の間に鋼帯の先端部を通し、鋼帯をある程度通した後に一対のリンガーロール同士の間隔を狭めて鋼帯に押し付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼帯の搬送方向で特許文献1に記載された一対のリンガーロールの上流側に溶接機が設置されていない場合には、一対のリンガーロール同士の間に新たに鋼帯を通す度に、一対のリンガーロール同士の間隔を広げる必要がある。
【0007】
また、リンガーロールは、鋼帯と処理液とのそれぞれに接触するため、摩耗したり化学的腐食が生じたりする。そのため、リンガーロールの摩耗の状態や化学的腐食の状態に応じて、あるいは、一定の期間でリンガーロールを交換せざるを得ない。特許文献1に記載のリンガーロールを交換する場合は、エアシリンダーによるリンガーロールの支持や、鋼帯に対するリンガーロールの押し付けを解除し、その状態でリンガーロールの交換を行う。そして、リンガーロールを交換した後においては、エアシリンダーのストロークを調整する。リンガーロールの外径を変更した場合には、エアシリンダーのストローク調整に加えてエアシリンダーの設置位置の変更を行う場合がある。このように、特許文献1に記載の方法では、一対のリンガーロール同士の間に新たに鋼帯を通したり、リンガーロールを交換したりする度に、エアシリンダーのストローク調整や設置位置の変更などの作業が必要となってしまう。
【0008】
また、特許文献1に記載された各リンガーロールは、エアシリンダーによって支持されており、固定されていない。鋼帯の下側に位置する下側エアシリンダーは鋼帯の質量に応じた荷重を受ける。したがって、下側エアシリンダーによるリンガーロールの押圧力やシリンダー容積は、鋼帯の上側に位置する上側エアシリンダーよりも大きくなってしまう。それに加えて、万が一、鋼帯が振動して当該振動に伴う大きな荷重が下側エアシリンダーに作用した場合には、下側エアシリンダーによるリンガーロールの押圧力に不足が生じる可能性がある。その場合には、鋼帯に下側リンガーロールを押し付けることができず、処理液を十分に絞れない可能性がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、帯状体に押し付けられるロールを支持するシリンダーの容積を大きくすることなく、ロールを支持することができる帯状体の液体除去装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]連続的に搬送されてくる帯状体の上面に押し付けられる上ロールと、前記帯状体の下面に押し付けられる下ロールと、前記上面に前記上ロールを押し付ける上アクチュエータと、前記下面に前記下ロールを押し付ける下アクチュエータと、前記上ロールの両端部のそれぞれを回転自在に支持すると共に、前記上ロールと一体となって上下方向に移動する上ロールチョックと、前記下ロールの両端部のそれぞれを回転自在に支持すると共に、前記下ロールと一体となって上下方向に移動する下ロールチョックとを備え、前記上アクチュエータと前記下アクチュエータとによって前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している液体を除去する帯状体の液体除去装置であって、前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している前記液体を除去している場合に、前記下ロールチョックの下側に配置されて下側への前記下ロールチョックの移動を抑制するストッパーを更に備えている帯状体の液体除去装置。
[2]前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している前記液体を除去している場合における上下方向での前記帯状体の通過位置よりも、前記下アクチュエータによって前記帯状体を押し上げている場合に、前記下ロールチョックの下側に前記ストッパーを配置すると共に、前記下ロールチョックの下側から前記ストッパーを退避させる退避装置を更に備えている上記の[1]に記載の帯状体の液体除去装置。
[3]前記退避装置は、固定部上に設けられており、前記下ロールの軸線方向に移動するスライダーと、前記軸線方向に前記スライダーを移動させるアクチュエータとを備え、前記スライダー上に前記ストッパーが一体に設けられている上記の[2]に記載の帯状体の液体除去装置。
[4]上記の[1]に記載の帯状体の液体除去装置の制御方法であって、前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとが押し付けられておりかつ前記ストッパー上に前記下ロールチョックが載置している状態から前記上ロールと前記下ロールとの間の間隔を増大させる際には、前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付けることによって前記帯状体に付着している前記液体を除去している場合における上下方向での前記帯状体の通過位置よりも、前記上ロールと前記下ロールとを上昇させて前記下ロールチョックの下側から前記ストッパーを離脱させ、その後、前記通過位置よりも前記下ロールを下降させ、かつ、前記上ロールと前記下ロールとが互いに離隔している状態から前記上ロールと前記下ロールと互いに接近させて前記帯状体に押し付ける際には、前記通過位置よりも前記下ロールを上昇させることによって前記下ロールチョックを上昇させて前記下ロールチョックの下側に前記ストッパーを配置し、その後、前記前記下ロールを下降させて前記ストッパーに載置すると共に、前記上ロールを下降させて前記帯状体に前記上ロールと前記下ロールとを押し付ける帯状体の液体除去装置の制御方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、帯状体に押し付けるロールを支持するシリンダーの容積を大きくすることなく、ロールを支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の帯状体に相当する帯状の鋼材(以下、鋼帯と記す。)に対して表面処理を行う表面処理ラインの一例を示す図である。
【
図2】鋼帯から上ロールと下ロールとが離隔している状態を示す正面図である。
【
図3】鋼帯に上ロールと下ロールとを押し付ける場合の動作の一例を説明するための図である。
【
図4】鋼帯に上ロールと下ロールとが押し付けられている状態を示す正面図である。
【
図5】鋼帯から上ロールと下ロールとを離隔させる場合の動作の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
図1は、本発明の帯状体に相当する帯状の鋼材(以下、鋼帯と記す。)に対して酸洗、脱脂、水洗、化成処理などを行う表面処理ラインの一例を示す図である。
図1に示す表面処理ラインでは、ロール巻きされている鋼帯1を巻き出すと共に、図示しない搬送装置によって表面処理装置2に鋼帯1を搬送する。表面処理装置2は上述した酸洗、脱脂、水洗、化成処理などを行うものであり、従来知られた表面処理装置と同様に構成されたものであってよい。鋼帯1の搬送方向Aで表面処理装置2の下流側に、鋼帯1の表面に付着している酸洗液、メッキ液および油などの処理液を除去するリンガーロール装置3が設けられている。リンガーロール装置3では、ほぼ水平な状態で鋼帯1が搬送される。なお、上述したリンガーロール装置3が本願発明の液体除去装置に相当している。
【0014】
上下方向Hでリンガーロール装置3における鋼帯1の通過位置がパスラインPLであってパスラインPLよりも上側に、鋼帯1の上面に押し付けられる上リンガーロール(以下、単に上ロールと記す。)4が設けられている。また、パスラインPLよりも下側に、鋼帯1の下面に押し付けられる下リンガーロール(以下、単に下ロールと記す。)5が設けられている。なお、上下方向HにおけるパスラインPLの位置は、リンガーロール装置3の設計上、定められる。
【0015】
図2は、鋼帯1から上ロール4と下ロール5とが離隔している状態を示す正面図ある。
図2を参照してリンガーロール装置3の構成を説明する。
図2に示す上ロール4の回転中心軸線方向で上ロール4の両端部に上ロール4を回転自在に保持する上ロールチョック6がそれぞれ設けられている。上ロールチョック6の上側であって、例えば、リンガーロール装置3の図示しないフレームに、上ロールチョック6を上下方向Hに移動させる上アクチュエータ7が固定されている。上アクチュエータ7は上ロールチョック6を上下方向Hに移動できればよく、送りネジやラックアンドピニオンを使用した直動装置、単動式や複動式のエアシリンダーなどの従来知られたものであってよい。
【0016】
図2に示す上アクチュエータ7が単動式のエアシリンダーである場合には、フレームにシリンダー7Aが固定され、ピストン7Bに上ロールチョック6が連結される。シリンダー7Aとピストン7Bとによって区画された図示しない空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給することによって下ロール5側にピストン7Bを押圧するように構成される。また、上アクチュエータ7に図示しないリターンスプリングが設けられる。空気室の空気が排出されてピストン7Bの押圧力がリターンスプリングの弾性力よりも低下すると、リターンスプリングの弾性力によって初期位置にピストン7Bが復帰移動させられる。
図2に示す例では、ピストン7Bは初期位置に位置している。これにより、上ロール4は、パスラインPLよりも上側に位置している。
【0017】
上アクチュエータ7が復動式のエアシリンダーである場合には、フレームにシリンダー7Aが固定され、ピストン7Bに上ロールチョック6が連結される。複動式のエアシリンダーでは、ピストン7Bを挟んで両側に図示しない空気室がそれぞれ形成されている。2つの空気室に対する空気の供給および排出を交互に切り替えることによって下ロール5側にピストン7Bを押圧し、また、初期位置にピストン7Bを復帰移動させるようになっている。例えば、2つの空気室のうち、一方の空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給し、かつ、他方の空気室から空気を排出することによって下ロール5側にピストン7Bを押圧するようになっている。これとは反対に、一方の空気室から空気を排出し、他方の空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給することによってピストン7Bを初期位置に復帰移動させるようになっている。
【0018】
下ロール5の回転中心軸線方向で下ロール5の両端部に下ロール5を回転自在に保持する下ロールチョック8がそれぞれ設けられている。下ロールチョック8の下側に位置するリンガーロール装置3のフレーム9に、下ロールチョック8を上下方向Hに移動させる下アクチュエータ10が固定されている。下アクチュエータ10は上述した上アクチュエータ7と同様に、下ロールチョック8を上下方向Hに移動できればよく、送りネジやラックアンドピニオンを使用した直動装置、単動式や複動式のエアシリンダーなどの従来知られたものであってよい。
【0019】
図2に示す下アクチュエータ10が単動式のエアシリンダーである場合には、フレーム9にシリンダー10Aが固定され、ピストン10Bに下ロールチョック8が連結される。シリンダー10Aとピストン10Bとによって区画された図示しない空気室に、上述した空気の供給源から空気を供給することによって上ロール4側にピストン10Bを押圧するように構成される。また、下アクチュエータ10に図示しないリターンスプリングが設けられる。空気室の空気が排出されてピストン10Bの押圧力がリターンスプリングの弾性力よりも低下すると、リターンスプリングの弾性力によって初期位置にピストン10Bが復帰移動させられる。
図2に示す例では、ピストン10Bは初期位置に位置している。これにより、下ロール5は、パスラインPLよりも下側に位置している。
【0020】
下アクチュエータ10が復動式のエアシリンダーである場合には、フレームにシリンダー10Aが固定され、ピストン10Bに下ロールチョック8が連結される。複動式のエアシリンダーでは、ピストン10Bを挟んで両側に図示しない空気室がそれぞれ形成されている。2つの空気室に対する空気の供給および排出を交互に切り替えることによって上ロール4側にピストン10Bを押圧し、また、初期位置にピストン10Bを復帰移動させるようになっている。例えば、2つの空気室のうち、一方の空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給し、かつ、他方の空気室から空気を排出することによって上ロール4側にピストン10Bを押圧するようになっている。これとは反対に、一方の空気室から空気を排出し、他方の空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給することによってピストン10Bを初期位置に復帰移動させるようになっている。
【0021】
本発明の実施形態に係るリンガーロール装置3は、下ロールチョック8を支持して下側への下ロールチョック8の移動を抑制するストッパー11を備えている。当該ストッパー11は、リンガーロール装置3の幅方向Wに移動可能に構成されており、上ロール4と下ロール5とが互いに離隔している場合には、リンガーロール装置3の幅方向Wでリンガーロール装置3の外側に退避されている。具体的には、幅方向Wでリンガーロール装置3の両側のそれぞれに、ストッパー11、および、ストッパー11を幅方向Wに往復動させる退避装置12が設けられている。退避装置12は、幅方向Wにフレーム9上を移動可能に構成されたスライダー13と、幅方向Wにスライダー13を往復動させる退避アクチュエータ14とを備えている。スライダー13上にストッパー11が一体に設けられている。
【0022】
ストッパー11は、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けている場合に、下ロールチョック8を支持する。そのため、上下方向Hでストッパー11とスライダー13とを合わせた高さは、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けている場合における下ロールチョック8とフレーム9との間の間隔とほぼ同じ高さに設定されている。スライダー13は、幅方向Wに移動できればよく、例えば、台車であってよい。
【0023】
退避アクチュエータ14は、スライダー13を往復動可能な機構や装置であればよく、例えば、送りネジやラックアンドピニオンを使用した直動装置、単動式や複動式のエアシリンダー、油圧シリンダーなど、従来知られた機構や装置のいずれであってもよい。
図2に示す退避アクチュエータ14が単動式のエアシリンダーである場合には、フレーム9にシリンダー14Aが固定され、ピストン14Bにスライダー13が連結される。シリンダー14Aとピストン14Bとによって区画された図示しない空気室に、空気の供給源から空気を供給することによって幅方向Wで下ロールチョック8側にピストン14Bを押圧するように構成される。また、退避装置12に図示しないリターンスプリングが設けられる。空気室の空気が排出されてピストン14Bの押圧力がリターンスプリングの弾性力よりも低下すると、リターンスプリングの弾性力によって初期位置にピストン14Bが復帰移動させられる。
【0024】
退避アクチュエータ14が復動式のエアシリンダーである場合には、フレーム9にシリンダー14Aが固定され、ピストン14Bにスライダー13が連結される。複動式のエアシリンダーでは、ピストン14Bを挟んで両側に図示しない空気室がそれぞれ形成されている。2つの空気室に対する空気の供給および排出を交互に切り替えることによって下ロールチョック8側にピストン14Bを押圧し、また、初期位置にピストン14Bを復帰移動させるようになっている。例えば、2つの空気室のうち、一方の空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給し、かつ、他方の空気室から空気を排出することによって下ロールチョック8側にピストン14Bを押圧するようになっている。また、一方の空気室から空気を排出し、他方の空気室に図示しない空気の供給源から空気を供給することによってピストン14Bを初期位置に復帰移動させるようになっている。
【0025】
また、リンガーロール装置3の上アクチュエータ7、下アクチュエータ10、および、退避装置12を制御する制御装置15が設けられている。制御装置15は、例えばマイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータと予め記憶させられているデータ等とを使用して演算を行い、その演算結果を制御指令信号として出力するように構成されている。制御装置15に入力されるデータは、例えば、鋼帯1の長さや板厚、搬送速度、各アクチュエータ7、10、14のストローク量を挙げることができる。また、制御装置15から出力される制御指令信号は、例えば、各アクチュエータ7、10、14に対する空気の供給および停止を挙げることができる。
【0026】
図3は、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付ける場合の動作の一例を説明するための図である。なお、
図3では、図面を簡単にするため、鋼帯1の記載を省略してある。また、
図3に示す例は、各アクチュエータ7、10、14が単動式のエアシリンダーである場合の例である。
図3(A)は、
図2に示す状態のリンガーロール装置3を示しており、上ロール4はパスラインPLよりも上側の初期位置に位置しており、下ロール5はパスラインPLよりも下側の初期位置に位置している。この状態で、上ロール4と下ロール5との間に鋼帯1の先端部をある程度通す。上下方向Hでの上ロール4と下ロール5との間の間隔は、鋼帯1の先端部を通すときに、上ロール4の外周面や下ロール5の外周面に前記先端部が接触しにくい間隔に設定されている。その間隔は実験により予め求めることができる。
【0027】
鋼帯1の先端部を通した後に、下アクチュエータ10の空気室に空気を供給し、ピストン10Bを上昇させる。これにより下ロール5の外周面に接触している鋼帯1を押し上げる。ピストン10Bの上昇に伴って下ロールチョック8が上昇し、上下方向Hでフレーム9と下ロールチョック8との間の隙間が次第に増大する。
【0028】
図3(B)に示すように、上下方向Hで下ロール5の頂部がパスラインPLを超えた場合に、下アクチュエータ10の空気室に対する空気の供給を停止し、また、その状態を維持する。下ロール5の頂部がパスラインPLを超えたことの判定は、下アクチュエータ10の空気室に対する空気の供給量や下アクチュエータ10のピストン10Bのストローク量などに基づいて行うことができる。あるいは、図示しない位置センサによって下ロール5の頂部の位置を検出し、位置センサの検出信号に基づいて下ロール5の頂部がパスラインPLを超えたことの判定を行ってもよい。
【0029】
次いで、退避アクチュエータ14の空気室に空気を供給してスライダー13を押圧し、
図3(C)に示すように、下ロールチョック8の下側にストッパー11を配置する。下ロールチョック8の下側にストッパー11が配置されたことの判定は、退避アクチュエータ14の空気室に対する空気の供給量や退避アクチュエータ14のピストン14Bのストローク量などに基づいて行うことができる。あるいは、図示しない位置センサによってストッパー11の位置を検出し、位置センサの検出信号に基づいて下ロールチョック8の下側にストッパー11が配置されたことの判定を行ってもよい。
【0030】
下ロールチョック8の下側にストッパー11が配置されると、下アクチュエータ10の空気室から空気が排出され、下ロール5が次第に下降する。それに伴って下ロール5に接している鋼帯1と下ロールチョック8とがそれぞれ下降し、ついには、下ロールチョック8の下面とストッパー11とが接触する。これにより、それ以上の下ロールチョック8の下降が防止される。また、この状態では、ストッパー11によって下ロールチョック8が支持される。そのため、下アクチュエータ10の駆動は一時的に停止される。
【0031】
上述した下ロールチョック8の下降とほぼ同時に、上アクチュエータ7の空気室に空気を供給し、ピストン7Bを下降させる。これにより上ロールチョック6および上ロール4がそれぞれ下降する。上ロール4が下降すると、
図3(D)に示すように、下ロール5上の鋼帯1に上ロール4が押し付けられる。なお、
図4は、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とが押し付けられている状態を示す正面図ある。
【0032】
また、
図3(D)や
図4に示す状態では、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けた状態を維持するため、上アクチュエータ7の空気室に対する空気の供給が維持され、あるいは、空気室に空気が閉じ込められた状態が維持される。なお、上アクチュエータ7の空気室に対する空気の供給量や圧力、ピストン7Bのストローク量は、予め設定されている。すなわち、上アクチュエータ7の空気室に対する空気の供給量や圧力、ピストン7Bのストローク量は、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けた場合に、処理液を除去できる空気の供給量や圧力、ストローク量である。これらは実験により求めることができる。
【0033】
そして、図示しない搬送装置によって鋼帯1が搬送され、
図3(D)や
図4に示す状態の上ロール4と下ロール5との間を鋼帯1が通されて鋼帯1の表面に付着している処理液が除去される。
【0034】
図5は、鋼帯1から上ロール4と下ロール5とを離隔させる場合の動作の一例を説明するための図である。なお、
図5では、図面を簡単にするため、鋼帯1の記載を省略してある。また、
図5に示す例は、各アクチュエータ7、10、14が単動式のエアシリンダーである場合の例である。
図5(A)は、鋼帯1に上ロール4と下ロール5と押し付けている状態を示しており、上述した
図3(D)と同じ状態を示している。先ず、上アクチュエータ7の空気室から空気を排出する。ピストン7Bの押圧力がリターンスプリングの弾性力よりも低下すると、リターンスプリングの弾性力よって初期位置に向かってピストン7Bが復帰移動する。それに伴って上ロールチョック6および上ロール4は上昇してそれぞれの初期位置に向かって移動する。
【0035】
また、下アクチュエータ10の空気室に空気を供給して、ピストン10Bを押圧して下ロールチョック8を上昇させる。これにより下ロール5の外周面に接触している鋼帯1が押し上げられ、ストッパー11と下ロールチョック8との間に隙間が生じる。下ロールチョック8の上昇に伴って、上下方向Hでストッパー11と下ロールチョック8との間の隙間、および、フレーム9と下ロールチョック8との間の隙間が次第に増大する。
【0036】
図5(B)に示すように、上下方向Hで下ロール5の頂部がパスラインPLを超えると、下アクチュエータ10の空気室に対する空気の供給を停止し、また、その状態を維持する。次いで、退避アクチュエータ14の空気室から空気を排出する。ピストン14Bの押圧力がリターンスプリングの弾性力よりも低下すると、リターンスプリングの弾性力よって初期位置に向かってピストン14Bが移動する。こうして、幅方向Wでリンガーロール装置3の外側にストッパー11が退避移動させられ、それらの初期位置に戻る。
図5(C)および
図2はその状態を示している。
【0037】
次いで、下アクチュエータ10の空気室から空気を排出する。ピストン10Bの押圧力がリターンスプリングの弾性力よりも低下すると、リターンスプリングの弾性力よって初期位置に向かってピストン10Bが移動する。こうして、
図5(D)に示すように、上下方向での上ロール4と下ロール5との間の間隔は、上述した予め設定された間隔になる。
【0038】
このように、上述した構成のリンガーロール装置3では、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けている場合に、下ロールチョック8をストッパー11によって支持して下降を防止することができる。つまり、下ロール5を固定することができる。これにより、鋼帯1がバタつくことによって下ロール5が上下動してしまうことを抑制できる。また、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けて処理液を除去するときには、上アクチュエータ7によって鋼帯1に各ロール4、5を押し付ければよい。つまり、鋼帯1に上ロール4と下ロール5とを押し付けて処理液を除去するときに、下アクチュエータ10を駆動する必要がない。そのため、下アクチュエータ10としてシリンダー容積の小さいものを使用することができ、また、装置全体として簡易な構成とすることができる。なお、下ロール5を交換して、交換の前後で下ロール5の外径が変化した場合には、交換後の下ロール5の外径に応じた高さのストッパーを用意すればよい。
【0039】
さらに、本発明の実施形態では、エアシリンダーによって各アクチュエータ7、10を構成するため、各ロール4、5の開閉を速やかに行うことができる。また、ストッパー11を速やかに下ロールチョック8の下側に配置することができる。これにより、リンガーロール装置3に鋼帯1を通したり、上ロール4や下ロール5を交換したりするリンガーロール装置3の仕掛かりに要する時間を短縮することができる。具体的には、例えば、鋼帯1の搬送方向Aでリンガーロール装置3の上流側に、鋼帯1同士を連結する溶接機がなく、新しい鋼帯1を通す度に上ロール4と下ロール5とを開閉するとしても、上ロール4と下ロール5との開閉を速やかに行うことができる。
【0040】
そして、上述した構成のリンガーロール装置3では、各アクチュエータ7、10、14の作動を制御装置15によって制御できる。つまり、上ロール4と下ロール5との開閉、および、ストッパー11の往復動を、オペレータによる遠隔操作や、自動制御により行うことができる。そのため、全体として安全性やラインスピードを向上することができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。上述した実施形態では、ストッパー11は退避装置12によって幅方向Wに往復動するように構成したが、これに代えて、搬送方向Aに移動するように構成してもよい。その場合であっても、上述した実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0042】
(実施例)
上述したストッパーを備えている本発明に係るリンガーロール装置を用意し、当該リンガーロール装置を用いて鋼帯に付着する防錆油の絞り作業を行った。具体的には、外径が300mmの上ロールと下ロールとを使用し、それらのロールを板幅700mm以上1800mm以下の鋼帯に押し付けて鋼板に付着した防錆油の除去を行った。鋼帯の搬送速度は20m/min以上120m/min以下に設定した。そして、端部同士が互いに溶接された鋼帯を、リンガーロール装置を停止することなく、上ロールと下ロールとの間を通過させた。また、本発明に係るリンガーロール装置では、下ロールチョックの下側に、高さ90mmのストッパーを配置した。
【0043】
(比較例)
上述したストッパーを備えていないリンガーロール装置を使用した以外は、実施例と同様にして、鋼帯に付着した防錆油の除去を行った。
【0044】
(評価)
本発明に係るリンガーロール装置を用いた場合は、鋼帯の端部同士を溶接した溶接部が上ロールと下ロールとの間を通過しても上ロールや下ロールに疵が発生することはなく、溶接部以外では、防錆油は良好に除去されていた。一方、比較例のリンガーロール装置では、上ロールと下ロールとに疵は見られないものの、溶接部以外で防錆油が十分に絞れていない箇所があった。具体的には、前記防錆油が十分に絞れていない箇所は、上ロールと下ロールとの間を通過するときに、鋼帯がバタついた部分である。防錆油が十分に絞れていない理由は、鋼帯がバタついた際に下ロールが上下動して鋼帯に下ロールを十分に押し付けることができず、そのために、防錆油を十分に絞れなかったと考えられる。なお、比較例のリンガーロール装置では、下ロールのエアシリンダーのみによって鋼帯の張力や鋼帯がバタついたときの荷重を受ける。そのため、比較例のリンガーロール装置において、鋼帯がバタついた際においても、防錆油を十分に絞るためには、下ロールのエアシリンダーの容量を大きくせざるを得ない。
【0045】
1 鋼帯
2 表面処理装置
3 リンガーロール装置
4 上ロール
5 下ロール
6 上ロールチョック
7 上アクチュエータ
8 下ロールチョック
9 フレーム
10 下アクチュエータ
11 ストッパー
12 退避装置
13 スライダー
14 退避アクチュエータ
15 制御装置