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特開2024-88030異常予兆診断装置および異常予兆診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088030
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】異常予兆診断装置および異常予兆診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240625BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240625BHJP
   F23G 5/50 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
F23G5/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202974
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 航哉
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 峻
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆名
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3K062
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
3K062AA02
3K062AB01
3K062AC01
3K062CA08
3K062CB03
3K062DA40
(57)【要約】
【課題】診断対象の室内においてより適切な異常予兆診断を行うことができる異常予兆診断装置および異常予兆診断方法を提供する。
【解決手段】異常予兆診断装置は、診断対象である対象室内の音を検出する音検出器と、処理回路と、を備え、処理回路は、音検出器で検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた音の強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、第1時間より長い第2時間における周波数に応じた音の強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、第2画像を時間軸方向に走査しながら第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、第2画像において一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象である対象室内の音を検出する音検出器と、
処理回路と、
を備え、
前記処理回路は、
前記音検出器で検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた音の強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、
前記対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、前記第1時間より長い第2時間における周波数に応じた音の強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、
前記第2画像を時間軸方向に走査しながら前記第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、
前記第2画像において前記一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する、異常予兆診断装置。
【請求項2】
前記対象室内または前記対象室の周囲には、前記対象室内における音の発生源となる複数の機器が設置され、
前記記憶器は、前記複数の機器の稼働状態が互いに異なる2以上の運転状態に応じた2以上の第2画像を記憶し、
前記処理回路は、
前記音検出器により音を検出したときの前記運転状態を特定する運転状態特定データを取得し、
取得した前記運転状態特定データに応じた第2画像を読み出す、請求項1に記載の異常予兆診断装置。
【請求項3】
前記異常予兆があると判定された場合に、当該異常予兆があることを報知する報知器と、
前記対象室内の画像を撮影するカメラと、を備え、
前記処理回路は、前記音検出器で音を検出するタイミングで撮影された前記対象室内の画像を前記第1画像に対応付けて記憶し、
前記報知器に前記異常予兆があることを報知させる際に、対応する前記対象室内の画像を前記報知器に出力させる、請求項1または2に記載の異常予兆診断装置。
【請求項4】
前記対象室は、廃棄物処理施設における燃焼炉の炉室である、請求項1または2に記載の異常予兆診断装置。
【請求項5】
前記音検出器は、前記対象室内の天井または壁に設置される、請求項1または2に記載の異常予兆診断装置。
【請求項6】
診断対象である対象室内の音を検出し、
検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、
前記対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、前記第1時間より長い第2時間における周波数に応じた強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、
前記第2画像を時間軸方向に走査しながら前記第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、
前記第2画像において前記一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する、異常予兆診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常予兆診断装置および異常予兆診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理施設等のプラントにおける異常予兆診断を行うための方法として、診断対象の室内の音を検出し、検出された音を分析する方法が提案されている。例えば、下記特許文献1には、監視対象からの音響を音響センサで検出して監視対象機器の異常の有無を監視する際に、監視時の音響検出信号の周波数スペクトルから同一の監視対象の正常音について予め記憶した周波数スペクトルを減算し、減算して得られた周波数スペクトルパターンと予め既知の異常音および外乱音に対して記憶された周波数スペクトルパターンとのパターンの類似度を演算して異常音の有無の判定および外乱音の除去を行うことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-166483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プラント内の機器の作動音が正常時において常に一定であるとは限らない。また、異常予兆診断を行いたい場所において作動する機器が、1つであるとは限らない。このため、上記特許文献1のように、音響センサにより検出された音響検出信号の周波数スペクトルから監視対象の正常音についての周波数スペクトルを適切に除去できない恐れがある。したがって、正常時においても様々な音の要素が存在し得る室内における音を用いた異常予兆診断には、改善の余地がある。
【0005】
本開示は上記に鑑みなされたものであり、診断対象の室内においてより適切な異常予兆診断を行うことができる異常予兆診断装置および異常予兆診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る異常予兆診断装置は、診断対象である対象室内の音を検出する音検出器と、処理回路と、を備え、前記処理回路は、前記音検出器で検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた音の強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、前記対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、前記第1時間より長い第2時間における周波数に応じた音の強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、前記第2画像を時間軸方向に走査しながら前記第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、前記第2画像において前記一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する。
【0007】
本開示の他の態様に係る異常予兆診断方法は、診断対象である対象室内の音を検出し、検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、前記対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、前記第1時間より長い第2時間における周波数に応じた強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、前記第2画像を時間軸方向に走査しながら前記第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、前記第2画像において前記一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、診断対象の室内においてより適切な異常予兆診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施の形態に係る異常予兆診断装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す異常予兆診断装置における異常予兆診断の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本実施の形態における画像比較を示すイメージ図である。
図4図4は、本実施の形態における異常予兆診断装置が適用される廃棄物処理施設の内部構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施の形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、本開示の一実施の形態に係る異常予兆診断装置の概略構成を示すブロック図である。本実施の形態における異常予兆診断装置1は、音検出器2および処理端末3を備えている。処理端末3は、処理回路4および報知器5を備えている。
【0012】
音検出器2は、診断対象である対象室R内に設置され、当該対象室R内の音を検出する。音検出器2は、例えば音響センサまたは集音マイク等を含む。音検出器2は、対象室R内の天井または壁に設置される。音検出器2は、処理端末3に接続される。
【0013】
処理端末3は、例えばパーソナルコンピュータ等の端末である。処理端末3は、各種の信号処理を行う処理回路4を備えている。処理回路4は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ、PLC(Programmable Logic Controller)等のコンピュータを有する。より具体的には、処理回路4は、プロセッサ41、記憶器42および周辺回路43を含む。プロセッサ41は、例えば、CPUまたはMPU等を含む。記憶器42は、ROM、RAM、レジスタ、不揮発性のストレージ等を含む。周辺回路43は、入出力インターフェイス等を含む。処理端末3は、後述する異常予兆診断の結果を報知する報知器5を含む。例えば、報知器5は、出力表示を行うモニタまたは音声出力を行うスピーカ等により構成される。さらに、処理端末3は、ユーザが操作入力するための入力器等を備えていてもよい。
【0014】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、手段、または部は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、ユニット、または手段はハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0015】
異常予兆診断装置1は、音検出器2で検出された音のデータに基づいて対象室R内における異常予兆診断を実行する。記憶器42には、診断プログラムが記憶されている。プロセッサ41は、記憶器42から診断プログラムを読み出し、当該診断プログラムに基づいて検出された音のデータに対して各種処理を行う。これにより、処理回路4は、異常予兆診断を行う。
【0016】
図2は、図1に示す異常予兆診断装置における異常予兆診断の流れを示すフローチャートである。処理回路4は、音検出器2で検出された音のデータを取得し、当該音のデータから第1時間T1における周波数φに応じた音の強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像G1を生成する(ステップS1)。第1画像G1は、後述する図3に示すように、例えば、横軸が時間tを示し、縦軸が周波数φを示し、ある時間のある周波数における音の強度が所定の画像要素で示される画像データである。画像要素は、例えば、色相、明度および彩度のうちの少なくとも何れか1つの変化を示す。例えば、第1画像G1において、赤いほど強度が高く、青いほど強度が低いことを示す。これに代えて、第1画像G1は、単色で表されてもよい。この場合、第1画像G1における強度は、濃淡で表される。
【0017】
処理回路4は、取得した音のデータに対してフーリエ変換を用いた所定の変換処理を行うことにより周波数成分に分解し、単位時間当たりの周波数スペクトルを生成する。処理回路4は、第1時間T1における単位時間ごとの周波数スペクトルの集まり、すなわち、第1時間T1における周波数スペクトルの時間変化を、第1スペクトルデータとして生成する。処理回路4は、第1スペクトルデータを画像化する。この際、処理回路4は、単位時間ごとの周波数スペクトルにおける音の強度を画像要素で表現することにより、二次元画像として描画される第1画像G1を生成する。
【0018】
処理回路4は、生成した第1画像G1を正常時のデータである第2画像G2と比較する。このために、記憶器42には、正常時のデータとして第2画像G2が記憶されている。第2画像G2は、異常がない状態の対象室R内において音検出器2により検出される音データから予め生成される。正常時のデータとして検出される音データの検出期間は、第1時間T1より長い第2時間T2である。検出された正常時の音データに基づいて、第2時間T2における周波数φに応じた音の強度を示す第2スペクトログラムデータが生成される。第2画像G2は、第1スペクトログラムを画像化するのと同様の態様で、第2スペクトログラムデータが画像化されたものである。
【0019】
第2画像G2を生成するための音の検出時間である第2時間T2は、第1時間T1より長ければ特に限定されない。第2時間T2は、対象室R内で正常時に生じ得る状況がおおよそ含まれる期間に設定され得る。例えば、施設の通常運転における1サイクル分の期間、1日の始業時間から終業時間までの期間等に基づいて設定される。第1時間T1も、特に限定されないが、例えば5分から10分の間に設定され得る。
【0020】
処理回路4は、記憶器42から第2画像G2を読み出す(ステップS2)。処理回路4は、第2画像G2から第1時間T1幅の第2画像部分G2Pを抽出し、抽出した第2画像部分G2Pと第1画像G1と比較する(ステップS3)。処理回路4は、第2画像部分G2Pと第1画像G1との一致度Cを算出する。処理回路4は、抽出する第2画像部分G2Pを時間軸方向に変化させ、そのたびに第1画像G1と比較する。言い換えると、処理回路4は、第1画像G1を第2画像G2上で時間軸方向に走査する。
【0021】
図3は、本実施の形態における画像比較を示すイメージ図である。第1画像G1は、横軸である時間軸tにおいて第1時間T1の幅を有する。図3において、周波数φにおける音の強度は、単色の濃淡で表される。同様に、第2画像G2は、時間軸tにおいて第2時間T2の幅を有する。第2画像G2における周波数φの範囲は、第1画像G1と同じである。したがって、第2画像G2のうち、第1時間T1の時間幅で抽出された第2画像部分G2Pは、第1画像G1と同じ面積の画像となる。
【0022】
第1画像G1と第2画像部分G2Pとの間の一致度の算出には、各画像のヒストグラムまたは画素値を比較する等の公知の画像処理が用いられる。処理回路4は、時間軸方向の走査として第2画像G2における時間軸に沿って所定時間間隔ごとに第2画像部分G2Pを抽出することにより、当該抽出された第2画像部分G2Pごとの第1画像G1に対する一致度を算出する。時間間隔は、第1時間T1より短い時間でもよいし、第1時間T1と同じ時間でもよいし、第1時間T1より長い時間でもよい。第1時間T1より短い時間間隔とすることにより、より連続的な一致度Cの時間的変化を算出することができる。
【0023】
処理回路4は、第2画像G2において第1画像G1に対する一致度Cが所定の基準値CR以上となる時間帯が存在するか否かを判定する(ステップS4)。すなわち、処理回路4は、図3における一致度Cの時間的変化を示すグラフが、基準値CR以上の値を有するグラフとなっているか否かを判定する。図3の例において、グラフHyにおいては、第2時間T2の間に一致度Cが基準値CR以上の値を有する時間帯が存在する。そのため、この場合(ステップS4でYes)、処理回路4は、正常であると判定する(ステップS5)。正常と判定された場合、処理回路4は、特段の処理を実行しなくてもよい。あるいは、処理回路4は、一致度Cのデータを、第1画像G1の元になる音のデータを検出した日時に対応付けて記憶器42に記憶してもよい。例えば、一致度Cのデータは、一致度Cの最高値、一致度Cが基準値CRを超えた時間帯等を含み得る。あるいは、一致度Cのデータは、第2時間T2全体のデータ、すなわち、図3に示すような一致度Cを描画可能なデータであってもよい。
【0024】
また、図3の例において、グラフHnにおいては、第2時間T2の間に一致度Cが基準値CR以上の値を有する時間帯が存在しない。すなわち、音検出器2で検出された第1時間T1における音は、正常時には発生しない音成分を含んでいる可能性が高い。この場合(ステップS4でNo)、処理回路4は、異常予兆があると判定する(ステップS6)。処理回路4は、異常予兆があると判定した場合に、報知器5に異常予兆があることを報知させる(ステップS7)。
【0025】
報知器5による異常予兆の報知態様は、特に限定されず、種々の報知態様を採用可能である。例えば、報知器5が処理端末3のモニタである場合、対応する対象室R内において異常が発生しているまたは異常が発生する予兆があることを処理端末3のモニタに表示する。
【0026】
処理回路4は、一致度Cの最高値に応じて報知態様を変えてもよい。例えば、一致度Cの最高値が80%未満である場合に異常予兆があると判定される。この場合、基準値CRは80%に設定される。さらに、一致度Cの最高値が50%以上80%未満である場合と、一致度Cの最高値が0%以上50%未満である場合とで、報知器5による異常予兆の報知態様が互いに異なってもよい。
【0027】
例えば、一致度Cの最高値が50%以上80%未満である場合、報知器5は、経過観察が必要である等のユーザへの注意喚起のための表示を行う。また、例えば、一致度Cの最高値が0%以上50%未満である場合、報知器5は、ユーザに対して早急な対処を求める等の警告を表示する。なお、異常予兆の報知態様を3種類以上に分けてもよい。
【0028】
また、処理回路4は、異常予兆があると判定した場合に、一致度Cのデータを、第1画像G1の元になる音のデータを検出した日時に対応付けて記憶器42に記憶してもよい。この際、処理回路4は、音のデータを検出した日時において対象室R内に生じ得る音の発生源となる機器の運転状況のデータを取得し、当該運転状況のデータを当該一致度Cのデータに対応付けて記憶器42に記憶してもよい。これにより、異常予兆と判断された際の検証を容易にすることができる。報知器5は、異常予兆の報知とともに、そのときの各機器の運転状況のデータを出力してもよい。
【0029】
以下に、本実施の形態における異常予兆診断装置1の適用例を示す。本例では、廃棄物処理施設における燃焼炉の炉室が対象室Rである場合を示す。図4は、本実施の形態における異常予兆診断装置が適用される廃棄物処理施設の内部構造を示す概略断面図である。
【0030】
図4に示す廃棄物処理施設100は、酸素含有ガスを用いて廃棄物を焼却するための炉室103を有する燃焼炉102と、燃焼炉102から排出される燃焼排ガスから排熱を水蒸気として回収する蒸気回収装置であるボイラ104と、を含む。燃焼炉102のボイラ104とは反対側、すなわち、上流側には、ホッパ105、シュート106および給じん機107が配置されている。ホッパ105からシュート106を介して燃焼炉102内に投入された廃棄物は、給じん機107により炉室103に送られる。ボイラ104から下流側には、燃焼排ガスの排気経路130が煙突108まで延びている。例えば、排気経路130には、上流側から順に、エコノマイザー、減温塔、集塵機およびブロワが設けられ得る。
【0031】
燃焼炉102は、炉室103の下方に設けられたストーカを有している。ストーカは、廃棄物の搬送手段として機能する。ストーカは、シュート106に近い側から順に乾燥ストーカ111、燃焼ストーカ112および後燃焼ストーカ113を有する。すなわち、これらのストーカ111から113は、廃棄物の移動方向に配列されている。乾燥、燃焼および後燃焼ストーカ111から113の下方には、風箱114から116がそれぞれ設けられている。
【0032】
さらに、燃焼炉102は、炉室103とボイラ104との間に炉室103と連続する再燃焼室117を有する。なお、燃焼ストーカ112は、図例では1段であるが、2段以上設けられていてもよい。各ストーカ111から113は、例えば、互いに異なるインターバルで間欠的に作動する。
【0033】
炉室103では、廃棄物の熱分解および部分酸化反応により燃焼ガスが生成され、当該燃焼ガスが廃棄物とともに燃焼される。再燃焼室117は、炉室103から流出する燃焼ガスを完全燃焼させるためのものである。廃棄物の燃焼後の灰は、後燃焼ストーカ113に隣接して設けられた排出口118から排出される。
【0034】
ボイラ104では、燃焼炉102から排出される燃焼排ガス、すなわち、廃熱によって蒸気が生成される。より詳しくは、図4に示すように、ボイラ104は、燃焼排ガスが通過する排ガス通路109を備えている。排ガス通路109は、再燃焼室117の上方に配置された放射室119と、放射室119の上部空間である第1煙道131と、第1煙道131に連通する第2煙道120と、第2煙道120と下部同士が連通する第3煙道121と、を含む。
【0035】
第1煙道131、第2煙道120および第3煙道121を規定する壁の各々には、複数の水管123が設けられている。複数の水管123は、例えば炭素鋼で形成される。ボイラ104は、複数の水管123に接続されたボイラドラム124を備えている。複数の水管123には、ボイラドラム124から送られてくる水が流れる。複数の水管123内の水は、第1煙道131および第2煙道120の廃熱を回収して、その一部が蒸発して汽水となりボイラドラム124へと戻される。ボイラドラム124に戻った汽水は、一部が気化して蒸気となっている。
【0036】
第3煙道121には、過熱器125が設けられている。過熱器125は、ボイラドラム124内の蒸気を燃焼熱または燃焼排ガスの熱で過熱するための過熱器管126を備えている。過熱器125により過熱されて高温高圧となった過熱蒸気は、発電機127と連結されたタービン128に送られて発電に利用される。ボイラ104を通過した燃焼排ガスの大部分は、排気経路130を流れた後に、煙突108から大気中へ放出される。過熱器125は、過熱器管126に付着した煤や塵を除去するためのスートブロワ129を備えている。
【0037】
このような廃棄物処理施設100において炉室103の天井または壁に音検出器2が設置される。図4の例では、炉室103の天井に音検出器2が設置されている。
【0038】
このように、廃棄物処理施設100には、炉室103内または炉室103の周囲に、炉室103内における音の発生源となる複数の機器が存在する。複数の機器は、例えば、ボイラ104、給じん機107、ストーカ111から113、発電機127、タービン128、スートブロワ129等を含み得る。炉室103内の音の要素は、これらの機器の作動音および炉室103における廃棄物の燃焼音を含み得る。このように炉室103は、複数の機器の稼働状態の組み合わせにより様々な音が生じ得る。したがって、廃棄物処理施設100が正常な運転状態であっても、炉室103内において一定の音が発生しているとは限らない。
【0039】
本実施の形態における異常予兆診断装置1によれば、第1時間T1より長い第2時間T2における第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像G2が正常時のデータとして用いられることにより、音検出器2で検出された音が、対象室R内において正常時に起こり得る、発生源の異なる複数の音の組み合わせの何れかに該当するか否かが判定される。この際、スペクトログラムデータを画像化した画像同士を比較することにより、既存の画像処理技術を用いて適切かつ短時間で一致度Cを算出することができる。したがって、診断対象の室内において検出された音のデータを用いてより適切な異常予兆診断を行うことができる。
【0040】
また、図4の例では、炉室103の壁面に、炉室103の画像を撮影するカメラ6が設置される。カメラ6は、廃棄物処理施設100の運転中において炉室103の画像を常時または定期的に撮影する。異常予兆診断装置1の処理回路4は、音検出器2で音を検出するタイミングで撮影された炉室103内の画像を第1画像G1に対応付けて記憶してもよい。この場合、処理回路4は、報知器5に異常予兆があることを報知させる際に、対応する炉室103内の画像を報知器5に出力させてもよい。これにより、異常予兆があると判定された場合における炉室103内の運転状態を目視により確認することができる。なお、カメラ6の位置はこれに限られない。例えば、炉室103における音の発生源となる機器を撮影する位置にカメラが設置されてもよい。
【0041】
さらに、炉室103内における音の発生源となる複数の機器の稼働状態が互いに異なる2以上の運転状態に応じて2以上の第2画像G2が記憶器42に記憶されてもよい。例えば、廃棄物処理施設100において、24時間廃棄物の焼却運転が行われる。焼却運転では、例えばボイラ104、給じん機107、ストーカ111から113、発電機127、タービン128等が稼働する。さらに、夜間は、焼却運転に加えてボイラ104の清掃運転が行われ得る。清掃運転は、電力価格が日中より安い夜間に行われ、日中の焼却運転により生じた廃熱を用いて発電した電力は外部へ売電することが優先される。清掃運転では、例えばスートブロワ129等が稼働する。この結果、日中と夜間とで廃棄物処理施設100における複数の機器の稼働状態が異なり得る。このような場合には、炉室103内において日中に生じる音と夜間に生じる音とは正常時であっても異なり得る。
【0042】
このような場合には、焼却運転時に対応する第2画像G2と清掃運転時に対応する第2画像G2とが記憶器42に記憶される。異常予兆診断装置1の処理回路4は、音検出器2により音を検出したときの廃棄物処理施設100の運転状態を特定する運転状態特定データを取得する。例えば、廃棄物処理施設100の運転状態が時間帯によって切り替えられる場合、運転状態特定データは、音検出器2により音を検出したときの時間帯を示すデータでもよい。また、例えば、廃棄物処理施設100の運転状態が特定の機器の稼働状態によって区別される場合、運転状態特定データは、音検出器2により音を検出したときの特定の機器の稼働状態を示すデータでもよい。
【0043】
処理回路4は、取得した運転状態特定データに応じた第2画像G2を読み出す。これにより、焼却運転時において音検出器2により検出された音のデータに基づいて生成された第1画像G1は、焼却運転時に対応する第2画像G2と比較される。同様に、清掃運転時において音検出器2により検出された音のデータに基づいて生成された第1画像G1は、清掃運転時に対応する第2画像G2と比較される。これにより、運転状態に応じた異常予兆診断を適切に行うことができる。
【0044】
なお、2以上の運転状態は、1つの炉室103内での運転状態の変化だけでなく当該炉室103外の周辺機器の稼働状態によっても変化し得る。例えば、1つの廃棄物処理施設100内に複数の燃焼炉102を有する場合、各燃焼炉102の稼働状態の組み合わせによっても各炉室103内で生じる音は変化し得る。例えば、廃棄物処理施設100が第1炉および第2炉の2つの燃焼炉102を有する場合、対象室Rを第1炉または第2炉の炉室103とすると、廃棄物処理施設100の運転状態は、第1炉が稼働し、第2炉が停止している第1状態と、第1炉および第2炉が稼働している第2状態と、第1炉が停止し、第2炉が稼働している第3状態と、第1炉および第2炉が停止している第4状態とを含み得る。この場合、記憶器42には、これらの4つの状態のそれぞれに対応する第2画像が予め記憶され得る。
【0045】
[他の実施の形態]
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0046】
例えば、音検出器2と処理端末3との間の接続は、音検出器2で検出された音のデータを処理端末3に伝送可能な限り、有線接続でも無線接続でもよい。さらに、処理端末3は、対象室Rを含む施設の外部の処理端末であってもよい。例えば、対象室Rを含む施設の運営者と、異常予兆診断を行う管理者とが異なる場合、処理端末3は、施設外の管理者が所有する処理端末であってもよい。この場合、処理端末3と音検出器2とは通信ネットワークを介して接続されてもよい。
【0047】
また、複数の対象室Rに設置された複数の音検出器2と1つの処理端末3とが接続されてもよい。すなわち、1つの処理端末3で複数の対象室Rの異常予兆診断を行い得る。この場合、処理端末3は、施設の管理室または施設の外部等に設置され得る。
【0048】
また、上記実施の形態において、報知器5は処理端末3のモニタ等により構成される態様を例示したが、報知器5は処理端末3とは別の機器でもよい。例えば、報知器5は、施設の管理室における報知ランプ等であってもよい。
【0049】
また、上記実施の形態において、第1画像G1、第2画像G2、一致度Cのデータ、カメラ6により撮影された対象室内画像、運転状況のデータ、運転状態特定データ等の各種データは、処理端末3の記憶器42に記憶される態様を例示したが、これに限られない。例えば、処理端末3と通信ネットワークを介して接続されるサーバの記憶器にこれらのデータが記憶されてもよい。
【0050】
また、上記実施の形態においては、対象室Rが廃棄物処理施設100の炉室103である例を示したが、これに限られない。対象室Rは、対象室R内または対象室Rの周囲に音の発生源となる複数の機器が設置されている場所であればよい。例えば、対象室Rは、種々のプラント施設の建屋内や燃焼炉内を含み得る。例えば、プラント施設は、廃棄物処理施設、マテリアルリサイクル推進施設、バイオマス発電所、火力発電所、化学製品製造工場、食品加工工場等を含み得る。
【0051】
なお、廃棄物処理施設、バイオマス発電所、火力発電所等の燃焼炉を有する施設において、対象室Rは、燃焼炉がある炉室に限られない。例えば、廃棄物処理施設における廃棄物の貯留ピット等も対象室Rとして採用され得る。また、対象室Rとして採用可能な燃焼炉は、廃棄物処理施設等の燃焼炉の炉室だけでなく、船舶の機関室等も含み得る。
【0052】
また、音検出器2は、対象室R全体の音を検出できなくてもよい。例えば、建屋内に複数の製造ラインが存在する製造工場の建屋内の一部の領域において、複数の製造ラインのうちのいくつかの製造ラインから発生する音が主要な音の発生源となる場合、当該一部の領域において音検出器2を設置することにより、当該対象室Rの一部の領域における異常予兆診断、すなわち、一部の製造ラインにおける異常予兆診断を行うことができる。
【0053】
[本開示のまとめ]
[項目1]
本開示の一態様に係る異常予兆診断装置は、診断対象である対象室内の音を検出する音検出器と、処理回路と、を備え、前記処理回路は、前記音検出器で検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた音の強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、前記対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、前記第1時間より長い第2時間における周波数に応じた音の強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、前記第2画像を時間軸方向に走査しながら前記第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、前記第2画像において前記一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する。
【0054】
上記構成によれば、第1時間より長い第2時間における第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像が正常時のデータとして用いられることにより、音検出器で検出された音が、対象室内において正常時に起こり得る、発生源の異なる複数の音の組み合わせの何れかに該当するか否かが判定される。この際、スペクトログラムデータを画像化した画像同士を比較することにより、既存の画像処理技術を用いて適切かつ短時間で一致度を算出することができる。したがって、診断対象の室内において検出された音のデータを用いてより適切な異常予兆診断を行うことができる。
【0055】
[項目2]
項目1の異常予兆診断装置において、前記対象室内または前記対象室の周囲には、前記対象室内における音の発生源となる複数の機器が設置され、前記記憶器は、前記複数の機器の稼働状態が互いに異なる2以上の運転状態に応じた2以上の第2画像を記憶し、前記処理回路は、前記音検出器により音を検出したときの前記運転状態を特定する運転状態特定データを取得し、取得した前記運転状態特定データに応じた第2画像を読み出してもよい。これにより、運転状態に応じた異常予兆診断を適切に行うことができる。
【0056】
[項目3]
項目1または2の異常予兆診断装置において、前記異常予兆があると判定された場合に、当該異常予兆があることを報知する報知器と、前記対象室内の画像を撮影するカメラと、を備え、前記処理回路は、前記音検出器で音を検出するタイミングで撮影された前記対象室内の画像を前記第1画像に対応付けて記憶し、前記報知器に前記異常予兆があることを報知させる際に、対応する前記対象室内の画像を前記報知器に出力させてもよい。これにより、異常予兆があると判定された場合における対象室内の運転状態を目視により確認することができる。
【0057】
[項目4]
項目1から3の何れかの異常予兆診断装置において、前記対象室は、廃棄物処理施設における燃焼炉の炉室であってもよい。
【0058】
[項目5]
項目1から4の何れかの異常予兆診断装置において、前記音検出器は、前記対象室内の天井または壁に設置されてもよい。
【0059】
[項目6]
本開示の他の態様に係る異常予兆診断方法は、診断対象である対象室内の音を検出し、検出された音のデータから第1時間における周波数に応じた強度を示す第1スペクトログラムデータを画像化した第1画像を生成し、前記対象室内における正常時のデータとして予め記憶器に記憶された、前記第1時間より長い第2時間における周波数に応じた強度を示す第2スペクトログラムデータを画像化した第2画像を読み出し、前記第2画像を時間軸方向に走査しながら前記第1画像との画像比較を行い、当該画像比較における一致度を算出し、前記第2画像において前記一致度が所定の基準値以上である時間帯が存在しない場合に異常予兆があると判定する。
【符号の説明】
【0060】
1 異常予兆診断装置
2 音検出器
4 処理回路
5 報知器
6 カメラ
42 記憶器
100 廃棄物処理施設
102 燃焼炉
103 炉室
R 対象室
図1
図2
図3
図4